小型質量分析計システム
【課題】本発明の好ましい実施形態では、真空チャンバは、ターボ分子ポンプで排気され、フォアライン排気は、隔膜ポンプによって提供される。そして、回転ポンプの使用を避けることによって、システムの全体のサイズおよび重量は、かなり低減でき、加えて、衝突冷却として周知の現象が、期待されるよりもはるかに低い圧力で、小型イオンガイドで高効率で生じる。
【解決手段】大気圧イオン化源に結合できる小型質量分析計が、表現される。イオンは、大気圧または低真空の領域から小さなオリフィスを通り抜け、それらが非常に短い差動排気イオンガイドを通過するとき、効率の良い衝突冷却を受ける。低エネルギーイオンの狭いビームは、小さな開口を通り抜けて、質量分析器を含む別個のチャンバに入る。
【解決手段】大気圧イオン化源に結合できる小型質量分析計が、表現される。イオンは、大気圧または低真空の領域から小さなオリフィスを通り抜け、それらが非常に短い差動排気イオンガイドを通過するとき、効率の良い衝突冷却を受ける。低エネルギーイオンの狭いビームは、小さな開口を通り抜けて、質量分析器を含む別個のチャンバに入る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、小型質量分析計システムに関し、詳しくは大気圧イオン化源に結合できるシステムに関する。典型的には、エレクトロスプレーイオン化法および化学イオン化法が、大気圧でイオンを発生させるために使用される。分析用サンプルはしばしば、溶媒中の1つまたは複数の被分析物の溶液として提示される。本発明はより詳しくは、小さな真空ポンプで達成可能な感度を最大にする有利なシステムアーキテクチャに関する。高真空に排気しなければならないガス負荷は、非常に短いイオンガイドを含む差動排気チャンバの使用によって制限される。イオンガイドは、イオン束を質量分析器に高効率で伝送するために使用される。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、注目する被分析物を検出し、識別するために化学分析の分野で使用される技術である。サンプルは、最初にイオン化しなければならず、その結果成分は次いで、電場、磁場、またはそれらの組合せによる影響を受け、その後にイオン検出器によって検出できる。質量分析器は、低い圧力で動作して、イオンの軌道が中性ガス分子との衝突によるよりもむしろ印加場によって支配されることを確実にする。しかしながら、大気圧で動作するイオン源を使用することは、しばしば便利である。その結果、イオン源からの中性ガス分子および同伴イオンは、小さな開口を通じて真空システムに引き込まれなければならない。大気圧化学イオン化法(APCI)およびエレクトロスプレーイオン化法(ESI)は、広く使用されているそのようなイオン源の2つの一般的な例である。
【0003】
従来の大気圧イオン化(API)質量分析計のサイズおよび重量は、排気システムによって支配され、そして、吸気口を通じて引き込むことができるガスおよび同伴イオンの量を最大にし、同時に質量分析器の領域の圧力をそれの適切な動作と整合するレベルに維持するように設計される。従来の卓上型機器は典型的には、約100kgの重さがあり、かさばる真空ホースを介して据置き型回転ポンプに結合されて、追加の30kgの重さがある。電力消費量は、1キロワットを超える可能性があり、比較的高レベルの熱および雑音が、生じる。
【0004】
真空システムでは、ガスの流量Qは、
Q=SP 式1
によって与えられ、ただしSは、ポンプの速度であり、Pは、圧力である。多くの異なる種類の真空ポンプがあるが、しかしすべての場合において排気速度は、ポンプのサイズおよび重量に関連する。式1によると、大きなポンプが、低い圧力および高いガス処理量を同時に達成するために必要とされる。
【0005】
ターボ分子ポンプが広く採用されるより前は、油拡散ポンプおよびクライオポンプが、質量分析法に必要とされる高真空条件を達成するために使用された。油拡散ポンプは、機械的に単純であり、多くの熱を放散し、直立位置に取り付けなければならず、通常水冷され、1Torr未満のフォアライン(foreline)圧力(背圧)で動作する。クライオポンプは、非常に大きな排気速度を提供するが、しかし液体窒素の供給またはかさばるヘリウム圧縮機を必要とする。ターボ分子ポンプは、機械的に複雑であり、その結果比較的高価である。しかしながら、それらは、コンパクトであり、一般に空冷式であり、任意の向きに取り付けることができる。加えて、小さなおよび中間のサイズのターボ分子ポンプは、高いフォアライン圧力を許容する。
【0006】
低いおよび中間の真空圧力を達成する能力があるポンプは、初期排気、真空インターフェースの直接排気、およびフォアライン排気を提供するのに必要とされる。そのようなポンプはしばしば、粗引きポンプ、またはフォアライン排気に使用されるときは補助ポンプと呼ばれる。油充填回転翼ポンプは、従来の機器で広く使用されている。これらは典型的には、重く、かさばり、騒々しく、頻繁な修理を必要とする。その結果、それらは、機器の本体内に格納しない。非常に軽量でコンパクトな隔膜ポンプは、低ガス負荷応用に利用できる。小さなターボ分子ポンプのためのフォアライン排気を提供するためにしばしば使用されるけれども、それらは、1Torrでまたはその近辺で動作する真空インターフェースの直接排気に適していない。
【0007】
タイプAおよびタイプBと表される初期のシステムアーキテクチャは、図1および2でそれぞれ示される。図1では、大気圧イオン源からのガスおよび同伴イオンは、吸気オリフィスを介して分析チャンバに直接導入される。大きな高真空(HV)ポンプが、質量分析器の適切な動作に必要とされる低い圧力で全ガス負荷を排気するために必要とされる。高真空ポンプは、直接大気圧に排気できないので、フォアラインの圧力は、粗引きポンプによって中間圧力に維持されなければならない。比較的大きな高真空ポンプを使用しても、オリフィスは、ガス流量を管理できるレベルに制限するために非常に小さくする必要がある。例えば、25μm直径の吸気オリフィスは、約1000L/sの速度を持つ高真空ポンプを必要とする。
【0008】
図2では、差動排気が、大量のガスを排気することおよび質量分析器が必要とする低い圧力を達成することのタスクを部分的に分離するために使用される。より大きな吸気オリフィスは、ガス負荷の大部分が第1のチャンバポンプによって比較的高い圧力で排気されるので許容できる。静電レンズは、イオンをチャンバ間開口の方へ集中させるために使用され、それによって第2のチャンバに流入するガス中のイオン濃度を実質的に増加させる。しかしながら、イオンは中性ガス分子と衝突すると散乱されるので、吸気オリフィスとチャンバ間開口との間の距離は、短く保たなければならない。2つの高真空ポンプは、もしタイプAアーキテクチャが採用されたなら必要とされることになる単一ポンプと比べて集団でもそれほど巨大でない。
【0009】
分子線技術および原理が、API質量分析計の設計で応用できることは、後に理解された(例えば、非特許文献1参照)。一般配置は、図3で示され、タイプCと表される。吸気オリフィスを通るガス流の一部分は、初期自由噴流膨張の中心からサンプルを取得するスキマー(skimmer)を通って第2のチャンバに転送される。スキマーが伝送する全ガス負荷の割合は、第1のチャンバの圧力、スキマー吸気口の面積、および吸気オリフィスに対するそれの位置によって決定される。
【0010】
このアイデアの最初の実施形態では、第1のチャンバは、1000L/s拡散ポンプを使用して10-3Torrに排気され、吸気オリフィスは、直径が70μmであり、スキマーは、直径が4mmであり、第2のチャンバは、3000L/sの合計速度を持つ2つのポンプによって排気された。少しの割合のイオンが、第2のチャンバに転送されるけれども、ビームは、十分にコリメートされ、質量分析器への効率的結合にとって理想的である。この配置の不都合は、大きなクラスターおよび液滴が、スキマーを通って伝送される可能性があり、自由な被分析物イオンが、断熱膨張の間に溶媒または周囲水蒸気と凝縮することである。
【0011】
差動排気無線周波数(rf)イオンガイドを用いるAPI質量分析計は、1987年に述べられた(例えば、非特許文献2参照)。この機器の概略図は、図4で示され、タイプDと表される。過去20年の間、このアーキテクチャに基づく設計が、従来の機器の製造業者によって広く採用されてきた。
【0012】
イオンの軌道は、それらが第2のチャンバを通過するときrf四重極イオンガイドによって閉じ込められる。四重極イオンガイドの場合には、場は、共通軸の周りに対称的に配置される4つのロッドによって生成される。各ロッドに印加される電圧は、rfで振動することを必要とされ、隣接ロッドに印加される波形は、反対位相を有する。
【0013】
第1のチャンバは、約1Torrで動作し、そして、回転ポンプで簡便に達成される。図4で示すように、同じ回転ポンプは、第1のチャンバを排気し、2つの高真空ポンプのためのフォアライン排気を提供するために使用できる。この圧力では、高いガス密度が、噴流の連続流を混乱させるショック構造をもたらす可能性があるので、スキマープロファイルは、はるかにより重大である。典型的には、0.75〜2.5mm直径の吸入口を持つスキマーは、200〜350μm直径の吸気オリフィスの数ミリメートル下流に設置される。静電レンズは、イオンをスキマーの入口に集中させ、それによってイオン対中性ガスの比を増加させるためにスキマーの周囲に置かれてもよい。いくつかのシステムでは、ほとんどすべてのイオンは、次の段に伝送される。しかしながら、図3に関連して述べた問題、すなわちクラスターイオンの形成および液滴の伝送を考慮して、いくつかの製造業者は、しばしば吸気開口からの視線軌道がないような方法で、マッハ(Mach)ディスクの下流にサンプル取得オリフィスまたは円錐を置くことを好んだ。これが事実であるときは、電場は、イオンをサンプル取得オリフィスまたは円錐の方へ引き付けるように印加される。
【0014】
静電イオンレンズよりもむしろrfイオンガイドを組み込むタイプBアーキテクチャの代替実施形態は、図5で示され、タイプEと表される。第1のチャンバは、イオンガイドを含み、適切な高真空ポンプによって10-4〜10-2Torrの圧力に排気される。ガスおよびイオンは、吸気オリフィスを通り抜け、その後イオン軌道は、それらが第1および第2の真空チャンバ間の開口を通り抜けることができるように制約される。
【0015】
最近、一製造業者は、高い圧力で動作する短いイオンガイドに有利である伝統的なオリフィス−スキマーインターフェースを断念した。その配置は、図6で示され、タイプFと表される。吸気オリフィスのサイズ、第1のイオンガイドの場半径、および第1のチャンバの圧力は、自由噴流膨張がイオンガイド内に大部分が含まれるように選択される。かなりの割合のイオン束が、捕獲され、第2の真空チャンバに伝送されるが、一方中性ガスは、ロッド間のすき間を通って流出する。第1のイオンガイドは、数Torrの圧力で動作し、結果としてその後に次の真空チャンバで第2のイオンガイドが続き、そして、イオンが質量分析される前により多くのガス負荷を除去する。
【0016】
ますます、小さく軽量の分析機器が、工業プロセス監視、保安用途、毒性または不法物質の検出、および遠隔または危険な環境での配備に必要とされる。加えて、伝統的な研究室で分析化学者が使用している装置の増大する量は、機器が占める直線状の作業台スペース、熱および雑音発生、初期購入価格、および運用コストなどの要因のより多大な検討を強要してきた。その結果、従来のシステムよりもはるかに小さいけれども、有用なレベルの感度の能力がある小型API質量分析計の必要性がある。特定の機器の検出効率は、それの設計の詳細に依存するが、最終的な感度は、吸気口を通って引き込むことができるガスおよび同伴イオンの量によって制限される。あいにく、従来の機器に使用されるシステムアーキテクチャの穏当な縮小でさえ、許容できるガス負荷の著しい低減をもたらす。中間の真空度を達成するために普通使用されるポンプのサイズおよび重量は、都合よくスケーリングしないので、すべてのポンプを単一の小さな筐体内に収容することは、特に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第7786434号明細書
【特許文献2】米国特許出願第12/380,002号明細書
【特許文献3】米国特許出願第12/220,321号明細書
【特許文献4】米国特許出願第12/284,778号明細書
【特許文献5】米国特許出願第12/001,796号明細書
【特許文献6】米国特許出願第11/810,052号明細書
【特許文献7】米国特許出願第11/711,142号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】M.Yamashita and J.B.Fenn,J.Phys.Chem.88,1984,4451−4459
【非特許文献2】J.A.Olivares,N.T.Nguyen,C.R.Yonker,and R.D.Smith,Anal.Chem.,59,1987,1230−1232
【非特許文献3】the Journal of Microelectromechanical Systems Vol.19(6),2010,1430−1443
【発明の概要】
