説明

小型飛行時間型質量分析器

本発明は、コンパクトかつ広範なイオン質量の範囲にわたって高度な質量分解能を有する飛行時間型質量分析器、および、それを設計する方法を提供する。本飛行時間型質量分析器において、本設計方法は、所定の連続関数を用いて時間依存性のある抽出ポテンシャルの強度を低減してイオンのエネルギ分布を拡大させ、質量の範囲にわたる高質量分解能を実現し、他方、加速領域からイオン・ミラーにおいて適用されるポテンシャルの時間依存性およびその大きさ、ならびに、時間依存性のある抽出ポテンシャルを変更することはなく、質量分析器の物理的寸法を変化させることもなく、被分析イオンの高分解能分析を実現する。本設計方法により、全長46センチメートル未満の飛行時間型質量分析器において質量の大きさのオーダーでおよそ5オーダーにわたり、およそ10,000もしくはそれ以上の質量分解能が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飛行時間型(TOF)質量分析器、特に、物理的な大きさを縮小し、TOF質量分析器において広範囲なイオン質量の質量分解能を向上させる方法および構成に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析は周知の分析手法であって、精細な、分子量決定、化学構造同定、混合体組成決定、および、定性元素分析に用いられる。質量分析器は、調査対象である試料の分子をイオン化し、その質量対電荷比によって分離し、各イオンの存在度を測定する。イオン質量は、ダルトン(Da)または原子質量単位で表わされ、そしてイオン電荷は電子電荷の数で表わされる、そのイオンの電荷である。
【0003】
飛行時間型(TOF)質量分析器は、生成したイオンが検出器に達するのに要した時間を計測し、イオンの質量対電荷比に基づいて、イオンを分離する。所与の電位によって加速されるイオンの飛行時間は、質量対電荷比に比例する。よって、イオンのTOFは、イオンの質量対電荷比の関数であって、その質量対電荷比の平方根にほぼ比例する。TOF質量分析器は、比較的シンプル、安価、かつ、事実上、質量対電荷比の範囲に制限がない。他の質量分析器は、大きな有機分子のイオンの検出に利用でないため、特にそのような用途において、TOF質量分析器は、非常に有用である。しかしながら、初期のTOF質量分析器は、質量分解能が悪かった。(つまり、異なる飛行時間の、ほぼ同一の質量を有するイオンを区別する能力が低かった。)Stephens, W. E., Phys. Rev., vol. 69, p. 691, 1946. 、および、米国特許第2,612,607号を参照されたい。
【0004】
理想上は、特定の質量を有するイオンの全てが同一の電荷を備え、検出器に同時的に到達し、もって、最も軽いイオンが最初に到達し、後から、次第に質量が増加したイオンが到達する。実際には、等しい質量と電荷を備えたイオンであっても、検出器に同時的に到達しないことがある。これは、生成したイオンの、初期における時間的、空間的、および、運動エネルギの分布に起因する。このような分布は、イオンを生成するために使用する手法に固有のものであったり、または、発生源からイオンを抽出する際の衝突により生じるものであったりする。これら、初期の分布要因は、質量スペクトルのピークを拡幅し、TOF質量分析器の分解能力を制約する。
【0005】
TOF質量分析器は、1940年代後半および1950年代中頃に始めて考案され商品化された。William C. Wiley と I. H. McLaren は、TOF質量分析器を大きく改善した。これらの機器は、通例、飛行時間の、初期イオン速度に関する1階および/または2階の偏導関数をゼロに等しくするような設計パラメータのセットを探索して設計される。米国特許第2,685,035号、ならびに、Wiley, W. C. および McLaren, I. H., Rev. Sci. Instrumen., Vol. 26, pp. 1150-57, 1955. を参照されたい。これらの発案により、イオンの、初期の空間的および運動エネルギ(速度)分布に対して補正された時間遅れ集束スキーム(time-lag focusing scheme)を用いることで質量分解能が向上された。より最近の、TOF質量分析器の時間的および空間的分布を低減させる改善として、イオン反射器(ion reflector)を用いたエネルギ集束(energy focusing)がある。米国特許第4,731,532号および特許第6,013,913号を参照されたい。
【0006】
今まで、あらゆるイオン集束スキームで、初期のイオンのエネルギ分布における大きな広がりに対処する最良の方策は、抽出領域におけるエネルギの散らばりを小さくすることだと考えていた。 Gohl, W. ら, Int. J. Mass Spectrom. Ion Phys., vol. 48, pp. 411-14, 1983. を参照されたい。これについての典型例は、あの馴染み深い遅延抽出法(delay extraction technique)である。この手法は、特に、イオンのエネルギ分布を狭小化させるために開発された。他の初期イオンのエネルギ分布を狭小化させる方法に、抽出ポテンシャルを単調に増加させる手法がある。米国特許第5,969,348号を参照されたい。しかし、これらの手法を用いては、フルサイズの機器の有する高い質量分解能を保持したままに小型のTOF質量分析器を構成することができなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらのTOF質量分析器の方法は広範囲なイオン質量の範囲にわたって質量分解能を向上させてきたが、さらなる改善の余地がある。また特に、プロテオミクスにおける地球外環境下生物学的重要分子の検出、生物学的作用物質の迅速な同定、または、病院における感染症汚染の検出といった用途において、よりコンパクトで、高い質量分解能を有し、広い質量スペクトルを備えた質量分析器に対する要望が高まっている。従って、本発明の目的は、広範囲のイオン質量にわたり、より高い質量分解能を備えたTOF質量分析(器)の方法および設計を提供することである。本発明の別の目的は、広範囲のイオン質量にわたり高い質量分解能を備えつつ、TOF質量分析器の物理的寸法を低減させる方法および構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、飛行時間型質量分析器(TOF−MS)における、被分析イオンの高分解能分析の方法を提供する。高分解能のための、本方法は、所定の連続関数を用いて時間依存性を有する抽出ポテンシャルの強度を低減してイオンのエネルギ分布を拡大させる。高分解能のための、本方法は、イオン化で発生した同等の質量対電荷比を有するイオンを、イオン抽出の初期における、発生源/抽出領域におけるイオンの初期イオン速度および初期位置とは実質的に独立した時間に、イオン検出器に到達させる。また、本方法は、加速領域からイオン・ミラーにおいて適用されるポテンシャルの大きさ、ならびに、時間依存性の抽出ポテンシャルの時間依存性もしくはその大きさを変更することなく、そして、TOF−MSの物理的寸法を変化させず、広範囲の質量にわたり、高い質量分解能を実現する。
【0009】
また、本発明は、真空ハウジングに入った飛行時間型質量分析器(TOF−MS)の構成を提供する。この、TOF−MSの構成は、所定の連続関数に従う時間依存性抽出ポテンシャルを適用するための手段を備え、もって、イオンが発生源/抽出領域を移動する間にイオンのエネルギ分布を広げる。また、本高質量分解能TOF−MSの構成は、全長がおよそ5cmから80cmの真空ハウジングを有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
