説明

小血管の構造および機能を改善するための方法

【課題】小血管の構造及び機能を改善させ、そしてそれにより循環障害に関連する病的状態を緩解する新しい方法の提供。
【解決手段】本発明は最も小型の動脈(即ち小動脈)よりさえも小型の血管が肥厚化し、機能不全となり、そして脳及び腎臓のように多様な組織に対し終末器損傷をもたらすという予測されなかった発見に関する。本発明は小動脈の構造及び機能を改善させ、そして、脳及び腎臓のような終末器の機能を温存するための方法を提供する。この方法は、典型的には、小動脈の構造又は機能を改善させるために十分な用量において本明細書に典型的に記載した活性剤1つ以上をそれを必要とする哺乳動物に投与することを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2004年12月6日に出願された、USSN60/634,318号に対する優先権を主張する。USSN60/634,318号は、全ての目的のために、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(連邦支援研究開発下に行われた発明の権利に関する陳述)
本研究は米国国立衛生研究所のNational Heart Blood Lung
Instituteの認可番号HL30568により部分的に支援されている。アメリカ合衆国政府は本発明における特定の権利を有してよい。
【0003】
(発明の分野)
本発明は血管医学の分野に関する。特に本発明は小血管の構造及び機能を改善させ、そしてそれにより循環障害に関連する病的状態を緩解する新しい方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
本明細書に記載する小動脈は200μM未満の直径(灌流固定化後、又はインビボ)を有する動脈循環(静脈循環に対する)における血管である。高血圧、加齢、くも膜下出血、多発性梗塞痴呆、アルツハイマー病及び慢性腎臓病並びに他の状態に関連する小動脈の変化に関して広範な文献が存在する。種々の病理学的状態は正常な血管反応性の損失を伴うこれらの小動脈の肥厚化をもたらす場合がある。
【0005】
血圧低下への正常な応答は抵抗を低減し、そして前方への流動を維持するための血管拡張である。血圧の低下に直面して小動脈を拡張することができないことは、標的臓器への血流の低下をもたらす。標的臓器が脳である場合は、前方への血流の低下は関与する小動脈の領域の梗塞をもたらす場合がある。
【0006】
小動脈は大変小型のため、それらは通常は脳の小領域に対して機能しており、従って梗塞は小さく「物忘れ(senior moment)」として知覚されるのみである。しかしながら、本発明者等は長年に亘るこのような一連の傷害の蓄積が顕著な終末器損傷をもたらすと考える。
【0007】
このような終末器損傷の防止のための主要な治療法は血圧の制御及び血漿中グルコース及び脂質の濃度の制御を包含する。小型〜大型の動脈の構造及び機能を改善するための特定の薬剤(例えばスタチン類)の使用は知られており、これらの薬剤がコレステロールを低下させ動脈への炎症細胞浸潤を低減する能力に関連していると推定されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Schonbeck et al.(2004)Circulation 109(21Suppl1):II18−26
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は最も小型の動脈(即ち小動脈)よりさえも小型の血管が肥厚化し、機能不全となり、そして脳及び腎臓のように多様な組織に対し終末器損傷をもたらすという予測されなかった発見に関する。本発明は小動脈の構造及び機能を改善させ、そして、脳及び腎臓のような終末器の機能を温存するための方法を提供する。
【0010】
即ち、特定の実施形態においては、本発明は小動脈の構造及び/又は機能を改善させる方法を提供する。方法は典型的には、小動脈の構造又は機能を改善させるために十分な用量において本明細書に典型的に記載した活性剤1つ以上をそれを必要とする哺乳動物に投与することを包含する。種々の実施形態において、小動脈は腎臓及び/又は脳及び/又は肺胞内の小動脈である。哺乳動物はヒト、例えばそのような治療又は予防を必要としている患者、又は非ヒトであることができる。即ち医療用及び獣医科用の用途が考えられる。種々の実施形態において、哺乳動物は記憶力損失又は学習力障害及び/又は腎機能障害及び/又は肺胞(肺)機能障害を有すると診断されたヒトである。特定の実施形態においては、哺乳動物はアテローム性動脈硬化症及び/又は関連の病的状態を有するかその危険性があると診断されていない、及び/又は、アテローム性動脈硬化症及び/又は関連する病的状態に関わる治療を受けていないヒトである。種々の実施形態において、活性剤(例えばペプチド及び/又はペプチド模倣物及び/又は脂質)は単位用量製剤である。種々の実施形態において、活性剤は経口投与、経鼻投与、直腸投与、腹腔内注射及び血管内注射、皮下注射、経皮投与及び筋肉内注射よりなる群から選択される経路による投与の為に製剤される。種々の実施形態において、投与の方法は経口投与、経鼻投与、直腸投与、腹腔内注射及び血管内注射、皮下注射、経皮投与及び筋肉内注射よりなる群から選択される経路によるものである。特定の実施形態においては、活性剤はD4F、L4F、リバースD4F、リバースL4F、環状変異D4F、環状変異L4F、環状変異リバースL4F、環状変異リバースD4F及びDMPCよりなる群から選択される。種々の実施形態において、活性剤は製薬上許容しうる賦形剤との組み合わせにおいて提供される。
【0011】
特定の実施形態においては、本発明は構造又は機能の障害を有する小動脈の予防又は治療における使用のための本明細書に記載した活性剤を提供する。更に又、構造又は機能の障害を有する小動脈の予防又は治療における使用のための医薬の製造のための本明細書に記載した活性剤の使用が提供される。
【0012】
更に又、異常な小動脈の構造又は機能を特徴とする状態の治療のためのキットが提供される。キットは典型的には本明細書に記載した活性剤を含有する容器1つ以上、及び、異常な小動脈の構造又は機能を特徴とする状態の治療における活性剤の使用を教示する説明書を含む。種々の実施形態において、活性剤(例えばペプチド及び/又はペプチド模倣物及び/又は脂質)は単位用量製剤である。種々の実施形態において、活性剤は経口投与、経鼻投与、直腸投与、腹腔内注射及び血管内注射、皮下注射、経皮投与及び筋肉内注射よりなる群から選択される経路による投与の為に製剤される。特定の実施形態においては、活性剤はD4F、L4F、リバースD4F、リバースL4F、環状変異D4F、環状変異L4F、環状変異リバースL4F、環状変異リバースD4F及びDMPCよりなる群から選択される。種々の実施形態において、活性剤は製薬上許容しうる賦形剤との組み合わせにおいて提供される。
定義
「単離された」、「精製された」又は「生物学的に純粋な」という用語は、単離されたポリペプチドに言及している場合は、そのネイティブの状態において存在する場合に通常それに付随している成分を実質的又は本質的に含有しない物質を指す。核酸及び/又はポリペプチドに関しては、用語は、天然においてそれに典型的にフランキングしている配列にもはやフランキングされていない核酸又はポリペプチドを指す。化学的に合成されたポリペプチドは、それがネイティブの状態で(例えば血液、血清中において)存在しないため「単離された」ものである。特定の実施形態においては、「単離された」という用語はポリペプチドが天然に存在しない場合を指す。
【0013】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「蛋白」という用語はアミノ酸残基の重合体を指すために本明細書においては互換的に使用する。用語はアミノ酸残基1つ以上が相当する天然に存在するアミノ酸の人工的化学的類縁体であるアミノ酸重合体、並びに、天然に存在するアミノ酸重合体に適用する。
【0014】
「両親媒性ヘリックスペプチド」という用語は少なくとも1つの両親媒性ヘリックス(両親媒性ヘリックスドメイン)を含むペプチドを指す。本発明の特定の両親媒性ヘリックスペプチドは両親媒性ヘリックス2つ以上(例えば3、4、5等)を含むことができる。
【0015】
「クラスA両親媒性ヘリックス」という用語は、正荷電残基が極性−非極性界面に位置し、負荷電残基が極性面の中心に位置するようにする極性及び非極性の面の隔離をもたらすα−ヘリックスを形成する蛋白構造を指す(例えばSegrest et al.(1990)Proteins:Structure,Function and Genetics 8:103−117参照)。
【0016】
「アポリポ蛋白J(apoJ)」は種々の名称、例えばクラステリン、TRPM2、GP80及びSP40,40により知られている(Fritz(1995)Pp112, Clusterin:Role in Vertebrate Development,Function, and Adaptation(Harmony JAK Ed.),R.G.Landes,Georgetown,TX)。これは当初はヘテロ2量体糖蛋白及び培養ラットセルトーリ細胞の分泌蛋白の成分として説明されていた(Kissinger et al.,(1982)Biol Reprod;27:233240)。翻訳産物はジスルフィド結合した34kDaのαサブユニット及び47kDaのβサブユニットへの細胞内切断を起こす一本鎖前駆体蛋白である(Collard and
Griswold(187)Biochem.,26:3297−3303)。これは細胞傷害、脂質輸送、アポトーシスに関連しており、そして細胞傷害又は細胞死により生じる細胞破砕物のクリアランスに関与している。クラステリンは脂質、ペプチド及び蛋白及び疎水性プローブ1−アニリノ−8−ナフタレンスルホネートを含む種々の分子に高い親和性で結合することがわかっている(Bailey et al.,(2002)Biochem.,40:11828−11840)。
【0017】
クラスGの両親媒性ヘリックスは球状蛋白中に存在し、そしてそのためクラスGと称されている。このクラスの両親媒性ヘリックスの特徴は、それが狭小な非極性面と共に極性面上の正荷電及び負荷電の残基のランダムな分布を保有している点である。狭小な非極性の面の為に、このクラスはリン脂質とは容易に会合しない(Segrest et al.(1990)Proteins:Structure,Function and Genetics.8:103−117;Erratum(1991)Proteins:
Structure,Function and Genetics.9:79参照)。数個の交換可能なアポリポ蛋白はG両親媒性ヘリックスと同様であるが同一ではない特性を有している。クラスGの両親媒性ヘリックスと同様、この別のクラスは極性の面上の正荷電及び負荷電の残基のランダムな分布を有している。しかしながら、狭小な非極性の面を有するクラスGの両親媒性ヘリックスとは対照的に、このクラスは広大な非極性の面を有しており、これによりこのクラスはリン脂質と容易に結合することができ、クラスはこれを両親媒性ヘリックスのクラスGと区別するためにGと命名されている(Segrest et al.(1992)J.Lipid Res.,33:141−166;Anantharamaiah et al.(1993)Pp.109−142, The Amphipathic Helix, Espand,R.M.Ed CRC Press,Boca raton,Florida参照)。両親媒性ヘリックスドメインを識別して分類するコンピュータープログラムがJones et al.(1992)J.Lipid Res.33:287−296に記載されており、そして例えばヘリカルホイールプログラム(WHEELPPARWHEEL/SNORKEL)、ヘリカルネットプログラム(HELNET、HELNET/SNORKEL、HELNET/Angle)、ヘリカルホイールの追加のためのプログラム(COMBO又はCOMBO/SNORKEL)、ヘリカルネットの追加のためのプログラム(COMNET、COMNET/SNORKEL、COMBO/SELECT、COMBO/NET)、コンセンサスホイールプログラム(CONSENSUS、CONSENSUS/SNORKEL)等が包含される。
【0018】
「緩解する」という用語は「アテローム性動脈硬化症の症状1つ以上を緩解すること」に関して使用する場合は、アテローム性動脈硬化症及び/又は関連する病的状態の症状の特徴1つ以上の低減、防止又は排除を指す。このような低減は、例えば、酸化リン脂質の低減又は排除、アテローム性動脈硬化プラークの形成及び破壊の低減、心臓発作、アンギナ又は卒中のような臨床事象の低減、高血圧の低減、炎症性蛋白生合成の低減、血漿中コレステロールの低減等を包含する。
【0019】
「エナンチオマーアミノ酸」という用語は相互に重ね合わせることができない鏡像である少なくとも2つの形態において存在できるアミノ酸を指す。大部分のアミノ酸(グリシンを除く)はエナンチオマー性であり、いわゆるL型(Lアミノ酸)又はD型(Dアミノ酸)として存在する。大部分の天然に存在するアミノ酸は「L」アミノ酸である。「Dアミノ酸」及び「Lアミノ酸」という用語は、面−偏光の回転の特定の方向よりはむしろアミノ酸の絶対的配置を指すために使用する。その使用法は当業者の知る標準的な使用法と合致する。アミノ酸は本明細書においては、標準的な1文字又は3文字のコード、例えばHandbook On Industrial Property Information and DocumentationにおけるStandard ST.25に示されているものを用いて標記する。
【0020】
「保護基」という用語は、アミノ酸の官能基(例えば側鎖、αアミノ基、αカルボキシル基等)に結合するとその官能基の性質をブロック又はマスクする化学基を指す。好ましいアミノ末端保護基は例えばアセチル又はアミノ基である。他のアミノ末端保護基は例えば脂肪酸の場合のようなアルキル鎖、プロペニル、ホルミル等を包含するがこれらに限定されない。好ましいカルボキシ末端保護基は例えばアミド又はエステルを形成する基を包含するがこれらに限定されない。
【0021】
「酸化剤による酸化からリン脂質を保護する」という表現は、そのリン脂質が酸化剤(例えば過酸化水素、13−(S)−HPODE、15−(S)−HPETE、HPODE、HPETE、HODE、HETE等)と接触した場合にリン脂質の酸化の速度(又は生成した酸化リン脂質の量)を低減する化合物の能力を指す。
【0022】
「低密度リポ蛋白」又は「LDL」という用語は当業者の通常の使用法に従って定義される。一般的に、LDLは超遠心分離で単離した場合に密度範囲d=1.019〜d=1.063に存在する脂質−蛋白複合体を指す。
【0023】
「高密度リポ蛋白」又は「HDL」という用語は当業者の通常の使用法に従って定義される。一般的に、HDLは超遠心分離で単離した場合に密度範囲d=1.063〜d=1.21に存在する脂質−蛋白複合体を指す。
【0024】
「グループIのHDL」という用語は酸化脂質(例えば低密度リポ蛋白の場合)を低減するか、又は、酸化剤による酸化から酸化した脂質を保護する高密度リポ蛋白又はその成分(例えばapoA−I、パラオキソナーゼ、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ等)を指す。
【0025】
「グループIIのHDL」という用語は脂質を酸化から保護する、又は、酸化された脂質を修復(例えば還元)する場合に、低減された活性又は無活性を示すHDLを指す。
【0026】
「HDL成分」という用語は高密度リポ蛋白(HDL)を含む成分(例えば分子)を指す。酸化から脂質を保護するか、修復する(例えば酸化された脂質を還元する)HDLの試験はまたそのような活性を示すHDLの成分(例えばapoA−I、パラオキソナーゼ、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ等)に関する試験を包含する。
【0027】
「ヒトアポA−Iペプチド」という用語は完全長ヒトアポA−Iペプチドを指すか、又は、クラスAの両親媒性ヘリックスを含むそのフラグメント又はドメインを指す。
【0028】
「単球反応」とは本明細書においては、アテローム性動脈硬化プラークの形成に関連する「炎症応答」に特徴的な単球活性を指す。単球反応は血管壁の細胞(例えば血管内皮の細胞)への単球の接着、及び/又は、内皮下の空間への化学走性、及び/又は、マクロファージへの単球の分化を特徴とする。
【0029】
「無変化」という用語は、酸化リン脂質の量に言及している場合は、検出可能な変化が無いこと、より好ましくは統計学的に有意な変化がないこと(例えば少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、そして最も好ましくは少なくとも98%又は99%の信頼水準において)を指す。検出可能な変化の非存在はまた、酸化されたリン脂質の濃度が変化するが、本明細書に記載した蛋白の非存在下、又は他の陽性又は陰性の対照を比較対照とした場合ほどではない試験結果を指す場合もある。
【0030】
以下の略記を本明細書においては使用する。PAPC:L−α−1−パルミトイル−2−アラキドノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン;POVPC:1−パルミトイル−2−(5−オキソバレリル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン;PGPC:1−パルミトイル−2−グルタリル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン;PEIPC:1−パルミトイル−2−(5,6−エポキシイソプロスタンE)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン;ChC18:2:コレステリルリノレエート;ChC18:2−OOH:コレステリルリノレエートヒドロパーオキシド;DMPC:1,2−ジテトラデカノイル−rac−グリセロール−3−ホスホコリン;PON:パラオキソナーゼ;HPF:標準化高電力場;PAPC:L−α−1−パルミトイル−2−アラキドノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン;BL/6:C57BL/6J;C3H:C3H/HeJ。
【0031】
「保存的置換」という用語は分子の活性(特異性(例えばリポ蛋白に対する))又は結合親和性(例えば脂質又はリポ蛋白に対する)を実質的に改変しないアミノ酸置換を反映した蛋白又はペプチドを指す。典型的には、保存的アミノ酸置換は、1つのアミノ酸の、同様の化学特性(例えば電荷又は疎水性)を有する別のアミノ酸との置換を包含する。以下の6つのグループは、相互に典型的な保存的置換であるアミノ酸を各々が含んでいる。1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);及び6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0032】
「同一」又はパーセント「同一性」という用語は、2つ以上の核酸又はポリペプチド配列に関する場合、後述する配列比較アルゴリズムの1つを用いて、又は目視的検査により測定した場合に、最大の相応となるように対比整列させれば、同じであるか、又は同じであるアミノ酸残基又はヌクレオチドの特定のパーセンテージを有する2つ以上の配列又はサブ配列を指す。本発明のペプチドに関しては、配列の同一性はペプチドの完全長に亘り決定される。
【0033】
配列比較のためには、典型的には1つの配列が比較対照配列として機能し、それに対して被験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを使用する場合は、被験及び比較対照の配列をコンピューターに入力し、必要に応じてサブ配列の座標を指定し、そして配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。次に配列比較アルゴリズムが指定されたプログラムパラメーターに基づいて比較対照配列と相対比較した場合の被験配列に関するパーセント配列同一性を計算する。
【0034】
比較のための配列の最適アライメントは例えばSmith&Waterman, Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所ホモロジーアルゴリズムにより、Needleman&Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)のホモロジーアライメントアルゴリズムにより、Pearson&Lipman(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA85:2444の同様性検索方法により、これらのアルゴリズムのコンピューター処理により(GAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA、Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science D.,Madison,WI)、又は、目視的検査により実施することができる(例えば一般的には上出Ausubel et al.参照)。
【0035】
有用なアルゴリズムの1例はPILEUPである。PILEUPはプログレッシブペアワイズアライメントを用いて関連する配列のグループから多重配列アライメントを作成することにより関連性及びパーセント配列同一性を示す。更にアライメントを作成するために使用したクラスタリングの関連性を示すツリー又は樹状図をプロットする。PILEUPはFeng&Doolittle(1987)J.Mol.Evol.35:351−360のプログレッシブアライメント法の単純化を使用している。使用する方法はHiggins&Sharp(1989)CABIOS5:151−153により記載された方法と同様である。プログラムは300配列までをアラインすることができ、それぞれが5000ヌクレオチド又はアミノ酸の最大長である。多重アライメントの操作法は2つの最も似ている配列のペアワイズなアライメントから開始され、2つのアラインされた配列のクラスターを形成する。その後このクラスターを次に最も関連している配列又はアラインされた配列のクラスターにアラインする。配列の2つのクラスターは2つの個々の配列のペアワイズなアライメントの単純な延長によりアラインされる。最終アライメントはプログレッシブペアワイズアライメントのシリーズにより達成される。プログラムは特定の配列及び配列比較の領域に関するそのアミノ酸又はヌクレオチド座標を指定することにより、そして、プログラムパラメーターを指定することにより実行される。例えば比較対照配列を他の被験配列と比較することにより、以下のパラメーター、即ち、デフォルトギャップウエイト(3.00)、デフォルトギャップ長ウエイト(0.10)及びウエイト付けされた最終ギャップを用いながらパーセント配列同一性の関連性を決定することができる。
【0036】
