説明

小物用表面処理装置

【課題】処理槽を公転させると共に自転させた状態で処理を行う小物用表面処理装置において、公転及び自転回転数を個別に変更可能として製品の品質を向上できる表面処理装置を提供する。
【解決手段】公転軸3、該公転軸3に固着された公転テーブル22、公転軸芯O1を中心とする同一円周上に配置されて公転テーブル22にそれぞれ自転軸32を介して自転可能な複数の処理槽21とを備える。各処理槽21はアノード56と陰極部とを有すると共に処理液及びワークを収納し、前記処理槽21を公転軸3回りに公転させると同時に自転軸32回りに自転させる。上記装置において、公転軸3を回転駆動する公転用駆動モータ11と、自転軸32回りに各処理槽21を回転駆動する自転用駆動モータ24を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0.5〜5000μmの粉体、チップコンデンサー、ダイオード、コネクタ、リードスイッチ、釘、ボルト、ナット、ワッシャ等の、小物(小型部品)を、表面処理するのに適している小物用表面処理装置に関する。
【0002】
小物用表面処理としては、(1)電気めっき処理、(2)無電解めっき処理;例えば、浸漬めっき処理、化学めっき処理、(3)複合めっき処理、化学複合めっき処理、(4)電着塗装処理;例えば、アニオン電着塗装処理、カチオン電着塗装処理、(5)前処理;例えば、脱脂処理、電解脱脂処理、バレル研磨処理、アルカリ浸漬洗浄処理、酸洗い処理、酸電解処理、化学研磨処理、電解研磨処理、中和処理、(6)後処理;例えば、水切り変色防止処理、水溶性樹脂処理、クロメート処理、がある。
【背景技術】
【0003】
図29は、特許文献1に記載された小物用の電解めっき装置であり、公転軸200と一体に回転する公転テーブル201上に、一対の処理槽(電解槽)202がそれぞれ自転軸203を介して自転可能に支持されている。各処理槽202は陰極用外筒210と陽極用内筒(アノード)211とから構成され、各処理槽202内には、多数の小物ワークが収納されると共に、供給パイプ212等から電解液が供給される。上記一対の処理槽202を公転させながら自転させ、陰極用外筒210と陽極用内筒211との間を通電することにより、ワーク表面にめっきを施す。めっき作業中、処理槽202内のワークは、公転軸200回りに処理槽202を公転させることにより、ワークを陰極用外筒210の遠心力作用方向(矢印RCF)側の内周面に集積し、かつ、自転軸203回りに自転させることにより、ワークを撹拌する。これにより、各ワークの表面に均一なめっき層を形成するのである。
【0004】
上記従来例の電解めっき装置の駆動機構として、一つの駆動モータ220を備えており、この駆動モータ200を駆動源として、ベルト伝達機構221及び一次ギヤ機構222を介して公転軸200を回転させ、かつ、公転軸200から二次ギヤ機構223を介して各処理槽202を自転させるようになっている。
【0005】
表面処理作業中、処理槽を自転させつつ公転させる構造の表面処理装置として、上記特許文献1の他に、下記特許文献2及び3に記載された装置があるが、いずれの装置も、処理槽は、同一の駆動源により公転軸回りに公転させられると共に、ギヤ機構あるいは遊星歯車機構等を介して自転軸回りに自転させられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭47―28909号公報、
【特許文献2】特開昭56−119799号公報、
【特許文献3】特表2006−509108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図29の従来の電解めっき装置において、公転によりワークを処理槽(電解槽)202の陰極用外筒210の内周面に押し付ける場合に、公転回転数が低いと、遠心力が不足し、図30に示すように、ワークWが陰極用外筒210の内周面に均一に分散せず、下方に偏り、不均一な厚みになる。この状態でめっき処理を行うと、下端部(矢印B1部分)はワークWが多いために、電流が総てのワークWに行き渡らず、めっきが付きにくくなる。一方、上端部(矢印B2近傍)はワークWが少ないために、ワークWに電流が集中し、めっきが付き過ぎ、ワークWが凝集してしまう。したがって、ワークWを陰極用外筒210の内周面の所定範囲内に均一な厚みで分散させるためには、所定値以上の高速で公転させる必要があると共に、ワークWの大きさ及び比重に応じて、公転回転数を設定する必要がある。
【0008】
一方、処理槽202を自転させる目的は、前述のようにワークを撹拌させることにより、ワーク毎に均一厚さにめっきを施すと共に、ワーク同士がブドウの房のように癒着するのを防ぐためであり、ゆっくりと撹拌させる必要があると共に、ワークの強度(壊れやすさ)や比重に応じて、撹拌の強弱を変更する必要がある。この撹拌の強弱の変更は自転の回転速度を変更することにより、調節される。
【0009】
ところが、図29や他の従来技術のように、処理槽の公転と自転とを同一の駆動源により行い、公転軸からギヤ機構または遊星歯車機構を介して自転軸を駆動する構成では、大がかりなギヤ機構等が必要になると共に、公転回転数と自転回転数とを、個々に所望の値に変更することが困難にある。
【0010】
(発明の目的)
本発明の目的は、処理槽を公転させると共に自転させた状態でめっき等の表面処理を行う小物用表面処理装置において、装置全体及び動力伝達系をコンパクトにかつ簡素化すると共に、公転回転数及び自転回転数を、ワークの種類に応じて、それぞれ個別に簡単に変更できるようにすることにより、表面処理の品質が向上する表面処理装置を提供することである。また、ワークのローディングとアンローディング作業の容易化、特に、微細なワークのローディングとアンローディング作業の容易化、ワーク処理中におけるワークの漏れや処理液の漏れを防止することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、公転軸と、該公転軸に固着されて該公転軸と一体に回転する公転テーブルと、公転軸芯を中心とする同一円周上に配置されて前記公転テーブルにそれぞれ自転軸を介して自転可能に支持された複数の処理槽と、を備え、該各処理槽はアノードと陰極部とを有すると共に処理液及び小物ワークを収納し、前記複数の処理槽を公転軸回りに公転させると同時に自転軸回りに自転させることにより、処理槽内の小物ワークを表面処理する小物用表面処理装置において、上記公転軸を回転駆動する公転用駆動モータと、上記公転用駆動モータとは別に、処理槽毎に、自転軸回りに各処理槽を回転駆動する自転用駆動モータを備えている。