【0019】
これらのおよび他の問題は、本発明の教示による質量分析計システムによって取り組まれる。システムは、APIイオン源が生成するイオンが、吸気オリフィスを通り抜け、イオンガイドを含む真空チャンバに直接導入されるように構成できる。本発明の好ましい実施形態では、この真空チャンバは、ターボ分子ポンプで排気され、フォアライン排気は、隔膜ポンプによって提供される。回転ポンプの使用を避けることによって、システムの全体のサイズおよび重量は、かなり低減できる。
【0020】
加えて、衝突冷却として周知の現象が、期待されるよりもはるかに低い圧力で小型イオンガイドで高効率で生じることが発見された。動作圧力は、従来のターボ分子ポンプを使用して理想的に達成され、そして、短いイオンガイドに起因して起こり得るコンダクタンス制限を十分考慮して真空システムに結合しなければならない。
【0021】
それに応じて、複数の真空チャンバを備えた小型質量分析計システムが、提供され、システムは、
a.実質的に大気圧で動作し、エレクトロスプレーイオン化法、マイクロスプレーイオン化法、ナノスプレーイオン化法、化学イオン化法、またはそれらの派生法を採用するイオン源と、
b.システムのイオンガイド真空チャンバ内に提供されたrfイオンガイドであって、イオンガイドは、イオンガイド真空チャンバへの入口と出口との間にイオン通路を規定し、イオンガイドの寸法および形状は、ガスがそれを通ってイオンガイドから流出できる開口が10cm2未満の全面積を有することと、
c.システムの質量分析器真空チャンバ内に提供された質量分析器と、
をさらに備え、
rfイオンガイドおよび質量分析器を含む真空チャンバは、約5×10-2Torrよりも低い圧力で作用可能に排気され、システムの他の真空チャンバは、提供される場合には、約50Torrよりも高い圧力で作用可能に排気される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本出願は、付随する図面を参照して今から述べられることになる。
【0023】
【図1】ガスおよび同伴イオンを、APIイオン源から質量分析器を含む真空チャンバに直接導入する、従来技術の単一段システムを示す図である。
【図2】ガス負荷を排気することおよび質量分析器を低い圧力に維持することのタスクが部分的に分離され、静電イオン光学素子が2つのチャンバを隔てる開口の方へイオンを集中させるために使用される、従来技術の差動排気システムを示す図である。
【図3】スキマーが、分子線方法論に従って、初期自由噴流膨張の中心からガスおよび同伴イオンのサンプルを取得する、従来技術の差動排気システムを示す図である。
【図4】イオンの軌道が、第2の真空チャンバを通過するとき、rfイオンガイド内に閉じ込められる、従来技術の差動排気システムを示す図である。
【図5】イオンの軌道が、第1の真空チャンバを通過するとき、rfイオンガイド内に閉じ込められる、従来技術の差動排気システムを示す図である。
【図6】イオンが、吸気開口から現れた後、高圧力rfイオンガイドによって捕獲され、集中される、従来技術の差動排気システムを示す図である。
【図7】市販の回転翼、スクロール、およびピストンポンプの範囲について1Torrでのポンプ速度に対するポンプ重量のプロットを示す図である。
【図8】本教示による例となる実施形態の概略図を示す図である。
【図9】本教示による第2の例となる実施形態の概略図を示す図である。
【図10】従来技術で述べるように、イオンガイド内のイオン軌道への衝突冷却の効果を示す図である。
【図11】イオンガイドの近辺で測定されるように、どのように信号レベルが圧力に応答するかを示す図である。
【図12】従来技術から抽出されるデータと一緒に、チャンバ圧力とイオンガイド長の積に対してプロットした信号レベルを示す図である。
【図13】どのように吸気開口が、個別構成要素に別々にバイアスをかけることができるように取り付けることができるかを示す図である。
【図14】どのように差動排気流れ分割インターフェースが、個別構成要素に別々にバイアスをかけることができるように取り付けることができるかを示す図である。
【図15】遅延バイアス電圧がイオンガイドに印加されるとき、どのように信号レベルが応答するかを示す図である。
【図16】遅延バイアス電圧が分析四重極に印加され、イオンガイドの近辺の圧力が2つの異なる値に設定されるとき、どのように信号レベルが応答するかを示す図である。
【図17】遅延バイアス電圧が分析四重極に印加されるとき、異なる初期イオンエネルギーの範囲に対応する信号レベルがどのように応答するかを示す図である。
【図18】どのようにガスが、小型四重極イオンガイド内から流出することができるかを示す図である。
【図19】図9に関連して述べるアーキテクチャに従って構成されたシステムを使用して記録された質量スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
従来のサイズの機器について、タイプDアーキテクチャは、タイプEアーキテクチャよりも圧倒的に好ましいことが当業者には理解されよう。最新機器について、典型的な吸気流量は、600標準立法センチメートル毎分(sccm)であり、典型的なイオンガイド圧力は、8×10-3Torrであり、それでこれらのパラメーターは、比較の目的で採用するものとする。表(1)では、イオンガイドを含むチャンバを排気するのに必要なターボ分子ポンプ、および全システムに必要とされる粗引きポンプのいくつかの特性が、与えられる。タイプDの場合には、スキマーは、1Torrで動作し、ガス負荷の10%を通過させ、タイプEの場合には、950L/sのターボ分子ポンプが必要とするフォアライン圧力は、2Torrであると仮定された。
【0025】
【表1】
【0026】
タイプDアーキテクチャよりもむしろタイプEアーキテクチャを採用することの深刻な不利益は、はるかにより大きく、より重く、その結果より高価なターボ分子ポンプを卓上型ユニットの筐体内に収容しなければならないことであることが当業者にはわかり、理解されている。真空チャンバの直径は、実効排気速度が低減コネクタによって著しく損なわれないために、ポンプの直径にほぼ等しくなければならないこともまた理解されよう。これは、機器のサイズ、重量、およびコストのさらなる増加をもたらす。粗引きポンプが常に据置き型であり、真空ホースで主要機器に結合されることを考慮すると、この構成要素のサイズおよび重量は、あまり重要でないことが理解されよう。
【0027】
もし吸気オリフィスを通る流量が、50sccmに低減されるならば、イオンガイドを含むチャンバを排気するのに必要なターボ分子ポンプ、および全システムに必要とされる粗引きポンプの特性は、表(2)で与えるようなものである。タイプDの場合には、スキマーは、1Torrで動作し、ガス負荷の10%を通過させ、タイプEの場合には、80L/sのターボ分子ポンプが必要とするフォアライン圧力は、10Torrであると仮定された。
【0028】
【表2】
【0029】
小型システムについては、粗引きポンプを含むすべてのポンプは望ましくは、単一の筐体内に格納されることを考慮すると、タイプD機器が、タイプE機器よりも著しく重くなることは明らかである。これの理由は、タイプDアーキテクチャで第1の真空チャンバを排気するのに必要な粗引きポンプの重量が、非常に不利にスケーリングすることである。一般的な方法によると、第1の真空チャンバの動作に最適な圧力は、約1Torrである。図7では、市販の粗引きポンプ(回転翼、スクロール、およびピストンポンプ)の重量が、1Torrでのそれらの排気速度に対してプロットされている。吸気流量が、600から50sccmに低減されるとき、必要とされる粗引きポンプの重量は、35kgから約10kgに低減される。その結果、多くの信号が、粗引きポンプのサイズの穏当な低減を達成するために犠牲にされなければならない。タイプD機器の第1の段を1Torrよりも高い圧力で動作させようとすることから生じる困難な状況には、以下のことが含まれる。
【0030】
(a)イオンをスキマー吸気口の方へ集束させるまたはイオンをサンプル取得オリフィスを通じて引き込むために使用される静電光学素子は、散乱および粘性流の影響の増加に起因して効率が悪くなる。
【0031】
(b)もしイオンガイドの動作圧力および第2の段のポンプの排気速度が、同じに保たれることになるならば、サンプル取得またはスキマーオリフィスは、次の真空段へのガスの流量を制限するためにより小さくしなければならない。
【0032】
(c)もしスキマーが、自由噴流膨張のマッハディスクに穴を開けるために使用されるならば、噴流の連続流を混乱させるショック構造を避けることは、ますます困難になり、精密に機械加工されたスキマープロファイルを必要とする。
【0033】
タイプEアーキテクチャでは、1Torrの圧力でまたはその近辺であることが必要な領域はなく、小さく軽量の隔膜ポンプが利用できることの利点を受け取ることができる。大部分のポンプについては、排気速度は、圧力がポンプで達成できる最終のまたは最低の圧力に近づくと、無視できるほどの値に減少する。回転ポンプは典型的には、範囲5×10-3〜1×10-2Torrの最終圧力の能力があり、1Torrでそれらの全公称排気速度をほとんど達成することができる。対照的に、隔膜ポンプで可能な最終圧力は一般に、2〜5Torrより低いことはなく、全公称排気速度は、10〜20Torrを超える圧力で達せられる。その結果、隔膜ポンプは、1Torrの圧力でまたはその近辺で大量のガスを排気するのに適していない。しかしながら、小さなターボ分子高真空ポンプは、それらが10〜30Torrの範囲のフォアライン圧力で動作することを可能にするホルベックドラッグ(Holweck drag)段を使って利用できる。従って、隔膜ポンプは、これらのターボ分子ポンプのための補助ポンプとしての使用に理想的である。方程式1を参照すると、所与のガス負荷について、フォアライン排気速度は、もし動作圧力が1Torrから10Torrに増加するならば、10分の1に低減できることが理解されよう。
【0034】
本発明者らは、タイプEアーキテクチャが、従来のサイズのシステムにとってまったく魅力がないけれども、小型システムにとっては、それは、実行可能で有利な解決策であることを認識している。特定の組の条件について以前に軽視されたアーキテクチャのこの有利な選択は、小型システムで生じる特有の組の条件の本発明者らによる洞察から生じる。
【0035】
図8は、本発明の例となる実施形態の概略図を示す。本教示の文脈内で、大気圧イオン源803は、イオンを発生させるために使用される。本教示内のイオン源は、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、マイクロスプレーイオン化法、ナノスプレーイオン化法、化学イオン化法(CI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、大気圧光イオン化法(APPI)、グロー放電イオン化法、実時間での直接分析法(DART)またはそれらの派生法の1つもしくは複数を備えてもよい。本文脈内では、それらの派生法には、二次エレクトロスプレーイオン化法(SESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)、および脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI)が含まれる。
【0036】
イオン源803は、吸気オリフィス802を通ってイオンガイドチャンバ820、すなわちシステムの第1の真空チャンバに引き込まれるガスおよび同伴イオン804を作用可能に提供する。イオンは、このチャンバ820内の小型四重極イオンガイド831によって、第1の真空チャンバ820および質量分析器チャンバ810、すなわち質量分析器812が提供される第2の真空チャンバを結合する開口822の方へ向けられる。第1のチャンバ820は、ターボ分子ポンプ845によって1×10-3から5×10-2Torrの圧力に排気され、一方第2のチャンバ810は、第2のターボ分子ポンプ840によって1×10-6から1×10-3Torrの圧力に排気される。両方のターボ分子ポンプのためのフォアライン排気は、真空ホース860を介して隔膜ポンプ870によって提供される。単一チャンバ内の単一rfイオンガイドの性能は、それら自体のチャンバに各々提供される2つ以上の個々のrfイオンガイドによって再現されてもよいことが理解されよう。
【0037】
開口822を通り抜けるイオンは、この例となる実施形態では、四重極質量フィルター812によってそれらの質量対電荷比に従ってフィルターにかけられ、次いで適切な検出器811を使用して検出される。他の質量フィルターおよび分析器が使用されてもよいことは、当業者には理解されよう。これらには、円筒形、ドーナツ形、ポール(Paul)、および直線形イオントラップ、交差電場および磁場を使用するフィルター、磁気セクター分析器、ならびに飛行時間分析器が含まれるが、限定はされない。質量フィルターまたは分析器はまた、機器の全体のサイズを最小化するために、またそのような分析器およびフィルターは一般に高い動作圧力を許容もするので、小型と考えてもよいサイズでもある。
【0038】