パーセント配列同一性及び配列同様性を調べるために適しているアルゴリズムの別の例はBLASTアルゴリズムであり、これはAltschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403−410に記載されている。BLAST分析を実施するためのソフトウエアはNational Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)より入手可能である。このアルゴリズムでは先ず、質問配列における長さWの短いワードを識別することにより高スコア配列ペア(HSP)を発見し、これはデータベース配列内の同じ長さのワードとアラインした場合にマッチするか、又はある正の値を有する閾値評点Tを満足するものである。Tは近隣ワード評点閾値と称される(Altschul et al.,上出)。これらの初期の近隣ワードのヒットはそれらを含有するより長いHSPを発見するための検索を開始するための根源となる。次にワードヒットを累積アライメント評点が増大できる限り各配列に沿って両方向に延長する。累積評点はヌクレオチド配列の場合はパラメーターM(マッチする残基のペアに対するリワード評点;常時>0)及びN(ミスマッチ残基に対するペナルティー評点;常時<0)を用いて計算する。アミノ酸配列の場合は、採点マトリックスを用いて累積評点を計算する。各方向のワードヒットの延長を停止する時は、累積アライメント評点がその最大達成値から量Xだけ低下するか;1つ以上の負の評点の残基のアライメントの累積により累積評点が0以下となるか;又は何れかの配列の末端に到達した時である。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T及びXはアライメントの感度及び速度を決定する。BLASTINプログラム(ヌクレオチド配列の場合)はデフォルト値として11のワード長(W)、10の期待値(E)、M=5、N=4及び両方の鎖の比較を使用している。アミノ酸配列の場合は、BLASTPプログラムはデフォルト値として3のワード長(W)、10の期待値(E)、及びBLOSUM62採点マトリックスを使用している(Henikoff&Henikoff(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:10915参照)。
【0037】
パーセント配列同一性を計算するほかに、BLASTアルゴリズムは2つの配列の間の同様性の統計学的分析を実施する(例えばKarlin&Altschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5873−5787参照)。BLASTアルゴリズムにより与えられる同様性の1つの尺度は最小合計確率(P(N))であり、これは2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列の間のマッチが偶然起こる確率の指標を与えるものである。例えば、被験核酸の比較対照核酸との比較において最小合計確率が約0.1未満である場合、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合に、核酸は比較対照配列と同様とみなされる。
【0038】
「環状変異した蛋白」とは、蛋白の天然/本来の末端が連結され、そして形成された環状蛋白が別の点で開裂することにより新しいC及びN末端が形成されているものである。環状変異蛋白は末端の実際の連結及び別の点における開裂により必ずしも形成される必要はなく、むしろ環状変異した変異体と同一の配列を有するように新規に合成/発現されてもよい。2つの蛋白は、第1の蛋白のC末端部分におけるフラグメントが第2の蛋白のN末端部分におけるフラグメントとマッチし、そして第1の蛋白のN末端部分におけるフラグメントが第2の蛋白のC末端部分のフラグメントとマッチする場合に、環状変異(CP)により関連付けられる。環状変異を発見する方法は当該分野で知られている(例えばUliel et al.(1999)Bioinformatics,15(11):930−936参照)。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
小動脈の構造及び/又は機能を改善させる方法であって、該方法が下記工程:
小動脈の構造又は機能を改善させるために十分な用量において1つ以上の表1〜14に記載の活性剤及び/又は本明細書に記載した小有機分子をそれを必要とする哺乳動物に投与すること、
を含む、方法。
(項目2)
前記小動脈が腎臓における小動脈である、項目1記載の方法。
(項目3)
前記小動脈が脳における小動脈である、項目1記載の方法。
(項目4)
前記哺乳動物がヒトである、項目1記載の方法。
(項目5)
前記哺乳動物が記憶力損失又は学習力障害を有すると診断されたヒトである、項目1記載の方法。
(項目6)
前記哺乳動物が腎機能障害を有すると診断されたヒトである、項目1記載の方法。
(項目7)
前記哺乳動物が肺胞機能障害を有すると診断されたヒトである、項目1記載の方法。
(項目8)
前記哺乳動物がアテローム性動脈硬化症を有するかその危険性があると診断されていないヒトである、項目1記載の方法。
(項目9)
前記ペプチド及び/又はペプチド模倣物及び/又は脂質が単位用量製剤中にある、項目1記載の方法。
(項目10)
活性剤が経口投与、経鼻投与、直腸投与、腹腔内注射及び血管内注射、皮下注射、経皮投与及び筋肉内注射よりなる群から選択される経路による投与の為に製剤される、項目1記載の方法。
(項目11)
前記投与が経口投与、経鼻投与、直腸投与、腹腔内注射及び血管内注射、皮下注射、経皮投与及び筋肉内注射よりなる群から選択される経路による、項目1記載の方法。
(項目12)
前記活性剤がD4F、L4F、リバースD4F、リバースL4F及びDMPCよりなる群から選択される、項目1記載の方法。
(項目13)
前記活性剤が製薬上許容しうる賦形剤と組み合わせて提供される、項目1記載の方法。
(項目14)
前記活性剤が単位用量製剤において提供される、項目1記載の方法。
(項目15)
構造又は機能の障害を有する小動脈の予防又は治療において使用するための表1〜14に記載の活性剤及び/又は本明細書に記載の小有機分子。
(項目16)
構造又は機能の障害を有する小動脈の予防又は治療のための医薬の製造のための、表1〜14に記載の活性剤及び/又は本明細書に記載の小有機分子の使用。
(項目17)
異常な小動脈の構造及び/又は機能を特徴とする状態の治療のためのキットであって、該キットが下記成分:
表1〜14に記載の活性剤及び/又は本明細書に記載の小有機分子1つ以上を含有する容器;及び、
異常な小動脈の構造及び/又は機能を特徴とする状態の治療における活性剤の使用を教示する説明書;
を含む、キット。
(項目18)
前記ペプチド及び/又はペプチド模倣物及び/又は脂質が単位用量製剤中にある、項目17記載のキット。
(項目19)
活性剤が経口投与、経鼻投与、直腸投与、腹腔内注射及び血管内注射、皮下注射、経皮投与及び筋肉内注射よりなる群から選択される経路による投与の為に製剤される、項目17記載のキット。
(項目20)
前記投与が経口投与、経鼻投与、直腸投与、腹腔内注射及び血管内注射、皮下注射、経皮投与及び筋肉内注射よりなる群から選択される経路による、項目17記載のキット。
(項目21)
前記活性剤がD4F、L4F、リバースD4F、リバースL4F及びDMPCよりなる群から選択される、項目17記載のキット。
(項目22)
前記活性剤が製薬上許容しうる賦形剤と組み合わせて提供される、項目17記載のキット。
(項目23)
前記活性剤が単位用量製剤において提供される、項目17記載のキット。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1A】図1A、1B及び1Cは野生型マウス(WT)と比較した場合にLDL受容体を有さないマウス(LDLR−/−)は肥厚した脳小動脈を有することを示している。図1A:小型小動脈(15〜40μm直径)の壁厚。
【図1B】図1A、1B及び1Cは野生型マウス(WT)と比較した場合にLDL受容体を有さないマウス(LDLR−/−)は肥厚した脳小動脈を有することを示している。図1B:中型小動脈(41〜80μm直径)の壁厚。
【図1C】図1A、1B及び1Cは野生型マウス(WT)と比較した場合にLDL受容体を有さないマウス(LDLR−/−)は肥厚した脳小動脈を有することを示している。図1C:大型小動脈(81〜160μm直径)の壁厚。
【図2】図2はD4F及び「スクランブルド」D4Fを投与したWestern食餌で飼育するLDR−/−マウスにおけるT迷路連続交替作業(T−CAT)の結果を示す。
【図3】図3はパーセント交替として標示したD4F及びスクランブルド(sc D−4F)を投与したWestern食餌で飼育するLDR−/−マウスにおけるT迷路連続交替作業(T−CAT)の結果を示す。
【図4】図4はD4Fの投与によるT迷路試験における改善を示す。
【図5】図5はWestern試料で飼育するLDL受容体ヌルマウスにおける血管反応性を経口DMPCが改善することを示している。
【図6A】図6A〜6Cは飼料飼育野生型マウス(n=4)と比較して飼料飼育LDL受容体ヌルマウス(n=4)において脳小動脈壁厚(H&E切片で測定)が増大すること、及び、Western食餌の添加(n=4)により更に増大することを示している。図6Aは直径15〜40μmの管腔を有する小動脈に関する血管壁厚を示す。WT、野生型マウス;LDL−/−Chow、飼料食餌で飼育したLDL受容体ヌルマウス;LDL−/−Western、6週間Western食事で飼育したLDL受容体ヌルマウス。
【図6B】図6A〜6Cは飼料飼育野生型マウス(n=4)と比較して飼料飼育LDL受容体ヌルマウス(n=4)において脳小動脈壁厚(H&E切片で測定)が増大すること、及び、Western食餌の添加(n=4)により更に増大することを示している。図6Bは直径41〜80μmの管腔を有する小動脈に関する血管壁厚を示す。棒グラフは平均±SEMを示す。WT、野生型マウス;LDL−/−Chow、飼料食餌で飼育したLDL受容体ヌルマウス;LDL−/−Western、6週間Western食事で飼育したLDL受容体ヌルマウス。
【図6C】図6A〜6Cは飼料飼育野生型マウス(n=4)と比較して飼料飼育LDL受容体ヌルマウス(n=4)において脳小動脈壁厚(H&E切片で測定)が増大すること、及び、Western食餌の添加(n=4)により更に増大することを示している。図6Cは直径81〜160μmの管腔を有する小動脈に関する血管壁厚を示す。棒グラフは平均±SEMを示す。WT、野生型マウス;LDL−/−Chow、飼料食餌で飼育したLDL受容体ヌルマウス;LDL−/−Western、6週間Western食事で飼育したLDL受容体ヌルマウス。
【図7−1】図7A〜7GはD−4Fを投与したWestern食餌で飼育したLDL受容体ヌルマウスにおいては脳小動脈壁厚(H&E切片で測定)が低減したがスクランブルドD−4Fでは異なっていたことを示す。LDL受容体ヌルマウスに6週間Western食餌を与え、飲料水中に300μg/mlでD−4Fを投与(n=15)するか、又は、飲料水中に300μg/mlでスクランブルドD−4F(Sc D−4F)を投与(n=15)した。図7Aは直径10〜20μmの管腔を有する小動脈に関する壁厚を示す。棒グラフは各群15匹のマウスの平均±SEMを示す。
【図7−2】図7A〜7GはD−4Fを投与したWestern食餌で飼育したLDL受容体ヌルマウスにおいては脳小動脈壁厚(H&E切片で測定)が低減したがスクランブルドD−4Fでは異なっていたことを示す。LDL受容体ヌルマウスに6週間Western食餌を与え、飲料水中に300μg/mlでD−4Fを投与(n=15)するか、又は、飲料水中に300μg/mlでスクランブルドD−4F(Sc D−4F)を投与(n=15)した。図7Bは直径21〜50μmの管腔を有する小動脈に関する血管壁厚を示す。図7Cは直径51〜100μmの小動脈に関する血管壁厚を示す。棒グラフは各群15匹のマウスの平均±SEMを示す。
【図7−3】図7A〜7GはD−4Fを投与したWestern食餌で飼育したLDL受容体ヌルマウスにおいては脳小動脈壁厚(H&E切片で測定)が低減したがスクランブルドD−4Fでは異なっていたことを示す。LDL受容体ヌルマウスに6週間Western食餌を与え、飲料水中に300μg/mlでD−4Fを投与(n=15)するか、又は、飲料水中に300μg/mlでスクランブルドD−4F(Sc D−4F)を投与(n=15)した。図7Dはマウスに関する小動脈管腔直径を示す。図7Eは直径10〜20μmの小動脈に関する管腔直径で割った壁厚を示す。棒グラフは各群15匹のマウスの平均±SEMを示す。
【図7−4】図7A〜7GはD−4Fを投与したWestern食餌で飼育したLDL受容体ヌルマウスにおいては脳小動脈壁厚(H&E切片で測定)が低減したがスクランブルドD−4Fでは異なっていたことを示す。LDL受容体ヌルマウスに6週間Western食餌を与え、飲料水中に300μg/mlでD−4Fを投与(n=15)するか、又は、飲料水中に300μg/mlでスクランブルドD−4F(Sc D−4F)を投与(n=15)した。図7Fは直径21〜50μmの小動脈に関する管腔直径で割った壁厚を示す。図7Gは直径51〜100μmの小動脈に関する管腔直径で割った壁厚を示す。棒グラフは各群15匹のマウスの平均±SEMを示す。
【図8−1】図8A〜8Eは脳小動脈平滑筋αアクチンはLDL受容体ヌルマウスにWestern食餌を与えることにより増大し、D−4F投与により低減したが、スクランブルドD−4Fでは異なっていたことを示している。図8A:LDL受容体ヌルマウスに飼料(n=10)又はWestern食餌(WD)(n=10)を6週間与え、その脳小動脈を平滑筋αアクチンに関して染色し、壁と管腔の比を各小動脈について計算した。示した数値は各群10匹のマウスの平均±SEMである。図8B〜8E。図7及び本図のパネルAに記載したマウスの脳小動脈を平滑筋αアクチンに関して染色した。図8B:平滑筋αアクチンに関して染色した脳小動脈の例。棒グラフは各群15匹のマウスの平均±SEMを示す。
【図8−2】図8A〜8Eは脳小動脈平滑筋αアクチンはLDL受容体ヌルマウスにWestern食餌を与えることにより増大し、D−4F投与により低減したが、スクランブルドD−4Fでは異なっていたことを示している。図8B〜8E。図7及び本図のパネルAに記載したマウスの脳小動脈を平滑筋αアクチンに関して染色した。図8C:図7のマウスの直径10〜20μmの管腔を有する小動脈の壁と管腔の比。図8D:図7のマウスの直径21〜50μmの管腔を有する小動脈の壁と管腔の比。
【図8−3】図8A〜8Eは脳小動脈平滑筋αアクチンはLDL受容体ヌルマウスにWestern食餌を与えることにより増大し、D−4F投与により低減したが、スクランブルドD−4Fでは異なっていたことを示している。図8B〜8E。図7及び本図のパネルAに記載したマウスの脳小動脈を平滑筋αアクチンに関して染色した。図8B:平滑筋αアクチンに関して染色した脳小動脈の例。図8E:図7のマウスの直径51〜100μmの小動脈の壁と管腔の比。棒グラフは各群15匹のマウスの平均±SEMを示す。
【図9−1】図9A〜9Gは食餌及び投与の関数としてのT迷路連続交替作業(T−CAT)におけるLDL受容体ヌルマウスの遂行能力を示す。図9A〜9D:図8Aに記載したマウスを空間記憶遂行能力に関してT−CATにより試験した。図9A:自発的交替の数を測定した。データは各群10匹のマウスの15試行の平均±SEMである。
【図9−2】図9A〜9Gは食餌及び投与の関数としてのT迷路連続交替作業(T−CAT)におけるLDL受容体ヌルマウスの遂行能力を示す。図9A〜9D:図8Aに記載したマウスを空間記憶遂行能力に関してT−CATにより試験した。図9B:パーセント自発的交替を測定した。データは各群10匹のマウスの15試行の平均±SEMである。図9C:50%無作為選択と異なる自発的交替率を測定した。データは各群10匹のマウスの15試行の平均±SEMである。
【図9−3】図9A〜9Gは食餌及び投与の関数としてのT迷路連続交替作業(T−CAT)におけるLDL受容体ヌルマウスの遂行能力を示す。図9A〜9D:図8Aに記載したマウスを空間記憶遂行能力に関してT−CATにより試験した。図9D:試行を完了するまでの時間を測定した。データは各群10匹のマウスの15試行の平均±SEMである。図9E〜9G:図7及び8B−8Eに記載したマウスを上記した空間記憶遂行能力に関してT−CATにより試験した。
【図9−4】図9A〜9Gは食餌及び投与の関数としてのT迷路連続交替作業(T−CAT)におけるLDL受容体ヌルマウスの遂行能力を示す。図9A〜9D:図8Aに記載したマウスを空間記憶遂行能力に関してT−CATにより試験した。図9F:パーセント自発的交替を測定した。データは各群10匹のマウスの15試行の平均±SEMである。図9G:50%無作為選択と異なる自発的交替率を測定した。データは各群10匹のマウスの15試行の平均±SEMである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明は最も小型の動脈(即ち小動脈)よりさえも小型の血管が肥厚化し、機能不全となり、そして脳及び腎臓のように多様な組織に対し終末器損傷をもたらすという予測されなかった発見に関する。本発明は小動脈の構造及び機能を改善させ、そして、脳及び腎臓のような終末器の機能を温存するための方法を提供する。
【0041】
本発明者等が大型動脈において研究した異常が小型動脈及び更にはより小型の動脈、即ち小動脈にも拡張されるかどうかを検討した。小動脈は直径が約200μ未満、より典型的には約100μm未満である血管である。本発明者等は又、アポA−Iミメティックペプチド(D−4F)の有利な作用が大型動脈(Navab et al.(2002)Circulation,105:290−292;Van Lenten et al.(2002)Circulation,106:1127−1132)及び小型動脈(Ou et al.(2003)Circulation,107:2337−2341)の両方において観察されるならば、その有利な作用は小動脈にもみられる、という仮説を立てた。本明細書において本発明者等は、直径10〜100μmの範囲の脳の小動脈の壁は野生型と比較してLDL受容体ヌルマウスにおいて肥厚すること、肥厚化はWestern食餌により悪化し、そしてT迷路連続交替作業における遂行能力の低下を伴うことを報告する。脳小動脈壁厚の増大は部分的には脳小動脈平滑筋αアクチン含量の増大に起因しており、D−4F投与により顕著に改善した。Western食餌を与えたLDL受容体ヌルマウスへのD−4Fの投与は血漿中脂質及び小動脈管腔直径に関わらず脳小動脈壁厚を低減し、そして空間記憶を改善すると考えられる。
【0042】
従って、D−4F、L−4F及びペプチドとして本明細書に記載する他の活性剤の使用は小動脈の構造及び/又は機能を改善するため、及び、小動脈の構造及び/又は機能の障害を特徴とする状態の症状1つ以上を緩解するために有効である。このような状態は、例えば、神経学的機能障害(例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、加齢による記憶力損失、卒中関連記憶力損失、Benswanger病等)、腎臓機能障害、肺胞機能障害等を包含する。
【0043】
即ち一部の実施形態においては、本発明は、炎症性脂質を封鎖、及び/又は、除去、及び/又は破壊し、そして前炎症性高密度リポ蛋白(HDL)を抗炎症性に変換するか、抗炎症性HDLをより抗炎症性とする薬剤1つ以上を投与することにより小動脈の構造及び機能を改善するための新しい方法を提供する。これらの活性剤はクラスAの両親媒性ヘリックスを含有する特定のペプチド(例えば参照により本明細書に組み込まれる米国特許6,664,230、PCT公開WO2002/15923及びWO2004/034977及び同時係争中の出願USSN:09/896,841、10/187,215、10/273,386及び10/423,830参照)、G両親媒性ヘリックスを含有するペプチド(参照により全体が本明細書に組み込まれるPCT公開WO03/086,326及び同時係争中の米国出願USSN10/120,508参照)、短鎖のペプチド又は非ペプチドであって分子量が900ダルトン未満であり、酢酸エチルに少なくとも4mg/mlの溶解度を有し、そしてpH7.0の水性緩衝液に可溶であり、そして水性環境中でリン脂質に接触すると直径約7.5nmの粒子を形成し、そして、約2nmの積層物中の二層間の間隔を有する3.4〜4.1nmのオーダーの二層寸法を有する積層二層を形成するもの(例えば参照により本明細書に組み込まれるPCT/US2004/026288、同時係争中の米国出願USSN10/649,378及び10/913,800及び同時係争中の米国出願USSN60/600,925をそれぞれ参照);及びsn−1及びsn−2位が同一であり少なくとも3炭素原子を含有する経口用合成リン脂質(例えば参照により本明細書に組み込まれる同時係争中の米国出願09/539,569及び09/994,227及びPCT公開WO01/75168参照)を包含する。
【0044】
特定の実施形態においては本発明は本明細書に記載した活性剤(ペプチド、ペプチド模倣物、脂質、小型有機分子等)1つ以上を哺乳動物(例えばヒト)に投与することにより実施される。活性剤は好ましくは小動脈、好ましくは約200μm未満の直径を有する、より好ましくは約160μm未満の直径を有する、更に好ましくは約80μm未満の直径を有する、そして最も好ましくは約50μm又は40μm未満の直径を有する小動脈の構造及び/又は機能を改善するために十分な用量又は用法において投与する。
I.活性剤
広範な種類の活性剤が上記した適応症の1つ以上の治療の為に適している。これらの薬剤の例は限定しないが、クラスAの両親媒性ヘリカルペプチド、非極性面に芳香族又は脂肪族の残基を有するアポA−IのクラスAの両親媒性ヘリカルペプチド模倣物、小型ペプチド、例えばペンタペプチド、テトラペプチド、トリペプチド、ジペプチド及びアミノ酸の対、Apo−J(Gペプチド)及びペプチド模倣物、例えば上記したものを包含する。
A)クラスA両親媒性ヘリカルペプチド
特定の実施形態においては、本発明の方法において使用するための活性剤はクラスAの両親媒性ヘリカルペプチド、例えば米国特許6,664,230及びPCT公開WO02/15923及びWO2004/034977に記載されているものを包含する。クラスAの両親媒性へリックス(「クラスAペプチド」)を含むペプチドは、アテローム性動脈硬化症の症状1つ以上を緩解することができることに加えて、本明細書に記載する他の適応症の1つ以上の治療においても有用であることがわかった。
【0045】
クラスAペプチドは極性及び非極性の残基の隔離をもたらすことにより極性及び非極性の面を形成し、正荷電残基が極性−非極性界面に位置し、負荷電残基が極性面の中心に位置するようにする、α−ヘリックスの形成を特徴とする(例えばAnantharamaiah(1986)Meth.Enzymol.128:626−668参照)。アポA−Iの第4番目のエクソンは3.667残基/ターンに折り畳まれるとクラスAの両親媒性ヘリカル構造をもたらすことが知られている。
【0046】
1つのクラスAペプチドは18Aと標記され(例えばAnantharamaiah(1986)Meth.Enzymol.128:626−668参照)、本明細書に記載する通り修飾することにより、経口投与可能でアテローム性動脈硬化症及び/又は本明細書に記載する他の適応症の症状1つ以上を抑制又は予防する場合に高度に有効なペプチドを生成した。特定の理論に制約されないが、本発明のペプチドはLDLの酸化を低減するシード分子をピックアップすることによりインビボで機能すると考えられる。
【0047】
18Aの疎水性の面の上のPhe残基の数を増大させると、理論的には、Palgunachari et al.(1996)Arteriosclerosis,Thrombosis&Vascular Biology16:328−338に記載されている計算で求めた場合の脂質の親和性を増大させることになる。理論的には、Pheによる18Aの非極性面における残基の系統的置換は6ペプチドを与えることになる。追加の2、3及び4Pheを有するペプチドはそれぞれ13,14及び15単位の理論的脂質親和性(λ)値を有することになる。しかしながら、追加のPheが4から5に増大するとλ値は4単位の飛躍的増大を示す(19λ単位になる)。6又は7Pheに増大すると増大はそれほど劇的ではなくなる(それぞれ20及び21λ単位)。
【0048】
これらのクラスAペプチドの多くが作成されており、例えば4F、D4F、5F及びD5F等と標記されるペプチドが包含される。種々のクラスAペプチドがアテローム性動脈硬化症に罹患しやすいマウスにおける患部の形成を抑制している。更に又、ペプチドは本明細書に記載した種々の病的状態の症状の1つ以上を緩和することにおいて、変動性ではあるが有意な程度の薬効を示している。このようなペプチドの多数を表1に示す。
【0049】
表1.本発明において使用するための例示されるクラスAの両親媒性ヘリカルペプチド
【0050】
【表1−1】

