説明

尿素濃度識別装置および尿素濃度識別方法ならびにそれを用いた自動車の排気ガスの低減装置および自動車の排気ガスの低減方法

正確にしかも迅速に尿素溶液の尿素濃度を識別する。ヒーターと、ヒーターの近傍に配設された識別用液温センサーとを備えた尿素濃度識別センサーヒーターに、パルス電圧を所定時間印加して、ヒーターによって、被識別尿素溶液を加熱し、識別用液温センサーの初期温度とピーク温度との間の温度差に対応する電圧出力差V0によって、尿素濃度を識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、尿素溶液の尿素濃度識別装置および尿素溶液の尿素濃度識別方法、ならびにそれを用いた自動車の排気ガスの低減装置および自動車の排気ガスの低減方法に関する。
【背景技術】
従来より、自動車の排気ガスには、未燃焼のハイドロカーボン(HC)、NOxガス、SOxガスなどの汚染物質が含まれているため、これを低減するために、例えば、SOxではガソリン、軽油中のSを除去したり、触媒によって未燃焼のHCを燃焼することによって低減することが行われている。
すなわち、図13に示したように、自動車システム100は、空気をオートマックエレメント(フィルター)102で取り入れて、空気流量センサー104を介してエンジン106に送り込んでいる。また、燃料タンク108内の燃料を燃料ポンプ110を介して、エンジン106に送り込んでいる。
そして、A/Fセンサー112の検出結果に基づいて、所定の理論空燃比となるように燃料噴射制御装置114でエンジン106での燃料の噴射が制御されるようになっている。
そして、エンジン106からの排気ガスは、排気ガス中のハイドロカーボン(HC)が触媒装置116で燃焼された後、酸素濃度センサー118を介して、排気ガスとして排出されるようになっている。
ところで、最近では、排ガス中のNOxが環境に与える影響を考慮して、例えば、ガソリン、軽油などの自動車燃料からの排気ガス中のNOxを低減するために、尿素溶液を触媒装置116に供給することによって、NOxを還元してNガスとして無害化する方法が提案されている。
すなわち、図13に示したように、自動車システム100において、尿素溶液を貯留する尿素溶液タンク132と、尿素ポンプ134と、尿素ポンプ134から送給された尿素溶液を触媒装置116の上流側に噴霧する尿素噴霧装置136とから構成される尿素溶液供給機構130を介して、触媒装置116の上流側に尿素溶液を供給するように構成されている。
ところで、このような自動車システムにおいて、尿素溶液が固化せずに、触媒装置116の上流側で還元反応が効率良く発生するためには、例えば、尿素32.5重量%、HOが67.5重量%とするのが好適である。
このため、従来では、触媒装置116の上流側に噴霧される尿素の濃度が一定であるかどうかを判断するために、触媒装置116の上流側と下流側にそれぞれ、NOxセンサー140、142を配設して、NOxの濃度を測定することによって行われている。
しかしながら、このNOxセンサー140、142は、NOxの低減率の結果によって、尿素濃度を測定するので、事前に尿素溶液タンク132内ないし噴霧される尿素の濃度を識別するのは不可能である。また、このNOxセンサー140、142は、感度があまり良好ではなかった。
ところで、本発明者等は、特開平11−153561号公報(特に、段落[0042]〜段落[0049]参照)において、既に、通電により発熱体を発熱させ、この発熱により感温体を加熱し、発熱体から感温体への熱伝達に対し被識別流体により熱的影響を与え、感温体の電気抵抗に対応する電気的出力に基づき、被識別流体の種類を判別する流体識別方法であって、発熱体への通電を周期的に行う方法を提案している。
しかしながら、この流体識別方法では、発熱体への通電を周期的に行う(多パルスで行う)必要があるので、識別に時間を要することになり、瞬時に流体を識別することは困難である。また、この方法は、例えば、水と空気と油などの性状のかなり異なる物質に対して、代表値によって流体識別を行うことが可能であるが、上記のような尿素溶液の尿素濃度の識別を正確で迅速に行うことは困難である。
本発明は、このような現状に鑑み、尿素溶液の尿素濃度を正確にしかも迅速に識別することの可能な尿素溶液の尿素濃度識別装置および尿素溶液の尿素濃度識別方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、このような尿素溶液の尿素濃度識別装置および尿素溶液の尿素濃度識別方法を用いた、排気ガスを効率的に低減できるとともに、燃費を向上すること可能な自動車の排気ガスの低減装置および自動車の排気ガスの低減装置を提供することを目的とする。
