小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物
【課題】低騒音性の優れた環境に優しい小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物を提供する。
【解決手段】増ちょう剤5〜20質量%と基油95〜80質量%からなるグリース組成物であり、増ちょう剤として炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんと、炭素数10〜20の高級脂肪酸および/または一個以上の水酸基を有する炭素数10以上の高級ヒドロキシ脂肪酸のリチウム石けんを用い、基油として下記式で示される8個以上の炭素原子で構成される油の鎖状分子の一側にエステル基を8個以上櫛歯状に配置したポリマーエステル油
(式中、R1、R2、R3、R4はいずれもアルキル基であり、x≧2の整数、y≧2の整数である。)を主成分として含み、かつ、基油粘度(40℃)が30〜100mm2/sであることを特徴とする小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【解決手段】増ちょう剤5〜20質量%と基油95〜80質量%からなるグリース組成物であり、増ちょう剤として炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんと、炭素数10〜20の高級脂肪酸および/または一個以上の水酸基を有する炭素数10以上の高級ヒドロキシ脂肪酸のリチウム石けんを用い、基油として下記式で示される8個以上の炭素原子で構成される油の鎖状分子の一側にエステル基を8個以上櫛歯状に配置したポリマーエステル油
(式中、R1、R2、R3、R4はいずれもアルキル基であり、x≧2の整数、y≧2の整数である。)を主成分として含み、かつ、基油粘度(40℃)が30〜100mm2/sであることを特徴とする小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のグリース組成物は、ブロアーファン等の映像機器用モータ、エアコン等の家電機器用モータ軸受等に用いるグリースに関し、より詳しくは小型モータの軸受に封入し、耐熱性を有し、モータの回転音を低減する低騒音グリースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、8個以上の炭素原子で構成される油の鎖状分子の一側にエステル基を8個以上櫛歯状に配置したエステル系合成油(以下、ポリマーエステル油と云う。)を用いたグリース組成物としては、合成炭化水素油とエステル系合成油とを0.65〜0.75:0.35〜0.25の重量比で配合した基油に、ウレア系増稠剤を添加してなる軸受封入用グリースが知られている。(特許文献1)
しかし、このグリースは、急激に回転速度が変化する自動車のエンジン近傍に取付けられるベルト駆動プーリを支持する玉軸受に封入され、寒冷地で使用すると、笛吹き音に似た特異な音が発生する問題点を解決するために用いられている。
また、同様の軸受に封入するグリースとして、合成炭化水素油とエステル系合成油とを0.65〜0.75:0.35〜0.25の重量比で配合した基油に、ウレア系増稠剤を添加してなる軸受封入用グリース組成物も知られている(特許文献2)。
【0003】
さらにまた、電子計算機半導体製造装置などに用いる軸受に封入されるグリース組成物において、低騒音、低振動が重視される場合は、リチウム石けんを増ちょう剤とし、エステル油を基油とするグリースに代表される低騒音、低トルクグリースが使用されている。しかし、このリチウム石けん−エステル系グリースは、飛散し易く、そのまま使用した場合は記録媒体を汚損するおそれが大きいという問題点があった(特許文献3)。
しかし、いずれの文献にも、ポリマーエステル油を基油の主成分とする小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型グリース組成物に関する開示はなされていない。
【特許文献1】特許第3514574号
【特許文献2】特開平6−306383号
【特許文献3】特許第3324628号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ブロアーファン等の映像機器用モータ、エアコン等の家電機器用モータ軸受等に用いる小型モーターの軸受に封入し、モータの回転音を低減する低騒音グリースを開発すべく鋭意研究した結果、ポリマーエステル油を基油の主成分とし、軸受基材との親和性を高めるとともに、リチウム石けんを増ちょう剤とし、低騒音性の優れた小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物を見出すに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、増ちょう剤5〜20質量%と基油95〜80質量%からなるグリース組成物であり、
増ちょう剤として炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんと、炭素数10〜20の高級脂肪酸および/または一個以上の水酸基を有する炭素数10以上の高級ヒドロキシ脂肪酸のリチウム石けんを用い、基油として下記一般式1で示される8個以上の炭素原子で構成される油の鎖状分子の一側にエステル基を8個以上櫛歯状に配置したポリマーエステル油(イ)
【化2】
(式中、R1、R2、R3、R4はいずれもアルキル基であり、x≧2の整数、y≧2の整数である。)
