説明

少なくとも1種のトランス−シンナムアルデヒドを含む組成物、および細菌感染の治療、とりわけ院内感染の治療におけるその使用

本発明は、トランス−シンナムアルデヒドを含む、組成物、特に抗菌薬、とりわけ、抗菌薬に耐性を有する細菌によって起こる、特に、院内感染の、治療または予防のための、トランス−シンナムアルデヒドを含む医薬組成物、抗菌薬としてのトランス−シンナムアルデヒドの使用および本発明による組成物の適用を含む表面を調製するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、抗菌薬の分野に関する。より正確には、本発明は、特に病院環境において、細菌感染、特に耐性菌によって引き起こされる感染の治療に関連してとりわけ使用される、組成物、特に抗菌組成物または医薬組成物に関する。
【0002】
背景技術
1940年代のペニシリン、そしてストレプトマイシンの出現が抗菌薬の時代の幕開けとなった。ペニシリンの導入後、アミノグリコシド、β−ラクタム、マクロライドおよびキノロンなどの多くの他の抗菌薬が導入されたことは、細菌感染の治療における現代医学の大成功の一つであった。
【0003】
しかしながら、細菌感染と闘う新規分子の必要性が増大している。実際には、特にヒトの健康において、院内感染は入院中の患者に影響を及ぼす重篤な感染である。院内感染は、免疫系が低下している患者(例えば、コルチコステロイド療法または化学療法などの治療、移植などの処置を受けているかまたは後天性免疫不全症候群(エイズ)などの免疫系に影響を及ぼす疾患を伴う)にとって特に危険であることがわかっている。既存の抗菌薬に耐性を有する細菌の出現と同時に、院内感染の頻度および重篤度は増大している。
【0004】
薬物耐性現象を示すグラム陽性菌の例として、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)の細菌、特に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、およびエンテロコッカス属(Enterococcus)の細菌、特にエンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)を特に挙げることができる。
薬物耐性現象を示すグラム陰性菌の例として、エシェリキア属(Escherichia)の細菌、特に大腸菌(Escherichia coli)、シュードモナス属(Pseudomonas)の細菌、特に緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、およびアシネトバクター属(Acinetobacter)の細菌、特にアシネトバクター・バウマンニー(Acinetobacter baumannii)を特に挙げることができる。
【0005】
厄介な例は黄色ブドウ球菌のものである。実際、黄色ブドウ球菌菌株の95%を超えるものがペニシリンに耐性を示し、60%を超えるものがその誘導体であるメチシリンに耐性を有するようにもなっている。バンコマイシンに対する感受性が低下している株も特徴となっている。
【0006】
世界保健機関(The World Health Organization)によれば、タンパク質合成を阻害する抗菌薬であるミピロシン(mipirocin)に耐性を有するようになっているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌株の割合は、3年の間に2.7%〜65%増加した。これは、従来抗菌薬類似体の作用は細菌によって生じた多数の耐性の機構によってすぐに対抗される可能性があることを示している。
【0007】
薬物耐性現象は、もはや病院に限定されず、現在ではその地域社会全体に広まる傾向があるため、一層厄介である。実際に、65歳以上の人において、黄色ブドウ球菌によって起こる感染の有病率が高いことが観察されている。高齢者が発症する、黄色ブドウ球菌と関連した、細菌感染、肺炎、心内膜炎、および骨関節または尿路の細菌感染の罹患率は特に憂慮すべきである。
【0008】
グラム陰性バチルス、特に腸内細菌および緑膿菌は、疎水性かつ/または高分子量の抗菌薬(ペニシリンG、ペニシリンM、マクロライド、リファンピシン、フシジン酸、ノボビオシン、バンコマイシン)に対して元々耐性があるが、ほとんどの場合低レベルであり、これは、これらの抗菌薬が細菌の細胞壁の外膜を通過することができないためである。
【0009】
現在入手可能な抗菌薬の事実上総てに耐性を有する菌株の出現および伝播は、重大な健康問題になっている。
【0010】
よって、さらに、グラム陽性菌および/またはグラム陰性菌に対して活性を有する、可能ならばグラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して活性を有する、新規種類の抗菌分子を特性評価し獲得する必要性が増大している。
【発明の概要】
【0011】
よって、本発明の目的の一つは、広いスペクトラムの細菌に対して、特に耐性株に対して活性を有する抗菌薬を得ることである。一つの変形態様によれば、前記細菌薬は、非自然耐性を示す株について活性を有する。別の変形態様によれば、前記細菌薬は、自然耐性を示す株について活性を有する。
【発明の具体的説明】
【0012】
自然耐性の定義は、特に、仏国微生物学会アンチバイオグラム委員会(the Antibiogram Committee of the French Microbiology Society)のCommunique 2006 (2006年1月号)、15頁、16頁、および17頁において見出すことができる。
【0013】
感染病理学では、細菌が耐え得る抗菌薬濃度が、処置後にin vivoで得ることが可能な濃度よりも著しく高い場合に、細菌は「耐性を有する」とみなされる。
【0014】
また、本発明の目的の一つは、標的に対して、特に低用量で、強い活性を示す抗菌薬を同定することである。
【0015】
本発明の他の目的としては、比較的安価であり、調製が容易であり、広範囲あるいは非常に広範囲のスペクトラムに対して活性を示して、抗真菌活性を示し、阻害剤(interfering agent)の存在下でも活性を有し、耐性、特に交差耐性を全くもしくはほとんどもたらさず、および/または治療すべき生物内、および/または生物上で良好な耐容性を示す、抗菌薬の獲得を挙げることができる。
【0016】
本発明者らは、意外にも、これらの目的が、トランス−シンナミックアルデヒド(トランス−シンナムアルデヒド(trans-cinnamaldehyde)とも呼ばれる)を含む組成物を使用することによって、総てまたは部分的に、達成することができることを見出した。
【0017】
トランス−シンナミックアルデヒドまたはトランス−シンナムアルデヒド(GAS 14371−10−9)は、次の化学式を有する:
【化1】

