説明

尿素水

【課題】例えば窒素酸化物還元用として有用な新規な尿素水を提供する。
【解決手段】キレート剤を含有し且つカルシウムイオンと亜鉛イオンと鉛イオンの合計濃度が0.005〜0.5ppmである尿素水。本発明の好ましい態様において、キレート剤はアミノカルボン酸系化合物または重合リン酸系化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素水に関し、詳しくは、例えば窒素酸化物還元用として有用な新規な尿素水に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される排気ガスには、炭化水素類(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)及びParticulate Matter(パティキュレート:PM)等の汚染物質が含まれる。これらの汚染物質の中でもNOの除去方法として、尿素水を用いる方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
また近年、NOの除去効率を向上させるべく、各種触媒等の開発が盛んである。しかし一般的な酸化触媒やガソリン自動車で実用化されている還元触媒ではNOの浄化が難しく、この改良方法として、NO浄化に有望な触媒である選択還元型NO触媒(以下、「SCR触媒」という。)の開発が行われている。
【0003】
このSCR触媒はアンモニアなどの還元剤の存在下でNOを浄化する触媒である。例えば、尿素水タンクからSCR触媒の上流側の排気系に尿素水を添加し、排気ガスの熱により尿素水中の尿素を加水分解してアンモニアとし、このアンモニアを還元剤として利用し、排気ガス中のNOと反応させて、排気ガス中のNOを浄化する反応を利用したものが挙げられる。ここで、前述するようにNOがアンモニアと反応することによりNO浄化が行われる為、尿素水を安定して供給しないとSCR触媒が浄化作用を発揮しなくなる。
【0004】
尿素水を安定して供給できなくなる事例としては、例えば尿素水がタンクから排気系に添加されるまでに通過する供給管において析出物が生じ、目詰まりを起こしてしまう場合が知られている。この析出物は従来、尿素水中に溶解した尿素が温度や濃度の変化等により析出し、供給管を閉塞してしまうものと考えられてきた。その為、尿素水中の尿素の析出を抑制するという観点から、ジメチロール尿素またはトリメチロール尿素に対して2〜5倍モル量のホルムアルデヒドを添加して、尿素体の固結を抑制することが行われていた(例えば特許文献2参照)。
【0005】
尿素とキレート剤を含有する組成物を用いた公知技術としては、コンタクトレンズ洗浄用の洗浄剤の一成分として、キレート剤と尿素を添加するもの(例えば特許文献3及び特許文献4)、金属洗浄用の洗浄剤の一成分として、キレート剤と尿素を添加するもの(例えば特許文献5)が知られている。しかしながら、これらは、コンタクトレンズに沈着した不純物を除去したり金属表面を脱脂する用途の為に使用されているものであり、これら文献には脱硝方法に関しては何らの記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−252429号公報
【特許文献2】特公昭50−34536号公報
【特許文献3】特公平5−55046号公報
【特許文献4】特公平7−66113号公報
【特許文献5】特公昭63−13480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、尿素水がタンクから排気系に添加されるまでに通過する供給管や供給管端部等に生じる析出物を抑制し、ガス流と尿素水を効果的に接触させることによって、ガス流に含まれる窒素酸化物を効率よく且つ運転上の問題なく還元することのできる、新規な尿素水を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この様な状況に鑑みて、本発明者らが鋭意検討した結果、尿素水中に於ける析出物として、その主成分が炭酸塩類であることを見出した。これは、尿素の製造工程からの持ち込みや、尿素の分解時に尿素水中に生成する炭酸ガスが、尿素水中の不純物と反応し、尿素水に対して溶解度(炭酸塩等)となることが考えられる。そしてこのような析出物の生成を充分に抑制する為に、従来技術とは異なった観点から鋭意検討し、この炭酸塩等の生成抑制について鋭意検討を重ねた。
【0009】
