説明

少なくとも1種の抗癌性薬物および少なくとも1種のポリマーを含む医薬組成物

本発明は、抗癌性薬物、好ましくはパクリタキセルおよびドセタキセルなどのタキサン、その誘導体またはその類似体の新規で優れた組成物、そのような組成物を製造する方法および特定の粒径範囲内の粒子を分別する方法、ならびにそのような組成物で癌患者を処置する方法に係わり、前記組成物は化学療法誘発性副作用の軽減、特に化学療法誘発性脱毛の軽減を実現する。前記組成物中に遊離薬物は実質的に存在しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌性薬物の新規で優れた組成物に係わる。本発明は、化学療法誘発性副作用を実質的に僅かしか示さない、新規で優れた癌治療用組成物に係わる。
【0002】
本発明は、アルキル化剤、代謝拮抗物質、抗癌抗生物質、植物アルカロイド、アントラセンジオン、天然物、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、様々な物質、放射線感受性増強物質、白金配位錯体、副腎皮質抑制剤、免疫抑制薬、機能治療薬、遺伝子治療薬、アンチセンス治療薬、チロシンキナーゼ抑制剤、モノクローナル抗体、抗毒素、放射性免疫複合体、癌ワクチン、インターフェロン、インターロイキン、置換尿素、タキサン、およびCOX−2阻害剤を非限定的に含む抗癌性薬物の新規で優れた組成物に係わる。
【0003】
本発明は、抗癌性薬物、好ましくはパクリタキセルおよびドセタキセルなどのタキサン、その誘導体またはその類似体の新規で優れた組成物、そのような組成物を製剤する方法、およびそのような組成物で癌患者を処置する方法に係わる。
【0004】
本発明は、抗癌性薬物、好ましくはパクリタキセルおよびドセタキセルなどのタキサン、その誘導体またはその類似体の新規で優れた組成物、そのような組成物を製造する方法および特定の粒径範囲内の粒子を分別する方法、ならびにそのような組成物で癌患者を処置する方法に係わり、前記組成物は化学療法誘発性副作用、特に化学療法誘発性脱毛の軽減を実現する。前記組成物中に遊離薬物は実質的に存在しない。
【0005】
抗癌性薬物、好ましくはパクリタキセルおよびドセタキセルなどのタキサン、その誘導体またはその類似体の新規で優れた組成物は、化学療法誘発性脱毛が劇的に軽減された癌治療のためのコロイド状送達系であり、所定の粒径範囲内で調製され、該組成物中に遊離薬物は実質的に存在しない。
【背景技術】
【0006】
哺乳動物の種々の癌の治療用にきわめて様々な抗癌薬がこれまでに開発され、化学療法薬となる新物質も次々に開発されており、その際薬物耐性腫瘍に対する効力を増大させると共に腫瘍特異的な抗癌薬を開発することを目差して研究が行なわれている。さらに、最近の臨床プロトコルでは複数の抗癌性薬物を併用することによって治療効率の向上が図られる。その種の新たな発見が相次いではいるが、現時点では5−フルオロウラシル(5FU)、ドキソルビシンおよびタキサンなどの化学療法薬が、卵巣癌、乳癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、頭頸部癌、子宮頸癌および脳腫瘍などを含めた様々な癌の患者の治療において中核を成している。
【0007】
しかし、上記のような薬物は、悪心、骨髄抑制、脱毛、嘔吐および口内炎を含めた関連する有害反応、また心毒性によってもその使用が制限されている。
【0008】
上記関連有害反応の中でも、化学療法誘発性脱毛(もしくは体毛喪失)は癌患者にとって最も辛く耐え難い副作用の一つであり、これが原因で患者は年齢、性別を問わずふさぎ込み、自信を失い、屈辱感を覚える。患者の中には、治療に関連した脱毛によって身体的、精神的にどのような影響を受けるか心配になり、そのために治療を拒む者もいる。体毛の喪失は患者の心理状態に甚だしく影響し、このことは患者のクォリティ・オブ・ライフを左右する重大な問題である。このように、化学療法誘発性脱毛が劇的に軽減されるような癌治療の実現が差し迫って求められている。
【0009】
タキサンは、細胞の微小管を安定化する抗癌性細胞毒素である。本明細書に記載の組成物および方法に有用なタキサン化合物にはパクリタキセルおよびドセタキセル、ならびにこれらの天然および合成類似体で抗癌活性または抗脈管形成活性を有するものが含まれる。パクリタキセルおよびドセタキセルの活性は著しく、これらの物質のうちの少なくとも一方は、進行した乳癌、肺癌および卵巣癌に用いる治療成分として広く受容されている。
【0010】
ドセタキセルはタキソイド系の抗新生物薬である。この薬物は、イチイ属の再生可能針葉バイオマスから抽出した前駆物質を出発物質とする半合成によって調製される。Taxotere(R)は、ドセタキセルおよびポリソルベート80を収容した一回量バイアルの形態で入手可能な滅菌ドセタキセル注射用濃縮液であり、注射用水にエタノールを加えるなどして調製した稀釈剤で稀釈後に静脈内投与される。この製剤は、それ以前の化学療法では成果が得られなかった局所進行乳癌または転移性乳癌患者の治療に適用される。TAXOTEREはドキソルビシンおよびシクロホスファミドとの併用で、手術可能なリンパ節転移陽性乳癌の患者のアジュバント治療に適用される。
【0011】
化学療法薬のタキサン類に属するパクリタキセルは、静脈内投与形態において乳癌および卵巣癌、または非小細胞肺癌(NSCLC)の治療に長年広く用いられている。パクリタキセルは抗癌性薬物として非常に大きい効力を発揮する一方で、溶解性に関する問題、毒性、低いバイオアベイラビリティ、および薬物耐性の発現という臨床上の問題を有し、これらの重大さから、治療効率は高いが毒性は低いパクリタキセル誘導体または類似体の製剤の必要性はきわめて明白である。
【0012】
パクリタキセル(Taxol(R))は点滴静注用溶液剤として入手可能であるが、この製剤中の賦形剤を構成するCremophor(R) ELは生命に拘わるアナフィラキシーなどの有害事象を引き起こすことが判明している。パクリタキセルの上記Cremophor/エタノール製剤は注入液での稀釈時に沈澱を起こし、また組成によっては長期貯蔵の間に繊維性沈澱物を生じる。パクリタキセルのCremophor製剤に関する情報は、Agharkar等の特許文献1中にも見出すことができる。
【0013】
最近導入されたAbraxane(R)は、注射用懸濁液にして用いられるタンパク質結合パクリタキセル粒子である。この製品はパクリタキセルのアルブミン結合形態であり、肝臓で急速に分解して遊離薬物を放出し、放出された薬物は血中を循環して初期治療応答を引き出すが、完全な体毛喪失、WBC数が少ないことに起因する感染、また疲労、衰弱および炎症などの有害な副作用も示す。完全な体毛喪失もしくは脱毛は、パクリタキセルを上記のような投与形態で用いるとほぼ必ず生起する。脱毛では通常、頭髪に加えて眉毛、睫毛および恥毛も失われる。
【0014】
製品Abraxane(R)に対するものとして幾つかの米国特許が挙げられ、それらの中に特許文献2〜10が含まれる。
【0015】
上記特許の発明によれば、実質的に非水溶性である薬理活性物質(抗癌性薬物パクリタキセルなど)のin vivo送達に有用な組成物および方法が提供され、その際活性物質は、(安定化剤として機能する)タンパク質と結合しているかまたはタンパク質で被覆された懸濁粒子の形態で送達される。これらの発明では、実質的に非水溶性の活性物質を、Taxolに用いられるCremophorのような乳化剤および可溶化剤の存在に起因するアレルギー反応を引き起こさない非経口投与用水性懸濁液の形態で送達するための即時調製(improvised)薬物タンパク質マイクロスフェアを提供する試みがなされている。
【0016】
特許文献2では、実質的に非水溶性の薬理活性物質を、水性懸濁液にして非経口投与するのに好適な微粒子の形態で送達し得ることが発明者により見出された。発明組成物が含む、実質的に非水溶性の活性物質(固体または液体)は、ジスルフィド結合の存在によって架橋された生体適合性ポリマーから成るポリマーシェル内に収容されている。
【0017】
特許文献4では、上述のものと同様の発明組成物を調製する方法、すなわち「実質的に非水溶性である薬理活性物質をin vivo送達用に調製する方法であって、前記薬理活性物質をその中に分散させた分散剤と、ジスルフィド結合により架橋され得る生体適合性ポリマーを含有する水性媒質とを含む混合物を前記生体適合性ポリマーのジスルフィド結合による架橋の促進に十分な時間の間音波処理条件下に置き、それによって薬理活性物質を収容したポリマーシェルを製造することを含む方法」が特許請求されている。
【0018】
特許文献7では、パクリタキセルを腫瘍部位に高濃度で集中させる、患者の原発腫瘍の治療に用いられるパクリタキセル製剤が特許請求されており、この製剤はクレモホールを実質的に含有しない。特許文献7の発明者によれば、アルブミンを含有し、クレモホールを含有しないこの発明の製剤は、クレモホールを含有する市販のTaxol組成物ほど脳毒性または神経毒性が強くない。
【0019】
特許文献9の提供する薬物送達系では、薬理活性物質の分子の一部がタンパク質(例えばヒト血清タンパク質)に結合され、従って哺乳動物への投与時直ちに生体内で有効となり、一方薬理活性物質のその他の部分はタンパク質で被覆されたナノ粒子に含有される。タンパク質で被覆された薬物のナノ粒子は、通常の界面活性剤の不在下に大きい剪断力を用いて直径約1ミクロン未満の粒子を得ることにより製造され、この粒子を滅菌濾過して、静脈内注射に有用な滅菌固形製剤とする。
【0020】
Abraxane(R)に関連する上記諸特許は(アルブミンのような)タンパク質で被覆されたパクリタキセルの投与方法を提供し、その際タンパク質被膜は遊離タンパク質を伴い、活性物質は一部がタンパク質被膜内に収容されると共に、一部が遊離タンパク質と結合して、投与時直ちに有効となる。従来技術に関する上記特許文献に記載された発明において粒子の平均直径は約1ミクロン以下であり、組成物は粒径10〜200nmの粒子を含み、このような小型粒子は0.22ミクロンフィルターで滅菌濾過できるので特定的に取得される。発明者の示唆するところでは、アルブミン結合薬物粒子(アルブミンは生体適合性物質)を用いることによって基本的に、パクリタキセルのような薬理活性物質が示す骨髄抑制および/または神経毒性のような有害性が、クレモホールを含み、アレルギー反応その他の有害反応を伴う市販のTaxolに比べて低下する。
【0021】
しかしながら、癌患者にとって最も耐え難い副作用の一つである化学療法誘発性脱毛が劇的に軽減された癌治療を実現するべく、特定の狭い粒径範囲内に有り、遊離薬物を実質的に含まないパクリタキセル組成物を製造する方法は、上記特許のいずれにおいても記載もしくは提供されていない。市販品Abraxane(R)に関連する上記諸特許は、Cremophorのような乳化剤の使用を避けることによってアレルギー反応を引き起こさない製品を提供し、またパクリタキセルのような実質的に非水溶性の活性物質のための安定な滅菌微粒子またはナノ粒子送達系を提供するが、脱毛もしくは体毛の喪失のような副作用を全く、または僅かしか有しないパクリタキセル製剤を提供し得てはいない。Abraxane(R)の製品リーフレットのPATIENT INFORMATIONの項では体毛の喪失が、Abraxane(R)摂取患者において観察される重大な副作用の一つとして言及されている。この項には、Abraxane(R)を用いると完全な体毛喪失もしくは脱毛がほぼ常に生起すると記載されている。