【0012】
上記構成により、装置全体及び動力伝達系を簡素に、かつコンパクトにできると共に、ワークの種類に応じて、品質の良い表面処理ができるように、公転回転数及び自転回転数を、それぞれ自由に、かつ、簡単に設定することができる。
【0013】
本発明は、上記小物用表面処理装置において、好ましくは、次のような構成を採用することもできる。
【0014】
(1)処理槽の外部に配置された給液ポンプ等の処理液供給部から各処理槽内に至る処理液経路として、前記公転軸内に設けられた処理液通路と、該処理液通路の出口に接続されて各処理槽に至る複数の給液管とを備え、前記処理液通路の入口は、回転継手を介して前記処理液供給部に接続され、前記各給液管の出口は、各処理槽の自転軸芯上に配置されたアノード支持部材に接続されている。
【0015】
上記構成によると、公転軸から処理槽への処理液の供給を、略完全に密閉された供給経路を介して行うことができ、高速回転しても処理液が漏れず、処理液を無駄なく、効率的に供給できる。特に、ワークとして、μmレベルの微粒子を処理する場合、ワークの比重が処理液の比重と大差無い場合があり、その場合でも、公転を高速にして遠心力を増すことにより、処理液の漏れが生じることなく、ワークを処理液の筒状本体の内周面に均等に接触させることができる。
【0016】
(2)前記各自転軸は、前記公転テーブルに回転可能に支持されると共に自転テーブルを備えており、各自転テーブルに前記各処理槽が着脱自在に取り付けられている。
【0017】
上記構成によると、自転テーブルから処理槽を取り外した状態でワークの供給及び取出しが行え、ワークのローディング及びアンローディング作業の能率が向上する。特に、微細なワークを出し入れする作業では、ワークの投入漏れを防ぐことができると共に、アンローディングの際にも、処理液で処理槽内に付着しているワークを、容易に取り出すことができる。
【0018】
(3)前記処理槽は、自転軸方向の両端が開口した筒状本体と、該筒状本体の各開口端をそれぞれ閉塞すると共に処理液が通過可能な細孔を有する多孔体製フィルターと、各多孔体製フィルターを筒状本体の端面との間で挟持する蓋体とを備えている。
【0019】
上記構成によると、高速で公転しても、小さなワークが処理槽から漏れる心配がなく、ワークの損失を無くすことができ、また、細孔の径がミクロン単位の多孔体を採用することにより、簡単にミクロンレベルのワークに対応させることができる。
【0020】
(4)前記各蓋体と、処理槽を支持する自転テーブルに、処理液を排出するための孔が形成されている。
【0021】
上記構成によると、フィルター等からの排液面積を増加するので、目が細かくて排液量が少ないフィルターを使用しても、十分に排液することができる。
【0022】
(5)筒状本体の内周面の自転軸方向の端部は、自転軸方向の外方側に向いて自転軸側に傾斜している。
【0023】
上記構成によると、筒状本体の内周面の自転軸方向の端縁と、フィルター等との間に細かなワークが詰まるのを防ぐことができる。
【0024】
(6)前記処理槽は、自転軸方向の両端が開口した筒状本体と、該筒状本体の各開口端をそれぞれ閉塞する蓋体とを備え、各蓋体の内周面には、処理槽内の処理液を自転軸芯と略直角方向に排出する排出通路が設けられている。
【0025】
上記構成によると、入り組んだ細孔を有する多孔体製のフィルターを備える場合に比べ、細かいワークが詰まるのを防ぐことができ、また、たとえ詰まった場合でも、分解洗浄することにより、簡単に排出通路内のワークの詰まりを除去することができる。
【0026】
(7)前記筒状本体は円筒状に形成され、該筒状本体の内周面は凹凸形状となっている。
【0027】
上記構成によると、処理槽の自転によりワークを撹拌する場合に、凹凸面によりワークの撹拌が促進される。
【0028】
(8)前記筒状本体は多角形状に形成されている。
【0029】
上記構成によると、処理槽の自転によりワークを撹拌する場合に、隣り合う面で形成されるV字面により、ワークの撹拌が促進される。
【0030】
(9)前記筒状本体は導電性部材で形成され、全周が陰極部として通電可能となっている。
【0031】
上記構成によると、筒状本体自体を陰極部として利用することにより、別途陰極部を設ける必要がなくなる。
【0032】
(10)前記筒状本体は非導電性部材で形成され、筒状本体の内周面に、多数の導電性材料の給電部材を突設してある。
【0033】
上記構成によると、処理槽の自転によりワークを撹拌する場合に、給電部材により構成される凸状部分により、ワークの撹拌が促進される。
【0034】
(11)前記各給電部材を筒状本体の外周面に露出させ、筒状本体の公転半径方向の外方側に、給電部材の外方露出面に接触可能な給電帯を配置し、処理槽の自転により、筒状本体の公転半径方向の外方側の給電部材のみが順次給電帯に接触して通電するように構成されている。また、この場合、処理槽の自転軸芯側に配置されたアノードは、筒状本体の公転半径方向の外方側部分に向く部分のみを通電可能とすることができる。
【0035】
上記構成によると、公転に基づく遠心力により、ワークが接触する遠心力作用方向側の部分のみ通電し、ワークが接触しない部分に通電しないので、めっき液の無駄がなくなる。仮に、ワークが接触しない部分にも通電していると、その部分にめっき析出が成長し、それが剥離してワークに混じり、ワークが不良品になる虞があるが、上記構成により、そのような不具合を防ぐことができる。
【0036】
(12)処理槽の周囲には、自転軸芯回りに間隔をおいて、処理槽の外周面に当接する複数のガイド輪が配置されている。
【0037】
上記構成によると、処理槽は、がたつくことなく自転軸芯回りを回転すると共に、高速の公転に対しても、公転テーブル等から外れることなく公転する。
【発明の効果】
【0038】
要するに本発明によると、動力伝達系を簡素にかつコンパクトにできると共に、ワークの種類に応じて、品質の良い表面処理ができるように、公転回転数及び自転回転数を、それぞれ自由に、かつ、簡単に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施の形態であって、小物用電解めっき装置の全体斜視図である。
【図2】上半部のシュラウドを外して示す図1の小物用電解めっき装置の全体斜視図である。
