小脳でのGABA放出調節剤
ベストロフィン1チャネル抑制剤を有効成分として含有する小脳でのγ-アミノ酪酸(GABA)放出抑制剤及びGABA過剰放出による病的症状治療用組成物;ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として含有する小脳でのGABA放出促進剤及びGABA不足による病的症状治療用組成物;及び小脳のベストロフィン1チャネルをターゲットとする小脳でのGABA放出調節剤スクリーニング方法;が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベストロフィン(Bestrophin)1チャネル抑制剤を有効成分として含有する小脳(cerebellum)でのγ-アミノ酪酸(GABA:gamma-aminobutyric acid)放出抑制剤及びGABA過剰放出による病的症状治療用組成物;ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として含有する小脳でのGABA放出促進剤及びGABA不足による病的症状治療用組成物;及び小脳のベストロフィン1チャネルをターゲットとする小脳でのGABA放出調節剤スクリーニング方法;に関する。
【背景技術】
【0002】
GABAは、哺乳類中枢神経系の代表的な抑制性神経伝達物質のうち一つである。
【0003】
GABAは、次のような2種の作用モードで作用すると知られている:緊張性(tonic)モード及び位相性(phasic)モード。GABAの位相性分泌(phasic release)メカニズムは、Ca2+依存的小胞性分泌(Ca2+ dependent vesicular release)であると明確に定立されているが、GABAの緊張性分泌(tonic release)のソース及びメカニズムは、さらに多くの研究が必要な状況である。
【0004】
このために、本発明者らは、GABAの緊張性分泌メカニズムを究明し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤を有効成分として含む小脳でのGABA放出調節剤を提供するものである。
【0006】
具体的には、ベストロフィン1チャネル遮断剤を有効成分として含む小脳でのGABA放出抑制剤を提供するものである。
【0007】
また、ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として含む小脳でのGABA放出促進剤を提供するものである。
【0008】
さらに他の例は、ベストロフィン1チャネル活性を調節し、小脳でのGABA放出を調節する方法を提供するものである。
【0009】
具体的には、ベストロフィン1チャネル活性を抑制し、小脳でのGABA放出を抑制する方法を提供するものである。
【0010】
また、ベストロフィン1チャネルを活性化し、小脳でのGABA放出を促進する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤の小脳でのGABA放出調節のための有効成分としての用途を提供する。
【0012】
具体的には、ベストロフィン1チャネル遮断剤の小脳でのGABA放出抑制のための有効成分としての用途を提供する。
【0013】
また、ベストロフィン1チャネル活性化剤の小脳でのGABA放出促進のための有効成分としての用途を提供する。
【0014】
さらに他の例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤を有効成分として含む、GABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物を提供する。
【0015】
具体的には、ベストロフィン1チャネル遮断剤を有効成分として含む、GABA過放出による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物を提供する。
【0016】
また、ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として含む、GABA不足による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物を提供する。
【0017】
さらに他の例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤を有効成分として使用するGABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の方法を提供する。
【0018】
具体的には、ベストロフィン1チャネル遮断剤を有効成分として使用するGABA過放出による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の方法を提供する。
【0019】
また、ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として使用するGABA不足による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の方法を提供する。
【0020】
さらに他の例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤のGABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療のための有効成分としての用途を提供する。
【0021】
具体的には、ベストロフィン1チャネル遮断剤のGABA過放出による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療のための有効成分としての用途を提供する。
【0022】
また、ベストロフィン1チャネル活性化剤のGABA不足による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療のための有効成分としての用途を提供する。
【0023】
さらに他の例は、候補物質を小脳サンプルと接触させ、小脳のベストロフィン1チャネル活性化いかんを確認し、小脳でのGABA放出調節剤をスクリーニングする方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】小脳膠細胞はGABAを含み、直接透過によってGABAを放出するベストロフィン1(Best1)チャネルを発現するということを示し、GFAP−GFP形質転換マウス小脳でのGFP,Best1及びGABAに対する抗体を利用した免疫組織化学共焦点イメージである。
【図1B】小脳膠細胞はGABAを含み、直接透過によってGABAを放出するベストロフィン1(Best1)チャネルを発現するということを示し、2−細胞スニファパッチの概略図である。
【図1C】小脳膠細胞はGABAを含み、直接透過によってGABAを放出するベストロフィン1(Best1)チャネルを発現するということを示し、GABAの透過程度を示す結果である。
【図1D】小脳膠細胞はGABAを含み、直接透過によってGABAを放出するベストロフィン1(Best1)チャネルを発現するということを示し、記載された条件下でのGABA放出活性化程度を示すグラフである。
【図2A】Cre−lox調節pSicoR−shRNAレンチウイルス構造体の様子を示す概略図である。
【図2B】B6またはGFAP−GFPマウスを使用する実験日程を示す図面である。
【図2C】GFAP−GFP(緑色)染色、Best1(紫紅色)及びmCherry(赤色)を含むB1−shRNAレンチウイルスの形態を示す図面である。
【図2D】ランププロトコル(ramp protocol、Vh=−70mV)を使用した膠細胞パッチ記録結果を示す図面である。
【図2E】scrambled shRNA注入されたGFAP−GFPマウスでの電流−電圧トレースを示すグラフである。
【図2F】Best1−shRNA注入されたGFAP−GFPマウスでの電流−電圧トレースを示すグラフである。
【図2G】記載された条件に係わるNPPB敏感性電流の電流−電圧トレースの平均を求めてフローティングしたところを示すグラフである。
【図2H】Cl−とGABAとの流出を比較するために、図2Gで得た−80mVでの電流大きさを示すグラフである。
【図3A】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、半透明プルキンエ細胞層(黒色矢印)によって分離された、明るい蛍光色の顆粒細胞層の顆粒細胞体と、分子層内に位置する平行線維とを示すCLM1 Clomeleonマウスの小脳切片の様子を示すイメージである。
【図3B】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、Clomeleonの比率イメージ(ratiometric imaging)であり、経時的な[Cl−]i変化を示すグラフである。
【図3C】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、NPPBによる[Cl−]i変化と、SRによる[Cl−]i変化との相関関係を示すグラフである。
【図3D】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、scrambled−shRNAレンチウイルス注入されたマウスから得たClomeleonイメージ結果である。
【図3E】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、B1−shRNA注入されたマウスから得たClomeleonイメージ結果である。
【図3F】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、それぞれのウイルスタイプと、それぞれの層とでのClomeleonイメージ結果を要約したグラフである。
【図3G】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、8週齢B6マウスの小脳スライス(維持電位(holding potential):−60mV)の顆粒細胞から得た緊張性GABA電流の加工前トレースを示す図面である。
【図3H】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、天然(naive),scrambled及びB1−shRNA注入されたマウスから得たGABAzine−敏感性電流を要約したグラフである。
【図3I】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、NPPB敏感性電流を要約したグラフである。
【図4A】Best1チャネルの膠細胞特異的構造(rescue)が緊張性GABA電流を回復させるということを示し、hGFAP−CreERTマウスに係わる試験日程を示した図面である。
【図4B】Best1チャネルの膠細胞特異的構造(rescue)が緊張性GABA電流を回復させるということを示し、膠細胞特異的構造メカニズムを模式的に示す図面である。
【図4C】Best1チャネルの膠細胞特異的構造(rescue)が緊張性GABA電流を回復させるということを示し、膠細胞での全細胞パッチクランプ記録を示す図面である。
【図4D】Best1チャネルの膠細胞特異的構造(rescue)が緊張性GABA電流を回復させるということを示し、天然(naive)、shRNA及びshRNA+タモキシフェン(TAM)の場合のGABAzine−敏感性緊張性GABA電流を示すグラフである。
【図4E】Best1チャネルの膠細胞特異的構造(rescue)が緊張性GABA電流を回復させるということを示し、天然(naive)、shRNA及びshRNA+タモキシフェンの場合のNPPB敏感性緊張性GABA電流を示すグラフである。
【図4F】Best1チャネルの膠細胞特異的構造(rescue)が緊張性GABA電流を回復させるということを示し、小脳での緊張性GABA放出の提案モデルである。
【図5】成体マウス小脳の膠細胞において、mBest1とGABAとが強力に発現するということを示し、aは、マウス小脳でのGABA、Best1及びGFAP−GFPの免疫組織化学的共焦点イメージであり、bは、小脳のGABA染色及びGFAP−GFP染色の高倍率イメージであり、cは、Best1染色とGFAP染色との高倍率(X60)イメージである。
【図6A】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、以下図6Bないし図6Gの結果を得るのに使われた試片顆粒細胞及び分子細胞層の顕微鏡観察写真を示すイメージ(上側:X40、下側:X600)である。
【図6B】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、100μMニフルム酸処理した場合の緊張性GABA電流記録を示した図面である。
【図6C】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、150μM BAPTA−AMと共にインキュベーティングする場合の緊張性GABA電流記録を示した図面である。
【図6D】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、0.5μMコンカナマイシンA(concanamycin A)と共にインキュベーティングする場合の緊張性GABA電流記録を示した図面である。
【図6E】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、30μM NPPB処理した場合の緊張性GABA電流記録を示した図面である。
【図6F】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、無処理(untreated)、コンカナマイシンA,BAPTA−AM処理時のGABAzine敏感性電流結果を要約したグラフである。
【図6G】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、Ca2+敏感性Cl−チャネル遮断剤による緊張性電流の抑制率(%)を示すグラフである。
【図7A】NPPBは、GABA受容体に直接影響を及ぼさないということを示し、GABAcを発現するHEK293細胞を、100μM NFAの不在下または存在下でパッチクランピングし、100μM GABAで感染(challenge)させた結果を示す図面である。
【図7B】NPPBは、GABA受容体に直接影響を及ぼさないということを示し、GABAcを発現するHEK293細胞を、100μM NPPBの不在下または存在下でパッチクランピングし、100μM GABAで感染(challenge)させた結果を示す図面である。
【図7C】NPPBは、GABA受容体に直接影響を及ぼさないということを示し、NPPBの適用が、小脳顆粒細胞上のGABA受容体には影響を及ぼさないということを示し、NPPB処理(2分及び5分)時のGABA誘導電流をbaselineと比較して示した図面である。
【図7D】NPPBは、GABA受容体に直接影響を及ぼさないということを示し、NPPBの適用が小脳顆粒細胞上のGABA受容体には影響を及ぼさないということを示し、NPPB処理(2分及び5分)時のGABA誘導電流をbaselineと比較して示した図面である。
【図8A】shRNA及びscrambled RNA注入されたマウスでのmCherry信号の蛍光イメージである(scale bar:200μm(X10);50μm(X40))。
【図8B】hGFAP−Creマウスでの遺伝子沈黙によるBest1ノックダウン実験を示し、左側パネルは、タモシキフェン注入されたhGFAP−Creマウスに注入されたB1−shRNAレンチウイルスの様子を示し(赤色)、真ん中のパネルは、同じ部位でのBest1染色されたイメージであり、右側パネルは、膠細胞のマーカーであるGFAPを染色したイメージと共に、左側パネルと真ん中のパネルとのイメージを併合させたイメージであり、Best1(紫紅色)は、レンチウイルス感染部位と非感染部位とで、同様に染色されるということを示すイメージである(scale bar:100μM)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、緊張性γ-アミノ酪酸(GABA:gamma-aminobutyric acid)抑制が、小脳(cerebellum)内の膠細胞(glial cell)からのGABA分泌に起因し、このようなGABAの分泌(release)は、最近特性が明らかになった陰イオンチャネルであるベストロフィン1(Best1)チャネルを直接的に通過して起こるということを明らかにした。まず、2−細胞スニファパッチ技法(two-cell sniffer patch technique)を利用し、Best1チャネルが、GABAを直接通過させることができるということを示した。第二に、細胞類型特異的遺伝子スライシング技術と、成体マウスでの緊張性GABA分泌を測定するための一般的な電子生理学的アプローチだけではなく、最近の光遺伝学的方法(optogenetic tool)とを利用し、膠細胞が、Best1チャネルを介して分泌可能なGABAを含み、その分泌は、多様な陰イオンチャネルの遮断剤によって抑制されるということを確認した。このようなGABA分泌は、Best1−shRNAレンチウイルスを小脳部位に注入した後、標的遺伝子であるBest1遺伝子のノックダウンによって顕著に減少した。
【0026】
最終的には、Cre−lox調節shRNAシステムと、hGFAP−CreERT2形質転換(transgenic)マウスとの組み合わせによって、遺伝子沈黙(gene silencing)による緊張性GABA電流の減衰(attenuation)が完全に回復するということを確認し、これは、膠細胞から分泌されたGABAが、ambient GABAを担当するということを意味する。本発明者らのかような発見は、非小胞性(non-vesicular)GABA分泌における膠細胞機能と、チャネル媒介放出メカニズムと関連した概念とを最初に提示し、また、ニューロン・プロセシングのglial integrationの重要性を強調するものである。
【0027】
緊張性GABA電流は、歯状回(dentate gyrus)顆粒細胞で初めて観察されて以来、緊張性抑制(tonic inhibition)は、小脳、海馬、視床、皮質、脳幹などを含む中枢神経系にわたって、異なって分布すると報告されている。緊張性抑制は、興奮性(excitability)の一般的緊張度(general tone)調節において、位相性抑制(phasic inhibition)より優勢であり、ニューロン出力(neuronal output)の情報処理(information processing)において重要な役割を果たす。緊張性抑制の多様な機能的役割は、癲癇(epilepsy)、睡眠、記憶及び認知と関連している(Walker and Semyanov,2008)。小脳で、主要な興奮性入力(excitatory input)をプルキンエ細胞(Purkinje cell)に提供する顆粒細胞は、シナプス外の高親和性サブユニット含有GABAA受容体によって媒介される継続的な緊張性GABA抑制によって、強力に抑制される(Hamann et al.,2002;Rossi et al.,2003)。小脳の緊張性GABA抑制は、運動行動を損傷させる低容量アルコール中毒(low dose alcohol intoxication)の重要な標的であると報告されている(Hanchar et al.,2005)。しかし、その機能性重要性に係わる研究は非常に微小であり、放出メカニズムに係わる理解不足によって、部分的でしかないという実情である。
【0028】
小脳顆粒細胞は、タイプII糸球体(typeII glomerulus)と呼ばれる独特の形状を形成し、これは、細胞外ambient GABAを、グルタミン酸作動性(glutamatergic)苔状線維(mossy fiber)、ゴルジ細胞のアクソン(axon)、顆粒細胞突起及び膠細胞鞘(glial sheath)と共に蓄積させ、糸球体は、放出されたGABAを維持させる層状膠細胞鞘(lamella glial sheath)で完壁に囲まれている。小脳の星状膠着細胞(astrocyte)の他の独特な類型であるベルグマン膠細胞(Bergmann glial cell)は、プルキンエ細胞の近傍に位置し(図1A)、生後顆粒細胞移動及びプルキンエ細胞突起成熟のための足場を提供する発生上の重要な役割を行う。成人において、ベルグマン膠細胞は、顆粒細胞からの励起性シナプス末端(excitatory synaptic termination)と共に、バスケット細胞からのGABA作動性シナプス末端を含む膠細胞鞘で、自身の細胞体(somata)とシナプスとをしっかりと覆い包むことによって、プルキンエ細胞に対して、密接な解剖学的及び機能的なパートナーとして残っている。
【0029】
成人脳で、ニューロンが独占的にGABAを合成して含有して放出すると考えられるが、一方で、脳幹と小脳との星状膠細胞がGABAを含むと見たりもする。成人小脳で、GABAが膠細胞に含まれていることを確認するために、下記の実施例で、GFAP陽性星状膠細胞細胞体と微細突起とがGFPで標識されているGFAP−GFP形質転換マウスに対して、免疫組織化学的実験を行った。その結果、顆粒細胞層内の層状星状膠細胞だけではなく、あらゆるGFP陽性ベルグマン膠細胞の細胞体と突起とで、強力な免疫反応性を有するGABAに対する抗体が発見された(図5のa,b)。特に、膠細胞GABA免疫反応性の強度は、隣接するニューロンと比較して、同等以上であると分かった。かような結果は、GABAの膠細胞放出に係わる潜在的根源を提供する。
【0030】
これまで、成体ラットの小脳顆粒細胞のGABAA受容体の緊張性活性化は、GABAの活動電位独立的(action-potential-independent)非小胞性放出に起因すると知られている。かような発見は、ambient GABAのソースが、膠細胞でもあるという仮説と符合しているのである。さらに、タイプII星状膠細胞から由来する細胞株において、プリン作動性(purinergic)受容体P2X7の活性化が、[3H]−GABAの放出を誘導し、これは、塩化物チャネル抑制剤である4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)や4−アセトアミド−4’−イソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(SITS)のようなHCO3−/Cl−交換体、または体積調節陰イオンチャネルの抑制剤に対して、予測不可能なほどに敏感である。従って、本発明者らは、引き続き、GABA放出の分子的標的になりうる陰イオンチャネルを探索した。
【0031】
陰イオンチャネルのうち、ベストロフィン1(Best1)チャネルの重複する特有な特徴に基づいて、Best1を候補陰イオンチャネルとして採択した。ベストロフィンのうち、ヒトベストロフィン1(hBest1)をクローニングし、常染色体優性Best卵黄上黄斑ジストロフィー(vitelliform macular dystrophy)での突然変異を確認し、hBest1が体積変化だけではなく、Ca2+によっても活性化され、ニフルム酸(NFA)、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)及び4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)によって容易に遮断されるCl−チャネルを構成するということを立証した。また、hBest1は、Cl−よりSCN−のような巨大陰イオンに対してさらに高い透過性を有し、Cl−に比べて、HCO3−に対して顕著な透過率を示す(PHCO3/PCl=0.44)。
【0032】
前述のように、本発明では、小脳膠細胞で、ベストロフィン1チャネルを介して、GABAの放出がなされるということを発見し、かような発見に基づいて、ベストロフィン1チャネルを調節し、GABA放出を調節することによって、放出の過剰放出または不足によって誘発される疾病または症状を、予防、改善、緩和及び/または治療できるということを提案する。
【0033】
これにより、本発明の一例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤を有効成分として含む小脳でのGABA放出調節剤、ベストロフィン1チャネル活性を調節し、小脳でのGABA放出を調節する方法;及びベストロフィン1チャネル活性調節剤の小脳でのGABA放出調節のための有効成分としての用途;を提供する。
【0034】
具体的には、本発明の具体例は、ベストロフィン1チャネル遮断剤を有効成分として含む小脳でのGABA放出抑制剤;ベストロフィン1チャネル活性を抑制し、小脳でのGABA放出を抑制する方法;及びベストロフィン1チャネル遮断剤の小脳でのGABA放出抑制のための有効成分としての用途;を提供する。または、本発明の具体例は、ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として含む小脳でのGABA放出促進剤;ベストロフィン1チャネルを活性化し、小脳でのGABA放出を促進する方法;及びベストロフィン1チャネル活性化剤の小脳でのGABA放出促進のための有効成分としての用途;を提供する。
【0035】