【0051】
【表1−2】

【0052】
【表1−3】

【0053】
【表1−4】

特定の好ましい実施形態においては、ペプチドは4Fの変異を包含する((表1の配列番号5、L−4Fとしても知られており、全ての残基がL型アミノ酸である)又は残基1つ以上がD型アミノ酸であるD−4F)。本明細書に記載したペプチドの何れかにおいて、C末端及び/又はN末端及び/又は内部の残基を本明細書に記載するブロッキング基1つ以上でブロックすることができる。
【0054】
アミノ末端を保護するアセチル基又はN−メチルアントラニリル基、及び、カルボキシ末端を保護するアミド基を有する種々のペプチドを表1に示したが、これらの保護基の何れも排除及び/又は本明細書に記載する別の保護基で置き換えてよい。特に好ましい実施形態においては、ペプチドは本明細書に記載したD型アミノ酸1つ以上を含む。特定の実施形態においては、表1のペプチドの各アミノ酸(例えば各エナンチオマーアミノ酸)はD型アミノ酸である。
【0055】
表1が全てを完全に包含するわけではない。本明細書に記載した教示を使用することにより、他の適当なクラスAの両親媒性ヘリカルペプチドが日常的に作成できる(例えば保存的又は半保存的な置換(例えばDをEで置き換える)、伸長、欠失等)。即ち、例えば、1つの実施形態は本明細書に示したペプチドの何れかの1つ以上のトランケーションを利用している(例えば表1において配列番号2〜20及び39により識別されるペプチド)。即ち、例えば、配列番号21はDアミノ酸1つ以上を含む18AのC末端に由来する14アミノ酸を含むペプチドを示しており、配列番号22〜38は他のトランケーションを示す。
【0056】
より長いペプチドも適している。そのようなより長いペプチドは完全にクラスAの両親媒性ヘリックスを形成してよく、又は、クラスA両親媒性ヘリックスがペプチドのドメイン1つ以上を形成することができる。更に、本発明はペプチドの多量体型も意図している(例えばコンカタマー)。即ち、例えば本明細書に示したペプチドを共にカップリングすることができる(直接又は介在アミノ酸1つ以上を有するリンカー(例えば炭素リンカー又はアミノ酸1つ以上)を介して)。例示される重合体ペプチドは、Dアミノ酸1つ以上、より好ましくは何れのアミノ酸においても本明細書に記載するDアミノ酸及び/又は一端又は両端が保護されているものを含む特定の実施形態においては、18A−Pro−18A及び配列番号78〜85のペプチドを包含する。
【0057】
当然ながら、本明細書に例示したペプチド配列のほかに、本発明は又これらのペプチドの各々のレトロ及びレトロインベルソの形態も意図している。レトロ型においては、配列の方向が逆転する。インバース型においては、構成成分のアミノ酸のキラル性が逆転する(即ち、L型アミノ酸はD型アミノ酸になり、D型アミノ酸はL型アミノ酸になる)。レトロインベルソ型においては、アミノ酸の順番とキラル性の両方が逆転する。即ち、例えばアミノ末端がアスパルテート(D)にありカルボキシ末端がフェニルアラニン(F)にあるD4Fペプチドのレトロ型(DWFKAFYDKVAEKFKEAF、配列番号5)は同じ配列を有するが、アミノ末端はフェニルアラニンにあり、カルボキシ末端はアスパルテートにある(即ちFAEKFKEAVKDYFAKFWD、配列番号444)。D4Fペプチドが全てのD型アミノ酸を含む場合は、レトロインベルソ型は上記した配列(配列番号444)を有し全てのL型アミノ酸を含むことになる。即ち、例えば、4F及びRev−4Fは、正荷電残基が極性−非極性界面に位置し、負荷電残基が極性面の中心に位置するようにする極性及び非極性の面の同一の隔離を有する相互の鏡像となる。アミノ酸の同じ重合体のこれらの鏡像は正荷電残基が極性−非極性界面に位置し、負荷電残基が極性面の中心に位置するようにする極性及び非極性の面の隔離という点において同一である。レトロ及びレトロインベルソ型のペプチドの考察は例えばChorev and Goodman,(1995)TibTech,13:439−445を参照できる。
【0058】
配列に言及し、方向を標示しない場合は、配列はアミノからカルボキシの方向のアミノ酸配列、レトロ型(即ちカルボキシからアミノの方向のアミノ酸配列)、L型アミノ酸がD型アミノ酸と置き換えられている、又はD型アミノ酸がL型アミノ酸と置き換えられているレトロ型、及び、順番が逆転にし、アミノ酸キラル性も逆転しているレトロインベルソ型を示すものとして捉えることができる。
【0059】
当然ながら、本明細書に標示するペプチド配列に加えて、本発明はそのようなペプチドの環状変異(CP)及び/又はそのようなペプチドのレトロ、インベルソ又はレトロインベルソ型の環状変異も意図している。ペプチドの環状変異は元のペプチドのアミノ及びカルボキシル末端を連結し、そしてこのようにして形成された環状ペプチドを開裂して新しいアミノ及びカルボキシ末端を形成することにより生成されるものと同一なアミノ酸配列を有するペプチドである。
B)非極性面に芳香族又は脂肪族の残基を有するアポA−Iの他のクラスA両親媒性ヘリカルペプチド模倣物
特定の実施形態においては、本発明はまた修飾されたクラスAの両親媒性ヘリックスペプチドを提供する。特定の好ましいペプチドは非極性面、例えば3FCπ(4Fに存在)の中心に芳香族残基1つ以上を取り込んでいるか、又は、非極性面、例えば3FIπに脂肪族残基1つ以上を有し、例えば表2を参照できる。特定の理論に制約されないが、本発明者等はペプチドの非極性面3FCπ上の中心の芳香族残基は、非極性面の中心のπ電子の存在の為に、水分子をペプチド−脂質複合体の疎水性脂質のアルキル鎖の近傍まで浸透させ、次にこれがそれらを細胞表面から遮蔽している反応性酸素物質種(例えば脂質のヒドロパーオキシド)の進入を可能にすると考える。同様に本発明者等はまた、非極性面、例えば3FIπの中心に脂肪族残基を有するペプチドは同様に機能するが、3FCπほど有効ではないと考える。
【0060】
好ましいペプチドは前炎症性HDLを抗炎症性HDLに変換するか、又は抗炎症性HDLを更に抗炎症性とし、及び/又は、D4F又は表1に示す他のペプチドと同等以上の動脈壁細胞により発生されたLDL誘導単球化学走性活性を低減する。
【0061】
表2.特定の好ましいペプチドの例
【0062】
【表2】

C)より小型のペプチド
好ましくは(必須ではない)アミノ酸のD型立体異性体であるアミノ酸1つ以上を有し、そして、脂質蛋白相互作用を可能にする疎水性ドメイン及びある程度の水溶性を可能にする親水性ドメインを保有している最低3アミノ酸よりなる特定の小型ペプチドもまた顕著な抗炎症特性を有し、そして本明細書に記載した病的状態1つ以上の治療において有用であることもまた意外な発見であった。「小型ペプチド」は典型的には2アミノ酸〜約15アミノ酸、より好ましくは約3アミノ酸〜約10又は11アミノ酸、そして最も好ましくは約4〜約8又は10アミノ酸の長さの範囲にある。種々の実施形態において、ペプチドは典型的には疎水性の末端アミノ酸、又は、疎水性の「保護基」1つ以上の結合により疎水性とされた末端アミノ酸を有することを特徴とする。種々の「小型ペプチド」が同時係争中の2003年8月26日出願の米国出願USSN10/649,378及び2004年8月6日出願のUSSN10/913,800及びPCT出願PCT/US2004/026288に記載されている。
【0063】
特定の実施形態においては、ペプチドは下記式I:
【0064】
【化1】

