説明

小魚の頭方向揃え装置

【課題】イワシ類、ニギスなど、加工時に鱗が脱落した魚体でも、簡便な装置で精度よく頭方向を揃える装置を提供する。
【解決手段】イワシ類、ニギスなどの魚体を、水槽内からくみ上げるか、シュート上へ供給する直前に、軽く散水し、適当な濡れ状態で、30度〜36度に傾斜させたシュートを滑落させ、頭から排出させる魚体の頭揃え装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向が不揃いな大量の魚体の頭方向を、簡便に短時間で揃える方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イワシなどの大衆魚は大量に捕獲され、頭部の切断や内臓の除去は、自動化された装置により処理されることが多く、このような処理装置には魚の頭方向を揃えて導入する必要がある。
【0003】
魚体の整列方法としては、凹凸面を備えたトラフを振動させて、頭方向に魚体を移動させる方法(特許文献1)、傾斜を上方に移動するベルト上に生魚を落下させ、ベルトの上方への移動に抗し、頭を下にして落下するものと、頭を上にしてベルトとの摩擦により上方へ移送されるものとに選別し、生魚の頭方向を揃えるもの(特許文献2、3)、互いの反対方向に移動するベルトをV字型に対向させ、これらのベルト間に生魚を供給し、ベルトの両端から生魚を頭から排出するようにした選別装置(特許文献4)が知られている。
【0004】
これらの方法は、いずれも魚体の鱗や鰭が、方向によって摩擦が異なることを利用したものであるが、マイワシ、カタクチイワシやニギスなどは、鱗が剥がれ易く、水揚げ時および運搬時に網や魚体同士が擦れ合い、加工時には鱗がほとんど残っていない状態となり、精度よく整列させることができなかった。
また、整列部にベルトを回動させるための駆動手段を必要とするので装置が大型化せざるを得ず、コスト高となってしまうという問題があった。
【0005】
魚体の鱗などの摩擦を利用しない方法としては、魚体を進行方向に対してほぼ直角に揃えた状態で、シュート上に落下させ、往行面至端に向いた散水手段により、魚体に均一に散水し、尾側に受ける水により魚体を90度回転させ、頭を先頭にしてシュートから排出させるようにした装置が提案されている(特許文献5)。
【0006】
この方法によれば、鱗の脱落した魚体でも処理が可能であるが、各魚体に対して有効に散水しなければならず、そのためには一匹ずつシュート面に落下させる必要があり、さらに、シュートの傾斜角と散水量を調整する必要があった。
【0007】
このように、イワシ類、ニギスなどの鱗が脱落した魚体の頭方向を、自動的に精度よく揃えることは難しく、人手によって行われているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平01−25540号公報
【特許文献2】特公昭36−2865号公報
【特許文献3】特公昭36−5335号公報
【特許文献4】特開平06−255753号公報
【特許文献5】特開昭49−11698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、イワシ類、ニギスなど、加工時に鱗が脱落した魚体でも、簡便な装置で精度よく頭方向を揃える装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、イワシ類、ニギスなどの魚体を、適当な濡れ状態で、特定角度のシュートを滑落させるだけで、頭を下にして排出されることを見出し、本発明に至ったものである。
【0011】
本発明において、頭を下にして滑落するのは、魚体の重心位置が頭よりにあり、滑落面と点又は線で接触する魚体部よりも面接触する尾鰭部の方が、摩擦力が大きいことによる。
したがって、冷凍、あるいは死後硬直して魚体が湾曲し尾鰭が滑落面と接触しないものや、漁獲時に尾鰭が切断されてしまったものは、頭揃えができない。
【0012】
本発明において、「適当な濡れ状態」とは、魚体及びシュートの滑落面全体が水で濡れて水膜が形成され、全体として水が流れ落ちない状態をいう。それより水分が多くなって、滑落面全体を水が流れ落ちる状態では、魚体部と尾鰭部の滑落面との摩擦に差がなくなり、シュート上に供給した魚体はそのまま落下してしまう。反対に水分が少なく、滑落面に水で濡れていない部分が存在すると、魚体はその部分で停止してしまう。
【0013】
上記「適当な濡れ状態」は、水槽内から魚体を取り出し、そのままシュートに供給するか、シュートへの供給寸前に軽く散水して魚体を十分濡らしておくことで達成され、しかもこのような方法を採用すれば、魚体に付着した余剰の水分が、滑落する魚体により失われるか滑落面の水分を補給するので、継続的にシュートの滑落面を「適当な濡れ状態」に維持することができるので好都合である。
ここで、軽く散水とは、散水した余剰の水が魚体と共にシュート上に落下してもシュートの滑落面全体に落下する水流が発生しない程度の散水量のことを言う。
