説明

小規模水域の水質浄化システム

【課題】小規模水域の水質改善に特化し、簡易な構成、低コスト性、操作維持管理の容易性を実現しつつ、効果的かつ効率的に水質改善を達成できる水質浄化システムの提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、小規模水域の一部を隔離した処理区画を配設するための処理区画配設構造体と、上記小規模水域の汚濁水を加圧オゾン処理し、オゾン処理水を得るための加圧オゾン処理装置と、上記オゾン処理水を減圧し、脱オゾン処理水を得るための減圧チャンバーと、上記脱オゾン処理水を上記処理区画内に供給するための脱オゾン処理水供給装置と、上記処理区画内の底層水を大気に曝気させ、酸素溶存水を得るための酸素曝気溶解装置と、上記酸素溶存水を上記処理区画内の底層に供給するための酸素溶存水供給装置とを備える小規模水域の水質浄化システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小規模水域の水質浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本国内における湖沼や河川などの水域の水質は、下水道や浄化槽などの整備に加え、水質を悪化させる窒素、リン、有機物などの環境悪化因子の流入負荷制限により、水域全体として改善傾向にある。しかしながら、小規模な河川、湖沼、浅場、ため池などの小規模水域の水質については、この限りではない。
【0003】
一般的に、小規模な河川、湖沼、浅場、ため池などの小規模水域では、上記環境悪化因子の流入負荷制限が周辺地域において十分でなく、さらに、過去に蓄積した環境悪化因子が除去されず残存していることから、富栄養化が進行し、水質が改善されず悪化する傾向にある。この環境悪化因子の一つとして窒素の場合を例示すると、有機窒素、尿酸、尿素などがアンモニア化成されて生成されるアンモニア態窒素は硝化細菌により硝化され硝酸態窒素となり、この硝酸態窒素は脱窒細菌により脱窒され窒素ガスや一酸化二窒素へ還元され、一連の窒素循環が成立するが、かかる硝酸態窒素が水域内の藻類を増殖させることで水質悪化を促進させる場合もある。このような小規模水域における水質改善策として、一部では導水法(希釈法)や局所的エアレーション法などの対処法が実施されているが、水処理技術の複雑性、高コスト性、維持管理の困難性、土地確保の困難性などの理由により、その効果は不十分とされている。
【0004】
水域の規模の大小にかかわらず、上述した水質悪化の改善を図る技術として、例えば、特許第3849986号の気液溶解装置が提供されている。この気液溶解装置は、貧酸素水域から取り込んだ水に酸素を含んだガスを溶解させて溶存酸素濃度を高め、当該貧酸素水域へ溶存酸素濃度の高まった水を送り返す気液溶解装置であって、前記貧酸素水域から処理すべき水を取り込む取水部と、前記酸素を含んだガスを供給する供給部と、下部に少なくとも一つの孔を有し上部に天板を有する有底の気液溶解室と、前記供給部が供給するガスと前記取水部が供給する水とを前記天板内壁に衝突するよう上向きに噴出させ、ガスの気泡と水とで前記気液溶解室内を満たすと同時に、噴出させたガスと水との勢いによって気泡と水とを激しく攪拌させるノズルと、前記気液溶解室の外部に配され、前記気液溶解室と前記孔を介して連通しており、前記気液溶解室から前記孔を通って流出する気泡と水とを貯留しつつ分離し、上部には分離した気泡を外部へ逃がすガス抜孔を有し、下部には気泡と分離した水を取り出す取出口を有する気液分離室と、前記取出口から取り出される水を前記貧酸素水域に送り返す送水部とを有したことを特徴とするものである。
【0005】
しかしながら、上記特許第3849986号の気液溶解装置を運転するためには、ある程度高い水圧が必要となり、そのため水深10m以浅では十分な酸素溶存効果を得ることができず、例えばダムのように水深が深く水流の存在しない水域でなければ十分な酸素溶存効果を達成することができない。また、この気液溶解装置は、酸素を水中に対し高濃度かつ広範囲に溶存させることを目的としており、窒素の水域系外除去に対しては脱窒阻害を起こす可能性がある。加えて、かかる気液溶解装置は、大型で移送や操作が容易ではなく、かつ高額である。
【0006】