飛行時間型(TOF)質量分析法は、原子種から500kDa程度の質量を有する二重鎖DNA断片まで、広範囲の質量を有する分子の検出および同定において、広く用いられる。基本的線形TOFシステムに対し、複数の改良がなされてきた。TOF質量分析器の性能を向上させるため、遅延抽出(delayed extraction)、イオン・ミラー(ion mirror)等が導入されてきた。イオン・ミラー構成により、非常に狭い質量範囲において、高い質量分解能が得られるようになり、また、質量相関加速(MCA)(mass correlated acceleration)構成により、およそ3オーダーの大きさの質量範囲にわたる高い質量分解能がもたらされた。 Kovtoun, S. V., "An Approach to the Design of Mass-correlated Delayed Extraction in a Linear Time-of-Flight Mass Spectrometer," Rapid Comm. Mass Spectrom., Vol. 11, pp. 433-36, 1997 、 Kovtoun, S. V., "Mass-correlated Delayed Extraction in Linear Time-of-Flight Mass Spectrometeres," Rapid Comm. Mass Spectrom., vol. 11, pp. 810-15, 1997 、および、 English, R. D. および Cotter, R. J., "A Miniaturized Matrix-assisted Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometer with Mass-correlated Acceleration Focusing," J. Mass Spectrom., vol. 38, pp. 296-304, 2003. を参照されたい。
【0011】
一般に、分析器の構成に対し、2種類の修正が可能である。イオンの生成を空間的に広がりのある領域において行う場合、同一質量のイオンが異なる経路長を経由してイオン発生源領域から検出器まで移動することを補償するような補正が必要である。これを、空間集束(space focusing)と呼ぶ。また、イオンが初期運動エネルギ/速度分布を有する場合、エネルギ集束(energy focusing)を用いて、初期エネルギ/速度の相違を補償する。TOF質量分析器の設計方法であれば、いかなる方法であれ、最終設計案に、これらの両方の補正が含まれる。
【0012】
図1は、イオン・ミラー106を有し、レーザを用いた質量分析を行うように構成される、本発明にかかる飛行時間型質量分析器(TOF−MS)100の実施形態の概略図である。イオンは、TOF−MS100を飛行する。TOF−MS100内における飛行の経路および方向を破線矢印で図示する。イオンは、サンプル・ホルダ102の表面において、集束レーザ・パルスにより生成される。レーザを用いたイオン化において、レーザは試料に吸収され、試料の一部を蒸発およびイオン化する。イオンの空間的分布を最小限に抑えるため、レーザ・パルスの幅は、短いことが好ましい。したがって、発生させるレーザ・パルスは、試料のある成分により吸収される波長を有し、パルス幅は100ns未満であることが好ましい。電位Vextは、時間依存性を備えてもよく、そして、発生源/抽出領域103に印加され、レーザ・プルームからイオンを引き出す。サンプル・ホルダ102の長さは、0.5cm未満であることが好ましく、サンプル・ホルダの他方の寸法は、5cm未満であることが望ましい。発生源/抽出領域103の長さdは、0.5cmのオーダーであることが好ましく、発生源/抽出領域103の他方の寸法は、5cm未満であることが望ましい。加速領域104に印加されるポテンシャルにより、イオンは最終運動エネルギを得る。加速領域104の長さdは、1.0cm未満のオーダーであることが好ましく、加速領域104の他方の寸法は、5cm未満であることが望ましい。これら領域の長さおよび領域に印加されるポテンシャルは、それらの値を適切に選択することにより、空間および/またはエネルギ集束を与える。そして、イオンは、長さd、好ましくはおよそ15cm、の第1フィールド・フリー領域105をドリフトし、長さd、好ましくはおよそ18cm、のイオン・ミラー106に入る。第1フィールド・フリー領域105およびイオン・ミラー106の両方に関し、他方の寸法は、10cm未満であることが望ましい。イオンの飛行方向は、イオン・ミラー106に印加されるポテンシャルVにより方向転換される。適切に設計されたイオン・ミラー106は、同一質量であって異なる運動エネルギを備えたイオンの飛行時間の差異をさらに補正することができる。イオンは最終的には、長さd、好ましくはおよそ17cm、を備え、他方の寸法は望ましくは10cm未満である第2フィールド・フリー領域107をドリフトしてから、イオン検出器108に衝突する。イオン検出器108は、およそ5cmの長さを有することが好ましく、他方の寸法は5cm未満であることが望ましい。イオン検出器は、商品化され、小型TOF−MS100の機器用に設計されたものが好ましい。例えば、高速な時間応答性を備えたものが好ましい。なぜなら、小型TOF−MS100では総飛行時間が短いためであり、例えば、 Burle Electro-Optics Inc. のものがある。TOF−MS100の全長は、およそ35cmであることが好ましい。TOF−MS100を構成する他の様々な構成要素、たとえばTOF−MS100を内に含む真空ハウジング、の寸法は、TOF−MS100の全長より、わずかに長い、およそ40cm程度が好ましく、他方の寸法は、10cm以下であることが望ましい。標準的なTOF−MSの構築手法および材料を、本発明にかかるTOF−MS100の構築に用いることが可能である。しかしながら、適切な状況においては、長さdからdまで、および、TOF−MS100の全長、様々な構成要素および領域の寸法、ならびに、真空ハウジングの寸法は、設計上の要請に応じて、例えば、TOF−MS100を最適化する質量範囲、携帯型装置として構成する要請、または、利用する検出器の時間応答等に応じて変更してもよい。
【0013】
イオン・ミラー106のポテンシャルVを除き、分析器の様々な領域に印加される電位は、領域の軸に沿うように印加され、図1に破線で示した矢印の方向にイオンを移動させる。例えば、陽イオンの場合、加速領域104の電位は、イオンが加速領域104に入場するポイントにおいて、図示したようにイオンが飛行して加速領域104から出場するポイントよりも、実質的にVだけ高い。イオン・ミラー106に印加されるポテンシャルは、イオンを方向転換させて検出器に向かわせる程度のものである。TOF−MSの設計の当業者であれば、正または負の電荷を有するイオンを検出する装置を構築するのに、どのようなポテンシャルを適用すればよいかは、容易に理解する。一般に、ポテンシャルは、領域において、少なくとも2つの金属製電極にポテンシャルを与えることで設定され、一方の電極は、実質的に領域の開始部に配され、他方の電極は、領域の終了部に配される。例えば、ポテンシャルは、実質的に線形的に、領域の長さにそって変化する。これら電極は、イオンが通過するための均一な間隔で配された穴を備えた平坦な格子、または、電極の中心部をイオンが通過可能な環状電極、のいずれかでよい。例えば、イオン・ミラーは、電極を有し、電極は、一端においては格子であって、他端においては一連の環状電極であり、それらのポテンシャルは2つの両端電極間のレジスタ・ドライバ・ネットワークにより設定される。必要なことは、図1において破線で示される、実質上のイオンの飛行経路において、所望の電位差が印加されること、のみである。電極に、電源部が所望のポテンシャルを与え、電源部の出力により、2つの導体に一定の電位差が保たれる。電極間の電位差は、導体と領域の端部の電極との電気的接触により維持される。
【0014】
