説明

尿の抗酸化度測定キット及び尿の抗酸化度測定方法、並びに尿の抗酸化度測定による生体内のストレスの判定方法

【課題】種々の疾患を誘発する活性酸素に対する防御力を示す生体内の抗酸化度を、特殊な装置や操作を必要とすることなく、一般家庭や診療所などで簡便に測定可能とし、該尿の抗酸化度測定により疾病の危険性を判定することのできる尿の抗酸化度測定キット及び尿の抗酸化度測定方法、並びに尿の抗酸化度測定による生体内のストレスの判定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと、3価の鉄を含有する金属塩と、を含む指示薬成分を含有することを特徴とする尿の抗酸化度測定キット、及び該測定キットを用いた尿の抗酸化度測定方法、並びに尿の抗酸化度測定による生体内のストレス判定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素種に対する生体防御機能の指標として尿の抗酸化度を簡便に測定する尿の抗酸化度測定キット及びに尿の抗酸化度測定方法、並びに尿の抗酸化度測定による生体内のストレスの判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレスなどにより発生する活性酸素は、糖尿病、高脂血症、動脈硬化、ガンなど生活習慣病の原因となるため、その除去はこれらの疾患の発生又は進行を抑制する上で重要である。近年、活性酸素を除去する生体防御機能として、生体内の抗酸化力の重要性が再認識されてきている。生体内の抗酸化力には、活性酸素を還元し無害化する性質があり、活性酸素による生活習慣病の発生や進行を予防することができる。
従って、生体の防御力を計測するためには、発生する活性酸素の分子種を測定するのではなく、抗酸化力を測定することが重要となるが、生体内の抗酸化力の程度(抗酸化度)は、自覚することができないため、抗酸化度を的確に判定する手段に対するニーズが高まってきている。
この様な背景から、抗酸化度を測定する技術として、これまでに、皮膚に光誘起ラジカル生成物を塗布し光照射することにより生じるラジカル生成量を測定する方法(特許文献1)、発光試薬と化学発光検出器を用いた方法(特許文献2)、活性酸素発生源を添加し活性酸素を消去する能力を電気化学発光で測定する方法(特許文献3)、ウイスマー社などから抗酸化力分析システムなどが開発されている。
【0003】
しかしながら、これらの測定法には、電子スピン共鳴測定器、電気化学発光測定器、吸光度計などの特殊で高価な分析機器が必要であり、また、複雑で専門的知識を要する操作法に習熟することが必要であるため、一般家庭や診療所などで簡易に経日的な抗酸化度の測定が困難であるという問題がある。
【0004】
また、BenzieらやSzollosiらは2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと3価の鉄を用いて抗酸化度を測定することを報告しているが(非特許文献1及び2)、尿への適応可能性について言及しておらず、また、吸光度計を用いて、2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと3価の鉄を用時調製する必要があることから、日常的に採取される尿を用いて簡便に経日的な抗酸化度の測定を行いたいとするニーズに応えるものではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平10−087505
【特許文献2】特開2004−251870
【特許文献3】特開2007−279008
【非特許文献1】Reka Szollosi and Ilona Szollosi Varga: Total antioxidant power in some species of Labiatae., Acta Biologica Szegediensis 46:125-127, 2002