また、開始時にシュートの滑落面が乾いている場合には、散水などにより予め濡らしておくことが望ましい。
【0014】
シュートの傾斜角は、30〜50度の範囲で頭方向揃えが可能であった。27度未満の角度では、魚体がスムーズに落下しなくなった。しかし,傾斜角を大きくすると,装置を大型化,あるいは高所に配置する必要が生じることから,より好ましい角度は30〜35度である。
【0015】
シュートの有効長さは、50〜80cmの範囲とすることが好ましい。50cm未満の長さでは、魚体がスムーズに回転しないうちに排出されてしまい、80cmを超えても精度は上がらず、装置が大型化してしまう。
【0016】
シュートの滑落面の材質は、適当な濡れ状態で魚体がスムーズに滑落するものであればいずれの材質でも良いが、衛生面や耐久性の面からステンレス板が好適に使用できる。
【0017】
以上のようなシュート上に、水で十分濡れた魚体を供給すれば、尾部を下にして供給した場合でも、上述したように魚体部と尾鰭部の摩擦の差により180度回転し、約80%の確率で頭部先頭にして排出される。
【0018】
また、魚体を進行方向に対してほぼ直角に揃えた状態でシュートに供給すれば、90%以上の確率で頭方向を揃えることができるので、かかる手段と組み合わせることが望ましい。
【0019】
魚体を進行方向に対してほぼ直角に揃えて供給するには、例えば、進行方向に対して直角な仕切り板を所定間隔で設けたベルトコンベアを使用して前記仕切り板によって水槽内の魚体を横向きに捕捉し、そのままの状態でシュートに供給すればよい。
上記のベルトコンベアでは、処理すべき魚種によって、仕切り版の高さと間隔、及びコンベア−の設置角度を調整することにより、効率的に魚体をシュートに供給することができる。
【0020】
本発明の実施の態様は、以下のとおりである。
(1)魚体および傾斜シュートの滑落面の全面を水で濡らし、該魚体を27度〜50度に傾斜させた前記傾斜シュートを滑落させることを特徴とする鱗の脱落した魚の頭方向を揃える方法。
(2)魚体を原料魚投入水槽内に浸漬させるか、又は傾斜シュート上へ供給する直前に散水して魚体の全面を水で濡らすことを特徴とする(1)の鱗の脱落した魚の頭方向を揃える方法。
(3)魚体を進行方向に対し直角の方向で傾斜シュート上へ供給することを特徴とする(1)または(2)の鱗の脱落した魚の頭方向を揃える方法。
(4)原料魚投入水槽、又は傾斜シュート上へ供給する直前に散水する散水手段、27度〜50度に傾斜させた傾斜シュート及び水で濡れた魚体を傾斜シュート上に供給する手段からなる、(1)の鱗の脱落した魚の頭方向を揃える方法を実施するための装置。
(5)水で濡れた魚体を傾斜シュート上に供給する手段が、魚体を進行方向に対し直角の方向で傾斜シュート上へ供給するものであることを特徴とする(4)の装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来頭揃えが難しかった鱗が脱落した魚体でも、簡便な装置で効率よく頭揃えが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】シュートの傾斜角度の実験及び魚体の供給向きが頭揃えに及ぼす影響の実験に使用した装置
【図2】搬送ベルトコンベア設置角度の実験に使用した装置
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0023】
<シュートの濡れ性と傾斜角度の検討>
シュートの濡れ性と傾斜角度を検討するため、図1に示される装置を用いて以下の実験を行なった。
傾斜シュート1の傾斜角度αを15度から45度まで3度刻みで変化させ、更に50度とし、進行方向に対して直角方向に向きを揃えたカタクチイワシ50尾を供給コンベア2により傾斜シュート1上に供給した。
なお、傾斜シュート1は、両側部にアルミ製のガイドを設け、滑落部の有効長さを45cm、先細形の排出部の長さを35cmとし、滑落面はステンレス製とした。
落下時の条件として、落とす直前に散水パイプ7より弱い散水で魚体Fを十分に濡らした場合と、散水しない場合とを比較した。
ここで、「弱い散水」とは、魚体F全体が水で十分濡れ、余剰の水が魚体Fと共に傾斜シュート1上に落下しても、傾斜シュート1の滑落面の全面を水が流れ落ちない程度の水で散水することをいう。散水量が多く、シュートの滑落面の全面を水が流れ落ち状態となると、魚体Fは横向きのまま滑落する。
実験結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
上記の実験結果から、魚体Fが水で十分に濡れている状態とすることは不可欠であり、これにより、傾斜シュート1の滑落面を、適度の濡れた状態とすることができること、及び精度よく魚体Fの頭方向を揃えるためには、傾斜シュート1の傾斜角度αを27度から50度の範囲設定する必要があることがわかった。
しかし、傾斜角αが大きくなると、本装置を高所に設置する必要が生じ、逆に傾斜角αが小さいと広い設置面積が必要となることから、30度から36度の範囲に設定することが好ましい。
