説明

小麦粒パン類の製造方法

【課題】 従来にない独特の優れた風味、食感および外観を有し、しかも十分に膨らんでいてボリュームの点でも優れる、変化に富むパン類の提供。
【解決手段】 剥皮率が25〜48%で且つ目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上である部分剥皮小麦粒に、乳酸菌、酵母菌及びビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌を添加した水を加えて部分剥皮小麦粒と水の混合物を調製し、当該混合物を嫌気的条件下に温度20〜40℃で1〜32時間浸漬処理した後、当該浸漬処理した混合物を用いて、部分剥皮小麦粒を粒状のままで含有する小麦粒パン類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は小麦粒パン類の製造方法およびそれにより得られる小麦粒パン類に関する。より詳細には、本発明は、部分剥皮小麦粒が粒のままの状態でパン中に多く含まれていて、従来にない独特の優れた風味、食感および外観を有し、しかも十分に膨らんでいてボリュームの点でも優れる、変化に富む小麦粒パン類の製造方法およびそれにより得られる小麦粒パン類に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類は、通常、パン用小麦粉を用いて製造されているが、近年、消費者の健康指向や嗜好の多様化に伴って、汎用のパン用小麦粉ではなく、全粒小麦粉や発芽小麦粉などのようなフスマや胚芽部などを含む小麦粉を用いたパンや、ナッツ粒、レーズン、ゴマ、松の実、穀物粒などの粒状物を添加したパンが製造、販売されるようになっている。
フスマや胚芽などを含む小麦粉を用いたパン類や穀物粒を含むパン類に係る従来技術としては、例えば、剥皮度が5〜10%の部分剥皮された小麦粒を水に浸漬して発芽させた後に乾燥、粉砕して得られる発芽小麦粉を用いてパン類を製造する方法(特許文献1)、玄麦を除菌、洗浄して水切りした後に乳酸菌および糖類を含有する水中に浸漬し、それを水から取り出した後に密封静置下に発酵処理し、次いで熟成してか破砕するか又は破砕した後に熟成してパン用の乳酸発酵玄麦粉を製造する方法(特許文献2)、玄麦を除菌、洗浄して水切りした後に乳酸菌および糖類を含有する水中に浸漬し、それを水から取り出した後に嫌気下に発酵処理し、発酵した小麦粒を水洗、乾燥した後に摩擦機や研磨機などを使用して剥皮率4〜20%に剥皮し、それを必要に応じて破砕したものを用いてパン類を製造する方法(特許文献3)などを挙げることができる。
【0003】
上記した従来技術のうち、特許文献1および2に記載されている技術は、発芽小麦粉または玄麦小麦粉中に食物繊維、ビタミン類、ミネラルなどの栄養成分が多く含まれているため、それらの小麦粉を用いて得られるパン類は栄養的には優れているが、完全に粉砕した粉を用いてパン類を製造しているため、得られるパン類は風味や食感の点で変化に乏しく、消費者の多様化する嗜好に十分に合致していると言い難い。
また、特許文献3の従来技術による場合は、剥皮率が4〜20%のパン用の部分剥皮小麦粒を得るために、玄麦の除菌、洗浄、乳酸菌および糖類を含有する水中への浸漬、嫌気下での発酵処理、乾燥、摩擦機や研磨機などによる剥皮という一連の処理工程が必要であり、手間および時間を要する。しかも、本発明者らが特許文献3の技術を追試したところ、得られるパン類の風味や食感、ボリュームなどにおいて、未だ改良の余地があることが判明した。
【0004】
【特許文献1】特許第3690996号公報
【特許文献2】特開2005−245392号公報
【特許文献3】特開2004−350583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来にない独特の優れた風味、食感および外観を有し、十分に膨らんでいてボリュームがあり、しかも食物繊維、ビタミン類、ミネラルなどの栄養成分を多く含んでいて栄養的にも優れるパン類およびその製造方法を提供することである。
そして、本発明の目的は、前記したパン類を簡単な工程で円滑に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。その結果、特定の剥皮率と粒度を有する部分剥皮小麦粒を用い、その部分剥皮小麦粒に、乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌を含有する水を加えて浸漬処理した後、その浸漬処理物を用いてパン類を製造すると、部分剥皮小麦粒が粒状のままでパン中に多く含まれていて、芳醇な香りを有し、非常に甘みがあり、パンに含まれる部分剥皮小麦粒の硬さと周囲の柔らからさのバランスが良好で、従来にない独特の優れた風味および食感、外観を有し、しかも十分に膨らんでいてボリュームがあり、さらに食物繊維、ビタミン類、ミネラルなどの栄養成分を多く含み栄養的にも優れるパン類が得られることを見出した。
【0007】
また、本発明者は、部分剥皮小麦粒に乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌を含有する水を加えて浸漬処理するに当たっては、水に添加する乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌の量を、部分剥皮小麦粒100質量部に対して0.01〜0.5質量部にすることによって、そして部分剥皮小麦粒100質量部に対して乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌を含有する水を50〜200質量部の割合で混合することによって、風味および食感により優れるパン類が得られることを見出した。
【0008】