概略図では示さないけれども、四重極質量フィルターは望ましくは、直流(dc)およびrf成分から成る波形を発生させる電力供給部に作用可能に接続される。望ましくは、イオンガイドは、rf成分だけがロッドに印加されるように同じ供給部に容量結合される。固定dcバイアスは、大きな抵抗器を通じてイオンガイドの4つのロッドすべてに印加されてもよい。波形振幅が、質量スペクトルを取得する過程で走査されるとき、固定割合のrf成分が、イオンガイドに印加される。この割合は、減結合コンデンサ、バイアス抵抗器、および浮遊容量を備えるネットワークによって決定される。別法として、イオンガイドは、固定振幅のrf波形を発生させる独立供給部に接続されてもよい。
【0039】
四重極質量フィルターで達成できる最大分解能は、イオンがフィルター中にある間に受けるrfサイクル数によって制限される。典型的には、従来のサイズのフィルターは、約1MHzで動作する。同じ分解能を達成するためには、小型四重極フィルターは、より短いロッド長を補償するためにより高い周波数で動作しなければならない。
【0040】
吸気オリフィス802および開口822は望ましくは、これらの構成要素、ならびにイオンガイド831、質量フィルター812および検出器811に個々にバイアスをかけることができるように、電気的に絶縁される。これらのバイアスは次いで、イオン伝送を最適化し、衝突を誘発してクラスター分離をもたらし、イオンエネルギーを設定するように調整されてもよい。
【0041】
小型システムでは、イオンガイド831の長さは、多分ポンプ845の直径未満のこともある。これが事実であるときは、この発明の教示と整合する以下の3つの配置がある。
【0042】
(a)ポンプ845は、ロータ847の軸がイオンガイド831の軸に平行に位置する状態で、図8で示すように置かれてもよい。第1のチャンバ820をポンプ845に接続するダクト827は望ましくは、断面が長方形であり、イオンガイド831の長さにほぼ等しい幅およびポンプの直径にほぼ等しい高さを有する。
【0043】
(b)ポンプ845は、ロータ847の軸がイオンガイド831の軸に垂直に位置する状態で置かれてもよく、中空円錐形、正方ピラミッド形または長方ピラミッド形の錐台を使用して真空チャンバ820に接続されてもよい。
【0044】
(c)ポンプ845は、ロータ847の軸がイオンガイド831の軸に垂直に位置する状態で置かれてもよく、低減コネクタなしで第1のチャンバ820に直接接続されてもよい。この場合には、外壁828と反対側の隔壁829との間の距離は、ポンプの直径よりも大きいまたは等しくなければならない。イオンの軌道が、第1のチャンバの通過の間閉じ込められるためには、吸気口かもしくは質量フィルター、または吸気口および質量フィルターの両方は、再入可能でなければならない。これは、例えば外壁、もしくは隔壁、または外壁および隔壁の両方を、それらがシルクハットプロファイルを有するような形にすることによって達成できる。
【0045】
図8の配置では、システムは、第1および第2の真空チャンバを備える2真空チャンバシステムであり、各々は、約5×10-2Torrよりも低い圧力で排気されることが理解されよう。真空チャンバの各々およびそれらの関連するポンプは望ましくは、卓上型機器として提供できる単一ケーシングまたは筐体800内に適合する寸法にされ、互いに対して向きを合わせられる。
【0046】
図9は、本発明の第2の例となる実施形態の概略図を示す。この配置は、追加のチャンバ905がイオンガイドの上流に提供される点で図8のそれと異なることが理解されよう。このチャンバ905は、真空インターフェースで従来出会うよりもはるかに高い圧力で作用可能に提供され、本発明の精神から逸脱することなくガスおよびイオンの流れを分割するために使用されてもよい。3チャンバシステムのこの例となる実施形態は、約5×10-2Torrよりも低い圧力で排気される第1および第2のチャンバならびに約50Torrの圧力で排気される第3のチャンバを備えることが理解されよう。本教示が、追加のチャンバをrfイオンガイドおよび質量分析器チャンバに提供する場合には、そのときこの追加の真空チャンバは、従来周知のことでもあった圧力をはるかに超える圧力で動作することが理解されよう。本教示によるシステムの構成物内にスキマーがないことはまた、ある従来技術の構成とも区別される。
【0047】
提供される場合には、この追加のチャンバは望ましくは、本願の譲受人に譲渡された特許文献1および非特許文献3で述べるように、第1の壁906と第2の壁907との間の距離がおよそ1ミリメートルであるように構成される。システムは、大気圧イオン化源803によって発生されるイオン804が、それらの質量対電荷比に基づく分析のために質量フィルターに導入されるより前に真空インターフェース905およびイオンガイド831を通って作用可能に導入できるように構成され、真空インターフェース、イオンガイドおよび質量分析計の各々は、ケーシング900内に提供される。図9で示すように、少なくとも真空インターフェースチャンバ905およびイオンガイドは、異なるポンプに結合される。この例となる事例では、インターフェースチャンバ905は、隔膜ポンプ975に結合され、一方イオンガイドは、ターボ分子ポンプ845に結合される。
【0048】
四重極イオンガイドの場合には、サドルポテンシャル(saddle potential)が、ロッドに印加される電圧によって任意の瞬間に生成される。イオンの軌道は、初期半径方向変位および速度、イオンが場に入るときのrf位相、ならびに、
【0049】
【数1】
【0050】
として定義されるパラメーターqによって決定され、ただしVおよびωは、それぞれrf波形の振幅および周波数であり、mは、イオンの質量であり、eは、イオンの電荷であり、r0は、場半径である。安定軌道は、周期的であり、高周波数の微視的運動およびより低い周波数の永年または巨視的運動の仮定と考えることができる。0.908よりも大きいqの値では、軌道は、不安定であり、イオンは、ロッドと衝突すると放電する。qの低い値では、微視的運動の振幅は、永年成分と比較して小さく、ほぼ正弦波軌道が、調和振動子の特徴を示すと考えることができる。
【0051】
サドルポテンシャルの向きは、印加rf波形に応答して急速に回転するけれども、イオンは、あたかも静的ポテンシャル井戸内にトラップされているかのように振る舞い、その静的ポテンシャル井戸は通常、それが時間平均現象であるという事実を認めて擬ポテンシャル井戸と呼ばれる。正弦波軌道の振幅は、半径方向運動と関連する全イオンエネルギーの成分を表す。初期エネルギーのイオンと中性ガス分子との間の衝突は、イオンがイオンガイドを通過するときエネルギーを失う原因になることは周知である。その結果、半径方向振動の振幅および軸方向の速度は、着実に減少し、プロセスは、衝突冷却と呼ばれる。もし衝突数が十分に高いならば、低エネルギーイオンは、中心軸の近辺に集まり、小さな開口を通ってチャンバから出ることができる。中心軸に近い初期位置および小さな半径方向速度成分を持つイオンが、優先的に伝送されるので、低エネルギーイオンの出現ビームは、同軸四重極フィルターを使う質量分析に理想的に適しており、軸速度が低いときは、より高い分解能が、達成できる。典型的なイオン軌道への衝突冷却の効果は、図10で例示される。中心線から遠くに初期移動したイオンの半径方向変位1001は、イオンがイオンガイド1002を通過するにつれて着実に減少することが示される。
【0052】
12.4mm直径のロッドを使用して構成される15cm長さの四重極イオンガイドについては、圧力が約6×10-3から約8×10-3Torrの間であるとき、イオンの90%が、イオンガイドの出口の2.5mm直径の開口を通り抜けることができるほどに十分に冷却されることは、従来技術から周知である。その上、従来技術は、最大伝送に必要とされる圧力が、関係式P×L≒0.1Torr・cmを通じてイオンガイドの他の長さに拡張できることを教示し、ただしPは、イオンガイドチャンバの圧力であり、Lは、イオンガイドの長さである。
【0053】
本発明者らは、従来技術によって示されるよりもはるかに低いP×L値で、利用できるイオン束の大部分が、2.5mm直径のロッドを使用して構成される2cm長さの小型四重極イオンガイドを使用して0.7mm直径の開口を通って伝送できることを発見した。加えて、30eVの初期軸方向エネルギーを持つイオンは、単位分解能が小型四重極質量フィルターで達成できる程度にまで冷却される。
【0054】
図11では、レセルピンの5μg/ml溶液を使用して得られた信号レベルが、イオンガイドの近辺で測定された圧力に対してプロットされる。イオンガイドの入口でのイオンエネルギーは、10eVであり、四重極質量フィルターは、単位分解能で動作し、容量性分圧器は、イオンガイドについてq≒0.5となるように設定された。圧力は、イオンガイドから十分離れて取り付けられたリーク弁を通じて空気を真空チャンバに流出させることによって変えられた。圧力が増加するにつれて、m/z=609での信号レベルにわずかな減少がある。
【0055】
チャンバ間開口を通るイオン伝送の効率は、電気的に絶縁されたチャンバ間開口プレートからアースへの電流流量を、開口の下流に置かれたファラデー(Faraday)プレートからアースへの電流流量と比較することによって決定された。基準線補正は、イオンガイドに高い正の値のバイアスをかけることによってなされた。四重極質量フィルターは、除去しなければならなかったけれども、イオンガイドに印加されるrf波形の振幅は、m/z=609での分析と整合する値に設定された。この方法を使用すると、伝送効率は、80%を超えることが見出された。
【0056】
図12では、小型イオンガイド1201を使用して記録された信号レベルが、P×Lに対してプロットされ、その結果その挙動は、従来技術1202から抽出されたデータの組と比較でき、そして、100%に近い伝送が0.1Torr・cmで達せられるまで、信号がP×Lの増加とともに増加すると期待されることを示す。従って、従来技術に基づくと、小型イオンガイドで観測される低いP×Lでのすでに高い伝送効率およびP×Lの増加にともなう信号レベルのわずかな下落傾向は、まったく予期しないことである。
【0057】
吸気オリフィスプレートを支持するための例となる配置は、図13で示される。吸気オリフィスプレート1301は、非導電性スペーサー1303を使用してインターフェースフランジ1302から隔てられ、その結果それは、インターフェースフランジに関して電気的にバイアスをかけることができる。理想的には、インターフェースフランジもまた、真空チャンバから電気的に絶縁され、その結果それもまた、別個にバイアスをかけることができる。動作時には、開口プレートのバイアスは望ましくは、インターフェースフランジのバイアスよりもはるかに高い。吸気オリフィス1304を通り抜けるイオンの初期運動エネルギーは、これらの2つのバイアス間の差によって決定される。もしこれが十分に高いならば、中性ガス分子との衝突は、初期自由噴流膨張の間に形成されたどんなクラスターイオンもイオンガイド831に導入される前に壊される原因になる。同様の配置は、図14で示され、ただしここでは、単純なオリフィスプレートは、差動排気流れ分割インターフェース1401で置き換えられている。吸気オリフィス1304を通り抜けるガスおよび同伴イオンのいくらかは、望ましくは小さな隔膜ポンプを使用して、真空ホース1403を介して内部チャンバ1402から排気される。
【0058】
ポテンシャル障壁を乗り越えるのに十分なエネルギーを持つイオンだけが、伝送されるので、遅延dcバイアスが4つのロッドすべてに印加されるとき、イオンガイドは、粗い高域通過フィルターになる。イオンエネルギー分布の近似形は、印加遅延バイアスに対する信号レベルのプロットから決定できる。図15は、バイアス電圧が増加するにつれてm/z=609での信号レベルがどのように応答するかを示す。1つの組のデータ1501は、+10Vのインターフェースフランジバイアスに対応し、もう一方の組のデータ1502は、+15Vのインターフェースフランジバイアスに対応する。両方の場合に吸気オリフィスは、インターフェースフランジよりも60V高いバイアスに保持され、チャンバ間開口プレートバイアスは、イオンガイドバイアスに等しく設定され、四重極質量フィルターは、イオンガイドよりも1V小さいバイアスをかけられた。信号を低レベルに減衰させるのに必要とされる遅延バイアスは、インターフェースフランジバイアスにほぼ等しいので、後者は、イオンガイドに導入されるイオンのエネルギーを設定すると結論できる。
【0059】
同じ実験が、チャンバ間開口から出るイオンのエネルギー分布を決定するために四重極質量フィルターを使用して繰り返された。図16は、四重極質量フィルターに印加される遅延バイアスが増加するにつれてm/z=609での信号レベルがどのように応答するかを示す。1つの組のデータ1601は、5×10-3Torrのイオンガイドに近い圧力に対応し、もう一方の組のデータ1602は、7×10-3Torrのイオンガイドに近い圧力に対応する。イオンガイドへの入口でのイオンエネルギーは、+10Vのバイアスをインターフェースフランジに印加することによって10eVに設定された。信号を減衰させるのに必要とされる遅延バイアスは、10Vよりもはるかに小さいので、イオンのエネルギーは、イオンガイドを透過する間に著しく減少していると結論できる。圧力が5×10-3から7×10-3Torrに増加するときにどんなさらなる冷却もないことは、衝突冷却の利点がより低い圧力で完全に実現できることを示す。
