説明

小型ファイバリングレーザ

【課題】 本発明の目的は、小型かつ高精度なファイバリングレーザを提供することである。
【解決手段】 少なくとも一つの閉じたリング状の共振器(リングレーザ共振器)を持つファイバリングレーザの利得媒質として希土類添加ファイバを用いるファイバリングレーザにおいて、該希土類添加ファイバとして少なくともErとCeを共に添加したコアを備えたフッ化物ファイバ(ECDF)を1個以上用い、該ECDFの合計の長さが2m以下であり、リングレーザ共振器長が10m以下であり、波長900nm以上985nm以下の半導体レーザを励起源として用いる事を特徴とする、小型ファイバリングレーザ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角速度計測、距離計測光源、表面形状計測光源などに用いられるファイバリングレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
角速度の検出にこれまで航空機を中心に使用されてきたHeNeリングレーザジャイロ(RLG)や干渉型ファイバジャイロ(I−FOG)は、非常に高精度であるが高価で大型である。このため、自動車や民生用には使用することが出来なかった。これに対し、従来のI−FOGよりも電気的、光学的構成が簡単なファイバリングレーザジャイロ(FRLG)が提案されている(非特許文献1,2,特許文献1)。また、リングの一部に光増幅器を挿入する感度の向上方法が提案されている(非特許文献3,4)。非特許文献3では、ファイバリングレーザジャイロは通常のI−FOGよりも2倍以上の感度が得られると見積もっており、理由として多数周回による実効的な相互作用長の延長が可能なためとしている。非特許文献3と同じ構成で実験した非特許文献4では、6.25倍に至る感度向上が観測されている。また、ファイバリングレーザの感度向上にはレーザ線幅の狭窄化が有効であることから、リングの一部に可飽和吸収体として希土類添加ファイバを配置した方法も提案されている(非特許文献5)。また、ファイバリングレーザをモードロックレーザとすることで、検出を容易にする方法も提案されている(非特許文献6)。
【0003】
これらのファイバリングレーザや光増幅器では、特に断りがない場合もあるが希土類としてErを100〜1000ppm含む石英光ファイバが用いられている。この程度のEr濃度では、励起光を吸収するための長さ(吸収長)が長くなり、少なくとも10mから数十m程度のEr添加光ファイバが必要であることから、小型化は困難である。また、リングレーザ部分の構成の最適化にはあまり関心が払われていないため、リングレーザ部分に関する詳細な検討はほとんど着手されていない。このため、小型かつ高精度なファイバセンサ用リングレーザに適した構成は見出されていない。
【0004】
一方、フッ化物ファイバは高濃度に希土類添加可能であるだけでなく、低雑音に光増幅可能(特許文献2、非特許文献7)であることから、小型高効率低雑音な利得媒質として期待されており、小型の光増幅器として実用化されている(非特許文献8)。
【特許文献1】特開2007−212247号公報
【特許文献2】特許第3228462号公報
【非特許文献1】S.K.Kim,B.Y.Kim,and H.K.Kim,”Investigation of Er3+−doped fiber ring laser for its application to rotation sensing”, Proceedings of SPIE,10th international conference on optical fibre sensor,vol.2360(1994) pp.108−111.
【非特許文献2】J.Li,Y.Lam,and Y.Zhou,”Afiber ring laser gyroscope based on Er−doped fiber pumped at 1480nm”,Proceedings of SPIE,International Society of Optical Engineering USA,vol.3491(1998)pp.920−925.
【非特許文献3】Chin−Yi.Liaw,Yan Zhou,and Yee−Loy.Lam,”Theory of an Amplified Closed−Sagnac Loop Interferometric Fiber Optic Gyroscope,”Proceedings of SPIE,International Society of Optical Engineering USA,vol.3897(1999) pp.557−564.
【非特許文献4】Chin−Yi.Liaw,Yan Zhou,and Yee−Loy.Lam,”Characterization of an open−loop interferometric fiber−optic gyroscope with the Sagnac coil closed by an erbium−doped fiber amplifier,”J.Lightwave technology,vol.16,No.12,(1998) pp.2385−2392.
【非特許文献5】Junjun Lu,Shufen Chen,and Yang Bai,”Experimental study on a novel structure of fiber ring laser gyroscope,”Proceedings of SPIE,International Society of Optical Engineering USA,vol.5634,No.1(2005)pp.338−342.
【非特許文献6】Chao−Xiang Shi,and H.Kajioka,”A novel mode−locked laser rotation sensor:experiment,”Microwave and Optical Technology Letters,vol.12,No.4(1996)pp.197−200.
【非特許文献7】Y.Kubota,T.Teshima,N.Nishimura,S.Kanto,S.Sakaguchi,Z.Meng,Y.Nakata,and T.Okada,”Novel Er and Ce codoped fluoride fiber amplifier for low−noise and high−efficient operation with 980−nm pumping,”IEEE Photonics Technology Letters,vol.15,No.4(2004)pp.525−527.
