説明

小麦粉および小麦粉組成物

【課題】原料として軟質小麦を用いた場合でも二次加工適性、特に製パン適性および製麺適性に優れ、かつ特にパン類や、中華麺類および即席麺類に加工した場合に、高品質のパン類や、中華麺類および即席麺類が得られる小麦粉、および、該小麦粉と同様の効果を有する小麦粉組成物を提供すること。
【解決手段】原料を軟質小麦とし、粒径が45〜150μmの大きさの粒が80質量%以上で、かつ45〜100μmの大きさの粒が60質量%以上である小麦粉、および、該小麦粉を20質量%以上含有する小麦粉組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料として軟質小麦を用いた場合でもパン類、中華麺類および即席麺類等の原料として好適に用いられる新規な小麦粉および小麦粉組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉は、ロール粉砕および篩分けにより採取されるが、その粒度分布は、約5μm〜約180μmにわたる。
【0003】
小麦粉は、澱粉と蛋白質がその95質量%以上を占めている。小麦粉の粒に着目すると、蛋白質画分、小粒澱粉画分、大粒澱粉画分、蛋白質と澱粉が複合構造をなす画分の4つの画分に大まかに分類される。ただし、小粒および大粒澱粉粒の表面には、微量の蛋白質が付着していることがある。
【0004】
従来、製粉工程において、上記の4つの画分を明確に分けることは困難であり、画分の違いによる二次加工適性を把握することは困難であった。また、軟質小麦を100%使用した小麦粉で二次加工適性に優れたパン類用小麦粉を製造することは困難であった。
【0005】
従来より、小麦粉の二次加工適性や小麦粉製品の食感等を改善するために、原料小麦粉として特定範囲の粒径の小麦粉を用いることが提案されている。例えば、粉の粒径150μm以下が90%以上であり、かつ20μm以下の粒子を20積算体積%以下とした薄力小麦粉(特許文献1参照)や、粒径が60〜180μmの薄力粉を70〜90重量%含む小麦粉組成物(特許文献2参照)などが提案されている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載されている薄力小麦粉は、クッキー用または天ぷら粉用小麦粉であり、パンや麺類用小麦粉として適したものではない。
また、特許文献2に記載されている小麦粉組成物も、菓子用小麦粉組成物であり、パンや麺類用小麦粉組成物として適したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−98号公報
【特許文献2】特許第3091977号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、原料として軟質小麦を用いた場合でも二次加工適性、特に製パン適性および製麺適性に優れ、かつ特にパン類や、中華麺類および即席麺類に加工した場合に、高品質のパン類や、中華麺類および即席麺類が得られる小麦粉、および、該小麦粉と同様の効果を有する小麦粉組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねる中で、小麦粉の上記4つの画分を2つの画分に概ね分離し、その二次加工適性を検証したところ、特定範囲の粒径の粒を特定量含有する軟質小麦粉が、上記目的を達成するものであることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、原料を軟質小麦とし、粒径が45〜150μmの大きさの粒が80質量%以上で、かつ45〜100μmの大きさの粒が60質量%以上である小麦粉、および、該小麦粉を20質量%以上含有する小麦粉組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の小麦粉は、原料として軟質小麦を100%使用しているにもかかわらず、二次加工適性、特にパン用小麦粉としての製パン適性ならびに中華麺類用小麦粉および即席麺類用小麦粉としての製麺適性に優れ、かつ高品質のパン類や、中華麺類および即席麺類が得られる。また、本発明の小麦粉組成物は、本発明の小麦粉と同様の効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明の小麦粉について説明する。
