説明

局在プラズモン増強蛍光粒子、局在プラズモン増強蛍光検出用担体、局在プラズモン増強蛍光検出装置および蛍光検出方法

【課題】ローカルプラズモン増強蛍光検出において、より高精度な検出を可能とする。
【解決手段】複数の金属微粒子と複数の蛍光色素とが透光性誘電体材料に分散して内包してなる蛍光標識粒子を用いる。ここで、蛍光標識粒子内の金属微粒子の粒径は10nm超、40nm以下であり、占有体積比率が、5%≦占有体積比率≦40%であることを特徴とする蛍光標識粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局在プラズモン増強を利用した蛍光検出に用いられる局在プラズモン増強蛍光粒子、その増強蛍光粒子を備えた局在プラズモン増強蛍光検出用担体、局在プラズモン増強蛍光検出装置および蛍光検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、病原性ウィルス抗原やその他の蛋白質を検出する方法の一つとして、例えば特許文献1に示されるイムノクロマトグラフ法が知られている。このイムノクロマトグラフ法は、検出対象物と反応、結合する物質を所定位置に固定した担体(支持体)を用いるものであり、検出対象物と結合可能な標識微粒子を混合した試料を上記担体において展開させ、もし検出対象物が存在して上記物質と結合した場合は、検出対象物と結合していた標識微粒子が上記所定位置において呈色することを利用して、検出対象物の存否や量を検出するものである。
【0003】
例えばインフルエンザ等のウィルス性の病気に対して、このイムノクロマトグラフ法は簡易かつ迅速に病原菌やウィルスを検出できる方法として需要が急速に拡大している。
なお、上記の標識微粒子としては一般に金微粒子が用いられ、その場合は、該粒子の部分で発生したローカルプラズモン(局在プラズモン)による特定波長の光の吸収を利用して、呈色させている。したがって、この金微粒子の粒子径を変えることで、ある程度発色を変化させることが可能となっている。
【0004】
またバイオ測定等において高感度の測定ができる方法として、従来、蛍光法も広く用いられている。この蛍光法は、特定波長の光により励起されて蛍光を発する検出対象物を含むと考えられる試料に上記特定波長の励起光を照射し、そのとき蛍光を検出することによって検出対象物の存在を確認する方法である。また、検出対象物が蛍光体ではない場合、蛍光体で標識されて検出対象物と特異的に結合する物質を試料に接触させ、その後上記と同様にして蛍光を検出することにより、この結合すなわち検出対象物の存在を確認することも広くなされている。
【0005】
また、蛍光標識からの蛍光検出の方法としては、基板表面で全反射する励起光を基板裏面から入射し、基板表面に染み出すエバネッセント波により蛍光を励起してその蛍光を検出する方法(エバネッセント蛍光法)が知られている。
【0006】
さらに、エバネッセント蛍光法において、感度を向上させるため、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が特許文献2などに提案されている。表面プラズモン増強蛍光法は、プラズモン共鳴を生じさせるため、基板上に金属層を設け、基板と金属層との界面に対して基板裏面から、全反射角以上の角度で励起光を入射し、この励起光の照射により金属層に表面プラズモンを生じさせ、その電場増強作用によって、蛍光信号を増大させてS/Nを向上させるものである。
【0007】
表面プラズモン増強蛍光法においては、強いエネルギーを与えることによる色素の褪色が、感度および定量精度の低下を引き起こすという問題があり、それを解決する方法として、特許文献3には、色素分子をシリカ粒子内に包含させた蛍光標識を用いることが提案されている。
【0008】
また、特許文献4には、プラズモン増強蛍光法において、さらなる高感度化を図るために、蛍光標識として、複数の蛍光色素分子および1以上の蛍光増強微粒子を透光材料により包含してなる蛍光物質を用いることが提案されている。なお、蛍光増強微粒子としては、散乱性微粒子、金属微粒子、金属ナノロッドなどが挙げられている。
【0009】
前述した通りイムノクロマトグラフ法においては、標識微粒子である金微粒子等の粒子径を変えることで、ある程度発色を変化させることが可能であるが、金微粒子のローカルプラズモンによる吸収の波長が530nm付近に有るために発色はマゼンタとなり、それは人間の目に対して視認性が良くないものとなっている。したがってこのイムノクロマトグラフ法は、例えば数十pmol(ピコ・モル)程度の微量な物質も検出できるようにという、高感度化の要求に応えるのは困難となっている。
【0010】
