説明

小型滑走艇

【課題】 デッキとハッチカバーとの間に水が浸入してロック機構が劣化することを防止できるとともに美観に優れた小型滑走艇を提供すること。
【解決手段】 船体11に設けられた開口部17を開閉するハッチカバー20とデッキ11aとにロック機構40を設けた。そして、ハッチカバー20を、ハッチカバー本体25と、ハッチカバー本体25の後部中央に回転可能に接続された板状のレバー部材27とで構成した。また、ロック機構40を、ハッチカバー本体25に設けられた係合部材42と、デッキ11aに設けられた被係合部43とで構成し、レバー部材27をハッチカバー本体25に対して回転させるとロック機構40のロックが解除されるようにした。さらに、レバー部材27の後部でデッキ11a側に設けられたメーターパネル14の上方を覆うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体の前部側に設けられた収容部の開口部を開閉するハッチカバーおよびハッチカバーをデッキに対してロックするためのロック機構を備えた小型滑走艇に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ジェットポンプの駆動により船底から吸い込んだ海水等の水を船尾後方に噴射することによって水上を走行する小型滑走艇がある。また、このような小型滑走艇の中に、船体の前部側に設けられた収容部の開口部を開閉するハッチカバーおよびハッチカバーをデッキに対してロックするためのロック機構を備えた小型滑走艇がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この小型滑走艇が備えるロック機構は、小型滑走艇の美観を向上させるために、外部から見えないようにしてハッチカバーの後端部の下面に設けられており、ロック装置と、ロック装置のロックを解除するための操作部材とを備えている。そして、ハッチカバーを開ける際には、運転者がハッチカバーの下面に手の指を差し込んで操作部材を上方に押し上げることによりロック装置のロックを解除させることができる。さらに、その状態で、ハッチカバーを上方に持ち上げることにより収容部を開口することができる。
【特許文献1】特開2000−54705号公報
【発明の開示】
【0004】
しかしながら、前述した従来の小型滑走艇では、デッキとハッチカバーとの間に手を入れて操作部材を操作するように構成されているため、デッキとハッチカバーとの間に手を入れるための隙間を設ける必要がある。また、ロック機構は、運転者の手が届くハッチカバーの縁部近傍に設ける必要がある。このため、デッキとハッチカバーとの間に水が浸入し易くなるとともに、その水がロック機構にかかり易くなり、ロック機構を構成する各部材に腐食等による劣化が生じ易くなる。
【0005】
本発明は、前述した問題を解決するためになされたもので、その目的は、デッキとハッチカバーとの間に水が浸入してロック機構が劣化することを防止できるとともに美観に優れた小型滑走艇を提供することである。
【0006】
前述した目的を達成するため、本発明に係る小型滑走艇の構成上の特徴は、船体の前部側部分に設けられた収容部の開口部を、船体のデッキ上面に設けるとともに、収容部の開口部を開閉するハッチカバーの一端部をデッキに対して回転可能に接続し、ハッチカバーとデッキとの間に、ハッチカバーをデッキに対してロックしたりそのロックを解除したりするためのロック機構を設けた小型滑走艇において、ハッチカバーを、ハッチカバー本体と、ハッチカバー本体に回転可能に接続されるとともにハッチカバー本体とで外装面を形成するレバー部材とで構成し、ロック機構を、ハッチカバーの下面に設けられた係合部と、デッキ側に設けられた被係合部とで構成し、ハッチカバーを閉じてロック機構をロックした状態で、レバー部材をハッチカバー本体に対して回転させるとロック機構のロックが解除されるようにしたことにある。
【0007】
このように構成した本発明に係る小型滑走艇では、ハッチカバーの外装面を形成する部分を、ハッチカバー本体とレバー部材とで構成し、レバー部材をハッチカバー本体に対して回転させるとロック機構のロックが解除されるようにしている。すなわち、ハッチカバーとデッキとの間に、ロック機構を設け、ハッチカバーの外装面の一部を構成するレバー部材をロック機構のロックを解除するために利用している。このため、ロック機構のロックを解除するための操作部材であるレバー部材を外部に露出させても小型滑走艇の美観を損ねることがなくなり、さらにデザイン性の向上を図ることも可能になる。