【0018】
前記化合物は、ラセミ化合物比までの無視できない量の、そのシス−シンナミックアルデヒド異性体を含む場合がある。
【0019】
しかしながら、トランス−シンナミックアルデヒドは、20重量%未満、特には10重量%未満、特に5重量%未満、あるいは2重量%未満、特には1重量%未満のシス−シンナムアルデヒドを含むか、あるいはシス−シンナムアルデヒドを含まない場合がある。
【0020】
よって、第1の態様によれば、本発明は、対象として、トランス−シンナミックアルデヒドを含む、あるいはそれからなる抗菌組成物を有する。
【0021】
前記抗菌組成物は、トランス−シンナムアルデヒドと、トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル、クマリン、リナロール、β−カリオフィレン、オイゲノール、シネオール、安息香酸ベンジル、およびサフロールから選択される少なくとも1種の化合物と、またはトランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル、クマリン、リナロール、およびβ−カリオフィレンから選択される少なくとも1種の化合物とを含んでよく、あるいはそれらからなってよい。
【0022】
さらには、前記抗菌組成物は、上述の化合物の少なくとも2種、特に少なくとも3種、あるいは少なくとも4種、さらに特には少なくとも5種を含む、あるいはそれらからなる。
【0023】
特定の実施形態によれば、前記抗菌組成物は、少なくとも三つの異なる成分を含み、またはそれらからなり、各成分は、それぞれ次の三つの群の一つから選択される:
−トランス−シンナムアルデヒド、
−酢酸シンナミル、トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、オイゲノール(eugenol)、およびクマリンから選択される少なくとも1種の化合物、特に酢酸シンナミル、ならびに
−安息香酸ベンジル、トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、クマリン、オイゲノール、サフロール、β−カリオフィレン、リナロール、およびシネオールから、特に安息香酸ベンジル、サフロール、β−カリオフィレン、リナロール、およびシネオールから選択される少なくとも1種の化合物。
【0024】
特に、前記抗菌組成物は、トランス−シンナムアルデヒドと、トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル、およびクマリンから選択される少なくとも1種の化合物と、リナロール、シネオール、サフロール、およびβ−カリオフィレンから選択される少なくとも1種の化合物とを含む、あるいはそれらからなる。
【0025】
別の特定の実施形態によれば、前記抗菌組成物は、少なくとも三つの異なる成分を含み、各成分は、それぞれ次の三つの群の一つから選択される:
−トランス−シンナムアルデヒド、
−酢酸シンナミル、ならびに
−その組成物の総重量に対して0.25〜5重量%の割合のリナロール、安息香酸ベンジル、サフロール、β−カリオフィレン、およびシネオールから選択される少なくとも1種の化合物。
【0026】
第1の具体的な実施形態によれば、前記抗菌組成物は、少なくとも三つの異なる成分からなり、各成分は、それぞれ上記三つの群の一つから選択される。
【0027】
さらに別の特定の実施形態によれば、前記抗菌組成物は、少なくとも三つの異なる成分を含み、各成分は、それぞれ下記三つの群の一つから選択される:
−トランス−シンナムアルデヒド、
−その組成物の総重量に対して、1〜10重量%の割合のトランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、ならびに
−安息香酸ベンジル、サフロール、β−カリオフィレン、リナロール、およびシネオールから選択される少なくとも1種の化合物。
【0028】
第2の具体的な実施形態によれば、前記抗菌組成物は、少なくとも三つの異なる成分からなり、各成分は、それぞれ上記三つの群の一つから選択される。
【0029】
トランス−シンナムアルデヒドは、前記組成物中に、その組成物の総重量に対して、30〜100重量%、特に40〜90重量%、特に50〜85重量%、あるいは55〜80重量%の割合で存在する。
【0030】
トランス−2−メトキシシンナムアルデヒドは、前記組成物の総重量に対して0.5〜15重量%、特に1〜10重量%、特に1.5〜8重量%、あるいは2.5〜7.5重量%の割合で存在してよい。
【0031】
酢酸シンナミルは、前記組成物の総重量に対して0.1〜8重量%、特に0.25〜5重量%、特に0.5〜3重量%の割合で存在してよい。
【0032】
クマリンは、前記組成物の総重量に対して、0.25〜5重量%、特に0.5〜3.5重量%、特に0.75〜2.25重量%の割合で存在してよい。
【0033】
しかしながら、特定の実施形態では、クマリンの割合は、1重量%未満、特には0.5重量%未満であるか、または前記組成物は、クマリンを全く含まない。
【0034】
リナロールは、前記組成物の総重量に対して、0.1〜8重量%、特に0.25〜5重量%、さらに、0.5〜3重量%の割合で存在してよい。
【0035】
シネオールは、前記組成物の総重量に対して、0.1〜8重量%、特に0.25〜5重量%、さらに、0.5〜3重量%の割合で存在してよい。
【0036】
サフロールは、前記組成物の総重量に対して0.01〜5重量%、特に0.05〜2重量%、さらに、0.1〜1重量%の割合で存在してよい。
【0037】
しかしながら、特定の実施形態では、サフロールの割合は、1重量%未満、特には0.5重量%未満であるか、または前記組成物は、サフロールを全く含まない。
【0038】
β−カリオフィレンは、前記組成物の総重量に対して、0.1〜5重量%、特には0.25〜3重量%、さらに、0.5〜2重量%の割合で存在してよい。
【0039】
しかしながら、特定の実施形態では、β−カリオフィレンの割合は、1重量%未満、特に0.5重量%未満であるか、または前記組成物は、β−カリオフィレンを全く含まない。
【0040】
オイゲノールは、前記組成物の総重量に対して、0.01〜15重量%まで、特に0.1〜10重量%まで、さらに0.2〜7.5重量%の割合で存在してよい。
【0041】
しかしながら、特定の実施形態では、オイゲノールの割合は、1重量%未満、特には0.5重量%未満であるか、または前記組成物は、オイゲノールを全く含まない。
【0042】
安息香酸ベンジルは、前記組成物の総重量に対して、0.01〜3重量%、特に0.05〜2重量%まで、さらに0.1〜1重量%の割合で存在してよい。
【0043】
前記抗菌組成物は、所望により、1種以上の追加成分を含んでよい。有利には、前記組成物は、グアヤコールを含まない。
【0044】
前記抗菌組成物は、を含んでよく、またはそれらからなってよい:
その組成物の総重量に対して、40〜90重量%のトランス−シンナムアルデヒド、
0.5〜15重量%のトランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、
0.1〜8重量%の酢酸シンナミル、
0.1〜8重量%のリナロール、
0.25〜5重量%のクマリン、および
0.1〜5重量%のβ−カリオフィレン。
【0045】
本発明による組成物は、少なくとも1種類の、クスノキ属(Cinnamomum)の植物、特に肉桂の樹皮および/または葉、特に幹、小枝、および/または全枝由来の精油を含んでよい。
【0046】
特定の実施形態によれば、前記抗菌組成物は、チャイニーズシナモン(Chinese cinnamon)の精油および/またはシナモン樹皮(桂皮)(Cinnamon bark)の精油を含む、あるいはそれらからなる。
【0047】
本発明に関連して、「精油」という表現は、次の総てを指す:
−天然精油、すなわち、抽出により(ほとんどの場合蒸留により)得られるもの、
−いくつかの天然に存在する化合物が除去された精製精油、そのような精製油は、とりわけ、精留油、すなわち抽出により(ほとんどの場合蒸留により)、その後、ある特定の天然に存在する化合物(例えば、クマリン)を除去することを目的とした追加工程(ほとんどの場合第2の蒸留)により得られるものであってよい、
−天然に存在する化合物の総てまたは一部だけを含み得る、化学合成により得られる合成精油。
チャイニーズシナモンは肉桂とも呼ばれている:そのラテン語名は、Cinnamomi cassiae aetheroleumである。欧州薬局方によれば、チャイニーズシナモンの精油は、Cinnamomum cassia Blume (C. aromatium Nees)の葉および若枝の蒸気飛沫同伴により得られる。主成分は次のとおりである(精油の総重量に対して表した重量百分率):
トランス−シンナミックアルデヒド:70〜90%
酢酸シンナミル:1〜6%
オイゲノール:<0.5%
トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド:3〜15%
クマリン:1.5〜4%。
シナモン樹皮は、セイロンシナモン(Ceylon cinnamon)としても知られている:そのラテン語名は、Cinnamomi zeylanicii cortices aetheroleumである。欧州薬局方によれば、セイロンシナモンの精油は、Cinnamomum zeylanicum Neesの若木の樹皮の蒸気飛沫同伴により得られる。主成分は次のとおりである(精油の総重量に対して表した重量百分率):
トランス−シンナミックアルデヒド:55〜75%
オイゲノール:<7.5%
トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド:0.1〜1%