【非特許文献8】久保田能徳,「フッ化物ファイバ光増幅器について」,NEW GLASS,vol.19,No.4(2004)pp.78−84.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、従来のFRLGは、レーザの利得媒質として希土類添加石英ファイバを使用していることから、希土類添加濃度が数百ppm以下と低く、リングレーザ共振器長は少なくとも10mを超えるファイバが必要なため小型化は困難である。
【0006】
そこで本発明は、小型かつ高精度なファイバリングレーザを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、希土類を高濃度で添加可能であり、かつ増幅時の雑音指数が低いErとCeを共添加したコアを備えたフッ化物ガラスファイバ(ECDF)をファイバリングレーザの利得媒質として用いることが可能であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0008】
すなわち本発明は、少なくとも一つの閉じたリング状の共振器(リングレーザ共振器)を持つファイバリングレーザの利得媒質として希土類添加ファイバを用いるファイバリングレーザにおいて、該希土類添加ファイバとして少なくともErとCeを共に添加したコアを備えたフッ化物ファイバ(ECDF)を1個以上用い、該ECDFの合計の長さが2m以下であり、リングレーザ共振器長が10m以下であり、波長900nm以上985nm以下の半導体レーザを励起源として用いる事を特徴とする小型ファイバリングレーザである。
【0009】
または、該希土類添加ファイバとして、少なくともErとCeとYbが共に添加されているコアを備えたフッ化物ファイバ(ECDF)を1個以上用いることを特徴とする小型ファイバリングレーザである。
【0010】
さらには、該希土類添加ファイバを少なくとも2個以上備え、且つ該希土類添加ファイバの励起条件を個々に制御可能である事を特徴とする小型ファイバリングレーザであり、ファイバリングレーザのレーザ発振波長で動作する少なくとも1個の可飽和吸収体をリングレーザ共振器内に備える事を特徴とする小型ファイバリングレーザであり、励起波長とレーザ発振波長に対して透明なコアを備えたフッ化物ファイバをリングレーザ共振器内に少なくとも1個以上備える事を特徴とする小型ファイバリングレーザであり、リングレーザ共振器から右回りのレーザ信号と左回りのレーザ信号の取り出し部から、該右回りのレーザ信号と該左回りのレーザ信号とを干渉させて得られるビート信号を検出する受光素子までの間に、少なくとも1個の光アイソレータを挿入することを特徴とする小型ファイバリングレーザである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、利得媒質に希土類添加の石英ファイバを用いる従来のファイバリングレーザに比べ、フッ化物ガラスファイバを用いることから数十倍から百倍の高濃度で希土類を添加可能であるため、利得媒質を短くでき、利得媒質のボビンは圧倒的に薄く、小型にする事が可能となる。さらにYbを共添加することで、Ybの大きな吸収係数を利用でき、利得媒質をさらに短くすることが可能となる。例えば、直径5cmのボビンに巻く場合、希土類添加の石英ファイバでは最低でも10m程度の長さが必要であることから64周以上巻き付ける必要があるが、希土類添加のフッ化物ファイバでは13周以下で済んでしまう。このため、フッ化物ファイバを用いたボビンは圧倒的に薄く、小型に作る事が可能となる。
【0012】
また、短尺にできることから、従来のファイバリングレーザに比べ、共振器の共鳴周波数の間隔が40〜200MHz程度と広くなり、したがって、測定可能帯域幅(ダイナミックレンジ)を広くできる。さらには、波長が900〜985nmの光での励起を可能とし、理論限界に近い低雑音特性を実現できる。雑音指数は、1480nm帯励起の場合の限界である5dBよりも低く、3〜4dBを実現できる。
【0013】
また本発明において、希土類添加ファイバを少なくとも2個以上備え、且つ該希土類添加ファイバの励起条件を個々に制御することにより、ファイバリングレーザの発振状態を自由に制御することができる。例えば、リング共振器の利得部分が1箇所である場合、980nm帯の励起光を対向して導入することは困難であることから、右回りのレーザ信号と左回りのレーザ信号で利得の不均一が生じやすい。この結果、レーザパワーに差が発生し、例えばジャイロに応用したとき、角速度検出のために干渉させた場合に干渉縞のコントラストが劣化し、感度が低下する。2個以上の利得媒質を個別に励起条件を制御することにより、右回りと左回りで対称な光学系を組むことが可能となり、右回りのレーザ信号と左回りのレーザ信号でパワー差のない均質なレーザ発振状態を実現できる。この結果、右回りのレーザ信号と左回りのレーザ信号を干渉させたときの干渉縞のコントラストを最大にすることが可能となり、検出感度を高くすることができる。
【0014】
また本発明において、ファイバリングレーザのレーザ発振波長で動作する少なくとも1個の可飽和吸収体をリングレーザ共振器内に備える事により、ファイバリングレーザの利得と可飽和吸収による損失とのバランスを制御可能となり、リングレーザ共振器内の利得と損失が釣り合う波長だけが周回可能となる。
【0015】
この結果、周回可能となる波長を1580nm以上に調整すると、レーザ発振線幅を狭帯域化できるだけでなく、狭帯域の単一波長での発振が可能となることから、右回りのレーザ信号と左回りのレーザ信号を干渉させた場合に、コントラストのはっきりした干渉縞を得ることができる。
【0016】
または、周回可能となる波長を1560nm付近に調整すると、縦マルチモードで発振し、多数周回による高次縦モードを抑制できる。高次縦モードを抑制することで、縦マルチモードであってもコントラストの高い干渉縞を得ることが可能となる。
【0017】
さらには、周回するレーザ信号パワーに対して飽和吸収パワーを10%程度以下と非常に低く調整した場合、パルス動作となる。このとき、リングレーザ共振器の全分散量をゼロ分散よりもやや正の分散が残る状態に調整すると、非線形光学効果によるパルスの圧縮が起こり、最終的にはモードロック動作となる。モードロック動作しているファイバリングレーザの右回りレーザ信号と左回りレーザ信号の干渉は電気的な検出が容易であり、システムの簡素化と低価格化に有利となる。
【0018】
