説明

尿温測定装置

【課題】被験者の尿温を測定するにあたり、可及的高精度な尿温測定を行うことのできる尿温測定装置を提供すること。
【解決手段】
被験者が排泄した尿は、ボウル面で衝突した後は尿流衝突位置の周りに形成される展開尿流領域内で広がるため、その展開尿流領域内の所定の温度分布の検温尿流領域に測温素子によって温度を計測する検温領域を設定することにより、検温領域を設定する検温尿流領域内では尿が展開されるので確実な尿温測定が可能となる。また、検温尿流領域内では、尿流内部にあった放尿経路で冷却されていないフレッシュな尿がボウル面に衝突後に展開されるので、排泄された時の温度に可及的に近い尿温を測ることが可能となるため、高精度な測定ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の排泄する尿の温度を非接触で計測する尿温測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、身体の温度である体温は身体の健康状態を把握するための指標の一つとして用いられており、少なくとも0.1℃以上の測定精度が要求されるものである。この体温測定方法として、体温計などを皮膚に接触させて身体表面部の体温を測定する方法があつた。そして、個人での健康管理志向の高まりにつれ、この体温測定の必要性も増している。しかし、この体温計を用いての測定方法では、測り方によるばらつきが生じやすく、誰でもが簡易に正確な体温を測定するのが困難であった。
【0003】
一方、身体で生成される尿は体内で蓄積されるため、深部体温とも呼ばれ身体内部の体温を反映した温度となっている。この深部体温は前述した身体表面の温度である体温と比較すると、身体の健康状態をより忠実に表していることが知られてきている。したがって、排泄行為により体外に排出された直後のこの尿の温度を測れば、この深部体温を推定することが可能であり、一般的な体温と比較してより正確な身体の健康情報が得られることになる。そのためには従来の体温測定精度以上の精度で容易に測定する方法が望まれている。
【0004】
そこで、被験者の排泄中の尿の温度(以下、この排泄中の尿の温度を「尿温」ともいう)を非接触で測定する尿温測定装置が種々提案されている。
【0005】
このような尿温測定装置に備えられる温度計測手段としては、例えば、物体表面からその温度に応じて放射される赤外線を受光して受光量に比例した電気出力を得る電気的素子である本発明における測温素子を用いて、物体の温度を非接触で計測できるようにした放射赤外線検知式温度計測手段(以下、この放射赤外線検知式温度計測手段を「放射温度計測手段」ともいう。)がある。
【0006】
この放射温度計測手段は、物体から放射される赤外線を集光レンズ等の光学系を用いて測温素子面上に集光させる構成となっているため、計測領域内に存在する全ての物体が放射する赤外線の和を計測することになる。従って、物体の温度を精度良く計測するには、その計測領域を計測対象とする物体のみに合致させる必要がある。
【0007】
このような放射温度計測手段を用いた尿温測定装置として、具体的には、小便器の天井面にこの放射温度計測手段を設け、計測領域を通過する尿から放射される赤外線を受光して尿の温度測定を行うようにした非接触式の尿温測定装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平04−203128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記した従来の小便器に配設した尿温測定装置では、被験者が小便器に立位で放尿することにより、測定時の被験者の立つ位置や身長の違いなどが直接反映されるため、被験者の尿道先端口の位置が大きく異なる。
従って、排尿が尿流が尿道先端口からボウル面に到達するまでの経路(以下、この経路を「放尿経路」ともいう)は、被験者毎に大きく異なることになり、その排尿軌跡内に検温領域を追従させるのは困難である。
【0010】
また、ボウル面の一部を形成する部材(赤外線透過板3)の尿流による表面温度変化を計測する方法(第4図)も示されている。
【0011】
この方法は、放射温度計測手段の計測対象が広い範囲となるが、排尿の接触による伝熱現象を利用する間接計測となるため、他の形態で示されている予熱対策を併せたとしても、計測される温度はこの部材の熱容量他の影響を受けたものとなり、迅速かつ正確な温度計測は困難である。
【0012】
さらに、小便器使用という構成は女性の使用が困難である結果として、対象とする被験者が男性に限定されるという問題もある。
【0013】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、被験者の尿温を測定するにあたり、性別や身長の違いに影響されない可及的高精度な尿温測定を行うことのできる尿温測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記従来の課題を解決するために、請求項1に記載の尿温測定装置では、所定の広さを有する検温領域内から放射される赤外線を受光して前記検温領域内の温度を計測する測温素子を有して被験者が排泄する尿の温度を非接触で計測する尿温計測手段を備えた尿温測定装置において、被験者が排泄した尿を受けるボウル面が形成された洋式大便器と、前記尿が前記ボウル面に当たる位置を尿流衝突位置として認知する尿流衝突位置認知手段と、前記検温領域の位置を設定する検温領域位置設定手段と、を備え、前記検温領域位置設定手段は、前記尿流衝突位置に基づいて前記検温領域を前記尿流衝突位置の周りに形成され、所定の温度分布範囲を有する検温尿流領域内に設定することを特徴とする。
【0015】
また、請求項2に記載の尿温測定装置では、請求項1に記載の尿温測定装置において、前記検温領域設定手段は、前記検温尿流領域内において前記尿流衝突位置よりも所定距離下方の所定位置に前記検温領域を設定することを特徴とする。
【0016】
また、請求項3に記載の尿温測定装置では、請求項2に記載の尿温測定装置において、排尿時における放尿位置の目安となる標的を前記ボウル面上に表示する標的表示手段を有し、前記尿流衝突位置認知手段は、前記標的表示手段の表示する位置を尿流衝突位置として認知するものであることを特徴とする。
【0017】
また、請求項4に記載の尿温測定装置では、請求項3に記載の尿温測定装置において、前記標的表示手段は、投影された光像により前記標的を前記ボウル面上に表示することを特徴とする。
【0018】