【図3】図1の小物用電解めっき装置の縦断面図である。
【図4】図1の要部の斜視図である。
【図5】処理槽の分解斜視図である。
【図6】処理槽の縦断面図である。
【図7】図6のVII部分の拡大図である。
【図8】処理槽の拡大斜視図である。
【図9】ローディング工程における初期状態を示す処理槽の断面図である。
【図10】ローディング工程における処理槽組立完了時の処理槽の断面図である。
【図11】処理槽取付前の自転テーブル及び給液管等の断面図である。
【図12】処理槽取付後の自転テーブル、給液管及び処理槽の断面図である。
【図13】めっき作業中におけるワークの良好な状態を示す処理槽の断面図である。
【図14】めっき作業中におけるワークの良くない状態を示す処理槽の断面図である。
【図15】本発明の第2の実施の形態であり、電解めっき装置の要部の斜視図である。
【図16】図15の処理槽の水平断面図である。
【図17】本発明の第3の実施の形態であり、処理槽の筒状本体の斜視図である。
【図18】図17の給電ロッドの斜視図である。
【図19】本発明の第4の実施の形態であり、処理槽の水平断面図である。
【図20】本発明の第5の実施の形態であり、処理槽の筒状本体の斜視図である。
【図21】本発明の第6の実施の形態であり、処理槽の分解斜視図である。
【図22】本発明の第7の実施の形態であり、処理槽の分解斜視図である。
【図23】本発明の第8の実施の形態であり、処理槽の分解斜視図である。
【図24】本発明の第9の実施の形態であり、処理槽及び自転テーブルの分解斜視図である。
【図25】本発明の第10の実施の形態であり、処理槽及び自転テーブルの分解斜視図である。
【図26】本発明の第11の実施の形態であり、電解めっき装置の要部の断面図である。
【図27】図26の装置のサポートプレートの平面図である。
【図28】筒状本体の変形例を示す斜視図である。
【図29】従来例の正面図である。
【図30】従来例の作業中の処理槽の縦断面略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
[第1の実施の形態]
図1乃至図14は、本発明の第1の実施の形態に係る小物用電解めっき装置であり、これらの図面に基づいて第1の実施の形態を説明する。
【0041】
図1は、小物用電解めっき装置全体の斜視図であり、縦長直方体状の架台フレーム1を備え、該架台フレーム1の上下上方の中間部に、略水平な基盤兼ドリップパン2が設けられている。
【0042】
前記ドリップパン2の下側近傍及び架台フレーム1の上端部には、軸受装置5、6がそれぞれ支持フレーム8,9を介して固定されており、上下の軸受装置5,6により略垂直な公転軸3が回転自在に支持されている。
【0043】
架台フレーム1の下半部には公転用駆動モータ11及び処理液供給部としての給液ポンプ(略図)13等が配置されており、公転用駆動モータ11は、ベルト伝動機構14により公転軸3に動力伝達可能に連結されている。
【0044】
前記ドリップパン2の上面には円環状の囲い壁17が設けられると共に、上壁18aを有する円筒状のシュラウド18が設けられており、このシュラウド18内に表面処理装置の主要部材が収納されている。
【0045】
図2はシュラウド18を外して示す装置全体の斜視図であり、前記囲い壁17を有するドリップパン2は、使用後の処理液を集めて排出する機能を有しており、処理液を排出するための排出孔20が形成されると共に、中央部にも円環状の内側囲い壁29が設けられている。
【0046】
架台フレーム1の上半部の前記シュラウド18内には、一対の処理槽21と、公転テーブル22と、サポートプレート23と、各処理槽21を個々に駆動するための一対の自転用駆動モータ24と、各処理槽21内へ処理液を供給するための一対の給液管25等を備えている。
【0047】
図3は電解めっき装置全体の縦断面図であり、公転テーブル22はキー26により公転軸3に固着され、公転軸3と一体回転するようになっており、サポートプレート23は、公転テーブル3から一定距離上方に配置される共に、キー27により公転軸3に固着され、公転軸3と一体回転するようになっている。
【0048】
ドリップパン2の中央部には、公転軸3が通過する中央孔28が形成されており、この中央孔28を取り囲むように、前記内側囲い壁29が設けられている。内側囲い壁29の上方には円錐形の防滴カバー30が配置されており、この防滴カバー30は公転軸3に固着され、中央孔28へ処理液が流入するのを防いでいる。
【0049】
公転テーブル22には、公転軸芯O1を中心とする同一円周上に、公転軸3と平行な一対の自転軸32が軸受33を介して回転自在に支持されている。各自転軸32の上端には自転テーブル34が自転軸32と一体に形成され、各自転テーブル34の上には、各処理槽21がそれぞれ着脱自在に固定されている。
【0050】
各自転用駆動モータ24は各自転軸32に概ね対応する位置に配置され、公転テーブル22の下面に固着されており、各自転用駆動モータ24の出力軸が継手を介して各自転軸32に連結されている。
【0051】
公転軸3は中空筒状に形成されており、公転軸3内には、公転軸芯O1に沿って上下方向に延びる処理液通路(通路管)40が設けられると共に、自転用駆動モータ24用の電線並びに電解用の陽極用電線が配置されている。
【0052】
公転軸3の下部、たとえばドリップパン2と下側軸受装置6との間の公転軸3部分の外周には、通電用のスリップリング41が設けられている。このスリップリング41は、回転部材と固定部材との間を通電可能とする周知の構造であり、公転軸3に固着されて公転軸3と一体的に回転する内側リング部材と、架台フレーム1に固定された外側リング部材とからなり、外側リング部材に設けられた複数の接続端子に、自転用駆動モータ24用の直流電源35の陰極及び陽極と、電解用直流電源36の陰極及び陽極が接続されている。自転用駆動モータ24用の直流電源35の陽極及び陽極並びに電解用直流電源36の陽極は、スリップリング41の内外リング部材を介して公転軸3内の各電線に接続され、電解用直流電源36の陰極は、導電性を有する公転軸3自体に電気的に接続されている。
【0053】
公転軸3の下端部には回転継手管42を介して液管43が接続されており、該液管43は前記給液ポンプ13に接続され、該給液ポンプ13の吸込口は液管44を介して処理液回収槽12に接続されている。すなわち、給液ポンプ13により、処理液回収槽12内の処理液を吸い込み、液管43及び回転継手管42を介して公転軸42内の処理液通路40に処理液を供給するようになっている。また、ドリップパン2の排出孔20は排液管45を介して処理液回収槽12に至っている。