一方、表面プラズモン増強蛍光センサは数fmol(フェムト・モル)程度の微量な物質を検出可能であって、高感度化の要求にも応えられるものであるが、その半面、プリズム等の全反射光学系を必要とするので、装置が複雑化してコストが高くつくものとなっている。
【0011】
そこで、本出願人は、特許文献5において、高感度化が可能で、しかも安価に形成可能な蛍光センサとして、金属微粒子を用いることにより局在プラズモンによる電場増強を利用する局在プラズモン増強蛍光測定装置を提案している。
また、蛍光色素が金属に接近し過ぎていると、蛍光色素内で励起されたエネルギーが蛍光を発生させる前に金属膜へ遷移してしまい、蛍光が生じないという現象(いわゆる金属消光)が起こり得ることから、特許文献5では、金属消光抑制のため不撓性膜で包んだ金属粒子に色素標識抗体を結合させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平7−13640号公報
【特許文献2】特開平10−307141号公報
【特許文献3】特開2010−91553号公報
【特許文献4】特開2010−19765号公報
【特許文献5】特開2008−216046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献5に用いられる標識は、図4に示すよう金属消光抑制のため不撓性膜102で包んだ金属粒子103に1つの色素104が付与された抗体105を結合させたものであり、色素104の数が少ないために信号が小さく、十分な高感度化が図れないという問題がある。
【0014】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであって、局在プラズモン増強蛍光検出装置において用いられる、より高い電場増強効果を生じ、より大きな蛍光を発生させることができる局在プラズモン増強蛍光粒子を提供することを目的とする。
さらに、本発明は局在プラズモン増強蛍光粒子を備えた局在プラズモン増強蛍光検出用担体、局在プラズモン増強蛍光検出装置および蛍光検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の局在プラズモン増強蛍光粒子は、複数の金属微粒子と複数の蛍光色素とが透光性誘電体材料に分散して内包されてなり、
前記金属微粒子の粒径が10nm超、40nm以下であり、占有体積比率が、5%≦占有体積比率≦40%であることを特徴とするものである。
【0016】
金属微粒子の粒径は、粒子の最大長で定義するものとし、ここでは、複数の金属微粒子の個々の粒子が上記範囲の粒径であるものとする。占有体積比率は、内包されている全金属微粒子の局在プラズモン増強蛍光粒子における占有体積に基づいて算出される、局在プラズモン増強蛍光粒子の単位体積あたりの金属微粒子の体積の比率である。
【0017】
前記透光性誘電体材料は、SiO2または光透過性樹脂であることが好ましい。
【0018】
ここで、透光性とは、蛍光および蛍光を励起するための励起光のピーク波長に対して、透過率が85%以上をいうものとする。
光透過性樹脂としては、光透過性に優れるポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、シクロアレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0019】
本発明の局在プラズモン増強蛍光検出用担体は、試料液が流下される流路を有する試料保持具からなり、
前記流路内に、前記試料液中の被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質が固定された検出部が設けられ、
前記流路内の前記検出部より上流側に、標識結合物質が付与された標識結合物質付与部が設けられ、
前記標識結合物質が、前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質、および前記試料中に混合されて前記被検出物質と競合して前記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質のいずれか一方の結合物質に、本発明の蛍光標識粒子が付与されてなるものであることを特徴とする。
【0020】
本発明の局在プラズモン増強蛍光測定装置は、本発明の局在プラズモン増強蛍光検出用担体と、
前記検出部に対して、前記蛍光体を励起する励起光を照射する光源と、
