説明

少なくとも一つの硬質部材と少なくとも一つの軟質部材を含む複合材料

【課題】高いレベルの電磁波遮蔽性を有する複合材料の提供。
【解決手段】導電性添加剤を含む弾性率が1000MPa以上である少なくとも一つの硬質部材と、導電性添加剤を含む弾性率が500MPa以下である少なくとも一つの軟質部材とが結合したプラスチック複合材料であり、前記複合材料の導電率は0.01S/cmよりも大きく、表面導電率は0.1S/cmよりも大きく、さらに、複合材料の結合強度は少なくとも0.5N/mm2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は少なくとも一つの硬質部材と少なくとも一つの軟質部材を含む複合材料、それ
を製造するための方法、および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ますます小さくなるスペース(移動電話、自動車、航空機構造物、造船)における電気
機器と電子機器の使用の増大は、プラスチックのよりいっそうの使用を必要とする。金属
からなる鋳造物とモジュールは、プラスチック部材によってますます置き換えられつつあ
る。しかし、プラスチックによってもたらされる重量の節約と一体化の可能性は、高周波
の場および高周波からの電磁遮蔽の不足という観点において検討されなければならない。
プラスチックは高感度の電子回路への電磁場および電磁波の侵入あるいは電子回路からの
それらの発散を防ぐことができない。すなわち、プラスチックは電磁気適合性(EMC)を
与えることができない。
【0003】
プラスチックを用いて電磁遮蔽を達成する一つの方法は、その後に、すなわちプラスチ
ック成形品を製造した後に、金属の層を付与することである。このことの不利な点は、追
加の論理計算を必要とし、欠陥を発生させる可能性があり、そして大抵の場合に実際のプ
ラスチック成形品の製造コストを上回る、費用のかかる後続の工程を必要とすることであ
る。
【0004】
好ましい方法は、プラスチックを導電性にすることである。導電性充填剤(配合物質)
を含むプラスチックは唯一の商業的に重要な材料である。本質的に導電性プラスチックは
可融性ではなく、また不溶性であり、このために、プラスチックのための慣用の加工方法
によって加工することができない。もっとも、それらは細かく粉砕した形態で導電性添加
剤として用いることができる。
【0005】
しかし、導電性プラスチックの注型品が互いに接合された場合、得られる製品の遮蔽性
は比較的低く、高い接触抵抗が認められる。
高導電性のガスケット(充填剤として大抵は銀を用いる)を挿入することによって遮蔽
性は改善される。しかし、これは多くの場合、適切な解決法ではなく、高コストにもなる
。というのは、ガスケットに機械的安定性と取扱いの容易さを与えるために、ガスケット
の厚さはミリメートルのオーダーでなければならないからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで述べた先行技術に照らして、本発明の目的は、高い導電性を与えることができて
、そのために高いレベルの電磁遮蔽を与えることのできる複合材料を提供することであっ
た。
【0007】
本発明の別の目的は、低コストで工業的規模で製造することのできる複合材料を提供す
ることであった。ここでの意図は特に、低コストで得ることのできる材料を用いることで
あった。
【0008】
本発明の別の目的は、良好な機械的特性を有する複合材料を提供することであった。こ
こでの意図は、それらの特性が用途の必要性に実質的に調和しうることであった。
請求項1で示されている複合材料は、導入部分で説明された先行技術によって当業者に
とって明白であるこれらの目的およびその他の目的を達成する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明は、弾性率が1000MPa以上である少なくとも一つの硬質部材と弾性
率が500MPa以下である少なくとも一つの軟質部材を含むプラスチック複合材料を提供
し、ここに硬質部材と軟質部材は導電性を有し、そして複合材料の結合強度は少なくとも
0.5N/mm2である。
【0010】
本発明の複合材料は、高感度の電子回路への電磁場および電磁波の侵入と電子回路から
のそれらの発散を防ぐための遮蔽性を付与するのに、優れた適合性を有する。さらに、こ
