説明

少なくとも1つの試料における熱流を測定するための装置、方法および容器アセンブリ

本発明は少なくとも1つの試料からの熱流を測定する装置および方法に関する。装置1は、1つまたは複数の容器(21、22、・・・、2n)に試料を含むマルチウェル容器アセンブリ(2)を収容するように構成されている。前記装置(1)は、容器アセンブリ(2)を装置(1)に導入させるための開口(11)と、ヒートシンク(13)を有する測定室(12)と、開口(11)から測定室(12)へと延在する流路(14)とを備える。本発明は特に、開口(11)および流路(14)が装置(1)に水平に導かれることと、開口(11)、流路(14)および測定室(12)の高さが、容器アセンブリ(2)を収容するために十分なだけの高さであることを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は少なくとも1つの試料からの熱流を測定する装置および方法に関する。本装置は、1つまたは複数の容器(vessel)に試料を有するマルチウェル容器アセンブリを収容するように構成されている。装置は、容器アセンブリを装置に導入するための開口と、ヒートシンクを有する測定室と、開口から測定室へと延在する流路と、測定中に開口を閉鎖する蓋とを備える。本発明は更に、本発明に係る装置または方法に用いられるように構成されている容器アセンブリにも関連する。
【背景技術】
【0002】
多くの物理的、化学的、生物学的過程は系の熱容量の変化につながる。熱量測定は熱容量の変化を直接的に測定する方法である。熱量測定の機器は物理学、化学、生物学において広い用途に用いられている。熱量測定データから、内部エンタルピー変化ΔH、熱容量変化ΔCp、および絶対熱容量Cpのような基礎的な熱力学特性が得られる。データの更なる分析により、ギブス自由エネルギー変化ΔG°、エントロピー変化ΔS°のような他の熱力学特性が間接的に得られる。試料において発生している複雑または未知なる過程の指標としての熱現象を観察するために、更に複雑な熱量測定機器システムが用いられる。
【0003】
主に2つの熱量測定方法があり、等温熱量測定法および走査熱量測定法である。走査熱量測定法が熱量測定機器の温度を能動的に変化させる方法である一方で、等温熱量測定法では、温度はほぼ一定か、または熱量計内の過程により熱が吸収または放出されることにより変化する方法である。
【0004】
試料特有の必要性または方法的な理由のために、市販の熱量測定可能な機器は、物理学、化学、生物学における特定の関心領域に特化しすぎているかまたはその逆である。例えば、示差走査熱量測定(DSC)は、固体試料に特化しており、その他は、液体溶液または混合物に特化している。また、中には、低温用途、高温用途、および、0〜120℃の温度範囲での使用のために設計された熱量計がある。等温状態(ITC)での滴定のためだけに設計された機器も有る。
【0005】
近年、工業的な熱量測定用途は、主に、製品の生産管理および物理的または化学的安定性に関する材料科学の問題と関連していた。生物学的過程は代謝活性の変化と往々にして関連性があり、これらは細胞レベルにおける酸化過程の結果としての熱変化の現れである。生物学的材料は等温熱量測定により研究されており、例えば、哺乳類細胞、植物細胞、原核細胞、哺乳類組織、植物組織および生物全体などがある。熱量測定により研究されてきた細胞内現象には、例えば、マイトーシス、ネクローシス、アポトーシスおよび代謝活性により誘発された変化などが挙げられる。中でも、生物産業分野において応用可能性があり、例えば、真核生物および原核生物タンパク質製造、創薬、薬品開発、臨床業務(例えば、非特許文献1〜3)がある。1つの重要な理由は、この方法はリアルタイムデータとしてデータを提供でき、このようなリアルタイム性は生物学用途における新技術への共通した要請であった。
【0006】
生命科学産業組織のための全ての方法および技術は、簡易な試料の取扱いにより、高度な試料を得る必要がある。産業界からの要求を満たすためには、方法は平行マルチ試料検査に基づき、好適にはアレイシステムとして構成されることが望ましい。市販の熱量測定機器においては、概して、試料は個別に熱量計に装填または導入される。数種の市販の多流路温度測定器があるが、これらは全て、個別熱量測定流路が温度自動調節器を共有する。
【0007】
