説明

尿中の窒素成分の固形状回収装置

【課題】
尿中に含まれる尿素を緩効性肥料として回収する。
【解決手段】
尿を酸性に保つ貯留槽(1)、尿とアルデヒド化合物とを反応させる反応層(2)、反応後の溶液から固体成分と液体成分を分離する分離器(3)、分離された固体成分を乾燥する乾燥器(4)を有する尿中の窒素成分の固形状回収装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人または家畜から排泄される尿の処理において、尿中の窒素成分の固形状回収装置に関する。さらに詳しくは、尿中の窒素を緩効性肥料として回収する尿処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
循環型社会形成推進基本法によると、廃棄物はリサイクル等により有効活用されることが求められている。し尿に関しては廃棄物処理法により適正処分、家畜糞尿では家畜排泄物処理法により堆肥化・有効活用することが求められている。この糞尿中の有用成分にはリンや窒素の栄養塩類があるが、窒素分の大部分は尿素として含まれている。このことは、尿と糞を分けて処理することで容易に窒素分が回収できることを示している。
【0003】
農業利用を考慮した際、窒素分は水溶性の尿素やアンモニア、硝酸として回収されると、畑地に利用した際に降雨により容易に流亡してしまうため、新たな地下水汚染の原因となる。これを改善するためには少量の肥料を複数回に分けて施肥することが有用であるが、労働コストがかさむことが問題となる。そこで、尿中に含まれる窒素分を難溶性の窒素肥料として回収することが求められている。
【0004】
従来の尿処理技術として曝気法(特許文献1)、硝化脱窒法(特許文献2)および蒸発法(特許文献3、4)などがあるが、窒素の回収は考慮されていない。窒素回収技術としては、コンポスト化(特許文献5)やストラバイト(MAP)(特許文献6)の析出によるリン回収がある。しかし、コンポスト化ではし尿を分別せずに処理されることが多いため、窒素の大部分がアンモニアに変換され、かつ半年以上の反応時間が必要なため、窒素の回収率が低い。また、ストラバイトはマグネシウム、リン酸およびアンモニアが物質量比1:1:1で化合した物質であるため、原理的にリン酸より10倍以上の濃度で含まれる尿素のごく一部を回収するにすぎない問題点がある。
【特許文献1】特開2009−131827
【特許文献2】特開2008−86991
【特許文献3】特開2010−137136
【特許文献4】特開2009−279367
【特許文献5】特開2008−229622
【特許文献6】特開2006−61880
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先行技術では、尿中の窒素分を気体の窒素として空気中に戻す処理法が多く、窒素の回収を主目的とした処理法は多くない。また、窒素の回収を目的とした処理法でも、コンポスト化では20%程度、ストラバイトの析出では原理的に10%程度しか回収率が得られない。一方、硫酸アンモニウムとして回収する方法は回収率が高いが、得られる製品が易水溶性であり、肥料としての価値が低い。
【0006】
本発明は、尿中の尿素を水非溶解性の尿素誘導体として回収できる装置を開発することを目的とする。
本発明により尿に含まれている尿素を簡便な処理法により衛生的な尿素誘導体として回収することができることになる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明において、第1の発明は、尿を酸性に保つ貯留槽(1)、尿とアルデヒド化合物とを反応させる反応層(2)、反応後の溶液から固体成分と液体成分を分離する分離器(3)、分離された固体成分を乾燥する乾燥器(4)を有する尿中の窒素成分の固形状回収装置である。
【0008】
第2の発明は、尿とアルデヒド化合物とを反応させる反応層(2)において、反応時のpHを4以下にコントロールする、第1の発明の窒素成分の固体状回収装置である。
【0009】