【発明の開示】
本発明は、前述したような従来技術における課題及び目的を達成するために発明なされたものであって、本発明の尿素溶液の尿素濃度識別装置は、尿素溶液の尿素濃度を識別する尿素濃度識別装置であって、
尿素濃度識別装置本体内に導入された被識別尿素溶液を一時滞留させる尿素濃度識別室と、
前記尿素濃度識別室内に配設された尿素濃度識別センサーヒーターと、
前記尿素濃度識別センサーヒーターから一定間隔離間して、前記尿素濃度識別室内に配設された液温センサーとを備え、
前記尿素濃度識別センサーヒーターが、ヒーターと、該ヒーターの近傍に配設された識別用液温センサーとを備え、
前記尿素濃度識別センサーヒーターに、パルス電圧を所定時間印加して、前記ヒーターによって、前記尿素濃度識別室内に一時滞留した被識別尿素溶液を加熱し、前記識別用液温センサーの初期温度とピーク温度との間の温度差に対応する電圧出力差V0によって、尿素濃度を識別するように構成した識別制御部を備えることを特徴とする。
また、本発明の尿素溶液の尿素濃度識別方法は、尿素溶液の尿素濃度を識別する尿素濃度識別方法であって、
ヒーターと、該ヒーターの近傍に配設された識別用液温センサーとを備えた尿素濃度識別センサーヒーターに、パルス電圧を所定時間印加して、前記ヒーターによって、被識別尿素溶液を加熱し、前記識別用液温センサーの初期温度とピーク温度との間の温度差に対応する電圧出力差V0によって、尿素濃度を識別することを特徴とする。
このように構成することによって、パルス電圧を所定時間印加するだけで良いので、短時間の加熱で、しかも、正確かつ迅速に尿素溶液の尿素濃度を識別することが可能である。
すなわち、尿素溶液の動粘度とセンサー出力との相関関係を利用し、自然対流を利用しており、しかも、1パルスの印加電圧を利用しているので、正確かつ迅速に尿素溶液の尿素濃度を識別することが可能である。
また、本発明は、前記電圧出力差V0が、前記パルス電圧を印加する前の初期電圧を所定回数サンプリングした平均初期電圧V1と、前記パルス電圧を印加した後のピーク電圧を所定回数サンプリングした平均ピーク電圧V2との間の電圧差、すなわち、
V0=V2−V1
であることを特徴とする。
このように構成することによって、1パルスの印加電圧に対して、所定回数のサンプリングの平均値に基づいて、電圧出力差V0を正確に得ることができるので、正確かつ迅速に尿素溶液の尿素濃度を識別することが可能である。
また、本発明の尿素溶液の尿素濃度識別装置は、前記識別制御部が、予め識別制御部に記憶された所定の参照尿素溶液についての、温度に対する電圧出力差の相関関係である検量線データーに基づいて、
前記被識別尿素溶液について得られた前記電圧出力差V0によって、尿素溶液の尿素濃度を識別するように構成されていることを特徴とする。
また、本発明の尿素溶液の尿素濃度識別方法は、予め記憶された所定の参照尿素溶液についての、温度に対する電圧出力差の相関関係である検量線データーに基づいて、
前記被識別尿素溶液について得られた前記電圧出力差V0によって、尿素溶液の尿素濃度を識別することを特徴とする。
このように構成することによって、予め記憶された所定の参照尿素溶液についての、温度に対する電圧出力差の相関関係である検量線データーに基づいて、被識別尿素溶液について得られた電圧出力差V0によって、尿素溶液の尿素濃度を識別するので、より正確で迅速に尿素溶液の尿素濃度を識別することが可能である。
また、本発明の尿素溶液の尿素濃度識別装置は、前記識別制御部が、前記被識別尿素溶液の測定温度における電圧出力差V0についての液種電圧出力Voutを、
所定の閾値参照尿素溶液についての測定温度における電圧出力差についての出力電圧と相関させて補正するように構成されていることを特徴とする。
また、本発明の尿素溶液の尿素濃度識別方法は、前記被識別尿素溶液の測定温度における電圧出力差V0についての液種電圧出力Voutを、
所定の閾値参照尿素溶液についての測定温度における電圧出力差についての出力電圧と相関させて補正することを特徴とする。