図2は、本発明にかかる実施形態による、イオン・ミラー106および補正用イオン光学素子202を用いた飛行時間型質量分析器(TOF−MS)200を示す図である。図示する補正用イオン光学素子202は、イオン・レンズを有する。補正用イオン光学素子202は、通例、(イオンのTOF−MS内経路とは垂直な)半径方向におけるイオンの広がりを補正する必要がある場合に用いられる分析器の構成要素である。図示のように、補正用イオン光学素子202は、加速領域104と第1フィールド・フリー領域105との間に配される。ここで、補正用イオン光学素子202の全長をdc0とする。補正用光学素子の長さは、用いる補正用イオン光学素子202の種類に応じて、およそ1ないし3cmで変化させることができる。適切な状況下、異なる種類/構成の補正用イオン光学素子202を用いてもよい。それらは、例えば、静電偏向器(electrostatic deflection system)と組み合わせたイオン・レンズ、もしくは、静電偏向器のみ、もしくは、イオン・レンズのみ、である。静電偏向器は、TOF−MS内におけるイオンの経路を微調整可能にする。
【0015】
現在の、TOF−MSの開発に携わる設計者および研究者の目標は、単一の質量範囲、または、いくつかの選択された質量範囲のいずれかにおいて質量分解能を向上させることである。また、小型TOF−MS機器を開発するための、やむにやまれない理由も存在する。エネルギ集束のみを行うTOF−MSの設計手順は、次のとおりである。初期イオン速度にかかる総TOFは、次式を用い、平均速度に関する速度のべき級数に展開され、
【数1】

ここで、mはイオン質量、vは初期イオン速度、zは初期イオン位置、V^→は様々な領域および素子に印加されるポテンシャル全てを含むセット、d^→は様々な領域および素子の長さ全てを含むセット、σ^→は時間依存性のあるポテンシャルの時定数全てを含むセット、ならびに、Δt^→は時間遅延全てを含むセットである(「X^→」は、文字Xの上に記号「→」を加えた表記を表すものとする。)。これは、テイラー級数展開である。よって、展開の係数aは、飛行時間の初期イオン速度に関するn階偏導関数の平均イオン速度における値であり、飛行時間は、初期イオン速度、イオン質量、さまざまな寸法、ポテンシャル、および、その他質量分析器の設計にかかるパラメータの関数である。正確な集束(フォーカシング)のためには、これらパラメータを、aがあるオーダーn、通例2(2次オーダーフォーカシング)、において等しくゼロとなるように、イオンの初期状態、例えば、初期イオン速度分布、イオン質量等、に関する仮定の組み合わせセットの下で、選択される。
【0016】
anが全て等しくゼロに設定すれば、その分析器設計は最適動作を保証するが、一般的には、実際のイオンの状態を反映していない、特別な条件下で、狭い質量範囲に限って可能である。質量の関数として振動可能な、aの関数形式は、TOF−MSの設計の最適化に用いられてこなかった。本発明にかかる設計方法は、この性質を用いてTOF−MS設計の最適化を行う。
【0017】
簡単化のため、以下の議論においては、一価の分子のみを考慮する。任意のTOF−MSを設計するために、初期速度の関数として飛行時間を、一般的なテイラー級数として、イオンの平均速度周りで展開することができる。その一般形を式(1)に示す。展開は、一変数に関するのみだが、飛行時間tofは、イオンの質量m、初期イオン速度v、加速、抽出、および、イオン・ミラーのポテンシャルV^→、ならびに、様々な領域およびイオン・ミラーの長さd^→の関数でもある。さらには、抽出ポテンシャルは、次式に示すような一般関数形式を有する時間の関数であることを仮定し、
【数2】

ここで、Θはヘビサイド関数であって、t<Δtのときには式(2)の第2項をゼロにする。時定数α−1を有する指数関数を仮定するのは、それらは、単純なRC回路を備えた高電圧パルス・ジェネレータで簡単に再現可能だからである。時間tは、初期時間遅延Δtの後の時間であり、第2時間遅延Δtは、他の集束(フォーカシング)スキームにおいて見られる挙動を可能とするために導入される。米国特許第5,969,348号、および、米国特許第6,518,568号を参照されたい。飛行時間の、初期イオン速度に関する偏導関数は、平均速度周りの展開式として次のように書くことができる。
【数3】

この一般的方法をさらに改良するには、aを質量の級数として次のように
【数4】

展開すればよい。一般に、aは、質量分析器の設計パラメータおよびイオンの質量の関数であり、質量の関数として、ゼロまたはゼロの近傍において振動可能である。この挙動を利用し、広範囲な質量範囲において、高質量分解能を有するTOF−MSを構成することができる。
【0018】
式(3)を最小化するTOF−MSパラメータは、aを広範囲な質量で振動させることで決定する。その範囲においてゼロから大きく離れることはない。よって、正確な空間のもしくはエネルギの集束を必要としない。しかしながら、この手法において補正パラメータを選択すれば、広い質量範囲にわたり、高い質量分解能を得ることも可能である。本手法は、この点において、aをゼロとすることを求める一般的な設計目標と、本質的に異なる。
【0019】
空間集束(space focusing)を設計法に積極的に取り入れる必要がある状況に対しては、総飛行時間を、式(1)と同様に、aに類似した係数で、2つの変数vおよびzをテイラー級数展開することができる。これらの新しい係数も、質量の関数として振動可能であり、この挙動を用いることで、aを用いた方法と同様に、TOF−MSの設計が可能である。
【0020】
この設計方法は、さらに、全長が短いという点において、好ましいTOF−MS構成が可能であるという利点を有する。aのゼロからのずれは、結果的に、aを全て等しくゼロにするという一般的な設計基準のように、理想的に同時に衝突するかわりに検出器に衝突するときに拡大もしくは収縮するイオンの等質量パケット(isomass packet)をもたらす。このため、比較的長さの短いTOF−MSの設計では、式(3)のゼロからのずれによるイオン・パケットの拡大を最小にする。したがい、総飛行経路長と導関数のゼロからのずれとの間ではたらくバランス作用が存在する。
【0021】
設計法
本発明にかかる設計法は、イオンの発生にマトリックス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)法を用いることが好ましい。米国特許第5,118,937号を参照されたい。従い、この手法に適切な2つの仮定を行う。第1の手法に適切な仮定は、全てのイオンは実質的に、レーザが出射されてΔtの後の時刻t=0において同一の位置にある、とすることである。したがって、イオン発生源は、空間集束(フォーカシング)を必要としない。このことは、この場合、TOF−MS内のイオンの飛行時間の、初期イオン位置に関する偏導関数が、実質的にゼロであるという要請が自動的に満足され、それゆえ、本設計法の一部は、イオンの生成にMALDI法を用いることで自動的に満足することを意味する。そして、最終的に、被分析イオンの速度分布は、イオン質量から独立となる。TOF−MS設計は、イオン・ミラーを用いるため、式(4)のaおよびbn,lは、14の変数/設計パラメータの関数である。これらは、図1に示す、5つの領域長dないしd、時間従属抽出ポテンシャルを決定する6つのパラメータ、初期遅延Δt、加速ポテンシャル、ならびに、イオン・ミラー・ポテンシャルである。物理的な関係性により、パラメータの2つ、d(イオン・ミラー長)およびV(イオン・ミラー・ポテンシャル)は、独立な量ではない。強調すれば、dの値に対し、Vの値は、もっとも大きな取り得るエネルギを有するイオンを、イオン・ミラーの長さdで方向転換させるのに十分でなければならない。このため、dは設計過程において選択されるパラメータであり、Vは予想される最大のエネルギから計算される値となり、13の独立なパラメータが選択されるべきものとして残る。
【0022】
しかし、補正用イオン光学素子202をTOF−MSの設計に用いるのであれば、補正用イオン光学素子202内の飛行時間を決定し、TOF−MS200の残りの部分における総飛行時間に加算しなければならない。この値は、式(3)のaの計算に用いられる。
【0023】