さらに他の例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤を有効成分として含む、GABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物;ベストロフィン1チャネル活性調節剤を有効成分として使用するGABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の方法;及びベストロフィン1チャネル活性調節剤のGABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療のための有効成分としての用途;を提供する。
【0036】
具体的には、本発明の具体例は、ベストロフィン1チャネル遮断剤を有効成分として含む、GABA過放出による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物;ベストロフィン1チャネル遮断剤を有効成分として使用するGABA過放出による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の方法;及びベストロフィン1チャネル遮断剤のGABA過放出による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療のための有効成分としての用途;を提供する。または、本発明の具体例は、ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として含む、GABA不足による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物;ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として使用するGABA不足による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の方法;及びベストロフィン1チャネル活性化剤のGABA不足による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療のための有効成分としての用途;を提供する。
【0037】
前記ベストロフィン1は、塩化物イオンチャネルの一種であって、本発明において、塩化物イオンチャネルがGABAに対して透過性を有するということを示す代表的な例として使われた。前記ベストロフィン1遺伝子は、哺乳類由来、望ましくは、齧歯類(rodent)由来または霊長類由来のものであって、例えば、マウスベストロフィン1(mBest1)遺伝子(NM_011913、配列番号1)またはヒトベストロフィン1(hBest1)遺伝子(NM_004183、配列番号2)であるが、これらに制限されるものではない。
【0038】
前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、ベストロフィン1チャネルの発現を抑制したり、あるいは発現したベストロフィン1の活性を直間接的に妨害及び/または遮断する活性を有するあらゆる物質を含み、例えば、陰イオンチャネル遮断剤、ベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNAまたはshRNAなどからなる群から選択された1種以上のものであるが、それらに制限されるものではない。
【0039】
前記陰イオンチャネル遮断剤は、ニフルム酸、flumenamic acid、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)、4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)などからなる群から選択された1種以上のものであるが、これらに制限されるものではない。前記アンチセンスRNAは、配列番号1または配列番号2のヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNAであってもよい。また、前記shRNAは、cDNA配列で示すとき、次の配列番号3、配列番号4及び配列番号7からなる群から選択された1種以上であるが、これらに制限されるものではない:
5’−GATCCCCTTGCCAACTTGTCAATGAATTCAAGAGATTCATTGACAAGTTGGCAATTTTTA−3’(配列番号3)
3’−GGGAACGGTTGAACAGTTACTTAAGTTCTCTAAGTAACTGTTCAACCGTTAAAAATTCGA−5’(配列番号4)
5’−CGCTGCAGTTGCCAACTTGTCAATGAATTCAAGAGATTCATTGACAAGTTGGCAATTTTTGATATCTAGACA−3’(配列番号7)
かようなベストロフィン1チャネル活性抑制によって、小脳膠細胞でのGABA放出が抑制されれば、GABAによる神経抑制作用、例えば、緊張性抑制作用が低下し、GABA過剰放出によって引き起こされる疾病または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の効果をもたらしうる。GABA過剰放出によって引き起こされる疾病または症状には、癲癇、睡眠障害、記憶障害、知覚障害、認知障害、運動障害、学習障害、アルコール中毒、例えば、低容量アルコール中毒(low dose alcohol intoxication)や運動失調症(ataxia)などがあるが、これらに制限されるものではない。
【0040】
従って、ベストロフィン1チャネル活性抑制剤を有効成分として含む、GABA過剰放出によって引き起こされる疾病または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物は、癲癇、睡眠障害、記憶障害、知覚障害、認知障害、運動障害、学習障害、アルコール中毒、運動失調症などからなる群から選択された1種以上の疾病または症状に対して、予防、改善、緩和及び/または治療の効果を有するものである。
【0041】
さらに他の側面において、ベストロフィン1チャネル活性化剤を介して、小脳でのGABA放出を促進することによって、GABAによる神経抑制、例えば、緊張性抑制を増大させ、例えば、興奮性神経伝達物質の過剰放出による過大な神経興奮効果を相殺することができる。かようなベストロフィン1チャネル活性化剤は、ベストロフィン1チャネルを直接的または間接的に活性化させる作用を有するあらゆる物質を含み、例えば、ペプチドTFLLRやブラジキニン(Bradykinin)のようなG−蛋白質結合受容体(GPCR:G−protein coupled receptor)アゴニストなどであるが、こらに制限されるものではない。かようなベストロフィン1チャネル活性化は、GABA放出を促進させ、放出されたGABAの神経抑制、例えば、緊張性抑制作用によって、神経の過剰興奮による病的症状、例えば、記憶と関連した疾病(アルツハイマー、老化性記憶減退など)、発作(epileptic seizure)、神経伝達物質誘発興奮毒性(excitotoxicity)、虚血(ischemia)、脳卒中、脳出血、癲癇、脳外傷、低酸素症(hypoxia)などの予防、改善、緩和及び/または治療の効果を示すことができる。従って、ベストロフィン1チャネル活性抑制剤を有効成分として含む、GABA不足によって引き起こされる疾病または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物は、記憶と関連した疾病(アルツハイマー、老化性記憶減退など)、発作、神経伝達物質誘発興奮毒性、虚血、脳卒中、脳出血、癲癇、脳外傷、低酸素症などからなる群から選択された1種以上の予防、改善、緩和及び/または治療の効果を有するものである。
【0042】
本発明によるGABA放出調節剤、GABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物、方法及び/または用途は、哺乳類、望ましくは、ヒトを対象に投与するためのものであってもよい。
【0043】
本発明のさらに他の例は、小脳、さらに具体的には、小脳膠細胞上のベストロフィン1チャネルをターゲットとして、新規の小脳でのGABA放出調節剤をスクリーニングする方法に関する。
【0044】
前記スクリーニング方法は、小脳サンプルを準備する段階と、候補物質を前記サンプルと接触させる段階と、前記小脳サンプルでのベストロフィン1チャネルの活性化いかんを確認する段階と、を含んでもよい。
【0045】
このとき、ベストロフィン1チャネルが活性化された場合、前記候補物質をGABA放出促進剤として決定し、ベストロフィン1チャネルが非活性化される場合、前記候補物質をGABA放出抑制剤として決定することを特徴とする。
【0046】
前記ベストロフィン1チャネルの活性化いかんは、本発明が属する技術分野に公知のあらゆる方法によって測定可能であり、例えば、小脳膠細胞上のベストロフィン1チャネルを除外した他のチャネル及び受容体を非活性化させた後、細胞内向電流変化を測定して決定できる。例えば、候補物質の処理後、細胞内向電流値が上昇すれば、ベストロフィン1チャネルが活性化されたということを意味し、細胞内向電流値が低下すれば、ベストロフィン1チャネルが非活性化されたということを意味するのである。前記他のチャネル及び受容体の非活性化、並びに内向電流値測定は、本発明が属する技術分野に周知の技術であり、当該技術分野の当業者であるならば、容易に実施することができるであろう。例えば、細胞内向電流値測定は、スニファパッチ方法を利用して行うことができる(Lee,C.J. et al.,Astrocytic control of synaptic NMDA receptors.J Physiol 581,1057-81(2007);前記文献は、本明細書に参照として含まれる)。
【0047】
本発明によるスクリーニング方法において、前記小脳サンプルは、哺乳類由来のもの、望ましくは、齧歯類由来または霊長類由来のものであってもよい。
【0048】
本発明において、小脳でのベストロフィン1チャネルを介した緊張性GABAの放出メカニズムが究明されることにより、GABA放出及びGABA関連病的症状の調節が可能であると期待される。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について、下記の実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、本発明を具体的に例示するためのものであるのみ、本発明の範囲がそれら実施例によって制限されるものではない。
【0050】
〔実施例1:遺伝子クローニング及びshRNAウイルスベクター構築〕
(1.1:Best1のクローニング)
全長マウスベストロフィン1(mBest1)cDNAをクローニングするために、生後P0−P3マウス(C57BL/6、大脳皮質、SPF room、Center for Neural Science、KIST、Seoul、Korea)から得た培養星状膠細胞、または成体オスマウス(C57BL/6)から得た精巣から全体RNAを精製し、Super ScriptIII逆転写酵素(Invitrogen)を利用してcDNAを合成した。NCBIデータベースcDNA[GenBank accession numbers NM_011913XM_129203]に基づいたオープンリーディング・フレーム(ORF)に符合する21塩基プライマー対(mBest1−F:5’−aggacgatgatgattttgag−3’(配列番号5)、mBest1−R:5’−ctttctggtttttctggttg−3’(配列番号6))を使用してPCRを行い、mBest1の全長オープンリーディング・フレームを得た。得られたPCR産物をpGEM−Tイージーベクター(Promega)内にクローニングして配列を分析した。
【0051】
(1.2:Best1のプラスミド構築及び発現)
哺乳類細胞でmBest1を発現させるために、pGEM−T easyプラスミド(6.65kb、Promega)から得たmBest1全長試片を、HindIII(NEB)及びNotI(NEB)認識部位を利用し、pcDNA 3.1(Invitrogen)内にサブクローニングするか、あるいはXbaI(NEB)及びXmaI(NEB)認識部位を利用し、pIRES2−dsRED(Invitrogen)内にサブクローニングした。前記得られたpIRES2−dsREDまたはpcDNA 3.1ベクターを、HEK293T細胞(ATCC)内に形質感染させ、mBest1を発現する細胞を選別した。pcDNA 3.1−mBest1プラスミドの場合、エフェクテン形質感染試薬(Effectene transfection reagent、Qiagen)を使用し、1/10量のpEGFP−N1プラスミド(Invitrogen)と共に、HEK293T細胞(ATCC)内に形質感染させ、mBest1を発現する細胞を選別した。前記選別は、pcDNA 3.1−mBest1とpEGFP−N1との同時形質感染の場合、緑色蛍光を帯びる細胞を選別し、pIRES dsREDベクタープラスミドである場合、赤色蛍光を出す細胞を選別して行った。電子生理学的記録のために、前記細胞をガラス・カバースリップ上にリプレーティングした。前記形質感染された細胞は、24−36時間内にパッチクランプ実験に使用した。
【0052】
(1.3:Best1 shRNA及びレンチウイルス生産)
プラスミド・ベースのshRNA発現のために、次のような相補的オリゴヌクレオチドをアニーリングし、pSUPER−GFPベクター(Oligo Engine)のHindIII/BgIII部位に挿入した
5’−GATCCCCTTGCCAACTTGTCAATGAATTCAAGAGATTCATTGACAAGTTGGCAATTTTTA−3’(配列番号3)
3’−GGGAACGGTTGAACAGTTACTTAAGTTCTCTAAGTAACTGTTCAACCGTTAAAAATTCGA−5’(配列番号4)
(mBest1のヌクレオチド配列のうち、563−582配列該当部位を含む、残りは、構造的(ヘアピン構造)及びクローニングのための必要性によって含まれる)。
【0053】
レンチウイルス・ベースのshRNA発現のために、合成二重鎖オリゴヌクレオチド5’−CGCTGCAGTTGCCAACTTGTCAATGAATTCAAGAGATTCATTGACAAGTTGGCAATTTTTGATATCTAGACA−3’(配列番号7)を、shLenti2.4CMVレンチウイルス・ベクター(Macrogen)のpstI−XbaI制限酵素部位に挿入し、mBest1遺伝子を含むレンチウイルス・ベクターを構築して配列分析して確認した。scrambledオリゴヌクレオチド包含−shLenti構造体(特定塩基配列を認識し、mRNAを分解する標的shRNAのcontrol概念として使われたものであり、cellular mRNAをdegradationしない塩基配列で構成;Macrogen)を対照群として使用した。レンチウイルス生産は、Macrogen Incに依頼して行った(Dull,T.et al.,A third-generation lentivirus vector with a conditional packaging system.J Virol 72,8463-71(1998)、該文献は、本明細書に参照として含まれる)。
【0054】
下記実施例では、Best1標的shRNAレンチウイルスであって、配列番号7を挿入したレンチウイルスを使用した。
【0055】
〔実施例2:免疫化学的試験:GABAとBest1との共同発現確認〕
Best1が小脳で発現するか否かを確認するために、GFAP−GFP形質転換マウスで、Best1とGABAとに対して生成された抗体を使用し、免疫組織化学法を行った(図5のc参照)。
【0056】
成体GFAP−GFPマウス(SPF room、Center for Neural Science、KIST、Seoul、Korea)、またはレンチウイルス(下記実施例4のBest1標的shRNAレンチウイルス)注入されたGFAP−GFPマウスを、4%パラホルムアルデヒドで固定させた。小脳の30μm厚の視床クライオスタット薄切薄片(sagittal cryostat section)をPBSで3回すすぎ、ブロッキング溶液(0.3%Triton−X、2%normal serum in 0.1M PBS、Sigma)で、1時間インキュベーティングした。ラビット抗血清ベストロフィン抗体(1:100、Soria et al.,2006)、ニワトリ抗GFP抗体(1:1,000、Abcam)及びギニアピッグ抗GABA抗体(1:1,000、Chemicon)の混合物と共に、4℃で一晩振盪培養した。PBSで3回洗浄し、引き続き、対応する二次抗体共役されたAlexa 488,555及び647で洗浄した。PHSで3回洗浄し、蛍光物質搭載培地(Dako、S3023)にマウンティングした。FV1000共焦点顕微鏡(Olympus)を使用し、一連の共焦点蛍光イメージを得た。前記イメージは、Olympus FLUOVIEW software ver.1.7で加工した。
【0057】
前記で得られたGFAP−GFP形質転換マウス小脳でのGFP、Best1及びGABAに対する抗体を利用した免疫組織化学共焦点イメージを図1Aに示した。
【0058】
図1Aの上段左側は、GFAP−ベルグマン膠細胞(矢印)と、層状星状膠細胞(lamella astrocyte、空色矢印ヘッド)とを表示するGFP染色の共焦点イメージ(緑色)である。プルキンエ細胞(Purkinje cell、星印)は、GFAP−GFP染色が観察されていない。上段右側は、Best1染色(赤色)とGFAP−GFPとを共に示す共焦点イメージである。Best1は、プルキンエ細胞(星印)及び他のニューロン(矢印ヘッド)だけではなく、顆粒層の膠細胞(空色矢印ヘッド)及び分子層のベルグマン膠細胞(矢印)でも多く発現した。下段左側は、GFAP−GFPとGABA(紫紅色)とを共に示す共焦点イメージであり。GABAは、GABA作動性ニューロン以外にも、層状星状膠細胞(空色矢印ヘッド)及びベルグマン膠細胞(矢印)で、GFAP−GFPと共に強力に共同発現する。下段右側は、GFAP−GFP、mBest1及びGABAを共に示す共焦点イメージである。図1Aによれば、ベルグマン膠細胞(矢印)、層状星状膠細胞(空色矢印ヘッド)及びGABA作動性ニューロン(星印及び白色矢印ヘッド)でのBest1免疫反応性強度が観察されるが、顆粒細胞では示されていない。
【0059】
また、図5のa−cは、成体マウス小脳の膠細胞において、mBest1とGABAとが強力に発現するということを示す免疫組織化学写真である。
【0060】
図5のaは、マウス小脳でのGABA、Best1及びGFAP−GFPの免疫組織化学的共焦点イメージである。GABA(最初のパネル)とBest1(二番目のパネル)とが、顆粒層より分子層で強力に発現するということが分かった。三番目のパネルは、ベルグマン膠細胞突起が、分子層のほとんどを占めるということを示す。最後のパネルは、GABA、Best1及びGFAP−GFPが合わさった共焦点イメージを示している。
【0061】
図5のbは、小脳のGABA染色及びGFAP−GFP染色の高倍率イメージを示している。GABAは、分子層のプルキンエ細胞とGABA作動性インターニューロンとで濃く染色された。しかし、ベルグマン細胞(星印)もまた、細胞体と突起(小さい黒色矢印ヘッド)とで、強力なGABA免疫反応性を示した。顆粒層(矢印)内の顆粒細胞は、明るい強度を有するGABAで染色され、顆粒細胞突起もまた、GABA(小さい白色矢印)で染色された。
【0062】
図5のcは、Best1染色とGFAP染色との高倍率(X60)イメージを示している。mBest1は、分子層内のベルグマン膠細胞(星印)と、顆粒層内の膠細胞(矢印)とで多く発現した。大きい矢印ヘッドは、mBest1を発現するが、GFAPで染色されていないプルキンエ細胞を示す。小さい矢印ヘッドは、顆粒層の星状膠細胞突起を示す。星状膠細胞突起もまた、mBest1を発現した。一番右のパネルは、DAPIで濃く染色された顆粒細胞を示すが、mBest1とGFAPとの免疫反応性は、観察されていない。
【0063】
前記図5のaないしcに示されているように、平行線維(parallel fiber)と上行線維(climbing fiber)とが接しており、密接に相互作用する分子層内のプルキンエ細胞細胞体と樹状突起(dendritic tree)とに沿って位置するベルグマン膠細胞突起が、Best1とGABAとを共同発現させる。かような結果は、Best1が小脳膠細胞でのGABA放出の分子的標的として作用しうるという可能性を提案することが可能である。
【0064】
〔実施例3:2−細胞スニファパッチ−Best1チャネル媒介GABA放出の確認〕
Best1チャネルがGABA放出を媒介するために、チャネル開放時に、GABAが透過可能でなければならないので、Best1がGABA放出通路であることを確認するために、Best1のGABA透過性を試験することが重要である。Best1チャネルのGABA透過性を試験するために、2−細胞スニファパッチ法(two-cell sniffer patch technique)を利用し、GABAcを発現するセンサ(sensor)HEK293T細胞(cell)でのBest1チャネルと、ソース(source)HEK293T細胞(cell)とで発現する異なるチャネルを介したGABA放出を直接的に測定した(図1B)。
【0065】
pIRES−Best1−dsREDプラスミド(Invitrogenから購入したpIRES−dsRED vectorにBest1をクローニングしたもの)と、GFPを有するGABAc(Invitrogenから購入したpcDNA 3.1 vectorにGABAcをクローニングしたもの)とを、エフェクテン形質感染試薬(Effectene transfection reagent、Qiagen)を使用し、それぞれHEK293T細胞(ATCC)内に形質感染させた。形質感染18ないし24時間後、電子生理学的記録のために、細胞を共にガラス・カバースリップ上にリプレーティングし、前記細胞を24ないし36時間以内にパッチクランプ実験に使用した。記録のために、一つはdsREDを含み、他の一つはGFPを含む、隣接した2つの細胞を選択してパッチした。このとき、前記隣接した2つの細胞の選択は、一つは、GABAcを有している緑色蛍光を帯びる細胞、他の一つは、pIRES−Best1−dsREDが形質感染された赤色蛍光を出す細胞を選別して行った。
【0066】
パッチピペット用内部溶液としては、次の通り、GABA放出のソースとしての3mMまたは140mMGABAと、Best1チャネルを活性化させるための生理学的範囲のマイクロモル濃度の遊離Ca2+(〜4.5μM)とを含むものを使用した。図1Bは、2−細胞スニファパッチの概略図であり、標識された構造体Best1(dsRed共同発現)またはGABAc(GFP共同発現)を発現するHEK細胞を示している。3mMまたは145mMのGABA及び0または4.5μMのCa2+をソース内に、細胞内ピペッティングする様子を示している。ソース細胞とセンサ細胞との明るい部分と蛍光イメージは、下部分に示されている。
【0067】
GABA放出のソース用として、3mM GABA(Tocris)、146mM CsCl、5mM(Ca2+)−EGTA(エチレングリコールビス(2−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸)−NMDG(N−メチル−D−グルカミン)、2mM MgCl2、10mM HEPES、10mMスクロース、4mM Mg−ATP及び0.3mM Na2−GTP(pH:7.3)を含むピペット溶液を使用した。センサ用として、110mM D−グルコネート、110mM CsOH、30mM CsCl、2mM MgCl2、4mM NaCl、5mM EGTA(エチレングリコールビス(2−アミノエチル−エーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸)、4mM Mg−ATP及び0.3mM Na2−GTP(pH:7.3)を含むピペット溶液を使用した。3mM GABA Zero Ca2+実験のために、5mM(Ca2+)−EGTA−NMDGを、5mM EGTA−NMDGの代わりに使用した。140mM GABA実験のために、3mM GABA及び146mM CsClを、140mM GABAに替えた。pHは、CsClで調整して、浸透圧は、290mOsmolに調節した。
【0068】
内部溶液として、150mM NaCl、10mM HEPES、3mM KCl、2mM CaCl2,2mM MgCl2及び5.5mMグルコースを含む溶液を使用した。ソースチャネルがGABAを通過させることができるならば、隣接する細胞上のGABAc受容体は、放出されたGABAと結合し、Cl−内部電流が誘導される。100μM GABAのバス(bath)適用によって、GABA電流の全体的な活性化が得られ、比較のために、これを標準化した。
【0069】
ソース細胞での全細胞形象(configuration)を調べるためのメンブレン・パッチの貫流(break-though)によって、GABA放出が誘導され、かようなGABA放出は、隣接したセンサ細胞によってモニタして探知した。GABA電流は、100μM GABAのバス適用によって完全に活性化され、完全な活性化程度(percentage)を計算し、図1C及び図1Dに示した。
【0070】