【非特許文献2】Iris F. F. Benzie and J. J. Strain: The ferric reducing ability of plasma (FRAP) as a measure of “antioxidant power”: the FRAP assay., Anal Biochem. 239(1):70-6, 1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成すること課題とする。即ち、種々の疾患を誘発する活性酸素に対する防御力を示す生体内の抗酸化度を、特殊な装置や操作を必要とすることなく、一般家庭や診療所などで簡便に測定可能とし、該尿の抗酸化度測定により疾病の危険性を判定することのできる尿の抗酸化度測定キット及び尿の抗酸化度測定方法、並びに尿の抗酸化度測定による生体内のストレスの判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、一般家庭においても容易に採取できる尿を検体とし、尿と、2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジン及び3価の鉄を含有する金属塩とを含有するキットを反応させることで、生体の抗酸化度を容易に測定できることを見出し、本発明をなすに至った。
前記課題を解決する手段は、以下のとおりである。即ち、
<1> 2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと、3価の鉄を含有する金属塩と、を含む指示薬成分を含有することを特徴とする尿の抗酸化度測定キットである。
上記<1>に記載の尿の抗酸化度測定キットと尿を反応させると、尿の抗酸化度が高い場合は、2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと3価の鉄の複合体が還元され、青紫色に変化する。一方、抗酸化度が低い場合は、上記複合体は還元されず青紫色を呈さない。その結果、尿の抗酸化度の高低が測定される。
<2> 指示薬成分が酸化剤を含む<1>に記載の尿の抗酸化度測定キットである。
上記<2>に記載の抗酸化度測定キットでは2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジン及び3価の鉄を含有する金属塩に加えて、酸化剤が含有されることで、指示薬成分の安定性が高まり、保存性が向上する。
<3> 指示薬成分を含浸させた支持体を備える<1>又は<2>に記載の尿の抗酸化度測定キットである。
<4> 指示薬成分を収容させた収容容器を備える<1>又は<2>に記載の尿の抗酸化度測定キットである。
<5> 収容容器が1回の測定に必要な指示薬成分の量を分注可能とする分注手段を有する<4>に記載の尿の抗酸化度測定キットである。
<6> 指示薬成分の色彩と尿の抗酸化度との関係を示す色標本を備える<1>から<5>のいずれかに記載の尿の抗酸化度測定キットである。
<7> <1>から<6>のいずれかに記載の尿の抗酸化度測定キットを用い、指示薬成分と、被験対象の尿とを呈色反応させ、反応後の色彩に基づき尿の抗酸化度を測定することを特徴とする尿の抗酸化度測定方法である。
上記<7>に記載の尿の抗酸化度測定方法によると、指示薬成分と尿とが呈色反応を示し、尿の抗酸化度が高い場合は、2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと3価の鉄の複合体が還元され、青紫色に変化する。一方、抗酸化度が低い場合は、上記複合体は還元されず青紫色を呈さない。その結果、尿の抗酸化度の高低が測定される。
<8> <1>から<6>に記載の尿の抗酸化度測定キットを用い、指示薬成分と、被験対象の尿とを呈色反応させ、反応後の色彩に基づき測定される尿の抗酸化度により生体の生体内のストレスを測定することを特徴とする尿の抗酸化度測定による生体内のストレスの判定方法である。
上記<8>に記載の尿の抗酸化度測定による生体内のストレスの判定方法によると、指示薬成分と尿とが呈色反応を示し、尿の抗酸化度が高い場合は、2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと3価の鉄の複合体が還元され、青紫色に変化する。一方、抗酸化度が低い場合は、上記複合体は還元されず青紫色を呈さない。
生体内の抗酸化力には、ストレスにより生じる活性酸素を還元し無害化する性質があり、該活性酸素を消去した分、生体の抗酸化度が低下する。したがって、尿の抗酸化度を測定することで、生体内のストレスが判定されることとなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、種々の疾患を誘発する活性酸素に対する防御力を示す生体内の抗酸化度を、特殊な装置や操作を必要とすることなく、一般家庭や診療所などで簡便に測定可能とし、該尿の抗酸化度測定により疾病の危険性を判定することのできる尿の抗酸化度測定キット及び尿の抗酸化度測定方法、並びに尿の抗酸化度測定による生体内のストレスの判定方法を提供することができる。