図3は、図2の補正用イオン光学素子202の断面図である。図示するように、補正用イオン光学素子202は、対称三管アインツェル・レンズ(symmetric three-tube Einzel lens)300である。アインツェル・レンズ300は、TOF−MS設計に用いられる標準的なイオン・レンズ・システムである。アインツェル・レンズ300は、3つの伝導性チューブ、第1伝導性チューブ302、中央もしくは第2伝導性チューブ303、および、第3伝導性チューブ304を、チューブの軸をTOF−MS200を飛行するイオンの経路に沿って配した構成を有する。図2に示すように、補正用イオン光学素子は、加速領域104および第1フィールド・フリー領域105の間に配されることが好ましい。補正用イオン光学素子202が、アインツェル・レンズ300および静電偏向器の両方を有する場合、アインツェル・レンズ300は、補正用イオン光学素子202の全体が加速領域104と第1フィールド・フリー領域105との間にあって静電偏向器よりも前に配される。Rは、対称三管アインツェル・レンズ300の内径であり、同時に、第1伝導性チューブ302、第2伝導性チューブ303、および、第3伝導性チューブ304の内径である。図示するように、aは第2伝導性チューブ303の長さであり、gは第1伝導性チューブ302と第2伝導性チューブ303の間、および、第2伝導性チューブ303と第3伝導性チューブ304の間のギャップの長さである。
【0024】
補正用イオン光学素子202がアインツェル・レンズ300である場合、アインツェル・レンズ300内の飛行時間は、まず、イオンの飛行経路に沿ったポテンシャルを決定し、次に加速を決定することで求めることができる。対称三管アインツェル・レンズ300の軸に沿った電位は、
【数5】

で求められ、ここで、Rおよびgは、図3の説明に記したとおりであり、ω=1.3183、ω’=1.67である。 Gillespie, G. H. および Brown, T. A., Proceedings of the 1997 Particle Accelerator Conference (cat no.97CH36167) Piscataway (ピスカタウェイ), NJ (ニュージャージー州), USA IEEE, vol. 2, pp. 2559-61, 1998. を参照されたい。よって、ポテンシャルVは、第1伝導性チューブ302および第3伝導性チューブ304に印加されるポテンシャルであり、ポテンシャルVは、中央もしくは第2伝導性チューブ303に印加されるポテンシャルである。アインツェル・レンズ300の軸に沿った位置は、zで示し、これは、図3に示すように、アインツェル・レンズ300の中信から計測した距離である。アインツェル・レンズ300を飛行するイオンの速度は、一定ではないが、適切に設計されたアインツェル・レンズ300から出場するイオンの速度は、入場するときの速度と同一にすることができる。TOF−MS200内を飛行するイオンの経路に沿ったポテンシャルがわかれば、アインツェル・レンズ300内の飛行時間telを、解析的または数値的に、計算することができる。そして、この時間をTOF−MS200内のイオンの総飛行時間に加算する。アインツェル・レンズ300の軸に沿った方向に関するイオンの加速度は、
【数6】

で与えられ、ここで、qはイオンの電荷であり、mはイオン質量であり、zはアインツェル・レンズ300の軸に沿った長さである。
【0025】
周知のことだが、アインツェル・レンズは、別の構成も可能である。Gillespie, G. H. および Brown, T. A., Proceedings of the 1997 Particle Accelerator Conference (cat no.97CH36167) Piscataway (ピスカタウェイ), NJ (ニュージャージー州), USA IEEE, vol. 2, pp. 2559-61, 1998. を参照されたい。2つの別の標準的アインツェル・レンズ構成、3アパーチャ・レンズ、および、中央チューブ・レンズに対する類似の式が示されている。Vaには、第1フィールド・フリー領域のポテンシャルが設定され、Vbはイオンの半径方向への拡大を補正するのに十分な値が設定される。
【0026】
また、静電偏向器を補正用イオン光学素子202に用いる場合、偏向器内の飛行時間を、TOF−MS200内の総飛行時間に加算する必要がある。この値は、式(3)のaの計算に用いられる。適切に設計された静電偏向器は、その内部を飛行するイオンの速度を変えることがない。 Dahl, P., Introduction to Electron ad Ion Optics, Academic Press, 1973. を参照されたい。イオンが静電偏向器内を飛行するのに要する時間は、t=d/vであり、ここで、dは静電偏向器の長さ、vはイオンの、静電偏向器に入場する時の速度である。
【0027】
したがって、補正用イオン光学素子202を設計法に組み入れるためには、補正用イオン光学素子がある場合には補正用イオン光学素子内の飛行時間がわかりさえすればよく、もしあるのであれば、静電偏向器内の飛行時間を加え、TOF−MS200の残りの部分にかかる総飛行時間に換算しさえすればよい。この値は、式(3)のaの計算に利用される。本方法の他の部分は、好適な実施形態TOF−MS100のために記したものと同じでよい。
【0028】
TOF−MS設計分野の当業者であれば、本発明にかかる設計方法は、別のイオン化手法を用いてもうまくいくことを理解するであろう。それらの手法には、エレクトロ・スプレー(electro spray)(ESI)、エレクトロン・インパクト・イオナイゼーション(electron impact ionization)(EI)、ケミカル・イオナイゼーション(chemical ionization)(CI)、デソープション・ケミカル・イオナイゼーション(desorption chemical ionization)(DCI)、フィールド・デソープション(field desorption)(FD)、フィールド・イオナイゼーション(field ionization)(FI)、ファースト・アトム・ボンバードメント(fast atom bombardment)(FAB)、サーフィスアシステッド・レーザー・デソープション・イオナイゼーション(surface-assisted laser desorption ionization)(SALDI)、セカンダリ・イオン・マス・スペクトロメトリ(secondary ion mass spectrometry)(SIMS)、サーマル・イオナイゼーション(thermal ionization)(TIMS)、レゾナンス・イオナイゼーション(resonance ionization)(RIMS)、プラズマ・デソープション・イオナイゼーション(plasma-desorption ionization)(PD)、マルチフォトン・イオナイゼーション(multiphoton ionization)(MPI)、および、アトモスフェリック・プレッシャ・ケミカル・イオナイゼーション(atmospheric pressure chemical ionization)(APCI)を含み、これらに限定されない。アトモスフェリック・イオナイゼーション法(ESIおよびAPCI)を除き、全て、初期イオン速度および初期イオン位置(発生源/抽出領域内部)の分布にかかる知見さえわかればよい。アトモスフェリック・イオナイゼーション法については、別種の仮定の組み合わせが必要となる。例えば、アトモスフェリック・イオナイゼーション領域に印加されるポテンシャルが一定であり、加速領域のポテンシャルが時間従属性がある、といった仮定である。
【0029】
上記イオン化法は全て、イオンの生成に用いられるもので、それらイオンは後にイオン・トラップへ運ばれる。イオン・トラップは、イオンが電場および磁場により閉じ込められる領域である。トラップを用いたTOF−MSは、イオンをトラップ内に蓄積し、よって、機器の感度を上げ、電場および/または磁場を変化させてそれらイオンをTOF−MSの飛行経路へ向けて排出する。この種の構成においては、トラップは、イオン発生領域であり、本願の設計法に用いることも可能である。また、必要な知見は、トラップ内部におけるイオン速度分布およびイオン位置分布のみである。
【0030】

【数7】

