説明

少量の液体を調薬及び混合するための方法及び装置

【課題】本発明は、少量の液体の統合された調薬及び混合の方法に関する。
【解決手段】第1液が第1槽(3)の中又は上に運ばれる。第2槽(1)は第2液で完全に満たされる。第1及び第2の液体は、2つの槽の間の接続線の表示方向において槽よりも断面の小さい、少なくとも1つの領域を含む、少なくとも1つの接続ダクト構造(5)を介して互いに接触する。層流が接続ダクト構造の少なくとも1つの部分に沿って形成される。液体は、第2槽中で完全に混合される。更なる本発明は、その使用と同様、開示された方法を実現するための装置、機器に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、少量の液体の統合された計量及び混合の方法、並びに、その方法を達成するための装置、機器、その使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に臨床化学や免疫化学の分野などにおいて、診断分析の自動化が広い範囲で実現されている。試料溶液や試薬の規定量がマイクロプレートのウエルやキュベットにピペットで移され、それに対応した自動化装置で混合される。続いて、第1の基準とされる測定が行われ、例えば、キュベットを透過する光学的透過が決定される。試料と試薬との所定の反応時間が経過した後、同じパラメータでの第2の測定が行われる。特定の成分に関する試料の濃度、あるいは、またその成分の存在がその計測値との比較によって得られる。
典型的な容量は約100マイクロリットルの総量の中にあり、試料と試薬との必要な混合比率は1:100と100:1の間で生じ得る。任意に複数の試薬を試料との混合に備えることができる。加えて、高機能として説明されている機器は、一般に特別な研究所で見られるものであり、そこにはまた、分散した方法や、大きな機器的作用なしに分析を実現する努力もまた存在する。
【0003】
最近紹介されたラボチップ(lab−on−a−chip)技術が、チップ中、あるいはその上での液処理の統合が実現されて使用できるなら、この点に関して好ましいであろう。なお、分析時間は1時間より短いのが好ましい。
【0004】
例えば、液体の移動のためには、非特許文献1に見られるような、液体が電気浸透ポテンシャルを通じて移動する、マイクロフルイドシステム(microfluid systems)が利用できる。
【0005】
マイクロリットルの領域での液体を混合する方法が特許文献1に記載されており、そこでは、乱れが誘発された流れによって少量の液体がマイクロプレートの中で混合されている。固体表面上で少量の液体の移動を発生させる他の方法が、特許文献2に記載されている。そこでは、表面音波によって一つの液体が混合、あるいは複数の液体が互いに混合されている。
【0006】
特許文献3に記載されている方法によれば、液体が、その表面張力でまとまって好ましくはそこに留まるように、周りの表面とは濡れ性の異なる、実質的に平面な表面の領域に、液体の所定量が載置されている。ここでの液体の移動は、液体への表面音波のパルスの伝導によって発生させることができる。
【0007】
とりわけ、コストに有利なラボチップシステムにおける試料と試薬の計量及び混合の統合は課題がある。非常に小さな異なる液量の均一な混合を実現するのは難しい。
【0008】
計量のため、正確に各液量の容量を規定する必要がある。これは、例えば、幾何学的に実現することが可能である。例えば、特許文献3に記載されているように、開放系において、表面の濡れ性は容量を決定することができる。すなわち、容量の規定は、実質的に滑らかな表面上の濡れ角による親水性と疎水性の領域によって置き換わる。反応に用いられる複数の容量がこのような方法で規定されていれば、それら容量はそれぞれに向かって移動し、これを達成する。表面上での移動において、液の残余や、目的物質(analye)や液中の試薬成分が表面に張り付いて留まるため、その移動による容量損失や未知量の濃度の減少を防ぐことができない。加えて、測定は蒸発に抗して行わなければならず、とりわけ分析時間が長くなると問題となり得る。
【0009】
他の調整方法は、毛細管の方法で規定された断面積が液体で満たされる経路を用いている。その液体が水溶液の場合、毛細管の方法では満たされない疎水性のバリヤがその経路の末端に取り付けられる。さらに、この経路には、同様に毛細管の方法では満たされない疎水性の表面を備えた横枝部が存在する。その断面積と、疎水性のバリヤと疎水性の枝部との間の経路の長さとが、その枝部を通る気圧によって定義された方法によって分離、移動される容量を決定する(非特許文献2)。このタイプの容量の規定によっては、(経路それ自体の充填のための親水性とバリヤと枝部のための疎水性の)表面の濡れ構造が必要なため、高コストになる。
【0010】