【0060】
イオンガイドへの入口でのイオンエネルギーを変える効果は、図17で実証される。上記のように、各組のデータは、四重極質量フィルターに印加される遅延バイアスに対するm/z=609での信号の応答を表す。各々の場合のイオンエネルギーは、表示される通りであり、イオンガイドに近い圧力は、全体にわたって5×10-3Torrであった。初期イオンエネルギーが30eVであるときでさえ、四重極質量フィルターに到達するイオンの90%は、3eV未満のエネルギーを有する。イオンエネルギーは、たった0.01Torr・cmのP×L値での衝突冷却によって広範囲に低減される。
【0061】
図8での802または図9での908などのオリフィスから流出するガスの流れは最初、オリフィスの平面に垂直な軸に沿ってイオンガイド中に向けられる流線をたどる。初期自由噴流膨張の境界を規定するショック構造の厚さは、およそいくつかの局所平均自由行程長であることが当業者には理解されよう。結果として、1Torrまたはその近辺の領域への膨張の特徴を示すショックボトル(shock bottle)は、特に小型システムの小さな寸法を考慮すると、より低い圧力で拡散し、不明確になる。イオンガイドの内部では、分子間の衝突が、散乱を引き起こす。加えて、分子は、4つのロッドの表面と衝突する。図18で示すように、イオンガイドの内部容積に導入されたガスはすべて、入口1801a、出口1801b、または電極1803a〜d間のすき間1802a〜dを通って結局出なければならない。非常に少しの割合だけが、小さなチャンバ間開口を通り抜ける。局所ガス密度は、イオンガイドの長さに沿って着実に減少すると期待される。四重極イオンガイド、または実際は任意の多極イオンガイドの場合には、ガスがそれを通って流出できるロッド間のすき間は各々、1つの寸法がロッドの長さによってかつもう一方の寸法が2つの隣接ロッド間の最近接距離によって規定されるコンダクタンス制限長方形開口を提示すると仮定される。もしイオンガイドが、従来技術で述べるように、長さ15cmおよび直径12.4mmのロッドを使用して構成された従来の四重極イオンガイドであるならば、ガスは、約27cm2の全面積を通って流出することができる。しかしながら、例えば2cmの長さおよび2.5mmの直径を有するロッドを使用して構成された小型イオンガイドの場合には、全面積は、たった0.73cm2である。このロッドの長さおよび直径は、小型イオンガイドを構成するために使用されてもよいロッドの寸法の例となることが理解されよう。本教示によると、イオンガイドの寸法および形状は、ガスがそれを通ってイオンガイドから流出できる開口が10cm2未満の全面積を有するようなものである。具体的な構成は、全面積が6cm2未満であるような寸法、実際は全面積が2cm2未満であるような寸法を含んでもよい。
【0062】
イオンガイドなどの複合構造内のガス流の進展は、適切なシミュレーションの使用を通じてのみ完全に取り組むことができる。しかしながら、いくつかの態様は、真空システムでのガス流の基本方程式を使用して例示できる。分子流圧力レジーム(regime)では、ガスがそれを通り抜けることができる任意の平面開口のコンダクタンスCは、
C=11.6A 式3
を使用して計算でき、ただしAは、開口の面積である。それ故に、第一近似では、上述の従来のイオンガイドは、313L/sのガス源とポンプとの間の全コンダクタンスを提示し、一方上述の小型四重極イオンガイドは、たった8.5L/sの全コンダクタンスを提示し、そして一般に、小型イオンガイドの例となると理解されよう。シミュレーションまたは他の計算は、他のイオンガイド設計のコンダクタンスについての概算、または実際には多極イオンガイドのコンダクタンスについてのより正確な概算をもたらすことになる。それにもかかわらず、本教示によると、小型イオンガイドの寸法および形状は、ガスがそれを通って流出できるすき間が100L/s未満のコンダクタンスを提示するようなものである。具体的な構成は、全コンダクタンスが10L/s未満であるような寸法および形状を含んでもよい。
【0063】
コンダクタンスを通るガスの流量Qは、
Q=C(P1−P2) 式4
によって上流圧力P1と下流圧力P2との間の差に関連している。
【0064】
もし吸気オリフィスを通るガスの流量が、従来技術で述べたように0.93Torr・L/sであり、チャンバのバックグラウンド圧力が、8×10-3Torrであるならば、そのとき従来の四重極イオンガイド内の近似的圧力は、1.1×10-2Torr、すなわちバックグラウンド圧力よりもわずかに高いだけである。しかしながら、小型イオンガイドの場合には、もし同じガス流が使用されるならば、これは、1.2×10-1Torrのはるかにより高い値に増加する。これらの計算に基づいて、本発明者らは、もしガス流がイオンガイドのサイズでスケーリングされるならば、従来技術の教示が小型システムに移転できるだけであることに気が付いた。
【0065】
本発明者らはまた、吸気口からの対流束および小型イオンガイド内の高い圧力が、イオンガイドの近辺で測定される圧力に基づいて期待されることになるよりも著しく多い、図9での質量分析器チャンバ810への流量をもたらすことを発見した。その結果、ポンプ840の排気速度は、予想されるよりも高くなければならない。吸気オリフィス、開口、およびポンプサイズの特定の組合せについては、イオンガイドの近辺でおよび質量分析器チャンバで通常動作中に測定された圧力は、それぞれ5.9×10-3Torrおよび6.2×10-5Torrであることが見出された。開口908からの対流が止められ(吸気開口902を塞ぐことによって)、イオンガイドの近辺での圧力が、遠隔リーク弁を通じてイオンガイドチャンバ820に流れ出るガスによって5.9×10-3Torrに回復したときは、質量分析器チャンバ810の圧力は、たった4.7×10-5Torrであった。これは、質量分析器チャンバの圧力が、第1の開口908からのガスの対流束および小型イオンガイド内の高いガス圧力の結果として、4.7×10-5Torrから6.2×10-5Torrに増加することを実証する。ベース圧力が1.9×10-5Torrであったと仮定すると、これは、約50%の増加を表す。
【0066】
図19は、図9に関連して述べたアーキテクチャに従って構成されたシステムを使用して記録された、レセルピンの質量スペクトルを示す。真空チャンバ905、820、および810の圧力は、それぞれ約100Torr、5×10-3Torr、および5×10-5Torrであった。システム全体は、単一の筐体内に含まれ、27kgの重さがあり、そのうち7.5kgは、真空ポンプに帰することがある。
【0067】
例となる配置が、本教示の理解に役立つように本明細書で述べられているが、変更が、本教示の精神および/または範囲から逸脱することなくなされてもよいことが理解されよう。そのために、本教示は、次に来る特許請求の範囲の観点から必要と見なされる限りにおいてのみ限定されると解釈すべきであることが理解されよう。
【0068】
本教示の文脈内で役立つように用いた構成要素の仕様が、本明細書で述べられなかった場合には、本明細書で述べたそれなどの小型機器は、その内容が参照のために本明細書に組み込まれる、次の本願の譲受人に譲渡された米国出願、すなわち特許文献2、3、4、5、6、および7の1つまたは複数で述べられるそれらなどのマイクロ工学的機器を使用して有利に製造されてもよい。本発明の文脈内で、マイクロ工学的術語もしくはマイクロ工学またはマイクロ加工され、もしくはマイクロ加工は、およそミリメートル以下の寸法の三次元構造およびデバイスの加工を定義することを意図している。
【0069】
その上、単語備える/備えているは、この明細書で使用されるときは、言明された特徴、整数、ステップまたは構成要素の存在を指定することになるが、しかし1つもしくは複数の他の特徴、整数、ステップ、構成要素またはそれらの群の存在または追加を排除しない。加えて、本明細書の文脈内で、単語第1、第2および第3は、真空チャンバを述べるために使用されるときは、複数のチャンバの特定の個々の1つの存在だけのことであり、必ずしもイオン移動の方向に関するそれらの相対位置のことではない。
【技術分野】
【0001】
本出願は、小型質量分析計システムに関し、詳しくは大気圧イオン化源に結合できるシステムに関する。典型的には、エレクトロスプレーイオン化法および化学イオン化法が、大気圧でイオンを発生させるために使用される。分析用サンプルはしばしば、溶媒中の1つまたは複数の被分析物の溶液として提示される。本発明はより詳しくは、小さな真空ポンプで達成可能な感度を最大にする有利なシステムアーキテクチャに関する。高真空に排気しなければならないガス負荷は、非常に短いイオンガイドを含む差動排気チャンバの使用によって制限される。イオンガイドは、イオン束を質量分析器に高効率で伝送するために使用される。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、注目する被分析物を検出し、識別するために化学分析の分野で使用される技術である。サンプルは、最初にイオン化しなければならず、その結果成分は次いで、電場、磁場、またはそれらの組合せによる影響を受け、その後にイオン検出器によって検出できる。質量分析器は、低い圧力で動作して、イオンの軌道が中性ガス分子との衝突によるよりもむしろ印加場によって支配されることを確実にする。しかしながら、大気圧で動作するイオン源を使用することは、しばしば便利である。その結果、イオン源からの中性ガス分子および同伴イオンは、小さな開口を通じて真空システムに引き込まれなければならない。大気圧化学イオン化法(APCI)およびエレクトロスプレーイオン化法(ESI)は、広く使用されているそのようなイオン源の2つの一般的な例である。
【0003】
従来の大気圧イオン化(API)質量分析計のサイズおよび重量は、排気システムによって支配され、そして、吸気口を通じて引き込むことができるガスおよび同伴イオンの量を最大にし、同時に質量分析器の領域の圧力をそれの適切な動作と整合するレベルに維持するように設計される。従来の卓上型機器は典型的には、約100kgの重さがあり、かさばる真空ホースを介して据置き型回転ポンプに結合されて、追加の30kgの重さがある。電力消費量は、1キロワットを超える可能性があり、比較的高レベルの熱および雑音が、生じる。
【0004】
真空システムでは、ガスの流量Qは、
Q=SP 式1
によって与えられ、ただしSは、ポンプの速度であり、Pは、圧力である。多くの異なる種類の真空ポンプがあるが、しかしすべての場合において排気速度は、ポンプのサイズおよび重量に関連する。式1によると、大きなポンプが、低い圧力および高いガス処理量を同時に達成するために必要とされる。
【0005】
ターボ分子ポンプが広く採用されるより前は、油拡散ポンプおよびクライオポンプが、質量分析法に必要とされる高真空条件を達成するために使用された。油拡散ポンプは、機械的に単純であり、多くの熱を放散し、直立位置に取り付けなければならず、通常水冷され、1Torr未満のフォアライン(foreline)圧力(背圧)で動作する。クライオポンプは、非常に大きな排気速度を提供するが、しかし液体窒素の供給またはかさばるヘリウム圧縮機を必要とする。ターボ分子ポンプは、機械的に複雑であり、その結果比較的高価である。しかしながら、それらは、コンパクトであり、一般に空冷式であり、任意の向きに取り付けることができる。加えて、小さなおよび中間のサイズのターボ分子ポンプは、高いフォアライン圧力を許容する。
【0006】
低いおよび中間の真空圧力を達成する能力があるポンプは、初期排気、真空インターフェースの直接排気、およびフォアライン排気を提供するのに必要とされる。そのようなポンプはしばしば、粗引きポンプ、またはフォアライン排気に使用されるときは補助ポンプと呼ばれる。油充填回転翼ポンプは、従来の機器で広く使用されている。これらは典型的には、重く、かさばり、騒々しく、頻繁な修理を必要とする。その結果、それらは、機器の本体内に格納しない。非常に軽量でコンパクトな隔膜ポンプは、低ガス負荷応用に利用できる。小さなターボ分子ポンプのためのフォアライン排気を提供するためにしばしば使用されるけれども、それらは、1Torrでまたはその近辺で動作する真空インターフェースの直接排気に適していない。
【0007】
タイプAおよびタイプBと表される初期のシステムアーキテクチャは、図1および2でそれぞれ示される。図1では、大気圧イオン源からのガスおよび同伴イオンは、吸気オリフィスを介して分析チャンバに直接導入される。大きな高真空(HV)ポンプが、質量分析器の適切な動作に必要とされる低い圧力で全ガス負荷を排気するために必要とされる。高真空ポンプは、直接大気圧に排気できないので、フォアラインの圧力は、粗引きポンプによって中間圧力に維持されなければならない。比較的大きな高真空ポンプを使用しても、オリフィスは、ガス流量を管理できるレベルに制限するために非常に小さくする必要がある。例えば、25μm直径の吸気オリフィスは、約1000L/sの速度を持つ高真空ポンプを必要とする。
【0008】
