説明

小粒径セルロースの製造方法

【課題】セルロース含有原料から小粒径セルロースを効率的に得ることができる、生産性に優れた小粒径セルロースの製造方法を提供する。
【解決手段】第1振動ミルと第2振動ミルとが接続部を介して連結された連続式振動ミルを用いるセルロースの製造方法であって、下記の第1工程及び第2工程を有する小粒径セルロースの製造方法である。
第1工程:セルロース含有原料から水を除いた残余の成分中のセルロース含有量が20質量%以上であるセルロース含有原料を、外径20〜200mmのロッドを充填した第1振動ミルで処理して、平均粒径が40〜200μmのセルロースを得る工程
第2工程:第1工程で得られたセルロースを、外径3〜15mmのロッドを充填した第2振動ミルで処理して、平均粒径が1〜38μmの小粒径セルロースを得る工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小粒径セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプ等のセルロース含有原料を粉砕して得られるセルロースは、セルロースエーテルの原料、化粧品、食品、バイオマス材料等の工業原料に用いられる。
これらの工業原料に用いられるセルロースとしては、セルロース含有原料を粉砕機で機械的に処理して、セルロース結晶構造が非晶化されたものが知られている(例えば、特許文献1〜5参照)。
特許文献1の実施例1及び4には、シート状パルプを振動ボールミル又は二軸押出機で処理する方法、特許文献2の実施例1〜3には、パルプをボールミルで処理する方法、特許文献3の実施例1及び2には、パルプを加水分解等の化学的処理をして得られたセルロース粉体を、ボールミルさらには気流式粉砕機で処理する方法がそれぞれ開示されている。
また、特許文献4及び5には、嵩密度が100〜500kg/m3のセルロース含有原料を、ボール又はロッドを充填した振動ミル等の粉砕機で処理して、非晶化セルロースを製造する方法が開示されている。
【0003】
しかし、一般にセルロースを乾式で粉砕した場合、粉砕が長時間になるとセルロースが再凝集を起こしやすくなるため、微細な小粒径セルロースを製造することは困難であった。
例えば、特許文献6には、木質材を破砕した後、その破砕物を、粉砕媒体としてロッドを装入した上段の第1粉砕筒、及び粉砕媒体としてボールを装入した下段の第2粉砕筒を備える振動式粉砕機に供して粉砕する方法により、全体の90重量%以上を粒径100μm以下の粉末にまで粉砕できることが開示されている。しかし、特許文献6で得られる木質材は、十分に満足できるほど微細なものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−236801号公報
【特許文献2】特開2003−64184号公報
【特許文献3】特開2004−331918号公報
【特許文献4】特許第4160108号公報
【特許文献5】特許第4160109号公報
【特許文献6】特開2004−188833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、セルロース含有原料から小粒径セルロースを効率的に得ることができる、生産性に優れた小粒径セルロースの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定のセルロース含有原料を外径20〜200mmのロッドを充填した振動ミルで処理した後、外径3〜15mmのロッドを充填した振動ミルで連続処理することにより、前記課題を解決できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、第1振動ミルと第2振動ミルとが接続部を介して連結された連続式振動ミルを用いるセルロースの製造方法であって、下記の第1工程及び第2工程を有する小粒径セルロースの製造方法である。
第1工程:セルロース含有原料から水を除いた残余の成分中のセルロース含有量が20質量%以上であるセルロース含有原料を、外径20〜200mmのロッドを充填した第1振動ミルで処理して、平均粒径が40〜200μmのセルロースを得る工程
第2工程:第1工程で得られたセルロースを、外径3〜15mmのロッドを充填した第2振動ミルで処理して、平均粒径が1〜38μmの小粒径セルロースを得る工程
【発明の効果】
【0008】