多くの多流路熱量計は、特許文献1〜4に記載されているような、抵抗温度計測法、すなわち、サーミスタ抵抗温度計測器または白金抵抗温度計測器、または電熱電圧判定の熱検出のいずれかの使用により説明できる。特許文献4および非特許文献4に記載のサーモパイルチップに基づく微細熱量計もある。これらの種類の機器は高感受性、少量の試料量(数マイクロリットル)、即応性および多流路設計への適応性を有し得るという点において特徴付けられる。しかし、例えば、土のような不均一な試料および細胞、組織および動物のような試料に対する細胞の単層を用いた実験のように、多く用途において試料量が過剰に少ない。更に、熱伝導熱量計について、特定の試料についての検知限界は容器に含まれる試料の量に比例する。従って、特に低い熱出力を有する材料については、数マイクロリットルよりも多い試料量を用いて測定を行うことが必要であり得る。産業界のユーザからの、安全性および費用効果の要請により、試料が容器に入れられ、かつ、廃棄可能な試料容器内において実験が行われることが望ましい。これまでの間、チップ技術ではこの問題に対処することができなかった。
【0008】
サーモパイル熱伝導熱量計が、物理的、化学的または生物学的過程が起きている試料からの熱容量の変化を高感度に測定するために用いられ得る。試料からサーモパイルを経てサーモスタットを備えるヒートシンクへ至る熱流を測定することにより熱が測定される。この測定原理が、複数の着脱可能かつ廃棄可能な、複数の試料容器配列にも応用できるかは、依然として示されていない。この理由としては、(i)測定室に配列を導入した場合に、導入された配列体について良好な熱平衡を保証すること、(ii)測定室に配列を導入した場合に、温度調節ブロックおよびヒートシンクにおける、熱および機構的な、すなわち、圧力の急激な撹乱を予防すること、(iii)多数の容器の着脱可能な配列と、サーモパイルのような熱流センサとの間の高い熱伝導接続を保証すること、が難しいことである。単一の容器コンテナか多数の容器コンテナかに関係なく、熱平衡および安定的な熱測定信号を十分な時間内に得るために、複数のステップにおいて、試料容器が熱量測定室に嵌入される必要がある。熱量測定試料容器は熱量計に垂直に嵌入される。マルチ容器コンテナ配列における、このような嵌入方法は熱平衡のために非効率の長い平衡時間の原因となる。また、サーモパイルの圧電効果応答によって、サーモパイルにおいて大きな変動も引き起される。
【0009】
従って、配列システムに基づき、かつ、試料容器が廃棄可能な熱量測定機器が必要とされている。そのような機器は操作が簡易であり、かつ、ユーザの要求に応じた、高い感受性を有する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許公開公報第2004/0107986号公報
【特許文献2】米国特許公開公報第2005/0241869号公報
【特許文献3】米国特許公開公報第2005/0036536号公報
【特許文献4】米国特許公開公報第2004/0038228号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Beezer, A. E., et al (1993) Microbios. 73, 205-213
【非特許文献2】Beezer, A. E. (1990) Tokai J Exp Clin Med. 15, 369-372
【非特許文献3】Monti, M. (1990 Thermochimica Acta 172, 53-60, and Takahashi, K. (1990) Tokai J Exp Clin Med. 15, 387-394
【非特許文献4】Maskow, T. et al. (2006) J. Biotechnol. 122, 431-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
技術的背景の観点から、熱流測定のための多流路装置を用いて測定室における高い測定安定性を達成することは技術的な課題である。多流路は、装置への大きな開口を必要とし、測定室における試料の上の空間が大きく、従って、温度の点で安定性を保つことは難しい。
【0013】
試料上面の本体を測定室に導入する事は可能であり、本体は測定室内の温度に安定化され、よって、測定室を安定化させて、試料の上の空間を小さくできる。しかし、そのような本体の導入は圧力変動の原因となり、測定室内の空気流を変動させて不要な温度変動を引き起こし、測定前の平衡化にかかる時間を長くし得る。従って、測定環境の維持制御を備えるか、または、容器アセンブリを導入した場合の測定環境の変動が最小化されているようなマルチウェルアセンブリを収容するために十分に大きい測定室を提供することが課題である。
【0014】
如何に迅速に試料を測定室に導入し、測定室への試料導入後に如何に即座に測定開始できるかという観点から、試料を効率的に導入できる装置を提供することが課題である。
【0015】