また可飽和吸収体は、ECDFから放射される増幅された自然放出光(ASE)や、逆方向に進行するレーザ光の散乱光を、可飽和吸収特性によって吸収して弱めることができる。この結果、可飽和吸収体によってASE光を除去されることにより、検出感度が向上し、逆方向に進行するレーザ光の散乱光は可飽和吸収体によって除去されることにより、低角速度でのロックイン現象が抑制され分解能が向上する。
【0019】
また本発明において、励起波長とレーザ発振波長に対して透明なコアを備えたフッ化物ファイバをリングレーザ共振器内に少なくとも1個以上備えることで、リングレーザ共振器中に使用されている石英系ファイバや他の光学部品の温度依存性による光学長の変化を補償し、見かけ上温度依存性のない動作が可能となる。フッ化物ガラスは良く知られているように屈折率の温度依存性が負であり、温度上昇によって屈折率が低下するが、石英系ファイバなど酸化物光学材料のほとんどは、屈折率の温度依存性が正であり、また、通常の材料はほとんどすべて線膨張係数が正であるため、これら屈折率の温度依存性または線膨張係数が正である材料で構成される光学部分は、温度が上昇すると[物理的な長さ]×[屈折率]で表される光学長が増加する。そこで、屈折率の温度依存性が負であるフッ化物ガラスをリングレーザ共振器中に適切な長さのバランスで使用すれば、石英系ファイバやその他の光学部品の光学長変化を補償できる。その結果、光学長が変化することにより生じる周波数変動、パワー変動、低角速度での検出感度変動等を抑制できる。
【0020】
また本発明において、リングレーザ共振器から右回りのレーザ信号と左回りのレーザ信号の取り出し部から、該右回りのレーザ信号と該左回りのレーザ信号とを干渉させて得られるビート信号を検出する受光素子までの間に、少なくとも1個の光アイソレータを挿入することにより、リングレーザ共振器への戻り光を抑制し、ファイバリングレーザの損傷を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態の例を、図1を用いて説明する。
【0022】
例えば、利得媒質として、Erを5000ppm、Ceを50000ppm含有するZBLANファイバ(1)(フッ化物ファイバ1)を利得媒質として用いる。コア径は4μm、クラッド径は125μm、開口数は0.22、ファイバ長は45cmである。フッ化物ファイバ1の両端はフッ化物ファイバ1と同じファイバパラメータの石英ファイバ7と融着接続されている(融着部の表示省略)。フッ化物ファイバ1は波長974nmの励起レーザ(励起用半導体レーザ10)と、石英ファイバ7と合分波素子5を介して接続されている。フッ化物ファイバ1に吸収されなかった残りの励起光は、合分波素子4で励起光が分離され、ビームダンパ12に吸収させて処理する。
【0023】
同様に、Erを10000ppm、Ceを50000ppm含有するZBLANファイバ(2)(フッ化物ファイバ2)を制御可能な可飽和吸収部として用いる。フッ化物ファイバ2のコア径は4μm、クラッド径は125μm、開口数は0.22である。ファイバ長は30cmである。フッ化物ファイバ2の両端はフッ化物ファイバ2と同じファイバパラメータの石英ファイバ7と融着接続されている(融着部の表示省略)。フッ化物ファイバ2は波長974nmの励起レーザ(励起用半導体レーザ9)と、石英ファイバ7と合分波素子6を介して接続されている。励起用半導体レーザファイバ2に吸収されなかった残りの励起光は、合分波素子3で励起光が分離され、ビームダンパ11に吸収させて処理する。
【0024】
このように、利得媒質を2箇所以上に分け、そのうち1箇所を非励起または低励起状態にし、ファイバリングレーザの共振状態とバランスを調整することで可飽和吸収体として動作させることが可能となる。また、Erを単独に添加した石英ファイバに励起源を取り付けてリングレーザ共振器内に挿入しても、飽和吸収量を制御可能な可飽和吸収体として利用することができる。可飽和吸収体として利用する希土類添加ファイバに対して、利得を得てレーザ光を増幅する部分とは独立に励起光源を取り付けることで、広い範囲での飽和吸収量調節が可能となる。ファイバリングレーザの利得と可飽和吸収による損失とのバランスを制御すると、リングレーザ共振器内の利得と損失が釣り合う波長だけが周回可能となる。
【0025】
また、リングレーザ共振器内に利得媒質が1箇所の場合はリングレーザ共振器内の任意の場所に、リングレーザ共振器内に複数箇所の利得媒質がある場合はその中央または利得媒質間に、ファラデー回転子,旋光子,偏波コントローラ,偏波スクランブラなどを挿入することで、特定の偏波状態で利得が低下する偏波ホールバーニングを抑制することができる。利得のホールバーニングが発生すると、右回りレーザ光と左回りレーザ光の近接波長での発振が困難となる。このため、フィルタなどによる発振波長の制限以外に、ファラデー回転子,旋光子,偏波コントローラ,偏波スクランブラなどを共振器中に挿入して、特定偏波状態での発振を回避することが好ましい。旋光子としては透明な波長範囲が広い水晶が好適である。偏波コントローラは、ファイバのねじれを利用するタイプまたは巻き径と巻き数を制御したパドル間の角度を調整するタイプが好ましい。偏波スクランブラには、ファイバ断面内で応力付与部の角度をずらして複数段融着したデバイスが市販されており、リングレーザ共振器と接続しやすいため好ましい。
【0026】
さらには、図1は構成を展開した状態を表記してあるが、実際に使用する時は、主たるリングである石英ファイバ7と、主たる利得部であるフッ化物ファイバ1と、可飽和吸収部であるフッ化物ファイバ2は、なるべく同じ巻き径で重なるように巻き込み、全体がほぼ一様直径のリングとなるように構成されている。このとき、リングレーザ共振器全体のリング長は10mであった。
【0027】
また図1において、共振器内の偏波状態を整えるファイバ型偏波制御器(偏波コントローラ13)と、右回りと左回りの出力を取り出すTAPカプラ8が共振器内に挿入されている。これらの構成部品は、高開口数の石英ファイバ7で一つのリングレーザ共振器として接続されている。石英ファイバ7はコア径4μm、クラッド径125μm、開口数は0.22である。
【0028】
このとき、ファイバリングレーザのTAP率(取り出すパワーの比率)を50%以下にすることで、帰還した残りの光パワーを多数回周回することが可能となり、干渉用ファイバ長を長距離にして高感度化したのと同じ効果を得ることが出来る。ここで、TAP率を下げると実効的周回数が高まるので、感度は向上する方向だが、取り出せるパワーが小さくなるので低雑音な検出方法または共振器内の光パワーの向上が必要となる。一方、TAP率を上げると感度は低下するが、取り出せるパワーが大きくなるので検出は容易になる。例えば図1において、TAPカプラ8のTAP率が10%のものが使用できる。この場合、90%はリング内を周回する。