を主成分として含み、かつ、基油粘度(40℃)が30〜100mm2/sであることを特徴とする小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物である。
また、本発明は、基油として、ポリマーエステル油(イ)以外にエステル系合成油(ロ)、合成炭化水素油(ハ)エーテル系合成油(二)および鉱物油(ホ)の1種以上を含む小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物とすることができる。
さらに、本発明は、ポリマーエステル油(イ)がグリース組成物全体の20〜50質量%、合成炭化水素油(ハ)がグリース組成物全体の10〜40質量%、鉱物油(ホ)がグリース組成物全体の10〜40質量%である小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物とすることができる。
また、本発明は、ポリマーエステル油(イ)がグリース組成物全体の20〜50質量%、エステル系合成油(ロ)がグリース組成物全体の10〜40質量%、合成炭化水素油(ハ)がグリース組成物全体の10〜40質量%である小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物とすることができる。
さらにまた、本発明は、ポリマーエステル油(イ)がグリース組成物全体の20〜50質量%、エステル系合成油(ロ)がグリース組成物全体の10〜30質量%、合成炭化水素油(ハ)がグリース組成物全体の2〜10質量%、エーテル系合成油(二)がグリース組成物全体の10〜30質量%である小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物とすることができる。
また、本発明は、増ちょう剤として、炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんがグリース組成物全体の0.1〜10.0質量%、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム石けんがグリース組成物全体の1.5〜10.5質量%、炭素数10〜20の直鎖脂肪酸リチウム石けんがグリース組成物全体の0.5〜5.0質量%を用いる小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物とすることができる。
さらに、本発明は、必要に応じて、耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物に添加剤として、酸化防止剤、防錆剤等を添加することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物は、ポリマーエステル油を基油にしているため、エステル基が櫛歯状に配置され、全てのエステル基が金属表面への吸着に関与していると見られ、他のエステル系合成油に比べて金属表面へ均一な油膜を速やかに形成し、また、増ちょう剤として炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんを併用しているため、高温での油膜を保持することができ、軸受の長寿命化に寄与する。さらにまた、ポリマーエステル油は添加剤の基油に対する分散性および溶解性を向上させることができて低騒音性も維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いる炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんは、水酸化リチウムと、炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸を反応させることにより得られる。炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸は、単独でも混合物でも良い。とくに、炭素数28のモンタン酸を主成分とする炭素数26〜32の長鎖脂肪酸混合物が好適に用いられる。
また、炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんと共に本発明で用いるリチウム石けんは、水酸化リチウムと、炭素数10〜20の高級脂肪酸および/または一個以上の水酸基を有する炭素数10以上の高級ヒドロキシ脂肪酸とから合成されたリチウム石けんが用いられる。
本発明においては、リチウム石けんが、グリース組成物全体の5質量%以下であると、グリースが柔らかすぎ、リチウム石けんが、グリース組成物全体の20質量%以上になると、グリースが硬くなりすぎる。
【0008】
本発明で用いるポリマーエステル油(イ)は、一般式
【化3】
(式中、R1、R2、R3、R4はいずれもアルキル基であり、x≧2の整数、y≧2の整数である。)で表されるポリマーエステルであれば、何でも良いが、分子量1000〜3000であり、粘度(40℃)が100〜1000mm2/sであるものが好ましい。
【0009】
本発明で用いるエステル系合成油(ロ)は、次の一般式(a)、(b)、(c)で示される。
すなわち、一般式(a)、
RCOOH(CH2)n COOR’
-----(a)
(R、R’は炭素数3〜18のアルキル基であり、同一であっても異なっていても良い。nは3〜12を示す)で表わされるジエステル系合成油、一般式(b)
R(CH2COO R’)3 -----(b)