熱流測定は安定的で制御された環境を必要とし、また、そのような状況下では、測定室において、制御された方法によって、測定室の温度安定性が維持された状態で、要求された試験温度に応じて、温度を増減させる可能性をもたらすことが問題である。
【0016】
いくつかのウェルまたは容器が並行して用いられることができ、各容器が個別にモニタリングされるような測定室を提供することが課題である。
【0017】
また、熱流測定装置内における複数の個別試料の並行測定に適応したマルチウェル容器アセンブリを提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記のように特定された技術的課題のうち、1つまたは複数を解決することを目的として、
少なくとも1つの試料からの熱流を測定する、1つまたは複数の容器に試料を含むマルチウェル容器アセンブリを収容するように構成された装置であって、該装置は、
前記装置内に前記容器アセンブリを導入させる開口と、
ヒートシンクを有する測定室と、
前記開口から前記測定室に渡って延在する流路と、
測定中に前記開口を閉鎖するための閉鎖部材と
を備え、また、前記開口、流路および測定室の高さを最小化する可能性を高めるために、前記開口および流路を前記装置に水平に導き、前記容器アセンブリを収容するために十分なだけの高さとすることを提案する。これにより、容器上に大きな空間のない、非常に小さな測定室を有することが可能となる。
【0019】
前記開口、流路および測定室の前記高さは前記容器アセンブリの高さよりも5mmまたはそれ以下だけ高いことを提案する。
【0020】
如何に迅速に試料を測定室に導入し、測定室への試料導入後に如何に即座に測定開始できるかということに関して、測定室への試料の効率的な導入を提供するために、本発明は、前記測定室が第1の金属体内の空洞より成り、前記流路が第2の金属体を貫く穴より成り、そして、前記第1および第2金属体は相互に断熱されていることを提案する。また、前記ヒートシンクが、前記空洞内に位置する第3の金属体より成り、該第3金属体が前記第1金属体から断熱されていることを提案する。測定室内の環境の制御を更に改善するために、前記測定室が、容器アセンブリの平衡化のために構成されている第1領域と、ヒートシンクを含み、かつ、測定中に容器アセンブリを収容するように構成されている第2領域とに分割されていることを提案する。
【0021】
容器アセンブリ内のいくつかの個別の容器のモニタリングの可能性を提供するために、本発明は、容器アセンブリが第2領域内に載置されたときに、容器アセンブリ内のすべての容器が前記熱センサ上に位置するように、センサが前記ヒートシンク上に位置していることを提案する。異なる熱センサを互いに断熱するために、前記第3金属体の上表面が複数の支柱に分割され、前記熱センサの1つが各支柱の上に載置されることを提案する。
【0022】
測定室内の環境を更に改善するために、前記第1、第2金属体および前記蓋が、同一温度で熱安定されることを提案する。
【0023】
前記金属体が、等温測定のために、選択した実験温度である定常温度において保持されるか、または、前記金属体の温度が、走査測定のために、選択温度の範囲内において変更される。
【0024】
熱がヒートシンクおよび測定室から出るように、外部容器が、前記第1、第2金属体を封入し、該容器が、前記第1、第2金属体からは断熱されていることを提案する。この外部容器をデュワー容器としてもよい。前記第1、第2金属体を有する前記外部容器は、外部室内に位置し、該外部室内の温度が前記測定室内の温度よりも低く維持されている。前記外部室内の温度は、5℃程度またはそれ以上、前記測定室内の温度よりも低い。これにより、ヒートシンクからの熱流と外部室への熱流が誘発され、緩衝帯としての外部容器が測定室の過剰な冷却を防止し、測定室内の環境がより容易に制御できるようになる。
【0025】
装置を、異なる高さの容器アセンブリを収容できるようにするために、前記流路および測定室の高さが、多様な容器アセンブリの高さに適合可能であることを提案する。
【0026】
また、本発明は、試料を含むいくつかの容器の容器アセンブリにも関し、その容器アセンブリは本発明に係る装置に適合されている。各容器の外側底表面が、本発明に係る装置の上に載置されたときに、熱センサと良好に接触するように形成されていることを提案する。
【0027】
特に、本発明に係る装置の上に載置されたときに、前記容器アセンブリ内の各容器が熱センサ上に位置するように、それらを載置することを具体的に提案する。
【0028】