さらに、本発明者は、部分剥皮小麦粒を用いてパン類を製造する上記方法において、部分剥皮小麦粒100質量部に対して小麦粉を25〜250質量部の割合で用いると、風味、食感およびボリュームの点でより優れるパン類が得られることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、前記した部分剥皮小麦粒の調製に当たっては、玄麦を非加水状態で無水米とぎ器または精米機を使用して剥皮率が25〜48%になるように精麦処理する方法、或いは前記精麦処理の後に目開きが3.35mmの篩および目開きが2.00mmの篩のいずれか一方または両方を用いて更に分級処理を行う方法を採用すると、上記した特許文献3の従来技術におけるような複雑で手間のかかる処理工程を要することなく、剥皮率が25〜48%で且つ目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上である部分剥皮小麦粒を、簡単に且つ円滑に調製できることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) 剥皮率が25〜48%で且つ目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上である部分剥皮小麦粒に、乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌を添加した水を加えて部分剥皮小麦粒と水の混合物を調製し、当該混合物を嫌気的条件下に温度20〜40℃で1〜32時間浸漬処理した後、当該浸漬処理した混合物を用いてパン類を製造することを特徴とする小麦粒パン類の製造方法である。
そして、本発明は、
(2) 剥皮率が25〜48%で且つ目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上である部分剥皮小麦粒に、乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌を添加した水を加えて部分剥皮小麦粒と水の混合物を調製し、当該混合物を嫌気的条件下に温度20〜40℃で1〜32時間浸漬処理した後、当該浸漬処理した混合物に、イーストおよび副原料を添加するか或いは小麦粉、イーストおよび副原料を添加して混捏してパン生地をつくり、そのパン生地を用いて常法によりパン類を製造することを特徴とする小麦粒パン類の製造方法である。
【0011】
さらに、本発明は、
(3) 前記部分剥皮小麦粒と水の混合物を調製するための水に添加する乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌の量が、部分剥皮小麦粒100質量部に対して0.01〜0.5質量部である前記(1)または(2)の小麦粒パン類の製造方法;
(4) 前記部分剥皮小麦粒100質量部に、乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌を含有する水を50〜200質量部の割合で混合して小麦粒と水の混合物を調製する前記(1)〜(3)のいずれかの小麦粒パン類の製造方法;及び、
(5) 前記部分剥皮小麦粒100質量部に対して、小麦粉を25〜250質量部の割合で用いる前記(1)〜(4)のいずれかの小麦粒パン類の製造方法;
である。
【0012】
また、本発明は、
(6) 剥皮率が25〜48%で且つ目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上である部分剥皮小麦粒を、玄麦を非加水状態で無水米とぎ器または精米機を使用して剥皮率が25〜48%になるように精麦処理して調製するか、或いは玄麦を非加水状態で無水米とぎ器または精米機を使用して剥皮率が25〜48%になるように精麦処理した後に目開きが3.35mmの篩および目開きが2.00mmの篩のいずれか一方または両方を用いて分級処理を行って調製する前記(1)〜(5)のいずれかの小麦粒パン類の製造方法である。
そして、本発明は、
(7) 前記(1)〜(6)のいずれかの製造方法で得られる小麦粒パン類である。
【発明の効果】
【0013】
本発明による場合は、部分剥皮小麦粒が粒状でパン中に多く含まれていて、芳醇な香りを有し、非常に甘みがあり、パンに含まれる部分剥皮小麦粒の硬さと周囲の柔らかさのバランスが良好で、従来にない、変化に富む、独特の優れた風味、食感、外観を有し、しかも十分に膨らんでいてボリュームのあるパン類を円滑に製造することができる。
本発明により得られるパン類は、部分剥皮小麦粒に由来する食物繊維、ビタミン類、ミネラルなどの栄養成分を多く含んでいるため、栄養的にも優れている。
【0014】
本発明において、パン類の製造に用いる前記部分剥皮小麦粒を、玄麦を非加水状態で無水米とぎ器または精米機を使用して剥皮率が25〜48%になるように精麦処理する方法、或いは前記精麦処理の後に目開きが3.35mmの篩および目開きが2.00mmの篩のいずれか一方または両方を用いて更に分級処理を行う方法を採用して調製した場合には、複雑で手間のかかる処理工程を要することなく、剥皮率が25〜48%で且つ目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上である部分剥皮小麦粒を、簡単に且つ円滑に調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明について詳細に説明する。
小麦の種実から外表皮を除去して得られる玄麦は、一般に皮部(果皮、種皮およびアリューロン層)、胚乳部および胚芽部からなっている。
本発明では、パン類を製造するための穀類として、前記玄麦を不完全に精麦して得られる、「剥皮率が25〜48%で且つ目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上である部分剥皮小麦粒」[以下、前記特定範囲の剥皮率と特定範囲の粒度を有する部分剥皮小麦粒を「部分剥皮小麦粒(P)」ということがある]を用いる。
本発明では、前記特定の剥皮率と粒度を有する部分剥皮小麦粒を用いてパン類を製造することによって、芳醇な香りを有し、非常に甘みがあり、パンに含まれる部分剥皮小麦粒の硬さと周囲の柔らかさのバランスが良好で、従来にない独特の優れた風味および食感、外観を有し、十分に膨らんでいてボリュームがあり、しかも栄養価に富む、本発明の小麦粒パン類を円滑に製造することができる。