【0022】
非特許文献1は、細胞内送達に用いられるパクリタキセルの感温性およびpH感受性コア−シェルナノ粒子に関して発表された研究論文であり、パクリタキセルを感温性およびpH感受性の両親媒性ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−アクリル酸−コ−アクリル酸コレステリル)(P(NIPAAm−co−AA−co−CHA))ポリマーで包み込んでナノ粒子を形成することを記載している。しかし、そのような粒子の組成物を製造する方法、および癌患者の化学療法誘発性脱毛を劇的に軽減する組成物の提供に好適であるように、特定かつ具体的な粒径範囲内に有り、遊離薬物を実質的に含まない粒子を分別する方法については検討も言及もされていない。
【0023】
特許文献11は表面修飾を施された抗癌性ナノ粒子に係わり、この粒子は実質的に、好ましくはノニオンおよびアニオン界面活性剤である表面修飾剤を表面に吸着させることによって約1000nm未満の有効平均粒径が維持される結晶質抗癌薬である。界面活性剤の使用はそれ自体が組成物の毒性の一因となる。生分解性ポリマーを含有する特定の粒径範囲内のパクリタキセルナノ粒子組成物を用いて特定の化学療法誘発性副作用の軽減を達成する、例えば脱毛を軽減することは、特許文献11の発明からは知見も予見もされない。特許文献11の発明は具体的には、非架橋性の表面修飾剤を結晶質抗癌薬の表面に吸着させることである。
【0024】
特許文献12では、パクリタキセルと、エタノールやプロピレングリコールのような溶媒と、エステル化されたコハク酸d−α−トコフェロールのような水混和性の可溶化剤とを含む、パクリタキセルをin vivo送達するための組成物が特許請求されている。特許文献12の発明以前の研究はパクリタキセルのような不溶性薬物の製剤化を50%クレモホールおよび50%脱水アルコールを用いて行なうことに向けられており、そのようにして得られた製剤は注入液での稀釈時に沈澱を起こし、貯蔵に際しては不安定であり、かつ不都合な有害反応を引き起こすので、特許文献12の発明は、改善された長期安定性および安全性を具えた製剤を得るべくクレモホール以外の水混和性可溶化剤を用いて優れたパクリタキセル製剤を提供することを目的として為された。
【0025】
特許文献13は、低分子量の水溶性薬物を収容して標的部位に送達し、そこで薬物を長期にわたって徐々に放出するポリ(乳酸−コ−グリコール酸)およびポリ(乳酸)(PLA)ナノ粒子に係わる。特許文献13の発明は基本的に、低分子量で水溶性の非ペプチド薬物を金属イオンとの相互作用によって疎水性薬物に変換し、その後、疎水性にした薬物をPLGAまたはPLAナノ粒子に封入し、粒子表面に界面活性剤を吸着させることに係わる。この特許は、パクリタキセルなどのような抗癌性薬物に係わっても言及してもいないし、化学療法誘発性副作用を僅かしか示さない組成物を提供してもいない。
【0026】
非特許文献2には、パクリタキセルを内包したポリ(乳酸−コ−グリコール酸)ナノ粒子など、パクリタキセルを静脈内投与するためのポリマー薬物送達系であって、薬物の治療係数を改善し得、またCremophor ELが原因の有害事象を免れているものの開発に関する研究が発表されている。この文献、および先に記載した従来技術に関する他の文献のほとんどにおいて、得られる粒子の粒径は200nmを幾分下回る。遊離薬物を含まず、具体的に規定された粒径範囲内に有る組成物、本発明の発明者等が見出した独得の驚くべき利点を有する組成物を提供した文献は無い。
【0027】
特許文献14では、抗癌薬によって引き起こされる体毛喪失を抑制する物質が特許請求されており、この物質は3〜20の縮合度を有する環状および/または直鎖状ポリ乳酸の混合物である。特許文献14の発明者によれば、環状および/または直鎖状ポリ乳酸の混合物は好ましくは、式(3): Me−N(R)(R)〔式中、Meはアルカリ金属であり、RおよびRはそれぞれ独立に脂肪族基または芳香族基である〕によって表わされる化合物の存在下にラクチドを重合させることによって製造されるポリ乳酸混合物である。
【0028】
このように、パクリタキセル、ドセタキセルなどのような抗癌性薬物の組成物であって、脱毛に関連する副作用を実質的に僅かしか有しない組成物、およびそのような組成物を製造する方法は上述の従来技術によっては提供されていない。効率の良い抗癌性組成物を提供する試みは今まで様々に為されているが、それらの組成物のうちで臨床副作用の少ないものは無く、特に脱毛もしくは体毛喪失というきわめて辛い副作用を軽減する手立てを提供したものは無い。
【0029】
【特許文献1】米国特許第5,504,102号
【特許文献2】米国特許第5,439,686号
【特許文献3】米国特許第5,498,421号
【特許文献4】米国特許第5,560,933号
【特許文献5】米国特許第5,665,382号
【特許文献6】米国特許第6,096,331号
【特許文献7】米国特許第6,506,405号
【特許文献8】米国特許第6,537,579号
【特許文献9】米国特許第6,749,868号
【特許文献10】米国特許第6,753,006号
【特許文献11】米国特許第5,399,363号
【特許文献12】米国特許第6,136,846号
【特許文献13】国際公開第WO2004/084871号
【特許文献14】米国特許出願公開第20060041019号
【非特許文献1】Yang, et al., Front Biosci. 2005 Sep. 1; 10:3058−67
【非特許文献2】Fonseca et al., Journal of Controlled Release 83(2002) 273−286
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
従って、抗癌性薬物を含む新規で優れた組成物、およびそのような組成物を用いて、従来公知である市販製剤の安定性の問題を克服し、かつ様々な臨床副作用を緩和する、特に最も重要な、治療に起因する脱毛もしくは体毛喪失の軽減を実現する治療方法、およびそのような組成物を調製する方法が必要とされている。5−フルオロウラシル、ドキソルビシン、ドセタキセル、パクリタキセルといった例示薬物、その誘導体および/またはその類似体などが必要とされている。
【0031】
本発明の目的は以下のとおりである。
1. 脱毛などの化学療法誘発性副作用を実質的に僅かしか示さない、新規で優れた癌治療用組成物を提供すること。
2. 少なくとも1種の抗癌性薬物および少なくとも1種のポリマーの粒子を含み、該粒子が所定の粒径範囲内に有るため、脱毛などの化学療法誘発性副作用を実質的に僅かしか生じない、新規で優れた癌治療用組成物を提供すること。
3. 上記のような組成物であり、加えて遊離薬物を実質的に含まず、薬物は実質的に完全にポリマーと結合している、新規で優れた癌治療用組成物を提供すること。
4. 少なくとも1種の抗癌性薬物および少なくとも1種のポリマーの粒子でそのD10が80nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は450nm以下である粒子を含み、脱毛などの化学療法誘発性副作用の実質的軽減を実現する、新規で優れた癌治療用組成物を提供すること。
5. 上記第4項に記載の新規で優れた癌治療用組成物であって、粒子のD10が120nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は350nm以下である組成物を提供すること。
6. 上記第5項に記載の新規で優れた癌治療用組成物であって、粒子のD10が140nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は260nm以下である組成物を提供すること。
7. 上記のような新規で優れた癌治療用組成物であって、抗癌性薬物がアルキル化剤、代謝拮抗物質、抗癌抗生物質、植物アルカロイド、アントラセンジオン、天然物、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、様々な物質、放射線感受性増強物質、白金配位錯体、副腎皮質抑制剤、免疫抑制薬、機能治療薬、遺伝子治療薬、アンチセンス治療薬、チロシンキナーゼ抑制剤、モノクローナル抗体、抗毒素、放射性免疫複合体、癌ワクチン、インターフェロン、インターロイキン、置換尿素、タキサン、およびCOX−2阻害剤から成る群から選択される組成物を提供すること。
8. 上記第7項に記載の新規で優れた癌治療用組成物であって、抗癌性薬物が好ましくはタキサン(パクリタキセル、ドセタキセルなど)、5−フルオロウラシルおよびドキソルビシンの誘導体の中から選択される組成物を提供すること。
9. 上記のような新規で優れた癌治療用組成物であって、抗癌性薬物が組成物の約0.5〜約99.5重量%の量で存在するパクリタキセルであり、ポリマーは約2.0〜約99.0重量%の量で含有される組成物を提供すること。
10. 上記のような新規で優れた癌治療用組成物であって、ポリマーが組成物の約2.0〜約99.0重量%の量で存在するヒト血清アルブミン、ポリ(d,l−乳酸−コ−グリコール酸)などのような生分解性ポリマーである組成物を提供すること。
11. 上記新規で優れた癌治療用組成物であって、ポリ(N−アセチルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−アクリルアミド)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリ(メタクリルアミド)等、およびこれらの誘導体のような感温性および/またはpH感受性ポリマーから成る群から選択された副次的ポリマーを含む組成物をさらに提供すること。
12. 上記第11項に記載の新規で優れた癌治療用組成物であって、副次的ポリマーが、組成物の約0.5〜約99.0重量%、約1.0〜約95.0重量%および約2.0〜約90.0重量%から成る群から選択された量で用いられるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である組成物を提供すること。
13. 上記第11項に記載の新規で優れた癌治療用組成物であって、組成物の粒子が副次的ポリマーの存在下、哺乳動物に投与された際に血漿中で元の粒径の約2倍、腫瘍部位では元の粒径の約10倍の粒径を有し、それによってターゲッティングと、脱毛などの化学療法誘発性副作用の実質的軽減とを実現する組成物を提供すること。
14. 上記第1項に記載の新規で優れた癌治療用組成物であって、該組成物の約0.5〜約99.5重量%のパクリタキセル、約2.0〜約99.0重量%のポリ(d,l−乳酸−コ−グリコール酸)および場合によっては約2.0〜約90.0重量%のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ならびに約0.01〜約99.9重量%の製薬学的に許容される1種以上の添加剤、キャリヤー、またはこれらの組み合わせを含む組成物を提供すること。
