説明

少なくとも2つのシェルに包まれた酸化鉄含有コアを有するナノスケール粒子

【課題】高体温による腫瘍治療に特に好適に使用されるナノスケール粒子を提供すること。
【解決手段】本発明のナノスケール粒子は、(好ましくは、超常磁性の)酸化鉄含有コアおよび該コアを囲む少なくとも2つのシェルを含む。コアに隣接する(最内側)シェルは、カチオン性基を形成し得、エンベロープによって囲まれるコアと細胞表面との結合及び/又は該コアの細胞内部への吸収を可能にするのに十分に低速度でヒトまたは動物組織により崩壊される基を含む。外側シェルは、中性及び/又はアニオン性基を有する種からなり、それらの基は、ナノスケール粒子が中性または負の電荷を有するように外側に現れるようにし、最内側シェルよりも迅速にヒトまたは動物組織によって崩壊され−そうすることにより、その下のシェルをあらわにし−しかし、ナノスケール粒子を、特定の点で同じ粒子に浸潤された組織中で適切に分布するのを確実にするように十分にゆっくりである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉄を含有する第二鉄、第一鉄または(好ましくは)超常磁性のコアおよび該コアを囲む少なくとも2つのシェルを有するナノスケール粒子(nanoskalige Teilchen)に関する。該粒子は、医療用目的で、特に温熱療法による腫瘍治療に使用され得る。
【背景技術】
【0002】
殆どの腫瘍の形質転換した細胞(癌細胞)は、それらの良性の等価物と比較して、より高い貪食作用を有すると一般に考えられている。その理由は、隣接組織への浸食作用およびそれに伴う分解性酵素のエキソサイトーシス並びに該形質転換細胞のより高い代謝活性であると考えられている。より迅速な細胞増殖を求めて、癌細胞は分化し、それによって、正常なシグナル・トランスダクション経路に対する、および一般に貫膜プロセスに対する、それらの特異性の一部を失う。より最近では、そのような変化は、例えば、悪性細胞の非制御性増殖に関する1つの前提条件を示すと考えられている重要な細胞接着タンパク質および細胞表面の糖タンパク質の損失/突然変異により認識されている。従って、マクロファージのように、癌細胞は、正常細胞または他の細胞残渣の破片を取込み、内因性にそれらをリソソーム内で利用可能な栄養素に変換できることが公知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
それによって腫瘍細胞内でエンドサイトーシス・プロセスが開始されるシグナル認識は、未だ原理的に明らかでない。しかしながら、病巣内に適用された粒子懸濁液に関するインビボ研究から、組織内分布および腫瘍細胞内取込みは、主として粒子のサイズおよび電荷に依存すると推論され得る。本発明者は、方向付け研究において、中性から負に荷電した粒子を用いると、腫瘍組織(例えば、乳房の癌腫)内の組織の隙間スペース(毛細血管、隔壁、小葉)への分布が非常に高いことを観察した。そのような粒子の分布が熱によって促進されるならば、均一分布のプロセスさえも有意に強化される。中性から負に荷電した粒子は、細胞外レセプター分子および糖カリックス(Glycokalyx)と微弱に相互作用するのみであると推定されている。それに対する説明は、遥かに頻度が高く負に荷電したイオン・チャンネルおよび細胞表面上の細胞膜内タンパク質である。シグナル・トランスダクション(例えば、Ca2+の場合)または浸透圧平衡の維持(例えば、Na+、K+)のいずれかに寄与する殆ど常に正に荷電したイオンが、移入される。正に荷電した群の細胞外粒子を介して、かなりより非特異的な取込みが起こる、というのも、その場合には細胞が殆どの場合に利用可能な生体分子を移入できるからである。さらに、生物起源の糖も認識され移入されて、該移入は、脱分化したレセプター分子により腫瘍細胞では特異性はより少ない。腫瘍組織のより高い代謝活性および頻繁に存在する酸素供給不足により、腫瘍細胞はさらに、正常細胞よりも遥かに高い程度まで嫌気的解糖をしなければならず、それは部分的に、乳酸の蓄積による腫瘍環境の過剰な酸性化ももたらす。