【0029】
また、図1では、取り出されたレーザ光は、光アイソレータ14,15を通して3dBカプラ17で干渉され、干渉出力がGaAs系のPINフォトダイオード(GaAs受光素子18)に入射されて電気信号に変換される。このTAPカプラ8と、GaAs受光素子18からなる検出部の間に、少なくとも1個の光アイソレータを備えることで、受光素子側の反射の戻り光を抑制し、ファイバリングレーザの動作の安定化と破壊の防止を図ることができる。ファイバリングレーザに限らず、ファイバを利得媒質とする機能部品は、戻り光の影響を非常に受けやすい。特にファイバの端部は、GaAs受光素子18を近づけたり、受光面とファイバ端面の角度が平行になって戻り光がファイバに再入射する危険があり、最悪の場合にはファイバリングレーザが破壊される危険がある。TAPカプラと検出部の間に光アイソレータを挿入することで、このような事故を防止することができる。なお、受光素子としては単一素子からなる単純な受光素子としてPINフォトダイオードやアバランシェフォトダイオードを使用できるだけでなく、多数の素子からなるラインセンサや撮像素子を使用することもできる。
【0030】
また、光アイソレータ15と3dBカプラ17の間にファイバ型偏波制御器(偏波コントローラ16)を設置し、偏波制御する。偏波制御は、取り出される右回りのレーザ信号または左回りのレーザ信号のどちらか一方のレーザ光について行えれば良いので、光アイソレータ14と3dBカプラ17の間にファイバ型偏波制御器(偏波コントローラ16)を設置してもよい。
【0031】
また、励起波長とレーザ発振波長に対して透明なコアを備えたフッ化物ファイバをリングレーザ共振器内に少なくとも1個以上備えることで、リングレーザ共振器中に使用されている石英系ファイバや他の光学部品の温度依存性による光学長の変化を補償し、見かけ上温度依存性のない動作が可能となる。
【0032】
フッ化物ガラスは良く知られているように屈折率の温度依存性が負であり、温度上昇によって屈折率が低下する。一方、石英系ファイバなど酸化物光学材料のほとんどは、屈折率の温度依存性が正である。また、通常の材料はほとんどすべて線膨張係数が正である。この結果、酸化物系光学材料だけで構成される光学部分は、温度が上昇すると[物理的な長さ]×[屈折率]で表される光学長が増加する。温度変化によって光学長が変化すると、縦モード周波数がホップし、周波数変動やパワー変動を引き起こすため、光学長は極力一定に保つ必要がある。フッ化物ガラスは屈折率の温度依存性が負であることから、リングレーザ共振器中に適切な長さのバランスで使用すれば、石英系ファイバやその他の光学部品の光学長変化を補償できる。
【0033】
ここで、フッ化物ガラスの持つ負の dn/dT の値は、他の光学部品に使用される光学材料の正の dn/dT の値と絶対値が同程度であるが、レーザ媒質中では少なくとも励起光波長とレーザ発振波長のエネルギー差が熱に変換され、周囲の温度よりも十度程度高くなることは珍しくない。このため、レーザ媒質としてのフッ化物ガラスは、他の一般的な光学材料の長さと比較して短い場合でも、光学長の補償量を大きくできる。例えば、フッ化物ガラスのdn/dT値は−15×10−6/K程度であり、石英ガラスのそれは11.9×10−6/Kであるため、温度補償のためには同程度の長さが必要と思われるが、フッ化物ガラスがレーザ媒質である場合は温度変動が石英ファイバよりも大きいため、石英ファイバに対して50%以下の長さで補償可能である。補償の最適長は、励起条件やファイバの放熱状態、使用する石英ファイバのGe添加量などで変化するため一概には言えないが、一般的には石英ファイバ長の5〜20%程度が適当である。石英ファイバが純石英コアのファイバの場合は、石英ファイバに対するフッ化物ファイバの長さは1〜15%程度が適当である。
【0034】
しかし、励起部分のECDFの長さ調整は、ファイバリングレーザの出力特性やモード特性を優先するために微調整が難しい。そこで、励起光やレーザ光に対して透明なアン・ドープフッ化物ファイバを適量リングレーザ共振器内に使用することで、ファイバリングレーザの光学特性に影響を与えることなく光学長の温度依存性を補償し、ファイバリングレーザの縦モードホップによるパワー変動や、低角速度での検出感度変動などを抑制できる。
【0035】
アン・ドープフッ化物ファイバの適切な長さは、共振器の構成やECDFの励起状態によって変化するので一概には言えないが、アン・ドープフッ化物ファイバとECDFの合計長さが、リングレーザ共振器中の総石英系ファイバ長の5〜50%程度となる範囲が好ましい。この補償によって共振器長変化は数μm/℃程度まで抑制することが可能となり、温度変化による縦モードホップの抑制が容易になる。
【0036】
本発明のファイバリングレーザには、一般的に取り付けられている偏波制御手段や温度制御手段を取り付けることが出来る。また、モードロック動作を開始するために変調器を挿入する事が出来る。偏波制御手段としては、ファイバリングの組み合わせによる偏波コントローラや、方解石や水晶などの異方性光学結晶の組み合わせによる偏波コントローラが使用できる。温度制御には、ペルチェ素子などを用いた電子冷却や冷媒循環による方法を用いることが出来るが、振動の面からは電子冷却が好ましい。変調器としては、ファイバリングに振動を与える振動型の変調器や電気光学効果を示す結晶を用いた光導波路デバイスを使用することが出来る。中でもLiNbO(LN)のマイクロ波結合型の変調器は変調周波数が高く、センサとして利用する帯域外で動作するため、特に好ましい。
【0037】
また、図1に示される構成例を、熱伝導性が良好な鉄合金の筐体に収容し、筐体内には銅製のヒートチャンネルを設けて励起レーザを集中的に冷却すると共に、筐体全体の温度が一様に安定するように筐体はペルチェ素子を接触させてフィードバック制御させることが好ましい。さらには、該筐体の外部を熱の侵入を防止するために高性能の断熱材で密閉することが好ましい。この場合、該筐体内の温度変動は、外気温変動が5℃/hr程度の時に、±0.01℃/hr以下に抑制可能となる。
さらに、低角速度での回転を検出するために、ファイバ系全体を振動させて見かけ上の角速度を底上げするディサリング(dithering)と呼ばれる技術を使うことができる。ディサリングには一般的に圧電素子による周期的な振動が用いられており、可聴域以上の周波数の振動を、ファイバを固定している筐体部分やボビン部分に加えることで、低角速度での周波数引き込みによる不感帯(ロッキング)の発生を防止できる。また、振動子の発熱を効果的に除去するため、銅などの熱伝導性の良い冷却材料内に振動子を配置して振動子を冷却できる冷却機構を備えることが好ましい。この冷却機構には、ペルチェ効果を利用した電子冷却を利用することが雑音となる振動を防止する観点から特に好ましい。
