説明

小腸粘膜障害の予防・治療薬剤としての医薬組成物

【課題】小腸粘膜障害を予防又は治療するための医薬組成物を提供する。
【解決手段】小腸粘膜障害の予防・治療薬剤としてのアズレン誘導体を有効成分として含有する医薬組成物である。また、小腸粘膜障害の予防・治療薬剤としてのアズレン誘導体とグルタミンを有効成分として含有する医薬組成物である。アズレン誘導体はアズレンスルホン酸ナトリウム又はそのプロドラッグ或はその薬理上許容される塩が好ましい。また、アズレン誘導体はエグアレンナトリウム又はそのプロドラッグ或はその薬理上許容される塩が好ましい。また、グルタミンとアズレンスルホン酸ナトリウムの配合割合(グルタミン:アズレンスルホン酸ナトリウム)が質量比で200〜400:1である医薬組成物が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスピリン小腸粘膜障害などの小腸粘膜障害を予防又は治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
小腸内部の様子は、従来から内視鏡も届かないところから、生体の暗黒部位と呼ばれていた。最近になり、ダブルバルーン内視鏡とカプセル内視鏡の発明により小腸粘膜像が得られるようになってきた。一方、高齢社会を迎え増加している虚血性心疾患・脳血管疾患・動脈硬化疾患等の心血管疾患の一次及び二次予防薬としてアスピリン、特に低用量アスピリンの使用が急速に広まっている。それらの結果、予想以上に小腸粘膜障害が発生していることが、カプセル内視鏡とダブルバルーン内視鏡の発達に伴い発見され、新たな問題として、国内外を含め、医学・臨床上極めて重要な課題となってきた。
【0003】
非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)が、胃・十二指腸のいわゆる上部消化管に障害を引き起こすことは古くから知られ、その対策や治療法が従来から取られてきた。しかし、下部消化管である小腸障害については、先に述べた理由により、従来からあまり注意が払われておらず、また良い治療法も確立されていなかった。小腸障害についての治療法の未開発な理由の一つは、薬剤効果を検定する適切な動物モデルが無かったことに起因する。
【0004】
即ち、胃と十二指腸である上部消化管障害のモデルとしては、ストレス胃潰瘍、アスピリン胃潰瘍、インドメタシン胃潰瘍、酢酸胃・十二指腸潰瘍モデルが開発されている(例えば、非特許文献1)のに対し、アスピリン小腸粘膜障害などの小腸粘膜障害の動物モデルは開発が遅れており、再現性に優れた動物モデルの確立が望まれている。下部消化管、特に小腸粘膜損傷のモデル動物の研究が遅れていた理由は、胃・十二指腸のように酸が存在しない小腸に実際アスピリン等の薬物が損傷を惹起できるのかといった問題のほかに、小腸に薬物を直接滞留させることが困難であったことに拠ると思われる。
【0005】
この様な状況下で、本発明者は鋭意研究の結果、簡便で、かつ、再現性にとみ、治療薬に感受性がある動物モデルを作成した。即ち、従来のアスピリン胃潰瘍作成のように動物に経口ゾンデでアスピリンの様な起炎物質を投与すると、最初に胃粘膜に接触してしまい、胃には損傷ができても小腸には損傷ができない欠点があった。そこで本発明者は、腸粘膜に直接接触させるために、カプセルにメチルセルロース、乳糖、その他の適当な分散体と共にアスピリンのような起炎剤を単独で、または分散させ、そのカプセルを麻酔下で動物を開腹して、小腸に直接挿入するか、起炎剤を懸濁液として小腸に直接注入することにより、一定時間後に小腸粘膜に損傷が安定して発生することを確かめた(非特許文献2)。この動物モデルを用いると、小腸粘膜損傷保護作用のある薬物を検索できる。一方、グルタミンとアズレン誘導体とを配合した薬剤が胃潰瘍、十二指腸潰瘍の予防・治療に効果があることは知られている(特許文献1、特許文献2)が、これが小腸粘膜障害の予防又は治療に効果があることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−26286号公報
【特許文献2】特開2003−212769号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「日本薬理学会誌」1969年、19巻3号、418−26
【非特許文献2】第36回日本潰瘍学会抄録集、2008年9月5日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、小腸粘膜障害を予防又は治療するための医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明らは、上記の動物モデルを用いて、小腸粘膜損傷保護作用のある薬物を検索し、その結果、プロトンポンプ阻害剤、ヒスタミンH受容体拮抗剤等の酸分泌抑制剤は小腸粘膜損傷を予防・治療できないが、アズレン誘導体或いはアズレン誘導体とグルタミンとの配合剤が小腸粘膜障害を予防・治療できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、小腸粘膜障害の予防・治療薬剤としてのアズレン誘導体を有効成分として含有する医薬組成物である。また、本発明は、小腸粘膜障害の予防・治療薬剤としてのアズレン誘導体とグルタミンを有効成分として含有する医薬組成物である。アズレン誘導体はアズレンスルホン酸ナトリウム又はそのプロドラッグ或はその薬理上許容される塩が好ましい。また、アズレン誘導体はエグアレンナトリウム又はそのプロドラッグ或はその薬理上許容される塩が好ましい。また、グルタミンとアズレンスルホン酸ナトリウムの配合割合(グルタミン:アズレンスルホン酸ナトリウム)が質量比で200〜400:1である医薬組成物が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