前記励起光によって励起された蛍光体が発する蛍光を検出する光検出手段とを備えてなることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の蛍光検出方法は、被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質が固定された検出部を一部に備えた試料セルの前記検出部に、前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質、および前記試料液中に混合されて前記被検出物質と競合して前記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質のいずれか一方の結合物質に蛍光標識が付与されてなる標識結合物質を含む試料液を接触させ、前記蛍光標識が光の照射を受けて生じる蛍光を検出する蛍光検出方法において、前記蛍光標識として本発明の増強蛍光粒子を用い、局在プラズモン共鳴による増強された蛍光を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明による局在プラズモン増強蛍光検出用の蛍光標識粒子によれば、複数の金属微粒子と複数の蛍光色素分子を内包し、特に金属微粒子の粒径が10nm超、40nm以下であり、占有体積比率が、5%≦占有体積比率≦40%であることを特徴とするものであるので、光の照射を受けたときに、金属微粒子において局在プラズモン共鳴が生じ、その金属微粒子の周囲に局在プラズモン共鳴による増強電場が生じ、その増強された電場により蛍光色素分子からの蛍光が増強される。蛍光色素分子は複数蛍光標識粒子に内包されているため、積算される蛍光量は非常に大きくなり、蛍光標識粒子は光の照射に対し、非常に高い感度で蛍光を生じる。なお、金属微粒子と蛍光色素分子とは共に透光性誘電材料中に分散して配置されているので、蛍光色素分子が金属微粒子に対して、金属消光が起きる程度に近接して配置されているものも存在するが、そのように近接していない蛍光色素分子も複数存在するため、局在プラズモンによる電場増幅作用を確実に得て、増強された蛍光を発生させることができる。
【0023】
本発明による局在プラズモン増強蛍光検出用担体は、本発明の蛍光標識粒子を備えているので、被検出物質を高い感度で検出することが可能となる。
【0024】
本発明による局在プラズモン増強蛍光検出装置は、本発明の蛍光標識粒子を備えているので、被検出物質を高い感度で検出することができる。
また、本発明の局在プラズモン増強蛍光検出装置は、表面プラズモン増強蛍光検出装置のようにプリズム等の全反射光学系を必要とするものではないので、装置構成が簡単で安価に形成可能なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】局在プラズモン増強蛍光検出用の蛍光標識粒子の断面模式図
【図2A】イムノクロマト測定用担体の概略構成を示す平面図
【図2B】図2AのIIA-IIA断面図
【図3】イムノクロマト測定の工程を示す図
【図4】局在プラズモン増強蛍光検出装置を示す概略側面図
【図5】従来の蛍光標識を示す断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態による局在プラズモン増強蛍光検出用の増強蛍光粒子を示す概略断面図である。
【0027】
図1に示す通り、この増強蛍光粒子1は、透光性誘電体材料2中に複数の金属微粒子3および複数の蛍光色素分子4が分散して内包されてなるものである。増強蛍光粒子1は、光の照射を受け、金属微粒子3において局在プラズモン共鳴を生じ、その周囲に局在プラズモン共鳴による増強電場を生じると共に、その電場増強効果により蛍光色素分子から増強された蛍光を生じるものである。
【0028】
透光性誘電体材料2としては、内包される蛍光色素分子が発する蛍光および蛍光色素分子を励起するための励起光を透過する材料であればよく、SiO2や光透過性樹脂が特に好ましい。光透過性樹脂材料としてはポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、シクロオレフィン系樹脂などが挙げられる。ここで、励起光、蛍光に対し透明とは、励起光ピーク波長、蛍光ピーク波長に対し、透過率が85%以上であることをいうものとする。
【0029】
金属微粒子3を構成する材料としては、光の照射を受けて、局在プラズモン共鳴を生じるものであればよく、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とするものが好ましい。
【0030】
蛍光色素分子4はCy3、Cy5等である。蛍光色素分子4の大きさは〜1nm程度である。
【0031】
増強蛍光粒子の粒径は、拡散時間の点から5300nm以下のものが好ましい。粒径は100〜500nm程度が好ましい。
【0032】
蛍光色素が金属微粒子に例えば10nm未満で近接すると金属消光が生じ、蛍光の発光が抑制されてしまうという問題がある。他方で、金属微粒子による局在プラズモン共鳴による電場増強効果は金属微粒子表面から該金属微粒子の粒径程度の範囲である。