このように構成することによって、被識別尿素溶液の測定温度における電圧出力差V0についての液種電圧出力Voutを、所定の閾値参照尿素溶液についての測定温度における電圧出力差についての出力電圧と相関させて補正するので、温度による電圧出力差V0の影響をなくして、液種電圧出力Voutを尿素溶液の性状とより正確に相関関係を付与することができ、さらに正確で迅速に尿素溶液の尿素濃度を識別することが可能である。
また、本発明は、前記尿素濃度識別センサーヒーターが、ヒーターと、識別用液温センサーとが絶縁層を介して積層された積層状尿素濃度識別センサーヒーターであることを特徴とする。
このように構成することによって、機械的動作を行う機構部分が存在しないので、経時劣化や尿素溶液中の異物などにより動作不良をひきおこすことがなく、正確にかつ迅速に尿素溶液の尿素濃度の識別を行うことができる。
しかも、センサー部を極めて小型に構成できるので、熱応答性が極めて良好で正確な尿素溶液の尿素濃度識別を行うことができる。
また、本発明は、前記尿素濃度識別センサーヒーターのヒーターと識別用液温センサーとが、それぞれ金属フィンを介して、被識別尿素溶液と接触するように構成されていることを特徴とする。
このように構成することによって、尿素濃度識別センサーヒーターのヒーターと識別用液温センサーとが、直接被識別尿素溶液と接触しないので、経時劣化や尿素溶液中の異物などにより動作不良をひきおこすことがなく、正確にかつ迅速に尿素溶液の尿素濃度の識別を行うことができる。
また、本発明は、前記液温センサーが、金属フィンを介して、被識別尿素溶液と接触するように構成されていることを特徴とする。
このように構成することによって、液温センサーが、直接被識別尿素溶液と接触しないので、経時劣化や尿素溶液中の異物などにより動作不良をひきおこすことがなく、正確にかつ迅速に尿素溶液の尿素濃度の識別を行うことができる。
また、本発明の自動車の排気ガスの低減装置は、自動車の排気ガスの低減装置であって、
触媒装置の上流側に尿素溶液を供給する尿素溶液供給機構を備え、
前記尿素溶液供給機構が、尿素溶液を貯留する尿素溶液タンクと、尿素ポンプと、尿素ポンプから送給された尿素溶液を触媒装置の上流側に噴霧する尿素噴霧装置とから構成されるとともに、
前記尿素タンク内または尿素ポンプの上流側または下流側に、前述のいずれかの尿素溶液の尿素濃度識別装置を配設したことを特徴とする。
また、本発明の自動車の排気ガスの低減方法は、自動車の排気ガスの低減方法であって、
尿素溶液を貯留する尿素溶液タンクと、尿素ポンプと、尿素ポンプから送給された尿素溶液を触媒装置の上流側に噴霧する尿素噴霧装置とから構成される尿素溶液供給機構を介して、触媒装置の上流側に尿素溶液を供給するとともに、
前述のいずれかの尿素溶液の尿素濃度識別方法を用いて、前記尿素タンク内または尿素ポンプの上流側または下流側の尿素溶液の尿素濃度を識別することを特徴とする。
このように構成することによって、尿素溶液が固化せずに、触媒装置116の上流側で還元反応が効率良く発生するためには、例えば、尿素32.5重量%、HOが67.5重量%であるか否かを正確に迅速に判断できる。
従って、尿素タンク中の尿素溶液の尿素濃度を所定の濃度に保つことができるので、排気ガス中のNOxを還元して極めて低減することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の尿素溶液の尿素濃度識別装置の実施例の概略上面図である。
図2は、図1のA−A線での断面図である。
図3は、図1の図1の右側面図である。
図4は、図1の左側面図である。
図5は、図2の尿素濃度識別センサー装着状態を示す部分拡大断面図である。
図6は、尿素濃度識別センサーの断面図である。
図7は、尿素濃度識別センサーの薄膜チップ部の積層状態を示す部分拡大分解斜視図である。
図8は、本発明の尿素溶液の尿素濃度識別装置の実施例の概略回路構成図である。
図9は、本発明の尿素溶液の尿素濃度識別装置を用いた尿素濃度識別方法を示す時間−電圧の関係を示すグラフである。
図10は、本発明の尿素溶液の尿素濃度識別装置を用いた尿素濃度識別方法を示す検量線を示すグラフである。
図11は、図10は、本発明の尿素溶液の尿素濃度識別装置を用いた尿素濃度識別方法の出力補正方法を示すグラフである。
図12は、本発明の尿素溶液の尿素濃度識別装置10を、自動車システムに適用した実施例を示す、図13と同様な概略図である。
図13は、従来の自動車システムの概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいてより詳細に説明する。