以下に実施例を示す。
【実施例1】
【0038】
実験に使用したファイバリングレーザ部を、図2を用いて説明する。この配置の特徴は、ほとんどの部品が左右対称に配置され、右回り(CW)と左回り(CCW)のレーザ特性に差が生じないように配慮されている点である。特に利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)と可飽和吸収体(フッ化物ファイバ23a、フッ化物ファイバ23b)および、これらの励起源(励起用半導体レーザ22a、励起用半導体レーザ22b、励起用半導体レーザ25a、励起用半導体レーザ25b)は、完全に左右対称となっている。また、周回するファイバリングレーザの偏波ホールバーニングを防止するため、水晶製の旋光子(水晶旋光子27)が共振器中に挿入され、レーザ光がリングを1周するごとに90度偏波回転させる。この結果、CW光とCCW光のパワー比が1:1に近づき、パワー安定性も高まる。
【0039】
利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)は互いに同一の組成、ファイバパラメータ、ファイバ長を持つフッ化物ファイバである。そのコア組成は53ZrF−18.5BaF−3AlF−18.5NaF−5CeF−1.5LaF−0.5ErF(各成分の前の数字はmol%)で表されるErとCeを共添加したフッ化物ガラスである。また、そのクラッド組成は10ZrF−40HfF−19BaF−3LaF−4AlF−2YF―22NaF(各成分の前の数字はmol%)で表されるフッ化物ガラスである。フッ化物ファイバ20a、20bのNAは0.22、カットオフ波長は1.1μm、ファイバ長は60cmである。これらファイバの両端は、リングレーザ共振器の主な構成要素である石英ファイバ34に融着接続されている。石英ファイバ34は、利得媒質(フッ化物ファイバ20a,フッ化物ファイバ20b)と同じファイバパラメータを持ち、利得媒質(フッ化物ファイバ20a,フッ化物ファイバ20b)と融着接続されている。
【0040】
可飽和吸収媒質(フッ化物ファイバ23a、フッ化物ファイバ23b)は互いに同一の組成、ファイバパラメータ、ファイバ長を持つフッ化物ファイバである。そのコア組成は53ZrF−18.5BaF−3AlF−18.5NaF−5CeF−1LaF−1ErF(各成分の前の数字はmol%)で表されるErとCeを共添加したフッ化物ガラスである。また、そのクラッド組成は10ZrF−40HfF−19BaF−3LaF−4AlF−2YF―22NaF(各成分の前の数字はmol%)で表されるフッ化物ガラスである。フッ化物ファイバ23a、23bのNAは0.22、カットオフ波長は1.1μm、ファイバ長は10cmである。これらファイバの両端は、リングレーザ共振器の主な構成要素である石英ファイバ34に融着接続されている。石英ファイバ34は、可飽和吸収媒質(フッ化物ファイバ23a,フッ化物ファイバ23b)と同じファイバパラメータを持ち、可飽和吸収媒質(フッ化物ファイバ23a,フッ化物ファイバ23b)と融着接続されている。
【0041】
励起光波長帯である900〜985nm帯と信号光波長帯である1560〜1600nm帯の合分波素子が4個(合分波素子21a、合分波素子21b、合分波素子24a、合分波素子24b)、リングレーザ共振器内の石英ファイバ34に挿入されており、各々励起レーザの導入に用いられている。また、2つの利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)の間には対向する励起レーザの余剰の励起レーザ光を除去するために、波長1560nm〜1600nmの光を透過し、波長900nm〜985nmの余剰の励起光をリングレーザ共振器外に除去する合分波素子26が挿入されている。
【0042】
励起レーザは2種類、各2台の計4台を使用している。利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)の励起には、波長974nm、出力140mWで波長安定化のためにファイバ・ブラッグ・グレーティング(FBG)を備えたファイバピグテール付き半導体レーザ(励起用半導体レーザ22a、励起用半導体レーザ22b)を使用した。また、可飽和吸収体の吸収量制御に、波長980nm、出力80mWで波長安定化のためにFBGを備えたファイバピグテール付き半導体レーザ(励起用半導体レーザ25a、励起用半導体レーザ25b)を使用した。
【0043】
リングレーザ共振器内の偏波状態を整える目的で、ファイバ型偏波コントローラ(偏波コントローラ29)をリングレーザ共振器内に設置した。
【0044】
リングレーザ共振器からCW光とCCW光を取り出すために、リング内の光パワーの1%を取り出せるTAPカプラ28を設置した。TAPカプラ28から取り出されたCW光またはCCW光の干渉縞コントラストを最大にするために、偏光状態を制御するファイバ型偏波コントローラ(偏波コントローラ30)を設置した。CW光とCCW光を3dBカプラ31で干渉させ、光アイソレータ32を通過後、GaAs受光素子33で干渉後の光強度変調信号を受光した。
【0045】
リングレーザ共振器の直径は10cm、リングレーザ共振器長は9.4m、フッ化物ファイバの合計長さは1.4mである。放熱フィンを除く筐体寸法は縦20cm×横40cm×厚み5cmである。
【0046】
図3に、図2のファイバリングレーザ部と電気配線をリングレーザ筐体40に収容したときの概略を示す。熱膨張係数が小さく、比較的熱伝導性がよいコバール合金の筐体(リングレーザ筐体40)の周囲をペルチェ素子43で取り囲み、廃熱は放熱フィン44から放射することで、筐体内温度を均一に保つことができる。内部設定温度が25℃の時、周囲温度が40℃以上の場合は強制空冷が必要であった。風速2m/秒の強制空冷によって、60℃まで内部温度を25℃一定に制御可能であった。また、内部設定温度が25℃の時、周囲温度が−5℃以下の場合は制御が困難であった。ペルチェ素子43と励起レーザ4台への電源供給、偏波コントローラへの制御信号供給、受光した干渉信号の取り出しなどのために、筐体にはコネクタ(電気コネクタ41)が取り付けてある。
【0047】
角速度検出のためのセットアップを図4に示す。図3に示すようにファイバリングレーザが収容された筐体50と、リングレーザ制御用ボード52と干渉信号を検出するオシロスコープ51をターンテーブル53に設置、固定し、回転制御コンピュータ(ターンテーブル制御コンピュータ54)で回転角速度を制御しながら干渉信号を測定した。