しかしながら、その更なる帰結は、嫌気的代謝経路のかなりより低いエネルギー収率により、腫瘍細胞が高いエネルギー量の遥かに多い基質を消費し、その基質は従って、多量に細胞中に移入されなければならないということでもある。エンドサイトーシスは、そのままでもエネルギー消費性プロセスであるので、腫瘍細胞は、時間的圧力下にある:より高い移入速度で、より多い基質が移入されるけれども、同時により低い等級の物質が取込まれ、それは殆どいかなるエネルギー収率も後に与えない。さらに、持続的な分裂および合成のプロセスは、多量のエネルギーを消費するので、この場合には、周囲環境からの物質の通常には厳密にコントロールされた取込みが十分ではなく、大部分の細胞は死ぬであろう。従って、腫瘍細胞が、高い非特異的細胞内取込みを有する生残エッジを有することは道理にかなう、というのも、それは、”生の”元素の消化から、より少ないより特異的な元素の高度に選択的な取込みの場合よりも、より迅速により多量のエネルギーを確実に得ることができるからである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
細胞培養物中および実験的腫瘍中の観察を通して、本発明者は、(高度に)正に荷電した粒子の腫瘍細胞中への細胞内取込み速度が、中性または負の表面電荷を有する比較し得る粒子のものよりも、1000倍まで高いことを見い出した。これは、多くの負に荷電した細胞膜内タンパク質および細胞表面上レセプターに対する粒子の正電荷の高い親和性に起因する。より短い時間、例えば、6〜48時間観察するとき、正常細胞の表面に対する粒子の親和性は同じでさえあっても、代謝および分裂に関してより活性である腫瘍細胞は、そのような粒子を正常細胞よりも遥かに多量に取込む。さらに、腫瘍細胞のより低い取込み特異性が考慮されるなら、理論的には治療目的に活用されるべきである細胞性取込みに実質的に全体的な差がある。該目的用に、全身的濃縮は必要ではないが、腫瘍細胞表面への粒子の接着のための表面電荷の巧妙な活用が必要とされる。
【0005】
最も高い達成可能な外部正電荷を有する粒子は、数秒以内で細胞に静電気的に結合するようになり、腫瘍細胞の場合、それらはまた、既に(ナノ-)粒子単独の細胞内比率によってコンパクトな細胞ペレットが加熱(45-47℃に)され、外部の交番磁場によりインビトロで脱活性化され得るような量で僅か2〜6時間以内で内部に取り入れる。しかしながら、インビボでは組織内のそのような(高度に)正に荷電した粒子の非常に僅かな分布が見られる。それと比較して、中性または負に荷電した粒子は、組織内でより優れた分布を示すが、細胞中には余り良く移入されず、代わりにRESによって優先的に移出される。従って、例えば、デキストランでコートされた磁鉄鉱粒子を用いた研究は、デキストランが内因性に分解され、それにより腫瘍細胞内の最適なエネルギー取込みが妨げられることを示した。本発明者は、さらに、正電荷を有する(例えば、アミノシランに基づく)コーティングを施された磁鉄鉱粒子は内因性に分解されなかったけれども、それらは組織内で乏しい分布を示すことを見い出した。従って、上述の2つの(磁鉄鉱)粒子の特性を組合せた、即ち、一方で腫瘍組織内で非常に優れた分布を示し、他方で腫瘍細胞により十分に取込まれもする、利用可能な粒子を有することが望ましいであろう。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、そのような粒子は、少なくとも2つのシェル(コート)を有する(好ましくは、超常磁性の)酸化鉄含有コアを提供することによって得ることができ、多くの正に荷電した官能基を有するコアに隣接するシェルは、腫瘍細胞の内側への、このように包まれた酸化鉄含有コアの容易な取込みを可能にし、該内部シェルはさらに、該シェルによって包まれたコアが、細胞表面に接着し(例えば、該正に荷電した基および細胞表面上の負に荷電した基との間の静電気的相互作用を介して)、続いて細胞の内側に取込まれるよう十分な時間を有するように低い速度で、(腫瘍)組織によって分解される。