説明

尿成分濃度測定装置、尿成分濃度測定装置を備えた便器装置、及び、溶液成分濃度測定方法

【課題】原尿を直接採取せず、原尿が溜水に混入した後であっても、確実かつ高精度な測定結果を得ることを可能とする尿成分測定装置、尿成分測定装置を備えた便器装置、及び、被検査溶液成分濃度測定方法を提供すること。
【解決手段】便器と、基準物質と、尿混入前基準物質濃度とした測定用溜水を、ボール内に供給する測定用溜水供給手段と、尿混入測定用溜水の基準物質の濃度である尿混入後基準物質濃度を計測する尿混入後基準物質濃度計測手段と、溜水中成分濃度を計測する溜水中成分濃度計測手段と、尿混入前基準物質濃度と、尿混入後基準物質濃度と、溜水中成分濃度とに基づいて、尿中に含まれる特定成分の濃度を算出する尿中成分濃度算出手段と、を有し、尿混入後基準物質濃度計測手段は、溜水中成分濃度計測手段が溜水中成分濃度を計測する計測位置における尿混入測定用溜水を計測対象として、尿混入後基準物質濃度を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿中の特定成分(測定対象とする溶液に含まれる成分のうち濃度測定対象とする成分を、以下では「特定成分」と呼ぶ)の濃度を測定する尿成分濃度測定装置、尿成分濃度測定装置を備えた便器装置、及び、被検査溶液中に含まれる特定成分の濃度を測定する溶液成分濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人々の長寿高齢化に伴い、健康管理に関する個人の関心が高まっており、近年では疾病の早期発見と疾病治療中或いは治療後の健康管理を目的とした自己健康チェックが重要なテーマとなっている。特に、尿中の特定成分(例えば、尿糖やタンパク等)の濃度は、被験者の種々の疾病に伴い変化することから、個人の健康状態を把握するための重要な情報源として知られている。そこで、従来から、尿中の特定成分の濃度を測定する尿成分濃度測定装置、尿成分濃度測定装置を備えた便器装置等が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、被験者が排泄する尿(以下、この排泄されたままの状態の尿を「原尿」ともいう。)を受ける採尿ノズルを便器とは別途設けた尿成分濃度測定装置が開示されている。この尿成分濃度測定装置は、採尿時には採尿ノズルを便器ボール内の採尿位置に移動し、移動後の採尿ノズルにより原尿を受けることで採尿するものである。採尿ノズルにて採尿された尿は、所定の計測装置に送液され、この計測装置により原尿中に含まれる特定成分の濃度が算出される。
【0004】
また、特許文献2には、便器ボール内に穿設され、便器ボール内に排泄される被験者の尿を採尿するための採尿用穴を有する尿成分濃度測定装置が開示されている。この検尿装置は、採尿用穴を便器ボール内の溜水面よりも上方に設けることにより、原尿を採尿用穴により採尿するようになっている。そして、採尿用穴により採尿された原尿は、所定の計測装置に送液され、この計測装置により原尿中に含まれる特定成分の濃度が算出される。
【0005】
一方、特許文献3には、原尿が便器ボール内の溜水に混入した混合溶液の導電率を測定する導電率測定手段と、混合溶液の導電率と原尿の希釈率との関係を示すデータを予め格納した記憶装置とを有する尿成分濃度測定装置が開示されている。この尿成分濃度測定装置は、導電率測定手段により混合溶液の導電率を測定し、記憶装置に格納した導電率と原尿の希釈率との関係を示すデータに基いて原尿の希釈率を算出し、算出された原尿の希釈率に、別途測定した混合溶液中に含まれる特定成分濃度を乗算することによって、原尿中の特定成分の濃度を算出する。
【特許文献1】特開平6−258315号公報
【特許文献2】特開平6−230006号公報
【特許文献3】特開平10−267925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の尿成分濃度測定装置は、原尿のままの状態で原尿中に含まれる特定成分の濃度を測定するものであり、この方法では原尿が便器ボール内の溜水に混入すると希釈され、その後の工程で特定成分の濃度を測定することができなくなることから、原尿が便器ボール内の溜水に混入する前に原尿を採取するために採尿ノズルや採尿用穴等の採尿器を、便器ボール内の溜水面よりも上方位置に設置して原尿を採尿器により直接採取している。採尿器により直接採尿する方法は、子供や女性にとっては採尿器に向けて的確に排尿することが困難であるという問題を有し、また、採尿器に、被験者が排泄する尿が残ることで悪臭や汚れの原因ともなる。さらには、便器ボール内において被験者により採尿器が視認され、意匠性が低下するという問題があった。
【0007】
また、尿等の被検査溶液を所定の希釈液によって希釈した希釈混合溶液を対象として、被検査溶液中の特定成分濃度を測定する場合、希釈混合溶液の特定成分濃度計測値及び希釈混合溶液における被検査溶液の希釈率に基づいて、演算によって被検査溶液中の特定成分濃度を求める方法もあった。
【0008】
その場合、この被検査溶液の希釈率を希釈混合溶液の被検査溶液と希釈液との混合比としていたため、希釈混合溶液の被検査溶液と希釈液との混合状態が全体として均一でないと被検査溶液の希釈率が不明となるため、得られる被検査溶液中の特定成分濃度も不正確となる。
【0009】
一方、特許文献3に記載の尿成分濃度測定装置では、原尿が溜水に混入した後の混合溶液を計測対象として、得られる混合溶液の尿成分濃度と原尿の希釈率とに基づいて原尿中の尿成分濃度を算出するようにしているので、上述のような原尿と溜水との混合による原尿の希釈率が不明となる問題は生じない。
【0010】
即ち、この尿成分濃度測定装置では、原尿の導電率は常に一定であるという仮定の下で、計測して得られる混合溶液の導電率と、予め設定された混合溶液の導電率と原尿の希釈率との関係を示すデータと、から混合溶液における原尿の希釈率を求め、混合溶液中の尿成分濃度及び原尿の希釈率から最終的に原尿中の尿成分濃度を算出している。
【0011】
しかしながら、実際には被験者の体調や摂取する食物により原尿の導電率は大幅に変化するためこの仮定は成立せず、混合溶液の導電率と原尿の希釈率との関係も一定しない。したがってこの方法によって尿中の特定成分の濃度を正確に測定することは不可能であった。
【0012】
そこで、本発明は、原尿が溜水に混入して希釈された後の希釈混合溶液を計測することによって、原尿中の特定成分の濃度を確実かつ高精度に測定することのできる尿成分濃度測定装置、尿成分濃度測定装置を備えた便器装置、及び、希釈された被検査溶液を計測することによって、被検査溶液中に含まれる特定成分の濃度を確実かつ高精度に測定することのできる溶液成分濃度測定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、尿中に含まれる特定成分の濃度を測定する尿成分濃度測定装置において、溜水を貯留し下水道に連通したボールを備え、被験者の排泄する尿を前記ボールで受けて前記溜水とともに前記下水道に排出する便器と、前記尿が排出される前の前記溜水に混入される基準物質と、前記溜水に前記基準物質を混入することにより当該基準物質の濃度を所定濃度である尿混入前基準物質濃度とした測定用溜水を、前記ボール内に供給する測定用溜水供給手段と、前記尿の混入後における前記測定用溜水である尿混入測定用溜水の前記基準物質の濃度である尿混入後基準物質濃度を計測する尿混入後基準物質濃度計測手段と、前記尿混入測定用溜水中に含まれる前記特定成分の濃度である溜水中成分濃度を計測する溜水中成分濃度計測手段と、前記尿混入前基準物質濃度と、前記尿混入後基準物質濃度と、前記溜水中成分濃度とに基づいて、前記尿中に含まれる前記特定成分の濃度を算出する尿中成分濃度算出手段と、を有し、前記尿混入後基準物質濃度計測手段は、前記溜水中成分濃度計測手段が前記溜水中成分濃度を計測する計測位置における前記尿混入測定用溜水を計測対象として、前記尿混入後基準物質濃度を計測することを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記溜水中成分濃度計測手段は、前記ボールの底部近傍を前記計測位置として計測を行なうことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記ボールの底部に設けた開口部を備え、前記開口部から前記ボールの底部近傍における前記尿混入測定用溜水の一部を計測サンプルとして採取してその計測サンプルを前記ボール外に移送する計測サンプル採取手段を有するとともに、前記ボール外に前記尿混入後基準物質濃度計測手段及び前記溜水中成分濃度計測手段を配設し、前記計測サンプルを計測対象として、前記尿混入後基準物質濃度計測手段による前記尿混入後基準物質濃度、及び前記溜水中成分濃度計測手段による前記溜水中成分濃度の各計測を行なうことを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記開口部が前記ボールの底部に設けた便器洗浄水吐水口であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記尿混入測定用溜水中における前記尿の混合状態が、所定の混合状態に達したか否かを判断する尿混合状態判断手段を有し、前記尿混合状態判断手段が前記所定の混合状態に達したと判断したときに、前記尿混入後基準物質濃度計測手段による前記尿混入後基準物質濃度、及び前記溜水中成分濃度計測手段による前記溜水中成分濃度の各計測を開始することを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記尿混合状態判断手段は、前記測定用溜水への前記尿の混入を検知する尿混入検知手段と、前記尿混入検知手段により前記尿の混入が検知されてからの経過時間を計時する経過時間計測手段と、を有し、前記経過時間計測手段により計時される前記経過時間が所定時間以上経過したときに、前記所定の混合状態に達したと判断することを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記測定用溜水の量を減らすための溜水減量手段を設けたことを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記尿混入前基準物質濃度及び前記尿混入後基準物質濃度は、吸光度、又は蛍光強度から算出される濃度であることを特徴とする。
【0021】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明において、前記測定用溜水供給手段は、所定の給水源から前記ボール内へ前記溜水となる水を供給する給水手段と、前記給水手段により供給される水に前記基準物質を混入する基準物質混入手段と、を有し、前記基準物質混入手段は、前記基準物質の濃度が前記尿混入前基準物質濃度となる量の前記基準物質を前記水に混入することを特徴とする。
【0022】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の発明において、前記特定成分は、糖やタンパク等の尿中に漏出する被験者の生体情報を反映する成分であることを特徴とする。
【0023】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか一項に記載の尿成分濃度測定装置を備えた便器装置である。
【0024】
請求項12に記載の発明は、被検査溶液中に含まれる特定成分の濃度を測定する溶液成分濃度測定方法において、所定の液体に基準物質を混入し当該基準物質の濃度を所定の濃度である混入前基準物質濃度とした測定用溶液を準備し、前記測定用溶液に前記被検査溶液を混入して測定用混合溶液を作り、前記測定用混合溶液中の任意の位置に含まれる前記特定成分の濃度である混合溶液成分濃度を計測すると共に、前記測定用混合溶液の前記基準物質の濃度である混合後基準物質濃度も併せて計測し、前記混合前基準物質濃度と、前記混合後基準物質濃度と、前記混合溶液成分濃度とに基いて前記被検査溶液中に含まれる前記特定成分の濃度を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に記載の発明によれば、希釈混合溶液である尿混入定用溜水中の特定成分の濃度の計測を行なう位置における基準物質の濃度変化を計測し、その計測した基準物質の濃度変化から得られる原尿の希釈率を用いて原尿中に含まれる特定成分の濃度を算出することになるので、測定用溜水と原尿とが混合した尿混入定用溜水の混合状態に依らずに、原尿中に含まれる特定成分の濃度を正確に演算できる。
【0026】
従って、測定用溜水と原尿との混合が不均一となる可能性のあるボール内の尿混入定用溜水を計測対象として、任意の位置で計測を行なっても高精度な原尿中の特定成分濃度の測定結果を確実に得ることが可能となる。
【0027】
このため、測定する場合に開口部が大きく且つ溜水がある状態の便器のボールを採尿容器として利用できるため、女性や子供でも容易に採尿することが可能となり、測定対象とする被験者の範囲を広げても測定の確実性を確保することができる。また、便器を使用することから、測定後の排尿の処理も便器の洗浄機能を利用して行なえるため、清潔な測定環境を容易に維持できる。
【0028】
請求項2に記載の発明によれば、溜水中成分濃度計測手段は、色々な排尿環境においても溜水よりも比重の大きい原尿が滞留し易く、相対的に尿混入割合の高い部分となる可能性の高いボールの底部近傍の尿混入測定用溜水を計測対象とすることになるため、排泄される尿の溜水に対する投入位置や排泄される尿量が異なる任意の被験者に対してより確実かつ高精度な測定結果を得ることが可能となる。
【0029】
