説明

局所性ウイルス感染の治療のための新規の相乗的組成物

本発明は、局所性ウイルス感染の治療のための、タンニンに富む植物抽出物を含む相乗的組成物であって、前記植物抽出物が、少なくとも1つのプロテアーゼ阻害剤および/または少なくとも1つのウイルス糖タンパク質阻害剤を含有する相乗的組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンニンに富む植物抽出物の相乗的組成物に関し、植物抽出物の前記組成物は、プロテアーゼおよびウイルス糖タンパク質に対する相乗的阻害特性を有する。本発明はまた、局所適用して任意のウイルス感染を治療するための、前記相乗的組成物を含む医薬にも関する。局所という用語は、皮膚、口腔、咽頭、上気道、鼻腔、膣粘膜、眼の表面、および天然の身体開口部など、身体のすべての外側部分を指す。したがって、本発明は、口唇ヘルペスおよび陰部ヘルペス、咽頭におけるインフルエンザウイルス感染、ヒトパピローマウイルス感染、ならびに他の局所皮膚ウイルス感染など、体表面において顕在化するウイルス感染の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
体内への最初のウイルスの侵入は、外側の体表面とのウイルス接触によることが多いため、ヒトにおいて、局所性ウイルス感染が極めて一般的である。
【0003】
ウイルスとは、10〜300ナノメートルの様々な直径、および最大で1400nm(フィロウイルス)以上の様々な長さを有する、極めて小さな病原体である。ウイルスは、宿主細胞の内部でのみ複製することができる。
【0004】
すべてのウイルスは、DNAまたはRNAからなる遺伝子と、これらの遺伝子を保護するタンパク質の殻とを有する。一部のウイルスは、宿主細胞の外部に存在するとき、それらを取り囲む脂肪のエンベロープを有する。
【0005】
宿主細胞へのウイルスの侵入機構は、異なるウイルス群間で異なるが、すべてのウイルスは、3つの基本的な段階を踏んで、宿主細胞に感染し、複製される。ウイルスが宿主細胞と接触したら、第1段階は、宿主細胞へのウイルスの付着(初期感染)であり、第2段階は、宿主細胞内でのウイルスゲノムの複製(ウイルス増殖)であり、第3段階は、宿主細胞からの、新たに発生したウイルス粒子の放出である。
【0006】
局所性ウイルス感染が進行する機序は、全身性ウイルス感染が進行する機序とは全く異なる。
【0007】
インフルエンザウイルスなどの局所性外部感染においてはまず、少数のウイルス粒子が、皮膚または粘膜の少数の細胞と接触し、これらの細胞に侵入する。ある場合には、ウイルスが、潜在性ウイルスとして体内に存在し、これが、皮膚または粘膜へと遊走する可能性がある。例えば、口唇ヘルペスウイルス感染または陰部ヘルペスウイルス感染の場合は、神経細胞内に存在する潜在性ウイルスが、口唇の皮膚、または膣内粘膜へと遊走し、少数の細胞内で増殖を開始する。他の場合には、侵入した一部のウイルスが、細胞内に休眠ウイルスとしてとどまり(神経細胞におけるI型ヘルペスウイルスおよびII型ヘルペスウイルスなど)、身体の防御機構が脆弱になると、疾患をもたらす可能性がある。いずれの場合も、この段階では、臨床的徴候はほとんど認められない。
【0008】
初期感染の後、ウイルスは少数の細胞内で増殖し、次いで、数百万個の新たなウイルス粒子が局所的に放出され、それらのウイルス粒子が新たな細胞への攻撃を開始して、目視可能な病変をもたらす。初期のウイルス粒子が、体内に保存されるのではなく、宿主患者により吸引される点を除き、咽頭ウイルス感染でも同じ過程が生じる。
【0009】
ウイルスエンベロープは、ウイルスの初期感染にとって重要な役割を果たす。
【0010】
ウイルスエンベロープは、表面の殻の複数のタンパク質(糖タンパク質)と会合している。
【0011】
表面の殻の糖タンパク質は、疎水性ドメインを介してエンベロープへとアンカーされている膜貫通タンパク質である。これらの糖タンパク質は、ウイルス表面において見ることができる。ウイルスは、これらの糖タンパク質を用いて細胞膜に付着し、宿主細胞に侵入する。
【0012】
ウイルスエンベロープは、多種類の糖タンパク質を含有する、高度に複雑な構造である。例えば、単純ヘルペスウイルス(1型HSVおよび2型HSV)は、gB、gD、gL、gC、gI、gEなどの表面糖タンパク質を、主要なタンパク質として含有する。細胞に感染するために、C型糖タンパク質および/またはB型糖タンパク質(それぞれ、gCおよびgB)、ならびにおそらくはgH糖タンパク質が、細胞表面のヘパラン硫酸受容体に結合して、宿主細胞膜と融合し、開口部または孔を創出し、これを介してウイルスが宿主細胞に侵入すると、現在のところは仮定されている。したがって、ヘパラン硫酸受容体を欠く細胞は、HSVに対して感受性でない(Natalia Chesenko、2002)。この特異性により、ウイルスの宿主範囲が決定される。
【0013】
表面糖タンパク質の構造の違いは、同じウイルス科において異なる形態および抗原性を付与する。例えば、A型、B型、およびC型と称する、3つの異なる種類のインフルエンザウイルスが、主要な表面糖タンパク質としてHA(赤血球凝集素)およびNA(ノイラミニダーゼ)で同定されている。HAの13の主要な型、およびNAの9つの主要な抗原決定基が既に同定されている。これは、ウイルスカプシドが、多種多様な糖タンパク質を表面の殻において含有しうることを示す。これはまた、各ウイルス型が、細胞への付着および細胞への侵入を容易にするための独自の方法を有することも意味する。
【0014】
いまだすべてのウイルス糖タンパク質が発見されたわけではなく、新たなウイルス糖タンパク質の存在、およびそれらのウイルス増殖およびウイルス感染における役割について、持続的な研究がなされている。新たなウイルス表面糖タンパク質、それらの宿主細胞への感染における役割、および頻繁なウイルス突然変異が持続的に発見されているために、特異的な局所的抗ウイルス薬の開発はほとんど不可能である。
【0015】
特異的な抗ウイルス薬が存在しない中、現在のところ、ワクチンが最良の抗ウイルス治療であると考えられている。
【0016】
ワクチンは、ウイルス糖タンパク質のサブユニットを含有しうるが、すべての糖タンパク質がワクチンにおいて提示されるわけではなく、それらの抗原性も多様であるので、免疫原性は低い。
【0017】
不活化全ウイルスワクチンはより有効であるが、小さく免疫原性の高いウイルスの場合にしか調製することができない。
【0018】
ウイルス病原性を低下させた生ウイルスワクチンは、良好な免疫原ではあるが、不安定で、毒力復帰の危険性を伴い危険である(生ウイルス)。
【0019】
残念ながら、表面糖タンパク質の構造が複雑であるために、HIVウイルス、ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、および他の多くのウイルスなど、多くのウイルスに対して、ワクチンを開発することができない。
【0020】
抗ウイルス治療の大半は、細胞内のウイルス増殖過程に干渉することを対象とするが、ウイルス粒子が皮膚病変に存在する場合(例えば、口唇ヘルペスの場合)、膣内粘膜に存在する場合(例えば、陰部ヘルペスの場合)、または咽頭表面に存在する場合(例えば、インフルエンザの場合)、遊離ウイルス粒子には全く効果がない。
【0021】
現在利用できるすべての抗ウイルス薬は、感染が既に確立してから、細胞内のウイルス増殖を停止させることを対象とする。例えば、A型、B型、およびC型のエンベロープウイルスによるインフルエンザを治療するには、細胞内ノイラミニダーゼ阻害剤が用いられており、経口経路による2つの主要な薬物のクラス、
・細胞内のウイルス脱殻に干渉し、A型インフルエンザウイルスに対してのみ有効であるアダマンタン
・細胞内の子孫ウイルスの放出に干渉し、さらなるウイルス増殖を停止させるために早期の経口投与を必要とする新たなクラスであるザナミビルまたはオセルタミビル(Tamiflu)
が存在する。
【0022】
全身性ヘルペスウイルス感染を治療するには、様々な種類のアシクログアノシン(Aciclovirs(登録商標))が用いられており、Zovirax(登録商標)、Ciclovir(登録商標)、Herpex(登録商標)、Acivir(登録商標)、Acivirax(登録商標)、Aciclovir(登録商標)、およびZovir(登録商標)などの商標名で市販されている。これらは、細胞内のウイルス増殖に干渉するヌクレオシド類似体であるが、これらの薬物は、循環を介して送られ、開口部ウイルス性病変に存在する遊離ウイルス粒子には到達することができないので、体表面の遊離ウイルスには効果がない。
【0023】