図1Cは、GABAの透過程度の試験結果を示している。透過されたGABAは、センサでの内向電流として測定した(下側トレース)。全細胞モードに進入するメンブレン貫流時点を、ソーストレース(上側トレース)上に、黒色矢印ヘッドで表示した。NPPBは、100μM濃度でもって使用した。Best1*(B1*)は、Best1−W93Cの気孔変異体(pore mutant)(Qu et al.,2006)を示す。前記変異体のGABA透過程度は、HEK293T細胞(ATCC)に、前記変異体を形質転換させて得られた細胞を使用して実験した。ANO1は、最近知られたTMEM16A Ca2+活性化塩化物チャネルである(Yang et al.,2008,Caputo et al.,2008:慶尚大、パク・チェヨン教授実験室)。前記AN01のGABA透過程度は、HEK293T細胞(ATCC)を、前記チャネルで形質転換させて得られた細胞を使用して実験した。
【0071】
図1Dは、多様な条件でのGABA放出程度を要約して示している。センサ細胞内の内向電流でもって測定されたGABA放出を、100μM GABAを利用した完全な活性化(full activation)として標準化し、完全な活性化に係わる%でもって示した。NPPBとNFAは、100μM濃度で使用した。SK1は、伝導度の低いCa2+活性化K+チャネル(small conductance Ca2+ activated K+ channel、Dr.Adelman Lab)である。前記SK1のGABA透過程度は、HEK293T細胞(ATCC)を、前記チャネルで形質転換させて得られた細胞を使用して実験した。平均値をmean+SEM(standard error of the mean)で表示した。全体的にstudent’s t-testを使用した(unpaired、2−tailed)。
【0072】
図1B、図1C及び図1Dに示されているように、Best1チャネルのみが、GABAに対して顕著な透過性を示した一方、最近特性が明らかになったAno1(またはTMEM−16A、Yang et al.,2008,Caputo et al.,2008)、またはCa2+活性化カリウムチャネルであるSK1は、GABAに対して透過性を示していない。かようなBest1を介したGABAの放出は、NFAやNPPBのような陰イオンチャネル遮断剤によって完壁に抑制され、細胞内のCa2+濃度及びGABA濃度に依存的であった。また、図1Dに示されているように、公知のBest1の気孔変異体であるBest1−W93C(Qu et al.,2006)は、GABA透過性を全く示さず、これは、Best1チャネルの気孔を介して、GABAが通過するということを支持するものである。
【0073】
また、図7は、NFA及びNPPBkによるGABA放出抑制は、前記化合物がGABAc受容体に直接的に作用することによって得られるものではないことを示している。図7A及び図7Bは、GABAcを発現するHEK293細胞を、100μM NFAと100μM NPPBとの不在下(図7A)または存在下(図7B)で、パッチクランピングし、100μM GABAで感染(challenge)させた結果を示すものである。図7Aと図7Bとから分かるように、GABAcを発現するHEK293細胞では、GABA放出が、NFAまたはNPPBの処理いかんと大きく関係していないと分かった。
【0074】
かような結果は、Best1チャネルが、本来の(native)細胞で直接透過を介したGABA放出を媒介するという可能性を提案するものである。
【0075】
〔実施例4:形質転換マウス試験−Best1チャネル媒介GABA放出の確認〕
(4.1:形質転換マウス作り)
本来の(naive)ベルグマン膠細胞がGABAを透過させることができる機能的Best1チャネルを発現し、Best1チャネルを分子レベルで操作できるか否かを試験するために、Cre−loxP組み合わせの調節下にあり、Cre−発現形質転換マウスとの組み合わせ時に、細胞類型特異的遺伝子沈黙を誘導するmCherry−tagged shRNAi(small hairpin-forming interference RNA)を運搬するレンチウイルスを構築した(図2A、Ventura et al.,2004)。図2Aは、Cre−lox調節(regulated)pSicoR−shRNAレンチウイルス構造体(lentivirus construct)(ADDGeneから購入したpSicoR vectorにBest1−shRNAをクローニングしたもの)の形態を示すものである。前記mCherry−tagged shRNAiを運搬するレンチウイルスは、Cre−lox調節pSicoR−shRNAレンチウイルス構造体にmCherryを付けたものである。2つのloxP部位が、U6プロモータ下のshRNAと、CMVプロモータ下のmCherryとを含む部位内に位置する。Creリコンビナーゼの発現時、この酵素は、前記カセットを除去してshRNAを非活性化させる。
【0076】
Best1標的shRNAレンチウイルス(実施例1.3で作る)を、6−7週齢のGFAP−GFPマウス(SPF room、Center for Neural Science、KIST、Seoul、Korea)の小脳皮質内に正位(streotactically)注入した(図2B)。図2Bは、B6野生型(SPFroom、Center for Neural Science、KIST、Seoul、Korea)、またはGFAP−GFPマウスを使用する実験日程(time line)を示すものである。6−7週齢マウスの小脳に、前記作られたレンチウイルスを注入した。小脳へのレンチウイルス注入7日後、免疫組織化学法記録または全細胞パッチクランプ記録を行った。
【0077】
(4.2:形質転換マウスを利用した免疫組織化学的分析)
前記レンチウイルス感染された細胞は、顆粒細胞層だけではなく、分子層内に広範囲に分布した(図2C右側及び図8A)。図2Cは、GFAP−GFP染色(緑色)、Best1(紫紅色)及びmCherry(赤色)を含むB1−shRNAレンチウイルスの形態である。Best1免疫反応性は、ウイルスが注入された部位で、ウイルスが注入されていない部位と比較し、顕著に低下していることが分かる。一方、2つの部位でのGFAP−GFP強度は、相対的に大きい違いがなかった。右側のイメージで、ノックダウン効果を、GFAP−GFPでスレッショルディングさせた後、GFAP−GFP強度によって標準化されたBest1強度でもって示した。mBest1−shRNA発現部位は、感染された部位(infected region)でのBest1の免疫反応性は、非感染部位(uninfected region)と比較して顕著に低下した(図2Cの右側グラフ)。かような結果は、Best1−shRNAの高効率と、Best1抗体の高い特異性とを確認させるのである。
【0078】
(4.3:形質転換マウスを利用した全細胞パッチクランプ記録)
[4.3.1:小脳薄片作り]
脳薄片を、Rossi et al.,2003に記載されているように作った。すなわち、薄片記録のために、約P28日のマウスまたは8週齢以上のマウスを使用した。動物をハロタン(halothane)で深く麻酔させた。頭を切った後、頭蓋骨から脳を素早く切除し、切断溶液(ice-cold cutting solution)に浸漬させた。前記溶液は、250mMスクロース、26mM NaHCO3、10mM D(+)−グルコース、4mM MgCl2、3mM myo−イノシトール、2.5mM KCl、2mMピルビン酸ナトリウム、1.25mM NaH2PO4、0.5mMアルコルビン酸、0.1mM CaCl2及び1mMキヌレン酸(pH7.4)を含む。あらゆる溶液を、95%O2−5%CO2でガス処理した。小脳虫部(vermis)両側をトリミングした後、小脳葉(cerebellar lobe)を含む250μm厚のいくつかの視床周囲薄片を、マイクロトーム(Leica VT 1000)で切断し、細胞外ACSF溶液に移した。前記溶液は、126mM NaCl、24mM NaHCO3、1mM NaH2PO4、2.5mM KCl、2.5mM CaCl2,2mM MgCl2及び10mM D(+)−グルコース(pH7.4)を含む。薄片を、少なくとも常温で1時間インキュベーティングした。
【0079】
[4.3.2:全細胞パッチ記録]
記録のために、薄片をflower controller(Synaptosoft)と真空ポンプ(Charles Austen、model Capex 8C)とによって調節され、ASCF(artificial cerebrospinal fluid、Sigma)溶液で継続して過冷却する(superfusing、流率:2ml/min)電子生理学的記録チャンバ(RC−26G、Warner Instruments)に移した。スライスチャンバを正立顕微鏡(upright microscope、Olympus、Japan)の載物台(stage)上に載せ、微分干渉対比(differential interference contrast)及び赤外線オプティックでX60水浸体(water immersion objective)で観察した。細胞形態を、Imaging Workbench 6.0(INDEC Systems、Inc)、camera controller(Hamamatsu、C4742−95)及びlight microscope controller(Olympus、TH4−200)を介して視覚的に確認した。水銀ランプ(Olympus、U−RFL−T)を利用し、蛍光イメージを観察した。ほぼ2−5小脳小葉に位置するベルグマン膠細胞または顆粒細胞細胞体から全細胞電圧−クランプ記録を得た。
【0080】
ベルグマン膠細胞記録のために、厚壁ボロシリケートガラス毛細管(thick-walled borosilicate glass capillaries、SC150F−10、Warner instrument Corp)からパッチピペット(8−10MΩ)を作った。GABAを使用しない対照実験のために、ピペットを、次の組成を含む内部溶液で充填させた:146mM CsCl、5mM(Ca2+)−EGTA−NMDG、2mM MgCl2、8mM HEPES、10mMスクロース、4mM Mg−ATP及び0.3mM Na2−GTP(pH:7.3)。
【0081】
140mM GABAを使用する実験のために、次の調整を有する内部溶液を使用した:140mM GABA、5mM(Ca2+)−EGTA−NMDG、2mM MgCl2、10mM HEPES、10mMスクロース、4mM Mg−ATP及び0.3mM Na2−GTP(pH:7.3、CsOHで調整)。浸透圧は、297及び290mOsmolに調整した。GFP蛍光イメージを介して、ベルグマン膠細胞を確認した。ベルグマン膠細胞の電圧クランピングのための維持電位(holding potential)を−70mVとした。
【0082】
顆粒細胞のためのピペット抵抗を、典型的に10−12MΩとし、ピペットを次の組成を有する内部溶液で充填させた:135mM CsCl、4mM NaCl、0.5mM CaCl2、10mM HEPES、5mM EGTA、2mM Mg−ATP、0.5mM Na2−GTP及び10mM QX−314、CsOHでpH7.2に調整(278−285mOsmol)(Rossi et al.,2003)。かような内部溶液、電圧クランプEcl=0mV及び維持電位−60mVで内向電流(inward current)が誘導された。
【0083】
ベルグマン膠細胞記録のための電極接点電位(electrode junction potential)を補正したが、顆粒細胞記録では、接点電位を補正していない。接点電位は、GABA無処理実験及び140mM GABA処理実験で、それぞれ+3.5mV及び−9.7mVとした。
【0084】
パフィング(puffing)実験のために、100mM GABAで充填されたガラス電極(5−6MΩ)をパッチされた顆粒細胞に隣接するように置き、MiniDigi(Molecular Device)と連結されたPicospritzerIII(Parker instrumentation)によって、500msの間簡単にパフィングさせた。
【0085】
プルキンエ細胞記録のために、パッチピペット(2−3MΩ)を、次の組成を有する内部溶液で充填させた:140mM K−グルコネート、10mM KCl、1mM MgCl2、10mM HEPES、0.02mM EGTA、4mM Mg−ATP及び0.4mM Na2−GTP、KOHでpH7.35に調整(Osmol:278−285)。前記細胞から記録されたデータのうち、30MΩ以上のアクセス抵抗(access resistance)で記録されたデータは廃棄した。
【0086】
前記得られた信号を計数化し、pCLAMP 10.2 software(Molecular Devices)を使用し、Digidata 1440A(Molecular Devices)及びMulticlamp 700B amplifier(Molecular Devices)で、50μs間隔でサンプリングした。Clampfit 10.2(Molecular Devices)、Minianalysis(Synaptosoft、USA)、SigmaPlot 10.0(SPSS)及びExcel 2003(Microsoft)を利用し、オフライン分析を行った。
【0087】
[4.3.3:薬物適用]
本実施例で使われたあらゆる薬物と化学物質は、次のような取り立てての言及がない限り、Sigma-Aldrich社から購入したものである:リドカインN−エチルブロマイド(QX−314、Sigma)、SR95531ヒドロブロマイド(GABAzine、Tocris)、コンカナマイシンA(concanamycinA)(Tocris)、BAPTA−AM(1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸テトラキス(アセトキシメチルエステル))(Tocris)、Fluronic(登録商標)F−127(invitrogen)、ニフルム酸(Sigma)、NPPB(5−ニトロ−2−(3−フェノールプロピルアミノ)安息香酸)(Tocris)、DIDS(4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸二ナトリウム塩水和物、Sigma)。
【0088】
[4.4.4:データ分析及び統計分析]
数値データは、means±S.E.M.で示した。比較用データの有意性は、Student’s two-tailed unpaired t testによって求め、有意レベルは、*(p<0.05)、**(p<0.01)及び***(p<0.001)で示した。データは、2kHzでフィルタリングした。
【0089】
Goldman-Hodgkin-Katz方程式を次の通り計算し、PX/PCl−を計算した。
【0090】
Erev=RT/F・ln{PCl−[Cl−]i+Px[X]i}/{PCl−[Cl−]o+Px[X]o}
[4.4.5:結果]
天然(naive)マウスと、レンチウイルス注入された成体マウスとの小脳内のベルグマン膠細胞から、全細胞パッチクランプ記録を行い、Best1の機能的発現を探索した。内部溶液で、前述のように陰イオンで、主にCl−またはGABAを含み、ここに加えて、て内在Best1チャネル活性化のための4.5μM遊離Ca2+を含むものを使用した。50μM NPPB適用の間のランプ電流トレース(ramp current trace、2秒後に100mVないし−100mV)を、NPPB適用前の基礎条件のランプ電流トレースから控除し、陰イオン電流を分離した(図2D)。ランプトレースの時間を電圧に変換し、各細胞に係わるNPPB敏感性陰イオン電流の電流−電圧関係を得た(図2D、図2E及び図2F)。図2Dは、ランププロトコル(ramp protocol、Vh=−70mV)を使用した膠細胞パッチ記録結果を示している。陰イオン電流は、naive GFAP−GFPマウスで、陰イオンチャネル遮断剤NPPB(50μM)によって減少した。GABA及びCl−の内部溶液組成物は、前述の通りである。電流−電圧トレースがそれぞれのランプトレースから発生した。控除された電流(subtracted current)は、NPPB敏感性電流を示す。一方、図2Eと図2Fは、それぞれscrambled shRNA注入されたGFAP−GFPマウス(図2E)と、Best1−shRNA注入されたGFAP−GFPマウス(図2F)とでの電流−電圧トレースを示している。
【0091】
図2Gは、それぞれの条件に係わるNPPB敏感性電流の電流−電圧トレースの平均を求めてフローティングしたものを示している。逆転電位(reversal potential)と、Goldman-Hodgkin-Huxley方程式とを利用し、GABA透過性を計算した。天然(naive)ベルグマン膠細胞でのCl−内部溶液下でのNPPB敏感性陰イオン電流は、−6.9mVの逆転電位を示した(図2G、黒色トレース、−3.5mV接触電位(junction potential)に対して補正)。これは、ビカーボネートの寄与を仮定し(PHCO3/PCl=0.44、Qu and Hartzell,2008)、Goldman-Hodgkin-Huxley方程式を使用し、+1mVの逆転電位から計算した値と大きく異なっていない。類似した方法で、GABA内部溶液下でのNPPB敏感性陰イオン電流のGABA透過率を測定し、PGABA/PCl=0.19を得た(図2G、緑色トレース)。天然(naive)細胞から得たGABA透過率は、scrambled−shRNA発現ベルグマン膠細胞のGABA透過率と有意味な違いがなかった(図2G、青色トレース)。NPPB敏感性電流をBest1−shRNA発現ベルグマン膠細胞虜から分離するとき、電流−電圧トレース傾度で表示される伝導度は、逆転電位変化なしに非常に減少した(図2G、赤色トレース)。
【0092】
Cl−の流入を示す100mVで測定された外向電流は、Cl−内部溶液とGABA内部溶液との間の有意味な違いを示さず(212.23±49.52pA(n=9)、112.52±20.93pA(n=8)、p=0.1)、これは、Cl−の流入が、内部的にCl−をGABAで置換することに大きく影響を受けないということを示している。GABAの流出を示す−80mVで測定された内向電流と、GABA内部溶液下で、Cl−の流入を示す100mVで測定された外向電流は、いずれもscrambled shRNA細胞及びBest1−shRNA細胞間で相当な差を示した(内向電流:−44.62±5.01pA(n=10)、−12.99±5.92pA(n=9)、p<0.001、図2H;外向電流:110.26±23.25pA(n=10)、38.31±12.02pA(n=9)、p=0.02)。図2Hは、Cl−とGABAとの流出を比較するために、前記図2Gで得た−80mVでの電流大きさを示している。B1−shRNA注入によるベストロフィンチャネルのノックダウンによって、GABA電流が顕著に減少したということが分かる。
【0093】
かような結果は、ベルグマン膠細胞で観察されるNPPB敏感性陰イオン電流が、ほとんど休止膜電位(resting membrane potential)で、GABAに係わる相当な透過性を示すBest1チャネルによって媒介されるということを示すのである。
【0094】
〔実施例5:Best1沈黙によるGABA放出抑制の確認〕
(5.1:ウイルス注入)
B6野生型マウス、GFAP−GFP形質転換マウス及びhGFAP−CreERT2形質転換マウス(SPF room、Center for Neural Science、KIST、Seoul、Korea)に、2%アベルチン(avertin、20μl/g、Sigma)を腹膜内注射して麻酔させ、立体正位固定台(stereotaxic frame、David Kopf instrument)に置いた。pSicoR−b1shRNA−mCherryウイルス−(Macrogen)またはscrambledウイルス(Macrogen)を、注射器ポンプ(Harvard apparatus)と25μl注射器(Hamilton company)とを使用し、0.2μl/min(総2μl)の速度で小脳皮質にステレオ注入した。注射部位のコーディネーション(coordination)は、ラムダ(lambda)から1.7mmであり、深さは、頭蓋骨から1.5−1.7mmとした。
【0095】
(5.2:クロメレオンイメージ(Clomeleon imaging))
Best1チャネルが、小脳での緊張性GABA放出を担当するということを試験するために、小脳の顆粒細胞での独占的発現を有するClomeleon形質転換マウスのThy1::CLM1ライン(Department of Neurobiology,Duke University Medical Center,Durham,North Carolina,USA)を使用し、顆粒細胞でのGABAA受容体媒介[Cl−]i挙動を光遺伝学的(optogenetic)アプローチを介して測定した(図3A及びBerglund and Augustine 2008)。
【0096】
図3Aは、Clomeleonイメージ半透明(translucent)プルキンエ細胞層(黒色矢印)によって分離された、明るい蛍光色の顆粒細胞層の顆粒細胞体と、分子層内に位置する平行線維とを示すCLM1 Clomeleonマウスの小脳切片のCFP−YFP FRET imaging技法を介して、細胞内Cl−濃度の変化を測定した結果を示すものである。緑色と赤色との四角形は、分子層(緑色)と顆粒細胞層(赤色)との目的部位を示す。
【0097】
Clomeleonは、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET:fluorescence resonance energy transfer)に基づく遺伝的にコーディングされたCl−に係わる蛍光指示剤であり、可変ペプチドリンカ(flexible peptide linker)を介して、塩化物無感応性シアン蛍光蛋白質と融合された塩化物敏感性黄色蛍光蛋白質を含む(Kuner and Augustine,2000)。Clomeleonマウスは、追加された空間情報と共に、小脳顆粒細胞での緊張性GABA放出を測定するのに有用である(Berglund et al.,submitted)。
【0098】
前記Clomeleon形質転換マウスに、pSicoR−b1shRNA−mCherryウイルス(Macrogrn)を注入した後、7−10日後に、前記ウイルス注入されたClomeleon形質転換マウスから、一般的な方法で小脳薄片を作った。略述すれば、イソフルランで麻酔させた後、頭を切ったマウスから脳を切除し、冷たいACSF(artificial cerebrospinal fluid、125mM NaCl、2.5mM KCl、1.25mM NaH2PO4、26mM NaHCO3、20mMd(+)−グルコース、2mM CaCl2及び1.3mM MgCl2を含む、95%O2/5%CO2、v/vでバブルリングした後、pH7.4に調整)に入れた。ビブラトム(vibratome、LEICA)を使用し、200μm厚の矢状切片(sagittal section)を得た。前記薄片を、使用前まで36℃で30分間インキュベーティングした。
【0099】
イメージングのために、顆粒細胞層と分子層とをカバーする2つのROI(regions of interest)を描画した。励起フィルタ(440±10nm)及び放出フィルタ(CFP用:485±15nm、YFP用:530±15nm)(Cameleons 2フィルタセット71007、Chroma Technologies、Rockingham、VT)を使用した。0.5Hzでの200ないし500ms間の連続的な2回の長い光パルスによって蛍光励起を発生させ、蛍光放出は、オンチップ・マルチプリケーション・ゲインコントロール(on-chip multiplication gain control)(Cascade 512B、Photometrics)を装着した背面照射(back-illuminated)冷却CCDカメラで、各波長で交互に収集した。イメージ獲得は、RatioTool software(ISee Imaging Systems、Raleigh、NC)及びPowerMac G4(Apple Computer)で調節した。
【0100】
予想されるように、シナプス外GABAA受容体の遮断が、Cl−の内向挙動を低減させるにつれ、10μM GABAzine(SR95531)のバス適用によって、分子層内の平行線維(図3B、緑色トレース)と、顆粒細胞体(図3B、赤色トレース)内の[Cl−]iとが顕著に減少した。興味深いことに、[Cl−]iの減少は、顆粒細胞と分子層の平行線維とで、同等なほどに顕著に示された。10μM NPPBを適用する場合、やはり2層いずれでも[Cl−]iを減少させた(図3B)。これは、緊張性GABAの減少を意味する。図3Bは、Clomeleonの比率イメージ(ratiometric imaging)であり、経時的な[Cl−]i変化を示している。10μM SR(SR95531またはGABAzine)、陰イオンチャネル遮断剤及びNPPB(10μM)は、[Cl−]iを減少させるということが分かった。
【0101】
NPPBによる[Cl−]i変化程度は、GABAzine(SR)による[Cl−]iの変化と密接な関連がある(図3C、r=0.96)。図3Cは、NPPBによる[Cl−]i変化と、SRによる[Cl−]i変化との相関関係を示すグラフであり、NPPBによる[Cl−]i変化は、SRによる[Cl−]i変化と密接な相関関係があるということを示す。
【0102】