の複合材料の機械的特性は、広範囲にわたる最終使用者の要求に調和しうる。
【0011】
さらに、本発明の複合材料は簡単な方法で低コストで製造することができ、そして特に
ここでは低コストの材料を用いることができる。従って、複合材料は十分に自動化された
手段によって製造することができる。これにより、高くて安定した品質を達成することが
できる。
【0012】
本発明の複合材料は、少なくとも一つの熱塑性的に加工可能なプラスチックを含む少な
くとも一つの硬質部材を有する。硬質部材の弾性率は少なくとも1000MPaであり、好
ましくは少なくとも1500MPaであり、そして特に好ましくは少なくとも2000MPaで
ある。弾性率はISO 527に従う応力-ひずみ試験から得ることができ、一般に用いられる試
験速度は23℃において1mm/分である。
【0013】
高い弾性率は一般に、適当な熱可塑性プラスチックを使用することによって達成される
。これらの特性を有するプラスチックは当業者に知られている。このようなものとしては
、ポリオレフィン、特にポリエチレン、ポリプロピレン、またはシクロオレフィン共重合
体;ポリアセタール、特にポリオキシメチレン;ポリアミド;ポリフェニレンオキシド;
ポリフェニレンスルフィド;ポリフェニレンエーテル;ポリウレタン;ポリカーボネート
;ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート;
ポリスチレン;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、またはアクリロニトリ
ル-スチレン-アクリレートグラフト重合体;液晶重合体、または以上に挙げたプラスチッ
クからなる配合物がある。硬質部材は、特に好ましくはポリアセタールを含んでいてもよ
く、またここでは単独重合体と共重合体を用いることができる。WO 00/20204はこれらの
単独重合体および/または共重合体を記載している。
【0014】
好ましいプラスチックは、これらが高い弾性率を有する場合、2000〜400000
の範囲、好ましくは10000〜200000の範囲の

を有し、またDIN ISO 1133に従って2.16kgの加荷重を用いて190℃において0.5〜
200cm3/10分、好ましくは1〜70cm3/10分の容積フローインデックス(溶融容積
流量(melt volume rate)、MVR)を有する。数平均分子量はゲル透過クロマトグラフィ
ー(GPC)によって測定することができる。
【0015】
硬質部材は好ましくは、この硬質部材の重量に基づいて、0.1〜95重量%、特に好
ましくは1〜70重量%、さらに特に好ましくは5〜30重量%の、高い弾性率を有する
プラスチックを含む。
【0016】
硬質部材は少なくとも一つの導電性添加剤を含み、これが硬質部材に導電性を与える。
これらの物質は当業者に知られている。そのようなものとしては、金属、例えば鉄、鋼、
銅、黄銅、ニッケル、亜鉛、銀、金、白金;炭素、これは金属化されたものであってもよ
く、例えばニッケルまたは銀で被覆した炭素;導電性プラスチック、例えばポリピロール
、ポリアニリン、ポリチオフェン、または金属化充填剤、例えば金属化ガラスがある。導
電性充填剤は、粉末、ビーズ、中空ビーズ、鉱物質、あるいは長繊維または短繊維の形態
をとっていてもよい。カーボンブラックから誘導されるかあるいは導電性ブラックや黒鉛
から誘導される粉末を用いるのが好ましく、あるいはニッケルまたは銀で被覆した粉末充
填剤、例えばニッケルまたは銀で被覆した炭素、ニッケルまたは銀で被覆した黒鉛、ニッ
ケルまたは銀で被覆したガラス、あるいは本来的に導電性の重合体、例えばポリピロール
、ポリアニリン、ポリチオフェン、あるいは鋼や炭素あるいは金属化(ニッケル被覆)炭
素からなる繊維を用いるのが好ましく、あるいはガラスからなるビーズまたは中空ビーズ
をニッケルまたは銀で被覆したものを用いるのが好ましい。これらの物質は個々に、ある
いは混合物の形で用いることができる。
【0017】
ステンレス鋼、炭素、金属化炭素、黒鉛、ガラス、ニッケルまたは銀で被覆した炭素、
ニッケルまたは銀で被覆した黒鉛、あるいはニッケルまたは銀で被覆したガラスからなる
長繊維を用いるのが特に好ましく、あるいは単一壁または多数壁の炭素ナノチューブを用
いるのが特に好ましい。ここで言う短繊維製品とは、繊維長さが0.3μm以下の繊維を含