図1および図2に示したように、本発明の尿素溶液の尿素濃度識別装置10は、尿素濃度識別装置本体12と、尿素濃度識別装置本体12の内部に形成された第1の流路14と、第2の流路16とを備えている。
図1の矢印で示したように、尿素溶液流入口18から第1の流路14に流入した被識別尿素溶液は、中間室56を通過するようになっている。そして、被識別尿素溶液は、中間室56を通過した後、第2の流路16に入り、尿素濃度識別室20に一時滞留するように構成されている。
この尿素濃度識別室20には、その上部の略トラック形状の尿素濃度識別センサー用開口部22が形成されている。
この尿素濃度識別センサー用開口部22には、図2に示したように、尿素濃度識別センサー24が装着されている。
図5に示したように、尿素濃度識別センサー24は、尿素濃度識別センサーヒーター25と、この尿素濃度識別センサーヒーター25から一定間隔離間して配置された液温センサー28とを備えている。そして、これらの尿素濃度識別センサーヒーター25と、液温センサー28とが、モールド樹脂30によって一体的に形成されている。
また、図6に示したように、この尿素濃度識別センサーヒーター25には、リード電極32と、薄膜チップ部34とを備えている。また、尿素濃度識別センサーヒーター25には、モールド樹脂30から尿素濃度識別センサー用開口部22を介して、尿素濃度識別室20内に突設して、被識別尿素溶液と直接接触する金属製のフィン36を備えている。そして、これらのリード電極32と、薄膜チップ部34と、フィン36とは、ボンディングワイヤー38にて相互に電気的に接続されている。
一方、液温センサー28も、尿素濃度識別センサーヒーター25と同様な構成となっており、ぞれぞれ、リード電極32と、薄膜チップ部34と、フィン36、ボンディングワイヤー38を備えている。
図7に示したように、薄膜チップ部34は、例えば、Alからなる基板40と、PTからなる温度センサー(感温体)42と、SiOからなる層間絶縁膜44と、TaSiOからなるヒーター(発熱体)46と、Niからなる発熱体電極48と、SiOからなる保護膜50と、Ti/Auからなる電極パッド52とを順に積層した薄膜状のチップから構成されている。
なお、液温センサー28の薄膜チップ部34も同様な構造であるが、ヒーター(発熱体)46を作用させずに、温度センサー(感温体)42のみを作用させるように構成している。
そして、この尿素濃度識別センサー24で、被識別尿素溶液の液種が識別された後、被識別尿素溶液は、尿素濃度識別室20から、尿素溶液排出口54を介して外部に排出されるようになっている。
また、図1および図2では、尿素濃度識別センサー24に接続される回路基板部材、これを被う蓋部材を省略している。
本発明の尿素溶液の尿素濃度識別装置10では、図8に示したような回路構成となっている。
図8において、尿素濃度識別センサー24の尿素濃度識別センサーヒーター25の識別用液温センサー26と、液温センサー28とが、二つの抵抗64、66を介して接続されて、ブリッジ回路68を構成している。そして、このブリッジ回路68の出力が、増幅器70の入力に接続されて、この増幅器70の出力が、識別制御部を構成するコンピュータ72の入力に接続されている。
また、尿素濃度識別センサーヒーター25のヒーター74が、コンピュータ72の制御によって印加電圧が制御されるようになっている。
このように構成される尿素溶液の尿素濃度識別装置10では、以下のようにして、尿素溶液の尿素濃度識別が行われる。
先ず、尿素溶液の尿素濃度識別装置10の第1の流路14の尿素溶液流入口18から被識別尿素溶液を流入させて、第2の流路16の尿素濃度識別室20内に一時滞留させた状態とする。
そして、図8および図9に示したように、コンピュータ72の制御によって、尿素濃度識別センサーヒーター25のヒーター74に、パルス電圧Pを所定時間、この実施例の場合には、4秒間印加し、センシング部、すなわち、図8に示したように、センサーブリッジ回路68のアナログ出力の温度変化を測定する。
すなわち、図9に示したように、尿素濃度識別センサーヒーター25のヒーター74にパルス電圧Pを印加する前のセンサーブリッジ回路68の電圧差を、1秒間に所定回数、この実施例の場合には、256回サンプリングし、その平均値を平均初期電圧V1とする。この平均初期電圧V1の値は、識別用液温センサー26の初期温度に対応する。
