説明

小麦粉加工食品の品質改良剤およびこれを用いた小麦粉加工食品の製造法

【課題】小麦粉加工食品などの穀粉加工食品の食味や風味を向上させるだけでなく、老化を防止し、保湿性の高い天然物由来の品質改良剤およびその製造方法。
【解決手段】酒粕を自己消化および/またはタンパク質分解酵素を用いて処理し、次いでこの処理物を加熱する工程により製造されることを特徴とする小麦粉加工食品の品質改良剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉加工食品の品質改良剤、およびこれらの品質改良剤を用いた小麦粉加工食品の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品は簡便性、保存性、高品質化等の観点から多様化が進んでいる。小麦粉主体の加工食品であるパン、麺類においても同様で、多様化の一環として新しい食感の製品が求められている(非特許文献1)。パンにおいては、保存における経時的な劣化による食感、食味の低下、すなわち老化を防止するために、マルトヘキサオース、β-D-グルカン、あるいは保湿剤、乳化剤、増粘安定剤を混合した油脂が提案されている(特許文献1〜5)。
【0003】
さらに、最近は消費者が食品において「安心・安全・健康」を求めるという観点から、原材料も合成品でなく、出来る限り天然の材料を使用することが求められている。小麦粉加工食品の品質を改善するための天然の食品素材として、ペクチンやアルギン酸、コラーゲンなどの利用も提案されているが、効果は限定的である。現在においても、小麦粉加工食品の品質を改善する効果がより高く、老化防止や保湿、食感の改善だけでなく風味も向上させることができる天然の食品素材が求められている。
【0004】
一方、清酒醸造工程の副産物である酒粕は、古くから甘酒や粕汁としても食用に供されてきた天然素材であり、食品加工分野においても調味料として使用されている。また、最近では、酵素処理した酒粕を用いた、血圧降下や脂質代謝改善、あるいは表皮角化細胞増殖作用などを有する種々の機能性素材も提案されている(特許文献6〜10)。しかしながら、これらの文献にパンや麺類、揚げ物等の小麦粉加工食品の品質を改善する方法は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−178499
【特許文献2】特開2003−9757
【特許文献3】特開2005−333843
【特許文献4】特開2005−341857
【特許文献5】特開2007−267654
【特許文献6】特開平4−360666
【特許文献7】特開平5−68531
【特許文献8】特開平7−107902
【特許文献9】特開2006−193496
【特許文献10】特開2007−99718
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】月刊フードケミカル、食品化学新聞社、1999年10月号19−82頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決課題は、小麦粉加工食品などの穀粉加工食品の食感や風味を向上させるだけでなく、老化を防止し、保湿性の高い天然物由来の品質改良剤を見出し、これを利用してパンなどの加工食品を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、穀粉加工食品、とりわけパンや麺類、揚げ物などの小麦粉加工食品の品質改良剤について研究を重ねた結果、自己消化および/またはタンパク質分解酵素で処理した酒粕を原料穀粉に混合することにより、穀粉加工食品、とりわけ小麦粉加工食品の食感や風味が向上するだけでなく、老化が防止され、保湿性が高められることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は:
(1)酒粕を自己消化および/またはタンパク質分解酵素を用いて処理し、次いでこの処理物を加熱する工程により製造されることを特徴とする、小麦粉加工食品の品質改良剤;
(2)老化防止剤である、(1)記載の品質改良剤;