その結果、尿素水中に特定物質、具体的には、キレート剤を添加することによって、尿素水中の析出物を抑制し、且つNO除去に影響のない尿素水となることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は、キレート剤を含有し且つカルシウムイオンと亜鉛イオンと鉛イオンの合計濃度が0.005〜0.05ppmであることを特徴とする尿素水に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の尿素水は、特定の化合物、つまりキレート剤を含有することによって、尿素水中からの析出物の生成を抑制することが可能となる。そしてアンモニアを必要とする脱硝装置に本発明の尿素水を適用することで、上述の様な析出物による尿素水配管の閉塞を防ぎ、装置動作の不具合を抑制し、安定した脱硝を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1はSCR触媒への尿素水供給システムの模式図である。
【図2】図2は尿素水中の尿素濃度及び尿素水の温度の変化に伴う尿素水の状態を示す状態図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の尿素水は、少なくとも尿素、キレート剤を含む尿素水に関する。尿素含有量は、例えばこの尿素水を用いるNO除去方法、装置によって適宜選択すればよい。本発明の尿素水に於ける尿素含有量は、通常10〜50重量%であり、中でも20〜40重量%、更には25〜35重量%、特に30〜35重量%であることが好ましい。
【0013】
尿素水中の尿素含有量が少なすぎるとこの尿素水を用いた脱硝操作を行う際、脱硝効率が低くなり、実用的でない。逆に尿素含有量が多すぎても、含有量上昇に伴う脱硝効果が頭打ちとなり、経済的でない。
【0014】
本発明における尿素の製造方法は、特に制限はなく、従来公知の方法によって得られる任意のものを使用できる。例えば、アンモニアガスと炭酸ガスを高温、高圧で反応させて製造する方法が挙げられる。この際の反応条件や反応時に副生する水の回収条件によって、TEC/MTC法、Montedison法、Stamicarbon法、SNAMprogetti法等の授受の方法がある。一般的な反応圧力は140〜200kg/cmであり、反応温度は180〜200℃とすればよい。反応後の尿素は水を多量に含んでいるため、脱水した後、造粒塔や造粒器により粒子状の尿素として生成させればよい。
【0015】
本発明の尿素水に含まれるキレート剤は、任意のものを使用できる。中でもアミノカルボン酸系や重合リン酸系化合物を用いることが好ましい。
アミノカルボン酸系としては、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ニトリロ三酢酸、または以上それぞれの化合物のアンモニウム塩、またはナトリウム塩、等が挙げられる。
【0016】
中でも、エチレンジアミン四酢酸のアンモニウム塩が、少量の添加量で析出物の発生を抑制することが可能であり、尿素水のpHの変動を小さく保つことが可能であり、好ましい。重合リン酸系化合物としては、トリポリリン酸ソーダが少量の添加量で析出を抑制することが可能であり好ましい。
【0017】
キレート剤の添加量は、尿素水に対して、5ppm〜5重量%であり、好ましくは10ppm〜1重量%、更に好ましくは、30〜500ppmである。尿素水に使用する水は、通常の水道水でも、イオン交換樹脂処理や蒸留処理した精製水であっても良いが、精製度が低い水を使用する場合は、キレート剤の添加量を増やす必要がある。
【0018】
このキレート剤の効果は、尿素水中の金属分(たとえば、カルシウム、亜鉛、鉛等)が炭酸と不溶な塩をつくることを妨げ、尿素水中に析出物が生じないようにしていると推定される。従って、尿素水に含まれるカルシウムイオン、亜鉛イオン、及び鉛イオンの濃度は小さいことが好ましく、中でも、尿素水中のカルシウムイオンと亜鉛イオンと鉛イオンの合計濃度が0.5ppm以下であることが好ましい。
これらの金属イオンの合計濃度は、先述の通り、低ければ低いほど好ましいが、一般的な下限値は0.005ppmである。これよりも少なくするには過剰の手間が掛かる上、低減化させるコストに見合う分の効果の向上が期待できない場合がある。
【0019】
