説明

小型エンジン始動装置の電動モーター駆動用バッテリーパック、同パックにより駆動されるエンジン始動装置及び同始動装置を搭載した手作業機

【課題】小型エンジンの始動用の小型電動モーターを長期にわたり円滑且つ安全に駆動でき、究極的なまでの小型化と軽量化が図られた作業機に搭載されるバッテリーを提供する。
【解決手段】バッテリーはパック化され、そのバッテリーパック(16)内には全放電容量が500〜2000mAhで、1セル当たりの充電電圧が3.0〜4.2Vの2セルからなるリチウム系二次電池と、同電池に接続されパック内に内蔵された電動モーター(131) の駆動回路、バッテリー保護回路などの各種の電子回路が内蔵されている。バッテリーの最大放電流が10〜60Aの高レート化がなされており、前記保護回路が、少なくとも前記電動モーター駆動回路に介装されて上記電動モーター(131) の駆動をエンジン始動に要する時間を経過したのちに自動的に停止する専用の過放電抑止回路(A) を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携行刈払機、チェーンソー、芝刈機、背負い式刈払機、動力散布機、エンジンブロアー、ダスター、ヘッジトリマーなどの各種の作業機に搭載される小型エンジンを始動させるための超小型の電動モーターを駆動する小型で且つ出力の大きなバッテリーを内蔵するバッテリーパック、同パックにより駆動されるエンジン始動装置及び同始動装置を搭載した手作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多用されている刈払機やチェーンソー等の手作業機に搭載されている小型空冷式のガソリンエンジンを始動させるエンジン始動装置は、その殆どがリコイル式の駆動部と、エンジンのクランク軸に遠心クラッチ等の断接手段を介して連結された従動部と、前記駆動部と従動部との間に配され、駆動部の駆動力を緩衝するとともに従動部との間で弾性的に蓄力するゼンマイばねなどを有する緩衝・蓄力部とを備えている。前記リコイル式駆動部は、リコイルロープが巻装されたリコイル用リールと、同リコイル用リールとケーシングとの間に配されて、その内外の端部をリコイル用リール及びケーシングにそれぞれ固着されたリコイル用ゼンマイばねとを有している。前記リコイルロープを手で引き出すことによりリコイル用リールを一方向に回転させると同時に、前記リコイル用ゼンマイばねを巻締めてバネ力を蓄え、この状態でリコイルロープから手を離すと、リコイル用ゼンマイばねの蓄力が解放されてリコイルロープをリコイル用リールに自動的に巻き戻す。
【0003】
しかし、前述のリコイル式駆動部は、エンジンを始動させるたびにリコイルロープを引き出すための引き操作を必要とする。このリコイルロープの引き操作は、通常、素早く且つ大きく引き出す必要があるため、力の弱い人や老年者にとって、或いは作業空間の狭い現場では、一回の引き操作でエンジンを作動させることができない場合も多い。そこで、リコイルロープの引き操作によるエンジンの始動を容易にしようとする提案も多くなされており、また実用化もされてはいるが、引き操作自体がもつ煩雑性は依然として残される。一方で、近年の小型電動モーターやバッテリーの進展は著しく、極めて小型化されたにも関わらず、大容量をもつようになってきている。最近は、こうした事情も手伝って前述のリコイル式始動装置の煩雑な操作性を避けるべく、スイッチ操作により簡単にエンジンを一発で始動させることができる電動式のエンジン始動装置が見直され、その開発が望まれてきている。
【0004】
この種の電動式の小型エンジン始動装置は、古くは例えば実開昭63−110672号公報(特許文献1)に開示されたエンジンの始動装置がある。この始動装置によれば、バッテリーにより供電駆動される直流モーターと、該モーターの出力軸に固設されたウォームギアによりゼンマイ香箱が駆動されて巻き上げられるゼンマイばねと、ゼンマイばねの内側端部が固定された出力回転軸と、該出力回転軸に1方向クラッチを介して接続されたエンジンの回転軸と、前記出力回転軸の回転を停止し若しくは停止を解除する回動レバーと、同レバーによる出力回転軸の回転停止の解除時にのみ入れ操作される連動電気スイッチと、同電気スイッチの切り操作時にモーターが駆動され、同モーターの回転速度が設定回転速度を越えたときにも回転を持続してゼンマイばねを巻き上げ、ゼンマイばねの巻き上げ終了時に前記設定回転速度より降下したときには供電が絶たれてモーターの回転を停止させる電機子電流制御回路とを備えている。
【0005】
更に、例えば特開2002−285940号公報(特許文献2)のスタータ装置によれば、駆動部と従動部との間の動力伝達系の途中に、緩衝・蓄力手段を介在したスタータ装置であって、前記駆動部が駆動源としての電動モーターであり、同電動モーターの出力回転軸に連結固定されたウォームと前記ゼンマイ香箱の外周に設けられたウォームホイールとにより減速機構を構成している。以上の構成は、上記特許文献1と実質的に変わるところがない。また、前記駆動側には、前記電動モーターとは別に、リコイル式駆動部が付設され、前記リコイル式駆動部は、リコイルロープが巻装されて該リコイルロープを引っ張ることにより回転せしめられるロープリールと、前記リコイルロープを巻き取るべく前記ロープリールを逆転させるリコイル用ゼンマイばねと、前記ロープリールの回転を前記緩衝・蓄力手段)に伝達するためのリコイル用ラチェット機構とを備えている。前記ゼンマイ香箱はワンウェイクラッチにより一方向にのみ回転できるようにしている。これらの構成から、この特許文献4のスタータは、上記特許文献1と公知のリコイル機構とを単純に組み合わせたに過ぎないといえる。
【0006】
また、例えば特許2573340号公報(特許文献3)によれば、バッテリーと、該バッテリーの電力により駆動される直流電動モーターと、該モーターの運転停止を制御する制御装置と、前記モーターの動力を伝達する高減速比減速機構と、該高減速比減速機構で駆動されるゼンマイばね式蓄力装置と、該蓄力装置の力をクランク軸に一方的に伝える動力伝達装置とが単一フレーム内に納められたゼンマイばね式始動装置が開示されている。前記高減速比減速機構は、前記クランク軸に平行な他の軸線上に配された、直流電動モーターにより駆動される1段目の遊星歯車式減速装置と、前記蓄力装置のバネ蓄力室の外周に一体的に設けた被動歯車に前記遊星歯車式減速装置の出力軸に設けた駆動歯車を噛合させて2段目の減速装置とから構成されている。
【0007】
また、例えば実開平2−13171号公報(特許文献4)には、ゼンマイ香箱が、エンジンのクランクシャフト側とは反対側に配された遊星歯車減速機の支持系を介して一方向に回転可能に軸支されている。ゼンマイ香箱の回転制御は、ハウジング内に配された直流電動モーターの出力軸に固定された小歯車と大歯車との減速平歯車対を介して結合された前記遊星歯車減速機によって減速回転される。このときの一方向回転は、ラチェット爪とゼンマイ香箱の外周部に設けた歯部との係合によりなされる。また、ゼンマイ香箱のクランクシャフト側に始動ラチェットホイールと始動ラチェット爪とが配されており、その係合を解除したときにラチェットホイールは回転自在となる。前記始動ラチェットホイールにはスタータラチェットホイールが組み付けられており、このスタータラチェットホイールはクランクシャフトに設けられた遠心クラッチ爪と係合する。
【0008】
前記ゼンマイ香箱の外周にはラチェットホイールが一体に形成されており、このゼンマイ香箱の上端部に小径のラチェットホイールが噛合している。この小径のラチェットホイールに固定され回転軸は、外部から手動クランクを用いて回転させることが出来るようにされている。通常のエンジン運転中は、手動クランクは差し込まれておらず、小径のラチェットホイールは空回りする。仮に始動に失敗し、ゼンマイばねの再巻込みを行おうとするときは、小径のラチェットホイールの回転軸に手動クランクを差し込み、ゼンマイ香箱を回転させてゼンマイばねに蓄力する。エンジン始動時は、上記始動ラチェットを操作して、ゼンマイばねに蓄力されたエネルギーを解放させることにより、上記スタータラチェットホイールを回転させて、エンジンをクランキングして始動させる。
【0009】