ここで、Γはガンマ関数であり、σは初期イオン分布の標準偏差である。この関数は、非線形近似アルゴリズムより導出したフィット・パラメータを仮定して、質量範囲について評価される。γは、aのそれぞれに与えられる重みを修正するスケーリング・ファクタ(倍率)であり、初期イオン速度の標準偏差σの主関数(primarily functions)である。重み付けされたaの和は、総飛行時間tofで除算される。そうすることで、質量mに関し、大きなγがtofの増大するにつれ許容される、つまり、飛行時間が長くなればなるほど、検出されるピークはより広くなるが、高質量分解能に関する要請に影響を及ぼさなくなる、という事実を補償する。通例、誤差関数を二乗するため、取りうる最低値はゼロである。初期イオン速度に関する飛行時間の全微分導関数こそが関心の的であるが、実際的な用途目的においては、式(7)におけるn>4の項は、誤差関数の値に対し著しい影響を与えるものではない。誤差関数は、導関数、式(3)、が振動することを必要としないが、anの性質により、大抵の場合、誤差関数が最適化過程において最小化されるような仕方で式(3)が振動する。当業者であれば理解しているものと思われるが、誤差関数を微調整することは望ましく、微調整の過程も本発明にかかる設計法の一部をなすものである。MALDIによるイオン生成に適切な仮定に関しては、初期イオン位置についてのTOF−MS内総飛行時間の偏導関数は実質的にゼロであり、本設計方法の一部を自動的に満足するが、初期イオン位置の影響が大きい場合には、例えば、エレクトロン・インパクト・イオナイゼーションによる場合に関しては、好適な方法を簡単に用いることもできる。総飛行時間、式(1)、は、2つの変数について、テイラー級数展開することができ、よって、新しい、aに似た係数のセットを作り出すことができる。これら新しい係数を、次に、式(7)に類似した誤差関数に組み込み、その新しい誤差関数を用い、好適な設計のプロセスを実施することができる。
【0031】
非線形最適化アルゴリズムは、一般に制約がなく、つまり、あらゆる値をパラメータ値とすることができる。しかし、この設計法においては、パラメータは、物理的に、実現可能な/意味のある値に拘束されねばならない。値が必須の範囲内に収まることを確実とするため、パラメータを、修正対数−シグモイド変換(modified Log-Sigmoid Transformation)を用いて拘束する。 Polyak, R. A., "Log-Sigmoid Multipliers Method in Cnstrained Optimization," Annals of Operations Research, vol. 101, pp. 427-60, 2001. を参照されたい。ここで、拘束されたパラメータpは、次式を用いて、拘束されないパラメータp’に変換される。
【数8】

パラメータpは、pminからpmaxに拘束されるが、適合するパラメータp’は、−∞から+∞のあらゆる値をとることができる。
【0032】
ある種の最適化手法を用いれば誤差関数を最小化することが可能であるが、その手法が、本設計方法を実現可能な唯一の手法ではない。その他の、本設計方法を実現可能な最適化手法には、分岐限定法(branch and bound techniques)(Pinter, J. D., Global Optimization in Action. Dordrecht, Netherlands: Kluwer, 1996 を参照されたい。)、動的計画法(dynamic programming)(Adjiman, C. S. et al., "A Global Optimization Method, aBB, for General Twice-Differentiable Constrained NLPs - I. Theoretical Advances," Comp. Chem. Engng., vol. 22, pp. 1137-58, 1998 を参照されたい。)、焼き鈍し法(simulated annealing)(Wang, T., Global Optimization for Constrained Nonlinear Programming, Ph. D. Thesis, Dept. of Computer Science, Univ. of Illinois, Urbana(アーバナ), IL(イリノイ州), December 2000 を参照されたい。)、および、進化アルゴリズム(evolutionary algorithms)(Yuret, D., From Genetic Algorithms to Efficient Optimization, Massachusetts Institute of Technology A. I. Technical Report No. 1569, 1994 を参照されたい。)が含まれ、またこれらに限定されない。また、我々の設計上の目標を達成する上で解析的手法を用いることも可能である。当業者であれば、多くの最適化手法を、本設計方法に用いることが可能なことは当然理解するものである。
【0033】
実施
LabView(登録商標)を用いて、計算を組み立てて監視するためのグラフィカル・ユーザ・インターフェースを開発した。そして、サブプログラムを、必要な計算を実行するために記述した。サブプログラムは、イオン・ミラーを用いた、先述の14のパラメータを有するTOF−MS内を飛行する初期速度vおよび質量mの単一イオンの総飛行時間の計算に用いた。本プログラムは、基礎力学の標準的な運動方程式を用い、イオンがTOF−MSの各領域を横断するのにかかる時間を計算した。加速度は、次式より求めることができ、
【数9】

ここで、z×eは電子の電荷eを単位としたイオンの電荷であり、Vは領域に印加されるポテンシャルであり、mはイオンの質量であり、dは領域の長さである。ここでは、領域の長さに沿ってポテンシャルが線形的に変化することを仮定している。ポテンシャルの変化が非線形的である場合、加速度は、ポテンシャルのグラジエントから計算する必要がある。平均速度vavgおよび標準偏差σで定まるガウス速度分布を有する等質量イオンのまとまりは、分析器内を伝搬され、その総飛行時間は、各イオンについて記録される。このパケットの半値全幅(FWHM)Δtは、検出器の位置に到達する毎に別のサブプログラムで計算され、よってその質量における分解能は次の通りである。
【数10】

半値全幅(FWMH)は、ピークのその最大値の半値における幅である。
【0034】
式(2)からaは、好ましくは、数値的に、初期速度(v)に対する総飛行時間(tof)のグラフを多項式近似して求められる。図4は、質量100kDaにおけるvに対するtofのグラフである。式(2)の最初の4項も、計算より求めたaを用いてプロットしている。tofのプロットは、図4のn=2の項が支配的であるように見えるが、別の項、n=1、n=2、および、n=4の項も、総飛行時間に対してかなりの寄与があるようにも見える。
【0035】
多くのパラメータを含む最適化問題の場合、極小に陥る傾向があるため、よい初期パラメータを選択することが肝要である。飛行時間を計算するサブプログラムは、十分に高速に動作するため、ランダムに選択されたパラメータで定まるTOF−MSの性能を短時間で評価することができる。これらのランダムな値は、図5に示した拘束値に拘束される。平均二乗誤差(MSE)は、任意的に選ばれた質量に対するΔmの関数に関して計算される。MSEが最低になる構成を、最適化アルゴリズムに対する初期パラメータとして選択する。当業者にとっては当然のことだが、あらゆる最適化アルゴリズムというものは、最適解を、つまり、所望の質量範囲における絶対的な取りうる最低の値を有する誤差関数、式(7)に必ずしも到達し得るものではなく、よって、到達したパラメータのセットの全てが使用に適したものというわけではない。よって、異なる初期パラメータから複数回実行し、好ましい設計を得ることが必要である。
【0036】
設計法を用いたTOF−MS