かようなGABAA受容体活性化誘導[Cl−]i変化が、Best1チャネル依存的であるか否かを試験するために、Best1遺伝子沈黙を有するClomeleonマウスの顆粒細胞の[Cl−]i濃度を測定した。GABAzineによる[Cl−]i濃度変化は、scrambled shRNA注入された小脳切片(4.29±0.91mM、3.84±0.82mM、(n=8)、図3D)と比較し、Best1−shRNA注入された小脳切片(molecular layer:10.63±1.45mM、granule cell layer:11.44±1.5mM、(n=8)、図3E)で顕著に低下するということが分かった。前記図3D及び図3Eに示されたscrambled shRNA注入された小脳切片、及びBest1−shRNA注入された小脳切片でのSRによる[Cl−]i変化を整理し、図3Fに示した(p<0.005)。かような結果は、Best1チャネルの遺伝子沈黙が、顆粒細胞の平行線維だけではなく、細胞体でも、緊張性GABA放出を減少させるということを示す。
【0103】
(5.3:全細胞パッチクランプ記録)
Clomeleonマウスから得た結果を、Best1−shRNAレンチウイルスが注入された成体マウスの顆粒細胞での全細胞パッチクランプ記録によって確認した。GABAzine−敏感性電流は、天然(naive)マウス(35.68±4.05pA(n=8)、p<<0.001、図3G上側パネル)、またはscrambledマウス(26.62±2.85pA(n=13)、p<<0.001、図3G真ん中のパネル)の場合と比較し、Best1−shRNAレンチウイルス注入されたマウスで、顕著に減少した(図3G下側パネル、8.28±0.57pA、n=14)。図3Gの上側トレースは、8週齢B6マウスの小脳薄片(維持電位(holding potential):−60mV)の顆粒細胞から得た緊張性GABA電流の加工前トレースを示している。緊張性GABA電流は、50μM NPPBのバス適用によって減少した。青色矢印は、GABAzine(SR)敏感性緊張性GABA電流を示し、朱黄色矢印は、NPPB敏感性緊張性GABA電流を示す。真ん中のトレースは、scrambled shRNAレンチウイルス注入されたマウスに係わるものであり、下側トレースは、B1−shRNAレンチウイルス注入されたマウスに係わるものである。
【0104】
一方、GABAzine−敏感性電流(sensitive current)は、天然マウスとscrambledマウスとで、大きい差を示していない(p>0.09、図3H)。図3Hは、naiveマウス、scrambled shRNA注入されたマウス、及びB1−shRNA注入されたマウスから得たGABAzine−敏感性電流を要約したものである。Best1チャネルの遺伝子沈黙は、Best1−shRNA注入されたマウスでの緊張性GABA電流のNPPB敏感性成分を事実上除去し(−1.23±3.08pA、n=4)、これは、天然マウス(18.95±2.47pA(n=8)、p<0.002)またはscrambledマウス(12.98±2.57pA(n=4)、p<0.02、n=4)と比較するとき、顕著な差を示すものである(図3I参照)。図3Iは、NPPB敏感性電流に係わる要約を示している。
【0105】
NPPBは、GABA−誘導全細胞電流に直接的な影響を及ぼさないために(図7C及び図7D)、NPPBによる緊張性GABA電流の遮断は、顆粒細胞で発現するGABAA受容体上の該化合物の直接的作用に起因するものではないと考えられる。図7Cと図7Dは、野生型B6マウスへのNPPB適用が、小脳顆粒細胞内のGABA受容体に影響を及ぼさないということを示し、NPPB適用(2分及び5分)によるGABA誘導電流(induced current)大きさを示すグラフである。
【0106】
さらに他の陰イオン遮断剤であるNFA及びDIDSも、GABAzine−敏感性電流を顕著に遮断すると分かった(図6B及び図6G参照)。図6Bは、顆粒細胞での100μMニフルム酸処理による緊張性GABA電流を示すものであり、図6Gは、Ca2+敏感性Cl−チャネル遮断剤による緊張性電流の抑制率(%)を示す(使われたマウスの年齢:29.5±0.79、27±0、27.5±0.87、28±0.71及び74日(DIDS))。
【0107】
かような結果は、NPPB敏感性緊張性GABA放出が、小脳のBest1チャネルによって媒介されるということと、緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということと、を示している。
【0108】
〔実施例6:膠細胞特異的Best1チャネル構造による緊張性GABA電流の回復試験〕
膠細胞特異的に、Best1遺伝子沈黙が起こらないようにするために、タモシキフェン(tamoxifen)とBest1−shRNAレンチウイルスとが共に注入されたhGFAP−CreERT2マウスを利用し、緊張性GABA放出が、膠細胞Best1によるか否かを試験した(図4A及び図4B)。
【0109】
レンチウイルス注入前に、5日間タモシキフェンを腹膜内注入し、膠細胞特異的CreERT活性化を開始させた(図4A、図4B)。図4Aは、hGFAP−CreERTマウスに係わる試験設計を概略的に示すものである。タモキシフェンまたはひまわりオイルを、レンチウイルス注入前5日間、一日に1回ずつ腹膜内注入した。かような試験設計下で、前記発現したCreERTは、核(nucleus)に移動してBest1−shRNAを含むカセットを除去し、Best1−shRNAを非活性化させる(図4B参照)。図4Bは、膠細胞特異的構造を模式的に示し、Cre−ERTは、GFAPプロモータ(promoter)下で膠細胞特異的に発現し、タモキシフェン注入によって活性化され(activated)、shRNAによって非活性化される(inactivated)。
【0110】
Best1の膠細胞特異的構造の効果を、タモシキフェンまたはひまわりオイルの注入されたhGFAP−CreERT2マウスのうち一つで、Best1抗体を使用する免疫組織化学的方法で確認した(図8B参照)。一方、図4Cは、膠細胞での全細胞パッチクランプ記録を示している。上側トレースは、ひまわりオイル処理後、B1−shRNAレンチウイルス注入されたhGFAP−CreERTマウスでの緊張性GABA電流を示している。下の左側は、タモキシフェン処理後、B1−shRNAレンチウイルス注入されたhGFAP−CreERTでの緊張性GABA電流の加工前トレースを示している。Best1−shRNAレンチウイルスが注入され、ひまわりオイル処理されたhGFAP−CreERT2マウスで、GABAzine−敏感性電流が、同じレンチウイルス注入された野生型B6マウス(図3B)と類似したレベルまで顕著に減少した(図4C、上側トレース、35.68±4.05pA(naive、n=8)、11.27±1.22pA(ひまわりオイル処理、n=9)、p<0.003)。しかし、タモシキフェン処理され、Best1−shRNAレンチウイルス注入されたhGFAP−CreERT2マウスで、GABAzine−敏感性電流は、天然レベルに完全に回復した(図4C、下側トレース、タモキシフェン処理:31.31±2.19pA(n=8)、naive:35.68±4.05pA(n=12)、p=0.36)。
【0111】
図4Dは、タモシキフェン処理、あるいは未処理の場合のGABAzine−敏感性電流を示すものである。図4Dから分かるように、タモシキフェン処理、あるいは未処理の場合のGABAzine−敏感性電流は、相当な差を示している(p<<0.001)。図4Eは、タモシキフェン処理、あるいは未処理の場合のNPPB敏感性電流を示すものである。図4Eから分かるように、NPPB敏感性電流はまた、タモシキフェン処理されたマウスで、完全に回復している(naive:18.95±2.47pA、n=8;タモキシフェン処理:19.27±2.2pAn=9、p=0.93;タモキシフェン未処理:1.93±1.56pA、n=4、p=0.00005)。かような結果は、膠細胞Best1チャネルが、小脳顆粒細胞で検出されるほとんどの緊張性GABA放出を担当するということを示すものである。
【0112】
NPPB敏感性及びBest1媒介の緊張性GABA放出量は、全体GABAzine敏感性電流の約70%ほどである。残存するGABAzine敏感性電流、NPPB−無感応性電流及びBest1独立的電流のソースが、現在まで知られない状態であり、これに係わるさらなる研究が必要である。クローニングされたベストロフィンチャネルは、〜200nM範囲で、Ca2+による活性化のための見かけKdを有する低いCa2+濃度範囲で活性化されると知られている(Hartzell et al.,2008)。天然(naive)Best1チャネルが、同じCa2+敏感性を有するならば、基底遊離細胞質Ca2+が、一般的に約100nmであるために、Best1チャネルは、いつも部分的に活性化されていなければならず、これは、前記チャネルを介したGABAの構成的放出(constitutive release)を誘発することになる。かような提案に符合し、25min BAPTA−AM処理による遊離細胞質Ca2+のキレーティングによって、GABAzine−敏感性電流が顕著に減少すると分かった(図6C、図6D、図6F及び図6G参照)。図6Cは、顆粒細胞での150μM BAPTA−AMと共にインキュベーティングした(incubated)場合の緊張性GABA電流を示したものであり、図6Dは、0.5μMコンカナマイシンA(concanamycin A)と共にインキュベーティングした場合の緊張性GABA電流を示したものであり、前記図6C及び図6Dから分かるように、BAPTA−AM処理時には、緊張性GABA電流が顕著に減少した一方、コンカナマイシンA処理時には、そうではなかったということである。図6Fは、無処理(untreated)、コンカナマイシンA処理及びBAPTA−AM処理時のGABAzine敏感性電流を示している。
【0113】
Clomeleonイメージから得られたかような結果は、緊張性GABAが、分子層の平行線維から検出され、このように、ベルグマン細胞の幹から放出されたかようなGABAは、強力な抑制性の役割を行い、さらに、プルキンエ細胞のデンドライト上のグルタメートのシナプス放出及び平行線維の局部的興奮にも深い影響を及ぼすということを提案する(図4F)。図4Fは、小脳での緊張性GABA放出の提案モデル(suggested model for tonic GABA release)である。
【0114】
要約するに、本発明は、最近特徴が明らかになった小脳膠細胞のベストロフィンチャネルを介した緊張性GABA放出のメカニズム、直接的透過による伝達物質のチャネル媒介放出での特有な役割、及びニューロン興奮性を調節する主要抑制性伝達物質GABAを放出する際の膠細胞の新規の機能を初めて提案するものである。かような抑制性膠細胞伝達物質(gliotransmitter)のチャネル媒介放出の重要性は、脳機能での膠細胞のまだ明らかにされていない多くの生理学的役割に係わる理解を提供するものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベストロフィン(Bestrophin)1チャネル抑制剤を有効成分として含有する小脳(cerebellum)でのγ-アミノ酪酸(GABA:gamma-aminobutyric acid)放出抑制剤及びGABA過剰放出による病的症状治療用組成物;ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として含有する小脳でのGABA放出促進剤及びGABA不足による病的症状治療用組成物;及び小脳のベストロフィン1チャネルをターゲットとする小脳でのGABA放出調節剤スクリーニング方法;に関する。
【背景技術】
【0002】
GABAは、哺乳類中枢神経系の代表的な抑制性神経伝達物質のうち一つである。
【0003】
GABAは、次のような2種の作用モードで作用すると知られている:緊張性(tonic)モード及び位相性(phasic)モード。GABAの位相性分泌(phasic release)メカニズムは、Ca2+依存的小胞性分泌(Ca2+ dependent vesicular release)であると明確に定立されているが、GABAの緊張性分泌(tonic release)のソース及びメカニズムは、さらに多くの研究が必要な状況である。
【0004】
このために、本発明者らは、GABAの緊張性分泌メカニズムを究明し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤を有効成分として含む小脳でのGABA放出調節剤を提供するものである。
【0006】
具体的には、ベストロフィン1チャネル遮断剤を有効成分として含む小脳でのGABA放出抑制剤を提供するものである。
【0007】
また、ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として含む小脳でのGABA放出促進剤を提供するものである。
【0008】
さらに他の例は、ベストロフィン1チャネル活性を調節し、小脳でのGABA放出を調節する方法を提供するものである。
【0009】
具体的には、ベストロフィン1チャネル活性を抑制し、小脳でのGABA放出を抑制する方法を提供するものである。
【0010】
また、ベストロフィン1チャネルを活性化し、小脳でのGABA放出を促進する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤の小脳でのGABA放出調節のための有効成分としての用途を提供する。
【0012】
具体的には、ベストロフィン1チャネル遮断剤の小脳でのGABA放出抑制のための有効成分としての用途を提供する。
【0013】
また、ベストロフィン1チャネル活性化剤の小脳でのGABA放出促進のための有効成分としての用途を提供する。
【0014】
さらに他の例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤を有効成分として含む、GABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物を提供する。
【0015】
具体的には、ベストロフィン1チャネル遮断剤を有効成分として含む、GABA過放出による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物を提供する。
【0016】
また、ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として含む、GABA不足による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物を提供する。
【0017】
さらに他の例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤を有効成分として使用するGABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の方法を提供する。
【0018】
具体的には、ベストロフィン1チャネル遮断剤を有効成分として使用するGABA過放出による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の方法を提供する。
【0019】
また、ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として使用するGABA不足による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の方法を提供する。
【0020】
さらに他の例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤のGABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療のための有効成分としての用途を提供する。
【0021】
具体的には、ベストロフィン1チャネル遮断剤のGABA過放出による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療のための有効成分としての用途を提供する。
【0022】
また、ベストロフィン1チャネル活性化剤のGABA不足による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療のための有効成分としての用途を提供する。
【0023】
さらに他の例は、候補物質を小脳サンプルと接触させ、小脳のベストロフィン1チャネル活性化いかんを確認し、小脳でのGABA放出調節剤をスクリーニングする方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】小脳膠細胞はGABAを含み、直接透過によってGABAを放出するベストロフィン1(Best1)チャネルを発現するということを示し、GFAP−GFP形質転換マウス小脳でのGFP,Best1及びGABAに対する抗体を利用した免疫組織化学共焦点イメージである。
【図1B】小脳膠細胞はGABAを含み、直接透過によってGABAを放出するベストロフィン1(Best1)チャネルを発現するということを示し、2−細胞スニファパッチの概略図である。
【図1C】小脳膠細胞はGABAを含み、直接透過によってGABAを放出するベストロフィン1(Best1)チャネルを発現するということを示し、GABAの透過程度を示す結果である。
【図1D】小脳膠細胞はGABAを含み、直接透過によってGABAを放出するベストロフィン1(Best1)チャネルを発現するということを示し、記載された条件下でのGABA放出活性化程度を示すグラフである。
【図2A】Cre−lox調節pSicoR−shRNAレンチウイルス構造体の様子を示す概略図である。
【図2B】B6またはGFAP−GFPマウスを使用する実験日程を示す図面である。
【図2C】GFAP−GFP(緑色)染色、Best1(紫紅色)及びmCherry(赤色)を含むB1−shRNAレンチウイルスの形態を示す図面である。
【図2D】ランププロトコル(ramp protocol、Vh=−70mV)を使用した膠細胞パッチ記録結果を示す図面である。
【図2E】scrambled shRNA注入されたGFAP−GFPマウスでの電流−電圧トレースを示すグラフである。
【図2F】Best1−shRNA注入されたGFAP−GFPマウスでの電流−電圧トレースを示すグラフである。
【図2G】記載された条件に係わるNPPB敏感性電流の電流−電圧トレースの平均を求めてフローティングしたところを示すグラフである。
【図2H】Cl−とGABAとの流出を比較するために、図2Gで得た−80mVでの電流大きさを示すグラフである。
【図3A】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、半透明プルキンエ細胞層(黒色矢印)によって分離された、明るい蛍光色の顆粒細胞層の顆粒細胞体と、分子層内に位置する平行線維とを示すCLM1 Clomeleonマウスの小脳切片の様子を示すイメージである。
【図3B】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、Clomeleonの比率イメージ(ratiometric imaging)であり、経時的な[Cl−]i変化を示すグラフである。
【図3C】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、NPPBによる[Cl−]i変化と、SRによる[Cl−]i変化との相関関係を示すグラフである。
【図3D】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、scrambled−shRNAレンチウイルス注入されたマウスから得たClomeleonイメージ結果である。
【図3E】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、B1−shRNA注入されたマウスから得たClomeleonイメージ結果である。
【図3F】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、それぞれのウイルスタイプと、それぞれの層とでのClomeleonイメージ結果を要約したグラフである。
【図3G】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、8週齢B6マウスの小脳スライス(維持電位(holding potential):−60mV)の顆粒細胞から得た緊張性GABA電流の加工前トレースを示す図面である。
【図3H】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、天然(naive),scrambled及びB1−shRNA注入されたマウスから得たGABAzine−敏感性電流を要約したグラフである。
【図3I】緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということを示し、NPPB敏感性電流を要約したグラフである。
【図4A】Best1チャネルの膠細胞特異的構造(rescue)が緊張性GABA電流を回復させるということを示し、hGFAP−CreERTマウスに係わる試験日程を示した図面である。
【図4B】Best1チャネルの膠細胞特異的構造(rescue)が緊張性GABA電流を回復させるということを示し、膠細胞特異的構造メカニズムを模式的に示す図面である。
【図4C】Best1チャネルの膠細胞特異的構造(rescue)が緊張性GABA電流を回復させるということを示し、膠細胞での全細胞パッチクランプ記録を示す図面である。
【図4D】Best1チャネルの膠細胞特異的構造(rescue)が緊張性GABA電流を回復させるということを示し、天然(naive)、shRNA及びshRNA+タモキシフェン(TAM)の場合のGABAzine−敏感性緊張性GABA電流を示すグラフである。
【図4E】Best1チャネルの膠細胞特異的構造(rescue)が緊張性GABA電流を回復させるということを示し、天然(naive)、shRNA及びshRNA+タモキシフェンの場合のNPPB敏感性緊張性GABA電流を示すグラフである。
【図4F】Best1チャネルの膠細胞特異的構造(rescue)が緊張性GABA電流を回復させるということを示し、小脳での緊張性GABA放出の提案モデルである。
【図5】成体マウス小脳の膠細胞において、mBest1とGABAとが強力に発現するということを示し、aは、マウス小脳でのGABA、Best1及びGFAP−GFPの免疫組織化学的共焦点イメージであり、bは、小脳のGABA染色及びGFAP−GFP染色の高倍率イメージであり、cは、Best1染色とGFAP染色との高倍率(X60)イメージである。
【図6A】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、以下図6Bないし図6Gの結果を得るのに使われた試片顆粒細胞及び分子細胞層の顕微鏡観察写真を示すイメージ(上側:X40、下側:X600)である。
【図6B】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、100μMニフルム酸処理した場合の緊張性GABA電流記録を示した図面である。
【図6C】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、150μM BAPTA−AMと共にインキュベーティングする場合の緊張性GABA電流記録を示した図面である。
【図6D】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、0.5μMコンカナマイシンA(concanamycin A)と共にインキュベーティングする場合の緊張性GABA電流記録を示した図面である。
【図6E】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、30μM NPPB処理した場合の緊張性GABA電流記録を示した図面である。
【図6F】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、無処理(untreated)、コンカナマイシンA,BAPTA−AM処理時のGABAzine敏感性電流結果を要約したグラフである。
【図6G】脳顆粒細胞層での緊張性GABA放出は、Ca2+依存的であり、非小胞性であり、陰イオン遮断剤によって抑制されるということを示し、Ca2+敏感性Cl−チャネル遮断剤による緊張性電流の抑制率(%)を示すグラフである。
【図7A】NPPBは、GABA受容体に直接影響を及ぼさないということを示し、GABAcを発現するHEK293細胞を、100μM NFAの不在下または存在下でパッチクランピングし、100μM GABAで感染(challenge)させた結果を示す図面である。
【図7B】NPPBは、GABA受容体に直接影響を及ぼさないということを示し、GABAcを発現するHEK293細胞を、100μM NPPBの不在下または存在下でパッチクランピングし、100μM GABAで感染(challenge)させた結果を示す図面である。
【図7C】NPPBは、GABA受容体に直接影響を及ぼさないということを示し、NPPBの適用が、小脳顆粒細胞上のGABA受容体には影響を及ぼさないということを示し、NPPB処理(2分及び5分)時のGABA誘導電流をbaselineと比較して示した図面である。
【図7D】NPPBは、GABA受容体に直接影響を及ぼさないということを示し、NPPBの適用が小脳顆粒細胞上のGABA受容体には影響を及ぼさないということを示し、NPPB処理(2分及び5分)時のGABA誘導電流をbaselineと比較して示した図面である。
【図8A】shRNA及びscrambled RNA注入されたマウスでのmCherry信号の蛍光イメージである(scale bar:200μm(X10);50μm(X40))。