また、請求項5に記載の尿温測定装置では、請求項4に記載の尿温測定装置において、前記光像を表示する位置を被験者が任意の位置に移動させることを可能とする標的位置調節手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、ボウル面に衝突して広がった所定の温度分布範囲の領域の尿を尿温計測手段の計測対象にすることにより、尿温計測手段の観測領域が広がるだけでなく、放尿経路で冷却されていない尿の温度を計測することにもなるため、高精度で確実な尿温測定が可能となる。
【0020】
また、請求項2に記載の発明によれば、重力の影響でより広く安定して形成される領域を尿温計測手段の計測対象領域とすることになるため、尿温計測手段の検温領域を温度計測に適した状態に維持することができ、高精度かつ安定した尿温の測定が可能となる。
【0021】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、尿流衝突位置認知手段は、尿流衝突位置を実際に検出するのではなく予め定められた位置をその位置と見なすことになるため、尿流衝突位置認知手段の構成を簡略化でき、高精度の計測が可能となる。
【0022】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、イメージであって実体ではない光像により標的を前記ボウル面上に表示することになるため、標的が汚れ等で不鮮明になることがなく、しかも、任意の便器にも簡単に表示できる。
【0023】
さらに、請求項5に記載の発明によれば、被験者は自分に合った排尿位置に標的を設定することができることにより、尿流衝突位置の認知誤差が少なくなり、結果的に検温領域が適切な位置に設定されることとなるため、高精度の尿温測定が行えることになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係る尿温測定装置の全体構成を示す側面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】本実施形態に係る尿温測定装置の全体構成を示すブロック図である。
【図4】赤外線受光部の構成を示す図である。
【図5】赤外線受光部の受光領域を説明する説明図である。
【図6】リモコン装置の外観斜視図である。
【図7】便器本体の一部断面図である。
【図8】ボウル面上に形成される展開尿流領域を示す平面図である。
【図9】展開尿流領域内の検温尿流領域と検温領域との関係を示す図7におけるR視図である。
【図10】尿温測定処理の動作フローを示すフローチャートである。
【図11】図10における動作フローの尿温計測処理ルーチンの手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
尿が放射する赤外線を利用して、尿の温度を非接触で精度良く計測する場合において、排尿がボウル面に到達するまでの排尿軌跡を対象として温度を非接触で精度良く計測するには、前述したように、尿温計測手段に複雑な構成を必要とする。
【0026】
そこで我々の行った予備実験により、被験者が排泄した尿は、ボウル面で衝突した後は衝突位置(以下、この尿が衝突したボウル面の位置を「尿流衝突位置」とも呼ぶ)の周りに膜状に広がる尿流領域(以下、この膜状に広がる尿流領域を「展開尿流領域」とも呼ぶ)が形成されるが、この展開尿流領域内でも尿流衝突位置により近い特定領域における尿は、放尿口から放出された直後の位置での尿の温度(以下、この温度を「尿温」とも呼ぶ)に可及的に近似した温度を維持していることが確認できた。
【0027】
この特定領域では、それまでの尿流経路では内部にあって雰囲気による冷却を受けていない尿が衝突によって表面に次々と現れ、かつ、衝突直後のため便器への熱伝導による放冷等の影響も極く少ないためと思われるが、領域全体として極く狭い温度分布を持った表面温度状態が形成されており、本発明における尿温計測手段の検温領域に比べても充分大きい広さを有している。以下、この尿温に極めて近い温度分布範囲を持ったこの特定領域を本発明における「検温尿流領域」と呼ぶ。
【0028】
そこで、本発明に係る尿温測定装置においては、所定の広さを有する前記検温領域を、この所定の温度分布範囲を有する検温尿流領域内に設定することにより、観測対象領域を広げて尿温計測手段の確実な温度計測が実現できるようになった。
【0029】
また、この検温尿流領域が形成されるボウル面上の位置や形状について、大便器に着座する場合における被験者の違いによる変化具合を別の予備実験で確認したところ、この検温尿流領域のボウル面上の位置と形状は、検温領域の広さに対しては無視出来ない程度に被験者によって異なるが、それぞれの位置での尿流衝突位置に対する検温尿流領域の位置と形状は各々ほぼ一定の対応関係にあることが判明した。
【0030】
即ち、被験者の排尿時のボウル面上の尿流衝突位置が判れば、検温尿流領域のボウル面上の位置と形状が予め推定できることが確認された。これは、本発明のように洋式大便器の便座に着座して測定する場合は、便座によって被験者の排尿口の位置が比較的狭い範囲に限定されていることと、この排尿口の位置に対して大便器のボウル面の形状が比較的が限定される結果と考えられる。
【0031】
そこで、本発明に係る尿温測定装置は、尿流衝突位置認知手段を設けて尿流衝突位置を求めて、この尿流衝突位置に基づいて尿温計測手段の検温領域を設定することにより、尿温計測手段の検温領域を前記の検温尿流領域内に確実に位置させることが実現できるようになった
【0032】
以上のことより、本発明に係る尿温測定装置は、所定の広さを有する検温領域内から放射される赤外線を受光して前記検温領域内の温度を計測する測温素子を有して被験者が排泄する尿の温度を非接触で計測する尿温計測手段を備えており、さらに、被験者が排泄した尿を受けるボウル面が形成された洋式大便器と、前記尿が前記ボウル面に当たる位置を尿流衝突位置として認知する尿流衝突位置認知手段と、前記検温領域の位置を設定する検温領域位置設定手段とを備え、前記検温領域位置設定手段は前記尿流衝突位置に基づいて、前記検温領域を前記尿流衝突位置の周りに形成され、所定の温度分布範囲を有する検温尿流領域内に設定するようにしている。
【0033】
その結果、体温に極めて近い尿温を高精度に測るという、高度な計測が実現できるようになった。
【0034】
ここで、ボウル面に衝突した尿は重力の作用を受けて下方へより多く流下していくため、前記検温尿流領域は尿流衝突位置よりも下方側が最も広く形成される。従って、前記検温領域は、前記尿流衝突位置よりも下方の位置の検温尿流領域に設定することが好ましい。
【0035】
すなわち、尿流衝突位置よりも下方の位置に検温領域を設定することで、測定中に尿流衝突位置が変化して検温尿流領域の位置が多少移動しても、検温領域が検温尿流領域内に含まれる状態を維持できるため、高精度に加えて安定した尿温の測定が可能となる。