それと対照的に、外側シェルは、(例えば、負に荷電した官能基により)下層にある内側シェルの正に荷電した基をシールド(マスク)または代償をそれぞれし、或いは過剰に代償さえする種によって構成され、その結果、該外側シェルを有するナノスケール粒子は外部から、全体として中性または負の電荷を有するように見える。さらに、外側シェルは、最も内側のシェルよりも(実質的に)より高速で体組織によって分解され、しかしながら該速度は、それらが組織内に遅滞なく注入されるなら(例えば、磁性液体の形態で)組織内にそれらを分布させるのに十分な時間を粒子に与えるのに十分低いものである。該外側シェルの分解の過程で、コアに隣接するシェルは、徐々に露出される。その結果として、外側シェル(および、外部から判るように、それらの電気的に中性または負の荷電)により、コートされたコアは最初は組織内に十分に分布するようになり、それらが分布すると、それらはまた、外側シェルの生物学的分解によって露出された最内側のシェルにより、腫瘍細胞の内側に容易に移入もされる(および、その表面にそれぞれ最初に結合される)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
従って、本発明は、酸化鉄含有コア(それは、第二鉄、第一鉄または、好ましくは、超常磁性のものである)および該コアを囲む少なくとも2つのシェルを有するナノスケール粒子に関し、コアに隣接する(最内側)シェルはコートであり、該コートはカチオン性基を形成し得る基を特徴とし、該コートに囲まれたコアと細胞表面との結合および細胞内部への該コアの取込みがそれぞれ可能であるような低速度でヒトまたは動物の体組織により分解され、外側シェルは、外部からナノスケール粒子を中性または負に荷電したように見えさせる中性および/またはアニオン性基を有する種により構成され、ヒトまたは動物の体組織により分解されて下層にあるシェルを、最内側シェルに関するよりも高い速度で露出するが、それでもなお、それにより遅滞なく浸透される体組織内での該ナノスケール粒子の十分な分布を確実にするのに十分低い速度で分解される。
【0008】
好ましくは、コアのための物質は、純粋な酸化鉄、特に磁鉄鉱または磁赤鉄鉱(γ-Fe2O3)からなる。本発明により使用され得るコアのための他の物質の例は、他の純粋な酸化鉄であり、鉄を含む混合酸化物、例えば、一般式Me(II)Fe2O4[式中、Me(II)は好ましくは、Zn、Cu、Co、NiまたはMnである(Me(II)=Feの場合、結果は磁鉄鉱である)]のものである。さらに、上記の金属とは異なる金属もコア中に存在し得、例えば、CaおよびMgのようなアルカリ土類金属である。一般に、コアのための物質中の鉄原子とは異なる金属原子の濃度は、好ましくは、70金属原子-%以下、特に35金属原子-%以下である。しかしながら、該酸化鉄粒子は純粋な酸化鉄粒子、特にFe(III)およびFe(II)を両方とも含み、Fe(II)/Fe(III)比は好ましくは1/1〜1/3の範囲のものであることが好ましい。
【0009】
本明細書および請求の範囲中で使用される用語「ナノスケール粒子」は、100nm以下、好ましくは50nm以下、特に30nm以下の平均粒度(または、それぞれ平均粒径)を有する粒子を意味する。本発明によると、該ナノスケール粒子は、好ましくは1〜40nm、より好ましくは3〜30nmの範囲の平均粒度を有し、30nm以下の粒度が通常は、超常磁性の前提条件である。
【0010】
本発明によるナノスケール粒子のコアは、(超常磁性の)磁鉄鉱、磁赤鉄鉱またはそれらの化学量論的中間形態を含むことが特に好ましい。
【0011】
本発明によるナノスケール粒子は、通常は、2つのみのシェルを有する。しかしながら、1を超える外側シェル、例えば、異なる種によって構成される2つのシェルを提供することも可能である。
【0012】
露出された最内側シェル(コアに最も近接している)は、ヒトまたは動物の体組織(特に、腫瘍組織)により比較的低い速度で分解し、カチオン性基またはカチオン性基を形成し得る基をそれぞれ有するコートである。通常は、該基は、(正に荷電した)アミノ基からなるが、本発明によれば、他の正に荷電したまたは荷電し得るそれぞれの基も使用され得る。
【0013】