装置内の全ての熱センサを全く等しい高さに位置決めする事は難しく、また、各容器を、それぞれの熱センサと接触させることが非常に重要であるため、前記各容器が前記容器アセンブリに緩く嵌合することを提案し、これにより、各容器がそれぞれの熱センサと直接接触できるようになる。
【0029】
例えば、容器に含まれ得る試料の種類または容器にかけてもよい費用の許容値のような、様々なパラメータに応じて、容器は異なる素材から作成され得る。容器はガラス、ステンレス鋼、またはプラスチック製であり得る。
【0030】
また、前記容器アセンブリまたは容器アセンブリ内の容器が廃棄可能であることを提案する。
【0031】
また、本発明は、装置内に前記容器アセンブリを導入させる開口と、ヒートシンクを有する測定室と、前記開口から前記測定室に渡って延在する流路と、測定中に前記開口を閉鎖するための閉鎖部材とを備える装置によって、マルチウェル容器アセンブリ内の少なくとも1つの試料からの熱流を測定する方法にも関連する。本発明は、水平方向に、前記開口および流路を通じて前記測定室内に前記容器アセンブリを輸送することを提案し、これにより、容器アセンブリを収容するのに十分なだけの高さを有する開口および測定室を用いることが可能になる。
【0032】
本発明に係る方法においては、測定室内の許容可能な安定性を達成するという目的の下に、容器アセンブリが前記測定室内に輸送される前に、前記容器アセンブリが前記流路において平衡化可能であって、第2領域に輸送される前に、前記容器アセンブリが測定室内の第1領域において平衡化可能であり、該第2領域が前記ヒートシンクを含み、かつ、測定用の容器アセンブリを収容するように構成されており、前記容器アセンブリは、測定開始前に、前記第2領域において平衡化可能である。前記容器アセンブリが平衡化に要する時間は、前記流路および前記第1領域において10分程度であり、前記第2領域において30分程度であることを提案する。
【0033】
本発明に係る方法では、前記流路および前記測定室が、等温測定のために、選択した一定の実験温度に維持されるか、または、前記流路および前記測定室の温度が、走査測定のために、選択した温度範囲において変更されることを教示する。
【0034】
測定のために適当な基準温度を得るために、前記容器の少なくとも1つが基準容器として用いられ、該基準容器が内容材料により変更されることを提案する。存在する容器からいかなる数の基準容器を選択することも可能であり、前記容器の半分が基準容器として用いられ、前記容器の半分が試料に供されることも提案する。
【0035】
測定室内の温度を低くするために、外部容器が内部に位置している前記外部室内の温度が、前記測定室の温度よりも低く維持される。前記外部室と前記測定室の温度差が、例えば、5℃程度またはそれ以上である。
【発明の効果】
【0036】
本発明に従う装置および容器アセンブリまたは方法の利点は、本発明は、複数の並列容器における熱流測定のための、制御された安定的な測定環境を提供することである。本発明はまた、容器アセンブリが装置に導入されてから50分程度で測定が開始し得る、迅速な測定手順をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明に従う装置、容器アセンブリ、および方法を、添付の図面を参照しながら以下に詳述する。
【0038】
【図1】本発明に係る装置の概略的かつ極めて単純化した断面図である。
【図2】熱素子を有するヒートシンクと容器アセンブリの概略側面図である。
【図3】外部室を有する本発明の装置の概略的かつ極めて単純化した側面図である。
【図4a】異なる参照容器の配置を有する容器アセンブリの概略的かつ簡略的な上面図である。
【図4b】異なる参照容器の配置を有する容器アセンブリの概略的かつ簡略的な上面図である。
【図4c】異なる参照容器の配置を有する容器アセンブリの概略的かつ簡略的な上面図である。
【図5】本発明の可能性のある実施態様に従って実施した測定から得られた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1を参照して、以下に本発明を更に詳細に説明する。図1は、少なくとも1つの試料21aからの熱流を測定する装置1を示し、該装置1は、1つまたは複数の容器21、22、・・・2n内の試料を含むマルチウェル容器アセンブリ2を収容するように構成されている。
【0040】
装置1は、容器アセンブリ2を装置1に導入するための開口11と、ヒートシンク13を含む測定室12と、開口11から測定室12へと延在する流路14と、測定中に開口を閉鎖する蓋15と、図中に破線で示す閉鎖部材15aとを備える。
【0041】