本発明の小粒径セルロースの製造方法によれば、セルロース含有原料から、平均粒径1〜38μmの小粒径セルロースを効率的に得ることができる、生産性に優れた製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の小粒径セルロースの製造方法は、第1振動ミルと第2振動ミルとが接続部を介して連結された連続式振動ミルを用いるセルロースの製造方法であって、下記の第1工程及び第2工程を有する方法である。
第1工程:セルロース含有原料から水を除いた残余の成分中のセルロース含有量が20質量%以上であるセルロース含有原料を、外径20〜200mmのロッドを充填した第1振動ミルで処理して、平均粒径が40〜200μmのセルロースを得る工程
第2工程:第1工程で得られたセルロースを、外径3〜15mmのロッドを充填した第2振動ミルで処理して、平均粒径が1〜38μmの小粒径セルロースを得る工程
【0010】
[セルロース含有原料]
本発明に用いられるセルロース含有原料は、該原料から水を除いた残余の成分中のセルロース含有量が好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60質量%以上のものである。
本発明における「セルロース含有量」とは、セルロース量及びヘミセルロース量の合計量を意味する。
前記セルロース含有原料としては特に制限はなく、各種木材チップ、各種樹木の剪定枝材、間伐材、枝木材、建築廃材、工場廃材等の木材類;木材から製造されるウッドパルプ、綿の種子の周囲の繊維から得られるコットンリンターパルプ等のパルプ類;新聞紙、段ボール、雑誌、上質紙等の紙類;稲わら、とうもろこし茎等の植物茎・葉類;籾殻、パーム殻、ココナッツ殻等の植物殻類等が挙げられる。これらの中では、パルプ類や木材類が好ましい。
市販のパルプの場合、水を除いた残余の成分中のセルロース含有量は、通常75〜99質量%であり、他の成分としてリグニン等を含む。また市販のパルプの下記計算式(1)により定義されるセルロースI型結晶化指数は、通常60%以上である。
【0011】
<セルロースI型結晶化指数>
本発明方法により製造される小粒径セルロースは、好ましくは、セルロースI型結晶化指数を33%以下に低減したものである。結晶化指数は、X線回折法による回折強度値からSegal法により算出したもので、下記計算式(1)により定義される。
セルロースI型結晶化指数(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 (1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度を示し、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
セルロースの結晶化指数が33%以下であれば、セルロースの化学反応性が向上し、例えば、セルロースエーテルの製造において、アルカリを加えた際にアルカリセルロース化が容易に進行し、結果としてセルロースエーテル化反応の反応転化率を向上させることができる。この観点から、結晶化指数は、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましく、X線回折法でI型結晶が検出されない0%以下が特に好ましい。セルロースの結晶化指数が0%以下となる場合、−10%以下が好ましく、−20%がより好ましく、−30%が更に好ましい。
【0012】
ここで、セルロースI型とは、天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化指数とは、セルロースの結晶領域量の全量に対するセルロースI型の割合を意味する。また、結晶化指数は、セルロースの物理的、化学的性質とも関係し、その値が大きいほど、セルロースの結晶性が高く、非結晶部分が少ないため、硬度、密度等は増すが、伸び、柔軟性、水や溶媒に対する溶解性、化学反応性は低下する。
【0013】
<小粒径セルロースの平均粒径>
本発明方法により製造される小粒径セルロースは、平均粒径を1〜38μmに低減したものである。小粒径セルロースの平均粒径は、36μm以下が好ましく、35μm以下がより好ましい。当該平均粒径が38μm以下であれば、比表面積を増加させ、セルロースの化学反応性を向上させることができる。当該平均粒径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0014】
[小粒径セルロースの製造方法]