また、酸化剤を含むことにより、指示薬成分の安定性が高く、保存性が良好な尿の抗酸化度測定キット及び該尿の抗酸化度測定キットを好適に用いることのできる尿の抗酸化度測定方法、並びに尿の抗酸化度測定による生体内のストレスの判定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(尿の抗酸化度測定キット)
本発明の尿の抗酸化キットは、尿との間で特有の呈色反応を示す指示薬成分を含有するものである。
【0010】
−指示薬成分−
本発明の尿の抗酸化度測定キットの指示薬成分には、(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと(B)3価の鉄を含有する金属塩とを含有すること、又は(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと(B)3価の鉄を含有する金属塩に加えて(C)酸化剤を含有することが必須である。
【0011】
−−(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジン−−
本発明の(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンの配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、便器のトラップ水に添加して用いるように濃縮液を希釈して用いる場合(以下、濃縮物添加反応法という)には0.05〜1.5%(質量%、以下同様)が好ましく、0.1〜1.0%がより好ましく、0.5〜1.0%が特に好ましい。
0.05%未満であると、充分な発色性が認められないことがあり、1.5%を超えると、尿に作用させる前に着色し目的とする色彩の変化が認められないことがある。
また、尿検査紙のような支持体に吸着させて用いる場合(以下、支持体反応法という)には、0.01〜1.0%が好ましく、0.05〜0.5%がより好ましく、0.075〜0.125%が特に好ましい。
0.01%未満であると、充分な発色性が認められないことがあり、1.0%を超えると、尿に作用させる前に着色し目的とする色彩の変化が認められないことがある。
【0012】
−−(B)3価の鉄−−
(B)3価の鉄を含有する金属塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化鉄(III)、リン酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)等を挙げられる。これらの中でも、発色性の観点から塩化鉄(III)を用いることが特に好ましい。
(B)3価の鉄を含有する金属塩の配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、上記濃縮物添加反応法による場合には、0.05〜3.0%が好ましく、0.1〜2.0%がより好ましく、0.5〜2.0%が特に好ましい。
0.05%未満であると、充分な発色性が認められないことがあり、3.0%を超えると、尿に作用させる前に着色し目的とする色彩の変化が認められないことがある。
また、上記支持体反応法による場合には、0.01〜2.0%が好ましく、0.05〜1.0%がより好ましく、0.075〜0.25%が特に好ましい。
0.01%未満であると、充分な発色性が認められないことがあり、0.05%を超えると、尿に作用させる前に着色し目的とする色彩変化が認められないことがある。
【0013】
−−(C)酸化剤−−
(C)酸化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、過炭酸ナトリウム、過マンガン酸ナトリウム、過ほう酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム等を挙げられる。これらの中でも、安定性の向上と発色性の確保の両面から過炭酸ナトリウムを用いることが特に好ましい。
配合量としては、上記濃縮物添加反応法による場合には、0.0005〜0.02%が好ましく、0.0015〜0.015%がより好ましく、0.005〜0.015%が特に好ましい。
0.0005%未満であると、充分な安定化効果が得られないことがあり、0.02%を超えると、尿に作用させる前に着色し目的とする色彩変化が認められないことがある。
また、上記支持体反応法による場合には、0.0001〜0.015%が好ましく、0.0005〜0.01%がより好ましく、0.00075〜0.002%が特に好ましい。