そして、図9に示したように、尿素濃度識別センサーヒーター25のヒーター74に、所定のパルス電圧P、この実施例では、10Vの電圧を4秒間印加する。次に、所定時間後、この実施例では、3秒後からの1秒間に所定回数、この実施例では、256回ピーク電圧をサンプリングした値を平均ピーク電圧V2とする。この平均ピーク電圧V2は、識別用液温センサー26のピーク温度に対応する。
そして、電平均初期電圧V1と平均ピーク電圧V2との間の電圧差、すなわち、
V0=V2−V1
から電圧出力差V0を得る。
そして、このような方法で、図10に示したように、予め所定の参照尿素溶液について、この実施例では、尿素0重量%と、尿素40重量%、尿素20重量%について、温度に対する電圧出力差の相関関係である検量線データーを得ておき、これを、識別制御部を構成するコンピュータ72に記憶させておく。
そして、この検量線データーに基づいて、コンピュータ72において比例計算を行い、被識別尿素溶液について得られた電圧出力差V0によって、尿素溶液の尿素濃度を識別するように構成されている。
具体的には、図11に示したように、被識別尿素溶液の測定温度Tにおける電圧出力差V0についての液種電圧出力Voutを、所定の閾値参照尿素溶液(この実施例では、尿素20重量%と尿素40重量%)についての測定温度における電圧出力差についての出力電圧と相関させて補正するようになっている。
すなわち、図11(A)に示したように、検量線データーに基づいて、温度Tにおいて、尿素20重量%の電圧出力差V0−20、尿素40重量%の電圧出力差V0−40、被識別尿素溶液の電圧出力差V0−Sが得られる。
そして、図11(B)に示したように、この際の閾値参照尿素溶液の液種出力を、所定の電圧となるように、すなわち、この実施例では、尿素40重量%の液種出力を3.5V、尿素20重量%の液種出力を0.5Vとして、被識別尿素溶液の液種電圧出力Voutを得ることによって、尿素の性状と相関を持たせることができるようになっている。
この被識別尿素溶液の液種電圧出力Voutを、予め検量線データーに基づいて、コンピュータ72に記憶されたデータと比較することによって、尿素溶液の尿素濃度識別を正確にかつ迅速に(瞬時に)行うことが可能となる。
なお、以上の尿素溶液の尿素濃度識別方法は、自然対流を利用して、尿素の動粘度とセンサー出力が相関関係を有している原理を利用しているものである。
図12は、このように構成される尿素溶液の尿素濃度識別装置10を、自動車システムに適用した実施例を示す、図13と同様な概略図である。
なお、図13と同じ構成部材には、同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
この自動車システム100では、尿素溶液タンク132内または尿素ポンプ134の上流側に、尿素溶液の尿素濃度識別装置10を配設している。
この尿素溶液の尿素濃度識別装置10によって、尿素溶液タンク132内または尿素ポンプ134の上流側または下流側(なお、この実施例では、説明の便宜上、上流側の場合を示した)の尿素溶液の尿素濃度識別を行って,触媒装置116の上流側に噴霧される尿素の濃度を、尿素溶液が固化せずに、触媒装置116の上流側で還元反応が効率良く発生するために、例えば、尿素32.5重量%、HOが67.5重量%と一定の状態とするようになっている。
従って、尿素タンク中の尿素溶液の尿素濃度を所定の濃度に保つことができるので、排気ガス中のNOxを還元して極めて低減することができる。
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、例えば、パルス電圧P、サンプリング回数などは適宜変更することができるなど本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【発明の効果】
本発明によれば、パルス電圧を所定時間印加するだけで良いので、短時間の加熱で、しかも、正確かつ迅速に尿素溶液の尿素濃度を識別することが可能である。
すなわち、尿素溶液の動粘度とセンサー出力との相関関係を利用し、自然対流を利用しており、しかも、1パルスの印加電圧を利用しているので、正確かつ迅速に尿素溶液の尿素濃度を識別することが可能である。
また、本発明によれば、1パルスの印加電圧に対して、所定回数のサンプリングの平均値に基づいて、電圧出力差V0を正確に得ることができるので、正確かつ迅速に尿素溶液の尿素濃度を識別することが可能である。