小腸粘膜障害の治療法については、従来から用いられている胃潰瘍治療法とは根本的に異なる。即ち胃には強い塩酸分泌があり、胃内の酸度(pH)は強酸性(pH=1〜2)を示すのに対し、小腸内の酸度は胃内とは異なり既に中性ないし弱アルカリ(pH=8〜9)であり、胃内と小腸内では大きく異なっている。そのため、従来胃潰瘍の治療に用いられているヒスタミンH受容体拮抗剤、プロトンポンプ阻害剤のような胃酸分泌抑制剤は効果を発揮できなく、汎用されているプロトンポンプ阻害剤は小腸粘膜障害に無効である。また、酸性条件下のみでしか粘膜保護作用を示さない粘膜保護剤も弱アルカリ性環境下の小腸内では、粘膜保護効果は期待出来ない。しかるに、従来胃潰瘍、十二指腸潰瘍の治療に用いられてきた、本発明のアズレン誘導体を有効成分として含有する医薬組成物、或いはグルタミンとアズレン誘導体とを配合してなる医薬組成物は、良い治療法が確立されていないアスピリン小腸粘膜障害などの小腸粘膜障害の予防・治療にも有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、小腸粘膜障害の予防・治療薬剤としてのアズレン誘導体を有効成分として含有する医薬組成物である。このアズレン誘導体としては、アズレンスルホン酸ナトリウム或はそのプロドラッグ又はその薬理上許容される塩、エグアレンナトリウム[化学名:3−エチル−7−イソプロピル−1−アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3 水和物]或はそのプロドラッグ又はその薬理上許容される塩などが用いられる。また、本発明は、小腸粘膜障害の予防・治療薬剤としてのアズレン誘導体とグルタミンを有効成分として含有する医薬組成物である。このグルタミンとしては、L−グルタミン、グルタミン酸などが用いられる。
【0013】
アズレン誘導体とグルタミンを組み合わせて用いるときの両者の配合量は、質量比で、グルタミン:アズレン誘導体=100〜500:1の範囲内が適当である。アズレン誘導体としてアズレンスルホン酸ナトリウム又はそのプロドラッグ或はその薬理上許容される塩を用いる場合は、グルタミンと組み合わせるのが好ましい。グルタミンとアズレンスルホン酸ナトリウムの割合(グルタミン:アズレンスルホン酸ナトリウム)は、200〜400:1が好ましい。本発明の医薬組成物は、アズレン誘導体又はアズレン誘導体とグルタミンとを、適宜の薬理学的に許容される賦形剤や希釈剤等と混合し、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤又はシロップ剤等の経口剤的に、若しくは坐剤等の非経口的に投与することができる。
【0014】
その投与量は症状、年齢、体重等により異なるが、経口投与の場合には、アズレン誘導体のとして1mgから100mgであり、1日1回乃至数回症状に応じて投与される。また、グルタミンとアズレン誘導体の組成物としては、500mgから3000mgであり、1日1回乃至数回症状に応じて投与される。
【0015】
(実験例1)
A:一晩絶食した8〜10週齢の雄性ラット(SD)をエーテル麻酔下で正中線に沿って開腹し、十二指腸を露出させ、出血に注意しながら、アスピリン50mg懸濁液を十二指腸内投与し、縫合した。手術後動物の回復を待ち、しばらくの間絶食放置した。このアスピリン50mg懸濁液は、2%メチルセルロース・0.1N塩酸溶液を使用して作成した。
B:4時間絶食(但し自由摂水)した8〜10週齢の雄性ラット(SD)をエーテル麻酔下で正中線に沿って開腹し、十二指腸を露出させ、出血に注意しながら、アスピリン200mg懸濁液懸濁液を十二指腸内投与し、縫合した。手術後動物の回復を待ち、しばらくの間絶食放置した。このアスピリン200mg懸濁液は、2%メチルセルロース水溶液を使用して作成した。
【0016】
上記A、Bそれぞれについて、1時間以後、エーテル麻酔下に動物を殺し、小腸を摘出した。摘出した小腸から病理組織標本を作製し、顕微鏡下で観察し、その障害の程度を数値化して評価した。すなわち、幽門部に注射針、ピンセット等の処置により損傷ができているため、幽門部から3cmの部位を起点とし、この起点から35cmまでの腸管について、3cmごとに腸管約1cmを取り出し(全部で8個)、各部位の組織像を、次の0、1、2の3段階に別けてスコア化した。各部位のスコアを累積してその個体の小腸粘膜障害スコアとした。
0:損傷の無いもの
1:損傷の軽度のもの(小腸粘膜の上部の損傷と出血)
2:損傷の重いもの(小腸壁層の半分に達する損傷と広範な出血)
このスコアを8匹の動物それぞれについて記録した。
結果は、各群の平均値±標準誤差で表した。障害対照または正常対照との平均値の比較は、多群間の比較検定で行った。すなわち、Kruskal-Wallis検定を行い、分散が等しい場合はDunnettの検定、分散が異なる場合はSteelの検定を行った。なお、危険率が5%未満(P<0.05)の場合を有意差ありとした。その結果を表1に示す。表1から分かるように、動物間での発生の差が少なく、この動物モデルは再現性に優れている。
【0017】
【表1】