第3の発明は、尿に酸成分を加えpH4以下とした条件でアルデヒド類と反応させることにより固体物を製造し、固体物を化学肥料として利用する尿中窒素の回収方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の尿中の窒素成分の固形状回収装置によって、尿中の尿素を水非溶解性の尿素誘導体として回収できる。本発明により尿に含まれている尿素を簡便な処理法により衛生的な尿素誘導体として回収することができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の尿中の窒素成分の固形状回収装置を示す図
【図2】尿として尿素水溶液(初期尿素濃度50g/L)を用いた時の反応液中尿素濃度の時間変化
【図3】尿として人工尿(初期尿素濃度25g/L)を用いた時の反応液中尿素濃度の時間変化
【図4】尿として人工尿(初期尿素濃度50g/L)を用いた時の反応液中尿素濃度の時間変化
【図5】尿として実尿を用いた時の反応液中尿素濃度の時間変化
【図6】人工尿(初期尿素濃度50g/L)をpH2の条件で反応させたときの窒素分の動態
【図7】尿として尿素水溶液を用いた時の反応生成物のC13NMRチャート
【図8】尿として人工尿を用いた時の反応生成物のC13NMRチャート
【図9】尿として実尿を用いた時の反応生成物のC13NMRチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を図によって説明する。
図1は本発明の尿中の窒素成分の固形状回収装置の説明図である。
本発明の装置は、尿を酸性に保つ貯留槽(1)、尿とアルデヒド化合物とを反応させる反応層(2)、反応後の溶液から固体成分と液体成分を分離する分離器(3)、分離された固体成分を乾燥する乾燥器(4)から構成される。
尿を酸性に保つ貯留槽(1)は、本発明の装置の反応層において尿とアルデヒド化合物とを反応させる反応が多量のバッチスケールで行われる際に、所定量となるまで、人または家畜から排泄される尿を貯蔵するための貯留槽である。
【0013】
本発明において、貯留槽のpHをpH4以下の酸性状態に保つことが好ましい。貯留槽のpHをpH4以下の酸性状態にすることで、反応層(2)において尿とアルデヒド化合物とを反応させる際に酸成分を加えることを省洛することができ、また、pHを4以下とすることで、尿に含まれている細菌類を不活性化することができる。これにより尿中の尿素は加水分解されることなく尿中に維持さることができる。
本発明において、酸成分として、塩酸や硫酸、硝酸などの強酸、酢酸、蟻酸などの有機酸、リン酸等を尿中に加えることにより、貯留槽のpHをpH4以下の酸性状態に保つことができる。
【0014】
貯留槽において、尿は、自然あるいは加熱等により水分を蒸発して濃縮することができる。後の反応層(2)でのアルデヒド化合物との反応の効率を考えると、尿素濃度として15g/Lから飽和濃度とすることが好ましい。
貯留槽は本装置にパイプ等で接続していることが好ましいが、後の反応層(2)でのアルデヒド類との反応工程を大規模の集中屎尿処理施設でおこなう場合、必ずしもパイプ等で接続している必要はなく、貯蔵物をタンク等で集中屎尿処理施設に運送することもできる。
【0015】
本発明の装置では、反応層(2)において、貯留槽に貯めた尿とアルデヒド化合物とを反応させ非水溶性尿素誘導体の沈殿物を製造する。
アルデヒド化合物は、アルデヒド基を有する化合物であり、メタナール、エタナール、プロパナール、ブタナール、2−メチルプロパナール、ペンタナール、2−メチルブタナール、3−メチルブタナール、2,2−ジメチルプロパナール、ヘキサナール、2−メチルペンタナール、3−メチルペンタナール、4−メチルペンタナール、2,2−ジメチルブタナール、2−エチルブタナールなどの低級アルデヒドおよびアミノメタナールなどのアルデヒド誘導体を本発明に用いることができる。
アルデヒド化合物の使用量は、尿中の尿素物質量1モルに対して0.5モルが想定される化学量論比である。通常の想定される尿素濃度25g/Lの尿7Lに対して35%ホルムアルデヒド溶液を0.5〜1.5L添加することが好ましい。少なければ尿素の回収率が下がり、多ければアルデヒド類の利用効率が下がる。
本発明は、反応層(2)の温度を室温から80℃程度の温度条件で、尿とアルデヒド化合物を反応させる。温度を高温とすると、エネルギーコストを過大に費やすことになり、本発明では室温では反応することが好ましい。