[式中、nは0又は1であり、Xは疎水性アミノ酸であるか、及び/又は、疎水性の保護基を担持しており、Xは疎水性アミノ酸であるか、及び/又は、疎水性の保護基を担持しており、そしてnが0である場合は、Xは酸性又は塩基性のアミノ酸であり;nが1である場合は、X及びXは独立して酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、脂肪族アミノ酸又は芳香族アミノ酸であるが、ここでX2が酸性アミノ酸である場合は;Xは塩基性アミノ酸、脂肪族アミノ酸又は芳香族アミノ酸であり;Xが塩基性アミノ酸である場合は;Xは酸性アミノ酸、脂肪族アミノ酸又は芳香族アミノ酸であり;そしてXが脂肪族又は芳香族アミノ酸である場合は、Xは酸性アミノ酸又は塩基性アミノ酸である]により特徴付けることができる。
【0065】
より長いペプチド(例えば10、11又は15アミノ酸まで)もまた本発明の範囲内に意図される。典型的には、より短いペプチド(例えば式Iのペプチド)が酸性、塩基性、脂肪族又は芳香族のアミノ酸により特徴付けられる場合は、より長いペプチドはその型のアミノ酸2つ以上を含む酸性、塩基性、脂肪族又は芳香族のドメインにより特徴づけられる。
1)活性小型ペプチドの機能的特性
本発明の小型ペプチド(例えば10アミノ酸未満、好ましくは8アミノ酸未満、より好ましくは約3〜約5又は6アミノ酸)がHDLをより抗炎症性にし、哺乳動物におけるアテローム性動脈硬化症及び/又は炎症応答を特徴とする他の病的状態を緩解する能力を多くの物理的特性が予測していることは本発明の意外な発見であった。物理的特性は酢酸エチル中の高い溶解度(例えば約4mg/ml超)及びpH7.0の水性緩衝液中の溶解性を包含する。1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)のようなリン脂質を水性環境中で接触させると、特に有効な小型ペプチドは約7.5mm(±0.1mm)の直径を有する粒子の形成を誘導するかそれに関与し、及び/又は、約2nmの積層物中の二層間の間隔を有する3.4〜4.1nmのオーダーの二層寸法を有する積層二層の形成を誘導するかそれに関与し、及び/又は、約38nmの嚢胞構造の形成を誘導するかそれに関与する。特定の好ましい実施形態においては、小型ペプチドは約900Da未満の分子量を有する。
【0066】
即ち、特定の実施形態においては、本発明は本明細書に記載する適応症/病的状態、例えば炎症状態の症状1つ以上を緩解する小型ペプチドを意図しており、その場合、ペプチドは約3〜約8アミノ酸、好ましくは約3〜約6又は7アミノ酸、より好ましくは約3〜約5アミノ酸の長さの範囲であり;約4mg/ml超の濃度で酢酸エチルに可溶であり;pH7.0の水性緩衝液に可溶であり;水性環境中でリン脂質に接触すると直径約7.5nmの粒子を形成し、及び/又は、約2nmの積層物中の二層間の間隔を有する3.4〜4.1nmのオーダーの二層寸法を有する積層二層を形成し;約900ダルトン未満の分子量を有し;前炎症性HDLを抗炎症性HDLに変換するか、又は抗炎症性HDLを更に抗炎症性とし;そして特にLys−Arg−Asp及びSerが全てL型アミノ酸であるアミノ酸配列Lys−Arg−Asp−Ser(配列番号235)を有さない。特定の実施形態においては、これらの小型ペプチドは酸化剤による酸化からリン脂質を保護する。
【0067】
これらの小型ペプチドはそのように限定されるわけではないが、特定の実施形態においては、これらの小型ペプチドは以下に記載する小型ペプチドを包含することができる。
2)トリペプチド
本明細書に記載した望ましい特性(例えば前炎症性HDLを抗炎症性HDLに変換する能力、動脈壁細胞により発生されたLDL誘導単球化学走性活性を低減する能力、前ベータHDLを増大させる能力等)を示す特定のトリペプチド(3アミノ酸ペプチド)を合成できることがわかった。特定の実施形態においては、ペプチドは下記式II:
【0068】
【化2】

[式中、末端アミノ酸(X及びX)は、疎水性側鎖により、又は、側鎖又はC及び/又はN末端が疎水性の保護基1つ以上によりブロックされている(例えばN−末端はBoc−、Fmoc−、ニコチニル等によりブロックされており、そしてC末端は(tBu)−OtBu等によりブロックされている)ため疎水性である]として示されるNがゼロである式Iにより特徴付けられる。特定の実施形態においては、Xアミノ酸は酸性(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸等)又は塩基性(例えばヒスチジン、アルギニン、リジン等)である。ペプチドは全てL型アミノ酸であるか、又は1つ以上又は全てのD型アミノ酸を包含してよい。
【0069】
本発明の特定の好ましいトリペプチドは表3に示すペプチドを包含するがこれらに限定されない。
【0070】
表3.疎水性のブロッキング基及び酸性、塩基性又はヒスチジン中心アミノ酸を担持した特定の好ましいトリペプチドの例
【0071】
【表3−1】

【0072】
【表3−2】

【0073】
【表3−3】

【0074】
【表3−4】

表3のペプチドは特定の保護基を有するものを示したが、これらの基は本明細書に記載する別の保護基により置換されてもよく、及び/又は、示した保護基の1つ以上が除去され得る。
3)中央の酸性及び塩基性のアミノ酸を有する小型ペプチド
特定の実施形態においては、本発明のペプチドは4アミノ酸〜約10アミノ酸の範囲である。末端アミノ酸は疎水性側鎖のため、又は、末端アミノ酸が1つ以上の疎水性保護基を担持しているために典型的には疎水性であり、末端アミノ酸(X及びX)は、疎水性側鎖により、又は、側鎖又はC及び/又はN末端が疎水性の保護基1つ以上によりブロックされている(例えばN−末端はBoc−、Fmoc−、ニコチニル等によりブロックされており、そしてC末端は(tBu)−OtBu等によりブロックされている)ため疎水性である。典型的には、ペプチドの中央部分は塩基性アミノ酸及び酸性アミノ酸(例えば4量体として)又は塩基性のドメイン及び/又は酸性ドメインをより長い分子中に含む。
【0075】
これらの4量体はX及びXが疎水性であり、及び/又は、本明細書に記載した疎水性保護基を担持しており、そしてXが酸性でありXが塩基性であるか、又は、Xが塩基性でありXが酸性である式Iにより示すことができる。ペプチドは全てL型アミノ酸であるか1つ以上又は全てのD型アミノ酸を含むことができる。
【0076】
本発明の特定の好ましいものは、限定しないが表4に示すペプチドである。
【0077】
表4.中央の酸性及び塩基性のアミノ酸を有する小型ペプチドの代表例
【0078】
【表4−1】

【0079】
【表4−2】

【0080】
【表4−3】

【0081】
【表4−4】

【0082】
【表4−5】

表4のペプチドは特定の保護基を有するものを示したが、これらの基は本明細書に記載する別の保護基により置換されてもよく、及び/又は、示した保護基の1つ以上が除去され得る。
4)中央の脂肪族アミノ酸と共に中央部に酸性又は塩基性のアミノ酸の何れかを有する小型ペプチド
特定の実施形態においては、本発明のペプチドは4アミノ酸〜約10アミノ酸の範囲である。末端アミノ酸は疎水性側鎖のため、又は、末端アミノ酸が1つ以上の疎水性保護基を担持しているために典型的には疎水性であり、末端アミノ酸(X及びX)は、疎水性側鎖により、又は、側鎖又はC及び/又はN末端が疎水性の保護基1つ以上によりブロックされている(例えばN−末端はBoc−、Fmoc−、ニコチニル等によりブロックされており、そしてC末端は(tBu)−OtBu等によりブロックされている)ため疎水性である。典型的には、ペプチドの中央部分は塩基性又は酸性のアミノ酸及び脂肪族アミノ酸(例えば4量体として)又は塩基性のドメイン又は酸性ドメイン及び脂肪族ドメインをより長い分子中に含む。
【0083】
これらの4量体はX及びXが疎水性であり、及び/又は、本明細書に記載した疎水性保護基を担持しており、そしてXが酸性又は塩基性でありXが脂肪族であるか、又は、Xが脂肪族でありXが酸性又は塩基性である式Iにより示すことができる。ペプチドは全てL型アミノ酸であるか1つ以上又は全てのD型アミノ酸を含むことができる。
【0084】
本発明の特定の好ましいものは、限定しないが表5に示すペプチドである。
【0085】
表5.中央の脂肪族アミノ酸と共に中央部に酸性又は塩基性のアミノ酸の何れかを有する特定の好ましいペプチドの例
【0086】
【表5】

表5のペプチドは特定の保護基を有するものを示したが、これらの基は本明細書に記載する別の保護基により置換されてもよく、及び/又は、示した保護基の1つ以上が除去され得る。
5)中央の芳香族アミノ酸と共に中央部に酸性又は塩基性のアミノ酸の何れかを有する小型ペプチド
特定の実施形態においては、本発明の「小型」ペプチドは4アミノ酸〜約10アミノ酸の範囲である。末端アミノ酸は疎水性側鎖のため、又は、末端アミノ酸が1つ以上の疎水性保護基を担持しているために典型的には疎水性であり、末端アミノ酸(X及びX)は、疎水性側鎖により、又は、側鎖又はC及び/又はN末端が疎水性の保護基1つ以上によりブロックされている(例えばN−末端はBoc−、Fmoc−、ニコチニル等によりブロックされており、そしてC末端は(tBu)−OtBu等によりブロックされている)ため疎水性である。典型的には、ペプチドの中央部分は塩基性又は酸性のアミノ酸及び芳香族アミノ酸(例えば4量体として)又は塩基性のドメイン又は酸性ドメイン及び芳香族ドメインをより長い分子中に含む。
【0087】
これらの4量体はX及びXが疎水性であり、及び/又は、本明細書に記載した疎水性保護基を担持しており、そしてXが酸性又は塩基性でありXが芳香族であるか、又は、Xが芳香族でありXが酸性又は塩基性である式Iにより示すことができる。ペプチドは全てL型アミノ酸であるか1つ以上又は全てのD型アミノ酸を含むことができる。5量体はXが表6に示すように挿入され、そして、Xが典型的には芳香族アミノ酸である式Iの僅少な修飾により表すことができる。
【0088】
本発明の特定の好ましいものは、限定しないが表6に示すペプチドである。
【0089】
表6.中央の芳香族アミノ酸と共に中央部に酸性又は塩基性のアミノ酸の何れかを有する特定の好ましいペプチドの例
【0090】
【表6−1】

【0091】
【表6−2】

表6のペプチドは特定の保護基を有するものを示したが、これらの基は本明細書に記載する別の保護基により置換されてもよく、及び/又は、示した保護基の1つ以上が除去され得る。
6)中心に芳香族アミノ酸又はヒスチジンにより分離された芳香族アミノ酸を有する小型ペプチド
特定の実施形態においては、本発明のペプチドは分子の中心に露出したπ電子を特徴とし、これは粒子の水和を可能にし、そしてペプチド粒子が前炎症性の酸化された脂質、例えば脂肪酸のヒドロペルオキシド及びsn−2位にアラキドン酸の酸化生成物を含有するリン脂質を捕獲することができるようにする。
【0092】
特定の実施形態においては、これらのペプチドは最低4アミノ酸及び最高約10アミノ酸よりなり、好ましくは(必須ではない)アミノ酸の1つ以上がアミノ酸のD型立体異性体であり、末端アミノ酸は疎水性側鎖のため、又は、末端アミノ酸が1つ以上の疎水性ブロッキング基を担持しているために疎水性である(例えばN−末端はBoc−、Fmoc−、ニコチニル等によりブロックされており、そしてC末端は(tBu)−OtBu群などによりブロックされている)。酸性又は塩基性のアミノ酸を中心に有する替わりに、これらのペプチドは一般的に中心に芳香族アミノ酸を有するか、又は、ペプチドの中心のヒスチジンにより分離された芳香族アミノ酸を有する。
【0093】
本発明の特定の好ましいペプチドは、限定しないが表7に示すペプチドである。
【0094】
表7.中心の芳香族アミノ酸又はヒスチジン1つ以上により分離された芳香族アミノ酸又は芳香族ドメインを有するペプチドの例
【0095】
【表7】

表7のペプチドは特定の保護基を有するものを示したが、これらの基は本明細書に記載する別の保護基により置換されてもよく、及び/又は、示した保護基の1つ以上が除去され得る。
7)トリペプチド及びテトラペプチドの総括
明確化のために、本発明の多くのトリペプチド及びテトラペプチドを下記の表8において全般的に総括する。
【0096】
表8.本発明の特定のペプチドの全般的構造
【0097】
【表8】

より長いペプチドが所望である場合は、X及びXは個々のアミノ酸ではなくドメイン(例えば特定の型のアミノ酸2つ以上の領域)を指すことができる。表8は例示であり限定するものではない。本明細書に示した教示を用いて他の適当なペプチドを容易に識別できる。
8)対のアミノ酸及びジペプチド
特定の実施形態においては、本発明は特定の対のアミノ酸が、相互に組み合わせて投与された場合、又は、連結してジペプチドを形成した場合に、本明細書に記載した特性1つ以上を有するという発見に関する。即ち、特定の理論に制約されないが、アミノ酸の対を本明細書に記載する通り相互に組み合わせて投与した場合に、それらはインビボのミセル形成に関与するか、それを誘導すると考えられる。
【0098】
本明細書に記載した他の小型ペプチドと同様、ペプチドの対はインビボで会合し、そして酢酸エチル中の高い溶解度(例えば約4mg/ml超)、pH7.0の水性緩衝液中の溶解性を包含する物理的特性を示すと考えられる。1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)のようなリン脂質を水性環境中で接触させると、アミノ酸の対は約7.5mm(±0.1mm)の直径を有する粒子の形成を誘導するかそれに関与し、及び/又は、約2nmの積層物中の二層間の間隔を有する3.4〜4.1nmのオーダーの二層寸法を有する積層二層の形成を誘導するかそれに関与し、及び/又は、約38nmの嚢胞構造の形成を誘導するかそれに関与すると考えられる。
【0099】
更に又、アミノ酸の対は以下の生理学的に関連性のある特性の1つ以上を示すことができると考えられる。
1.それらは前炎症性HDLを抗炎症性HDLに変換するか、抗炎症性HDLをより抗炎症性とし;
2.それらは動脈壁細胞により発生されたLDL誘導単球化学走性活性を低減し;
3.それらは前βHDLの形成及びサイクリングを刺激し;
4.それらはHDLコレステロールを上昇させ;そして/又は、
5.それらはHDLパラオキソナーゼ活性を増大させる。
【0100】
アミノ酸の対は、別個のアミノ酸として投与する(逐次的又は同時に、例えば組み合わせの製剤として)か、又は、直接又はリンカー(例えばPEGリンカー、炭素リンカー、分枝鎖リンカー、直鎖リンカー、複素環リンカー、誘導体化された脂質から形成したリンカー等)を介して共有結合することができる。特定の実施形態においては、アミノ酸の対をペプチド結合を介して共有結合し、ジペプチドを形成する。種々の実施形態において、ジペプチドは典型的には各々が結合した保護基を有する2アミノ酸を含むが、本発明はアミノ酸僅か1つが保護基1つ以上を担持するジペプチドも意図する。
【0101】
アミノ酸の対は典型的には各アミノ酸が少なくとも1つの保護基(例えば本明細書に記載した疎水性保護基)に結合しているアミノ酸を含む。アミノ酸はD又はL型であることができる。特定の実施形態においては、対を含むアミノ酸が相互に結合していない場合に各アミノ酸は2保護基を担持する(例えば表9の分子1及び2)。
【0102】
表9.本発明の代表的アミノ酸対
【0103】
【表9】

これは典型的には第2のアミノ酸と連携して投与される。**特定の実施形態においては、これらのジペプチドは相互に連携して投与される。***特定の実施形態においては、このペプチドは単独か又は本明細書に記載した他のペプチドと組み合わせて投与される。
【0104】

アミノ酸の適当な対は、保護されたアミノ酸の対及び/又はジペプチドを準備し、次に本明細書に記載した物理的及び/又は生理学的特性の1つ以上についてアミノ酸対/ジペプチドをスクリーニングすることにより容易に発見することができる。特定の実施形態においては、本発明はアスパラギン酸及びフェニルアラニンを含むアミノ酸対及び/又はジペプチドを除外する。特定の実施形態においては、本発明は一方のアミノ酸が(−)−N−[(トランス−4−イソプロピルシクロヘキサン)カルボニル]−D−フェニルアラニン(ナテグリニド)であるアミノ酸対及び/又はジペプチドを除外する。
【0105】
特定の実施形態においては、対を含むアミノ酸は、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸等)、塩基性アミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン等)及び非極性アミノ酸(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン等)よりなる群から独立して選択される。特定の実施形態においては、第1のアミノ酸が酸性又は塩基性である場合に、第2のアミノ酸は非極性であり、そして第2のアミノ酸が酸性又は塩基性である場合に、第1のアミノ酸は非極性である。特定の実施形態においては、第1のアミノ酸が酸性である場合に、第2のアミノ酸は塩基性、或いはその逆となる(例えば表10参照)。
【0106】
同様の組み合わせはジペプチドの対を投与することによっても得られる。即ち、例えば特定の実施形態においては、表9の分子3及び4は相互に連携させて投与する。
【0107】
表10.特定の一般化したアミノ酸対/ジペプチド
【0108】
【表10】