む粒状物質、ペレット、および成分を意味する。ここで言う長繊維製品とは、繊維長さが
0.3μmを超える繊維、特に0.5μm〜50mmの繊維長さ、特に好ましくは0.5μm〜1
0mmの繊維長さの繊維を含む粒状物質、ペレット、または成分を意味する。
【0018】
導電性充填剤の場合、導電性、遮蔽性および電磁気適合性に対する充填剤の有効性は、
充填剤粒子が長くなるほど、そして細くなるほど増大する。このため、長くて細い繊維を
用いるのが好ましい(B. Pfeiffer, Edelstahlfasergefullte Kunststoffe(ステンレス
鋼繊維を添加したプラスチック), Plastverabeiter, Vol.48, 1997, No.12を参照)。
【0019】
硬質部材は好ましくは、この硬質部材の重量に基づいて、0.1〜95重量%、特に好
ましくは1〜70重量%、さらに、特に好ましくは5〜30重量%の導電性添加剤を含む
。硬質部材の導電率は、好ましくは少なくとも10−7S/cm、そして特に10−7〜10
S/cmの範囲、特に好ましくは10−3〜10S/cmの範囲であり、ここでの導電率はDI
N EN 0303パート30に従って測定することができる。
【0020】
硬質部材は周知の添加剤をさらに有していてもよい。そのようなものとしては、充填剤
および強化物質(例えば繊維、特にガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、鉱物繊維)、
加工助剤、高分子量潤滑剤、外部および/または内部潤滑作用を有する潤滑剤、酸化防止
剤、カップリング剤、ワックス、成核剤、離型剤、ガラスビーズ、無機充填剤(例えばチ
ョーク、炭酸カルシウム、珪灰石、二酸化ケイ素、タルク、マイカ、モンモリロナイト、
有機的に変性されているかまたは変性されていないフィロケイ酸塩)、液晶性プラスチッ
クまたはポリアリーレン(polyarylene)スルフィドとナノ複合材を形成する物質、また
はナイロンナノ複合材、または以上に挙げた物質の混合物がある。
【0021】
本発明の複合材料は少なくとも一つの軟質部材を有し、これは好ましくは、少なくとも
一つの熱塑性的に完全に加工可能なプラスチックを含む。軟質部材の弾性率は最大で50
0MPaであり、好ましくは最大で100MPaであり、そして特に好ましくは最大で50MPa
である。この低い弾性率は一般に、適当なプラスチックを使用することによって達成され
る。これらの特性を有するプラスチックは当業者に知られている。このようなものとして
は特に、非変性(straight)または変性ポリオレフィンエラストマー(TPEO)、特にポリ
プロピレンエラストマー、例えばエチレン-プロピレンターポリマー/プロピレン(PP-EPD
M)、架橋エチレン-プロピレンターポリマー/プロピレン(PP-X/EPDM)、ニトリル-ブタ
ジエンゴム/ポリプロピレン(PP-NBR);架橋ポリオレフィンエラストマー(TPEV);ポ
リエーテルエステルまたはポリエステルエステル系のエラストマー(TPEE)、ポリエーテ
ルウレタンエラストマーおよび/またはポリエステルウレタンエラストマー(TPEU);ポ
リエーテルアミドエラストマー(TPEA)、および/またはスチレンエラストマー(TPES)
、特にスチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-ス
チレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、
スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)がある。熱可塑性エラストマーは個々に
、あるいは混合物の形で用いることができる。
【0022】
好ましいプラスチックは、これらが低い弾性率を有する場合、2000〜400000
の範囲、好ましくは10000〜200000の範囲の

を有し、またDIN ISO 1133に従って2.16kgの加荷重を用いて190℃において0.5〜
200cm3/10分、好ましくは1〜70cm3/10分の容積フローインデックス(溶融容積
流量(melt volume rate)、MVR)を有する。
【0023】
軟質部材は好ましくは、この軟質部材の重量に基づいて、0.1〜95重量%、特に好
ましくは1〜70重量%、さらに、特に好ましくは5〜30重量%の熱可塑性エラストマ