【図8B】hGFAP−Creマウスでの遺伝子沈黙によるBest1ノックダウン実験を示し、左側パネルは、タモシキフェン注入されたhGFAP−Creマウスに注入されたB1−shRNAレンチウイルスの様子を示し(赤色)、真ん中のパネルは、同じ部位でのBest1染色されたイメージであり、右側パネルは、膠細胞のマーカーであるGFAPを染色したイメージと共に、左側パネルと真ん中のパネルとのイメージを併合させたイメージであり、Best1(紫紅色)は、レンチウイルス感染部位と非感染部位とで、同様に染色されるということを示すイメージである(scale bar:100μM)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、緊張性γ-アミノ酪酸(GABA:gamma-aminobutyric acid)抑制が、小脳(cerebellum)内の膠細胞(glial cell)からのGABA分泌に起因し、このようなGABAの分泌(release)は、最近特性が明らかになった陰イオンチャネルであるベストロフィン1(Best1)チャネルを直接的に通過して起こるということを明らかにした。まず、2−細胞スニファパッチ技法(two-cell sniffer patch technique)を利用し、Best1チャネルが、GABAを直接通過させることができるということを示した。第二に、細胞類型特異的遺伝子スライシング技術と、成体マウスでの緊張性GABA分泌を測定するための一般的な電子生理学的アプローチだけではなく、最近の光遺伝学的方法(optogenetic tool)とを利用し、膠細胞が、Best1チャネルを介して分泌可能なGABAを含み、その分泌は、多様な陰イオンチャネルの遮断剤によって抑制されるということを確認した。このようなGABA分泌は、Best1−shRNAレンチウイルスを小脳部位に注入した後、標的遺伝子であるBest1遺伝子のノックダウンによって顕著に減少した。
【0026】
最終的には、Cre−lox調節shRNAシステムと、hGFAP−CreERT2形質転換(transgenic)マウスとの組み合わせによって、遺伝子沈黙(gene silencing)による緊張性GABA電流の減衰(attenuation)が完全に回復するということを確認し、これは、膠細胞から分泌されたGABAが、ambient GABAを担当するということを意味する。本発明者らのかような発見は、非小胞性(non-vesicular)GABA分泌における膠細胞機能と、チャネル媒介放出メカニズムと関連した概念とを最初に提示し、また、ニューロン・プロセシングのglial integrationの重要性を強調するものである。
【0027】
緊張性GABA電流は、歯状回(dentate gyrus)顆粒細胞で初めて観察されて以来、緊張性抑制(tonic inhibition)は、小脳、海馬、視床、皮質、脳幹などを含む中枢神経系にわたって、異なって分布すると報告されている。緊張性抑制は、興奮性(excitability)の一般的緊張度(general tone)調節において、位相性抑制(phasic inhibition)より優勢であり、ニューロン出力(neuronal output)の情報処理(information processing)において重要な役割を果たす。緊張性抑制の多様な機能的役割は、癲癇(epilepsy)、睡眠、記憶及び認知と関連している(Walker and Semyanov,2008)。小脳で、主要な興奮性入力(excitatory input)をプルキンエ細胞(Purkinje cell)に提供する顆粒細胞は、シナプス外の高親和性サブユニット含有GABAA受容体によって媒介される継続的な緊張性GABA抑制によって、強力に抑制される(Hamann et al.,2002;Rossi et al.,2003)。小脳の緊張性GABA抑制は、運動行動を損傷させる低容量アルコール中毒(low dose alcohol intoxication)の重要な標的であると報告されている(Hanchar et al.,2005)。しかし、その機能性重要性に係わる研究は非常に微小であり、放出メカニズムに係わる理解不足によって、部分的でしかないという実情である。
【0028】
小脳顆粒細胞は、タイプII糸球体(typeII glomerulus)と呼ばれる独特の形状を形成し、これは、細胞外ambient GABAを、グルタミン酸作動性(glutamatergic)苔状線維(mossy fiber)、ゴルジ細胞のアクソン(axon)、顆粒細胞突起及び膠細胞鞘(glial sheath)と共に蓄積させ、糸球体は、放出されたGABAを維持させる層状膠細胞鞘(lamella glial sheath)で完壁に囲まれている。小脳の星状膠着細胞(astrocyte)の他の独特な類型であるベルグマン膠細胞(Bergmann glial cell)は、プルキンエ細胞の近傍に位置し(図1A)、生後顆粒細胞移動及びプルキンエ細胞突起成熟のための足場を提供する発生上の重要な役割を行う。成人において、ベルグマン膠細胞は、顆粒細胞からの励起性シナプス末端(excitatory synaptic termination)と共に、バスケット細胞からのGABA作動性シナプス末端を含む膠細胞鞘で、自身の細胞体(somata)とシナプスとをしっかりと覆い包むことによって、プルキンエ細胞に対して、密接な解剖学的及び機能的なパートナーとして残っている。
【0029】
成人脳で、ニューロンが独占的にGABAを合成して含有して放出すると考えられるが、一方で、脳幹と小脳との星状膠細胞がGABAを含むと見たりもする。成人小脳で、GABAが膠細胞に含まれていることを確認するために、下記の実施例で、GFAP陽性星状膠細胞細胞体と微細突起とがGFPで標識されているGFAP−GFP形質転換マウスに対して、免疫組織化学的実験を行った。その結果、顆粒細胞層内の層状星状膠細胞だけではなく、あらゆるGFP陽性ベルグマン膠細胞の細胞体と突起とで、強力な免疫反応性を有するGABAに対する抗体が発見された(図5のa,b)。特に、膠細胞GABA免疫反応性の強度は、隣接するニューロンと比較して、同等以上であると分かった。かような結果は、GABAの膠細胞放出に係わる潜在的根源を提供する。
【0030】
これまで、成体ラットの小脳顆粒細胞のGABAA受容体の緊張性活性化は、GABAの活動電位独立的(action-potential-independent)非小胞性放出に起因すると知られている。かような発見は、ambient GABAのソースが、膠細胞でもあるという仮説と符合しているのである。さらに、タイプII星状膠細胞から由来する細胞株において、プリン作動性(purinergic)受容体P2X7の活性化が、[3H]−GABAの放出を誘導し、これは、塩化物チャネル抑制剤である4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)や4−アセトアミド−4’−イソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(SITS)のようなHCO3−/Cl−交換体、または体積調節陰イオンチャネルの抑制剤に対して、予測不可能なほどに敏感である。従って、本発明者らは、引き続き、GABA放出の分子的標的になりうる陰イオンチャネルを探索した。
【0031】
陰イオンチャネルのうち、ベストロフィン1(Best1)チャネルの重複する特有な特徴に基づいて、Best1を候補陰イオンチャネルとして採択した。ベストロフィンのうち、ヒトベストロフィン1(hBest1)をクローニングし、常染色体優性Best卵黄上黄斑ジストロフィー(vitelliform macular dystrophy)での突然変異を確認し、hBest1が体積変化だけではなく、Ca2+によっても活性化され、ニフルム酸(NFA)、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)及び4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)によって容易に遮断されるCl−チャネルを構成するということを立証した。また、hBest1は、Cl−よりSCN−のような巨大陰イオンに対してさらに高い透過性を有し、Cl−に比べて、HCO3−に対して顕著な透過率を示す(PHCO3/PCl=0.44)。
【0032】
前述のように、本発明では、小脳膠細胞で、ベストロフィン1チャネルを介して、GABAの放出がなされるということを発見し、かような発見に基づいて、ベストロフィン1チャネルを調節し、GABA放出を調節することによって、放出の過剰放出または不足によって誘発される疾病または症状を、予防、改善、緩和及び/または治療できるということを提案する。
【0033】
これにより、本発明の一例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤を有効成分として含む小脳でのGABA放出調節剤、ベストロフィン1チャネル活性を調節し、小脳でのGABA放出を調節する方法;及びベストロフィン1チャネル活性調節剤の小脳でのGABA放出調節のための有効成分としての用途;を提供する。
【0034】
具体的には、本発明の具体例は、ベストロフィン1チャネル遮断剤を有効成分として含む小脳でのGABA放出抑制剤;ベストロフィン1チャネル活性を抑制し、小脳でのGABA放出を抑制する方法;及びベストロフィン1チャネル遮断剤の小脳でのGABA放出抑制のための有効成分としての用途;を提供する。または、本発明の具体例は、ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として含む小脳でのGABA放出促進剤;ベストロフィン1チャネルを活性化し、小脳でのGABA放出を促進する方法;及びベストロフィン1チャネル活性化剤の小脳でのGABA放出促進のための有効成分としての用途;を提供する。
【0035】
さらに他の例は、ベストロフィン1チャネル活性調節剤を有効成分として含む、GABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物;ベストロフィン1チャネル活性調節剤を有効成分として使用するGABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の方法;及びベストロフィン1チャネル活性調節剤のGABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療のための有効成分としての用途;を提供する。
【0036】
具体的には、本発明の具体例は、ベストロフィン1チャネル遮断剤を有効成分として含む、GABA過放出による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物;ベストロフィン1チャネル遮断剤を有効成分として使用するGABA過放出による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の方法;及びベストロフィン1チャネル遮断剤のGABA過放出による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療のための有効成分としての用途;を提供する。または、本発明の具体例は、ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として含む、GABA不足による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物;ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として使用するGABA不足による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の方法;及びベストロフィン1チャネル活性化剤のGABA不足による疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療のための有効成分としての用途;を提供する。
【0037】
前記ベストロフィン1は、塩化物イオンチャネルの一種であって、本発明において、塩化物イオンチャネルがGABAに対して透過性を有するということを示す代表的な例として使われた。前記ベストロフィン1遺伝子は、哺乳類由来、望ましくは、齧歯類(rodent)由来または霊長類由来のものであって、例えば、マウスベストロフィン1(mBest1)遺伝子(NM_011913、配列番号1)またはヒトベストロフィン1(hBest1)遺伝子(NM_004183、配列番号2)であるが、これらに制限されるものではない。
【0038】
前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、ベストロフィン1チャネルの発現を抑制したり、あるいは発現したベストロフィン1の活性を直間接的に妨害及び/または遮断する活性を有するあらゆる物質を含み、例えば、陰イオンチャネル遮断剤、ベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNAまたはshRNAなどからなる群から選択された1種以上のものであるが、それらに制限されるものではない。
【0039】
前記陰イオンチャネル遮断剤は、ニフルム酸、flumenamic acid、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)、4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)などからなる群から選択された1種以上のものであるが、これらに制限されるものではない。前記アンチセンスRNAは、配列番号1または配列番号2のヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNAであってもよい。また、前記shRNAは、cDNA配列で示すとき、次の配列番号3、配列番号4及び配列番号7からなる群から選択された1種以上であるが、これらに制限されるものではない:
5’−GATCCCCTTGCCAACTTGTCAATGAATTCAAGAGATTCATTGACAAGTTGGCAATTTTTA−3’(配列番号3)
3’−GGGAACGGTTGAACAGTTACTTAAGTTCTCTAAGTAACTGTTCAACCGTTAAAAATTCGA−5’(配列番号4)
5’−CGCTGCAGTTGCCAACTTGTCAATGAATTCAAGAGATTCATTGACAAGTTGGCAATTTTTGATATCTAGACA−3’(配列番号7)
かようなベストロフィン1チャネル活性抑制によって、小脳膠細胞でのGABA放出が抑制されれば、GABAによる神経抑制作用、例えば、緊張性抑制作用が低下し、GABA過剰放出によって引き起こされる疾病または症状の予防、改善、緩和及び/または治療の効果をもたらしうる。GABA過剰放出によって引き起こされる疾病または症状には、癲癇、睡眠障害、記憶障害、知覚障害、認知障害、運動障害、学習障害、アルコール中毒、例えば、低容量アルコール中毒(low dose alcohol intoxication)や運動失調症(ataxia)などがあるが、これらに制限されるものではない。
【0040】
従って、ベストロフィン1チャネル活性抑制剤を有効成分として含む、GABA過剰放出によって引き起こされる疾病または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物は、癲癇、睡眠障害、記憶障害、知覚障害、認知障害、運動障害、学習障害、アルコール中毒、運動失調症などからなる群から選択された1種以上の疾病または症状に対して、予防、改善、緩和及び/または治療の効果を有するものである。
【0041】
さらに他の側面において、ベストロフィン1チャネル活性化剤を介して、小脳でのGABA放出を促進することによって、GABAによる神経抑制、例えば、緊張性抑制を増大させ、例えば、興奮性神経伝達物質の過剰放出による過大な神経興奮効果を相殺することができる。かようなベストロフィン1チャネル活性化剤は、ベストロフィン1チャネルを直接的または間接的に活性化させる作用を有するあらゆる物質を含み、例えば、ペプチドTFLLRやブラジキニン(Bradykinin)のようなG−蛋白質結合受容体(GPCR:G−protein coupled receptor)アゴニストなどであるが、こらに制限されるものではない。かようなベストロフィン1チャネル活性化は、GABA放出を促進させ、放出されたGABAの神経抑制、例えば、緊張性抑制作用によって、神経の過剰興奮による病的症状、例えば、記憶と関連した疾病(アルツハイマー、老化性記憶減退など)、発作(epileptic seizure)、神経伝達物質誘発興奮毒性(excitotoxicity)、虚血(ischemia)、脳卒中、脳出血、癲癇、脳外傷、低酸素症(hypoxia)などの予防、改善、緩和及び/または治療の効果を示すことができる。従って、ベストロフィン1チャネル活性抑制剤を有効成分として含む、GABA不足によって引き起こされる疾病または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物は、記憶と関連した疾病(アルツハイマー、老化性記憶減退など)、発作、神経伝達物質誘発興奮毒性、虚血、脳卒中、脳出血、癲癇、脳外傷、低酸素症などからなる群から選択された1種以上の予防、改善、緩和及び/または治療の効果を有するものである。
【0042】
本発明によるGABA放出調節剤、GABA過放出または不足によって発生する疾病及び/または症状の予防、改善、緩和及び/または治療用の組成物、方法及び/または用途は、哺乳類、望ましくは、ヒトを対象に投与するためのものであってもよい。
【0043】
本発明のさらに他の例は、小脳、さらに具体的には、小脳膠細胞上のベストロフィン1チャネルをターゲットとして、新規の小脳でのGABA放出調節剤をスクリーニングする方法に関する。
【0044】
前記スクリーニング方法は、小脳サンプルを準備する段階と、候補物質を前記サンプルと接触させる段階と、前記小脳サンプルでのベストロフィン1チャネルの活性化いかんを確認する段階と、を含んでもよい。
【0045】
このとき、ベストロフィン1チャネルが活性化された場合、前記候補物質をGABA放出促進剤として決定し、ベストロフィン1チャネルが非活性化される場合、前記候補物質をGABA放出抑制剤として決定することを特徴とする。
【0046】
前記ベストロフィン1チャネルの活性化いかんは、本発明が属する技術分野に公知のあらゆる方法によって測定可能であり、例えば、小脳膠細胞上のベストロフィン1チャネルを除外した他のチャネル及び受容体を非活性化させた後、細胞内向電流変化を測定して決定できる。例えば、候補物質の処理後、細胞内向電流値が上昇すれば、ベストロフィン1チャネルが活性化されたということを意味し、細胞内向電流値が低下すれば、ベストロフィン1チャネルが非活性化されたということを意味するのである。前記他のチャネル及び受容体の非活性化、並びに内向電流値測定は、本発明が属する技術分野に周知の技術であり、当該技術分野の当業者であるならば、容易に実施することができるであろう。例えば、細胞内向電流値測定は、スニファパッチ方法を利用して行うことができる(Lee,C.J. et al.,Astrocytic control of synaptic NMDA receptors.J Physiol 581,1057-81(2007);前記文献は、本明細書に参照として含まれる)。
【0047】
本発明によるスクリーニング方法において、前記小脳サンプルは、哺乳類由来のもの、望ましくは、齧歯類由来または霊長類由来のものであってもよい。
【0048】
本発明において、小脳でのベストロフィン1チャネルを介した緊張性GABAの放出メカニズムが究明されることにより、GABA放出及びGABA関連病的症状の調節が可能であると期待される。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について、下記の実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、本発明を具体的に例示するためのものであるのみ、本発明の範囲がそれら実施例によって制限されるものではない。
【0050】
〔実施例1:遺伝子クローニング及びshRNAウイルスベクター構築〕
(1.1:Best1のクローニング)
全長マウスベストロフィン1(mBest1)cDNAをクローニングするために、生後P0−P3マウス(C57BL/6、大脳皮質、SPF room、Center for Neural Science、KIST、Seoul、Korea)から得た培養星状膠細胞、または成体オスマウス(C57BL/6)から得た精巣から全体RNAを精製し、Super ScriptIII逆転写酵素(Invitrogen)を利用してcDNAを合成した。NCBIデータベースcDNA[GenBank accession numbers NM_011913XM_129203]に基づいたオープンリーディング・フレーム(ORF)に符合する21塩基プライマー対(mBest1−F:5’−aggacgatgatgattttgag−3’(配列番号5)、mBest1−R:5’−ctttctggtttttctggttg−3’(配列番号6))を使用してPCRを行い、mBest1の全長オープンリーディング・フレームを得た。得られたPCR産物をpGEM−Tイージーベクター(Promega)内にクローニングして配列を分析した。
【0051】
(1.2:Best1のプラスミド構築及び発現)
哺乳類細胞でmBest1を発現させるために、pGEM−T easyプラスミド(6.65kb、Promega)から得たmBest1全長試片を、HindIII(NEB)及びNotI(NEB)認識部位を利用し、pcDNA 3.1(Invitrogen)内にサブクローニングするか、あるいはXbaI(NEB)及びXmaI(NEB)認識部位を利用し、pIRES2−dsRED(Invitrogen)内にサブクローニングした。前記得られたpIRES2−dsREDまたはpcDNA 3.1ベクターを、HEK293T細胞(ATCC)内に形質感染させ、mBest1を発現する細胞を選別した。pcDNA 3.1−mBest1プラスミドの場合、エフェクテン形質感染試薬(Effectene transfection reagent、Qiagen)を使用し、1/10量のpEGFP−N1プラスミド(Invitrogen)と共に、HEK293T細胞(ATCC)内に形質感染させ、mBest1を発現する細胞を選別した。前記選別は、pcDNA 3.1−mBest1とpEGFP−N1との同時形質感染の場合、緑色蛍光を帯びる細胞を選別し、pIRES dsREDベクタープラスミドである場合、赤色蛍光を出す細胞を選別して行った。電子生理学的記録のために、前記細胞をガラス・カバースリップ上にリプレーティングした。前記形質感染された細胞は、24−36時間内にパッチクランプ実験に使用した。
【0052】
(1.3:Best1 shRNA及びレンチウイルス生産)
プラスミド・ベースのshRNA発現のために、次のような相補的オリゴヌクレオチドをアニーリングし、pSUPER−GFPベクター(Oligo Engine)のHindIII/BgIII部位に挿入した
5’−GATCCCCTTGCCAACTTGTCAATGAATTCAAGAGATTCATTGACAAGTTGGCAATTTTTA−3’(配列番号3)
3’−GGGAACGGTTGAACAGTTACTTAAGTTCTCTAAGTAACTGTTCAACCGTTAAAAATTCGA−5’(配列番号4)
(mBest1のヌクレオチド配列のうち、563−582配列該当部位を含む、残りは、構造的(ヘアピン構造)及びクローニングのための必要性によって含まれる)。
【0053】
レンチウイルス・ベースのshRNA発現のために、合成二重鎖オリゴヌクレオチド5’−CGCTGCAGTTGCCAACTTGTCAATGAATTCAAGAGATTCATTGACAAGTTGGCAATTTTTGATATCTAGACA−3’(配列番号7)を、shLenti2.4CMVレンチウイルス・ベクター(Macrogen)のpstI−XbaI制限酵素部位に挿入し、mBest1遺伝子を含むレンチウイルス・ベクターを構築して配列分析して確認した。scrambledオリゴヌクレオチド包含−shLenti構造体(特定塩基配列を認識し、mRNAを分解する標的shRNAのcontrol概念として使われたものであり、cellular mRNAをdegradationしない塩基配列で構成;Macrogen)を対照群として使用した。レンチウイルス生産は、Macrogen Incに依頼して行った(Dull,T.et al.,A third-generation lentivirus vector with a conditional packaging system.J Virol 72,8463-71(1998)、該文献は、本明細書に参照として含まれる)。
【0054】
下記実施例では、Best1標的shRNAレンチウイルスであって、配列番号7を挿入したレンチウイルスを使用した。
【0055】
〔実施例2:免疫化学的試験:GABAとBest1との共同発現確認〕
Best1が小脳で発現するか否かを確認するために、GFAP−GFP形質転換マウスで、Best1とGABAとに対して生成された抗体を使用し、免疫組織化学法を行った(図5のc参照)。
【0056】