以上の特許文献1〜4に開示されたエンジンの始動装置の電源に使われるバッテリーは、いわゆるニッカド電池やニッケル水素電池と呼ばれる電池であり、しかも既述したとおりそれらの電池の収納場所は指定されていない。しかし、通常は特許文献3及び4に記載さているように始動装置の内部に配されていることが多く、さもなくば従来のバッテリーは全容積が大きくなることから、始動装置の近傍の専用部位に装着されることが多い。更に、エンジンと始動用の電動モーターとの間に配される、例えば蓄力装置のゼンマイを巻き上げる電動モーターに必要な電力を前述の電池から得ようとすると、自ずと多数のニッカド電池やニッケル水素電池と呼ばれる電池が必要となる。そのため、始動装置を小型軽量化するにしても限界がある。
【0010】
ところで、上記特許文献1のエンジン始動装置によれば、電動モーターに直結するウォームギアとゼンマイ香箱の外周に形成されたウォームホイールとの噛合によってゼンマイ香箱を一方向に回転させるようにしているため、ゼンマイ香箱が逆転することはないが、ウォームギアとウォームホイールとの噛合による動力伝達機構では、電動モーターの出力軸方向とゼンマイ香箱の回転駆動軸とが直交して配されることになり、設計上、効率が悪く(約60%)且つこれを小型化するにしても避けられない限度がある。また、同特許文献1によるエンジン始動装置では、仮にバッテリーが上がってしまったり、電動モーターが故障したとき、エンジン始動装置自体を作動することができない。
【0011】
また、上記特許文献2では、緊急時の手動によるゼンマイ香箱の駆動がリコイル式駆動機構によりなされるため、装置全体としては従来のリコイル式エンジン始動装置に、更に電動モーターとその減速機構を組み込んだことになり、しかもその減速機構がウォームとゼンマイ香箱のウォームホイールとからなるため、電動モーター軸とゼンマイ香箱の支軸とが直交して配せざるを得ず、装置全体の小型化は難しい。
【0012】
一方、上記特許文献3によれば、電動モーターとゼンマイ香箱との間に高減速比減速機構を配して、モーター容量、バッテリー容量がセルスタータ方式に対し、それぞれ1/10,1/6以下と小型になり、蓄電池を装備しても実用性を失わないとしているが、前記高減速比減速機構による減速比は1/250〜1/300と極めて大きく設定している。そのため、ゼンマイ香箱を回転させてゼンマイばねに所要の蓄力を得るまでに長時間を要することになる。そこで、このエンジン始動装置では、渦巻バネの自動巻上げ制御装置を設置し、同制御装置の制御回路により一回の始動操作ごとに自動的に蓄力バネの蓄力動作を行い、タイマ又はゼンマイばねの巻き上がりを検知して、モーターへの通電を停止させて、再始動時の待ち時間を少なくしている。そのため、装置全体が複雑化し、必然的に価格も高くなる。
【0013】
上記特許文献4によれば、電動モーターが作動しなくなったときなどに、手動クランクを操作して小径のラチェットホイールを介してゼンマイ香箱を回転させ、ゼンマイばねの再巻込みを行ってゼンマイばねに蓄力し、手動クランクを取り外したのち始動ラチェットを操作することにより、ゼンマイばねに蓄力されたエネルギーを解放させて上記スタータラチェットホイールを回転させエンジンを始動させる。しかるに、このエンジン回転中は前記小径のラチェットホイールは空回りすることになる。また、電動モーター、ゼンマイ香箱、前記小径のラチェットホイール及びラチェット爪の各軸が互いに平行に配されているため、エンジン始動装置の小型化を妨げている。
【0014】
こうした従来の課題を解消すべく、本出願人は、例えば特願2004−232139号(特許文献5)によって、不要な器材を排除するとともに合理的な設計のもとに、究極的なまでの小型化と軽量化が図られ、しかも緊急時には手動でエンジンを始動させることができる電動式エンジン始動装置を先に提案した。
【0015】
その基本構成は、バッテリーにより駆動される小型電動モーターと、該小型電動モーターの動力が高減速機構を介して蓄力方向に駆動伝達される蓄力部と、該蓄力部の蓄力をエンジンのクランク軸に伝達する動力伝達部とを備えたエンジン始動装置であって、前記蓄力部がばねと同ばねの一端を支持する回転支持部材とを有し、前記ばねにはゼンマイばね又はコイルばねを使うことができ、ゼンマイばねの場合には前記回転支持部材をゼンマイ香箱から構成し、コイルばねの場合には通常の歯車を使うことができる。
【0016】
そして前記支持部材には第1歯車が形成され、前記高減速機構の出力軸には第2歯車が固設され、前記第1及び第2歯車は互いに噛合しており、前記蓄力部又は動力伝達部に配され、通常は前記蓄力部又は動力伝達部の蓄力解放方向の回転を許容するが、電動モーターの不作動時には前記蓄力解放方向の回転を阻止するため回転阻止手段を有し、前記高減速機構の出力軸の軸上にあって、同出力軸の軸端に係脱でき同出力軸を手動にて回転操作が可能な回転操作機構を有している。前記高減速機構は遊星歯車式減速機構であり、前記蓄力部及び前記動力伝達部の回転軸線が前記クランク軸と同一軸線上に配され、前記小型電動モーター及び前記高減速機構の回転軸が前記クランク軸と平行に配されており、前記第1及び第2歯車に平歯車が使われる。
【特許文献1】実開昭63−110672号公報
【特許文献2】特開2002−285940号公報
【特許文献3】特許2573340号公報
【特許文献4】実開平2−13171号公報
【特許文献5】特願2004−232139号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このように上記特許文献5によって、上記特許文献1〜4に開示された小型エンジン始動装置がもつ上述の機構上の課題は解決されたが、一方でかかる小型化されたエンジン始動機構を、小型化されたバッテリーをもって如何にして円滑に、確実に且つ安全に駆動することを可能にするかという課題が残された。すなわち、作業機の全体を小型化するとともに軽量化を実現するには、単にエンジンを始動させるだけでなく、エンジンの点火回路や燃料供給制御回路などの駆動を司るバッテリー自体をも、必要とする十分な放電容量を備えるとともに小型軽量化を実現させることが肝要である。
【0018】
ところで、上記特許文献1〜4に開示されたエンジン始動装置に限らず、この種の小型エンジンを搭載した作業機の始動装置の電源は、既述したとおり全てにニッカド電池やニッケル水素電池が多用されている。これらの小型電池は1個あたり1.2Vが標準的であり、通常、始動用の小型電動モーターを駆動するには少なくとも7.2Vが必要であるため、理論上は6個の電池を使えば前記小型電動モーターを駆動することができるはずである。しかしながら、理想的なエンジン始動を実現するためには、更なる個数が必要となり、作業機のハンドルに配されるスイッチボックスに収容するには容積が大き過ぎ、必然的に始動装置あるいはその他の専用の設置場所に設置せざるを得ず、小型軽量化を実現するには到底許される範囲を越えてしまう。仮に、アルカリ乾電池やオキシライド乾電池(1.5V)を使うとしても、内部インピーダンス(内部抵抗)が大きく、前記出力電圧を得るには少なくとも6個以上が必要となる。
従って、本発明の目的は作業機の小型エンジン始動装置に適用される小型且つ軽量で、高出力を可能とし、同時に安全性もが確保された高性能のバッテリーパックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前述の目的は、本発明の基本構成である小型電動モーターと、該小型電動モーターの動力が高減速機構を介して蓄力方向に駆動伝達される蓄力部と、該蓄力部をエンジンのクランク軸に伝達する動力伝達部とを備えた作業機に搭載される小型エンジン始動装置の小型電動モーター駆動用バッテリーパックであって、該バッテリーパック内には、リチウム系二次電池と、同電池に接続された、通常の自己放電防止回路、過電流防止回路の他に、過充電防止回路、過放電抑止回路、スタートスイッチ用リレー回路などの電子回路からなる保護回路が内蔵されてなることを特徴とする電動モーター駆動用バッテリーパックにより効果的に達成される。
【0020】
前記過放電抑止回路は時限回路であり、前記エンジン始動用電動モーターの駆動に要する連続放電時間が5〜15秒経過したのちに自動的に停止するように設定されていることが望ましい。更に好ましくは、前記過放電抑止回路による連続放電時間が7〜12秒に設定される。前記バッテリーパック内の前記リチウム系二次電池は、全放電容量が500〜2000mAhで、1セル当たりの充電電圧が3.0〜4.2Vである。更に、該バッテリーパック内の該リチウム系二次電池は、その最大放電電流が10〜60Aに設定され、設定最大放電電流に応じた所定の連続放電時間経過後に自動的に放電を停止させるようにするとよい。また、前記バッテリーパックは、2.5×104 〜1. 0×105 mm3 の体積を有するようにするとよい。更に、前記過充電防止回路は、上記セルの1セルあたりの充電電圧が4.0〜4.4Vを越えたとき充電を遮断することが好ましい。前記保護回路が、バッテリーパックの内部温度を検出し、その検出温度の上昇が前記過放電抑止回路の設定放電時間域に関わらず所定温度に達すると、前記電子スイッチを自動的に開放する過熱防止回路を更に備えていることが望ましい。