つまり、小規模な河川、湖沼、浅場、ため池などの小規模水域の水質改善に特化し、簡易な構成、低コスト性、操作維持管理の容易性を実現しつつ、効果的かつ効率的に水質改善を達成できる水質浄化システムは、未だ提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3849986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、これらの不都合に鑑みてなされたものであり、小規模水域の水質改善に特化し、簡易な構成、低コスト性、操作維持管理の容易性を実現しつつ、効果的かつ効率的に水質改善を達成できる水質浄化システムの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、小規模水域の水質改善について、小規模水域内の一部に処理区画を配設し、この処理区画内を宛らゴミ箱の如く見立て、処理後の汚濁水を処理区画内に供給し廃棄物を底部に堆積させた後、小規模水域系外に除去するという画期的な知見を得た。
【0010】
その結果、上記課題を解決するためになされた発明は、
小規模水域の一部を隔離した処理区画を配設するための処理区画配設構造体と、
上記小規模水域の汚濁水を加圧オゾン処理し、オゾン処理水を得るための加圧オゾン処理装置と、
上記オゾン処理水を減圧し、脱オゾン処理水を得るための減圧チャンバーと、
上記脱オゾン処理水を上記処理区画内に供給するための脱オゾン処理水供給装置と、
上記処理区画内の底層水を大気に曝気させ、酸素溶存水を得るための酸素曝気溶解装置と、
上記酸素溶存水を上記処理区画内の底層に供給するための酸素溶存水供給装置と
を備える小規模水域の水質浄化システムである。
【0011】
当該小規模水域の水質浄化システムは、小規模水域の一部を隔離した処理区画を配設するための処理区画配設構造体を備えることで、小規模水域の形状に手を加えることなく、かかる処理区画内を宛らゴミ箱の如く見立て、小規模水域の汚濁水を処理した後の処理水を処理区画内に供給し、処理水に含まれる廃棄物を処理区画内の底部に堆積させ、除去することで、小規模水域全体の水質を改善するという基本概念に基づく。具体的には、当該小規模水域の水質浄化システムは、上記小規模水域の汚濁水を加圧オゾン処理しオゾン処理水を得るための加圧オゾン処理装置を備えることで、高濃度のオゾンを汚濁水に加圧溶解させて処理し、短期間で水質の色度、透明度、臭気、COD(Chemical Oxygen Demand)を改善させると共に、上記オゾン処理水を減圧し、脱オゾン処理水を得るための減圧チャンバーを備えることで、オゾン処理水中の未反応オゾンが減圧作用により酸素へと変化し、未反応オゾンが除去されることから、オゾンによる環境負荷の解消又は低減を達成することができ、さらに、上記脱オゾン処理水を上記処理区画内に供給するための脱オゾン処理水供給装置を備えることで、脱オゾン処理水が処理区画内における有機物の分解や凝集を促進しフロックを形成し沈降させると共に、水中のリンや重金属類を相互に結合させて沈殿させ、いずれも処理区画内に滞留させることができる。また、当該小規模水域の水質浄化システムは、上記処理区画内の底層水を大気に曝気させ、酸素溶存水を得るための酸素曝気溶解装置を備えることで、小規模水域の底層をかき回して撹乱させることなく効率的に酸素溶存水を得ることができ、上記酸素溶存水を上記処理区画内の底層に供給するための酸素溶存水供給装置を備えることで、この酸素溶存水が小規模水域の底層〜中層にかけて略水平に拡散して処理区画内を覆い、酸素溶存水バリアを形成させ、底部に堆積した廃棄物から溶出したリンを鉄イオンと結合させ沈殿させると共に、富栄養化の原因となる底層からの窒素、リン、鉄やマンガン等の金属類の溶出も防止又は低減でき、加えて小規模水域系内の脱窒を促進することができる。なお、当該小規模水域の水質浄化システムにおける処理区画は限られた面積であることから、底部に堆積した廃棄物は容易に除去することができ、リンや金属類の資源回収をも達成できる。即ち、当該小規模水域の水質浄化システムは、小規模水域の水質改善に特化し、簡易な構成、低コスト性、操作維持管理の容易性を全て実現しつつ、効果的かつ効率的に水質改善を達成することができる。
【0012】
当該小規模水域の水質浄化システムは、上記酸素曝気溶解装置が、上記小規模水域内の表層水を大気に曝気させる構造をさらに備えるとよい。かかる小規模水域の表層水は、中層〜底層の水と比較して溶存酸素濃度及び硝酸イオン濃度が高い。つまり、当該小規模水域の水質浄化システムにおける上記酸素曝気溶解装置が上記小規模水域内の表層水を大気に曝気させる構造をさらに備えることで、上記底層水由来の酸素溶存水に溶存酸素濃度の比較的高い表層水がブレンドされ底層に送水されることとなり、上述した酸素溶存水バリアの効果、つまり、リンと鉄イオンとの結合による沈殿、底層からの金属類の溶出の防止又は低減、小規模水域内の脱窒の促進をより一層効果的に達成することができる。また、上記底層水由来の酸素溶存水に硝酸イオン濃度の比較的高い表層水がブレンドされ底層に送水されることとなり、処理区画内において底層が微好気性となり脱窒細菌による脱窒活性が促進され、窒素ガスとして窒素を水域系外に放出させることができ、その結果、小規模水域系内の脱窒をより効果的に達成することができる。
