説明

尿蛋白質のクリアランス測定法

【課題】ネフローゼ症候群という疾患群特有の診断を目的とし、イムノクロマト法により尿中のIgGとトランスフェリンの定量および血液中のIgGとトランスフェリンの定量を行ない、その比の比を計算して比の数値により、副腎皮質ホルモン治療の開始判定をすること。
【解決手段】尿中のIgGとトランスフェリンの定量および血液中のIgGとトランスフェリンの定量をイムノクロマト法の試験紙片を用いて行ない、それぞれ同じ仕様の試験紙片を使い、それぞれ1回の測定操作で測定出来、その測定結果の比の比を算出しその数値によって、ネフローゼ症候群に副腎皮質ホルモン治療をするかどうかを決められるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ヒトの尿中および血中蛋白質の検査法とその結果の活用法に関する技術分野
【背景技術】
【0002】
ヒトの腎糸球体障害は普通その器質的な変化により糸球体基底膜の孔径が10nm以上とやや大きくなり、アルブミンなどの蛋白質が尿中へ排泄される。しかし、ある種のネフローゼ症候群特に微小変化型ネフローゼ症候群ではその器質的変化が無いにもかかわらず、基底膜の小孔の荷電が陽性に偏るため、アルブミン以下の小さな分子サイズの蛋白質が尿中へ排泄される。器質的な腎糸球体障害なのか、または器質的変化がない一部のネフローゼ症候かの鑑別のため、大きい分子サイズの代表であるIgGと小さい分子サイズのトランスフェリンの定量値の比、いわゆるクリアランスを測定すれば、その疾患の鑑別が出来るとされていた。(非特許参考文献1)
しかし臨床面から言えば、血液中のIgGとトランスフェリンの定量でさえ、院外検査いわゆる外注検査が主流になってきており、測定結果が医師の手元に来るまで、少なくとも1日以上を要し、ネフローゼ症候群のため全身浮腫、循環不全、胸水貯留などで容態の悪化した患者の一刻を争う治療方針の決定には適さなくなってきた。さらに尿中のIgGとトランスフェリンの測定となると血液中の正常値のおよそ1/1,000と超微量であり特殊検査法に区分され、特定の検査室または特定の検査センターでないと測定できずかつこのネフローゼ症候群の検査には健康保険を適用することが出来なく、大学の研究として行われていたに過ぎなかった。
【0003】
測定技術の進歩は近年急速に進み、微量蛋白質の簡便な測定法が特許文献1に示すように実用化されてきた。
【非特許文献1】臨床病理 臨時増刊、特集107、56−63、1998
【特許文献1】特許第3481894号
【特許文献2】特願2002−154509
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的にヒトの血液や尿中の蛋白質の測定結果は、医師が見て最終的にその疾患の診断や治療法を選ぶ道具の1つである。従って検査項目を選ぶのも医師であり、一般的には健康保険に収載されている検査項目からそれを選んでいるのが普通である。検査法として教科書レベルの検査法であったとしても健康保険に収載されていない場合、その検査を行わないで判断するかまたは適用疾患の疑いとして検査するかあるいは研究費での検査とするか等の方法しかなかった。本願発明はネフローゼ症候群という疾患群特有の診断を目的とした測定システムを提供するものである。
血液中のIgGとトランスフェリンの定量は既に公知の方法で病院や検査センターなどで行われている。勿論自動化機器で検査することも可能でかつ健康保険の検査項目としても収載されている。
尿中のIgGとトランスフェリンは、血液中の濃度の1/1,000程度と極端にその濃度が低く、一般の病院内検査室では実施出来ず、特定の検査センターへの外注検査として実施されていることが多い。
本願発明の特長は、測定法を限定し今まで単独で検査していた4つの測定項目を1つの検査測定システムとしてまとめ、特定の疾患の診断・鑑別・治療法の選択等にベットサイドの検査として提供できるようにしたことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
最近イムノクロマト法は検体をサンプル注入口に注入するだけで微量蛋白質が定量できることは既に特許文献1のように公知の技術となっている。但しこれらの方法は色々な蛋白質の定量を行うことを目的にしており、測定結果の活用についての方向性に言及しておらず、殆ど医師の判定に任されていた。本願発明は特定の疾患を判定する方法として、それぞれの測定結果から比を計算し目的とする疾患をおおよそ鑑別し医師の診断材料として活用するためになされたものである。