請求項3に記載の発明によれば、繊細な環境を必要とする尿混入後基準物質濃度計測手段及び前記溜水中成分濃度計測手段にとって適切な環境となる装置構成を設計することが容易となるため、尿成分濃度測定装置としての信頼度が向上する。
【0030】
請求項4に記載の発明によれば、既存の便器部に設けられた構成を利用することになるため、尿成分濃度測定装置として計測サンプルを採取するときに、誤ってボール内の異物も一緒に吸引することによって開口部が閉塞することがあっても、本来、便器洗浄水吐水口として使用されるものであるため、使用後に行なわれる便器洗浄動作よって、吐水される洗浄水の勢いで異物の除去ができる。これにより、装置の測定環境を正常な状態に維持することが容易となり、装置の信頼性を向上できる。
【0031】
請求項5に記載の発明によれば、尿混入測定用溜水中における尿の混合状態が予め決められた混合状態となったことを尿混合状態判断手段で確認するので、複数の被験者の間で尿の混入状態に個人差がある場合であっても、各々の測定毎に、計測に必要な混合状態となった計測開始時期を確実に設定出来るため、任意の被験者に対してより確実かつ高精度な測定結果を得ることが可能となる。
【0032】
請求項6に記載の発明によれば、計測に必要な量の原尿が尿混入測定用溜水中に混合したことの判断を管理の容易な経過時間で行なうため装置の構成を簡単にすることができる。
【0033】
請求項7に記載の発明によれば、尿の混入前における測定用溜水の量を減らすことで、測定用溜水の量に対する相対的な尿の量を増加させ、ボールの底部近傍の尿混入測定用溜水中における原尿の濃度を計測に必要な濃度範囲内とすることができるため、確実かつ高精度な測定結果を得ることが可能である。
【0034】
請求項8に記載の発明によれば、測定用溜水に含まれる基準物質の、尿混入前後における物性値を計測することによって基準物質の濃度を正確に計測することができるので、確実かつ高精度な測定結果を得ることが可能である。
【0035】
請求項9に記載の発明によれば、基準物質を混入した水溶液を測定用溜水として予め作成して保管するための設備を別途用意する必要がなくなる。
【0036】
請求項10に記載の発明によれば、糖尿病などに代表される生活習慣病と密接に関連した成分を測定対象とすることにより、自覚症状のないまま緩やかに進行していく生活習慣病に関する健康チェックに、尿成分濃度測定装置を有意義に活用することが可能となる。
【0037】
請求項11に記載の発明によれば、尿成分濃度測定装置が便器装置に一体的に組み付けられているので、取付け現場での施工が配水・配管接続が便器装置だけとなり簡単になる。
【0038】
請求項12に記載の発明によれば、尿以外の被検査溶液、例えば、人間の血液や汗などに含まれる特定成分の濃度を確実かつ高精度に測定することを実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明を実施する形態について以下で詳細に説明するが、その前に、特定成分を含んだ被検査溶液を希釈液で希釈した希釈混合溶液を用いて測定を行なう場合に適用可能な、本発明の特定成分濃度の測定原理について以下で説明する。
【0040】
ここで、原理説明の便宜上、前記特定成分を測定物質、前記希釈液を溶液A、前記被検査溶液を溶液Bとする。そして、この溶液Aと溶液Bとが混合されて測定物質が希釈された前記希釈混合溶液を混合溶液(A+B)とする。
【0041】
この混合溶液(A+B)中の任意の位置において、混合によって溶液Aが希釈された割合を溶液Aの希釈率Daとし、逆に、被検査溶液である溶液Bが希釈された割合を溶液Bの希釈率Dbとし、以下の式のように定義する。即ち、
Da=溶液Aの量/混合溶液(A+B)の量、
Db=溶液Bの量/混合溶液(A+B)の量 ・・・(式1)
一方、この希釈率Dbはまた、その位置の溶液B中に含まれる前記測定物質の濃度がQ、混合溶液(A+B)中の測定物質の濃度がQであったとすると、以下の[式2]で表される。
【0042】
Db=Q/Q ・・・(式2)
従って、溶液B中の測定物質の濃度Qは、[式1]及び[式2]から導かれる以下の[式3]で表されることとなる。
【0043】
=Q/Db ・・・(式3)
即ち、濃度測定の目的である溶液B中の測定物質濃度Qは、混合溶液(A+B)における測定物質濃度Qと溶液Bの希釈率Dbとから求められることとなる。
【0044】
そこで、従来においてもこの[式3]の関係を利用して、被検査溶液中の測定物質濃度Qを、被検査溶液を希釈溶液で希釈した希釈混合測定溶液の測定物質濃度Qを計測することによって求める希釈溶液測定法が用いられていた。
【0045】
しかしながら、その場合は、事前に分かる希釈混合測定溶液全体での被検査溶液と希釈溶液との混合割合(以下、この希釈混合測定溶液全体としての両液の混合割合を「混合比」と呼ぶ)をこの希釈率Dbと見做して[式3]を適用していた。
【0046】
そのため、従来の方法では、この混合比が希釈率Dbと見做せること、即ち、希釈混合測定溶液全体が均一な混合状態となっていることが正確な測定の大前提となっていた。従って、希釈混合測定溶液が均一な混合状態となっていない場合は、希釈混合測定溶液中の任意の地点での希釈率はこの混合比とは限らなくなり、この混合比を[式3]の希釈率Dbと見做すことは測定誤差を生じることとなるため、均一な混合状態にする何らかの手段を講じる必要があった。
【0047】
そこで、本発明においては、混合溶液(A+B)における実際に測定物質濃度の計測を行なう位置の希釈率Dbを、混合溶液(A+B)における測定物質濃度Qと併せて計測をして求める構成とすることによって、混合溶液(A+B)の混合状態に依らずに正確に溶液B中の測定物質の濃度Qを測定することができるようにしている。
【0048】
具体的には、混合溶液(A+B)中の測定物質濃度の計測を行なう位置を位置Xとした場合、その位置Xにおける希釈率Dbと希釈率Daとを以下、それぞれ希釈率Dax、希釈率Dbxとすると、両者は同一位置のものであるため、両者の間には以下の[式4]で表される関係が常に成立する。
【0049】
Dbx=1−Dax ・・・(式4)
即ち、混合溶液(A+B)中の任意の位置Xにおける希釈率Dbxは、その位置での溶液Aの希釈率Daxが判れば求められることとなる。そしてその場合は、[式3]はこの[式4]を適用すると、以下の[式5]で表されることとなる。
【0050】
=Q/(1−Dax) ・・・(式5)
即ち、測定の目的とする溶液B中の測定物質の濃度Qは、混合溶液(A+B)における測定物質濃度Qとその位置における溶液Aの希釈率Daxとが判れば求められることとなる。
【0051】
ここで、希釈混合によるこの希釈率Daxは、溶液Aと溶液Bとの混合前後の溶液Aに含まれる測定物質の濃度の比でもあるため、本発明においてはこのことに着目して、この濃度の目印となる物質を予め溶液Aに混入させておき、溶液Aと溶液Bとの混合前後のこの物質の濃度変化からこの希釈率Daxを求めることとしている。以下、この物質を標的物質と呼び、希釈率Daxの算出原理を説明する。
【0052】
ここで、溶液Bとの混合前の溶液Aにおける前記標的物質の濃度を混合前標的物質濃度Ma、溶液Bとの混合後の混合溶液(A+B)中の前記測定物質濃度Qを計測した位置Xにおける標的物質濃度を混合後標的物質濃度Mbxとすると、前記の希釈率Daxは以下の[式6]で表わされる。
【0053】
Dax=Mbx/Ma ・・・(式6)
従って、この[式6]の関係より、目的とする溶液Bの測定物質濃度Qを求める[式5]はさらに以下の[式7]で表されることとなる。
【0054】
=Q/(1−Max/Ma) ・・・(式7)
即ち、混合前の溶液Bの測定物質濃度Qは、混合前の溶液Aの標的物質濃度Ma、混合後の混合溶液(A+B)中の任意の位置Xにおける測定物質濃度Q及び標的物質濃度Maxとが判れば、求められることとなる。
【0055】
即ち、予め混合前の溶液A中に所定の標的物質を均一な所定濃度Maとなるように混入させておき、混合後の混合溶液(A+B)における測定物質濃度Qの計測時に、同じ位置Xで併せてこの標的物質の濃度Maxの計測も行ない、その位置Xにおける希釈率Daxを正確に算出することによって、最終的に溶液B中の測定物質の濃度Qを正確に算出することが可能となる。
【0056】
以上のことより、本発明の尿成分濃度測定装置においては、前述した溶液Aを測定用溜水、溶液Bを被験者の排泄する尿(原尿)、溶液(A+B)を尿混入測定用溜水、標的物質を基準物質、測定物質を尿中の特定成分とした構成とし、測定用溜水の基準物質濃度並びに任意の位置の尿混入測定用溜水の特定成分濃度及び基準物質濃度を計測して、目的とする尿中の特定成分濃度を求めている。
【0057】
また、本発明の溶液成分濃度測定方法においては、前述した溶液Aを測定用溶液、溶液Bを被検査溶液、溶液(A+B)を測定用混合溶液、標的物質を基準物質、測定物質を特定成分、とした構成とし、測定用溶液の基準物質濃度並びに測定用混合溶液の特定成分濃度及び基準物質濃度を求めて、目的とする被検査溶液中の特定成分濃度を得ている。
【0058】
なお、本発明において使用する前記基準物質濃度や前記特定成分濃度は、計測対象の溶液の濃度を直接計測して得られるものだけでなく、濃度との関連性が既知な所定の物性値を濃度の代用特性として計測して濃度を求める場合も含まれる。
【0059】
即ち、一般に、溶液中のある物質の物質濃度Qとその物質の物性Sとが下記する[式8]で示すような既知の相関関係にあれば、計測して得られる物性値Sxから濃度値Qxが求められる。従って、本発明においても物質濃度Qの代用特性としてその物性Sを計測することも採用することが出来る。なおこの点の詳細説明は、後述する実施形態の説明において行なう。
【0060】
Q=f(s) ・・・(式8)
但し、関数f(s)は既知の関数。
【0061】
以上が本発明の測定原理の詳細であるが、次に、本発明の好ましい実施形態の詳細について以下に説明する。
【0062】
本発明に係わる尿成分濃度測定装置は、尿中に含まれる特定成分の濃度を測定する尿成分濃度測定装置において、溜水を貯留し下水道に連通したボールを備え、被験者の排泄する尿を前記ボールで受けて前記溜水とともに前記下水道に排出する便器と、前記尿が排出される前の前記溜水に混入される基準物質と、前記溜水に前記基準物質を混入することにより当該基準物質の濃度を所定濃度である尿混入前基準物質濃度とした測定用溜水を、前記ボール内に供給する測定用溜水供給手段と、前記尿の混入後における前記測定用溜水である尿混入測定用溜水の前記基準物質の濃度である尿混入後基準物質濃度を計測する尿混入後基準物質濃度計測手段と、前記尿混入測定用溜水中に含まれる前記特定成分の濃度である溜水中成分濃度を計測する溜水中成分濃度計測手段と、前記尿混入前基準物質濃度と、前記尿混入後基準物質濃度と、前記溜水中成分濃度とに基づいて、前記尿中に含まれる前記特定成分の濃度を算出する尿中成分濃度算出手段と、を有し、前記尿混入後基準物質濃度計測手段は、前記溜水中成分濃度計測手段が前記溜水中成分濃度を計測する計測位置における前記尿混入測定用溜水を計測対象として、前記尿混入後基準物質濃度を計測することを特徴とする。
【0063】
すなわち、便器のボール内に貯留される溜水を、基準物質を予め混入し、その基準物質の濃度が所定濃度である尿混入前基準物質濃度とした測定用溜水とし、この測定用溜水に尿が混入した尿混入測定用溜水における尿中成分濃度を計測するとともに、その尿中成分濃度の計測位置における原尿の希釈率に対応する基準物質濃度の変化量に基づいて、原尿に含まれる特定成分の濃度を求めるようにしている。
【0064】
従って、本発明において基準物質の濃度である所定濃度とは、尿混入前の測定用溜水の基準物質の濃度が均一な濃度となっていれば良く、特定の濃度である必要はない。即ち、後述するように尿混入前後の測定用溜水における基準物質濃度が、尿混入後基準物質濃度計測手段が計測可能な濃度範囲となる濃度範囲内の任意の濃度であればよい。
【0065】
また、測定時の便器ボール内の測定用溜水の量は、尿混入後の特定成分濃度が溜水中成分濃度計測手段の計測可能範囲内となる範囲で任意に設定可能である。即ち、使用する便器の形式によって被験者の排尿により採尿容器である便器ボールから尿混入測定用溜水があふれて下水配管へ流失する現象が発生して溜水と尿との混合比が経時的に変化する場合でも、尿混入後の特定成分濃度が溜水中成分濃度計測手段の計測可能範囲内であれば原尿中に含まれる特定成分の濃度を正確に測定することが可能である。
【0066】
また、本発明に係わる尿成分濃度測定装置では、前記溜水中成分濃度計測手段は、前記ボールの底部近傍の前記尿混入測定用溜水を計測対象とするが、このボールの底部近傍とは、ボールの垂直断面においてのボール底部に接した位置近傍で溜水よりも比重の大きい原尿が滞留し易い場所であれば良い。
【0067】
また、本発明に係わる尿成分濃度測定装置では、尿混入測定用溜水の一部をボール外に移送する計測サンプル採取手段は、計測サンプルを採取してボール外に移送することが可能な構成であれば良いため、吸入口を設けて吸引する方式やその他の任意の方式を採用可能である。
【0068】
例えば、ボール底部近傍で小型の採取容器に計測に必要な量の計測サンプルを採取した後、採取容器ごとボール外に移動させるような構成とすることも可能である。その場合は、計測サンプルを採取した採取容器を密閉して移送する構成とすれば、移送経路において計測サンプルに異物が混入する問題がなくなる。このため、移送経路で異物の混入が心配される特定成分を本装置の測定対象とする場合であっても、より高精度の濃度測定が可能となる。
【0069】
なお、計測サンプル採取手段は、ボールの底部に設けた便器洗浄水吐水口を、尿混入測定用溜水の採取用の開口部としてもよい。便器洗浄水吐水口としては、便器部に設けられたゼット吐水ノズルのゼット孔を採用することができる。
【0070】