【0036】
なお、この尿流衝突位置認知手段の一例としては、他の分野でも物体の位置検出に用いられている図示しない画像認識装置が適用できる。そして、この画像認識装置を設置してボウル内の尿流の映像を撮影し、通常の処理を行って検出される位置を尿流衝突位置とする構成とすればよい。
【0037】
しかしながら、前述した画像認識装置は高度な装置のため尿温測定装置自体が高価なものとなることが予想される。従って、本実施形態における尿温測定装置1では、より簡素な構成とするため、尿流衝突位置の設定に以下に述べる方法を採用している。
【0038】
即ち、この尿流衝突位置は前述したように、本発明の大便器に着座する場合においても通常の排尿状態では被験者によって、高精度に尿温を計測するには無視できない程度に異なる。そこで、放尿位置の目安となる目印をボウル面上に設け、それを的として被験者側で放尿位置を調節してもらうことによって、尿流衝突位置を一定範囲内に収めることが考えられた。
【0039】
そこで、これについても予備試験を行ったところ、大便器に着座する状態においては、標的を目安として放尿位置を被験者側で調節することによって、尿流衝突位置をある範囲内に収めることが可能なことが確認できた。さらに、このとき尿流衝突位置の下方に形成される検温尿流領域の範囲は、この標的位置を基準として設定する検温領域の範囲を確保するに十分であることも確認できた。
【0040】
即ち、検温領域の大きさを適宜に設定する限り、実際の衝突位置ではなく標的位置を衝突位置と見做しても、尿流衝突位置を基準とした本発明の尿温測定を充分な確度で可能なことが確かめられた。
【0041】
そこで、本発明を好適に適用する以下に述べる本実施形態における尿温測定装置では、被験者の放尿位置の目安となる標的をボウル面上に設定し、この標的位置を基準にして尿流衝突位置を決定する構成としている。
【0042】
以下、本実施形態における尿温測定装置について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0043】
(尿温測定装置の全体構成について)
図1は、本実施形態に係る尿温測定装置の使用状態を示す側面視断面図であり、図2はその平面図である。以下これらの図を用いて、まず、本実施形態における尿温測定装置1の概要を説明する。
【0044】
本実施形態における尿温測定装置1は、図1に示すように、洋式大便器に組み込まれて被験者Pの排泄する尿の温度を測定するように構成されている。
すなわち、本実施形態に係る尿温測定装置1は、図示するように、被験者Pが排泄した尿を受けるボウル部17が形成された洋式大便器に組み込まれた装置本体部10と、装置本体部10が設置されたトイレブースの側壁面Kに取り付けられ、装置本体部10の操作を行うためのリモコン装置11とを有している。なお、このリモコン装置11は、洋式大便器が有する局部洗浄機能や便器洗浄機能などについても操作することができるリモコン操作部33と、液晶表示装置からなるリモコン表示部32とを備えている。
【0045】
こうして、本実施形態における尿温測定装置1は、被験者Pが洋式大便器に着座した状態で排泄した尿の温度を測定し、測定した結果得られる尿温をリモコン表示部32に表示して、被験者Pに知らせることができる。また、リモコン装置11を操作することによって、洋式大便器10としての機能、例えば排泄された排泄物の排出や排泄後の便器使用者の局部の洗浄や、局部の乾燥を行うこともできるようになっている。
【0046】
また、この洋式大便器は、図1に示すように、使用者の排泄物を受けるためのボウル部17を有する便器本体部12と、便器本体部12の後部側の上面に設けられたケーシング14と、このケーシング14にそれぞれ回動自在に枢支した便座本体15a及び便蓋15bからなる便座15とを有している。
【0047】
また、ケーシング14の内部には、排泄後の局部洗浄動作や便器洗浄動作を行う便器機能部19の他に、尿からの赤外線を受光する赤外線受光部44やボウル面Bに標的を投影する標的投影部50の各機構部と、尿温測定の全体を制御する測定制御部41とが収納されている。
【0048】
便器本体部12には、被験者Pが排泄した排泄物を排出させると同時に便器を洗浄する機能を有する便器洗浄手段が備えられている。
【0049】
便器機能部19は、被験者Pの局部の洗浄を行う衛生洗浄手段として局部洗浄水を局部へ向けて噴射する衛生洗浄水ノズル(図示せず)や、洗浄した局部の乾燥を行う局部乾燥手段として温風を局部に送風する温風発生器(図示せず)や、被験者Pが便座本体15に着座した着座状態を検出する着座センサ(例えば図示しない重量センサなど)を備えている。
【0050】
また、図1及び図2に示すように、この洋式大便器のボウル部17には、通常は所定水位まで溜水18が貯留され溜水面Wが形成されている。そして、本実施形態では、ボウル面Bのうち溜水面Wとボウル部17の上端部との間に、この標的Hと赤外線受光部44の計測領域である検温領域Sとを設定している。
【0051】
そして、被験者Pは図示するように、便座本体15に着座してリモコン操作部33で測定を開始させた後、この標的Hを目がけて放尿する。そして、排尿口P−1から放出された尿はこの標的Hの近傍に排出され、その尿流衝突位置P−2の周りのボウル面B上に展開して形成される展開尿流領域Tの所定の領域から放出される赤外線は、赤外線受光部44で受光される。
【0052】
(尿温測定装置の全体的な構成について)
図3は、本実施形態に係る尿温測定装置1の全体構成を概念的に示すブロック図である。以下、各構成について説明する。
【0053】
図3に示すように、本実施形態における尿温測定装置1は、被験者Pの排泄する尿の温度を測定する装置本体部10と、装置本体部10の各種の操作等を行うためのリモコン装置11とを有している。
【0054】
(リモコン装置11の構成について)
リモコン装置11は、尿温測定装置1の制御内容や尿温測定結果を表示するためのリモコン表示部32と、尿温測定装置1を操作するための各種操作ボタンを備えたリモコン操作部33と、装置本体部10との間で各種制御信号や尿温測定結果情報を送受信するリモコン通信部34と、リモコン装置11全体の動作を統括制御するためのマイクロコンピュータなどからなるリモコン制御部31とを備えている。なお、これらの各部の詳細については後述する。
【0055】
(装置本体部10の構成について)
装置本体部10は前述したように、便器本体部12、便器本体部12に戴置されたケーシング14、及びケーシング14に回動可能に連接された便座15を備えた洋式大便器に組み込まれている。
【0056】