クマリン:<0.5%
シネオール:<3.0%
リナロール:1〜6%
β−カリオフィレン:1〜4%
サフロール:<0.5%
安息香酸ベンジル:<1%。
【0048】
精油は、伝統的医学において3000年あまりもの間用いられてきた。歴史を通じて、この使用が徐々に発展し、最終的には20世紀初期に逆症療法的植物療法の一分野である芳香療法の誕生へとつながった。
【0049】
芳香療法(aromatherapy)は、精油を用いて異種疾患群を治療する伝統的かつ経験的な医学である。さらに、生薬学では、精油およびそれらのテルペンの三つの主作用(抗感染性、鎮痙性、および抗刺激性)が認められている。
【0050】
これらの精油のうち、チャイニーズシナモンの精油とシナモン樹皮の精油は、それらの多くの有益な特性:積極性、抗感染作用、抗菌作用、一般および性的作用、呼吸および神経強壮作用ならびに興奮作用、充血、麻酔作用、抗凝固作用について記載されている。
【0051】
現在までに記載されているこれらの精油のいわゆる「抗菌」活性は、主として殺菌活性であり、食料品の保存において十分に利益を得るために利用される。そのため、この活性は、これらのシナモン精油、またはそれらの主要な有効成分であるトランス−シンナミックアルデヒドの食品産業(食品保存)における使用に集中している。これらの油の活性は、一般的にあまり信頼性がなくあまり再現性がない方法によって決定されており、そのため、不正確なあるいは間違った結果につながっている。
【0052】
特に、トランス−シンナミックアルデヒドを特に含む組成物の、耐性菌および/または嫌気性細菌に特に特異的な活性スペクトルでの薬学的抗菌薬使用はこれまで構想されていない。
【0053】
特に、本発明による組成物、特に抗菌組成物または医薬組成物は、抗生物質、特に従来抗生物質、とりわけ、本文に記述しているものを含まない。
【0054】
別の態様によれば、本発明はまた、対象として、特に抗菌有効成分として、特に、細菌、特に抗菌薬耐性菌によって起こる、特に地域社会または院内由来の、疾患の治療または予防のための、トランス−シンナミックアルデヒドまたは上記の抗菌組成物、特に、例えば、動物において、特に哺乳類において、特にヒトにおいて、従来用いられている抗菌薬を含む、組成物、特に医薬組成物、または薬物、特に抗生物質を有する。
【0055】
特に、前記組成物、特に医薬組成物、または薬物は、嫌気性細菌によって起こる細菌感染の治療または予防用である。
【0056】
前記抗菌有効成分は、上記の抗菌組成物に相当し得るため、少なくとも三つの異なる成分を特に含んでよく、またはそれらからなってよく、各成分は、下記群の一つから選択される:
−トランス−シンナムアルデヒド、
−酢酸シンナミル、トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、オイゲノールおよびクマリンから選択される少なくとも1種の化合物、特に酢酸シンナミル、ならびに
−安息香酸ベンジル、トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、クマリン、オイゲノール、サフロール、β−カリオフィレン、リナロールおよびシネオールから、特に安息香酸ベンジル、サフロール、β−カリオフィレン、リナロールおよびシネオールから選択される少なくとも1種の化合物。
【0057】
前記抗菌有効成分は、シンナムアルデヒドと、トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル、クマリン、リナロール、β−カリオフィレン、オイゲノール、シネオール、安息香酸ベンジル、およびサフロールから選択される少なくとも1種の化合物、またはトランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル、クマリン、リナロール、およびβ−カリオフィレンから選択される少なくとも1種の化合物とをさらに含んでよく、あるいはそれらからなってよい。
【0058】
さらに、前記有効成分は、上述の化合物の少なくとも2種、特には少なくとも3種、あるいは少なくとも4種、さらに特には少なくとも5種を含む、あるいはそれらからなる。
【0059】
さらに、前記抗菌有効成分は、トランス−シンナムアルデヒドと、トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル、およびクマリンから選択される少なくとも1種の化合物と、リナロールおよびβ−カリオフィレンから選択される少なくとも1種の化合物とを含む、あるいはそれらからなる。
【0060】
さらに、前記抗菌有効成分は、前記組成物の第1または第2の具体的な実施形態を含む、あるいはそれらからなる。
【0061】
前記抗菌有効成分は、チャイニーズシナモンの精油、シナモン樹皮の精油または該精油の混合物をさらに含んでよく、またはそれらからなってよい。
【0062】
最後に、本発明による、いわゆる「合成」または「精製」組成物、すなわち、限られた数の成分を含むものは、活性の向上および毒性の低下および/または副作用の減少を示す場合もある。
【0063】
さらに、本発明による組成物は、阻害物質、例えば、ウシアルブミンおよび/またはヒツジ赤血球の存在下で殺菌活性を示す場合がある。
【0064】
別の態様によれば、本発明はまた、対象として、薬物の調製のための抗菌有効成分または抗菌組成物の使用を有する。
【0065】
本発明に関連して、「耐性菌」、特に抗菌薬耐性菌とは、少なくとも1種の従来用いられている抗生物質および/もしくは抗菌薬、または抗生物質および/もしくは抗菌薬ファミリー、特に少なくとも2種、特には少なくとも3種、あるいは少なくとも4種の、従来用いられている抗生物質および/もしくは抗菌薬、または抗生物質および/もしくは抗菌薬のファミリーに耐性を有する細菌を指す。抗生物質および/または抗菌薬は、下記の大きなファミリーに属する化合物から選択してよい。
【0066】
本発明に関連して、「多耐性菌」とは、特に細菌種が感受性を有するはずであり、または原則として感受性を有する数種の抗生物質および/または抗菌薬に耐性を有する細菌を示し、特に、その細菌は少なくとも二つの非自然耐性を有する。
【0067】
本発明による、「抗生物質」とは、生物が細菌感染と闘うことを助ける抗菌物質を示す。
【0068】
本発明による、「抗菌有効成分」とは、特にin vitroにおいて、例えば、組成物、特に医薬組成物、食品組成物、または化粧料組成物において、産業施設または飼養施設の消毒のために、あるいはin vivoにおいて、特に動物において、さらにヒトにおいて、静菌性または殺菌性を示し、および/または特に酵母に対して、殺真菌性を示す任意の分子を指す。
【0069】
別のその態様によれば、本発明はまた、対象として、特に化粧料組成物、医薬組成物、および/または食物組成物における、抗菌薬または防腐剤としての、本発明による組成物の使用を有する。抗菌薬および/または防腐剤の割合は、下記と同じオーダーであってよく、あるいは同一であってよい。
【0070】
物質が細菌の増殖を停止または減少させる場合にはその物質は静菌性である。測定は、実験的に、最小発育阻止濃度(MIC)について行われ、MICは、細菌増殖に有利な条件下での接触の18〜24時間後に細菌増殖がもはや観察されない場合のその物質の最低濃度である。
【0071】
物質が細菌の生命力を決定的に消失させる場合にはその物質は殺菌性である。測定は、実験的に、微生物個体数の対数減少について行われる。殺菌効果は、細菌個体数の3−log減少と定義される。本発明に関連する「殺菌効果」はまた、実施例7の場合と同じように定義してもよい。
【0072】
本発明の有利な変形態様によれば、前記抗菌有効成分および/または組成物、特に医薬組成物および/または抗菌組成物は、殺菌性である。
【0073】
公知でありこれまで一般に用いられている、抗菌薬である抗生物質は、特に次の大きなファミリーに属する:
アミノグリコシド、
β−ラクタム、例えば、セファロスポリンβ−ラクタム、ペニシリンβ−ラクタムおよび他のβ−ラクタム(カルバペネム、モノバクタム)など、
サイクリン(ドキシサイクリン、リムサイクリン(limecycline)、メタサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン(oxtetracycline)、チゲサイクリン)、
グリコペプチド(テイコプラニン、バンコマイシン)およびポリペプチド、
マクロライドおよびマクロライド様化合物(リンコサミド、ケトライド、ストレプトグラミン)、
キノロン(フルオロキノロンを含む)、
抗菌ペプチド、特にグラミシジン、
ファージ、ならびに
その他(フシジン酸、ノキシチオリン、ダプトマイシン、ホスホマイシン、オキサゾリジノン、フェニコール、ポリミキシン、リファンピシンなど)。
【0074】
ますます細菌は、これらの種類の抗菌薬、特に抗生物質の1種以上に耐性を有するようになっている。
【0075】
これまで用いられている主要な抗菌薬は、グラム陰性菌またはグラム陽性菌のいずれかに対して活性がより高く、または特異的でもある。特に、これまで用いられている主要な抗菌薬は、グラム陽性菌に対して活性がより高く、または特異的でもある。よって、グラム陰性菌、さらにはグラム陽性菌の発生を停止するまたは、有利には、それらの生命力を消失させることが可能な抗菌薬が必要である。
【0076】
しかしながら、驚くべき非常に有利なことに、本発明による組成物は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方において抗菌活性を示す。本発明による組成物は、そのような非耐性菌および/または耐性菌、さらには多耐性菌においても効果的であり得る。
【0077】