ここで、測定用溜水に対する放尿位置や放尿量には、一般に被験者間の個人差があるため、排泄された尿(原尿)がボール内の測定用溜水に混入したとしても、、混入後の尿混入測定用流水中における尿の混合状態は時間的にも位置的にも一様ではなく、従って、溜水中成分濃度計測手段の計測位置における尿混入測定用溜水中に含まれる特定成分の濃度は、各手段における計測に必要な濃度範囲に達していない可能性がある。
【0071】
そこで、本発明に係わる尿成分濃度測定装置では、尿混入測定用溜水中における尿の混合状態が、所定の混合状態に達したか否かを判断する尿混合状態判断手段を有し、尿混合状態判断手段が所定の混合状態に達したと判断したときに、尿混入後濃度計測手段による尿混入後基準物質濃度、及び溜水中成分濃度計測手段による溜水中成分濃度の各計測を開始するようにしても良い。
【0072】
なお、所定の混合状態としては、尿混入後物性値計測手段による尿混入後基準物質濃度、及び溜水中成分濃度計測手段による溜水中成分濃度の計測が可能な濃度範囲に、尿が尿混入測定用溜水中に混合している状態を言う。
【0073】
また、本発明に係わる尿成分濃度測定装置では、尿混合状態判断手段は、測定用溜水への尿の混入を検知する尿混入検知手段と、尿混入検知手段により尿の混入が検知されてからの経過時間を計時する経過時間計測手段と、を有し、経過時間計測手段により計時される経過時間が所定時間以上経過したときに、尿混入測定用溜水中の原尿の混合状態が所定の混合状態に達したと判断するようにしても良い。
【0074】
なお、この所定時間としては、測定用溜水へ原尿が混入してから、溜水中成分濃度計測手段による計測が可能な程度に尿混入測定用溜水中で原尿が拡散するまでに必要な時間を予め求め、その時間以上の適宜な時間を選択すれば良い。
【0075】
ここで、一般に被験者が男性である場合には、便座に着座した状態で排尿するよりも立位で排尿する方が、測定用溜水に対して高い位置からの尿の入射となり、入射時における尿の流速が大きく、そのため、尿混入測定用溜水中において尿が拡散し易くなる。したがって、ボールの底部近傍に滞留する尿量が減少しボールの底部近傍の尿混入測定用溜水中に含まれる尿濃度が相対的に高くならない場合がある。また、もともと被験者が排泄する尿の量が少ない場合も想定される。かかる場合に、ボールの底部近傍の尿混入測定用溜水を溜水中成分濃度計測手段の計測対象としても、該計測対象中の特定成分濃度が溜水中成分濃度計測に必要な最低限の濃度以上となるだけの量の原尿が含まれない可能性がある。
【0076】
そこで、本発明に係わる尿成分濃度測定装置においては、測定用溜水の量を減らすための溜水減量手段を設けて、溜水減量手段により測定用溜水の量を減らすことにより、測定用溜水の量に対する尿量を相対的に増加させるようにしても良い。
【0077】
溜水減量手段としては、便器部に設けられたゼット吐水ノズルを用いることができる。この場合、被験者の排泄する尿が測定用溜水に混入する前に、ゼット吐水ノズルから洗浄水を噴射するとよい。即ち、ゼット吐水ノズルから噴射された洗浄水は、ボールに貯留する測定用溜水を押し出してボール外に排出する。これにより、満水水位と所定の水位との間における測定用溜水の分だけ、測定用溜水の量が減少する。
【0078】
また、測定用溜水の量を減少させた後における測定用溜水の水位は、ボールの満水水位から下水管との連通を遮断する最低水位である封水水位を下回らないような所定の水位とするとよい。これにより、測定時に下水管からの汚臭の逆流を防止することが出来る。
【0079】
このように、溜水減量手段により測定用溜水の量を減らすことにより、例えば、溜水中成分濃度計測手段の計測位置をボールの底部近傍とした場合は、計測位置における特定成分の濃度が高まるだけでなく、尿が測定用溜水に着水する位置とボール底部との距離が小さくなり測定用溜水中を拡散する尿がボールの底部近傍に到達し易くなる。このため、ボールの底部近傍における特定成分の濃度は、より短時間で溜水中成分濃度計測手段により計測可能な特定成分の濃度となる。その結果、測定に要する時間をより短時間とすることが可能となる。
【0080】
ここで、本発明に係わる尿成分濃度測定装置における測定用溜水の基準物質濃度は、基準物質として採用する物質がその濃度に対応した関係を示す物性値を計測する方法によって求めるようにしても良い。その場合、本発明に係わる尿成分濃度測定装置において適用できる物性値としては、測定用溜水中の基準物質と原尿とを識別することが可能な物性値であれば良い。その場合、溜水に混入される基準物質としては、原尿と接触しても化学反応を生起せず、基準物質の物性値変化を、原尿の混入による影響を受けずに計測できる物質であれば、いかなる物質を採用しても良い。
【0081】
従って、本発明に係わる尿成分濃度測定装置において適用できる物性値としては、例えば、吸光度や蛍光強度が採用出来る。そして、物性値として吸光度を選択する場合は、基準物質として尿の吸光特性とは異なる波長帯に吸光特性を持つ物質を用いることができる。これにより、測定用溜水中に含まれる基準物質の排尿前後の吸光度を、尿の混入に影響されずに計測することができ、その結果、原尿の特定成分の濃度を算出することができる。
【0082】
さらに、この計測する物性値として吸光度を選択する場合においては、尿混入前濃度計測手段及び尿混入後濃度計測手段を、ガラス等の透明材料からなるサンプルセル中に尿混入前後の測定用溜水を充填し、この測定用溜水に所定の光源から平行光を照射することにより、測定用溜水の吸光度を計測する吸光度計等とすることができる。
【0083】
この場合、吸光度を計測する基準物質として、例えば、メチレンブルーを選択することができる。このメチレンブルーは吸光度の波長帯が、原尿の波長帯と異なっているため測定用溜水中において原尿と識別することが可能となり、測定用溜水中に含まれる基準物質の、尿混入前後における吸光度の変化を正確に計測することができる。
【0084】
ここで、本発明に係わる尿成分濃度測定装置において適用できる物性値としては、吸光度や蛍光強度の他に、基準物質と原尿との計測値に顕著な差異がある場合には、例えば、導電率、比重、浸透圧、屈折率等であっても良い。この場合、前述の吸光度計に代えて、それぞれの物性値を計測する装置を用いることができる。
【0085】
また、本発明に係わる尿成分濃度測定装置における測定用溜水供給手段は、所定の水源から前記ボール内に水を供給する給水手段と、前記給水手段により供給される水に前記基準物質を混入する基準物質混入手段と、を有する構成として、前記基準物質混入手段は、前記基準物質の濃度が尿混入前基準物質濃度となる量の前記基準物質を前記水に混入するようにしても良い。
【0086】
このようにすることによって、測定用溜水供給手段が前記ボール内に測定用溜水を供給する前に、基準物質の濃度が均一である測定用溜水を作成することができる。
【0087】
また、本発明に係わる尿成分濃度測定装置における基準物質混入手段は、基準物質を貯留する基準物質貯留タンクと、基準物質貯留タンク内の基準物質を、強制的に圧送するポンプとから構成することができ、前記給水手段を構成する給水管路に対して、このポンプによって基準物質貯留タンク内の基準物質を供給し混入することにより、便器のボール内に供給される溜水が基準物質の濃度が均一である測定用溜水となるようにしても良い。
【0088】
このようにすると、便器のボール内に流れ込むまでの給水管路内における道程で、管路曲がり等の流水に対する攪拌作用により、溜水と基準物質とが均一に混合されるため、溜水と基準物質とを均一に混合するための攪拌手段等を別途設ける必要がなくなり、装置の構成を簡素化することが可能となる。
【0089】
この場合、例えば、この給水管路の終端をリム吐水ノズルとすれば、リム吐水ノズルから吐水された基準物質混じりの水は、ボールの上部から下部に向って螺旋状に流下し、この螺旋状の流れにより水と基準物質とがさらに混合されて、基準物質濃度変化量の計測に必要な均一の混合状態の測定用溜水となる。
【0090】
また、本発明に係わる尿成分濃度測定装置によって測定される特定成分として、糖やタンパク等の尿中に漏出する被験者の生体情報を反映する成分を測定する場合、例えば、特定成分として糖の濃度を計測する場合は、溜水中成分濃度計測手段は、既存の検出原理にてグルコース濃度を計測する濃度計とすることができる。さらに、尿成分濃度測定装置の給電や給水関係の接続部を便器装置と共通化した構成とすれば、通常の便器装置の設置工事で兼ねることとなるため、便器装置を据付けるだけで尿成分濃度測定装置の施工が完了することとなり、取付け現場での取付け施工も簡単となる。
【0091】
また、尿成分濃度測定装置は、排泄行為で通常使用する便器部とは別に設けた筐体内に収納配設し、便器部と配管や配線を介して接続することによって便器部が備えた給水手段等の便器機能を利用する構成とすることもできるが、この構成の他、便器部自体を収納筐体として使用して、尿成分濃度測定装置を一体的に収納した構成の便器装置とすることも可能である。このようにすれば、意匠性を向上することができ、設置するトイレ内をすっきりとすることも可能であり、また、便器装置と一体に取り扱うことができるため、物流上の管理も容易となる。
【0092】
また、本発明に係る尿成分濃度測定装置においては、原尿中に含まれる特定成分の濃度を測定していたが、本発明は、尿以外の溶液、例えば、人間の血液や汗などの成分分析に適用しても良い。
【0093】
かかる場合には本発明は、被検査溶液中に含まれる特定成分の濃度を測定する溶液成分濃度測定方法において、所定の液体に基準物質を混入し当該基準物質の濃度を所定の濃度である混入前基準物質濃度とした測定用溶液を準備し、前記測定用溶液に前記被検査溶液を混入して測定用混合溶液を作り、前記測定用混合溶液中の任意の位置に含まれる前記特定成分の濃度である混合溶液成分濃度を計測すると共に、前記測定用混合溶液の前記基準物質の濃度である混合後基準物質濃度も併せて計測し、前記混合前基準物質濃度と、前記混合後基準物質濃度と、前記混合溶液成分濃度とに基いて前記被検査溶液中に含まれる前記特定成分の濃度を算出することを特徴とするものである。
【0094】
ここで、本発明に係る溶液成分濃度測定方法においては、被検査溶液としてはこれらの人間の血液や汗以外にも唾液など溶液状であれば、混入する基準物質や測定用溶液を適宜選定することによって、被検査溶液に含まれる特定成分の濃度を確実かつ高精度に測定することを実現することができる。
【0095】
さらには、固体状の物質に含まれる成分であっても、この物質を混入させる適宜な溶液を選択することによって溶液化して被検査溶液とすることが可能である場合には、本発明に係る溶液成分濃度測定方法を適用してその物質に含まれる特定成分の濃度を確実かつ高精度に測定することが可能である。尚、この場合であっても、混入前基準物質濃度、混入後基準物質濃度、及び混合溶液成分濃度の代用特性として、対応する溶液中の物質が示す夫々の物性値を計測する構成とすることができる。
【0096】
[1.第1実施形態]
[1.1 全体構成]
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0097】
図1〜図4に本発明を適用した第1実施形態に係る尿成分濃度測定装置を備えた便器装置の概略を示す。
【0098】
図1は、尿成分濃度測定装置を備えた便器装置全体の外観を示した概略図、図2は、便器装置が備える便器部の側断面図、図3は、便器装置の全体構成及びその電気的構成を示す模式的説明図、図4は、図2に示す便器部が備えるゼット吐水ノズルの部分拡大断面図である。なお、図3において、電気的信号の流れは破線で示し、水、尿等の物質の流れは実線で示すものとする。
【0099】
図1に示すように、便器装置1は、任意の形式の従来型の便器部2と、便器部2の後方に配設され後述で詳説する尿成分濃度測定装置5の一部を内部に収納する背面キャビネット3と、トイレ空間の所定の位置に配設された、尿成分濃度測定装置5の操作・表示部4とを有している。
【0100】
[1.2.便器部の構成]
便器部2は、既存のサイホンゼット式洋式便器であり、図1及び図2に示すように、便器本体2aの上面開口部に開閉自在に配設された便座6と、この便座6の上に同じく開閉自在に配設された便蓋7と、を具備している。なお、図2では便座6及び便蓋7の記載を省略している。また、便器本体2aの後部には、機能部ケーシング8が載置されており、この機能部ケーシング8内には、後述する給水弁22や水路切替弁24など便器洗浄水の給排水機能を担う洗浄部20(図3参照)と、図示しない局部洗浄装置とを収納配設している。
【0101】
便器本体2aの内部は、隔壁10aによりボール10とトラップ部14とに区画されており、ボール10の上部周縁にはリム部11が形成され、このリム部11のやや後方側には、図示しない水源に連通するリム吐水ノズル12を配設している。
【0102】
また、トラップ部14は、ボール10の後下部に形成したトラップ流入口14aと、便器部2の下面に開口したトラップ排水口14bとを連絡するように略逆U字状に形成されている。
【0103】
また、ボール10の底部10cには、トラップ流入口14aに向けて洗浄水を噴射するゼット吐水ノズル16が、トラップ流入口14aと対向するように設けられている。このゼット吐水ノズル16の先端部には、ボール10の底部からトラップ流入口14aに向けて洗浄水を噴射し、トラップ部14内にてサイホン現象を誘発する便器洗浄水吐水口としてのゼット孔16aを開口している。
【0104】