【0021】
手作業機に搭載される小型エンジンの始動装置は、上記バッテリーパックのリチウム系二次電池により駆動される小型電動モーターと、該小型電動モーターの動力が高減速機構を介して蓄力方向に駆動伝達される蓄力部と、該蓄力部の蓄力をエンジンのクランク軸に伝達する動力伝達部とを内蔵している。ここで前記バッテリーパックは、前記手作業機のハンドル部のスイッチボックスに一体に配されることが望ましい。前記小型電動モーターは、ハウジング体積が4.0×103 〜8.0×104 mm3 、停動電流が1〜100A、停動トルクが10〜500mNmであることが実施に則している。更には、前記リチウム系二次電池により駆動されるソレノイドバルブにより作動するオートチョーク付きキャブレターを備え、前記ソレノイドバルブの駆動電流を200〜800mAとするとよい。
【0022】
また、前記エンジン始動装置を搭載した手作業機にあっては、前記エンジンが前記リチウム二次電池の充電用発電機を有し、同発電機は前記エンジンの回転部に配された磁石と、同磁石の対向部に配された発電コイルとを備えていることが好適であり。前記エンジンの前記回転部がクランク軸に固設されたファンであることが好ましい。
【作用効果】
【0023】
本発明によれば、始動装置に一体化される構成機器を必要最小限に止めるため、バッテリーには他の乾電池とは性能の面で格段の差があるにも関わらず最も小型化が可能であるリチウム系二次電池を採用する。本発明にあっては、電源としての全体の容量を、少なくともエンジンの始動用電動モーターの駆動と、バッテリーの保護回路と、以降に述べるオートチョーク付きキャブレターのソレノイドバルブの駆動及び電子回路用とのために必要な放電容量を満足すればよい。
【0024】
好適な実施態様によれば、前述の必要とする放電容量を1000mAhとしている。1個のセルの出力電圧は3.8Vであり、2個のセルを用いれば7.6Vとなり、エンジン始動用の電動モーターに対する放電電流を10〜60Aに設定しても、その他を駆動するための電源としては十分な容量となる。このように、作業機に搭載される小型エンジン始動装置の電源となる本発明のリチウム系二次電池は、エンジンを始動するには十分な容量をもつとともに、その体積も極めて小さく、例えば始動装置に内蔵させるにしても、従来とは比較にならない程の小型化が実現される。
【0025】
しかも、リチウム系二次電池自体のもつ性能は、既述したとおり内部インピーダンスが従来の乾電池の1/30と極めて低く、重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度も従来の乾電池と比較して2〜3倍であり、軽量小型化には最適である。更に、特にリチウム系のイオン二次電池であれば、材質的にも環境負荷材料を含んでおらず、またニッカド電池のようなメモリー効果が一切なく且つ自己放電も少ないため、長期間にわたって必要な容量が維持される。また本発明にあっては、様々な保護回路により安全性が確保されており、高出力が得られることからマンガン系のリチウム系イオン二次電池であることが望ましい。
【0026】
更にはエンジン始動用の電動モーターを所定の容量とトルクをもって駆動するには、バッテリーを小型軽量化することに加えて、従来以上にバッテリー自体のレートを高める必要がある。このレートを高めることにより、高電流値をもって安定した放電が長時間持続できるようになる。通常、この種のリチウム系二次電池において高レートと呼ばれるレート値は3〜5Cであるが、本発明では1000mAhの放電容量で26A以上の放電を可能とする、レート値が26C以上のリチウム系二次電池を使っている。
【0027】
本発明にあって、前記バッテリー保護回路の一つとして、エンジン始動用の前記電動モーターの駆動に要する放電時間内を設定して、その設定時間を経過したのちは、同電動モーターの駆動を自動的に停止する専用の過放電抑止回路を含んでいる。この過放電抑止回路を内蔵することにより、最も消費電力の大きな電動モーター駆動回路の過熱が防止されると同時に、バッテリー寿命を長引かせることができる。この過放電抑止回路は、電動モーター駆動回路の過熱防止のみならず、バッテリー全体の、特に同バッテリーに内蔵される各種回路に配される素子類の過熱も抑止されることになり、各回路の焼損や発火が防止できる。この過放電抑止回路の好適な態様は、電動モーターの起動からエンジン始動までに要する時間を予め設定しておき、その時間を経過したのち自動的に電動モーターの駆動を停止させる、従来から知られた、いわゆる時限回路と電子スイッチを同回路中に組み込めばよい。
【0028】
前記電動モーターの起動からエンジン始動までに要する適切な時間域は5〜15秒である。電動モーターの駆動回路の過熱防止を更に確実にするには、過熱防止回路を設けるとよい。この過熱防止回路では、バッテリー内部の温度を検出し、前記時間域では当然のこととして、その時間域内であっても温度上昇が10℃を越えたとき、前記電子スイッチを閉じるようにする。この過放電抑止回路は、前述の機能に加えて、例えば電動モーター自体が何らかの原因で、電流を供給しても回転が停止してしまうストール状態になったときも、放電が上記時間域内で止められるため、電動モーターが焼き付くことはなく耐久性が向上する。
【0029】
因みに、本発明にて採用するバッテリーパックの体積は5.5×104 〜1.0×105 mm3 、重量が80g程度で極めて小型で且つ軽量である。このように極めて小型軽量化されるため、エンジンの始動装置のケースに直接内蔵させることもできるが、これをケース外の例えば作業機におけるハンドル部のスイッチボックスに収容することが可能となる。スイッチボックスに収容する場合には、エンジンから遠くなることによる耐振及び耐熱の効果があり、またガソリンタンクから離れることにより安全性も確保され、バッテリーの交換も簡単にできるようになる。また、上記特許文献5によって、リコイル式駆動機構を排除することと相まって、始動装置の外形寸法を極めて小型化することを可能にし、その重量も大きく低減できる。
【0030】
すなわち、バッテリー及び始動スイッチなどは始動装置に装備せずに、作業機のハンドル部のスイッチボックスに配するようにする。一方、エンジン始動装置の例えば蓄力部及び動力伝達部の回転支軸の第1軸線と電動モーター及び高減速機構の回転軸の第2軸線とを平行に並列させるとともに、第1及び第2軸線を同一平面上に配するような合理的な設計を採用する。この場合、始動装置の重量バランスを考慮すると、前記第2軸線とエンジンの前記第1軸線とを含む平面を垂直面とする。かかる設計により、始動装置の軸線方向の寸法を短くすることができるとともに、それらの構成機器の配設空間をも最小限に抑えることができ、しかも重量バランスが取りやすくなる。勿論、機器の数が少なくなるだけ大幅な軽量化も実現される。
【0031】
また、前記高減速機構として遊星歯車式減速機構を採用する場合には、機構の小型化が容易であり、その減速比も、上述のような高出力をもつリチウム系二次電池をバッテリーとして採用するとともに、高トルクが期待できる小型電動モーターを採用するとき、上記特許文献2のごとく1/250〜1/300のように大きく取らず、せいぜい1/50程度としても十分に対応することができるようになり、エンジンの始動時間、すなわち蓄力部が所要の蓄力を得るまでの時間を大幅に短縮できる。
【0032】
バッテリーパックが、その保護回路として上記過放電抑止回路に加えて、過充電防止回路、過電流防止回路などの電子回路を有している場合には、過充電によるバッテリーの過熱が防止され、過電流による周辺機器への発火が防止される。因みに、前記始動用の小型電動モーターは、ハウジング体積が4.0×103 〜8.0×104 mm3 と小型であるに関わらず、例えば遊星歯車群からなる減速機構を介することにより蓄力装置であるゼンマイの巻き上げ可能にするに十分な容量とトルクとを備えている。また、オートチョーク付きキャブレターを設置しておけば、エンジンが所定の温度以下にあるとき始動用の前記電動モーターを駆動すると同時に、前記バッテリーからソレノイドバルブにも通電され、空燃比を変えて燃料含有量を適切な値にまで増加させる。