【0054】
図4は電解めっき装置の要部の斜視図であり、公転軸3内の処理液通路40は、サポートプレート23よりも高い位置まで上方に延び、その上端部に一対の処理液出口を有し、各処理液出口に前記給液管25がそれぞれ接続されている。
【0055】
図5は処理槽21の分解斜視図、図6は処理槽21の縦断面図である。図5において、処理槽21は、導電性を有する金属、たとえばステンレス鋼で形成された円筒形の筒状本体51と、多孔体で形成された扁平円柱状(円盤状)の上側フィルター52及び下側フィルター53と、導電性を有する金属で形成された円板形の上側蓋体54及び下側蓋体55と、有底筒状のアノード56等とから構成されている。筒状本体51の上下端には、複数のボルト挿通孔60(引き出し線は一個のみ記載)を有するフランジ51aが筒状本体51と一体に形成され、また、上下のフィルター52,53及び上下の蓋体54,55にも、前記フランジ51aのボルト挿通孔60に対応する位置にそれぞれボルト挿通孔61、62(引き出し線は一個のみ記載)が形成されている。前記自転テーブル34及び下側蓋体55には、前記ボルト挿通孔62よりも径方向外方位置に、下側蓋体55を自転テーブル34に固着するための複数のボルト挿通孔63,64がそれぞれ形成されている。また、自転テーブル34には、前記処理槽21の組立に利用されるボルト頭部を収納するための孔65が形成されている。
【0056】
図6において、有底筒状のアノード56は不溶性であり、このアノード56の上壁56aには、上下方向に貫通すると共に導電性を有する液管67が固着されている。この液管67の下側部分はアノード56の下端に略対応する位置まで下方に延びて、下向きに開口しており、液管67の上端部はアノード56の上壁56aから上方に突出し、該上方突出部分には、アノード支持部材として、導電性を有する接続管68が接続されている。該接続管68は、上側フィルター52及び上側蓋体54の中央に形成された孔を通過して上方に突出している。
【0057】
上側蓋体54の下面及び下側蓋体55の上面には、上下の各フィルター52,53を同一中心に位置決めするために、各フィルター52,53の外径と同一内径の位置決め用環状段部54a,55aが形成されており、さらに、自転テーブル34の上面には、下側蓋体55を同一中心に位置決めするために、下側蓋体55の外径と同一外径の位置決め用環状段部34aが形成されている。
【0058】
筒状本体51の上端フランジ51aの上面に上側フィルター52が載せられ、該上側フィルター52の上面に上側蓋体54が載せられると共に該上側蓋体54の環状段部54a内に上側フィルター52が嵌め込まれ、前記各ボルト挿通孔61,62に下方から挿通したボルト70及びナット71により、上側フィルター52及び上側蓋体54は上端フランジ51aに共締めされている。
【0059】
筒状本体51の下端フランジ51aの下面に下側フィルター53が重ねられ、下側フィルター53の下面に下側蓋体55が重ねられると共に該下側蓋体55の環状段部55a内に下側フィルター53が嵌め込まれ、前記各ボルト挿通孔61、62に上方から挿通したボルト70及びナット71により、下側フィルター53及び下側蓋体55は下端フランジ51aに共締めされている。なお、上下の各フィルター52,53のボルト挿通孔61内には、上下方向のスペーサとして、カラーが嵌着されている。
【0060】
上記のようにボルト70及びナット71によって組み立てられた処理槽21は、下側蓋体55が自転テーブル34の上面に載置されると共に環状段部34aに嵌合され、これにより、処理槽21は自転軸32と同一中心線O2上に位置決めされ、下側蓋体55及び自転テーブル34の各ボルト挿通孔63,64(図5参照)に挿通したボルト73及びナット74により、処理槽21は自転テーブル34上に着脱自在に取り付けられている。
【0061】
図8は、組立後の処理槽21を自転テーブル34に固定した状態の斜視図であり、前述のように、筒状本体51と、上下のフィルター52,53と、上下の蓋体54,55を、上下の複数本のボルト70で締結することにより処理槽21を構成しており、この処理槽21が、自転テーブル34上に、複数のボルト73等により取り付けられているのである。
【0062】
図7は図6の矢印VII部分の拡大図であり、筒状本体51の内周面の下端には、下方に向かって縮径するテーパー面51bが形成されている。
【0063】
図11は処理槽取付前の自転テーブル34及び給液管25等の状態を示し、図12は、処理槽21を自転テーブル34に取り付けると共に、処理槽21と給液管25とを接続した状態を示している。図11において、サポートプレート23には、自転軸芯O2と同一軸芯上に貫通孔78が形成されており、該貫通孔78内には、導電性を有する処理液用の継手管79が自転軸芯O2と同一軸芯状に配置されている。前記継手管79は取付片79aを一体的に有しており、該取付片79aがボルト80及びナット81によりサポートプレート23の下面に固着されている。前記給液パイプ25はL字状に形成されており、各給液パイプ25は、公転軸3から前記各継手管79の上方位置に向かって略水平に延びると共に、継手管79の上方位置で下方に折れ曲がっている。継手管79の内周面の上下端部にはテーパーめねじ部79b、79cが形成され、上端部のテーパーめねじ部79bには前記給液パイプ25の下端テーパーおねじ部が螺着されている。
【0064】
図12において、継手管79の下端のテーパーめねじ部79cには、アノード56の接続管68の上端部のテーパーおねじ部68aが螺着される。
【0065】
サポートプレート23は、絶縁部材47を介して公転軸3の外周面に固定されており、これにより、導電性を有する公転軸3の外周面と導電性を有するサポートプレート23との間を、電気的に遮断している。

サポートプレート23の外方部には、自転軸芯O2を中心とする同一円周上に、複数のガイド輪支持軸49が固着されており、該ガイド輪支持軸49は自転軸芯O2と平行に下方に延び、各ガイド輪支持軸49の下端部にそれぞれガイド輪48が回転自在に支持されている。各ガイド輪48は、自転テーブル34上の処理槽21の上側蓋体54の外周縁に転動可能に当接しており、自転中の処理槽21が自転軸芯O2から振れないようにガイドする。
【0066】