15. 上記第1項に記載の新規で優れた癌治療用組成物であって、該組成物の約0.5〜約99.5重量%のパクリタキセル、約2.0〜約99.0重量%のアルブミンおよび場合によっては約2.0〜約90.0重量%のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ならびに約0.01〜約99.9重量%の製薬学的に許容される1種以上の添加剤、キャリヤー、またはこれらの組み合わせを含む組成物を提供すること。
16. 上記のような新規で優れた組成物を製造する方法であって、(i)溶媒中で少なくとも1種の抗癌性薬物を少なくとも1種のポリマーと混合する工程、(ii)場合によっては工程(i)を1種以上の製薬学的に許容されるキャリヤーの存在下に実施する工程、(iii)溶媒を除去することによってナノ粒子を得る工程、および(iii)ナノ粒子を分粒する工程、(iv)組成物から遊離薬物を一切除去する工程を含み、組成物は脱毛などの化学療法誘発性副作用の実質的軽減を実現する組成物である方法を提供すること。
17. 哺乳動物を癌治療の目的で処置する方法であって、少なくとも1種の抗癌性薬物および少なくとも1種のポリマーの粒子を含む前記新規で優れた組成物を治療有効量で哺乳動物に投与することを含み、粒子のD10は80nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は450nm以下であり、組成物は、遊離薬物を実質的に含まず、脱毛などの化学療法誘発性副作用の実質的軽減を実現する組成物である方法を提供すること。
18. 抗癌性薬物での処置を受けている哺乳動物において癌治療の、脱毛などの化学療法誘発性副作用を軽減する方法であって、少なくとも1種の抗癌性薬物および少なくとも1種のポリマーの粒子を含む前記新規で優れた組成物を治療有効量で投与することを含み、粒子のD10は80nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は450nm以下であり、組成物は遊離薬物を実質的に含まない組成物である方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、化学療法誘発性副作用を実質的に僅かしか示さない、新規で優れた癌治療用組成物を指向する。
【0033】
本発明は、抗癌性薬物、好ましくは難溶性の抗癌性薬物の新規で優れた組成物、そのような組成物を製造する方法、および脱毛などの化学療法誘発性副作用を僅かしか示さない前記組成物で癌患者を治療する方法を指向する。
【0034】
本発明の重要な態様によれば、タキサン(例えばパクリタキセルまたはドセタキセル)のような抗癌性薬物と、少なくとも1種の生分解性ポリマーとを含有するナノ粒子組成物のようなコロイド送達系が提供され、その際組成物は所定の粒径範囲を有し、粒子のD10は80nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は450nm以下である。具体的にこのように規定された有効粒径範囲を有する組成物は、癌治療のために患者に投与された際、脱毛などの化学療法誘発性副作用を実質的に僅かしか示さない。この組成物は好ましくは、遊離薬物を実質的に含まない、薬物が実質的に完全にポリマーと結合した組成物である。
【0035】
本発明の別の態様によれば、感温性およびpH感受性である副次的ポリマーをさらに含み、場合によっては、製薬学的に許容される他のキャリヤーやいずれか望ましい他の添加剤をも含むナノ粒子組成物が提供される。このような組成物は、哺乳動物に投与された際に血漿中で元の粒径の約2倍、腫瘍部位では元の粒径の約10倍の粒径を有することで腫瘍部位へのターゲッティングと、脱毛などの化学療法誘発性副作用の実質的軽減とを実現する粒子をもたらす。
【0036】
本発明は上記のようなナノ粒子組成物を製造する方法も開示し、この方法は、場合によっては1種以上の製薬学的に許容されるキャリヤー、ならびにいずれか望ましい添加剤を含有する溶媒の存在下に少なくとも1種の抗癌性薬物を少なくとも1種のポリマーと混合してナノ粒子を生じさせる工程、溶媒を除去する工程、および分粒を行ない、それによってD10が80nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は450nm以下であるような、所定の粒径を有する粒子を得る工程を含む。所定の粒径範囲内で得られた粒子からさらに、一切の遊離薬物を除去する。このように製造された組成物は患者に投与された際、脱毛などの化学療法誘発性副作用の実質的軽減を実現する。
【0037】
従って本発明は、脱毛などの化学療法誘発性副作用の実質的軽減を実現する本発明によるナノ粒子組成物を、それを必要とする哺乳動物に治療有効量で投与することを含む治療方法の提供を指向する。本発明は、抗癌性薬物での処置を受けている哺乳動物において癌治療の、脱毛などの化学療法誘発性副作用を、治療に有効な上記本発明のナノ粒子組成物の投与によって軽減する方法を提供する。
【0038】
上述の概要および後述する詳細な説明は共に例示的かつ解説的で、特許請求の範囲に記載した本発明をさらに詳述するためのものである。示された以外の目的、利点、および新規な特徴も、当業者には以下の発明の詳細な説明から直ちに明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明は、新規で優れた癌治療用組成物を提供する。
【0040】
哺乳動物の腫瘍治療に用いられる新しい抗癌薬が多数開発されているが、抗癌薬もしくは抗腫瘍薬には、腫瘍細胞に特異的かつ選択的に作用せず、正常細胞にも作用する、すなわち副作用を生じるという大きな欠点が有る。薬物送達分野では、より多くのそれらの抗癌薬を作用部位にターゲッティングして効率の向上を図る試み、また多剤療法によって抗癌薬の有効性を高める試みが為されている。しかし、副作用の発現は依然として大きな問題で、いまだ十分に対処されておらず、化学療法に伴うそのような副作用で重大なものの一つに脱毛もしくは体毛の喪失が有る。
【0041】
体毛の喪失、もしくは脱毛は、化学療法を受けている人々にとって辛い副作用である。化学療法患者のほとんどが相当程度の脱毛を経験する。化学療法後の体毛の再生には3〜6ヵ月掛かり、何パーセントかの患者では回復は不完全なままに終わる。化学療法誘発性脱毛は特に苦痛を呼び、なぜなら他人に知られないはずの疾病を曝露する表徴であるからであり、患者の中にはそのために全身化学療法を拒む者もいる。
【0042】
本発明のきわめて好ましい態様によれば、副作用を実質的に僅かしか示さない、新規で優れた癌治療用組成物が提供される。上記副作用とは好ましくは、脱毛などの化学療法誘発性副作用である。本発明の組成物は、少なくとも1種の抗癌性薬物および少なくとも1種のポリマーを含む。
【0043】
癌治療用である本発明に有用な抗癌性薬物は、アルキル化剤、代謝拮抗物質、抗癌抗生物質、植物アルカロイド、アントラセンジオン、天然物、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、様々な物質、放射線感受性増強物質、白金配位錯体、副腎皮質抑制剤、免疫抑制薬、機能治療薬、遺伝子治療薬、アンチセンス治療薬、チロシンキナーゼ抑制剤、モノクローナル抗体、抗毒素、放射性免疫複合体、癌ワクチン、インターフェロン、インターロイキン、置換尿素、タキサン、およびCOX−2阻害剤から成る群から選択される。
【0044】
上記群に含まれるアルキル化剤には、ブスルファンなどのスルホン酸アルキル、チオテパなどのエチレンイミン誘導体、クロラムブシル、シクロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロルエタミン、メルファランおよびウラムスチンなどのナイトロジェンマスタード、カルムスチン、ロムスチンおよびストレプトゾシンなどのニトロソウレア、ダカルバジン、プロカルバジンおよびテモゾラミドなどのトリアゼン、ならびにシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチンおよび(SP−4−3)−(cis)−アンミンジクロロ−[2−メチルピリジン]−白金(II)などの白金化合物が含まれ;代謝拮抗物質には、メトトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセドおよびトリメトレキサートなどの抗葉酸薬、クラドリビン、クロロデオキシアデノシン、クロファラビン、フルダラビン、メルカプトプリン、ペントスタチンおよびチオグアニンなどのプリン類似体、アザシチジン、カペシタビン、シタラビン、エダトレキサート、フロクスウリジン、フルオロウラシル、ゲムシタビンおよびトロキサシタビンピリミジン類似体が含まれ;天然物には、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ポルフィロマイシン、ならびにダウノルビシン(リポソーム型ダウノルビシンを含む)、ドキソルビシン(リポソーム型ドキソルビシンを含む)、エピルビシン、イダルビシンおよびバルルビシンといったアントラサイクリンなどの抗腫瘍性抗生物質、L−アスパラギナーゼおよびPEG−L−アスパラギナーゼなどの酵素、タキサン、パクリタキセルおよびドセタキセルなどの微小管ポリマー安定化剤、ビンカアルカロイドのビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシンおよびビノレルビンなどの有糸分裂抑制剤、カンプトテシン、イリノテカンおよびトポテカンなどのトポイソメラーゼI型抑制剤、ならびにアムサクリン、エトポシドおよびテニポシドなどのトポイソメラーゼII型抑制剤が含まれ;ホルモンおよびホルモンアンタゴニストには、フルオキシメステロンおよびテストラクトンなどのアンドロゲン、ビカルタミド、シプロテロン、フルタミドおよびニルタミドなどの抗アンドロゲン物質、アミノグルテチミド、アナストロゾール、エキセメスタン、ホルメスタンおよびレトロゾールなどのアロマターゼ抑制剤、デキサメタゾンおよびプレドニゾンなどのコルチコステロイド、ジエチルスチルベストロールなどのエストロゲン、フルベストラント、ラロキシフェン、タモキシフェンおよびトレミフェンなどの抗エストロゲン物質、ブセレリン、ゴセレリン、ロイプロリドおよびトリプトレリンなどのLHRHアゴニストおよびアンタゴニスト、酢酸メドロキシプロゲステロンおよび酢酸メゲストロールなどのプロゲスチン、ならびにレボチロキシンおよびリオチロニンなどの甲状腺ホルモンが含まれ;また、上記群に含まれる様々な物質には、アルトレタミン、三酸化ヒ素、硝酸ガリウム、ヒドロキシウレア、レバミゾール、ミトタン、オクトレオチド、プロカルバジン、スラミン、サリドマイドや、メトキサレンおよびポルフィマーナトリウムなどの光動力学的化合物、ならびにボルテゾミブなどのプロテアソーム抑制剤などが有る。機能治療薬および表現型特異的治療薬は分子標的治療薬に含まれ、機能治療薬には遺伝子治療薬、アンチセンス治療薬、エルロチニブ塩酸塩、ゲフィチニブ、イマチニブメシル酸塩およびセマキサニブなどのチロシンキナーゼ抑制剤、ならびにレチノイドおよびレキシノイド、例えばアダパレン、ベキサロテン、trans−レチノイン酸、9−cis−レチノイン酸およびN−(4−ヒドロキシフェニル)レチンアミドなどの遺伝子発現調節剤が含まれ;表現型特異的治療薬には、アレムツズマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、イブリツモマブチウキセタン、リツキシマブおよびトラスツズマブなどのモノクローナル抗体、ゲムツズマブオゾガマイシンなどの抗毒素、131I−トシツモマブなどの放射性免疫複合体、および癌ワクチンが含まれる。インターフェロン−α2aおよびインターフェロン−α2bなどのインターフェロン、ならびにアルデスロイキン、デニロイキンジフチトクスおよびオプレルベキンなどのインターロイキンは生物療法薬に含まれる。癌細胞に対して作用させるべく用いられるこれらの物質に加えて、癌治療では、アミフォスチン、デクスラゾキサンおよびメスナなどの細胞保護薬、パミドロナートおよびゾレドロン酸などのホスホナート、ならびにエポエチン、ダルベポエチン、フィルグラスチム、PEG−フィルグラスチムおよびサルグラモスチムなどの刺激因子を含めた保護薬または補助薬も用いられる。好ましくは、抗癌性薬物は難溶性の抗癌性薬物である。