ーを含む。
【0024】
ショアー硬度がA90〜D30、好ましくはショアーA40〜A90の少なくとも一つの熱
可塑性エラストマーを用いるのが好ましい。複合材料の軟質部材の硬度は好ましくは、シ
ョアー硬度A90〜D30、特に好ましくはショアーA40〜A90の範囲である。
【0025】
軟質部材も同様に、上で述べた添加物質を含み、それらは導電性をもたらす。ステンレ
ス鋼、炭素、金属化炭素、黒鉛、ガラス、ニッケルまたは銀で被覆した炭素、ニッケルま
たは銀で被覆した黒鉛、あるいはニッケルまたは銀で被覆したガラスからなる長繊維を用
いるのが特に好ましく、あるいは単一壁または多数壁の炭素ナノチューブを用いるのが特
に好ましい。ここで言う短繊維製品とは、繊維長さが0.3μm以下の繊維を含む粒状物質
、ペレット、および成分を意味する。ここで言う長繊維製品とは、繊維長さが0.3μmを
超える繊維、特に0.5μm〜50mmの繊維長さ、特に好ましくは0.5μm〜10mmの繊維
長さの繊維を含む粒状物質、ペレット、または成分を意味する。
【0026】
軟質部材は好ましくは、この軟質部材の重量に基づいて、0.1〜95重量%、特に好
ましくは1〜70重量%、さらに、特に好ましくは5〜30重量%の導電性添加剤を含む
。軟質部材の導電率は、好ましくは少なくとも10−7S/cm、そして特に10−7〜10
S/cmの範囲、特に好ましくは10−3〜10S/cmの範囲であり、ここでの導電率はDI
N EN 0303パート30に従って測定することができる。
【0027】
軟質部材は周知の添加剤をさらに含んでいてもよく、その例は上で述べた通りである。
軟質部材はさらに、弾性率が1000MPaよりも大きい上述のプラスチックを含んでい
てもよい。
【0028】
複合材製品の結合強度は少なくとも0.5N/mm2、好ましくは少なくとも1.0N/mm2であ
る。結合強度はISO 527に従う応力-ひずみ試験から得ることができ、一般に用いられる試
験速度は23℃において50mm/分である。これについて、試験片は、一つのくびれ領域
(shoulder area)が硬質部材からなり、第二のくびれ領域が軟質部材からなるように製
造される。試験片は通常、硬質部材と軟質部材の間の境界面で破損するので、結合強度は
試験片が破断したときの引張り応力に相当する。試験片は好ましくは射出成形によって製
造され、その詳細は公報EP 1128955、特にその5ページの34〜58行で見出すことがで
きる。
【0029】
結合強度は周知の手段によって達成することができる。例としては、導電性について改
良された接着剤層を用いることができる。
しかしながら、多くの場合、接着剤層を何も用いずに硬質部材と軟質部材を入念に選択
することによって適切な強度を達成することができる。高い付着性を得るために、軟質部
材と硬質部材の融点の範囲は類似していなければならない。さらに、二つの部材の極性は
類似していなければならない。付着性を改善するために、硬質相の中の高弾性率重合体を
少量用いて軟質部材を改質することができる。さらに、硬質部材もまた、軟質部材の中の
エラストマーを少量含有することができる。
【0030】
有用な知識は特に特許文献中に見出され、例えばDE 19845235、EP 1128955、およびEP
1225036、および様々なプラスチックの製造業者からのパンフレット、例えば「Technik H
aftungsprufung an Hard/Weichverbindungen(硬質相と軟質相の結合部における付着性を
試験するための方法)」(PTS-Marketing & Vertriebs GmbH, 91587, Adelshofenから)
および「Technology:Combimelt」(Engel AGから)に見出される。
【0031】
従って、スチレンエラストマー(TPES)を含む軟質部材とポリプロピレンを含む硬質部
材を組み合わせることができ、またそうするのが好ましくもある。適当な改良があるとす
れば、個々のケースはいずれも先行技術によって当業者に知られているが、スチレンエラ
ストマーを、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオキシメチレンの単独重合体および共重合
体、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、およびポリフェニレンエーテルに