ここでは、本発明にかかる設計法の、図1に示すTOF−MS実施形態100に対する適用例について議論する。図5の表は、イオン・ミラーを備え、本発明にかかる設計法を用いたTOF−MS100の構成にかかる設計パラメータを示す。表の最終列は、特定のパラメータが、近似手順において、拘束を受けたか否かを示す。原則として、近似の途中で、無限大またはゼロに近づく傾向性を示したパラメータのみが拘束を受ける。本設計の目標は、TOF−MS100の全長が40cm未満でありかつ、100kDa未満の質量に対しおよそ10もしくはそれ以上の質量分解能を有することとする。最終的近似パラメータは、期待通り、全てが物理的に実現可能なものであり、分析器の全長は、従来の設計よりも短いものである。式(2)からV、V1a、および、V1bは、市販されて入手可能な高電圧固体スイッチを使用可能とするように、拘束を受けた。指数関数の時定数α−1およびα−1は、一切の拘束を受けない。2つの時間遅延ΔtおよびΔtは、それぞれ、最小値が15nsおよび0.1nsに拘束される。両方の場合において、遅延は可能な最小の値に向かう傾向があり、Δtに関する最小の境界は、実際的な言い方をすれば、ゼロ遅延である。Δtの最小は、レーザ・パルスの幅よりも長い遅延を保つように設定された。加速ポテンシャルVに対する拘束は、最大を、電源装置から得られる最大電圧、およそ20kVとし、最小を、実質的なゼロ加速ポテンシャルとすることが可能な、0.1mVとした。イオン・ミラー・ポテンシャルは、先に議論したように、イオン・ミラー106の長さdおよび予想される最高のイオン・エネルギから計算する。発生源/抽出領域103の長さdは、フィールド漏れ(field leakage)を極小にしかつ、レーザをサンプル・ホルダの表面にあてるためのクリアランスを確保できる、最小長さ5mmに拘束した。加速領域104の長さの値dは、近似の際、ゼロに向かい、加速領域内の時間をゼロに向かわせ、誤差関数に対する寄与を最小化する傾向があるため、最小値として0.1mmを拘束に用いた。これら値について最大側の拘束は、任意的に選択された。dをゼロにすることも可能であるが、有意な電場の値に保つことも可能である。dをゼロとしたときは加速領域104のポテンシャルもゼロとしなければならない。第1フィールド・フリー・ドリフト領域105の長さである、長さdは、最小値を1cmに拘束され、もって、総飛行時間を穏当な値に保ち、よって、イオン検出器108の時間応答性にかかる問題を最小限にとどめている。また、最大限界を20cmに設定して構成をコンパクトに保っている。第2フィールド・フリー・ドリフト領域107の長さである、長さd5は、その上限拘束値が、同様の理由で設定されたが、最小値は1mmに設定されることで、イオン検出器108が実質的に、イオンがイオン・ミラー106から出場する位置に配されるような設計を可能とした。
【0037】
図6は、上述のようにランダムに選択されたパラメータで始める最適化手順の初期における、式(3)の最初の4つのaについてプロットしており、それらはγでスケーリングされている。4つの項は全て、誤差関数、式(4)、に対する明らかな寄与を示しており、質量の関数として振動する。およそ20kDa以下において、項aおよびaは、誤差関数に対して主たる寄与を示す。図6に示すように、20kDa以上においては、項aおよびaも顕著な寄与を示す。
【0038】
最適化ルーチンは、図5の表の第2列に示す値をアルゴリズムにそって選択することで、誤差関数を極小化した。最適化アルゴリズムの結果を検証するため、等質量のイオンのパケットの軌道、および、その質量分解能を計算した。図7に、その計算結果をグラフによって示す。分解能m/Δmは、大きさにして5オーダーにわたる質量範囲にわたり、およそ10もしくはそれ以上である。この結果は、ポテンシャル、時間遅延、および、TOF−MS100の様々な領域の長さ、のいずれも変更することなく達成されたものである。一般的なTOF−MSの構成において、このような広範囲な質量範囲において最大質量分解能を得ようとするならば、機器を再調整する必要がある。再調整には、通例、ポテンシャルおよび時間遅延の調整が含まれる。
【0039】
図8に、本発明にかかる分析器設計の実施形態の質量分解能力を示すため、中心を100kDaとし、5Da間隔で5つの質量についてのTOFピークを示す。これらピークの幅は、20,000よりも大きい質量分解能を示しており、この結果は、図7に示した計算の結果から予測されるものよりも高いものである。その理由としては、図7に示した計算結果が、ガウシアン形状へのフィットより計算されたものだからである。図8に示したピークは、ガウシアン的なものではなく、そして、このような形状をしたピークに対するガウス関数近似は、常に、質量分解能を、実際に実現可能な質量分解能よりも過小評価する。図8におけるピークの形状は、図4を検討することで説明可能である。図4に示したように、イオンの信号のピークは、平均イオン速度近傍に極大を有し、より大きいまたはより小さい初期速度を有するイオンは、全て、長い飛行時間を有し、もって、長期間にわたって強度が減衰する尾部をピークに与えている。
【0040】
図2に示す抽出ポテンシャルの時間依存性は、一般に、非常に複雑である。時刻t=−Δtにおいて、レーザが発光する。一定のポテンシャルが、レーザが発光してからΔt後のt=0において、オンになることに対応する項がある。これにより、米国特許第6,518,568号に記載のMCAスキーム、および、米国特許第5,969,348号に記載の分離スキーム(separate scheme)に似た解法が可能である。そして、それぞれRC時定数α−1およびα−1を備え、指数関数的に増加および減少するポテンシャルは、時刻t=Δtにおいてオンになる。好ましくは高電圧パルス発生器で生成される、このような関数形式で表わされる時間従属性を有するポテンシャルは、高電圧固体スイッチならびにレジスタおよびキャパシタを用いれば簡単に実現することができる。高電圧スイッチは、10nsのオーダーの立ち上がり時間を備え、およそ10アンペア(amps)の電流を輸送可能であり、20kV程度の電圧をスイッチすることができることが好ましい。例えば、 Behlke (登録商標) Electronics GmbH がそのようなスイッチを製造している。
【0041】
図9は、最適化された抽出ポテンシャルの時間依存性を示す。この場合、Δt=19.1nsである。この実施形態においては、Δtは、最適化アルゴリズムにより0.1nsに設定された。実際的な用途目的においては、これはゼロ時間遅延であり、このような第2遅延を採用するスキームは、述べた設計目標に適しているとは言えない。相対値V1a、α、V1b、およびαは、t=0において抽出遅延Δtを有し、t=Δtにおいて、ポテンシャルはV+V1bになり、その後、抽出ポテンシャルは、イオンが抽出領域103に存在する間、単調に減衰する。Δtが非常に小さいため、実際的な問題により、Vを示す0.1nsの間の部分は、グラフに表わすことができていない。非常に長い時間をかけ、抽出ポテンシャルはV+V1aに近づく。よって、最適化手順は、式(2)において、指数関数的に減少する項に支配される時間従属性の抽出ポテンシャルをもたらす。
【0042】
TOF−MS機器の設計、製作に従事する当業者であれば理解することだが、別の設計目標では、設計パラメータに対する拘束は変更され、よって、最終的に最適化されたTOF−MSの設計のパラメータも変更される。選択した質量範囲にわたり最適化するために、誤差関数、式(7)、は、最適化の過程においてはその質量範囲においてのみ計算される。大きな質量、例えば、10kDaよりも大きな、生物学的マーカの探索に好都合な質量に対し最適化された設計ではその全長が、1000kDaから10kDaの間の範囲の質量、タンパク消化剤の配列決定や生物学的指紋の探索に好都合な質量に対し最適化された設計における全長よりも、短くなる傾向がある。その理由は、大きな質量の広い速度分布が、図10を参照すれば、より短いTOF−MSの長さでの高い質量分解能の実現を可能としているからである。検出器の時間応答性も、設計パラメータの拘束を選択する上で考慮される事柄である。典型的な電子増倍型検出器は、10nsから350psの間の最小パルス幅を有する。TOF−MSの全長およびポテンシャルの大きさは、イオンの飛行時間を決定し、全長が短く、ポテンシャルが高くなれば、飛行時間はより短くなる。特定の検出器を用いる構成に対する設計上の拘束は、部分的には、検出器の時間応答性、および、所望の質量範囲における所望の質量分解能により決定される。携帯型装置や、宇宙での利用、といった、別の利用用途に対しては、総容積を小さくすることや、軽量化に対する要請により、設計パラメータの拘束が影響を受けることがある。
