説明

小麦粉の製パン性評価方法

【課題】小麦粉の製パン性を実際にパンを製造することなく評価する方法を提供すること。
【解決手段】水及び小麦粉を攪拌混合した後これに油脂を加えてさらに攪拌混合しこれを遠心分離して生じるゲル層の幅を測定しその幅Wから製パン性を評価する小麦粉の製パン性の評価方法である。製パン性が既知の小麦粉をコントロールとして、その小麦粉よりゲル層の幅が広ければ製パン性が良く、狭ければ製パン性は悪い。図1において、層1は小麦粉を主に含む層、層2は水を主に含む層、層3はゲル層、層4は主に油脂を含む層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉の製パン性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉の製パン性を評価するには実際にパンを製造して評価する方法が確実であるが、時間や費用がかかるという問題がある。
実際にパンを製造することなく製パン性を評価する方法としては、ファリノグラフやエクステンソグラフ等を使用して製パン性と関連性が高い生地の物性を測定する方法が知られている(例えば非特許文献1参照)。
また、中種製パン法における本捏工程の初期段階のパン生地を採取して凍結しミクロトームで薄片状の生地として染色し生地の蛋白質組織模様を顕微鏡を使用して観察する工程を含む小麦粉の製パン性評価方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−312606号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「再改訂版 小麦粉」、日本麦類研究会、1981年1月31日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、小麦粉の製パン性を実際にパンを製造することなく評価する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、小麦粉に水と油脂を加え振とうしこれを遠心分離することで生じるゲル層の幅が製パン性と相関があることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、水及び小麦粉を攪拌混合した後これに油脂を加えてさらに攪拌混合しこれを遠心分離して生じるゲル層の幅を測定しその幅から製パン性を評価する小麦粉の製パン性の評価方法である。
【発明の効果】
【0007】
小麦粉の製パン性を実際にパンを製造することなく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】遠心分離した状態を示す説明図である。
【図2】製パン性の異なる小麦粉を遠心分離した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明により製パン性を評価できる小麦粉は特に限定なく薄力粉、中力粉、強力粉のいずれでも評価することが可能である。
しかし、強力粉以外は製パン性を評価するまでもなく一般に製パン性が悪いので本発明の評価対象は主に強力粉である。
【0010】
本発明ではまず、小麦粉と水を攪拌混合する。
この場合、小麦粉と水を混合する方法は特に限定はなく、小麦粉に水を加えても水に小麦粉を加えてもよい。
使用する水の種類は遠心分離した際にゲル層を生じさせることができれば特に限定はなく、イオン交換水、蒸留水、水道水などを挙げることができる。
使用する水の量が少ない場合、ゲル層が出ないため使用する水の量(質量)は小麦粉の3倍以上が基準となる。
この段階での混合状態はだまがないように均一に混ざり合っていればよく例えばボルテックスミキサーで10秒程度振とうするだけで十分である。
この状態で静置しておくとゲル層の幅は少しずつ増え、比較が難しくなるため5分以内に次の工程へ移ることが好ましい。
【0011】
次にこの小麦粉と水の混合物に油脂を加えさらに攪拌混合する。
使用する油脂は攪拌混合するときに液状であれば特に限定はなく、サラダ油、コーン油、オリーブ油など常温で液状の油脂や常温で固形のショートニングなどでも融解して使用できる。