成体GFAP−GFPマウス(SPF room、Center for Neural Science、KIST、Seoul、Korea)、またはレンチウイルス(下記実施例4のBest1標的shRNAレンチウイルス)注入されたGFAP−GFPマウスを、4%パラホルムアルデヒドで固定させた。小脳の30μm厚の視床クライオスタット薄切薄片(sagittal cryostat section)をPBSで3回すすぎ、ブロッキング溶液(0.3%Triton−X、2%normal serum in 0.1M PBS、Sigma)で、1時間インキュベーティングした。ラビット抗血清ベストロフィン抗体(1:100、Soria et al.,2006)、ニワトリ抗GFP抗体(1:1,000、Abcam)及びギニアピッグ抗GABA抗体(1:1,000、Chemicon)の混合物と共に、4℃で一晩振盪培養した。PBSで3回洗浄し、引き続き、対応する二次抗体共役されたAlexa 488,555及び647で洗浄した。PHSで3回洗浄し、蛍光物質搭載培地(Dako、S3023)にマウンティングした。FV1000共焦点顕微鏡(Olympus)を使用し、一連の共焦点蛍光イメージを得た。前記イメージは、Olympus FLUOVIEW software ver.1.7で加工した。
【0057】
前記で得られたGFAP−GFP形質転換マウス小脳でのGFP、Best1及びGABAに対する抗体を利用した免疫組織化学共焦点イメージを図1Aに示した。
【0058】
図1Aの上段左側は、GFAP−ベルグマン膠細胞(矢印)と、層状星状膠細胞(lamella astrocyte、空色矢印ヘッド)とを表示するGFP染色の共焦点イメージ(緑色)である。プルキンエ細胞(Purkinje cell、星印)は、GFAP−GFP染色が観察されていない。上段右側は、Best1染色(赤色)とGFAP−GFPとを共に示す共焦点イメージである。Best1は、プルキンエ細胞(星印)及び他のニューロン(矢印ヘッド)だけではなく、顆粒層の膠細胞(空色矢印ヘッド)及び分子層のベルグマン膠細胞(矢印)でも多く発現した。下段左側は、GFAP−GFPとGABA(紫紅色)とを共に示す共焦点イメージであり。GABAは、GABA作動性ニューロン以外にも、層状星状膠細胞(空色矢印ヘッド)及びベルグマン膠細胞(矢印)で、GFAP−GFPと共に強力に共同発現する。下段右側は、GFAP−GFP、mBest1及びGABAを共に示す共焦点イメージである。図1Aによれば、ベルグマン膠細胞(矢印)、層状星状膠細胞(空色矢印ヘッド)及びGABA作動性ニューロン(星印及び白色矢印ヘッド)でのBest1免疫反応性強度が観察されるが、顆粒細胞では示されていない。
【0059】
また、図5のa−cは、成体マウス小脳の膠細胞において、mBest1とGABAとが強力に発現するということを示す免疫組織化学写真である。
【0060】
図5のaは、マウス小脳でのGABA、Best1及びGFAP−GFPの免疫組織化学的共焦点イメージである。GABA(最初のパネル)とBest1(二番目のパネル)とが、顆粒層より分子層で強力に発現するということが分かった。三番目のパネルは、ベルグマン膠細胞突起が、分子層のほとんどを占めるということを示す。最後のパネルは、GABA、Best1及びGFAP−GFPが合わさった共焦点イメージを示している。
【0061】
図5のbは、小脳のGABA染色及びGFAP−GFP染色の高倍率イメージを示している。GABAは、分子層のプルキンエ細胞とGABA作動性インターニューロンとで濃く染色された。しかし、ベルグマン細胞(星印)もまた、細胞体と突起(小さい黒色矢印ヘッド)とで、強力なGABA免疫反応性を示した。顆粒層(矢印)内の顆粒細胞は、明るい強度を有するGABAで染色され、顆粒細胞突起もまた、GABA(小さい白色矢印)で染色された。
【0062】
図5のcは、Best1染色とGFAP染色との高倍率(X60)イメージを示している。mBest1は、分子層内のベルグマン膠細胞(星印)と、顆粒層内の膠細胞(矢印)とで多く発現した。大きい矢印ヘッドは、mBest1を発現するが、GFAPで染色されていないプルキンエ細胞を示す。小さい矢印ヘッドは、顆粒層の星状膠細胞突起を示す。星状膠細胞突起もまた、mBest1を発現した。一番右のパネルは、DAPIで濃く染色された顆粒細胞を示すが、mBest1とGFAPとの免疫反応性は、観察されていない。
【0063】
前記図5のaないしcに示されているように、平行線維(parallel fiber)と上行線維(climbing fiber)とが接しており、密接に相互作用する分子層内のプルキンエ細胞細胞体と樹状突起(dendritic tree)とに沿って位置するベルグマン膠細胞突起が、Best1とGABAとを共同発現させる。かような結果は、Best1が小脳膠細胞でのGABA放出の分子的標的として作用しうるという可能性を提案することが可能である。
【0064】
〔実施例3:2−細胞スニファパッチ−Best1チャネル媒介GABA放出の確認〕
Best1チャネルがGABA放出を媒介するために、チャネル開放時に、GABAが透過可能でなければならないので、Best1がGABA放出通路であることを確認するために、Best1のGABA透過性を試験することが重要である。Best1チャネルのGABA透過性を試験するために、2−細胞スニファパッチ法(two-cell sniffer patch technique)を利用し、GABAcを発現するセンサ(sensor)HEK293T細胞(cell)でのBest1チャネルと、ソース(source)HEK293T細胞(cell)とで発現する異なるチャネルを介したGABA放出を直接的に測定した(図1B)。
【0065】
pIRES−Best1−dsREDプラスミド(Invitrogenから購入したpIRES−dsRED vectorにBest1をクローニングしたもの)と、GFPを有するGABAc(Invitrogenから購入したpcDNA 3.1 vectorにGABAcをクローニングしたもの)とを、エフェクテン形質感染試薬(Effectene transfection reagent、Qiagen)を使用し、それぞれHEK293T細胞(ATCC)内に形質感染させた。形質感染18ないし24時間後、電子生理学的記録のために、細胞を共にガラス・カバースリップ上にリプレーティングし、前記細胞を24ないし36時間以内にパッチクランプ実験に使用した。記録のために、一つはdsREDを含み、他の一つはGFPを含む、隣接した2つの細胞を選択してパッチした。このとき、前記隣接した2つの細胞の選択は、一つは、GABAcを有している緑色蛍光を帯びる細胞、他の一つは、pIRES−Best1−dsREDが形質感染された赤色蛍光を出す細胞を選別して行った。
【0066】
パッチピペット用内部溶液としては、次の通り、GABA放出のソースとしての3mMまたは140mMGABAと、Best1チャネルを活性化させるための生理学的範囲のマイクロモル濃度の遊離Ca2+(〜4.5μM)とを含むものを使用した。図1Bは、2−細胞スニファパッチの概略図であり、標識された構造体Best1(dsRed共同発現)またはGABAc(GFP共同発現)を発現するHEK細胞を示している。3mMまたは145mMのGABA及び0または4.5μMのCa2+をソース内に、細胞内ピペッティングする様子を示している。ソース細胞とセンサ細胞との明るい部分と蛍光イメージは、下部分に示されている。
【0067】
GABA放出のソース用として、3mM GABA(Tocris)、146mM CsCl、5mM(Ca2+)−EGTA(エチレングリコールビス(2−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸)−NMDG(N−メチル−D−グルカミン)、2mM MgCl2、10mM HEPES、10mMスクロース、4mM Mg−ATP及び0.3mM Na2−GTP(pH:7.3)を含むピペット溶液を使用した。センサ用として、110mM D−グルコネート、110mM CsOH、30mM CsCl、2mM MgCl2、4mM NaCl、5mM EGTA(エチレングリコールビス(2−アミノエチル−エーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸)、4mM Mg−ATP及び0.3mM Na2−GTP(pH:7.3)を含むピペット溶液を使用した。3mM GABA Zero Ca2+実験のために、5mM(Ca2+)−EGTA−NMDGを、5mM EGTA−NMDGの代わりに使用した。140mM GABA実験のために、3mM GABA及び146mM CsClを、140mM GABAに替えた。pHは、CsClで調整して、浸透圧は、290mOsmolに調節した。
【0068】
内部溶液として、150mM NaCl、10mM HEPES、3mM KCl、2mM CaCl2,2mM MgCl2及び5.5mMグルコースを含む溶液を使用した。ソースチャネルがGABAを通過させることができるならば、隣接する細胞上のGABAc受容体は、放出されたGABAと結合し、Cl−内部電流が誘導される。100μM GABAのバス(bath)適用によって、GABA電流の全体的な活性化が得られ、比較のために、これを標準化した。
【0069】
ソース細胞での全細胞形象(configuration)を調べるためのメンブレン・パッチの貫流(break-though)によって、GABA放出が誘導され、かようなGABA放出は、隣接したセンサ細胞によってモニタして探知した。GABA電流は、100μM GABAのバス適用によって完全に活性化され、完全な活性化程度(percentage)を計算し、図1C及び図1Dに示した。
【0070】
図1Cは、GABAの透過程度の試験結果を示している。透過されたGABAは、センサでの内向電流として測定した(下側トレース)。全細胞モードに進入するメンブレン貫流時点を、ソーストレース(上側トレース)上に、黒色矢印ヘッドで表示した。NPPBは、100μM濃度でもって使用した。Best1*(B1*)は、Best1−W93Cの気孔変異体(pore mutant)(Qu et al.,2006)を示す。前記変異体のGABA透過程度は、HEK293T細胞(ATCC)に、前記変異体を形質転換させて得られた細胞を使用して実験した。ANO1は、最近知られたTMEM16A Ca2+活性化塩化物チャネルである(Yang et al.,2008,Caputo et al.,2008:慶尚大、パク・チェヨン教授実験室)。前記AN01のGABA透過程度は、HEK293T細胞(ATCC)を、前記チャネルで形質転換させて得られた細胞を使用して実験した。
【0071】
図1Dは、多様な条件でのGABA放出程度を要約して示している。センサ細胞内の内向電流でもって測定されたGABA放出を、100μM GABAを利用した完全な活性化(full activation)として標準化し、完全な活性化に係わる%でもって示した。NPPBとNFAは、100μM濃度で使用した。SK1は、伝導度の低いCa2+活性化K+チャネル(small conductance Ca2+ activated K+ channel、Dr.Adelman Lab)である。前記SK1のGABA透過程度は、HEK293T細胞(ATCC)を、前記チャネルで形質転換させて得られた細胞を使用して実験した。平均値をmean+SEM(standard error of the mean)で表示した。全体的にstudent’s t-testを使用した(unpaired、2−tailed)。
【0072】
図1B、図1C及び図1Dに示されているように、Best1チャネルのみが、GABAに対して顕著な透過性を示した一方、最近特性が明らかになったAno1(またはTMEM−16A、Yang et al.,2008,Caputo et al.,2008)、またはCa2+活性化カリウムチャネルであるSK1は、GABAに対して透過性を示していない。かようなBest1を介したGABAの放出は、NFAやNPPBのような陰イオンチャネル遮断剤によって完壁に抑制され、細胞内のCa2+濃度及びGABA濃度に依存的であった。また、図1Dに示されているように、公知のBest1の気孔変異体であるBest1−W93C(Qu et al.,2006)は、GABA透過性を全く示さず、これは、Best1チャネルの気孔を介して、GABAが通過するということを支持するものである。
【0073】
また、図7は、NFA及びNPPBkによるGABA放出抑制は、前記化合物がGABAc受容体に直接的に作用することによって得られるものではないことを示している。図7A及び図7Bは、GABAcを発現するHEK293細胞を、100μM NFAと100μM NPPBとの不在下(図7A)または存在下(図7B)で、パッチクランピングし、100μM GABAで感染(challenge)させた結果を示すものである。図7Aと図7Bとから分かるように、GABAcを発現するHEK293細胞では、GABA放出が、NFAまたはNPPBの処理いかんと大きく関係していないと分かった。
【0074】
かような結果は、Best1チャネルが、本来の(native)細胞で直接透過を介したGABA放出を媒介するという可能性を提案するものである。
【0075】
〔実施例4:形質転換マウス試験−Best1チャネル媒介GABA放出の確認〕
(4.1:形質転換マウス作り)
本来の(naive)ベルグマン膠細胞がGABAを透過させることができる機能的Best1チャネルを発現し、Best1チャネルを分子レベルで操作できるか否かを試験するために、Cre−loxP組み合わせの調節下にあり、Cre−発現形質転換マウスとの組み合わせ時に、細胞類型特異的遺伝子沈黙を誘導するmCherry−tagged shRNAi(small hairpin-forming interference RNA)を運搬するレンチウイルスを構築した(図2A、Ventura et al.,2004)。図2Aは、Cre−lox調節(regulated)pSicoR−shRNAレンチウイルス構造体(lentivirus construct)(ADDGeneから購入したpSicoR vectorにBest1−shRNAをクローニングしたもの)の形態を示すものである。前記mCherry−tagged shRNAiを運搬するレンチウイルスは、Cre−lox調節pSicoR−shRNAレンチウイルス構造体にmCherryを付けたものである。2つのloxP部位が、U6プロモータ下のshRNAと、CMVプロモータ下のmCherryとを含む部位内に位置する。Creリコンビナーゼの発現時、この酵素は、前記カセットを除去してshRNAを非活性化させる。
【0076】
Best1標的shRNAレンチウイルス(実施例1.3で作る)を、6−7週齢のGFAP−GFPマウス(SPF room、Center for Neural Science、KIST、Seoul、Korea)の小脳皮質内に正位(streotactically)注入した(図2B)。図2Bは、B6野生型(SPFroom、Center for Neural Science、KIST、Seoul、Korea)、またはGFAP−GFPマウスを使用する実験日程(time line)を示すものである。6−7週齢マウスの小脳に、前記作られたレンチウイルスを注入した。小脳へのレンチウイルス注入7日後、免疫組織化学法記録または全細胞パッチクランプ記録を行った。
【0077】
(4.2:形質転換マウスを利用した免疫組織化学的分析)
前記レンチウイルス感染された細胞は、顆粒細胞層だけではなく、分子層内に広範囲に分布した(図2C右側及び図8A)。図2Cは、GFAP−GFP染色(緑色)、Best1(紫紅色)及びmCherry(赤色)を含むB1−shRNAレンチウイルスの形態である。Best1免疫反応性は、ウイルスが注入された部位で、ウイルスが注入されていない部位と比較し、顕著に低下していることが分かる。一方、2つの部位でのGFAP−GFP強度は、相対的に大きい違いがなかった。右側のイメージで、ノックダウン効果を、GFAP−GFPでスレッショルディングさせた後、GFAP−GFP強度によって標準化されたBest1強度でもって示した。mBest1−shRNA発現部位は、感染された部位(infected region)でのBest1の免疫反応性は、非感染部位(uninfected region)と比較して顕著に低下した(図2Cの右側グラフ)。かような結果は、Best1−shRNAの高効率と、Best1抗体の高い特異性とを確認させるのである。
【0078】
(4.3:形質転換マウスを利用した全細胞パッチクランプ記録)
[4.3.1:小脳薄片作り]
脳薄片を、Rossi et al.,2003に記載されているように作った。すなわち、薄片記録のために、約P28日のマウスまたは8週齢以上のマウスを使用した。動物をハロタン(halothane)で深く麻酔させた。頭を切った後、頭蓋骨から脳を素早く切除し、切断溶液(ice-cold cutting solution)に浸漬させた。前記溶液は、250mMスクロース、26mM NaHCO3、10mM D(+)−グルコース、4mM MgCl2、3mM myo−イノシトール、2.5mM KCl、2mMピルビン酸ナトリウム、1.25mM NaH2PO4、0.5mMアルコルビン酸、0.1mM CaCl2及び1mMキヌレン酸(pH7.4)を含む。あらゆる溶液を、95%O2−5%CO2でガス処理した。小脳虫部(vermis)両側をトリミングした後、小脳葉(cerebellar lobe)を含む250μm厚のいくつかの視床周囲薄片を、マイクロトーム(Leica VT 1000)で切断し、細胞外ACSF溶液に移した。前記溶液は、126mM NaCl、24mM NaHCO3、1mM NaH2PO4、2.5mM KCl、2.5mM CaCl2,2mM MgCl2及び10mM D(+)−グルコース(pH7.4)を含む。薄片を、少なくとも常温で1時間インキュベーティングした。
【0079】
[4.3.2:全細胞パッチ記録]
記録のために、薄片をflower controller(Synaptosoft)と真空ポンプ(Charles Austen、model Capex 8C)とによって調節され、ASCF(artificial cerebrospinal fluid、Sigma)溶液で継続して過冷却する(superfusing、流率:2ml/min)電子生理学的記録チャンバ(RC−26G、Warner Instruments)に移した。スライスチャンバを正立顕微鏡(upright microscope、Olympus、Japan)の載物台(stage)上に載せ、微分干渉対比(differential interference contrast)及び赤外線オプティックでX60水浸体(water immersion objective)で観察した。細胞形態を、Imaging Workbench 6.0(INDEC Systems、Inc)、camera controller(Hamamatsu、C4742−95)及びlight microscope controller(Olympus、TH4−200)を介して視覚的に確認した。水銀ランプ(Olympus、U−RFL−T)を利用し、蛍光イメージを観察した。ほぼ2−5小脳小葉に位置するベルグマン膠細胞または顆粒細胞細胞体から全細胞電圧−クランプ記録を得た。
【0080】
ベルグマン膠細胞記録のために、厚壁ボロシリケートガラス毛細管(thick-walled borosilicate glass capillaries、SC150F−10、Warner instrument Corp)からパッチピペット(8−10MΩ)を作った。GABAを使用しない対照実験のために、ピペットを、次の組成を含む内部溶液で充填させた:146mM CsCl、5mM(Ca2+)−EGTA−NMDG、2mM MgCl2、8mM HEPES、10mMスクロース、4mM Mg−ATP及び0.3mM Na2−GTP(pH:7.3)。
【0081】
140mM GABAを使用する実験のために、次の調整を有する内部溶液を使用した:140mM GABA、5mM(Ca2+)−EGTA−NMDG、2mM MgCl2、10mM HEPES、10mMスクロース、4mM Mg−ATP及び0.3mM Na2−GTP(pH:7.3、CsOHで調整)。浸透圧は、297及び290mOsmolに調整した。GFP蛍光イメージを介して、ベルグマン膠細胞を確認した。ベルグマン膠細胞の電圧クランピングのための維持電位(holding potential)を−70mVとした。
【0082】
顆粒細胞のためのピペット抵抗を、典型的に10−12MΩとし、ピペットを次の組成を有する内部溶液で充填させた:135mM CsCl、4mM NaCl、0.5mM CaCl2、10mM HEPES、5mM EGTA、2mM Mg−ATP、0.5mM Na2−GTP及び10mM QX−314、CsOHでpH7.2に調整(278−285mOsmol)(Rossi et al.,2003)。かような内部溶液、電圧クランプEcl=0mV及び維持電位−60mVで内向電流(inward current)が誘導された。
【0083】
ベルグマン膠細胞記録のための電極接点電位(electrode junction potential)を補正したが、顆粒細胞記録では、接点電位を補正していない。接点電位は、GABA無処理実験及び140mM GABA処理実験で、それぞれ+3.5mV及び−9.7mVとした。
【0084】
パフィング(puffing)実験のために、100mM GABAで充填されたガラス電極(5−6MΩ)をパッチされた顆粒細胞に隣接するように置き、MiniDigi(Molecular Device)と連結されたPicospritzerIII(Parker instrumentation)によって、500msの間簡単にパフィングさせた。
【0085】
プルキンエ細胞記録のために、パッチピペット(2−3MΩ)を、次の組成を有する内部溶液で充填させた:140mM K−グルコネート、10mM KCl、1mM MgCl2、10mM HEPES、0.02mM EGTA、4mM Mg−ATP及び0.4mM Na2−GTP、KOHでpH7.35に調整(Osmol:278−285)。前記細胞から記録されたデータのうち、30MΩ以上のアクセス抵抗(access resistance)で記録されたデータは廃棄した。
【0086】
前記得られた信号を計数化し、pCLAMP 10.2 software(Molecular Devices)を使用し、Digidata 1440A(Molecular Devices)及びMulticlamp 700B amplifier(Molecular Devices)で、50μs間隔でサンプリングした。Clampfit 10.2(Molecular Devices)、Minianalysis(Synaptosoft、USA)、SigmaPlot 10.0(SPSS)及びExcel 2003(Microsoft)を利用し、オフライン分析を行った。
【0087】
[4.3.3:薬物適用]
本実施例で使われたあらゆる薬物と化学物質は、次のような取り立てての言及がない限り、Sigma-Aldrich社から購入したものである:リドカインN−エチルブロマイド(QX−314、Sigma)、SR95531ヒドロブロマイド(GABAzine、Tocris)、コンカナマイシンA(concanamycinA)(Tocris)、BAPTA−AM(1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸テトラキス(アセトキシメチルエステル))(Tocris)、Fluronic(登録商標)F−127(invitrogen)、ニフルム酸(Sigma)、NPPB(5−ニトロ−2−(3−フェノールプロピルアミノ)安息香酸)(Tocris)、DIDS(4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸二ナトリウム塩水和物、Sigma)。
【0088】
[4.4.4:データ分析及び統計分析]
数値データは、means±S.E.M.で示した。比較用データの有意性は、Student’s two-tailed unpaired t testによって求め、有意レベルは、*(p<0.05)、**(p<0.01)及び***(p<0.001)で示した。データは、2kHzでフィルタリングした。
【0089】
Goldman-Hodgkin-Katz方程式を次の通り計算し、PX/PCl−を計算した。
【0090】
Erev=RT/F・ln{PCl−[Cl−]i+Px[X]i}/{PCl−[Cl−]o+Px[X]o}
[4.4.5:結果]
天然(naive)マウスと、レンチウイルス注入された成体マウスとの小脳内のベルグマン膠細胞から、全細胞パッチクランプ記録を行い、Best1の機能的発現を探索した。内部溶液で、前述のように陰イオンで、主にCl−またはGABAを含み、ここに加えて、て内在Best1チャネル活性化のための4.5μM遊離Ca2+を含むものを使用した。50μM NPPB適用の間のランプ電流トレース(ramp current trace、2秒後に100mVないし−100mV)を、NPPB適用前の基礎条件のランプ電流トレースから控除し、陰イオン電流を分離した(図2D)。ランプトレースの時間を電圧に変換し、各細胞に係わるNPPB敏感性陰イオン電流の電流−電圧関係を得た(図2D、図2E及び図2F)。図2Dは、ランププロトコル(ramp protocol、Vh=−70mV)を使用した膠細胞パッチ記録結果を示している。陰イオン電流は、naive GFAP−GFPマウスで、陰イオンチャネル遮断剤NPPB(50μM)によって減少した。GABA及びCl−の内部溶液組成物は、前述の通りである。電流−電圧トレースがそれぞれのランプトレースから発生した。控除された電流(subtracted current)は、NPPB敏感性電流を示す。一方、図2Eと図2Fは、それぞれscrambled shRNA注入されたGFAP−GFPマウス(図2E)と、Best1−shRNA注入されたGFAP−GFPマウス(図2F)とでの電流−電圧トレースを示している。