(3)保湿剤である、(1)記載の品質改良剤;
(4)粉末である、(1)〜(3)のいずれか1記載の品質改良剤;
(5)前記小麦粉加工食品がパンである、(1)〜(4)のいずれか1記載の品質改良剤;
(6)前記小麦粉加工食品が揚げ物である、(1)〜(4)のいずれか1記載の品質改良剤;
(7)(1)〜(4)のいずれか1記載の品質改良剤を原料小麦粉に混合することを特徴とする、小麦粉加工食品の製造方法;
(8)(5)記載の品質改良剤を原料小麦粉に混合することを特徴とする、パンの製造方法;
(9)(6)記載の品質改良剤を原料小麦粉に混合することを特徴とする、揚げ物の製造方法;
(10)品質改良剤の混合の割合が、小麦粉100重量部に対して0.1〜10重量部である、(7)〜(9)のいずれか1記載の製造方法;
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
酒粕を自己消化および/またはタンパク質分解酵素を用いて処理することにより、酒粕中に含有されるタンパク質が分解され、ペプチドやアミノ酸とともに糖類や脂肪酸などが遊離される。上記処理により、酒粕から遊離された糖類や脂肪酸などが穀粉中のデンプンの老化を防止するため、穀粉加工食品の保湿性を高くすることができる。加えて、上記処理により遊離されたペプチドやアミノ酸の作用により、食品の風味が向上する。また、食品の食感も向上する。そのうえ、本発明の品質改良剤は酒類の製造時の副産物である酒粕を原料とするため、安全で安価であり、天然由来の食品を求める近年の需要者間の要望にも適合するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、酒粕を自己消化および/またはタンパク質分解酵素を用いて処理し、次いでタンパク質分解酵素を加熱失活させた処理物を、穀粉加工食品や澱粉加工品の品質改良剤として用いることができることを見出した。したがって、本発明は、1の態様において、穀粉加工食品および澱粉加工食品の品質改良剤を提供する。本発明の品質改良剤は、いずれの穀粉加工食品および澱粉加工食品にも適用することができる。これらの加工食品の例として、小麦、大麦、米、とうもろこし、そばのごとき穀物類、ジャガイモ、サツマイモのごとき芋類、ならびに空豆や小豆のごとき豆類などを主な原料とする加工食品が挙げられる。本発明の品質改良剤は、好ましくは小麦粉加工食品に用いられる。小麦粉加工食品の例として、パン類、麺類、ビスケット、クッキー、ケーキ、まんじゅう、蒸しパン、ドーナッツ、てんぷら、フリッター、餃子、シュウマイ、ワンタン、たこ焼き、お好み焼きなどが挙げられる。また、揚げ物の衣、餃子、シュウマイおよびワンタンなどの皮、お好み焼きおよびたこ焼きなどの製造に用いるプレミックス粉なども本発明の小麦粉加工食品に含まれる。
【0012】
より好ましくは、本発明の品質改良剤はパン類、特に食感や風味が重視される食パンやハンバーガー用のバンズの製造に用いられる。またより好ましくは、本発明の品質改良剤は揚げ物、特に食感や風味が重視されるてんぷらの製造に用いられる。
【0013】
本発明の品質改良剤は、加工食品の老化防止剤、保湿剤、固化防止剤、食感改良剤、風味改良剤などとして使用することができる。本発明の品質改良剤は、酒粕から遊離された糖類や脂肪酸などが穀粉中のデンプンの老化を防止するため、老化防止剤、保湿剤として利用できる。本発明の品質改良剤は、加工食品に混合することにより固化を防止することもできる。また、本発明の品質改良剤は食感改良剤として利用できる。さらに、本発明の品質改良剤は、多種のアミノ酸、特に、旨味成分と言われるアスパラギン酸やグルタミン酸を多く含み、加工食品に旨味を与えることができるので、風味改良剤として利用することもできる。
【0014】
老化防止剤としての効果は、一般に、一定条件下でのアミラーゼ消化液のブリックス(Brix)の変化を指標とすることができる。ブリックスとは、溶液100g中に含まれるショ糖のグラム量を表すものであり、屈折計で測定できる。保湿剤としての効果は、一般に、加工食品に含まれる水分含量を指標とすることができる。