【0045】
本発明で用いる抗癌性薬物はタキサンとその誘導体(例えばパクリタキセル、ドセタキセル、およびこれらの誘導体など)であるが、その他の抗癌性薬物(例えばドキソルビシン、メトトレキサート、シスプラチン、ダウノルビシン、アドリアマイシン、シクロホスファミド、アクチノマイシン、ブレオマイシン、エピルビシン、マイトマイシン、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、カルボプラチン、カルムスチン(BCNU)、メチル−CCNU、シスプラチン、エトポシド、インターフェロン、カンプトテシン、フェネステリン、タモキシフェン、ピポスルファン、およびこれらの誘導体など)も排除はされない。好ましい抗癌性薬物はタキサン、5−フルオロウラシルおよびドキソルビシンの中から選択され、最も好ましいのはタキサンである。
【0046】
本明細書中で用いる「タキサン」という語は、化学療法薬のTaxol(一般名:パクリタキセル; 化学名:(2R,3S)−N−ベンゾイル−3−フェニルイソセリンを伴う5β,20−エポキシ−1,2α,4,7β,10β,13α−ヘキサヒドロキシタキス−11−エン−9−オン、4,10−ジアセテート2−ベンゾエート13−エステル)およびTaxotere(一般名:ドセタキセル)、Ortataxelのような第2世代タキサン、ならびに他の半合成タキサン誘導体を包含する。背景技術の説明でも言及した抗癌性薬物のTaxolは一般名では「パクリタキセル」、登録商標(Bristol−Myers Squibb社所有)では「Taxol.RTM.」と呼称され、元来タイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia)の樹皮から単離された多酸素化ジテルペン錯体である。この薬物はFDAにより、乳癌、卵巣癌および肺癌、ならびにAIDS関連のカポジ肉腫の治療に用いることが認可された。パクリタキセルに類似の物質であるTaxotere−R(ドセタキセル)も針葉樹イチイの葉に由来し、進行した乳癌および非小細胞肺癌で、他の抗癌性薬物に応答しなかったものの治療に用いることがFDAによって認可されている。パクリタキセルおよびドセタキセルは静脈内投与される。しかしながら、パクリタキセルおよびドセタキセルは共に、重篤となりかねない副作用を示す。非水溶性であるパクリタキセルは、賦形剤としてCremophor EL(ポリエトキシル化ヒマシ油)およびエタノールを用いてTaxol製剤とされたが、これらの物質は重篤な有害事象を引き起こす。Taxolについては、アナフィラキシー反応および他の過敏応答を高率で発現させることが報告された。最近、商品名Abraxane(R)という新しいタンパク質結合ナノ粒子状パクリタキセル注射用懸濁液が導入されたが、この製剤はクレモホールの使用を免れ、かつ溶媒を含有しておらず、従ってクレモホールおよび溶媒に関連する有害作用を有しない。しかし、このような組成物であっても他の化学療法誘発性副作用は示し、それらのうちの一つが最も耐え難い副作用の脱毛もしくは体毛喪失である。このように、パクリタキセルは臨床効率に優れ、腫瘍医療における最大の進歩の一つとして認められているものの、患者の体内で非常に優れた安全性および薬理動態プロファイルを示し、脱毛のようなきわめて耐え難い副作用を生じないパクリタキセル組成物の必要性はなお高まるばかりである。
【0047】
本発明に関する試験用に選択された最も好ましいタキサンはパクリタキセルであるが、前記試験は本明細書中に詳述した他の抗癌性薬物にも敷衍され得ると理解するべきである。パクリタキセルは本発明の組成物中に、該組成物の約0.5〜約99.5重量%、好ましくは約2.0〜約95.0重量%、最も好ましくは約5.0〜90.0重量%の量で存在する。
【0048】
本発明では抗癌薬を単独で、または1種以上の他の抗癌薬と組み合わせて用い得る。抗癌薬は非晶質であっても、結晶質であっても、これらの混合形態であってもよいが、好ましくは実質的に非晶質である。
【0049】
本明細書に記載した本発明の説明では、本出願をとおして有効とする以下の幾つかの定義を用いる。
【0050】
本明細書中で用いる「製薬学的に許容される」という語は、健全なI医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題や合併症を伴わずに妥当な便益/危険比の下でヒトおよび動物の組織との接触に用いるのに好適である化合物、材料、組成物および/または製剤を意味する。
【0051】
「治療有効量」とは、所望の治療成果の達成に有効な量のことである。
【0052】
本明細書中で用いる「ポリマー」という語は、共有結合した複数のモノマー単位を含む分子を意味し、線状ポリマーに加えて枝分かれポリマー、デンドリマーおよび星型ポリマーも包含する。この語はまたホモポリマーと、例えばランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーといったコポリマーとの両方を包含し、非架橋ポリマーから、僅かに架橋し、中程度に架橋し、さらには相当程度架橋したポリマーまでをも包含する。
【0053】
「生分解性ポリマー」という語は、ポリマーが生体内プロセスにより分解して、生体によって容易に排出され得る生成物となり、生体内に蓄積しないことを意味し、「生体適合性」という語は、物質が生物学的系に導入された際、その系に対していかなる有害な変更または影響もさほどには及ぼさないことを表わす。
【0054】
本明細書中で用いる「難溶性」という語は、活性物質の水への溶解度が室温で約10mg/ml未満、好ましくは1mg/ml未満であることを意味する。
【0055】
本明細書中で用いる「粒径」という語は、組成物中の粒子の、沈降フィールドフローフラクショネーション、光子相関分光測定法、レーザー光散乱または動的光散乱技術、および透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)の使用といった、当業者に良く知られた通常の粒径分析法によって測定した直径の大きさを意味する。簡便な自動光散乱法では、Horiba LAレーザー光散乱粒径分析機または類似装置が用いられる。粒径分析では典型的には、一次粒子、凝結体および凝集塊を含めた、不連続な粒径を有する粒子の、頻度に関して正規化された体積比(volume fraction)が示される。本明細書中、粒径特性はしばしばDnのように表記され、その際nは1から99までの数字である。この記号は粒径の累積分布、すなわちn%(体積に基づく)の粒子が当該粒径以下の粒径を有することを表わす。一般に、粒径はnmを単位とするD10、D50(メジアン)およびD90の値で表わされる。D90/D10の比は、粒径分布曲線の幅を同定するのに都合の好い特性である。本発明の様々な態様において粒径分布は狭く、D90/D10の比は好ましくは4未満、より好ましくは3未満、さらに好ましくは2.0未満である。
【0056】
本明細書中で用いる「nm」という記号は、1ミクロンより小さいナノメートルを意味し、ミクロンは1ミリメートルの千分の一の測定単位である。
【0057】
本明細書中で用いる「約」という語は、当業者には理解されようが、その用いられる文脈次第で多少意味が変化する。「約」は、その用いられた文脈において当業者に明確でない場合は、特定の値の±10%までを意味するものとする。このことは、本出願において「約」という語が抗癌性薬物、キャリヤー、添加剤その他のパーセンテージや量に関して用いられた場合に該当するものであり、本発明の粒子の粒径に関して用いられた「約」という語は、特定の値の±25%までを意味する。すなわち、D50が約200nmであるということは、150nmから250nmまでの粒径範囲を意味する。
【0058】
本明細書中で用いる「化学療法誘発性副作用」という語は、哺乳動物において抗癌性薬物の投与に起因して発現する好ましくない症状を意味する。そのような症状の例には、体毛の喪失、骨髄抑制、嘔吐、消化管障害、肝毒性、腎毒性、脳毒性、心毒性、肺毒性、口内炎、皮膚病、および神経毒性が含まれる。本発明の新規で優れた組成物は、上記のような副作用のうち好ましくは体毛の喪失(もしくは脱毛)の抑制または軽減を実現する。
【0059】
本明細書において言及される「脱毛」もしくは体毛の喪失は好ましくは、身体の毛包が損傷される薬物誘発性脱毛に関連する。頭部の毛包はきわめて速く、かつ長期間成長し、このように頭皮の体毛器官は、身体のその他の部位の体毛器官と比較して高い生物学的活性を有するために抗癌性薬物の影響を受け易く、毛包内の毛母細胞が損傷されることになると理解される。その結果、毛母細胞成長機能に影響が及び、または体毛器官が急速に休止期へと移行し、体毛が萎縮毛状となって抜け落ちる。
【0060】
化学療法が原因の体毛喪失を抑制する試みとしてこれまでに、抗癌性薬物のアンタゴニストとの併用投与、頭皮への血流の遮断、動脈内投与などが行なわれたが、有意の成果は未だ得られていない。本発明では、この課題を安全、有効、平易かつ新規な手法で解決することを試みた。
【0061】
抗癌性薬物および少なくとも1種のポリマーを含む様々な粒状組成物を系統的かつ詳細に研究したところ、脱毛などの副作用を僅かしか示さない癌治療用組成物の提供において粒子の外形寸法のような物理化学的要素が重要な役割を果たすという、意外で、かつ非常に有用な知見が得られた。上記外形寸法には粒径、形状、組織、また表面電荷、表面疎水性といった表面特性、重量、分子量、体積比、モルフォロジー等が含まれるが、本発明ではこれらのうち最も重要な要素の一つである粒径を詳細に研究した。癌治療を要する哺乳動物に治療法の一つとして所定の粒径範囲内の粒子を含む組成物を投与すると、該組成物は、作用部位へのより多量のターゲッティングと、脱毛などの副作用の実質的軽減とが実現されるように生体内で選択的に分布される。