0.0001%未満であると、充分な安定化効果が得られないことがあり、0.015%を超えると尿に作用させる前に着色し目的とする色彩変化が認められないことがある。
【0014】
−溶媒−
これらの指示薬成分に用いる溶媒は、(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジン及び(B)3価の鉄を含有する金属塩を溶解又は分散することができれば良く、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蒸留水やイオン交換水などの精製水、メタノール、エタノール、グリセリン、ソルビット、塩酸等の希酸を挙げられる。これらの中でも、呈色反応の迅速性の観点から0.03〜0.5%塩酸を用いることが好ましい。
【0015】
上記指示薬成分を含有する尿の抗酸化度測定キットを、測定に適用する形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、上記濃縮物添加法においては、液滴下型が好ましく、上記支持体反応法においては、尿検査紙型、指示薬成分含浸体投入型、便器貼付型が好ましい。
【0016】
−濃縮物添加法−
濃縮物添加法は、上記指示薬成分を溶媒に溶解又は分散させた溶液を、便器の溜り水や紙コップに採取された尿に滴下して、尿との呈色反応を観察するものである。
本発明に係る尿の抗酸化度測定キットのひとつの形態としては、上記指示薬成分を含有する溶液を収容容器に収容し、尿の抗酸化度測定キットとして適用されるものである。
【0017】
−−収容容器−−
収容容器は、前記指示薬成分を含有する溶液を収容するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、簡便な測定の観点から、収容容器は1回の測定に必要な指示薬成分の量を分注可能とする分注手段を有することが好ましい。
前記分注手段としては、1回の測定に必要な指示薬成分の量を分注可能であれば、特に制限はなく、例えば、ワンプッシュで1回の測定に必要な指示薬成分の量を塗布するノズル付きキャップや、便器の尿溜めに滴下して使用する分量(例えば10mL)や定形の紙コップに滴下して使用する分量(例えば3mL)に応じて、目盛り線が表示されたキャップなどが挙げられる。
【0018】
−支持体反応法−
支持体反応法は、上記指示薬成分を含浸させた支持体に尿を摂取させ、尿との呈色反応をみるものである。
本発明に係る尿の抗酸化度測定キットの他の形態としては、上記指示薬成分を支持体に含浸させ、尿の抗酸化度測定キットとして適用されるものである。
該支持体としては、上記指示薬成分を含浸可能なものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、紙材、布材、樹脂材などをもって構成することができる。
該支持体を用いる尿の抗酸化度測定キットとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、簡便な測定の観点から、尿検査紙型、指示薬成分含浸体投入型、便器貼付型を好適に採用することができる。
【0019】
−−尿検査紙型−−
尿検査紙型は、一般的な尿検査に用いられる尿検査紙と略同程度の大きさの紙材を、前記指示薬成分を含む溶液中に浸漬した後、乾燥させることで、前記指示薬成分を含浸させた前記支持体とするものである。
尿検査紙型による尿の抗酸化度の測定は、紙コップに採取された尿などに尿検査紙型の支持体を浸し、支持体中の指示薬成分と尿とを反応させ、呈色を比色することで行う。
【0020】
−−指示薬成分含浸体投入型−−
指示薬成分含浸体投入型は、紙材、布材などを、前記指示薬成分を含む溶液中に浸漬し、前記指示薬成分を含浸させた前記支持体とするものである。
指示薬成分含浸体投入型による尿の抗酸化度の測定は、支持体を尿溜まりに投入し、支持体中の指示薬成分と尿とを反応させ、呈色を比色することで行う。
【0021】
−便器貼付型−
便器貼付型は、平板状の耐水性の布材、樹脂材等を、前記指示薬成分に浸漬し、乾燥させた後、一面側に便器の内壁に貼付可能な両面テープを貼着し、前記指示薬成分を含浸させた前記支持体とするものである。
便器貼付型による尿の抗酸化度の測定は、支持体を便器の内壁に貼付し、そこに尿をかけて指示薬成分と反応させ、呈色を比色することで行う。
該便器貼付型によると、一旦尿の抗酸化度の測定した後、洗浄水による便器の洗浄とともに支持体が洗浄され、繰返し尿の抗酸化度の測定が可能となるため、経日的な尿の抗酸化度を測定することができる。