本発明方法においては、第1振動ミルと第2振動ミルとが接続部を介して連結された連続式振動ミルを用いて、下記の第1工程及び第2工程により小粒径セルロースを製造する。
第1工程:セルロース含有原料から水を除いた残余の成分中のセルロース含有量が20質量%以上であるセルロース含有原料を、外径20〜200mmのロッドを充填した第1振動ミルで処理(以下、「第1振動ミル処理」ともいう)して、平均粒径が40〜200μmのセルロースを得る工程
第2工程:第1工程で得られたセルロースを、外径3〜15mmのロッドを充填した第2振動ミルで処理(以下、「第2振動ミル処理」ともいう)して、平均粒径が1〜38μmの小粒径セルロースを得る工程
【0015】
<連続式振動ミル>
本発明では、第1振動ミルと第2振動ミルとが接続部を介して連結された連続式振動ミルを用いる。
連続式振動ミルとしては、ユーラステクノ株式会社製のYAMT型連続式バイブロミル、中央化工機株式会社製のCD型連続式振動ミル、中央化工機商事株式会社製の2C型連続式振動ミル等を用いることができる。
振動ミルに原料を供給する速度としては、振動ミルの上流(粉砕用上筒)と下流(粉砕用下筒)の合計粉砕筒ドラム容積あたりの供給速度が0.001〜0.5kg/(hr・L)が好ましく、0.005〜0.4kg/(hr・L)がより好ましく、0.007〜0.3kg/(hr・L)が更に好ましい。原料供給速度が速すぎると結晶化指数が低下せず、原料供給速度が遅すぎると生産性が低下するため、原料供給速度が前記の範囲であれば、小粒径セルロースを効率的に得ることができる。
振動ミルの粉砕筒(上筒、下筒)に冷却用のジャケットを付帯させ、粉砕時に冷却を行ってもよい。また、粉砕筒壁面とロッドの衝突による粉砕筒の損傷を防止するため、粉砕筒内部にライニングとして筒状又は曲板状の鋼板を挿入してもよい。ライニングとロッドの衝突によりライニングが損傷した場合でも、ライニングは容易に交換することが可能であり、交換に負荷のかかる粉砕筒本体の損傷は防止することができる。ライニングの厚みは特に限定されないが、耐久性の観点から、好ましくは1〜30mm、より好ましくは3〜20mm、更に好ましくは5〜16mmである。
【0016】
(セルロース含有原料の前処理)
本発明における小粒径セルロースの製造方法では、前記の第1工程を行う前に、第1工程で用いるセルロース含有原料の前処理を行うことが好ましい。
本発明における第1工程に用いるセルロース含有原料は、後述する裁断処理、粗砕処理及び/又は乾燥処理を行うことにより、嵩密度が50〜600kg/m3、水分含量が4.5質量%以下の範囲としたものが好ましい。
本発明における第1工程に用いるセルロース含有原料の嵩密度は、非晶化及び小粒径化をより効率的に行う観点から、好ましくは50kg/m3以上、より好ましくは65kg/m3以上、更に好ましくは100kg/m3以上である。この嵩密度が50kg/m3以上であれば、セルロース含有原料が適度な容積を有するために取り扱い性が向上する。また、振動ミルへの原料仕込み量を多くすることができるので、処理能力が向上する。一方、この嵩密度の上限は、取り扱い性及び生産性の観点から、好ましくは600kg/m3以下、より好ましくは500kg/m3以下、更に好ましくは400kg/m3以下である。これらの観点から、セルロース含有原料の嵩密度は、好ましくは50〜600kg/m3、より好ましくは65〜500kg/m3、更に好ましくは100〜400kg/m3である。なお、前記の嵩密度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0017】
本発明における第1工程に用いるセルロース含有原料の水分含量は、粉砕効率を向上させる観点から、好ましくは4.5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、更により好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。この水分含量が4.5質量%以下であれば、非晶化処理による非晶化速度が向上し、短時間で効率的に結晶化指数を低下させることができる。一方、この水分含量の下限は、生産性及び乾燥効率の観点から、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.4質量%以上である。これらの観点から、第1工程の非晶化処理に用いるセルロース含有原料中の水分含量は、0.2〜4.5質量%が好ましく、0.3〜3質量%がより好ましく、0.4〜2質量%が更に好ましく、0.4〜1質量%が特に好ましい。