接合させることができる。
【0032】
架橋および/または非架橋ポリオレフィンエラストマー(TPEV;TPEO)を含む軟質部材
はしばしば、ポリプロピレンおよび/またはポリアミドを含む硬質部材と組み合わせるの
に適していて、このとき適切であれば必要な変性を加える。
【0033】
ポリウレタンエラストマーおよび/またはポリエステルエラストマー(TPEU;TPEE)は
、ポリアミド、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリオキシメ
チレン単独重合体および共重合体、ポリカーボネート(PC)、および/またはポリブチレ
ンテレフタレートと組み合わせるのに特に適していて、このとき場合によってはエラスト
マーおよび/または硬質部材のプラスチックに必要な変性を加える。
【0034】
ポリアミドエラストマー(TPEA)はポリアミドおよび/またはポリカーボネートと有利
に接合させることができる。
本発明の一つの特定の見地によれば、複合材料は0.01S/cm以上の導電率、好ましく
は0.1S/cm以上の導電率、特に好ましくは1S/cm以上の導電率を有することができ、こ
こでの導電率はDIN EN 0303パート30に従って測定することができる。
【0035】
複合材料は好ましくは、表面導電率が10−3S以上、好ましくは10−2S以上、特に
好ましくは0.1S以上である少なくとも一つの表面を有していて、ここでの特定の表面導
電率はDIN EN 0303パート30に従って測定することができる。
【0036】
本発明の一つの特定の見地によれば、少なくとも一つの硬質部材と少なくとも一つの軟
質部材は互いに直接結合されている。この結合は特に、熱塑性的な成形法によって達成す
ることができる。そのようなものとしては、同時押出し法や特定の射出成形法がある。
【0037】
複合材料は周知の方法とプロセス、例えば射出成形、射出-圧縮成形、押出し、吹込み
成形によって製造される。多部材射出成形法の使用は経済的かつ有利であり、例としては
、最初に硬質部材が射出成形用金型内に成形され、すなわち予備的に射出され、次いで軟
質部材からなる被覆または成形品が金型内に射出される。
【0038】
ここでの硬質部材の製造を行う間の溶融温度は通常の範囲であり、これは用いられる特
定のプラスチックに依存する。ポリアセタールが用いられる場合、この温度は一般におよ
そ180〜240℃、好ましくは190〜230℃の範囲である。金型自体は、好ましく
は、成形組成物の温度よりも低い温度に設定される。ポリアセタールに対しては、金型の
温度は好ましくは20〜140℃の範囲である。比較的高い温度範囲での金型温度は、成
形の精密さと硬質部材の寸法安定性のために有利である。
【0039】
金型内のキャビティ(空所)が完全に充填され、そして保持圧力がもはや有効でなくな
った(ゲート封止点)ならばすぐに、硬質部材からなる成形品を最終の冷却に供すること
ができ、そして複合材料の第一の部分として型抜き(demolding)することができる(予
備成形体)。次いで、第二の後続する別の射出成形工程において、例として言えば、この
予備成形体が別の金型の中に置かれるかあるいは移され(このとき金型のキャビティは凹
部を有する)、そして軟質部材が金型内に射出され、それによって予備成形体の上に射出
される。このプロセスは鋳ぐるみ法または移動法として知られている。このように後にな
って達成される付着について特に有利な要素は、硬質部材からなる予備的に射出された成
形体が予熱され、それによって、この材料の上に軟質部材が射出されたときに表面の初期
の溶融が促進され、そして境界層への部材の侵入が促進されることである。ここでの予備
射出された成形体の温度は融点の直下まで上昇させることができ、その温度はISO 3146,
Method C1bに従って決定することができる。硬質部材がポリアセタールを含む場合、この
温度は好ましくは、80℃から融点の直下までの範囲である。
【0040】
硬質部材からなる射出成形された予備成形体はまた、部分的にのみ型抜きされ、そして
最初の金型の二次部材(例えば供給板(feed plate)、イジェクター側部(ejector side
)、または単に割出し板(index plate))とともに、さらに大きいキャビティの中に移
動させることができる。
【0041】