【0033】
金属微粒子の大きさは、金属消光が生じる距離よりも大きくすることにより、金属微粒子から10nm程度より離れて存在する蛍光色素に対する電場増強効果が得られるように設定することが望ましい。したがって、金属微粒子の粒径は10nm超であることが望ましい。実用的な金属である金微粒子の場合、10nm≦粒径≦40nmであれば、可視光領域の全ての波長に対して吸収・プラズモン共鳴を起こさせることができる(TECHNO-COSMOS 2008 Mar. Vol.21、pp.32-38のpp.35左欄参照)。これら2点の条件から、金属微粒子の粒径は、10nm<粒径≦40nmであることが望ましい。
【0034】
さて一方、局在プラズモン共鳴による電場増強効果をより大きく得るためには、金属微粒子が密で在ることが望ましい。なぜなら、電場増強の効果は金属微粒子の粒径程度であるため、金属微粒子が疎の場合、増強の効果が及ばない範囲が大きくなるためである。一方、金属微粒子と蛍光色素との距離が10nm未満に近接すると前述のように金属消光が生じる。したがって、いずれの金属微粒子からも10nm以上離れた位置に蛍光色素が存在していることを要する。すなわち、金属微粒間の距離が少なくとも20nm以上離れている箇所に蛍光色素が存在すれば、金属消光を生じない。
【0035】
このような条件を両立させるためには、金属微粒子の体積含有率を精密に限定する必要がある。この場合、体積含有率を考えるには、20nmの消光防止膜層(例えば、透明な誘電体膜)を被覆した金属微粒子を増強蛍光粒子内にパッキングすることを考えると判りやすい。具体的には、格子状に並べた場合、最低5%以上の粒子数でパッキングすることができる。もちろんこの状態だと最も近接した箇所の金属微粒間の距離は20nmであるが、格子の対角線上の金属微粒間距離は20nmよりかなり大きくなる。金属微粒子間距離が大きくなりすぎると電場増強効果が低減することから、金属微粒子間距離は20nm以上であるが、大きくなりすぎないことが好ましい。そのためには、10nmの消光防止膜層を被覆した金属微粒子を最密充填すればよい。この場合、金属微粒子の体積占有率は40%程度であり、このときは、ほぼ全ての方向で金属微粒間の距離を20nm以上であるが、20nmから大きくなりすぎない距離に揃えることができる。
【0036】
ここで、透光性誘電体材料に金属微粒子と蛍光色素を同時に内包してなる増強蛍光粒子の作製方法について2つの例を説明する。
【0037】
まず第1の方法は、誘電体膜をSiO2被膜から形成するものであり、大きく分けて次の(1)〜(3)の工程からなる。
【0038】
(1)金属微粒子3となる金コロイドの合成
(2)金コロイド表面分散剤の置換(クエン酸→シロキサン)
5×10-4molの金コロイド水溶液500mL(ミリ・リットル)に、APS((3-Aminopropyl)trimethoxysilane)水溶液(2.5mL、1mmol)を添加し、15分間強攪拌することにより、金コロイド表面のクエン酸を置換する。
【0039】
(3)金コロイド表面のSiO2修飾
pH10〜11に調整したsodium silicate 0.54重量%水溶液20mLを工程(2)の金コロイド水溶液に添加し、強攪拌する。24時間経過すると、厚さが約4nmのSiO2被膜が形成される。この溶液を遠心分離により30mLまで濃縮した溶液に、170mLのエタノールを添加する。さらに0.6mLのNH4OH(28%)を滴下し、80μL(マイクロ・リットル)のTES(テトラエトキシシラン)を添加し、24時間ゆっくり攪拌すると、厚さ20nmのSiO2被膜が形成される。このとき、TES(TEOS)と同時に有機色素とシランカップリング剤を共有結合で結合した色素-シランカップリング剤複合体を混ぜることによって自然にシリカ粒子中に有機色素が固定化される(古河電工時報第121 号(平成20 年3 月)pp.17-22の pp.18 左欄参照。)。なお、この製作法では、厳密にはシリカ中に含まれる金属微粒子の数を制御できない。したがって、遠心分離・電気泳動や液クロによって、精製・分離・選別を行なう必要がある。実際、最初の金属微粒子径が揃っている場合、この選別は比較的容易である。
【0040】
次に第2の方法として、透光性材料をポリマーからなるものとする場合について説明する。この方法は、大きく分けて次の(1)〜(3)の工程からなる。
【0041】
(1)金属微粒子3となる金ナノ粒子のDMF(N,N-dimethylformamide)への再分散
平均粒径が約30nmのクエン酸安定化金ナノ粒子を最大約360pmol(=7×10-11重量%)含む水分散液を1mL用意し、これを遠心分離にかけた後、上澄み0.95mLを捨てる。残った暗赤色、粘稠性の沈殿物を1mLのDMFに再分散させる。なお、過剰のクエン酸イオンは粒子のカプセル化を阻害する。また、小粒径の粒子を用いる場合は、DMFを加える前に水で洗浄した方が良い。