【0008】
また、レバー部材を操作する際に、ハッチカバーとデッキとの間に手を入れる必要はないため、ハッチカバーとデッキとの間に手を入れるための隙間を設ける必要がなくなる。さらに、ロック機構は、レバー部材をハッチカバー本体に対して回転させたときにロックが解除される構造になっていればよいため、ハッチカバーの下面における後端部の縁部近傍に限らず、ハッチカバーの下面における中央側部分や前部側部分に設けることもできる。このため、ハッチカバーとデッキとの間に水が浸入することを極力防止できるとともに、水が浸入してきたとしてもその水でロック機構が濡れて劣化するといったことは生じ難くなる。なお、ロック機構のロックは、ハッチカバーをデッキ側に押圧したときにロックされる機構にしてもよいし、ハッチカバーを閉じた状態で所定の操作を行うことによりロックされる機構にしてもよい。
【0009】
また、本発明に係る小型滑走艇の他の構成上の特徴は、レバー部材を所定面積の外装面を備えた板状体で構成したことにある。これによると、小型滑走艇の美観をさらに向上させることができるとともに、ロック機構を覆う部分を大きくすることができるため、ロック機構の水濡れによる劣化をより確実に防止できる。
【0010】
また、本発明に係る小型滑走艇のさらに他の構成上の特徴は、レバー部材をハッチカバー本体の周縁部に設けたことにある。これによると、レバー部材のハッチカバー本体への取り付けが容易になるとともに、レバー部材の操作が容易になる。
【0011】
また、本発明に係る小型滑走艇のさらに他の構成上の特徴は、レバー部材をハッチカバー本体の後端部に配置して、レバー部材の前端部または前端部の近傍部分をハッチカバー本体に対して上下方向に回転可能に接続したことにある。
【0012】
これによると、運転者がハッチカバーを開く際には、ハッチカバーにおける運転者が座るシートから最も近い位置になるレバー部材の後端部を操作するようになるため、ハッチカバーの開閉操作が容易になる。さらに、ハッチカバーは、通常、前端部またはその近傍部分がデッキにヒンジ連結されて、後端側を上下に移動させることにより開閉できるように構成されている。このため、運転者は、レバー部材を回転操作してロック機構のロックを解除し、そのままハッチカバーの後部を上方に持ち上げるだけで開口部を開けることができる。このため、レバー部材を上方に向けて回転操作したときにロックの解除ができるようにすることにより、一度の操作でロックの解除とハッチカバーを開く操作とを行うことができる。また、収容部の開口部を閉じるときには、ハッチカバーを下方に押し付けるだけで済むため、ハッチカバーを開閉するための操作が極めて簡単になる。
【0013】
また、本発明に係る小型滑走艇のさらに他の構成上の特徴は、船体の上部に、操舵ハンドルを設けるとともに、船体の上部における操舵ハンドルの前方にメーターパネルを設け、ハッチカバーの後部でメーターパネルの上方を覆うようにしたことにある。
【0014】
近年では、液晶表示によるメーターパネルが多く使用されており、日差しの強いときに小型滑走艇を運転すると、メーターパネルに設置された各メーターが見難い場合がある。本発明では、ハッチカバーの後部でメーターパネルの上方を覆うことができるようにしてハッチカバーを配置させることで、ハッチカバーを、収容部の開口部を開閉させるためだけでなく、バイザー(日除け)としても利用できるようにしている。これによって、メーターの視認性を向上できる。
【0015】
また、レバー部材をハッチカバー本体の後端部に設けた場合には、レバー部材の後部でメーターパネルの上方を覆うことができるようにする。これによって、レバー部材を、ロック機構のロックを解除したり、ハッチカバーを持ち上げる際の把持部として利用したりする他、バイザー(日除け)としても利用できる。さらに、別部材からなるバイザーをハッチカバー本体に取り付けて、ハッチカバー本体にバイザーを含ませてもよい。
【0016】