本発明の尿素水中における、上述した様な金属イオン不純物は、尿素を溶解させる水から主として混入してくる。よってこれら金属イオン等の不純物を除去し精製した水を用いれば良い。具体的な精製方法としては、例えば、水道水をイオン交換樹脂と接触させて処理するか、又は活性炭とイオン交換樹脂及びフィルターを組み合わせて処理して精製すればよい。
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の尿素水を用いた脱硝方法の実施形態を具体的に説明するが、以下の実施形態は本発明を限定するものではない。
図1は、SCR触媒への尿素供給システムの簡易モデル試験装置であり、還元剤である尿素水を貯蔵する尿素水タンク21と、尿素水タンク21内の尿素水を供給管23に供給する尿素水供給部22と、供給管23により送液される尿素水を例えば図2で示されるような自動車等の排気ガスの排気系に供給する尿素水添加ノズル24とからなる。
【0021】
ここで、尿素水供給部22内の尿素水通路は径が細く、また尿素水添加ノズル24の噴孔径も小さい。本発明の尿素液を用いることで、これらの箇所等の通路径が小さい部分であっても、析出物を抑制し、目詰まりを防止する。
一般に市販されている、尿素試薬のみを純水に溶解させて得られた、尿素濃度が33重量%の水溶液を図1の様な試験装置に供すると、尿素水の経路における尿素水供給部22から尿素水添加ノズル24の間で閉塞が起こり、尿素水の供給ができなくなるが、本発明の尿素液を用いることで、この様な閉塞を抑制できる。
【0022】
尿素水を噴霧するために、尿素水と混合するガスは本発明の脱硝方法の効果を損ねない範囲で、任意のものを使用できる。中でも空気や窒素ガスが入手が容易で脱硝方法の効果を損ねないので好ましく、特に空気を用いることが好ましい。混合する際のこのガスの圧力は、好ましくは1〜9.9kg/cm、より好ましくは4〜8kg/cmである。ガスの流量としては、好ましくは0.1〜5m/hr、より好ましくは1〜3m/hrである。
【0023】
尿素水噴霧用のガスに対する尿素水の流量は、通常0.1〜50ml/min、好ましくは0.5〜40ml/min、さらに好ましくは1〜30ml/minである。尿素水の温度については特に制限はないが、尿素が析出しない温度とすることが好ましい。尿素水噴霧の際の噴霧ガスの圧力は、通常0.1〜8kg/cm、好ましくは0.5〜6kg/cm、さらに好ましくは1〜4kg/cmである。
【0024】
脱硝対象である排気ガスに対する尿素噴霧液の接触方向は、装置等の構造等により、並流、向流、直角等、任意の方向を適宜選択、又はこれらを組み合わせて用いればよい。中でも排気ガスの流れを妨げず、効率的に接触させるために、並流に噴霧することが好ましい。
【0025】
噴霧する尿素水の温度は、尿素が析出しない温度であれば、任意の温度を適宜選択し決定すればよい。中でも触媒上での反応を妨げないように、一般的には、20〜80℃、好ましくは25〜75℃、さらには30〜60℃であることが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。
<尿素水の調製>
(尿素水A)試薬尿素粉末品(和光純薬製、1級試薬)を水道水に溶解させ、尿素濃度が33wt%の尿素水を調製した。この尿素水中のカルシウムイオンと亜鉛イオンと鉛イオンの合計濃度は11ppmであった。
(尿素水B)水道水を、イオン交換樹脂(三菱化学社製:ダイヤイオンSK1B)を充填したカートリッジに通液した後、試薬尿素粉末品(和光純薬製、1級試薬)を溶解させ、尿素濃度が33wt%の尿素水を調製した。この尿素水中のカルシウムイオンと亜鉛イオンと鉛イオンの合計濃度は0.5ppmであった。
(尿素水C)水道水を、活性炭とイオン交換樹脂及び0.1μmの中空糸フィルターを備えた小型純水製造装置(柴田社製:ピュアポート)に通した後、試薬尿素粉末品(和光純薬製、1級試薬)を溶解させ、尿素濃度が33wt%の尿素水を調製した。この尿素水中のカルシウムイオンと亜鉛イオンと鉛イオンの合計濃度は0.005ppmであった。
【0027】
[実施例1]
上記(尿素水A)500mlに、エチレンジアミン四酢酸アンモニウム塩(ナガセケムテックス社製)を濃度が0.01重量%になるように添加し、混合し、三角フラスコに入れた後、密栓する。それを40℃の恒温室に30日間放置した後、液中及びフラスコ壁面への析出物の有無を目視にて確認したが、析出物は全く確認されなかった。
[実施例2]