【0015】
本発明の品質改良剤は、酒粕を(i)自己消化および/またはタンパク質分解酵素を用いて処理し、次いで(ii)この処理物を加熱する工程により製造されることを特徴とする。本発明に用いる酒粕はいかなる種類の酒粕であってもよい。ここで、本明細書における「酒粕」とは、清酒を含め、あらゆる種類の酒粕を包含し、例えば、味醂粕、焼酎粕、モルト粕、ビール粕、ワイン粕、ウイスキー粕などの粕も含まれるものとする。清酒の酒粕を用いる場合、一般的な蒸米仕込みの酒粕でもよいが、タンパク質含量の多い液化仕込みの酒粕が望ましい。また、本発明において、前記酒粕のいずれか1種、あるいは2種またはそれ以上を混合したものを「酒粕」として用いることもでき、例えば、清酒の酒粕の他に、味醂の副産物である味醂粕を用いる、あるいは清酒の酒粕と味醂粕を混合して用いることもできる。
【0016】
本発明の品質改良剤の製造で用いられる処理工程(i)は、酒粕の自己消化を用いて行うことができる。本発明でいう自己消化とは、自身が持つ酵素により自身が分解することであり、清酒の酒粕を用いる場合、清酒モロミ中で麹菌の産生した酵素類が圧搾後の酒粕中に残存しているので、加熱することにより残存アミラーゼ類やプロテアーゼ類などが作用して、酒粕に残っている糖質やタンパク質が分解することである。本発明における自己消化の条件、例えば、溶媒の種類、酒粕の濃度、処理時間および温度などは、当業者が適宜設定・変更することができる。例えば、本発明における自己消化は、酒粕を水に溶解させ、酵素の作用に適した温度、例えば、約30℃〜約60℃、好ましくは約40℃〜約55℃に加温することにより行うことができる。新鮮な酒粕であれば、水で溶いてタンパク質分解酵素の至適温度である約45℃〜約55℃に加温するだけで、酒粕中に残存するタンパク質分解酵素により、自己消化させることができる。自己消化を行う場合、酒粕が新鮮である程酵素の失活が少ないため好ましい。自己消化の時間は約30分〜約5時間、好ましくは約1時間〜約3時間とすることが望ましい。酒粕として焼酎粕やウイスキー粕などの蒸留酒の粕を用いる場合、蒸留時の加熱によりタンパク質分解酵素が失活しているため、自己消化させることができず、プロテアーゼ剤を用いて処理する必要がある。
【0017】
さらに、本発明の品質改良剤の製造で用いられる処理工程(i)は、上述のごとき自己消化と組み合わせて、あるいは代えて、タンパク質分解酵素を用いて行うことができる。より効率的に酒粕中のタンパク質を分解するためには、タンパク質分解酵素を用いることが望ましい。本発明で用いられるタンパク質分解酵素は、タンパク質をポリペプチドまたはさらに低分子に分解する活性、すなわちペプチド結合加水分解活性を有していれば、いかなる種類の酵素またはそれを主体とするものであってもよい。本発明で用いられるタンパク質分解酵素として、市販されている一般的なプロテアーゼ剤を用いてもよく、市販のプロテーゼ剤として、アスペルギルス・オリゼ由来の酵素またはそれを主体とするものが好ましく、例えば、プロテアーゼMアマノG(天野エンザイム社)などが挙げられる。また、本発明で用いられるタンパク質分解酵素として、麹菌などの菌そのもの、あるいは麹菌などの各種菌から単離・精製された酵素またはそれを主体とするものを用いることもできる。本発明で用いられる酵素処理の条件は、製造工程の効率から、約40℃〜約60℃、好ましくは約45℃〜約55℃において約30分〜約5時間、好ましくは約1時間〜約3時間であることが望ましいが、酵素の種類、量および活性効率などの各種因子を考慮して適宜設定・変更することができる。
【0018】
本発明の品質改良剤の製造には、上記の処理工程により得られた処理物を加熱する工程(ii)を含む。上記処理工程(i)の後に残存するタンパク質分解酵素がパンなどの加工食品の製造中にグルテンなどを分解してしまうため、これらのタンパク質分解酵素を完全に失活させることが望ましい。このため、加熱工程(ii)は本発明に必須である。本発明で用いられる加熱の条件は、酵素を失活できる温度や時間であればいかなる条件であってもよい。望ましくは、上記処理物の中心部が約80℃以上に達するように加熱することであるが、当業者が温度や時間などの条件を適宜決定・変更することができる。