図2では、差動排気が、大量のガスを排気することおよび質量分析器が必要とする低い圧力を達成することのタスクを部分的に分離するために使用される。より大きな吸気オリフィスは、ガス負荷の大部分が第1のチャンバポンプによって比較的高い圧力で排気されるので許容できる。静電レンズは、イオンをチャンバ間開口の方へ集中させるために使用され、それによって第2のチャンバに流入するガス中のイオン濃度を実質的に増加させる。しかしながら、イオンは中性ガス分子と衝突すると散乱されるので、吸気オリフィスとチャンバ間開口との間の距離は、短く保たなければならない。2つの高真空ポンプは、もしタイプAアーキテクチャが採用されたなら必要とされることになる単一ポンプと比べて集団でもそれほど巨大でない。
【0009】
分子線技術および原理が、API質量分析計の設計で応用できることは、後に理解された(例えば、非特許文献1参照)。一般配置は、図3で示され、タイプCと表される。吸気オリフィスを通るガス流の一部分は、初期自由噴流膨張の中心からサンプルを取得するスキマー(skimmer)を通って第2のチャンバに転送される。スキマーが伝送する全ガス負荷の割合は、第1のチャンバの圧力、スキマー吸気口の面積、および吸気オリフィスに対するそれの位置によって決定される。
【0010】
このアイデアの最初の実施形態では、第1のチャンバは、1000L/s拡散ポンプを使用して10-3Torrに排気され、吸気オリフィスは、直径が70μmであり、スキマーは、直径が4mmであり、第2のチャンバは、3000L/sの合計速度を持つ2つのポンプによって排気された。少しの割合のイオンが、第2のチャンバに転送されるけれども、ビームは、十分にコリメートされ、質量分析器への効率的結合にとって理想的である。この配置の不都合は、大きなクラスターおよび液滴が、スキマーを通って伝送される可能性があり、自由な被分析物イオンが、断熱膨張の間に溶媒または周囲水蒸気と凝縮することである。
【0011】
差動排気無線周波数(rf)イオンガイドを用いるAPI質量分析計は、1987年に述べられた(例えば、非特許文献2参照)。この機器の概略図は、図4で示され、タイプDと表される。過去20年の間、このアーキテクチャに基づく設計が、従来の機器の製造業者によって広く採用されてきた。
【0012】
イオンの軌道は、それらが第2のチャンバを通過するときrf四重極イオンガイドによって閉じ込められる。四重極イオンガイドの場合には、場は、共通軸の周りに対称的に配置される4つのロッドによって生成される。各ロッドに印加される電圧は、rfで振動することを必要とされ、隣接ロッドに印加される波形は、反対位相を有する。
【0013】
第1のチャンバは、約1Torrで動作し、そして、回転ポンプで簡便に達成される。図4で示すように、同じ回転ポンプは、第1のチャンバを排気し、2つの高真空ポンプのためのフォアライン排気を提供するために使用できる。この圧力では、高いガス密度が、噴流の連続流を混乱させるショック構造をもたらす可能性があるので、スキマープロファイルは、はるかにより重大である。典型的には、0.75〜2.5mm直径の吸入口を持つスキマーは、200〜350μm直径の吸気オリフィスの数ミリメートル下流に設置される。静電レンズは、イオンをスキマーの入口に集中させ、それによってイオン対中性ガスの比を増加させるためにスキマーの周囲に置かれてもよい。いくつかのシステムでは、ほとんどすべてのイオンは、次の段に伝送される。しかしながら、図3に関連して述べた問題、すなわちクラスターイオンの形成および液滴の伝送を考慮して、いくつかの製造業者は、しばしば吸気開口からの視線軌道がないような方法で、マッハ(Mach)ディスクの下流にサンプル取得オリフィスまたは円錐を置くことを好んだ。これが事実であるときは、電場は、イオンをサンプル取得オリフィスまたは円錐の方へ引き付けるように印加される。
【0014】
静電イオンレンズよりもむしろrfイオンガイドを組み込むタイプBアーキテクチャの代替実施形態は、図5で示され、タイプEと表される。第1のチャンバは、イオンガイドを含み、適切な高真空ポンプによって10-4〜10-2Torrの圧力に排気される。ガスおよびイオンは、吸気オリフィスを通り抜け、その後イオン軌道は、それらが第1および第2の真空チャンバ間の開口を通り抜けることができるように制約される。
【0015】
最近、一製造業者は、高い圧力で動作する短いイオンガイドに有利である伝統的なオリフィス−スキマーインターフェースを断念した。その配置は、図6で示され、タイプFと表される。吸気オリフィスのサイズ、第1のイオンガイドの場半径、および第1のチャンバの圧力は、自由噴流膨張がイオンガイド内に大部分が含まれるように選択される。かなりの割合のイオン束が、捕獲され、第2の真空チャンバに伝送されるが、一方中性ガスは、ロッド間のすき間を通って流出する。第1のイオンガイドは、数Torrの圧力で動作し、結果としてその後に次の真空チャンバで第2のイオンガイドが続き、そして、イオンが質量分析される前により多くのガス負荷を除去する。
【0016】
ますます、小さく軽量の分析機器が、工業プロセス監視、保安用途、毒性または不法物質の検出、および遠隔または危険な環境での配備に必要とされる。加えて、伝統的な研究室で分析化学者が使用している装置の増大する量は、機器が占める直線状の作業台スペース、熱および雑音発生、初期購入価格、および運用コストなどの要因のより多大な検討を強要してきた。その結果、従来のシステムよりもはるかに小さいけれども、有用なレベルの感度の能力がある小型API質量分析計の必要性がある。特定の機器の検出効率は、それの設計の詳細に依存するが、最終的な感度は、吸気口を通って引き込むことができるガスおよび同伴イオンの量によって制限される。あいにく、従来の機器に使用されるシステムアーキテクチャの穏当な縮小でさえ、許容できるガス負荷の著しい低減をもたらす。中間の真空度を達成するために普通使用されるポンプのサイズおよび重量は、都合よくスケーリングしないので、すべてのポンプを単一の小さな筐体内に収容することは、特に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第7786434号明細書
【特許文献2】米国特許出願第12/380,002号明細書
【特許文献3】米国特許出願第12/220,321号明細書
【特許文献4】米国特許出願第12/284,778号明細書
【特許文献5】米国特許出願第12/001,796号明細書
【特許文献6】米国特許出願第11/810,052号明細書
【特許文献7】米国特許出願第11/711,142号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】M.Yamashita and J.B.Fenn,J.Phys.Chem.88,1984,4451−4459
【非特許文献2】J.A.Olivares,N.T.Nguyen,C.R.Yonker,and R.D.Smith,Anal.Chem.,59,1987,1230−1232
【非特許文献3】the Journal of Microelectromechanical Systems Vol.19(6),2010,1430−1443
【発明の概要】
【0019】
これらのおよび他の問題は、本発明の教示による質量分析計システムによって取り組まれる。システムは、APIイオン源が生成するイオンが、吸気オリフィスを通り抜け、イオンガイドを含む真空チャンバに直接導入されるように構成できる。本発明の好ましい実施形態では、この真空チャンバは、ターボ分子ポンプで排気され、フォアライン排気は、隔膜ポンプによって提供される。回転ポンプの使用を避けることによって、システムの全体のサイズおよび重量は、かなり低減できる。
【0020】
加えて、衝突冷却として周知の現象が、期待されるよりもはるかに低い圧力で小型イオンガイドで高効率で生じることが発見された。動作圧力は、従来のターボ分子ポンプを使用して理想的に達成され、そして、短いイオンガイドに起因して起こり得るコンダクタンス制限を十分考慮して真空システムに結合しなければならない。
【0021】
それに応じて、複数の真空チャンバを備えた小型質量分析計システムが、提供され、システムは、
a.実質的に大気圧で動作し、エレクトロスプレーイオン化法、マイクロスプレーイオン化法、ナノスプレーイオン化法、化学イオン化法、またはそれらの派生法を採用するイオン源と、
b.システムのイオンガイド真空チャンバ内に提供されたrfイオンガイドであって、イオンガイドは、イオンガイド真空チャンバへの入口と出口との間にイオン通路を規定し、イオンガイドの寸法および形状は、ガスがそれを通ってイオンガイドから流出できる開口が10cm2未満の全面積を有することと、
c.システムの質量分析器真空チャンバ内に提供された質量分析器と、
をさらに備え、
rfイオンガイドおよび質量分析器を含む真空チャンバは、約5×10-2Torrよりも低い圧力で作用可能に排気され、システムの他の真空チャンバは、提供される場合には、約50Torrよりも高い圧力で作用可能に排気される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本出願は、付随する図面を参照して今から述べられることになる。
【0023】
【図1】ガスおよび同伴イオンを、APIイオン源から質量分析器を含む真空チャンバに直接導入する、従来技術の単一段システムを示す図である。
【図2】ガス負荷を排気することおよび質量分析器を低い圧力に維持することのタスクが部分的に分離され、静電イオン光学素子が2つのチャンバを隔てる開口の方へイオンを集中させるために使用される、従来技術の差動排気システムを示す図である。
【図3】スキマーが、分子線方法論に従って、初期自由噴流膨張の中心からガスおよび同伴イオンのサンプルを取得する、従来技術の差動排気システムを示す図である。
【図4】イオンの軌道が、第2の真空チャンバを通過するとき、rfイオンガイド内に閉じ込められる、従来技術の差動排気システムを示す図である。
【図5】イオンの軌道が、第1の真空チャンバを通過するとき、rfイオンガイド内に閉じ込められる、従来技術の差動排気システムを示す図である。
【図6】イオンが、吸気開口から現れた後、高圧力rfイオンガイドによって捕獲され、集中される、従来技術の差動排気システムを示す図である。
【図7】市販の回転翼、スクロール、およびピストンポンプの範囲について1Torrでのポンプ速度に対するポンプ重量のプロットを示す図である。
【図8】本教示による例となる実施形態の概略図を示す図である。
【図9】本教示による第2の例となる実施形態の概略図を示す図である。
【図10】従来技術で述べるように、イオンガイド内のイオン軌道への衝突冷却の効果を示す図である。
【図11】イオンガイドの近辺で測定されるように、どのように信号レベルが圧力に応答するかを示す図である。
【図12】従来技術から抽出されるデータと一緒に、チャンバ圧力とイオンガイド長の積に対してプロットした信号レベルを示す図である。
【図13】どのように吸気開口が、個別構成要素に別々にバイアスをかけることができるように取り付けることができるかを示す図である。
【図14】どのように差動排気流れ分割インターフェースが、個別構成要素に別々にバイアスをかけることができるように取り付けることができるかを示す図である。
【図15】遅延バイアス電圧がイオンガイドに印加されるとき、どのように信号レベルが応答するかを示す図である。
【図16】遅延バイアス電圧が分析四重極に印加され、イオンガイドの近辺の圧力が2つの異なる値に設定されるとき、どのように信号レベルが応答するかを示す図である。
【図17】遅延バイアス電圧が分析四重極に印加されるとき、異なる初期イオンエネルギーの範囲に対応する信号レベルがどのように応答するかを示す図である。
【図18】どのようにガスが、小型四重極イオンガイド内から流出することができるかを示す図である。
【図19】図9に関連して述べるアーキテクチャに従って構成されたシステムを使用して記録された質量スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
従来のサイズの機器について、タイプDアーキテクチャは、タイプEアーキテクチャよりも圧倒的に好ましいことが当業者には理解されよう。最新機器について、典型的な吸気流量は、600標準立法センチメートル毎分(sccm)であり、典型的なイオンガイド圧力は、8×10-3Torrであり、それでこれらのパラメーターは、比較の目的で採用するものとする。表(1)では、イオンガイドを含むチャンバを排気するのに必要なターボ分子ポンプ、および全システムに必要とされる粗引きポンプのいくつかの特性が、与えられる。タイプDの場合には、スキマーは、1Torrで動作し、ガス負荷の10%を通過させ、タイプEの場合には、950L/sのターボ分子ポンプが必要とするフォアライン圧力は、2Torrであると仮定された。
【0025】
【表1】
【0026】
タイプDアーキテクチャよりもむしろタイプEアーキテクチャを採用することの深刻な不利益は、はるかにより大きく、より重く、その結果より高価なターボ分子ポンプを卓上型ユニットの筐体内に収容しなければならないことであることが当業者にはわかり、理解されている。真空チャンバの直径は、実効排気速度が低減コネクタによって著しく損なわれないために、ポンプの直径にほぼ等しくなければならないこともまた理解されよう。これは、機器のサイズ、重量、およびコストのさらなる増加をもたらす。粗引きポンプが常に据置き型であり、真空ホースで主要機器に結合されることを考慮すると、この構成要素のサイズおよび重量は、あまり重要でないことが理解されよう。