【0042】
(2)金ナノ粒子のカプセル化
上記(1)の工程で得られた、平均粒径が約30nmのクエン酸安定化金ナノ粒子を約648pmol(=7×10-11重量%)含むDMF分散液1mLに、ポリスチレン-ポリアクリル酸ブロック共重合体(ポリスチレンが約100量体、ポリアクリル酸が約13量体)のDMF溶液(約10-2g/mL)10μLを加え、シリンジポンプにより8.3μL/minの流量で水200μLを加えて激しく撹拌する。10分撹拌すると溶液の色が徐々に紫色に変化するので、そこで1重量%のドデカンチオールDMF溶液5μLを加え、24時間撹拌する。その後、さらにシリンジポンプにより、2mL/hの流量で水3mLを加える。
【0043】
次に透析により24時間かけてDMFを除去する。次いで撹拌しながら72μLのEDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide)溶液(水に対して0.1重量%:24nmol)を一気に添加し、30分撹拌したところで144μLのEDODEA溶液「2,2’-(ethylenedioxy)bis(ethylamine) solution」(水に対して0.1重量%:96nmol)を一気に添加し、撹拌する。
【0044】
その後、透析により24時間かけて試薬を除去し、次いで4000Gで30分間遠心分離を行い、体積で80%に相当する上澄みを捨てる。次に捨てた上澄みと同体積の水を加えて同様に遠心分離を行う。この遠心分離から遠心分離までの操作を3回以上繰り返すことにより、ポリスチレン-ポリアクリル酸ブロック共重合体の架橋物からなる被膜が金ナノ粒子(金微粒子)の周りに形成される。これによって、複数の金ナノ粒子がポリスチレン粒子内に内包されてなるものが得られる。
【0045】
(3)蛍光色素分子の含浸
上記工程で作製した金属微粒子を包含する粒子に蛍光色素分子を含浸させる。この工程は以下の通りである。
上記工程で作製した金属微粒子を包含する粒子を用いて、0.1%Solid in phosphate(ポリスチレン溶液:pH7.0)を調製する。
次に、蛍光色素分子(林原生物化学研究所、NK-2014、励起波長:780nm)0.3mgの酢酸エチル溶液(1mL)を作製する。
【0046】
上記ポリスチレン溶液と蛍光色素溶液を混合し、エバポレートしながら含浸を行った後、遠心分離(15000rpm、4℃、20分を2回)を行い、上澄みを除去する。
【0047】
以上の工程により、複数の蛍光色素分子および複数の金属粒子を、蛍光色素分子から生じる蛍光を透過する機能を有するポリスチレンにより内包してなる増強蛍光粒子を得ることができる。このような手順でポリスチレン粒子に蛍光色素分子を含浸させて作製され増強蛍光粒子の粒径はポリスチレン粒子の粒径と同一(上記例ではφ150nm)となる。
【0048】
増強蛍光粒子は、複数の金属微粒子を内包するものであるため、粒子内全域に亘り個々の金属微粒子による局在プラズモンによる電場増強の効果を重畳させることができるので、単体の金属微粒子を用いた場合よりも電場増強効果を高めることができ、また、複数の蛍光色素分子を内包するものであるため、蛍光色素分子単体を蛍光標識として用いる場合と比較すると、発光する蛍光量を大幅に増加することができる。すなわち、本発明の増強蛍光粒子は、複数の金属微粒子による電場増強効果と複数の蛍光色素分子による蛍光量増加効果とにより相乗的に増加された増強蛍光を得ることができる。
【0049】
この増強蛍光粒子1は、局在プラズモン増強蛍光を用いた抗原抗体反応において抗原検出のための蛍光標識として用いる場合には、増強蛍光粒子1の表面に抗原と特異的に結合する2次抗体を固定化し、これを標識2次抗体(標識結合物質)として用いる。
【0050】
次に本発明の増強蛍光粒子を備えた局在プラズモン増強蛍光検出用担体として、イムノクロマト測定用担体について説明する。図2Aはイムノクロマト測定用担体の平面模式図、図2Bは担体の概略構成を示す図2AのIIB-IIB断面図である。
【0051】
イムノクロマト測定用担体10は、試料液の流路としてのクロマトグラフ媒体12を内包してなる試料保持具(ケース)16を備えている。クロマトグラフ媒体12の一部には被検出物質Aと特異的に結合する第1の結合物質B1が付加された検出領域(検出部)13が設けられ、クロマトグラフ媒体12の検出領域13の上流側に、標識結合物質20が付与された標識結合物質付与部17が設けられている。ケース16には、クロマトグラフ媒体12に試料液Sを注入するための、少なくとも試料液注入時には開口する注入口14、および検出領域13を視認するための透明部材からなる窓部15が設けられている。