本発明は、尿とアルデヒド化合物を、pH4以下で、好ましい3以下で、より好ましくは2以下でおこなうことを特徴とする。これらのpH条件では、室温であっても水中で尿素とアルデヒド化合物が反応し非溶性の尿素誘導体の沈殿物を生じさせることが本発明によって見出されたものである。
反応層(2)での反応は、スタティックミキサー、パドルミキサー、マグネチックスターラーなど撹拌機を用い撹拌することが好ましい。攪拌することで、製造する非水溶性尿素誘導体の沈殿物の粒子径を均一に調整することができ、後の反応後の溶液から固体成分と液体成分を分離する分離器(3)における生産効率を高めることができる。
非水溶性尿素誘導体の沈殿物の粒子径は、直径で10〜300μmであり、使用時までに造粒し1〜5mmとすることが好ましい。
なお、本発明の装置において、貯留槽(1)と反応層(2)とは、その機能を併用する一体となった構造であってもかまわない。
【0016】
反発明の装置では、分離器(3)で反応後の溶液から固体成分と液体成分を分離する。
濾過器としては、ろ紙、バグフィルター、サイクロン、沈降分離器等の一般の固液分離装置を使用することができる。
分離器(3)で回収された固体成分は、自然乾燥あるいは加熱乾燥等の乾燥器(4)にて乾燥され、緩効性肥料として利用できる。
分離器(3)で回収された液体成分は、リン回収や有機物の除去などさらなる処理に供することもできる。
【実施例1】
【0017】
50g/L尿素水溶液、表1に示される人の尿中塩類濃度を模した人工尿(尿素濃度25g/L)および2倍濃縮したと仮定した人工尿(尿素濃度50g/L)200mLをビーカーに取り、1mol/L塩酸を加えてpHを1〜6に調整した。35%メタナール水溶液10mLを添加して良く撹拌したのちに20℃の水浴中に放置した。各時刻に反応液を採取し、0.45μmのメンブレンフィルターによる固液分離後水溶液中の尿素濃度を測定した。反応終了後、試験管中には白色粉末の沈殿物が得られた。この粉末を0.45μmのメンブレンフィルターによりろ過し、残留物を水洗後、元素分析及びNMR分析に供した。
尿素濃度の測定として以下の方法を用いた。
(試薬の調整)
試薬A : ジアセチルモノオキシムを24.04 mL、チオセミカルバジドを0.96 mL加えて全量を25 mLにしたもの。
試薬B : 21.6 Nの硫酸を79.93 mL、FeClを0.075 mL加えて全量を80 mL にしたもの。
(手順)
1 尿素標準溶液は0.1 M、0.2 M、0.3 Mを1万倍希釈したものを用意し、検量線用として用いる。
2 サンプルも1万倍希釈したものを用意する。
3 20 mLの試験管に14 mLの検量線用尿素標準溶液とサンプルを入れる。
4 試薬Aを1.0 mL、試薬Bを3.2 mLそれぞれ加え、光による分解を防ぐためアルミホイルでしっかり包む。
5 85度で20分間放置する。
6 加熱処理後、冷たい水道水(流水)で10分間放置する。
7 冷却後すぐに、分光光度計で527 nmの波長で測定する。
結果を図2〜4に示す。尿素溶液においてはpH5以下で、人工尿においては酸性領域おけるすべてのpHで尿素濃度の減少および白色の沈殿物が見られた。いずれの反応系においても沈殿物の粒子径は100μm程度であった。また、pHが低いほど溶液中の尿素濃度の減少速度が大きくなり、沈殿が現れるまでの時間が短くなった。最終的に到達する溶液中尿素濃度はpHが低くなるほど低くなり、尿素の回収量が増加した。
【実施例2】
【0018】
ボランティア3人より採取した尿を回収し、2℃の冷蔵庫で保存したのち採取から24時間以内に実験に供した。保存した尿200mLをビーカーに取り、1mol/L塩酸を用いてpH2に調整した後、35%メチロール水溶液を10mL加え、撹拌した。反応溶液を20℃の水浴中に放置し、各時刻における溶液中尿素濃度をジアセチルモノオキシム法により測定した。
結果を図5に示す。
実尿の初期尿素濃度は19g/Lであった。実尿を用いた場合、人工尿と同様に沈殿が生じ、尿中の尿素濃度が減少することが確認できたが、沈殿物は黄色に着色していた。最終的な溶液中尿素濃度は人工尿と実尿の間で大きな差は見られなかった。
【実施例3】
【0019】