特に、本発明による組成物は、次の属の耐性グラム陰性菌に対して活性を有することが示された:
シュードモナス属、さらには緑膿菌、
アシネトバクター属、さらにはA.バウマンニー、
エシェリキア属、さらには大腸菌、
エンテロバクター属(Enterobacter)、さらにはE.アエロゲネス(E. aerogenes)。
【0078】
しかし、トランス−シンナミックアルデヒドおよび本発明による組成物は、耐性グラム陽性菌、特に次の属のものに対して活性を有し得ることも示された:
スタフィロコッカス属、さらには黄色ブドウ球菌、および/または
エンテロコッカス属、さらにはE.フェカーリス。
【0079】
本発明による組成物は、嫌気性細菌、特に次の属のものに対して活性を有し得る:
バクテロイデス属(Bacteroides)、特にB.フラギリス(B. fragilis)およびB.シータイオタオミクロン(B. thetaiotaomicron)、
エガセラ属(Eggerthella)、特にE.レンタ(E. lenta)、
ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)、特にP.ミクロス(P. micros)、ペプトストレプトコッカス(P. spp.)、およびP.アナエロビウス(P. anaerobius)、
クロストリジウム属(Clostridium)、特にウェルシュ菌(C. perfringens)およびC.ディフィシル(C. difficile)、
ミクロモナス属(Micromonas)。
【0080】
本発明の第1の変形態様において、細菌はシュードモナス属のものである。この細菌は耐性を有していてよい。この細菌は、次のものからの少なくとも一つの耐性の観察によって特徴付けられる:
フルオロキノロン耐性、
セファロスポリン耐性、特に第一、第二または第三世代セファロスポリン、
ペニシリナーゼ産生、すなわち、β−ラクタムペニシリンに対する耐性、とりわけ、染色体性セファロスポリナーゼの過剰産生の場合、
基質特異性拡張型(extended-spectrum)β−ラクタマーゼ(ESBL)産生、
カルバペネマーゼ産生、特にVIM−2カルバペネマーゼ、
ポーリン欠損、特にD2ポーリン、これによりペニシリンおよびセファロスポリン以外のβ−ラクタムに対する耐性をもたらすことができる、
アミノグリコシド耐性。
【0081】
本発明の第2の変形態様において、細菌はアシネトバクター属のものである。この細菌は耐性を有していてよい。この細菌は、次のものからの少なくとも一つの耐性の観察によって特徴付けることができる:
多耐性、
ベトナム基質特異性拡張型β−ラクタマーゼ(VEB−1)。
【0082】
本発明の第3の変形態様において、細菌はエシェリキア属のものである。この細菌は耐性を有していてよい。この細菌は、次のものからの少なくとも一つの耐性の観察によって特徴付けることができる:
フルオロキノロンおよびキノロン耐性、
セファロスポリン耐性、特に第一、第二および第三世代セファロスポリン、
基質特異性拡張型β−ラクタマーゼ(ESBL)産生、
ペニシリナーゼ産生。
【0083】
本発明の第4の変形態様において、細菌はスタフィロコッカス属のものである。この細菌は耐性を有していてよい。この細菌は、次のものからの少なくとも一つの耐性の観察によって特徴付けることができる:
メチシリン耐性、
アミノグリコシド耐性、特にトブラマイシン/カナマイシン耐性:KT表現型、
フルオロキノロン耐性。
【0084】
本発明の第5の変形態様において、細菌はエンテロコッカス属のものである。この細菌は耐性を有していてよい。この細菌は、次のものからの少なくとも一つの耐性の観察によって特徴付けることができる:
アミノグリコシド耐性、
マクロライドおよびマクロライド様化合物に対する耐性。
【0085】
本発明の第6の変形態様において、細菌はエンテロバクター属のものである。この細菌は耐性を有していてよい。この細菌は、基質特異性拡張型β−ラクタマーゼ(ESBL)産生の少なくとも一つの耐性の観察によって特徴付けることができる。
【0086】
特定の実施形態によれば、本発明は、対象として、特に抗菌有効成分として、本発明による抗菌組成物を含む、またはからなる、医薬組成物、または薬物を有する。
【0087】
前記医薬組成物、または前記薬物は、例えば、動物において、特に哺乳類において、特にヒトにおいて、とりわけ抗菌薬耐性菌によって起こる、細菌感染の治療または予防用である。
【0088】
特に、前記医薬組成物、または前記薬物は、嫌気性細菌によって起こる細菌感染の治療または予防用である。
【0089】
前記組成物、特に医薬組成物、または前記薬物は、特に酵母による、真菌感染および/または特に耐性菌、あるいは多耐性菌による、細菌感染と関連した、疾患、特に院内疾患の治療または予防のためである。
【0090】
前記疾患は、尿路感染、呼吸器系感染、消化器系感染、中枢神経系感染、皮膚および軟組織感染、骨、関節および筋肉感染、血管系感染、敗血性ショック、糖尿病性足病変ならびに痂皮からなる群から選択することができる。
【0091】
そのような耐性菌は、特に病院環境において、ますます頻繁に遭遇し、病院で起こる数多くの症候群の原因である。よって、そのような細菌および/または酵母と闘うことによって、病院で起こる数多くの症候群を予防または治療することが可能となる。
【0092】
本発明の有利な変形態様によれば、本発明による組成物は、特に酵母および/または細菌を媒介とした、特に耐性菌、あるいは多耐性菌による、院内疾患の治療または予防のためである。
【0093】
前記疾患は、尿路感染、呼吸器系感染、消化器系感染、中枢神経系感染、皮膚および軟組織感染、骨、関節および筋肉感染、血管系感染、敗血性ショック、糖尿病性足病変ならびに痂皮からなる群から選択することができる。
【0094】
本発明に関連して、「院内感染」とは、病院環境においてかかる、特に患者の入院の少なくとも24時間後、または少なくとも48時間後に症状が現われる、任意の微生物感染、ウイルス感染、および/または真菌感染を示す。
【0095】
本発明はまた、次の病因に関連して遭遇する症候群の治療および予防に関する:
上皮関門を通過しない感染、例えば、吸入または経口摂取による感染など、
上皮関門を通過する感染、例えば、穿刺、切傷、創傷、移植、輸血による感染など、
侵襲的医療機器(人工器官、ステント)の使用と関連した感染、
手術による感染、周術期、および術後の感染、
火傷後の感染。
【0096】
本発明による組成物はまた、患者の様々な細菌叢、特に皮膚細菌叢、口腔細菌叢、および鼻咽頭細菌叢における、細菌、特に金色ブドウ球菌の輸送を処置するおよび/または予防のためである。
【0097】
細菌の増殖によって引き起こされる疾患、さらに院内疾患は、いわゆる感受性の高い個体ではほとんどの場合遭遇する。よって、本発明による組成物は、特に、免疫抑制者または免疫不全者における院内疾患の治療および/または予防用である。そのような免疫抑制者または免疫不全者は、高齢者(65歳を超えている人)、乳児(12ヶ月未満)、幼児(4歳未満)、コルチコステロイド療法を受けている患者、移植患者、およびエイズ患者であってもよい。
【0098】
前記医薬組成物または前記薬剤では、抗菌有効成分として、トランス−シンナミックアルデヒドそのもの、またはトランス−シンナミックアルデヒドを、トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル、クマリン、リナロール、およびβ−カリオフィレンから選択される少なくとも1種の化合物と組み合わせて、特にトランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミルおよびクマリンから選択される少なくとも1種の化合物、ならびにリナロールおよびβ−カリオフィレンから選択される少なくとも1種の化合物と組み合わせて含有する組成物のいずれかを使用することが可能である。前記抗菌有効成分はまた、本発明による抗菌組成物に相当し得る。
【0099】
トランス−シンナムアルデヒドは、チャイニーズシナモンの精油またはシナモン樹皮の精油から、所望により、これらの2種の精油の組合せからのものであってよい。
【0100】
前記医薬組成物は、前記抗菌組成物を含んでよく、またはそれからなってよい。特に、前記医薬組成物は、前記抗菌組成物を有効成分として、特に抗菌有効成分として含んでよい。
【0101】
よって、本発明による組成物は、チャイニーズシナモンの精油および/またはシナモン樹皮の精油を、9:1〜1:9、特に4:1〜1:4、特に2:1〜1:2の重量比率で、あるいは1:1の重量比率で含んでよく、あるいはそれらからなってよい。
【0102】
実験結果によると、チャイニーズシナモンの精油については、0.125〜1%の体積濃度(v/v)で緑膿菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、およびエンテロコッカス属の耐性株に対して抗菌活性を示す。より低い濃度(0.06%)でも、試験した総ての耐性株に対して抗菌活性が常に観察される。さらに低い濃度(0.03%)でも、緑膿菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、アシネトバクター・アエロゲネス(Acinetobacter aerogenes)、およびアシネトバクター・バウマンニーの耐性株の大部分に対して抗菌活性が常に観察される。
【0103】
実験結果によると、シナモン樹皮の精油については、0.125〜1%の体積濃度(v/v)で緑膿菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、アシネトバクター・アエロゲネス、およびエンテロコッカス属の耐性株に対して抗菌活性を示す。より低い濃度(0.06%)でも、大腸菌、黄色ブドウ球菌、およびエンテロコッカス属の総ての耐性株に対して抗菌活性が常に観察される。さらに低い濃度(0.03%)では、黄色ブドウ球菌の二つの耐性株に対してのみ抗菌活性が観察される。