【0048】
温度制御設定=25℃、利得媒質励起条件=60mW、可飽和吸収体励起条件=15mWで測定した角速度と干渉周波数の関係を図5に示す。十分な干渉コントラストが得られた。角速度110°/h、ビート周波数1kHzまでロッキングは観測されなかった。
【実施例2】
【0049】
実験に使用した構成は、実施例1と同様の構成であるが、利得媒質と可飽和吸収媒質の組成やファイバ長および、石英ファイバとフッ化物ファイバの長さ比が異なる。本実施例の目的は、室温付近でのアサーマル化である。
【0050】
ファイバリングレーザ部は図2に示したとおりであり、部品類の構成は実施例1と同じである。利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)は互いに同一の組成、ファイバパラメータ、ファイバ長を持つフッ化物ファイバである。そのコア組成は53ZrF−18.5BaF−3AlF−18.5NaF−5CeF−0.8LaF−0.2YbF−1ErF(各成分の前の数字はmol%)で表されるErとCeとYbを共添加したフッ化物ガラスである。また、そのクラッド組成は10ZrF−40HfF−19BaF−3LaF−4AlF−2YF―22NaF(各成分の前の数字はmol%)で表されるフッ化物ガラスである。フッ化物ファイバ20a、20bのNAは0.22、カットオフ波長は1.1μm、ファイバ長は12cmである。これらファイバの両端は、リングレーザ共振器の主な構成要素である石英ファイバ34に融着接続されている。石英ファイバ34は、利得媒質(フッ化物ファイバ20a,フッ化物ファイバ20b)と同じファイバパラメータを持ち、利得媒質(フッ化物ファイバ20a,フッ化物ファイバ20b)と融着接続されている。
【0051】
可飽和吸収媒質(フッ化物ファイバ23a、フッ化物ファイバ23b)は互いに同一の組成、ファイバパラメータ、ファイバ長を持つフッ化物ファイバである。そのコア組成は53ZrF−18.5BaF−3AlF−18.5NaF−5CeF−1.5LaF−0.5ErF(各成分の前の数字はmol%)で表されるErとCeを共添加したフッ化物ガラスである。また、そのクラッド組成は10ZrF−40HfF−19BaF−3LaF−4AlF−2YF―22NaF(各成分の前の数字はmol%)で表されるフッ化物ガラスである。フッ化物ファイバ23a、23bのNAは0.22、カットオフ波長は1.1μm、ファイバ長は30cmである。これらファイバの両端は、リングレーザ共振器の主な構成要素である石英ファイバ34に融着接続されている。石英ファイバ34は、可飽和吸収媒質(フッ化物ファイバ23a,フッ化物ファイバ23b)と同じファイバパラメータを持ち、可飽和吸収媒質(フッ化物ファイバ23a,フッ化物ファイバ23b)と融着接続されている。
【0052】
励起光波長帯である900〜985nm帯と信号光波長帯である1560〜1600nm帯の合分波素子が4個(合分波素子21a、合分波素子21b、合分波素子24a、合分波素子24b)、リングレーザ共振器内の石英ファイバ34に挿入されており、各々励起レーザの導入に用いられている。また、2つの利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)の間には対向する励起レーザの余剰の励起レーザ光を除去するために、波長1560nm〜1600nmの光を透過し、波長900nm〜985nmの余剰の励起光をリングレーザ共振器外に除去する合分波素子26が挿入されている。
【0053】
励起レーザは2種類、各2台の計4台を使用している。利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)の励起には、波長974nm、出力140mWで波長安定化のためにFBGを備えたファイバピグテール付き半導体レーザ(励起用半導体レーザ22a、励起用半導体レーザ22b)を使用した。また、可飽和吸収体の吸収量制御に、波長980nm、出力80mWで波長安定化のためにFBGを備えたファイバピグテール付き半導体レーザ(励起用半導体レーザ25a、励起用半導体レーザ25b)を使用した。
【0054】
リングレーザ共振器内の偏波状態を整える目的で、ファイバ型偏波コントローラ(偏波コントローラ29)をリングレーザ共振器内に設置した。
【0055】
リングレーザ共振器からCW光とCCW光を取り出すために、リング内の光パワーの1%を取り出せるTAPカプラ28を設置した。TAPカプラ28から取り出されたCW光またはCCW光の干渉縞コントラストを最大にするために、偏光状態を制御するファイバ型偏波コントローラ(偏波コントローラ30)を設置した。CW光とCCW光を3dBカプラ31で干渉させ、光アイソレータ32を通過後、GaAs受光素子33で干渉後の光強度変調信号を受光した。
【0056】
リングレーザ共振器の直径は4cm、リングレーザ共振器長は4.5m、フッ化物ファイバの合計長さは85cmである。放熱フィンを除く筐体寸法は縦15cm×横30cm×厚み5cmである。
【0057】
図6に、図2のファイバリングレーザ部と電気配線をリングレーザ筐体55に収容したときの概略を示す。熱膨張係数が小さく、比較的熱伝導性がよいコバール合金の筐体(リングレーザ筐体55)の周囲を断熱材57で取り囲み、廃熱を励起LD付近の部分的な放熱フィン58から放射することで、筐体内温度変化を抑制した。外部温度を10℃から40℃まで変化させた時の内部温度変化は18℃から45℃であった。ペルチェ素子と励起レーザ4台への電源供給、偏波コントローラへの制御信号供給、受光した干渉信号の取り出しなどのために、筐体にはコネクタ(電気コネクタ56)が取り付けてある。
【0058】
角速度検出のためのセットアップを図4に示す。図6に示すようにファイバリングレーザが収容された筐体50と、リングレーザ制御用ボード52と干渉信号を検出するオシロスコープ51をターンテーブル53に設置、固定し、回転制御コンピュータ(ターンテーブル制御コンピュータ54)で回転角速度を制御しながら干渉信号を測定した。
【0059】
周囲温度=25℃、利得媒質励起条件=80mW、可飽和吸収体励起条件=30mWで測定した角速度と干渉周波数の関係を図7に示す。十分な干渉コントラストが得られ、角速度230°/h、ビート周波数1kHzまでロッキングは観測されなかった。
【0060】