機能部ケーシング8の内部には、図3に示すように、洗浄部20が収納されており、この洗浄部20は、所定の水源に直結し該水源の給水圧を利用することにより給水を行う給水弁22と、この給水弁22に配管R1を介して連通連結され給水弁22から供給された洗浄水を、流路を切り替えて供給可能なソレノイド式の水路切替弁24と、水路切替弁24に電気的に接続されこの水路切替弁24の開閉を制御する等、便器部2全体の動作を制御する便器制御部21と、を有している。また、水路切替弁24は、配管R2及び配管R3を介してそれぞれリム吐水ノズル12及びゼット吐水ノズル16に連通連結されている。便器制御部21は、後述する尿成分濃度測定装置5の制御部40と電気的に接続されており、制御部40との間で各種データの送受信を行うようになっている。
【0105】
かかる構成により、便器本体2a内に設けた洗浄スイッチ(図示せず)を押下するなどして汚物洗浄処理を実行すると、便器制御部21は、水路切替弁24を開放する制御信号を出力し、水源と配管R2側とを連通させ、水をリム吐水ノズル12に供給する。水源からの水はこのリム吐水ノズル12からボール10(図2参照)内に洗浄水として吐水され、ボール10内の内壁を旋回しながら洗浄を開始する。
【0106】
所定時間経過すると、便器制御部21は、配管R2から配管R3へ流路を切替える制御信号を水路切替弁24に出力する。これにより、水源からの水は配管R2へは流れずに配管R3へ流れ込み、ゼット吐水ノズル16のゼット孔16aからトラップ流入口14a(図2参照)に向って洗浄水として噴射されトラップ部14内にサイホン現象を生起させ、汚物をトラップ排水口14b(図2参照)へと流出させるゼット洗浄が行われる。
【0107】
ゼット洗浄の開始から所定時間が経過すると、便器制御部21は、水路切替弁24に制御信号を出力して流路を再び配管R3から配管R2へ切替える。これにより、水源からの水は洗浄水として再びリム吐水ノズル12に供給され、ボール10内に溜水18(図2参照)を形成し便器本体2aのボール10を水封する。このとき、便器制御部21、水路切替弁24、及び給水弁22を備える洗浄部20は、ボール10内に貯留される溜水18となる水を供給する給水手段として機能する。なお、本実施形態では、洗浄部20を便器部2の機能部ケーシング8内に設けたが、この洗浄部20を尿成分濃度測定装置5に設けて背面キャビネット3内に収納配設しても良い。
【0108】
[1.3 尿成分濃度測定装置の構成]
次に、本実施形態の特徴的な構成である尿成分濃度測定装置5の構成について具体的に説明する。本実施形態に係る尿成分濃度測定装置5は、被験者が排泄した尿、即ち、原尿を採取して原尿中に含まれる特定成分としての糖の濃度を測定するものであり、上述したように、既存の便器部2と共に便器装置1に組み込まれている。
【0109】
そして、尿成分濃度測定装置5は、前述した測定原理に関する説明における、基準物質をメチレンブルー液、測定物質を尿(原尿)の特定成分の一つである糖(尿糖)、測定用溶液を測定用溜水、被検査溶液を被験者の排泄する尿(原尿)、測定用混合溶液を尿混入測定用溜水、とした構成としている。また、本実施形態では基準物質の濃度の代用特性として物性値の一つである吸光度を計測している。
【0110】
また、尿成分濃度測定装置5は、尿混入測定用溜水の特定成分の濃度である溜水成分濃度の計測を、所定位置として予め決められたボール10の底部近傍位置で採取した尿混入測定用溜水の一部を計測対象として実施する構成としている。従って、まず、ボール10の底部近傍を計測する所定位置とした理由について、以下に説明する。
【0111】
尿成分濃度測定装置5において、尿混入後基準物質濃度計測手段として用いる吸光度計や、溜水中成分濃度計測手段として用いる糖濃度計などの計測機器は、その計測精度を保障できる濃度範囲がある。すなわち、計測する尿混入測定用溜水中に、この濃度範囲となる量のこの基準物質や特定成分が含まれている必要がある。
【0112】
このうち、基準物質の濃度に関しては、尿成分濃度測定装置5の計測環境を予め想定して、その環境下において基準物質の濃度変化幅が、糖濃度計などの計測機器の計測可能な濃度範囲内になるように設定することが可能なため、特段の問題は生じない。
【0113】
ところが、特定成分の濃度に関しては、測定用溜水量に含まれる原尿量の割合が比較的小さい状態で計測する場合には、計測機器の低濃度側における計測限界が問題となることが多い。従って、計測を確実なものにするためには、出来るだけ原尿の相対的割合が高くなることの多い位置の尿混入測定用溜水を計測機器の計測対象とする必要がある。
【0114】
ところが、排泄される尿の溜水に対する入射位置は被験者によって種々異なり、排泄される尿量も被験者や排尿毎に異なる。そのため、尿混入測定用溜水における尿の混合状態は、尿混入測定用溜水全体における計測位置により不均一であるばかりでなく、同じ計測位置であっても測定の都度、変化する。
【0115】
そのため、本発明者達は多数の被験者による尿混入測定用溜水における尿の混合状態の確認試験を行なったが、それによると、被験者によりボールに向けて排泄された原尿は、測定用溜水よりも比重が大きいため、ボールの底部に向けて拡散していき滞留することが判った。そしてこの傾向は、被験者が異なっても共通していることも判った。
【0116】
即ち、ボールの底部近傍は、放尿後比較的短時間で相対的に原尿濃度が高くなり、その結果として特定成分も計測可能な濃度範囲となる可能性の高い箇所であることが判明した。従って、このボールの底部近傍位置を尿の特定成分濃度を計測する所定位置とした。以下に、その他の構成も含めた尿成分濃度測定装置5の具体的な構成について説明する。
【0117】
尿成分濃度測定装置5は、図3に示すように、給水手段である配管R2内を通過する水に(図2参照)、基準物質としての所定量のメチレンブルー液を混入し、ボール10内に形成される溜水をメチレンブルー液の濃度が所定濃度である測定用溜水とする基準物質混入手段である基準物質混入装置32と、原尿の混入後における測定用溜水である尿混入測定用溜水の基準物質濃度の代用特性である吸光度を計測する尿混入後基準物質濃度計測手段である吸光度計36と、尿混入測定用溜水中に含まれる糖の濃度である溜水中成分濃度を計測する溜水中成分濃度計測手段である糖濃度計38と、便器本体2aのボール10内に貯留された測定用溜水及び尿混入測定用溜水(以下、測定用溜水等という。)をボール10から背面キャビネット3側へ吸引し、吸光度計36や糖濃度計38へ搬送するシリンジポンプ34と、を有している。なお、配管R2と基準物質混入装置32とは、測定用溜水供給手段を構成している。
【0118】
これら基準物質混入装置32、吸光度計36、糖濃度計38、及びシリンジポンプ34は、原尿中に含まれる糖の濃度を測定するための測定部30を構成しており、この測定部30は、便器部2の背面に配設された背面キャビネット3内に収納配設されている。
【0119】
また、尿成分濃度測定装置5は、原尿中に含まれる糖の濃度を算出する尿中成分濃度算出手段として機能する等、測定部30の動作を制御するための各種演算処理を実行するCPU42を備えた後述の制御部40と、測定用溜水への尿の混入を検知する尿混入検知手段として機能する後述の電極16c、16cと、電極16c、16cにより尿の混入が検知されてからの経過時間を経時する経過時間計測手段として機能する後述の時計部41と、を有している。
【0120】
基準物質混入手段の一例である基準物質混入装置32の構成について説明する。図5は、基準物質混入装置32の構成を示す模式的説明図である。図3及び図5に示すように、基準物質混入装置32は、配管R4を介して配管R2の中途位置、すなわち、水路切替弁24から供給された水がリム吐水ノズル12へ至るまでの位置に連通連結されている。この基準物質混入装置32は、内部に貯留した基準物質としてのメチレンブルー液に配管R4の始端を浸漬した略矩形箱形状の基準物質貯留タンク32aと、基準物質貯留タンク32a内のメチレンブルー液を配管R4の終端である配管R2の中途位置へ向って供給するためのポンプ32bと、配管R4におけるポンプ32bの出口側の所定位置に配設された逆止弁32cとを有している。逆止弁32cは、制御部40に電気的に接続されており、制御部40の制御信号に従って開閉動作する。
【0121】
かかる構成により、基準物質混入装置32は、ポンプ32bの作動により、基準物質貯留タンク32aに貯留した基準物質としてのメチレンブルー液を、配管R4を介して配管R2、すなわち、水路切替弁24からボール10へ至るまでの管路に、溜水が所定濃度(尿混入前基準物質濃度)の測定用溜水となるように供給し、当該メチレンブルー液をこの配管R2を通過する水に混入する。メチレンブルー液が混入された水は、リム吐水ノズル12からボール10内に吐水され(図2参照)、ボール10の内壁を上部から下部へ向って流下し、溜水として貯留される。
【0122】
このとき、混入されたメチレンブルー液はボール10内へ移送される途中で水流自身の攪拌作用によって水と均一に混合されるため、この貯留される溜水は、基準物質としてのメチレンブルー液が均一な所定の尿混入前基準物質濃度に混入された測定用溜水となっている。本実施形態の場合はボール10内への吐水口として一穴式のリム吐水ノズル12を使用しているため、ボール10内を流下するときに螺旋状の流れが発生することにより、この水流自身の攪拌作用はさらに強くなる。
【0123】
このように、ボール10内に供給される水に基準物質としてのメチレンブルー液を混入することにより、洗浄水と基準物質とが均一に混合された測定用溜水がボール10内に貯留されるので、本実施形態のように尿成分濃度測定装置5内で測定用溜水を作成する場合でも、測定用溜水を攪拌する手段を基準物質濃度が均一な混合状態とするために別途設ける必要がなくなり装置全体の構成を簡略化することができる。また、配管R4に逆止弁32cが設けられていることにより、配管R2を流れる洗浄水やメチレンブルー液が基準物質貯留タンク32a内へ逆流することを確実に防止している。
【0124】
ここで、測定用溜水の基準物質の濃度は、尿の混入後における測定用溜水における基準物質の濃度変化を計測できる濃度であればいかなる濃度でも構わない。例えば、濃度変化の計測の際に濃度の代用として吸光度を計測するために一般に用いられる複光束式吸光度計においては、最も精度良く吸光度の計測が可能な濃度範囲が、吸光度で0.4〜1.4程度といわれており、この範囲に収まるように、測定用溜水に対する基準物質の濃度を規定するとよい。基準物質がメチレンブルーの場合は、約5〜17μmol/l程度となる。また、基準物質として、洗浄効果を持たせた物質を選択することで、便器の洗浄機能を持たせることもできる。
【0125】
また、本実施形態では後述するように、測定に際しては、被験者の排尿前に測定用溜水の基準物質の濃度を実際に計測した計測値を本発明における尿混入前基準物質濃度とする構成のため、基準物質混入装置32の基準物質混入精度は尿混入前後の吸光度が吸光度計36で計測できる濃度範囲内となる濃度範囲内であれば良い。従って、このような形態では基準物質の混入量を決めるポンプ32bや溜水量を決める給水弁22など尿混入前基準物質濃度を制御する部材は比較的精度の高くないものでも使用可能となる。
【0126】
シリンジポンプ34の構成について説明する。図6は、シリンジポンプ34の構成を示す模式的説明図である。図3及び図6に示すように、シリンジポンプ34は、ゼット吐水ノズル16のゼット孔16a、吸光度計36、及び糖濃度計38に連通連結されている。このシリンジポンプ34は、略円筒状のシリンダ34aと、シリンダ34aの内周に挿入される略円柱状のピストン34bとを有している。このピストン34bは、シリンジ駆動モータ34cの回転運動を、リードスクリュウ機構34dによって直線運動に変換することによりシリンダ34aの内周面に沿って上下動するようになっている。
【0127】
シリンジ駆動モータ34cは、制御部40に電気的に接続されており、制御部40は、このシリンジ駆動モータ34cを駆動することによりピストン34bの上下動を制御する。
【0128】
シリンダ34aにおけるシリンジ駆動モータ34cと反対側の端部には、シリンダ34aよりも小径の略円筒状を形成したポート34eが突設されており、このポート34eは、電動ロータリバルブ35に連通されている。電動ロータリバルブ35は、複数のポート35a,35b,35cを備えており、複数のポート35a,35b,35cは、所定の配管を介して、それぞれ吸光度計36、ゼット吐水ノズル16のゼット孔16a、及び糖濃度計38に連通連結されている。
【0129】
この電動ロータリバルブ35の内部には、制御部40により制御される図示しないロータリバルブ駆動モータが設けられており、制御部40は、このロータリバルブ駆動モータを駆動することにより、複数のポート35a,35b,35cのうちいずれか一つを開放させた状態で、ピストン34bの上下動を実行することにより、シリンジポンプ34の吸引又は排出動作を実行する。
【0130】
ところで、本実施形態においては、ゼット吐水ノズル16のゼット孔16aとシリンジポンプ34とが連通されている(図2及び図4参照)。したがって、ピストン34bがシリンダ34a内を下方に動作すると、ゼット孔16aからボール10内の測定用溜水等が所定の量だけ採取され、この採取された測定用溜水等がポート35b及びポート34eを介してシリンダ34a内へ吸引、搬送される。
【0131】
一方、ピストン34bがシリンダ34a内を上方に動作すると、シリンダ34a内へ吸引された測定用溜水等は、ポート34e、及び、ポート35a又はポート35cを介して吸光度計36や糖濃度計38へ排出、搬送されることとなる。
【0132】
本実施形態では従って、上記したゼット吐水ノズル16のゼット孔16aは、自身の周りのボール10の底部10c近傍位置の尿混入測定用溜水の一部を吸光度計36及び糖濃度計38の計測対象とする計測サンプルとして採取するようになっている。
【0133】
即ち、本実施形態では、便器洗浄水吐水口であるゼット孔16aを、尿混入測定用溜水の採取用の吸入口としている。ゼット孔16aから採取された尿混入測定用溜水の計測サンプルは、シリンジポンプ34を介して吸光度計36や糖濃度計38へ搬送される。