【0052】
クロマトグラフ媒体12はここでは、ニトロセルロースからなるメンブレンにより構成されており、メンブレン12はケース16内にその検出領域13がケース16の窓部15から視認できるようにして内包されている。本実施形態において被検出物質Aは所定の抗原であり、クロマトグラフ媒体12の検出領域13には被検出物質である所定の抗原Aと特異的に結合する第1の結合物質Bとして1次抗体が付加されている。
【0053】
標識結合物質20は、増強蛍光粒子1により標識された第2の結合物質Bからなる。第2の結合物質Bは、抗原Aと特異的に結合する2次抗体Bであり、被検出物質である抗原Aに対して互いに別のエピトープ<epitope;抗原決定基>に結合するものが用いられている。
【0054】
さらに、メンブレン12の検出領域13よりも下流側には2次抗体Bと結合する参照用抗体Bが付加された検査終了確認領域18が設けられており、この確認領域18もケース16の窓部15から視認できるよう構成されている。また、ケース16内の最も下流側端部には試料液Sが逆戻りすることないように吸水する吸水パッド19が備えられている。
【0055】
1次抗体B、2次抗体Bおよび参照用抗体Bは、それぞれメンブレン12の所定領域に付加されているが、その付加形態は単にそれぞれの領域に付与しただけでもよい。しかし、2次抗体Bおよび参照用抗体Bは試料液のメンブレン内の浸透移動により流されてしまうと反応結果を視認できなくなる恐れがあるため、アミノ結合などの手法によりメンブレン12のそれぞれの領域に固定されていることが望ましい。
【0056】
本発明に係る実施形態のイムノクロマト測定用担体10を用いた、試料液中に所定の抗原Aが存在するか否かについてのイムノクロマト測定工程について説明する。
【0057】
図3はイムノクロマト測定方法の工程を模式的に示す図である。図3においては、メンブレン12内における、抗原Aと標識結合物質20の移動、1次抗体、参照用抗体との結合状態等を視認しやすくするため、それぞれ1つもしくは数個だけを模式的に示している。
【0058】
試料液Sは、例えば、被検出物質が含まれているか否かを検査する対象となる血液、尿、鼻水などである。
【0059】
step1:注入口14から検査対象である試料液Sを滴下する。ここでは、この試料液S中に被検出物質である抗原Aが含まれている場合について説明する。
【0060】
step2:試料液Sがメンブレン12内を毛細管現象により浸透移動し、試料液S中の抗原Aはメンブレン12の注入口14近傍に付加されている標識結合物質20の2次抗体Bと結合し、メンブレン12内を検出領域13側へと浸透移動する。この際、抗原Aと結合していない標識結合物質20も一緒に検出領域13側へと流される。
【0061】
step3:試料液Sはメンブレン12に沿って検出領域13側へと徐々に移動し、標識結合物質20の2次抗体Bと結合した抗原Aが、検出領域13上に固定されている1次抗体Bと結合し、抗原Aが1次抗体Bと2次抗体Bで挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。
【0062】
step4:さらに抗原Aと結合していない標識結合物質20の2次抗体Bが参照用抗体Bと結合する。2次抗体Bが参照用抗体Bと結合すると検査終了確認領域18において増強蛍光粒子1からの蛍光が視認でき、試料液が確かに検出領域13および確認領域18まで流れてきていることを確認することができる。
【0063】
このような状態で窓部15から免疫反応の結果を目視する。なお、太陽光、室内光の光では十分に蛍光が発光されない場合には、他の励起光照射手段(例えば、顕微鏡の照明に一般的に用いられている、キセノンランプや、ハロゲンランプの光)を入射させて、増強蛍光粒子からは増強された蛍光を観察してもよい。
【0064】
本イムノクロマト測定用担体10は、蛍光標識として増強蛍光粒子1を用いているので、複数の金属微粒子による電場増強効果と複数の蛍光色素分子による蛍光量増加効果とにより相乗的に増加された増強蛍光を得ることができ、高感度な測定を行うことができる。
【0065】
なお、被検体の量が非常に微量であるために、増強されていてもなお蛍光が微弱である場合や測定を常に一定以上の精度で行うために、増強蛍光粒子に励起光を照射する励起光照射手段と、増強蛍光粒子からの蛍光を測定する蛍光検出手段を用いて、増強蛍光を検出する蛍光検出装置を構成してもよい。
【0066】