さらにケーシング14内には、リモコン装置11との間で各種制御信号や尿温測定結果情報を送受信する本体通信部42と、汚物を排出処理する便器洗浄動作や人体局部の洗浄等の衛生洗浄動作を行う便器機能部19と、尿温測定に必要な機能を備えた尿温測定部20とが納められている。
【0057】
また、便器機能部19は、尿温測定装置1の赤外線受光部44が計測動作中である場合はリモコン装置11の衛生洗浄スイッチ54や局部乾燥スイッチ55が操作されてもその指示信号は無効として取り扱うようにしている。これは、これらの動作が尿温測定に悪影響を及ぼすための防止策として配慮されたものである。
【0058】
尿温測定部20は、被験者の排泄する尿から放射される赤外線を受光してその温度を非接触で計測するための各手段の機構部を構成する本体計測部40と、尿温測定に関する各種制御を行うための各手段の制御部を構成する測定制御部41とを備えている。
【0059】
(本体計測部40の各構成について)
本体計測部40は、被験者から排出される尿の温度を測定する尿温計測手段の機構部を構成する赤外線受光部44と、被験者Pが排尿する際に、ボウル面Bのどの位置に放尿すればよいかの目安となる標的をボウル面B上に光像として投影する標的位置表示手段の機構部を構成する標的投影部50とを備えている。
【0060】
この赤外線受光部44は、受光した赤外線の受光量に応じた電気的信号として出力する測温素子を備えた受光素子部69と、検温領域Sから放射される赤外光束を集光してこの測温素子上に検温領域Sの写像として結像させる光学部63と、受光素子部69からの電気的信号を温度情報として出力処理する信号出力処理部60と、検温領域Sの位置を移動させる検温領域移動手段の機構部を構成する検温領域移動部72と、を備えている。なお、赤外線受光部44の具体的構成については後に詳述する。
【0061】
また、この標的投影部50は、標的として表示する光像の表示位置を移動させる標的位置移動手段の機構部を構成する標的位置移動部58を備えている。なお、標的投影部50の具体的構成については後に詳述する。
【0062】
(測定制御部41の各構成について)
測定制御部41は、CPU、ROM及びRAMなどを備えたマイクロコンピュータからなり、該ROMに各種のプログラムが格納されて、尿温測定装置1の各種手段の動作の制御や測定結果等の各種情報の記憶などを行うものである。
【0063】
なお、本実施形態における測定制御部41は、着座センサが着座状態を検出している間のみ、動作開始指示手段として個人別スイッチ51のからの計測動作開始の指示を有効としている。すなわち、被験者Pが便座本体15に着座していない状態では、尿温の測定を行なえないようにして、例えば正確な測定が行えない男子立位での測定を防止している。
【0064】
以下では、測定制御部41の機能を、尿温算出手段を構成する尿温算出部47、尿流衝突位置認知手段を構成する尿流衝突位置認知部45、検温領域位置設定手段を構成する検温領域位置設定部46、及び標的位置調節手段を構成する標的位置設定部71の各機能別に分けて説明する。
【0065】
標的位置設定部71は、被験者が排尿時の放尿位置の目安となる標的Hを標的位置移動部58を制御して、ボウル面B上の所定の位置に設定するものである。
【0066】
なお、この所定の位置は、本実施形態では被験者毎に設定されるが、被験者Pが最初に本尿温測定装置1を使用する際に使用された位置を標的位置設定部71が取得することによって、標的位置P−3として初期設定される。
【0067】
即ち、標的位置設定部71は、被験者Pが任意の個人別スイッチ51を選択して放尿を行い、共通位置に設定されている標的位置を調節スイッチ57を適宜操作して、自分の放尿位置に標的を移動させて一連の尿温測定を終了した時の位置を、被験者Pの最適な標的位置として記憶する。
【0068】
尿流衝突位置認知部45は、被験者の排泄する尿がボウル面Bに当たる位置を本発明における尿流衝突位置P−2(図1参照)として認知するものである。この尿流衝突位置の認知は、尿が実際にボウル面Bに衝突した位置を物理的に検出する前述の尿流衝突位置検出手段を設けて取得認識するものでも良いが、本実施形態では、より簡略化された構成としている。
【0069】
即ち、本実施形態では、この尿流衝突位置認知部45は、標的表示部50によりボウル面B上に放尿位置の目安として表示される標的の位置である標的位置P−3を尿流衝突位置P−2と見做して認知するようにしている。
【0070】
この標的位置P−3は、前述したように標的位置設定部71が管理しているため、このような構成にすると標的位置の設定情報は尿温測定装置1の内部的情報として容易に取得できる。従って、本実施形態では、尿流衝突位置認知手段が簡素化されるため、装置全体を安価で作成することが出来る。
【0071】
検温領域位置設定部46は、赤外線受光部44が赤外線を受光して電気的出力を行うボウル面B上の受光範囲である検温領域Sの位置を設定するためのものであり、尿流衝突位置認知部45が認知した尿流衝突位置P−2に基づいて、予め決められた対応関係テーブルを使用して尿流衝突位置P−2から所定距離だけ離れた位置を検温領域Sの所定位置として算出する。
【0072】
尿温算出部47は、赤外線受光部44で得られた温度情報出力に基づいて尿温を算出するものであり、必要に応じて、この温度情報出力にさらに各種の影響要因を考慮した補正を行って尿温を算出するようにしても良い。
【0073】
(本体計測部40の詳細について)
次に、本体計測部40を形成する前述した赤外線受光部44の詳細について説明する。
【0074】
図4は赤外線受光部44の詳細構成を示す説明図であり、前述した検温領域移動部72は省略している。図5は受光素子部69と本発明の検温領域Sとの光学的関係を示す説明図である。
【0075】
赤外線受光部44は、図4に示すように、物体の温度に応じて物体の表面から放射される赤外線を受光して電気的信号として出力する複数個の測温素子61が縦横に隣接配置されて形成された受光素子部69となる測温素子群62を有している。
【0076】
本実施形態では、この測温素子群62として、赤外線を受光することによって生じる熱を起電力として出力する多数の熱電対を接続したサーモパイル素子をさらに複数個まとめて一体的にパッケージされたサーモパイル素子アレイを用いている。かかるサーモパイル素子アレイは、図4では簡略化して示しているが、シリコン基板(図示せず)に8行×8列のマトリクス状に64個のサーモパイル素子(測温素子61)が隣接配置され、外観視で略平板状をなすサーモパイル素子アレイを構成している。
【0077】