【0027】
もし吸気オリフィスを通る流量が、50sccmに低減されるならば、イオンガイドを含むチャンバを排気するのに必要なターボ分子ポンプ、および全システムに必要とされる粗引きポンプの特性は、表(2)で与えるようなものである。タイプDの場合には、スキマーは、1Torrで動作し、ガス負荷の10%を通過させ、タイプEの場合には、80L/sのターボ分子ポンプが必要とするフォアライン圧力は、10Torrであると仮定された。
【0028】
【表2】
【0029】
小型システムについては、粗引きポンプを含むすべてのポンプは望ましくは、単一の筐体内に格納されることを考慮すると、タイプD機器が、タイプE機器よりも著しく重くなることは明らかである。これの理由は、タイプDアーキテクチャで第1の真空チャンバを排気するのに必要な粗引きポンプの重量が、非常に不利にスケーリングすることである。一般的な方法によると、第1の真空チャンバの動作に最適な圧力は、約1Torrである。図7では、市販の粗引きポンプ(回転翼、スクロール、およびピストンポンプ)の重量が、1Torrでのそれらの排気速度に対してプロットされている。吸気流量が、600から50sccmに低減されるとき、必要とされる粗引きポンプの重量は、35kgから約10kgに低減される。その結果、多くの信号が、粗引きポンプのサイズの穏当な低減を達成するために犠牲にされなければならない。タイプD機器の第1の段を1Torrよりも高い圧力で動作させようとすることから生じる困難な状況には、以下のことが含まれる。
【0030】
(a)イオンをスキマー吸気口の方へ集束させるまたはイオンをサンプル取得オリフィスを通じて引き込むために使用される静電光学素子は、散乱および粘性流の影響の増加に起因して効率が悪くなる。
【0031】
(b)もしイオンガイドの動作圧力および第2の段のポンプの排気速度が、同じに保たれることになるならば、サンプル取得またはスキマーオリフィスは、次の真空段へのガスの流量を制限するためにより小さくしなければならない。
【0032】
(c)もしスキマーが、自由噴流膨張のマッハディスクに穴を開けるために使用されるならば、噴流の連続流を混乱させるショック構造を避けることは、ますます困難になり、精密に機械加工されたスキマープロファイルを必要とする。
【0033】
タイプEアーキテクチャでは、1Torrの圧力でまたはその近辺であることが必要な領域はなく、小さく軽量の隔膜ポンプが利用できることの利点を受け取ることができる。大部分のポンプについては、排気速度は、圧力がポンプで達成できる最終のまたは最低の圧力に近づくと、無視できるほどの値に減少する。回転ポンプは典型的には、範囲5×10-3〜1×10-2Torrの最終圧力の能力があり、1Torrでそれらの全公称排気速度をほとんど達成することができる。対照的に、隔膜ポンプで可能な最終圧力は一般に、2〜5Torrより低いことはなく、全公称排気速度は、10〜20Torrを超える圧力で達せられる。その結果、隔膜ポンプは、1Torrの圧力でまたはその近辺で大量のガスを排気するのに適していない。しかしながら、小さなターボ分子高真空ポンプは、それらが10〜30Torrの範囲のフォアライン圧力で動作することを可能にするホルベックドラッグ(Holweck drag)段を使って利用できる。従って、隔膜ポンプは、これらのターボ分子ポンプのための補助ポンプとしての使用に理想的である。方程式1を参照すると、所与のガス負荷について、フォアライン排気速度は、もし動作圧力が1Torrから10Torrに増加するならば、10分の1に低減できることが理解されよう。
【0034】
本発明者らは、タイプEアーキテクチャが、従来のサイズのシステムにとってまったく魅力がないけれども、小型システムにとっては、それは、実行可能で有利な解決策であることを認識している。特定の組の条件について以前に軽視されたアーキテクチャのこの有利な選択は、小型システムで生じる特有の組の条件の本発明者らによる洞察から生じる。
【0035】
図8は、本発明の例となる実施形態の概略図を示す。本教示の文脈内で、大気圧イオン源803は、イオンを発生させるために使用される。本教示内のイオン源は、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、マイクロスプレーイオン化法、ナノスプレーイオン化法、化学イオン化法(CI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、大気圧光イオン化法(APPI)、グロー放電イオン化法、実時間での直接分析法(DART)またはそれらの派生法の1つもしくは複数を備えてもよい。本文脈内では、それらの派生法には、二次エレクトロスプレーイオン化法(SESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)、および脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI)が含まれる。
【0036】
イオン源803は、吸気オリフィス802を通ってイオンガイドチャンバ820、すなわちシステムの第1の真空チャンバに引き込まれるガスおよび同伴イオン804を作用可能に提供する。イオンは、このチャンバ820内の小型四重極イオンガイド831によって、第1の真空チャンバ820および質量分析器チャンバ810、すなわち質量分析器812が提供される第2の真空チャンバを結合する開口822の方へ向けられる。第1のチャンバ820は、ターボ分子ポンプ845によって1×10-3から5×10-2Torrの圧力に排気され、一方第2のチャンバ810は、第2のターボ分子ポンプ840によって1×10-6から1×10-3Torrの圧力に排気される。両方のターボ分子ポンプのためのフォアライン排気は、真空ホース860を介して隔膜ポンプ870によって提供される。単一チャンバ内の単一rfイオンガイドの性能は、それら自体のチャンバに各々提供される2つ以上の個々のrfイオンガイドによって再現されてもよいことが理解されよう。
【0037】
開口822を通り抜けるイオンは、この例となる実施形態では、四重極質量フィルター812によってそれらの質量対電荷比に従ってフィルターにかけられ、次いで適切な検出器811を使用して検出される。他の質量フィルターおよび分析器が使用されてもよいことは、当業者には理解されよう。これらには、円筒形、ドーナツ形、ポール(Paul)、および直線形イオントラップ、交差電場および磁場を使用するフィルター、磁気セクター分析器、ならびに飛行時間分析器が含まれるが、限定はされない。質量フィルターまたは分析器はまた、機器の全体のサイズを最小化するために、またそのような分析器およびフィルターは一般に高い動作圧力を許容もするので、小型と考えてもよいサイズでもある。
【0038】
概略図では示さないけれども、四重極質量フィルターは望ましくは、直流(dc)およびrf成分から成る波形を発生させる電力供給部に作用可能に接続される。望ましくは、イオンガイドは、rf成分だけがロッドに印加されるように同じ供給部に容量結合される。固定dcバイアスは、大きな抵抗器を通じてイオンガイドの4つのロッドすべてに印加されてもよい。波形振幅が、質量スペクトルを取得する過程で走査されるとき、固定割合のrf成分が、イオンガイドに印加される。この割合は、減結合コンデンサ、バイアス抵抗器、および浮遊容量を備えるネットワークによって決定される。別法として、イオンガイドは、固定振幅のrf波形を発生させる独立供給部に接続されてもよい。
【0039】
四重極質量フィルターで達成できる最大分解能は、イオンがフィルター中にある間に受けるrfサイクル数によって制限される。典型的には、従来のサイズのフィルターは、約1MHzで動作する。同じ分解能を達成するためには、小型四重極フィルターは、より短いロッド長を補償するためにより高い周波数で動作しなければならない。
【0040】
吸気オリフィス802および開口822は望ましくは、これらの構成要素、ならびにイオンガイド831、質量フィルター812および検出器811に個々にバイアスをかけることができるように、電気的に絶縁される。これらのバイアスは次いで、イオン伝送を最適化し、衝突を誘発してクラスター分離をもたらし、イオンエネルギーを設定するように調整されてもよい。
【0041】
小型システムでは、イオンガイド831の長さは、多分ポンプ845の直径未満のこともある。これが事実であるときは、この発明の教示と整合する以下の3つの配置がある。
【0042】
(a)ポンプ845は、ロータ847の軸がイオンガイド831の軸に平行に位置する状態で、図8で示すように置かれてもよい。第1のチャンバ820をポンプ845に接続するダクト827は望ましくは、断面が長方形であり、イオンガイド831の長さにほぼ等しい幅およびポンプの直径にほぼ等しい高さを有する。
【0043】
(b)ポンプ845は、ロータ847の軸がイオンガイド831の軸に垂直に位置する状態で置かれてもよく、中空円錐形、正方ピラミッド形または長方ピラミッド形の錐台を使用して真空チャンバ820に接続されてもよい。
【0044】
(c)ポンプ845は、ロータ847の軸がイオンガイド831の軸に垂直に位置する状態で置かれてもよく、低減コネクタなしで第1のチャンバ820に直接接続されてもよい。この場合には、外壁828と反対側の隔壁829との間の距離は、ポンプの直径よりも大きいまたは等しくなければならない。イオンの軌道が、第1のチャンバの通過の間閉じ込められるためには、吸気口かもしくは質量フィルター、または吸気口および質量フィルターの両方は、再入可能でなければならない。これは、例えば外壁、もしくは隔壁、または外壁および隔壁の両方を、それらがシルクハットプロファイルを有するような形にすることによって達成できる。
【0045】
図8の配置では、システムは、第1および第2の真空チャンバを備える2真空チャンバシステムであり、各々は、約5×10-2Torrよりも低い圧力で排気されることが理解されよう。真空チャンバの各々およびそれらの関連するポンプは望ましくは、卓上型機器として提供できる単一ケーシングまたは筐体800内に適合する寸法にされ、互いに対して向きを合わせられる。
【0046】
図9は、本発明の第2の例となる実施形態の概略図を示す。この配置は、追加のチャンバ905がイオンガイドの上流に提供される点で図8のそれと異なることが理解されよう。このチャンバ905は、真空インターフェースで従来出会うよりもはるかに高い圧力で作用可能に提供され、本発明の精神から逸脱することなくガスおよびイオンの流れを分割するために使用されてもよい。3チャンバシステムのこの例となる実施形態は、約5×10-2Torrよりも低い圧力で排気される第1および第2のチャンバならびに約50Torrの圧力で排気される第3のチャンバを備えることが理解されよう。本教示が、追加のチャンバをrfイオンガイドおよび質量分析器チャンバに提供する場合には、そのときこの追加の真空チャンバは、従来周知のことでもあった圧力をはるかに超える圧力で動作することが理解されよう。本教示によるシステムの構成物内にスキマーがないことはまた、ある従来技術の構成とも区別される。
【0047】
提供される場合には、この追加のチャンバは望ましくは、本願の譲受人に譲渡された特許文献1および非特許文献3で述べるように、第1の壁906と第2の壁907との間の距離がおよそ1ミリメートルであるように構成される。システムは、大気圧イオン化源803によって発生されるイオン804が、それらの質量対電荷比に基づく分析のために質量フィルターに導入されるより前に真空インターフェース905およびイオンガイド831を通って作用可能に導入できるように構成され、真空インターフェース、イオンガイドおよび質量分析計の各々は、ケーシング900内に提供される。図9で示すように、少なくとも真空インターフェースチャンバ905およびイオンガイドは、異なるポンプに結合される。この例となる事例では、インターフェースチャンバ905は、隔膜ポンプ975に結合され、一方イオンガイドは、ターボ分子ポンプ845に結合される。
【0048】
四重極イオンガイドの場合には、サドルポテンシャル(saddle potential)が、ロッドに印加される電圧によって任意の瞬間に生成される。イオンの軌道は、初期半径方向変位および速度、イオンが場に入るときのrf位相、ならびに、
【0049】
【数1】
【0050】
として定義されるパラメーターqによって決定され、ただしVおよびωは、それぞれrf波形の振幅および周波数であり、mは、イオンの質量であり、eは、イオンの電荷であり、r0は、場半径である。安定軌道は、周期的であり、高周波数の微視的運動およびより低い周波数の永年または巨視的運動の仮定と考えることができる。0.908よりも大きいqの値では、軌道は、不安定であり、イオンは、ロッドと衝突すると放電する。qの低い値では、微視的運動の振幅は、永年成分と比較して小さく、ほぼ正弦波軌道が、調和振動子の特徴を示すと考えることができる。
【0051】