しかし、常温で固形の油脂を使用する場合は、融点以上の温度を維持して試験することになり操作が煩雑となることや、ゲル層と固化した油脂を区別するのが難しいため好ましくない。
本発明では試験する温度は室温が好ましく固形油脂を使用した場合でも60℃以上では小麦粉に影響がでるため試験には適さず、0℃以下では水が凍ることがあり試験には適さない。
使用する油脂の量は水に対して多すぎる場合はゲル層がうまく出ず使用する油の量(質量)は水の2倍以下が基準となる。
【0012】
本発明では、水と小麦粉を予め攪拌混合して油脂を後から加えることにより遠心分離した際に安定した幅のゲル層を得ることができる。
例えば、この順番ではなく油脂と水と小麦粉を同時に攪拌混合する場合や油脂と小麦粉を先に混ぜ水を加えた場合には遠心分離した際にゲル層の出る幅が安定しない。
この段階の攪拌混合は、遠心分離した際にゲル層が出るまで十分に行う。
例えば、振とう速度275/min、振幅40mmの振とう機を使用する場合は、振とう時間は1分以下でもゲル層はでるがゲルが不安定のため10分間程度振とうするのが好ましい。
また、前記振とう機を使用する場合では30分以上振とうする必要はなく10分間程度で十分にゲル層は安定する。
攪拌混合の手段は、振とう機やホモジナイザー、ジューサーミキサー等を使用することができるが、この後に遠心分離するため容器の移し替えの必要がない遠心管で振とうすることが効率的で好ましい。
振とう後は遠心せずに静置しておくとゲル層が少しずつ増え比較が難しくなるので5分以内に遠心することが好ましい。
【0013】
次に、この水と小麦粉と油脂の混合物を遠心分離する。
遠心分離は、ゲル層が生じるように適宜調整する。
例えば卓上遠心機で50TC×2アッセンブリ(最高回転速度3600rpm、最大遠心加速度2390×G)を使用した場合では3000rpmで10分間程度遠心分離する。
遠心した後、遠心管の中には一番下に小麦粉を主に含む小麦粉の沈殿した層、その上に水を主に含む層、その上に白いゲル状の層ができ一番上に主に油脂を含む層と4つの層ができる。
製パン性の評価は水と油脂の間にできるゲル層の幅を測定することによって行う。
測定は遠心管を立てたままでゲル層の周囲4点を定規で測定し平均を測定値とする。
ゲルが不安定の場合は後方面が見えなくなる点を測定する。
遠心後、すぐに測定できるが静置していれば一日後でも測定可能である。
なお、遠心分離の程度が強くなるに従って徐々にゲル層の量は減少していきコントロールとの測定差が小さくなり評価が難しくなるので程度が強すぎても好ましくない。
遠心分離した結果、水と小麦粉と油脂の混合物は図1に示すように層状となる。
図1において、1は小麦粉を主に含む層、2は水を主に含む層、3はゲル層、4は油脂を主に含む層である。
本発明では、図1に示すゲル層3の幅Wを測定する。
【0014】
本発明では、ゲル層の幅を測定することにより製パン性を評価するが、これは相対評価となるのでコントロールとなる製パン性が既知の小麦粉が必要となる。
即ち、製パン性が既知の小麦粉をコントロールとして、その小麦粉よりゲル層の幅が広ければ製パン性が良く、狭ければ製パン性は悪い。
また、複数の製パン性が既知の小麦粉により検量線を求め製パン性を評価することもできる。
ゲル層の幅は試験の条件によって影響を受けるためコントロールとは同じ試験条件で実施することが必要である。
【実施例】
【0015】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[試料となる強力小麦粉の製パン性の確認試験]
製パン性のことなる5種類のパン用強力小麦粉(小麦粉1〜5)の製パン性を実際にパンを製造することで評価した。
評価は以下のとおり中種法の製パン試験によって行った。
[中種配合]
パン用強力小麦粉 70質量部
イースト 2.2質量部
イーストフード 0.1質量部
水 40質量部
上記資材をSKミキサー使用して低速2分間、中速2分間ミキシングし中種生地を得た。
捏上温度は24℃だった。
この生地を27℃、湿度75%で4時間発酵した。
[本捏配合]
パン用強力小麦粉 30質量部
食塩 2質量部
砂糖 5質量部