また、本発明に係る小型滑走艇のさらに他の構成上の特徴は、メーターパネルがデッキ側に設置されていることにある。これによると、ハッチカバーを開ける際に、重さの重いメーター等を一緒に持ち上げる必要がなくなり、ハッチカバー、特にレバー部材の耐久性が向上する。
【0017】
また、本発明に係る小型滑走艇のさらに他の構成上の特徴は、係合部および被係合部のうちの一方をフックで構成するとともに、レバー部材にフックに係合するロック解除部材を設け、レバー部材をハッチカバー本体に対して回転させたときに、ロック解除部材がフックを回転させてロック機構のロックを解除するようにしたことにある。これによると、簡単な構造で確実なロックおよびロック解除ができるロック機構を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る小型滑走艇を図面を用いて詳しく説明する。図1ないし図3は、本実施形態に係る小型滑走艇10を示している。この小型滑走艇10では、船体11がデッキ11aとハル11bとで構成されており、デッキ11aとハル11bとの周縁部が水密的に接合されて船体11の周囲にガンネル部11cが形成されている。そして、船体11の上部における中央よりもやや前側部分に操舵ハンドル12が設けられ、船体11の上部における中央部にシート13が設けられている。
【0019】
また、図示していないが、船体11の内部は、船体11内の前部から中央部にかけて形成されたエンジンルームと、船体11内の後部に形成されたポンプルームとで構成されている。そして、エンジンルームには、燃料タンク、エンジン、吸気装置および排気装置などが設置され、ポンプルームには、ジェットポンプ等からなる推進機などが設置されている。また、図4に示したように、デッキ11aの上面におけるシート13の前方部分には、シート13に座った状態の運転者から見え易いように傾斜して正面をシート13の上方に向けたメーターパネル14が設置されている。このメーターパネル14は液晶パネルで構成されている。
【0020】
そして、デッキ11aにおけるメーターパネル14の後方の左側部分(左舷側部分)にカップホルダー15aが形成され、右側部分(右舷側部分)に小物収容凹部15bが形成されている。なお、図4に示したカップホルダー15aと小物収容凹部15bとの間のやや後部側に設けられた穴部15cは、操舵ハンドル12の中央側部分と、操舵ハンドル12に連結された操舵軸(図示せず)をカバーするカバー部材16とを設置するためのもので、図4は、操舵ハンドル12、操舵軸およびカバー部材16を取り除いた状態を示している。
【0021】
また、図5ないし図7に示したように、デッキ11aの上面における前部側部分には、ハッチカバー20が前端部21を中心として上下方向に回転可能に設置されている。すなわち、デッキ11aの上面における前部側部分には、開口部17が形成されており、ハッチカバー20は、この開口部17を開閉できるように構成されている。そして、開口部17の内部側には所定の物を入れるための収容部18が形成されている。また、開口部17の周縁部にはシール部17aが設けられ、このシール部17aによって開口部17の周縁部とハッチカバー20の下面との間は水密的にシールされる。
【0022】
デッキ11aの上面における前部側部分は、前部側から後部側に向って盛り上がって高くなった形状をしており、ハッチカバー20は、デッキ11aの上面における前部側部分の形状に沿って後部側が盛り上がった湾曲した形状に形成されている。また、ハッチカバー20の前端部21は、ヒンジ連結部22を介してデッキ11aに連結されている。このヒンジ連結部22は、軸部22aと、軸部22aを中心として回転可能になった回転固定部22b,22cとを備えている。
【0023】
そして、回転固定部22bを固定部材23aを介してデッキ11aに固定し、回転固定部22cを固定部材23bを介してハッチカバー20の前端部21の下面に固定している。これによって、ハッチカバー20はデッキ11aに対して軸部22aを中心に回転可能な状態で連結されている。また、デッキ11aの上面におけるハッチカバー20の前部側部分には、フロントカバー24が取り付けられて、デッキ11aとハッチカバー20の前端部21との間の段差が表面に露出しないようになっている。また、図8に示したように、フロントカバー24は、ハッチカバー20の前端部21との間の隙間24aが極力小さくなるようにして配置されており、これによって小型滑走艇10の美観が向上している。