【0013】
当該小規模水域の水質浄化システムは、上記処理区画配設構造体の上端が、上記小規模水域の水面より下位に配設されるとよい。当該小規模水域の水質浄化システムにおける上記処理区画配設構造体の上端が上記小規模水域の水面より下位に配設されることで、小規模水域の表層水が上記処理区画の内外を自由に移動できることとなり、河川氾濫を防止又は低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明の小規模水域の水質浄化システムは、小規模水域の一部を隔離した処理区画を配設するための処理区画配設構造体と、上記小規模水域の汚濁水を加圧オゾン処理しオゾン処理水を得るための加圧オゾン処理装置と、上記オゾン処理水を減圧し脱オゾン処理水を得るための減圧チャンバーと、上記脱オゾン処理水を上記処理区画内に供給するための脱オゾン処理水供給装置と、上記処理区画内の底層水を大気に曝気させ、酸素溶存水を得るための酸素曝気溶解装置と、上記酸素溶存水を上記処理区画内の底層に供給するための酸素溶存水供給装置とを備えることで、小規模水域の形状に手を加えることなく、容易に嫌気式浄化槽、好気式浄化槽と同様の効果を得ることができ、即効性のある水質の色度、透明度、臭気、CODの改善に加え、持続性のある窒素の水域系外除去、重金属等の溶出抑制を実現できることから、従来の課題である、簡易な構成、低コスト性、操作維持管理の容易性、効果的かつ効率的な水質改善の達成を全て解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムを示す概略構成図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムを示す概略構成図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムを示す概略構成図である。
【図4】本発明の第4の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳説する。なお、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0017】
1.第1の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システム
図1に示す第1の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムは、小規模水域の岸辺近辺に配設されており、処理区画配設構造体1、加圧オゾン処理装置2、減圧チャンバー3、脱オゾン処理水供給装置4、酸素曝気溶解装置5、酸素溶存水供給装置6を主として備える。
【0018】
当該第1の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムの対象となる小規模水域としては、例えば、小型のため池、沼、湖、川幅が狭く流れの緩やかな河川(比較的大規模の湖沼への水の供給源となる小型の河川を含む)などが挙げられる。より具体的には、例えば、水深10m以浅で、所謂「澱む」、「垂れ込める」、「滞る」程度の流速を有する小規模水域が対象となり得る。
【0019】
(処理区画配設構造体)
処理区画配設構造体1は、小規模水域の一部を隔離した処理区画を配設するための部材である。この処理区画配設構造体1は、具体的には、小規模水域の岸辺から離れた浅場の底部に略垂直に配設される一又は複数の板状の部材であり、湾曲した岸辺の岸壁の地形と処理区画配設構造体1とが連係することにより、小規模水域内の一部を隔離して囲い込むこととなり、小規模水域の一部に外部とは隔離した区画を配設することができる。かかる区画が後述する処理区画に該当する。なお、この処理区画配設構造体1の下端は小規模水域の底部と接地しているが、上端は小規模水域の水面より下位に配設される。
【0020】
処理区画配設構造体1の大きさ、形状、素材としては、小規模水域内の一部を囲い込み外部とは隔離した区画を配設できるものであれば、特に限定されない。例えば、処理区画配設構造体1が木製の矢板であり、この矢板と岸辺の岸壁の地形とで小規模水域内の一部を囲い込むことができるのであれば1枚でも複数枚を連結させてもよい。或いは、処理区画の大きさの設定や配設作業が容易となるよう、処理区画配設構造体1が柔軟性を有する部材であってもよい。また、後述する汚濁水処理後の廃棄物Wを処理区画内に滞留、堆積できるものであれば、処理区画配設構造体1は、処理区画内外を完全に隔離するような隙間の無い厳密な構成を取る必要はなく、例えばある程度の隙間や構造上の余裕(遊び)があってもよい。