加えて、関連装置が求める空圧の働きが必要である。その経路の断面積は、測定経路の毛細管による充填が可能になる小さなものでなければならない。それゆえ、長い経路では、約100マイクロリットルの範囲で大きな容量が必要である。このことは必然的に経路の壁面と液体中の成分との大きな好ましくない相互作用を生じる。複数の液体を効果的に混合することは、この構成においてはほとんど不可能である。
【非特許文献1】Anne Y. Fu, など、マイクロ蛍光励起細胞ソーター(A micro fabricated fluorescence-activated cell sorter、ネイチャー、バイオテクノロジー 17巻、1999年11月、P.1109ff
【特許文献1】DE 103 25 307 B3
【特許文献2】DE 101 42 789 C1
【特許文献3】DE 100 55 318 A1
【非特許文献2】バーンズ など, 統合されたナノリットルDNA分析装置 サイエンス 282 484 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本文における「液体」の用語は、例えば生物学的物質のような固体粒子が内在する液体だけでなく、特にまじりけのない液体、混合液、分散液、懸濁液を含んでいる。計量、混合される液体は、例えば、2種あるいはそれ以上の、その中に溶け込んでいる反応に供される成分だけが異なる類似の溶液であってもよい。
【0012】
本発明の目的は、統合されたチップの上又は中において液体量の正確な計量を手助けし、液体の正確な混合を導く方法及び装置を示すことにある。
【0013】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法、請求項18の特徴を有する装置、及び請求項29の特徴を有する機器によって充足される。従属項は好ましい実施形態による。有利な使用は、請求項30の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
少容量の液体の統合された計量及び混合のための本発明の方法によれば、第1液は第1槽の中に又は上にもたらされる。第2液は、完全に満たされるまで第2槽の中に又は上にもたらされる。第1及び第2液は、2つの槽の接続線の表示の方向において、それら槽よりも小さい断面を有する少なくとも1つの領域を含む、少なくとも1つの第1接続経路構造を介して接触することとなる。液体の交換は接続経路構造中の層流によって引き起こされ、液体は第2槽の中又は上で混合される。
【0015】
本発明の方法によれば、液体は接続経路構造を介して接触する。接続経路構造の断面が比較的小さいために、2つの液体間の界面において無視し得る拡散のみが発生する。層流が第2槽の方向の接続経路構造に沿って発生する場合、第1液は第2槽の方向へ接続経路構造を通じて移動する。第2液に対して計量される第1液の容量の正確な規定は、例えば、接続経路構造で発生する層流の終了時間又はその流速の正確な選択によって得られる。第2液の量は槽の大きさによって正確に決定される。液体間の反応は、第2槽の中又は上で任意的に生じる。第2槽は、この態様では反応チャンバーを表している。本発明の方法は、大きな変動範囲における液体の計量及び混合を可能とする。試料液に対する試薬の混合比率は、例えば、1:100から100:1の間で設定することができる。
【0016】
ピペット及び/又は対応する充填構造が、本発明の方法のスタートにおける槽の充填のために用いられる。反応に加わる液体の容量の規定は、特に接続経路構造での持続時間又は層流の速度と第2槽の容量とによる、本発明の方法又は本発明の装置自体によって定められるため、これらの要素の精度要求は低い。
【0017】
層流は、少なくとも接続経路構造の部位の方向への音波の照射によって発生されるのが好ましい。
【0018】
槽及び接続経路構造は3次元的又は2次元的に構成することができる。槽及び接続経路構造は、表面のウェルとして対応して形成することができる。異なった構成では、それらは中空空間として対応して形成される。2次元的な構成では、槽及び接続経路構造は、その表面の周りの領域よりも液体によって濡れ易い表面領域として対応して形成される。このような濡れ改良された表面は、例えば、特許文献3に記載されている。液体は、それらの表面張力によって濡れ易い領域に保持される。
【0019】
簡単な例示のために、特にはっきりと説明されていない場合には、たとえ用語が一義的に記載されているように選択されていたとしても、3次元的や2次元的な実施例がそれぞれ本文において補い合っている。例えば「槽への導入」や「充填」の用語は、2次元的な槽領域に液体を適用するためにも用いられる。これと同様に「接続構造を通じた移動」の用語は、例えば、2次元的な接続構造の上の液体の移動、などにも用いられる。類似の用法で「容量」や「断面」の大きさは、例えば、2次元的な実施例における表面や幅を意味する。