本発明の小麦粉は、原料を軟質小麦とし、粒径が45〜150μmの大きさの粒が80質量%以上で、かつ45〜100μmの大きさの粒が60質量%以上である小麦粉であれば、どのような粒径分布のものでも使用することができるが、粒径が45〜150μmの大きさの粒が、90質量%以上であることが好ましく、95〜100質量%であることがさらに好ましい。また、45〜100μmの大きさの粒が、70質量%以上であることが好ましく、80〜100質量%であることがさらに好ましい。
この小麦粉の粒径は、日機装株式会社製「マイクロトラック粒径分布測定装置9200FRA」を用いて乾式で測定したものである。また、粒度の割合は、粒径分布を解析し、計算した「検出頻度割合」である(日機装株式会社製の上記装置9200FRAに添付された資料「マイクロトラック粒度分析計測定結果の見方」参照)。
【0013】
本発明においては、前記の大きさの粒より細かい粒径の小麦粉の混入割合が高くなるにつれ、その二次加工適性が損なわれるので好ましくない。
【0014】
本発明の小麦粉を調製する方法としては、例えば、小麦に対してロールによる粉砕と、篩による篩分けを繰り返し行い、通常の小麦粉を採取した後、該小麦粉から、空気分級により大粒澱粉画分および小粒澱粉画分をできる限り取り除く方法が挙げられる。
【0015】
本発明の小麦粉の原料として使用する軟質小麦としては、ソフトレッドホイートおよびソフトホワイトホイート等が挙げられ、ソフトレッドホイートの例としては日本産の普通小麦、米国産のソフトレッドウインター(SRW)等があり、ソフトホワイトホイートの例としては米国産のホワイトホイート(WW)、オーストラリア産のオーストラリアスタンダードホイート(ASW)等がある。
上記軟質小麦としては、同一の品種を一種以上使用しても、異なる品種を各一種以上併用してもよい。
【0016】
本発明の小麦粉は、灰分が0.33〜0.55質量%で、粗蛋白が8.0〜13.0質量%であるものが好ましく、さらに好ましくは灰分が0.37〜0.48質量%で、粗蛋白が9.5〜12.0質量%のものである。
【0017】
次に、本発明の小麦粉組成物について説明する。
本発明の小麦粉組成物は、上記の本発明の小麦粉を、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラムセモリナ等の通常の小麦粉と混合して、本発明の小麦粉の含有量が20質量%以上、好ましくは30〜40質量%となるように調整したものである。
【0018】
本発明の小麦粉組成物には、本発明の小麦粉および前記した通常の小麦粉以外に、ライ麦粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉等の穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉等及びこれらのα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等の加工澱粉等;卵粉;増粘剤;油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;活性グルテン;酵素剤等、パン製造、中華麺製造および即席麺製造に通常用いる副原料を配合することができる。
【0019】
本発明の小麦粉および小麦粉組成物は、特に、パン類、中華麺類および即席麺類の原料として好適なものである。
【実施例】
【0020】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例1
日本産の普通小麦(品種;ホクシン)100%からなる原料を製粉し、灰分0.36%の小麦粉を採取した後、該小麦粉から、空気分級により粒径の細かい部分を除去し、本発明の小麦粉を得た。この小麦粉は、粒径が45〜150μmの大きさの粒が83質量%で、かつ45〜100μmの大きさの粒が65質量%のものであった。また、この小麦粉の灰分は0.44質量%、粗蛋白は10.5質量%であった。
【0022】
実施例2
オーストラリア産のオーストラリアスタンダードホワイト(ASW)を70質量%と日本産の普通小麦(品種;ホクシン)を30質量%からなる原料を製粉し、灰分0.36%の小麦粉を採取した後、該小麦粉から、空気分級により粒径の細かい部分を除去し、本発明の小麦粉を得た。この小麦粉は、粒径が45〜150μmの大きさの粒が82質量%で、かつ45〜100μmの大きさの粒が64質量%のものであった。また、この小麦粉の灰分は0.43質量%、粗蛋白は10.3質量%であった。
【0023】
実施例3〜8および比較例1〜3
小麦粉(「薫風」日清製粉株式会社製商品名)に実施例1および2で得られた小麦粉を下記表1に示す割合で均一に混合して、小麦粉組成物をそれぞれ調製した。
【0024】
【表1】