さらに、抗ウイルス薬はすべて、正常な細胞代謝機能に干渉することにより作用するので、重度の毒性作用を誘導することが多い。口唇ヘルペス、陰部ヘルペス、帯状疱疹、および水痘を治療するためにacyclovirus(登録商標)およびfamciclovir(登録商標)を経口投与すると、悪心、嘔吐、下痢、頭痛、発疹、腎損傷、および意識混濁を誘発する場合があり、A型インフルエンザを治療するためのamantadine(登録商標)は、悪心、食欲不振、神経過敏、軽度の頭痛、不安感、眠気、および意識混濁を引き起こす場合があり、サイトメガロウイルスを治療するためのcidofovir(登録商標)、ganciclovir(登録商標)、およびfoscarnet(登録商標)は、腎損傷、および白血球数の減少をもたらす場合があり、ウイルス感染に対する免疫を刺激するためのインターフェロン−アルファは、風邪様の症状、貧血、抑うつ、白血球数の減少、血小板数の減少を引き起こす場合があり、A型インフルエンザおよびB型インフルエンザを治療するためのoseltamivir(登録商標)は、悪心、嘔吐、およびめまいをもたらすことが知られており、小児におけるRSV感染に用いられるribavirin(登録商標)は、赤血球数の低下、および貧血をもたらす場合がある(URBAN M、「Merck Manual」、2009)。風邪の痛みに局所適用されるアシクロビル(zovirax(登録商標)、penciclovir(登録商標)、vidarabine(登録商標))は、有効ではなく、重度の毒性作用は知られていない。
【0024】
体表面の遊離ウイルス粒子を局所的に中和することは、感染を停止させるのに極めて有効な代替法であると考えられるが、特に初期感染段階にある局所性ウイルス感染を停止させて、細胞への局所的なウイルスの侵入を回避するのに利用できるワクチンは現在のところ存在しない。
【0025】
近年における科学的研究はまた、ウイルス表面糖タンパク質に加えて、プロテアーゼもまた、細胞への局所的なウイルスの侵入を促進するのに重要な役割を果たすことを裏付けている。細胞内でウイルスが増殖するときにプロテアーゼが用いられることは知られていたが、それらが、皮膚病変または咽頭表面からの、ヘルペスウイルスおよびインフルエンザウイルスの侵入など、外部の体表面からのウイルスの侵入の促進に関与することが発見されたのは近年のことである(Kido、2007、Delboy、2008)。
【0026】
プロテアーゼは、特定のタンパク質を加水分解する潜在能力を有するので、宿主細胞に付着し、宿主細胞に侵入するための特異的な受容体をその表面に有さない一部のウイルスは、細胞壁を破壊し、細胞に侵入するために、これらのプロテアーゼによる支援を受ける。
【0027】
また、プロテイナーゼまたはタンパク質分解酵素としても知られているプロテアーゼは、細胞内または細胞外、特に、損傷した組織の近傍において見出される酵素の大きな群であり、ポリペプチド鎖においてアミノ酸を一体に連結するペプチド結合を加水分解することにより、タンパク質を異化するのに極めて重要な役割を果たす。
【0028】
プロテアーゼは、タンパク質分子の分断に関与する。タンパク質の破片は、組織の修復過程に干渉するため、プロテアーゼの主要な役割は、組織が分解されるときに発生するこのような物質を分解および除去することである。プロテアーゼは、後続の組織修復に好適な環境を創出するのに不可欠である。一部のプロテアーゼが、タンパク質鎖から末端のアミノ酸を解離させることが可能である(アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼなどのエクソペプチダーゼ)のに対し、他のプロテアーゼは、タンパク質内部のペプチド結合を攻撃する(トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、パパイン、エラスターゼなどのエンドペプチダーゼ)。
【0029】
局所的にまたは細胞内に見出されるプロテアーゼは数百に上り、それらの触媒活性部位および作用条件の特徴に従い、4つの主要な群、すなわち、セリンプロテイナーゼ、システイン(チオール)プロテイナーゼ、アスパラギン酸プロテイナーゼ、およびメタロプロテイナーゼまたはマトリックスメタロプロテイン(MMP)に分けることができる。特定の基に対するプロテアーゼの結合は、触媒部位の構造、およびその活性に不可欠なアミノ酸(構成要素のうちの1つとしての)に依存する。
【0030】
ウイルスに感染した皮膚または粘膜では、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、スブチリシン、シスチンプロテイナーゼ(カテプシンB、カテプシンH、カテプシンK、カテプシンL、カテプシンL)、アスパラギン酸プロテイナーゼ(カテプシンD)、血液凝固因子、およびゼラチナーゼA(MMP−2)、ゼラチナーゼB(MMP−9)、コラゲナーゼ(MMP−1)、コラゲナーゼ3(MMP−13)、ストロメリシン1(MMP−3)、ストロメリシン3(MMP−11)、MT−1 MMP(MMP−14)、マクロファージメタロエラスターゼ(MMP−12)など、局所的な創傷治癒過程に関与するマトリックスメタロプロテアーゼ、ならびにいまだ発見されていないおそらく多くの他のプロテアーゼなど、多くのプロテアーゼを局所的に見出すことができる。
【0031】
また、皮膚のウイルス病変(例、口唇ヘルペス)、粘膜のウイルス病変(例、陰部ヘルペス)、および咽頭表面のウイルス病変(例、インフルエンザウイルスによる病変)の細胞外マトリックスに存在する異なる種類のプロテアーゼを解析することにより、組織の感染部位には、特異的なタンパク質分解活性を有する、多くの異なる種類のプロテアーゼが存在することも示唆される。
【0032】
多くのウイルスは、新たに合成されたポリタンパク質を適切な位置で切断して、感染性HIVビリオンの成熟タンパク質成分を創出することにより、HIV−AIDSウイルスが増殖することを支援するHIV1プロテアーゼなど、細胞内のウイルス増殖を促進するプロテアーゼを用いるということが十分立証されている。有効なHIVプロテアーゼがなければ、HIVビリオンは、非感染性のままである。
【0033】
したがって、HIVウイルスの増殖を遮断するために、saquinavir(登録商標)、ritonavir(登録商標)、indinavir(登録商標)、nelfinavir(登録商標)、および他の複数の細胞内プロテアーゼ阻害剤が開発されている。これらの製品は、HIVウイルスの増殖を遮断するために、単独または組合せ(例、Liponivir(登録商標)およびRitonavir(登録商標))で経口投与される。しかし、それらの毒性、副作用、および活性の低さのために、一般的な抗ウイルス薬としてのこれらの使用は、高度に制約されている。
【0034】
Agenerase(登録商標)、Crixivan(登録商標)、Invirase(登録商標)、Kaletra(登録商標)、Lexiva(登録商標)、Norvir(登録商標)、Prezista(登録商標)、Reyataz(登録商標)、およびvitacept(登録商標)など、一部の細胞内プロテアーゼ阻害剤は、抗プロテアーゼ薬として既に承認されており、AIDSを治療するために、他の抗ウイルス薬と組み合わせて、経口で用いられている。
【0035】
残念ながら、これらのプロテアーゼ阻害剤の大半は、タンパク質の性質を有し、創傷に存在する天然のプロテアーゼにより容易に破壊され(Patickら、1998)、したがって、局所性ウイルス感染に使用することはできない。
【0036】
新規のプロテアーゼ阻害剤、ヌクレオシドRNA複製阻害剤、インテグラーゼ阻害剤、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤、およびシクロスポリン誘導体など、すべての将来的な抗ウイルス治療もまた、経口投与により細胞内のウイルス複製を停止させることを対象とするが、それらが細胞内で作用する機序であるために、細胞内へのウイルスの侵入を停止させるためのそれらの局所的使用は、いまだ想定されていない。
【0037】
組織の修復における役割のために、傷害部位では、プロテアーゼの局所濃度が顕著に上昇する。局所性ウイルス感染は通常、皮膚または粘膜が損傷を受ける前には検出されないので、すべての局所性ウイルス感染では、プロテアーゼの量が非常に多い。
【0038】
毎年世界中で5億人を超える人々に感染するインフルエンザウイルスは、吸入時に咽頭細胞とまず接触するが、ウイルス膜融合糖タンパク質前駆体に対するプロセシングプロテアーゼを有さず、咽頭細胞に侵入することはできない。したがって、インフルエンザウイルスは、気道表面に存在するプロテアーゼを用いて、咽頭細胞に侵入し、感染する。気道では、少なくとも5つの異なるプロセシングプロテアーゼ(トリプシン様のプロテアーゼ)が既に同定されている(Kido、2007)。まず少数のウイルス粒子が細胞に侵入し、増幅され、次いで、数百万の新たなウイルス粒子が、咽頭表面へと放出される。これらのウイルス粒子のすべては、新たな健常細胞に侵入し、感染を拡大させるのに、プロテアーゼの支援を必要とする。そこで、われわれの身体の防御機構は、上気道では分泌性ロイコプロテアーゼと称する抗プロテアーゼを放出し、下気道では肺サーファクタントを放出して、ウイルスの侵入に利用される遊離プロテアーゼの量を低減する。阻害性化合物の活性に対してプロテアーゼの活性が優勢である場合は、ウイルス感染を停止させることができない(Kido、2004)。近年の科学的研究はまた、口唇ヘルペスおよび陰部ヘルペスを引き起こすヘルペスウイルスなど、他の局所性ウイルスも、細胞に感染するのに一部のプロテアーゼの支援を受けることを示唆している。