pH2の反応条件において、反応液中にある尿素誘導体の挙動を調べるため、各時刻における反応液を分画分子量1,000、10,000および100,000のUF膜を用いて透析を行った。透析は筒状UF膜に0.45μmのメンブレンフィルターでろ過した反応液を封入し、超純水に入れ、2℃の冷蔵庫内に2日間保管した。8時間ごとに超純水を取り換えた。透析終了後の反応液中の窒素濃度をケルダール窒素として測定した。
1 ケルダールフラスコ内に希釈したサンプルを入れて、分解剤を15 mLと沸騰石を加える。
2 ドラフト内で4時間煮沸し、放置して冷却する。
3 100 mLビーカーに移し、蒸留水で2〜3回ゆすぎ、それも移して全量が100 mL程度となるようにする。
4 pHメーターでpHを測りながら10N NaOH水溶液を加えていき、pHを7〜8程度とする。
5 0.001 mol/LのNHCl標準溶液を用意し、検量線用として用いる。
6 サンプルはそれぞれ10 mLを30mLのチューブに入れる。
7 フェノール・ニトロプルシッド溶液を5 mLずつ加える。
8 次亜塩素酸ナトリウム溶液を10 mLずつ加えて、よく攪拌する。
9 約30分放置して、分光光度計で635 nmの波長で測定する。
結果を図6に示す。
反応初期においては、ほとんどの窒素分が分子量1,000以下の低分子尿素化合物もしくは尿素として存在した。反応が進むに従って一時的に分子量1,000以上10,000以下の各分の割合が増加し、最終的には0.45μm以上の粒子成分が主となった。以上のことより、尿素がメタナールと重合反応を起こすことで尿素誘導体が生成し、重合反応がさらに進んでその分子量が大きくなり、最後には沈殿となっていると考えられる。
【実施例4】
【0020】
実施例1および2で調製された反応生成物のC13NMRチャートを図7〜9に示す。
図7は尿素溶液からの反応生成物、図8は人工尿からの反応生成物、図9は実尿の反応生成物である。
また、表1に、反応生成物を元素分析した場合の結果を示す。
反応生生物は、0.45μmのメンブレンフィルターを用いて固体成分を濾別、洗浄、風乾後、分析に供した。
図7及び8にあるように純粋な尿素溶液および無機塩が共存する人工尿を用いた場合、N−CO−N(161ppm),N−CH−N(48ppm)の結合を表す2つのピークが1:1の面積比で確認された。これは上記2種類のC原子が1:1の割合で含まれる化合物が生成する。したがって、尿素とメタナールが1:1の割合で反応していることが推察される。これは表2に示されるように元素分析の結果からも化学量論比で尿素とメタナールが1:1で反応した生成物であることが強く示唆される。しかし、図9にあるように実尿を用いた場合、48ppmのピークに付属する55,66,73ppmのピークが見られた。N−CH−Nの結合をもつ炭素の隣にある窒素原子に何らかの物質が結合しているなどの副生成物が含まれていると考えられる。なお、表2に示すように、各元素の重量比がホルムウレアの化学量論比と大きく異ならないことから、主要な成分はホルムウレアであると考えられる。
これらの分析より、水非溶解性の反応生生物は尿素誘導体であり、また、尿素誘導体の用途として知られる緩効性肥料として利用できることが分かる。
【0021】
【表1】

【表2】

【符号の説明】
【0022】
1 貯留槽
2 反応層
3 分離器
4 乾燥器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿を酸性に保つ貯留槽(1)、尿とアルデヒド化合物とを反応させる反応層(2)、反応後の溶液から固体成分と液体成分を分離する分離器(3)、分離された固体成分を乾燥する乾燥器(4)を有する尿中の窒素成分の固形状回収装置。
【請求項2】
尿とアルデヒド化合物とを反応させる反応層(2)において、反応時のpHを4以下にコントロールする、請求項1に記載の窒素成分の固体状回収装置。
【請求項3】
尿に酸成分を加えpH4以下とした条件でアルデヒド類と反応させることにより固体物を製造し、固体物を化学肥料として利用する尿中窒素の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−106172(P2012−106172A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256364(P2010−256364)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】