特に本発明においては、開口11および流路14が装置1に水平に導かれるので、装置1への開口11が比較的小さくなる。開口11の高さ「a」が可能な限り小さいことが望ましいところ、本発明では、開口11、流路14および測定室12が容器アセンブリを収容するために最低限の高さを有する旨を開示する。提示するある実施形態では、開口11、流路14および測定室12の高さ「a」が、容器アセンブリ2の高さ「b」を5mmまたはそれ以下超過する。
【0042】
安定的な測定環境の提供のために、測定室12は第1金属体16内部の空洞として形成され、流路14は第2金属体17を貫通する穴として形成され、第1、第2金属体16、17と、蓋15は相互に断熱されている。これは、第1、第2金属体16、17の間と、第2金属体17と蓋15の間に位置する第1プラスチック部材31により行われ、これらの第1プラスチック部材31は高熱耐性である。外部環境からの蓋15の断熱は、蓋15とは空隙33により隔てられているプラスチック蓋32による。
【0043】
ヒートシンク13は、空洞内に位置する第3金属体18として形成され、この第3金属体18は第1金属体16とは断熱されている。この断熱は、高耐熱性の、第1、第3金属体16、18の間に位置する第2プラスチック部材による。
【0044】
測定室12は、容器アセンブリ2の平衡のため構成されている第1領域12aと、ヒートシンク13を含み、かつ、測定中に容器アセンブリ2を収容するように構成されている第2領域12bとに分けられる。
【0045】
図2は、ヒートシンク13に縦立する容器アセンブリ2を若干拡大した図である。容器アセンブリ2が第2領域12b内に置かれると、熱センサ41、42、・・・、4nがヒートシンク13上に位置するため、容器アセンブリ2内の全ての容器21、22、・・・、2nが熱センサ41、42、・・・、4n上に位置するようになる。第3金属体18の上表面は、支柱181、182、・・・、18nに分割でき、熱センサ41、42、・・・、4nの一つが各支柱181、182、・・・、18nの上面に位置できる。
【0046】
熱センサ41、42、・・・、4nの全てが同じ高さではないことに起因する高さの違いを克服するために、熱センサをヒートシンク13の上面においてばねで付勢して、各センサおよび容器の間の良好な熱接触を保証することができる。
【0047】
また、本発明は、第1、第2金属体16、17と蓋15、15aを同一温度で熱安定させることも目的としている。
【0048】
本発明に係る装置1は、異なる種類の測定に用いられ、測定の目的に応じて、金属体16、17、18が、等温測定のために、選択した実験温度である定常温度において保持されるか、または、金属体16、17、18の温度が、走査測定のために、選択温度の範囲内において変更されることを提案する。
【0049】
測定室12の環境を更に安定化させるために、図1は、外部容器5で第1、第2金属体16、17を封入し、該容器は、第3プラスチック部材35により第1、第2金属体16、17から断熱されている様子を示す。提示した一実施形態は外部5容器がデュワー容器である旨を開示する。
【0050】
図3は、外部容器5が第1、第2金属体16,17が外部室6に位置し、外部室6内の温度は測定室12よりも低く維持されており、よって、温度制御中の測定室の冷却を可能にする実施態様を示す。外部室6内の温度は5℃程度またはそれ以上、測定室12内の温度よりも低い。
【0051】
提示した一つの本発明の実施形態では、流路14および測定質12の高さ「a」は、多様な容器アセンブリ2の高さ「b」に適用可能であり得る。
【0052】
再度、図2を参照し、複数の試料21aを含むいくつかの容器21、22、・・・、2nを備える本発明によるマルチウェル容器アセンブリ2が示されている。本発明は、各容器21、22、・・・、2nの外側底表面21’、22’、・・・2n’が、本発明に係る装置1の上に載置されたときに、熱センサ41、42、・・・、4nと良好に接触するように形成されていることを具体的に教示する。容器アセンブリ2内の各容器21、22、・・・、2nは、本発明に係る装置1内に載置されたときに、熱センサ41、42、・・・、4nの上に位置するように位置合わせされている。
【0053】
装置1において、各熱センサ41、42、・・・、4nが高さにおいて異なることを克服するために、各容器21、22、・・・、2nが容器アセンブリ2に緩く嵌合し、これにより、各容器がそれぞれの熱センサの高さに調節可能である。
【0054】
容器アセンブリ2内の容器21、22、・・・、2nは、異なる材料により構成され得る。例えば、ガラス、ステンレス鋼またはプラスチック製の容器であり得る。
【0055】
容器アセンブリ2が全体として廃棄可能であるか、または、容器アセンブリを構成する容器21、22、・・・、2nのそれぞれが廃棄可能であることを提案する。