【0021】
上記処理区画配設構造体1により配設される処理区画の大きさとしては、特に限定されず、後述する加圧オゾン処理装置2の処理能力や、小規模水域内の水の汚染度によって自由に設定することができ、例えば、処理区画の面積を、無流速の場合で約100m、水深を約1〜10mと設定することができる。
【0022】
(加圧オゾン処理装置)
加圧オゾン処理装置2は、上記小規模水域の汚濁水Pを加圧オゾン処理し、オゾン処理水Qを得るための装置である。この加圧オゾン処理装置2は、具体的には、小規模水域系外の岸辺の岸壁上に配設され、小規模水域の汚染区域から供給される汚濁水Pを加圧下でオゾンと接触させ、オゾンを溶解させて処理することができる。なお、この加圧オゾン処理装置2における加圧手段及びオゾン発生手段については、汚濁水Pの加圧オゾン処理を実現できるものであれば特に限定されず、公知の技術を用いることができる。また、加圧オゾン処理装置2により処理されるオゾン処理水Qにおけるオゾン濃度としては特に限定されないが、例えば約60%とすることができる。
【0023】
なお、小規模水域における汚濁水Pの加圧オゾン処理装置2への供給手段としては、特に限定されず、例えばポンプなどの公知技術を用いることができる。また、小規模水域における汚濁水Pの供給場所としては、特に限定されず、上記処理区域の内外を問わず、例えば、底層をかき回して撹乱させることのないよう、表層〜中層から給水することができる。また、汚濁水Pの供給量としても、特に限定されず、加圧オゾン処理装置2の処理能力、処理区画の大きさ、汚濁水Pの汚染度により決定することができる。
【0024】
(減圧チャンバー)
減圧チャンバー3は、上記オゾン処理水Qを減圧し、脱オゾン処理水Rを得るための部材である。この減圧チャンバー3は、具体的には、小規模水域系外の岸辺の岸壁上に加圧オゾン処理装置2と共に配設され、加圧オゾン処理装置2により得られる加圧状態のオゾン処理水Qを減圧状態で解放し、オゾン処理水Qに含まれる未反応のオゾンを除去することができ、その結果、未反応オゾンが除去された脱オゾン処理水Rを得ることができる。なお、この減圧チャンバー3と上記加圧オゾン処理装置2とを一体の構造とすることもできる。
【0025】
上記減圧チャンバー3における減圧手段としては、特に限定されず、上述した加圧状態の解放を急速にも緩慢にも行うことができるが、後述するように、未反応オゾンの除去を確実に達成するためには、加圧状態の解放を急速に行うことが好ましい。また、減圧チャンバー3における脱オゾン処理水Rの滞留時間としては、特に限定されないが、後述するように、未反応オゾンの除去を確実に達成するためには、20秒以上の滞留時間を設けることが好ましい。
【0026】
(脱オゾン処理水供給装置)
脱オゾン処理水供給装置4は、上記脱オゾン処理水Rを上記処理区画内に供給するための装置であり、上記減圧チャンバー3と共に、小規模水域系外の岸辺の岸壁上に設置される。この脱オゾン処理水供給装置4の脱オゾン処理水供給手段としては、減圧チャンバー3から供給される脱オゾン処理水Rを上記処理区画内に供給することができるものであれば特に限定されず、例えばポンプやホースなどの公知技術を用いることができる。
【0027】
(酸素曝気溶解装置)
酸素曝気溶解装置5は、上記処理区画内の底層水Sを大気Tに曝気させ、酸素溶存水Uを得るための装置である。この酸素曝気溶解装置5は、具体的には、上記処理区画内に略垂直状に配設され、下端は小規模水域の処理区画内の底層に位置し、上端は小規模水域の水面より上位(即ち、大気下)に位置している。この酸素曝気溶解装置5の下端からは小規模水域の処理区画内の底層水Sを取り込み、上端からは酸素を含む大気Tを取り込み、かかる底層水Sを大気Tに曝気させることで、酸素溶存水Uを得ることができる。
【0028】
上記酸素曝気溶解装置5の形状や構造としては、上述した下端による底層水Sの取り込み、上端による大気Tの取り込み、底層水Sと大気Tとの曝気を達成できるものであれば特に限定されず、例えば円筒状の形状を用いることもできる。また、かかる底層水Sの取り込み手段、大気Tの取り込み手段としても特に限定されず、例えばポンプなどの公知技術を用いることができる。
【0029】