【0020】
反応に加わる第2液の量は、第2槽の寸法によって定められる。例えば、第2槽が、充填経路及び/又は充填スタブのような、対応する充填構造によって充填される場合、特に混合が層流のパターンによって生じる場合には、これら充填構造中の液体の槽の外側におけるいかなる溢れも幾何学的理由によって混合に加わることがない。
【0021】
本発明の方法の有利な態様では、接続経路構造の上又は中の層流は、音波の助けを借りて発生させられる。例えば、交差指電極トランスデューサを用いることによって発生される表面音波が、好適に用いられる。表面音波は液体やその中に含まれる内容物を動かすためにパルスを伝導する。交差指電極トランスデューサによって発生される、表面の液体に対する表面音波のパルス伝導は、特許文献3に記載されている。
【0022】
交差指電極トランスデューサを用いる本発明の更なる発展においては、後者は、少なくとも接続経路構造の部位の範囲の方向への照射方向を有している。
【0023】
第1及び第2の液体は、例えば、毛細管力の利用により、接続経路構造を介して接触する。この目的のために、接続経路構造は、少なくとも液体の1つが毛細管力によってその経路に沿って引っ張られるように、非常に小さな側部寸法になるよう選択される。好ましいプロセス管理によれば、第1液は、例えば第1槽の中又は上にもたらされ、そして毛細管力を通じて接続経路構造の中又は上に広げられる。接続経路構造と比較してより大きい槽の断面のせいで、ほんの小さな毛細管力が作用するだけであるため、液体はその移動を第2槽への接続経路構造の入口で停止する。第2槽への接続経路構造の入口で第1液と接触する第2液は、第2槽の中に又はその上に適用される。
【0024】
異なったプロセス制御においては、2つの液体の間に発生し、液体の架橋を生じる小さな「架橋滴」を介して2つの液体の間の接続が確立される。架橋滴は、2つの液体のそれぞれの量よりも十二分に小さな容量を有している。
【0025】
ピペット及び/又は対応する充填構造が、本発明の方法のスタートにおける槽の充填のために用いられる。反応に加わる液体の容量の規定は、特に接続経路構造での持続時間又は層流の速度と第2槽の容量とによる、本発明の方法又は本発明の装置自体によって定められるため、これらの要素の精度要求は低い。
【0026】
同様に、充填構造は、槽と比較して小さい断面の充填経路構造を含む。槽の製造や接続経路構造の製造に用いられるものと同じプロセスステップが用いられるため、対応する構造の製造は非常に簡単である。
【0027】
比較的小さい断面は、充填後の充填経路構造にあるかもしれない液溢れが混合に加わるのを防ぐのに効果的である。このようにして、充填経路構造にあるかもしれない液溢れが混合に加わって液体の容量の決定を不正確にすることが防がれる。
【0028】
更に加えて、充填構造に存在するかもしれない液体の境界による不制御の拡散が小さい断面のせいで無視できるということが、充填構造の低い断面によって確保される。
【0029】
このタイプの充填経路構造は、充填経路構造を通じた、又は槽の方向への毛細管作用による充填経路構造上の、液体の移動を確保する小さい断面を有する。それゆえ、正確な充填が簡単に実現できる。
【0030】
本発明の方法は、2つの槽の間の1つの接続経路構造によって実現することができる。第1槽は、第1液の層流の流出によって少なくとも部分的に空になる。本発明の他の態様は、2つの槽の間に、少なくとも2つの接続経路構造を含んでいる。第2槽の方向への第1槽からの第1液の移動に用いられる層流は、例えば、表面音波によって、これら接続経路の1つで発生される。それゆえ、第1槽の第1液は、層流の流出のせいで減少して行く。同時に、第2液は第2接続経路構造を介して第2槽から第1槽へ流れる。
【0031】
第2槽中の第2液に対する第1液の要求された量を計量した後、液は混合される。実質的に層流の流れのパターンの発生によって、この混合プロセスが引き起こされるのが特に好ましい。充填構造の溢れが、混合に可能な限り小さく加わるか、あるいは全く加わらないことが確保されるからである。
【0032】
特に第2槽へ照射される音波は、そのような流れのパターンの発生に好適である。それらは例えば、表面音波の助けを借りて発生させることができる。それらは、パルス伝導による液体への流れの発生のために直接用いることができる。他の実施例では、表面音波は、例えば槽ベースを通じてのように、固体物体を通じて液体中に音波を照射するために用いられる。公知であり、リソグラフ技術を用いて簡単に製造される、交差指電極トランスデューサは、表面音波の発生に利用できる。
【0033】
層流の発生と混合に用いるためには分離された装置が好ましい。しかしながら、本発明はまた、層流と混合とが同じ装置を用いて発生される実施例も含む。
【0034】