本発明によるナノスケール粒子のコアは、任意の様式で及び当業者に周知である様式で、最内側シェルと共に提供され得る。しかしながら、最内側シェルは、粒子を細胞表面上に接着させ、細胞(好ましくは、腫瘍細胞)内に粒子を移入させるのに十分に低い速度で(腫瘍)組織の内側で分解し、該最内側シェルは幾つかの-好ましくは、できるだけ多くの-カチオン性基を有することが確実にされなければならない。通常、最内側シェルは、平均して、少なくとも50の、好ましくは少なくとも100の、特に少なくとも500のカチオン性基(例えば、正に荷電したアミノ基)を有する。本発明の好ましい実施態様によると、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルジエチレントリアミンおよびN-(6-アミノヘキシル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランのようなモノマー性アミノシランを用いてコートが提供される。好ましくは、該シランを公知の方法で該コア上に適用し、続いて、高い安定性を達成するために重縮合に供する。該目的に好適な方法は、例えば、DE-A-19614136に記載される。対応する開示は、本明細書に明確に言及されている。カチオン性基を有する最内側シェルを酸化鉄含有コア周囲に適用するのに好適なさらなるプロセスは、例えば、DE-A-19515820から得ることができる。当然、他のプロセスも、同様に該目的に使用され得る。
【0014】
本発明によれば、1つ以上(好ましくは、1つ)の外側シェルが、上記の最内側シェル上に提供される。下記の考察では、1つのみの単一外側シェルが存在すると仮定される。1より多い外側シェルが望ましいなら、更なるシェルが類似の様式で提供される。
【0015】
既に説明したように、外側シェルは、前記の内側シェルを有する酸化鉄含有コアの腫瘍組織内での優れた分布を達成するのに寄与し、該外側シェルは、下層にある最内側シェルを露出する目的に寄与した後で生物学的に分解可能となる(即ち、組織によって)必要があり、それによって、細胞内部への円滑な取込み及び細胞表面との結合それぞれが可能になる。外側シェルは、正に荷電した官能基を有しないが反対に好ましくは負に荷電した官能基を有する種によって構成され、その結果、外部から、該ナノスケール粒子は全体として中性の電荷(その内側の正電荷をシールド(マスク)することによる、及び/又は負電荷によるその中性化が例えばカルボキシル基により提供され得る)あるいは負の電荷(例えば、過剰の負に荷電した基による)さえも有するように見える。該目的のために、本発明によると、例えば、下層のシェル(特に、最内側シェル)にカップリングするのに好適な基を特徴とする容易に(迅速に)生物学的に分解可能なポリマー、例えば、α-ヒドロキシカルボン酸に基づく(コ)ポリマー(例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸および該酸のコポリマー)、ポリオール(例えば、ポリエチレングリコール)またはポリ酸(例えば、セバシン酸)が使用され得る。必要に応じて修飾された天然に生じる物質、特にバイオポリマーの使用が、該目的のために特に好ましい。バイオポリマーの中でも、炭水化物(糖)とくにデキストラン類が、例えば言及され得る。該中性分子中に負に荷電した基を生じるために、例えば、ヒドロキシルまたはアルデヒド官能基の一部を(負に荷電した)カルボキシル基に変換する弱い酸化剤を使用し得る。
【0016】
しかしながら、外側コートポリマーの合成において、上述の炭水化物または他の種に限定されず、反対に、任意の他の天然に生じる又は合成物質も、それらが生物学的分解性(例えば、酵素的に)および電荷または電荷のマスキングそれぞれに関する要求を満たす限り使用され得ることが強調されなければならない。
【0017】