【0091】
図2Gは、それぞれの条件に係わるNPPB敏感性電流の電流−電圧トレースの平均を求めてフローティングしたものを示している。逆転電位(reversal potential)と、Goldman-Hodgkin-Huxley方程式とを利用し、GABA透過性を計算した。天然(naive)ベルグマン膠細胞でのCl−内部溶液下でのNPPB敏感性陰イオン電流は、−6.9mVの逆転電位を示した(図2G、黒色トレース、−3.5mV接触電位(junction potential)に対して補正)。これは、ビカーボネートの寄与を仮定し(PHCO3/PCl=0.44、Qu and Hartzell,2008)、Goldman-Hodgkin-Huxley方程式を使用し、+1mVの逆転電位から計算した値と大きく異なっていない。類似した方法で、GABA内部溶液下でのNPPB敏感性陰イオン電流のGABA透過率を測定し、PGABA/PCl=0.19を得た(図2G、緑色トレース)。天然(naive)細胞から得たGABA透過率は、scrambled−shRNA発現ベルグマン膠細胞のGABA透過率と有意味な違いがなかった(図2G、青色トレース)。NPPB敏感性電流をBest1−shRNA発現ベルグマン膠細胞虜から分離するとき、電流−電圧トレース傾度で表示される伝導度は、逆転電位変化なしに非常に減少した(図2G、赤色トレース)。
【0092】
Cl−の流入を示す100mVで測定された外向電流は、Cl−内部溶液とGABA内部溶液との間の有意味な違いを示さず(212.23±49.52pA(n=9)、112.52±20.93pA(n=8)、p=0.1)、これは、Cl−の流入が、内部的にCl−をGABAで置換することに大きく影響を受けないということを示している。GABAの流出を示す−80mVで測定された内向電流と、GABA内部溶液下で、Cl−の流入を示す100mVで測定された外向電流は、いずれもscrambled shRNA細胞及びBest1−shRNA細胞間で相当な差を示した(内向電流:−44.62±5.01pA(n=10)、−12.99±5.92pA(n=9)、p<0.001、図2H;外向電流:110.26±23.25pA(n=10)、38.31±12.02pA(n=9)、p=0.02)。図2Hは、Cl−とGABAとの流出を比較するために、前記図2Gで得た−80mVでの電流大きさを示している。B1−shRNA注入によるベストロフィンチャネルのノックダウンによって、GABA電流が顕著に減少したということが分かる。
【0093】
かような結果は、ベルグマン膠細胞で観察されるNPPB敏感性陰イオン電流が、ほとんど休止膜電位(resting membrane potential)で、GABAに係わる相当な透過性を示すBest1チャネルによって媒介されるということを示すのである。
【0094】
〔実施例5:Best1沈黙によるGABA放出抑制の確認〕
(5.1:ウイルス注入)
B6野生型マウス、GFAP−GFP形質転換マウス及びhGFAP−CreERT2形質転換マウス(SPF room、Center for Neural Science、KIST、Seoul、Korea)に、2%アベルチン(avertin、20μl/g、Sigma)を腹膜内注射して麻酔させ、立体正位固定台(stereotaxic frame、David Kopf instrument)に置いた。pSicoR−b1shRNA−mCherryウイルス−(Macrogen)またはscrambledウイルス(Macrogen)を、注射器ポンプ(Harvard apparatus)と25μl注射器(Hamilton company)とを使用し、0.2μl/min(総2μl)の速度で小脳皮質にステレオ注入した。注射部位のコーディネーション(coordination)は、ラムダ(lambda)から1.7mmであり、深さは、頭蓋骨から1.5−1.7mmとした。
【0095】
(5.2:クロメレオンイメージ(Clomeleon imaging))
Best1チャネルが、小脳での緊張性GABA放出を担当するということを試験するために、小脳の顆粒細胞での独占的発現を有するClomeleon形質転換マウスのThy1::CLM1ライン(Department of Neurobiology,Duke University Medical Center,Durham,North Carolina,USA)を使用し、顆粒細胞でのGABAA受容体媒介[Cl−]i挙動を光遺伝学的(optogenetic)アプローチを介して測定した(図3A及びBerglund and Augustine 2008)。
【0096】
図3Aは、Clomeleonイメージ半透明(translucent)プルキンエ細胞層(黒色矢印)によって分離された、明るい蛍光色の顆粒細胞層の顆粒細胞体と、分子層内に位置する平行線維とを示すCLM1 Clomeleonマウスの小脳切片のCFP−YFP FRET imaging技法を介して、細胞内Cl−濃度の変化を測定した結果を示すものである。緑色と赤色との四角形は、分子層(緑色)と顆粒細胞層(赤色)との目的部位を示す。
【0097】
Clomeleonは、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET:fluorescence resonance energy transfer)に基づく遺伝的にコーディングされたCl−に係わる蛍光指示剤であり、可変ペプチドリンカ(flexible peptide linker)を介して、塩化物無感応性シアン蛍光蛋白質と融合された塩化物敏感性黄色蛍光蛋白質を含む(Kuner and Augustine,2000)。Clomeleonマウスは、追加された空間情報と共に、小脳顆粒細胞での緊張性GABA放出を測定するのに有用である(Berglund et al.,submitted)。
【0098】
前記Clomeleon形質転換マウスに、pSicoR−b1shRNA−mCherryウイルス(Macrogrn)を注入した後、7−10日後に、前記ウイルス注入されたClomeleon形質転換マウスから、一般的な方法で小脳薄片を作った。略述すれば、イソフルランで麻酔させた後、頭を切ったマウスから脳を切除し、冷たいACSF(artificial cerebrospinal fluid、125mM NaCl、2.5mM KCl、1.25mM NaH2PO4、26mM NaHCO3、20mMd(+)−グルコース、2mM CaCl2及び1.3mM MgCl2を含む、95%O2/5%CO2、v/vでバブルリングした後、pH7.4に調整)に入れた。ビブラトム(vibratome、LEICA)を使用し、200μm厚の矢状切片(sagittal section)を得た。前記薄片を、使用前まで36℃で30分間インキュベーティングした。
【0099】
イメージングのために、顆粒細胞層と分子層とをカバーする2つのROI(regions of interest)を描画した。励起フィルタ(440±10nm)及び放出フィルタ(CFP用:485±15nm、YFP用:530±15nm)(Cameleons 2フィルタセット71007、Chroma Technologies、Rockingham、VT)を使用した。0.5Hzでの200ないし500ms間の連続的な2回の長い光パルスによって蛍光励起を発生させ、蛍光放出は、オンチップ・マルチプリケーション・ゲインコントロール(on-chip multiplication gain control)(Cascade 512B、Photometrics)を装着した背面照射(back-illuminated)冷却CCDカメラで、各波長で交互に収集した。イメージ獲得は、RatioTool software(ISee Imaging Systems、Raleigh、NC)及びPowerMac G4(Apple Computer)で調節した。
【0100】
予想されるように、シナプス外GABAA受容体の遮断が、Cl−の内向挙動を低減させるにつれ、10μM GABAzine(SR95531)のバス適用によって、分子層内の平行線維(図3B、緑色トレース)と、顆粒細胞体(図3B、赤色トレース)内の[Cl−]iとが顕著に減少した。興味深いことに、[Cl−]iの減少は、顆粒細胞と分子層の平行線維とで、同等なほどに顕著に示された。10μM NPPBを適用する場合、やはり2層いずれでも[Cl−]iを減少させた(図3B)。これは、緊張性GABAの減少を意味する。図3Bは、Clomeleonの比率イメージ(ratiometric imaging)であり、経時的な[Cl−]i変化を示している。10μM SR(SR95531またはGABAzine)、陰イオンチャネル遮断剤及びNPPB(10μM)は、[Cl−]iを減少させるということが分かった。
【0101】
NPPBによる[Cl−]i変化程度は、GABAzine(SR)による[Cl−]iの変化と密接な関連がある(図3C、r=0.96)。図3Cは、NPPBによる[Cl−]i変化と、SRによる[Cl−]i変化との相関関係を示すグラフであり、NPPBによる[Cl−]i変化は、SRによる[Cl−]i変化と密接な相関関係があるということを示す。
【0102】
かようなGABAA受容体活性化誘導[Cl−]i変化が、Best1チャネル依存的であるか否かを試験するために、Best1遺伝子沈黙を有するClomeleonマウスの顆粒細胞の[Cl−]i濃度を測定した。GABAzineによる[Cl−]i濃度変化は、scrambled shRNA注入された小脳切片(4.29±0.91mM、3.84±0.82mM、(n=8)、図3D)と比較し、Best1−shRNA注入された小脳切片(molecular layer:10.63±1.45mM、granule cell layer:11.44±1.5mM、(n=8)、図3E)で顕著に低下するということが分かった。前記図3D及び図3Eに示されたscrambled shRNA注入された小脳切片、及びBest1−shRNA注入された小脳切片でのSRによる[Cl−]i変化を整理し、図3Fに示した(p<0.005)。かような結果は、Best1チャネルの遺伝子沈黙が、顆粒細胞の平行線維だけではなく、細胞体でも、緊張性GABA放出を減少させるということを示す。
【0103】
(5.3:全細胞パッチクランプ記録)
Clomeleonマウスから得た結果を、Best1−shRNAレンチウイルスが注入された成体マウスの顆粒細胞での全細胞パッチクランプ記録によって確認した。GABAzine−敏感性電流は、天然(naive)マウス(35.68±4.05pA(n=8)、p<<0.001、図3G上側パネル)、またはscrambledマウス(26.62±2.85pA(n=13)、p<<0.001、図3G真ん中のパネル)の場合と比較し、Best1−shRNAレンチウイルス注入されたマウスで、顕著に減少した(図3G下側パネル、8.28±0.57pA、n=14)。図3Gの上側トレースは、8週齢B6マウスの小脳薄片(維持電位(holding potential):−60mV)の顆粒細胞から得た緊張性GABA電流の加工前トレースを示している。緊張性GABA電流は、50μM NPPBのバス適用によって減少した。青色矢印は、GABAzine(SR)敏感性緊張性GABA電流を示し、朱黄色矢印は、NPPB敏感性緊張性GABA電流を示す。真ん中のトレースは、scrambled shRNAレンチウイルス注入されたマウスに係わるものであり、下側トレースは、B1−shRNAレンチウイルス注入されたマウスに係わるものである。
【0104】
一方、GABAzine−敏感性電流(sensitive current)は、天然マウスとscrambledマウスとで、大きい差を示していない(p>0.09、図3H)。図3Hは、naiveマウス、scrambled shRNA注入されたマウス、及びB1−shRNA注入されたマウスから得たGABAzine−敏感性電流を要約したものである。Best1チャネルの遺伝子沈黙は、Best1−shRNA注入されたマウスでの緊張性GABA電流のNPPB敏感性成分を事実上除去し(−1.23±3.08pA、n=4)、これは、天然マウス(18.95±2.47pA(n=8)、p<0.002)またはscrambledマウス(12.98±2.57pA(n=4)、p<0.02、n=4)と比較するとき、顕著な差を示すものである(図3I参照)。図3Iは、NPPB敏感性電流に係わる要約を示している。
【0105】
NPPBは、GABA−誘導全細胞電流に直接的な影響を及ぼさないために(図7C及び図7D)、NPPBによる緊張性GABA電流の遮断は、顆粒細胞で発現するGABAA受容体上の該化合物の直接的作用に起因するものではないと考えられる。図7Cと図7Dは、野生型B6マウスへのNPPB適用が、小脳顆粒細胞内のGABA受容体に影響を及ぼさないということを示し、NPPB適用(2分及び5分)によるGABA誘導電流(induced current)大きさを示すグラフである。
【0106】
さらに他の陰イオン遮断剤であるNFA及びDIDSも、GABAzine−敏感性電流を顕著に遮断すると分かった(図6B及び図6G参照)。図6Bは、顆粒細胞での100μMニフルム酸処理による緊張性GABA電流を示すものであり、図6Gは、Ca2+敏感性Cl−チャネル遮断剤による緊張性電流の抑制率(%)を示す(使われたマウスの年齢:29.5±0.79、27±0、27.5±0.87、28±0.71及び74日(DIDS))。
【0107】
かような結果は、NPPB敏感性緊張性GABA放出が、小脳のBest1チャネルによって媒介されるということと、緊張性GABA電流は、陰イオンチャネル遮断剤によって抑制され、ベストロフィンチャネルの遺伝子沈黙によって減少するということと、を示している。
【0108】
〔実施例6:膠細胞特異的Best1チャネル構造による緊張性GABA電流の回復試験〕
膠細胞特異的に、Best1遺伝子沈黙が起こらないようにするために、タモシキフェン(tamoxifen)とBest1−shRNAレンチウイルスとが共に注入されたhGFAP−CreERT2マウスを利用し、緊張性GABA放出が、膠細胞Best1によるか否かを試験した(図4A及び図4B)。
【0109】
レンチウイルス注入前に、5日間タモシキフェンを腹膜内注入し、膠細胞特異的CreERT活性化を開始させた(図4A、図4B)。図4Aは、hGFAP−CreERTマウスに係わる試験設計を概略的に示すものである。タモキシフェンまたはひまわりオイルを、レンチウイルス注入前5日間、一日に1回ずつ腹膜内注入した。かような試験設計下で、前記発現したCreERTは、核(nucleus)に移動してBest1−shRNAを含むカセットを除去し、Best1−shRNAを非活性化させる(図4B参照)。図4Bは、膠細胞特異的構造を模式的に示し、Cre−ERTは、GFAPプロモータ(promoter)下で膠細胞特異的に発現し、タモキシフェン注入によって活性化され(activated)、shRNAによって非活性化される(inactivated)。
【0110】
Best1の膠細胞特異的構造の効果を、タモシキフェンまたはひまわりオイルの注入されたhGFAP−CreERT2マウスのうち一つで、Best1抗体を使用する免疫組織化学的方法で確認した(図8B参照)。一方、図4Cは、膠細胞での全細胞パッチクランプ記録を示している。上側トレースは、ひまわりオイル処理後、B1−shRNAレンチウイルス注入されたhGFAP−CreERTマウスでの緊張性GABA電流を示している。下の左側は、タモキシフェン処理後、B1−shRNAレンチウイルス注入されたhGFAP−CreERTでの緊張性GABA電流の加工前トレースを示している。Best1−shRNAレンチウイルスが注入され、ひまわりオイル処理されたhGFAP−CreERT2マウスで、GABAzine−敏感性電流が、同じレンチウイルス注入された野生型B6マウス(図3B)と類似したレベルまで顕著に減少した(図4C、上側トレース、35.68±4.05pA(naive、n=8)、11.27±1.22pA(ひまわりオイル処理、n=9)、p<0.003)。しかし、タモシキフェン処理され、Best1−shRNAレンチウイルス注入されたhGFAP−CreERT2マウスで、GABAzine−敏感性電流は、天然レベルに完全に回復した(図4C、下側トレース、タモキシフェン処理:31.31±2.19pA(n=8)、naive:35.68±4.05pA(n=12)、p=0.36)。
【0111】
図4Dは、タモシキフェン処理、あるいは未処理の場合のGABAzine−敏感性電流を示すものである。図4Dから分かるように、タモシキフェン処理、あるいは未処理の場合のGABAzine−敏感性電流は、相当な差を示している(p<<0.001)。図4Eは、タモシキフェン処理、あるいは未処理の場合のNPPB敏感性電流を示すものである。図4Eから分かるように、NPPB敏感性電流はまた、タモシキフェン処理されたマウスで、完全に回復している(naive:18.95±2.47pA、n=8;タモキシフェン処理:19.27±2.2pAn=9、p=0.93;タモキシフェン未処理:1.93±1.56pA、n=4、p=0.00005)。かような結果は、膠細胞Best1チャネルが、小脳顆粒細胞で検出されるほとんどの緊張性GABA放出を担当するということを示すものである。
【0112】
NPPB敏感性及びBest1媒介の緊張性GABA放出量は、全体GABAzine敏感性電流の約70%ほどである。残存するGABAzine敏感性電流、NPPB−無感応性電流及びBest1独立的電流のソースが、現在まで知られない状態であり、これに係わるさらなる研究が必要である。クローニングされたベストロフィンチャネルは、〜200nM範囲で、Ca2+による活性化のための見かけKdを有する低いCa2+濃度範囲で活性化されると知られている(Hartzell et al.,2008)。天然(naive)Best1チャネルが、同じCa2+敏感性を有するならば、基底遊離細胞質Ca2+が、一般的に約100nmであるために、Best1チャネルは、いつも部分的に活性化されていなければならず、これは、前記チャネルを介したGABAの構成的放出(constitutive release)を誘発することになる。かような提案に符合し、25min BAPTA−AM処理による遊離細胞質Ca2+のキレーティングによって、GABAzine−敏感性電流が顕著に減少すると分かった(図6C、図6D、図6F及び図6G参照)。図6Cは、顆粒細胞での150μM BAPTA−AMと共にインキュベーティングした(incubated)場合の緊張性GABA電流を示したものであり、図6Dは、0.5μMコンカナマイシンA(concanamycin A)と共にインキュベーティングした場合の緊張性GABA電流を示したものであり、前記図6C及び図6Dから分かるように、BAPTA−AM処理時には、緊張性GABA電流が顕著に減少した一方、コンカナマイシンA処理時には、そうではなかったということである。図6Fは、無処理(untreated)、コンカナマイシンA処理及びBAPTA−AM処理時のGABAzine敏感性電流を示している。
【0113】
Clomeleonイメージから得られたかような結果は、緊張性GABAが、分子層の平行線維から検出され、このように、ベルグマン細胞の幹から放出されたかようなGABAは、強力な抑制性の役割を行い、さらに、プルキンエ細胞のデンドライト上のグルタメートのシナプス放出及び平行線維の局部的興奮にも深い影響を及ぼすということを提案する(図4F)。図4Fは、小脳での緊張性GABA放出の提案モデル(suggested model for tonic GABA release)である。
【0114】
要約するに、本発明は、最近特徴が明らかになった小脳膠細胞のベストロフィンチャネルを介した緊張性GABA放出のメカニズム、直接的透過による伝達物質のチャネル媒介放出での特有な役割、及びニューロン興奮性を調節する主要抑制性伝達物質GABAを放出する際の膠細胞の新規の機能を初めて提案するものである。かような抑制性膠細胞伝達物質(gliotransmitter)のチャネル媒介放出の重要性は、脳機能での膠細胞のまだ明らかにされていない多くの生理学的役割に係わる理解を提供するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベストロフィン1チャネル抑制剤を有効成分として含み、小脳でのγ-アミノ酪酸(GABA)放出を抑制する、GABA過放出による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項2】
前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、陰イオンチャネル遮断剤、及びベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNA及びshRNA(small hairpin RNA)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の、GABA過放出による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項3】
前記陰イオンチャネル遮断剤は、ニフルム酸、flumenamic acid、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)、及び4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項2に記載の、GABA過放出による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項4】
前記ベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列は、配列番号1または配列番号2の配列であることを特徴とする請求項2に記載の、GABA過放出による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項5】
前記shRNAは、配列番号3、配列番号4及び配列番号7からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項2に記載の、GABA過放出による疾病の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項6】
前記GABA過放出による疾病または症状は、癲癇、睡眠障害、記憶障害、知覚障害、認知障害、運動障害、学習障害、アルコール中毒及び運動失調症からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のうちいずれか1項に記載の、GABA過放出による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項7】
ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として含み、小脳でのγ-アミノ酪酸(GABA)放出を促進する、GABA不足による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項8】
前記ベストロフィン1チャネル活性化剤は、ペプチドTFLLR及びブラジキニンからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項7に記載の、GABA不足による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項9】
前記GABA不足による疾病または症状は、アルツハイマーまたは老化性記憶減退、発作(epileptic seizure)、神経伝達物質誘発興奮毒性、虚血、脳卒中、脳出血、癲癇、脳外傷及び低酸素症からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の、GABA不足による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項10】
小脳サンプルを準備する段階と、
候補物質を前記サンプルと接触させる段階と、
前記小脳サンプルでのベストロフィン1チャネルの活性化いかんを確認する段階と、を含み、
ベストロフィン1チャネルが活性化された場合、前記候補物質をγ-アミノ酪酸(GABA)放出促進剤として決定し、ベストロフィン1チャネルが非活性化される場合、前記候補物質をGABA放出抑制剤として決定することを特徴とする、小脳でのGABA放出調節剤のスクリーニング方法
【請求項11】
小脳膠細胞でのベストロフィン1チャネルの活性化いかんを確認することを特徴とする請求項10に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
ベストロフィン1チャネルの活性化いかんを、スニファパッチ法による内向電流変化測定によって確認することを特徴とする請求項10に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