【0062】
ナノメートルサイズの粒子は、投与されると血中を循環し、腫瘍細胞に達する血管系が漏出性であることから腫瘍上皮細胞内に保持されることが報告されているが、直径が200nmを越える粒子は網内系(RES)細胞によって優先的に認識され、従って肝臓、肺、脾臓、リンパ循環系等の器官へと導かれ、血液循環系からは除去されることも文献に報告されている。静脈内注射されるナノ系の大部分(90%)は普通、血流中に存在するタンパク質によるオプソニン化後に肝臓および脾臓の、主として固着マクロファージから成る網内系へと失われる。このように、ナノ粒子状の薬物キャリヤーがオプソニン化され、もしくは網内系(RES)としても知られる単核食細胞系(MPS)によって身体から除去されることは、薬物ターゲッティングの主要な障害と考えられる。或る論文(Current Nanoscience, 2005, 1, 47−64)に、親水性表面を有する100nm未満の粒子はオプソニン化およびRES取り込みによるクリアランスを比較的受けにくいと記載されている。従って、より良い、より有効な抗癌性組成物を製造しようとするこれまでの試みのほとんどは、粒子を循環状態に維持し、RESに取り込まれないようにし、腫瘍部位へターゲッティングするために、1ミクロン未満、好ましくは200nmまたは100nm未満の粒子を含む組成物を得ることに集中していた。しかし、そのような従来組成物のほとんどでは粒子の直径が、1ミクロンを幾分下回り、好ましくは200nmを下回るように維持されるが、直径約70nm未満の粒子が混じることもある。約70nm未満の粒子は正常な毛細血管を透過して皮膚および毛根に達し、従って癌治療の目的で哺乳動物を処置するのに用いれば、抗癌性薬物を含有するそのような粒子は脱毛などの化学療法誘発性副作用を引き起こすであろうということは、以前の試みの段階では全く認識されていなかった。腫瘍の微小血管系は不連続で、透過性が高く、また腫瘍の場合、内皮細孔は平均で108±32nmの内径を有し、従って内径58±9nmの毛細管小胞よりはるかに大きく、かつ大きさが不均一である。従って、70nmを上回る粒子であれば、正常な毛細血管を透過せず、体毛の喪失を著しく軽減するであろう。
【0063】
本発明では、少なくとも1種の抗癌性薬物および少なくとも1種のポリマーの粒子を含み、該粒子の粒径が1ミクロン未満である、新規で優れた癌治療用組成物を製造することに成功した。好ましくは、粒子のD10は80nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は450nm以下である。すなわち上記粒子は、その90%が450nm未満の粒径を有し、10%のみが80nm未満の粒径を有し、また50%は約200nmの粒径を有するような粒径範囲内に有る。より好ましくは、粒子のD10は120nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は350nm以下であり、最も好ましくは粒子のD10は140nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は260nm以下である。驚くべきことに、約220nmまでの粒子が網内系に取り込まれず、循環させて腫瘍部位にターゲッティングするのに有効であり、また70nm未満の粒径範囲外の粒子は透過により毛胞内に侵入することがなく、従って脱毛などの化学療法誘発性副作用を実質的に軽減することが観察された。本発明の粒子は意外にも、RESを有する組織以外の組織、すなわち前立腺、膵臓、精巣、乳、精細管、骨等に有意に高い濃度で蓄積することが判明し、また脱毛を軽減したことで、皮膚および毛胞などの部位にはさほど蓄積しないことが示された。
【0064】
各毛包は、成長期、退行期および休止期という連続した3段階を経過すると理解される。成長期のあとに退行期が続き、最後に毛幹が成熟して棍毛となったら毛包は休止期に入る。前記棍毛が最終的に毛包から抜ける。いずれの時点でも、ほとんどの毛包は成長期に有り、その際低いパーセンテージの毛包のみが休止期に、またごく一部の毛包が退行期に有る。抗癌性薬物は、成長期に急速に増殖する毛球母細胞を破壊する。その結果、発毛が停止し、細くなった毛幹が後に切れて、体毛が失われる。本発明の抗癌性薬物組成物は、薬物が毛包内へと染み出すことが防止され、それによって体毛の喪失が防止されるような組成物である。
【0065】
本発明の好ましい態様において、抗癌性薬物および少なくとも1種のポリマーを含む組成物はコロイド送達系であり、リポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、ポリマー−薬物複合体、ナノカプセル、ナノスフェア、微粒子およびナノ粒子、固体−脂質ナノ粒子を含む。これらの送達系はターゲッティング、分布の調節、および融通の利く製剤化という利点を有し、そのポリマー構造を所望の目的に適った仕方で設計および製造することができる。上記組成物は、本明細書に記載した投与経路のいずれによって投与されてもよく、すなわち経口投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、髄腔内投与、筋肉内投与、頭蓋内投与、吸入、局所投与、経皮投与、直腸内投与、膣内投与、粘膜投与などが可能であり、また該組成物は薬物を直ちに放出するものであってもよいし、いずれも本発明の範囲内である様々な公知の手法を適用することによって送達系からの薬物放出を調節し、持続させ、周期化し、遅延させ、または制御することにより、薬物を所与の期間にわたって放出する組成物としてもよい。コロイド送達系は、ポリマーが薬物と共に分散している一体型であっても、薬物をポリマーで被覆するか、またはポリマーに封入した被覆型であってもよい。好ましい系はナノ粒子を含むナノ系であり、ナノケージ、ナノゲル、ナノ繊維、ナノシェル、ナノロッド、ナノコンテナ等を含む開発中の新しいナノ系も好ましい。
【0066】
好ましい送達系は抗癌性薬物のナノ粒子組成物であり、この組成物は、非経口投与に好適であること、容易に再分散する乾燥形態に製剤され得ること、ナノ粒子組成物中に存在する活性物質粒子の再分散性が高いこと、作用部位へのターゲッティングに優れていること、生体適合性が高いこと、用量が少ないこと、優れた薬理動態プロファイルを有すること、および副作用の軽減を実現することを含めた多くの利点を有し得る。好ましいナノ粒子は、抗癌性薬物がポリマーマトリックス中に封入されているか、またはポリマー表面に吸着もしくは結合しているサブミクロンサイズのポリマーコロイド粒子である。このような粒子は、ポリマー材料を適宜選択することによって薬物放出パターンを制御し、薬物濃度を長時間維持することを可能にもする。
【0067】
本発明の実施形態に従って提供される優れた抗癌性薬物組成物は、抗癌性薬物およびポリマーのナノ粒子組成物であり、この組成物は本明細書中に規定した特定の具体的な粒径範囲を有するコロイド送達系で、その粒子は前立腺、精巣、乳、肺、腎臓、膵臓、骨、脾臓、肝臓、脳等の癌を含めた原発および転移腫瘍を、副作用、特に化学療法誘発性脱毛を有意に軽減しつつ治療するのに有用である。好ましくは、この組成物は少なくとも1種の抗癌性薬物を該組成物の約0.5〜約99.5重量%の量で含み、かつ少なくとも1種のポリマーを該組成物の約2.0〜約99.0重量%の量で含む。好ましい実施形態において、抗癌性薬物はパクリタキセルであり、この薬物は、少なくとも1種のポリマーを組成物自体の約2.0〜約99.0重量%の量で含むナノ粒子組成物の形態で提供される。
【0068】
本発明に用いられる生分解性ポリマーは、天然、合成、および半合成材料を含む。
【0069】
天然ポリマーの例には、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、オリゴペプチド、ポリ核酸、多糖(例えばデンプン、セルロース、デキストラン、アルギネート、キトサン、ペクチン、ヒアルロン酸など)、脂肪酸、脂肪酸エステル、グリセリド、脂肪、脂質、リン脂質、プロテオグリカン、リポタンパク質等、およびこれらの改質体が含まれる。タンパク質には、アルブミン、免疫グロブリン、カゼイン、インスリン、ヘモグロビン、リゾチーム、α2−マクログロブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、フィブリノゲン、リパーゼ等が含まれる。安定性の改善が必要な場合は、タンパク質、ペプチド、酵素、抗生物質、およびこれらの組み合わせを安定化剤として本発明に用いることも可能である。好ましいタンパク質はアルブミンであり、このタンパク質は好ましくは組成物の約2.0〜99.0重量%の量で用いられ、より好ましくは5.0〜95.0重量%、最も好ましくは約10.0〜約90.0重量%の量で用いられる。
【0070】
合成ポリマーには、ゼラチンのようなポリアミノ酸、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリアクリル酸エステル、ポリビニルピロリドン、ポリエトキシゾリン、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリジノン、ポリアルキレングリコール、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトンまたはそのコポリマー等、ならびにこれらのポリマー、特にα−ヒドロキシカルボン酸、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(β−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)および(β−ヒドロキシ酪酸−ヒドロキシ吉草酸)コポリマー、ポリリンゴ酸、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(d,l−乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ乳酸−ポリエチレンオキシドの両親媒性ブロックポリマー、ポリアルキレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリホスファザン、プルランのうちのいずれか2種以上の好適な組み合わせが含まれる。
【0071】
好ましくは、本発明の送達系では生分解性/生体適合性ポリマーを用いて抗癌性薬物が封入される。主要ポリマーとして用いるこの生分解性ポリマーは、投与直後に薬物を放出するものであっても、治療効果を高めるべく抗癌活性物質の放出を遅らせ、かつナノ粒子組成物を標的部位に長期間維持するものであってもよい。主要ポリマーとして好ましいのは、調節放出性ガレヌス製剤の調製用に許可された生分解性ポリマーであるポリ(d,l−乳酸−コ−グリコール酸)すなわちPLGAである。PLGAは疎水性コポリマーで、加水分解反応により分解して2種の通常の生物学的物質、すなわち乳酸およびグリコール酸を生成させ、これらは好気的解糖の末にCOおよびHOに代謝される。PLGAの生分解速度は乳酸およびグリコール酸それぞれの割合に依存し、好ましい比率は50:50である。PLGAは完全に生体適合性であり、穏やかな異物反応しか引き起こさない。本発明においてPLGAは、好ましくは組成物の約2.0〜99.0重量%の量で用いられ、より好ましくは5.0〜95.0重量%、最も好ましくは約10.0〜約90.0重量%の量で用いられる。