【0043】
本発明の物理
本発明にかかる設計方法は、広範囲の質量について、機器を再調整することなく高い質量分解能を備えた小型TOF−MSを提供するが、いかにして、他の設計よりもこのような顕著に高い性能を示すことができているかについての洞察が未だなされていない。図10のグラフは、イオンの初期および最終(発生源/抽出領域102を飛行した後)の運動エネルギ分布を、質量の関数として、運動エネルギ分布EavgiおよびEavgfのピークならびにそれらの標準偏差σEiおよびσEfをプロットすることで示したグラフである。一定のイオン速度分布を用いているため、エネルギ分布Eavgiにおける初期ピークは、質量に関して線形的に増大しており、また、初期標準偏差σEiについても同様である。しかしながら、発生源/抽出領域103を飛行した後では、イオン運動エネルギ分布Eavgfのピークは、質量の関数として、ほぼ一定であり、エネルギ分布の幅σEfは、大きさにして1オーダーほどに増加している。以前は、全てのイオン集束スキームが、抽出領域においてエネルギの広がりを低減することを初期イオン・エネルギ分布の大きな広がりを取り扱う最善の方法であると仮定していた。その最たる例は、よく用いられる遅延抽出法(delay extraction technique)であり、この手法は、特に、イオンのエネルギ分布を狭小化するために開発された。米国特許第5,969,348号を参照されたい。
【0044】
本発明にかかる設計法における時間従属性の抽出ポテンシャルは、Δtの後、減少する関数であるため、イオンのエネルギ分布を拡大させる。このことは、直観と相容れない考えのように思われるが、この革新的な構成の利点は、超短レーザ・パルスの物理への類推から理解することができる。超短レーザ・パルスを生成するには、非常に広い帯域幅、つまり、パルスを構成するフォトンは大きなエネルギの広がりを有する必要がある。パルスが短くなればなるほど、エネルギの広がりはなおさらに広くなければならない。本設計法は、同様の方法で作用する。つまり、抽出パルスがイオンのエネルギ分布を拡大し、その一方で、一定の最確エネルギ(constant most probable energy)を質量の関数として創出する。イオン・ミラーは、固定エネルギ(fixed energy)における広いエネルギ分布を、短い距離で検出器に集束するように最適化され、広い質量範囲にわたり高い質量分解能をもたらす。短い総イオン経路長は、先に述べたように、イオン検出器における完璧な集束への要請を未然に回避する。
【0045】
本願の好適な実施形態について、例示的に説明したが、本発明の思想および範囲から逸脱することなしに、当然に、様々な変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明にかかる、イオン・ミラーを用いた飛行時間型質量分析器の実施形態の基本構成を示す図
【図2】本発明にかかる、イオン・ミラーおよび補正用イオン光学素子を用いた飛行時間型質量分析器の実施形態を示す図
【図3】図2の補正用イオン光学素子の断面図であって、図示の補正用イオン光学素子は、対称三管アインツェル・レンズを備える。
【図4】イオン質量100kDaにおける、総飛行時間と初期イオン速度の関係を示す図であって、本関数のn階偏導関数は、データを式(1)で表わされるような多項式近似で求めている。
【図5】本発明にかかる好適な設計方法を用いて得た、非線形最適化の結果および設計パラメータに課す制約の表
【図6】初期イオン速度100m/s、式(7)のaに対する、質量の関数としたTOF質量分析器中を通る飛行時間の、最初の4つの偏導関数のグラフである。初期イオン速度に関する飛行時間の全微分導関数は、式(3)に示すように、これら導関数の和を含む。これら偏導関数の振動的な性質を用い、広範囲なイオン質量にわたる高質量分解能が実現される。
【図7】本発明にかかる実施形態における、質量分解能を質量の関数として示す図である。分解能は、機器の運転パラメータを変更することを要さずに、質量の大きさ5オーダーにわたりほぼ10、もしくは、それ以上を示す。質量分解能のピークは、1000Daにおけるほぼ10を示す。
【図8】本発明にかかる実施形態の質量分解能力を示す図である。ピークは、5Daの間隔を有し、中心は100kDaである。ピークは、時間が経つにつれて次第に小さくなる。これは、図4に示すように、初期イオンに対する飛行時間の関数形式による。
【図9】発生源/抽出領域に適用される抽出ポテンシャルの時間依存性を示す図である。イオン生成の後、初期遅延Δtがあり、その後、式(2)により定められるように、ポテンシャルは急速に、値V+V1bまで増加する。そして、抽出ポテンシャルは、α、α、V1b、および、V2bにより決定される指数関数的比率に、ほぼ沿うようにして減少する。非常に長い時間の後、抽出ポテンシャルは、値V+V1aになる。
【図10】時間依存性抽出ポテンシャルの、イオンの運動エネルギ分布への影響を示す図である。時間依存性抽出ポテンシャルの影響は、エネルギ分布におけるピークが、4オーダーの質量の大きさにわたりほぼ一定となり、他方、エネルギ分布の幅が、質量範囲にわたって、大きさにしてほぼ1オーダーだけ拡大されることである。
【符号の説明】
【0047】
100 ・・・ 飛行時間型質量分析器(TOF−MS)
102 ・・・ サンプル・ホルダ
103 ・・・ 発生源/抽出領域
104 ・・・ 加速領域
105 ・・・ 第1フィールド・フリー領域
106 ・・・ イオン・ミラー
107 ・・・ 第2フィールド・フリー領域
108 ・・・ イオン検出器
200 ・・・ 飛行時間型質量分析器(TOF−MS)
202 ・・・ 補正用イオン光学素子
300 ・・・ アインツェル・レンズ
302 ・・・ 第1伝導性チューブ
303 ・・・ 第2伝導性チューブ
304 ・・・ 第3伝導性チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行時間型質量分析器(TOF−MS)で被分析イオンの高分解能分析を行う方法であって、
a)加速領域およびイオン・ミラーにポテンシャルを印加するステップ、
b)発生源/抽出領域における被分析分子をイオン化するステップ、
c)同等の質量対電荷比のイオンを、次のci)ないしcviii)のステップによってイオン検出器に集束させるステップ、
ci)イオン化の後、所定の遅延時間だけ待機するステップ、
cii)発生源/抽出領域に時間従属性を有するポテンシャルを印加するステップ、
ciii)前記時間従属性を有するポテンシャルの強度を、所定の連続関数に基づいて低減させ、前記イオンのエネルギ分布を広げるステップ、
civ)前記イオンを、前記発生源/抽出領域から出場させるステップ、
cv)前記イオンを、加速領域内を通過させるステップ、
cvi)前記イオンを、第1フィールド・フリー・ドリフト領域内を通過させるステップ、
cvii)前記イオンを、前記イオン・ミラー内を通過させ、前記イオンのエネルギ分布を補償するステップ、および、
cviii)前記イオンを、第2フィールド・フリー・ドリフト領域内を通過させるステップ、
d)前記イオンが前記イオン検出器に衝突した際、前記イオンを検出するステップ、
e)前記ステップb)において発生された前記同等の質量対電荷比のイオンを、次のei)およびeii)と実質的に独立な時刻において、前記イオン検出器に到達させるステップ、
ei)前記イオンの抽出の初期における初期イオン速度、および、
eii)前記イオンの周出の初期における前記イオンの初期位置、ならびに、
f)前記加速領域および前記イオン・ミラーに印加されたポテンシャルの大きさ、および、前記時間従属性を有する抽出ポテンシャルの大きさもしくは時間従属性を変更することなく、かつ、TOF−MSの物理的寸法を変化させることなく、広い範囲の質量範囲にわたり、高質量分解能を実現するステップ、を有する方法。