(R、R’は炭素数3〜10のアルキル基を示す)で表わされるトリエステル系合成油、一般式(c)
R(CH2COO R’)4-----(c)
(R、R’は炭素数3〜10のアルキル基を示す)で表わされるテトラエステル系合成油および他のネオペンチルポリオールエステル系合成油が用いられる。
【0010】
本発明で用いる合成炭化水素油(ハ)としては、ポリα−オレフィン油、ポリブテン、オレフィンコポリマーであって、粘度(40℃)が20〜100mm2 /sであり、かつ安全に使用するためには、引火点220℃以上のものを採用することが好ましい。
これらは、α−オレフィンを低重合してオリゴマーとし、その末端二重結合に水素を添加した構造であり、代表的には下記の式
【化4】
(式中、Rはアルキル基、n=1〜6の整数を表わす。)
で示すことができる。
ポリブテンもポリα−オレフィンの一種であり、このものはイソブチレンを主体とする出発原料から塩化アルミニウムを触媒として重合して製造できる。ポリブテンは、そのまま用いても水素添加して用いてもよい。
【0011】
本発明で用いるエーテル系合成油(二)は、アルキルジフェニールエーテルを用いることができ、ジアルキルジフェニールエーテル、モノアルキルジフェニールエーテル及びこれらの混合物等を挙げることができる。
本発明で用いる鉱物油(ホ)は、パラフィン系鉱油であり、粘度(40℃)が90〜150mm2 /sである。
本発明のグリース組成物は、通常グリースに用いられる各種の添加剤を含有することも可能である。添加剤としては通常グリース組成物に用いられている添加剤、すなわちフェニルα(β)ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミン、フェノチアジン、t−ブチルフェノール等の酸化防止剤、金属スルホネート、非イオン系、アミン系等の防錆剤等が挙げられる。
次に、実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0012】
(実施例1〜10)
増ちょう剤として、水酸化リチウムと、炭素数28のモンタン酸を主成分とする炭素数26〜32の長鎖脂肪酸混合物、ステアリン酸および12ヒドロキシステアリン酸とから合成されたリチウム石けんを用いた。
基油として、粘度(40℃)が約800mm2/s(実施例1〜6)又は約140(実施例7〜10)mm2/sであるポリマーエステル油を用いた。エステル系合成油としては、テトラエステル油(ペンタエリスリトールエステル)を用いた。
合成炭化水素油として、ポリα−オレフィン油を用いた。
エーテル系合成油として、アルキルジフェニールエーテル油を用いた。
また、酸化防止剤としてアルキルジフェニルアミン、防錆剤としてカルシウムスルホネートを用いた。
表1に示す割合で混合し、全体が液体になるまで撹拌しながら220℃〜230℃に加熱した。これをステンレス容器に厚さ3〜5mmになるように流し込み、50℃以下に冷却後、三本ロールで均質化することによりグリース組成物を得た。表1にグリース組成物の成分割合と試験結果を示す。
【0013】
【表1】
【0014】
(比較例1〜6)
実施例と同様にして、各成分を配合し比較グリース組成物1〜4を作成した。
また、基油と増ちょう剤が知られている二種の市販グリースについて、比較例5、6として表2に示した。表2において、++の記号は配合されている成分を示す。
表2に配合例と試験結果を示す。
【0015】
【表2】
基油粘度(40℃)は、JIS K2283を、混和ちょう度は、JIS K2220 7を、滴点は、JIS K2220 8をそれぞれ用いて求めたものである。軸受特性試験は、小型軸受に被検体であるグリース組成物を封入し、常温での音響特性、雰囲気温度100℃、回転数3,000min−1での軸受回転試験で1000時間後の揮発量、軸受の音響特性(音響寿命)について測定した。音響特性は、軸受回転試験の前後ともアンデロンメーターによるアンデロン値を測定した。揮発量は、軸受回転試験前後の軸受の重量を測定し、その差により求めた。各々の評価結果につき,モータ用軸受グリース組成物に要求される性能に従った判定結果を、表1(実施例)及び表2(比較例)に示した。音響特性はアンデロン値の小さいものほど、揮発量は少ないものほど優れている。
耐熱性試験は、光干渉法を用いた油膜測定方法により行った。高温で油膜の厚いものほど優れている。油膜測定装置を図1に示す。
ディスクに試料グリースを塗布した後、ディスクを回転させ、ボール下部よりディスク下面の方向に荷重をかけ、点接触状態で測定する。(社団法人 日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集 東京1997−5、第328頁参照)
測定条件を以下に示す。
荷重 20N(最大ヘルツ圧0.53GPa、接触円直径0.27mm)
転がり速度 1.7m/s(軸受型番608で3000min−1に相当)
温度 120℃
ボール 軸受鋼球(直径3/4inch)
ディスク クロム/シリカ蒸着ガラスディスク 直径10cm
評価は次の四段階で評価した。Aは、とくに優れている。Bは、優れている。Cは、普通。Dは、劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の小型モータ軸受封入用リチウムグリース組成物は、軸受の長寿命化に寄与し、耐熱性、低騒音性も維持できるため、環境に優しいグリースであり、多くの需要が見込まれ、産業上の利用可能性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】油膜測定装置