上記ガイド輪48は、処理槽21の周方向に間隔を置いて複数(たとえば3個)配置されているが、主として処理槽21の公転による遠心力(矢印RCFC)を受け止めるように、図4のように、処理槽21の上側蓋体54の全周のうち、公転による遠心力作用方向(RCF)側に配置されている。
【0067】
[電気供給系統の経路]
電解用の陰極の通電経路を簡単にまとめてみると、図3において、電解用直流電源36の陰極部→スリップリング41→公転軸3の外周壁→公転テーブル22→軸受33→自転テーブル34→下側蓋体55→ボルト70→筒状本体51となっている。
【0068】
電解用の陽極の通電経路を簡単にまとめてみると、図3において、電解用直流電源36の陽極部→スリップリング41→公転軸3内の電線→公転軸3外の電線→サポートプレート23→継手管79→接続管68→アノード56となっている。
【0069】
また、自転用駆動モータ24への通電経路は、図3において、自転用直流電源35の陰極部及び陽極部→スリップリング41→公転軸3内の自転用の電線→公転軸3外の自転用の電線→自転用駆動モータ24の陰極部及び陽極部となっている。
【0070】
[処理液供給系統の経路]
処理液(めっき液)の供給経路を簡単にまとめてみると、図3及び図6において、給液ポンプ13→液管43→回転継手管42→公転軸3内の処理液通路40→給液管25→継手管79→接続管68→アノード56内の液管67→筒状本体51内となっている。また排液経路は、処理槽21の筒状本体51内→上下のフィルター52,53の細孔→シュラウド18→外側囲い壁17→ドリップパン2→排出孔20→処理液回収槽12となっている。
【0071】
[めっき作業及び作用効果]
作業準備段階において、公転用駆動モータ11による処理槽21の公転回転数と、各自転用駆動モータ24による処理槽21の自転回転数は、それぞれ独立に設定可能であり、めっき処理されるワークの大きさ、重量及び比重等に応じて設定される。たとえば、公転回転数N1は80rpm〜1000rpmの範囲内で設定され、自転回転数は公転回転数よりも大幅に少なく、1〜30rpmの範囲内で設定される。公転回転数N1は、作業中、図13に示すように、公転に基づく遠心力により、遠心力作用方向(RCF)側の筒状本体51の内周面に、処理槽21内のワークWが略均一の厚みで押し付けられる値に設定されることが必要である。一方、自転回転数N2は、自転により処理槽21内のワークWが撹拌される程度の値であれば十分である。したがって、公転回転数N1は、自転回転数N2の数十倍から数百倍程度の回転速度となる。ちなみに、ある大きさ、重量及び比重のワークWに対し、公転回転数N1が小さすぎる場合には、図14のように、筒状本体51の内周面に押し付けられるワークWの厚みは不均一になる。具体的には、下方に行くに従い厚みが増加することになり、均一な品質の良い表面処理が困難になる。
【0072】
めっき作業の手順を説明する。
(1)ワークWのローディング作業は、図2及び図3において、処理槽21を自転テーブル34から取り外し、かつ、図9に示すように、筒状本体51から上蓋体54及び上側フィルター52と取り外した状態で行う。すなわち、処理槽21の上端を解放し、所定量のワークWを上方から筒状本体51内に投入する。
【0073】
このように、処理槽21を自転テーブル34から外し、かつ上端を解放した状態でワークWを投入するので、小さなワークWあっても、外部に漏らすことなく、完全、かつ簡単に処理槽21に投入できる。
【0074】
(2)次に図10において、アノード56を筒状本体51内に挿入し、上側フィルター52及び上蓋体54を、筒状本体51の上端フランジ51aに順次載置すると共に、アノード56の接続管68を上側フィルター52及び上蓋体54の中央孔から上方に突出させる。そして、複数のボルト70及びナット71により、上側フィルター52と上側蓋体54を上端フランジ5aに締結する。これにより、ワークWは処理槽21内に密封される。
【0075】
(3)ワークWが密封された処理槽21を、図11のように空いている自転テーブル34上に載置する。
【0076】
(4)図12において、処理槽21を公転テーブル3に載置した後、複数のボルト73及びナット74により、処理槽21の下側蓋体55を自転テーブル34に締結すると共に、アノード56を持ち上げ、接続管68の上端おねじ部68aを継手管79の下端めねじ部79cに接続する。これにより、処理液経路が処理槽21に接続されると同時に、電解用の陽極の経路がサポートプレート23及び継手管79を介してアノード56に電気的に接続される。さらに、電解用の陰極の経路も、公転軸3,公転テーブル22,軸受33,自転軸32,自転テーブル34,下側蓋体55,ボルト70を介して筒状本体51に電気的に接続される。
【0077】
(5)上記状態で、公転用駆動モータ11及び各自転用駆動モータ24を、それぞれ所定の回転数で回転させることにより、両処理槽21を公転軸芯O1回りに高速回転させると共に自転軸芯O2回りに自転させ、同時に、給液ポンプ13により、公転軸3内の処理液通路40、各給液管25,各継手管79、各接続管68及び各液管67を通して処理槽21内にめっき液を供給する。そして、アノード56と陰極の筒状本体51との間で通電することより、各ワークWの表面にめっきを施す。このような公転と自転によるめっき作業は、数時間から数十時間継続して行う。めっき作業中のワークの状態は、前記図13で説明したように、公転による遠心力により、遠心力作用方向(RCF)側の筒状本体51の内周面に、略均一の厚みで押し付けられると同時に、自転により、撹拌される。これにより、全ワークWの表面には、均一の厚みでめっき層が形成される。
【0078】
(6)上記めっき作業中、処理槽21には、前述のように給液ポンプ13からのめっき液が継続的に供給されているが、使用後のめっき液は、上下のフィルター52,53内の細孔を通り、各フィルター52,53の周方向の外周面から外方へ放出される。
【0079】
(7)フィルター52,53の径方向の外周面から放出されためっき液は、たとえばシュラウド18の内周面に衝突して落下あるいは流下し、外側囲い壁17を経てドリップパン2に溜まり、排出孔20から処理液回収槽12へと回収される。処理液回収槽12では、浄化及び再生されためっき液が、再度給液ポンプ13から処理槽21へ供給される。
【0080】
上記のように、めっき作業中、めっき液は、密閉された経路内を給液ポンプ13から処理槽21まで圧送され、かつ、密閉された経路内をシュラウド18からドリップパン2を経て処理液回収槽12に回収されるので、高速回転によるめっき作業中であっても、殆ど漏れることなくめっき液を供給し、排出することができる。