【0056】
再度、図1を参照し、以下に本発明に係る方法を詳述する。本発明は、概略図示した、容器アセンブリ2を装置1内に導入する開口11と、ヒートシンク13を有する測定室12と、開口11から測定室12へと延在する流路14と、測定中に開口11を閉鎖する蓋15と、閉鎖部材15aを備える装置を用いて、マルチウェル容器アセンブリ内の少なくとも1つの試料21aからの熱流を測定する方法を示す。
【0057】
本発明に係る方法は、容器アセンブリ2を、測定室12に輸送される前に流路14内で平衡化させること、および、容器アセンブリ2を、第2領域12bに輸送される前に測定室12内の第1領域12a内で平衡化させ、この第2領域12bがヒートシンク13を含み、かつ、測定のための容器アセンブリ2を収容するために構成されていることを提案する。また、容器アセンブリ2を、測定開始前に、第2領域12bにおいて平衡化させることも提案する。平衡化のための時間は、流路14および第1領域12aにおいて10分程度であり、第2領域12bにおいて30分程度である。
【0058】
行われる測定の種類に応じて、様々な方法で温度制御できることは理解されたい。例えば、流路14および測定室12内の温度を等温測定のために選択した一定の実験温度に維持することもでき、また、流路14および測定室12内の温度を走査測定のために選択した範囲の温度において変化させることもできる。
【0059】
図4は、測定のための基準温度を提供するために、容器21rの少なくとも1つを基準容器として用い、任意の基準容器21rを不活性材料で満たすことを示している。図4a、4bおよび4cにおいては、装置の開口を図の下部としているので、測定室におけるあらゆる温度勾配「G」が図中の矢印「G」に従うであろう。
【0060】
図4aは2つの基準容器21r、22rを用いた1つの実施形態を示す。異なる試料が入った容器が破線により2群に分割され、各群からの測定結果が基準容器の測定値に基づいて調節される。
【0061】
図4bは、基準容器が容器の外側の列に位置する様子を示す。この実施形態において、容器を複数の行に分け、各基準容器を、図中の破線に対して固有の行および固有の側にある容器の基準として用いられる。
【0062】
図4cは、半分の容器21r、22r、・・・、2mrが基準容器として用いられ、半分の容器が試料用の容器として用いられる様子を示す。本実施形態において、試料の入ったそれぞれの容器は調整基準容器を用いて測定調整できる。
【0063】
本発明に係る方法は、図3に概略的に示す外部室6内の温度を測定室12の温度よりも低く維持することと、該測定室を封入し、かつ、第1、第2金属体16、17から断熱されている外部容器5が外部室内に位置していることを提案する。外部室6と測定室12の温度差を5℃程度またはそれ以上とすることを提案する。
【0064】
本発明に従う装置および容器アセンブリによる多流路熱量測定システムは、マイクロタイタープレートの容器プレートを用い、培養細胞の平行実験および試験を実施できる。この特性は、以下に例示するような新しい種類の熱量測定実験を具現化する。
a)複数培養細胞からの熱排出の同時測定により、個別の実験によりもむしろ、例えば、用量反応曲線の実施などの理論的な実験計画を具現化できる。
b)複数培養細胞からの熱排出の同時測定により、個別の実験よりもむしろ、細胞生物学測定の必須条件である分析値の正規化を具現化できる。
c)本形式によれば、付着細胞、すなわち、表層に付着して成長する細胞からの熱排出の測定が可能となる。培養細胞に対する従来の熱量測定実験は、浮遊状態で生存する細胞(cells growing in suspension)またはマイクロキャリアに付着した細胞に制限されており、このような場合には正規化はほぼ達成し得なかった。本発明に係る装置および方法を用いて細胞数および形態の制御が可能となり、また、それぞれのウェルについて正規化も個別に行うことが可能となった。
d)本形式によれば、実験を行う際にロボット光学を利用することが可能となる。
【0065】
本発明の具体的な利用態様は、本発明に係る装置において用量応答実験が実施される場合には、以下のように説明される。
【0066】
培養3T3−L1細胞を白色脂肪細胞に分化させ、5つの三重濃度(five triplet concentration)のインシュリンにより処理する。本実験は2つに分けられ、インシュリン添加前の各ウェルの熱出力、基礎代謝率と、インシュリン添加後に誘発された代謝上昇活性を記録する。
【0067】
基礎代謝率を30分間にわたり記録する。装置からマイクロタイタープレートを取り出し、インシュリンをウェル容器に、すなわち使用中のウェル容器に無作為に分配された三重の5濃度に添加する。30分の平衡化の後に、30分間に渡って熱出力が記録される。