【技術分野】
【0001】
本発明のグリース組成物は、ブロアーファン等の映像機器用モータ、エアコン等の家電機器用モータ軸受等に用いるグリースに関し、より詳しくは小型モータの軸受に封入し、耐熱性を有し、モータの回転音を低減する低騒音グリースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、8個以上の炭素原子で構成される油の鎖状分子の一側にエステル基を8個以上櫛歯状に配置したエステル系合成油(以下、ポリマーエステル油と云う。)を用いたグリース組成物としては、合成炭化水素油とエステル系合成油とを0.65〜0.75:0.35〜0.25の重量比で配合した基油に、ウレア系増稠剤を添加してなる軸受封入用グリースが知られている。(特許文献1)
しかし、このグリースは、急激に回転速度が変化する自動車のエンジン近傍に取付けられるベルト駆動プーリを支持する玉軸受に封入され、寒冷地で使用すると、笛吹き音に似た特異な音が発生する問題点を解決するために用いられている。
また、同様の軸受に封入するグリースとして、合成炭化水素油とエステル系合成油とを0.65〜0.75:0.35〜0.25の重量比で配合した基油に、ウレア系増稠剤を添加してなる軸受封入用グリース組成物も知られている(特許文献2)。
【0003】
さらにまた、電子計算機半導体製造装置などに用いる軸受に封入されるグリース組成物において、低騒音、低振動が重視される場合は、リチウム石けんを増ちょう剤とし、エステル油を基油とするグリースに代表される低騒音、低トルクグリースが使用されている。しかし、このリチウム石けん−エステル系グリースは、飛散し易く、そのまま使用した場合は記録媒体を汚損するおそれが大きいという問題点があった(特許文献3)。
しかし、いずれの文献にも、ポリマーエステル油を基油の主成分とする小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型グリース組成物に関する開示はなされていない。
【特許文献1】特許第3514574号
【特許文献2】特開平6−306383号
【特許文献3】特許第3324628号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ブロアーファン等の映像機器用モータ、エアコン等の家電機器用モータ軸受等に用いる小型モーターの軸受に封入し、モータの回転音を低減する低騒音グリースを開発すべく鋭意研究した結果、ポリマーエステル油を基油の主成分とし、軸受基材との親和性を高めるとともに、リチウム石けんを増ちょう剤とし、低騒音性の優れた小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物を見出すに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、増ちょう剤5〜20質量%と基油95〜80質量%からなるグリース組成物であり、
増ちょう剤として炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんと、炭素数10〜20の高級脂肪酸および/または一個以上の水酸基を有する炭素数10以上の高級ヒドロキシ脂肪酸のリチウム石けんを用い、基油として下記一般式1で示される8個以上の炭素原子で構成される油の鎖状分子の一側にエステル基を8個以上櫛歯状に配置したポリマーエステル油(イ)
【化2】
(式中、R1、R2、R3、R4はいずれもアルキル基であり、x≧2の整数、y≧2の整数である。)
を主成分として含み、かつ、基油粘度(40℃)が30〜100mm2/sであることを特徴とする小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物である。
また、本発明は、基油として、ポリマーエステル油(イ)以外にエステル系合成油(ロ)、合成炭化水素油(ハ)エーテル系合成油(二)および鉱物油(ホ)の1種以上を含む小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物とすることができる。
さらに、本発明は、ポリマーエステル油(イ)がグリース組成物全体の20〜50質量%、合成炭化水素油(ハ)がグリース組成物全体の10〜40質量%、鉱物油(ホ)がグリース組成物全体の10〜40質量%である小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物とすることができる。
また、本発明は、ポリマーエステル油(イ)がグリース組成物全体の20〜50質量%、エステル系合成油(ロ)がグリース組成物全体の10〜40質量%、合成炭化水素油(ハ)がグリース組成物全体の10〜40質量%である小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物とすることができる。
さらにまた、本発明は、ポリマーエステル油(イ)がグリース組成物全体の20〜50質量%、エステル系合成油(ロ)がグリース組成物全体の10〜30質量%、合成炭化水素油(ハ)がグリース組成物全体の2〜10質量%、エーテル系合成油(二)がグリース組成物全体の10〜30質量%である小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物とすることができる。