【0019】
本発明の品質改良剤は、液体、半固体、固体いずれの形状として用いてもよく、液剤、懸濁液、粉末、顆粒、ペーストなどの形態が可能である。これらの形態には、溶解、撹拌、混合、粉砕、スプレードライおよび凍結乾燥などの一般的な手法を用いて調製することができる。本発明の品質改良剤の特に好ましい形態は粉末である。粉末は保存性、取扱性に優れ、また不可飲処理を必要としない。
【0020】
本発明の品質改良剤は、加工食品に単独で混合されてもよく、あるいはその他の公知の添加剤と一緒に混合されてもよい。例えば、老化防止剤、保湿剤、乳化剤、増粘剤、酸化防止剤、酸味料、調味料などの食品添加物と一緒に混合されてもよい。
【0021】
本発明の品質改良剤は、加工食品に対していずれの割合で配合されてもよい。本発明の品質改良剤の小麦粉加工食品への添加量は、配合する小麦粉100重量部に対して、例えば、約0.01〜約50重量部の範囲であってもよい。好ましい添加量の範囲は約0.1〜約20重量部、約0.1〜約10重量部、約0.5〜約5重量部、約0.5〜約2.5重量部などである。
【0022】
本発明は、別の態様において、本発明の品質改良剤を原料小麦粉に混合することを特徴とする、小麦粉加工食品の製造方法を提供する。
【0023】
本発明は、さらに別の態様において、本発明の品質改良剤を原料小麦粉に混合することを特徴とする、パンの製造方法を提供する。本明細書におけるパンとは、小麦粉を加工して製造されるパン類全般を指し、例えば、食パン、菓子パン、バラエティーブレッド、バターロール、ソフトロール、ハードロール、スイートロール、デニッシュ、ペストリー、フランスパンなどが挙げられる。特に、食感や風味が重視される食パンやハンバーガー用のバンズの製造に使用することが効果的である。本発明の製造方法においては、本発明の品質改良剤を、パンの一般的な製造工程におけるいずれの工程で混合してもよい。パンを製造する場合には、通常は、パン生地に本発明の品質改良剤を混合し、次いで醗酵、焼成を行う。例えば、パン生地を中種法を用いて製造する場合、本発明の品質改良剤を中種生地および/または本捏生地に練り込むことによりパンを製造することができる。本発明の製造方法により食感がしっとりし、かつ旨味のあるパンを製造することができる。
【0024】
本発明は、さらに別の態様において、本発明の品質改良剤を原料小麦粉に混合することを特徴とする、揚げ物の製造方法を提供する。本明細書における揚げ物とは、小麦粉を加工して製造される揚げ物全般を指し、例えば、ドーナッツ、天ぷら、フリッターなどが挙げられる。特に、食感や風味が重視されるてんぷらの製造に使用することが効果的である。本発明の製造方法においては、本発明の品質改良剤を、揚げ物の一般的な製造工程におけるいずれの工程で混合してもよい。てんぷらを製造する場合には、本発明の品質改良剤を原料小麦粉に混合したバッター液を調製し、該バッター液を含む原料をフライすることによりてんぷらを製造することができる。本発明の製造方法により、油っぽさの少ない、サクサクした食感に優れた揚げ物を製造することができる。
【0025】
また、本発明の製造方法における本発明の品質改良剤の添加量はいずれの範囲でもよく、小麦粉100重量部に対して、例えば、約0.01〜約50重量部の範囲であってもよい。好ましい添加量の範囲は約0.1〜約20重量部、約0.1〜約10重量部、約0.5〜約5重量部、約0.5〜約2.5重量部などである。
【0026】
本発明をさらに具体的に説明するため以下の実施例を示すが、本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
酒粕の自己消化
新鮮な酒粕(大関社製)に1.8倍量の水を加え、50℃または60℃で、0時間、1時間または3時間インキュベートした後、遠心分離を行い上清のアミノ酸度を測定した結果を表1に示す。
(表1.酒粕を異なる時間および温度で自己消化させた後のアミノ酸度の測定結果)