なお、この酸素曝気溶解装置5は、上記小規模水域内の表層水Vを大気Tに曝気させる構造をさらに備える。このように、酸素曝気溶解装置5が表層水Vを大気Tに曝気させる構造としては、表層水Vと大気Tとの曝気を達成できるものであれば特に限定されない。
【0030】
(酸素溶存水供給装置)
酸素溶存水供給装置6は、上記酸素溶存水Uを上記処理区画内の底層に供給するための装置である。この酸素溶存水供給装置6は、具体的には、上記酸素曝気溶解装置5から得られる酸素溶存水Uを処理区画内の底層に供給するための装置であり、かかる酸素溶存水供給装置6を上記酸素曝気溶解装置5の下端に配設させ、両者を一体の構造とすることもできる。なお、かかる酸素溶存水供給装置6における酸素溶存水Uの供給手段としては、酸素溶存水Uを処理区画内の底層に供給できるものであれば特に限定されず、例えばポンプなどの公知技術を用いることができる。
【0031】
(小規模水域の水質浄化システムの操作手順)
次に、図1を参照しつつ、第1の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムの操作手順について、作用効果を中心に詳説する。
【0032】
(a)処理区画の配設
処理区画配設構造体1を小規模水域の岸辺の岸壁から離れた浅場の底部に略垂直に配設し、湾曲した岸辺の岸壁の地形と処理区画配設構造体1とを連係させ、小規模水域系内の一部に隔離した処理区画を配設する。この場合、上述の通り、処理区画配設構造体1は処理区画内外を完全に隔離するような厳密な構成を取る必要はなく、例えば隙間や構造上の余裕があってもよい。なお、かかる処理区画の面積を、無流速の場合で約100m、水深を約1〜10mと設定することができる。
【0033】
ここで、この処理区画配設構造体1の上端が上記小規模水域の水面より下位に配設されることで、小規模水域の表層水が上記処理区画の内外を自由に移動できることとなり、その結果、河川氾濫を防止又は低減することができる。
【0034】
(b)加圧オゾン処理
小規模水域内において水質が汚染されている汚染区域には汚濁水Pが存在し、この汚濁水Pには、水質を悪化させる窒素、リン、有機物などの環境悪化因子が含まれている。かかる汚濁水Pをポンプなどにより加圧オゾン処理装置2に給水し、加圧オゾン処理装置2により汚濁水Pを加圧下でオゾンと接触させ、オゾンを溶解させて処理する。このような加圧下によるオゾン処理により、汚濁水Pにはオゾンが多く溶解することとなり、短期間かつ即効的に汚濁水P中の懸濁物を急速に凝集させ、水質の色度及び透明度を向上し(景観面の向上)、臭気を除去し、難分解性のCODを易分解性のCODへと改善させることができる。なお、汚濁水Pをバブリングによりオゾン処理した場合、オゾンの溶解濃度としては約15%程度であるが、加圧オゾン処理の場合、オゾンの溶解濃度としては約60%となり、約60%の濃度であれば、上述した短期間かつ即効的な水質改善を十分に達成することができる。また、この汚濁水Pの小規模水域内における給水箇所を、表層〜中層とすることで、底層をかき回して撹乱させることなく、底層付近に存在する上述の環境悪化因子の拡散を防止又は低減することができる。
【0035】
(c)脱オゾン処理
ここで、オゾンは殺菌、脱臭、有機物の除去等の性質を有し、微量であれば、例えば野菜などの洗浄を目的として使用することも可能ではあるが、一方で強い毒性を示すことが知られている。上述した加圧オゾン処理において未反応のオゾンが空気中に放出される場合、このような廃オゾンは、成層圏破壊や地球温暖化の要因とされるため、活性炭やゼオライトなどで除去する必要があり、経済的にも大変な負担となる。また、かかる廃オゾンが小規模水域系内に放出される場合、放出地点付近の生態系に大きなダメージを与えるおそれもある。そこで、加圧オゾン処理装置2により得られる加圧状態のオゾン処理水Qを減圧チャンバー3により減圧状態で解放することで、オゾン処理水Q中の未反応オゾンが減圧作用により安定的な酸素へと変化し、未反応オゾンが除去されることから、オゾンによる環境負荷の解消又は低減を達成することができる。このような減圧チャンバー3によるオゾン処理水Q中の未反応オゾンの除去は、加圧後の減圧を急速に行うことで、より完全に達成することができる。その減圧条件としては、減圧解放後少なくとも20秒以上の放置が必要であり、例えば20秒〜40秒放置することで、オゾン処理水Q中の未反応オゾンを完全に除去することができる。なお、このようなオゾン溶解処理を用いた汚濁水の処理に関する公知技術は数多く存在するが、減圧チャンバー3を用いて高圧接触溶解による余剰オゾンを除去するという概念は画期的なものである。
【0036】
(d)脱オゾン処理水の処理区域内への供給