【0024】
また、ハッチカバー20は、図9に示したように、ハッチカバー本体25と、バイザー26と、レバー部材27とを備えている。ハッチカバー本体25は、図1に示したハッチカバー20の全体の平面図の形状と略同じ形状に形成されており、後端側における左右方向の中央部に後述するフック45を通すための挿通穴25aが上下に貫通して形成されている。また、ハッチカバー本体25の上面における挿通穴25aの前部側には、上方に向って盛り上がった円錐台形のストッパー25bが形成されている。なお、図9は、内部を示すためにレバー部材27を取り除いた状態を表している。
【0025】
バイザー26は、図10に示したように、後部中央にレバー部材27を配置させるための切欠き部26aが形成され、周縁部から切欠き部26a側に向って盛り上がった曲面状の板部材で構成されている。このバイザー26は、図4および図11に示したように、後端側の二股に分岐した左右両側部分で、メーターパネル14の両側部分の上方を覆うようにして、ハッチカバー本体25の後端部中央に固定されている。ハッチカバー本体25とバイザー26とで本発明に係るハッチカバー本体が構成される。そして、バイザー26の切欠き部26a内に位置した状態で、レバー部材27がハッチカバー本体25の上面に回転可能な状態で取り付けられている。
【0026】
レバー部材27は、平面視で前部側が徐々に幅狭になり、先端部が鈍角の角部になった略5角形の板状部材で構成され、裏面が、図12に示したように形成されている。すなわち、レバー部材27の裏面における周縁部には、下方(図12では上方)に突出する縁部27aが形成され、レバー部材27の裏面における前部側部分には、レバー部材27をハッチカバー本体25に連結するために用いられる一対の軸受け部28a,28bが形成されている。また、レバー部材27の裏面における略中央には、後述するロック機構40の係合を解除するロック解除部材としてのピン41(図13参照)を取り付けるために用いられる一対の軸受け部29a,29bが形成されている。
【0027】
そして、レバー部材27の裏面における軸受け部28a,28b間には、左右に延びる板状の補強リブ31aが形成され、軸受け部28a,28bと縁部27aとのそれぞれの間および補強リブ31aと縁部27aとの間を結ぶ最も近い部分には、それぞれ補強リブ31b,31c,31dが形成されている。また、レバー部材27の裏面における軸受け部29a,29b間には左右に延びる補強リブ32が形成されている。なお、縁部27aにおける前部側部分と後部側部分との下方への突出量は、中央側部分の突出量よりも小さくなるように形成されている。
【0028】
そして、レバー部材27は、図13に示したように一対のトーションスプリング33を介してハッチカバー本体25に組み付けられている。すなわち、ハッチカバー本体25の上面における軸受け部28aに対応する部分には、取付板34aと一対の支持部34b,34cからなる軸受け部34が取り付けられており、ハッチカバー本体25の上面における軸受け部28bに対応する部分には、取付板35aと一対の支持部35b,35cからなる軸受け部35が設けられている。また、支持部34b,34c間の間隔は、軸受け部28aを入れることができる大きさに設定され、支持部35b,35c間の間隔は、軸受け部28bを入れることができる大きさに設定されている。
【0029】
そして、軸受け部28aと支持部34b,34cおよび軸受け部28bと支持部35b,35cとをそれぞれトーションスプリング33を介して連結することによりレバー部材27は、ハッチカバー本体25に組み付けられている。トーションスプリング33は、図14に示したように、軸体36とスプリング37とで構成されており、スプリング37は、軸体36に巻き付けられたコイル状のばね本体37aと、ばね本体37aの両端から外側の異なる方向に向ってそれぞれ延びる押圧部37b,37cとで構成されている。また、軸体36の一端部は、スプリング37を抜け止めするための大径部36aに形成されている。
【0030】