【0022】
−尿−
上記尿の抗酸化度測定キットと反応させる尿は、尿をそのまま、あるいは遠心分離、ろ過などの処理をした尿も用いることができるが、簡便性の観点から、尿をそのまま用いることが好ましい。
測定される被験対象としては、上記指示薬成分との間で特有の呈色を示す還元反応を生ずる尿であればよく、ヒトや動物を含めることができる。そのため、上記尿の抗酸化度測定キットは様々な生体の尿に対して適用することができ、例えば、一般家庭や診療所においてヒトやペットに対する尿の抗酸化度の測定を好適に行うことができる。
また、上記濃縮物添加法及び支持体反応法における尿の抗酸化度の測定においては、尿と指示薬成分との呈色反応が、明瞭な色彩変化として視認されるため、無色透明の薄い尿はもちろんのこと、有色の濃い尿に対しても、好適に測定を行うことができる。
【0023】
−比色−
本発明の尿の抗酸化度測定キットは、尿との呈色反応において、尿の抗酸化度が高い場合は青紫色に変化し、抗酸化度が低い場合は青紫色を呈さない。
したがって、該青紫色の色彩と比色して、尿の抗酸化度を定性的に測定することが可能である。
また、定量的な尿の抗酸化度の測定として、指示薬成分の色彩と尿の抗酸化度との関係を示す色標本を用いることができる。
該色標本を用いると、上記尿との呈色反応は、青紫色の呈色が抗酸化度に応じた濃淡を示すため、尿の抗酸化度と対応した色彩が表示された色標本とを比色するにより、定量的に尿の抗酸化度を測定することができる。
該色標本には、色彩に応じたストレス状態の表示として、例えば、高ストレス状態や低ストレス状態といった情報表示が、各色彩とともに表示されてもよい。
【0024】
(尿の抗酸化度測定方法)
本発明の尿の抗酸化度測定方法は、指示薬成分と、被験対象の尿とを呈色反応させ、反応後の色彩に基づき尿の抗酸化度を測定するものである。
上記指示薬成分と尿とは、特有の呈色反応を示し、尿の抗酸化度が高い場合は、2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと3価の鉄の複合体が還元され、青紫色に変化する一方で、抗酸化度が低い場合は、上記複合体は還元されず青紫色を呈さない。
こうした指示薬成分と尿とを呈色反応させ、反応後の色彩に基づき、尿の抗酸化度を測定することができる。
上記尿の抗酸化度測定方法には、上記呈色反応を確認できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、簡便な測定の観点からは上記尿の抗酸化度測定キットを用いることが好ましい。
【0025】
(尿の抗酸化度測定による生体内のストレスの判定方法)
本発明の尿の抗酸化度測定による生体内のストレスの判定方法は、指示薬成分と、被験対象の尿とを呈色反応させ、反応後の色彩に基づき測定される尿の抗酸化度により生体内のストレスを判定するものである。
上記指示薬成分と尿とは、特有の呈色反応を示し、尿の抗酸化度が高い場合は、2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと3価の鉄の複合体が還元され、青紫色に変化する一方で、抗酸化度が低い場合は、上記複合体は還元されず青紫色を呈さない。
こうした指示薬成分と尿とを呈色反応させ、反応後の色彩に基づき測定される尿の抗酸化度には、生体のストレスとの相関関係が確認される。即ち、生体内の抗酸化力には、ストレスにより生じる活性酸素を還元し無害化する性質があることから、該生体内の抗酸化力を尿の抗酸化度から測定することで、被験対象に係る生体内のストレスを判定することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例と比較例に基づき、より具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記例で%は質量%を示す。
【0027】
<実験例1>(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと3価の鉄を用いた尿の抗酸化度測定(実施例1〜13)
表1に示す試験組成物は、下記の(i)又は(ii)の方法でキット化し、その次に示す方法で尿と作用させ色の変化の程度(発色性)を評価した。結果は表1に示す。
(i)支持体反応法を利用したキットの作製(比較例1、2及び実施例1〜7)