【表1】


50℃で3時間の自己消化を行わせることにより上清のアミノ酸量が、自己消化なしの場合に比べて約2.5倍となった。しかし、酒粕の保存条件により残存プロテアーゼ活性が異なるため、アミノ酸量の増加にバラツキが出る可能性がある。
【実施例2】
【0028】
品質改良剤の製造
酒粕(大関社製)に1.4倍量の水と不可飲処置のための食塩を加え、プロテアーゼ剤として「プロテアーゼMアマノG」(天野エンザイム社製)を加えて50℃、2時間処理した。容器に充填し、中心温度が80℃以上に達するまでレトルト殺菌を行い、本発明の小麦粉加工食品の品質改良剤を得た。比較例として、自己消化もプロテアーゼ剤添加も行わなかった酒粕を用いた。分析値を表2に示す。
(表2.本発明の品質改良剤および比較例における成分分析の結果)
【表2】


本発明のタンパク質分解酵素処理により、元の酒粕に比べて、アミノ酸量が2.5倍以上に増加している事が判る。
【実施例3】
【0029】
食パンの製造
強力粉(スーパーキング、日清製粉社製)175gに、イースト7g、砂糖17.5g、水228gおよび、実施例2で得られた本発明の品質改良剤7g(小麦粉総重量の2%)を添加し、5分間混捏して中種とした。この中種に、さらに強力粉(スーパーキング、日清製粉社製)175gと食塩7gを入れ、15分間混捏した。次に、ショートニング17.5gを添加して10分間混捏し、30分間のフロアタイムを取り、分割丸目の後20分間のベンチタイムをとった。整形、型詰し、30分間ホイロで醗酵させ、200℃で35分間焼成して食パンを得た。比較例のため、本発明の品質改良剤を添加しないこと以外は、同様の方法の食パンも試験的に作った。
【実施例4】
【0030】
食パンの成分分析
得られた食パンの、耳の部分を取り除いた検体を秤量し、10倍量の5%トリクロロ酢酸を加えて混合した。室温で時々かき混ぜながら抽出し、1時間後に遠心分離して上清液を得た。濾過後に液体クロマトグラフィー法により、アミノ酸組成を分析した結果を表3に示す。
(表3.本発明の品質改良剤を用いて製造した食パンおよび比較例の食パンにおけるアミノ酸組成の分析結果)
【表3】


本発明の品質改良剤の添加により、パン中のアミノ酸含量が増加し、特に旨みに関与するアスパラギン酸やグルタミン酸等のアミノ酸が増えていた。
【実施例5】
【0031】
食パンの官能試験
製パンの1日後、19名のパネラーに対し、実施例3に記載する本発明の食パンと比較例の食パンを試食させ、好ましい方を選択させた結果を表4に示す。
(表4.本発明を用いて製造した食パンおよび比較例の食パンにおける官能試験の結果)
【表4】


官能試験においても、本発明の食パンの方が「しっとりとしている」としたパネルが多く、総じて「しっとりとして旨みがある」という評価であった。
【実施例6】
【0032】
長期保存後におけるパンの保湿と老化
さらに、製パン後、室温に放置した食パンの水分変化と、放置1週間後の消化性を調べた。比較例として、本発明の品質改良剤を添加しなかった際の分析値を表5に示す。
(表5.本発明を用いて製造した食パンおよび比較例の食パンを保存した後における水分および消化性の分析値)
【表5】


本発明の品質改良剤は、食パンの保存中における水分を保持し、老化を抑制している事が明らかとなった。
【実施例7】
【0033】
粉末化品質改良剤の調製
酒粕(大関社製)6kgを9.6Lの40〜45℃の水で溶解し、酵素剤(プロテアーゼM アマノG)6.7gを加えて、撹拌しながら50℃で1時間、酵素反応させた。反応終了後、80℃以上に温度を上げて、酵素を失活させた。このようにして得られた酵素反応物の固形分と同量のデキストリンを賦形剤として混合し、180℃の熱風中に霧状に放出してスプレードライを行い、水分含量3%の乾燥粉末品2.5kgを得た。この乾燥粉末品のアルコール分は0.3%であり、1%未満であった。このため、不可飲処理のための食塩添加は不要であった。
【実施例8】
【0034】
てんぷら粉の調製