【0033】
以上の構成及び特性をもつエンジンの始動装置を搭載した作業機のエンジンに発電機が設置されれば、バッテリーあがりがなくなり、エンジンの始動時には常に所要の放電を可能とし、エンジンの円滑な始動につながる。ただ、本発明に採用される上記リチウム系二次電池に前記発電機によって充電する場合、1セルあたりの充電電圧が4.0〜4.4Vを越えるとバッテリー内の抵抗が急激に増えるとともに、容量の回復率が大幅に低下する傾向にある。そのためバッテリーパックに専用の過充電防止回路を設け、過充電を防止しバッテリーの寿命を向上させている。発電機のための上記磁石を設ける前記エンジンの回転部としては、エンジンの始動とともに常時回転するクランク軸に固設されたファンの周面の一部とすると、エンジン始動時から発電が開始されることと、コイルを設置するだけであるため、従来のエンジンケース自体を大型化する必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、添付図面を参照して本発明の代表的な実施形態を具体的に説明する。
図1は本発明の作業機に搭載される小型エンジンのハイブリッドセルスタータの始動回路図、図2は前記小型エンジンと作業機のハンドルに付設されるスイッチボックス内に収容されたバッテリーとの具体的な配線を示す斜視図である。
本実施形態による小型エンジン10は、図2に示すように従来と同様、シリンダー11、同シリンダー11の燃焼室に臨設された点火プラグ12、図示せぬピストン、同じく図示せぬクランク軸、同クランク軸に固設されたファン13、同ファン13の背面側(図2の手前側)に配された図示せぬ遠心クラッチを備えている。
【0035】
本実施形態による前記小型エンジン10には、図1及び図3に示すように、前述の構成機器の他に更にエンジン始動用の電動モーター131を駆動するための電源である後述するバッテリーを充電する発電機14と、エンジン始動時の空燃比を調整するオートチョーク付きキャブレター15とが設けられている。前記発電機14は、上記ファン13の周面の一部に固設された第1の磁石13aと、同磁石13aの回転面に対設される充電コイル14aとから構成される。前記オートチョーク付きキャブレター15には、図示せぬソレノイドバルブが装着されている。同ソレノイドバルブはエンジン停止時にはチョークコイル15bに通電されておらず、閉じた状態にあるが、エンジン始動時の始動スイッチ操作と同時にバッテリーパック16から前記チョークコイル15bに電流が流れて、バルブを開く方向に作動する。このソレノイドバルブの開閉量で、空燃比が制御される。本実施形態によれば、エンジンの爆発室の近傍に図示せぬ温度センサーが配され、同センサーの検出温度に基づいて前記バルブの開度が制御される。
【0036】
一方、本発明では電動モーター131を始めとして、エンジン10に配される各種の電気又は電子機器類は単一のバッテリーにより駆動され或いは作動される。本発明にあっては、前記バッテリーとしてリチウム系二次電池を使用することが重要である。このリチウム系二次電池は、既述したとおり小型軽量でありながら、単一の小型セル(cell) の出力電圧が、例えば従来のニッカド電池と比較して3倍強もあり、しかも本発明のようなセルスタータシステムのように浅い充放電を繰り返しても、容量が減少する、いわゆるメモリー効果がないため、長期間放置されたのちにもエンジンを円滑に始動させることが可能となる。また、リチウム系二次電池はニッカド電池と比べると自己放電量が僅かで1/5と圧倒的に少なく、ニッカド電池を含めた他の乾電池と比較しても、特に内部抵抗が低い。特に、安全性が高く高出力放電が可能なマンガン系リチウムイオン電池を採用することが望ましい。
【0037】
本実施形態では、リチウム系二次電池の2セルを一組として使う。本実施形態における1セルの出力電圧は4.2V程度、放電容量は1000mAhであり、そのレート値は26Cと極めて高い。しかも、そのパック化されたバッテリーパック16の体積は僅かに2.5×104 mm3 であり、重量は70g程度に過ぎない。一方、本実施形態で使用する小型電動モーター131も、ハウジング体積が2.0×104 mm3 と極めて小型であり、その停動電流は1〜100A、停動トルクは100mNmと広範囲をカバーする。この始動用電動モーター131を駆動するには7.6〜8.0V程度以上の電源が必要となるため、エンジン始動用のバッテリーとしては前述のように2個のセル(cell)を用いる。例えば、1.2Vのニッカド電池を使って同じく7.0V程度以上の電圧を得ようとすれば、少なくとも6個以上の電池が必要となる。本実施形態のバッテリーは2個のセルからなるリチウム系二次電池と各種の電子回路とを内蔵する単一のパッケージ化がなされている。前記電子回路には、後述するバッテリー保護回路、バッテリー充電回路、及びエンジン駆動用の各種回路を含んでいる。前記リチウム系二次電池はハイレート化されており、本実施形態では全放電容量を1000mAh、前記始動用電動モーター131の駆動電流を26Aに設定している。
【0038】
パッケージ化された本実施形態によるバッテリーは、前述のように極めて小型化されているため、そのバッテリーパック16を始動装置のケース内に内蔵させてもよいが、本実施形態では後述するように作業機のハンドルに装着されるスイッチボックス17に取外し可能に収容するようにしている。そのため、図2に示すようにコネクター19の第1及び第2コネクター19a,19bに結線された複数本のリード線を介して、上記エンジン10の各種電気機器とバッテリーパック16とを接続している。図3は、その接続回路の一部を概略で示している。
【0039】
図1〜図3によれば、始動用スイッチ20をONすると、バッテリー保護回路の1つである過放電抑止回路Aを介して始動用の電動モーター131に放電され、同電動モーター131を起動させる。同時に、エンジンの爆発室周辺の温度が所定の温度を下回っていることを図示せぬ温度センサーにより検出したときには、空/燃比制御回路が作動してオートチョーク付きキャブレター15のチョークコイル15bに電流が流れ、キャブレター15aの吸気路に配された図示せぬソレノイドバルブが開かれて、小型エンジン10への供給燃料を増やす。エンジン10の爆発室周辺が所定の温度を越えているときは、チョークコイル15bに流れようとする電流を図示せぬ遮断回路によって遮断し、ソレノイドバルブを閉じたままにしている。このときのソレノイドバルブの駆動電流はせいぜい200〜800mAである。この駆動電流も前記バッテリーパック16から送られる。
【0040】
前記過放電抑止回路Aは、本発明の最も特徴部とする構成の一つであり、その基本的な機能は、上記電動モーター131の駆動により小型エンジン10を確実に始動させるに十分な時間を予め設定しておき、電動モーター131を起動して予め設定されている前記時間が経過したとき、電動モーター131の駆動回路を自動的に遮断して、電動モーター131の駆動を停止する。図4は、本実施形態における前記過放電抑止回路Aを構成するコンデンサーを使った典型的な時限回路の一例を示している。勿論、この過放電抑止回路に限定されるものではなく、また過放電抑止回路と過熱防止回路とを並設することができる。この過熱防止回路としては、例えばバッテリーパック16の内部温度を検出して、その検出値が予め設定された温度を越えたとき自動的にスタートスイッチを開けて放電を遮断したり、或いは始動用電動モーター131に流れる電流値を駆動時間で積分し、その値を熱量に変換して、その熱量が設定値を越えたとき自動的に放電を遮断したり、更には例えばモーター回転数が設定値を越えたとき自動的に放電を遮断するようする。
【0041】
図4において、いま電動モーター131の始動スイッチ20を入れると、a点にV1の電圧が生じ、b点ではコンデンサーCが充電される間、電圧V2が上昇を続ける。このときの電圧V1及びV2が一致すると、アンド回路29から信号が発せられて、それまで閉成されていた電子スイッチ30が開き、電動モーター131の駆動が停止される。このときの電動モーター131の起動から停止までの時間Tは、前記コンデンサーCの容量により決定される。
【0042】
本実施形態にあっては、前記電動モーター131の駆動継続時間Tを10秒に設定している。電動モーター131をストールさせて始動スイッチ20を入れ、モーター駆動回路にバッテリーパック16から26Aの電流を流すと、バッテリーパック16の内部回路が過熱してしまい、一部の回路素子が焼損して回路が破壊されてしまう。また、巻線温度がある温度を越えると電動モーター131も焼損して円滑な回転がなされなくなる。図5及び図6は、その実験を行った結果を示している。