これらのアミノ酸対/ジペプチドは例示を意図しており、限定するものではない。本明細書に記載した教示を使用することにより、他の適当なアミノ酸対/ジペプチドは容易に決定できる。
D)アポ−J(Gペプチド)
特定の実施形態において、アポJの両親媒性ヘリカルドメインを模倣しているペプチドがアテローム性動脈硬化症及び/又は本明細書に記載した他の病的状態の症状1つ以上を緩解することができることは本発明の発見であった。アポリポ蛋白Jは球状蛋白様、又は、G両親媒性ヘリカルドメインと称される広範な非極性の面を有する。クラスGの両親媒性ヘリックスは球状蛋白において存在し、そしてこのためグラスGと命名されている。両親媒性ヘリックスのこのクラスは極性面上の正荷電及び負荷電の残基のランダムな分布と狭小な非極性の面を特徴としている。狭小な非極性の面の為に、このクラスはリン脂質とは容易に会合しない。両親媒性ヘリックスのGはG両親媒性ヘリックスと同様であるが同一ではない特性を有している。クラスGの両親媒性ヘリックスと同様、クラスGのペプチドは極性面上の正荷電及び負荷電の残基のランダムな分布を有している。しかしながら、狭小な非極性の面を有するクラスGの両親媒性ヘリックスとは対照的に、このクラスはこのクラスをリン脂質に容易に結合可能とする広範な非極性の面を有し、そしてクラスは両親媒性ヘリックスのクラスGと区別するためにGと称されている。
【0109】
多くの適当なG両親媒性ペプチドが同時係争中の2002年4月5日出願の米国出願USSN10/120,508、2003年4月1日出願の米国出願USSN10/520,207及び2003年4月1日出願のPCT/US03/09988に記載されている。更に又、アポJのG両親媒性ヘリカルドメインに関連する本発明の種々の適当なペプチドを表11に記載する。
【0110】
表11.アポJのG両親媒性ヘリカルドメインに関連する本発明で使用するための好ましいペプチド
【0111】
【表11】

しかしながら本発明のペプチドはアポJのG変異体に限定されない。一般的に、本質的に如何なる他の蛋白、好ましくはアポ蛋白に由来するGドメインも適している。そのような蛋白の特定の適性については、例えば本明細書の実施例に記載するもののような保護活性(例えば酸化からLDLを保護する等)に関する試験を用いて容易に測定できる。一部の特に好ましい蛋白は例えばアポAI、アポAIV、アポE、アポCII、アポCIII等を包含する(ただし、これらに限定されない)蛋白のG両親媒性ヘリカルドメイン又はその変異体(例えば保存的置換等)を包含する。
【0112】
アポJ以外のアポ蛋白に関連するG両親媒性ヘリカルドメインに関連する特定の好ましいペプチドを表12に示す。
【0113】
表12.アポJ以外のアポ蛋白に関連するG両親媒性ヘリカルドメインに関連する本発明において使用するためのペプチド
【0114】
【表12】

別の代表的Gペプチドを表13に示す。
【0115】
表13.別の代表的Gペプチド
【0116】
【表13−1】

【0117】
【表13−2】

【0118】
【表13−3】

【0119】
【表13−4】

【0120】
【表13−5】

【0121】
【表13−6】

他の限定しない適当なペプチドを表14に示す。
【0122】
表14.向上した疎水性相を有する代表的ペプチド
【0123】
【表14】

本明細書に記載したペプチド(V2W3A5F10、17−D−4F;V2W3F10−D−4F;W3−D−4F)は元のD−4Fよりも強力である場合がある。
【0124】
更に別の適当なペプチドの限定しない例は、P−ジメチルチロシン−D−Arg−Phe−Lys−P(配列番号604)及びP−ジメチルチロシン−Arg−Glu−Leu−Pを包含し、ここでP1及びP2は本明細書に記載したもののような保護基である。特定の実施形態においては、これらのペプチドは例えばBocジメチルチロシン−D−Arg−Phe−Lys(OtBu)及びBocジメチルチロシン−Arg−Glu−Leu(OtBu)を包含するがこれらに限定されない。
【0125】
特定の実施形態においては、本発明のペプチドは少なくとも1つのDアミノ酸及び/又は少なくとも1つ又は2つの末端保護基を含むアミノ酸配列LAEYHAK(配列番号605)を含むかこれよりなるペプチドを包含する。特定の実施形態においては、本発明は炎症状態の症状1つ以上を緩解するAペプチドを包含し、ここでペプチドは約3〜約10アミノ酸の長さの範囲であり;芳香族又は疎水性アミノ酸と交互する酸性又は塩基性のアミノ酸を配列が含むようにアミノ酸配列を含んでおり;疎水性末端アミノ酸又は疎水性保護基を担持する末端アミノ酸を含み;全L型アミノ酸を含む配列LAEYHAK(配列番号606)ではなく;ここでペプチドは前炎症性HDLを抗炎症性HDLに変換、及び/又は、抗炎症性HDLを更に抗炎症性とする。
【0126】
本明細書の表に記載したペプチドが全てではない、本明細書に記載した教示を使用することにより、他の適当なペプチドが日常的に作成できる(例えば保存的又は半保存的な置換(例えばDをEで置き換える)、伸長、欠失等)。即ち、例えば、1つの実施形態は配列番号444〜472により示されるペプチドの何れかの1つ以上のトランケーションを利用している。
【0127】
より長いペプチドも適している。そのようなより長いペプチドは完全にクラスG又はGの両親媒性ヘリックスを形成してよく、又は、クラスG両親媒性ヘリックスがペプチドのドメイン1つ以上を形成することができる。更に、本発明はペプチドの多量体型も意図している。即ち、例えば本明細書の表に示したペプチドを共にカップリングすることができる(直接又は介在アミノ酸1つ以上を有するリンカー(例えば炭素リンカー又はアミノ酸1つ以上)を介して)。適当なリンカーはプロリン(−Pro−)、GlySer(配列番号607)、(GlySer)(配列番号608)等を包含するがこれらに限定されない。即ち、本発明の1つの例示される多量体ペプチドは(D−J336)−P−(d−J336)(即ちAc−L−L−E−Q−L−N−E−Q−F−N−W−V−S−R−L−A−N−L−T−Q−G−E−−L−L−E−Q−L−N−E−Q−F−N−W−V−S−R−L−A−N−L−T−Q−G−E−NH、配列番号609)である。
【0128】
本発明は又1つ以上のG又はG両親媒性ヘリックスドメイン及び1つ以上のクラスA両親媒性ヘリックスを含む「ハイブリッド」ペプチドの使用も意図する。適当なクラスAの両親媒性ヘリックスペプチドはPCT公開WO02/15923に記載されている。即ち、例示すれば、1つのこのような「ハイブリッド」ペプチドは(D−J336)−Pro−(4F)(即ちAc−L−L−E−Q−L−N−E−Q−F−N−W−V−S−R−L−A−N−L−T−Q−G−E−−D−W−F−K−A−F−Y−D−K−V−A−E−K−F−K−E−A−F−NH、配列番号610)等である。
【0129】
本明細書に記載した教示を使用することにより、当業者は、例示した両親媒性ヘリカルペプチドを日常的に修飾することにより本発明の他の適当なアポJ変異体及び/又は両親媒性G及び/又はAヘリカルペプチドを製造することができる。例えば日常的な保存的又は半保存的な置換(例えばEとD)を既存のアミノ酸から行うことができる。得られるペプチドの脂質親和性に対する種々の置換の影響はPalgunachari et al.(1996)Arteriosclerosis,Thrombosis&Vascular Biology 16:328−338に記載されているコンピューター処理法を用いて予測することができる。ペプチドはクラスのヘリックス構造が温存される限り長鎖化又は短鎖化することができる。更に又、置換を行うことにより得られるペプチドを対象動物種により内因的に生産されるペプチドとより近似するものとすることができる。
【0130】
好ましい実施形態においては本発明のペプチドは天然に存在するアミノ酸又は天然に存在するアミノ酸のD型を利用しているが、天然に存在するものではないアミノ酸(例えばメチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム、ノルロイシン、イプシロンアミノカプロン酸、4−アミノブタン酸、テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸、8−アミノカプリル酸、4−アミノ酪酸、Lys(N(イプシロン)トリフルオロアセチル)、α−アミノイソ酪酸など)による置換もまた意図している。
【0131】
新しいペプチドはコンピューター処理法を用いて設計及び/又は評価できる。両親媒性ヘリカルドメインを発見して分類するためのコンピュータープログラムは当該分野で良く知られており、多くはJones et al.(1992)J.Lipid Res.33:289−296により記載されている。このようなプログラムの例は、限定しないがヘリカルホイールプログラム(WHEEL又はWHEEL/SNORKEL)、ヘリカルネットプログラム(HELNET、HELNET/SNORKEL、HELNET/Angle)、ヘリカルホイールの追加のためのプログラム(COMBO又はCOMBO/SNORKEL)、ヘリカルネットの追加のためのプログラム(COMNET、COMNET/SNORKEL、COMBO/SELECT、COMBO/NET)、コンセンサスホイールプログラム(CONSENSUS、CONSENSUS/SNORKEL)等が包含される。
E)ブロッキング基及びD残基
本明細書に記載した種々のペプチド及び/又はアミノ酸対は保護基を有さないものを示したが、特定の実施形態においては(例えば経口投与用)、それらは1、2、3、4又はそれ以上の保護基を担持することができる。保護基はペプチドのC及び/又はN末端に、及び/又は、ペプチドを含む内部の残基1つ以上にカップリングすることができる(例えば構成アミノ酸のR基の1つ以上をブロックすることができる)。即ち、例えば、特定の実施形態においては、本明細書に記載したペプチドの何れも、例えばアミノ末端を保護するアセチル基及び/又はカルボキシル末端を保護するアミド基を担持することができる。そのような二重保護ペプチドの一例はAc−L−L−E−Q−L−N−E−Q−F−N−W−V−S−R−L−A−N−L−T−Q−G−E−NH(ブロッキング基を有する配列番号444)であり、これらの保護基の何れか又は両方は排除及び/又は本明細書に記載する他の保護基で置換されていることができる。
【0132】
特定の理論に制約されないが、特に本発明の対象となるペプチドのアミノ及び/又はカルボキシ末端のブロックは経口送達を大きく向上させ、そして血清中半減期を顕著に延長することは本発明の発見である。
【0133】
多数の種類の保護基がこの目的の為に適している。このような基には例えばアセチル、アミド及びアルキル基が包含され、アセチル及びアルキル基がN末端保護には特に適しており、そしてアミド基がカルボキシル末端保護には好ましいがこれらに限定されない。特定の特に好ましい実施形態においては、保護基は脂肪酸中のもののようなアルキル鎖、プロペオニル、ホルミル等を包含するがこれらに限定されない。特に好ましいカルボキシル保護基はアミド、エステル及びエーテル形成保護基を包含する。1つの好ましい実施形態においては、アセチル基を用いてアミノ末端を保護し、そしてアミド基を用いてカルボキシル末端を保護する。これらのブロッキング基はペプチドのヘリックス形成傾向を増強する。特定の好ましいブロッキング基は種々の長さのアルキル基、例えば式:CH−(CH−CO−を有する基を包含し、式中、nは約1〜約20、好ましくは約1〜約16又は18、より好ましくは約3〜約13、そして最も好ましくは約3〜約10である。
【0134】
特定の特に好ましい実施形態において、保護基は脂肪酸中のもののようなアルキル鎖、プロペオニル、ホルミル等を包含するがこれらに限定されない。特に好ましいカルボキシル保護基はアミド、エステル及びエーテル形成保護基を包含する。1つの好ましい実施形態においては、アセチル基を用いてアミノ末端を保護し、そしてアミド基を用いてカルボキシル末端を保護する。これらのブロッキング基はペプチドのヘリックス形成傾向を増強する。特定の好ましいブロッキング基は種々の長さのアルキル基、例えば式:CH−(CH−CO−を有する基を包含し、式中、nは約3〜約20、好ましくは約3〜約16、より好ましくは約3〜約13、そして最も好ましくは約3〜約10である。
【0135】
他の保護基は、例えば、Fmoc、t−ブトキシカルボニル(t−BOC)、9−フルオレンアセチル基、1−フルオレンカルボキシル基、9−フルオレンカルボキシル基、9−フルオレノン−1−カルボキシル基、ベンジルオキシカルボニル、キサンチル(Xan)、トリチル(Trt)、4−メチルトリチル(Mtt)、4−メトキシトリチル(Mmt)、4−メトキシ−2,3,6−トリメチル−ベンゼンスルホニル(Mtr)、メシチレン−2−スルホニル(Mts)、4,4−ジメトキシベンズヒドリル(Mbh)、トシル(Tos)、2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6−スルホニル(Pmc)、4−メチルベンジル(MeBzl)、4−メトキシベンジル(MeOBzl)、ベンジルオキシ(BzlO)、ベンジル(Bzl)、ベンゾイル(Bz)、3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル(Npys)、1−(4,4−ジメチル−2,6−ジアキソシクロヘキシリデン)エチル(Dde)、2,6−ジクロロベンジル(2,6−DiCl−Bzl)、2−クロロベンジルオキシカルボニル(2−Cl−Z)、2−ブロモベンジルオキシカルボニル(2−Br−Z)、ベンジルオキシメチル(Bom)、シクロヘキシルオキシ(cHxO)、t−ブトキシメチル(Bum)、t−ブトキシ(tBuO)、t−ブチル(tBu)、アセチル(Ac)及びトリフルオロアセチル(TFA)を包含するがこれらに限定されない。
【0136】
保護/ブロッキング基は、本発明のペプチドを含む適切な残基にこのような基をカップリングする方法と同様、当該分野で良く知られている(例えばGreene et al.,(1991)Protective Groups in Organic Synthesis,2nd ed.,John Wiley&Sons,Inc.Somerset,NJ参照)。1つの好ましい実施形態においては、例えばアセチル化は、無水酢酸を用いて樹脂上にペプチドがある合成の間に達成される。アミドの保護は合成のための適切な樹脂の選択により達成できる。実施例に記載したペプチドの合成の間、rinkアミド樹脂を使用する。合成終了後、Asp及びGluのような酸性二官能性アミノ酸及び塩基性アミノ酸Lys、Tyrのヒドロキシル上の半永久保護基は全て同時に除去される。酸処理によりこのような樹脂から遊離するペプチドは、アセチルとして保護されたN末端及びNHとして保護されたカルボキシルと共に、そして、他の保護基の全てが同時に除去された状態で生じる。
【0137】
特定の特に好ましい実施形態においては、ペプチドは本明細書に記載する通り1つ以上のD型(levoではなくdextro)のアミノ酸を含む。特定の実施形態においては、少なくとも2エナンチオマーアミノ酸、より好ましくは少なくとも4エナンチオマーアミノ酸及び最も好ましくは少なくとも8又は10エナンチオマーアミノ酸が「D」型アミノ酸である。特定の実施形態においては、本明細書に記載したペプチドの1つおき、又はむしろ各々全てのアミノ酸(例えば各々全てのエナンチオマーアミノ酸)がD型アミノ酸である。
【0138】
特定の実施形態においては、エナンチオマーアミノ酸の少なくとも50%が「D」型であり、より好ましくはエナンチオマーアミノ酸の少なくとも80%が「D」型であり、最も好ましくはエナンチオマーアミノ酸の少なくとも90%が「D」型である。
F)ペプチド模倣物
本明細書に記載したペプチドに加えて、ペプチド模倣物もまた意図している。ペプチド類縁体は鋳型ペプチドと類似した特性を有する非ペプチド薬剤として製薬業において一般的に使用されている。これらの型の非ペプチド化合物は「ペプチド模倣物」称されており(Fauchere(1986)Adv.Drug Res.15:29;Veber and Freidinger(1985)TINS p.392;及びEvans et al.,(1987)J.Med.Chem.30:1229)と称され、コンピューター処理による分子モデリングを用いて通常は開発されている。治療上有用なペプチドと構造的に同様のペプチド模倣物を用いて同等の治療又は予防効果をもたらしてよい。
【0139】
一般的に、ペプチド模倣物はパラダイムポリペプチド(例えば表1に示す配列番号5)と構造的に同様であるが、当該分野で知られ、そして以下の参考文献、すなわち、Spatola(1983)p.267,Chemistry and Biochemistry of Amino Acid,Peptides and Proteins,B.Weinstein,eds.,Marcel Dekker,New York,;Satola(1983)Vega Data1(3)Peptide Backbone Modifications.(一般的検討);Morley(1980)Trends Pharm Sci pp.463−468(一般的検討);Hudson et
al.(1979)Int J Pept Prot Res 14:177−185(−CHNH−、−CH−CH−);Spatola et al.(1986)Life Sci 38:1243−1249(−CHS−);Hann,(1982)J Chem Soc Perkin TransI307−314(−CH−CH−、シス及びトランス);Almquist et al.(1980)J Med Chem.23:1392−1398(−COCH−);Jennings−White et al.(1982)Tetrahedron Lett.23:2533(−COCH−);Szelke et al.,European Appln.EP45665(1982)CA:97:39405(1982)( −CH(OH)CH−);Holladay et al.(1983)Tetrahedron Lett 24:4401−4404(−CH(OH)CH−);及びHruby(1982)Life Sci.,31:189−199(−CH−S−))に記載された方法により−CHNH−、−CHS−、−CH−CH−、−CH=CH−(シス及びトランス)、−COCH−、−CH(OH)CH−、−CHSO−等よりなる群から選択される連結により場合により置き換えられたペプチド結合1つ以上を有している。
【0140】
1つの特に好ましい非ペプチド連結は−CHNH−である。このようなペプチド模倣物はポリペプチドの実施形態を超えた顕著な利点を有する場合があり、例えばより経済的な製造、より高い化学的安定性、増強された薬理学的特性(半減期、吸収、力価、薬効等)、低減した抗原性等が挙げられる。
【0141】
更に又、コンセンサス配列又は実質的に同一のコンセンサス配列の変形を含む本明細書に記載したペプチド又は制約されたペプチド(環化ペプチドを包含する)の環状変異は知られた方法(Rizo and Gierasch(1992)Ann.Rev.Biochem.61:387);例えばペプチドを環化する分子内ジスルフィド結合を形成することができる内部システイン残基を添加することにより形成してよい。
G)小型有機分子
特定の実施形態においては、本発明の活性剤は小型有機分子、例えば2004年8月11日に出願の同時係争中の出願USSN60/600,925に記載されているものを包含する。種々の実施形態において、小型有機分子は同時係争中の出願である2003年8月26日出願のUSSN10/649,378及び8月11日出願のUSSN60/494,449に記載されているテトラ及びペンタペプチドと同様であり、そして、特定の場合においては、それらのミメティックである。
【0142】
本発明の小型有機分子は典型的には約900ダルトン未満の分子量を有する。典型的には、分子は酢酸エチルに高度に可溶(例えば約4mg/ml以上)であり、そしてpH7.0の水性緩衝液中にも可溶である。
【0143】
1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)のようなリン脂質を水性環境中で本発明の小型有機分子と接触させると、典型的には約7.5mm(±0.1mm)の直径を有する粒子が形成される。更に又、約2nmの積層物中の二層間の間隔を有する3.4〜4.1nmのオーダーの二層寸法を有する積層二層が形成される場合が多い。約38nmの嚢胞構造も形成される場合が多い。更に又本発明の分子を哺乳動物に投与すると、それらはHDLをより抗炎症性とし、そしてアテローム性動脈硬化症及び/又は炎症性応答を特徴とする他の状態の症状1つ以上を緩解する。
【0144】
即ち、特定の実施形態においては、小型有機分子は哺乳動物における炎症性応答を特徴とする病的状態(例えばアテローム性動脈硬化症)の症状1つ以上を緩解するものであり、ここで小分子は、約4mg/ml超の濃度で酢酸エチルに可溶であり、pH7.0の水性緩衝液に可溶であり、水性環境中でリン脂質に接触すると直径約7.5nmの粒子を形成し、及び、約2nmの積層物中の二層間の間隔を有する3.4〜4.1nmのオーダーの二層寸法を有する積層二層を形成し、そして、約900ダルトン未満の分子量を有する。
【0145】
特定の実施形態においては、分子は下記式:
【0146】
【化3】