(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジン、塩化鉄(III)・6水和物、比較成分(比較例の場合)を秤取し、50mmol/L塩酸溶液を加え全質量が100gになるように調製した。50mmol/L 塩酸溶液の調整は1mol/L 塩酸溶液50mL(和光純薬工業社製)を950mLの蒸留水に添加し、攪拌して行った。同組成物を攪拌することで秤取した物質を溶解又は分散させた後、シリカゲルプレート(30mm×30mmに切断したもの、メルク社製)を同溶液中に入れ、室温で24時間浸漬した。浸漬後のプレートを取り出し、風乾した後、キットとして直ちに用いた。
(ii)濃縮物添加反応法を利用したキットの作製(実施例8〜13)
(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジン、(B)塩化鉄(III)・6水和物、比較成分(比較例の場合)を秤取し、50mmol/L 塩酸溶液を加え全質量が100gになるように調製した。50mmol/L 塩酸溶液の調整は1mol/L 塩酸溶液50mL(和光純薬工業社製)を950mLの蒸留水に添加し、攪拌して行った。同組成物を攪拌することで秤取した物質を溶解又は分散させたものをキットとして直ちに用いた。
【0028】
・ヒト尿サンプルの調製
過去1週間、薬の服用がなく、身体的及び精神的な状態が良好であると回答し、かつ、POMS(Profile of Mood States)試験でV(Vigor)以外の5つの尺度の各T得点が10以下及びVのT得点が15以上を示したストレス状態の良好な披験者10名から起床後の尿を採取し、同一サンプルの量を確保するために全ての尿を混合したものを試験用尿サンプルとした。
・支持体反応法を利用した尿の抗酸化度測定キットと尿の反応
同キットを、ヒト尿サンプル100gを入れたビーカーに浸漬し、1分後に取り出し、プレートの色の変化程度を下記のように評価した。
・濃縮物添加反応法を利用した尿の抗酸化度測定キットと尿の反応
便器のトラップ水での反応を考慮し、同キット5gを1Lの水道水を添加したビーカーに加えた。その後直ちに、100mLヒト尿サンプルを添加し、30秒後に溶液の変色程度を下記のように評価した。
【0029】
・色彩変化の評価
尿と反応させた支持体反応法を利用したキット及び濃縮物添加反応法を利用したキットは下記の基準で目視判定した。
基準:
× :尿添加前と比較して、色の変化が認められなかった。
△ :尿添加前と比較して、ほとんど色の変化が認められなかった。
○ :尿添加前と比較して、色の変化が認められた。
◎ :尿添加前と比較して、強い色の変化が認められた。
◎◎:尿添加前と比較して、著しく強い色の変化が認められた。
【0030】
【表1】

※1 同仁化学工業社製
※2 和光純薬工業社製
※3 和光純薬工業社製
※4 和光純薬工業社製
【0031】
表1に示すように、(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと塩化ナトリウムの場合(比較例2)や、(B)塩化鉄(III)6水和物とジフェニルアミンの場合(比較例1)では、尿との反応による明確な色変化が認められなかったが、(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと(B)塩化鉄(III)6水和物を併用した場合(実施例1〜13)には明確な色変化が認められ、本発明キットの機能が確認された。
【0032】
<実験例2>(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと(B)3価の鉄を含有する金属塩と、(C)酸化剤を用いた安定性及び尿の抗酸化度測定(実施例14〜25)
・尿の抗酸化度測定キットの作製
支持体反応法を利用した尿の抗酸化度測定キット(比較例3及び実施例14〜20)及び濃縮物添加反応法を利用した尿の抗酸化度測定キットの作製(実施例21〜25)は、(C)酸化剤を加える以外は実験例1と同様に作製した。
・尿の抗酸化度測定キットの保存及び評価
支持体反応法を利用した尿の抗酸化度測定キットはシャーレ(イナ・オプティカ社製BIO-BIK、直径90mm×高さ15mm)に、濃縮物添加反応法を利用した尿の抗酸化度測定キットは蓋付プラスチック容器(アシスト社製、直径55mm×高さ75mm)に入れ、25℃で1週間保存した。保存後、室温に戻した状態で、キットの変色劣化程度を下記基準で判定した。結果は表2に示した。
基準:
× :保存前と比較した変色劣化程度が、実施例14より強かった。
△ :保存前と比較した変色劣化程度が、実施例14と同等であった。
○ :保存前と比較した変色劣化程度が、実施例14よりやや弱かった。