【0043】
満充電(8.4V)状態にある前記バッテリーパックにより前記電動モーター131をストール状態で、電動モーター131に26Aの電流を15秒間流した。その結果、図5に示すように、時間の経過とともに電圧及び電流は双方ともに低下していく。図6は同じ条件にて電動モーター131に電流を12秒間流したときの、巻線温度の変動を示している。通常、この種の電動モーターでは、捲線の表面を被覆する絶縁膜の耐熱温度は180℃が限度とされている。同図からも理解できるとおり、電流を流し始めてから10秒後には187℃となり、前記絶縁膜の耐熱温度を上回るようになる。
【0044】
本実施形態にあっては、前記過放電抑止回路や過熱防止回路の他に、本発明の特徴部の一つでもあるリレー回路がバッテリーパックに内蔵されている。図7は同リレー回路を示している。本発明における同リレー回路は、始動スイッチの保護的な役割を果たしており、同回路は励磁式ではなくトランジスタ回路により構成されて極めて小型化されている。このリレー回路を設けないときは、例えば、本発明のように瞬間的に30Aの大きな電流を放電する高レートなバッテリーを使うと、始動スイッチを経由して電動モーターに直接流れて、始動スイッチ20の金属部分が焼けて溶け、スイッチONの状態が維持されるようになり、電動モーターが停止できない事態を発生しかねない。
【0045】
本実施形態におけるリレー回路は、図7に示すように、始動スイッチ20が開いている間はトランジスタ29は抵抗が無限大となって回路に電流は流れず、過放電抑止回路Aである時限回路も作動状態にはない。勿論、電動モーターMにも駆動電流は流れていない。いま、始動スイッチをONにすると、バッテリーから放電される電流はトランジスタ30を介して電動モーターM側の大電流と放電抑止回路A側の微小電流とに分かれ導通する。このとき、過放電抑止回路Aに慣れる電流は5mA程度と極めて低く、残る大電流が電動モーターMへと流れる。この電流が流れると同時に過放電抑止回路AのコンデンサーCが充電を開始して、同コンデンサーCの容量により決まる時間が経過すると、図示せぬスイッチング回路に信号が送られ、同スイッチング回路が開かれて、バッテリーの放電を停止させる。本実施形態では、前記放電時間を後述する理由から5〜10秒に設定している。
【0046】
図8及び表1は、同じ電動モーターとバッテリーとを使い、更に上述の各種回路を配して同様の実験を行ったときの、バッテリー回路内の電流−時間−温度特性を示している。同図によれば、時間の経過に伴って負荷電流とバッテリー回路内の温度との間には同一勾配の直線的相関のあることが分かる。本実施形態によれば、始動スイッチ20を入れた直後の放電電流は26Aであるから、そのときの温度上昇は8.8℃であって、その上昇温度に達するまでの時間は図8から9.8秒間かかることが予想できる。
【0047】
【表1】

【0048】
一方、例えば携行式刈払機などの作業機にあっては、真夏、暑いときの直射日光下のバッテリーボックス付近温度は60℃程度の場合があり、一方バッテリー回路の耐熱は70℃を上限としている。こうした制約の下で、バッテリー回路の温度上昇を8.8℃に抑えれば、60℃+8.8℃=68.8℃となり、耐熱温度の70℃よりも低くなる。従って本実施形態にあっては、放電時間を5〜10秒に設定している。しかし、この放電時間は電動モーターの容量やバッテリーパックの放電容量などにより異なるため、一律に規定できるものではなく、本発明にあっては安全性をも見込んで、放電時間を操作者が違和感を感じないエンジンの始動時間となる5〜15秒に設定している。
【0049】
本実施例によれば、バッテリーパック16に内蔵される上記バッテリー保護回路としては、上記過放電抑止回路Aの他にもバッテリーの過充電防止回路Bや図示せぬ過電流防止回路が内蔵されている。また同時に、同バッテリーパック16には図示せぬ充電回路及びエンジンの点火回路も内蔵されている。これらの過充電防止回路B、図示せぬ発電機からの充電回路及びエンジンの点火回路は従来から公知の回路であるため、ここではその詳しい説明は省略する。一方で前記過電流防止回路は、図示を省略するが各回路の配線のうち、必要な配線の途中に前記過電流防止回路を設けることにより構成されている。因みに、本実施形態にあっては、前記過電流防止回路を30A程度を上限として電流を遮断するようにしている。
【0050】
エンジンが回転している間は上記過充電防止回路Bを介して発電機14が発電を継続し、その交流電力が図示せぬ平滑回路を介して平滑化されて上記バッテリーパック16に送られ、バッテリーパック16を充電する。このときの充電電圧が4.1Vを越えると、図10に示すように、上記リチウム系二次電池の内部抵抗率が急激に増加するとともに、容量回復率が急激に低下する。そのため、本実施形態では、バッテリーパックに内蔵されている過充電防止回路によって調整し、前記充電電圧を8.1V程度に抑えるようにしている。
【0051】
また他の実施例にあっては、作業機の不使用時、或いはエンジンの停止時には、バッテリーパック16の内部回路への放電を防ぎ、バッテリー寿命を向上させるための改良がなされている。図9は、バッテリーパック16の内部回路への放電が禁止される場合の回路をブロック線図で示している。この図では、前記バッテリーパック16の内部回路のうち、上記過放電抑止回路A及び過充電防止回路Bを代表的な回路として例示したときの全体のブロック線図である。同図にあって、仮想線で示す右側ブロックCが外部配線を示し、左側ブロックDが本発明のバッテリーパック16の内部配線を示している。
【0052】
同図に示したとおり、エンジン側の8本の外部配線が上記第1コネクター19aに接続され、前記バッテリーパック16から外部に露呈させた内部回路の端子は8本の外部配線を介して第2コネクター19bに接続され、第1及び第2コネクター19a,19bが互いに係脱可能とされている。図示例では、外部配線及びバッテリーパック16の各入出力端子は、それぞれ8つずつ有している。図示例について、その具体的な配線を述べると、入出力端子1,2,7,8により形成される閉回路はバッテリーパック16の電動モーター駆動回路や保護回路の自己放電を回避するために必要な回路であり、入出力端子3〜6が上記過放電抑止回路Aを含む電動モーター駆動回路と上記充填回路Bとを、外部配線に接続するための端子である。
【0053】
作業時にはバッテリーパック16をスイッチボックス17に装着することにより、全ての内部回路が電気的に接続されるようになっており、バッテリーによる駆動を可能にしている。いま、バッテリーパック16をスイッチボックス17から取り外すと、バッテリーからの放電はバッテリー自身の自己放電のみとなり、バッテリー寿命を長く延ばすことが可能となる。
【0054】
図10は、作業時、不作業時を問わず、エンジンストップスイッチ23を切ると同時に、バッテリーパック16に内蔵されたクローズド回路及びオープン回路の全てが同時に遮断される例を示している。すなわち、同図にあって、4つの上記入出力端子1,2と7,8とをスイッチ31,32を介して接続と開放を可能にするとともに、これらのスイッチ31,32をエンジンストップスイッチ23の動作に連動するように構成している。エンジンストップスイッチ23がONの状態では点火プラグ12に接続されておらず、始動スイッチ20及び上記入出力端子1,2と7,8間の各スイッチ31,32も、それぞれ開いた状態にある。
【0055】
いま、この状態で始動スイッチ20及びエンジンストップスイッチ23を閉じると、バッテリーから電動モーター131に向けて放電がなされ、エンジン10が始動する。このとき同時にバッテリーと点火プラグ12とが接続されて、エンジン10は回転を続ける。ここで、エンジンの回転を停止させる必要が生じたときには、エンジンストップスイッチ23を切り、点火回路22のコイル12aのKILL端子をグランドに接続しエンジンを停止させる。このエンジンストップスイッチ23の切り操作により、二組の入出力端子1,2と7,8間に配された上記スイッチ31,32も同時に接続が絶たれる。このスイッチ31,32が開くことによりバッテリーパック16の内部回路の全ての回路が回路ごとに遮断される。
【0056】