【0068】
2つの連続的な熱出力測定の結果が、インシュリンにより誘発された代謝活性と基礎代謝率との間のs率として扱われる。このように、細胞数の算定および他の正規化手順を経る必要がない。結果を図5に示す。
【0069】
本発明は上述の記載および例示的実施形態に限定されず、また、添付の特許請求の範囲に示したように、本発明の概念の範囲内において修正が加えられ得ることは理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの試料からの熱流を測定する装置であって、
該装置は1つまたは複数の容器に試料を含むマルチウェル容器アセンブリを収容するように構成され、該装置は、
前記装置内に前記容器アセンブリを導入させる開口と、
ヒートシンクを有する測定室と、
前記開口から前記測定室に渡って延在する流路と、
測定中に前記開口を閉鎖するための閉鎖部材と
を備え、
前記開口および流路が前記装置に水平に導かれ、
前記開口、流路および測定室の高さは前記容器アセンブリを収容するためにぎりぎりの高さのみを有することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記開口、流路および測定室の前記高さは前記容器アセンブリの高さを5mmまたはそれ以下上回ることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記測定室が第1の金属体内の空洞より成り、前記流路が第2の金属体を通じる穴より成り、そして、前記第1および第2金属体は相互に断熱されていることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記ヒートシンクが、前記空洞内に位置する第3の金属体より成り、該第3金属体が前記第1金属体から断熱されていることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記測定室が、容器アセンブリの平衡化のために構成されている第1領域と、ヒートシンクを含み、かつ、測定中に容器アセンブリを収容するように構成されている第2領域とに分割されていることを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記熱センサが前記ヒートシンク上に位置しており、容器アセンブリが前記第2領域内に載置された際に、容器アセンブリ内の各個別容器が前記熱センサ上に位置することを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第3金属体の上表面が複数の支柱に分割され、前記熱センサの1つが各支柱の上に載置されることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記熱センサが、前記ヒートシンクの上面にばね付勢されることを特徴とする請求項6または7に記載の装置。
【請求項9】
前記第1、第2金属体および前記蓋が、同一温度で熱安定されることを特徴とする請求項2〜8に記載の装置。
【請求項10】
前記金属体が、等温測定のために、選択した実験温度である定常温度において保持されることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記金属体の温度が、走査測定のために、選択温度の範囲内において変更されることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項12】
外部容器が、前記第1、第2金属体を封入し、該容器が、前記第1、第2金属体からは断熱されていることを特徴とする請求項2〜11に記載の装置。
【請求項13】
前記容器がデュワー容器であることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記第1、第2金属体を有する前記外部容器が、外部室内に位置し、該外部室内の温度が前記測定室内の温度よりも低く維持されていることを特徴とする請求項12または13に記載の装置。
【請求項15】
前記外部室内の温度が、5℃程度またはそれ以上、前記測定室内の温度よりも低いことを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記流路および測定室の高さが、多様な容器アセンブリの高さに適合可能であることを特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