【0016】
剥皮されていない玄麦をそのまま用いた場合および剥皮率が25%未満の部分剥皮小麦粒を用いた場合には、得られるパン類は、十分に膨らまずボリュームが不足し、芳醇な香りおよび甘さが不足して風味が不良で、しかもパン中に小麦の粒が非常に硬い状態で残り、違和感のある不良な食感となり易い。一方、剥皮率が48%を超える部分剥皮小麦粒を用いた場合にも、芳醇な香りおよび甘さが不足して風味が不良となり、しかもパン中に小麦粒を含有させたことによる独特の食感が発現できない。
【0017】
本発明では、部分剥皮小麦粒(P)として、剥皮率が26〜45%ものを用いることがより好ましく、28〜40%のものを用いることが一層好ましい。
本明細書でいう小麦粒(部分剥皮小麦粒)における剥皮率は、以下の数式(i)から求められる。

小麦粒における剥皮率(%)={(W0−W1)/W0}×100 (i)

[式中、W0は剥皮処理(精麦)を行なう前の玄麦の質量(kg)、W1は質量W0(kg)の玄麦を剥皮処理(精麦)した後の小麦粒の質量(kg)を示す。]
【0018】
また、部分剥皮小麦粒として、目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%未満の部分剥皮小麦粒を用いると、当該部分剥皮小麦粒の剥皮率が25〜48%から外れる場合はもとより、剥皮率が25〜48%の範囲にある場合であっても、得られるパン類は、芳醇な香りや甘みがなくなったり、小麦粒に基づく独特の歯ごたえが失われたり、逆に小麦粒が硬すぎて違和感のある不良な食感になり易い。
具体的には、目開き2.00mmの篩を通過する微細な小麦粒や粉の含有割合が20質量%を超える部分剥皮小麦粒を用いると、得られるパン類では、芳醇な香りおよび甘さが不足して風味が不良となり、しかもパン中に小麦粒を含有させたことによる独特の食感が失われる。一方、目開き3.35mmの篩上に残留する粒径の大きな部分剥皮小麦粒や玄麦の含有割合が20質量%を超える部分剥皮小麦粒を用いると、得られるパン類は、十分に膨らまずボリュームが不足し、芳醇な香りおよび甘さが不足して風味が不良となり、しかもパン中に小麦の粒が非常に硬い状態で残り、違和感のある不良な食感となる。また、目開き2.00mmの篩を通過する微細な小麦粒や粉と、目開き3.35mmの篩上に残留する粒径の大きな部分剥皮小麦粒や玄麦の合計含有量が20質量%を超える部分剥皮小麦粒を用いると、やはり、得られるパン類は、芳醇な香りや甘みがなくなったり、小麦粒に基づく独特の歯ごたえが失われたり、逆に小麦粒が硬すぎて違和感のある不良な食感になる。
【0019】
本発明では、部分剥皮小麦粒(P)として、目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が85質量%以上の部分剥皮小麦粒を用いることがより好ましく、90質量%以上の部分剥皮小麦粒を用いることが一層好ましい。
ここで本明細書における部分剥皮小麦粒中の「目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合」は、所定の剥皮率に剥皮処理(精麦処理)した後の部分剥皮小麦粒中に含まれている、目開き3.35mmの篩を通過し且つ目開き2.00mmの篩上に残留する部分剥皮小麦粒の割合(質量%)をいい、パン類の製造に用いる部分剥皮小麦粒の質量をZ0とし、当該部分剥皮小麦粒中に含まれている目開き3.35mmの篩を通過し且つ目開き2.00mmの篩上に残留する部分剥皮小麦粒の質量をZ1とすると、式:(Z1/Z0)×100(質量%)から求めることができる。
部分剥皮小麦粒中に含まれている「目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の質量」は、部分剥皮小麦粒を目開き3.35mmの篩で分級処理した後に更に目開き2.00mmの篩で分級処理するか、前記とは逆の順序で部分剥皮小麦粒を目開き2.00mmの篩で分級処理した後に目開き3.35mmの篩で分級処理するか、または両方の篩を同時に用いて目開き3.35mmの篩を上方に配置し、目開き2.00mmの篩を下方に配置した状態で目開き3.35mmの篩の上方から部分剥皮小麦粒を落下させて分級することにより求めることができる。
なお、目開き3.35mmの篩は、米国標準規格(ASTM E11−70)による標準篩No.6に相当し、また目開き2.00mmの篩は米国標準規格(ASTM E11−70)による標準篩No.10に相当する。
【0020】
部分剥皮小麦粒(P)の調製方法は特に制限されず、剥皮率が25〜48%で且つ目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上である部分剥皮小麦粒を調製することのできるいずれの方法を採用してもよい。
そのうちでも、本発明で用いる部分剥皮小麦粒(P)の調製方法としては、
(i) 玄麦を非加水状態で無水米とぎ器または精米機を使用して剥皮率が25〜48%になるように精麦処理して調製する方法;或いは、
(ii) 玄麦を非加水状態で無水米とぎ器または精米機を使用して剥皮率が25〜48%になるように精麦処理した後に、目開きが3.35mmの篩および目開きが2.00mmの篩のいずれか一方または両方を用いて分級処理を行って調製する方法;
が好ましく採用される。
【0021】
前記(i)の方法は、玄麦を無水米とぎ器または精米機を使用して剥皮率が25〜48%になるように精麦処理して得られる部分剥皮小麦粒において、目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合がそのまま80質量%以上になっている場合に採用される。