【0018】
〔裁断処理〕
本発明の第1工程に用いるセルロース含有原料は、その形状や大きさによっては、予め裁断処理を行うことが好ましい。
セルロース含有原料を裁断処理する方法としては、セルロース含有原料の種類や形状により適宜選択することができるが、例えば、シュレッダー、スリッターカッター及びロータリーカッターから選ばれる1種以上の裁断機を使用する方法が挙げられる。
シート状のセルロース含有原料を用いる場合、裁断機としてシュレッダー又はスリッターカッターを使用することが好ましく、生産性の観点から、スリッターカッターを使用することがより好ましい。
スリッターカッターは、シートの長手方向に沿った縦方向にロールカッターで縦切りして、細長い短冊状とし、次に、固定刃と回転刃でシートの幅方向に沿って短く横切りすることにより、さいの目形状のセルロース含有原料を容易に得ることができる。スリッターカッターとしては、株式会社ホーライ製のシートペレタイザ、株式会社荻野精機製作所製のスーパーカッター等を好ましく使用でき、これらの装置を使用すると、シート状のセルロース含有原料を約1〜20mm角に裁断することができる。
【0019】
間伐材、剪定枝材、建築廃材等の木材類、あるいはシート状以外のセルロース含有原料を裁断する場合には、ロータリーカッターを使用することが好ましい。ロータリーカッターは、回転刃とスクリーンから構成され、回転刃によりスクリーンの目開き以下に裁断されたセルロース含有原料を容易に得ることができる。なお、必要に応じて固定刃を設け、回転刃と固定刃により裁断することもできる。
ロータリーカッターを使用する場合、得られる粗粉砕物の大きさは、スクリーンの目開きを変えることにより、制御することができる。スクリーンの目開きは、1〜70mmが好ましく、2〜50mmがより好ましく、3〜40mmが更に好ましい。スクリーンの目開きが1mm以上であれば、適度な嵩高さを有する粗粉砕物が得られ、取り扱い性が向上する。スクリーンの目開きが70mm以下であれば、後の粉砕処理において、粉砕原料として適度な大きさを有するために、粉砕に要する負荷を軽減することができる。
ここで、「後の粉砕処理」とは、後述する粗砕処理、第1工程:第1振動ミル処理、及び第2工程:第2振動ミル処理を意味する。
【0020】
裁断処理後に得られるセルロース含有原料の大きさは、好ましくは1〜70mm角、より好ましくは2〜50mm角である。1〜70mm角に裁断することにより、後の乾燥処理を効率良く容易に行うことができ、また後の粉砕処理において、粉砕に要する負荷を軽減することができる。
【0021】
〔粗砕処理〕
次に、セルロース含有原料、好ましくは前記裁断処理で得られたセルロース含有原料を必要に応じて更に粗砕処理することができる。
粗砕処理は、圧縮せん断力を作用させて機械的に粉砕する方法として従来よく用いられる衝撃式の粉砕機、例えば、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル等を用いて行うことができる。これらの中では、粉砕物が綿状化して嵩高くなるため、粉砕物の取り扱い性、質量ベースの処理能力の観点から、押出機による処理が好ましい。押出機処理により、圧縮せん断力を作用させ、セルロースの結晶構造を破壊して、セルロース含有原料を粉末化させ、嵩密度を更に高めることができる。
押出機は、単軸、二軸のどちらの形式でもよいが、搬送能力を高める等の観点から、二軸押出機が好ましい。
二軸押出機は、シリンダの内部に2本のスクリューが回転自在に挿入された押出機であり、従来から公知のものが使用できる。2本のスクリューの回転方向は、同一でも逆方向でもよいが、搬送能力を高める観点から、同一方向の回転が好ましい。
また、スクリューの噛み合い条件としては、完全噛み合い、部分噛み合い、非噛み合いの各形式の押出機のいずれでもよいが、処理能力を向上させる観点から、完全噛み合い型、部分噛み合い型が好ましい。
【0022】
押出機は、強い圧縮せん断力を加える観点から、スクリューのいずれかの部分に、いわゆるニーディングディスク部を備えることが好ましい。
ニーディングディスク部とは、複数のニーディングディスクで構成され、これらを連続して、一定の位相で、例えば90°ずつずらしながら組み合わせたものであり、スクリューの回転にともなって、ニーディングディスク間あるいはニーディングディスクとシリンダの間の狭い隙間にセルロース含有原料を強制的に通過させることで極めて強いせん断力を付与することができる。スクリューの構成としては、ニーディングディスク部と複数のスクリューセグメントとが交互に配置されることが好ましい。二軸押出機の場合、2本のスクリューが同一の構成を有することが好ましい。