脱脂粉乳 2質量部
ショートニング 5質量部
水 25質量部
前記中種生地にショートニング以外の上記本捏資材を加え、低速2分間、中速3分間、中高速1分間ミキシングし、ショートニングを加え、低速1分間、中速3分間、中高速5分間ミキシングして本捏生地を得た。
この本捏生地を、27℃、湿度75%で20分間フロアタイムをとったあと、220g×4に分割し丸め、ベンチタイム20分間とり、モルダーを使用して成形した。
生地性、吸水性は下記の評価基準でミキシング後、分割、成形時に評価した。
この生地を食パン型(2斤型)に収容し、38℃、湿度80%で75%までホイロをとった後、200℃で35分間焼成した。
これを冷却後、ビニール袋に包装し、翌日スライサーでスライスし、以下の評価基準で10名のパネラーにより評価を行った。
また3日後にも以下の評価基準で同様に食味の評価を行った。
生地性、吸水性
5点 べたつきなく、伸展性あり、弾力あり非常によい
4点 ややべたつき少なく、やや伸展性あり、やや弾力あり、よい。
3点 普通
2点 ややべたつきあり、やや伸展性なく、弾力弱くやや悪い。
1点 べたつき、伸展性なく、弾力なく悪い
内相、食感
5点 非常に内相細かく伸びあり良い。弾力のバランス良く、口溶け良い。
4点 内相やや細かくやや伸びがあり良い。やや弾力のバランス良く、やや口溶け良い
3点 普通
2点 内相やや粗く伸び少なくやや悪い。やや弾力のバランス悪く、やや口溶け悪い。
1点
内相粗く伸びなく悪い。弾力のバランス悪く、口溶け悪い。
老化
5点 弾力のバランス良く、口溶け良い。
4点 やや弾力のバランス良くやや口溶け良い
3点 普通
2点 やや弾力のバランス悪く、やや口溶け悪い。
1点 弾力のバランス悪く、口溶け悪い。
【0016】
得られた評価結果(平均値)を表1に示す。
総合評価は、◎、○、△、×の順で悪い評価となる。
【表1】

【0017】
[本発明の製パン性評価方法]
グライナー社製容量50mlの遠心管に水15.0gを入れ、これに前記パン用強力小麦粉(小麦粉1〜5)2gを加え振とう機(タイテック社製、商品名:RECIPRO
SHAKER SR−2s 振とう条件:振とう速度275/min、振幅40mm)で15秒間振とうし攪拌混合した後、サラダ油を20.0g加え、同じ振とう機で10分間振とうし攪拌混合した。
これを、遠心機(日立工機社製、商品名:日立卓上遠心機CT6D、50TC×2アッセンブリ(最高回転速度3600rpm、最大遠心加速度2390×G使用))で3000rpm、10分間遠心した。
遠心機から遠心管を取り出し、遠心管を傾けないようにしてゲル層の幅の長さを測定した。
【0018】
得られた評価結果を表2に示す。
【表2】

【0019】
その結果、ゲル層の幅が最も長かった小麦粉1の生地は吸水性、伸展性、弾力がありよく内相細かく食味は弾力のバランスよく口溶けもよかった。また3日後の食味でも評価よかった。
小麦粉2、3、4、5とゲル層の幅が短くなるにつれて生地性はべたつき、伸展性なく、弾力も弱く悪く、パンの内相は粗く伸びなく、食感も弾力弱くなり口溶け悪かった。また3日後の食味でも評価は悪かった。
小麦粉1から5の製パン性はゲル層の幅が長い順番で優れていた。
【符号の説明】
【0020】
1 小麦粉を主に含む層
2 水を主に含む層
3 ゲル層
4 油脂を主に含む層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及び小麦粉を攪拌混合した後これに油脂を加えてさらに攪拌混合しこれを遠心分離して生じるゲル層の幅を測定しその幅から製パン性を評価する小麦粉の製パン性の評価方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−183029(P2012−183029A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48438(P2011−48438)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000231637)日本製粉株式会社 (144)
【Fターム(参考)】