【0039】
開口部ヘルペスウイルス病変では、初期感染時において、MMP−2プロテアーゼおよびMMP−9プロテアーゼのレベルが上昇し(Martinez、2004)、特定のプロテアーゼ阻害剤が、ヘルペスウイルスの活性を低減し(La Frazia、2006)、エンベロープウイルスの病原性には細胞内プロテアーゼが関与する(Kido、1996)ことが示されている。
【0040】
ウイルスを宿主細胞と付着させるためのウイルス表面糖タンパク質の役割、および宿主細胞に侵入するためのウイルスによるプロテアーゼの使用を考慮に入れると、ウイルス表面糖タンパク質と、対応するプロテアーゼとを同時に中和することにより、局所性ウイルス感染を治療する方法を見出すことが不可欠である。
【0041】
現在のところ、細胞への局所的なウイルスの侵入を遮断するための、局所的抗プロテアーゼ阻害剤またはウイルス表面糖タンパク質阻害剤は知られていない。
【0042】
これは、各々が特異的な活性を有する多くのプロテアーゼが存在するので、すべてのプロテアーゼを中和しうる特異的な薬物を見出すのが極めて困難であるという事実と関連している可能性がある。
【0043】
局所的に存在するプロテアーゼの正確な数、および局所性ウイルス感染におけるそれらの役割については、現在のところ知られていないので、非特異的なプロテアーゼ阻害剤のみが、すべてのプロテアーゼを遮断することができる。
【0044】
感染表面に局所的に存在する遊離ウイルス粒子の量(数百万個)を考慮に入れると、有効な治療は、特異的なウイルス糖タンパク質を中和するだけでなく、細胞へのウイルスの侵入を促進するプロテアーゼの量も最小化するべきである。
【0045】
また、新たな細胞に感染し続ける局所性ウイルス粒子を死滅させるための特異的な薬物が存在しない中で、acyclovir(登録商標)を含有するクリームも、現在局所適用のために市販されているが、それらが細胞内で作用する機序であるために、acyclovir(登録商標)は、病変に局所的に放出されて細胞外に存在する遊離ウイルス粒子には作用することができない。すべての局所性ウイルス感染において、病変の表面に存在する遊離ウイルス粒子は、外部から新たな健常細胞を攻撃し続けて、感染を拡大させる。
【0046】
また、一部の薬草調製物も、ウイルス性病変に局所適用することが提案されているが、このような薬草による薬物の使用が広範にはなされていないこと自体、これらの有効性が極めて制約されており、これらを特異的な抗ウイルス薬として考えることはできないことを実証する。
【0047】
例えば、口唇ヘルペスを治療するのに、セージによる植物抽出物と共に、ルバーブによる植物抽出物を用いることが提案されているが、その臨床結果は、セージクリームによる平均病変治癒期間が7.6日間であり、ルバーブ−セージクリームでは6.7日間であり、zovirax(登録商標)では6.5日間であることを示した(Sallerら、2001)。これらの2つの植物抽出物の組合せは、ヘルペス病変の治癒時間を約12%短縮したが、zovirax(登録商標)を含有するacyclovir(登録商標)クリームによる約15%の短縮と比較すると、この製品を特異的な局所的ヘルペス治療として考えるのには全く不十分である。
【0048】
また、in vitroにおける単離細胞培養物モデルを用いて、または特異的なウイルス結合受容体において、極めて多数の植物抽出物が調べられてもいるが、これらは、さらなる臨床試験、または抗ウイルス薬としてのさらなる開発に十分な程度に抗ウイルス性であるとは考えられなかった。
【0049】
海藻に由来する硫酸化多糖が、HIVウイルスのヘパリン受容体への結合に干渉することが示され(Witvrouw、1997)、緑茶に由来する没食子酸エピガロカテキンが、単離細胞におけるHIV−1ウイルスのgp120タンパク質−cd4結合を遮断することが判明し(Hamza、2006)、おそらく、タンニンがHIV−1ウイルスgp41の6ヘリックスバンドルの形成に干渉する結果として、漢方の薬草であるPrunella vulgarisおよびRhizoma cibotteの抽出物が、in vitroにおいて、HIV−1ウイルスgp41の6ヘリックスバンドルの形成を阻害することが示され(Liu、2002)、インドの植物であるSwertia chirataの抽出物が、in vitroにおいて増殖させたHIV−1ウイルスを低減することが判明したことから、一部の植物抽出物は、ある程度の抗ウイルス活性を有することが判明したが、この局所的抗ウイルス効果は、これらの植物を抗ウイルス薬として用いるのには十分でない。
【0050】
フェニルカルボン酸には富むがフラボノイドには富まない水抽出物、およびフラボノイドに富むエタノール抽出物のいずれもが、II型単純ヘルペスウイルスの感染性を低減したので、プロポリスなどの他の天然物質もまた、HSV−2の増殖を阻害することが示唆された(Nolkemper、2009)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0051】
すべての局所性ウイルス感染において、まず、表皮細胞または粘膜細胞が、病変の表面に大量の遊離ウイルス粒子を放出し、この遊離ウイルスが、しばしば、各種のタンパク質分解酵素の支援により、新たな健常細胞に付着するので、理想的な局所的抗ウイルス治療は、以下の主要な特性を保有するべきである。
・新たな細胞の感染を停止させるように、ウイルス粒子が細胞に侵入することを支援するすべてのウイルス糖タンパク質受容体を中和するべきである。
・ウイルスにより、細胞膜に侵入するのに用いられうる、感染した表面に存在するすべてのプロテアーゼを同時に中和するべきである。
・皮膚細胞または粘膜細胞に対して非刺激性、非毒性であるべきであり、廉価であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0052】
したがって、本発明の1つの目的は、宿主細胞へのウイルスの侵入、または宿主細胞へのウイルスの付着の促進、および局所性感染を誘導する、糖タンパク質エンベロープウイルスの病原性に関与する、プロテアーゼおよびウイルス糖タンパク質の両方を同時に中和することが可能な相乗的組成物を提供することである。
【0053】
本発明の別の目的は、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、および他の局所性エンベロープウイルスなどの局所性感染に関与するプロテアーゼおよびウイルス糖タンパク質の両方を中和することが可能な相乗的組成物を提供することである。
【0054】
本発明の別の目的は、風邪による痛み、陰部ヘルペス、ウイルス性咽頭感染、ヘルペス性湿疹、ヒトパピローマウイルス感染、発疹、ウイルス性疣贅病変、および遊離のウイルス粒子が病変の表面上に見出される他のウイルス感染などの局所性感染に関与するプロテアーゼおよびウイルス糖タンパク質の両方を中和することが可能な相乗的組成物を提供することである。
【0055】
本発明の別の目的は、局所性ウイルス感染に対する予防的治療または治癒的治療としての相乗的組成物を提供することである。
【0056】
本発明の別の目的は、ヒトおよび動物の身体の局所性ウイルス感染を治療するための、安全で、効果的で、かつ廉価な化粧料もしくは薬物、または医療用デバイスとしての相乗的組成物を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明者は、上記で言及した問題の全部または一部を解決した。
【0058】
既に示唆した通り、感染表面では数百のプロテアーゼが知られているが、極めて数多くの他のプロテアーゼは依然として未知である。したがって、各プロテアーゼに特異的な阻害剤を見出すことは、実際上不可能である。同様に、ウイルス殻には多数の糖タンパク質が存在するので、すべてのウイルス糖タンパク質を同時に中和することもまた極めて困難である。
【0059】
本発明者は、その研究において、驚くべきことに、特定のタンニンに富む植物抽出物を組み合わせると、特定のウイルスの糖タンパク質およびプロテアーゼを同時に相乗的に中和し、したがって、初期感染段階で、局所性ウイルス感染を中和しうることを観察した。
【0060】
本発明者により実施された実験は、ウイルス糖タンパク質だけを中和しても、プロテアーゼだけを遮断しても、局所性ウイルス感染を完全に停止させることはできないことを明確に示す。これは、感染表面に数百万のウイルス粒子が存在し、これらの系の両方を同時に中和して感染を軽減することが不可欠であるためである。
【0061】
残念ながら、現在までのところ、局所性ウイルス感染を停止させるのに不可欠なこれらの2つの基本的特性を有する薬物、または植物抽出物、またはタンニンは知られていない。局所性ウイルス感染を治療するには、ウイルス糖タンパク質および特異的プロテアーゼを同時に中和することが不可欠であることも、ウイルス糖タンパク質およびプロテアーゼを併せて遮断して、局所性ウイルス感染を治療することを対象とする、天然または合成の生成物が存在することも、本発明以前には知られていなかった。