◎ :保存前と比較した変色劣化程度が、実施例14より弱かった。
◎◎:保存前と比較した変色劣化程度が、実施例14より極めて弱かった。
・保存後キットと尿の反応性評価
保存後キットと尿の反応性評価は、実験例1に示した「色彩変化の評価」と同一の方法で行い、下記基準で判定した結果を表2に示した。
基準:
× :尿添加前と比較した色の変化が、実施例14より弱かった。
△ :尿添加前と比較した色の変化が、実施例14と同等であった。
○ :尿添加前と比較した色の変化が、実施例14よりやや強かった。
◎ :尿添加前と比較した色の変化が、実施例14より強かった。
◎◎:尿添加前と比較した色の変化が、実施例14より極めて強かった。
【0033】
【表2】

※5 Alfa Aesar社製
※6 和光純薬工業社製(成分Cの比較成分)
【0034】
表2に示すように、(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと(B)塩化鉄(III)6水和物に過塩素酸ナトリウムを加えた場合(比較例3)では、保存による変色劣化については良好な結果が得られたが、尿との反応性が低下してしまった。一方、(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと(B)塩化鉄(III)6水和物に(C)過炭酸ナトリウムを加えると(実施例15〜25)、保存による変色劣化及び保存後の尿との反応性の両方で良好な結果が得られ、(C)酸化剤の添加効果が確認された。
【0035】
<実験例3>
下記実施例26〜29に係るキットを作製し、尿と反応させた後の色の変化を評価した。
【0036】
(実施例26) 尿検査紙型キット
ろ紙(アドバンテック東洋社製、No.1)を幅10mm×長さ80mmの大きさに切断し、実験例1と同様に調製した下記組成物中に1時間浸漬し、風乾したものを尿の抗酸化度測定キットとして用いた。尿との反応及び評価は、実験例1の「支持体反応法を利用した尿の抗酸化度測定キットと尿の反応」及び「色彩変化の評価」と同じ操作を行った。
(組成)
(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジン(同仁化学研究所社製) 0.1%
(B)塩化鉄(III)・6水和物(和光純薬工業社製) 0.25%
蒸留水 残
【0037】
(実施例27) 指示薬成分含浸体投入型キットの作製
JKワイパー(クレシア社製)を幅200mm×長さ100mmの大きさに切断し、実験例1と同様に調製した下記組成物中に1分間浸漬し、取り出した後、軽く水分を搾り出したペーパーを尿の抗酸化度測定キットとして用いた。尿との反応及び評価は、実験例1の「支持体反応法を利用した尿の抗酸化度測定キットと尿の反応」及び「色彩変化の評価」と同じ操作を行った。
(組成)
(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジン(同仁化学研究所社製) 0.1%
(B)塩化鉄(III)・6水和物(和光純薬工業社製) 0.25%
(C)過炭酸ナトリウム(Alfa Aesar社製) 0.002%
蒸留水 残
【0038】
(実施例28) 便器貼付型キットの作製
シリカゲルプレート(メルク社製)を30mm×30mmの大きさに切断し、実験例1と同様に調製した下記組成物中に1日間浸漬し、風乾した。プレートのシリカゲル非付着面に耐水性両面テープ(ニチバン社製ナイスタックNW-G15S)を添付したものを尿の抗酸化度測定キットとして用いた。同キットを便器(TOTO社製)の溜り水上部に貼付、キットに実験例1と同様に採取した尿100mLを10秒間かけて流した。その後、1分後に実験例1と同様に「色彩変化の評価」を行った。
(組成)
(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジン(同仁化学研究所社製) 0.1%
(B)塩化鉄(III)・6水和物(和光純薬工業社製) 0.25%
蒸留水 残
【0039】
(実施例29) 液滴下型キットの作製
下記組成物を実験例1と同様に調製したものを尿の抗酸化度測定キットとして用いた。尿との反応及び評価は、実験例1の「濃縮物添加反応法を利用した尿の抗酸化度測定キットと尿の反応」及び「色彩変化の評価」と同じ操作を行った。
(組成)
(A)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジン(同仁化学研究所社製) 0.8%
(B)塩化鉄(III)・6水和物(和光純薬工業社製) 6.0%