IgGとトランスフェリンのクリアランスを測定するためには、尿と血液中のそれぞれの蛋白質を同時または時系列的に測定する必要があるが、前述したようにそれぞれの蛋白質は尿中と血液中の濃度差が約1,000倍も異なっている。これを同時または時系列的に測定することは非常に難しい。本願発明は同じ性能のイムノクロマト法を使用してそれぞれ1回の測定操作でクリアランス測定を達成しょうとしたところに特徴がある。
その方法として、イムノクロマト法の同一試験紙片上の一定区画に、IgGとトランスフェリンのモノクローナル抗体を塗布しておく。尿または血清(血液)を検体注入口より注入しクロマト展開途中の標識抗体と結合した免疫複合物が前記IgGとトランスフェリンのモノクローナル抗体と結合し可視化したバンドを光学的に定量する。ここでは、最低限IgGとトランスフェリンを同一試験紙上で同時に測定出来る試験紙片を用意し、尿中または血液中のIgGとトランスフェリンを同時に測定する所に意義がある。尿と血液検体を同一試験紙を使って行う検査は、尿中と血液中のIgGとトランスフェリンの存在する濃度の違いが大きすぎるので、これを克服する方法として、尿中IgGとトランスフェリンの測定用検体としては尿そのままを使用し、血液中のIgGとトランスフェリンは予め例えば1,000倍に希釈したものを使用する。これで尿と血液サンプル用の試験紙片はそれぞれを区別をせず同じ仕様の試験紙片を使用できるようになる。全血液を溶血しない希釈液例えば生理食塩水などで100〜1000倍に希釈すると、イムノクロマト法では血球の影響を受けず測定することが出来る。
【0006】
特許文献2のような測定機器においては、尿と血液中のIgGとトランスフェリンのデータがそれぞれメモリーに入力されることになり、各クリアランスの計算は、それらのデータを使うことで内部のコンピュータにより簡単に計算出来ることになる。
さらに、計算したこれらの比の比の計算は、続いて実施しこれをIgG/トランスフェリンクリアランスとすることができる。
【0007】
クリアランス比およびその比であるIgG/トランスフェリンクリアランスを計算する方法については、下記の式と図1により説明する。先ずIgGクリアランスCIgGは(a)式で表され、トランスフェリンクリアランスCTrは(b)式で表される。UIgGは尿中のIgGの定量値、Vは測定時の尿量、SIgGは血液中のIgGの定量値、UTrは尿中のトランスフェリンの定量値、STrは血液中のトランスフェリンの定量値。
IgG=UIgG×V/SIgG ……… (a)
Tr=UTr×V/STr ……… (b)
以上からIgGとトランスフェリンのクリアランスCsindexは(c)式で表される。
sindex=CIgG/CTr=UIgG×STr/UTrIgG ………(C)
(c)式により尿量Vは消去され、一時尿でIgGとトランスフェリンのクリアランスを求めることができる。
このIgG/トランスフェリンクリアランスはSelectivity Indexといって、この値が低い場合(<0.1)の蛋白透過性の選択性が高い微小変化型ネフローゼ症候群と、この値が高い場合(>0.2)の選択性の低い膜性腎症、巣状糸球体硬化症、増殖性糸球体腎炎を判別する目的に使用することができる。
【0008】
治療への活用は、非特許文献1にあるように、IgG/トランスフェリンクリアランスが0.2より大きい時はステロイド治療薬の治療効果は殆ど無く、0.1より小さい時は微小変化性ネフローゼ症候群と診断できステロイド系治療薬の治療効果が高い。いわゆる、尿蛋白の高選択性漏出と判断し副腎皮質ホルモンの治療を開始を判断できる。
【発明の効果】
【0009】
本願発明の効果は、IgG/トランスフェリンクリアランスの測定を患者を前にした診察の現場もしくはベットサイドで、同一人の尿と血液という違う種類の検体を用い同時期に定量しその比を計算し、ネフローゼ症候群で副腎皮質ホルモン治療をするかしないかを判定できるようになることである。
これらの疾患で、全身浮腫、循環不全、胸水貯留などの容態が悪化した患者の一刻を争う治療方針の決定には、ベットサイドの検査が重要で本検査を実施する事により患者の命を救い、医師による適切な治療の支援となることは間違いない。また、検査法として認知されれば、1つの検査法として健康保険の適用を受けることが出来るため、今までのような個別の定量を行う必要が無く最終的に実施価格を下げることができる。その結果、治療に対する検査の信頼性および診断精度を上げ結果的に治癒率が上昇し医療費の低減につながる事になる。同一仕様の試験紙片を使うのは、特に測定の現場で尿用・血液用を間違って使用しないためであり、キットの取り違えなどの人的間違いを防ぐためである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