そして、一方のトーションスプリング33は、支持部34b,34c間に軸受け部28aを入れた状態で、船体11の右舷側から軸体36の他端部(大径部36aと反対側の端部)を支持部34b、軸受け部28a、支持部34cにそれぞれ形成された穴部内に順次挿入するとともに、軸体36の他端部が支持部34cから外れないようにしている。また、他方のトーションスプリング33は、支持部35b,35c間に軸受け部28bを入れた状態で、船体11の左舷側から軸体36の他端部を支持部35b、軸受け部28b、支持部35cにそれぞれ形成された穴部内に順次挿入するとともに、軸体36の他端部が支持部35cから外れないようにしている。
【0031】
このとき、両トーションスプリング33の押圧部37b,37cによって、レバー部材27がハッチカバー本体25側に付勢されるようにする。また、レバー部材27の後端部を上方に持ち上げたときには、一対のトーションスプリング33の弾性に抗して、レバー部材27は一対のトーションスプリング33の軸体36を中心として回転する。なお、その場合のレバー部材27の回転範囲は、レバー部材27の下面の縁部27aの中央側部分がハッチカバー本体25の上面に沿った状態と、レバー部材27の後部側が上昇して、レバー部材27の前端部がストッパー25bに当接した状態との間となる。
【0032】
また、レバー部材27の上面は、ハッチカバー本体25の露出した上面部分およびバイザー26の上面とともにハッチカバー20の外装面を構成している。さらに、レバー部材27の後端部は、図11に示したように後方に向って突出してレバー部材27を回転操作する際に手で持つための把持部を構成するとともに、メーターパネル14の中央側部分の上方を覆うバイザーとしても利用される。
【0033】
また、レバー部材27の軸受け部29a,29bの穴部には、前述したロック解除用のピン41の両端部が挿入されて固定され、ハッチカバー本体25とデッキ11aとにはロック機構40(図20ないし図22参照)が設けられている。このロック機構40は、ハッチカバー本体25に取り付けられた係合部材42と、デッキ11aに取り付けられた被係合部43とで構成されている。係合部材42は、ハッチカバー本体25の上面に取り付けられた固定部材44と、固定部材44に回転可能に組み付けられた本発明の係合部としてのフック45とを備えている。
【0034】
固定部材44は、図15および図16に示したように、中央に穴部44aが形成された枠状の部材で構成されており、穴部44aを挟んだ両側部分にはボルト穴44bを備えた肉厚部44cが形成されている。そして、この固定部材44は、中央の穴部44aをハッチカバー本体25の挿通穴25aに合わせ、両ボルト穴44bおよびハッチカバー本体25に形成されたボルト挿通穴(図示せず)にボルト48(一方しか図示せず)を螺合させてハッチカバー本体25に固定されている。また、固定部材44の穴部44aの一方側の対向する両縁部に一対の軸受け部46a,46bが対向して形成されており、この軸受け部46a,46bの穴部に軸部46cの両端部が固定されている。
【0035】
そして、この軸部46cの外周面には、ばね部材49(図17参照)が取り付けられており、フック45は、ばね部材49によって下部を後部側に付勢された状態で軸部46cに回転可能に取り付けられている。また、フック45は、厚板を曲げ加工することにより形成され、下部側の本体部分が、前面部と前面部の両側から後方に延びる両側面部とで構成される側面視が略L形になった部分で構成されている。すなわち、フック45の下端部には、後方に向って突出して被係合部43に係合可能になった係合突部45aが平行して形成されている。この係合突部45aの上端縁部は後方に向って略直線状に延びて、被係合部43に係合可能になり、下面は係合突部45aにおける上端縁部の先端から下端に掛けて円弧状に形成されている。
【0036】
そして、フック45の上端部からは前方に向ってピン41に係合する係合曲部45bがピン41に巻き付くようにして屈曲しながら延びている。このため、ピン41を上方に移動させると、フック45は、ばね部材49の弾性に抗して、図15および図16に矢印で示した方向に、軸部46cを中心として回転する。また、この係合部材42をハッチカバー本体25に取り付けると、図17および図18に示したように、フック45の下部側部分は、挿通穴25aを通ってハッチカバー本体25の下面側に突出した状態になる。