【0023】
粗砕処理の方法は、前記セルロース含有原料、好ましくは前記裁断処理して得られたセルロース含有原料を押出機に投入し、連続的に処理する方法が好ましい。せん断速度は、10sec-1以上が好ましく、20〜30000sec-1がより好ましく、50〜3000sec-1が更に好ましく、500〜3000sec-1が特に好ましい。せん断速度が10sec-1以上であれば、有効に粉砕が進行する。その他の処理条件は、特に制限はないが、処理温度は5〜200℃が好ましい。
また、押出機によるパス回数は、1パスでも十分効果を得ることができるが、セルロースの結晶化指数及び重合度を低下させる観点から、1パスで不十分な場合は、2パス以上行うことが好ましい。また、生産性の観点からは、1〜10パスが好ましい。パスを繰り返すことにより、粗大粒子が粉砕され、粒径のばらつきが少ない粉末状セルロース含有原料を得ることができる。2パス以上行う場合、生産能力を考慮し、複数の押出機を直列に並べて処理を行ってもよい。
【0024】
粗砕処理後に得られるセルロース含有原料の平均粒径は、非晶化処理における粉砕機中にセルロース含有原料を効率的に分散させる観点から、0.3〜1mmの範囲が好ましく、0.35〜0.7mmがより好ましく、0.4〜0.6mmが更に好ましい。この平均粒径が1mm以下であれば、非晶化処理の際に、粉砕機中にセルロース含有原料を効率的に分散させることができ、長時間を要することなく所定の粒径に到達することができる。一方、この平均粒径の下限は、生産性の観点から、0.3mm以上が好ましい。なお、前記の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
〔乾燥処理〕
本発明において、セルロース含有原料、好ましくは前記裁断処理及び/又は粗砕処理して得られたセルロース含有原料を、第1工程:第1振動ミル処理前に乾燥処理することが好ましい。
一般に、市販のパルプ類、バイオマス資源として利用される紙類、木材類、植物茎・葉類、植物殻類等の一般に利用可能なセルロース含有原料は、5質量%を超える水分を含有しており、通常5〜30質量%程度の水分を含有している。したがって、本発明では、乾燥処理を行うことによって、セルロース含有原料の水分含量を4.5質量%以下に調整することが好ましい。
【0026】
乾燥方法は、公知の乾燥手段を適宜選択すればよく、例えば、熱風受熱乾燥法、伝導受熱乾燥法、除湿空気乾燥法、冷風乾燥法、マイクロ波乾燥法、赤外線乾燥法、天日乾燥法、真空乾燥法、凍結乾燥法等が挙げられる。
前記の乾燥方法において、公知の乾燥機を適宜選択して使用することができ、例えば、「粉体工学概論」(社団法人日本粉体工業技術会編集 粉体工学情報センター1995年発行)176頁に記載の乾燥機等が挙げられる。
これらの乾燥方法及び乾燥機は単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
乾燥処理はバッチ処理、連続処理のいずれでも可能であるが、生産性の観点から連続処理が望ましい。
【0027】
連続乾燥機は、伝熱効率の観点から伝導受熱型の横型攪拌乾燥機が好ましい。更に、微粉が発生しにくく、また、連続排出の安定性の観点から、二軸の横型攪拌乾燥機が好ましい。二軸の横型攪拌乾燥機としては、株式会社奈良機械製作所製の二軸パドルドライヤーを好ましく使用できる。
乾燥処理における温度は、乾燥手段、乾燥時間等により一概には決定できないが、10〜250℃が好ましく、25〜180℃がより好ましく、50〜150℃が更に好ましい。処理時間は0.01〜2時間が好ましく、0.02〜1時間がより好ましい。必要に応じて減圧下で乾燥処理を行ってもよく、圧力は1〜120kPaが好ましく、50〜105kPaがより好ましい。
【0028】
<第1工程:第1振動ミル処理>
第1工程:第1振動ミル処理では、第1振動ミルと第2振動ミルとが接続部を介して連結された連続式振動ミルを用いて、セルロース含有原料から水を除いた残余の成分中のセルロース含有量が20質量%以上のセルロース含有原料を、外径20〜200mmのロッドを充填した第1振動ミルで処理して、その平均粒径を低減し、平均粒径が40〜200μmのセルロースを得る。第1工程に続いて、後述する第2工程を連続して行うことにより、セルロースI型結晶化指数が1〜38μmの小粒径セルロースを効率よく製造することができる。