【0062】
したがって、本発明は、局所性ウイルス感染を治療するための、タンニンに富む植物抽出物を含む相乗的組成物であって、前記植物抽出物が、少なくとも1つのプロテアーゼ阻害剤および/または少なくとも1つのウイルス糖タンパク質阻害剤を含有する相乗的組成物に関する。
【0063】
本発明の相乗的組成物は、特に、用いられる抽出物中のタンニン濃度に応じて、該相乗的組成物の全重量に対する重量で0.1〜20%、特に0.5%〜6%、およびさらに特に2%〜4%の各植物抽出物を含むことが好ましい。
【0064】
本発明の相乗的組成物の少なくとも1つのプロテアーゼ阻害剤は、Echinacea purpureaおよびCamellia sinensisからの植物抽出物を含む群において選択される、タンニンに富む植物抽出物に由来し、本発明の相乗的組成物の少なくとも1つのウイルス糖タンパク質阻害剤は、Mimosa tenuiflora、Alchemilla vulgaris、Centella asiatica、Asculus hippocastanum、Acacia catechu、およびSalvia officinalisからの植物抽出物を含む群において選択される植物抽出物に由来することが好ましい。
【0065】
前記抽出物は、当業者に十分に知られている従来の抽出法を用いて調製することができる。特に、抽出物は、溶媒による抽出法を用いて調製することができる。用いられる溶媒は、水、アルコール、グリセロール、エチレングリコール、好ましくはグリセロールでありうる。
【0066】
抽出の前に、植物は磨り潰すことができ、または切断して断片にすることができ、また、植物は生であっても、凍結されても、乾燥されても、もしくは凍結乾燥されてもよい。
【0067】
用いられる溶媒により有効成分が完全に枯渇するまで、複数回にわたり逐次的に抽出を行うことができる。抽出時間は、抽出に用いられる溶媒、温度、およびおそらくは圧力に応じて変化する。実際に収益性のある業務として実施する場合には、この時間を2時間以内に制限することができる。
【0068】
本発明における植物抽出物を調製するためには、植物の任意の部分を用いることができる。
【0069】
Alchemilla vulgaris、Centella asiatica、Echinacea purpurea、およびAsculus hippocastanumの抽出物は、少なくとも1つの地上部分の抽出物であることが好ましく、全植物抽出物であることがより好ましく、一方、Mimosa tenuifloraおよびAcacia catechuの抽出物は、植物の樹皮抽出物であることが好ましい。
【0070】
「植物の地上部分」という用語は、地下にはない植物の任意の部分の意味であることを意図する。植物の地上部分は、葉、果実、花、茎、種子、好ましくは、葉および枝を含む。
【0071】
「全植物抽出物」という用語は、植物の全地上部分の抽出物の意味であることを意図する。
【0072】
これらの抽出物は、Huie W Carmenにより著された総説論文(Huie、2002)において説明されている異なる方法を用いても調製することができる。
【0073】
植物抽出物および調製法に応じて、タンニンの濃度は、縮合型タンニンの1〜35%、特に2〜12%で変化しうる。所望量のタンニンを含有する前記植物抽出物の一部は、例えば、フランス、ヴァランジューのMartin Bauer Companyにより販売されている。
【0074】
タンニンは、大半の高分子と有効な強度の結合を形成するのに十分なヒドロキシル基および他の適切な基(すなわち、カルボキシル基)を含有する、分子量が十分に大きな任意のフェノール化合物として考えることができる。タンニンは、すべての死滅した皮膚のタンパク質分子間に結合を創出して皮膚を皮革へと転換するそのタンパク質への結合特性のために、古代以来、皮膚を皮に転換するのに用いられている。
【0075】
具体的には、本発明におけるAlchemilla vulgarisの抽出物は、乾燥抽出物で表わされる抽出物の全重量に対する重量で1〜20%、好ましくは2〜12%、およびより好ましくは3〜8%のタンニンを含む。
【0076】
具体的には、本発明におけるMimosa tenuifloraの抽出物は、乾燥抽出物で表わされる抽出物の全重量に対する重量で1〜25%、好ましくは2〜14%、およびより好ましくは3〜12%のタンニンを含む。
【0077】
具体的には、本発明におけるEchinacea purpureaの抽出物は、乾燥抽出物で表わされる抽出物の全重量に対する重量で0.5〜12%、好ましくは1〜8%、およびより好ましくは2〜7%のタンニンを含む。
【0078】
一実施形態によれば、本発明の相乗的組成物は、ヘルペスウイルス中和治療のための、M.tenuiflora、A.vulgaris、C.asiatica、またはA.hippocastanumからのタンニンに富む植物抽出物と組み合わせた、E.purpureaからのタンニンに富む植物抽出物を含む。
【0079】
別の実施形態によれば、本発明の相乗的組成物は、インフルエンザウイルスの治療のための、C.sinensisからのタンニンに富む植物抽出物と組み合わせた、E.purpureaからのタンニンに富む植物抽出物を含む。
【0080】
別の実施形態によれば、本発明の相乗的組成物は、インフルエンザウイルスの治療のための、A.catechuまたはM.tenuifloraからのタンニンに富む植物抽出物と組み合わせた、C.sinensisからのタンニンに富む植物抽出物を含む。
【0081】
一実施形態によれば、本発明の相乗的組成物は、M.tenuiflora、A.vulgaris、C.sinensis、C.asiatica、Asculus hippocastanum、Salvia officinalis、またはAcacia catechuからの抽出物において選択される、ウイルス糖タンパク質を中和することが可能な植物抽出物と相乗的に組み合わせた、E.purpureaまたはC.sinensisから選択される、抗プロテアーゼ活性に富む植物抽出物を含む。抽出物は、1:1のw/w比で組み合わせることができるが、この比は、治療されるウイルス感染の種類に応じて変化しうる。
【0082】
相乗的組成物は、口唇ヘルペスまたは陰部ヘルペス、インフルエンザ、咽頭感染、パピローマウイルス感染、ならびに皮膚および粘膜の他のウイルス感染を含む群において選択される局所性ウイルス感染を治療するための組成物であることが好ましい。
【0083】
既に定義した通り、「局所」という用語は、皮膚、口腔、咽頭、上気道、鼻腔、膣粘膜、眼の表面、および天然の身体開口部など、身体のすべての外側部分を指す。したがって、本発明の相乗的組成物は、口唇ヘルペスおよび陰部ヘルペス、咽頭におけるインフルエンザウイルス感染、ならびに他の皮膚における局所性ウイルス感染など、体表面において顕在化するウイルス感染を治療するための組成物に関する。
【0084】
「局所性ウイルス感染」という用語は、ウイルス粒子が局所的に存在する、すべての局所性感染の意味であることを意図する。
【0085】
「相乗的」という用語は、組成物のタンニンに富む植物抽出物の組合せ効果が、単独で用いられる各植物抽出物の効果に対して高いことを意味することを意図する。
【0086】
本発明はまた、局所性ウイルス感染の治療のための医薬または医療用デバイスを製造するための、本発明の相乗的組成物の使用にも関する。
【0087】
「医療用デバイス」という用語は、体細胞の機能に影響を及ぼすことなく、主にその物理的特性(例えば、傷害の空洞部において、タンパク質分解酵素または他のタンパク質と結合する特性)を介してその作用を及ぼす、任意の製品(例えば、植物抽出物の組合せ)または物品を意味することを意図する。
【0088】
医療用デバイスには、圧迫包帯、ハイドロゲル、ポリマーフィルム、溶液、懸濁液、クリーム、ゲル、軟膏、ローション、徐放性デバイス、またはスプレーが含まれうる。
【0089】
本発明はまた、対象に、本発明の相乗的組成物を投与するステップを含む、局所性ウイルス感染を治療する方法にも関する。
【0090】
本発明はまた、ウイルス起源の皮膚病変に局所適用するための化粧品としての、本発明の相乗的組成物の非治療的使用にも関する。このような化粧品には、溶液、懸濁液、クリーム、ゲル、軟膏、ローション、徐放性デバイス、フィルム、またはスプレーが含まれうる。局所性ウイルス感染の予防および/または治癒における、2つの植物抽出物を組み合わせることの相乗的抗ウイルス特性の実証は、以下の薬理学的研究、毒性学的研究、および臨床研究から明らかである。提示される例は、本発明を例示するものであり、いかなる形でも、本発明の範囲を限定するものとして考えるべきではない。
【0091】
本発明者により提示される実験の概要は、
・植物を選択するステップと、
・植物抽出物を調製するステップと、
・ウイルス種を選択するステップと、
・調製された植物抽出物のプロテアーゼ阻害活性について調べ、解析するステップと、