本発明の方法は、液体の2つの量のみの計量と混合とに制限されない。例えば、第2槽への別の液体を計量する別の槽が、別の接続経路構造を介して第2槽に追加的に接続されるようにすることができる。その計量は、同時に、あるいは継続的に生じ得る。
【0035】
少量の液体の計量のための本発明の装置は、第1液用の第1槽と、第2液の量のための第2槽と、2つの槽を接続するとともに、槽の接続線の表示方向での槽の断面よりも小さい、少なくとも1つの領域の断面を有する、少なくとも1つの接続経路構造と、を有する。
【0036】
槽及び上記少なくとも1つの接続経路構造は、固体物体のウェル又は中空空間として構成することができる。本発明の装置の2次元的態様においては、槽と上記少なくとも1つの接続経路構造は、液体によってより濡れ易い表面領域によって形成される。
【0037】
更に、本発明の装置は、少なくとも1つの接続経路構造に沿う層流を発生させる、少なくとも1つの装置を有している。この目的のために好ましい態様では、好ましくは表面音波からなる、音波発生装置を含む。表面音波の発生用に、少なくとも1つの交差指電極トランスデューサを使用することが、リソグラフ技術の利用によって簡単に製造できて特に簡単である。
【0038】
加えて、本発明の装置は、第2槽の中又は上の液体の量を混合するための少なくとも1つの装置を有する。好ましい態様では、この目的のために、第2槽に入り込む音波を発生するための第2音波発生装置が備えられている。
【0039】
本発明の装置は、コスト効果のよい、使い捨て部材として構成することができる。
【0040】
2以上の液体の量の計量及び混合に用いられる本発明の装置は、2以上の液体の量の統合された計量及び混合のために、対応する数の接続経路構造を有する対応する数の槽を有している。
【発明の効果】
【0041】
本発明の装置及び従属項の好ましい実施形態の効果は、効果に関する上記記載及び本発明の方法の好ましい態様に起因する。
【0042】
本発明の方法及び本発明の装置は、特に非常に少量の液体の正確な計量が必要な、生物学的液体の計量及び混合に効果的に使用することができる。
【0043】
本発明の装置は、相応して構成された自動装置で自動的に動かすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明の実施形態及び態様は、別紙の図を参照して詳細に説明される。図は、必ずしも定比率ではなく、概略的に示される。示されているのは、図1が、本発明の装置の水平方向の断面図であり、図2が、本発明の図1の装置のA−B線に沿う断面図、図3が、本発明の図1の装置のC−D線に沿う断面図、図4が、本発明の方法のステップが実行されている図2の断面図、図5が、本発明の図1の装置の変形例の水平方向の断面図、図6が、濡れ改質された表面を有する本発明の装置の別実施例の表面部分、図7が、本発明の方法を実行している図6の実施例の部分側面図、図8が、図6の実施例の変形例の表面の部分図、図9が、本発明の方法のステップを実行している実施例の部分側面図、図10a−10cが、3つの異なる方法の状態での本発明の実施例の水平方向の断面図である。
【0045】
図1から図4に概略的に示された実施形態は、例えばプラスチックで作られた使い捨て部材で構成されている。図1は、個々の要素の配置を表す水平方向の断面を示しており、図2は、A−B線に沿う断面を、図3は、C−D線に沿う断面を示している。
【0046】
個々の要素は、図2から図4においてはっきりと認められるように、プラスチック部材の中空空間である。中空空間は、側方断面図においてのみ示されている。その構造は、例えば、一対の金型でプレスすることによって形成され、ここでは続いて下方からホイルによって閉じられる。代替として、プラスチック部材は射出成形部材として作ることができる。
【0047】
槽3が5μlの容量を有するのに対し、槽1は、例えば、100又は150μlの容量を含む。槽1及び3は、毛細管経路5を介して互いに接続されている。
【0048】
槽1は、2つの更なる経路7,7を介して上方に開く充填スタブ17,17に接続されている。経路7は、同様にその中の液体に毛細管力が作用する、小さい断面積を有している。槽3は毛細管経路11を介して充填スタブ19に接続されている。
【0049】
その寸法及びプロセス管理は、層流の領域における液体のレイノルズ数を考慮して選択される。これに要するパラメータは、予備実験によって設定される。用いられる典型的な液体の粘度は、毎秒1mmから毎秒1cmの速度において1mPaから約100mPaの範囲にある。好ましいシステムの断面は、数cmの全長を有する約100μmからの範囲にある。
【0050】
符号13は、音響チップを示している。それは、例えば、交差指電極トランスデューサ上の圧電性固体チップであり、公知の方法で表面音波の発生のために適用される。
【0051】