外側の層は、当業者に公知の方法で内側の層(または下層の層それぞれ)にカップリングされ得る。カップリングは、例えば、静電気的、共有結合型または配位型であり得る。共有結合的相互作用の場合、例えば、エステル形成、アミド形成およびイミン形成のような有機化学の慣用されている結合形成反応が使用され得る。例えば、最内側シェルのアミノ基の一部または全てを、外側シェルの合成に使用される対応する種のカルボキシル基またはアルデヒド基と反応させることが可能であり、それにより該アミノ基は、(ポリ-)アミドまたはイミンの形成とともに消費(マスク)される。続いて、外側シェルの生物学的分解は、該結合の(例えば、酵素による)開裂によって起こされ得、それにより同時に該アミノ基が再生する。
【0018】
本発明によるナノスケール粒子の必須のエレメントは、(i)酸化鉄含有コア、(ii)その露出した状態で正に荷電し、より低い速度で分解し得る内側シェル、および(iii)より高い速度で生物学的に分解し得、外部からナノスケール粒子が全体として中性または負の電荷を有するように見えるようにさせる外側シェルであるが、本発明による粒子はさらに他の追加の成分を含んでも良い。これに関連して、本発明の粒子により細胞(好ましくは、腫瘍細胞)の内側に移入され、その中の交番磁場により励起されるコアの効果を増強し、それとは独立した機能を満たす物質が特に言及され得る。そのような物質は、好ましくは共有結合または静電気的相互作用(好ましくは、外側シェルの合成前に)を介して、内側シェルにカップリングされる。これは、外側シェルを内側シェルに結合する場合と同じメカニズムによって起こすことができる。従って、例えば、内側シェルを構成する化合物としてアミノシランを用いる場合、存在するアミノ基の部分が、そのような化合物を結合するために使用され得る。しかしながら、その場合、酸化鉄含有コアの細胞内側への円滑な移入を確実にするのに十分な数のアミノ基が(外側シェルの分解後に)残っていなければならない。存在する10%以下のアミノ基が、一般に、他の物質を細胞内側に移入するために消費されるべきである。しかしながら、他の物質および/または外側シェルを内側シェルに結合するよう該異なる官能基を引き続いて活用するために、代替的または蓄積的に、アミノシランとは異なる、内側シェル合成用の異なる官能基を有するシランを使用することも可能である。他の官能基の例は、例えば、それらが例えば(メタ)アクリル基またはエポキシ基を有するシランによって提供されるときの不飽和結合またはエポキシ基である。
【0019】
本発明によれば、本発明による粒子の酸化鉄含有コアの励起によって生じるような極く僅かな高温で完全に有効となる内側シェル物質に、例えば熱増感性化学療法剤(細胞増殖抑制剤、熱増感剤、例えば、ドキソルビシン、タンパク質など)を、交番磁場により連結するのが特に好ましい。例えば、熱増感剤を最内側シェルに(例えば、アミノ基を介して)カップリングする場合、対応する熱増感剤分子は、熱発生(交番磁場による)時の外側コート(例えば、デキストランの)が分解した後でのみ反応性になる。
【0020】
例えば、腫瘍治療における、最適な結果を達成するために、交番磁場アプリケーターの励起振動数は、最大のエネルギー収率を達成するために、本発明によるナノスケール粒子のサイズに同調されなければならない。特にもし交番磁場により何倍も励起されるなら、腫瘍組織内の粒子懸濁液の優れた分布により、長さ数マイクロメーターのみのスペースが、一方で熱発生により、他方で熱増感剤の効果により、遺伝子療法から公知のいわゆる「バイスタンダー」効果によって架橋され得、実質的に全腫瘍組織が崩壊される結果を有する。
【0021】
腫瘍組織に残る粒子は、毛細血管およびリンパ系によって血流に輸送され、そこから肝臓および脾臓に輸送される。該臓器では、続いて粒子のコア(通常、酸化鉄および鉄イオンそれぞれ)までの内因性分解が起こり、そのコアは、一方で排泄され、他方で再吸収されて身体のイオンプールに導入される。従って、磁性液体の病巣内適用と交番磁場による励起との間に少なくとも0.5〜2時間の時間間隔があれば、腫瘍自身の周囲環境は磁性粒子のそれ自身を「追い出し」、その結果、交番磁場による励起の間には、隣接周囲ではなく実際に病巣のみが加熱される。
【0022】