脱オゾン処理水供給装置4により、減圧チャンバー3から供給される脱オゾン処理水Rを上記処理区画内に供給する。かかる脱オゾン処理水Rが処理区画内における有機物の分解や凝集を促進しフロックを形成させ沈降及び堆積させると共に、水中のリンや重金属類を相互に結合させて沈殿させ、いずれも処理区画内に滞留及び堆積させることができる。かかるフロックは処理区画内を沈降し底部に堆積され、水域内の微生物により生分解されるが、このような微生物による生分解により、水域内の貧酸素化や無酸素化が進行すると共に、水域底部からのプランクトン異常増殖の要因となる栄養塩(窒素やリンなど)や有害金属(砒素など)の溶出が懸念される。
【0037】
(e)酸素溶存水バリアの形成
そこで、このような水域内の貧酸素化、無酸素化の進行や、水域底部からの栄養塩、有害金属(砒素など)の溶出を防止又は低減すべく、第1の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムは、上記小規模水域内の処理区画内の底層〜中層に酸素溶存水バリアを形成することを特徴とする。つまり、酸素曝気溶解装置5の下端から小規模水域の処理区画内の底層水Sを取り込み、上端から酸素を含む大気Tを取り込み、かかる底層水Sを大気Tに曝気させることで、高濃度の酸素溶存水Uを得ることができ、さらに、酸素溶存水供給装置6により、上記酸素曝気溶解装置5から得られる酸素溶存水Uを処理区画内の底層に供給することで、底層をかき回して撹乱させずに底層付近に存在する上述の環境悪化因子の拡散を防止又は低減しつつ、この酸素溶存水Uを小規模水域の底層〜中層にかけて略水平に拡散させて処理区画内を覆い、宛ら溶存酸素水の蓋(バリア)を形成させ、底部に堆積した廃棄物から溶出したリンを鉄イオンと結合させ沈殿させると共に、富栄養化の原因となる底層からの窒素、リン、鉄やマンガン等の金属類の溶出も防止又は低減し、加えて、脱窒細菌の活性を向上させ小規模水域内の脱窒を促進することができる。これを詳説すると、一般的に、小規模水域の底層は嫌気性水域であるが、この底層に高濃度の酸素を溶存させた酸素溶存水Uを供給させることで、底層の水質が好気性及び嫌気性の混在状態となり、かかる好気性条件の水質が生み出すバリア効果が、処理区画底部の微生物による有機物分解を促進させると共に、重金属の底部からの溶出をブロックし(溶出した重金属などの酸化を促進させ再懸濁させる)、さらには脱窒細菌の活性をも向上させる。このように、底層水に酸素を溶存させた酸素溶存水を水域底面に供給して拡散させ酸素溶存水バリアを形成させるという概念は、エアレーションによる酸素供給手段とは異なり、比重の重い底層水をエアレーションにより無駄にかき回したりすることなく、酸素を効果的かつ効率的に底層〜中層に拡散させることができる。なお、この場合における処理区画内全体の溶存酸素濃度としては、3〜4mg/l程度であれば、上述した作用効果を効果的かつ効率的に発揮することができる。
【0038】
さらに、上記酸素曝気溶解装置5は、小規模水域内の表層水Vを大気Tに曝気させる構造をさらに備える。かかる小規模水域の表層水Vは、中層〜底層の水と比較して溶存酸素濃度及び硝酸イオン濃度が高く、また、この表層水Vは水温が高いため底層付近に送水すると局所的に撹乱(上昇流)が生じるため、好気性水域と嫌気性水域との混在状態が発生する。つまり、上記酸素曝気溶解装置5が小規模水域内の表層水Vを大気Tに曝気させる構造をさらに備えることで、上記底層水S由来の酸素溶存水Uに溶存酸素濃度の比較的高い表層水Vがブレンドされ底層に送水されることとなり、上述した酸素溶存水バリアの効果、つまり、リンと鉄イオンとの結合による沈殿、底層からの金属類の溶出の防止又は低減、小規模水域内の脱窒の促進をより一層効果的に達成することができる。また、上記底層水S由来の酸素溶存水Uに硝酸イオン濃度の比較的高い表層水Vがブレンドされ底層に送水されることとなり、処理区画内底部の貧酸素化及び無酸素化により発生したアンモニアが上述の酸素溶存水バリアの作用により硝化反応(酸化)へと進む際に、処理区画内において底層が微好気性となり脱窒細菌による脱窒活性が促進され、硝化、脱窒へと進行する反応速度を加速することとなり、その結果、脱窒が促進され、小規模水域系内の窒素(栄養塩)を系外に一層効果的かつ効率的に排出することが可能となる。なお、この表層水Vの底層水Sに対する混合濃度が、例えば約5%であれば、上述した脱窒の促進をより確実に達成することができる。
【0039】
(廃棄物の回収)