実施形態において示されるように、音響チップ13上の交差指電極トランスデューサは、槽1の方向への表面音波のみを発生する、単一指向的に照射するトランスデューサである。
【0052】
符号15は、同様に、公知の方法で交差指電極トランスデューサを搭載する別の音響チップを示している。この交差指電極トランスデューサは、発生した表面音波が槽1への音波照射を生じるように構成されている。固体によって表面音波を発生する、交差指電極トランスデューサから離れている液体の容量への音波の照射は、特許文献1に記載されている。音響チップ15は、また槽1の反対側に設けることもできる。
【0053】
音響チップ13,15は、交差指電極トランスデューサを用いて表面音波を発生させるために、約10MHzの周波数の交流電圧を発生する、図示しない交流電圧電源に電気的接続を介して接続される。
【0054】
このタイプの装置は、本発明の方法を実現するために次のように用いられる。槽3は、充填スタブ19と毛細管経路11を介して少量の液体で満たされる。この液体は、毛細管力によって経路5に入り込む。しかし、その液体は、断面積が十分に大きくて毛細管力が急に弱くなるため、槽1には侵入しない。
【0055】
槽1は、例えば、もう一つの液体の、より大きな量を有するピペットなどの圧力の助けを借りて完全に満たされる。槽1又は充填スタブ17にとって充填経路7に液体の溢れが留まっていても害はない。それらは、幾何学的理由により、槽1での層流のパターンの発生によって後に実行される混合プロセスに加わることがなく、それゆえ混合プロセスに加わる固定された液体の容量とは関係しない。
【0056】
経路5に留まっている第1液と槽1に充填されている第2液との間で自動的に接触が発生する。無視し得る2つの液体間の拡散のみが、経路5の小さい断面のせいで、この流体の接続において発生する。
【0057】
槽1の方向に照射方向が向いた、チップ13上の単一指向性のトランスデューサの助けを借りて、経路5内の液体への表面音波のパルス伝導によって層流が発生する。交差指電極トランスデューサが操作される終了時間の選択によって、あるいはポンプの出力によって、毛細管経路5を介して槽1へ層状に流れる液体の量を正確に設定することができる。要求される終了時間又はポンプ出力の設定は、例えば、前実験に関連して決定される。それゆえ、層流は規定された液体供給機能を備えている。
【0058】
このように経路5から槽1へ入り込む液体は、槽3から引き出される液体によって置き換えられる。
【0059】
槽1の下側の音響チップ15の交差指電極トランスデューサへの電気的交流場の適用は、図4に示されているように、層流のパターンによる液体の混合を生じる。こうして発生する槽1の液体への音波の照射は、液体の混合を引き起こすに十分な層流のパターンを生じる。十分な層流のパターンは、充填構造におけるいかなる液体の溢れも、幾何学的理由によって混合には加わらないことを保証する。
【0060】
反応チャンバーとして用いられる槽1の中で、液体の2つの規定量又はそれらの成分の反応が発生する。
【0061】
図5は、図1から図4の実施形態の変更例を示している。ここでは、槽3と槽1との間の毛細管経路6は直線上にはない。交差指電極トランスデューサを有する音響チップ14は、ここでは単一指向性の照射が必要のないものとして用いられている。音響チップ14が、その照射方向の1つを毛細管6の方向に向けるように配置されていれば十分である。音響チップ14の操作によって示されている方向に表面音波が照射され、毛細管経路6内の液体への上記表面音波のパルス伝導によって層流が発生する。
【0062】
図6及び図7は、固体チップの表面上で実現することができる実施例を示している。そこでは、槽101及び103は、液体によって濡れ易い、その濡れ特性で選択された表面領域を含んでいる。水溶液の場合には、槽101,103は、周りの固体表面と比較して親水性である。これは、例えば、疎水性表面を生じることとなる、周りの表面のシラン化によって達成できる。
【0063】
図6及び図7の実施形態においては、槽101及び103は、同様にその濡れ特性によって選択された面接続経路構造105によって接続されている。交差指電極トランスデューサは、そこでは表面上に現れないところに配置されており、その照射方向は、経路105に層流が発生するように経路105に沿っている。経路105は非常に狭いものが選択されているため、毛細管力がその中の液体に作用する。
【0064】