【0104】
このように、これらの二種の精油は、病院環境においてサンプリングした耐性菌株に対して非常に良好な結果を与え、チャイニーズシナモンの精油で最良の結果が得られることが記されている。
【0105】
また、特にチャイニーズシナモンの精油と、シナモン樹皮の精油との組合せについては、予期しない相乗効果も記された。そのような組合せを(1:1体積比で)用いた場合、0.06%(v/v)の非常に低い濃度でもほぼ総ての株に対して抗菌活性が観察される。
【0106】
よって、本発明はまた、対象として、チャイニーズシナモンの精油と、シナモン樹皮の精油とを組み合わせての、相乗効果による、使用を有する。その組合せは、それらの二種の精油を任意の割合で含んでよく、1:1重量比率が好ましい。
【0107】
これらの二種の油の間でそのような相乗効果が観察されたのはこれが初めてである。よって、本発明は、抗菌有効成分として、チャイニーズシナモンの精油とシナモン樹皮の精油との、好ましくは1:1の体積比での組合せを含む任意の医薬組成物にも及ぶ。チャイニーズシナモンの精油とシナモン樹皮の精油との組合せを含む、前記医薬組成物は、本発明に関連して、上記の非耐性菌および耐性菌の両方に対する抗菌薬として用いることができる。前記細菌は、グラム陽性菌またはグラム陰性菌、特に次の属の耐性または非耐性グラム陰性菌:
シュードモナス属、さらには緑膿菌、
アシネトバクター属、さらにはアシネトバクター・バウマンニー、
エシェリキア属、さらには大腸菌、
エンテロバクター属、さらにはエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、
あるいは次の属の耐性または非耐性グラム陽性菌:
スタフィロコッカス属、さらには黄色ブドウ球菌、
エンテロコッカス属、さらにはエンテロコッカス・フェカーリス
であってよい。
【0108】
本文において言及した「相乗効果」は、特に、次のように算出することができる:
FICindex=(MICA/B/MIC)+(MICB/A/MIC
ここで、
FICindexは、fractional inhibitory concentration indexであり、
MIC=化合物A、特に抗生物質Aの単独でのMIC、
MIC=化合物B、特に抗生物質Bの単独でのMIC、
MICA/B=化合物A、特に抗生物質AのA+Bの混合物でのMIC、
MICB/A=化合物B、特に抗生物質BのA+Bの混合物でのMIC。
この式により、相乗効果、相加効果、不関または拮抗効果が存在するか否かを次のように判定することが可能になる:
FICindexが0.5以下である場合には相乗効果が存在し、
FICindexが0.5より大きく1以下である場合には相加効果が存在し、
FICindexが1より大きく2以下である場合には不関が存在し、
FICindexが2より大きい場合には拮抗効果が存在する。
【0109】
別のその態様によれば、本発明は、対象として、前記抗菌組成物が希釈された組成物を有し、ここで、該希釈組成物は、その希釈組成物の総重量に対して1〜90重量%、特に5〜75重量%、特に10〜50重量%、特に20〜50重量%の抗菌組成物を含んでいてよい。
【0110】
特定の実施形態によれば、本発明による組成物、抗菌組成物もしくは医薬組成物または薬物は、その組成物の総重量に対して、0.1〜6.5重量%、特に0.2〜5.5重量%、特に0.4〜5重量%、あるいは0.5〜4.5重量%のトランス−シンナムアルデヒドの割合を有する。
【0111】
さらに、抗菌有効成分の割合は、特に該抗菌有効成分が、上の特定の実施形態の一つによって、さらには具体的な実施形態の一つによって定義されたとおりの抗菌組成物に相当する場合には、その組成物の総重量に対して0.05〜7.5重量%、特に0.1〜6重量%、特に0.2〜5重量%、あるいは0.5〜5重量%、特に0.75〜5重量%であってもよい。
【0112】
本発明による組成物は、皮膚および/または粘膜上、皮膚および/または粘膜と接触するための装置上および/または上皮関門を破壊するための装置上に適用されることを目的とすることができる。
【0113】
本発明の別の目的対象は、細菌および/または真菌の感染、特に院内感染の予防または予防法のための方法に関し、その方法は、例えば、カテーテル、特に血管カテーテルもしくは尿道カテーテルによって、または細菌および/または酵母の通過を可能にする破壊によって、上皮が裂傷または損傷を受けることが予定されている皮膚表面および/または粘膜上に本発明による組成物を適用する工程を含む。
【0114】
本発明による組成物、特に医薬組成物は、その最終用途に適合している任意の形で処方することができる。
【0115】
本発明による組成物は、特に、局所、口腔(経口)、直腸、肺、静脈内、皮下、皮膚、筋肉内、および/または腹膜内の経路による投与に適した形態で処方することができる。そのようなものとして、本発明による組成物は、任意の好適な賦形剤を含んでよい。
【0116】
本発明による組成物は、上記投与、特に局所適用、または注射による投与に適した形態で特に処方することができる。
【0117】
本発明による組成物は、特に、液体、エマルション、クリーム、またはゲルの形態で提供することができる。一般的に、本発明による組成物は、例えば、皮膚上、粘膜上、または処置装置上への容易な表面適用を可能にする任意の形態で提供することができる。
【0118】
有利には、特に局所製剤および/または局所用、例えば、皮膚用の製剤では、前記組成物が容易には流れ出ず、それらを適用する基体上に残る形態でそれらを提供することができる。
【0119】
さらには、予防的使用の場合、本発明による組成物、特に医薬組成物は、局所適用を可能にする形態、例えば、クリーム、ポマード、粉末、ゲル、またはエマルションなどで提供することができる。
【0120】
特に前記組成物が所望の場所において同じ位置に残るように、それが、特に37℃で、ほとんどまたは全く流れないものであることが有利である。
【0121】
本発明による組成物、特に医薬組成物は、特に、疎水性形態、すなわち、水を含まない、および/または極性溶媒を含まない形態で提供することができる。
【0122】
本発明による組成物は、特にゲル形態で提供する場合には、500〜2000cP、特に750〜1500cPの粘度を有し得る。粘度は、25℃において、ポータブルCPE−52を250rpmで使用して測定することができる。
【0123】
特にポマード、ゲル、またはクリームの形態の、本発明による組成物、特に医薬組成物は、ポリエチレングリコール、特にマクロゴール400、中鎖トリグリセリドおよび/または大豆油を含んでよく、特にその組成物は、これらの化合物の一つだけを含む。
【0124】
本発明による組成物、特に医薬組成物は、その組成物の総重量に対して70〜99重量%、特に90〜97重量%の全割合のこれらの化合物を含んでよい。
【0125】
前記組成物は、コロイドシリカを、特に、その組成物の総重量に対して2〜20重量%、特に3〜10重量%の、あるいは約5重量%の割合でさらに含んでよい
【0126】
本発明による組成物、特に医薬組成物はまた、エマルションであってよく、特にこのエマルションはゲル化剤を含むものである。
【0127】
ゲル化剤は、ポリマー、特にポリビニルピロリドン、特にポビドン、例えば、ポビドンK30(商標)であってよい。ゲル化剤の割合は、前記組成物の総重量に対して、40〜60重量%であってもよい。
【0128】
前記エマルションは、界面活性剤、例えば、ポリソルベート、オレイン酸ポリグリセリルまたはカプリン酸/カプリル酸グリセリドなどを含んでよい。界面活性剤の割合は、前記組成物の総重量に対して1〜5重量%であってもよい。
【0129】
前記エマルションは、水を、特に、前記組成物の総重量に対して、40〜60重量%の割合で含んでよい。
【0130】
本発明による組成物はまた、特に表面処理として、侵襲的または非侵襲的医療機器、埋め込み式能動型医療機器(例えば、人工器官またはステントなど)および埋め込み式装置へ適用可能なように、処方することができる。そのようなものとして、本発明による組成物は、任意の好適な賦形剤を含んでよい。
【0131】
特定の実施形態によれば、前記組成物、特に抗菌組成物または医薬組成物はまた、広域消毒剤、例えば、クロルヘキシジンまたはヨウ素、特にポビドンヨウ素溶液(例えば、ベタジン(商標))などを含む。
【0132】
特定の実施形態によれば、本発明は、対象として、本発明による組成物、特に抗菌組成物または医薬組成物を含む包帯またはパッチを有する。そのような包帯またはパッチは、特にカテーテル使用の場合において、特に院内疾患の予防用である。特に、前記パッチまたは包帯は滅菌包装される。
【0133】
別の実施形態によれば、特に予防的処置または表面処理の場合において、前記組成物、特に抗菌組成物または医薬組成物は、クリーム、エマルション、ポマード、粉末、またはゲルである。
【0134】
別の実施形態によれば、特に治療的処置の場合において、前記組成物、特に抗菌組成物または医薬組成物は、特に静脈内、皮下、経皮、筋肉内、および/または腹膜内の経路によって注射することが可能なように処方される。よって、前記組成物は、親水性組成物または疎水性組成物の形態であってよい。
【0135】
親水性組成物は、ゲル化剤(例えば、上に定義したものなど)および/または界面活性剤(特に上に定義したものなど)を含んでよい。
【0136】
疎水性組成物は、ポリエチレングリコール、特にマクロゴール400、中鎖トリグリセリド、および/または大豆油(所望により、水で希釈してよい)を含んでよい。