【請求項2】
前記所定の連続関数は、指数関数Vext(t)=V+[V1a(1−exp(−αt))+V1bexp(−αt)]であり、
ここで、Vext(t)は、前記時間従属性を有する抽出ポテンシャルであり、
1bexp(−αt)は、時間的に指数関数的に減少する項であり、αは、前記指数関数的に減少する項がどの程度速く減少するかを決定し、
+V1bは、t=0における前記時間従属性を有する抽出ポテンシャルの値であり、
1a[1−exp(−αt)]は、時間的に指数関数的に増大する項であり、αは、前記指数関数的に増大する項がどの程度速く増大するかを決定し、
+V1aは、t=∞における前記時間従属性を有する抽出ポテンシャルの値であり、
前記指数関数的に減少する項は、前記関数の時間従属性を支配し、
前記tは、初期抽出遅延時間の後の時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
広い質量範囲にわたる高質量分解能は、TOF−MSの設計パラメータを、初期イオン速度に関する総飛行時間の偏導関数が広い質量範囲にわたり、およそゼロもしくはゼロ近傍において振動するように設定することにより、獲得される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
広い質量範囲にわたる高質量分解能は、TOF−MSの設計パラメータを、初期イオン位置に関する総飛行時間の偏導関数が広い質量範囲にわたり、およそゼロもしくはゼロ近傍において振動するように設定することにより、獲得される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
さらに、前記イオンを、補正用イオン光学素子内を通過させるステップを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記被分析分子は、前記ステップb)において、マトリックス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)プロセスによりイオン化される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記被分析分子は、前記ステップb)において、レーザによるエネルギのパルスによりイオン化される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
イオンは、100ns未満の時間で発生される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記遅延時間は、ゼロである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記加速領域に印加されるポテンシャルはゼロである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記加速領域の長さはゼロである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第2フィールド・フリー・ドリフト領域の長さはゼロである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1フィールド・フリー・ドリフト領域は、前記第2フィールド・フリー・ドリフト領域と実質的に同じ領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
加速領域、イオン・ミラー、および、時間従属性を有する抽出ポテンシャルはそれぞれ、大きさにおいておよそ6オーダーの比分析質量対電荷比(m/z)の範囲にわたり、実質的に同一のポテンシャルが印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
加速領域、イオン・ミラー、および、時間従属性を有する抽出ポテンシャルがそれぞれ、実質的に同一のポテンシャルを印加される、大きさにおいておよそ6オーダーの比分析質量対電荷比(m/z)の範囲にわたり、
初期イオン速度に関する、前記イオン検出器におけるイオン到達時間の導関数は、実質的にゼロである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
加速領域、イオン・ミラー、および、時間従属性を有する抽出ポテンシャルがそれぞれ、実質的に同一のポテンシャルを印加される、大きさにおいておよそ6オーダーの比分析質量対電荷比(m/z)の範囲にわたり、
初期イオン位置に関する、前記イオン検出器におけるイオン到達時間の導関数は、実質的にゼロである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記時間従属性を有する抽出ポテンシャルは、
a)i)少なくとも1つの高電圧スイッチ、ii)少なくとも1つのレジスタ、および、iii)少なくとも1つのキャパシタ、を有する、高電圧パルス発生器、により発生され、
b)前記高電圧パルス発生器の出力が前記発生源/抽出領域に印加され、生じている、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
真空ハウジング内に配された飛行時間型質量分析器(TOF−MS)であって、
a)サンプル・ホルダ、
b)発生源/抽出領域、
c)加速領域、
d)第1フィールド・フリー・ドリフト領域、
e)イオン・ミラー、
f)第2フィールド・フリー・ドリフト領域、
g)イオン検出器、および、
h)所定の連続関数に基づいて、時間従属性を有する抽出ポテンシャルを印加することにより、イオンが前記発生源/抽出領域を飛行する間に、前記イオンのエネルギ分布を拡大させる手段、を有する飛行時間型質量分析器。
【請求項19】
前記所定の連続関数は、指数関数Vext(t)=V+[V1a(1−exp(−αt))+V1bexp(−αt)]であり、
ここで、Vext(t)は、前記時間従属性を有する抽出ポテンシャルであり、
1bexp(−αt)は、時間的に指数関数的に減少する項であり、αは、前記指数関数的に減少する項がどの程度速く減少するかを決定し、
+V1bは、t=0における前記時間従属性を有する抽出ポテンシャルの値であり、
1a[1−exp(−αt)]は、時間的に指数関数的に増大する項であり、αは、前記指数関数的に増大する項がどの程度速く増大するかを決定し、
+V1aは、t=∞における前記時間従属性を有する抽出ポテンシャルの値であり、
前記指数関数的に減少する項は、前記関数の時間従属性を支配し、
前記tは、初期抽出遅延時間の後の時間である、請求項18に記載の飛行時間型質量分析器。
【請求項20】
さらに、補正用イオン光学素子を有する、請求項18に記載の飛行時間型質量分析器。
【請求項21】
前記真空ハウジングの全長は、およそ5cmないし80cmである、請求項18に記載の飛行時間型質量分析器。
【請求項22】
前記時間従属性を有する抽出ポテンシャルを印加する手段は、
a)i)少なくとも1つの高電圧スイッチ、ii)少なくとも1つのレジスタ、および、iii)少なくとも1つのキャパシタ、を有する、高電圧パルス発生器、ならびに、
b)前記高電圧パルス発生器の出力を前記発生源/抽出領域に印加する手段、を備える、請求項18に記載の飛行時間型質量分析器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−538377(P2007−538377A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527433(P2007−527433)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2005/017517
【国際公開番号】WO2005/114699
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(504014875)ミシシッピ・ステイト・ユニバーシティ (3)
【出願人】(506387638)
【氏名又は名称原語表記】David R. ERMER
【Fターム(参考)】