また、本発明によれば、予め記憶された所定の参照尿素溶液についての、温度に対する電圧出力差の相関関係である検量線データーに基づいて、被識別尿素溶液について得られた電圧出力差V0によって、尿素溶液の尿素濃度を識別するので、より正確で迅速に尿素溶液の尿素濃度を識別することが可能である。
また、本発明によれば、被識別尿素溶液の測定温度における電圧出力差V0についての液種電圧出力Voutを、所定の閾値参照尿素溶液についての測定温度における電圧出力差についての出力電圧と相関させて補正するので、温度による電圧出力差V0の影響をなくして、液種電圧出力Voutを尿素溶液の性状とより正確に相関関係を付与することができ、さらに正確で迅速に尿素溶液の尿素濃度を識別することが可能である。
また、本発明によれば、機械的動作を行う機構部分が存在しないので、経時劣化や尿素溶液中の異物などにより動作不良をひきおこすことがなく、正確にかつ迅速に尿素溶液の尿素濃度の識別を行うことができる。
しかも、センサー部を極めて小型に構成できるので、熱応答性が極めて良好で正確な尿素溶液の尿素濃度識別を行うことができる。
また、本発明によれば、尿素濃度識別センサーヒーターのヒーターと、識別用液温センサーと、液温センサーとが、直接被識別尿素溶液と接触しないので、経時劣化や尿素溶液中の異物などにより動作不良をひきおこすことがなく、正確にかつ迅速に尿素溶液の尿素濃度の識別を行うことができる。
また、本発明によれば、尿素溶液が固化せずに、触媒装置116の上流側で還元反応が効率良く発生するためには、例えば、尿素32.5重量%、HOが67.5重量%であるか否かを正確に迅速に判断できる。
従って、尿素タンク中の尿素溶液の尿素濃度を所定の濃度に保つことができるので、排気ガス中のNOxを還元して極めて低減することができるなどの幾多の顕著で特有な作用効果を奏する極めて優れた発明である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素溶液の尿素濃度を識別する尿素濃度識別装置であって、
尿素濃度識別装置本体内に導入された被識別尿素溶液を一時滞留させる尿素濃度識別室と、
前記尿素濃度識別室内に配設された尿素濃度識別センサーヒーターと、
前記尿素濃度識別センサーヒーターから一定間隔離間して、前記尿素濃度識別室内に配設された液温センサーとを備え、
前記尿素濃度識別センサーヒーターが、ヒーターと、該ヒーターの近傍に配設された識別用液温センサーとを備え、
前記尿素濃度識別センサーヒーターに、パルス電圧を所定時間印加して、前記ヒーターによって、前記尿素濃度識別室内に一時滞留した被識別尿素溶液を加熱し、前記識別用液温センサーの初期温度とピーク温度との間の温度差に対応する電圧出力差V0によって、尿素濃度を識別するように構成した識別制御部を備えることを特徴とする尿素溶液の尿素濃度識別装置。
【請求項2】
前記電圧出力差V0が、前記パルス電圧を印加する前の初期電圧を所定回数サンプリングした平均初期電圧V1と、前記パルス電圧を印加した後のピーク電圧を所定回数サンプリングした平均ピーク電圧V2との間の電圧差、すなわち、
V0=V2−V1
であることを特徴とする請求項1に記載の尿素溶液の尿素濃度識別装置。
【請求項3】
前記識別制御部が、予め識別制御部に記憶された所定の参照尿素溶液についての、温度に対する電圧出力差の相関関係である検量線データーに基づいて、
前記被識別尿素溶液について得られた前記電圧出力差V0によって、尿素溶液の尿素濃度を識別するように構成されていることを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載の尿素溶液の尿素濃度識別装置。
【請求項4】
前記識別制御部が、前記被識別尿素溶液の測定温度における電圧出力差V0についての液種電圧出力Voutを、
所定の閾値参照尿素溶液についての測定温度における電圧出力差についての出力電圧と相関させて補正するように構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の尿素溶液の尿素濃度識別装置。
【請求項5】
前記尿素濃度識別センサーヒーターが、ヒーターと、識別用液温センサーとが絶縁層を介して積層された積層状尿素濃度識別センサーヒーターであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の尿素溶液の尿素濃度識別装置。
【請求項6】