【0134】
即ち、ゼット吐水ノズル16とシリンジポンプ34は、本発明における計測サンプル採取手段として機能し、また、便器洗浄水吐水口であるゼット孔16aは、尿混入測定用溜水の一部を計測対象とする計測サンプルとして採取する時の吸入口として機能するため、本発明におけるボール底部に設けた開口部に相当する。
【0135】
したがって、糖濃度計38における計測に適した濃度の計測対象物質を含むことが多いボール10の底部10c近傍の尿混入測定用溜水をゼット孔16aを介して確実に採取することができる。もちろん、ゼット吐水ノズル16のゼット孔16aに代えて、ボール10の底部10cに別途開口部(図示せず)を設け、この開口部を、尿混入測定用溜水の採取用の吸入口としてもよい。
【0136】
このように、計測サンプル採取手段の計測サンプルを採取するための開口部として既存のゼット孔16aを利用するため、別途にサンプル採取用の開口部を設ける必要もなく装置構成を簡略化することができる。
【0137】
また、ゼット吐水ノズル16の内周面であってゼット孔16a(図4参照)の近傍には、一対の電極16c,16cが先端を互いに対向させた状態で突設されており、この一対の電極16c,16cは、制御部40に電気的に接続され、制御部40から両電極16c,16c間に微弱な電流を流すように設定されている。ボール10内の測定用溜水に原尿が混入し、底部に設置されたこの両電極16c,16c間に到達することによって、到達した原尿を導体として一対の電極16c,16c間の抵抗値が変化すると、制御部40は、この抵抗値の変化による両電極16c,16c間の電位の変化を検知して、ゼット吐水ノズル16近傍、即ち本発明におけるボール10の底部近傍の測定用溜水に原尿が混入し尿混入測定用溜水となったことを検知する。したがって、電極16c,16cは、本発明における尿混入検知手段として機能する。この制御部40による原尿の検知に基いて、シリンジポンプ34の吸引又は排出動作のタイミングが制御されることになる。このように、尿混入検知手段を既存のゼット吐水ノズル16に設けることにより、別途尿検知センサ等を設ける必要もなく装置構成を簡略化することができる。
【0138】
次に、本発明における尿混入後基準物質濃度計測手段の一例として本実施形態で使用される吸光度計36の構成について説明する。図7は、吸光度計36の構成を示す模式的説明図である。吸光度計36は、シリンジポンプ34から排出、搬送された測定用溜水等の吸光度を計測する。ここで、吸光度とは、特定の波長の光に対する物質の吸収強度を示す尺度である。図3及び図7に示すように、吸光度計36は、シリンジポンプ34に接続されシリンジポンプ34から排出・搬送される測定用溜水等を収容するサンプルセル36aと、原尿やメチレンブルーの有する吸光波長を持つ略平行状の光をサンプルセル36a内の測定用溜水等に対して照射光F1として照射する光源36bと、サンプルセル36aを挟んで光源36bと対向する位置に配設されサンプルセル36a内の測定用溜水等を透過した透過光F2を受光する光センサ36cとを有している。
【0139】
光源36bとしては、基準物質の吸光度変化を計測できる波長帯の光を発する光源であればよく、例えば、Arレーザ等のガスレーザや、半導体レーザ等、ハロゲンランプ、LED等がある。サンプルセル36aは、ガラス等の透光性材料から形成されている。光源36bは、制御部40に電気的に接続されており、制御部40は、光源36bの点灯及び消灯を制御する。光センサ36cもまた制御部40に電気的に接続されており、制御部40は、光センサ36cの受光信号を受信し照射光F1の強度と照射光F1よりも減衰された透過光F2の強度とに基いて測定用溜水等の吸光度を算出するのである。
【0140】
さらに、この制御部40においては、吸光度計36により計測された測定用溜水等の吸光度に基いて原尿の希釈率が算出される。吸光度計36による測定用溜水等の吸光度の計測について、図8を参照して具体的に説明する。図8は、吸光度計36により計測された測定用溜水等の吸光度と波長との関係の一例を示す吸光度スペクトル線図である。図8において、破線で示す1つの吸光度スペクトルは、測定用溜水の吸光度スペクトルであり、実線で示す2つの吸光度スペクトルは、尿混入測定用溜水の吸光度スペクトルである。図8に示すように、実線で示す尿混入測定用溜水の吸光度スペクトルにおいては、原尿の吸光度がピーク値を示す波長帯X1と、基準物質であるメチレンブルーの吸光度がピーク値を示す波長帯X2とは異なる波長帯に存在しており、原尿とメチレンブルーとが明確に区別される。
【0141】
このように、尿混入測定用溜水中で原尿とメチレンブルーとが波長帯により明確に区別されるので、測定用溜水に原尿が混入した場合であっても、吸光度計36により測定用溜水の吸光度と尿混入測定用溜水の吸光度とを計測し両吸光度を対比することで、尿混入前後における基準物質の吸光度の変化が原尿の吸光度とは独立して計測されるのである。すなわち、図8に示すように、測定用溜水中に含まれるメチレンブルーの吸光度S0は、原尿が混入されることにより、尿混入測定用溜水中に含まれるメチレンブルーの吸光度S1まで低下している。この吸光度の変化が吸光度計36により計測される。
【0142】
このように本実施形態では、本発明における尿混入後濃度計測手段として、濃度の代用特性の一例である吸光度を計測する吸光度計を採用しているが、ここでこの吸光度の計測によって原尿に含まれている特定物質濃度を求める原理について説明する。
【0143】
本実施形態で採用している吸光度計測は従来用いられている濃度計測方法の一つであり、その原理は以下のとおりである。
【0144】
即ち、特定物質を混入した溶液の特定物質濃度Qは、溶液の吸光度S、特定物質の吸光係数α、光路長L、とすると以下の[式9]で表される。
【0145】
Q=αS/L ・・・(式9)
ここで、吸光係数αは特定物質によって決まり、光路長Lも計測装置の光路構成で決まるため、溶液の吸光度Sと特定物質濃度Qとは正比例の関係となる。即ち、溶液の物質濃度Qと溶液の吸光度Sとの間には前述した[式8]の関係が成立することになる。従って、前述したとおり、吸光度Sは本発明における溶液の特定物質濃度Qの代用特性として使用できることが判る。
【0146】
そこで、本実施形態では、前述した測定原理説明における測定用溶液を測定用溜水、基準物質をメチレンブルー液、特定物質を糖(尿糖)として、原尿混入前後の測定用溜水中のメチレンブルー液の吸光度を濃度の代用特性として計測し、この原尿混入前後の吸光度から尿(原尿)の糖濃度を算出している。
【0147】
すなわち、このときの尿混入によるメチレンブルーの吸光度変化から算出される測定用溜水の希釈率Dsは、尿混入前の測定用溜水中に含まれるメチレンブルー液の吸光度をS0とし、尿混入後の測定用溜水である尿混入測定用溜水中に含まれるメチレンブルー液の吸光度をS1とすれば、[式6]に[式9]を適用して以下の[式10]で表される。
【0148】
Ds=S1/S0 ・・・(式10)
この測定用溜水の希釈率Dsから、原尿の希釈率Dnは、これらの値が同じ位置同士の場合であれば前述した[式4]が適用できるため、以下の[式11]で表される。
【0149】
Dn=1−S1/S0 ・・・(式11)
従って、この原尿の希釈率Dnを前述の[式3]における被検査溶液の希釈率Dbに当てはめることによって、求める原尿中の特定成分の濃度は、以下の[式12]における測定物質濃度Qとして求めることができることとなる。
【0150】
=Q/(1−S1/S0) ・・・(式12)
即ち、測定用溜水中に含まれるメチレンブルー液の吸光度S0と、尿混入測定用溜水中の任意の位置における特定成分の濃度Qと、メチレンブルーの吸光度S1とから、[式12]を用いて測定の目的とする原尿の特定成分の濃度である尿中成分濃度Qが算出されるのである。なお、[式12]は、後述する制御部40のROM44(図3)に予め記憶されている。
【0151】
なお、本実施形態では、原尿の糖濃度を算出をするために、吸光度計36を用いて吸光度を計測したが、吸光度と同じように前述の[式8]が成立する蛍光強度を用いることとして、吸光度計36の代わりに蛍光強度計(図示せず)を用いて測定用溜水等の蛍光強度を計測する構成としても良い。従って、蛍光強度を濃度の代用特性として用いる場合についてここで説明する。なお、蛍光強度計の構成については、既存の構成を採用しているのでここでは説明を省略する。
【0152】
図9は、蛍光強度計により計測された尿混入測定用溜水の蛍光強度と波長との関係の一例を示す蛍光強度スペクトル線図である。図9に示す2つの等高線は、縦軸の励起波長を有する照射光を照射して横軸の蛍光波長を有する透過光を計測した場合の、尿混入測定用溜水中に含まれる原尿の蛍光強度と基準物質の蛍光強度とをそれぞれ示しており、この等高線の高さの高低が蛍光強度の差を示している。ここでの基準物質としては、原尿とは異なった波長帯に励起波長及び蛍光波長を持ち、基準物質の蛍光強度と原尿の蛍光強度とをそれぞれ識別して計測可能な物質であればいかなる物質でも良く、例えば、励起波長650nm、蛍光波長670nmである蛍光試薬のCy5を用いることができる。
【0153】
図9に示すように、尿混入測定用溜水の蛍光強度を計測する場合、Cy5の等高線の高低の変化、すなわち、基準物質であるCy5の蛍光強度の変化は、原尿の蛍光強度とは独立して計測出来る。そして、蛍光強度はCy5の濃度と一定の関係があり、前述の[式8]が成立する。したがって、測定用溜水中に含まれるCy5の蛍光強度と、尿混入測定用溜水中に含まれるCy5の蛍光強度とを蛍光強度計により計測することで、前述した[式11]を用いて原尿の希釈率が算出出来るため、[式12]を用いて測定物質濃度Qを求めることが出来る。
【0154】
なお、[式11]におけるS0及びS1に代入する数値、即ち、測定用溜水等の基準物質濃度の代用特性として使用可能な物性値は、以上で説明した吸光度や蛍光強度に限られず、測定用溜水中の基準物質と原尿とを識別することが可能で、且つ、濃度との関係が前述した[式8]を満足するような物性値であれば良い。その物性値としては、基準物質と原尿との計測値に顕著な差異がある場合には、例えば、導電率、比重、浸透圧、屈折率等が適用可能であり、それらの値を計測することによって[式12]から特定成分濃度が算出できる。
【0155】
本実施形態では、溜水中成分濃度計測手段の一例である糖濃度計38は、シリンジポンプ34に接続されシリンジポンプ34から排出・搬送される尿混入測定用溜水の糖濃度、すなわち、グルコース濃度を計測する。糖濃度計38は、プローブとして原尿中の多くの成分の中からグルコースを特異的に酸化する酵素であるグルコースオキシターゼ(GOD)を用い、トランデューサとして過酸化水素水を用いて、既存の検出原理にてグルコース濃度を計測する。糖濃度計38におけるグルコース濃度の検出原理については既知のものを用いているのでここでは説明を省略する。糖濃度計38は、制御部40に電気的に接続されており、制御部40は、糖濃度計38により送信された出力信号を尿混入測定用溜水の糖濃度として受信する。
【0156】
制御部40は、図3に示すように、尿成分濃度測定装置5全体の制御を行うものであり、各種の演算や制御を行う中央処理ユニットとしてのCPU42と、各種制御プログラム等を記憶するROM44と、CPU42の作業用メモリ等として使用されるRAM46とを有している。
【0157】
CPU42には、ROM44、RAM46等が接続されており、このROM44に記憶された各種のプログラムに従って、各種の処理を実行する機能を有する。ROM44には、CPU42により尿成分濃度測定装置5の動作を制御するためのプログラム等が記憶されている。RAM46は、CPU42の一時記憶領域として各種のデータを記憶する機能を有する。
【0158】
また、制御部40は、測定制御回路50と、通信手段52とを有している。
【0159】
測定制御回路50は、測定部30に接続されており、CPU42から送信される制御信号に従って、基準物質混入装置32による基準物質の洗浄水への混入、シリンジポンプ34による測定用溜水等の吸引・移送、吸光度計36及び糖濃度計38による計測等、測定部30の各種の動作を制御する。
【0160】
通信手段52は、操作・表示部4とCPU42との間で操作情報や測定結果等の各種情報を送受信する。
【0161】
また、制御部40は、便器部2の便器制御部21と電気的に接続されており、便器部2の汚物洗浄等の通常便器としての各種動作や尿成分測定装置としての各種のデータの送受信が可能となっている。例えば、便器部2の汚物洗浄処理が実行されると、制御部40は、その旨の信号を便器制御部21から受信する。
【0162】
このように構成された制御部40において、CPU42は、ROM44に記憶された尿中成分濃度算出プログラム等の各種プログラムを読み出して実行することにより、糖濃度計38により計測された溜水中成分濃度とに基いて原尿中に含まれる糖の濃度を算出する尿中成分濃度算出手段等として機能する。
【0163】
ここで、尿中成分濃度算出手段による原尿中に含まれる糖(尿糖)の濃度の算出について説明する。
【0164】
尿糖濃度を前述した[式12]における測定物質濃度として[式12]を適用して、尿混入測定用溜水中の任意の位置において糖濃度計38により計測された溜水中成分濃度である尿糖濃度U1を測定物質濃度Qとすると、原尿中に含まれる尿糖の濃度U0は、以下の[式13]で表される。
【0165】
U0=U1/(1−S1/S0) ・・・(式13)
即ち、測定用溜水の尿混入前後の吸光度S0及びS1と、糖濃度計38により計測された尿糖濃度U1とを[式13]に代入することにより、尿中成分濃度算出手段は、原尿中に含まれる糖の濃度U0を算出するのである。なお、[式13]は、ROM44に予め記憶されている。