図12に上記接続回路を備えた本発明の実施形態であるエンジン始動装置100と小型エンジン10との組立図を示している。図12〜図15は、同実施形態における前記エンジン始動装置100の各構成機器の配置及び構造を示す説明図である。本実施形態によるエンジン始動装置100は、小型空冷式ガソリンエンジン等に適用され、同始動装置100はその内燃エンジン10のクランク軸25の入力端部に近接して配置される。
【0057】
このエンジン始動装置100は、蓄力部110と動力伝達部120と電動式駆動部130とを備え、これらの蓄力部110、動力伝達部120及び電動式駆動部130は一つのユニットに組み立てられて、単一のケース140に収容される。このケース140は、上半部が蓄力部110と動力伝達部120とを収容する方形状を呈する第1空間Aと、下半部が駆動部130を収容する下端に向けて漸次幅狭となる逆三角形状を呈する第2空間Bとを有し、エンジン側と反エンジン側との半割り構造からなり、第1及び第2ケース体140a,140bを有している。
【0058】
エンジン側の第1ケース体140aの上半部は略方形の窓部141とされ、その下半部の中央部に上記電動式駆動部130の構成部材の一つである後述する高減速機構132を嵌挿支持する減速機構嵌挿孔142が形成されている。前記方形窓部141の四隅内側には第1ケース体140aをエンジン10に固設するためのボルト挿通孔143が形成され、また前記方形窓部141の枠部の上二隅と下二隅の下方との4箇所に上記第2ケース体140bと結合するためのネジ孔144が形成されている。一方、反エンジン側の前記第2ケース体140bの第1空間Aを形成する底部内壁面の中央にはエンジン方向に向けて軸部145が突設されており、同軸部145の垂直下方にあって前記第2空間Bを形成する背壁部の前記減速機構嵌挿孔142の中心に対応する部位には内部空間と連通するレンチ挿入孔146が形成されている。また、前記第1ケース体140aのネジ孔144に対応する同第2ケース体140bの部位にも、それぞれにボルト挿通孔147が形成されている。
【0059】
上記蓄力部110は、図12及び図13に示すとおり、ゼンマイばね111とゼンマイ香箱112とからなり、ゼンマイ香箱112の外周面の半部には周方向に連続する平歯車113が形成されている。また、このゼンマイ香箱112の中心には貫通孔112aが形成されるとともに、その貫通孔112aには軸受状のワンウェイクラッチ114の外輪が密嵌され、そのワンウェイクラッチ114の内輪に前記第2ケース体140bの上記軸部145が圧入固定される。更に、同ゼンマイ香箱112のエンジン側には図示せぬゼンマイばね収容空間が形成されており、そのゼンマイばね収容空間の周壁の一部に、前記ゼンマイばね111の外側端部111aを係着固定する図示せぬ外側端固定溝が形成されている。
【0060】
なお本実施形態によれば、前述のようにゼンマイ香箱112を軸受型のワンウェイクラッチ114をもって一方向の回転だけを許容しているが、このワンウェイクラッチ114に代えて、例えば図16に示すように上記ゼンマイ香箱112の外周面に上記平歯車113とは別のラチェット歯115を形成する一方、第2ケース体140bの一部に前記ラチェット歯115と係合するラチェット爪116を回動自在に支承させても、同様にゼンマイ香箱112に一方向の回転だけを許容させることができる。このとき、前記ラチェット爪116は同じく第2ケース体140bに取り付けられたバネ部材117により、常に前記ラチェット歯115と係合する方向に付勢されている。この場合、ゼンマイ香箱112は通常の平軸受118を介して上記軸部145に回転可能に支承される。
【0061】
上記動力伝達部120は、図9の一部を拡大して示す図13〜図16に示すように、起動プーリー121と同起動プーリー121に係脱する係脱部材122とから構成される。前記起動プーリー121の中心には上記第2ケース体140bから突出する軸部145が遊挿できる遊挿孔121aが形成され、同起動プーリー121の反エンジン側の中心部には、図5に示すとおり、前記遊挿孔121aを囲むようにしてゼンマイ香箱112に向けて突設するゼンマイばね端固定部121bが形成されている。このゼンマイばね端固定部121bには上記ゼンマイばね111の内側端部111bを係着固定する内側端固定溝121b' が形成されている。前記軸部145の先端部には図示せぬネジ孔が形成されており、組み立てが終了した時点で同ネジ孔に止めネジ148がねじ込まれ、蓄力部110及び起動プーリー121が第2ケース体140bに収容固定される。
【0062】
また、前記起動プーリー121のエンジン側中心部には、エンジン10のクランク軸25に装着された遠心クラッチ機構の一要素である係合爪26と係合する、図15に示すような周面にラチェット歯121dを有する係合突部121cが突設されている。この係合突部121cは、ゼンマイ香箱112が回転してゼンマイばね111にバネ力が蓄えられる過程で発生する解放方向のエネルギーを受けながら、エンジンの最大負荷を越えるまでは前記クランク軸25に装着された係合爪26と係合して静止しているが、ゼンマイばね111に蓄えられた蓄力がエンジンの最大負荷を越えると前記係合爪26と係合したまま共回りを始め、エンジンを始動させる。エンジン回転が定常状態に入ると、その遠心力により係合爪26は起動プーリー121の前記係合突部121cとの係合が外れ、エンジン回転が続けられる。
【0063】
更に、前記起動プーリー121の外周には所定の間隔をおいてラチェット歯123が形成されており、起動プーリー121の全体がラチェットホイールを構成している。上記係脱部材122は、その一端122bが第1ケース体140aのボス部140a−1に回転自在に支承され、押し釦149によってその先端122aを回動操作させて前記起動プーリー121の外周ラチェット歯123に係脱させ、同起動プーリー121の回転を許容し或いは回転を不能にする。この係脱部材122の前記先端122aは、捻じりバネ150により、通常のエンジン始動時には前記ラチェット歯123から外れる方向に付勢されており、前記一端122bを前記捻じりバネ150の付勢に抗して回転させることにより、初めてその先端122aを前記ラチェット歯123に係合させることができる。ここで、係脱部材122と起動プーリー121のラチェット歯123とが、本発明における回転阻止手段に相当する。
【0064】
本実施形態によれば、前記係脱部材122の先端122aを付勢に抗して回転させるには、図12及び図13に示すように、第1ケース体140aの周壁部の一部に取り付けた押し釦149のピン先端のボール部分149aを係脱部材122の先端122aに嵌着してあり、前記押し釦149を押し込むことにより前記係脱部材122が捻じりバネ150の付勢に抗してラチェット歯123に向けて回動させる。この押込み操作により、押し釦149は図示せぬロック手段によりロックされ、次に押し釦149を手前側に引くとロックが解除されて、係脱部材122はラチェット歯123との係合が外れる方向に回動する。更に係脱部材122は、捻じりバネ150の付勢によって、第1ケース体140aの周壁部に固定される。
【0065】
上記電動式駆動部130は、既述した始動用電動モーター131と、同電動モーター131の出力軸と結合される高減速機構132とからなり、前記電動モーター131の高速回転が前記高減速機構132を介して減速されて上記ゼンマイ香箱112に伝達される。前記高減速機構132は、小型の遊星歯車機構132aと同遊星歯車機構132aの出力軸に固着される平歯車132bとから構成される。前記減速機構132として、遊星歯車機構132aと平歯車132bとを組み合わせて採用しているため、その入力部と出力軸とは同一軸線上に配することができ、その軸線を上記第2ケース体140bからエンジン側に向けて突出する上記軸部145と平行に配することを可能にする。しかも本実施形態では、この電動式駆動部130の軸線を前記軸部145のほぼ垂直下方に配している。このことは、本発明がリコイル機構を排除するとともに、従来は蓄力部110及び動力伝達部120の下方に配されていたバッテリーをケース140外の、例えば作業機の図示せぬ操作ハンドルに装着されるスイッチボックス17(図3参照)に配するようにし、その空き空間に上記電動式駆動部130を配することにより、上記ケース140の軸線方向の長さを短尺にするとともに、ケース140の左右幅をも最小限まで短くすることを可能にする。
【0066】