また、前記(ii)の方法は、玄麦を無水米とぎ器または精米機を使用して剥皮率が25〜48%になるように精麦処理して得られる部分剥皮小麦粒において、目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上になっておらず(80質量%未満であり)、目開き2.00mmの篩を通過する微細な粒や粉および/または目開き3.35mmの篩上に残留する大きな粒が多く含まれている場合に採用される。当該(ii)の方法では、目開き3.35mmの篩および/または目開き2.00mmの篩を用いて分級処理を行って、前記微細な粒や粉および/または大きな粒を除くことによって、目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合を80質量%以上にすることができる。
【0022】
但し、前記(i)の方法においても、目開き3.35mmの篩および/または目開き2.00mmの篩を用いて分級処理を行って、目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合を一層多くしても何ら構わない。
前記(i)および(ii)の方法は、いずれも、無水米とぎ器または精米機を使用して、水を加えることなく乾式条件下に室温で行なうことができるので、簡単で便利な方法である。その際に用いる無水米とぎ器または精米機の種類は特に制限されず、従来から市販されているものを使用することでき、具体例としては、松下電器産業株式会社製の遠心力無水米とぎ器「National SN−KT12A」、汎用の精米機などを挙げることができる。
【0023】
本発明では、剥皮率が25〜48%で且つ目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上である部分剥皮小麦粒に、乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌を含有する水を加えて、当該部分剥皮小麦粒と水の混合物を調製し、当該混合物を嫌気的条件下に温度20〜40℃で1〜32時間、好ましくは25〜30℃で12〜24時間浸漬処理を行う。
この浸漬処理工程では、部分剥皮小麦粒の膨潤、発酵、軟化が行なわれる。
【0024】
浸漬処理時の温度が20℃よりも低いか又は40℃よりも高いと、また浸漬処理時間が1時間よりも短いと、部分剥皮小麦粒(P)の膨潤、発酵、軟化などが円滑に行なわれにくくなって、得られるパン類のボリューム不足、芳醇な香りおよび甘さの不足による風味の低下が生じ易くなり、またパン中に小麦の粒が非常に硬い状態で残るか、逆にパン中における小麦粒の残存量が低下して、小麦粒を含有させたことによる独特の優れた食感が失われ易くなる。また、浸漬処理時間が32時間を超えると、部分剥皮小麦粒(P)の膨潤、発酵、軟化などが過多になって、得られるパン類では、芳醇な香りおよび甘さが不足して風味が低下し易くなり、またパン中における小麦粒の残存量が低下して、小麦粒を含有させたことによる独特の優れた食感が失われ易くなる。
また、この浸漬処理は、嫌気的条件下で行なうことが必要であり、好気的条件下で行なうと、乳酸菌、酵母菌および/またはビフィズス菌が十分に働かず、部分剥皮小麦粒の発酵を十分に行なうことが困難になる。
【0025】
浸漬処理工程では、乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌のうちの1種類を用いてもよいし、または2種以上を併用してもよい。乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌としては、市販のものなどを適宜用いることができ、特に制限されない。乳酸菌、酵母菌および/またはビフィズス菌は、部分剥皮小麦粒の発酵、軟化を促進して、得られるパン類の風味、食感の向上、外観の向上に寄与する。
部分剥皮小麦粒(P)に加える水への乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌の添加量は、部分剥皮小麦粒(P)100質量部に対して0.01〜0.5質量部であることが好ましく、0.05〜0.4質量部であることがより好ましく、0.07〜0.2質量部であることが更に好ましい。乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌の量が少な過ぎると、浸漬処理時に部分剥皮小麦粒(P)の発酵、軟化が行われにくくなって、芳醇な香りおよび甘みのあるパン類が得られにくくなり、しかもパンのボリュームが小さくなったり、パン中に含まれる部分剥皮小麦粒の粒が硬くて食感が不良になり易い。一方、前記菌の量が多すぎると、パンの生地がだれ易くなったり、酸味が強くなったり、風味が劣化し易くなる。
【0026】
乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌を含有する水の量は、部分剥皮小麦粒(P)100質量部に対して、50〜100質量部、特に60〜100質量部であることが、浸漬処理時に、部分剥皮小麦粒(P)の膨潤、発酵、軟化が円滑に行なわれる点から好ましい。
但し、本発明では、部分剥皮小麦粒(P)と上記菌を含有する水の混合物を浸漬処理した後の混合物(浸漬処理混合物)は、そのままパン類の製造に用いるので、浸漬処理時に部分剥皮小麦粒(P)に加える水の量は、パン類の製造に用いる水の全量以下であることが必要である。
【0027】
前記浸漬処理を行った部分剥皮小麦粒(P)と、乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌を添加した水の混合物を用いてパン類を製造する。
パン類を製造する際の製パン方法や製パン工程は特に制限されず、従来の方法と同様に、混捏、発酵、ガス抜き、分割、ベンチタイム、ホイロ、焼成などの工程を経て製造することができる。その際の加水量、混捏、発酵、ガス抜き、分割、ベンチタイム、ホイロ、焼成などの各工程における作業方法や作業条件(温度、処理時間など)は特に制限されず、製造するパン類の種類や製パン法の種類などに応じて、従来と同様の作業方法や作業条件を採用することができる。
【0028】