【0166】
ところで、本実施形態においては、例えば、尿混入測定用溜水を攪拌するといった特別な構成を備えていない。従って、ボールに貯留する尿混入測定用溜水中の位置によっては、溜水中成分濃度である糖濃度が、溜水中成分濃度計測手段として用いる糖濃度計の計測可能範囲の下限値に対して下回ることも考えられる。
【0167】
即ち、本実施形態においては、この糖濃度は所定位置での測定用溜水と原尿との自然な混合状態で決まるため、前述したとおり被験者の排尿状態(排尿位置や排尿量等)によっても変化するが、一回の測定においても、被験者が排尿した後も時間の経過とともに変化する。従って、計測のタイミングによってはこの計測可能な範囲の下限を下回る場合があることが想定された。
【0168】
そのため、本発明者たちは本実施形態における尿混入測定用溜水中の糖濃度を調べるために各種の確認試験を行なった。以下に述べるのはその確認試験の代表的な例である。
【0169】
図10は、尿を模擬するため比重等の特性が尿と同じとなるように調製した所定濃度のNaCl溶液をボール10内に貯留される溜水に所定位置から投入(混入)した場合における、ボール内の溜水中のNaCl濃度の時間的変化を計測した結果を、溜水中の位置別に示している。尚、ここでは本発明における溜水中成分濃度を計測する所定位置であるボール底部近傍位置としてのボール10の底部10cと上部10bとを代表的な計測位置とし、その位置でのNaCl濃度の時間的推移を模式的に表示している。
【0170】
すなわち、図10に示すように、NaCl溶液を溜水に投入(t)後、ボール10の底部10c及び上部10bのどちらの計測箇所においても、NaCl溶液の到達に伴って溜水中のNaCl濃度は急激に上昇しピーク値(Db、Dc)を迎えた後、NaCl濃度は、それぞれ一定値で安定した状態になる。この場合、底部10cのNaCl濃度上昇開始時刻(t)は上部10bのNaCl濃度上昇開始時刻より遅れているが、これは、溜水中のNaCl溶液がボール10の上部10bから底部10cへ移動するのに要する時間差があるためと考えられる。
【0171】
このとき、実線で示すボール10の底部10cの近傍におけるNaCl濃度変化のピーク値(Dc)は、破線で示すボール10の上部10bにおけるNaCl濃度変化のピーク値(Db)よりも大きい。また、ピーク後の安定濃度も底部10cの近傍の方が大きい。
【0172】
つまり、ボール10内に貯留される尿混入測定用溜水中では、ボール10の底部10c近傍ほど、相対的に含まれる尿量が多いことを意味する。これは、尿の比重が溜水の比重よりも大きく、尿混入測定用溜水中で尿が流下してボール10の底部10c近傍に多く滞留するからである。
【0173】
そこで、特に、本実施形態では、尿混入後物性値計測手段としての吸光度計36、及び溜水中成分濃度計測手段としての濃度計38は、ボール10の底部10c近傍の尿混入測定用溜水をそれぞれ計測対象としている。
【0174】
これにより、排泄される尿の溜水に対する投入位置や排泄される尿量により尿混入測定用溜水における原尿の混合が不均一となる場合であっても、溜水よりも比重の大きい原尿が滞留し易く、吸光度計36及び濃度計38における計測に必要な量の原尿を含むことが多いボール10の底部10c近傍の尿混入測定用溜水を計測対象とすることができる。
【0175】
さらに、図10において、本実施形態で糖濃度計38による計測位置としているボール10の底部近傍位置においても、模式的にNaCl濃度(Dl)で示されている糖濃度計38の計測範囲の下限濃度に満たない濃度となる時刻が存在すること、即ち、計測タイミングによっては、尿成分濃度計測手段である糖濃度計38の一般的な計測精度保障範囲の低濃度側の限界以下の糖濃度となる場合が生じる可能性があることが判った。
【0176】
言い換えれば、本実施形態のように固定された所定位置において糖濃度計38による適切な糖濃度計測を行なうためには、所定位置の選択だけでは不十分であり、適切な計測タイミング(時期)を設定することが必要なことが判った。そこで、さらに各種の追加試験を行ったところ、測定毎にこの所定位置の糖濃度変化は被験者の放尿位置や排尿量のバラツキにより無視できない程度に変動することが判った。
【0177】
そこで、本実施形態では、前述したとおり糖濃度計38による計測位置については所定位置としてボール10の底部10c近傍位置を設定しているが、実際に計測を行なう時期については、このボール10の底部10c近傍位置の測定用溜水に原尿が到達して混入したことを検知する尿混入検知手段と、その検知時からの経過時間を計時する経過時間計測手段とを備えて、この経過時間によって計測に適切な時期を決める構成としている。この計測時期の設定についての考え方を、図10を使用しながら以下で説明する。
【0178】
図10において、NaCl溶液を溜水に投入した時刻をtとし、ボール10の底部10c近傍位置の溜水中のNaCl濃度が時刻tから上昇を始めて時刻tに計測下限濃度Dlを越えたとすると、時刻t以降が濃度計測を実施すべき時期となり、この計測下限濃度Dlを越えるまでに要する時間をここでは計測待機下限時間ΔT(=t−t)とする。即ち、ボール10の底部10c近傍位置においては、時刻tからΔT経過すれば、糖濃度計38により濃度計測可能なNaCl濃度状態となっていることになる。
【0179】
従って、NaCl溶液により模擬した尿も測定用溜水中で同様な挙動を示すことから、測定用溜水中の特定成分濃度として糖(尿糖)を計測する本実施形態でも、予め尿を用いて種々の排尿状況を想定した実験を行なって尿糖の場合のこのΔTに相当する時間を求め、さらにその時間にバラツキを考慮した適宜な余裕時間を加えた時間を所定の計測待機時間Tdとして設定している。
【0180】
即ち、本実施形態では、詳細は後述するが、尿混入検知手段が尿の混入を検知してからの経過時間を経過時間計測手段で計測し、この経過時間が予め定めた所定時間としての計測待機時間Tdとなったときに、本発明における所定の混合状態となったと判断して尿成分濃度計測を開始する構成としている。そのため、任意の被験者に対してより確実かつ高精度な測定結果を得ることが可能となる。
【0181】
[1.4 尿成分濃度測定装置の動作]
以上のように構成された第1実施形態に係る尿成分濃度測定装置5について、その動作の一例を、図11を参照して詳細に説明する。図11は、尿成分濃度測定装置5の動作を示すフローチャートである。
【0182】
図11に示すように、まず、ステップS1において、尿成分濃度測定装置5の電源がONになると、尿成分濃度測定装置5のCPU42は、ROM44、RAM46等のアクセス許可、作業領域確保を初期化する等の初期設定動作を実行し、ROM44に記憶された各プログラムを実行状態とし、各種の機能を動作させる。なお、このステップS1においては、前回動作時のステップS13における後述の基準物質混入処理によるメチレンブルー液が、便器部2のボール10内に貯留された溜水に混入されており、測定用溜水がボール10内に貯留されているものとする。この処理が終了すると、CPU42は処理をステップS2に移行する。
【0183】
ステップS2において、CPU42は、被験者により操作・表示部4の測定スイッチ(図示せず)が押下されたか否かを判定し、測定スイッチが押下されたと判定すると(ステップS2:Yes)、処理をステップS3に移行し、測定スイッチが押下されていないと判定すると(ステップS2:No)、処理をステップS12に移行する。
【0184】
ステップS3において、CPU42は、測定用溜水吸引処理を実行する。この処理において、CPU42は、シリンジポンプ34を作動させ、ゼット吐水ノズル16のゼット孔16aからボール10内の測定用溜水を所定の量だけ吸引し、この測定用溜水を吸光度計36に向けて排出、搬送する。この処理が終了すると、CPU42は、処理をステップS4に移行する。
【0185】
ステップS4において、CPU42は、吸光度計測処理を実行する。この処理において、CPU42は、吸光度計36を作動させ、ステップS3においてボール10内から吸光度計36に搬送された測定用溜水の吸光度を計測する。これにより、測定用溜水中に含まれるメチレンブルーの吸光度(例えば、図8に示すS0)が計測され、このメチレンブルーの吸光度は、本発明における尿混入前基準物質濃度としてRAM46の所定領域に記憶される。この処理が終了すると、CPU42は、処理をステップS5に移行する。
【0186】
ステップS5において、CPU42は、ボール10内の本発明における所定位置である底部10c近傍位置で尿が検知されたか否かを判定する。具体的には、被験者によって排泄されて測定用溜水へ投入された原尿が、尿混入測定用溜水中を拡散しボール10の底部10cに設けられたゼット吐水ノズル16へ到達すると、原尿は測定用溜水よりも導電率が大きいため、吐水ノズル16の先端部に設けられた一対の電極16c,16c間の抵抗値が変化(低下)する。この抵抗値の変化をCPU42が検知して尿が吐水ノズル16の先端部に到達したと判断して尿が検知されたとする。
【0187】
ステップS5において、ボール10内でゼット孔16aの位置に原尿が到達して尿が検知されたと判定すると(ステップS5:Yes)、CPU42は、時計部41の計時をスタートさせるとともに、処理をステップS6に移行する。一方、ステップS5において、尿が検知されていないと判定すると(ステップS5:No)、CPU42は、尿が検知されるまでこの処理を繰り返す。
【0188】
ステップS6において、CPU42は、時計部41の計時する時間が前述の所定時間Tdとなったか否かを判定し、この所定時間Tdが経過したと判定すると(ステップS6:Yes)、処理をステップS6に移行する。一方、ステップS6において、所定時間Tdが経過していないと判定すると(ステップS6:No)、所定時間Tdが経過するまでこの処理を繰り返す。
【0189】
このように、ステップS6において、経過時間を監視していて計測待機時間Tdが経過した時に、CPU42は、尿混入測定用溜水中のボール10の底部10c近傍における尿の混合状態が、本発明における所定の混合状態に達したと判断する。このとき、CPU42は、尿混合状態判断手段として機能する。
【0190】
ステップS7において、CPU42は、尿混入測定用溜水吸引処理を実行する。この処理において、CPU42は、シリンジポンプ34を作動させ、ゼット吐水ノズル16のゼット孔16aからボール10内の尿混入測定用溜水を所定の量だけ吸引し、この尿混入測定溜水を吸光度計36及び糖濃度計38に向けてそれぞれ排出、搬送する。この処理によって、ボール10内の底部近傍の尿混入測定用溜水の一部が計測サンプルとして採取され、ボール10外へ移送される。この処理が終了すると、CPU42は、処理をステップS8に移行する。
【0191】
ステップS8において、CPU42は、吸光度計測処理を実行する。この処理において、CPU42は、吸光度計36を作動させ、ステップS7においてボール10内から搬送された尿混入測定用溜水の計測サンプルの吸光度を計測する。これにより、尿混入測定用溜水中に含まれるメチレンブルーの吸光度(例えば、図8に示すS1)が計測され、このメチレンブルーの吸光度は、本発明における尿混入後基準物質濃度としてRAM46の所定領域に記憶される。この処理が終了すると、CPU42は、処理をステップS9に移行する。
【0192】
ステップS9において、CPU42は、濃度計測処理を実行する。この処理において、CPU42は、糖濃度計38を作動させ、ステップS6においてボール10内から搬送された尿混入測定用溜水中の計測サンプルに含まれる糖の濃度を計測しRAM46の所定領域に記憶する。この処理が終了すると、CPU42は、処理をステップS10に移行する。
【0193】
ステップS10において、CPU42は、尿中成分濃度算出処理を実行する。この処理において、CPU42は、ステップS4及びステップS7において各々RAM46に記憶された尿混入前基準物質濃度及び尿混入後基準物質濃度と、ステップS9においてRAM46に記憶された尿混入測定用溜水中に含まれる糖の濃度とに基いて、原尿中に含まれる糖の濃度を前述の[式13]を用いて算出する。この処理が終了すると、CPU42は、処理をステップS11に移行する。
【0194】
ステップS11において、CPU42は、結果表示処理を実行する。この処理において、CPU42は、ステップS10において算出された糖の濃度を操作・表示部4に所定の形式で表示する。この処理が終了すると、CPU42は、処理をステップS12に移行する。
【0195】
ステップS12において、CPU42は、便器部2の便器制御部21から汚物洗浄処理の実行中である旨の洗浄処理信号を受信したか否かを判定し、洗浄処理信号を受信したと判定すると(ステップS12:Yes)、処理をステップS13に移行し、洗浄処理信号を受信していないと判定すると(ステップS12:No)、洗浄処理信号を受信するまでステップS12の処理を繰り返す。
【0196】
ステップS13において、CPU42は、基準物質混入処理を実行する。この処理において、ステップS13の便器部2の汚物洗浄処理中おけるゼット吐水ノズル16のゼット洗浄が終了した旨の信号を便器部2の便器制御部21から受信すると、CPU42は、基準物質混入装置32を作動させ、配管R2の中途位置、すなわち、水路切替弁24から供給された洗浄水がリム吐水ノズル12へ至る前位置にて、この洗浄水にメチレンブルー液を供給し混入する。これにより、メチレンブルー液が混入された洗浄水は、リム吐水ノズル12からボール10内に吐水され、ボール10の内壁を上部から下部へ向って螺旋状に旋回しながら流下する。この螺旋状の流れにより洗浄水とメチレンブルー液とが均一に混合されて測定用溜水となり、次回動作時のボール10内における測定用溜水が準備されることとなる。この処理が終了すると、CPU42は、処理をステップS14に移行する。