[式中、P、P、P及びPは独立して選択される疎水性保護基であり;R及びRは独立して選択されるアミノ酸R基であり;n、i、x、yおよびzは独立してゼロ又は1であるが、n及びxが両方ともゼロである場合はRは疎水性基であり、そしてy及びiが両方ともゼロである場合はRは疎水性基であり;R及びRはpH7.0で酸性又は塩基性であるが、Rが酸性である場合はRは塩基性であり、そしてRが塩基性である場合はRは酸性であり;そしてRは存在する場合は芳香族基、脂肪族基、正荷電基又は負荷電基よりなる群から選択される]を有する。特定の実施形態においては、R及びRは−(CH−COOH、ただしj=1、2、3又は4であるもの、及び/又は、−(CH−NH、ただしj=1、2、3、4又は5であるもの、又は、−(CH−C(=NH)−NH、ただしj=1、2、3又は4であるものである。特定の実施形態においては、R、R及びRは、存在する場合は、アミノ酸R基である。即ち、例えば、種々の実施形態において、R及びRは独立してアスパラギン酸R基、グルタミン酸R基、リジンR基、ヒスチジンR基又はアルギニンR基である(例えば表1に示す通り)。
【0147】
特定の実施形態においてはRはLysR基、TrpR基、PheR基、LeuR基、OrnR基、又は、ノルLeuR基よりなる群から選択される。特定の実施形態においては、RはSerR基、ThrR基、IleR基、LeuR基、ノルLeuR基、PheR基又はTyrR基よりなる群から選択される。
【0148】
種々の実施形態において、xは1であり、そしてRは芳香族基(例えばTrpR基)である。
【0149】
種々の実施形態において、n、x、yおよびiのうち少なくとも1つは1であり、P、P、P及びPは存在する場合は独立して、ポリエチレングリコール(PEG)、アセチル、アミド、3〜20炭素のアルキル基、fmoc、9−フルオレンアセチル基、1−フルオレンカルボキシル基、9−フルオレンカルボキシル基、9−フルオレノン−1−カルボキシル基、ベンジルオキシカルボニル、キサンチル(Xan)、トリチル(Trt)、4−メチルトリチル(Mtt)、4−メトキシトリチル(Mmt)、4−メトキシ−2,3,6−トリメチル−ベンゼンスルホニル(Mtr)、メシチレン−2−スルホニル(Mts)、−4,4−ジメトキシベンズヒドリル(Mbh)、トシル(Tos)、2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6−スルホニル(Pmc)、4−メチルベンジル(MeBzl)、4−メトキシベンジル(MeOBzl)、ベンジルオキシ(BzlO)、ベンジル(Bzl)、ベンゾイル(Bz)、3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル(Npys)、1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキシリデン)エチル(Dde)、2,6−ジクロロベンジル(2,6−DiCl−Bzl)、2−クロロベンジルオキシカルボニル(2−Cl−Z)、2−ブロモベンジルオキシカルボニル(2−Br−Z)、ベンジルオキシメチル(Bom)、t−ブトキシカルボニル(Boc)、シクロヘキシルオキシ(cHxO)、t−ブトキシメチル(Bum)、t−ブトキシ(tBuO)、t−ブチル(tBu)、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基及びトリフルオロアセチル(TFA)よりなる群から選択される。特定の実施形態においては、Pが存在する場合及び/又はPが存在する場合、これらは独立してBoc−、Fmoc−及びニコチニル等よりなる群から選択され、及び/又はPが存在する場合及び/又はPが存在する場合、これらは独立してtBu及びOtBuよりなる群から選択される。
【0150】
多くの保護基(P、P、P、P)を上記に示したが、このリストは例示であり、限定するものではない。本明細書に記載した教示を鑑みれば、多くの他の保護/ブロッキング基は当該分野で知られたものである。そのようなブロッキング基は消化を最低限にするため(例えば経口薬剤送達用)、及び/又は取り込み/生体利用性を増大させるため(例えば経鼻送達、吸入療法、直腸投与における粘膜表面通過)、及び/又は、血清中/血漿中の半減期を延長するために選択することができる。特定の実施形態においては、保護基は賦形剤として、又は、賦形剤の成分として提供することができる。
【0151】
特定の実施形態においては、zはゼロであり、そして分子は下記式:
【0152】
【化4】

[式中、P、P、P、P、R、R、R、R、n、x、yおよびiは上記した通りである]を有する。
【0153】
特定の実施形態においては、zはゼロであり、そして分子は下記式:
【0154】
【化5】

[式中、R、R、R、Rは上記した通りである]を有する。
【0155】
特定の実施形態においては、分子は下記式:
【0156】
【化6】

を有する。
【0157】
特定の実施形態においては、本発明は本明細書に記載する物理的及び/又は機能的特性の1つ以上を有し、そして、下記式:
【0158】
【化7】