薄力小麦粉(日清製粉社製)20g、冷水30ml、溶き卵14gに、実施例2で得られた本発明の品質改良剤1g(小麦粉重量の5%)または、実施例7で得られた本発明の品質改良剤0.5g(小麦粉重量の2.5%)を加えてよく混合し、均一なバッター液を調製した。比較例として、本発明の品質改良剤を加えないバッター液も調製した。
【実施例9】
【0035】
てんぷら(天カス)の製造
シリンジでバッター液を20ml吸い上げ、170℃の油に40秒かけて滴下した。天カス同士が付着しないように時々かき混ぜながら、80秒間フライした。実施例8で調製した3種類のバッター液について同様の操作を行った。得られた天カスは紙タオル上で15分間油を切り、別の新しい紙タオルに移して、さらに15分間油を切った。
【実施例10】
【0036】
てんぷら(天カス)の分析
3種類のバッター液から得られた天カスについて、それぞれ天カスの重量を測定し、天カスの重量からバッターに含まれる固形分の重量を引いた値をバッター重量で割り、吸油率を求めた。その後、室温で3時間放置した天カスを11名のパネラーに対し試食させた。官能検査はそれぞれ5点法で評価した。評価基準は以下の通り。
食感:1=極めてサクサクしている、3=少しサクサク感がのこっている、5=極めてシンナリしている。
油っぽさ:1=極めて油っぽくない、3=やや油っぽくない、5=極めて油っぽい。
総合品質:1=良い、3=普通、5=悪い。
(表6.本発明の品質改良剤を用いて製造した天カスと用いないで製造した天カスにおける吸油率と官能試験の結果)
【表6】

【0037】
本発明の品質改良剤を添加したてんぷら(天カス)は、添加していない比較例に比べて、吸油率が低く、そのため食感がサクサクして、油っぽさが少ない、優れた品質を示した。
【0038】
これらの結果から、本発明の小麦粉加工食品の品質改良剤は、パンの老化防止および保湿だけでなく、風味も向上させる事が出来る天然の食品素材であった。さらに、てんぷら粉に混ぜることにより、てんぷらの吸油率を低減して品質を向上させることが出来る天然の食品素材であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によると、天然物に由来する酒粕を用いることにより、小麦粉加工食品の老化を防止し、保湿性を高めることができるため、小麦粉加工食品の製造分野、特にパンや揚げ物の製造分野において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒粕を自己消化および/またはタンパク質分解酵素を用いて処理し、次いでこの処理物を加熱する工程により製造されることを特徴とする、小麦粉加工食品の品質改良剤。
【請求項2】
老化防止剤である、請求項1記載の品質改良剤。
【請求項3】
保湿剤である、請求項1記載の品質改良剤。
【請求項4】
粉末である、請求項1〜3のいずれか1項記載の品質改良剤。
【請求項5】
前記小麦粉加工食品がパンである、請求項1〜4のいずれか1項記載の品質改良剤。
【請求項6】
前記小麦粉加工食品が揚げ物である、請求項1〜4のいずれか1項記載の品質改良剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項記載の品質改良剤を原料小麦粉に混合することを特徴とする、小麦粉加工食品の製造方法。
【請求項8】
請求項5記載の品質改良剤を原料小麦粉に混合することを特徴とする、パンの製造方法。
【請求項9】
請求項6記載の品質改良剤を原料小麦粉に混合することを特徴とする、揚げ物の製造方法。
【請求項10】
品質改良剤の混合の割合が、小麦粉100重量部に対して0.1〜10重量部である、請求項7〜9のいずれか1項記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−120575(P2011−120575A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250779(P2010−250779)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000204686)大関株式会社 (9)
【Fターム(参考)】