【0037】
そして、デッキ11aの上面におけるフック45に対向する部分に図19に示した被係合部43が固定されている。この被係合部43は、中央部43aがフック45の係合突部45aが係合しやすいように上方に向って少し屈曲した丸棒状に形成され、両端側の端部43b,43cがそれぞれ扁平状に形成されている。また、端部43b,43cにはそれぞれ穴部(図示せず)が形成され、その穴部に固定部材47a,47bを通して固定部材47a,47bをデッキ11aに固定することによって、被係合部43はデッキ11aに固定されている。そして、係合部材42のフック45を被係合部43に係合させることにより、ハッチカバー20で開口部17を閉じた状態を維持でき、係合部材42のフック45と被係合部43との係合(ロック機構40のロック)を解除させることによりハッチカバー20を開けることができる。
【0038】
以上のように構成された小型滑走艇10を水上で走行させるときには、まず、運転者はシート13に座り、操舵ハンドル12の近傍に設けられたスタートスイッチをオンに操作することにより、小型滑走艇10を走行可能な状態にする。そして、操舵ハンドル12を操舵するとともに、操舵ハンドル12のグリップ12aに設けられたスロットル操作子12bを操作する。これによって、小型滑走艇10は各操作に応じた所定の方向に所定の速度で走行する。
【0039】
また、水上で収容部18内に収容している所定の物を取り出す場合には、前方に向って手を伸ばし、レバー部材27の後方に突出した後端部を上方に持ち上げる。この場合、レバー部材27を持ち上げる前には、ロック機構40は、図20に示した状態になっているが、レバー部材27を持ち上げた後には、ロック機構40は、図21に示した状態になる。なお、図20および図21は説明の便宜上、バイザー26を省略して内部が見えるようにしている。
【0040】
すなわち、レバー部材27の後端部を上方に持ち上げると、レバー部材27は、トーションスプリング33の弾性に抗して軸体36を中心としてハッチカバー本体25から離れるように回転する。その際、軸受け部29a,29bを介してレバー部材27に取り付けられたピン41が、フック45の係合曲部45bを上方に持ち上げる。これによって、フック45は、軸部46cを中心として、図22に示したように回転し、フック45の係合突部45aと被係合部43との係合が解除される。そして、図21の状態から、さらに、レバー部材27の後端部を上方に持ち上げることにより、図3に示した状態にすることができ、運転者は、開口した収容部18内から目的の物を取り出すことができる。
【0041】
また、ハッチカバー20を閉じる場合には、ハッチカバー20の後端部を下方に押してハッチカバー20を後下方に回転させる。そして、フック45の下面が、被係合部43に接触したときに、さらに、ハッチカバー本体25を下方に押すと、フック45は、ばね部材49の弾性に抗して、下面における被係合部43と接触する部分を係合突部45aの下端側から上部側に向けて変えるようにして回転する。
【0042】
そして、係合突部45aの後端部(上端部)の角部が被係合部43を越えたときに、フック45は、ばね部材49の復元力によって元の状態に戻り被係合部43に係合する。すなわち、本実施形態では、ハッチカバー20を開けるときには、レバー部材27を持ち上げることにより、係合曲部45bを持ち上げてフック45を回転させ、ロックを解除する。この場合、レバー部材27とフック45が連動する。一方、ハッチカバー20を閉じるときには、レバー部材27を下方に押し付けると、レバー部材27は動かずフック45だけが回転する。
【0043】
この場合、フック45が回転すると、係合曲部45bがピン41から浮き上がる。この動作を可能にするために、図13に示したように、係合曲部45bと補強リブ32との間に、フック45が単独で回転してロックが解除できるだけのクリアランスCを設けている。このため、ハッチカバー20の後端部を下方に押してハッチカバー20を後下方に回転させ、ハッチカバー本体25を下方に押すだけでハッチカバー20で収容部18を閉じることができる。