上記(尿素水B)を使用し、エチレンジアミン四酢酸アンモニウム塩の添加濃度を0.001重量%に変更した他は、実施例1と同じ条件で放置テストを実施したところ、液中及びフラスコ壁面に析出物は全く確認されなかった。
[実施例3]
上記(尿素水C)を使用した他は、実施例2と同じ条件で放置テストを実施したところ、液中及びフラスコ壁面に析出物は全く確認されなかった。
【0028】
[比較例1]
キレート剤を全く添加しない以外は、実施例1と同じ条件で放置テストを実施したところ、液中及びフラスコ壁面に析出物が確認された。この析出物を採取し、組成を確認したところ、炭酸カルシウムであった。
[比較例2]
キレート剤を全く添加しない以外は、実施例2と同じ条件で放置テストを実施したところ、液中及びフラスコ壁面に析出物が確認された。
【0029】
[実施例4]
キレート剤としてジエチレントリアミン五酢酸5ナトリウム塩を使用した以外は、実施例1と同じ条件で実施したところ、析出物は全く確認されなかった。
[実施例5]
キレート剤としてジエチレントリアミン五酢酸5ナトリウム塩を使用した以外は、実施例2と同じ条件で実施したところ、析出物は全く確認されなかった。
[実施例6]
キレート剤としてジエチレントリアミン五酢酸5ナトリウム塩を使用した以外は、実施例3と同じ条件で実施したところ、析出物は全く確認されなかった。
【0030】
[実施例7]
キレート剤としてトリエチレンテトラミン六酢酸6ナトリウム塩を使用した以外は、実施例1と同じ条件で実施したところ、析出物は全く確認されなかった。
[実施例8]
キレート剤としてヘキサメタリン酸ソーダを使用した以外は、実施例1と同じ条件で実施したところ、析出物は全く確認されなかった。
【0031】
[比較例3]
比較例1と同じ条件で調製した尿素水を、図−1に示す評価装置にてスプレーした。圧縮エアー圧力は5.0kg/cm、流量は2.0m/Hで流し、一方、尿素水の流量は10cc/minで圧縮エアーと混合させた。混合させる前の尿素水の温度は、45℃であった。尿素水とガスの混合後の圧力は2.5kg/cmであり、その尿素液噴霧液の温度は40℃であった。8時間スプレーし、その後16時間スプレーを中断するというサイクルを10回繰り返したところ、尿素水供給部22から尿素添加ノズル24の間で閉塞が起こった。
[比較例4]
比較例2と同じ条件で調製した尿素水を、比較例3と同様の操作でスプレーしたところ、尿素水供給部22から尿素添加ノズル24の間で閉塞が起こった。
【0032】
[実施例9]
実施例1と同じ条件で調製した尿素水を比較例3と同様な操作でスプレーした。30回のサイクルを繰り返した後でも、尿素水供給部22から尿素水添加ノズル24の間での閉塞は起こらなかった。
[実施例10]
実施例2と同じ条件で調製した尿素水を比較例3と同様な操作でスプレーした。30回のサイクルを繰り返した後でも、尿素水供給部22から尿素水添加ノズル24の間での閉塞は起こらなかった。
【符号の説明】
【0033】
1:SCRシステム
2:エンジン
3:SCR触媒
4:尿素水タンク
5:尿素水添加ノズル
6:エンジンECU
7:温度センサ
8:排ガス
10:コントロールユニット
11:レベルセンサ
14:供給管
16:尿素水供給部
21:尿素水タンク
22:尿素水供給部
23:供給管
24:尿素水添加ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート剤を含有し且つカルシウムイオンと亜鉛イオンと鉛イオンの合計濃度が0.005〜0.5ppmであることを特徴とする尿素水。
【請求項2】
キレート剤がアミノカルボン酸系化合物または重合リン酸系化合物である請求項1に記載の尿素水。
【請求項3】
窒素酸化物還元用の請求項1又は2に記載の尿素水。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−209065(P2010−209065A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46853(P2010−46853)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【分割の表示】特願2004−331707(P2004−331707)の分割
【原出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000230652)日本化成株式会社 (85)
【Fターム(参考)】