試料を含むいくつかの容器を有するマルチウェル容器アセンブリであって、各容器の外側底表面が、請求項1〜16のいずれか一項に記載の装置の上に載置された場合に、熱センサと良好な接触をもたらすように形成されていることを特徴とするマルチウェル容器アセンブリ。
【請求項18】
前記容器アセンブリ内の各容器が、請求項1〜15のいずれか一項に記載の装置内に載置された場合に、熱センサ上に位置するように配置されていることを特徴とする請求項17に記載の容器アセンブリ。
【請求項19】
前記各容器が前記容器アセンブリに緩く嵌合することを特徴とする請求項17または18に記載の容器アセンブリ。
【請求項20】
前記容器がガラス製であることを特徴とする請求項17、18または19に記載の容器アセンブリ。
【請求項21】
前記容器がステンレス鋼製であることを特徴とする請求項17、18または19に記載の容器アセンブリ。
【請求項22】
前記容器がプラスチック製であることを特徴とする請求項17、18または19に記載の容器アセンブリ。
【請求項23】
前記容器アセンブリが廃棄可能であることを特徴とする請求項17〜22のいずれか一項に記載の容器アセンブリ。
【請求項24】
前記容器アセンブリにおける容器が廃棄可能であることを特徴とする請求項17〜22のいずれか一項に記載の容器アセンブリ。
【請求項25】
装置内に前記容器アセンブリを導入させる開口と、
ヒートシンクを有する測定室と、
前記開口から前記測定室に渡って延在する流路と、
測定中に前記開口を閉鎖するための閉鎖部材と
を備える装置によって、マルチウェル容器アセンブリ内の少なくとも1つの試料からの熱流を測定する方法であって、
水平方向に、前記開口および流路を通じて前記測定室内に前記容器アセンブリを輸送することを特徴とする方法。
【請求項26】
前記測定室内に輸送される前に、前記容器アセンブリが前記流路において平衡化可能であって、
第2領域に輸送される前に、前記容器アセンブリが測定室内の第1領域において平衡化可能であり、該第2領域が前記ヒートシンクを含み、かつ、測定用の容器アセンブリを収容するように構成されており、
前記容器アセンブリは、測定開始前に、前記第2領域において平衡化可能であることを特長とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記容器アセンブリが平衡化に要する時間は、前記流路および前記第1領域において10分程度であり、前記第2領域において30分程度であることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記流路および前記測定室が、等温測定のために、選択した一定の実験温度に維持されることを特徴とする請求項25〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記流路および前記測定室の温度が、走査測定のために、選択した温度範囲において変更されることを特徴とする請求項25〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記容器の少なくとも1つが基準容器として用いられ、該基準容器が内容材料により変更されることを特徴とする請求項25〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記容器の半分が基準容器として用いられ、前記容器の半分が試料に供されることを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記外部室内の温度が、前記測定室の温度よりも低く維持されると共に、前記測定室を封入し、かつ、前記第1、第2金属体から断熱されている外部容器が外部室内に位置していることを特徴とする請求項25〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記外部室と前記測定室の温度差が、5℃程度またはそれ以上であることを特徴とする請求項32に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−539104(P2009−539104A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513100(P2009−513100)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【国際出願番号】PCT/SE2007/050368
【国際公開番号】WO2007/139498
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(508353411)シムセル アーベー (1)
【Fターム(参考)】