本発明では、上記の浸漬処理を行って得られる部分剥皮小麦粒(P)と上記菌を含有する水の混合物だけを穀類原料(穀類原料と水との混合物)として用いて、それにイーストやその他の副原料を配合して混捏して生地をつくり、その生地を用いて前記した発酵、ガス抜き、分割、ベンチタイム、ホイロ、焼成などの通常の製パン工程を経てパン類を製造してもよいし、或いは上記の浸漬処理を行って得られる部分剥皮小麦粒(P)と上記菌を含有する水の混合物と共に他の穀類原料(例えば、パン用小麦粉、ライ麦粉、オーツ粉、コーンフラワー、亜麻仁粉、米粉、各種澱粉類またはそれらの混合粉)を配合し、それにイーストおよびその他の副原料を添加して混捏して生地をつくり、その生地を用いて前記した発酵、ガス抜き、分割、ベンチタイム、ホイロ、焼成などの通常の製パン工程を経てパン類を製造してもよい。
【0029】
他の穀類原料を併用する場合には、その使用割合は、部分剥皮小麦粒(P)100質量部に対して、900質量部以下、特に500質量部以下であることが、部分剥皮小麦粒に基づく特有の優れた風味、食感および外観を有する本発明の小麦粒パン類を円滑に得る上で好ましい。特に、本発明では、部分剥皮小麦粒(P)と上記菌を含有する水との浸漬処理後の混合物に、浸漬処理前の部分剥皮小麦粒(P)100質量部に対して小麦粉を0〜900質量部、特に25〜400質量部の割合で配合してパン類を製造することが好ましく、それによって、風味、食感、ボリューム、外観などにより優れるパン類を円滑に製造することができる。
【0030】
また、本発明では、パン類の製造に当たって、イースト、或いはイーストおよび他の穀類と共に、必要に応じて、パン類の製造において従来から用いられている副原料などを用いることができ、副原料としては、例えば、食塩、砂糖やその他の糖類、ショートニング、バター、マーガリンなどの油脂類、モルト粉末やモルトシロップ、イーストフード、バイタルグルテン;脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ粉末、ヨーグルト粉末、ホエー粉末などの乳製品、卵や卵製品;豆類、野菜、イモ類、ビタミン類、ミネラル類、塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸アンモニウム;製パン改良剤などの1種または2種以上を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。特に、混捏してパン生地を調製する際に製パン改良剤(例えば、酵素製剤;ピュラトス社製「ジョーカー・キモ」)、発酵調味粉末(森永乳業株式会社製「CBW30」など)を添加すると、ボリューム、風味および食感により優れるパン類を得ることができる。
【0031】
本発明では、製造するパンの種類は特に制限されず、油脂類や糖類等の配合量の少ないリーンな配合のパン類、油脂類や糖類等の配合量の多いリッチな配合のパン類のいずれのパン類を製造してもよい。
限定されるものではないが、本発明によって製造し得るパン類としては、例えば、ワンローフ、角形食パン、プルマンブレッド、バゲット、グリッシーニ、フランスパン、ライブレッド、カンパーニュ、チャバッタ、ブローチェンなどのブレッド類;ハードロール、カイザーロール、ウインナーロール、プレーチヒエンなどのハードロール類;ソフトロール、ブリオッシュ、クロワッサン、クレセント、バターロール、スイートロールなどのソフトロール類;コーヒーケーキ、アップルロール、シュトーレンなどのスイートドウ類;バンズ類;マフィン類;あんパン、ジャムパン、クリームパン、チョコレートパン、メロンパンなどの菓子パン類;ピザ類、ピタパンなどを挙げることができる。
【0032】
本発明により得られるパン類は、常温で流通販売してもよいし、焼成後に冷凍して保存、流通、販売してもよいし、または冷蔵温度で保存、流通、販売してもよい。
さらに、本発明では、完成したパンになる前の生地の状態で冷凍してもよい。生地の状態での冷凍は、混捏直後の生地、混捏・発酵後の生地、分割・丸め後で成形前の生地、成形後の生地、ホイロ後の生地などのいずれの段階の生地であってもよい。生地の状態で冷凍する場合は、−10℃〜−50℃の温度で冷凍することが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に本発明について実施例などにより具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【0034】
《調製例1》[部分剥皮小麦粒(I)の調製]:
(1)(i) 玄麦(小麦)1kg(W0)を、遠心力無水米とぎ器(松下電器産業株式会社製「National SN−KT12A」)に投入して、強レベルの条件下(消費電力220w)で10分間精麦処理(部分剥皮処理)を行なった。この処理によって、前記遠心力無水米とぎ器の内部に備えられている米とぎブラシにより玄麦表面が研磨されて、玄麦から皮部、胚芽部または胚乳部の一部が削り取られて、装置内の紙パック内にカスとして集められ、一方部分剥皮した小麦粒は当該遠心力無水米とぎ器の下部容器内に前記カスと分離されて収容される。
(ii) 次に、遠心力無水米とぎ器の下部容器から部分剥皮小麦粒を取り出して、上記(i)の精麦処理を更に2回繰り返して、合計で3回の剥皮処理(精麦処理)を行って部分剥皮小麦粒(1)を得た。
(2) 上記(1)で得られた部分剥皮小麦粒(I)の質量(W1)を測定して、前記した数式(i)によって部分剥皮小麦粒(I)の剥皮率を求めたところ、下記の表1に示すように、8質量%であった。
【0035】