・調製された植物抽出物のウイルス糖タンパク質中和特性について調べ、解析するステップと、
・抗プロテアーゼ特性またはウイルス糖タンパク質阻害特性を有する植物抽出物の、ウイルスを中和する相乗的活性について調べるステップと、
・相乗的組成物を臨床評価および安全性評価するステップと
を包含する。
【0092】
[植物の選択および植物抽出物の調製]
E.purpurea、Mimosa tenuiflora(M.tenuiflora)、Asculus hippocastanum(A.hippocastanum)、Salvia officinalis(S.officinalis)、Alchemilla vulgaris(A.vulgaris)、Centella asiatica(C.asiatica)、Camellia sinensis(緑茶)、およびAcacia catechu(A.catechu)を含む、タンニンに富む既知の植物134種を選択した。
【0093】
縮合型タンニンの含有量が最大である植物の部分を用いて、選択された植物の植物抽出物を調製した。
【0094】
水溶性タンニンは局所適用には適さないので、文献(Nafisi−movaghar、1991)において公表されている異なる抽出法を用いて、植物抽出物の縮合型タンニンを濃縮した。略述すると、まず植物材料を、1:12の固体対水比で混合し、200〜300°F、2〜50Psiで1時間にわたり撹拌した。次いで、得られた水溶液を、ポリマー膜を介して濾過し、大型の粒子を除去した。3%(w/w)のベントナイトを添加することにより溶液を精製し、濾過によりこれを除去した。次いで、抽出物を吸着材料(カラム内に充填した非イオン性樹脂)と接触させ、この吸着材料に保持されたタンニンを、極性溶媒で溶出させた。次いで、濃縮されたタンニン抽出物を、噴霧により乾燥させて、タンニンに富む、乾燥した、可溶性の植物抽出物を得た。乾燥抽出物中のタンニンの百分率は、植物が当初どの程度タンニンに富んでいたか、および用いられる植物の部分に応じて、5〜34%の間で変化した。使用前に、これらの乾燥抽出物を水中に可溶化させて母液とした(10mg/ml)。実験では、各植物抽出物を、1mg/mlの最終濃度、および2つの植物抽出物を組み合わせる場合は、0.5mg/mlの最終濃度でさらに希釈した。
【0095】
[参照ウイルスの選択]
局所性ウイルス感染では、局所性口唇病変および局所性陰部病変を誘導するヘルペスウイルス、および咽頭感染を引き起こすインフルエンザウイルスが、表面糖タンパク質を保有する主要な局所性ウイルスを代表する。したがって、これら2つのウイルスを、すべての実験の参照ウイルスとみなした。
【0096】
[調製した植物抽出物のプロテアーゼ阻害活性についての試験および解析]
[細胞へのウイルスの侵入に関与するプロテアーゼについての探索]
細胞へのウイルスの侵入の促進に関与するプロテアーゼに関して未知であったため、最初の実験は、細胞へのヘルペスウイルスおよびインフルエンザウイルスの侵入の促進に関与するプロテアーゼを選択するために、異なるプロテアーゼにより実施した。次いで、選択されたマトリックスメタロプロテイン、すなわち、MMP1、MMP2、MMP3、MMP7、MMP9、MMP10、およびMMP12を、異なる組合せにおいて調べ、特定のウイルスの侵入に関与するすべてのMMPを見出した。
【0097】
精製ヒトMMP(プロテアーゼ)およびプロテアーゼアッセイキットは、AnaSpec,Inc、USAから購入した。MMP1(間質コラゲナーゼおよび線維芽細胞コラゲナーゼ、Ref.72004およびRef.71128)、MMP2(ゼラチナーゼA、Ref.72005およびRef.71151)、MMP3(ストロメリシン1、トランシン1、Ref.72006およびRef.71153)、MMP7(プロエンザイム、Ref.72007)、MMP−9(ゼラチナーゼB、コラゲナーゼIV、Ref.72009およびRef.71134)、およびMMP−12(エラスターゼ、Ref.72010およびRef.71137)、MMP−10(ストロメリシン2、Ref.72067およびRef.72024)を、ウイルス懸濁液、細胞培養物のいずれかと共に0.5μg/mlの濃度で、定量的解析のために用いた。
【0098】
まず、75cmの組織培養フラスコ(Corning、USA)内で10%のウシ胎仔血清(FCS)および抗生剤を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)において、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓細胞)およびMDCK細胞(メイディン・ダービーイヌ腎臓細胞)を増殖させた。すべての細胞は、5%COで37℃で培養した。実験は、無血清培地および適切な対照を用いて96ウェル組織培養プレート内で増殖させた細胞培養物において実施した。
【0099】
局所性ウイルス感染を模倣するために、細胞が外部環境への曝露を維持する細胞培養モデルを用いた。ヘルペスウイルス感染に感受性であるVero細胞、およびインフルエンザウイルス感染に感受性であるMDCK細胞を用いた。
【0100】
細胞およびウイルスは、ATCC培養細胞保存機関、アメリカ合衆国から購入した。
【0101】
ウイルス力価、および50%組織培養物感染用量(TCID50)、または100%組織培養物感染用量(TCID100)を決定するため、細胞を、10倍のウイルス希釈液(m.o.i.2)を含む96ウェル組織培養プレートにおいてコンフルエンス状態で増殖させ、37℃で1時間にわたりインキュベートした。接種物を除去した後、細胞をPBSで洗浄し、新鮮な培地と共に72時間にわたりインキュベートした。MTT生細胞染色により、細胞死を評価した。インフルエンザウイルスについては場合によって、50μlの上清試料を各ウェルから採取し、新たな96ウェルプレートへと移し、ニワトリ赤血球の0.5%懸濁液を用いて赤血球凝集素(HA)検査により、ウイルス力価を決定した。TCID用量は、ReedおよびMuench(1938)の方法により計算した。
【0102】
細胞へのウイルスの侵入に関与するプロテアーゼを探索するため、個別のプロテアーゼまたはプロテアーゼの組合せ(0.5μg/ml)を、プロテアーゼを含有しない無血清組織培養培地中にTCID50濃度のヘルペスウイルスまたはインフルエンザウイルスを感染させた細胞培養物に対して、72時間にわたり曝露した。次いで、既に説明した通りに、ウイルスの増殖を決定した。
【0103】
ウイルスの増殖に変化が見られなければ、MMPは、細胞へのウイルスの侵入過程に関与しないと考えたが、ウイルスの増殖が、対応する、MMPを添加していないウイルス対照を上回れば、ウイルス増殖の百分率の増大を決定して、宿主細胞へのウイルスの侵入へのMMPの関与の程度を評価した。値は、少なくとも3回の実験の平均を表わす(1回の実験当たりのn=16)。
【0104】
以下に、ヘルペスウイルスおよびインフルエンザウイルスの増殖に関与するMMPについての結果のみを示す(表1)。
【表1】

【0105】
表1に示す結果は、プロテアーゼが、細胞へのウイルスの侵入に関与することを示唆する。MMP−2、MMP−9は、ヘルペスウイルスならびにインフルエンザウイルスの侵入を促進し、MMP−10およびMMP−12は、ヘルペスウイルスにより特異的であるのに対し、MMP−1およびMMP−7は、特に、インフルエンザウイルスの侵入を支援する。他のすべての被験プロテアーゼは、本発明で用いた実験条件下において、細胞への局所的なウイルスの侵入にはほとんどまたは全く影響を及ぼさない。MMP2、MMP9、MMP10、およびMMP12を、ヘルペスウイルスについてのさらなる実験用に選択する一方、MMP1、MMP2、およびMMP9を、インフルエンザウイルスについて選択した。
【0106】
これらの結果はまた、特定のウイルスの侵入には、特定のプロテアーゼが関与することも示唆する。
【0107】
[調製した植物抽出物の抗プロテアーゼ活性についての試験および解析]
同じ植物科において最も活性の高い植物種のうちの異なる種を、それらの活性について評価したが、結果のセクションには、最も活性の高い植物種についての結果だけを示す。例えば、Echinacea purpurea(E.purpurea)、E.angustifolia、E.pallidaの植物抽出物を、それらの抗プロテアーゼ阻害特性または抗ウイルス糖タンパク質阻害特性について評価したが、結果では、最も活性の高い種であるE.purpureaについての結果だけを示す。
【0108】
まず、異なる種類の細胞を、多様な植物抽出物濃度に曝露することにより、各植物について、細胞毒性とならない最大濃度を決定した。実験には、細胞毒性とならない濃度のみを用いた。
【0109】
異なるタンニンに富む植物抽出物の抗プロテアーゼ活性を評価するために、一定濃度(個別の植物抽出物では1mg/mlであり、2つの植物抽出物の組合せでは0.5mg/mlである)の各植物抽出物を、ヘルペスウイルスまたはインフルエンザウイルスの増殖を増強することが判明したMMPの組合せを含む試験管内で、1時間にわたりプレインキュベートした。ヘルペスウイルスおよびインフルエンザウイルス対するMMPの組合せは、それぞれ、MMP2、MMP9、MMP10、およびMMP12、ならびにMMP1、MMP2、MMP9、およびMMP7を含有した。各MMPの濃度は、0.5μg/mlとした。