他に行いうることは、機械の中間的な開放と硬質部材からなる予備成形体のその後の移
送を行わずに、同じ金型の中に軟質部材を射出することである。この方法においては、軟
質部材のために用意された金型キャビティは、硬質部材を射出している間、可動インサー
トまたはコアによって最初に密閉され、そして軟質部材が射出されるまでは開放されない
(スライド技術)。この変法も良好な付着性を達成するために特に有利である。というの
は、軟質部材の融液は、ほんの短い冷却時間の後でまだ高温の予備成形体に接することに
なるからである。
【0042】
もし適切であれば、1以上の硬質部材および/または軟質部材および/または導電性を
有していないプラスチックからなる追加の二次部材(subcomponents)を、同時に、ある
いは一連の後続の工程において、材料の上に射出してもよい。
【0043】
材料の上に軟質部材が射出されるとき、良好な付着性を得るためには、溶融温度と射出
圧力および保持圧力について最高の設定を選択するのが有利である。この場合、分解温度
が温度の上限を与える。スチレン-オレフィンエラストマーの場合、溶融温度は好ましく
は200〜270℃の範囲であり、その上限はこれらの材料の分解によって決められる。
射出速度についての値および射出圧力と保持圧力についての値は、機械および成形品に依
存し、これらは個々の状況について適切に調整されるべきである。
【0044】
全ての変法において、予備成形体の型抜きを伴う場合であっても伴わない場合であって
も、第二の工程において金型の温度は20℃〜140℃の範囲の温度に制御することがで
きる。二次部材の設計に応じて、変形性とサイクル時間を最適にするために、金型の温度
を幾分低くするのが望ましいかもしれない。二次部材が冷却したならば、複合材料の成形
品は型抜きされる。ここで金型の設計における重要な要素は、複合材料の部材どうしの間
の接合部にかかる荷重を最小にするのに適した位置に複数のイジェクター(ejectors)を
付設することである。また、含まれる空気によって二つの部材の間の結合が抑制されるこ
とが最少限になるように、金型の設計において、接合部の領域でのキャビティの適切な換
気手段も設けられるべきである。金型の壁の粗さの特徴も同様の影響を及ぼす。複合材料
において接合部の位置で表面が滑らかであれば、表面に含まれる空気がより少なくなるの
で、良好な付着のためには有利である。
【0045】
軟質部材を硬質部材にアンダーカット(機械的固定)または接着によって固定すること
ができる。部材1(通常は硬質部材)の表面を部材2(通常は軟質部材)によって初期に
溶融させることは、特に好ましい。というのは、意外なことなのだが、このことによって
複合材料に特に高い導電性を与えることができるからである。
【0046】
様々な射出プロセスとともに、同時押出し成形および同時吹込み成形のプロセスは、少
なくとも一つの硬質熱可塑性プラスチックと少なくとも一つの軟質熱可塑性プラスチック
からなる要求される導電性複合材料を製造するために適している。
【0047】
本発明の複合材料は電子工業、航空機の製造および車両の製造において、ケーシングま
たはケーシングの二次部材の製造のために特に用いることができる。意外なことに、これ
らのケーシングは電磁波からの優れた遮蔽物となり、このようなケーシングは効果的な密
閉した遮蔽体または箱体(cage)を形成することが見出された。
【0048】
これらの複合材料は大表面積のコンタクト(電気接点)を製造するために用いることも
できる。それらは、高い電流強度の接地(earthing)および引き込みのために必要であり
、例えば、電磁遮蔽物、帯電防止装置、表面電荷の散逸、および抵抗加熱用素子の製造と
コンタクト形成のために必要である。
【0049】
同時押出し成形と同時吹込み成形の領域において、特に予定される用途は、遮蔽特性を
有するあらゆるタイプの管(燃料ライン)とケーブル被覆材料としてのものである。
【実施例】
【0050】
実施例1
様々な鋼繊維入り熱可塑性プラスチックからなる80mm×120mm×3mmのシートが、
多段金型中に射出成形された。用いられた材料を表1に示す。次いで、これらのシートは
80℃に加熱されて同じ多段金型中に4mmの厚さで置かれ、そしてNi /黒鉛を含むSEBSが
重ねられて成形された。これにより、Ni /黒鉛を含む厚さ1mmのSEBS層が形成され、表面