高分子量物質とは対照的に、ナノ粒子は、それらが適用された組織には残らず、組織の隙間内に捕捉される。それらは、適用の過程で穿孔した血管を介してのみ、排出される。高分子量物質は他方で、拡散および腫瘍圧力により既に組織に残るか又は生分解により非活性化する。該プロセスは、本発明のナノスケール粒子では起きることができない、というのも、一方でそれらは既に組織の隙間に浸透し得るのに十分に小さく(それは、μm範囲の粒子、例えばリポソームでは不可能である)、他方で分子よりも大きく、従って、拡散および毛細血管圧力を介して組織に残り得ないからである。さらに、交番磁場の不存在下では、ナノスケール粒子は浸透圧活性を欠き、腫瘍増殖に殆ど影響せず、それは腫瘍組織内の粒子の最適な分布に絶対に必要である。
【0023】
一次腫瘍の初期の負荷が起こされるなら、粒子は腫瘍細胞によって高度に取込まれ、後に親細胞質を介して娘細胞に50%の確率で移送もされる。従って、腫瘍のより遠方の周囲および転移性の広がりの公知の部位もそれぞれ交番磁場に供されるなら、一次腫瘍からかなり遠隔の個々の腫瘍細胞は治療によっても影響される。特に、冒されたリンパ節の治療は、従って、化学療法の場合よりも選択的に為され得る。その後の交番磁場の適用のリスク部位での静的磁場の勾配による更なる作用は、負荷された腫瘍細胞のヒットの数を増加させもする。
【0024】
既述のように、熱増感剤および/または細胞増殖抑制剤を、好ましくは、本発明によるナノスケール粒子(特に、その内側シェル)に連結する。磁性粒子の交番磁場との磁気的カップリングおよびそれから生じる熱発生のみで、本発明による粒子に(好ましくは)連結した細胞障害性作用を有する物質の活性化または放出も生じる。
【0025】
二段階の病巣間適用により、選択的蓄積は必すしも必要でない。代わりに、ルーチン検査の過程で測定される病巣の正しい位置および、その後に行なわれる定位(stereotaktisch)様式での又はナビゲーション・システム(ロボット)による任意の小さい(又はより大きい)サイズの標的領域への磁性液体の浸透が十分である。
【0026】
静的磁場の勾配との組合せは、領域選択的な化学的塞栓形成を可能にする、というのも、本発明の粒子上に好ましくは存在する細胞増殖抑制剤が熱によって活性化されるのみでなく、粒子の可逆的凝集もまた活性化され、従って、選択的塞栓形成が静止場によって生じ得るからである。
【0027】
腫瘍治療に加えて、本発明によるナノスケール粒子のさらなる適用(必要に応じて外側シェル無しでの)は、手術により接近可能ではない領域での任意の局在化凝固毛細血管(血栓)の熱誘導性溶解およびその後の冠状血管での血栓の溶解である。例えば、熱の作用下で活性の10倍までの増加を示し、加熱によってのみ反応性にさえそれぞれなる血栓溶解性酵素は、該目的のために本発明の粒子の内側シェルにカップリングされ得る。詰まったすぐ近くでの血管の動脈内穿刺の後、粒子は自動的に「鬱血点」に(例えば、MRTコントロール下に)運搬される。例えば、0.5mmの直径を有する光ファイバー性温度プローブを、アンギオグラフィーで導入し、温度を鬱血点の近くで測定しながら、再び交番磁場の外部的適用により微小領域的加熱および該タンパク質分解酵素の活性化を引き起こす。磁性液体およびMRTコントロールの正確な適用の場合、予測されるエネルギー吸収は適用された磁性液体の量および公知の場の強度および周波数を基礎として比較的高い精度をもって既に推定され得るので、温度の測定は原則として省くことさえできる。場は、約6〜8時間の間隔で再適用される。励起のない間隔では、身体は、実際に体自身によって支持されるまでに細胞残渣を一部移出する機会を有し、詰まりを除去する。本発明の粒子の小さいサイズにより、心臓の心室および血管を介した該粒子の移動は、決定的ではない。結局、粒子は、RESを介して肝臓および脾臓に再び達する。
【0028】