【0197】
ステップS14において、CPU42は、尿成分濃度測定装置5の電源がOFFにされたか否かを判定し、電源がOFFにされたと判定すると(ステップS15:Yes)、尿成分濃度測定装置5の動作を停止し、電源がOFFにされていないと判定すると(ステップS15:No)、ステップS2に処理を戻し、ステップS2からの処理を繰り返し実行する。
【0198】
このように、本発明の第1実施形態による尿成分濃度測定装置5によれば、尿混入測定用溜水中の尿糖濃度を計測する位置における基準物質濃度を尿糖濃度と併せて計測することによって、尿成分濃度を計測する部分の原尿の希釈率を考慮して原尿中に含まれる尿成分の濃度を算出するので、一般に測定用溜水と原尿との混合状態を均一とすることが困難である便器のボールを、尿を受ける受尿容器とすることが可能となる。このため、女性や子供でも容易に採尿することができ、測定の確実性を向上することができる。
【0199】
なお、本実施形態では、尿混合判断手段としてのCPU42は、時計部41により計時される経過時間が所定時間以上経過したときに、尿混入測定用流水中における尿の混合状態が、所定の混合状態に達したと判断する場合を示したが、尿混合状態判断手段はこれに限定されるものではない。
【0200】
すなわち、CPU42において、被験者が排尿を開始したタイミングを見計らってボール10内から吸光度計36へシリンジポンプ34を介して尿混入測定用溜水を継続的に搬送し、搬送された尿混入測定用溜水の基準物質の吸光度を吸光度計36により継続的に計測して、その吸光度が所定値以下となったときに、所定の混合状態に達したと判断するようにしてもよい。
【0201】
即ち、尿混入測定用溜水中に含まれる基準物質の吸光度は、尿混入測定用溜水中に含まれる尿量が増大することに伴って、低下する(図8参照)。従って、予め尿混入測定用溜水中の尿量を変化させたときの基準物質の吸光度と尿中の特定成分の濃度との関係を実験で求めて、特定成分の濃度がある値以上となる時の基準物質の吸光度を所定の混合状態の判定基準とすることによって、尿混入測定用溜水中における尿の混合状態が、所定の混合状態に達したと判断することができる。
【0202】
また、CPU42は、ボール10内に混入された尿量を計測する尿量計測手段(図示せず)を設け、ボール10内に混入された尿量が所定量以上となったときに、尿混入測定用溜水中における尿の混合状態が所定の混合状態に達したと判断するようにしてもよい。この場合、尿量計測手段は、ボール10の底部10cにボール10内の溜水と水路的に接続されて尿量計測手段を構成する水圧センサ(図示せず)を別途設け、この水圧センサが検知した水圧信号に基づいてボール10内に貯留された尿混入測定用溜水の水位を測定し、尿の混入前における測定用溜水の水位と尿の混入後における尿混入測定用溜水の水位とに基づいて混入された尿量を算出する。
【0203】
(第1実施形態の変形例)
次に、第1実施形態の変形例について以下に説明する。第1実施形態の変形例は、測定用溜水の量を減らすための溜水減量機能をゼット吐水ノズル16に担わせる点が第1実施形態に係る尿成分濃度測定装置5と異なるだけで、その他の構成は同じであるため以下ではそれらの説明は省略する。
【0204】
本変形例では、尿混入後基準物質濃度計測手段としての吸光度計36及び溜水中成分濃度計測手段としての糖濃度計38による各計測を開始する前に、ゼット吐水ノズル16によって測定用溜水の量を減らすことにより、測定用溜水の量に対する尿量を相対的に増加させるように構成している。
【0205】
即ち、第1実施形態と同じく本変形例でも使用されている通常の便器のボール10と洗浄水供給手段とを利用した測定用溜水供給手段の構成では、ボール10内へ貯留される測定用溜水もいわゆる便器の溢流水位の水量となるため、常に一定量とならざるを得ない。
【0206】
一方、被験者が男性である場合には、便座6に着座した状態の座位で排尿するよりも、立った状態の立位で排尿することも想定される。この場合、測定用溜水への入射位置における尿の流速が座位での場合より大きくなり、入射後の尿混入測定用溜水中において尿の拡散速度の指向性が入射方向へ強くなる。そのため、尿の入射状態によっては、この拡散指向性の影響を強く受けてボール10の底部10c近傍に到達する尿量が減少する結果、ボール10の底部10c近傍位置であっても、尿混入測定用溜水中に含まれる尿の割合が相対的に少なくなる場合がある。
【0207】
また、被験者によってはもともと排泄する尿量が少なく、ボール10の底部10c近傍に到達する尿量が標準的な被験者と比べて少ない場合も想定される。かかる場合に、ボール10の底部10c近傍の尿混入測定用溜水を糖濃度計38の計測対象としても、測定用溜水に対する尿の割合が小さくなる結果、計測対象物質である尿成分として糖も少なくなるため、計測対象の尿成分濃度が計測に必要な濃度以下となり正確な計測が出来ない可能性がある。
【0208】
したがって、変形例では、ゼット吐水ノズル16により測定用溜水の量を減らすことにより、測定用溜水の量に対する尿量を相対的に増加させて計測対象物質である尿成分濃度を高めるように構成している。
【0209】
以上のように構成された変形例の処理動作は、図11に示す第1実施形態におけるステップS1〜ステップS14までの処理動作とほぼ同じである。したがって、以下では第1実施形態における処理動作と異なる処理動作のみを説明する。
【0210】
変形例では、図11に示すように、CPU42は、被験者により操作・表示部4の測定スイッチが押下されたと判定すると(ステップS2:Yes)、処理をステップS3に移行する前に以下の溜水減量処理を実行する。
【0211】
溜水減量処理において、CPU42は、ゼット吐水ノズル16から洗浄水を噴射する旨の制御信号を便器制御部21に送信し、便器制御部21の制御を介して、水路切替弁24を作動させ配管R3へ流路を切替える。
【0212】
配管R3へ流路が切替えられると、ゼット吐水ノズル16から洗浄水が通常の便器洗浄時よりも短時間となる所定時間だけ噴射され、この洗浄水は、ボール10に貯留する測定用溜水を一部押し出して、トラップ排水口14bへと排出する。洗浄水の噴出後における測定用溜水の水位は、図12に示すように、ボール10の満水水位から封水水位18bを下回らないような所定の測定開始水位18aまで低下する。これにより、満水水位と所定の測定開始水位18aとの間における測定用溜水の分だけ、測定用溜水の量が減少する。
【0213】
これら一連の溜水減量処理が終了すると、CPU42は、処理を図11に示すステップS3に移行する。
【0214】
このように、測定に際しては被験者の排尿開始前に測定用溜水の量を減らすため溜水水位が浅くなる結果として、計測部位であるボール10の底部10c近傍と排尿の着水ポイントとの物理的な距離が減水しない場合に比べて近くなるため、尿が底部10c近傍まで到達するに必要な時間が短くなり、到達する量も多くなる。
【0215】
従って、ボール10の底部10c近傍の尿量が減水しない場合より同じ経過時間内では増加することとなり、その濃度も大きくなるため、ボール10の底部10c近傍の尿混入測定用溜水中における尿成分の濃度レベルが相対的により短時間で糖濃度計38による計測に必要な濃度レベル以上となるため、一回の測定時間を短縮することや確実な測定を実現することができる。
【0216】
なお、本実施形態では減水時の水位を封水水位18bを下回らないような水位としたが、これはトイレ室内への下水管汚臭の逆流を防止するためであり、この逆流を防止する処置が別途施されている環境等この逆流恐れがない環境下では、封水水位18b以下の尿混入後基準物質濃度計測手段の計測が出来る範囲で任意の水位とすることも可能である。
【0217】
[2.第2実施形態]
次に、図13を参照して、本発明の第2実施形態に係る尿成分濃度測定装置を説明する。図13は、本発明の第2実施形態に係る尿成分濃度測定装置を備えた便器装置が有する便器部の側断面図である。本発明の第2実施形態に係る尿成分濃度測定装置は、洗浄水を貯留する洗浄水貯留タンク60を備えている点、基準物質混入装置32の代わりに、基準物質混入装置232を備えている点、ゼット吐水ノズル16のゼット孔16aの代わりに、サンプル採取部として機能するサンプル採取機構80を備えている点、ゼット吐水ノズル16の一対の電極16c、16cの代わりに、尿検知部として機能する排尿時音センサ(図示せず)を備えている点が第1実施形態とは異なる。従って、ここでは、本実施形態の第1実施形態とは異なる点のみを説明し、同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0218】
図13に示すように、本発明の第2実施形態に係る尿成分濃度測定装置200は、所定の水源に連通連結され、この水源から供給される洗浄水を貯留する洗浄水貯留タンク60と、シリンジポンプ34に連通連結され先端をボール10内に貯留される溜水18に挿入するサンプル採取部としてのサンプル採取機構80と、便器部2の所定の箇所に配設され制御部40に接続された排尿時音センサ(図示せず)と、を有している。
【0219】
洗浄水貯留タンク60は、配管R202を介してリム吐水ノズル12と連通連結したタンク本体62と、タンク本体62の上部に配設され所定の水源に連通連結した手洗用吐水管64とを有し、手洗用吐水管64の下方であってタンク本体62の上端面に基準物質混入手段としての基準物質混入装置232を配設している。
【0220】
基準物質混入装置232は、上部を手洗用吐水管64に向って開口し下部をタンク本体62の内部に連通させた漏斗状の容器66と、容器66の内部に収容され基準物質としてのメチレンブルーを含む水溶性の固形物68とを有している。
【0221】
かかる構成により、手洗用吐水管64から吐水される洗浄水は容器66に向って流下し、この洗浄水により容器66内の固形物68からメチレンブルー液が溶出しタンク本体62内に流下する。これにより、タンク本体62の内部には、メチレンブルー液が混入した状態の洗浄水(以下、貯留水と言う。)が貯留されることになる。タンク本体62のメチレンブルー液と洗浄水とが混合された貯留水が、タンク本体62及び配管R202を介してリム吐水ノズル12からボール10内に吐水されることによって、メチレンブルー液と洗浄水とが均一に混合された測定用溜水となる。なお、固形物68は、容器66の内部に収容されるのではなく、予めタンク本体62内の洗浄水に溶解するようにしても良い。また、固形物68は必ずしも固形である必要はなく、メチレンブルーの濃縮液でもよい。メチレンブルー濃縮液を毎回の便器洗浄動作に併せて、一定量ずつ貯留水に混入させておき、タンク本体62及び配管R202を介してリム吐水ノズル12からボール10内に吐水させて測定用溜水となるように構成してもよい。
【0222】
サンプル採取機構80は、制御部40に接続された所定の駆動モータ(図示せず)を備えワイヤ82が巻回された巻取ドラム84と、ボール10の底部側の一端にワイヤ82の一端が係止されると共に長手方向に異径のシリンダを複数連ねて伸縮自在に構成され、ボール10の上部側の他端がシリンジポンプ34に連通連結されたサンプル採取ノズル86とを有している。
【0223】
排尿時音センサは、被験者の排泄する尿がボール10内に貯留された測定用溜水等と衝突するときの音を検知し、所定の検知信号を制御部40へ送信する。なお、被験者の排泄する尿を検知する尿検知部としては、排尿時音センサに限られず、尿の温度を検知する温度センサや、ボール10内に貯留される溜水等の重さを検知する重量センサ等を採用しても良い。
【0224】
以上のように構成された第2実施形態に係る尿成分濃度測定装置5について、その動作の一例を説明する。
【0225】
まず、被験者により操作・表示部4の測定スイッチ(図示せず)が押下されると、制御部40のCPU42は、駆動モータを駆動させ、巻取ドラム84に巻回されていたワイヤ82を送り出し、複数連ねたシリンダをボール10内にて斜め下方に伸延させて、サンプル採取ノズル86の先端をボール10内に貯留される測定用溜水に挿入させる。
【0226】
採尿ノズルの先端が測定用溜水に挿入された状態で、CPU42は、シリンジポンプ34を作動させ、サンプル採取ノズル86の先端からボール10内の測定用溜水を所定の量だけ吸引し、この測定用溜水を吸光度計36に向けて排出、搬送させる。そして、吸光度計36により、尿混入前の測定用溜水の吸光度が計測される点は、第1実施形態と同様であるのでここでは説明を省略する。
【0227】
被験者によりボール10内に向けて排尿がなされると、CPU42は、排尿時音センサによる所定の検知信号を受信したことを条件として、シリンジポンプ34を作動させ、サンプル採取ノズル86の先端からボール10内の尿混入測定用溜水を所定の量だけ吸引し、この尿混入測定用溜水を吸光度計36及び糖濃度計38に向けて排出、搬送する。吸光度計36により、尿混入測定用溜水の吸光度が計測され、糖濃度計38により、尿混入測定用溜水の濃度が計測される点は、第1実施形態と同様であるのでここでは説明を省略する。
【0228】
ここまでの動作が終了すると、CPU42は、駆動モータを駆動させ、巻取ドラム84にワイヤ82を巻き取り、複数連ねたシリンダをボール10内にて斜め下方に縮退させて、サンプル採取ノズル86を機能部ケーシング9の中に収納する。その後、サンプル採取ノズル86の洗浄動作等が実行されるように構成しても良い。
【0229】
次いで、一連の計測動作が終了し、被験者が便器部2の汚物洗浄スイッチ(図示せず)を押下すると、便器部2の便器制御部21が汚物洗浄処理を実行する。そして、便器制御部21から洗浄処理信号を受信すると、制御部40のCPU42は、タンク本体62の底部に設けられた図示しない開閉弁を開閉させて貯留水をリム吐水ノズル12から吐水させ