また、本発明は、増ちょう剤として、炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんがグリース組成物全体の0.1〜10.0質量%、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム石けんがグリース組成物全体の1.5〜10.5質量%、炭素数10〜20の直鎖脂肪酸リチウム石けんがグリース組成物全体の0.5〜5.0質量%を用いる小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物とすることができる。
さらに、本発明は、必要に応じて、耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物に添加剤として、酸化防止剤、防錆剤等を添加することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物は、ポリマーエステル油を基油にしているため、エステル基が櫛歯状に配置され、全てのエステル基が金属表面への吸着に関与していると見られ、他のエステル系合成油に比べて金属表面へ均一な油膜を速やかに形成し、また、増ちょう剤として炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんを併用しているため、高温での油膜を保持することができ、軸受の長寿命化に寄与する。さらにまた、ポリマーエステル油は添加剤の基油に対する分散性および溶解性を向上させることができて低騒音性も維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いる炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんは、水酸化リチウムと、炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸を反応させることにより得られる。炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸は、単独でも混合物でも良い。とくに、炭素数28のモンタン酸を主成分とする炭素数26〜32の長鎖脂肪酸混合物が好適に用いられる。
また、炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんと共に本発明で用いるリチウム石けんは、水酸化リチウムと、炭素数10〜20の高級脂肪酸および/または一個以上の水酸基を有する炭素数10以上の高級ヒドロキシ脂肪酸とから合成されたリチウム石けんが用いられる。
本発明においては、リチウム石けんが、グリース組成物全体の5質量%以下であると、グリースが柔らかすぎ、リチウム石けんが、グリース組成物全体の20質量%以上になると、グリースが硬くなりすぎる。
【0008】
本発明で用いるポリマーエステル油(イ)は、一般式
【化3】
(式中、R1、R2、R3、R4はいずれもアルキル基であり、x≧2の整数、y≧2の整数である。)で表されるポリマーエステルであれば、何でも良いが、分子量1000〜3000であり、粘度(40℃)が100〜1000mm2/sであるものが好ましい。
【0009】
本発明で用いるエステル系合成油(ロ)は、次の一般式(a)、(b)、(c)で示される。
すなわち、一般式(a)、
RCOOH(CH2)n COOR’
-----(a)
(R、R’は炭素数3〜18のアルキル基であり、同一であっても異なっていても良い。nは3〜12を示す)で表わされるジエステル系合成油、一般式(b)
R(CH2COO R’)3 -----(b)
(R、R’は炭素数3〜10のアルキル基を示す)で表わされるトリエステル系合成油、一般式(c)
R(CH2COO R’)4-----(c)
(R、R’は炭素数3〜10のアルキル基を示す)で表わされるテトラエステル系合成油および他のネオペンチルポリオールエステル系合成油が用いられる。
【0010】
本発明で用いる合成炭化水素油(ハ)としては、ポリα−オレフィン油、ポリブテン、オレフィンコポリマーであって、粘度(40℃)が20〜100mm2 /sであり、かつ安全に使用するためには、引火点220℃以上のものを採用することが好ましい。
これらは、α−オレフィンを低重合してオリゴマーとし、その末端二重結合に水素を添加した構造であり、代表的には下記の式
【化4】
(式中、Rはアルキル基、n=1〜6の整数を表わす。)
で示すことができる。
ポリブテンもポリα−オレフィンの一種であり、このものはイソブチレンを主体とする出発原料から塩化アルミニウムを触媒として重合して製造できる。ポリブテンは、そのまま用いても水素添加して用いてもよい。
【0011】
本発明で用いるエーテル系合成油(二)は、アルキルジフェニールエーテルを用いることができ、ジアルキルジフェニールエーテル、モノアルキルジフェニールエーテル及びこれらの混合物等を挙げることができる。
本発明で用いる鉱物油(ホ)は、パラフィン系鉱油であり、粘度(40℃)が90〜150mm2 /sである。
本発明のグリース組成物は、通常グリースに用いられる各種の添加剤を含有することも可能である。添加剤としては通常グリース組成物に用いられている添加剤、すなわちフェニルα(β)ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミン、フェノチアジン、t−ブチルフェノール等の酸化防止剤、金属スルホネート、非イオン系、アミン系等の防錆剤等が挙げられる。
次に、実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0012】
(実施例1〜10)