46/47℃までの温度での古典的温熱療法とは別に、熱剥離もまた、本発明のナノスケール粒子を用いて行なわれ得る。技術水準によると、手術でも一部使用される主として間隙性のレーザー・システムが、熱剥離目的で使用される。該方法の大きな欠点は、マイクロカテーテルで誘導される光ファイバー性レーザー・プロビジョンの高い侵襲性および標的体積の拡大をコントロールすることが難しいことである。本発明によるナノ粒子は、外傷性のより少ない方法でそのような目的に使用できる:標的領域中での交番磁場のより高い振幅での粒子懸濁液のMRT支援蓄積の後、50℃以上の温度も均一的に生じられ得る。温度コントロールは、例えば、0.5mm未満の直径を有する極めて細い光ファイバー・プローブにより行なわれ得る。エネルギー吸収は、それ自体、非侵襲性である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄含有コアおよび該コアを囲む少なくとも2つのシェルを有するナノスケール粒子であって、コアに隣接する(最内側)シェルはカチオン性基としてアミノ基を有することを特徴とするコートであり、該コートに囲まれたコアと細胞表面との結合および細胞内部への該コアの取込みがそれぞれ可能であるような低速度でヒトまたは動物体組織により分解され、外側シェルは、α−ヒドロキシカルボン酸に基づく(コ)ポリマー、ポリオール、ポリ酸及びカルボキシル基によって修飾された炭水化物から選択される種により構成され、且つ、ヒトまたは動物体組織により分解されて下層にあるシェルを最内側シェルに関してよりも高速度であるが、それでもそれにより遅滞なく浸透される体組織内に該ナノスケール粒子の十分な分布を確実にするのに十分な低速度で露出する、ナノスケール粒子。
【請求項2】
コアが磁鉄鉱、磁赤鉄鉱またはその化学量論的中間体形態を含む、請求項1に記載のナノスケール粒子。
【請求項3】
コアが1〜40nmの平均粒度を有する、請求項1および2のいずれか1つに記載のナノスケール粒子。
【請求項4】
コアが超常磁性である、請求項1〜3のいずれか1つに記載のナノスケール粒子。
【請求項5】
前記コアが2つのシェルに囲まれている、請求項1〜4のいずれか1つに記載のナノスケール粒子。
【請求項6】
最内側シェルが、(加水分解性の)重縮合シランから誘導される、請求項1〜5のいずれか1つに記載のナノスケール粒子。
【請求項7】
最内側シェルが、平均して少なくとも50の正に荷電した基を有する、請求項1〜6のいずれか1つに記載のナノスケール粒子。
【請求項8】
外側シェルが、カルボキシル基によって修飾された炭水化物を含む、請求項1〜7のいずれか1つに記載のナノスケール粒子。
【請求項9】
前記炭水化物がデキストランである、請求項8に記載のナノスケール粒子。
【請求項10】
熱増感剤および熱増感性化学療法剤であって最内側シェルに連結される化合物からなる群から選択される1種以上の薬理学的に活性な種が最内側シェルに結合されている、請求項1〜9のいずれか1つに記載のナノスケール粒子。
【請求項11】
前記熱増感剤および熱増感性化学療法剤であって最内側シェルに連結される化合物が、ドキソルビシンである、請求項10に記載のナノスケール粒子。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1つに記載のナノスケール粒子を含む、ヒトまたは動物の体に導入されるための磁性液体。
【請求項13】
温熱療法による腫瘍治療に使用するための磁性液体を製造するための、請求項1〜11のいずれか1つに記載のナノスケール粒子の使用。
【請求項14】
詰まった毛細血管(血栓)の熱に誘導される溶解に使用するための磁性液体を製造するための、請求項1〜11のいずれか1つに記載のナノスケール粒子の使用。
【請求項15】
熱剥離に使用するための磁性液体を製造するための、請求項1〜11のいずれか1つに記載のナノスケール粒子の使用。

【公開番号】特開2010−1308(P2010−1308A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210228(P2009−210228)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【分割の表示】特願平11−503783の分割
【原出願日】平成10年6月19日(1998.6.19)
【出願人】(500449008)ライプニッツ−インスティトゥート フィア ノイエ マテリアーリエン ゲマインニュッツィゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクタ ハフトゥンク (22)
【Fターム(参考)】