【実施例2】
【0026】
<傾斜シュート滑落面への魚体の供給向きが頭揃えに及ぼす影響>
傾斜シュート1の滑落面への魚体Fの供給向きが頭揃えに及ぼす影響を調べるため、実施例1の装置を使用して以下のような実験を行なった。なお、傾斜シュート1の傾斜角αは、33度に固定して使用し、実施例1と同様供給コンベア2から落ちる直前の魚体Fに散水パイプ7より軽く散水した。
供給コンベア2に並べる魚体Fの角度を変えて、頭方向が揃う確率を調べ、その結果を表2に示す。また、尾鰭をカットしたものについても同様な実験を行なった。
【0027】
【表2】

【0028】
上記の実験結果によれば、頭の方向が進行方向に近づくほど、頭方向が揃う確率が高くなったが、尾鰭が進行方向であっても約80%が180度回転して頭から排出されることがわかった。
なお、搬送コンベアで最も効率的に運べる、進行方向に対し垂直の場合であれば、90%以上の確立で頭方向を揃えることができる。
また、尾鰭がなくなった魚体Fは、頭方向が揃う確率が大幅に低下した。
【実施例3】
【0029】
<供給コンベアの設置角度の検討>
供給コンベア2の設置角度を検討するため、図2に示す装置を使用して以下のような実験を行なった。なお、傾斜シュート1は、実施例1で使用したものを傾斜角33度に固定し、供給コンベア3のベルト4は、ステンレスネット製で、高さ2cmのステンレス製の仕切板3を、10cm間隔で取り付け、モーター6によりベルト4を、7cm/secの速度で移動させた。
供給コンベア2の設置角度は、45度、55度、および60度とし、原料魚投入水槽5内のカタクチイワシの運搬状況を目視で確認すると共に、供給コンベア2から落下させた魚体Fが傾斜シュート1上を、頭を下にして滑落する数を調べた。その結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
上記の実験結果によれば、供給コンベア2の設置角度は、45度〜60度の設置角度で所期の目的が達成されることがわかったが、設置角度が45度では、一度に大量の魚が運ばれてしまう場合があり、仕切板3の間に魚体が入りにくいという問題、設置角度が60度では、逆に魚が少量ずつ運搬されるので時間がかかるという問題があった。
また、落下直前に魚体に軽く散水するかわりに、水槽5中の魚体Fを供給コンベア2で汲み上げても、傾斜シュート1の滑落面を適度の濡れ状態とすることができることがわかった。
なお、上記表3には記載されていないが、仕切板3の高さを1.5cm、2.0cm、仕切り間隔を5.0cm、7.5cm、10cmに変えて同様な実験を行なったところ、仕切板3の高さが低いほど、また仕切板の間隔が小さいほど、魚体Fの捕捉率が低かった。
本実験で使用したカタクチイワシの場合は、仕切板の高さが2cm、仕切板の間隔が7.5〜10cmが適切であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の装置は構造が簡単で、しかも場所をとらないので、魚処理設備に隣接して設置でき、低コストで魚の処理効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 傾斜シュート
2 供給コンベア
3 コンベア仕切板
4 ステンレスネット
5 原料魚投入水槽
6 モーター
7 散水パイプ
F 魚体
α 傾斜シュートの傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚体および傾斜シュートの滑落面の全面を水で濡らし、該魚体を27度〜50度に傾斜させた前記傾斜シュートを滑落させることを特徴とする鱗の脱落した魚の頭方向を揃える方法。
【請求項2】
魚体を原料魚投入水槽内に浸漬させるか、又は傾斜シュート上へ供給する直前に散水して魚体の全面を水で濡らすことを特徴とする請求項1記載の鱗の脱落した魚の頭方向を揃える方法。
【請求項3】
魚体を進行方向に対し直角の方向で傾斜シュート上へ供給することを特徴とする請求項1または2記載の鱗の脱落した魚の頭方向を揃える方法。
【請求項4】
原料魚投入水槽、又は傾斜シュート上へ供給する直前に散水する散水手段、27度〜50度に傾斜させた傾斜シュート及び水で濡れた魚体を傾斜シュート上に供給する手段からなる、請求項1記載の鱗の脱落した魚の頭方向を揃える方法を実施するための装置。
【請求項5】
水で濡れた魚体を傾斜シュート上に供給する手段が、魚体を進行方向に対し直角の方向で傾斜シュート上へ供給するものであることを特徴とする請求項4記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−19724(P2012−19724A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159466(P2010−159466)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【Fターム(参考)】