増ちょう剤として、水酸化リチウムと、炭素数28のモンタン酸を主成分とする炭素数26〜32の長鎖脂肪酸混合物、ステアリン酸および12ヒドロキシステアリン酸とから合成されたリチウム石けんを用いた。
基油として、粘度(40℃)が約800mm2/s(実施例1〜6)又は約140(実施例7〜10)mm2/sであるポリマーエステル油を用いた。エステル系合成油としては、テトラエステル油(ペンタエリスリトールエステル)を用いた。
合成炭化水素油として、ポリα−オレフィン油を用いた。
エーテル系合成油として、アルキルジフェニールエーテル油を用いた。
また、酸化防止剤としてアルキルジフェニルアミン、防錆剤としてカルシウムスルホネートを用いた。
表1に示す割合で混合し、全体が液体になるまで撹拌しながら220℃〜230℃に加熱した。これをステンレス容器に厚さ3〜5mmになるように流し込み、50℃以下に冷却後、三本ロールで均質化することによりグリース組成物を得た。表1にグリース組成物の成分割合と試験結果を示す。
【0013】
【表1】
【0014】
(比較例1〜6)
実施例と同様にして、各成分を配合し比較グリース組成物1〜4を作成した。
また、基油と増ちょう剤が知られている二種の市販グリースについて、比較例5、6として表2に示した。表2において、++の記号は配合されている成分を示す。
表2に配合例と試験結果を示す。
【0015】
【表2】
基油粘度(40℃)は、JIS K2283を、混和ちょう度は、JIS K2220 7を、滴点は、JIS K2220 8をそれぞれ用いて求めたものである。軸受特性試験は、小型軸受に被検体であるグリース組成物を封入し、常温での音響特性、雰囲気温度100℃、回転数3,000min−1での軸受回転試験で1000時間後の揮発量、軸受の音響特性(音響寿命)について測定した。音響特性は、軸受回転試験の前後ともアンデロンメーターによるアンデロン値を測定した。揮発量は、軸受回転試験前後の軸受の重量を測定し、その差により求めた。各々の評価結果につき,モータ用軸受グリース組成物に要求される性能に従った判定結果を、表1(実施例)及び表2(比較例)に示した。音響特性はアンデロン値の小さいものほど、揮発量は少ないものほど優れている。
耐熱性試験は、光干渉法を用いた油膜測定方法により行った。高温で油膜の厚いものほど優れている。油膜測定装置を図1に示す。
ディスクに試料グリースを塗布した後、ディスクを回転させ、ボール下部よりディスク下面の方向に荷重をかけ、点接触状態で測定する。(社団法人 日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集 東京1997−5、第328頁参照)
測定条件を以下に示す。
荷重 20N(最大ヘルツ圧0.53GPa、接触円直径0.27mm)
転がり速度 1.7m/s(軸受型番608で3000min−1に相当)
温度 120℃
ボール 軸受鋼球(直径3/4inch)
ディスク クロム/シリカ蒸着ガラスディスク 直径10cm
評価は次の四段階で評価した。Aは、とくに優れている。Bは、優れている。Cは、普通。Dは、劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の小型モータ軸受封入用リチウムグリース組成物は、軸受の長寿命化に寄与し、耐熱性、低騒音性も維持できるため、環境に優しいグリースであり、多くの需要が見込まれ、産業上の利用可能性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】油膜測定装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増ちょう剤5〜20質量%と基油95〜80質量%からなるグリース組成物であり、
増ちょう剤として炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんと、炭素数10〜20の高級脂肪酸および/または一個以上の水酸基を有する炭素数10以上の高級ヒドロキシ脂肪酸のリチウム石けんを用い、基油として下記一般式1で示される8個以上の炭素原子で構成される油の鎖状分子の一側にエステル基を8個以上櫛歯状に配置したポリマーエステル油(イ)
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4はいずれもアルキル基であり、x≧2の整数、y≧2の整数である。)
を主成分として含み、かつ、基油粘度(40℃)が30〜100mm2/sであることを特徴とする小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【請求項2】
基油として、ポリマーエステル油(イ)以外にエステル系合成油(ロ)、合成炭化水素油(ハ)エーテル系合成油(二)および鉱物油(ホ)の1種以上を含む請求項1に記載した小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【請求項3】
ポリマーエステル油(イ)がグリース組成物全体の20〜50質量%、合成炭化水素油(ハ)がグリース組成物全体の10〜40質量%、鉱物油(ホ)がグリース組成物全体の10〜40質量%である請求項2に記載した小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【請求項4】