尿温計測手段44はまた、温度信号処理部60として、測温素子群62に近接配置された温度較正用の基準温度素子64と、測定制御部41の制御に従って所定のタイミングで各測温素子61のアドレス信号を出力するアドレス信号出力手段65と、複数の測温素子61からの各検出信号をアドレス信号出力手段65から入力されるアドレス信号に基づいて選択するスキャン手段66と、スキャン手段66により選択された測温素子61からの検出信号や基準温度素子64からの検出信号を増幅する増幅手段67と、増幅手段67からの検出信号をデジタル信号に変換して測定制御部41に送信するA/D変換手段68とを備えている。
【0078】
また、光学部63は図5に示すように、便器ボウル部17の表面であるボウル面B上に設定される検温領域Sから放射された赤外線の光束を、集光レンズなどで構成される光学系で検温領域Sの写像として略平面を形成する測温素子群62上に結像させる。
【0079】
このように、本実施形態においては、検温領域Sからの赤外線光束は測温素子群62を構成する単位となる各測温素子61に分担される構成としている。従って、検温領域Sの中でこの複数個の測温素子61のうちの任意の一つが担当する領域を単位検温領域Sxとすると、検温領域Sは単位検温領域Sxを合わせたものとなることになる。
【0080】
正確な温度計測は、これら複数の測温素子の少なくともいずれか一つの単位検温領域Sx全体が被計測物体内であれば可能となるため、本実施形態においては、単一の素子の温度分解能を維持してより広範囲の検温領域を得られることになる。
【0081】
以上のような構成で、各測温素子61は受光した写像の担当する領域の赤外線エネルギーに応じた出力信号を発生させ、これをスキャン手段66によって順次取り出し、この測温素子群62自身の温度を測る基準温度素子64の出力信号とともに、A/D変換手段68を通して測定制御部41に入力する。そして、かかる信号を入力した測定制御部41を構成する前述した尿温算出部47において、基準温度や放射率による補正をした後、各測温素子の出力信号が温度情報に換算される。
【0082】
なお、この得られる前記温度情報は、本実施形態においては測温素子として前記の測温素子群となったものを採用していることより、測温素子単位の複数の温度情報が得られる。
【0083】
さらに、この複数の温度情報は、本実施形態においては検温領域S内からの赤外光を単に集光するのではなく写像としてこれらの測温素子群に結像させているため、検温領域S内の各測温素子の配置に対応した二次元的な温度情報となる。従って、検温領域S内の温度分布状況を知ることも、あるいは、更にそれを視覚的に表示することも可能である。
【0084】
(標的投影部50の詳細について)
次に、同じく本体計測部40を形成する標的投影部50の具体的構成について説明する。
本実施形態における尿温測定装置1では、前記標的Hをボウル面B上の標的位置P−3に表示する標的投影部50を備えている。この標的投影部50としては、半導体レーザなどの光像生成手段を用いて、所定の光像照射口からレーザ光を照射して光像を投射させるものが挙げられる。
【0085】
そして、本発明における標的位置であるこの標的Hの投射位置P−3は、被験者Pが任意の位置に移動させることができる。すなわち、標的投影部50は、例えば光学部63を移動させて標的投影部50の投光軸を変化させるなどして、便器ボウル面上の標的Hの投影位置を移動させることの出来る図示しない標的位置移動部58を備えている。
【0086】
なお、標的投影部50の装置本体10における配設位置は限定されないが、本実施形態では、標的投影部50を、図1に示すように、ケーシング14の先端側に配設している。
【0087】
また、図2に示すように、標的投影部50を、前記便器機能部19の衛生洗浄水ノズルの吐出口に対して右側に偏倚した位置に設けている。これにより、衛生洗浄水ノズルからの洗浄水の吐出を邪魔することがない。
【0088】
このように、標的投影部50をケーシング14内の先端側の中心線に近い位置に配設することにより、標的投影部50から光像をボウル部17の前側の放尿位置となる領域に向けてより垂直に近い角度で投影することができるため、歪みが少ない光像により標的Hをボウル部17の前側のボウル面B上に見やすい状態で表示することができる。
【0089】
また、ボウル面B上の標的Hとなる光像は、あくまでもイメージであって実体ではないため、汚れたりして不鮮明になることがなく、しかも、尿温測定装置1が組みつけられる各種の便器にも簡単にマーキングできる。
【0090】
(リモコン装置の詳細について)
図6にリモコン装置11の外観斜視図を示す。リモコン装置11には、図示するように、装置本体部10において尿温測定を開始する際に被験者Pが操作する個人別スイッチ51と、尿温計測部40において尿温測定を終了する際に被験者Pが操作する測定終了スイッチ52と、排便後に便器本体部12のボウル部17を洗浄する際に被験者Pが操作する便器洗浄スイッチ53と、衛生洗浄装置の動作を指示する衛生洗浄スイッチ54と、標的位置の変更を行うための変更スイッチ57と、測定結果や測定状況などの各種情報を表示するリモコン表示部32と、が設けられている。
【0091】
ここで、本発明が測定対象とする尿温は、単なる一過性の身体情報としてだけでなく女性の生理周期の管理等の健康管理情報としても使用されるため、長期的な測定結果の個人単位での蓄積が重要となってくる。従って、複数の被験者が使用する形態の場合はこの複数の被験者を個人識別する機能が必要となる。
【0092】
そのための個人識別手段としては、IDカード等の既存の方法を採用することも可能であるが、本実施形態においては複数個のスイッチを設けて、この各スイッチを特定の被験者に割り当てて、個人識別を行う構成としている。
【0093】
即ち、個人別尿温測定スイッチ51は、本実施形態においては尿温測定を開始する測定開始手段としても機能させているが、図示するように個人家庭での使用を想定して4つのボタンを備えており、例えば家族を構成する各個人毎に割り当てて個人識別手段としても使用できるようにしている。
【0094】
そして、これらの4つのボタンからなる個人別尿温測定スイッチ51は、各ボタン毎に専用の記憶領域が割り当てられており、得られた測定結果は選択されたボタンに割り当てられた被験者の測定結果としてこの専用の記憶領域に記憶される。即ち、例えば、「1」のボタンを押して尿温測定を行うと、得られた結果は「1」のボタン専用の記憶領域に格納される。
【0095】
こうして、被験者PAは、割り当てられた「1」のボタンを押下して尿温測定を行うようにすることで、「1」のボタンに割り当てられた前記記憶媒体の記憶領域上には、被験者PAの尿温測定結果のみが蓄積されるようにすることができる。
【0096】
また、個人別スイッチ51の各ボタンを操作することにより、この専用の記憶領域に蓄積された個人別の尿温測定結果が読み出され、その履歴が図示するようにグラフ化されてリモコン表示部32に表示できるようにしている。