【実施例1】
【0011】
試験紙片には尿または血液用の区別がなく、図2の区分A(1)に2種類の金コロイド標識抗体である金コロイド標識抗ヒトIgGマウスモノクローナル抗体(2)と金コロイド標識抗ヒトトランスフェリンマウスモノクローナル抗体(3)を乾燥状態でかつ移動可能状態に固定し、区分B(4)には抗ヒトIgGマウスモノクローナル抗体(5)を、区分C(6)には抗ヒトトランスフェリンマウスモノクローナル抗体(7)をそれぞれ移動出来ないように固定する。また区分D(8)には測定に必要なコントロール用の抗マウスIgGヤギ抗体(9)を固定する。
尿サンプルの測定は、検体注入口(10)より注入された尿サンプルは区分A(1)で2種類の金コロイド標識抗体とそれぞれ結合しクロマト展開し区分B(4)でIgGが区分C(6)でトランスフェリンがそれぞれ捉えられる。この捉えられた色調を特許文献2の光学的測定機器で読み取り、予め記憶されている検量線の色調と比較し定量される。また血液サンプルの測定については、予め血液希釈液に一定量の血液もしくは血清を注入しその希釈サンプルを尿サンプルの測定と同じく検体注入口(10)より注入し同様に測定する。これら尿中の測定値と血中の測定値は前述の特許文献2の機器に記憶されこれらの比の計算は式(a)(b)(c)で即計算しIgG/トランスフェリンクリアランスとしてプリントアウトする。
【実施例2】
【0012】
実施例1の標識抗体に金コロイドではなくカラーラテックスを用いる方法や蛍光担体を用いてそれぞれ検出することは実施例1の変法と考えることが出来る。
【実施例3】
【0013】
実施例1は測定を光学的機器1台で実施したが、尿用の機器、血液用の機器をそれぞれ使用し、結果をコンピュータなどに接続してそれらの比の計算をしてクリアランスを算出することも実施例1の変法と考えることが出来る。
【実施例4】
【0014】
クリアランスとしてIgGとトランスフェリンの測定を行っているがトランスフェリンの代りにアルブミンを使ったりIgGの代わりにガンマグロブリンを使って本システムを実施することも実施例1の変法と考えることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】クリアランス
【図2】試験紙片
【符号の説明】
【0016】
(1)区分A
(2)金コロイド標識抗ヒトIgGマウスモノクローナル抗体
(3)金コロイド標識抗ヒトトランスフェリンマウスモノクローナル抗体
(4)区分B
(5)抗ヒトIgGマウスモノクローナル抗体
(6)区分C
(7)抗ヒトトランスフェリンマウスモノクローナル抗体
(8)区分D
(9)抗マウスIgGヤギ抗体
(10)検体注入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの尿中および血液中のIgGとトランスフェリンの定量をイムノクロマト法でそれぞれ1回の測定操作で行い、それぞれのクリアランス比CIgGおよびCTrを計算し、さらにその比CIgG/CTrを計算しその結果が一定値以下である時をもって副腎皮質ホルモン治療の開始判定をする方法
【請求項2】
ヒトの尿中のIgGとトランスフェリンの定量とヒトの血液中のIgGとトランスフェリンの定量をイムノクロマト法で行う際、同一仕様のイムノクロマト法の試験紙片を使用して行うよう規定した請求項1の副腎皮質ホルモン治療の開始判定をする方法
【請求項3】
イムノクロマト法により、1回の測定操作でヒトの尿中のIgGとトランスフェリンをそれぞれ同時に定量したのちヒトの血液中のIgGとトランスフェリンの定量を1回の測定操作で同時に行う事が出来るイムノクロマト法の測定装置とそれらの測定値の比CIgG/CTrを自動的に計算出来ることを兼ね備えた装置を特長とした請求項1および請求項2の副腎皮質ホルモン治療開始判定をする方法
【請求項4】
微小変化型ネフローゼ症候群か否かの鑑別に、請求項1および2および3を使用することを特長とした副腎皮質ホルモン治療開始判定をする方法

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−258777(P2006−258777A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112685(P2005−112685)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(501011484)株式会社バイオサイバー (1)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)