【0137】
別のその態様によれば、本発明は、対象として、トランス−シンナムアルデヒド、特にトランス−シンナムアルデヒドと、トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル、クマリン、リナロール、β−カリオフィレン、オイゲノール、シネオール、安息香酸ベンジル、およびサフロールから選択される少なくとも1種の化合物、またはトランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル、クマリン、リナロール、およびβ−カリオフィレンから選択される少なくとも1種の化合物との、または本発明による組成物の、抗菌有効成分としての使用を有する。前記使用はin vivoでもex vivoでもよい。
【0138】
別のその態様によれば、本発明はまた、対象として、トランス−シンナムアルデヒド、特にトランス−シンナムアルデヒドと、トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル、クマリン、リナロール、β−カリオフィレン、オイゲノール、シネオール、安息香酸ベンジル、およびサフロールから選択される少なくとも1種の化合物、またはトランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル、クマリン、リナロール、およびβ−カリオフィレンから選択される少なくとも1種の化合物との、または本発明による組成物の、抗菌有効成分の調製のための使用を有する。
【0139】
さらには、前記抗菌有効成分は、上述の化合物の少なくとも2種、特には少なくとも3種、あるいは少なくとも4種、さらに特には少なくとも5種を含む、あるいはそれらからなる。
【0140】
特定の実施形態によれば、前記抗菌有効成分は、前記抗菌組成物、特に、上記の具体的実施形態のいずれか一つに相当する。
【0141】
別のその態様によれば、本発明はまた、対象として、トランス−シンナムアルデヒド、特にシンナムアルデヒドと、トランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル、クマリン、リナロール、β−カリオフィレン、オイゲノール、シネオール、安息香酸ベンジル、およびサフロールから選択される少なくとも1種の化合物、またはトランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル、クマリン、リナロール、およびβ−カリオフィレンから選択される少なくとも1種の化合物との、または本発明による組成物の、動物において、特に哺乳類において、特にヒトにおいて抗菌薬耐性菌によって起こる院内疾患の治療または予防のための薬物の調製のための使用を有する。
【0142】
別のその態様によれば、本発明は、対象として、体の表面、特に皮膚または粘膜、あるいは装置の表面、例えば、カテーテルの先端の調製方法を有し、その方法は、前記表面を本発明による組成物で該表面を被覆することからなる少なくとも一つの工程を含む。
【0143】
特定の実施形態によれば、前記方法は、動物、特にヒトの体表面上では行われない。この方法は、細菌感染、特に院内感染の危険性を制限することを可能にすることができる。
【0144】
組成物を皮膚に適用する場合、皮膚バリアが破壊されるならば、この方法は、前記細菌、特に耐性菌の体への感染を制限するあるいは予防することを可能にすることができる。当然、本発明の様々な特徴を組み合わせてもよい。
【実施例】
【0145】
次の実施例により本発明を例示するが、それらの実施例に限定されるものではない。
【0146】
実施例1:寒天試験プロトコール
細菌が精油をうまく利用できるように(水相増殖のみ)、水相可溶化法を見つけることが不可欠である。脂質相を直接使用する多くの研究ではこの工程は無視されており、この脂質相は細菌には利用しがたい(寒天上に置いた油浸漬ディスク)。さらに、油の局所使用では、この可溶化相も不可欠であり、実際の適用を目的に、油の満足のいく皮膚耐性を得るために界面活性剤および可溶化補助剤もまた選択される。
【0147】
可溶化は、界面活性剤(Tween 20、Tween 80)および可溶化補助剤(プロピレングリコール、グリセロール、マンニトール、エタノール、加工デンプン)に依存している。しかしながら、エタノールの使用は不適切であると思われる(抗菌性、高揮発性)。Tween 80および20%プロピレングリコールの混合物を用いた予備試験では、大部分の油について十分な可溶化が得られた(10gの精油、29gのTween 80、61gの20モル%プロピレングリコール)。最初の分析前に、界面活性剤および可溶化補助剤を指示割合で試験し、抗菌活性が存在しないことを確認した。この混合物によって大腸菌の株を阻害し、プロピレングリコール濃度を10モル%まで下げた:この濃度で阻害された株は存在しなかった。
【0148】
最終調製物は、1.0mlの精油、3.4mlのTween 80および5.6mlの10モル%プロピレングリコール水溶液を含む。
【0149】
実施例2:菌株
試験する株は、様々なヒトサンプル(血液、尿、肺吸引など)から単離したものである。それらの株は、入院時に感染しておらず少なくとも48時間の入院の後に感染が起こった患者から単離した。
【0150】
本実施例において調査した株は次のとおりである:
大腸菌 ATCC 25922、品質管理用(表1)、
緑膿菌の株:8128株、8129株、8132株、8134株(表2)、および9007株(表6に示される)、
大腸菌の株:8154株、8155株、8156株、および8157株(表3)、並びに9003株(表6)、
金色ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌)の株:8147株、8239株、および8240株(表4)、
エンテロコッカス属の株:8152および8153(表5)、
エンテロコッカス・フェシウム株(9001)(表6)、
エンテロバクター・アエロゲネス株(9004)(表6)、
アシネトバクター・バウマンニー株(9010)(表6に示される)。
【0151】
in vitro感受性試験の解釈のために三つの臨床カテゴリーを選択した(感受性(S)、耐性(R)および中間(I))。
【0152】
Sに分類される株は、仏国保健製品安全庁(the French Health Products Safety Agency)(AFSSAPS)によって作成された製品概要(the summary of product characteristics)(SPC)において推奨の投与スケジュールでの全身経路による治療の場合において治療の成功の可能性が高いものである。
【0153】
Rに分類される株は、治療の種類および抗生物質用量にかかわらず治療の失敗の高い可能性が存在するものである。
【0154】
Iに分類される株は、治療の成功が予測できないものである。これらの株は、in vitroで得られた結果で治療の成功が予測されない異質の群を作る。実際には、これらの株は:
in vitroでの発現が低い耐性機構を示す場合があり、それらがカテゴリーSに分類されるという結果を伴う。しかしながら、in vivoでは、これらの株の一部は治療に耐性を有すると思われる、
発現が、カテゴリーRへの分類を正当化するには不十分であるが、ある特定の条件(高局所濃度または高用量)下では治療効果の望みを与えるのに十分に低い耐性機構を示す場合がある。
中間カテゴリーはまた、技術的不確実性および生物学的不確実性を考慮に入れる緩衝ゾーンである。
【0155】
方法論
仏国微生物学会アンチバイオグラム委員会(CA−SFM)による2008年の勧告による拡散法によって株の抗生物質に対する感受性を判定した。
【0156】
臨床カテゴリーを判定する臨界値の確立
各抗生物質について定義される濃度および直径の臨界値を、いくつかのパラメーターを考慮に入れることにより確立する:
ヒト病理に関与する各細菌種に属する株の定義された個体数についての最小発育阻止濃度(MIC)の分布、
製品概要(SPC)において推奨の投与スケジュールで得られた体液濃度および組織濃度、
in vitroで得られた結果とin vivoで得られた結果の比較(臨床試験)、
MICおよび阻止帯の直径を測定するのに用いる方法の統計的ばらつき。
このようにして、2つの臨界濃度を定義する:下方臨界濃度cおよび上方臨界濃度C(これらは、それぞれ、臨界直径Dおよびdに対応する)。
【0157】
株分類手順および基準
臨界濃度および直径に関して、株を次のとおり分類する:
感受性(S):試験した抗生物質のMICが下方臨界濃度c以下である(これは直径が臨界直径D以上であることに等しい)株、
耐性(R):試験した抗生物質のMICが上方臨界濃度Cより大きい(直径が臨界直径dより小さいことに相当する)株。
中間感受性(I):試験した抗生物質のMICおよび対応する直径が前記二つの臨界濃度の間および前記二つの臨界直径の間である株。
【0158】
試験は、ミューラーヒントン寒天上で実施した。McFarlandスケールで0.5番に調整した接種物を1/100希釈する。ペトリ皿に綿棒塗抹により接種する。24時間の37℃でのインキュベーション後にペトリ皿を読み取る。
【0159】
次いで、CA−SFMの解釈上の読み取りルールにより、未加工の結果を解釈する。2つの例:メチシリン耐性を有するスタフィロコッカス属の総ての株は、総てのβ−ラクタムに耐性を有し、ゲンタマイシン耐性株も同じである、金色ブドウ球菌は、必然的に、カナマイシン(およびアミカシン)およびトブラマイシンに耐性を有する。
拡散法の品質は、大腸菌株ATCC 25922を用いて管理する。
【0160】
アンチバイオグラムの結果、
品質管理(表1)
【表1】