前記尿素濃度識別センサーヒーターのヒーターと識別用液温センサーとが、それぞれ金属フィンを介して、被識別尿素溶液と接触するように構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の尿素溶液の尿素濃度識別装置。
【請求項7】
前記液温センサーが、金属フィンを介して、被識別尿素溶液と接触するように構成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の尿素溶液の尿素濃度識別装置。
【請求項8】
尿素溶液の尿素濃度を識別する尿素濃度識別方法であって、
ヒーターと、該ヒーターの近傍に配設された識別用液温センサーとを備えた尿素濃度識別センサーヒーターに、パルス電圧を所定時間印加して、前記ヒーターによって、被識別尿素溶液を加熱し、前記識別用液温センサーの初期温度とピーク温度との間の温度差に対応する電圧出力差V0によって、尿素濃度を識別することを特徴とする尿素溶液の尿素濃度識別方法。
【請求項9】
前記電圧出力差V0が、前記パルス電圧を印加する前の初期電圧を所定回数サンプリングした平均初期電圧V1と、前記パルス電圧を印加した後のピーク電圧を所定回数サンプリングした平均ピーク電圧V2との間の電圧差、すなわち、
V0=V2−V1
であることを特徴とする請求項8に記載の尿素溶液の尿素濃度識別方法。
【請求項10】
予め記憶された所定の参照尿素溶液についての、温度に対する電圧出力差の相関関係である検量線データーに基づいて、
前記被識別尿素溶液について得られた前記電圧出力差V0によって、尿素溶液の尿素濃度を識別することを特徴とする請求項8から9のいずれかに記載の尿素溶液の尿素濃度識別方法。
【請求項11】
前記被識別尿素溶液の測定温度における電圧出力差V0についての液種電圧出力Voutを、
所定の閾値参照尿素溶液についての測定温度における電圧出力差についての出力電圧と相関させて補正することを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載の尿素溶液の尿素濃度識別方法。
【請求項12】
前記尿素濃度識別センサーヒーターが、ヒーターと、識別用液温センサーとが絶縁層を介して積層された積層状尿素濃度識別センサーヒーターであることを特徴とする請求項8から11のいずれかに記載の尿素溶液の尿素濃度識別方法。
【請求項13】
前記尿素濃度識別センサーヒーターのヒーターと識別用液温センサーとが、それぞれ金属フィンを介して、被識別尿素溶液と接触するように構成されていることを特徴とする請求項8から12のいずれかに記載の尿素溶液の尿素濃度識別方法。
【請求項14】
前記液温センサーが、金属フィンを介して、被識別尿素溶液と接触するように構成されていることを特徴とする請求項8から13のいずれかに記載の尿素溶液の尿素濃度識別方法。
【請求項15】
自動車の排気ガスの低減装置であって、
触媒装置の上流側に尿素溶液を供給する尿素溶液供給機構を備え、
前記尿素溶液供給機構が、尿素溶液を貯留する尿素溶液タンクと、尿素ポンプと、尿素ポンプから送給された尿素溶液を触媒装置の上流側に噴霧する尿素噴霧装置とから構成されるとともに、
前記尿素タンク内または尿素ポンプの上流側または下流側に、請求項1から7のいずれかの尿素溶液の尿素濃度識別装置を配設したことを特徴とする自動車の排気ガスの低減装置。
【請求項16】
自動車の排気ガスの低減方法であって、
尿素溶液を貯留する尿素溶液タンクと、尿素ポンプと、尿素ポンプから送給された尿素溶液を触媒装置の上流側に噴霧する尿素噴霧装置とから構成される尿素溶液供給機構を介して、触媒装置の上流側に尿素溶液を供給するとともに、
請求項8から14のいずれかの尿素溶液の尿素濃度識別方法を用いて、前記尿素タンク内または尿素ポンプの上流側または下流側の尿素溶液の尿素濃度を識別することを特徴とする自動車の排気ガスの低減方法。

【国際公開番号】WO2004/025286
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【発行日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535931(P2004−535931)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011568
【国際出願日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】