[式中、P、P、PおよびPは独立して選択された上記の疎水性保護基であり、n、x及びyは独立してゼロ又は1であり;j、k及びlは独立してゼロ、1、2、3、4又は5であり;そしてR及びRはpH7.0で酸性又は塩基性の基であるが、Rが酸性である場合はRは塩基性であり、そしてRが塩基性である場合はRは酸性である]を有する小型分子を意図している。特定の好ましい実施形態においては、小型分子は水に可溶であり;そして小型分子は約900ダルトン未満の分子量を有する。特定の実施形態においては、n、x、y、jおよびlは1であり;そしてkは4である。
【0159】
特定の実施形態においては、P及び/又はPは芳香族保護基である。特定の実施形態においては、R及びRはアミノ酸R基、例えば上記したものである。種々の実施形態において、n、x及びyの少なくとも1つは1であり、そしてP、P、PおよびPが存在する場合にはそれらは独立して、ポリエチレングリコール(PEG)、アセチル、アミド、3〜20炭素のアルキル基、fmoc、9−フルオレンアセチル基、1−フルオレンカルボキシル基、9−フルオレンカルボキシル基、9−フルオレノン−1−カルボキシル基、ベンジルオキシカルボニル、キサンチル(Xan)、トリチル(Trt)、4−メチルトリチル(Mtt)、4−メトキシトリチル(Mmt)、4−メトキシ−2,3,6−トリメチル−ベンゼンスルホニル(Mtr)、メシチレン−2−スルホニル(Mts)、−4,4−ジメトキシベンズヒドリル(Mbh)、トシル(Tos)、2,2,5,7,8−ペンタよりなる群から選択される、上記したような保護基である。
II.活性剤の機能試験
本発明の方法で用いるための特定の活性剤は、種々の式(例えば上記式I)により、及び/又は特定の配列により、本明細書において記載している。特定の実施形態においては、本発明の好ましい活性剤は以下の機能的特性の1つ以上により特徴付けられる。
1.それらは前炎症性HDLを抗炎症性HDLに変換するか、抗炎症性HDLをより抗炎症性とし;
2.それらは動脈壁細胞により発生されたLDL誘導単球化学走性活性を低減し;
3.それらは前βHDLの形成及びサイクリングを刺激し;
4.それらはHDLコレステロールを上昇させ;そして/又は、
5.それらはHDLパラオキソナーゼ活性を増大させる。
【0160】
本明細書に開示した特定の薬剤及び/又は本明細書に記載した種々の式に相当する薬剤は所望によりこれらの活性の1つ以上に関して容易に試験することができる。
【0161】
これらの機能的特性の各々に関するスクリーニングの方法は当該分野で良く知られている。特に、単球化学走性活性、HDLコレステロール及びHDLHDLパラオキソナーゼ活性に関する試験はPCT/US01/26497(WO2002/15923)に説明されている。
III.ペプチドの製造
本明細書において使用するペプチドは、標準的な化学ペプチド合成手法を用いながら化学合成することができ、或いは、特にペプチドが「D」型アミノ酸残基を含まない場合は組み換え発現することができる。特定の実施形態においては、「D」アミノ酸残基を含むペプチドであっても組み換え発現される。ポリペプチドを組み換え発現する場合は、アミノ酸の1つ以上がD型でのみ生物に提供される環境において宿主生物(例えば細菌、植物、カビの細胞等)を培養する。このような系において組み換え発現されたペプチドはこのようなD型アミノ酸を取り込むことになる。
【0162】
好ましい実施形態においては、ペプチドは当該分野で知られた多くの液体又は固相のペプチド合成手法のいずれかにより化学合成する。配列のC末端アミノ酸を不溶性の支持体に結合させ、その後、配列内の残余のアミノ酸の逐次的付加を行う固相合成が本発明のポリペプチドの化学合成のための好ましい方法である。固相合成の手法は当該分野で良く知られており、例えばBarany and Merrifield(1963)Solid−Phase Peptide Synthesis;pp.3−248,The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology.Vol.2:Special Methods in Peptide Synthesis, Part A;Merrifield et al.(1963)J.Am.Chem.Soc.,85:2149−2156及びStewart et al.(1984)Solid Phase Peptide Synthesis,2nd ed.Pierce Chem.Co.,Rockford,IIIに記載されている。
【0163】
特定の実施形態においては、ペプチドは固相としてベンズヒドリルアミン樹脂(Beckman Bioproducts,NH0.59mmol/g樹脂)を用いた固相ペプチド合成操作法により合成する。COOH末端アミノ酸(例えばt−ブチルカルボニル−Phe)を4−(オキシメチル)フェナセチル基を介して固相に結合させる。これは従来のベンジルエステル連結部よりも安定な連結部であるが、得られるペプチドはなお水素化により切断することができる。水素ドナーとしてギ酸を使用する転移水素化をこの目的の為に使用する。ペプチド合成及び合成されたペプチドの分析の為に使用される詳細なプロトコルはAnantharamaiah(1985)J.Biol.Chem.,260(16):10248−10225に付随するミニプリント補遺に記載されている。
【0164】
ペプチド、特にD型アミノ酸を含むペプチドの化学合成においては、合成は通常は所望の完全長産物に加えて多数のトランケーションされたペプチドを生成する。精製過程(例えばHPLC)は典型的にはかなりの量の完全長産物の損失をもたらす。
【0165】
Dペプチド(例えばD−4)の合成においては、最も長い形態を精製する場合の損失を防止するために、混合物を透析して使用し、これにより最終HPLC精製を排除することができることは本発明の発見である。このような混合物は高度に精製された産物の力価の約50%を損失する(例えば蛋白産物の重量当たり)が、混合物は約6倍多いペプチドを含有し、高い総活性を有する。
IV.医薬品製剤
本発明の方法を実施するために、本発明の薬剤(例えばペプチド、ペプチド模倣物、脂質)1つ以上を例えば小動脈機能障害を有するか、小動脈機能障害の危険性を有する(例えば脳又は腎臓において)と診断された固体に投与する。薬剤(例えばペプチド、ペプチド模倣物、脂質)は「ネイティブ」の形態において、又は、所望により、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、誘導体等の形態で投与することができるが、但し、塩、エステル、アミド、プロドラッグ又は誘導体は薬理学的に適当であること、即ち本発明の方法において有効であることが必要である。活性剤の塩、エステル、アミド、プロドラッグ又は他の誘導体は合成有機化学の当業者の知る、そして例えばMarch(1992)Advanced Organic Chemistry; Reactions, Mechanisms and Structure,4th Ed.N.Y.Wiley−Interscienceに記載されている標準的操作法を用いて製造してよい。
【0166】
例えば、酸付加塩は典型的には適当な酸との反応を行う従来の方法を用いて遊離の塩基から製造する。一般的に、薬剤の塩基形態をメタノール又はエタノールのような極性有機溶媒に溶解し、そして酸をそれに添加する。形成した塩は沈殿するか、又は、より低極性の溶媒の添加により溶液外に移行する。酸付加塩の製造のための適当な酸は有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイヒ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸等、並びに、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の両方を包含する。酸付加塩は適当な塩基による処理により遊離の塩基に再変換してよい。本明細書における活性剤の特に好ましい酸付加塩はハロゲン化物の塩、例えば塩酸又はシュウ酸を用いて製造してよいものである。逆に、薬剤(例えばペプチド、ペプチド模倣物)の塩基性の塩の調製物は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、トリメチルアミン等のような製薬上許容しうる塩基を用いながら同様の態様において製造される。特に好ましい塩基性の塩は、アルカリ金属塩、例えばナトリウム塩、及び銅塩を包含する。
【0167】
エステルの製造では典型的には、薬剤の分子構造内に存在する場合のあるヒドロキシル及び/又はカルボキシル基への官能性付与を行う。エステルは典型的には遊離のアルコール基のアシル置換誘導体、即ち、Rがアルキル、そして好ましくは低級アルキルである式RCOOHのカルボン酸から誘導された部分である。エステルは所望により従来の水素化分解又は加水分解の操作法を用いて遊離の酸に再変換できる。
【0168】
アミド及びプロドラッグはまた当該分野で知られた、又は関連する文献に記載されている手法を用いて製造してよい。例えば、アミドはエステルから、適当なアミン反応体を用いて製造してよく、又は、アンモニア又は低級アルキルアミンとの反応により無水物又は酸クロリドから製造してよい。プロドラッグは典型的には個体の代謝系により修飾されるまでは治療上不活性である化合物をもたらす部分の共有結合により製造される。
【0169】
本発明の発見した薬剤(例えばペプチド、ペプチド模倣物、脂質)は、アテローム性動脈硬化症及び/又はその症状の予防及び/又は治療の処置の為の非経口、局所(topical)、経口、経鼻(又は他の吸入)、直腸又は例えばエアロゾルによるか経皮的な患部(local)への投与に有用である。医薬組成物は投与方法に応じて種々の単位剤型において投与できる。適当な単位剤型は、例えば、粉末、錠剤、丸薬、カプセル、ロゼンジ、坐剤、パッチ、鼻用スプレー、注射剤、インプラント用持続放出製剤、脂質複合体等を包含するがこれらに限定されない。
【0170】
本発明の薬剤(例えばペプチド、ペプチド模倣物、及び/又は脂質)は典型的には製薬上許容しうる担体(賦形剤)と組み合わせることにより医薬組成物を形成する。製薬上許容しうる担体は例えば組成物を安定化させるか、活性剤の吸収を増大又は低減する作用を有する生理学的に許容される化合物1つ以上を含有できる。生理学的に許容される化合物は、例えば、炭水化物、例えばグルコース、スクロース又はデキストラン、抗酸化剤、例えばアスコルビン酸又はグルタチオン、キレート形成剤、低分子量蛋白、保護及び取り込み増強剤、例えば脂質、活性剤のクリアランス又は加水分解を低減する組成物、又は賦形剤又は他の安定化剤及び/又は緩衝剤を包含する。
【0171】
他の生理学的に許容される化合物は、水和剤、乳化剤、分散剤、又は、微生物の生育又は作用を防止するために特に有用である保存料を包含する。種々の保存料が良く知られており、例えばフェノール及びアスコルビン酸を包含する。当業者の知る通り、製薬上許容しうる担体、例えば生理学的に許容される化合物の選択は、例えば活性剤の投与経路及び活性剤の特定の物理化学的特性に応じて変動する。
【0172】
賦形剤は好ましくは滅菌され、一般的には望ましくない物質を含有しない。これらの組成物は従来のよく知られた滅菌手法により滅菌してよい。
【0173】
治療用途においては、本発明の組成物はアテローム性動脈硬化症の症状1つ以上に罹患しているか、又は、アテローム性動脈硬化症の危険性のある患者に対し、疾患及び/又はその合併症を治癒、又は少なくとも部分的に防止又は停止するために十分な量において投与する。これを達成するために十分な量は「治療有効用量」と定義される。この用途に有効な量は疾患の重症度及び患者の全身状態により変動する。組成物の単回又は複数回の投与は患者により必要とされる、そして耐容性を示される用量及び頻度に応じて投与してよい。いずれの場合も組成物は患者を効果的に治療(症状1つ以上を緩解)するために本発明の製剤の活性剤の十分な量を提供しなければならない。
【0174】
薬剤の濃度は広範に変動することができ、液量、粘度、体重等に主に基づきながら、そして選択された投与の特定の様式及び患者の必要性に従って選択することになる。しかしながら濃度は典型的には約0.1又は1mg/kg/日〜約50mg/kg/日、そして場合により更に高用量の範囲に亘る用量を提供するように選択される。典型的な用量は約3mg/kg/日〜約3.5mg/kg/日、好ましくは約3.5mg/kg/日〜約7.2mg/kg/日、より好ましくは約7.2mg/kg/日〜約11.0mg/kg/日、そして最も好ましくは約11.0mg/kg/日〜約15.0mg/kg/日の範囲である。特定の実施形態においては、用量は約10mg/kg/日〜約50mg/kg/日の範囲である。特定の実施形態においては用量は約20mg〜約50mgの範囲であり、一日2回経口投与される。当然ながらこのような用量は特定の対象又は対象グループにおける治療計画を最適化するように変動してよい。
【0175】
特定の実施形態においては、本発明の薬剤(例えばペプチド、ペプチド模倣物及び/又は脂質)は、当該分野で良く知られている標準的方法に従って、経口(例えば錠剤による)によるか、又は注射剤として投与される。他の好ましい実施形態においては、薬剤は従来の経皮薬物送達系、即ち経皮「パッチ」を用いて皮膚を介して送達してもよく、そのような場合、活性剤は典型的には皮膚に固着すべき薬物送達装置として機能する積層構造内に含有される。このような構造において、薬剤組成物は典型的には上面の裏打ち層の下敷きとなる層、即ち「リザーバ」内に含有される。当然ながらこの関係において「リザーバ」という用語は皮膚の表面への送達のために究極的に使用可能である「活性成分」のある量を指す。即ち、例えば、「リザーバ」はパッチの裏打ち層の上の接着剤の内部、又は、当該分野で知られた種々のマトリックス製剤の何れかの内部にある活性成分を包含してよい。パッチは単一のリザーバを含有するか、又は複数のリザーバを含有してよい。
【0176】
1つの実施形態において、リザーバは薬物送達の間に皮膚に系を固着する機能を有する製薬上許容しうる接着剤の重合体マトリックスを含む。適当な皮膚接着剤の例はポリエチレン、ポリシロキサン、ポリイソブチレン、ポリアクリレート、ポリウレタン等を包含するがこれらに限定されない。或いは、薬剤含有リザーバ及び皮膚接着剤は別個の異なる層として存在し、接着剤は、この場合上記した重合体マトリックスであってよいリザーバの下敷となるか、又は液体又はヒドロゲルのリザーバであってもよく、又は、他の形態であってもよい。装置の最上面となるこれらの積層物の裏打ち層は好ましくは「パッチ」の基本的構造要素として機能し、そして装置にその可撓性の大部分を付与する。裏打ち層の為に選択される材料は好ましくは活性成分及び存在する如何なる他の物質に対しても実質的に非透過性である。
【0177】
局所薬物送達のための他の好ましい製剤は軟膏及びクリームを包含するがこれらに限定されない。軟膏は半固体の調製品であり、典型的にはワセリン又は他の石油誘導物を基剤とする。選択された活性剤を含有するクリームは、典型的には粘稠な液体又は半固体の乳液、頻繁には水中油又は油中水のいずれかである。クリーム基剤は典型的には水洗浄可能であり、そして油相、乳化剤及び水相を含有する。油相は「内部」相と称される場合もあり、一般的にワセリン及び脂肪アルコール、例えばセチル又はステアリルアルコールを含み;水相は通常は油相よりも大きい体積を有し、湿潤剤を含有するが、これらは必須ではない。クリーム製剤中の乳化剤は一般的にノニオン性、アニオン性、カチオン性又は両性の界面活性剤である。使用される特定の軟膏又はクリーム基剤は当業者の知る通り最適な薬物送達をもたらすものである。他の担体又はベヒクルの場合と同様、軟膏基剤は不活性で安定であり、非刺激性及び非感作性でなければならない。
【0178】
典型的なペプチド製剤とは異なり、D型アミノ酸を含む本発明のペプチドは経口でも胃酸等による蛋白分解に対する保護を行うことなく投与できる。しかしなお、特定の実施形態においては、ペプチドの送達は保護賦形剤の使用により増強できる。これは典型的にはポリペプチドを組成物と複合体化することによりこれを酸及び酵素の加水分解に対して抵抗性とするか、又は、リポソームのような適切に抵抗性である担体中にポリペプチドをパッケージングすることにより達成される。経口送達のためにポリペプチドを保護する手段は当該分野で良く知られている(例えば治療薬の経口送達のための脂質組成物を記載している米国特許5,391,377を参照)。
【0179】
上昇した血清中半減期は持続放出蛋白「パッケージング」系の使用により維持することができる。このような持続放出系は当該分野で良く知られている。1つの好ましい実施形態においては、蛋白及びペプチドのためのProLease生体分解性微小球送達系(Tracy(1998)Biotechnol.Prog.14:108;Johnson
et al.,(1996),Nature Med.2:795;Herbert et a.(1998),Pharmaceut.Res.15,357)、他剤を伴うか伴うことなく乾燥製剤として調製できる重合体マトリックス中に蛋白を含有する生体分解性の重合体微小球よりなる乾燥粉末が挙げられる。
【0180】
ProLease微小球の製造プロセスは蛋白の一体性を維持しながら高い蛋白カプセル化効率を達成するように特に設計されている。プロセスは(i)安定化賦形剤と共に薬剤の溶液を噴霧凍結乾燥することにより塊状蛋白から凍結乾燥蛋白粒子を製造すること、(ii)薬剤−重合体懸濁液を製造した後に超音波処理又はホモゲナイズにより薬剤の粒径を低減すること、(iii)液体窒素中に霧状化することにより凍結した薬剤−重合体微小球を製造すること、(iv)エタノールで重合体溶媒を抽出すること、及び、(v)濾過及び真空乾燥により最終乾燥粉末産品を製造すること、よりなる。得られた粉末は蛋白の固体形態を含有しており、これは多孔性の重合体粒子内に均質固定的に分散されている。プロセスにおいて最も一般的に使用されている重合体である(ラクチド/グリコリド)共重合体(PLG)は生体適合性及び生体分解性の双方である。
【0181】
カプセル化は低温(例えば−40℃)で達成できる。カプセル化の間、蛋白は水の非存在下に固体状態に維持され、これにより蛋白の水誘導コンホーメーション変動を最小限にし、反応体として水を包含する蛋白分解反応を防止し、そして、蛋白が分解を起こすような有機−水性の界面を回避する。好ましいプロセスは大部分の蛋白が不溶性であることにより高いカプセル化効率(例えば95%超)を与える溶媒を使用する。
【0182】
別の実施形態においては、溶液の成分1つ以上は希釈用の例えば保存容器中(例えば予め計量された容量の)の、又は、ある容量の水への添加する可溶性カプセル中の「濃縮物」として提供することができる。
【0183】
上記した製剤及び投与方法は例示を意図しており限定するものではない。当然ながら、本明細書に記載した教示を用いながら他の適当な製剤及び投与様式を容易に考案することができる。
V.小動脈の構造及び/又は機能の障害を特徴とする状態の治療のためのキット
別の実施形態において、本発明は小動脈の構造及び/又は機能の障害を特徴とする病的状態の症状1つ以上の緩解のため、又は、そのような状態の危険性のある対象(ヒト又は動物)の予防的処置のためのキットを提供する。キットは好ましくは本明細書に記載した活性剤1つ以上を含有する容器を含む。活性剤は単位剤型(例えば坐剤、錠剤、カプレット、パッチ等)において提供することができ、及び/又は場合により製薬上許容しうる賦形剤1つ以上と組み合わせてよい。
【0184】
キットは場合により更に目的の状態/病的状態の治療において使用される他剤1つ以上を含むことができる。このような薬剤は例えばベータブロッカー、血管拡張剤、アスピリン、スタチン類、ACE阻害剤又はACE受容体阻害剤(ARB)等、例えば上記したものを包含するがこれらに限定されない。
【0185】
更に又、キットは場合により本発明の方法の実施又は「治療薬」又は「予防薬」の使用のための指示(即ちプロトコル)を示すラベル及び/又は説明書を包含する。好ましい説明書類は、小動脈の構造及び/又は機能の障害を特徴とする状態に伴う1つ以上を緩解するため、及び/又は、そのような状態の危険性のある個体においてそのような症状の1つ以上の発症又は増大を防止するための本発明の薬剤1つ以上の使用を説明する。説明書類は又場合により好ましい用量/治療用法、禁忌等を教示してもよい。
【0186】
説明書類は典型的には書面又は印刷された書類であるが、そのように限定されない。このような説明を格納し、それらをエンドユーザーに連絡することができる如何なる媒体も本発明は意図している。そのような媒体は例えば電子格納媒体(例えば磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えばCDROM)等を包含する。このような媒体はそのような説明書類を与えるインターネットサイトのアドレスを包含してよい。
【実施例】
【0187】
以下の実施例は説明のために提示しており、請求項の本発明を限定するものではない。実施例1
図1A、1B及び1Cに示す通り、野生型マウス(WT)と比較した場合にLDL受容体を有さないマウス(LDLR−/−)は肥厚した脳小動脈を有している。低脂肪飼料食餌で飼育した場合LDL受容体ヌルマウスは野生型マウスの血漿中LDLの二倍を示している。しかしながら、飼料飼育の場合はアテローム性動脈硬化症は殆ど観察されないが、後に示す図からわかる通りアテローム性動脈硬化症は最小限であったとしても脳の小動脈は顕著に肥厚化している。やはり後に示す図からわかる通り高脂肪高コレステロール(Western)食餌で飼育した場合、これらのマウスはその脳小動脈に追加的な肥厚化を生じさせている。Western食餌で飼育した場合、これらのマウスはまた広範なアテローム性動脈硬化症を発症している。
【0188】
最近の報告によれば、LDLR−/−マウスは海馬における低減したシナプス密度に関連する空間記憶障害を有する(Mulder et al.(2004)Neurobiology of Disease 16:212−219の例えば図2参照)。
【0189】
図2に示す通り、D−4Fと共に(300μg/mlで飲料水に加えて)6週間Western食餌で飼育したLDLR−/−マウスはT迷路試験において自発的交替の数が顕著に向上したのに対し、同じ濃度の対照ペプチド(スクランブルドD−4F)を添加したものは向上しなかった。
【0190】
対照ペプチドと比較してD−4Fを投与したマウスに関する図2に示す結果は、LDLR−/−マウスを野生型マウス(LDLR+/+)と比較したMulder et al.(上出)の図2に示すものと顕著な同様性を示しており、経口D−4FがLDLR−/−マウスにおける異常を逆行させたことを示唆している。Mulder et al.の図のデータは「パーセント交替」として示されている。本明細書の図2におけるデータは「自発的交替の数」について示されている。後に示す図3からわかる通り、スクランブルドD−4Fと比較した場合のD−4Fによるデータは「パーセント交替」として表示した場合には同様となっている。
【0191】
対照ペプチドスクランブルドD−4F(Sc D−4F)と比較した場合のD−4F投与によるT迷路試験における改善の別の兆候は図4のデータから得られる。
【0192】
D−4Fの注射が顔面動脈の血管反応性を改善したという報告がある(Ou Z.Ou