【0044】
このように、本実施形態に係る小型滑走艇10では、ハッチカバー20とデッキ11aとの間に、ロック機構40を設け、ハッチカバー20の外装面の一部を構成する板状のレバー部材27をロック機構40のロックを解除するために利用している。このため、ロック機構40のロックを解除するためのレバー部材27を外部に露出させても小型滑走艇10の美観を損ねることがなくなる。また、レバー部材27のデザイン性を向上させることによりさらに美観を高めることも可能になる。
【0045】
また、レバー部材27の後端部を後方に突出させて把持部としているため、レバー部材27を操作する際に、レバー部材27とデッキ11aとの間に手を入れる必要がなくなる。このため、レバー部材27とデッキ11aとの間に手を入れるための隙間を設ける必要がなくなり、ハッチカバー20とデッキ11aとの間に水が浸入することを防止できる。さらに、ロック機構40が、レバー部材27の中央側に設けられているため、レバー部材27によって水から保護されるようになる。これによって、ロック機構40が水に濡れて劣化するといったことは生じ難くなる。
【0046】
また、レバー部材27が、運転者が座るシート13から近い位置に位置しているため、運転者によるハッチカバー20の開閉操作が容易になる。さらに、運転者は、レバー部材27を上方に回転操作してロック機構40のロックを解除し、そのままハッチカバー20の後部を上方に持ち上げるだけで開口部17を開けることができる。また、開口部17を閉じるときには、ハッチカバー20を下方に押し付けるだけで済む。このため、ハッチカバー20を開閉するための操作が極めて簡単になる。
【0047】
また、レバー部材27およびバイザー26の後部でメーターパネル14の上方を覆うようにしているため、レバー部材27およびバイザー26の後部ハッチカバーを、バイザーとしても利用でき、これによって、メーターパネル14の視認性を向上できる。さらに、メーターパネル14がデッキ11aに設置されているため、ハッチカバー20を開ける際に、重さの重いメーター等を一緒に持ち上げる必要がなくなり、ハッチカバー20、特にレバー部材27の耐久性が向上する。
【0048】
また、デッキ11aの上面におけるハッチカバー20の前部側部分に、フロントカバー24を取り付けて、デッキ11aとハッチカバー20の前端部21との間の段差が隠れるようにしている。また、フロントカバー24を、ハッチカバー20の前端部21との間の隙間が極力小さくなるようにして配置している。このため、小型滑走艇10の前部側の美観が向上する。
【0049】
また、本発明に係る小型滑走艇は、前述した実施形態に限らず適宜変更して実施することができる。例えば、前述した実施形態では、レバー部材27をハッチカバー20の後部中央に配置しているが、このレバー部材27は、ハッチカバー20の後部中央に限らず、後部の左右どちらかの一方側に配置してもよいし、ハッチカバー20の側部や前部に配置してもよい。さらに、ハッチカバー20の周縁部だけでなく中央側に設けることもできる。
【0050】
また、ハッチカバー20は前端部21を中心として回転させることにより開閉するものに限らず、後端部を中心として回転させることにより開閉するものや、側部を中心に回転させることにより開閉するものであってもよい。さらに、ロック機構は前述したものに限らず、レバー部材27をハッチカバー本体25に対して回転させたときにロックが解除される構造になっていればどのような構造のものでもよい。例えば、ハッチカバー20に被係合部43を設け、デッキ11a側に係合部材42を設けてもよい。また、本発明に係る小型滑走艇を構成するその他の各部分の配置や構造等も本発明の技術的範囲内で適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係る小型滑走艇を示した平面図である。
【図2】小型滑走艇を示した側面図である。
【図3】ハッチカバーを開けた状態の小型滑走艇を示した側面図である。
【図4】メーターパネルの近傍部分を示した斜視図である。
【図5】ハッチカバーを開けた状態の開口部の近傍部分を示した斜視図である。
【図6】ハッチカバーを閉じた状態の船体の前部側部分を示した断面図である。