【0081】
(8)めっき作業が終了すると、処理槽21の公転及び自転を停止すると同時に、めっき液の供給も停止し、前記ローディング作業時とは逆の手順で、処理槽21を自転テーブル34から取り外し、さらに、上側蓋体54及び上側フィルター52を取り外し、めっき処理後のワークWを取り出す。
【0082】
この場合も、ローディング時と同様、簡単、かつ、確実に処理槽21内のめっき処理後の全ワーク9を取り出すことができる。
【0083】
(9)また、該実施の形態では、図7のように筒状本体51の内周面の下端にテーパー面51bを形成しているので、微細なワークが遠心力により加圧されても、筒状本体51と下側フィルター53との間にワークWが侵入するのを防ぐことができ、ワークの歩留まりを向上させることができる。
【0084】
(10)また該実施の形態では、図4のように、処理槽21の外周を案内するガイド輪48を設けているので、処理槽21が高速で公転しても、処理槽21が自転軸芯O2から外れることなく、円滑に回転する。
【0085】
[第2の実施の形態]
図15及び図16は、本発明の第2の実施の形態であり、前記第1の実施の形態と異なるところは、処理槽21の筒状本体51及び電解用陰極部の構造であり、その他の構造は第1の実施の形態と同じであり、同じ部品には同じ符号を附してある。
【0086】
処理槽21の水平断面図を図16において、筒状本体51は、樹脂等の非導電性材料でできており、筒状本体51には、導電性を有する金属でできた多数の給電部材(給電子)110が取り付けられている。各給電部材110は、筒状本体51の外周面から外方に突出する半球状の外側部分110aと、筒状本体51に形成された取付孔に圧入されて筒状本体51の内周面に露出する軸部分110bとから構成されており、全給電部材110のうち、所望の数の給電部材110の軸部分110bは、筒状本体51の内周面から内方に突出している。
【0087】
処理槽21の公転による遠心力作用方向(RCF)側には、円弧状の給電帯111が配置されており、この給電帯111に接触する給電部材110だけに給電されるように構成されている。
【0088】
給電帯111は一対の支持ロッド112を有しており、各支持ロッド112は遠心力作用方向(RCF)及びその逆方向に移動自在にシリンダ113内に支持されると共に、付勢ばね114により処理槽12側に付勢されている。これにより、矢印R方向に自転する処理槽21の給電部材110のうち、遠心力作用方向(RCF)側を通る給電部材110が順次給電帯111に接触し、給電されるようになっている。
【0089】
前記支持ロッド112及び付勢ばね114を収納するシリンダ113は支持ブラケット118に固定され、該支持ブラケット118は、図15に示すように、サポートプレート23に支持され、サポートプレート23から給電されるようになっている。
【0090】
該実施の形態のように、自転する筒状本体51の全周のうち、公転により遠心力作用方向(RCF)側を通過する給電部材110だけに給電する構造とすることにより、めっき液を効率良く有効に利用できると共に、前記第1の実施の形態と比べ、不必要な箇所でのめっき析出を防止し、析出されためっきが剥離することによる品質の低下を防ぐことができる。また、エネルギーコストの節約にもなる。
【0091】
また、本実施の形態では、一部の給電部材110の軸部110bを筒状本体51の内周面から内方に突出させているので、処理槽21の自転による撹拌作用において、上記内方突出状の軸部110bが撹拌突起としての役目を果たし、ワークWの撹拌機能が向上する。
【0092】
[第3の実施の形態]
図17及び図18は、本発明の第3の実施の形態であり、前記第2の実施の形態の変形例となっている。筒状本体51は、樹脂等の非導電性材料でできており、筒状本体51の内周面に、導電性を有する金属でできた上下に細長い多数の給電ロッド(給電部材)120が取り付けられている。給電ロッド120は筒状本体51の円周方向に所定間隔を置いて多数配置されており、図18に示すように、上下方向の中間部に外部露出部120aが形成され、この外部露出部120aが図17のように、筒状本体51に形成された取付孔に嵌着され、筒状本体51の外周面から外方に突出している。
【0093】
遠心力作用方向(RCF)に配置される円弧状に給電帯121及びその支持構造は前記第2の実施の形態と同様である。
【0094】
該実施の形態によると、第2の実施の形態と同様、自転する筒状本体51の全周のうち、公転により遠心力作用方向(RCF)側を通過する給電ロッド120だけに給電する構造となっているので、めっき液を効率良く有効に利用できると共に、不必要な箇所でのめっき析出を防止し、析出されためっきが隔離することによる品質の低下を防ぐことができる。また、エネルギーコストの節約にもなる。
【0095】
さらに、筒状本体51内に配置された多数の給電ロッド110により、筒状本体51の内周面を実質的に凹凸形状としているので、処理槽21の自転による撹拌作用が格段と向上する。
【0096】
[第4の実施の形態]
図19は、本発明の第4の実施の形態であり、筒状アノード56の全周のうち、遠心力作用方向(RCF)側の範囲56dだけ通電可能とし、残りの範囲56cを非電導体によりマスキングしており、これにより、遠心力作用方向(RCF)側に集積されるワークWに対し、効率良くめっきを施せるように構成している。その他の構造は例えば前記第1の実施の形態と同様である。
【0097】
[第5の実施の形態]
図20は、本発明の第5の実施の形態であり、前記第1の実施の形態のような処理槽21において、筒状本体51の形状、特に内周面形状を、正多角形状に形成してある。図では、筒状本体51を正八角形状としているが、正五角形、正六角形等、各種多角形状を採用することができる。
【0098】
上記のように、処理槽21の筒状本体51の形状を、正多角形状としていると、隣り合う側面間のV形状により、処理槽21の自転によるワーク撹拌性能を向上させることができる。
【0099】
[第6の実施の形態]
図21は、本発明の第6の実施の形態であり、前記第1の実施の形態のような処理槽21において、上下の蓋体54,55の形状を改良したものである。すなわち、上下の蓋体54,55及び自転テーブル34に、処理液排出用の孔130、131を形成してある。
【0100】