【0110】
プレインキュベーションの1時間後、植物抽出物−MMP懸濁液を、TCID100濃度のヘルペスウイルスまたはインフルエンザウイルスのいずれかを1時間前に事前に感染させた細胞培養物へと曝露した。プロテアーゼおよび無血清培地で細胞培養物を洗浄して、培養物表面に遊離ウイルス粒子が存在しないことを確実にした。非処理細胞を細胞対照として用いる一方、ウイルスのみで処理した細胞をウイルス対照として用いた。植物抽出物が、特定のプロテアーゼを中和すれば、このプロテアーゼは、細胞へのウイルスの侵入に利用されず、これにより、細胞の感染が軽減され、結果として、細胞死が低減されると推定された。
【0111】
ウイルス対照は、72時間で100%の細胞死を誘導した。ウイルス対照と比較した細胞死の低減は、少なくとも3回にわたる実験の平均値として決定し、単独または組合せによる、タンニンに富む植物抽出物の抗プロテアーゼ活性として考えた。
【0112】
ウイルス増殖に対して何らかの防御活性(抗プロテアーゼ活性)を示す植物抽出物の結果のみを、個別に示す。以下の結果が得られた。
【表2】

【0113】
表2に示す結果は、被験植物抽出物131例のうち、8例の植物抽出物だけが、低〜中程度の抗プロテアーゼ活性を示したことを実証する。個別の植物抽出物のうち、E.purpureaによる植物抽出物のみが、宿主細胞へのヘルペスウイルスおよびインフルエンザウイルスの侵入に関与するプロテアーゼに対して抗プロテアーゼ活性を及ぼすことが可能であり、C.sinensisによる抽出物のみが、宿主細胞へのインフルエンザウイルスの侵入を増強するMMPを阻害することが可能であった。最も活性な濃度の半分の濃度のE.purpureaまたはC.sinensisを、M.tenuiflora、A.vulgaris、C.asiatica、A.hippocastanum、S.officinalis、またはA.Catechuと組み合わせたところ、プロテアーゼを中和するわずかな相乗効果が誘導された。
【0114】
植物抽出物または植物抽出物の組合せのいずれも、ヘルペスウイルスまたはインフルエンザウイルスを100%阻害することはなかったことから、一部の植物抽出物は、これらのウイルスを中和するが、この活性は、すべてのウイルス粒子を不活化するには十分でなく、したがって、これらの植物抽出物は、局所性ウイルス感染を完全に停止させることができないことが示唆される。
【0115】
本発明者らはまた、同じ植物科の異なる種の植物による抽出物も、ほぼ同様の抗プロテアーゼ特性を有することを観察した。
【0116】
[調製した植物抽出物のウイルス糖タンパク質阻害活性についての試験および解析]
ヘルペスウイルスまたはインフルエンザウイルスなどの、特定の局所感染性ウイルスは、ウイルスカプシドに糖タンパク質を含有する。糖タンパク質は、ウイルスを宿主細胞に付着させて細胞内に侵入させ、特定の植物性タンニンは、特定の糖タンパク質に特異的に結合するので、本発明者らの目的は、各植物抽出物の、ウイルス糖タンパク質に結合する潜在能力を評価することであった。ウイルス糖タンパク質の阻害は、植物抽出物の抗ウイルス性潜在能力に正比例すると考えられる。
【0117】
ヘルペスウイルスまたはインフルエンザウイルスのウイルス懸濁液(TCID100濃度)をin vitroで用い、これを一定量のタンニンに富む植物抽出物(1mg/ml)と共にインキュベートして、実験を実施した。ウイルス−タンニン懸濁液を1時間にわたりプレインキュベート(37℃)して、植物性タンニン+ウイルスの結合を可能とした。
【0118】
MMP2、MMP9、MMP10、MMP12、およびMMP1、MMP2、MMP7、MMP9のそれぞれを含有する、ヘルペスウイルスのためのMMPの組合せ、およびインフルエンザウイルスのためのMMPの組合せを、0.5μg/mlの濃度で健常細胞の培養培地に添加し、次いで、細胞(ヘルペスウイルスまたはインフルエンザウイルスのそれぞれのためのVero細胞およびMDCK細胞)を、プレインキュベートした植物−ウイルス懸濁液へと曝露した。72時間にわたるインキュベーション後、ウイルスの量を決定した。非処理細胞、およびウイルスだけで処理した細胞を、陰性培養物および陽性培養物として用いた。以下の結果が得られた(表3)。
【表3】

【0119】
表3の結果は、ウイルス糖タンパク質の阻害について調べたほとんどすべての植物抽出物がタンニンに富むが、ウイルスを中和する植物抽出物はごく少数(被験131例のうち8例未満)であったことを裏付ける。これは、ウイルス糖タンパク質と結合することが可能なタンニンがごく少数であり、この結合が特異的であることを裏付ける。
【0120】
プロテアーゼと強く結合することが判明した抽出物(E.purpurea、C.sinensis)は、ウイルス糖タンパク質に結合する潜在能力をほとんど有さず、一方、プロテアーゼに対して影響を及ぼさなかった他の一部の植物抽出物(M.tenuiflora、A.vulgaris、A.hippocastanum、S.officinalis、A.catechu)は、これらの植物抽出物との1時間のプレインキュベーション後にウイルス感染の潜在能力を顕著に低減した通り、強力なウイルス糖タンパク質結合特性を有したことから、植物抽出物のプロテアーゼ結合特性とウイルス糖タンパク質結合特性との間の相関関係はない。
【0121】
M.tenuiflora、A.vulgaris、およびS.officinalisの抽出物が、ヘルペスウイルス糖タンパク質に特異的に結合するのに対し、A.hippocastanum、A.catechu、およびA.vulgarisの抽出物は、特にインフルエンザウイルスタンパク質に結合する。
【0122】
E.purpureaおよびC.sinensisのタンニンに富む植物抽出物は、プロテアーゼ活性を強力に阻害したが、ウイルス糖タンパク質に対しては影響を及ぼさなかったことから、タンニン−プロテアーゼ間の結合またはタンニン−ウイルス糖タンパク質間の結合は、高度に特異的であることが示唆される。
【0123】
驚くべきことに、プロテアーゼ阻害剤である植物抽出物を、ウイルス糖タンパク質阻害剤である植物抽出物と組み合わせると、一方では、ウイルスが侵入するのにプロテアーゼが利用されず、他方では、宿主細胞に付着するためのウイルス糖タンパク質がもたらされないので、ウイルスの複製を停止させるのに極めて効果的である。
【0124】
[抗プロテアーゼ特性を有する植物抽出物を、ウイルス糖タンパク質阻害特性を有する植物抽出物と組み合わせることによる、ウイルスを中和する相乗的活性についての試験]
単独の(1mg/ml)、または他の植物抽出物と組み合わせた(各々0.5mg/mlずつ)個々の植物抽出物について、相乗的活性を評価した。
【0125】
ヘルペスウイルス懸濁液が、ウイルス侵入支援プロテアーゼとして、0.5μg/mlずつのMMP2、MMP9、MMP10、およびMMP12を含有する一方、インフルエンザウイルス懸濁液は、ウイルス侵入支援プロテアーゼとして、0.5μg/mlずつのMMP1、MMP2、MPP7、およびMMP9を含有した。これらの懸濁液を、一定量のヘルペスウイルスまたはインフルエンザウイルス(TCID100)と共に1時間にわたりプレインキュベートしてから、宿主細胞に感染させた。
【0126】
また、比較のために、活性植物抽出物の抗プロテアーゼ阻害効果および抗ウイルス糖タンパク質阻害効果を、以下の表4にも示す。
【0127】
結果は、EpおよびGtによる個別の植物抽出物が、中程度の抗プロテアーゼ活性を保有するのに対し、Av、Mt、Ca、As、Ac、およびSoによる植物抽出物は、特異的ではあるが低度のウイルス糖タンパク質阻害特性を有することを明確に実証する。
【0128】
個別の植物抽出物によるこれらの活性は、細胞表面に存在するすべてのウイルス粒子を遮断および中和するのに十分ではない。
【0129】
2つの植物抽出物を組み合わせると、驚くべきことに、培地中のほとんどすべてのウイルス粒子を中和する相乗効果が誘導される。
【0130】
これは、ウイルス糖タンパク質を阻害する植物を、プロテアーゼを阻害する植物と相乗的に組み合わせることが、ほとんどすべてのウイルス粒子を中和するのに不可欠であり、局所性ウイルス感染を治療するための最良の解決法であることを実証する。
【0131】
全抗ウイルス活性についての結果を、表4に示す。最良の抗ヘルペスウイルス植物抽出物は、Ep+Mt、Ep+Av、Ep+Ca、Ep+As、およびEp+Acである。最良の抗インフルエンザウイルス植物抽出物は、Ep+GtおよびGt+Acである。
【表4】

【0132】
[臨床評価]
植物抽出物の相乗的組合せの臨床的有効性を評価するため、ウイルス性咽頭感染、口唇ヘルペス、および陰部ヘルペスを治療するために、それぞれ、実施例3、4、および5で示される通り、製剤を調製した。