連続式振動ミルに充填されるロッドとは棒状の媒体であり、ロッドの断面が四角形、六角形等の多角形、円形、楕円形等のものを用いることができる。
ロッドの材質は、特に制限はなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、チッ化珪素、ガラス等が挙げられる。
第1振動ミル処理におけるロッドとしては、前記のものを用いることができる。
第1振動ミル処理におけるロッドの外径は、20〜200mmであり、好ましくは20〜100mm、より好ましくは20〜50mmの範囲である。ロッドの外径が前記範囲であれば、続く第2振動ミル処理を効率的に行うことができる。
第1振動ミル処理におけるロッドの長さは、粉砕機の容器の長さよりも短ければ特に限定されないが、例えば、好ましくは50mm〜5m、より好ましくは75mm〜2m、更に好ましくは100mm〜1mである。ロッドの大きさが前記の範囲であれば、所望の粉砕力が得られるとともに、ロッドのかけら等が混入してセルロース含有原料が汚染されることなく効率的にセルロースを粉砕、及び非晶化することができる。
【0029】
第1振動ミル処理におけるロッドの充填率は、好ましくは10〜97%、より好ましくは15〜95%の範囲である。充填率がこの範囲内であれば、セルロース含有原料と媒体との接触頻度が向上するとともに、媒体の動きを妨げずに、粉砕効率を向上させることができる。ここで充填率とは、粉砕機の攪拌部の容積に対する媒体の見かけの体積をいう。
第1振動ミル処理におけるセルロース含有原料の滞留時間としては、粉砕機の種類、ロッドの材質、形状、大きさ及び充填率等により一概に決定できないが、結晶化指数を効率的に低下させる観点から、好ましくは0.5〜100分間、より好ましくは2〜80分間、更に好ましくは3〜60分間、特に好ましくは3〜40分間である。なお、滞留時間とは、セルロース含有原料を第1振動ミルに投入してから排出されるまでの時間をいう。
第1振動ミル処理における処理温度は、特に制限はないが、熱によるセルロースの劣化を防ぐ観点から、好ましくは5〜250℃、より好ましくは10〜200℃である。
【0030】
第1振動ミル処理により得られるセルロースの平均粒径は、40〜200μmであり、第2振動ミル処理を効率的に行う観点から、好ましくは、60〜170μmであり、より好ましくは、80〜160μmである。
第1振動ミル処理により得られるセルロースの嵩密度は、振動ミル処理の効率性の観点から、好ましくは、50〜600kg/m3である。
第1振動ミル処理により得られるセルロースの水分含量は、振動ミル処理の粉砕効率を向上させる観点から、好ましくは4.5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、更により好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。この水分含量が4.5質量%以下であれば、非晶化処理による非晶化速度が向上し、短時間で効率的に結晶化指数を低下させることができる。一方、この水分含量の下限は、生産性及び乾燥効率の観点から、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.4質量%以上である。これらの観点から、第2工程の非晶化処理に用いるセルロース含有原料中の水分含量は、0.2〜4.5質量%が好ましく、0.3〜3質量%がより好ましく、0.4〜2質量%が更に好ましく、0.4〜1質量%が特に好ましい。
第1振動ミル処理により得られるセルロースの結晶化指数は、第2振動ミル処理を効率よく行う観点から、好ましくは−40〜33%であり、より好ましくは−40〜30%、更に好ましくは−40〜20%、特に好ましくは−40〜10%である。
【0031】
<第2工程:第2振動ミル処理>
第2工程:第2振動ミル処理では、第1工程で得られたセルロースを、外径3〜15mmのロッドを充填した第2振動ミルで処理して、その平均粒径を低減し、平均粒径が1〜38μmの小粒径セルロースを得る。第1工程で得られたセルロースは、連続式振動ミルの接続部を介して第1振動ミルから第2振動ミルに輸送され、第2振動ミル内で効率よく処理される。
第2振動ミルで使用するロッドの材質、形状は、第1振動ミルで使用するロッドと同様のものを用いることができる。