該実施の形態によると、使用後のめっき液等の処理液は、フィルター52,53の径方向の外周面から放出されると共に、上側フィルター52の上方及び下側フィルター53の下方からも放出され、めっき液の排出面積が増加する。これにより、たとえば細孔の径が小さくて、排液量が制限されるフィルター52,53であっても、十分な量の排液が可能となる。
【0101】
[第7の実施の形態]
図22は、本発明の第7の実施の形態であり、処理槽21からの排液構造として、前記第1の実施の形態のようなフィルターを備える代わりに、上側蓋体54の下面と、図示しないが下側蓋体55の上面に、排出通路として複数本の放射状の排出溝140を形成してある。
【0102】
該実施の形態によると、入り組んだ細孔を通して排液するフィルターを備える場合に比べ、目詰まりが生じ難く、しかも、仮に目詰まりが生じても、簡単に分解洗浄することができる。
【0103】
[第8の実施の形態]
図23は、本発明の第8の実施の形態であり、処理槽21からの排液構造として、前記第1の実施の形態のようなフィルターを備える代わりに、上側蓋体54の下面と筒状本体51の上端フランジ51aの間、並びに図示しないが下側蓋体55の上面と下端フランジ51aとの間に、周方向に間隔を置いて複数の薄板150を挟持することにより、薄板150間で排液通路を形成してある。各薄板150はたとえばワッシャのように円環状に形成され、上側蓋体54等の取付ボルト70が挿通される。
【0104】
該実施の形態によると、前記第7の実施の形態と同様、入り組んだ細孔を通して排液するフィルターを備える場合に比べ、目詰まりが生じ難く、しかも、仮に目詰まりが生じても、簡単に分解洗浄することができる。さらに、ワークWの大きさに応じて、薄板150の厚みあるいは重ね枚数を変更することにより、排液通路の大きさを簡単に変更することができる。
【0105】
なお、処理液の排出機構として、図5及び図21等で示したような上下フィルター52,54を備える構造と、図22で示したような排出溝140を形成する構造と、本実施の形態の図23で示したような薄板150を挟持する構造とを、適宜組み合わせ、併用する構造とすることも可能である。
【0106】
[第9の実施の形態]
図24は、本発明の第9の実施の形態であり、前記第1の実施の形態のような処理槽21において、自転テーブル34に対し、処理槽21を着脱自在に取り付ける構造が異なっている。いわゆるバヨネット方式で、処理槽21を自転テーブル34に取り付ける構造となっている。
【0107】
すなわち、自転テーブル34の上面には円筒状の周壁160が形成され、該周壁160の内周面に、周方向に等間隔を置いて複数の円弧状突起161が形成されている。該円弧状突起161は、周壁160に沿って周方向に一定長さ延びると共に、周方向一端部に、下方に折れ曲がるストッパ部161aが形成されている。一方、処理槽21の下側蓋体55には、前記各突起161の周方向間に上方から挿入可能で、断面L字状に形成され、かつ、各突起161に下方から係合可能なL字状の係合突起162が形成されている。
【0108】
処理槽21を自転テーブル34に固定する場合には、処理槽21の各係合突起162を自転テーブル34の突起161間に上方から挿入し、処理槽21をA方向に回動して、係合突起162の外向き水平部分を自転テーブル34の突起161の下面に係合させ、かつ、ストッパ部161aに当接させる。
【0109】
処理槽21を自転テーブル34から取り外す際には、上記取付作業と逆の操作を行う。
【0110】
[第10の実施の形態]
図25は、本発明の第10の実施の形態であり、前記第1の実施の形態のような処理槽21において、自転テーブル34に対し、処理槽21を着脱自在に取り付ける構造が異なっている。いわゆるねじ式に処理槽21の下端部を自転テーブル34に取り付ける構造となっている。
【0111】
すなわち、自転テーブル34の上面には、自転軸芯O2を軸芯とするおねじ部170が形成され、下側蓋体55の下面には、前記おねじ部170に螺合可能なめねじ孔(図では隠れている)が形成されている。
【0112】
処理槽21を自転テーブル34に取り付ける際には、処理槽21自体を自転軸芯O2回りに回動することにより、処理槽21を自転テーブル34に螺着する。
【0113】
処理槽21を自転テーブル34から取り外す際には、上記取り付け作業と逆の操作を行う。
【0114】
[第11の実施の形態]
図26及び図27は、本発明の第11の実施の形態であり、前記第1の実施の形態のような処理槽21において、処理槽21の自転をガイドする機構として、ガイド輪を備える代わりに、上側蓋体54の中央部の上面に、自転軸芯O2と同軸芯の円筒状のガイド突起180を形成し、該ガイド突起180に、公転軸3に固着されたガイドアーム181の嵌合孔181aを嵌合している。ガイド突起180の上端部には抜止めナット182が螺合しており、この抜け止めナット182により、ガイドアーム181が抜けないようにしている。
【0115】
処理槽21を自転テーブル34に着脱する際には、抜止めナット182を外して、ガイドアーム181を上側蓋体54のガイド突起180から取り外す。
【0116】
[その他の実施の形態]
(1)図28は筒状本体51の変形例を示しており、前記各実施の形態では、筒状本体51の筒芯は自転軸芯O2と一致するように形成されているが、該変形例では、筒状本体51の筒芯C1が、自転軸芯O2に対して一定角度θで傾斜している。図28の筒状本体51を採用すると、処理作業中、ワークが公転の遠心力により押し付けられている筒状本体51の内周面部分の角度が、自転に伴って−θ°から+θ°の間で変化することになるので、筒状本体51内のワークは、自転に伴って上方に位置する部分と下方に位置する部分が相互に流動し、撹拌がさらに促進され、均一なめっきを施すことができる。
【0117】
(2)前記各実施の形態では、アノードとして、不溶性部材を使用しているが、溶性部材を使用することも可能である。
【0118】
(3)前記各実施の形態では、一つの電解めっき装置に一対の処理槽を備えているが、3個以上の処理槽を備えることもできる。
【0119】
(4)前記各実施の形態では、公転軸及び自転軸は、垂直に配置されているが、公転軸及び自転軸を水平に配置し、あるいは垂直から傾斜している状態い装置に、本発明を適用することは可能である。
【0120】