(3) 上記(1)で得られた部分剥皮小麦粒(I)における「目開き3.35mmの篩を通過し且つ目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合」を調べるために、目開き3.35mmの篩(東京スクリーン社製、直径200mm、深さ60mm)を上段に、目開き2.00の篩(東京スクリーン社製、直径200mm、深さ60mm)を下段に重ねて、振動式ふるい振とう機(筒井理化学器械社製の振動式ふるい振とう機「VUD−80」)にセットした後、上記(1)で得られた部分剥皮小麦粒(1)100gを上段の篩(目開き3.35mm)に投入し、振動調節レベルを8にして(振幅3mm、振動回数3000回/分)、10分間振動させて篩分けした。その後、上段の篩(目開き3.35mm)の上に残留したもの、下段の篩(目開き2.00mm)上に残留したもの、および下段の篩(目開き2.00mm)を通過したものをそれぞれ分けて回収してそれぞれの質量を測定し、部分剥皮小麦粒(I)中に含まれている、「目開き3.35mmの篩を通過し且つ目開き2.00の篩上に残留した小麦粒(この試験では下段の目開き2.00の篩上の残留した小麦粒」の割合[部分剥皮小麦粒(I)の質量に対する質量%]を求めたところ、下記の表1に示すように、90.9質量%であった。
【0036】
《調製例2〜11》[部分剥皮小麦粒(II)〜(XI)の調製]:
(1) 調製例1で使用したのと同じ玄麦を用いて、調製例1の(1)におけるのと同じ遠心力無水米とぎ器を使用して、実施例1の(1)と同じ精麦処理(部分剥皮処理)を、それぞれ5回(調製例2)、6回(調製例3)、7回(調製例4)、8回(調製例5)、9回(調製例6)、10回(調製例7)、11回(調製例8)、12回(調製例9)、13回(調製例10)、14回(調製例11)ずつ行なって、部分剥皮小麦粒(II)〜(XI)をそれぞれ調製した。
(2) 上記(1)で得られた部分剥皮小麦粒(II)〜(XI)のそれぞれの質量(W1)を測定して、前記した数式(i)によって部分剥皮小麦粒(II)〜(XI)の剥皮率を求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
(3) 上記(1)で得られた部分剥皮小麦粒(II)〜(XI)のそれぞれに対して、調製例1の(3)と同じ操作を行って、部分剥皮小麦粒(II)〜(XI)のそれぞれにおける「目開き3.35mmの篩を通過し且つ目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合」を調べたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0037】
《調製例12》[部分剥皮小麦粒(XII)の調製]
(1) 調製例1で使用した遠心力無水米とぎ器の代わりに、家庭用精米機(象印マホービン株式会社製「ZOJIRUSI BR−BD35」)を使用して、調製例1で使用したのと同じ玄麦(小麦)1kg(W0)を同精米機に供給して、「目盛り;7ぶづき」のの条件下で10分間精麦処理(部分剥皮処理)を行なう操作を4回繰り返して、部分剥皮小麦粒(XII)を得た。
(2) 上記(1)で得られた部分剥皮小麦粒(XII)の質量(W1)を測定して、前記した数式(i)によって部分剥皮小麦粒(XII)の剥皮率を求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
(3) 上記(1)で得られた部分剥皮小麦粒(XII)に対して、調製例1の(3)と同じ操作を行って、部分剥皮小麦粒(XII)における「目開き3.35mmの篩を通過し且つ目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合」を調べてところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0038】
【表1】

【0039】
《実施例1》[食パンの製造]
(1) 上記の調製例1〜12で得られたそれぞれの部分剥皮小麦粒(I)〜(XII)のいずれか60質量部を入れたビニール袋に、ヨーグルト種菌(共同乳業株式会社製)0.1質量部を添加した水48質量部を入れてよく撹拌し、ビニール袋から空気を十分に追い出した後にビニール袋の口を縛り、恒温槽(27℃)に入れて20時間放置(浸漬処理)した。
(2) 次いで、上記(1)のビニール袋内の浸漬処理後の混合物を取り出し、それに強力小麦粉40質量部、製パン改良剤(日仏商事社製「B.B.J」)0.1質量部、上白糖5質量部、食塩2質量部、生イースト2.5質量部、ショートニング5質量部および水16質量部を加えて、縦型ミキサーにて低速で6分間、高速で8分間混捏した後、この生地を温度27℃、湿度75%の第一発酵室に入れて45分間発酵させた。
(3) 発酵後の生地を分割し(260g/1個)、丸めてベンチを20分とった。
(4) それらの生地を成形し、ワンローフ型へ2個を詰め(260g×2)、温度38℃、湿度85%のホイロに入れた(40〜60分)。
(5) ホイロから取り出して、230℃の窯に入れて32分間焼成して食パンを製造した。
(6) 上記(5)で得られたそれぞれの食パンのボリューム、風味および食感を、下記の表2に示す評価基準にしたがって、10名のパネラーにより点数評価してもらい、その平均値を採ったところ、下記の表3に示すとおりであった。
(7) また、実験番号6で得られた食パンの内相は、図1(切断面の写真)および図2(切断面の拡大写真)に示すように、柔らかい生地の部分に小麦粒が適度に分散した状態であった。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
上記の表3の結果にみるように、実験番号5〜10および12では、剥皮率が25〜48%で且つ目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上である部分剥皮小麦粒(V)〜(X)および(XII)のいずれかを用いて食パンを製造したことにより、ボリューム、風味および食感の評点のいずれもが高くて、ボリュームが大きく、しかも芳醇な香りと甘みがあって風味に優れ、麦の粒の硬さと周囲の生地の柔らかさのバランスが良く、独特の優れた食感を有する食パンが得られた。
【0043】
《実施例2》[食パンの製造]
(1) 実施例1の実験番号6[部分剥皮小麦粒(VI)を使用]において、その工程(1)で、部分剥皮小麦粒と、ヨーグルト種菌を添加した水の混合物を調製する際のヨーグルト種菌の添加量を下記の表4に示す量にした以外は、実施例1の実験番号6と同様にして食パンを製造した。