【0018】
(実験例2)
上記実験例1のAの小腸粘膜損傷惹起操作1時間前に、エグアレンナトリウムを経口投与し、実験例1のAと同様にして小腸粘膜損傷を観察して、エグアレンナトリウムの効果を調べた。エグアレンナトリウムの投与量は、3mg/kg、10mg/kg、30mg/kgであった。対照群には、エグアレンナトリウムを経口投与しなかった。その結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
(実験例3)
上記実験例1のAの小腸粘膜損傷惹起操作1時間前に、L−グルタミンとアズレンスルホン酸ナトリウムの配合薬(L−グルタミン:アズレンスルホン酸ナトリウム=330:1)を経口投与して、実験例1のAと同様にして小腸粘膜損傷を観察した。配合薬の投与量は、300mg/kg、900mg/kgであった。対照群には、配合薬を経口投与しなかった。その結果を表3に示す。
【0021】
【表3】

【0022】
(実験例4)
上記実験例1のBの小腸粘膜損傷惹起操作1時間前に、エグアレンナトリウムを経口投与し、実験例1のBと同様にして小腸粘膜損傷を観察して、エグアレンナトリウムの効果を調べた。エグアレンナトリウムの投与量は、3mg/kg、10mg/kgであった。対照群には、エグアレンナトリウムを経口投与しなかった。その結果を表4に示す。薬物を経口投与して、薬物の効果を調べた結果を表4に示す。
【0023】
【表4】

【0024】
(実験例5)
上記実験例1のBの小腸粘膜損傷惹起操作1時間前に、L−グルタミンとアズレンスルホン酸ナトリウムの配合薬(L−グルタミン:アズレンスルホン酸ナトリウム=330:1)を、900mg/kg経口投与して、実験例1のBと同様にして小腸粘膜損傷を観察した。対照群には、配合薬を経口投与しなかった。その結果を表5に示す。
【0025】
【表5】

【0026】
表2〜表5から明らかなように、エグアレンナトリウム、及びL−グルタミンとアズレンスルホン酸ナトリウムとの配合剤は、アスピリン惹起の小腸粘膜障害を有意に抑制している。
次に、実施例を示す。
【実施例1】
【0027】
エグアレンナトリウム30g、結晶セルロース40g、トウモロコシデンプン970g、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE20g、ヒドロキシプロピルセルロース20gを湿式造粒法で造粒し顆粒剤とした。
【実施例2】
【0028】
エグアレンナトリウム30g、結晶セルロース40g、L−グルタミン120g、トウモロコシデンプン970g、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE20g、ヒドロキシプロピルセルロース20gを湿式造粒法で造粒し顆粒剤とした。
【実施例3】
【0029】
アズレンスルホン酸ナトリウム30g、L−グルタミン990g、メチルセルロース70gを湿式造粒法で造粒し顆粒剤とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小腸粘膜障害の予防・治療薬剤としてのアズレン誘導体を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項2】
小腸粘膜障害の予防・治療薬剤としてのアズレン誘導体とグルタミンを有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項3】
アズレン誘導体がアズレンスルホン酸ナトリウム又はそのプロドラッグ或はその薬理上許容される塩である請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
アズレン誘導体がエグアレンナトリウム又はそのプロドラッグ或はその薬理上許容される塩である請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項5】
グルタミンとアズレンスルホン酸ナトリウムの配合割合(グルタミン:アズレンスルホン酸ナトリウム)が質量比で200〜400:1である請求項2記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2010−241745(P2010−241745A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93250(P2009−93250)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(592086318)壽製薬株式会社 (24)
【Fターム(参考)】