(5)本発明は、電解めっき装置に限定されるものではなく、前述のように、(a)無電解めっき処理;例えば、浸漬めっき処理、化学めっき処理、(b)複合めっき処理、化学複合めっき処理、(c)電着塗装処理;例えば、アニオン電着塗装処理、カチオン電着塗装処理、(d)前処理;例えば、脱脂処理、電解脱脂処理、バレル研磨処理、アルカリ浸漬洗浄処理、酸洗い処理、酸電解処理、化学研磨処理、電解研磨処理、中和処理、(e)後処理;例えば、水切り変色防止処理、水溶性樹脂処理、クロメート処理、を目的とする小物用表面処理装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0121】
3 公転軸
11 公転用駆動モータ
12 処理液回収槽
13 給液ポンプ(処理液供給部)
14 ベルト伝導機構
20 排出孔
21 処理槽
22 公転テーブル
23 サポートプレート
24 自転用駆動モータ
25 給液管
32 自転軸
34 自転テーブル
35 自転用駆動モータ用直流電源
36 電解用直流電源
40 処理液通路
41 スリップリング
48 ガイド輪
51 筒状本体
52 上側フィルター
53 下側フィルター
54 上側蓋体
55 下側蓋体
56 筒状アノード
70 ボルト
71 ナット
73 ボルト
74 ナット
130、131 液排出用の孔
140 排出溝(排出通路の一例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
公転軸と、該公転軸に固着されて該公転軸と一体に回転する公転テーブルと、公転軸芯を中心とする同一円周上に配置されて前記公転テーブルにそれぞれ自転軸を介して自転可能に支持された複数の処理槽と、を備え、該各処理槽はアノードと陰極部とを有すると共に処理液及び小物ワークを収納し、前記複数の処理槽を公転軸回りに公転させると同時に自転軸回りに自転させることにより、処理槽内の小物ワークを表面処理する小物用表面処理装置において、
上記公転軸を回転駆動する公転用駆動モータと、
上記公転用駆動モータとは別に、処理槽毎に、自転軸回りに各処理槽を回転駆動する自転用駆動モータを備えていることを特徴とする、小物用表面処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の小物用表面処理装置において、
処理槽の外部に配置された処理液供給部から各処理槽内に至る処理液経路として、前記公転軸内に設けられた処理液通路と、該処理液通路の出口に接続されて各処理槽に至る複数の給液管とを備え、
前記処理液通路の入口は、回転継手を介して前記処理液供給部に接続され、
前記各給液管の出口は、各処理槽の自転軸芯上に配置されたアノード支持部材に接続されている、小物用表面処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の小物用表面処理装置において、
前記各自転軸は、前記公転テーブルに回転可能に支持されると共に自転テーブルを備えており、各自転テーブルに前記各処理槽が着脱自在に取り付けられている、小物表面処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の小物用表面処理装置において、
前記処理槽は、自転軸方向の両端が開口した筒状本体と、該筒状本体の各開口端をそれぞれ閉塞すると共に処理液が通過可能な細孔を有する多孔体製フィルターと、各多孔体製フィルターを筒状本体の端面との間で挟持する蓋体とを備えている、小物用表面処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の小物用表面処理装置において、
前記各蓋体と、処理槽を支持する自転テーブルに、処理液を排出するための排出孔が形成されている、小物用表面処理装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の小物用表面処理装置において、
筒状本体の内周面の自転軸方向の端部は、自転軸方向の外方側に向いて自転軸側に傾斜している、小物用表面処理装置。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の小物用表面処理装置において、
前記処理槽は、自転軸方向の両端が開口した筒状本体と、該筒状本体の各開口端をそれぞれ閉塞する蓋体とを備え、
各蓋体の内周面には、処理槽内の処理液を自転軸芯と略直角方向に排出する排出通路が設けられている、小物用表面処理装置。
【請求項8】
請求項4乃至7のいずれか一つに記載の小物用表面処理装置において、
前記筒状本体は円筒状に形成され、該筒状本体の内周面は凹凸形状となっている、小物用表面処理装置。
【請求項9】
請求項4乃至7のいずれか一つに記載の小物用表面処理装置において、
前記筒状本体は多角形状に形成されている、小物用表面処理装置。
【請求項10】
請求項4乃至9のいずれか一つに記載の小物用表面処理装置において、
前記筒状本体は導電性部材で形成され、全周が陰極部として通電可能となっている、小物用表面処理装置。
【請求項11】
請求項4乃至9のいずれか一つに記載の小物用表面処理装置において、
前記筒状本体は非導電性部材で形成され、
筒状本体の内周面に、多数の導電性材料の給電部材を突設してある、小物用表面処理装置。
【請求項12】
請求項11に記載の小物用表面処理装置において、
前記各給電部材を筒状本体の外周面に露出させ、
筒状本体の公転半径方向の外方側に、給電部材の外方露出面に接触可能な給電帯を配置し、
処理槽の自転により、筒状本体の公転半径方向の外方側の給電部材のみが順次給電帯に接触して通電するように構成されている、小物用表面処理装置。
【請求項13】
請求項12に記載の小物用表面処理装置において、
処理槽の自転軸芯側に配置されたアノードは、筒状本体の公転半径方向の外方側部分に向く部分が通電可能となっている、小物用表面処理装置。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一つに記載の小物用表面処理装置において、
処理槽の周囲には、自転軸芯回りに間隔をおいて、処理槽の外周面に当接する複数のガイド輪が配置されている、小物用表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2011−58024(P2011−58024A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205996(P2009−205996)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)