表1:品質管理
品質管理株では、直径は準拠している。
【0161】
緑膿菌の株(表2)
【表2】

表2:8128株、8129株、8132株、および8134株
【0162】
次のことが示される:
8128株は、多耐性を有する。その株はまた、ペニシリンおよびキノロンにも耐性を有する。
8129株は、染色体性セファロスポリナーゼを過剰産生する。その株はまた、ペニシリンおよびキノロンにも耐性を有する。
8132株は、多耐性を有する(D2ポーリン欠損)。
8134株は、キノロン、フルオロキノロン、およびアミノグリコシドに耐性を有する。
【0163】
大腸菌の株(表3)
【表3】

表3:8154株、8155株、8156株、および8157株
【0164】
次のことが示される:
8154株は、ペニシリナーゼを産生する。
8155株は、非耐性である。
8156株は、非耐性である。
8157株は、ペニシリナーゼを産生し、フルオロキノロン耐性を有する。
【0165】
金色ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌)の株(表4)
【表4】

表4:8147株、8239株および8240株
【0166】
次のことが示される:
8147株は、メチシリン感受性を有する。
8239株は、メチシリン耐性を有する。
8240株は、メチシリン耐性およびフルオロキノロン耐性を有する。
【0167】
エンテロコッカス属の株(表5)
【表5】

表5:8152株および8153株
【0168】
2つの株は、自然耐性およびアミノグリコシド耐性(低レベル)を有する。さらに、それらの株は、MLSB耐性を有する(エリスロマイシンおよびクリンダマイシンに耐性を有し、プリスチナマイシンに対して感受性を有する)。
【0169】
多耐性についての選択株(表6)
【表6】

表6:9001株、9003株、および9004株
【0170】
2つの遺伝的に定義された株も試験した:
VIM−2カルバペネマーゼを有する、9007、緑膿菌株、表7、および
VEB−1 ESBLを有する、9010、アシネトバクター・バウマンニー株、表7。
【0171】
【表7】

表7:9007株および9010株
【0172】
実施例3:トランス−シンナムアルデヒド
材料:
菌株(実施例2に記載したもの)
ブレインハート(BH)ブイヨン
ミューラーヒントン寒天(MHA、傾斜試験管または18mlおよび19mlが入った試験管とする)
システイン含有リンガー溶液(RC)
希釈用のFalcon社製試験管
滅菌試験管
トランス−シンナムアルデヒド
【0173】
プロトコール:
試験前日に、BH培地中および傾斜MHA上に菌株を接種する。19mlおよび18mlのMHAが入った試験管を調製する。種々の希釈のために5mlの10モル%プロピレングリコールが入った試験管を調製する。
試験当日に、次のようにトランス−シンナムアルデヒドを可溶化させる:
1mlのトランス−シンナムアルデヒド
3.4mlのTween 80
5.6mlの10モル%プロピレングリコール。
予め、Tween 80および10モル%プロピレングリコールの混合物を調製する。この混合物9mlをFalcon社製試験管に入れ、1mlの油を加える。
トランス−シンナムアルデヒドを可溶化させ、10モル%プロピレングリコールにより連続1/2希釈物を調製する。
適当な希釈物1mlを、19mlの培地の入った試験管に加え、十分にホモジナイズし、ペトリ皿に注ぐ。第1の希釈物(10体積%のトランス−シンナムアルデヒド)については、18mlのMHAおよび2mlの10体積%トランス−シンナムアルデヒドの試験管を調製し、試験すべき最高濃度を高める(1体積%)。
【0174】
接種物の調製:
10mlのRCを、菌株を含む傾斜寒天に加え、その後、この懸濁液1滴に溶解し、それを10mlのRCの入った試験管に分配し:10CFU/ml懸濁液を得る。この懸濁液1mlをステアーズカップ(Steers cup)に入れ(33株を同じ皿上に接種する)。各皿に接種し、37℃で24時間インキュベートする。
対照の皿(MHA単独)も調製し、総ての株が増殖していることおよび汚染の問題がないことを確認する。
【0175】
結果:
種々の株で得られた結果を下の表8に示す:
【0176】
【表8】

表8:トランス−シンナムアルデヒドの抗菌活性
【0177】
トランス−シンナムアルデヒドは、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して抗菌活性を示すことが示される。この効果は、耐性株でも観察される。さらに、この効果は、低体積濃度でも観察される。
不確実性は、±1希釈である。
【0178】
実施例4:チャイニーズシナモンの精油
実施例3を再現するが、トランス−シンナムアルデヒドの代わりにチャイニーズシナモンの天然精油を用いる。
【0179】
結果:
種々の株で得られた結果を下の表9に示す:
【0180】
【表9】

表9:チャイニーズシナモンの精油の抗菌活性
【0181】
チャイニーズシナモンの精油は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して抗菌活性を示すことが示される。この効果は、耐性株でも観察される。さらに、この効果は、低体積濃度でも観察される。
不確実性は、±1希釈である。
【0182】
実施例5:シナモン樹皮の精油
実施例3を再現するが、トランス−シンナムアルデヒドの代わりにシナモン樹皮の天然精油を用いる。
【0183】
結果:
種々の株で得られた結果を下の表9に示す:
【0184】
【表10】

表10:シナモン樹皮の精油の抗菌活性
【0185】
シナモン樹皮の精油は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して抗菌活性を示すことが示される。この効果は、耐性株でも観察される。さらに、この効果は、低体積濃度でも観察される。
不確実性は、±1希釈である。
【0186】
実施例6:チャイニーズシナモンの精油とシナモン樹皮の精油との組合せ
実施例3を再現するが、トランス−シンナムアルデヒドの代わりにチャイニーズシナモンの天然精油およびシナモン樹皮の天然精油の1:1(体積)、1:2(体積)または2:1(体積)混合物を用いる。
【0187】
1:1混合物では、2つの油はそれぞれ1%の割合で存在し、2:1混合物では、第1の油は1.3%の割合で存在し、第2の油は0.7%の割合で存在する。これらの割合は総体積に対する体積%である。
【0188】
結果:
種々の株で得られた結果を下表11〜表13に示す:
【0189】
【表11】

表11:シナモン樹皮の精油とチャイニーズシナモンの精油との(1:1)組合せの抗菌活性
【0190】
【表12】

表12:シナモン樹皮の精油とチャイニーズシナモンの精油との(2:1)組合せの抗菌活性
【0191】
【表13】

表13:シナモン樹皮の精油とチャイニーズシナモンの精油との(1:2)組合せの抗菌活性
【0192】
シナモン樹皮の精油とチャイニーズシナモンの精油との組合せは、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して抗菌活性を示すことが示される。この効果は、耐性株でも観察される。さらに、この効果は、低体積濃度でも観察されるが、各精油単独の場合に観察されるものよりずっと低い。最良の結果は、1:1体積比で得られる。
不確実性は、±1希釈である。
【0193】
実施例7:殺菌効果
精油懸濁液の調製
3.4mlのTween 80および5.6mlのプロピレングリコールを含有する混合物を調製し、この混合物に1mlの油(10%終濃度)を加える。
【0194】
接種物および油/細菌混合物の調製
ミューラーヒントンブイヨン中での24時間の培養後、接種物をおよそ10CFU/mlに調製する。これは、0.5番McFarland標準液と同等の濁度に相当する。その後、1/10希釈により、9mlのシステイン含有リンガー溶液中10CFU/ml細菌懸濁液が入った試験管を調製し、これに、1mlの蒸留水(対照)または1mlの10%油懸濁液(1%終濃度の油)のいずれかを加える。
【0195】
細菌の計数
サンプルの連続1/10希釈により細菌を計数する。各希釈物100μlをミューラーヒントン寒天上に塗沫する。15および150の間のコロニーを含むペトリ皿で計数を行う。よって、計数閾値は150CFU/mlである。
【0196】
Dey−Engleyブイヨンの中和能
定められた接触期間後に油の活性を停止させるため、100μlの油/細菌混合物を回収し、その後、900μlの中和ブイヨンで希釈し、油の抗菌作用を阻害する。
【0197】
使用する中和ブイヨンは、次の処方の、Criterion社より販売されているDey and Engleyの"Neutralizing broth for neutralizing and testing disinfectants and antiseptics"である:
グルコース(10g)
レシチン(7g)
カゼインペプトン(5g)
Tween 80(5g)
チオ硫酸ナトリウム(6g)
リン酸二カリウム(3.3g)
重亜硫酸ナトリウム(2.5g)
酵母抽出物(2.5g)
チオグリコール酸ナトリウム(1g)
リン酸一カリウム(0.1g)
ブロモクレゾールパープル(20mg)。
【0198】
得られた粉末を1リットルの脱イオン水に溶解し、次いで、加熱および溶解後、その培地を、121℃で15分間オートクレーブ処理することにより滅菌する。最終pHは7.6+/−0.2である。
【0199】
中和対照を次のとおり調製する:
等量の油および中和ブイヨンの混合物を、細菌接種物と合わせる。37℃で48時間のインキュベーション後、細菌計数値は対照計数値の50%より小さくならない。これにより、中和ブイヨンにより抗菌活性が存在しないこと、とりわけ、中和ブイヨンが油の抗菌作用を完全に阻害するため、キャリーオーバー現象が回避されるという事実を示すことができる
【0200】
開始接種物の測定
で計数を行う。100μlの開始接種物を回収し、その後、900μlの希釈液に入れる。次に、次の1/10希釈物6つそれぞれについて100μlをミューラーヒントン寒天上に置く。ペトリ皿の37℃で48時間でのインキュベーション後に、上に示したように、寒天上のコロニーを計数する。
【0201】
精油の殺菌活性の測定
油/細菌混合物を15分間、30分間、45分間および60分間接触させた後、100μlの油/細菌混合物を回収し、900μlの中和ブイヨンに入れ、その後、システイン含有リンガー溶液により1/10および1/100に希釈する。次に、各希釈物100μlをミューラーヒントン寒天上に塗沫する。その後、皿を48時間インキュベートし、生存コロニーを計数する。
【0202】
結果の表現
定義により、殺菌効果は、開始接種物からの少なくとも3logの減少が観察される場合に得られる。細菌数と油接触時間との殺菌効果曲線をプロットすることができる。そのような曲線により殺菌効果の速度論が強くかつ迅速であるかどうかを見ることができる。
【0203】
結果:
1:1比率のチャイニーズシナモンの精油およびシナモン樹皮の精油を含む組成物(実施例6に記載のとおり)は、より正確には、上の実施例において確認した、8132株、8154株、8152株、8155株、ATCC 25922株(対照)、9004株および9001株に対して殺菌効果を示す。
【0204】
この組成物はまた、上記方法によって特徴付けられた次の株に対しても殺菌活性を示す:
黄色ブドウ球菌8148株:メチシリンおよびフルオロキノロンに耐性を有する株、
黄色ブドウ球菌8237株:野生株。
【0205】
実施例8:抗菌ゲル
チャイニーズシナモンの精油およびセイロンシナモンの精油の1:1混合物1mlを93mlのマクロゴール400(Lutrol(商標)E 400)に可溶化させる。次に、6gのコロイドシリカを加える。
【0206】
全体をホモジナイズし、25℃において、ポータブルCPE−52、250rpmで粘度(T48)798cPの非流動ゲルを得る。
【0207】
このゲルは、例えば、カテーテル使用の場合において、特に、細菌および/または真菌の感染を予防するために使用することができる。
【0208】
前記カテーテルを前記ゲルによって被覆することができ、あるいは皮膚破壊を受けた表面または損傷を受ける可能性がある粘膜を前記ゲルで被覆することもできる。
そのようなゲルにより、特に局所形態の細菌含量を減らすことが可能である。
【0209】
実施例9:感染マウスの処置
10週齢〜12週齢BALE/cマウスにおいて試験を行う。
4・10増殖期メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の腹膜内注射により8匹のマウスを感染させる。
翌日、次の条件を用いて(1投与で)100mg/kg/日の毎日の処置を開始する:
処置なし
セイロンシナモンの精油
セイロンシナモンの精油+チャイニーズシナモンの精油(1:1)
【0210】
【表14】