第2振動ミル処理におけるロッドの外径は3〜15mmである。ロッドの外径が前記の範囲であれば、効率よく微細化することができる。この観点から、ロッドの外径としては、好ましくは3〜12mm、より好ましくは3〜10mmの範囲である。
第2振動ミル処理におけるロッドの長さは、粉砕機の容器の長さよりも短ければ特に限定されないが、例えば、好ましくは50mm〜5m、より好ましくは75mm〜2m、更に好ましくは100mm〜1mである。ロッドの大きさが前記の範囲であれば、所望の粉砕力が得られるとともに、ロッドのかけら等が混入してセルロース含有原料が汚染されることなく効率的にセルロースの平均粒径を低減させることができる。
【0032】
第2振動ミル処理におけるロッドの充填率は、粉砕機の機種により好適な範囲が異なるが、好ましくは10〜97%、より好ましくは15〜95%の範囲である。充填率がこの範囲内であれば、セルロース含有原料とロッドとの接触頻度が向上するとともに、ロッドの動きを妨げずに、粉砕効率を向上させ、効率的にセルロース含有原料を微細化することができる。
第2振動ミル処理におけるセルロース含有原料の滞留時間としては、粉砕機の種類、ロッドの材質、形状、大きさ及び充填率等により一概に決定できないが、セルロースの平均粒径を効率的に低下させる観点から、好ましくは1〜120分間、より好ましくは2〜60分間、更に好ましくは3〜30分間、特に好ましくは3〜20分間である。なお、滞留時間とは、セルロース含有原料を第2振動ミルに投入してから排出されるまでの時間をいう。
第2振動ミル処理における処理温度は、特に制限はないが、熱によるセルロースの劣化を防ぐ観点から、好ましくは5〜250℃、より好ましくは10〜200℃である。
第2振動ミル処理により、平均粒径が1〜38μmの小粒径セルロースを効率よく得ることができ、前記の粉砕機による処理の際に、セルロースの再凝集を抑制し、また、その内部に粉砕物が固着せずに、乾式にて処理することができる。得られる小粒径セルロースの平均粒径は、この小粒径セルロースを工業原料として用いる際の化学反応性及び取扱い性の観点から、好ましくは2〜38μm、より好ましくは3〜35μmである。
第2振動ミル処理により得られるセルロースの結晶化指数は、前記と同様の観点から、好ましくは−40〜33%であり、より好ましくは−40〜30%、更に好ましくは−40〜20%、特に好ましくは−40〜10%である。
【0033】
<分級処理>
本発明において、第2工程:第2振動ミル処理により得られた小粒径セルロースを、必要に応じて更に分級処理することにより、所望の粒径の小粒径セルロースを得ることができる。分級処理方法としては、公知の乾式分級手段を適宜選択すればよく、篩い分け、風力分級等が挙げられる。
分級処理後の粗粉は、セルロース含有原料とともに再度振動ミルに投入し、第1工程:第1振動ミル処理、及び第2工程:第2振動ミル処理を行うことで、効率よく小粒径の非晶化セルロースを得ることができる。
【実施例】
【0034】
セルロース含有原料及び小粒径セルロースの嵩密度、平均粒径、結晶化指数、水分含量及びセルロース含有量の測定は、下記の方法で行った。
(1)嵩密度の測定
嵩密度は、ホソカワミクロン株式会社製の「パウダーテスター」を用いて測定した。測定は、ふるいを振動させて、サンプルをシュートを通じ落下させ、規定の容器(容量100mL)に受け、該容器中のサンプルの質量を測定することにより算出した。
(2)平均粒径の測定
平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。測定条件は、粒径測定前に超音波で1分間処理し、測定時の分散媒体として水を用い、体積基準のメジアン径を、温度25℃にて測定した。
【0035】
(3)結晶化指数の算出
セルロースI型結晶化指数は、サンプルのX線回折強度を、株式会社リガク製の「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定し、前記計算式(1)に基づいて算出した。
測定条件は、X線源:Cu/Kα−radiation,管電圧:40kv,管電流:120mA,測定範囲:回折角2θ=5〜45°、X線のスキャンスピード:10°/minであった。測定用サンプルは面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製した。
(4)水分含量の測定