【0025】
試験例1
実施例1〜2で得られた小麦粉、実施例3〜8で得られた小麦粉組成物および比較例1〜3で得られた小麦粉組成物を用いて、下記の製法によりそれぞれ食パンを製造し、下記の評価方法により、これらの小麦粉および小麦粉組成物の製パン適性(ミキシング耐性および生地伸展性)と、得られた食パンの内相および食感を評価した。それらの結果を下記表2に示す。
〔食パンの製法〕
小麦粉または小麦粉組成物70質量部にイースト2.5質量部、イーストフード0.1質量部および水36質量部を加え、低速で2分間、次いで中速で1分間混捏して生地を調製する(捏上げ温度24.0℃)。得られた生地を温度27℃および湿度75%の条件下で4時間発酵させて中種生地を得る。
この中種生地に小麦粉または小麦粉組成物30質量部、食塩2質量部、砂糖5質量部、脱脂粉乳2質量部および水15質量部を加え、低速で2分間、中速で2分間混捏した後、ショートニング5質量部を加え、低速で2分間、中速で2分間混捏して本捏生地を得る(捏上げ温度27.0℃)。
得られた本捏生地を室温で20分間フロアタイムをとり、次に1個の重量260gずつに分割した後、20分間ベンチタイムをとる。次に、この生地をU字形に成形して3斤型に6個詰め、温度38℃および湿度88%の条件下で50分間ホイロをとった後、温度220℃の条件下で35分間焼成して、食パンを得る。
〔評価方法〕
・小麦粉および小麦粉組成物の製パン適性
上記の製法により食パンを製造する際のミキシング耐性および生地伸展性について、下記表3に示す評価基準に基づいて10名のパネラーに採点させ、その平均値を算出し、評価得点とした。
・食パンの内相および食感
下記表3に示す評価基準に基づいて10名のパネラーに採点させ、その平均値を算出し、評価得点とした。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
試験例2
実施例1〜2で得られた小麦粉、実施例3〜8で得られた小麦粉組成物および比較例1〜3で得られた小麦粉組成物を用いて、下記の製法によりそれぞれ中華麺を製造し、下記の評価方法により、これらの小麦粉および小麦粉組成物の製麺適性と、得られた中華麺の食感およびのびを評価した。それらの結果を下記表4に示す。
〔中華麺の製法〕
小麦粉または小麦粉組成物100質量部にかんすい1.5質量部および水34質量部を加え、10分間混捏した後、30分間熟成させて生地を得る。得られた生地を常法により圧延し、最終麺帯厚を1.5mmとした後、切刃(♯20角)で麺線に切出し、生中華麺を得る。
〔評価方法〕
・小麦粉および小麦粉組成物の製麺適性
下記表5に示す評価基準に基づいて10名のパネラーに採点させ、その平均値を算出し、評価得点とした。
・中華麺の食感およびのび
得られた生中華麺を2分30秒間茹でて茹中華麺を得た。得られた茹中華麺の食感およびのびについて、下記表5に示す評価基準に基づいて10名のパネラーに採点させ、その平均値を算出し、評価得点とした。
【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
試験例3
実施例1〜2で得られた小麦粉、実施例3〜8で得られた小麦粉組成物および比較例1〜3で得られた小麦粉組成物を用いて、下記の製法によりそれぞれ即席中華麺を製造し、下記の評価方法により、得られた即席中華麺の復元性、食感および麺のほぐれを評価した。それらの結果を下記表6に示す。
〔即席麺の製法〕
小麦粉または小麦粉組成物70質量部と馬鈴薯澱粉(松谷化学株式会社製「MKK100」)30質量部を均一に混合したものに、食塩1質量部およびかんすい0.25質量部を水36質量部に溶解した水溶液を加え、常法によって10分間混捏して生地を作成する。得られた生地を常法により複合、圧延し、厚さ1.2mmの麺帯にした後、切刃(♯18角)で麺線に切出す。切出した麺線を温度100℃の蒸気で2分30秒間蒸熱処理した後、90℃の熱風で20分間乾燥して即席中華麺を得る。
〔評価方法〕
・即席中華麺の復元性、食感および麺のほぐれ
得られた即席中華麺70gを入れた容器中に、500mlの沸騰水を注ぎ、4分間かけて復元し、粉末の中華スープを入れた。この際の麺の復元性と、得られた麺の食感およびほぐれについて、下記表7に示す評価基準に基づいて10名のパネラーに採点させ、その平均値を算出し、評価得点とした。
【0032】
【表6】

【0033】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を軟質小麦とし、粒径が45〜150μmの大きさの粒が80質量%以上で、かつ45〜100μmの大きさの粒が60質量%以上である小麦粉。
【請求項2】
パン類用小麦粉、中華麺類用小麦粉または即席麺類用小麦粉である請求項1記載の小麦粉。
【請求項3】
請求項1記載の小麦粉を20質量%以上含有する小麦粉組成物。
【請求項4】
パン類用小麦粉組成物、中華麺類用小麦粉組成物または即席麺類用小麦粉組成物である請求項3記載の小麦粉組成物。

【公開番号】特開2009−219505(P2009−219505A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162726(P2009−162726)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【分割の表示】特願2004−151528(P2004−151528)の分割
【原出願日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(301049777)日清製粉株式会社 (128)
【Fターム(参考)】