γ-アミノ酪酸(GABA)過放出による疾病または症状を有する患者を確認する段階と、
ベストロフィン1チャネル抑制剤の治療的有効量を前記患者に投与し、前記患者の小脳でのGABA放出を抑制させる段階と、を含む、GABA過放出による疾病または症状の予防または改善または治療方法。
【請求項14】
前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、陰イオンチャネル遮断剤、及びベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNA及びshRNA(small hairpin RNA)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記陰イオンチャネル遮断剤は、ニフルム酸、flumenamic acid、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)、及び4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列は、配列番号1または配列番号2の配列であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記shRNAは、配列番号3、配列番号4及び配列番号7からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記GABA過放出による疾病または症状は、癲癇、睡眠障害、記憶障害、知覚障害、認知障害、運動障害、学習障害、アルコール中毒及び運動失調症からなる群から選択されたことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項19】
γ-アミノ酪酸(GABA)不足による疾病または症状を有する患者を確認する段階と、
ベストロフィン1チャネル活性化剤の治療的有効量を前記患者に投与し、前記患者の小脳でのGABA放出を促進させる段階と、を含む、GABA不足による疾病または症状の予防または改善または治療方法。
【請求項20】
前記ベストロフィン1チャネル活性化剤は、ペプチドTFLLR及びブラジキニンからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記GABA不足による疾病または症状は、アルツハイマーまたは老化性記憶減退、発作(epileptic seizure)、神経伝達物質誘発興奮毒性、虚血、脳卒中、脳出血、癲癇、脳外傷及び低酸素症からなる群から選択されたことを特徴とする請求項19または請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ベストロフィン1チャネル抑制剤のγ-アミノ酪酸(GABA)過放出による疾病または症状の予防、改善または治療のための用途であって、前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、小脳でのGABA放出を抑制させることを特徴とする用途。
【請求項23】
前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、陰イオンチャネル遮断剤、及びベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNA及びshRNA(small hairpin RNA)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項22に記載の用途
【請求項24】
前記陰イオンチャネル遮断剤は、ニフルム酸、flumenamic acid、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)、及び4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項23に記載の用途。
【請求項25】
前記ベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列は、配列番号1または配列番号2の配列であることを特徴とする請求項23に記載の用途。
【請求項26】
前記shRNAは、配列番号3、配列番号4及び配列番号7からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項23に記載の用途。
【請求項27】
前記GABA過放出による疾病または症状は、癲癇、睡眠障害、記憶障害、知覚障害、認知障害、運動障害、学習障害、アルコール中毒及び運動失調症からなる群から選択されたことを特徴とする請求項22ないし請求項26のうちいずれか1項に記載の用途。
【請求項28】
ベストロフィン1チャネル活性化剤のγ-アミノ酪酸(GABA)不足による疾病または症状の予防、改善または治療のための用途であって、前記ベストロフィン1チャネル活性化剤は、小脳でのGABA放出を促進させることを特徴とする用途。
【請求項29】
前記ベストロフィン1チャネル活性化剤は、ペプチドTFLLR及びブラジキニンからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項28に記載の用途。
【請求項30】
前記GABA不足による疾病または症状は、アルツハイマーまたは老化性記憶減退、発作(epileptic seizure)、神経伝達物質誘発興奮毒性、虚血、脳卒中、脳出血、癲癇、脳外傷及び低酸素症からなる群から選択されたことを特徴とする請求項28または請求項29の記載の用途。
【請求項31】
ベストロフィン1チャネル抑制剤の治療的有効量を、γ-アミノ酪酸(GABA)放出抑制が必要な患者に投与し、前記患者の小脳膠細胞で、ベストロフィン1チャネル活性を抑制させる段階を含む、小脳でのGABA放出を抑制させる方法。
【請求項32】
前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、陰イオンチャネル遮断剤、及びベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNA及びshRNA(small hairpin RNA)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記陰イオンチャネル遮断剤は、ニフルム酸、flumenamic acid、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)、及び4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列は、配列番号1または配列番号2の配列であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記shRNAは、配列番号3、配列番号4及び配列番号7からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項36】
ベストロフィン1チャネル活性化剤の治療的有効量を、γ-アミノ酪酸(GABA)放出促進が必要な患者に投与し、前記患者の小脳膠細胞で、ベストロフィン1チャネル活性を促進させる段階を含む、小脳でのGABA放出を促進させる方法。
【請求項37】
前記ベストロフィン1チャネル活性化剤は、ペプチドTFLLR及びブラジキニンからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項38】
ベストロフィン1チャネル抑制剤の小脳でのγ-アミノ酪酸(GABA)放出を抑制させる用途。
【請求項39】
前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、陰イオンチャネル遮断剤、及びベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNA及びshRNA(small hairpin RNA)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項38に記載の用途。
【請求項40】
前記陰イオンチャネル遮断剤は、ニフルム酸、flumenamic acid、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)、及び4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項39に記載の用途。
【請求項41】
前記ベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列は、配列番号1または配列番号2の配列であることを特徴とする請求項39に記載の用途。
【請求項42】
前記shRNAは、配列番号3、配列番号4及び配列番号7からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項39に記載の用途。
【請求項43】
ベストロフィン1チャネル活性化剤の小脳でのγ-アミノ酪酸(GABA)放出を促進させる用途。
【請求項44】
前記ベストロフィン1チャネル活性化剤は、ペプチドTFLLR及びブラジキニンからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項43に記載の用途。
【請求項1】
ベストロフィン1チャネル抑制剤を有効成分として含み、小脳でのγ-アミノ酪酸(GABA)放出を抑制する、GABA過放出による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項2】
前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、陰イオンチャネル遮断剤、及びベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNA及びshRNA(small hairpin RNA)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の、GABA過放出による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項3】
前記陰イオンチャネル遮断剤は、ニフルム酸、flumenamic acid、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)、及び4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項2に記載の、GABA過放出による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項4】
前記ベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列は、配列番号1または配列番号2の配列であることを特徴とする請求項2に記載の、GABA過放出による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項5】
前記shRNAは、配列番号3、配列番号4及び配列番号7からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項2に記載の、GABA過放出による疾病の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項6】
前記GABA過放出による疾病または症状は、癲癇、睡眠障害、記憶障害、知覚障害、認知障害、運動障害、学習障害、アルコール中毒及び運動失調症からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のうちいずれか1項に記載の、GABA過放出による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項7】
ベストロフィン1チャネル活性化剤を有効成分として含み、小脳でのγ-アミノ酪酸(GABA)放出を促進する、GABA不足による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項8】
前記ベストロフィン1チャネル活性化剤は、ペプチドTFLLR及びブラジキニンからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項7に記載の、GABA不足による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項9】
前記GABA不足による疾病または症状は、アルツハイマーまたは老化性記憶減退、発作(epileptic seizure)、神経伝達物質誘発興奮毒性、虚血、脳卒中、脳出血、癲癇、脳外傷及び低酸素症からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の、GABA不足による疾病または症状の予防用、改善用または治療用の組成物。
【請求項10】
小脳サンプルを準備する段階と、
候補物質を前記サンプルと接触させる段階と、
前記小脳サンプルでのベストロフィン1チャネルの活性化いかんを確認する段階と、を含み、
ベストロフィン1チャネルが活性化された場合、前記候補物質をγ-アミノ酪酸(GABA)放出促進剤として決定し、ベストロフィン1チャネルが非活性化される場合、前記候補物質をGABA放出抑制剤として決定することを特徴とする、小脳でのGABA放出調節剤のスクリーニング方法
【請求項11】
小脳膠細胞でのベストロフィン1チャネルの活性化いかんを確認することを特徴とする請求項10に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
ベストロフィン1チャネルの活性化いかんを、スニファパッチ法による内向電流変化測定によって確認することを特徴とする請求項10に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
γ-アミノ酪酸(GABA)過放出による疾病または症状を有する患者を確認する段階と、
ベストロフィン1チャネル抑制剤の治療的有効量を前記患者に投与し、前記患者の小脳でのGABA放出を抑制させる段階と、を含む、GABA過放出による疾病または症状の予防または改善または治療方法。
【請求項14】
前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、陰イオンチャネル遮断剤、及びベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNA及びshRNA(small hairpin RNA)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記陰イオンチャネル遮断剤は、ニフルム酸、flumenamic acid、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)、及び4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列は、配列番号1または配列番号2の配列であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記shRNAは、配列番号3、配列番号4及び配列番号7からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記GABA過放出による疾病または症状は、癲癇、睡眠障害、記憶障害、知覚障害、認知障害、運動障害、学習障害、アルコール中毒及び運動失調症からなる群から選択されたことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項19】
γ-アミノ酪酸(GABA)不足による疾病または症状を有する患者を確認する段階と、
ベストロフィン1チャネル活性化剤の治療的有効量を前記患者に投与し、前記患者の小脳でのGABA放出を促進させる段階と、を含む、GABA不足による疾病または症状の予防または改善または治療方法。
【請求項20】
前記ベストロフィン1チャネル活性化剤は、ペプチドTFLLR及びブラジキニンからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記GABA不足による疾病または症状は、アルツハイマーまたは老化性記憶減退、発作(epileptic seizure)、神経伝達物質誘発興奮毒性、虚血、脳卒中、脳出血、癲癇、脳外傷及び低酸素症からなる群から選択されたことを特徴とする請求項19または請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ベストロフィン1チャネル抑制剤のγ-アミノ酪酸(GABA)過放出による疾病または症状の予防、改善または治療のための用途であって、前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、小脳でのGABA放出を抑制させることを特徴とする用途。
【請求項23】
前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、陰イオンチャネル遮断剤、及びベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNA及びshRNA(small hairpin RNA)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項22に記載の用途
【請求項24】
前記陰イオンチャネル遮断剤は、ニフルム酸、flumenamic acid、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)、及び4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項23に記載の用途。
【請求項25】
前記ベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列は、配列番号1または配列番号2の配列であることを特徴とする請求項23に記載の用途。
【請求項26】
前記shRNAは、配列番号3、配列番号4及び配列番号7からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項23に記載の用途。
【請求項27】
前記GABA過放出による疾病または症状は、癲癇、睡眠障害、記憶障害、知覚障害、認知障害、運動障害、学習障害、アルコール中毒及び運動失調症からなる群から選択されたことを特徴とする請求項22ないし請求項26のうちいずれか1項に記載の用途。
【請求項28】
ベストロフィン1チャネル活性化剤のγ-アミノ酪酸(GABA)不足による疾病または症状の予防、改善または治療のための用途であって、前記ベストロフィン1チャネル活性化剤は、小脳でのGABA放出を促進させることを特徴とする用途。
【請求項29】
前記ベストロフィン1チャネル活性化剤は、ペプチドTFLLR及びブラジキニンからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項28に記載の用途。
【請求項30】
前記GABA不足による疾病または症状は、アルツハイマーまたは老化性記憶減退、発作(epileptic seizure)、神経伝達物質誘発興奮毒性、虚血、脳卒中、脳出血、癲癇、脳外傷及び低酸素症からなる群から選択されたことを特徴とする請求項28または請求項29の記載の用途。
【請求項31】
ベストロフィン1チャネル抑制剤の治療的有効量を、γ-アミノ酪酸(GABA)放出抑制が必要な患者に投与し、前記患者の小脳膠細胞で、ベストロフィン1チャネル活性を抑制させる段階を含む、小脳でのGABA放出を抑制させる方法。
【請求項32】
前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、陰イオンチャネル遮断剤、及びベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNA及びshRNA(small hairpin RNA)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記陰イオンチャネル遮断剤は、ニフルム酸、flumenamic acid、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)、及び4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列は、配列番号1または配列番号2の配列であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記shRNAは、配列番号3、配列番号4及び配列番号7からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項36】
ベストロフィン1チャネル活性化剤の治療的有効量を、γ-アミノ酪酸(GABA)放出促進が必要な患者に投与し、前記患者の小脳膠細胞で、ベストロフィン1チャネル活性を促進させる段階を含む、小脳でのGABA放出を促進させる方法。
【請求項37】
前記ベストロフィン1チャネル活性化剤は、ペプチドTFLLR及びブラジキニンからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項38】
ベストロフィン1チャネル抑制剤の小脳でのγ-アミノ酪酸(GABA)放出を抑制させる用途。
【請求項39】
前記ベストロフィン1チャネル抑制剤は、陰イオンチャネル遮断剤、及びベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列に係わるアンチセンスRNA及びshRNA(small hairpin RNA)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項38に記載の用途。
【請求項40】
前記陰イオンチャネル遮断剤は、ニフルム酸、flumenamic acid、5−ニトロ−2(3−フェニルプロピルアミノ)−ベンゾ酸(NPPB)、及び4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項39に記載の用途。
【請求項41】
前記ベストロフィン1チャネルコーディング・ヌクレオチド配列は、配列番号1または配列番号2の配列であることを特徴とする請求項39に記載の用途。
【請求項42】
前記shRNAは、配列番号3、配列番号4及び配列番号7からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項39に記載の用途。
【請求項43】
ベストロフィン1チャネル活性化剤の小脳でのγ-アミノ酪酸(GABA)放出を促進させる用途。
【請求項44】
前記ベストロフィン1チャネル活性化剤は、ペプチドTFLLR及びブラジキニンからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項43に記載の用途。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図2g】
【図2h】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図3f】
【図3g】
【図3h】
【図3i】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図6e】
【図6f】
【図6g】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8a】
【図8b】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図2g】
【図2h】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図3f】
【図3g】
【図3h】
【図3i】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図6e】
【図6f】
【図6g】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8a】
【図8b】
【公表番号】特表2013−502455(P2013−502455A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526640(P2012−526640)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005653
【国際公開番号】WO2011/025230
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(304039548)コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー (36)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005653
【国際公開番号】WO2011/025230
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(304039548)コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー (36)
【Fターム(参考)】
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