ポリマーエステル油(イ)がグリース組成物全体の20〜50質量%、エステル系合成油(ロ)がグリース組成物全体の10〜40質量%、合成炭化水素油(ハ)がグリース組成物全体の10〜40質量%である請求項2に記載した小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【請求項5】
ポリマーエステル油(イ)がグリース組成物全体の20〜50質量%、エステル系合成油(ロ)がグリース組成物全体の10〜30質量%、合成炭化水素油(ハ)がグリース組成物全体の2〜10質量%、エーテル系合成油(二)がグリース組成物全体の10〜30質量%である請求項2に記載した小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【請求項6】
増ちょう剤として、炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんがグリース組成物全体の0.1〜10.0質量%、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム石けんがグリース組成物全体の1.5〜10.5質量%、炭素数10〜20の直鎖脂肪酸リチウム石けんがグリース組成物全体の0.5〜5.0質量%を用いる請求項1に記載した小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【請求項7】
グリース組成物に添加剤として酸化防止剤、防錆剤等を添加した請求項1〜請求項6のいずれかひとつに記載した小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【請求項1】
増ちょう剤5〜20質量%と基油95〜80質量%からなるグリース組成物であり、
増ちょう剤として炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんと、炭素数10〜20の高級脂肪酸および/または一個以上の水酸基を有する炭素数10以上の高級ヒドロキシ脂肪酸のリチウム石けんを用い、基油として下記一般式1で示される8個以上の炭素原子で構成される油の鎖状分子の一側にエステル基を8個以上櫛歯状に配置したポリマーエステル油(イ)
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4はいずれもアルキル基であり、x≧2の整数、y≧2の整数である。)
を主成分として含み、かつ、基油粘度(40℃)が30〜100mm2/sであることを特徴とする小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【請求項2】
基油として、ポリマーエステル油(イ)以外にエステル系合成油(ロ)、合成炭化水素油(ハ)エーテル系合成油(二)および鉱物油(ホ)の1種以上を含む請求項1に記載した小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【請求項3】
ポリマーエステル油(イ)がグリース組成物全体の20〜50質量%、合成炭化水素油(ハ)がグリース組成物全体の10〜40質量%、鉱物油(ホ)がグリース組成物全体の10〜40質量%である請求項2に記載した小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【請求項4】
ポリマーエステル油(イ)がグリース組成物全体の20〜50質量%、エステル系合成油(ロ)がグリース組成物全体の10〜40質量%、合成炭化水素油(ハ)がグリース組成物全体の10〜40質量%である請求項2に記載した小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【請求項5】
ポリマーエステル油(イ)がグリース組成物全体の20〜50質量%、エステル系合成油(ロ)がグリース組成物全体の10〜30質量%、合成炭化水素油(ハ)がグリース組成物全体の2〜10質量%、エーテル系合成油(二)がグリース組成物全体の10〜30質量%である請求項2に記載した小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【請求項6】
増ちょう剤として、炭素数26〜炭素数32の長鎖脂肪酸リチウム石けんがグリース組成物全体の0.1〜10.0質量%、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム石けんがグリース組成物全体の1.5〜10.5質量%、炭素数10〜20の直鎖脂肪酸リチウム石けんがグリース組成物全体の0.5〜5.0質量%を用いる請求項1に記載した小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【請求項7】
グリース組成物に添加剤として酸化防止剤、防錆剤等を添加した請求項1〜請求項6のいずれかひとつに記載した小型モータ軸受封入用耐熱・低騒音型リチウムグリース組成物。
【図1】
【公開番号】特開2006−45323(P2006−45323A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227306(P2004−227306)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000228486)日本グリース株式会社 (8)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000228486)日本グリース株式会社 (8)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]