(C)過炭酸ナトリウム(Alfa Aesar社製) 0.003%
エタノール(和光純薬工業社製) 40%
L−メントール(和光純薬工業社製) 0.2%
赤色102号 0.0002%
蒸留水 残
【0040】
(実施例26〜29の評価)
結果として、いずれのキットにおいても色の変化(○〜◎)が認められ、本発明を実施例26〜29の形態に適用することができることを確認した。
【0041】
<実験例4>
分光光度計(島津製作所社製)で測色した色の薄い尿(吸光度0.093、428nm)と、色の濃い尿(吸光度0.985、428nm)とを実験例1の実施例1と同じ方法で測定したが、同様の測定結果が得られた。
【0042】
<実験例5>
過去1週間薬の服用がなく、身体的及び精神的な状態が良好であると回答し、かつPOMS(Profile of Mood States)試験でV(Vigor)以外の5つの尺度の各T得点が10以下及びVのT得点が15以上を示したストレス状態の良好な披験者5名から尿を採取し、ただちに各尿を実験例1の実施例1と同じ方法及び下記基準にて尿の抗酸化度を測定した。その後、ストレス負荷試験として長さ200mm×直径約5mmの箸を用いて、乾燥大豆を直径120mm×深さ30mmの皿から20cm離れた場所にある別の同じ皿に移す作業を4時間継続させた。その際、披験者には出来るだけ早く移すこと、素手を使わないこと、休憩をとらないこと(飲食物摂取も制限)を依頼し、実験監督者が禁止行動を行わないことを確認した。試験終了後、直ちに尿を採取し、試験開始前と同一の方法で尿の抗酸化度を測定した。また、各披験者にPOMS試験を受けさせた。
・評価基準
1点 :尿添加前と比較して、色の変化が認められなかった。
2点 :尿添加前と比較して、ほとんど色の変化が認められなかった。
3点 :尿添加前と比較して、色の変化が認められた。
4点 :尿添加前と比較して、強い色の変化が認められた。
5点 :尿添加前と比較して、著しく強い色の変化が認められた。
【0043】
結果として、同キットを用いた尿の抗酸化度は、ストレス負荷前の4.8点(披験者5名の平均値)から、ストレス負荷後の1.6点(同上)に変化した。なお、POMS試験において現在の気分状態を測定したところ、ストレス負荷後にはF(Fatigue)のT得点(披験者平均)が23.2点に変化したことから、ストレス負荷条件の妥当性を確認した。
以上の結果によると、ストレス負荷により抗酸化度が低下しており、尿を検体とした抗酸化度の測定により生体内のストレスを判定できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、尿の抗酸化度を特殊な装置や操作を必要とすることなく、一般家庭や診療所などで簡便に測定可能であるので、人やペットなどの生体内の状態を検査する薬品業界、医療業界、検査業界において好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと、3価の鉄を含有する金属塩と、を含む指示薬成分を含有することを特徴とする尿の抗酸化度測定キット。
【請求項2】
指示薬成分が、酸化剤を含む請求項1に記載の尿の抗酸化度測定キット。
【請求項3】
指示薬成分を含浸させた支持体を備える請求項1又は2に記載の尿の抗酸化度測定キット。
【請求項4】
指示薬成分を収容させた収容容器を備える請求項1又は2に記載の尿の抗酸化度測定キット。
【請求項5】
指示薬成分の色彩と尿の抗酸化度との対応関係を示す色標本を備える請求項1から4のいずれかに記載の尿の抗酸化度測定キット。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載した尿の抗酸化度測定キットを用い、2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリアジンと、3価の鉄を含有する金属塩と、を含み、尿の抗酸化度に応じた変色を示す指示薬成分と、被験対象の尿とを呈色反応させ、反応後の色彩に基づき測定される尿の抗酸化度により被験者の生体内のストレスを判定することを特徴とする尿の抗酸化度測定による生体内のストレスの判定方法。

【公開番号】特開2010−2245(P2010−2245A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159994(P2008−159994)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】