そして、最終的に小規模水域の処理区画内の底面に堆積した廃棄物Wは、定期的に産業廃棄物として処理することで、当該小規模水域の水質の維持管理を実現しつつ、重金属の資源回収も達成することができる。仮に、上記処理区画内底層における上述の微生物分解が十分に進まず、所謂ヘドロが堆積するような場合であっても、当該処理区画の大きさは小規模であり、かかるヘドロを水域系外に除去することは容易である。
【0040】
2.第2の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システム
図2に示す第2の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムは、処理区画配設構造体7の上端が小規模水域の水面より上位に配設されていることが特徴である。このように、処理区画配設構造体7の上端が小規模水域の水面より上位に配設されていることで、処理区画をより閉鎖的に構成することができ、水質浄化処理を集中的に行うことができる。この場合において、処理区画内外の水のやりとりは、例えばポンプなどを用いて行うことができる。なお、第2の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムの構成及び作用効果などについては、処理区画配設構造体1を除き、第1の実施形態の場合と同様であるため、説明を省略する。
【0041】
3.第3の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システム
図3に示す第3の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムは、小規模水域の処理区画が、岸辺の岸壁の地形ではなく処理区画配設構造体8のみにより配設されていることが特徴である。このように小規模水域の処理区画が処理区画配設構造体8のみにより配設されていることで、岸辺の岸壁の地形によらず処理区画の大きさや形状をより具体的に設定することができる。かかる処理区画配設構造体8の構造としては、例えば、箱形の鉄製筒が挙げられる。また、この場合において、処理区画配設構造体8の上端が小規模水域の水面より下位に配設されているが、水面より上位に配設することも可能である。なお、第3の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムの構成及び作用効果などについては、処理区画配設構造体8を除き、第1の実施形態の場合と同様であるため説明を省略する。
【0042】
4.第4の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システム
図4に示す第4の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムは、加圧オゾン処理装置2、減圧チャンバー3、脱オゾン処理水供給装置4が、小規模水域内の水面上位に土台9を用いて配設されていることが特徴である。このような土台9を用いることで、小規模水域系外の地形によらず、加圧オゾン処理装置2、減圧チャンバー3、脱オゾン処理水供給装置4を小規模水域系内の任意の箇所に自在に配設することが可能となる。なお、第4の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムの構成及び作用効果などについては、土台9を除き、第1の実施形態の場合と同様であるため、説明を省略する。
【0043】
5.第5の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システム
第5の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システム(図示せず)は、小規模水域にアオコが発生している場合においても有効である。第5の実施形態に係る小規模水域の水質浄化システムの構成及び作用効果などについては、第1の実施形態の場合と同様であるため、同一番号を付して説明を省略する。アオコはガス胞を有し、自由に水深を変化させることができ、小規模水域における臭気の原因であり、また、景観面からも嫌われる。かかるアオコを汚濁水Pとして加圧オゾン処理装置2及び減圧チャンバー3により処理することで、加圧及び減圧作用により、ガス胞を分解し、アオコを死滅させることができる。なお、公知技術として汚濁水を吸引するポンプのキャビテーション作用を利用しアオコを分解する手段も存在するが、かかるキャビテーション作用を通過するアオコもあり、アオコの死滅作用が非効率であるという問題がある。
【0044】