この種の装置は、次のようにして用いられる。第1液の液滴123が槽103に適用されると、その表面の上述した濡れ特性のために槽103から外側に流れ出ることはなく、その表面張力によって留まる。この液体は、毛細管力によって経路構造105に沿って移動する。経路構造105と大きな槽表面101との接続位置における毛細管力が急に低下し、経路構造105と槽101と接続位置の液体の移動を停止する。第2液滴121が槽表面101に適用される。この液滴121もまた、その表面の選択された濡れ特性及び表面張力によって留まる。その大きさは、完全に満たされた槽表面101によって選択される。それゆえ、その容量は、表面101の大きさの選択によって決定される。経路構造105の小さな断面のせいで、2つの液体の互いの間の無視し得る拡散のみが、経路構造105と槽表面101の接続位置で発生する。示されてはいないが、その照射方向が経路構造105に沿う交差指電極トランスデューサの操作によって、経路構造105に沿った層流が発生し、上記層流は、図1から図5の3次元的な実施形態のように、液体の移動を経路構造105に沿って導く。
【0065】
液体を混合するための層流のパターンの発生を助ける交差指電極トランスデューサは、槽表面101の領域に配置されている。交差指電極トランスデューサは、明瞭さのために、同様にして図6及び図7には示していない。
【0066】
この点における図6及び図7の2次元的構造の扱いは、図1から図5の3次元的構造の扱いに対応している。
【0067】
図7の側面図において、槽表面101上の液滴121、槽表面103上の液滴123及び経路構造105に沿う液橋125を認めることができる。
【0068】
図8及び図9は、図6及び図7の実施形態の変更例を示している。槽表面101と103は、ここでは経路構造105によって互いに接続されていない。液体121と123の量の接続は、ここでは、図6及び図7の実施形態で発生した層流の助けを借りる上述した方法で液体の移動を引き起こすことによって、液体の2つの量の間に液橋をもたらす小容量の”架橋滴”127の直接の導入により発生する。
【0069】
図10は、異なったプロセス管理の概略的な説明に役立つものである。槽201及び203は2つの毛細管構造223,227を介して互いに接続されている。概略的に示した交差指電極トランスデューサ213は、経路構造227に沿う、少なくとも1つの照射方向を有している。例えば交差指電極トランスデューサと同様の表面音波発生装置215が槽201の下方に配置されており、すでに記載した表面音波発生装置15と同様の方法で上方に配置された槽中の液体に音波を照射することができる。
【0070】
第1液は、槽203に導入される。その液は毛細管力によって毛細管223,227に侵入する。第2液は、完全に満たすように槽201に導入される。交差指電極トランスデューサ213の操作によって、少なくとも照射方向に表面音波が発生する。経路中の液体への表面音波のパルス伝導によって経路227中に層流が発生する。
【0071】
経路227からの液体は槽201に入り込み、そして槽203から再供給される。この点、液境界229,231は、相応して移動する。乱流ではなく、層流の場合であるため、液境界229,231における拡散を除いては混合は発生しない。状態は図10bに示すように発生する。
【0072】
槽201の液体の個々の割合は、交差指電極トランスデューサ213が表面音波の発生に用いられている間の終了時間の選定及びポンプ出力によって定めることができる。交差指電極トランスデューサ215の操作によって表面音波が発生し、槽201中の液体へ音波が照射され、2つの液体の混合のための対応した流れのパターンが発生する。混合233は、図10cに示すように発生する。
【0073】
槽の間の複数の接続経路構造を有する図10の実施形態はまた、対応した濡れ構造を有する2次元的なものとして、そして対応したウェルや中空空間を有する3次元的なものとして構成することができる。
【0074】
説明した全ての実施形態において、個々の容量が例えば僅か100nlである最高1mlの全容量を扱うことが可能である。図は、一定の比率ではない。それゆえ、槽の容量に対する経路構造の容量の比率は、例えば、1/10から1/100の間にある。
【0075】
対応する数の槽と接続経路構造とが供された場合、複数の液体を計量して、同時に、あるいは継続的に混合することができる。
【0076】
本発明の方法及び本発明の装置は、例えば、本発明の装置の接続経路構造に沿って層流が発生している時間の選択など、第2槽の容量を規定することによって液体の量の正確な計量を可能としている。その方法は簡単に実行することができ、そして、その装置は、小さな、コンパクトなものとして、そして任意に使い捨て部材として構成することができる。
【0077】
本発明の実施形態は、自動装置で操作することができる。そのような自動装置は、例えば、交差指電極トランスデューサとの電気的接続を確立する、本発明の装置のための受信機を有する。自動的に操作されるピペットヘッド及び/又はディスペンサが備えられており、装置が受信機に置かれると、槽又は充填構造の上に置かれるように配置される。そして、好ましくはマイクロプロセッサユニットを有する、制御手段、が備えられており、要求された計量と混合の手順を通じて作用させるために、ピペットヘッド/ディスペンサ、交差指電極トランスデューサの時間制御に用いられる。光学的測定装置などの評価装置もまた、混合プロセスによって引き起こされる反応を発見する任意の順序で自動化機械に統合してあってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の装置の水平方向の断面図