【0133】
インドのNexus臨床研究センターにおいて、各々が咽頭感染、口唇ヘルペス、および陰部ヘルペスの目視可能な病変を有する60例の患者に対して、臨床試験を実施した。「医薬品の臨床試験の実施の基準」についての最新版のICHガイドライン、および最新版の「ヘルシンキ宣言」(2004年、東京)の要求事項に準拠して、試験を実施した。
【0134】
咽頭感染では、急性インフルエンザおよび咽頭感染の症状を有する患者を選択した。
【0135】
咽頭用製品は、毎日3〜4回、最長で10日間にわたりスプレー適用した。
【0136】
治療前、初回治療の2時間後、ならびに2、3、4、7、および10日目に、咽頭スワブ、臨床検査、有効性評価、および他の生物学的パラメータについて記録した。
【0137】
結果は、1日目に66%、7日目に72%、および10日目に100%の咽頭感染の存在が低減されることを示した。細菌数および去痰剤の量は、7日目までに漸進的に低減された。いずれの患者においても、局所的過敏反応、副作用、またはアレルギー反応は認められなかった。
【0138】
口唇ヘルペス研究では、最近目視可能な口唇ヘルペス病変を有する患者を、研究に登録した。被験製品は、3〜4滴ずつ、毎日4〜5回、完全に治癒するまで病変に直接適用した。病変における局所性ウイルス負荷の量は、ツァンク試験により測定し、治癒時点は、0、1、4、7、および14日目に記録した。
【0139】
ウイルス負荷のある多核細胞の平均量は、治療前に750個であり、1日目に465個であり、4日目に359個であり、7日目に226個であり、14日目に0個であったことから、強力な局所的抗ウイルス効果が示唆される。局所病変の平均サイズは、1日目に1.528であり、4日目に0.683に低下し、7日目に0.193に低下し、14日目に0に低下したことから、すべての患者において、14日間以内に病変が完全に治癒することが示される。いずれの被験者においても、局所的反応または副作用は認められなかった。
【0140】
陰部ヘルペス研究では、膣ヘルペスを有すると最近診断された女性60例を、研究に組み入れた。製品を、10ml溶液の単回治療として、毎日1回、連続3日間にわたり適用した。膣内腔における局所的なウイルス粒子量は、ツァンク試験を用いて測定した。病変のサイズ、かゆみ、痛み、pH、および灼熱感もまた、14日間にわたり記録した。
【0141】
平均の結果は、治療前に645であり、2日目に529であり、4日目に341であり、7日目に158であり、14日目に0であった、局所的なヘルペスウイルス量の極めて迅速な低減を示唆し、すべての患者において、4日目には病変サイズが51%減少し、14日目には完全に治癒した。また、他のすべての随伴する臨床徴候も軽減された。いずれの被験者においても、副作用は認められなかった。
【0142】
これらの結果は、本発明で提示される製剤には、局所的な相乗的抗ウイルス活性があるが、毒性または副作用はないことを実証する。
【0143】
したがって、薬理学的結果、毒性学的結果、および臨床的結果は、タンニンに富む植物抽出物による相乗的組成物が、局所的適用により、毒性作用または有害作用なしに、有効な局所的抗ウイルス薬として用いうることを示唆する。E.purpureaおよびC.sinensisから得られる、タンニンに富む植物抽出物が、特異的な抗プロテアーゼ活性を保有するのに対し、M.tenuiflora、A.vulgaris、A.hippocastanum、およびS.officinalisから得られる、タンニンに富む植物抽出物は、ウイルス表面の糖タンパク質と結合する特性を有する。個別の植物抽出物を用いるときは、最大のウイルス中和が40%未満であったので、これらの抗プロテアーゼ効果および抗ウイルス糖タンパク質効果はそれほど強力ではない。しかし、E.purpureaおよびC.sinensisなどの、プロテアーゼを阻害する植物抽出物を、M.tenuiflora、A.vulgaris、A.hippocastanum、A.catechu、またはS.officinalisなどの、ウイルス糖タンパク質を阻害する植物抽出物と50−50%で組み合わせたところ、感染細胞表面に存在するほとんどすべての遊離ウイルス粒子を中和する強力な相乗効果が示された。
【0144】
ヘルペスウイルスの中和には、E.purpurea+M.tenuiflora、E.purpurea+A.vulgaris、E.purpurea+C.asiatica、およびE.purpurea+A.hippocastanumの組合せにより最良の相乗効果(80%を超える)が観察されたのに対し、E.purpurea+C.sinensis、C.sinensis+A.catechu、およびC.sinensis+M.tenuifloraは、80%を超えるインフルエンザウイルスを中和することが判明した。
【0145】
局所的なウイルス増殖を停止させるためには、細胞へのウイルスの侵入に関与するプロテアーゼの活性を阻害するような方法を用いる他に、ウイルス−宿主細胞間の相互作用に関与する二重の系を遮断するようにウイルス糖タンパク質を中和することもまた不可欠であることを、これらの結果は実証する。
【0146】
E.purpureaおよびC.sinensisの特異的な抗プロテアーゼ活性が発見され、M.tenuiflora、A.vulgaris、C.asiatica、A.hippocastanum、およびS.officinalisの特異的なウイルス糖タンパク質阻害特性が評価されたのは、今回が初めてのことである。本発明者らは、遊離ウイルス粒子を局所的に中和して、局所性ウイルス感染を治療するには、驚くべきことに、特定のウイルスプロテアーゼおよび特定のウイルス糖タンパク質の阻害が不可欠であることを観察した。タンニンに富む植物抽出物の抗プロテアーゼ特性またはウイルス糖タンパク質阻害特性が発見されたのは、今回が初めてのことである。また、タンニンに富む植物抽出物の、局所的なウイルスの中和に対する相乗効果が実証されるのも今回が初めてのことである。
【0147】
本発明者らの研究室におけるさらなる研究は、本発明で列挙される植物抽出物が、複数のウイルス種を含有する糖タンパク質殻全体に対して有効であることを実証した。
【0148】
本発明の組成物および医薬は、ゲル、液体、スプレー、軟膏、パッチとして局所適用することもでき、本発明の組成物に浸漬した木綿製ガーゼとして局所適用することもでき、または粉末として局所適用することもできる。組成物は、病変のサイズ、およびウイルス感染の種類に応じて、毎日1回または複数回ずつの適用、好ましくは毎日3〜4回ずつの適用として、1〜10日間にわたり適用することができる。当技術分野で十分に知られている方法または手順のうちのいずれかを用いて異なる成分を混合することにより、本発明における植物抽出物およびそれに続く組成物を調製することができる。
【0149】
植物抽出物は、全植物または植物の特定部分の粗植物抽出物として、あるいは、液体形態または粉末形態の精製抽出物としての、液体植物抽出物または乾燥植物抽出物として調製することができる。抽出物はまた、当技術分野で十分に知られている異なる方法を用いて、タンニンを濃縮することもでき、また、植物からの精製タンニンとして用いることもできる。実験は、最も活性の高い植物種(例、Echinacea purpurea)を用いて行ったが、同じ科の異なる植物種による組成物は極めて同一性が高いので、同じ科に由来する他の植物種(Asteraceae科:E.angustifolia、E.pallida)を用いることもできる。
【0150】
植物抽出物はまた、担体系と組み合わせて、粉末または液体としての生物学的利用能または局所的透過性を改善することもできる。例えば、抽出物を、グリセロール、蜂蜜、クレー、軟膏、水、アルコール、ゲル、またはローションなどの担体と混合することができる。植物抽出物はまた、ポリマーフィルム、ハイドロゲル、木綿製包帯などの包帯に組み込むこともでき、通常の方法により調合される滅菌調製物、抗炎症調製物、抗生調製物、または創傷治癒調製物に組み込むこともできる。
【0151】
組成物は、局所適用のための、薬物として調合することもでき、医療用デバイスとして調合することもでき、または化粧品として調合することもできるが、該調製物の主要な有効成分が、細胞機能に対して薬理学的な作用を及ぼすことなくそれらの機械的特性および物理的特性を介して作用するので、医療用デバイスとして調合することが好ましい。
【0152】
本発明はまた、局所性ウイルス感染を治療する方法であって、局所的プロテアーゼ阻害剤としてのE.purpureaまたはC.sinensisによる植物抽出物、またはウイルス糖タンパク質阻害剤としてのM.tenuiflora、A.vulgaris、C.asiatica、A.hippocastanum、A.catechu、もしくはS.officinalisによる植物抽出物を単独で含むか、あるいは1または複数のウイルス糖タンパク質阻害剤である植物抽出物と共に、プロテアーゼ阻害剤である植物抽出物を、特に、局所適用のためのタンニンに富む植物抽出物を、相乗的組合せにおいて含む方法にも関する。