なお、本発明の小規模水域の水質浄化システムは、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の小規模水域の水質浄化システムは、上述した酸素曝気溶解装置及び酸素溶存水供給装置において、溶存酸素水中の酸素濃度を調整できる機構を備えることも可能である。小規模水域内における一連の脱窒反応において、硝化反応は好気的になるほど反応比速度は速くなるが、逆に脱窒反応の反応比速度は小さくなる。従って、速やかに脱窒反応による窒素除去を行うためには、これら両反応がバランスよく進行する必要があり、かかる両反応のバランスよい進行は、溶存酸素水中の酸素濃度を調整できる機構により自在に達成することができる。
【0045】
また、例えば、本発明の小規模水域の水質浄化システムの水質浄化の対象となる小規模水域として、比較的大型の湖沼(霞ヶ浦や琵琶湖など)への水の流入減となる小規模河川も対象となる。この場合、本発明の小規模水域の水質浄化システムにより、大規模湖沼に流れ込む前段階の水の水質を改善することで、結果として大規模湖沼における水質改善を間接的に達成することができる。また、比較的大型の湖沼の一部も対象となる。例えば、琵琶湖の南湖(浅場の閉鎖系エリア)を本発明の小規模水域の水質浄化システムの水質浄化の対象となる小規模水域とすることもでき、これにより、大規模湖沼における一部だけでも部分的に水質改善することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明の小規模水域の水質浄化システムは、日本国内において、人口密度が増加した都市部の小規模河川、湖沼、ため池などの小規模水域の水質改善に好適に使用され得る。都市部における小規模水域の周辺には住宅基盤が整備されており、水環境対策のために新たな土地を確保することは難しく、小規模水域の水質を改善することは困難な場合が多いが、本発明の小規模水域の水質浄化システムは、汎用品を利用可能な簡易な構成で設置や移動が容易であり、集中的かつ短期間の運転も可能な小規模システムであることから、周辺住民の水辺利用にも繋がることが期待できる。
【0047】
さらに、本発明の小規模水域の水質浄化システムは、日本国外の開発後進国における小規模水域の水質改善にも好適に使用され得る。特に、開発後進国において最大の問題である飲料水確保で問題視される有害重金属は、本発明の小規模水域の水質浄化システムにより十分な除去が期待できる。政府開発援助(ODA:Official Development Assistance)などによる開発途上国への援助などを考慮した場合、「プラント金額が高価で単独導入できない」、「維持管理費用が日本ほど円滑に得られない」、「土地が必ずしも水辺に存在しない」、「汚染負荷状況が劣悪である」など、日本とは水質改善の課題が大きく異なる。先進国は、ODAなどによる援助で継続的に費用を渡すだけであってはならない。各国地域の自主性を考慮し、現地で導入できる技術移転、費用、運転管理を目標にした機材開発が必須である。
【符号の説明】
【0048】
1 処理区画配設構造体
2 加圧オゾン処理装置
3 減圧チャンバー
4 脱オゾン処理水供給装置
5 酸素曝気溶解装置
6 酸素溶存水供給装置
7 処理区画配設構造体
8 処理区画配設構造体
9 土台
P 汚濁水
Q オゾン処理水
R 脱オゾン処理水
S 底層水
T 大気
U 酸素溶存水
V 表層水
W 廃棄物



【特許請求の範囲】
【請求項1】
小規模水域の一部を隔離した処理区画を配設するための処理区画配設構造体と、
上記小規模水域の汚濁水を加圧オゾン処理し、オゾン処理水を得るための加圧オゾン処理装置と、
上記オゾン処理水を減圧し、脱オゾン処理水を得るための減圧チャンバーと、
上記脱オゾン処理水を上記処理区画内に供給するための脱オゾン処理水供給装置と、
上記処理区画内の底層水を大気に曝気させ、酸素溶存水を得るための酸素曝気溶解装置と、
上記酸素溶存水を上記処理区画内の底層に供給するための酸素溶存水供給装置と
を備える小規模水域の水質浄化システム。
【請求項2】
上記酸素曝気溶解装置が、上記小規模水域内の表層水を大気に曝気させる構造をさらに備える請求項1記載の小規模水域の水質浄化システム。
【請求項3】
上記処理区画配設構造体の上端が、上記小規模水域の水面より下位に配設される請求項1又は請求項2記載の小規模水域の水質浄化システム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−94707(P2013−94707A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238068(P2011−238068)
【出願日】平成23年10月29日(2011.10.29)
【出願人】(512303828)環境システム株式会社 (1)
【Fターム(参考)】