において非常に高い導電性が付与され、従って非常に低い接触抵抗を有する接触が得られ
た。
【0051】
得られた複合材料は、付着性と導電率について試験された。付着性を評価するために、
剥離試験において軟質部材が剥離され、そして境界面の特徴が顕微鏡の下で評価された。
付着性が良好であれば、軟質部材において凝集破壊が生じ、このことは軟質部材の残留物
が硬質部材の上に残ることで識別できる。測定された付着性を表1に示す。接着層破壊が
生じた場合、結合強度は0.5N/mm2よりも大きい。
【0052】
【表1】

【0053】
1)TiconaからHostaformの商標で商業的に入手できる
2)BASFからUltramidの商標で商業的に入手できる
3)TiconaからCelanexの商標で商業的に入手できる
4)BayerからMakrolonの商標で商業的に入手できる
5)General ElectricからNorylの商標で商業的に入手できる
6)Premix OyからPresealの商標で商業的に入手できる
7)Premix OyからPresealの商標で商業的に入手できる
8)鋼の繊維の濃度は、Ticonaから商業的に入手できるCelstran S(50重量%の鋼繊
維)から配合した結果のもの(ごま塩状の配合物)の値である(20重量部のCelstran S
+80重量部の配合成分)。記載されたガラス繊維の濃度は、ガラス繊維強化配合成分を
用いて得られた。
【0054】
体積抵抗率を測定するために、10mm×10mmの寸法の複数の板(plaques:板状試料
)が切り出され、表面を導電性の銀ペイントと接触させた。1cm2の断面積と0.4cmの厚
さを用いて、良好な付着性を有する複合材料について測定された約0.5オームの抵抗値
は、この複合材料について約1.3オーム・cmの体積抵抗率を与えた。これは0.8S/cmの
導電率に相当する。
【0055】
DIN EN 0303パート30に従って表面抵抗率が測定された。硬質部材について、それは1
〜10オームであり(表面導電率は10−2〜10−3S)、軟質部材の表面抵抗
率が同様にして測定され、それは0.1オームである(表面導電率は10S)。
【0056】
【表2】

【0057】
高い結合強度を有する複合材料は1オーム・cm未満の驚くほどに低い体積抵抗率を有す
ることを、これらの実施例は示している(導電率は1S/cmを超える)。上に重ねられる軟
質部材との比較により、予測を超える改善がなされることが明らかになる(0.07S/cm
未満の導電率)。
【0058】
実施例2
2部材引張り試験片のために、導電性の硬質/軟質部材複合材料が回転金型の中で製造
された。しかし、引張り試験片の最初の半分は、鋼繊維入り熱可塑性プラスチックから射
出成形された。次いで、金型は回転され、そして次に、引張り試験片の最初の半分からな
る予備成形体の上に、熱可塑性エラストマーからなる引張り試験片の次の半分が射出され
た。得られた複合材料の電気抵抗を測定するために、引張り試験片の先端を導電性の銀ペ
イントと接触させ、そして硬質部材と軟質部材の境界部(2mm×5mmの面積)を通しての
複合材料の抵抗がオーム計を用いて測定された。
【0059】
10重量%のステンレス鋼繊維を含むPOMとNi /黒鉛を含むSEBSからなる複合材料につ
いて、10.5±1.9オームの電気抵抗が測定された。引張り試験片について0.1cm2
用いられた断面と10cmの長さに基づいて、複合材料の体積抵抗率は約0.1オーム・cm
である(導電率は10S/cmを超える)。
【0060】
同様にして、10重量%のステンレス鋼繊維と8重量%のガラス繊維を含むポリカーボ
ネートとNi /黒鉛を含むSEBSからなる複合材料について、体積抵抗率は0.4オーム・cm
と測定された。実施例1と同様に、付着性が低いことにより、複合材料の高い抵抗がもた
らされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック複合材料であって、
a)弾性率が1000MPa以上である硬質部材であって、
導電性添加剤と、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエステル、およびこれらの組合せからなる群から選択される熱可塑性プラスチックとを含む、前記硬質部材;および
b)弾性率が500MPa以下である軟質部材であって、