ることによってトラップ部14にサイホン現象を発生させてボール10内の洗浄処理を行うとともに、タンク本体62からボール10内に溜水となる水を供給する動作を行う。このとき、タンク本体62への給水動作も実行されてタンク本体62内には貯留水が貯留される。
【0230】
この動作によって、タンク本体62の内部に貯留されていた貯留水中においてメチレンブルー液と洗浄水とが混合された測定用溜水がボール10内に貯留される。これとともに、上述した通り、タンク本体62の内部には、メチレンブルー液が混合された新たな貯留水が貯留され、次回の測定準備が完了した待機状態になる。
【0231】
本実施形態の尿成分濃度測定装置200の他の動作は、本発明の第1実施形態と同様であるのでここでは説明を省略する。本発明の第2実施形態に係る尿成分濃度測定装置200によれば、洗浄水貯留タンク60、基準物質混入装置232、サンプル採取機構80及び排尿時音センサを設けることにより、簡易な構成で第1実施形態に係る尿成分濃度測定装置5と同様の効果を得ることができる。
【0232】
また、上述した各実施形態に係る尿成分濃度測定装置においては、尿中に含まれる特定成分の濃度を測定する尿成分濃度測定方法を採用していたが、この濃度測定方法を尿以外の被検査溶液、例えば、人間の血液や汗などに適用しても良い。
【0233】
かかる場合には、被検査溶液(例えば、血液や汗)中に含まれる特定成分の濃度を測定する被検査溶液成分濃度測定方法において、所定の液体(例えば、水等)に基準物質を混入して測定用溶液を作ると共に、測定用溶液の物性値を計測し、また、測定用溶液に、被検査溶液を混入して測定用混合溶液を作ると共に、測定用混合溶液の物性値(例えば、吸光度や蛍光強度)と、測定用混合溶液中に含まれる特定成分の濃度とを計測し、得られた測定用溶液の物性値と、測定用混合溶液の物性値と、測定用混合溶液中に含まれる特定成分の濃度とに基いて、被検査溶液中に含まれる特定成分の濃度を算出することを特徴とする被検査溶液成分濃度測定方法を提供することができる。
【0234】
以上、本発明の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、発明の開示の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【0235】
例えば、本発明における基準物質混入手段は、第1実施形態に係る尿成分濃度測定装置5が備えた基準物質混入装置32のように、給水手段が供給する水をボール内に排出する吐出孔より上流側において基準物質を混入させるものだけに限らず、ボール内に貯留される溜水に、基準物質を直接混入するように構成しても良い。この場合、溜水と基準物質とを均一に混合して所定濃度の基準物質を含んだ測定用溜水とするための攪拌手段を設けることが好ましい。
【0236】
また、前述した各実施形態では排尿前の測定用溜水の吸光度を吸光度計36により計測することによって求まる基準物質濃度を尿混入前基準物質濃度としているが、本発明における尿成分濃度測定装置においては、排尿前の尿混入前基準物質濃度は必ずしも計測して求めたものでなくとも良い。即ち、基準物質濃度が本発明における「所定濃度」に予め調製された水を測定用溜水として用いる構成として、所定濃度を尿混入前基準物質濃度としても良い。その場合は、吸光度計測は尿混入測定用溜水の一回だけで済むため、一回の測定時間が短くなる。
【0237】
それに対して、尿混入前基準物質濃度を計測して求める構成とすると、測定用溜水の基準物質濃度は多少幅を持つことが可能となるため、本実施形態のように、測定の都度、測定用溜水を調製する場合においては、基準物質混入手段の混入精度の要求水準が低くなりコストダウンが図れ。また、実際に測定する時の基準物質濃度を計測して前記尿混入前基準物質濃度とすることが出来るため、使用待機中に溜水の蒸発等によって基準物質濃度の変化があっても、高精度の測定が可能となる。
【0238】
また、上記した各実施形態では、1つの吸光度計36が尿混入前物性値計測手段及び尿混入後物性値計測手段として機能する構成としたが、これに限らず、2つの吸光度計を設け、これらがそれぞれ尿混入前物性値計測手段及び尿混入後物性値計測手段として機能するようにしてもよい。
【0239】
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0240】
【図1】本発明の第1実施形態に係る尿成分濃度測定装置を備えた便器装置全体の外観図である。
【図2】図1に示す便器装置が備える便器部の側断面図である。
【図3】図1に示す便器装置の全体構成及びその電気的構成を示す模式的説明図
【図4】図2に示した便器部が備えるゼット吐水ノズルの部分拡大断面図である。
【図5】基準物質混入装置の構成を示す模式的説明図である。
【図6】シリンジポンプの構成を示す模式的説明図である。
【図7】吸光度計の構成を示す模式的説明図である。
【図8】吸光度計により計測された測定用溜水等の吸光度と波長との関係の一例を示す吸光度スペクトル線図である。
【図9】蛍光強度計により計測された尿混入測定用溜水の蛍光強度と波長との関係の一例を示す蛍光強度スペクトル線図である。
【図10】尿を模擬した所定濃度のNaCl溶液をボール内に貯留される溜水に投入(混入)した場合における、溜水中のNaCl溶液の濃度の時間変化を示す図である。
【図11】尿成分濃度測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図12】測定用溜水の水位が変化する態様を示す図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る尿成分濃度測定装置を備えた便器装置が有する便器部の側断面図である。
【符号の説明】
【0241】
1 便器装置
2 便器部
2a 便器本体
3 背面キャビネット
4 表示部
5 尿成分濃度測定装置
6 便座
7 便蓋
8 機能部ケーシング
9 機能部ケーシング
10 ボール
10a 隔壁
10b 上部
10c 底部
11 リム部
12 リム吐水ノズル
14 トラップ部
14a トラップ流入口
14b トラップ排水口
16 ゼット吐水ノズル
16a ゼット孔
16c 電極
18 溜水
18a 測定開始水位
18b 封水水位
20 洗浄部
21 便器制御部
22 給水弁
24 水路切替弁
30 測定部
32 基準物質混入装置
32a 基準物質貯留タンク
32b ポンプ
32c 逆止弁
34 シリンジポンプ
34a シリンダ
34b ピストン
34c シリンジ駆動モータ
34d リードスクリュウ機構
34e ポート
35 電動ロータリバルブ
35a ポート
35b ポート
35c ポート
36 吸光度計
36a サンプルセル
36b 光源
36c 光センサ
38 糖濃度計
40 制御部
41 時計部
42 CPU
44 ROM
46 RAM
50 測定制御回路
52 通信手段
60 洗浄水貯留タンク
62 タンク本体
64 手洗用吐水管
66 容器
68 固形物
80 サンプル採取機構
82 ワイヤ
84 巻取ドラム
86 サンプル採取ノズル
200 尿成分濃度測定装置
232 基準物質混入装置
Dn 希釈率
Ds 希釈率
F1 照射光
F2 透過光
R1 配管
R2 配管
R202 配管
R3 配管
R4 配管
U0 原尿中の尿糖濃度
U1 尿混入測定用溜水中の尿糖濃度
X1 波長帯
X2 波長帯
S 物質の物性値
S0 メチレンブルー液の吸光度
S1 メチレンブルー液の吸光度
Da 溶液Aの希釈率
Db 溶液Bの希釈率
Dax 混合溶液(A+B)中の位置xにおける溶液Aの希釈率
Dbx 混合溶液(A+B)中の位置xにおける溶液Bの希釈率
Ma 溶液Aの標的物質濃度
Max 混合溶液(A+B)中の位置xにおける標的物質濃度
Dn 原尿の希釈率
Ds 測定用溜水の希釈率
α 吸光係数
L 光路長
Q 特定物質濃度
溶液Bの測定物質濃度
混合溶液(A+B)の測定物質濃度
ΔT 計測待機下限時間
Td 計測待機時間
f(s) 関数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿中に含まれる特定成分の濃度を測定する尿成分濃度測定装置において、
溜水を貯留し下水道に連通したボールを備え、被験者の排泄する尿を前記ボールで受けて前記溜水とともに前記下水道に排出する便器と、
前記尿が排出される前の前記溜水に混入される基準物質と、
前記溜水に前記基準物質を混入することにより当該基準物質の濃度を所定濃度である尿混入前基準物質濃度とした測定用溜水を、前記ボール内に供給する測定用溜水供給手段と、
前記尿の混入後における前記測定用溜水である尿混入測定用溜水の前記基準物質の濃度である尿混入後基準物質濃度を計測する尿混入後基準物質濃度計測手段と、
前記尿混入測定用溜水中に含まれる前記特定成分の濃度である溜水中成分濃度を計測する溜水中成分濃度計測手段と、
前記尿混入前基準物質濃度と、前記尿混入後基準物質濃度と、前記溜水中成分濃度とに基づいて、前記尿中に含まれる前記特定成分の濃度を算出する尿中成分濃度算出手段と、を有し、
前記尿混入後基準物質濃度計測手段は、前記溜水中成分濃度計測手段が前記溜水中成分濃度を計測する計測位置における前記尿混入測定用溜水を計測対象として、前記尿混入後基準物質濃度を計測することを特徴とする尿成分濃度測定装置。
【請求項2】
前記溜水中成分濃度計測手段は、前記ボールの底部近傍を前記計測位置として計測を行なうことを特徴とする請求項1に記載の尿成分濃度測定装置。
【請求項3】
前記ボールの底部に設けた開口部を備え、前記開口部から前記ボールの底部近傍における前記尿混入測定用溜水の一部を計測サンプルとして採取してその計測サンプルを前記ボール外に移送する計測サンプル採取手段を有するとともに、
前記ボール外に前記尿混入後基準物質濃度計測手段及び前記溜水中成分濃度計測手段を配設し、
前記計測サンプルを計測対象として、前記尿混入後基準物質濃度計測手段による前記尿混入後基準物質濃度、及び前記溜水中成分濃度計測手段による前記溜水中成分濃度の各計測を行なうことを特徴とする請求項2に記載の尿成分濃度測定装置。
【請求項4】
前記開口部が前記ボールの底部に設けた便器洗浄水吐水口であることを特徴とする請求項3に記載の尿成分濃度測定装置。
【請求項5】
前記尿混入測定用溜水中における前記尿の混合状態が、所定の混合状態に達したか否かを判断する尿混合状態判断手段を有し、
前記尿混合状態判断手段が前記所定の混合状態に達したと判断したときに、前記尿混入後基準物質濃度計測手段による前記尿混入後基準物質濃度、及び前記溜水中成分濃度計測手段による前記溜水中成分濃度の各計測を開始することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の尿成分濃度測定装置。
【請求項6】
前記尿混合状態判断手段は、前記測定用溜水への前記尿の混入を検知する尿混入検知手段と、前記尿混入検知手段により前記尿の混入が検知されてからの経過時間を計時する経過時間計測手段と、を有し、
前記経過時間計測手段により計時される前記経過時間が所定時間以上経過したときに、前記所定の混合状態に達したと判断することを特徴とする請求項5に記載の尿成分濃度測定装置。
【請求項7】
前記測定用溜水の量を減らすための溜水減量手段を設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の尿成分濃度測定装置。
【請求項8】
前記尿混入前基準物質濃度及び前記尿混入後基準物質濃度は、吸光度、又は蛍光強度から算出される濃度であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の尿成分濃度測定装置。
【請求項9】
前記測定用溜水供給手段は、所定の給水源から前記溜水となる水を供給する給水手段と、前記給水手段により供給される水に前記基準物質を混入する基準物質混入手段と、を有し、
前記基準物質混入手段は、前記基準物質の濃度が前記尿混入前基準物質濃度となる量の前記基準物質を前記水に混入することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の尿成分濃度測定装置。
【請求項10】
前記特定成分は、糖やタンパク等の尿中に漏出する被験者の生体情報を反映する成分であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の尿成分濃度測定装置。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の尿成分濃度測定装置を一体的に組み込んだ便器装置。
【請求項12】
被検査溶液中に含まれる特定成分の濃度を測定する溶液成分濃度測定方法において、
所定の液体に基準物質を混入し当該基準物質の濃度を所定の濃度である混入前基準物質濃度とした測定用溶液を準備し、
前記測定用溶液に前記被検査溶液を混入して測定用混合溶液を作り、
前記測定用混合溶液中の任意の位置に含まれる前記特定成分の濃度である混合溶液成分濃度を計測すると共に、前記測定用混合溶液の前記基準物質の濃度である混合後基準物質濃度も併せて計測し、
前記混合前基準物質濃度と、前記混合後基準物質濃度と、前記混合溶液成分濃度とに基いて前記被検査溶液中に含まれる前記特定成分の濃度を算出することを特徴とする溶液成分濃度測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−268195(P2008−268195A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81678(P2008−81678)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】