(2) 上記(1)で得られたそれぞれの食パンのボリューム、風味および食感を、上記の表2に示す評価基準にしたがって、10名のパネラーにより点数評価してもらい、その平均値を採ったところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0044】
【表4】

【0045】
《実施例3》[食パンの製造]
(1) 実施例1の実験番号6[部分剥皮小麦粒(VI)を使用]において、部分剥皮小麦粒と水の混合物を調製する際に添加する菌として、下記の表5に示すものを用いて、実施例1の実験番号6と同様にして食パンを製造した。
(2) 上記(1)で得られたそれぞれの食パンのボリューム、風味および食感を、上記の表2に示す評価基準にしたがって、10名のパネラーにより点数評価してもらい、その平均値を採ったところ、下記の表5に示すとおりであった。
【0046】
【表5】

【0047】
上記の表5の結果にみるように、乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌のいずれを用いても、ボリュームが大きく、しかも風味および食感に優れる小麦粒パンが得られ、そのうちでもビフィズス菌および乳酸菌、特にビフィズス菌を用いた場合には高品質のパン類が得られた。
【0048】
《実施例4》[食パンの製造]
(1) 実施例1の実験番号6[部分剥皮小麦粒(VI)を使用]において、その工程(1)で、部分剥皮小麦粒と、ヨーグルト種菌を添加した水の混合物を調製する際の恒温槽の温度および恒温槽での放置時間(浸漬処理時間)を下記の表6に示す温度および時間にした以外は、実施例1の実験番号6と同様にして食パンを製造した。
(2) 上記(1)で得られたそれぞれの食パンのボリューム、風味および食感を、上記の表2に示す評価基準にしたがって、10名のパネラーにより点数評価してもらい、その平均値を採ったところ、下記の表6に示すとおりであった。
【0049】
【表6】

【0050】
《実施例5》[食パンの製造]
(1) 実施例1の実験番号6において、その工程(2)で、部分剥皮小麦粒と、強力小麦粉との使用割合を下記の表7に示す割合にした以外は、実施例1の実験番号6と同様にして食パンを製造した。
(2) 上記(1)で得られたそれぞれの食パンのボリューム、風味および食感を、上記の表2に示す評価基準にしたがって、10名のパネラーにより点数評価してもらい、その平均値を採ったところ、下記の表7に示すとおりであった。
【0051】
【表7】

【0052】
《実施例6》[食パン(冷凍生地法)の製造]
(1) 上記の調製例6で得られた部分剥皮小麦粒(VI)60質量部を入れたビニール袋に、ヨーグルト種菌(共同乳業株式会社製)0.1質量部を添加した水48質量部を入れてよく撹拌し、ビニール袋から空気を十分に追い出した後にビニール袋の口を縛り、恒温槽(27℃)に入れて20時間放置した。
(2) 次いで、上記(1)のビニール袋内の混合物を取り出して、強力小麦粉40質量部、製パン改良剤(日仏商事社製「B.B.J」)0.1質量部、上白糖5質量部、食塩2質量部、生イースト2.5質量部、ショートニング5質量部および水12質量部を加えて、縦型ミキサーにて低速で10分間、高速で8分間混捏した後、生地を温度27℃、湿度75%の第一発酵室に入れて10分間発酵させた。
(3) 発酵後の生地を分割し(260g/1個)、丸めて、円形状に広げた。
【0053】
(4) 上記(3)の生地を−40℃の急速冷凍機に1時間入れて急速冷凍した後、−20℃の冷凍庫に移して、1カ月または2カ月冷凍保存した。
(5) 1カ月後および2カ月のそれぞれの時期に生地を冷凍庫から取り出して、室温で2時間解凍した後、再度丸めて、生地を成形し、ワンローフ型へ2個を詰め(260g×2)、温度38℃、湿度85%のホイロに入れた(40〜60分)。
(5) ホイロから取り出して、230℃の窯に入れて35分間焼成して食パンを製造した。
(6) 上記(5)で得られたそれぞれの食パンのボリューム、風味および食感を、上記の表2に示す評価基準にしたがって、10名のパネラーにより点数評価してもらい、その平均値を採ったところ、下記の表8に示すとおりであり、1カ月冷凍した生地および2カ月冷凍した生地のいずれにおいて、ボリューム、風味および食感に優れる食パンが得られた。
【0054】
【表8】

【0055】
《実施例7》[食パンの製造]
(1) 実施例5の実験番号6において、部分剥皮小麦粒と、ヨーグルト種菌を添加した水との浸漬処理後の混合物に強力小麦粉、イーストおよびその他の副原料を加えてパン生地を調製する際に、下記の表9に示す製パン改良剤を表9に示す量で更に添加した以外は、実施例5の実験番号6と同様にして食パンを製造した。
(2) 上記(1)で得られたそれぞれの食パンのボリューム、風味および食感を、上記の表2に示す評価基準にしたがって、10名のパネラーにより点数評価してもらい、その平均値を採ったところ、下記の表9に示すとおりであった。
【0056】
【表9】

【0057】
《実施例8》[ハードロールの製造]
(1) 上記の調製例6で得られた部分剥皮小麦粒(VI)60質量部を入れたビニール袋に、ヨーグルト種菌(共同乳業株式会社製)0.1質量部を添加した水48質量部を入れてよく撹拌し、ビニール袋から空気を十分に追い出した後にビニール袋の口を縛り、恒温槽(27℃)に入れて20時間放置した。
(2) 次いで、上記(1)のビニール袋内の混合物を取り出して、強力小麦粉40質量部、食塩2質量部、インスタントドライイースト0.6質量部、モルトエキス0.3質量部、ビタミンC100ppmおよび水15質量部を加えて、縦型ミキサーにて低速で6分間、高速で8分間混捏した後、生地を温度27℃、湿度75%の第一発酵室に入れて120分間発酵させた。
【0058】
(3) 発酵後の生地をパンチし、再度第一発酵室に入れて30分間発酵させた。
(4) その生地を分割し(60g/1個)、やや長めに丸めてベンチを20分とった。