導電性添加剤と、ポリオレフィンエラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエステルエステルエラストマー、ポリエーテルウレタンエラストマー、ポリエステルウレタンエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、スチレンエラストマー、およびこれらの組合せからなる群から選択される熱可塑性エラストマーとを含む、軟質部材;
を含み、
ここに、複合材料の導電率は0.01S/cmよりも大きく、また複合材料の少なくとも一つの表面における表面導電率は0.1Sよりも大きく、
そして、硬質部材と軟質部材はアンダーカットまたは付着力を介して互いに結合していて、複合材料のその結合強度は少なくとも0.5N/mm2である、
前記プラスチック複合材料。
【請求項2】
導電性添加剤は、鉄、鋼、銅、黄銅、ニッケル、亜鉛、銀、金、白金、炭素、金属化炭素、または金属化ガラスを含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
硬質部材および/または軟質部材は、粉末、ビーズ、中空ビーズ、鉱物質、および長繊維または短繊維、または単一壁または多数壁のナノチューブの形態の導電性添加剤を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
硬質部材と軟質部材は互いに直接結合されている、請求項に記載の複合材料。
【請求項5】
複合材料の導電率は1S/cmよりも大きい、請求項に記載の複合材料。
【請求項6】
軟質部材が、ポリオレフィン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-アクリレートグラフト重合体、および液晶重合体からなる群から選択される少なくとも一つの重合体をさらに含んでいる配合物を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項7】
軟質部材は、ショアー硬度がA90〜D30である可塑性エラストマーを含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項8】
軟質部材は、ショアー硬度がA80〜A60である可塑性エラストマーを含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項9】
1以上の軟質部材と1以上の硬質部材からなる、請求項1に記載の複合材料。
【請求項10】
硬質部材と軟質部材の境界部を通しての導電率が0.01Sよりも大きい、請求項1に記載の複合材料。
【請求項11】
軟質部材および/または硬質部材を射出成形、射出-圧縮成形、同時押出し、または同
時吹込み成形によって成形することを含む、請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項12】
電気装置または電子装置、遠距離通信、情報技術、自動車、航空機、または船舶の領域におけるケーシングとしての、請求項1〜10のいずれか一項に記載の複合材料の使用。
【請求項13】
センサー、スイッチング用モジュール、制御装置、プラグのためのケーシングとしての、請求項12に記載の複合材料の使用。
【請求項14】
低い導電率および/または低い誘電率を有する、燃料、化学物質、液体、粉末および粉塵のためのパイプラインとしての、請求項1〜10のいずれか一項に記載の複合材料の使用。
【請求項15】
抵抗加熱用素子としての、請求項1〜10のいずれか一項に記載の複合材料の使用。
【請求項16】
電気ケーブルにおける電磁遮蔽物としての、請求項1〜10のいずれか一項に記載の複合材料の使用。

【公開番号】特開2013−63657(P2013−63657A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−231942(P2012−231942)
【出願日】平成24年10月19日(2012.10.19)
【分割の表示】特願2007−518521(P2007−518521)の分割
【原出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(511178913)ティコナ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (5)
【Fターム(参考)】