【0072】
本発明の別の態様によれば、本発明は抗癌性薬物を作用部位へ様々な手法でターゲッティングすることを含み、前記手法には特に、ターゲッティングリガンドを薬物に、または薬物を含有するナノ粒子組成物に結合させて当該薬物または組成物を標的部位へと導くこと、または組成物を感温性および/またはpH感受性ポリマーで被覆し、またそのようなポリマーと結合させることが含まれる。
【0073】
活性物質を腫瘍部位へとターゲッティング放出するための上記態様によれば、ポリ(N−アセチルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−アクリルアミド)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリ(メタクリルアミド)といった、水溶液中で熱応答性を示し得る温度応答性のポリマー間錯体(interpolymer complex)を、パクリタキセルのような抗癌性薬物を封入したナノ粒子に適用することにより、外表面を修飾した感温性ナノ粒子が調製される。親水性表面を有するこのナノ粒子は血中を長期間循環し、またその熱感受性、すなわち水溶液中で上部臨界完溶温度(UCST)または下部臨界完溶温度(LCST)を示す性質ゆえに、37℃においてin vivo注射されると粒径が増大する。粒子が腫瘍に蓄積すると、腫瘍の微環境における生理学的条件の相違に起因して粒径はさらに数倍に増大し、封入されていた活性薬物が腫瘍部位で放出される。用い得るpH感受性ポリマーには、ポリアクリル酸エステル、酢酸フタル酸セルロース等が含まれる。
【0074】
本発明の薬物封入ナノ粒子は、in vitro条件下に室温において粒子のD10が80nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は450nm以下であるように、好ましくはD10が120nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は350nm以下であるように、より好ましくはD10が140nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は260nm以下であるように設計されるが、興味深いことに、本発明の粒子をin vivo注射するとその感温性に起因して、血漿中で粒径が元の粒径の約2倍になる。このように、たとえ商業的規模にまで拡大された生産においては薬物およびポリマーを含む組成物の粒子の幾分かが所定範囲内の粒径を有しないおそれがあるとしても、in vivoでは本発明の粒子は常に、該粒子が正常な毛細血管を透過して皮膚に、ひいては毛根に達することを防止するような粒径範囲内に有るので、長時間血中を循環して、最終的に作用部位へとターゲッティングされる。腫瘍に到達した場合本発明の粒子は、腫瘍部位においてその粒径が元の粒径の約10倍になると共に、腫瘍の漏出性で過透過性の微小血管系を透過してそこに保持され(すなわち、浸透および保持効果の向上)、薬物を放出する。このことは、本発明の組成物を様々な癌の治療のために投与した際に脱毛の軽減をもたらす。遊離薬物をほとんど含まない本発明の組成物は、脱毛に関連する副作用の軽減という付加的な利点も有する。本発明の組成物中に用いられる副次的ポリマーとして好ましいのはポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)などの感温性および/またはpH感受性ポリマーで、このポリマーは組成物の約0.5〜約99.0重量%、好ましくは約1.0〜約95.0重量%、最も好ましくは約2.0〜約90.0重量%の量で用いられる。
【0075】
従って、本発明の好ましい実施形態によれば、パクリタキセルなどの抗癌性薬物を封入したナノ粒子であって、当該薬物を腫瘍部位に直接または制御下に、かつ部位特異的に送達し、それによって少ない活性物質用量で最小限の有害作用しか伴わずに薬物の治療効果を最大にするべく外表面を修飾して感温性としたナノ粒子を調製する方法が提供される。
【0076】
本発明による、パクリタキセルのような抗癌性薬物の医薬組成物には、薬物および該薬物の製薬学的に許容されるキャリヤーを含む上述のナノ粒子組成物が含まれる。製薬学的に許容されるキャリヤーで好適なものは当業者に良く知られている。それらには、無毒で製薬学的に許容されるキャリヤー、添加剤もしくは佐剤、または賦形剤であって非経口投与用のもの、固形または液状である経口投与用のもの、直腸内投与用のもの、鼻腔内投与用のもの、筋肉内投与用のもの、皮下投与用のものなどが含まれる。好ましくは、上記ナノ粒子組成物はIVボーラス注射剤として投与されるか、または皮下もしくは筋肉内経路から投与される非経口注射用組成物である。
【0077】
非経口注射に好適な組成物は、生理学的に許容される滅菌水性または非水性分散液、懸濁液または乳濁液、および還元して滅菌注射用分散液または懸濁液とされる滅菌粉末を含み得る。好適な水性および非水性のキャリヤー、稀釈剤、溶媒、または賦形剤の例には、水、無水エタノール、オクタノールといった脂肪族または芳香族アルコール、ジクロロメタンなどのアルキルまたはアリールハロゲン化物、アセトンなどのケトン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼンといった脂肪族、脂環式、または芳香族炭化水素、およびポリオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール等)、N−ヒドロキシスクシンイミド、カルボジイミド、これらの好適混合物、植物油(例えばダイズ油、鉱油、トウモロコシ油、ナタネ油、ヤシ油、オリーブ油、ベニバナ油、綿実油等)、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリルといったアルキルエーテル、アリールエーテルまたは環状エーテル、および水性緩衝溶液、クロロホルムなどが含まれる。例えばレシチンなどの被膜を用い、分散液または懸濁液の場合であれば必要な粒径を維持し、また界面活性剤を用いることによって適正な流動性を維持することができる。
【0078】
本発明のナノ粒子医薬組成物は、活性物質および溶媒に加えて、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、表面安定化剤、界面活性剤および分散剤などの添加剤や佐剤を含有してもよく、その具体例は当該技術分野において公知であり、かつ本発明の範囲に含まれる。適用可能でさえあれば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸といった様々な抗菌薬および抗真菌薬によって微生物の増殖を確実に抑制することができる。糖、塩化ナトリウムなどの等張化剤、リン酸塩、フタル酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩といった緩衝剤を含有することが望ましい場合も有る。
【0079】
本発明のナノ粒子組成物は、製造の各段階で滅菌濾過するか、または滅菌条件下に製造することが可能である。このようにすれば、活性物質を害し、または分解させたり、活性物質の結晶成長および粒子凝集を招いたりしかねない熱滅菌が不要となる。コロイド送達系としての組成物は、最終的に凍結乾燥粉末とするか、または生体適合性の水性液体中に懸濁させて懸濁液としてもよい。生体適合性液体は、水、水性緩衝媒質、生理食塩水、緩衝生理食塩水、アミノ酸、タンパク質、糖、炭水化物、ビタミンまたは合成ポリマーの緩衝溶液、脂肪乳剤などの中から選択し得る。
【0080】
本発明の重要な一態様では、パクリタキセル、その誘導体またはその類似体などの抗癌性薬物を封入したナノ粒子と、パクリタキセル、その誘導体または類似体などの抗癌性薬物を封入したナノ粒子を封入効率が最高となるように、すなわちナノ粒子組成物が遊離薬物を実質的に含まないように製造する方法とが提供される。従って、パクリタキセル、その誘導体または類似体などの抗癌性薬物を封入したナノ粒子であって、具体的に規定された粒径範囲内に有るものを分別する方法の提供、および薬物の大部分がポリマーと結合している組成物中の遊離薬物を一切除去する操作をナノ粒子に施して、組成物が治療目的で哺乳動物に投与された際に脱毛もしくは体毛の喪失のような副作用を実質的に僅かしか生じないようにする方法の提供も本発明の目的である。
【0081】
先に述べたように微粒子、リポソーム、ナノカプセル、ナノスフェアおよびナノ粒子などを含む本発明による組成物は当該技術分野で通常用いられる標準的な方法で製造されるが、その際、望ましく規定された粒径範囲内に有る粒子を分別する工程、および本明細書に記載した実施形態において具体的に例示したポリマーに封入されていないか、またはそのようなポリマーと結合していない遊離薬物を一切除去する処理を粒子に施す工程が付加される。本発明のナノ粒子医薬組成物を製造する方法は、微粒子/ナノ粒子組成物を製造するあらゆる手法を包含する。本発明の好ましい一態様において、組成物の製法は、薬物および1種以上のポリマーを水性溶液および/または溶媒もしくは溶媒混合物に溶解および/または分散させる工程、得られた二つの溶液を、場合によっては製薬学的に許容される付加的なキャリヤーまたは添加剤の存在下に攪拌混合して乳濁液または沈澱物を生じさせる工程、この混合物を低圧または高圧下に均質化して所望粒径のナノ粒子を得る工程、減圧の利用など任意の方法で溶媒を除去する工程、必要であればナノ粒子を分粒して粒径範囲を本発明の規定どおりとする工程、ナノ懸濁液を30キロドルトンメンブランで限外濾過して遊離薬物を一切除去する工程、および最後にバイアル内で凍結乾燥し、後の試験に備えて保存する工程を含む。
【0082】
本発明により哺乳動物を処置する方法は、処置を必要とする哺乳動物に上述のような抗癌性薬物およびポリマーの新規で優れた組成物を有効量で投与することを含み、その際前記組成物は化学療法誘発性脱毛の実質的軽減を実現する。
【0083】
すなわち、本発明の特に好ましい態様によれば、抗癌性薬物での処置を受けている哺乳動物において癌治療の、脱毛などの化学療法誘発性副作用を軽減する方法であって、本明細書に記載した少なくとも1種の抗癌性薬物および少なくとも1種のポリマーの粒子を含む前記新規で優れた組成物を治療有効量で投与することを含む方法が提供される。組成物は、本明細書に記載した本発明中に規定された粒径範囲内の粒子を含み、かつ遊離薬物を実質的に含有しない。
【実施例1】
【0084】
パクリタキセルを封入したPLGAナノ粒子の合成:
ポリ(d,l−乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)からナノ粒子を、w/o/w型ダブルエマルションを経る二重乳化法を用いて合成した。典型的な実験手順として、100mgのPLGAを2mLのジクロロメタンに溶解させ、また10mgのパクリタキセルを1.0mLの無水エタノールに溶解させた。二つの溶液を攪拌下にゆっくり混合した。得られた溶液に500μLのリン酸緩衝溶液を乳濁させることによって油中水(w/o)型の主エマルションを調製した。この油中水型主エマルションをさらにポリ(N−アセチルアクリルアミド)溶液中に乳濁させて水中油中水型(w/o/w型エマルション)とした。このように製造したw/o/w型エマルションを均質化し、溶媒を蒸発させて、パクリタキセルを封入したナノ粒子を形成した。その後、溶液を遠心して所望粒径範囲内のナノ粒子を選択的に分離した。このナノ粒子を滅菌水中に分散させ、直ちに凍結乾燥して以後の使用に備えた。
【実施例2】
【0085】
プルランミセルナノメートル凝結体と共有結合したPLGA、およびパクリタキセルの封入:
PLGAをN−ヒドロキシスクシンイミドで活性化し、それによってPLGAをプルランに共有結合させた。プルラン−PLGA複合体をゲル濾過によって精製し、FTIR、H−NMRおよび質量分光分析によって特性解析した。疎水性化プルラン溶液を凍結乾燥し、以後の使用に備えて極度の凍結状態に維持した。
【0086】
疎水性化プルラン100mgを10mLの水に溶解させ、溶液をボルテックスで攪拌してミセルを形成した。パクリタキセルをエタノールに加えて調製した溶液をミセル溶液にゆっくり添加し、薬物がミセル状調製物に封入されたことを示す透明な溶液が得られるまで溶解させた。所望粒径範囲内の薬物内包粒子を選択的に分離し、溶液を凍結乾燥した。
【0087】
封入効率もしくは内包能、およびナノ粒子からのパクリタキセル放出挙動を、HPLCを用いる標準的な手法で測定し、また粒径は通常の粒径分析機を用いて測定した。
【0088】
感熱性ポリマーでのナノ粒子の被覆:
薬物内包ナノ粒子を水性緩衝液(pH4〜5)中に懸濁させた。この溶液にカルボジイミド溶液を添加し、得られた溶液をボルテックスに掛け、室温で4時間攪拌した。その後、ナノ粒子を遠心によって(または濾過もしくは透析によって)分離した。ポリ(N−アセチルアクリルアミド)ポリマーの水溶液をナノ粒子懸濁液に滴下し、混合物をボルテックスに掛けた。得られた溶液をさらに攪拌し、粒子を精製し、凍結乾燥して以後の使用に備えた。
【0089】
特定粒径範囲内のナノ粒子の分別:
凍結乾燥粉末状のパクリタキセル内包ナノ粒子10.0mgを水性緩衝液中に、音波処理を援用して懸濁させた。溶液を0.2μm Millipore濾過ユニットで濾過し、濾液に非対称フローフィールドフローフラクショネーションを、この手法を用いて粒子を分別する際の標準的な製造業者プロトコルに従って適用した。複数の異なるフラクションを集め、標準的な手法を用いて粒径分析し、粒径および粒径分布を明らかにした。
【実施例3】
【0090】
パクリタキセル−ヒト血清アルブミンナノ粒子の調製:
ヒト血清アルブミン1800mgを注射用滅菌水に溶解させた。これとは別に、200mgのパクリタキセルをエタノールに溶解させた。エタノール溶液をヒト血清アルブミンの水溶液に、高速攪拌下にゆっくり添加した。このように形成した乳濁液を、所望粒径のナノ粒子を得るのに十分な時間だけ高圧ホモジナイザーに通した。ナノ粒子からエタノールを減圧下に除去し、その後粒子を、まず0.2ミクロンフィルター、次いで0.1ミクロンフィルターに通して分粒した。分別したナノ粒子を0.2ミクロンフィルターで滅菌濾過し、限外濾過し、バイアル内で凍結乾燥した。粒子を様々なパラメーターに関して試験した。
【0091】
[表1]
表1:
通し番号 試験 結果
1 パクリタキセル含量 1mg/10mg凍結乾燥粉末
2 懸濁液のpH 6.8
3 遊離薬物含量 含有せず
4 ナノ粒子の累積体積分布 D10 − 70.8nm
D50 − 97.9nm
D90 − 99.8nm
【実施例4】
【0092】
パクリタキセル−ヒト血清アルブミンナノ粒子の調製:
ヒト血清アルブミン675mgを注射用滅菌水に溶解させた。これとは別に、75mgのパクリタキセルをエタノールに溶解させた。エタノール溶液をヒト血清アルブミンの水溶液に攪拌下に添加した。このように形成した乳濁液を、所望粒径のナノ粒子を得るのに十分な時間だけ低圧のホモジナイザーに通した。ナノ粒子からエタノールを減圧下に除去し、その後粒子を、30キロドルトンメンブランで限外濾過して遊離薬物を除去してからバイアル内で凍結乾燥した。得られた粒子を様々なパラメーターに関して試験した。
【0093】
[表2]
表2:
通し番号 試験 結果
1 パクリタキセル含量 1mg/10mg凍結乾燥粉末
2 懸濁液のpH 6.8
3 遊離薬物含量 含有せず
4 ナノ粒子の累積体積分布 D10 − 143.4nm
D50 − 178.5nm
D90 − 285.9nm
【実施例5】
【0094】
LCSTポリマーを伴ったパクリタキセル−ヒト血清アルブミンナノ粒子の調製:
ヒト血清アルブミン1800mg、およびポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(LCSTポリマー)200mgを注射用滅菌水に溶解させた。これとは別に、200mgのパクリタキセルをエタノールに溶解させた。これ以降の手順は上記実施例3と同様とした。
【0095】
LCSTポリマーを用いた幾つかの実験で得られた粒子を分別して、所望粒径範囲の粒子を得た。或る実験では得られる粒子の、様々な温度条件下での粒径変化を調べた。その結果を、温度の上昇と共に粒径が増大することの一証左として下記表3に示す。
【0096】
[表3]
表3:
温度 平均粒径
25℃ 90.0nm
30℃ 92.8nm
35℃ 98nm
37℃ 130nm
38℃ <1000nm
【0097】
上記結果は、パクリタキセルおよびアルブミンを含む粒子がLCSTポリマーのような副次的ポリマーの存在下、様々な温度条件に晒された時に粒径の増大を示し、該粒子の粒径は37度の温度(例えば血漿の温度)では元の約2倍、38度の温度(例えば腫瘍の温度)では元の約10倍になることを示している。
【実施例6】
【0098】
PLGA−パクリタキセル−LCSTポリマーナノ粒子の調製:
パクリタキセルおよびポリ(d,l−乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)をアセトンに溶解させた。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を注射用水に溶解させ、この水性相にポリビニルアルコールを添加した。パクリタキセル−PLGA溶液を水性相に、攪拌下にゆっくり添加した。このように調製した乳濁液からアセトンを減圧下に除去した。得られたナノ粒子を分粒し、遊離薬物を除去して、凍結乾燥を行なった。
【実施例7】
【0099】
パクリタキセル−PLGA−ヒト血清アルブミンナノ粒子の調製:
ヒト血清アルブミン900mgを注射用滅菌水に溶解させた。これとは別に、パクリタキセルおよびPLGA各100mgをクロロホルムに溶解させた。ヒト血清アルブミンの水溶液を高速で混合しながら該水溶液にパクリタキセル−PLGA溶液を攪拌下に添加し、それによってo/w型乳濁液を形成した。この乳濁液を、ナノ粒子を所望の粒径とするのに十分な時間だけ低圧のホモジナイザーに通した。ナノ粒子から残留エタノールを減圧下に除去し、その後粒子を、30キロドルトンメンブランで限外濾過して遊離薬物を除去してから凍結乾燥した。得られた粒子を様々なパラメーターに関して試験した。
【0100】
[表4]
表2:
通し番号 試験 結果
1 パクリタキセル含量 1mg/10mg凍結乾燥粉末
2 懸濁液のpH 6.9
3 遊離薬物含量 含有せず
4 ナノ粒子の累積体積分布 D10 − 176.6nm
D50 − 233.8nm
D90 − 318.4nm
【実施例8】
【0101】
マウスの体毛成長パターンに対する化学療法の影響:
本実施例の試験に用いた7週齢の雄性BALB/cマウスはケージで飼育し、餌および水を自由に摂取させた。これらのマウスは標準状態(室温25℃、12時間明るくし、12時間暗くする明暗サイクル)の下に維持した。
【0102】
試験では、基準試料(市販のアルブミン結合パクリタキセル注射用懸濁液)、被験試料(実施例3から得た試料)、および対照の生理食塩水(賦形剤)を注射した。
【0103】
化学療法誘発性脱毛についての試験用にマウスモデルを開発した。生後数回の毛周期を経て休止期に有ったマウスに麻酔を掛け、休止期の毛幹を総て除去することによって該マウスを毛周期の成長期に入るように誘導した。除毛は、電気バリカンを用いた後、背部の皮膚に市販の除毛クリームを適用して行なった。このような手法を用いたことにより、除毛された休止期毛包は直ちに一斉に成長期毛包(I〜VI期)へと変化し始めた(Paus et al., American Journal of Pathology, 144, 719−734(1994)参照)。上記操作を行なったのは、マウスにおいて成長期を自然に開始させるのではなく、高度に同期化して誘導するためである。成長期のVI期(除毛後9日目)に、各4匹の試験用マウスから成る三つのマウス群に被験試料および基準試料(20mg/kg)ならびに等量の対照を静脈内投与した。
【0104】
上記処理後、総てのマウスを体毛の成長および脱毛の徴候に関して目視で観察し、かつ記録のためデジタル写真撮影した。化学療法、および賦形剤での処理から異なる時間が経過した時点で、体毛成長パターンを下記のような体毛成長指標に基づいて評価した。
体毛成長指標とその評点:
0=体毛が成長しない。
1=体毛の成長がかなり不良で、脱毛が重篤である。
2=体毛の成長が幾分不良で、脱毛箇所が散見される。
3=体毛の成長が良好かつ一様であり、脱毛の兆候は無い。
次の表4に、各処理毎の体毛成長評価指数を示す。
【0105】
[表5]
表4:
体毛成長評価指数(平均±SEM)
群 第1日 第10日
対照 0.00 3.00±0.00
(生理食塩水i.v.)
被験試料 0.00 2.66±0.33
(20mg/kg; i.v.)
基準試料 0.00 2.0±0.57
(20mg/kg; i.v.)
【0106】
大きい体毛成長評価指数ほど、体毛の成長が良好であったことを示す。
上掲データは、被験試料で処理したマウスでは基準試料で処理したマウスと比較して体毛の成長が良好であり、その評価指数の値は対照で処理した場合に近似したことを示している。
【実施例9】
【0107】
マウスの体毛成長パターンに対する化学療法の影響:
実施例4から得た別の試料を被験試料として用いて、上記と同様の試験を行なった。
試験では、基準試料(市販のアルブミン結合パクリタキセル注射用懸濁液)、被験試料(実施例4から得た試料)、および対照の生理食塩水(賦形剤)を注射した。
次の表5に、この試験での各処理毎の体毛成長評価指数を示す。
【0108】
[表6]
表5:
体毛成長評価指数(平均±SEM)
群 第1日 第10日
対照 0.00 2.25±0.25
(生理食塩水i.v.)
被験試料 0.00 2.00±0.00
(20mg/kg; i.v.)
基準試料 0.00 1.50±0.28
(20mg/kg; i.v.)