【図2】本発明の図1の装置のA−B線に沿う断面図
【図3】本発明の図1の装置のC−D線に沿う断面図
【図4】本発明の方法のステップが実行されている図2の断面図
【図5】本発明の図1の装置の変形例の水平方向の断面図
【図6】濡れ改質された表面を有する本発明の装置の別実施例の表面部分
【図7】本発明の方法を実行している図6の実施例の部分側面図
【図8】図6の実施例の変形例の表面の部分図
【図9】本発明の方法のステップを実行している実施例の部分側面図
【図10】10a〜10c:3つの異なる方法の状態での本発明の実施例の水平方向の断面図
【符号の説明】
【0079】
1 槽、反応チャンバー
3 槽
5,6 接続毛細管構造
7,11 充填経路
13,14,15 音響チップ
17,19 充填スタブ
101 槽表面 反応チャンバー
103 槽表面
105 面接続経路構造
121,123 液滴
125 液橋
127 架橋滴
201 槽、反応チャンバー
203 槽
213,215 交差指電極トランスデューサ
223,227 接続経路構造
229,231 液境界
233 液混合

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1槽(3,103,203)の中又は上に第1液が導入される工程と、
第2液で第2槽(1,101,201)が完全に満たされる工程と、
第1及び第2液が、上記2つの槽の接続線の表示方向における、槽よりも小さい断面を有する少なくとも1つの領域を含む、少なくとも1つの接続経路構造(5,6,105,227)を介して接触する工程と、
上記2つの液体の液交換のために、上記接続経路構造(5,6,105,227)において層流が発生する工程と、
第2槽(1,101,201)の中又は上で液体が混合される工程と、
を含む、少量の液体の統合された計量及び混合のための方法。
【請求項2】
接続経路構造(5,6,105,227)の少なくとも1つの部分の方向に音波を照射することによって液交換が生じる、請求項1の方法。
【請求項3】
層流領域での液交換の発生のための音波の照射が、規定された終了時間まで維持される、請求項2の方法。
【請求項4】
層流が、表面音波のパルス伝導によって発生させられる、請求項2又は3の方法。
【請求項5】
接続経路構造(5,6,105,227)の少なくとも1つの部分に沿う方向の照射方向を有する、少なくとも1つの交差指電極トランスデューサ(213)を用いて表面音波が発生させられる、請求項4の方法。
【請求項6】
液体の少なくとも1つが、毛細管力の利用によって少なくとも1つの接続経路構造(5,6,105,227)の中又は上に運ばれる、請求項1〜5のいずれか1つの方法。
【請求項7】
最初に第1槽(3,103,203)の中又は上に運ばれる第1液(123)が、毛細管力で接続経路構造(5,105,227)を通じて第2槽(1,101,201)まで広がり、そうして、第2槽(1,101,201)の中又は上に運ばれる第2液(121)が、接続経路構造(5,6,105,201)の第2槽(1,101,201)への入口部位で、第1液と接触する、請求項6の方法。
【請求項8】
液体の第1量の容量及び液体の第2量の容量双方よりも小さい容量を有し、液体の第1量と液体の第2量との間に運ばれる、第3の液体量(125)を介して、液体(121,123)の2つの量の接触が確立される、請求項1〜5のいずれか1つの方法。
【請求項9】
第2槽(1,101,201)の中又は上での液体の混合に音波が用いられる、請求項1〜8のいずれか1つの方法。
【請求項10】
混合のための音波の発生に、表面音波が用いられる、請求項9の方法。
【請求項11】
表面音波の発生に、少なくとも1つの交差指電極トランスデューサ(215)が用いられる、請求項10の方法。
【請求項12】
充填経路構造(7,11)を介して槽(1,101,201,3,103,203)の充填が行われる、請求項1〜11のいずれか1つの方法。
【請求項13】
少なくとも2つの接続経路構造(223,227)を介して、2つの槽(201,203)が連絡する、請求項1〜12のいずれか1つの方法。
【請求項14】
相応して形成されたウェルが、槽及び/又は経路構造として表面で用いられる、請求項1〜13のいずれか1つの方法。
【請求項15】
相応して形成された中空空間が、槽(1,3)として及び経路構造(5,6,7,11)として用いられる、請求項1〜13のいずれか1つの方法。
【請求項16】