【0153】
例えば、咽頭におけるインフルエンザウイルス感染を治療するには、インフルエンザウイルス支援プロテアーゼ阻害剤である、E.purpureaなどの植物抽出物を、インフルエンザウイルス糖タンパク質阻害剤である、C.sinensisなどの植物抽出物と相乗的に組み合わせることができる。ヘルペスウイルスによる局所的病変を治療するには、E.purpureaまたはC.sinensisなどのヘルペスウイルス侵入プロテアーゼ阻害剤を、ヘルペスウイルス糖タンパク質阻害剤である、A.vulgaris、M.tenuiflora、またはA.catechuなどのタンニンに富む植物抽出物を相乗的に組み合わせることができる。個別のプロテアーゼ阻害植物抽出物またはウイルス糖タンパク質阻害抽出物を用いることもできるが、一方でウイルスプロテアーゼ、かつ、他方でウイルス侵入糖タンパク質を遮断することが、即時に感染を停止させるのに最も理に適った手法である。
【0154】
病変のサイズ、または感染の種類に応じて、局所適用される製品の量は、1回の適用当たり0.1〜50mlの間で変化しうる。例えば、局所的なヘルペスウイルス病変を治療するには、0.1mlまたは数滴の溶液を、病変に局所的に直接適用することができる。インフルエンザ咽頭ウイルス感染を治療するには、液体製品を、2〜6mlの製品のスプレーとして、治療開始時に毎日3〜4回、2〜3日間にわたり、または完全な回復まで、咽頭表面に直接塗布することができる。以下の例は、本発明を例示するものであるが、いかなる形であれ、本発明の範囲を限定するものとして考えるべきではない。
【0155】
以下の例から、局所性ウイルス感染の予防および/または治癒における、少なくとも2つの、タンニンに富む植物抽出物の組合せによる相乗効果が明らかである。本実施例は、本発明を例示するものであるが、いかなる形であれ、本発明の範囲を限定するものとして考えるべきではない。
【0156】
[実施例]
本発明の組成物についての実施例。反対の証拠が示されない限り、異なる組成物中に含まれる化合物の量は、g/100g(w/w)で表わす。qspとは、表示量を生成させるのに十分な量を意味する。
【0157】
[実施例1]
E.purpureaの液体抽出物(3.0%のタンニン):5.4g
C.sinensisの液体抽出物(2.5%のタンニン):2.6g
水:qsp 100g
【0158】
[実施例2]
E.purpureaの液体抽出物(6.8%のタンニン):3.5g
C.sinensisの液体抽出物(8.5%のタンニン):1.5g
グリセロール qsp 100g
【0159】
[実施例3]
咽頭を治療するための、スプレーとしての相乗的組成物(30mlのボトル)
グリセロール:74g
蜂蜜:12g
E.purpureaの乾燥抽出物:0.63g
S.officinalisの乾燥抽出物:0.15g
水 :qsp 100g
(治療開始時には、30分間隔で4〜5回にわたり、次いで、毎日3〜4回ずつ、3日間にわたり、咽頭スプレーとして適用する。)
【0160】
[実施例4]
口唇ヘルペスを治療するための相乗的組成物
蜂蜜:20.0g
A.catechuによる、12%のタンニンに富む抽出物:1.9g
E.purpureaによる、12%のタンニンに富む抽出物:2.6g
水:2.25%
キサンタンガム:0.1%
グリセロール qsp 100g
(毎日3〜4回、3〜4滴ずつ、完全に治癒するまで病変に適用する。)
【0161】
[実施例5]
陰部ヘルペスを治療するための相乗的組成物
A.hippocastanumによる、12%のハイドログリセリン化乾燥植物抽出物:1.2g
E.purpureaによる、12%のハイドログリセリン化乾燥植物抽出物:1.8g
賦形剤としてのグリセロール qsp 100g
(10mlの試験管1本分の含量を、好ましくは就寝前に毎日1回、連続3日間にわたり、膣内腔の深部に注ぎ込む。必要な場合は、治療をさらに3日間にわたり繰り返す。)
【0162】
[実施例6]
咽頭感染を治療するための相乗的組成物
水:12g
C.sinensis:1.0g
C.asiaticaの抽出物:6.4g
蜂蜜 qsp 100g
(約80mlの微温湯中に20mlの溶液を混合し、毎日2〜3回ずつうがいする。)
【0163】
[実施例7]
E.purpureaの乾燥全植物抽出物:0.74g
M.tenuifloraの乾燥樹皮抽出物:0.66g
キサンタンガム:0.4g
水:qsp 100g
【0164】
[実施例8]
皮膚における開口部ウイルス病変を治療するための化粧用ゲル組成物
蜂蜜:11g、グリセリン:6.0g、ポリアクリル酸グリセリル:2.1g、E.purpureaの乾燥抽出物:0.52g、M.tenuifloraの乾燥抽出物:0.33g、PEG−40:0.1g、キサンタンガム:0.5g、安定化剤としてのパラベン:0.5g、水 qsp 100g
約0.5gのゲルを、毎日2回、連続7〜10日間にわたり、病変に直接適用する。
【0165】
[実施例9]
パピローマウイルスを治療するための化粧用クリーム組成物
8%のタンニンを含有するC.sinensisの水抽出物:8g、6.5%のタンニンを含有するA.vulgarisの水抽出物:4.2%、ステアリン酸ソルビタン:5.4g、スクアレン:2.0g、オクタノン酸オクチル:2.0g、異性化糖:1.5g、カプリル酸カプリン酸トリグリセリド:1.5g、ミリスチン酸オクチルドデシル:1.5g、リンゴ酸ジオクチル:1.5g、トリエタノールアミン:0.66g、ヤシ脂肪酸スクロース:0.6g、カルボマー:0.55g、セチルアルコール:0.5g、パルミチン酸セチル:0.5g、ステアリン酸グリセリル:0.5g、フェノキシエタノール:0.36g、プロピレングリコール:0.20g、安定化剤としてのパラベン:0.02g、水:qsp 100g
【0166】
[参考文献]
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所性ウイルス感染を治療するための、タンニンに富む植物抽出物を含む相乗的組成物であって、前記植物抽出物が、少なくとも1つのプロテアーゼ阻害剤および/または少なくとも1つのウイルス糖タンパク質阻害剤を含有する相乗的組成物。
【請求項2】
Mimosa tenuiflora、Alchemilla vulgaris、Centella asiatica、Asculus hippocastanum、Acacia catachu、およびSalvia officinalisからの植物抽出物を含む群において選択される、少なくとも1つのウイルス糖タンパク質阻害剤植物抽出物と共に、少なくとも1つのプロテアーゼ阻害剤が、Echinacea purpureaおよび/またはCamellia sinensisからの植物抽出物を含む群において選択されるタンニンに富む植物抽出物に由来する、請求項1に記載の相乗的組成物。
【請求項3】
ヘルペスウイルスの治療のための、M.tenuiflora、A.vulgaris、C.asiatica、またはA.hippocastanumからのタンニンに富む植物抽出物と組み合わせた、E.purpureaからのタンニンに富む植物抽出物を含む、請求項1または2に記載の相乗的組成物。
【請求項4】
インフルエンザウイルスの治療のための、C.sinensisからのタンニンに富む植物抽出物と組み合わせた、E.purpureaからのタンニンに富む植物抽出物を含む、請求項1または2に記載の相乗的組成物。
【請求項5】
インフルエンザウイルスの治療のための、A.catechuまたはM.tenuifloraからのタンニンに富む植物抽出物と組み合わせた、C.sinensisからのタンニンに富む植物抽出物を含む、請求項1または2に記載の相乗的組成物。
【請求項6】
局所性ウイルス感染が、口唇ヘルペスまたは陰部ヘルペス、インフルエンザ、咽頭感染、パピローマウイルス感染、ならびに皮膚および粘膜の他のウイルス感染を含む群において選択される、請求項1または2に記載の相乗的組成物。
【請求項7】
局所性ウイルス感染の治療のための医薬または医療用デバイスを製造するための、請求項1または2に記載の相乗的組成物の使用。
【請求項8】
対象に、請求項1または2に記載の相乗的組成物を投与するステップを含む、局所性ウイルス感染を治療する方法。
【請求項9】
ウイルス起源の皮膚病変に局所適用するための化粧品としての、本発明の相乗的組成物の非治療的使用。

【公表番号】特表2013−516499(P2013−516499A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548354(P2012−548354)
【出願日】平成22年1月11日(2010.1.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050236
【国際公開番号】WO2011/082835
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(512182120)ヴィトロ‐バイオ・ソシエテ・ア・レスポンサビリテ・リミテ (1)
【Fターム(参考)】