【0109】
上掲データは、被験試料で処理したマウスでは基準試料で処理したマウスと比較して体毛の成長がはるかに良好であり、その評価指数は対照試料で処理した場合にきわめて近似し、基準試料で処理したマウスの体毛成長評価指数は最小であったことを示している。対照と基準試料との間には、体毛成長評価指数に関して統計的に有意の差が存在する(p<0.05; t=1.964; df=6; n=4)。上掲データは、被験試料が脱毛などの化学療法誘発性副作用を僅かしか示さなかったことを示唆するものでもある。
【実施例10】
【0110】
腫瘍発生マウスでの試験:
この試験では、(a)基準試料(市販のアルブミン結合パクリタキセル注射用懸濁液)、(b)被験試料I(実施例4から得た試料)、(c)被験試料II(実施例5から得た試料)を用いた。
【0111】
この実験の目的は、本発明のナノ粒子(被験試料)の腫瘍内保持および腫瘍外漏出挙動を基準試料との比較において調べることであった。腫瘍を生じたICRCマウス(自発乳癌に罹患)を平均腫瘍径に基づいて3群(n=5)に分け、基準試料および被験試料を腫瘍内経路から投与した(0.06mg/100mm)。一律に8時間経過後、マウスを殺して腫瘍および血漿を摘出し、これらをパクリタキセルに関して分析した。
【0112】
被験試料および基準試料中のパクリタキセルの腫瘍−血漿比を計算したところ、実施例4の試料では71.61、実施例5の試料では355.7、基準試料では19.96であった。このデータは、基準試料と比較して実施例4の被験試料では3.58倍、実施例5の被験試料では17.80倍のパクリタキセルが保持されたことを示している。このことは、両被験試料の漏出性が基準試料より低いことを示唆し、実施例4の被験試料にみられる脱毛などの副作用の軽減を裏付けてもいる。実施例5に例示した、組成物中に付加的な感温性ポリマーが含まれる被験試料は、粒子が本発明に規定された粒径にまで膨潤することによりきわめて優れた保持性を示し、従ってその漏出性はきわめて低く、このことは脱毛のような副作用の実質的軽減をもたらし得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱毛などの化学療法誘発性副作用を実質的に僅かしか示さない、新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項2】
少なくとも1種の抗癌性薬物および少なくとも1種のポリマーの粒子を含む、請求項1に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項3】
粒子が所定の粒径範囲内に有り、組成物は脱毛などの化学療法誘発性副作用を実質的に僅かしか生じない組成物である、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項4】
粒子のD10が80nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は450nm以下である、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項5】
粒子のD10が120nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は350nm以下である、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項6】
粒子のD10が140nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は260nm以下である、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項7】
前記組成物が遊離薬物を実質的に含まず、薬物は実質的に完全にポリマーと結合している、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項8】
前記粒子の粒径分布比D90/D10が4.0未満である、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項9】
前記粒子の粒径分布比D90/D10が3.0未満である、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項10】
前記粒子の粒径分布比D90/D10が2.0未満である、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項11】
抗癌性薬物がアルキル化剤、代謝拮抗物質、抗癌抗生物質、植物アルカロイド、アントラセンジオン、天然物、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、様々な物質、放射線感受性増強物質、白金配位錯体、副腎皮質抑制剤、免疫抑制薬、機能治療薬、遺伝子治療薬、アンチセンス治療薬、チロシンキナーゼ抑制剤、モノクローナル抗体、抗毒素、放射性免疫複合体、癌ワクチン、インターフェロン、インターロイキン、置換尿素、タキサン、およびCOX−2阻害剤から成る群から選択される、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項12】
抗癌性薬物が、クロルメチン、クロラムブシル、ブスルファン、チオテパ、クロラムブシル、シクロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロルエタミン、メルファラン、ウラムスチン、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン、ダカルバジン、プロカルバジン、テモゾラミド、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、(SP−4−3)−(cis)−アンミンジクロロ−[2−メチルピリジン}−白金(II)、メトトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド、トリメトレキサート、クラドリビン、クロロデオキシアデノシン、クロファラビン、フルダラビン、メルカプトプリン、ペントスタチン、チオグアニン、アザシチジン、カペシタビン、シタラビン、エダトレキサート、フロクスウリジン、5−フルオロウラシル、ゲムシタビン、トロキサシタビン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、アドリアマイシン、アクチノマイシン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ポルフィロマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、リポソーム型ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、バルルビシン、フェネステリン、タモキシフェン、ピポスルファンカンプトテシン、L−アスパラギナーゼ、PEG−L−アスパラギナーゼ、パクリタキセル、ドセタキセル、タキソテール、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、イリノテカン、トポテカン、アムサクリン、エトポシド、テニポシド、フルオキシメステロン、テストラクトン、ビカルタミド、シプロテロン、フルタミド、ニルタミド、アミノグルテチミド、アナストロゾール、エキセメスタン、ホルメスタン、レトロゾール、デキサメタゾン、プレドニゾン、ジエチルスチルベストロール、フルベストラント、ラロキシフェン、タモキシフェン、トレミフェン、ブセレリン、ゴセレリン、ロイプロリド、トリプトレリン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、レボチロキシン、リオチロニン、アルトレタミン、三酸化ヒ素、硝酸ガリウム、ヒドロキシウレア、レバミゾール、ミトタン、オクトレオチド、プロカルバジン、スラミン、サリドマイド、メトキサレン、ポルフィマーナトリウム、ボルテゾミブ、エルロチニブ塩酸塩、ゲフィチニブ、イマチニブメシル酸塩、セマキサニブ、アダパレン、ベキサロテン、trans−レチノイン酸、9−cis−レチノイン酸、およびN−(4−ヒドロキシフェニル)レチンアミド、アレムツズマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、イブリツモマブチウキセタン、リツキシマブ、トラスツズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、トシツモマブ、インターフェロン−α2a、インターフェロン−α2b、アルデスロイキン、デニロイキンジフチトクス、およびオプレルベキン、ならびにこれらの誘導体などのうちの1種以上である、請求項11に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項13】
抗癌性薬物がタキサン、ドキソルビシンおよび5−フルオロウラシルの中から選択される、請求項12に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項14】
抗癌性薬物がタキサンとその誘導体である、請求項13に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項15】
タキサンがパクリタキセルおよびドセタキセルから選択される、請求項14に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項16】
ポリマーが生分解性ポリマーである、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項17】
生分解性ポリマーが、タンパク質、ペプチド、脂肪酸、脂質、リン脂質、ポリ核酸、多糖、プロテオグリカン、リポタンパク質、α−ヒドロキシカルボン酸、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(β−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)および(β−ヒドロキシ酪酸−ヒドロキシ吉草酸)コポリマー、ポリリンゴ酸、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(d,l−乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ乳酸−ポリエチレンオキシドの両親媒性ブロックポリマー、ポリアルキレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリホスファザン、プルラン、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリアクリル酸エステル、ポリビニルピロリドン、ポリエトキシゾリンならびに他の合成および天然ポリマーまたはコポリマーなど、ならびにこれらの誘導体および混合物を含む群から選択される、請求項16に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項18】
前記タンパク質がアルブミンである、請求項17に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項19】
前記組成物が約0.5〜約99.5重量%の前記抗癌性薬物と、約2.0〜約99.0重量%の前記ポリマーとを含む、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項20】
抗癌性薬物がパクリタキセルであり、ポリマーがポリ(d,l−乳酸−コ−グリコール酸)である、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項21】
抗癌性薬物がパクリタキセルであり、ポリマーがアルブミンである、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項22】
副次的ポリマーをさらに含む、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項23】
副次的ポリマーが感温性およびpH感受性ポリマーから成る群から選択される、請求項22に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項24】
感温性および/またはpH感受性ポリマーが、ポリ(N−アセチルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−アクリルアミド)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリ(メタクリルアミド)等、およびこれらの誘導体から成る群から選択される、請求項23に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項25】
前記感温性および/またはpH感受性ポリマーがポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である、請求項24に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項26】
前記組成物の約0.5〜約99.0重量%、約1.0〜約95.0重量%、および約2.0〜約90.0重量%の量の副次的ポリマーをさらに含む、請求項19に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項27】
組成物の粒子が副次的ポリマーの存在下、哺乳動物に投与された際に血漿中で元の粒径の約2倍、腫瘍部位では元の粒径の約10倍の粒径を有し、それによってターゲッティングと、脱毛などの化学療法誘発性副作用の実質的軽減とを実現する、請求項22に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項28】
前記組成物がコロイド状送達系である、請求項2に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項29】
コロイド状送達系が凍結乾燥されている、請求項28に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項30】
コロイド状送達系が、生体適合性の水性液体中に粒子が懸濁している系である、請求項28に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項31】
組成物が該組成物の約0.5〜約99.5重量%のパクリタキセル、約2.0〜約99.0重量%のポリ(d,l−乳酸−コ−グリコール酸)および場合によっては約2.0〜約90.0重量%のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ならびに約0.01〜約99.9重量%の製薬学的に許容される1種以上の添加剤、キャリヤー、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項32】
組成物が該組成物の約0.5〜約99.5重量%のパクリタキセル、約2.0〜約99.0重量%のアルブミンおよび場合によっては約2.0〜約90.0重量%のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ならびに約0.01〜約99.9重量%の1種以上の製薬学的に許容される添加剤、キャリヤーまたはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の新規で優れた癌治療用組成物。
【請求項33】
請求項1に記載の新規で優れた癌治療用組成物を製造する方法であって、(i)溶媒中で少なくとも1種の抗癌性薬物を少なくとも1種のポリマーと混合する工程、(ii)場合によっては工程(i)を1種以上の製薬学的に許容されるキャリヤーの存在下に実施する工程、(iii)溶媒を除去することによってナノ粒子を得る工程、および(iii)ナノ粒子を分粒して、得られる粒子が80nm以上のD10と、約200nmのD50と、450nm以下のD90とを有し、かつ遊離薬物を実質的に含まないようにする工程を含み、組成物は脱毛などの化学療法誘発性副作用の実質的軽減を実現する組成物である方法。
【請求項34】
哺乳動物を癌治療の目的で処置する方法であって、少なくとも1種の抗癌性薬物および少なくとも1種のポリマーの粒子を含む前記新規で優れた組成物を治療有効量で哺乳動物に投与することを含み、粒子のD10は80nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は450nm以下であり、組成物は、遊離薬物を実質的に含まず、脱毛などの化学療法誘発性副作用の実質的軽減を実現する組成物である方法。
【請求項35】
抗癌性薬物での処置を受けている哺乳動物において癌治療の、脱毛などの化学療法誘発性副作用を軽減する方法であって、少なくとも1種の抗癌性薬物および少なくとも1種のポリマーの粒子を含む前記新規で優れた組成物を治療有効量で投与することを含み、粒子のD10は80nm以上であり、D50は約200nmであり、D90は450nm以下であり、組成物は遊離薬物を実質的に含まない組成物である方法。

【公表番号】特表2009−512682(P2009−512682A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536207(P2008−536207)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際出願番号】PCT/IN2006/000427
【国際公開番号】WO2007/069272
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(500445631)パナセア バイオテック リミテッド (29)
【Fターム(参考)】