表15:MRSA接種後のマウスの生存
【0211】
セイロンシナモン/チャイニーズシナモン混合物群においてマウスの平均重量がより高いことがさらに観察され、それは、精油混合物で処置したマウスがセイロンシナモン単独で処置したマウスよりよく反応することを示す傾向がある。
この実施例により、in vivoでの有効性がin vitroでの有効性に対応することが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも三つの異なる成分を含み、各成分は、それぞれ下記三つの群の一つから選択される、抗菌組成物:
−トランス−シンナムアルデヒド、
−酢酸シンナミル、ならびに
−該組成物の総重量に対して、0.25〜5重量%の含有量のリナロール、安息香酸ベンジル、サフロール、β−カリオフィレン、およびシネオールから選択される少なくとも1種の化合物。
【請求項2】
少なくとも三つの異なる成分を含み、各成分は、それぞれ下記三つの群の一つから選択される、抗菌組成物:
−トランス−シンナムアルデヒド、
−その組成物の総重量に対して、1〜10重量%の割合のトランス−2−メトキシシンナムアルデヒド、ならびに
−安息香酸ベンジル、サフロール、β−カリオフィレン、リナロール、およびシネオールから選択される少なくとも1種の化合物。
【請求項3】
トランス−シンナムアルデヒドを、組成物の総重量に対して、30〜100重量%、特に40〜90重量%、特に80〜85重量%、あるいは62.5〜82.5重量%の割合で含む、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
トランス−2−メトキシシンナムアルデヒドを、特に、組成物の総重量に対して、0.5〜15重量%、特に1〜10重量%の割合で含む、請求項1または請求項3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
トランス−2−メトキシシンナムアルデヒドを、組成物の総重量に対して、1.5〜8重量%の割合で含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
酢酸シンナミルを、組成物の総重量に対して、0.1〜8重量%、特に0.25〜5重量%、または特に0.5〜3重量%の割合で含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
クマリンを、特に組成物の総重量に対して、0.25〜5重量%まで、特には0.5〜3.5重量%、あるいは0.75〜2.25重量%の割合で含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
リナロールを、特に、組成物の総重量に対して、0.1〜8重量%、特に0.25〜5重量%の割合で含む、請求項2〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
リナロールを、組成物の総重量に対して0.5〜3重量%の割合で含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
β−カリオフィレンを、特に、組成物の総重量に対して、0.1〜5重量%、特に0.25〜3重量%、あるいは0.5〜2重量%の割合で含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
安息香酸ベンジルを、組成物の総重量に対して、0.01〜3重量%の割合で含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
シネオールを、組成物の総重量に対して、0.1〜8重量%の割合で含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
サフロールを、組成物の総重量に対して、0.01〜5重量%の割合で含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
オイゲノールを、組成物の総重量に対して、0.01〜15重量%の割合で含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
チャイニーズシナモンの精油および/またはシナモン樹皮の精油が、特に9:1〜1:9、特に4:1〜1:4、特に2:1〜1:2の比率で、あるいは1:1の比率で含まれる、あるいはそれらからなる、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物を、特に抗菌有効成分として含む、医薬組成物または薬物。
【請求項17】
例えば、動物において、特に哺乳類において、特にヒトにおいて、特に抗菌薬耐性菌によって起こる、細菌感染の治療または予防のための、請求項16に記載の医薬組成物または薬物。
【請求項18】
嫌気性細菌によって起こる細菌感染の治療または予防のための、請求項16または17に記載の医薬組成物または薬物。
【請求項19】
例えば、動物において、特に哺乳類において、特にヒトにおいて、特に抗菌薬耐性菌によって起こる、院内疾患の治療のための、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物または薬物。
【請求項20】
例えば、動物において、特に哺乳類において、特にヒトにおいて、特に抗菌薬耐性菌によって起こる、院内疾患の予防または予防のための、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物または薬物。
【請求項21】
前記細菌が、特に、フルオロキノロン耐性、セファロスポリン耐性、ペニシリナーゼ産生、基質特異性拡張型β−ラクタマーゼ(ESBL)産生、ポーリン欠損、およびアミノグリコシド耐性から選択される少なくとも一つの耐性を示す、シュードモナス属の、特に、多耐性およびベトナム基質特異性拡張型β−ラクタマーゼから選択される少なくとも一つの耐性を示す、アシネトバクター属の、特に、フルオロキノロンおよびキノロン耐性、セファロスポリン耐性、基質特異性拡張型β−ラクタマーゼ産生ならびにペニシリナーゼ産生から選択される少なくとも一つの耐性を示す、エシェリキア属の、または特に、基質特異性拡張型β−ラクタマーゼ(ESBL)産生の少なくとも一つの耐性を示す、エンテロバクター属の、耐性グラム陰性菌である、請求項16〜20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記細菌が、特に、メチシリン耐性、カナマイシン耐性、アミノグリコシド耐性、およびフルオロキノロン耐性から選択される少なくとも一つの耐性を示す、スタフィロコッカス属の、または特に、アミノグリコシド耐性ならびにマクロライドおよびマクロライド様化合物耐性から選択される少なくとも一つの耐性を示す、エンテロコッカス属の、耐性グラム陽性菌である、請求項16〜20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
前記院内疾患が、尿路感染、呼吸器系感染、消化器系感染、中枢神経系感染、皮膚および軟組織感染、骨、関節および筋肉感染、血管系感染、敗血性ショック、糖尿病性足病変、ならびに痂皮からなる群から選択される、請求項16〜22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
免疫抑制者または免疫不全者、特に、高齢者、乳児、幼児、コルチコステロイド療法を受けている患者、移植患者およびエイズ患者における治療または予防のための、請求項16〜23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
抗菌有効成分および/または防腐剤として、請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項26】
表面、特に皮膚または粘膜、あるいは装置の表面、例えば、カテーテルの先端の調製方法であって、請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物で該表面を被覆することからなる少なくとも一つの工程を含む、方法。

【公表番号】特表2012−528835(P2012−528835A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513639(P2012−513639)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057905
【国際公開番号】WO2010/139805
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(511294257)
【氏名又は名称原語表記】SEPTEOS
【Fターム(参考)】