次に、角速度2300°/hに設定し、周囲温度を10℃から40℃まで変化させながら検出された干渉信号強度の温度依存性を測定した。結果を図8に示す。15℃と35℃付近に縦モードホップと思われる信号強度変化が認められるが、それ以外はビート出力が安定しており、15℃から35℃まで25℃の温度変化に対して安定であることが実証できた。
【実施例3】
【0061】
実験に使用した構成は、実施例2と同様の構成であるが、利得媒質と可飽和吸収媒質の組成やファイバ長、励起レーザ波長とファイバリングレーザ波長に対して透明なフッ化物ファイバ(UDFF)の有無、および石英ファイバとフッ化物ファイバの長さ比が異なる。本実施例の目的は、室温付近でのアサーマル化および検出感度の向上である。
【0062】
ファイバリングレーザ部は図9に示したとおりであり、部品類の構成はUDFF(フッ化物ファイバ60a,フッ化物ファイバ60b)が挿入されている以外は実施例2と同じである。利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)は互いに同一の組成、ファイバパラメータ、ファイバ長を持つフッ化物ファイバである。そのコア組成は53ZrF−18.5BaF−3AlF−18.5NaF−5CeF−1.5LaF−0.5ErF(各成分の前の数字はmol%)で表されるErとCeを共添加したフッ化物ガラスである。また、そのクラッド組成は10ZrF−40HfF−19BaF−3LaF−4AlF−2YF―22NaF(各成分の前の数字はmol%)で表されるフッ化物ガラスである。フッ化物ファイバ20a、20bのNAは0.22、カットオフ波長は1.1μm、ファイバ長は30cmである。これらファイバの両端は、リングレーザ共振器の主な構成要素である石英ファイバ34に融着接続されている。石英ファイバ34は、利得媒質(フッ化物ファイバ20a,フッ化物ファイバ20b)と同じファイバパラメータを持ち、利得媒質(フッ化物ファイバ20a,フッ化物ファイバ20b)と融着接続されている。
【0063】
可飽和吸収媒質(フッ化物ファイバ23a、フッ化物ファイバ23b)は互いに同一の組成、ファイバパラメータ、ファイバ長を持つフッ化物ファイバである。そのコア組成は53ZrF−18.5BaF−3AlF−18.5NaF−5CeF−1.75LaF−0.25ErF(各成分の前の数字はmol%)で表されるErとCeを共添加したフッ化物ガラスである。また、そのクラッド組成は10ZrF−40HfF−19BaF−3LaF−4AlF−2YF―22NaF(各成分の前の数字はmol%)で表されるフッ化物ガラスである。フッ化物ファイバ23a、23bのNAは0.22、カットオフ波長は1.1μm、ファイバ長は20cmである。これらファイバの両端は、リングレーザ共振器の主な構成要素である石英ファイバ34に融着接続されている。石英ファイバ34は、可飽和吸収媒質(フッ化物ファイバ23a,フッ化物ファイバ23b)と同じファイバパラメータを持ち、可飽和吸収媒質(フッ化物ファイバ23a,フッ化物ファイバ23b)と融着接続されている。
【0064】
利得媒質と可飽和吸収媒質の合計長さは1mである。石英ファイバを含むリングレーザ共振器長は最短で5m程度なので、室温付近で共振器長を温度補償するために、UDFFを50cmずつ(フッ化物ファイバ60a,フッ化物ファイバ60b)、共振器内に左右対称に設置した。UDFF(フッ化物ファイバ60a、フッ化物ファイバ60b)は互いに同一の組成、ファイバパラメータ、ファイバ長を持つフッ化物ファイバである。そのコア組成は53ZrF−18.5BaF−3AlF−18.5NaF−5LaF−2YF(各成分の前の数字はmol%)で表されるフッ化物ガラスである。また、そのクラッド組成は10ZrF−40HfF−19BaF−3LaF−4AlF−2YF―22NaF(各成分の前の数字はmol%)で表されるフッ化物ガラスである。フッ化物ファイバ60a、60bのNAは0.22、カットオフ波長は1.1μm、ファイバ長は50cmである。これらファイバの両端は、リングレーザ共振器の主な構成要素である石英ファイバ34に融着接続されている。石英ファイバ34は、UDFF(フッ化物ファイバ60a,フッ化物ファイバ60b)と同じファイバパラメータを持ち、UDFF(フッ化物ファイバ60a,フッ化物ファイバ60b)と融着接続されている。
【0065】
励起光波長帯である900〜985nm帯と信号光波長帯である1560〜1600nm帯の合分波素子が4個(合分波素子21a、合分波素子21b、合分波素子24a、合分波素子24b)、リングレーザ共振器内の石英ファイバ34に挿入されており、各々励起レーザの導入に用いられている。また、2つの利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)の間には対向する励起レーザの余剰の励起レーザ光を除去するために、波長1560nm〜1600nmの光を透過し、波長900nm〜985nmの余剰の励起光をリングレーザ共振器外に除去する合分波素子26が挿入されている。
【0066】
励起レーザは2種類、各2台の計4台を使用している。利得媒質(フッ化物ファイバ20a、フッ化物ファイバ20b)の励起には、波長974nm、出力140mWで波長安定化のためにFBGを備えたファイバピグテール付き半導体レーザ(励起用半導体レーザ22a、励起用半導体レーザ22b)を使用した。また、可飽和吸収体の吸収量制御に、波長980nm、出力80mWで波長安定化のためにFBGを備えたファイバピグテール付き半導体レーザ(励起用半導体レーザ25a、励起用半導体レーザ25b)を使用した。
【0067】
リングレーザ共振器内の偏波状態を整える目的で、ファイバ型偏波コントローラ(偏波コントローラ29)をリングレーザ共振器内に設置した。
【0068】
リングレーザ共振器からCW光とCCW光を取り出すために、リング内の光パワーの0.1%を取り出せるTAPカプラ28を設置した。TAPカプラ28から取り出されたCW光またはCCW光の干渉縞コントラストを最大にするために、偏光状態を制御するファイバ型偏波コントローラ(偏波コントローラ30)を設置した。CW光とCCW光を3dBカプラ31で干渉させ、光アイソレータ32を通過後、高感度低雑音なGaAs受光素子33で干渉後の光強度変調信号を受光した。
【0069】
リングレーザ共振器の直径は6cm、リングレーザ共振器長は6m、フッ化物ファイバの合計長さは2mである。コバール製の筐体寸法は縦15cm×横30cm×厚み5cmであり、断熱材や放熱フィンはない。外部温度を10℃から40℃まで変化させた時の内部温度変化は12℃から45℃であった。励起レーザ4台への電源供給、偏波コントローラへの制御信号供給、受光した干渉信号の取り出しなどのために、筐体にはコネクタが取り付けてある。
【0070】