(5) これらを細長く成形してキャンバスに並べて、温度32℃、湿度85%のホイロに入れた(約50分)。
(6) ホイロから取り出して、240℃の窯に入れ20分間焼成してハードロールを製造した。
(7) 上記(6)で得られたハードロールのボリューム、風味および食感を、上記の表2に示す評価基準にしたがって、10名のパネラーにより点数評価してもらい、その平均値を採ったところ、ボリュームは4.5点、風味は4.6点および食感は4.4点であり、ボリューム、風味および食感のすべてにおいて優れていた。
【0059】
《実施例9》[ピザの製造]
(1) 上記の調製例6で得られた部分剥皮小麦粒(VI)60質量部を入れたビニール袋に、ヨーグルト種菌(共同乳業株式会社製)0.1質量部を添加した水32質量部を入れてよく撹拌し、ビニール袋から空気を十分に追い出した後にビニール袋の口を縛り、恒温槽(27℃)に入れて20時間放置した。
(2) 次いで、上記(1)のビニール袋内の混合物を取り出して、強力小麦粉60質量部、生イースト2.5質量部、モルトエキス1質量部、食塩2質量部、ショートニング4.5質量部および水42質量部を加えて、縦型ミキサーにて低速で2分間、高速で3分間混捏した後、生地を温度27℃、湿度75%の第一発酵室に入れて120分間発酵させた。
(3) 発酵後の生地をパンチし、再度第一発酵室に入れて30分間発酵させた。
(4) その生地を分割し(60g/1個)、やや長めに丸めてベンチを20分とった。
(5) これらを細長く成形してキャンバスに並べて、温度32℃、湿度85%のホイロに入れた(約50分)。
(6) ホイロから取り出して、240℃の窯に入れ20分間焼成してハードロールを製造した。
(7) 上記(6)で得られたピザのボリューム、風味および食感を、上記の表2に示す評価基準にしたがって、10名のパネラーにより点数評価してもらい、その平均値を採ったところ、ボリュームは4.4点、風味は4.7点および食感は4.6点であり、ボリューム、風味および食感のすべてにおいて優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、部分剥皮小麦粒が粒のままの状態でパン中に多く含まれていて、芳醇な香りを有し、非常に甘みがあり、パンに含まれる部分剥皮小麦粒の硬さと周囲の柔らかさのバランスが良好な、従来にない独特の優れた風味、食感、外観を有し、しかも十分に膨らんでいてボリュームのある、栄養価の高いパン類の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1の実験番号6で得られた食パンの内相の状態を撮影した写真である。
【図2】実施例1の実験番号6で得られた食パンの内相の拡大写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥皮率が25〜48%で且つ目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上である部分剥皮小麦粒に、乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌を添加した水を加えて部分剥皮小麦粒と水の混合物を調製し、当該混合物を嫌気的条件下に温度20〜40℃で1〜32時間浸漬処理した後、当該浸漬処理した混合物を用いてパン類を製造することを特徴とする小麦粒パン類の製造方法。
【請求項2】
剥皮率が25〜48%で且つ目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上である部分剥皮小麦粒に、乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌を添加した水を加えて部分剥皮小麦粒と水の混合物を調製し、当該混合物を嫌気的条件下に温度20〜40℃で1〜32時間浸漬処理した後、当該浸漬処理した混合物に、イーストおよび副原料を添加するか或いは小麦粉、イーストおよび副原料を添加して混捏してパン生地をつくり、そのパン生地を用いて常法によりパン類を製造することを特徴とする小麦粒パン類の製造方法。
【請求項3】
前記部分剥皮小麦粒と水の混合物を調製するための水に添加する乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌の量が、部分剥皮小麦粒100質量部に対して0.01〜0.5質量部である請求項1または2に記載の小麦粒パン類の製造方法。
【請求項4】
前記部分剥皮小麦粒100質量部に、乳酸菌、酵母菌およびビフィズス菌から選ばれる少なくとも1種の菌を含有する水を50〜200質量部の割合で混合して小麦粒と水の混合物を調製する請求項1〜3のいずれか1項に記載の小麦粒パン類の製造方法。
【請求項5】
前記部分剥皮小麦粒100質量部に対して、小麦粉を25〜250質量部の割合で用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載の小麦粒パン類の製造方法。
【請求項6】
剥皮率が25〜48%で且つ目開き3.35mmの篩を通過し目開き2.00mmの篩上に残留する小麦粒の含有割合が80質量%以上である部分剥皮小麦粒を、玄麦を非加水状態で無水米とぎ器または精米機を使用して剥皮率が25〜48%になるように精麦処理して調製するか、或いは玄麦を非加水状態で無水米とぎ器または精米機を使用して剥皮率が25〜48%になるように精麦処理した後に目開きが3.35mmの篩および目開きが2.00mmの篩のいずれか一方または両方を用いて分級処理を行って調製する請求項1〜5のいずれか1項の小麦粒パン類の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法で得られる小麦粒パン類。

【図1】
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【図2】
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