相応して形成された表面領域は、槽(101,103)及び経路構造(105)として用いられ、その表面の周りの領域よりも液体(121,123,125)で濡れ易い、請求項1〜13のいずれか1つの方法。
【請求項17】
対応する数の槽と接続構造とによって、2以上の液体が計量及び混合される、請求項1〜16のいずれか1つの方法。
【請求項18】
少量の液体の統合された計量及び混合のための装置であって、
液体(123)の第1量のための第1槽(3,103,203)と、
液体(121)の第2量のための第2槽(1,101,201)と、
上記2つの槽を接続するとともに、槽の断面よりも小さい、槽の接続線の表示方向の少なくとも1つの領域における断面を有する、少なくとも1つの接続経路構造(5,6,105,227)と、
少なくとも1つの接続経路構造(5,6,105,227)に沿う層流の発生用の少なくとも1つの装置と、
第2槽(1,101,201)の中又は上での、液体の量の混合用の少なくとも1つの装置(15,215)と、
が設けられている装置。
【請求項19】
少なくとも1つの層流発生用の装置が、少なくとも1つの接続経路構造(5,6,105,227)の少なくとも一部に沿う、少なくとも1つの照射装置を有する、第1音波発生装置(13,213)を少なくとも含む、請求項18の装置。
【請求項20】
好ましくは交差指電極トランスデューサ(213)からなる、接続経路構造の中又は上での層流の発生のために、接続経路構造(5,227)の少なくとも1つの領域の方向の照射方向を有する、少なくとも1つの表面音波発生装置(13,213)を有する、請求項19の装置。
【請求項21】
混合用の装置が、第2槽(1,101,201)に入り込む音波発生用の第2音波発生装置(15,215)を少なくとも含む、請求項18〜20のいずれか1つの装置。
【請求項22】
好ましくは交差指電極トランスデューサ(215)からなる、第2槽(1,101,201)に入り込む音波発生用として、第2槽(1,101,201)の領域内に、少なくとも1つの表面音波発生装置(15,215)を有する、請求項21の装置。
【請求項23】
上記少なくとも1つの接続経路構造(5,6,105,227)が、側面の境界で少なくとも1つの液体に毛細管力が作用する狭い断面を有する、請求項18〜22のいずれか1つの装置。
【請求項24】
一方の端部で槽と連絡するとともに、他方の端部で充填装置(17,19)と連絡する充填経路構造(7,11)を有する、請求項18〜23のいずれか1つの装置。
【請求項25】
槽及び経路構造が、表面のウェルとして形成されている、請求項18〜24のいずれか1つの装置。
【請求項26】
槽(1,3)及び経路構造(5,6,7,11)が、表面の中空空間として形成されている、請求項18〜24のいずれか1つの装置。
【請求項27】
槽(101,103)及び経路構造(105)が、周りの表面よりも液体(121,123,125)によって濡れ易い表面の領域によって規定されている、請求項18〜24のいずれか1つの装置。
【請求項28】
2以上の液体の量の統合された計量及び混合のための、2以上の槽及び対応する数の接続経路構造を有する、請求項18〜27のいずれか1つの装置。
【請求項29】
請求項1〜17のいずれか1つの方法の自動化を実現するための機器であって、
請求項18〜28のいずれか1つの装置用の受信機と、
装置が受信機に置かれると、少なくとも1つの接続経路構造に沿う層流の発生のための、少なくともひとつの装置(5,14,213)及び第2槽の中又は上で液体の量の混合のための、少なくとも1つの装置(15,215)、と電気的に接続する、電気的接点と、
受信機に置かれた装置の槽(1,3,101,103,201,203)に液体を自動供給する装置と、
好ましくはマイクロプロセッサを含む制御手段であって、層流の発生用の少なくとも1つの装置(5,14,213)、混合用の少なくとも1つの装置(5,215)及び液体の自動供給装置、の制御用の制御手段と、
を有する機器。
【請求項30】
請求項1〜17のいずれか1つの方法、請求項18〜28のいずれか1つの装置、又は生物学的液体の計量及び混合のための請求項29の機器、の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−527338(P2008−527338A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549812(P2007−549812)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2005/013598
【国際公開番号】WO2006/072384
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(502096196)アドヴァリティクス アーゲー (9)
【Fターム(参考)】