サドルポテンシャルの向きは、印加rf波形に応答して急速に回転するけれども、イオンは、あたかも静的ポテンシャル井戸内にトラップされているかのように振る舞い、その静的ポテンシャル井戸は通常、それが時間平均現象であるという事実を認めて擬ポテンシャル井戸と呼ばれる。正弦波軌道の振幅は、半径方向運動と関連する全イオンエネルギーの成分を表す。初期エネルギーのイオンと中性ガス分子との間の衝突は、イオンがイオンガイドを通過するときエネルギーを失う原因になることは周知である。その結果、半径方向振動の振幅および軸方向の速度は、着実に減少し、プロセスは、衝突冷却と呼ばれる。もし衝突数が十分に高いならば、低エネルギーイオンは、中心軸の近辺に集まり、小さな開口を通ってチャンバから出ることができる。中心軸に近い初期位置および小さな半径方向速度成分を持つイオンが、優先的に伝送されるので、低エネルギーイオンの出現ビームは、同軸四重極フィルターを使う質量分析に理想的に適しており、軸速度が低いときは、より高い分解能が、達成できる。典型的なイオン軌道への衝突冷却の効果は、図10で例示される。中心線から遠くに初期移動したイオンの半径方向変位1001は、イオンがイオンガイド1002を通過するにつれて着実に減少することが示される。
【0052】
12.4mm直径のロッドを使用して構成される15cm長さの四重極イオンガイドについては、圧力が約6×10-3から約8×10-3Torrの間であるとき、イオンの90%が、イオンガイドの出口の2.5mm直径の開口を通り抜けることができるほどに十分に冷却されることは、従来技術から周知である。その上、従来技術は、最大伝送に必要とされる圧力が、関係式P×L≒0.1Torr・cmを通じてイオンガイドの他の長さに拡張できることを教示し、ただしPは、イオンガイドチャンバの圧力であり、Lは、イオンガイドの長さである。
【0053】
本発明者らは、従来技術によって示されるよりもはるかに低いP×L値で、利用できるイオン束の大部分が、2.5mm直径のロッドを使用して構成される2cm長さの小型四重極イオンガイドを使用して0.7mm直径の開口を通って伝送できることを発見した。加えて、30eVの初期軸方向エネルギーを持つイオンは、単位分解能が小型四重極質量フィルターで達成できる程度にまで冷却される。
【0054】
図11では、レセルピンの5μg/ml溶液を使用して得られた信号レベルが、イオンガイドの近辺で測定された圧力に対してプロットされる。イオンガイドの入口でのイオンエネルギーは、10eVであり、四重極質量フィルターは、単位分解能で動作し、容量性分圧器は、イオンガイドについてq≒0.5となるように設定された。圧力は、イオンガイドから十分離れて取り付けられたリーク弁を通じて空気を真空チャンバに流出させることによって変えられた。圧力が増加するにつれて、m/z=609での信号レベルにわずかな減少がある。
【0055】
チャンバ間開口を通るイオン伝送の効率は、電気的に絶縁されたチャンバ間開口プレートからアースへの電流流量を、開口の下流に置かれたファラデー(Faraday)プレートからアースへの電流流量と比較することによって決定された。基準線補正は、イオンガイドに高い正の値のバイアスをかけることによってなされた。四重極質量フィルターは、除去しなければならなかったけれども、イオンガイドに印加されるrf波形の振幅は、m/z=609での分析と整合する値に設定された。この方法を使用すると、伝送効率は、80%を超えることが見出された。
【0056】
図12では、小型イオンガイド1201を使用して記録された信号レベルが、P×Lに対してプロットされ、その結果その挙動は、従来技術1202から抽出されたデータの組と比較でき、そして、100%に近い伝送が0.1Torr・cmで達せられるまで、信号がP×Lの増加とともに増加すると期待されることを示す。従って、従来技術に基づくと、小型イオンガイドで観測される低いP×Lでのすでに高い伝送効率およびP×Lの増加にともなう信号レベルのわずかな下落傾向は、まったく予期しないことである。
【0057】
吸気オリフィスプレートを支持するための例となる配置は、図13で示される。吸気オリフィスプレート1301は、非導電性スペーサー1303を使用してインターフェースフランジ1302から隔てられ、その結果それは、インターフェースフランジに関して電気的にバイアスをかけることができる。理想的には、インターフェースフランジもまた、真空チャンバから電気的に絶縁され、その結果それもまた、別個にバイアスをかけることができる。動作時には、開口プレートのバイアスは望ましくは、インターフェースフランジのバイアスよりもはるかに高い。吸気オリフィス1304を通り抜けるイオンの初期運動エネルギーは、これらの2つのバイアス間の差によって決定される。もしこれが十分に高いならば、中性ガス分子との衝突は、初期自由噴流膨張の間に形成されたどんなクラスターイオンもイオンガイド831に導入される前に壊される原因になる。同様の配置は、図14で示され、ただしここでは、単純なオリフィスプレートは、差動排気流れ分割インターフェース1401で置き換えられている。吸気オリフィス1304を通り抜けるガスおよび同伴イオンのいくらかは、望ましくは小さな隔膜ポンプを使用して、真空ホース1403を介して内部チャンバ1402から排気される。
【0058】
ポテンシャル障壁を乗り越えるのに十分なエネルギーを持つイオンだけが、伝送されるので、遅延dcバイアスが4つのロッドすべてに印加されるとき、イオンガイドは、粗い高域通過フィルターになる。イオンエネルギー分布の近似形は、印加遅延バイアスに対する信号レベルのプロットから決定できる。図15は、バイアス電圧が増加するにつれてm/z=609での信号レベルがどのように応答するかを示す。1つの組のデータ1501は、+10Vのインターフェースフランジバイアスに対応し、もう一方の組のデータ1502は、+15Vのインターフェースフランジバイアスに対応する。両方の場合に吸気オリフィスは、インターフェースフランジよりも60V高いバイアスに保持され、チャンバ間開口プレートバイアスは、イオンガイドバイアスに等しく設定され、四重極質量フィルターは、イオンガイドよりも1V小さいバイアスをかけられた。信号を低レベルに減衰させるのに必要とされる遅延バイアスは、インターフェースフランジバイアスにほぼ等しいので、後者は、イオンガイドに導入されるイオンのエネルギーを設定すると結論できる。
【0059】
同じ実験が、チャンバ間開口から出るイオンのエネルギー分布を決定するために四重極質量フィルターを使用して繰り返された。図16は、四重極質量フィルターに印加される遅延バイアスが増加するにつれてm/z=609での信号レベルがどのように応答するかを示す。1つの組のデータ1601は、5×10-3Torrのイオンガイドに近い圧力に対応し、もう一方の組のデータ1602は、7×10-3Torrのイオンガイドに近い圧力に対応する。イオンガイドへの入口でのイオンエネルギーは、+10Vのバイアスをインターフェースフランジに印加することによって10eVに設定された。信号を減衰させるのに必要とされる遅延バイアスは、10Vよりもはるかに小さいので、イオンのエネルギーは、イオンガイドを透過する間に著しく減少していると結論できる。圧力が5×10-3から7×10-3Torrに増加するときにどんなさらなる冷却もないことは、衝突冷却の利点がより低い圧力で完全に実現できることを示す。
【0060】
イオンガイドへの入口でのイオンエネルギーを変える効果は、図17で実証される。上記のように、各組のデータは、四重極質量フィルターに印加される遅延バイアスに対するm/z=609での信号の応答を表す。各々の場合のイオンエネルギーは、表示される通りであり、イオンガイドに近い圧力は、全体にわたって5×10-3Torrであった。初期イオンエネルギーが30eVであるときでさえ、四重極質量フィルターに到達するイオンの90%は、3eV未満のエネルギーを有する。イオンエネルギーは、たった0.01Torr・cmのP×L値での衝突冷却によって広範囲に低減される。
【0061】
図8での802または図9での908などのオリフィスから流出するガスの流れは最初、オリフィスの平面に垂直な軸に沿ってイオンガイド中に向けられる流線をたどる。初期自由噴流膨張の境界を規定するショック構造の厚さは、およそいくつかの局所平均自由行程長であることが当業者には理解されよう。結果として、1Torrまたはその近辺の領域への膨張の特徴を示すショックボトル(shock bottle)は、特に小型システムの小さな寸法を考慮すると、より低い圧力で拡散し、不明確になる。イオンガイドの内部では、分子間の衝突が、散乱を引き起こす。加えて、分子は、4つのロッドの表面と衝突する。図18で示すように、イオンガイドの内部容積に導入されたガスはすべて、入口1801a、出口1801b、または電極1803a〜d間のすき間1802a〜dを通って結局出なければならない。非常に少しの割合だけが、小さなチャンバ間開口を通り抜ける。局所ガス密度は、イオンガイドの長さに沿って着実に減少すると期待される。四重極イオンガイド、または実際は任意の多極イオンガイドの場合には、ガスがそれを通って流出できるロッド間のすき間は各々、1つの寸法がロッドの長さによってかつもう一方の寸法が2つの隣接ロッド間の最近接距離によって規定されるコンダクタンス制限長方形開口を提示すると仮定される。もしイオンガイドが、従来技術で述べるように、長さ15cmおよび直径12.4mmのロッドを使用して構成された従来の四重極イオンガイドであるならば、ガスは、約27cm2の全面積を通って流出することができる。しかしながら、例えば2cmの長さおよび2.5mmの直径を有するロッドを使用して構成された小型イオンガイドの場合には、全面積は、たった0.73cm2である。このロッドの長さおよび直径は、小型イオンガイドを構成するために使用されてもよいロッドの寸法の例となることが理解されよう。本教示によると、イオンガイドの寸法および形状は、ガスがそれを通ってイオンガイドから流出できる開口が10cm2未満の全面積を有するようなものである。具体的な構成は、全面積が6cm2未満であるような寸法、実際は全面積が2cm2未満であるような寸法を含んでもよい。
【0062】
イオンガイドなどの複合構造内のガス流の進展は、適切なシミュレーションの使用を通じてのみ完全に取り組むことができる。しかしながら、いくつかの態様は、真空システムでのガス流の基本方程式を使用して例示できる。分子流圧力レジーム(regime)では、ガスがそれを通り抜けることができる任意の平面開口のコンダクタンスCは、
C=11.6A 式3
を使用して計算でき、ただしAは、開口の面積である。それ故に、第一近似では、上述の従来のイオンガイドは、313L/sのガス源とポンプとの間の全コンダクタンスを提示し、一方上述の小型四重極イオンガイドは、たった8.5L/sの全コンダクタンスを提示し、そして一般に、小型イオンガイドの例となると理解されよう。シミュレーションまたは他の計算は、他のイオンガイド設計のコンダクタンスについての概算、または実際には多極イオンガイドのコンダクタンスについてのより正確な概算をもたらすことになる。それにもかかわらず、本教示によると、小型イオンガイドの寸法および形状は、ガスがそれを通って流出できるすき間が100L/s未満のコンダクタンスを提示するようなものである。具体的な構成は、全コンダクタンスが10L/s未満であるような寸法および形状を含んでもよい。
【0063】
コンダクタンスを通るガスの流量Qは、
Q=C(P1−P2) 式4
によって上流圧力P1と下流圧力P2との間の差に関連している。
【0064】
もし吸気オリフィスを通るガスの流量が、従来技術で述べたように0.93Torr・L/sであり、チャンバのバックグラウンド圧力が、8×10-3Torrであるならば、そのとき従来の四重極イオンガイド内の近似的圧力は、1.1×10-2Torr、すなわちバックグラウンド圧力よりもわずかに高いだけである。しかしながら、小型イオンガイドの場合には、もし同じガス流が使用されるならば、これは、1.2×10-1Torrのはるかにより高い値に増加する。これらの計算に基づいて、本発明者らは、もしガス流がイオンガイドのサイズでスケーリングされるならば、従来技術の教示が小型システムに移転できるだけであることに気が付いた。
【0065】
本発明者らはまた、吸気口からの対流束および小型イオンガイド内の高い圧力が、イオンガイドの近辺で測定される圧力に基づいて期待されることになるよりも著しく多い、図9での質量分析器チャンバ810への流量をもたらすことを発見した。その結果、ポンプ840の排気速度は、予想されるよりも高くなければならない。吸気オリフィス、開口、およびポンプサイズの特定の組合せについては、イオンガイドの近辺でおよび質量分析器チャンバで通常動作中に測定された圧力は、それぞれ5.9×10-3Torrおよび6.2×10-5Torrであることが見出された。開口908からの対流が止められ(吸気開口902を塞ぐことによって)、イオンガイドの近辺での圧力が、遠隔リーク弁を通じてイオンガイドチャンバ820に流れ出るガスによって5.9×10-3Torrに回復したときは、質量分析器チャンバ810の圧力は、たった4.7×10-5Torrであった。これは、質量分析器チャンバの圧力が、第1の開口908からのガスの対流束および小型イオンガイド内の高いガス圧力の結果として、4.7×10-5Torrから6.2×10-5Torrに増加することを実証する。ベース圧力が1.9×10-5Torrであったと仮定すると、これは、約50%の増加を表す。
【0066】