本実施形態による前記遊星歯車機構132aは、リング状の太陽歯車である第1〜第3の内歯歯車132a−1〜132a−3を備えており、その遊星歯車機構132aが上記電動部収容ケース134に上記電動モーター131と共に収容固定されるようになっている。すなわち、前記第1及び第3の内歯歯車132a−1,132a−3の外周面には回転軸と平行に延びる複数本の突条132a' −1,132a' −3が突設されており、前記電動部収容ケース134の内周面には前記突条132a' −1,132a' −3の対応した位置に軸線に平行に延び、前記突条132a' −1,132a' −3が嵌着する嵌着溝134a−1が同数形成されている。
【0067】
本実施形態では、前記電動部収容ケース134はエンジン側とは反対側が開口する有底円筒体からなり、円筒状本体134aと底部134bとに2分割されている。各円筒状本体134a及び底部134bの前記嵌着溝134a−1が形成されている外周面部分には、軸線に平行に延びる突条134c,134dが突設されており、底部134bの突条134dにはネジ孔が形成され、円筒状本体134aの突条134cにはボルト挿通孔が形成されている。かかる構成を備えた電動部収容ケース134の前記嵌着溝134aに、前記遊星歯車機構132aの上記突条132a' −1,132a' −3を嵌着させて、電動モーター131及び遊星歯車機構132aが収容固定される。電動モーター131及び遊星歯車機構132aを収容した電動部収容ケース134は、第1ケース体140aに形成された上記電動部密嵌孔142に密嵌されて支持される。このとき、前記電動部収容ケース134に収容された電動モーター131及び遊星歯車機構132aは、同遊星歯車機構132aの出力軸を外部に露呈して固定フレーム135により、図示せぬボルトとナットを介して締結固定される。こうして電動部収容ケース134に収容固定された前記遊星歯車機構132aの出力軸の先端には上記平歯車132aが固設される。
【0068】
本実施形態によれば、小型電動モーター131とゼンマイ香箱112との間の減速比を1/50に設定している。また、前記遊星歯車機構132aの出力軸に固着される平歯車132bと上記ゼンマイ香箱112の外周に形成される平歯車113との減速比は1/2. 5と設定されている。そのため、前記遊星歯車機構132aの減速比は1 /20に設定される。前記遊星歯車機構132aの出力軸133、すなわち前記平歯車132bの支軸軸端には図示せぬ例えば六角レンチと係合できる係合部133aが形成されており、その軸線上に上記第2ケース体140bの背壁部に形成されたレンチ挿入孔146の中心を位置させている。
【0069】
さて、以上のように構成された本実施形態による構成部材をケース140に収容して組み立てるには、第2ケース体140aの上記軸部145を、 ワンウェイクラッチ114を密嵌したゼンマイ香箱112の貫通孔112aに圧入固定することにより行う。このとき、ゼンマイ香箱112のゼンマイばね収容空間の周壁に形成された図示せぬ外側端固定溝にゼンマイばね111の外側端部が係着固定されている。次いで、上記起動プーリー121の中心部に形成された上記ゼンマイばね端固定部121bの内側端固定溝121b' に前記ゼンマイばね111の内側端部を係着固定する。続いて、同ゼンマイばね端固定部121bを貫通する上記遊挿孔121aに、前記第2ケース体140bの上記軸部145を遊挿したのち、前記軸部145の先端部のネジ孔に留めネジ147をねじ込んで、前記ゼンマイ香箱1と起動プーリー121とを第2ケース体140bに収容組付けが終了する。
【0070】
一方、上記電動式駆動部130のケース140への組み付けるにあたっては、上記直流電動モーター131と、減速機構132の遊星歯車機構132a及び平歯車132bとが予め組付けられて組立体とされている。この組立体の前記遊星歯車機構132aの外周面に形成された上記突条132a' −1,132a' −3を、第1ケース体140aに形成された上記減速機構嵌挿孔142の内面嵌着溝142aに嵌着して固定支持させる。このあとで、第1ケース体140aの方形窓部141の四隅に形成された4個のボルト挿通孔143を介してボルト28をもってクランクケース29に締結する。このとき同時に、電動モーター131をクランクケース29の所定の位置に位置決めして固設する。
【0071】
こうして、第1ケース体140aを電動式駆動部130とともにクランクケース29に固設したのち、第2ケース体140bのネジ挿通孔147を介してボルト28を第1ケース体140aのネジ孔144にねじ込み、上述のように蓄力部110及び動力伝達部120が組付けられた第2ケース体140bを前記第1ケース体140aに固設一体化する。第1ケース体140aに第2ケース体140bを固設するとき、前記係脱部材122の回動他端122cを前記起動プーリー121の外周ラチェット歯123に係着させる。係脱部材122を、ボス部140a−1に枢支させるとき、捩りバネ150によって、同係脱部材122の端部122bを操作しないかぎり、その先端122cが前記ラチェット歯123と係合しない方向に付勢させる。
【0072】
以上の構成を備えた本実施形態による電動式のエンジン始動装置100は、既述したとおりケース140には、従来のようなリコイル式駆動部とバッテリーとを排除して、蓄力部110のゼンマイばね111を収容したゼンマイ香箱112と動力伝達部120の起動プーリー121とを同一軸部145に支持し、その軸部145の垂直下方にあって同軸部145と、平行な軸線上に電動式駆動部130である電動モーター131と減速機構132を構成する遊星歯車機構132a及び平歯車132bが配されているに過ぎない。また、前記電動モーター131及び遊星歯車機構132aにも超小型のものが使われているため、ケース140に極めてコンパクトに納められ、その結果、ケース140自体、すなわち始動装置全体を極めて小型化している。
【0073】
また、前記始動装置100によりエンジン10を始動させるには、例えばハンドル部に設けられた始動スイッチ131を入れると電動モーター131が起動して、遊星歯車機構132a及び平歯車132bをからなる高減速機構132により1/50の減速比でゼンマイ香箱112をゼンマイばね111の蓄力方向に回転させる。このとき、動力伝達部120の起動プーリー121には係脱部材122が係合しておらず、起動プーリー121の係合突部121cにクランク軸25に装着された係合爪26が係合しているに過ぎない。
【0074】
いま、ゼンマイ香箱112が回転しゼンマイばね111に蓄力がなされる過程で、ゼンマイばね111には蓄力を解放しようとする力が働き、前記係合爪26を介してクランク軸25を回転させエンジン10を圧縮する行程に入るが、前記ゼンマイばね111の蓄力がその圧縮行程における最大負荷を越えるに十分な蓄力がなされない間は、クランク軸25をそれ以上回転させることができない。ゼンマイばね111がエンジン10の圧縮行程における最大負荷を越える蓄力がなされると、ゼンマイばね111の蓄力を解放する方向の力が勝り、起動プーリー121が係合爪26を介してクランク軸25を回転させてエンジン10が点火され運転が開始される。電動モーター131の起動から、このエンジン10の始動まで僅かに1〜5秒である。本実施形態にあっては、エンジン10を始動させるため前記電動モーターへの放電時間が10秒を越えると、上記バッテリーパック16の内部の保護回路の一つである過放電抑止回路Aが作動して、バッテリーからの放電を遮断する。エンジン10の回転が定常に入ると、その遠心力により前記係合爪26と起動プーリー121の係合突部121cとの係合が外れ、エンジンの回転が続けられる。このときのエンジン10の始動に要する時間は、本発明のバッテリーと相まって、上記減速機構の減速比を1/50と比較的小さく設定されているため、僅かであり自動車などにおける通常のセルスタータによる始動時間と殆ど変わるところがない。
【0075】
以上の説明からも明らかなように、本発明の電動式エンジン始動装置によると、バッテリーとしてリチウム系二次電池を採用しているため、品質の信頼性が高くかつ高出力でありながらバッテリーの小型軽量化が達成できる。更に、このバッテリー内蔵するバッテリーパックはエンジン始動装置のケース内に収容せず、装置外である作業機のハンドル部に装着されたスイッチボックスに配することも可能なため、そもそもが超小型の電動モーターや高減速機構を採用するとともに、リコイル式駆動機構を始動装置から排除していることとが相まって、始動装置自体を極めて小型化できる。更に、本発明にあってはバッテリーパックに内蔵された電動モーター駆動回路中に、過放電抑止回路、過熱防止回路、過放電抑止回路に接続されたリレー回路などの保護回路を配しているため、バッテリーパックの内部回路と電動モーターが過熱により焼損することがない。また、バッテリーパック内に過充電防止回路Bを配しているため、エンジン回転を利用してバッテリーを充電することができ、また同時にオートチョーク付きキャブレターを装備すれば、寒冷地にあっても常に円滑なエンジンの始動を可能にする。更にまた、エンジン始動装置の構成部材を究極なまでに合理的に配置して、さらなる小型化を実現した。しかも、従来の電動式エンジン始動装置と同様に、電動モーターが駆動できなくなった場合には、手動操作で手軽に且つ安全にエンジンを始動させることもできるようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の小型エンジン始動装置とバッテリーパックとの間の配線図である。