なお、上記局在プラズモン共鳴増強蛍光検出用担体の実施形態であるイムノクロマト測定用担体は、メンブレン12の一部に予め標識結合物質(標識2次抗体)を付加してあるものとしたが、標識2次抗体はメンブレンに付加されていなくてもよい。その場合には、試料液を注入し、抗原と1次抗体とを結合させた後に、標識2次抗体を含む溶液を注入口から注入し、1次抗体と結合している抗原に標識2次抗体を結合させるようにしてもよいし、予め標識2次抗体を含む溶液と検体液とを混合し、検体液中の抗原と標識2次抗体とを結合させた状態で、注入口から注入するようにしてもよい。
【0067】
図4は、局在プラズモン増強蛍光検出装置(以下、単に蛍光検出装置という)を示す概略側面図である。
図示されている通りこの蛍光検出装置40は、試料液中の被検出物質Aと特異的に結合する第1の結合物質Bが固定された検出部42が設けられた底面41aと、試料液Sを検出部上に保持する透明部材製の試料保持部41bからなる試料セル41と、この試料セル41の検出部42に向けて励起光L0を照射する半導体レーザ等の光源43と後述のようにして検出部42から発せられる蛍光Lを検出する光検出器44とを有している。
【0068】
この蛍光検出装置40が検出対象としている被検出物質Aは、一例としてCRP抗原(分子量11万 Da)であり、それと特異的に結合する第1の結合物質Bとして1次抗体(モノクロナール抗体)が試料セル41の底面41aの上に固定されている。この1次抗体Bは、例えば末端をカルボキシル基化したPEGを介して、アミンカップリング法により、試料セル41の底面41aの上に固定される。
【0069】
上記アミンカップリング法は一例として下記(1)〜(3)のステップからなるものである。なおこれは、30μL(マイクロ・リットル)のキュベット/セルを用いた場合の例である。
【0070】
(1)リンカー先端(末端)の-COOH基を活性化
0.1mol(モル)のNHSと0.4molのEDCとを等体積混合した溶液を30μL加え、30分間室温静置。なお、
NHS:N-hydroxysuccinimide
EDC:1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide
である。
【0071】
(2)1次抗体Bの固定化
PBSバッファ(pH7.4)で5回洗浄後、1次抗体溶液(500μg/mL)を30μL加え、30〜60分間室温静置。
【0072】
(3)未反応の -COOH基をブロッキング
PBSバッフア(pH7.4)で5回洗浄後、1molのエタノールアミン(pH8.5)を30μL加え、20分間室温静置。さらにPBSバッフア(pH7.4)で5回洗浄。
【0073】
CRP抗原Aの検出に際しては、試料液Sの中に、CRP抗原Aと特異的に結合する第2の結合物質Bとして、2次抗体Bとはエピトープが異なる2次抗体(モノクロナール抗体)が表面に結合された多数の増強蛍光粒子1が混合される。
【0074】
光源43としては上記半導体レーザに限らず、その他の公知の光源を適宜選択使用可能である。また光検出器44としては、例えば富士フイルム株式会社製 LAS-1000 plus(商品名)を好適に用いることができるが、それに限らず、CCD、PD(フォトダイオード)、光電子増倍管、c-MOS等の公知のものを適宜選択使用可能である。また励起波長は増強蛍光粒子に内包されている蛍光色素分子に応じて決定される。
【0075】
この蛍光検出装置を用いて、試料液Sに含まれるCRP抗原Aを定量分析する場合について説明する。
【0076】
まず試料セル41の中において試料液Sが流され、次いで同様に蛍光標識が付与された結合物質として、2次抗体Bが表面に固定された増強蛍光粒子1が流される。
この操作の後、光源43から試料セル41の検出部42上に向けて励起光L0が照射される。このとき、もし試料液Sの中にCRP抗原Aが存在してそれらが検出部42の1次抗体Bに結合していれば、さらに該抗原Aに標識結合物質20の2次抗体Bが結合し、その2次抗体Bの標識である増強蛍光粒子1が励起光L0によって励起されることとなる。こうして励起された増強蛍光粒子1は蛍光Lを発し、その蛍光Lが光検出器44によって検出される。こうして検出される蛍光Lの光量は、励起される増強蛍光粒子1の量が多いほど、つまりCRP抗原Aの量が多いほど大となるので、この検出光量に基づいてCRP抗原Aを定量分析することができる。
【0077】
また上述のように励起光L0が照射されたとき、試料セル41の検出部42近辺に存在する増強蛍光粒子1内の複数の金属微粒子3によって局在プラズモンが励起され、この局在プラズモンの電界増幅作用によって蛍光Lが増幅されることとなる。こうして蛍光Lが増幅されることにより、被検出物であるCRP抗原Aを高感度で検出可能となる。
【0078】
また本実施形態の蛍光検出装置および検出方法においては、上述の増強蛍光粒子1を用いているので、複数の金属微粒子による電場増強効果と複数の蛍光色素分子による蛍光量増加効果とにより相乗的に増加された増強蛍光を得ることができ、極めて高い感度で蛍光を検出可能となる。