J,Ackerman AW et al.L−4F, an apolipoprotein A−I mimetic,restores nitric oxide and superoxide anion balance in low−density lipoprotein−treated endothelial cells(アポリポ蛋白ミメティックのL−4Fは低密度リポ蛋白投与内皮細胞における酸化窒素及びスーパーオキシドのアニオンバランスを回復させる),Ou et al.(2003)Circulation;107:1520−1524;Ou et al.(2003)Circulation 107:2337−2341)。これらの出版された試験においては、マウスの顔面動脈が使用されている。この動脈は約250μMの内径を有する。
【0193】
本発明の適用の別の例は後に示す図5に記載するデータから生じるものであり、これはWestern食餌で飼育しているLDL受容体ヌルマウスにDMPCを経口投与することは、大豆レシチンを投与するよりも顕著に良好にその顔面動脈の血管反応性を改善したことを示している。
【0194】
8週齢の雌性LDL受容体ヌルマウスをWestern食餌で飼育して飲料水単独(対照、n=6)を与えるか、又は、Western食餌で飼育して1mg/mlのダイズレシチン(n=6)又はDMPC(n=6)を添加した飲料水を与えた。6週間後、顔面動脈の下顎下の切片を切開し、予め収縮させた2mm動脈輪のパーセント弛緩を0.01〜10μMの範囲の濃度のアセチルコリン(内皮依存性弛緩剤)添加への応答において測定した。弛緩の特異性は300μML−NAME(酸化窒素シンターゼ阻害剤)及びナトリウムニトロプルシド(内皮非依存性酸化窒素ドナー)の添加により確認した。L−NAMEの添加を行った群(アセチルコリンにより惹起される血管弛緩を抑制した)とナトリウムニトロプルシド又はパパベリン(最大拡張をもたらした)の間には差は無かった。これらの添加を行わない場合は、対照群におけるアセチルコリン血管弛緩において顕著な抑制が観察された。大豆レシチン群には弛緩改善の傾向が観察されたが、統計学的有意差には至らなかった。DMPCを投与したマウスには血管弛緩において有意な改善が観察された(1μMアセチルコリンでp<0.01;10μMアセチルコリンでp<0.001)。50%血管拡張をもたらすアセチルコリン濃度の対数(LogEC50、mM単位)は対照群で0.473であり、大豆レシチン投与群で0.057、そしてDMPC投与群で0.006であった。
【0195】
本発明者等は以前にアポEヌルマウスへのDMPC投与が血漿中アポA−I濃度及びHDL−コレステロールの上昇を誘発し、炎症性脂質の封鎖/除去/破壊、及び、前炎症性から抗炎症性へのHDLの変換をもたらし、このマウスモデルにおいてアテローム性動脈硬化症の防止及び退行の両方があったことを発表している(Navab M,Hama S,Hough G et al.Oral synthetic phospholipids(DMPC) raises high−density lipoprotein cholesterol levels, improves high−density lipoprotein function and markedly reduces atherosclerosis in apolipoprotein
E−null mice(経口合成リン脂質(DMPC)はアポリポ蛋白Eヌルマウスにおいて高密度リポ蛋白コレステロール濃度を上昇させ、高密度リポ蛋白機能を向上させ、そしてアテローム性動脈硬化症を顕著に低減する).Circulation 2003;108:1735−1739)。
【0196】
即ち、本発明者等は炎症性脂質を封鎖/除去/破壊する2種の異なる薬剤(D−4F及びDMPC)、即ちアポA−I及びHDLコレステロールを増大させる1つの経口ペプチド及び1つの経口リン脂質は両方とも、小動脈、顔面動脈において測定した場合に小動脈機能を改善している。本発明の新しい発見は小型の動脈、即ち小動脈さえよりも小型の血管の構造及び機能を改善するための方法に関する。これらの小動脈は究極的には脳及び腎臓のような多様な組織の灌流を担っている。本明細書に示したデータ及び未公開のデータによれば、本発明者等は、本発明は炎症性脂質を封鎖/除去/破壊し、そして前炎症性高密度リポ蛋白(HDL)から抗炎症性に変換するか、抗炎症性HDLをより抗炎症性とする薬剤を投与することによる小動脈の構造および機能を改善するための一般的方法を与えると考える。これらの薬剤はクラスA両親媒性ヘリックスを含有するペプチド、G両親媒性ヘリックスを含有するペプチド、短鎖のペプチド又は非ペプチドであって分子量が900ダルトン未満であり、酢酸エチルに少なくとも4mg/mlの溶解度を有し、そしてpH7.0の水性緩衝液に可溶であり、そして水性環境中でリン脂質に接触すると直径約7.5nmの粒子を形成し、そして、約2nmの積層物中の二層間の間隔を有する3.4〜4.1nmのオーダーの二層寸法を有する積層二層を形成するもの;及びsn−1及びsn−2位が同一であり少なくとも3炭素原子を含有する経口用合成リン脂質を包含する。
実施例2
Western食餌で飼育したLDL受容体ヌルマウスにおいてアポA−IミメティックペプチドD−4Fは脳小動脈壁厚を低減し、そして空間記憶を改善する。
要旨
直径10〜100μmの脳小動脈の壁厚を飼料又はWestern食餌の単独又はD−4F又はスクランブルドD−4F添加で飼育した野生型及びLDL受容体ヌルC57BL/6マウスにおいて測定した。空間記憶はT迷路連続交替作業を用いて測定した。飼料の場合は、LDL受容体ヌルマウスの脳小動脈壁厚は野生型と比較して増大し、そしてWestern食餌の場合は更に増大した(p<0.001)。増大した脳小動脈壁厚は平滑筋αアクチン含有量の増大に部分的には起因しており、そしてD−4F投与により低減したがスクランブルドD−4Fではそうではなかった。Western食餌を添加することによりT迷路における遂行能力は有意に悪化(p<0.05)し、スクランブルドD−4Fと比較してD−4Fを用いた場合に改善した(p<0.05)。遂行能力及び小動脈壁厚における変化は血漿中脂質及び小動脈管腔直径とは無関係であった。
Western食餌で飼育したLDL受容体ヌルマウスへのD−4Fの投与は血漿中脂質及び小動脈管腔直径とは無関係に脳小動脈壁厚を低減し、そして空間記憶を改善した。
材料及び方法
材料
D−4F及びスクランブルドD−4F(D−4Fと同じD型アミノ酸を有するが、脂質結合の為に必要なヘリカルコンホーメーションをペプチドが達成できないように配列において操作されたペプチド)は前述の通り合成した(Navab et al.(2002)Circulation,105:290−292;Navab et al.(2004)Circulation,109:r120−r125)。全ての他の試薬は以前に報告されている入手元から得た(Navab et al.(2005)Arterioscler Thromb Vasc Biol.,25:1−7)。
マウス及び組織学的検討
雌性の野生型及びLDL受容体ヌルC57BL/6マウスをJackson Laboratories(Bar Harbour,ME)から入手した。マウスは飼料食餌(Ralston Purina)で飼育した後にWestern食餌(Taklad/Harlan,Madison WI,食餌No.88137;42%脂肪、0.15%コレステロール、w/w)を投与した。脳小動脈の検討の為に、マウスを筋肉内ケタミン(100mg/kg)及びアセプロマジン(2.5mg/kg)で麻酔し、Fernagut等 (Fernagut et al.(2002)Neuroscience,114:1005−1017;Fernagut et al.(2004)Exp.Neurol.,185:47−62) の記載に従ってヘパリン(10U/ml)を含有するリン酸塩緩衝食塩水(PBS)25ml、次いでPBSpH7.4中の4%パラホルムアルデヒド100mlで左心室から心臓を灌流した。脳を迅速に取り出し、4℃で4%PFA中24時間保存した後、PBS(pH7.4)中10%スクロースに移し、溶液の底部に沈降するまで放置した。脳の右半分をOCT(Tissue−Tek;Miles Laboratories Ltd.Elkhart IN)中に包埋し、−40℃でイソペンタン中凍結し、−20℃の低温恒温槽内の切片化に付すまでは−80℃で保存した。凍結した脳は伏在する白質が含まれるように冠状切断して8μm切片とし、ヘマトキシリン−エオシン(H&E)染色して平滑筋αアクチンを調べた(Serotec,Raleigh,NC)。各脳の左半分はパラフィン包埋し、冠状切断して6μm厚の切片とし、H&E染色した。UCLAのAnimal Research Committeeは全試験を認可した。
形態学的検討及び関連する統計学的方法
形態学的検討を行うことにより拡張して垂直に切断した全ての小動脈の血管壁厚を測定した。40xの顕微鏡対物レンズを用いながら、切片化した血管をSPOTイメージソフトウエアを用いて撮影し、内径及び外径の3測定を各々につき行い、平均した。血管サイズの範囲は10〜160μmであり、壁と管腔の比の比較は、10〜20μm、21〜25μm、51〜100μm及び>100μmの内径を有する動脈について別個に行った。各直径群から最低10動脈を各脳の皮質領域及び深部白質領域において調べ、壁厚及び壁と管腔の比を測定した。各血管の免疫反応性中膜と内径の比は平滑筋αアクチンについて免疫染色した切片において評価した。全ての測定は1人の検査者により40xレンズを装着したOlympus BH−2顕微鏡を用いて単一の焦点面において実施し、投与に関して盲検とした2観察者により反復した。観察者間の変動は、3検査者に壁厚及び管腔直径について同じ20小動脈を測定させ、そして壁と管腔の比を計算させることにより調べた。変動係数は14±1%であることがわかった。全てのデータはInStat及びPrismソフトウエア(Graphpad,San Diego,CA,USA)を用いて計算した。異なる群の平均間の差の統計学的有意性は対応のないスチューデントのt検定又は一元配置ANOVAを用いて実施した。種々の群の複数の比較はTukey−Kramerの多重比較試験を用いて実施した。5%の確率水準(p<0.05)を有意とみなした。
挙動試験及び関連する統計学的方法
T迷路連続交替作業(T−CAT)試験は午前9時〜午後4時に毎日実施し、投与群を知らない1人の検査者により実施した。マウスは挙動試験の2時間前に試験室に送ることにより、部屋の迷路外の視覚的手がかりに慣れさせた。本発明者等の試験において使用したT迷路の装置はGerlai等の記載(Gerlai(1998)Behavioural Brain Research,95:91−101)のものと同一とし、黒色アクリル底部を有する透明アクリル壁部より構成されるものとした。スタート及びゴールのアームの寸法は長さ75cm、幅12cm及び高さ20cmとした。迷路にはマニュアル遠隔制御により操作できる3つの取り外し可能なギロチンドアを装着した。試験室は天井及び床のライトにより照明し、ファンにより一定のバックグラウンドノイズを与えた。T迷路は黒色カーテンにより検査者から分離し、迷路内のマウスの運動はTVモニターにより観察し、ビデオ録画した。各個体マウス後にT迷路はWindexスプレーで慎重に清浄化し、ペーパータオルで乾燥した。T迷路連続交替作業(T−CAT)はマウスの取り扱いを制限し、その探索挙動が未撹乱で実施できるようにする。本試験で使用した操作法はGerlai等の記載(Gerlai et al.(前出))したものと同一であり、1強制及び14自由選択の試行よりなるものとした。マウスにより行われた連続選択を測定し、14自由選択試行の間の交替率を計算した(0%−交替無し、100%−各試行ごとに交替、50%−無作為選択)。15試行を完了するために必要な時間(秒)を記録して分析した。T−CAT試験はビデオトラッキングシステム(SD Instruments Inc.,San Diego,CA)により連続的に登録し、コンピューターに格納した。統計学的作業はStatViewソフトウエア(SAS Institute,Cary,NC)を用いて実施した。
その他の操作法 血漿中リポ蛋白及び脂質の濃度は前述の通り測定した(Navab et al.(2004)Circulation,109:r120−r125;Navab et al.(2005)Arterioscler Thromb Vasc Biol.,25:1−7)。
結果
脳小動脈壁厚はLDL受容体ヌルマウスで増大し、Western食餌の添加により更に増大する
図6に示す通り、飼料食餌で飼育した場合には小動脈壁厚は野生型マウスと比較してLDL受容体ヌルマウスで高値であり、そして6週間のWestern食餌後には小動脈壁厚はLDL受容体ヌルマウスで更に増大した。
脳小動脈壁厚はD−4F投与により低減したがスクランブルドD−4Fでは低減しなかった
図7A〜7Cは6週間Western食餌で飼育したLDL受容体ヌルマウスの飲料水にD−4Fを300μg/mL添加することにより、飲料水にスクランブルドD−4Fの同じ濃度を添加した場合と比較して、低減した脳小動脈壁厚となったことを示している。図7DはD−4F又はスクランブルドD−4Fを投与したマウスの間で脳小動脈管腔直径には差が無いことを示している。一部の検査者は小動脈壁厚の最も信頼性の高い測定は各小動脈の壁厚をその小動脈の管腔直径で割ることにより得られることを論じている(Mulvany(1999)Cardiovascular Research,41:9−13)。図7E〜7Gは壁と管腔直径の比はスクランブルドD−4Fと比較してD−4Fを投与したマウスにおいて有意に低値であったことを示している。血漿中総コレステロール、LDL−コレステロール、HDL−コレステロール又はトリグリセリドの濃度においては、スクランブルドD−4Fと比較してD−4Fをマウスに投与した場合に有意差は無かった。総コレステロール濃度はD−4F投与マウスで1,076±75(平均±SEM)であったのに対しスクランブルドD−4F投与マウスでは970±61mg/dLであった。LDL及びHDLコレステロールの濃度はD−4F投与マウスでそれぞれ924±76及び86±6mg/dLであったのに対しスクランブルドD−4F投与マウスではそれぞれ834±63及び79±5mg/dLであった。トリグリセリドはD−4F及びスクランブルドD−4F投与マウスではそれぞれ330±25及び288±25mg/dLであった。
脳小動脈壁の肥厚化は部分的には平滑筋αアクチン含有量の増大に起因する
図8Aに示す通りLDL受容体ヌルマウスへのWestern食餌の投与は、Western食餌を与えたLDL受容体ヌルマウスへの脳小動脈の壁における平滑筋αアクチンの量の有意な増大をもたらした。図8BはD−4F又はスクランブルドD−4Fを投与したマウスに由来する平滑筋細胞αアクチンについて染色した代表的な脳小動脈を示す。図8C〜8EはD−4Fのマウスへの投与がスクランブルドD−4Fを投与したマウスと比較して脳小動脈壁平滑筋細胞αアクチンを有意に低減したことを定量的に示している。
LDL受容体ヌルマウスへのWestern食餌の供給は空間記憶の障害をもたらし、これはD−4Fの投与により有意に改善されたがスクランブルドD−4Fでは異なる結果であった
図9A〜9Dは図3Aに記載したLDL受容体ヌルマウスをWestern食餌で飼育した場合、T−CATで測定したところ、それらは空間記憶障害を有していたことを示している。図9E〜9Gは図7及び8B〜8Eに記載のマウスの経口D−4F投与がT−CATで測定した場合に遂行能力の顕著な改善をもたらしたことを示している(スクランブルドD−4Fでは異なる結果)。スクランブルドD−4F投与マウスは15試行を完了するまでD−4F投与マウスより長時間を要した(それぞれ579±23秒と548±37秒)が、この差は統計学的有意差には至らなかった。しかしなお、図9E〜9Gに示すデータはD−4F投与による改善を明らかに示している。
考察
本実施例に示したデータ及び以前に公開されたもの8,10はLDLの濃度がマウスの動脈ツリーの全ての分枝部に影響することを示唆している。飼料食餌ではLDL受容体ヌルマウスは管腔直径15〜40μmの脳小動脈において顕著に増大した小動脈壁厚を有していた(図6A)。僅か6週間のWestern食餌の後には、野生型マウスと比較してこれらのLDL受容体ヌルマウスにおいて脳小動脈の壁厚の顕著な増大が観察された(図6A〜6C)。
【0197】
Heistad等(Heistad et al.(1995)Hypertension,26:509−513)はアテローム性動脈硬化症及び高血圧血管の相違点と類似点を強調している。この研究者等は「アテローム性動脈硬化症及び高血圧の両方における血管構造の変化は血管壁の肥厚化及び血管の『リモデリング』を特徴とする」という観察結果を示している。リモデリングはアテローム性動脈硬化血管の管腔の大きさを温存する傾向を有し、そして高血圧血管においてより小さい管腔をもたらす。図7Dに示す通り、Western食餌(6週間給餌)により誘導されたLDL受容体ヌルマウスにおける脳小動脈の肥厚化は管腔直径の変化とは無関係である可能性があると考えられる。本発明者等はこれらのマウスにおいて血圧を測定しておらず、より長い曝露時間により管腔直径が改変されるかどうか本発明者等には不明である。しかしながら、僅か6週間の期間内において、脳小動脈の壁と管腔の比は、平滑筋細胞αアクチン含有量により測定したところ、Western食餌を与えた場合には顕著に増大している(図8A)。
【0198】
反応性酸素物質種がリッチ化されたLDLが血管平滑筋の細胞成長を刺激することは以前より知られている(Gorog(1997)Atherosclerosis,129:1−7)。更に又、シスタチオニンαシンターゼの欠損により増大した酸化ストレスを有するマウスはその脳小動脈の増大した平滑筋含有量を伴った脳血管の肥大を示すことが報告されている(Baumbach et al.(2002)Cir Res,91:931−937)。血漿中脂質濃度を変化させることなくマウスにおいてLDL脂質ヒドロパーオキシドを低減することが知られている(Navab et al.(2004)Circulation,109:r120−r125)経口D−4Fの投与は、血漿中脂質を変化させること無くリポ蛋白の脂質ヒドロパーオキシドを低減することにより脳小動脈平滑筋αアクチンの増大(図8B〜8E)を緩解するかもしれないと推測され得る。
【0199】
Mulder等(Mulder et al.(2004)Neurobiology
of Disease 16:212−219)は、飼料食餌で飼育したLDL受容体ヌルマウスは飼料食餌で飼育した野生型マウスと比較して空間記憶障害を有することを最初に報告している。これらの研究者等は異常がアポEヌルマウスにおいて報告されたもの(Krugers et al.(1997)Neruo Report,8:2505−2510;Oitzl et al.(1997)Brain Res.,752:189−196;Zhou et al.(1998)Brain Res.,788:151−159;Veinbergs et al.(1999)Neuroscience 91:401−403;Krzywkowski et al.(1999)Neuroscience 92:1273−1286;Raber et al.(2002)Nature 404:352−354)と同様であり、そして脳の細胞にリポ蛋白の構成成分を提供することができないことにより誘導された脳細胞における原発性の異常に起因していると結論している。図9に示したデータと図6〜8におけるものを総括すれば、別の仮説が示唆される。原発性の異常はHeistad et al.(1995)Hypertension,26:509−513により記載された「シック血管症候群」に部分的又は完全に起因しており、脳細胞にリポ蛋白構成成分を送達できないことによるものではないと考えられる。この仮説を裏付けるものは高脂血症の悪化を伴った機能不全の悪化である(図9A〜9D)。原発の不全がLDL受容体の非存在による脳細胞に送達されるリポ蛋白構成成分の欠如によるものであるとすれば、非受容体媒介経路による脳細胞へのリポ蛋白の送達も同様に高脂血症の増大に伴って増大することから、血漿中リポ蛋白濃度の上昇を伴った機能の改善が期待され得る。図9に示される機能的異常に関わる血管の根拠を更に裏付けるものは、Western食餌により悪化(図6及び8A)し、そして経口D−4Fにより改善された(スクランブルドD−4Fでは改善されない)(図7及び8B〜8E)小動脈における機能的異常と構造的変化の間の相関である。本発明者等は、これらのマウスにおいて脳小動脈の血管反応性は測定しなかった。しかしながらPritchard等はLDL受容体ヌルマウスにおける顔面動脈(直径約240μm)の血管反応性はWestern食餌により重度に障害を受け、4F投与により劇的に改善したことを観察している(Ou et al.(2003)Circulation,107:2337−2341;Ou et al.(2005)Circulation Research97:1190−1197)。Heistad等(Heistad et al.(1980)Am.J.Physiol.239(Heart Circ.Physiol.8):H539−H544)はアテローム形成性の食餌を与えることにより高コレステロール血症としたサルにおいて高炭酸ガスに対する最大脳血管拡張応答が障害を受けたが、低効力の血管拡張剤の刺激の間は高炭酸ガスに対する自己調節応答が温存されたことを報告している。興味深いことに、サルを退行性の食餌で飼育し、最大血管拡張に付したところ、脳血管床の応答性は顕著に改善されている(Armstrong et al.(1983).J.Clin.Invest.,71:104−113)。
【0200】
興味深いことに、皮質下のアテローム性動脈硬化性の脳症の血管病(ビンスヴァンガー病)に罹患したヒトにおいて、直径100μm未満の脳血管における平滑筋αアクチンの増大が観察されている(Lin et al.(2000)Stroke,31:1838−1842)。「シック血管症候群」がヒトの痴呆症において以前より認識されているよりも広範な役割を果たしていること、及び、D−4FのようなアポA−Iミメティックペプチドの使用がそのような疾患で有益な作用を有することが推測され得る。
【0201】
本明細書に記載した実施例及び実施形態は説明を目的としているのみであり、そして、それを鑑みながら種々の改変又は変更が当業者には示唆されるが、それらは本明細書の精神及び範囲及び添付請求項の範囲に包含されることが理解される。本明細書において引用した全ての公開物、特許及び特許出願は全ての目的の為に参照により全体が本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図9−4】
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【公開番号】特開2012−82232(P2012−82232A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−15784(P2012−15784)
【出願日】平成24年1月27日(2012.1.27)
【分割の表示】特願2007−544634(P2007−544634)の分割
【原出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】