【0097】
なお、この個人別スイッチ51の個人識別機能を利用して、本実施形態では単に測定結果の管理だけでなく、個人単位での管理が必要なその他の情報の管理にも使われている。
【0098】
即ち、本実施形態では、被験者に放尿位置の目標となる光学的な標的Hをボウル面に表示する構成となっているが、この標的Hの表示位置は被験者毎にこの個人別スイッチ51に割り付けられて記憶されており、被験者Pが測定開始時に個人別スイッチ51を選択押下げすることによって、そのスイッチに割り付けられた標的位置に標的Hが表示されるようになっている。
【0099】
具体的には、測定開始時に個人別尿温測定スイッチ51が操作されると、標的位置設定部71は、個人別尿温測定スイッチ51に応じて割り付けられて記憶媒体に記憶されている個人別の標的位置を選択して標的位置P−3を取得すると共に、図示しない電動モータなどのアクチュエータを駆動して標的位置投影部50を移動させ、ボウル面B上に投影される標的Hを個人別尿温測定スイッチ51に応じた標的位置P−3に設定する。
【0100】
次に、この個人別尿温測定スイッチ51への初回使用時の標的位置の割付登録方法について具体的に説明する。
【0101】
被験者Pが任意の個人別スイッチ51を選択すると予め決められた初期位置に標的Hが表示される。その後、放尿を開始して変更スイッチ57を操作して標的Hの表示位置を尿の衝突位置に極力一致させる。その後、尿温測定を終了すると、そのときの位置が被験者Pの標的位置P−3として、選択されている個人別スイッチ51に割り付けて記憶される。次回使用時からはその登録された位置に標的が表示される。
【0102】
また変更スイッチ57は、本実施形態では、標的位置調節手段としての機能を担っている。即ち、この標的位置は被験者自身が設定して記憶された位置であり、かつ、本実施形態では便座に着座して排尿する形態であるため、同じ被験者であればその標的位置に合わせて放尿することは比較的簡単であるが、それでも便座に座る位置や姿勢によっては標的位置からはずれた位置に尿流衝突位置がずれる場合が発生することが考えられる。
【0103】
即ち、被験者Pは、測定中に尿流衝突位置が標的位置からずれた場合、この変更スイッチ57の移動させたい方向のボタン(図6参照)を選択して押し操作して、標的位置を尿流衝突位置に合致させるように変更する。このとき、その状態で一連の測定が終了すると標的位置設定部71は、そのときの位置を標的位置P−3として個人データを更新する。
【0104】
このように、被験者Pは、変更スイッチ57を利用して自分に最適と思われる位置に標的Hを設定することが出来るので、標的位置P−3と実際の尿流衝突位置P−2とのズレが少なくなり検温尿流領域Uの確実な温度計測が可能となるため、ひいては尿温(体温)の正確な測定が可能となる。
【0105】
なお、本実施形態ではこの変更スイッチ57は図示するように、位置調節は前後のみに調節可能な形態としているが、標的位置移動部58と併せて前後左右に調節可能に構成しても良い。
【0106】
また、個人別スイッチ51を押下した際に、動作開始指示手段として機能させる場合や、尿温測定履歴を表示させる場合などに、パスワードを要求するように構成しても良い。このように構成することで、個人情報の漏洩を防止したり、プライバシーを保護したりすることが可能となる。なお、パスワードを入力させるには別途テンキースイッチを設けたり、あるいはリモコン表示部32にタッチパネルを設けたりしておくとよい。
【0107】
表示部32は、本実施形態においては前述したように測定結果の数値や履歴グラフを表示するだけでなく、図示のように、標的位置の変更可能レンジに対する現在の標的位置P−3を相対表示して、被験者に測定状況を知らせるようになっている。
【0108】
(検温領域Sの具体的な設定方法について)
本実施形態における尿温測定装置1における検温領域Sの設定方法について説明する。
【0109】
図7は、本実施形態に係る尿温測定装置1を構成する便器本体部12の一部断面図であり、図8は便器本体部12のボウル面B上に形成される展開尿流領域と標的Hを示す平面図であり、図9は展開尿流領域内の検温尿流領域を示すための図7中のR矢視図であり、ボウル面上に形成される展開尿流領域の位置が変動した状態も一点鎖線で併せて示している。
【0110】
尿温測定装置1において、被験者が便座に着座してボウル面Bの所定位置に投影された標的Hを目がけて排尿すると、その尿は、図7に示すように、放物線を描きながら標的H近傍に落下して衝突する。そして、ボウル面Bに衝突した尿は、図8に示すように、排尿される量に応じた広がりで、尿流衝突位置P−2の周りに展開しながら溜水Wに向けて流下していく。図中、Tはボウル面B上の尿流衝突位置P−2の周りに形成される展開尿流領域を示す。
【0111】
ここで図9に示すように、展開尿流領域T内のUで示される特定領域は、前述したように、排尿直後の尿の温度即ち、本発明における尿温に極めて近い温度で一様な温度分布を示し、かつ、その位置と形状は尿流衝突位置P−2と良好な相関関係があることが確かめられた(以下、この特定領域を検温尿流領域Uと呼ぶ)。
【0112】
なお、本実施形態においては、前述したように、赤外線受光部に複数個の測温素子61からなる測温素子部44を採用して、検温領域Sはこれらの複数個の測温素子61に割り付けられた構成としているため、それらの複数個の検温領域のうち少なくとも一つがこの検温尿流領域Uに含まれていれば、正確な計測が可能となる。
【0113】
そして、この検温尿流領域Uの大きさは、ある実験例では、温度分布が尿温測定に必要な±0.1℃以内の範囲とすると約50mm×70mmであり、本実施形態で採用する測温素子群62(8×8=64素子)の検温領域S(20mm×20mm)の一素子あたりの検温領域の大きさ(20/8mm×20/8mm)に対して、安定的に計測するために充分な広さであることが確かめられた。
【0114】
従って、本実施形態における尿温測定装置1は、尿温を計測する検温領域Sを、尿流衝突位置P−2に基づいて、ボウル面B上の上記検温尿流領域U内に設定している。
【0115】
すなわち、予め、いろいろな尿流衝突位置を設定してその周りに形成される検温尿流領域U内の位置と形状を測定し、その関係を測定制御部41の記憶部に記憶しておく。そして測定時に、尿流衝突位置認知部45が認知する検温位置設定部46が検温領域Sの位置を、尿流衝突位置P−2に基づいて予め決められた検温尿流領域U内の所定位置に設定している。
【0116】
また、この検温尿流領域Uは多くの場合、排尿口P−1とボウル面Bとの位置関係から、図示されているように尿流衝突位置P−2の下方側がより広い範囲に形成されていることも予備実験で判明した。