図19は、図9に関連して述べたアーキテクチャに従って構成されたシステムを使用して記録された、レセルピンの質量スペクトルを示す。真空チャンバ905、820、および810の圧力は、それぞれ約100Torr、5×10-3Torr、および5×10-5Torrであった。システム全体は、単一の筐体内に含まれ、27kgの重さがあり、そのうち7.5kgは、真空ポンプに帰することがある。
【0067】
例となる配置が、本教示の理解に役立つように本明細書で述べられているが、変更が、本教示の精神および/または範囲から逸脱することなくなされてもよいことが理解されよう。そのために、本教示は、次に来る特許請求の範囲の観点から必要と見なされる限りにおいてのみ限定されると解釈すべきであることが理解されよう。
【0068】
本教示の文脈内で役立つように用いた構成要素の仕様が、本明細書で述べられなかった場合には、本明細書で述べたそれなどの小型機器は、その内容が参照のために本明細書に組み込まれる、次の本願の譲受人に譲渡された米国出願、すなわち特許文献2、3、4、5、6、および7の1つまたは複数で述べられるそれらなどのマイクロ工学的機器を使用して有利に製造されてもよい。本発明の文脈内で、マイクロ工学的術語もしくはマイクロ工学またはマイクロ加工され、もしくはマイクロ加工は、およそミリメートル以下の寸法の三次元構造およびデバイスの加工を定義することを意図している。
【0069】
その上、単語備える/備えているは、この明細書で使用されるときは、言明された特徴、整数、ステップまたは構成要素の存在を指定することになるが、しかし1つもしくは複数の他の特徴、整数、ステップ、構成要素またはそれらの群の存在または追加を排除しない。加えて、本明細書の文脈内で、単語第1、第2および第3は、真空チャンバを述べるために使用されるときは、複数のチャンバの特定の個々の1つの存在だけのことであり、必ずしもイオン移動の方向に関するそれらの相対位置のことではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の真空チャンバを備えた小型質量分析計システムであって、
a.実質的に大気圧で動作し、エレクトロスプレーイオン化法、マイクロスプレーイオン化法、ナノスプレーイオン化法、化学イオン化法、またはそれらの派生法を採用するイオン源と、
b.前記システムのイオンガイド真空チャンバ内に提供されたrfイオンガイドであって、前記イオンガイドは、前記イオンガイド真空チャンバへの入口と出口との間にイオン通路を規定し、前記イオンガイドの寸法および形状は、ガスがそれを通って前記イオンガイドから流出できる開口が10cm2未満の全面積を有することと、
c.前記システムの質量分析器真空チャンバ内に提供された質量分析器と、
をさらに備え、
前記rfイオンガイドおよび前記質量分析器を含む前記真空チャンバは、約5×10-2Torrよりも低い圧力で作用可能に排気され、前記システムの他の真空チャンバは、提供される場合には、約50Torrよりも高い圧力で作用可能に排気されることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記イオンガイドおよび質量分析器真空チャンバの各々は、ポンプに結合され、前記イオンガイドチャンバでの実効排気速度は、前記質量分析器チャンバでの実効排気速度よりも作用可能に大きいことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
ガスがそれを通って前記イオンガイドから流出できる前記開口は、6cm2未満の全面積を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
ガスがそれを通って前記イオンガイドから流出できる前記開口は、2cm2未満の全面積を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記イオンガイドは、約10L/s未満のコンダクタンスを提供するように寸法を決められ、構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記イオンガイドは、約100L/s未満のコンダクタンスを提供するように寸法を決められ、構成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記イオンガイドは、前記rfイオンガイドの近辺での圧力と前記イオンガイドの長さとの積が0.01Torr・cmよりも大きくなるように、前記イオンガイドの近辺での前記作用可能な圧力と組み合わせて選択される前記長さを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記イオンガイドは、前記rfイオンガイドの近辺での圧力と前記イオンガイドの長さとの積が0.01Torr・cmよりも大きく、0.02Torr・cm未満であるように、前記イオンガイドの近辺での前記作用可能な圧力と組み合わせて選択される前記長さを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記イオンガイドチャンバおよび前記質量分析器チャンバは、開口によって隔てられ、前記イオンガイドから出る前記イオンの40%よりも多くが、前記開口を通って次の真空チャンバに作用可能に伝送されることを特徴とする請求項7または8に記載のシステム。
【請求項10】
前記開口を通り抜けたイオンの平均軸方向運動エネルギーは、作用可能に、前記イオンガイドへの注入エネルギーよりも実質的に小さいことを特徴とする請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記イオンガイドおよび質量分析器チャンバの各々に結合される前記ポンプは、1つまたは複数のターボ分子ポンプから選択され、フォアライン排気は、1つまたは複数の隔膜ポンプによって提供されることを特徴とする請求項2および請求項2に従属するいずれかの請求項に記載のシステム。
【請求項12】
筐体をさらに備え、前記イオンガイドおよび質量分析器チャンバの各々ならびにそれに結合される1つまたは複数のポンプは、前記筐体内に提供されることを特徴とする請求項2および請求項2に従属するいずれかの請求項に記載のシステム。
【請求項13】
前記イオンガイドおよび質量分析器チャンバを排気するように作用可能に構成される分流ターボ分子ポンプを備えたことを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記イオンガイドチャンバは、ターボ分子ポンプによって排気され、前記ターボ分子ポンプのロータ軸は、前記rfイオンガイドの中心軸に平行であることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記イオンガイドおよび質量分析器チャンバの上流に提供される差動排気流れ分割インターフェースチャンバを備え、前記システムは、大気圧イオン化源によって発生されるイオンが、前記質量分析器への導入より前に前記インターフェースおよび前記イオンガイドを通って作用可能に伝送できるように構成されることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項1】
複数の真空チャンバを備えた小型質量分析計システムであって、
a.実質的に大気圧で動作し、エレクトロスプレーイオン化法、マイクロスプレーイオン化法、ナノスプレーイオン化法、化学イオン化法、またはそれらの派生法を採用するイオン源と、
b.前記システムのイオンガイド真空チャンバ内に提供されたrfイオンガイドであって、前記イオンガイドは、前記イオンガイド真空チャンバへの入口と出口との間にイオン通路を規定し、前記イオンガイドの寸法および形状は、ガスがそれを通って前記イオンガイドから流出できる開口が10cm2未満の全面積を有することと、
c.前記システムの質量分析器真空チャンバ内に提供された質量分析器と、
をさらに備え、
前記rfイオンガイドおよび前記質量分析器を含む前記真空チャンバは、約5×10-2Torrよりも低い圧力で作用可能に排気され、前記システムの他の真空チャンバは、提供される場合には、約50Torrよりも高い圧力で作用可能に排気されることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記イオンガイドおよび質量分析器真空チャンバの各々は、ポンプに結合され、前記イオンガイドチャンバでの実効排気速度は、前記質量分析器チャンバでの実効排気速度よりも作用可能に大きいことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
ガスがそれを通って前記イオンガイドから流出できる前記開口は、6cm2未満の全面積を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
ガスがそれを通って前記イオンガイドから流出できる前記開口は、2cm2未満の全面積を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記イオンガイドは、約10L/s未満のコンダクタンスを提供するように寸法を決められ、構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記イオンガイドは、約100L/s未満のコンダクタンスを提供するように寸法を決められ、構成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記イオンガイドは、前記rfイオンガイドの近辺での圧力と前記イオンガイドの長さとの積が0.01Torr・cmよりも大きくなるように、前記イオンガイドの近辺での前記作用可能な圧力と組み合わせて選択される前記長さを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記イオンガイドは、前記rfイオンガイドの近辺での圧力と前記イオンガイドの長さとの積が0.01Torr・cmよりも大きく、0.02Torr・cm未満であるように、前記イオンガイドの近辺での前記作用可能な圧力と組み合わせて選択される前記長さを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記イオンガイドチャンバおよび前記質量分析器チャンバは、開口によって隔てられ、前記イオンガイドから出る前記イオンの40%よりも多くが、前記開口を通って次の真空チャンバに作用可能に伝送されることを特徴とする請求項7または8に記載のシステム。
【請求項10】
前記開口を通り抜けたイオンの平均軸方向運動エネルギーは、作用可能に、前記イオンガイドへの注入エネルギーよりも実質的に小さいことを特徴とする請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記イオンガイドおよび質量分析器チャンバの各々に結合される前記ポンプは、1つまたは複数のターボ分子ポンプから選択され、フォアライン排気は、1つまたは複数の隔膜ポンプによって提供されることを特徴とする請求項2および請求項2に従属するいずれかの請求項に記載のシステム。
【請求項12】
筐体をさらに備え、前記イオンガイドおよび質量分析器チャンバの各々ならびにそれに結合される1つまたは複数のポンプは、前記筐体内に提供されることを特徴とする請求項2および請求項2に従属するいずれかの請求項に記載のシステム。
【請求項13】
前記イオンガイドおよび質量分析器チャンバを排気するように作用可能に構成される分流ターボ分子ポンプを備えたことを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記イオンガイドチャンバは、ターボ分子ポンプによって排気され、前記ターボ分子ポンプのロータ軸は、前記rfイオンガイドの中心軸に平行であることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記イオンガイドおよび質量分析器チャンバの上流に提供される差動排気流れ分割インターフェースチャンバを備え、前記システムは、大気圧イオン化源によって発生されるイオンが、前記質量分析器への導入より前に前記インターフェースおよび前記イオンガイドを通って作用可能に伝送できるように構成されることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載のシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−138354(P2012−138354A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−268009(P2011−268009)
【出願日】平成23年12月7日(2011.12.7)
【出願人】(505037981)マイクロサイク システムズ パブリック リミテッド カンパニー (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268009(P2011−268009)
【出願日】平成23年12月7日(2011.12.7)
【出願人】(505037981)マイクロサイク システムズ パブリック リミテッド カンパニー (8)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]