角速度検出のためのセットアップを図10に示す。図9に示すようにファイバリングレーザが収容された筐体50と、ファイバリングレーザおよびディサリング装置の制御用ボード66と干渉信号を検出するオシロスコープ51をターンテーブル53に設置、固定し、回転制御コンピュータ(ターンテーブル制御コンピュータ54)で回転角速度を制御しながら干渉信号を測定した。また、リングレーザモジュール(ファイバリングレーザが収容された筐体50)はロックイン現象を回避するため、ディサリング装置65に搭載されている。ディサリング装置65は圧電素子で駆動され、回転周期20〜100kHzの間を緩やかに周波数変調しながらリングレーザモジュールを左右に揺動回転させている。ディサリング装置65はターンテーブル53と強固に連結されている。なお、ディサリング装置65はカウンターウェートを搭載しており、ディサリングの振動がターンテーブル53の回転角速度や検出する干渉信号の雑音にならないように配慮されている。
【0071】
周囲温度=25℃、利得媒質励起条件=100mW、可飽和吸収体励起条件=5mWで測定した角速度と干渉ビート周波数の関係を図11に示す。なお、干渉ビート信号からはディサリング装置の周波数由来の信号成分を除去してある。結果、十分な干渉コントラストが得られ、角速度1.7°/h、ビート周波数10Hzまでロッキングは観測されなかった。
【0072】
次に、角速度17°/hに設定し、周囲温度を10℃から40℃まで変化させながら温度依存性を測定した。結果を図12に示す。20℃と35℃付近に縦モードホップと思われる信号強度変化が認められるが、それ以外はビート出力が安定しており、20℃から35℃まで15℃の温度変化に対して、放熱や温度安定性を考慮しない筐体でも安定に動作可能であることを実証できた。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態の例を示す図である
【図2】実施例1、2のファイバリングレーザ部の構成を示す図である
【図3】実施例1のファイバリングレーザ部を収容する筐体を示す図である
【図4】実施例1、2の角速度検出のためのセットアップを示す図である
【図5】実施例1の角速度と干渉周波数の関係の測定結果を示す図である。
【図6】実施例2のファイバリングレーザ部を収容する筐体を示す図である
【図7】実施例2の角速度と干渉周波数の関係の測定結果を示す図である。
【図8】実施例2の干渉信号強度の温度依存性の測定結果を示す図である。
【図9】実施例3のファイバリングレーザ部の構成を示す図である
【図10】実施例3の角速度検出のためのセットアップを示す図である
【図11】実施例3の角速度と干渉周波数の関係の測定結果を示す図である。
【図12】実施例3の干渉信号強度の温度依存性の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 フッ化物ファイバ
2 フッ化物ファイバ
3,4,5,6 合分波素子
7,34 石英ファイバ
8 TAPカプラ
9,10 励起用半導体レーザ
11,12 ビームダンパ
13,16 偏波コントローラ
14,15 光アイソレータ
17 3dBカプラ
18 GaAs受光素子
20a,20b フッ化物ファイバ
21a,21b,24a,24b,26 合分波素子
23a,23b フッ化物ファイバ
22a,22b,25a,25b 励起用半導体レーザ
27 水晶旋光子
28 TAPカプラ
29,30 偏波コントローラ
31 3dBカプラ
32 光アイソレータ
33 GaAs受光素子
40 リングレーザ筐体
41 電気コネクタ
43 ペルチェ素子
44 放熱フィン
50 ファイバリングレーザが収容された筐体
51 オシロスコープ
52 リングレーザ制御用ボード
53 ターンテーブル
54 ターンテーブル制御コンピュータ
55 リングレーザ筐体
56 電気コネクタ
57 断熱材
58 放熱フィン
60a,60b フッ化物ファイバ(UDFF)
65 ディサリング装置
66 ファイバリングレーザおよびディサリング装置の制御用ボード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの閉じたリング状の共振器(リングレーザ共振器)を持つファイバリングレーザの利得媒質として希土類添加ファイバを用いるファイバリングレーザにおいて、該希土類添加ファイバとして少なくともErとCeを共に添加したコアを備えたフッ化物ファイバ(ECDF)を1個以上用い、該ECDFの合計の長さが2m以下であり、リングレーザ共振器長が10m以下であり、波長900nm以上985nm以下の半導体レーザを励起源として用いる事を特徴とする、小型ファイバリングレーザ。
【請求項2】
該希土類添加ファイバとして、少なくともErとCeとYbが共に添加されているコアを備えたフッ化物ファイバ(ECDF)を1個以上用いることを特徴とする、請求項1記載の小型ファイバリングレーザ。
【請求項3】
該希土類添加ファイバを少なくとも2個以上備え、且つ該希土類添加ファイバの励起条件を個々に制御可能である事を特徴とする、請求項1または請求項2記載の小型ファイバリングレーザ。
【請求項4】
ファイバリングレーザのレーザ発振波長で動作する少なくとも1個の可飽和吸収体をリングレーザ共振器内に備える事を特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか記載の小型ファイバリングレーザ。
【請求項5】
励起波長とレーザ発振波長に対して透明なコアを備えたフッ化物ファイバをリングレーザ共振器内に少なくとも1個以上備える事を特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか記載の小型ファイバリングレーザ。
【請求項6】
リングレーザ共振器から右回りのレーザ信号と左回りのレーザ信号の取り出し部から、該右回りのレーザ信号と該左回りのレーザ信号とを干渉させて得られるビート信号を検出する受光素子までの間に、少なくとも1個の光アイソレータを挿入することを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の小型ファイバリングレーザ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−40731(P2010−40731A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201442(P2008−201442)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】