【0117】
従って、本実施形態ではかかる検温領域Sを、図9に示すように、検温尿流領域U内であって、かつ尿流衝突位置P−2より下方の所定位置に設定している。この位置の検温尿流領域Uは検温領域Sの広さに比べて充分広いため、被験者Pの排尿位置や排尿状態が排尿中に変化しても予め登録されている尿流衝突位置P−2を基準として検温領域Sの位置を設定する限り、安定した検温尿流領域Uの温度計測が可能となる。
【0118】
こうして、検温領域Sを尿流衝突位置P−2より下方に設定することにより、高精度な尿温測定が安定して可能となる。
【0119】
また、同じ被験者Pであっても、実際の尿流衝突位置は標的Hの表示位置に対して前後左右に変動することが多いものと考えられるが、基準となる尿流衝突位置P−2の下方に検温領域Sを設定することにより、図9で一点鎖線で示すように、標的位置P−3の標的Hに対して、実際の尿流衝突位置がP’−2のように前後左右に若干変位したとしても、検温領域Sは、移動後の検温尿流領域U’内に含まれる可能性が著しく高くなる。
【0120】
このように、被験者Pに表示する標的Hを目がけて放尿させて、その標的位置P−3を尿流衝突位置P−2と見做す構成を尿流衝突位置認知手段としたとしても正確な尿温測定が期待できる。
【0121】
こうして、被験者が標的Hを目がけて排泄した尿は、ボウル面Bで衝突した後は尿流衝突位置P−2の周りに薄く広がって展開尿流領域T内に検温尿流領域Uを形成し、標的位置P−3を尿流衝突位置P−2と見做して検温領域Sを設定することにより、簡素な構成で確実な尿温測定が可能となる。
【0122】
(尿温測定装置による尿温測定の手順について)
次に、上述した構成からなる尿温測定装置1の尿温測定の手順を、図10及び図11に示す動作フローチャートを参照しながら以下に説明する。
図10は動作全体を示すフローチャートであり、図11は図10のルーチン処理の詳細を示すフローチャートである。
【0123】
まず、被験者Pが便座本体15に着座した状態でリモコン装置11の予め自分に割り当てられた個人別スイッチ51を適宜選択して押圧操作すると、リモコン装置11のリモコン制御部31は、尿温計測スイッチのON信号と選択されたスイッチ番号を検出する(ステップS11)。
【0124】
このON信号を検出したリモコン制御部31は、尿温計測部40による計測動作を開始させるための指示信号、すなわち、計測動作開始指示信号を生成し、リモコン通信部34を介して装置本体部10の測定制御部41に送信する(ステップS12)。なお、この計測動作開始指示信号にはスイッチ番号信号も被験者特定信号(この信号を含めて、被験者を特定するための情報を、以下では「被験者特定情報」とも呼ぶ)として含まれている。
【0125】
次いで、測定制御部41の標的位置設定部71は、本体通信部42を介して計測動作開始指示信号を受信すると標的表示手段50のアクチュエータを駆動して、標的を計測動作開始指示信号に含まれている被験者特定信号に応じて初回使用時に個人別スイッチ51によって標的位置P−3として登録された位置に移動させる(ステップS13)。
【0126】
そして、尿流衝突位置認知部45はここで設定された標的位置P−3を尿流衝突位置P−2として記憶するとともに、検温領域位置設定部46は検温領域移動手段を駆動させて、この尿流衝突位置P−2から予め決められた所定距離下方の位置に検温領域Sを設定する(ステップS14)。
【0127】
この後、被験者Pは排尿を開始するが、必要に応じて変更スイッチ57を操作して、標的位置の微調整を行う。すると、位置移動信号がリモコン装置11から装置本体部20に送られ、標的位置設定部71(測定制御部41)は、変更スイッチ57の操作量に応じた位置信号を標的表示手段50に送り標的位置の微調整を行うと共に、この変更後の標的位置を被験者Pの標的位置P−3として更新記憶する(ステップS15)。
【0128】
測定制御部41は、検温領域Sを設定完了すると、尿温計測部40の制御を開始して、尿温測定処理を実行する(ステップS16)。なお、この尿温測定処理については尿温計測処理ルーチンとして、以下で図11を用いて詳細説明する。
【0129】
尿温計測処理ルーチンは図11に示すように、先ず、測定制御部41の尿温算出部47は、サーモパイルの各素子の計測温度を取得する(ステップS21)。すなわち、赤外線受光部44において、検温領域Sから分担して受光される赤外線を基に、8×8構成の測温素子群62の各測温素子61における出力信号を走査して得られる一組の2次元計測温度情報を1フレーム情報として取得する動作を所定回数になるまで繰り返す。
【0130】
次いで、尿温算出部47は、取得されたフレーム数が予め設定された回数に達したと判定すると(ステップS22:Yes)、測温素子群62における測温素子61毎の計測温度情報に対して平均化処理を行い、予め設定されたフレーム数における各測温素子61の平均計測温度を算出する(ステップS23)。
【0131】
本実施例においては、測温素子群62における全ての測温素子61について、50フレーム分の取得データに基づいて平均計測温度を算出する。このように、予め設定されたフレーム数における各測温素子61の平均計測温度を算出することにより、一般に測温素子61毎に発生する検出信号のノイズによる計測値への影響量を軽減することができる。
【0132】
規定回数に達しない場合(ステップS22:No)、ステップS21の処理に戻す。
【0133】
次に、測定制御部41は、予め設定されたフレーム数における各測温素子61の平均計測温度のうち、最大値を抽出し、これをその時点での尿温計測値として記憶媒体に記憶する(ステップS24)。
【0134】
すなわち、測定制御部41は、赤外線を受光した複数の測温素子61の出力信号からそれぞれの素子毎に平均計測温度を算出し、それらの平均計測温度のうち最高値を、尿温計測部40の尿温測定値とする処理を行うのである。通常の測定環境においては尿の温度はその周囲温度より高い状態にあるため、尿の温度は排尿直後の温度から放冷現象によって低下することはあっても、上昇することはないので、計測して得られた素子毎の複数個の温度の中の最高値を検温尿流領域U内の尿の温度の計測値とすることにより、尿温により近い計測値を得ることができる。
【0135】
なお、本実施形態ではこのように、赤外線受光部として複数個の測温素子からなるものを使用して、得られる複数個の温度データの中から一つを選ぶ方法を採用しているため、前述した検温尿流領域U内に少なくとも一つの単位検温領域Sxが含まれていれば、検温尿流領域U内の尿の温度計測は正しく行われる。
【0136】