【図2】同接続回路に基づく具体的な配線例を模式的に示す立体図である。
【図3】本発明の実施形態である小型エンジン始動装置とバッテリーパックとの間の回路図である。
【図4】本発明のバッテリーパックに設けられる保護回路の一つである過充電抑止回路の典型例を示す回路図である。
【図5】モーターストール時の電圧−電流特性図である。
【図6】モーターストール時の捲線の温度特性の一例を示す温度特性図である。
【図7】本発明のバッテリーパックに設けられる保護回路の一つであるリレー回路の一例を示す回路図である。
【図8】バッテリーパックの内部回路内の電流−時間−温度特性図である。
【図9】バッテリーパックの内部回路の遮断機構図である。
【図10】その変形例を示す遮断機構図である。
【図11】リチウム系二次電池の容量維持率及び内部抵抗増加率を示す特性図である。
【図12】本発明のバッテリーパックを搭載した小型エンジン始動装置の組立図である。
【図13】同エンジン始動装置の蓄力部、動力伝達部及び一部電動式駆動部を拡大して示す分解斜視図である。
【図14】係脱手段が前記動力伝達部に係合状態にあるときの背面側から見た正面図である。
【図15】係脱手段が前記動力伝達部に非係合状態にあるときの背面側から見た正面図である。
【図16】動力伝達部の駆動ホイールを前面側から見た斜視図である。
【図17】前記実施形態の変形例にあって要部を拡大して示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0077】
10 エンジン
11 シリンダー
12 点火プラグ
12a 点火コイル
13 ファン
13a,13b 磁石
14 発電機
14a 充電コイル
15 オートチョーク付きキャブレター
15a キャブレター
15b チョークコイル
16 バッテリー
17 スイッチボックス
19a,19b 第1及び第2コネクター
20 スタータスイッチ
21 リレー
22 点火回路
23 エンジンストップスイッチ
24 遠心クラッチ
24a 係合爪
25 クランク軸
26 係合爪
27 クランクケース
28 ボルト
29 クランクケース
30 トランジスタ
100 エンジン始動装置
110 蓄力部
111 ゼンマイばね
111a 外側端部
111b 内側端部
112 ゼンマイ香箱
112a 貫通孔
113 外周平歯車
114 ワンウェイクラッチ
115 ラチェット歯
116 ラチェット爪
117 ばね
118 平軸受
120 動力伝達部
121 起動プーリー
121a 軸部遊挿孔
121b ゼンマイばね端固定部
121b' 内側端固定溝
121c 係合突部
122 係脱部材
122a 先端
122b 一端
123 ラチェット歯
130 電動起動部
131 超小型電動モーター
132 高減速機構
132a 遊星歯車機構
132b 平歯車
132a−1〜132a−3 第1〜第3の内歯歯車
132a'-1 ,132a'-3 突条
133 出力軸
133a 係合部
134 電動部収容ケース
134a−1 嵌着溝
134a 円筒部本体
134b 底部
134c,134d 突条
135 固定フレーム
140 ケース
140a (エンジン側の)第1ケース体
140b (反エンジン側の)第2ケース体
141 窓部
142 電動部密嵌孔
143,147 ボルト挿通孔
144 ネジ孔
145 軸部
146 レンチ挿通孔
149 押し釦
149a ボール部分
150 捻りバネ
A 過放電抑制回路
B 過充電防止回路
C コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小型電動モーターと、該小型電動モーターの動力が高減速機構を介して蓄力方向に駆動伝達される蓄力部と、該蓄力部をエンジンのクランク軸に伝達する動力伝達部とを備えた作業機に搭載される小型エンジン始動装置の小型電動モーター駆動用バッテリーパックであって、
該バッテリーパック内には、少なくとも2つのセルからなるリチウム系二次電池と、同電池に接続された、通常の自己放電防止回路、過電流防止回路の他に、過充電防止回路、過放電抑止回路、スタートスイッチ用リレー回路などの電子回路からなる保護回路が内蔵されてなることを特徴とする電動モーター駆動用バッテリーパック。
【請求項2】
前記過放電抑止回路は時限回路であり、前記エンジン始動用電動モーターの駆動に要する連続放電時間が5〜15秒経過したのちに自動的に停止するように設定されてなることを特徴とする請求項1に記載のバッテリーパック。
【請求項3】
前記バッテリーパック内の前記リチウム系二次電池は、全放電容量が500〜2000mAhで、1セル当たりの充電電圧が3.0〜4.2Vであることを特徴とする請求項1に記載のバッテリーパック。
【請求項4】
該バッテリーパック内の該リチウム系二次電池は、その最大放電電流が10〜60Aに設定され、設定最大放電電流に応じた所定の連続放電時間経過後に自動的に放電が停止されることを特徴とする請求項1に記載のバッテリーパック。
【請求項5】
前記バッテリーパックは、2.5×104 〜1.0×105 mm3 の体積を有してなることを特徴とする請求項1に記載のバッテリーパック。
【請求項6】
前記過充電防止回路は、上記セルの1セルあたりの充電電圧が4.0〜4.4Vを越えたとき充電を遮断することを特徴とする請求項1記載のバッテリーパック。
【請求項7】
前記保護回路が、バッテリーパックの内部温度を検出し、その検出温度の上昇が前記過
放電抑止回路の設定放電時間域に関わらず所定温度に達すると、前記電子スイッチを自動
的に開放する過熱防止回路は更に備えてなる請求項1記載のバッテリーパック。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のバッテリーパックのリチウム系二次電池により駆動される小型電動モーターと、該小型電動モーターの動力が高減速機構を介して蓄力方向に駆動伝達される蓄力部と、該蓄力部の蓄力をエンジンのクランク軸に伝達する動力伝達部とが内蔵されてなることを特徴とする手作業機に搭載される小型エンジンの始動装置。
【請求項9】
前記バッテリーパックは、前記手作業機のハンドル部のスイッチボックスに一体に配されてなることを特徴とする請求項8記載の始動装置。
【請求項10】
前記小型電動モーターは、ハウジング体積が4.0×103 〜8.0×104 mm3 、停動電流が1〜100A、停動トルクが10〜500mNmであることを特徴とする請求項8記載の始動装置。
【請求項11】
前記リチウム系二次電池により駆動されるソレノイドバルブにより作動するオートチョーク付きキャブレターを更に備えてなり、前記ソレノイドバルブの駆動電流が200〜800mAであることを特徴とする請求項8記載の始動装置。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかの始動装置を搭載したことを特徴とする手作業機。
【請求項13】
前記エンジンが前記リチウム二次電池の充電用発電機を有し、
同発電機は前記エンジンの回転部に配された磁石と、同磁石の対向部に配された発電コイルとを備えてなることを特徴とする請求項12記載の手作業機。
【請求項14】
前記エンジンの前記回転部がクランク軸に固設されたファンである請求項13記載の手作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−258090(P2006−258090A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236910(P2005−236910)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000184632)小松ゼノア株式会社 (60)
【Fターム(参考)】