【図7】ハッチカバーを開けた状態の船体の前部側部分を示した断面図である。
【図8】フロントカバーの近傍部分を示した斜視図である。
【図9】ハッチカバーを示した斜視図である。
【図10】バイザーを示した斜視図である。
【図11】船体におけるバイザーの近傍を示した側面図である。
【図12】レバー部材の裏面を示した斜視図である。
【図13】ハッチカバー本体とレバー部材との連結部を示した斜視図である。
【図14】トーションスプリングを示した斜視図である。
【図15】係合部材を後方から見た状態を示した斜視図である。
【図16】係合部材を前方から見た状態を示した斜視図である。
【図17】ハッチカバー本体に取り付けられた係合部材を示した斜視図である。
【図18】ハッチカバー本体に取り付けられた係合部材を下方から見た状態を示した斜視図である。
【図19】被係合部を示した斜視図である。
【図20】係合部材のフックと被係合部とが係合した状態を示した斜視図である。
【図21】係合部材のフックと被係合部との係合が解除された状態を示した斜視図である。
【図22】係合部材のフックと被係合部との係合が解除される状態を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
10…小型滑走艇、11…船体、11a…デッキ、12…操舵ハンドル、14…メーターパネル、20…ハッチカバー、25…ハッチカバー本体、27…レバー部材、40…ロック機構、41…ピン、42…係合部材、43…被係合部、45…フック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の前部側部分に設けられた収容部の開口部を、前記船体のデッキ上面に設けるとともに、前記収容部の開口部を開閉するハッチカバーの一端部を前記デッキに対して回転可能に接続し、前記ハッチカバーと前記デッキとの間に、前記ハッチカバーを前記デッキに対してロックしたりそのロックを解除したりするためのロック機構を設けた小型滑走艇において、
前記ハッチカバーを、ハッチカバー本体と、前記ハッチカバー本体に回転可能に接続されるとともに前記ハッチカバー本体とで外装面を形成するレバー部材とで構成し、前記ロック機構を、前記ハッチカバーの下面に設けられた係合部と、前記デッキ側に設けられた被係合部とで構成し、前記ハッチカバーを閉じて前記ロック機構をロックした状態で、前記レバー部材を前記ハッチカバー本体に対して回転させると前記ロック機構のロックが解除されるようにしたことを特徴とする小型滑走艇。
【請求項2】
前記レバー部材を所定面積の外装面を備えた板状体で構成した請求項1に記載の小型滑走艇。
【請求項3】
前記レバー部材を前記ハッチカバー本体の周縁部に設けた請求項1または2に記載の小型滑走艇。
【請求項4】
前記レバー部材を前記ハッチカバー本体の後端部に配置して、前記レバー部材の前端部または前端部の近傍部分を前記ハッチカバー本体に対して回転可能に接続した請求項1ないし3のうちのいずれか一つに記載の小型滑走艇。
【請求項5】
前記船体の上部に、操舵ハンドルを設けるとともに、前記船体の上部における前記操舵ハンドルの前方にメーターパネルを設け、前記ハッチカバーの後部で前記メーターパネルの上方を覆うようにした請求項1ないし4のうちのいずれか一つに記載の小型滑走艇。
【請求項6】
前記メーターパネルが前記デッキ側に設置されている請求項5に記載の小型滑走艇。
【請求項7】
前記係合部および前記被係合部のうちの一方をフックで構成するとともに、前記レバー部材に前記フックに係合するロック解除部材を設け、前記レバー部材を前記ハッチカバー本体に対して回転させたときに、前記ロック解除部材が前記フックを回転させて前記ロック機構のロックを解除するようにした請求項1ないし6のうちのいずれか一つに記載の小型滑走艇。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2007−261545(P2007−261545A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93073(P2006−93073)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【Fターム(参考)】