水分含量は、赤外線水分計(株式会社島津製作所製、「MOC−120H」)を使用し、この赤外線水分計の試料皿に試料を5g載せ、設定温度120℃にて、自動停止モード(30秒間の水分変化量が0.05%以下になったら測定終了)の条件下で求めた水分蒸発量から算出した。
(5)セルロース含有量の測定
セルロース含有量は、社団法人日本分析化学会編、分析化学便覧(改訂四版、平成3年11月30日、丸善株式会社発行)の1081頁〜1082頁に記載のホロセルロース定量法により測定した。
【0036】
実施例1
〔裁断処理〕
セルロース含有原料として、シート状木材パルプ〔テンベック社製「Biofloc HV-10A」、800mm×600mm×1.0mm、結晶化指数81.5%、セルロース含有量(セルロース含有原料から水を除いた残余の成分中の含有量、以下同じ)96質量%、水分含量8.5質量%〕を、シートペレタイザ(株式会社ホーライ製、「SG(E)−220」)にかけ、約4mm×4mm×1.0mmの大きさに裁断した。裁断処理後に得られたパルプの嵩密度は、200kg/m3であった。
〔乾燥処理〕
裁断処理により得られたパルプを、棚乾燥機〔株式会社アイシーイー製 棚段式真空乾燥機(2列7段)〕を用いて、乾燥後のパルプの水分含量が、0.4質量%になるように乾燥した。乾燥処理後のパルプの結晶化指数は79%であった。
〔連続振動ミル処理〕
連続式振動ミル(中央化工機株式会社製、「MC−15」、容器容量15.59L×2筒)の上筒(第1振動ミル)にロッドとして、直径30mm、長さ930mm、材質ステンレス、断面形状が円形のロッド14本を充填(充填率59%)して、下筒(第2振動ミル)にロッドとして、直径:6mm、長さ:930mm、材質:ステンレス、断面形状:円形のロッド350本を充填(充填率59%)して、振幅8mm、円回転1200cpmの条件で振動させ、乾燥処理により得られたパルプを、0.42kg/hで連続的に投入し、65分間処理した。この際、パルプの上筒における滞留時間は14.2分間であり、下筒における滞留時間は13.2分間であった。
63分間連続振動ミル処理した後に連続排出された小粒径セルロースの平均粒径は31μm、嵩密度は300kg/m3、結晶化指数は−37.1%であった。結果を表1に示す。
【0037】
比較例1
実施例1の連続振動ミル処理において、下筒(第2振動ミル)に充填する媒体として、直径:30mm、長さ:930mm、材質:ステンレス、断面形状:円形のロッド14本を充填(充填率59%)したこと以外は、実施例1と同様の方法で連続振動ミル処理を行った。この際、パルプの上筒における滞留時間は17.8分間であり、下筒における滞留時間は7.7分間であった。
63分間連続振動ミル処理した後に連続排出された小粒径セルロースの平均粒径は54μm、嵩密度は300kg/m3、結晶化指数は−35.9%であった。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から、実施例1の製造方法は、比較例1の製造方法に比べて、小粒径セルロースを短時間で効率的に得ることができ、生産性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の小粒径セルロースの製造方法は、生産性に優れ、平均粒径が1〜38μmの小粒径セルロースを効率的に得ることができ、工業的製法として有用である。得られた小粒径セルロースは、セルロースエーテルの原料、化粧品、食品、バイオマス材料、樹脂の補強剤等の工業原料として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1振動ミルと第2振動ミルとが接続部を介して連結された連続式振動ミルを用いるセルロースの製造方法であって、下記の第1工程及び第2工程を有する小粒径セルロースの製造方法。
第1工程:セルロース含有原料から水を除いた残余の成分中のセルロース含有量が20質量%以上であるセルロース含有原料を、外径20〜200mmのロッドを充填した第1振動ミルで処理して、平均粒径が40〜200μmのセルロースを得る工程
第2工程:第1工程で得られたセルロースを、外径3〜15mmのロッドを充填した第2振動ミルで処理して、平均粒径が1〜38μmの小粒径セルロースを得る工程
【請求項2】
前記セルロース含有原料の水分含量が4.5質量%以下である、請求項1に記載の小粒径セルロースの製造方法。
【請求項3】
前記セルロース含有原料の嵩密度が50〜500kg/m3である、請求項1又は2に記載の小粒径セルロースの製造方法。