【0079】
そして本実施形態の蛍光センサは、表面プラズモン増強蛍光センサのようにプリズム等の全反射光学系を必要とするものではないので、装置構成が簡単で安価に形成可能なものとなる。
【0080】
以上説明した実施形態のイムノクロマト測定用担体および蛍光検出装置は、いわゆるサンドイッチ形式と呼ばれる検出方式で蛍光検出するものであるが、例えば図4の構成において、抗原と特異的に結合する第2の結合物質(2次抗体)Bに替えて第1の結合物質(1次抗体)Bと特異的に結合する第3の結合物質を増強蛍光粒子1に修飾した標識結合物質を用い試料液S中に混合させれば、いわゆる競合方式で蛍光検出する蛍光検出装置が得られる。すなわちその場合は、第3の結合物質と抗原Aとが1次抗体Bへの結合において競合するので、抗原Aの量が多いほど検出部に結合される増強蛍光粒子が少なくなり、検出される蛍光Lfの光量が少なくなる。そこでこの場合も、この検出蛍光量に基づいて抗原Aを定量分析することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 局在プラズモン増強蛍光粒子
2 透光性誘電材料
3 金属微粒子
4 蛍光色素分子
10 イムノクロマト測定用担体(局在プラズモン増強蛍光検出用担体)
12 クロマトグラフ媒体(メンブレン)
13 検出領域
14 注入口
15 窓部
16 ケース
17 標識結合物質付与部
18 検査終了確認領域
19 吸水パッド
40 蛍光検出装置
41 試料セル
42 検出部
43 光源
44 検出器
A 抗原(被検出物質)
1 1次抗体(第1の結合物質)
2 2次抗体(第2の結合物質)
S 試料液
0 レーザ光
蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
局在プラズモン増強蛍光検出において用いられる蛍光標識粒子であって、
複数の金属微粒子と複数の蛍光色素とが透光材料に分散して内包されてなり、
前記金属微粒子の粒径が10nm超、40nm以下であり、占有体積比率が、5%≦占有体積比率≦40%であることを特徴とする蛍光標識粒子。
【請求項2】
前記透光材料がSiO2または透明樹脂であることを特徴とする請求項1記載の蛍光標識粒子。
【請求項3】
試料液が流下される流路を有する試料保持具からなり、
前記流路内に、前記試料液中の被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質が固定された検出部が設けられ、
前記流路内の前記検出部より上流側に、標識結合物質が付与された標識結合物質付与部が設けられ、
前記標識結合物質が、前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質、および前記試料中に混合されて前記被検出物質と競合して前記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質のいずれか一方の結合物質に、請求項1または2記載の増強蛍光粒子が付与されてなるものであることを特徴とする局在プラズモン増強蛍光検出用担体。
【請求項4】
請求項3記載の局在プラズモン増強蛍光検出用担体と、
前記検出部に対して、前記蛍光体を励起する励起光を照射する光源と、
前記励起光によって励起された蛍光体が発する蛍光を検出する光検出手段とを備えてなることを特徴とする局在プラズモン増強蛍光測定装置。
【請求項5】
被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質が固定された検出部を一部に備えた試料セルの前記検出部に、前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質、および前記試料液中に混合されて前記被検出物質と競合して前記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質のいずれか一方の結合物質に蛍光標識が付与されてなる標識結合物質を含む試料液を接触させ、
前記蛍光標識が光の照射を受けて生じる蛍光を検出する蛍光検出方法において、
前記蛍光標識として請求項1記載の増強蛍光粒子を用い、局在プラズモン共鳴による増強された蛍光を検出することを特徴とする蛍光検出方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−211799(P2012−211799A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77040(P2011−77040)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】