次に、測定制御部41は、リモコン装置11のリモコン操作部33における測定終了スイッチ52が押圧操作されたか否かを判定する(ステップS25)。
【0137】
その結果、測定終了スイッチが押圧操作されていないと判定すると(ステップS25:No)、測定制御部41は、処理をステップS22に戻す。
【0138】
一方、測定終了スイッチが押圧操作されたと判定すると(ステップS25:Yes)、測定制御部41は、尿温測定スイッチが押圧操作されてから測定終了スイッチが押圧操作されるまでの間の各時点での尿温計測値として記憶媒体に記憶されている記録値のうちの最大値を抽出し、一回の排尿行為における尿温測定値として確定し、この尿温測定値を記憶されている被験者特定情報に対応付けて記憶媒体に記憶させて(ステップS26)、尿温測定処理を終了する。
【0139】
尿温測定処理が終わると測定制御部41は、得られた尿温測定結果情報と被験者特定情報に対応する被験者の過去の測定情報とを基にして、リモコン装置11のリモコン表示部32に表示する測定結果表示データを作成する(ステップS17)。
【0140】
次に、測定制御部41は、作成された測定結果表示データ含めた測定結果に関する情報(以下、この情報を「尿温測定結果情報」とも言う。)を、本体通信部42を介してリモコン装置11のリモコン制御部31に送信する(ステップS18)。
【0141】
なお尿温測定結果情報の他の例として、例えば、ある測定において、尿流衝突位置が大幅にずれた場合や排尿が短時間で終わったりしたため尿温測定が正常に行われなかった場合には、尿温測定が正常に行われなかったことを示すアラーム情報がある。
【0142】
リモコン通信部34を介して尿温測定結果情報を受信すると、リモコン制御部31は、リモコン表示部32に尿温測定結果を表示する(ステップS19)。
【0143】
この際、尿温測定が行われなかったことを示す情報が含まれている場合には、例えば、「尿温測定は正常に行われませんでしたので、測定結果には誤差があります」等の表示をリモコン表示部32に行なって被験者に注意すべき旨を報知する。
【0144】
その後、装置本体部10の測定制御部41、及びリモコン装置11のリモコン制御部31は、次回の尿温測定に必要な所定の測定準備動作を行い、一連の尿温測定を終了する。
【0145】
また、本実施形態では、尿温測定に関する操作や表示を行うものとして、装置本体部10とは別に設けたリモコン装置11にリモコン表示部32やリモコン操作部33等を設置し、リモコン装置11と装置本体部10との間で通信を行なって尿温測定装置1として機能する構成としているが、リモコン装置11のリモコン表示部32やリモコン操作部33に代えて、装置本体10に操作表示部などを設ける構成としてもよい。
【0146】
ところで、上述してきた尿温測定装置1は、洋式大便器に予め尿温測定部20を一体的に組み込んだものとした。しかし、尿温測定部20を洋式大便器とは別体の筐体内に設けておき、既設の洋式大便器に後付け可能な構成とすることもできる。
【0147】
また、本実施形態では赤外線受光部44が備える受光素子として複数の測温素子からなる測温素子群を使用した例として説明したが、少なくとも検温領域の温度に応じた信号出力を行えるものであれば良いため、単一の測温素子からなる受光素子としてもよい。
【0148】
また、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0149】
B ボウル面
H 標的
P 被験者
P−1 排尿口
P−2 尿流衝突位置
P’−2 尿流衝突位置(移動後)
P−3 標的位置
R 視点
S 検温領域
Sx 単位検温領域
T 展開尿流領域
U 検温尿流領域
U’ 検温尿流領域(移動後)
W 溜水
1 尿温測定装置
10 装置本体部
11 リモコン装置
12 便器本体
15 便座
15a 便座本体
15b 便蓋
17 ボウル部
19 便器機能部
20 測定装置本体部
31 リモコン制御部
32 リモコン表示部
32a 測定結果表示
32b 測定状況表示
32c 標的位置表示
33 リモコン操作部
34 リモコン通信部
40 本体計測部
41 測定装置制御部
42 本体通信部
44 赤外線受光部
45 尿流衝突位置認知部
46 検温領域位置設定部
47 尿温算出部
50 標的投影部
51 個人別スイッチ
52 測定終了スイッチ
53 便器洗浄スイッチ
54 衛生洗浄スイッチ
57 変更スイッチ
58 標的位置移動部
60 温度信号処理部
61 測温素子
62 測温素子群
63 光学部
64 基準温度素子
65 アドレス信号出力手段
66 スキャン手段
67 増幅手段
68 A/D変換手段
69 受光素子部
71 標的位置設定部
72 検温領域移動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の広さを有する検温領域内から放射される赤外線を受光して前記検温領域内の温度を計測する測温素子を有して被験者が排泄する尿の温度を非接触で計測する尿温計測手段を備えた尿温測定装置において、 被験者が排泄した尿を受けるボウル面が形成された洋式大便器と、 前記尿が前記ボウル面に当たる位置を尿流衝突位置として認知する尿流衝突位置認知手段と、
前記検温領域の位置を設定する検温領域位置設定手段と、
を備え、
前記検温領域位置設定手段は、前記尿流衝突位置に基づいて前記検温領域を前記尿流衝突位置の周りに形成され、所定の温度分布範囲を有する検温尿流領域内に設定することを特徴とする尿温測定装置。
【請求項2】
前記検温領域設定手段は、前記検温尿流領域内において前記尿流衝突位置よりも所定距離下方の所定位置に前記検温領域を設定することを特徴とする請求項1記載の尿温測定装置。
【請求項3】
排尿時における放尿位置の目安となる標的を前記ボウル面上に表示する標的表示手段を有し、前記尿流衝突位置認知手段は、前記標的表示手段の表示する位置を尿流衝突位置として認知するものであることを特徴とする請求項2記載の尿温測定装置。
【請求項4】
前記標的表示手段は、投影された光像により前記標的を前記ボウル面上に表示することを特徴とする請求項3記載の尿温測定装置。
【請求項5】
前記光像を表示する位置を被験者が任意の位置に移動させることを可能とする標的位置調節手段を備えていることを特徴とする請求項4記載の尿温測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−172498(P2010−172498A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18369(P2009−18369)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】