説明

局所用生体付着性製剤

【課題】粘膜面に対しても生体付着性を示し、かつ所望の表面との接触により付着性を示すようになる低粘度前製剤として調合することができる局所製剤の提供。
【解決手段】a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/または少なくとも1種のトコフェロールと、b)少なくとも1種のリン脂質と、c)少なくとも1種の生体適合性の酸素含有低粘度有機溶媒とからなる低粘度非液晶混合物を含む局所用生体付着性製剤で、少なくとも1種の生理活性物質が溶解または分散している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御放出脂質組成物のin situ生成のための製剤前駆体(前製剤(pre-formulations))に関するものである。特に、本発明は、両親媒性成分と任意に含まれる少なくとも1種の生理活性物質からなる低粘度混合物(分子性溶液等)の形態の前製剤であって、体液等の水性流体に曝露されると、少なくとも1回の相転移を起こし、これにより生体付着性マトリクスを形成する前製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
調剤、栄養素、ビタミン等を含む多くの生理活性物質が、「機能発現枠(functional window)」を有している。すなわち、これらの作用物質が何らかの生物学的効果をもたらすことが確認できる濃度範囲が存在する。適切な身体部分における濃度(例えば、局所的な濃度、または血清濃度として表される濃度)がある一定のレベルを下回ると、その作用物質はいかなる有益な効果も発揮しなくなる。同様に、上限濃度レベルが通常存在し、そのレベルよりも濃度を高くしたとしてもさらなるメリットは得られない。場合によっては、特定レベルを超えて濃度を高めると、望ましくない影響や、あるいは危険な影響すら及ぼすことがある。
【0003】
生理活性物質のいくつかは、生物学的半減期が長く、かつ/または機能発現枠が広いため、時として、機能的な生物学的濃度をかなりの期間(例えば、6時間から数日間)にわたって維持するように投与し得る。また、別の場合においては、クリアランス速度が速く、かつ/または機能発現枠が狭いため、生物学的濃度をこの枠の範囲内に維持するためには、少量ずつの定期的(また、さらには継続的)な投与が要求される。これは、非経口経路での投与(例えば、腸管外投与)が望ましい場合には、特に困難となり得る。さらに、インプラント(例えば、代替関節または口腔インプラント)のフィッティング等のようないくつかの状況においては、所望の作用領域が、繰り返される投与に対しアクセス可能な状態を維持できないこともある。このような場合には、1回の投与で活性が必要とされる全期間にわたって治療レベルにあるように活性物質を供給しなければならない。
【0004】
同様に、生理活性物質の効果が局所的に要求される場合には、対象の身体全体にわたって効果的なレベルとするのに十分な前記物質を投与することが困難である場合や、または望ましくない場合がある。これは、前記物質自体(例えば、ステロイド系抗炎症剤)の望ましくない作用に起因する場合もあるし、あるいは、前記物質は、全身療法(化学療法等)の望ましくない特徴に局所的に対抗するために使用されるが、広範に使用された場合には、その肝心な治療を損なってしまうことが理由である場合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、局所に適用する組成物の主な難点は、その作用の持続である。これらの組成物は、その性質上、涙、汗、または粘液等の体液または適用された流体によって磨耗、洗浄、およびフラッシングされやすい体表面に適用される。局所用調剤を使用する上で特に困難な状況は、消化管等の体腔内である。これは、このような体腔が、通常、非付着性で速やかに入れ替わる粘膜によって覆われているからである。さらに、濃厚な粘性の調剤は、口/咽頭への効果的な適用、または下部消化管への経直腸的な適用が困難な場合があり、また、粘度が高く濾過滅菌が妨げられるため製造が困難である。しかしながら、既存の組成物は、通常、低粘度かつ短寿命であるか、長寿命ではあるがその代償として高粘度であるかのいずれかである。さらに、既存の局所組成物は、ベースとなる組成物と活性物質間の相溶性が乏しいことから、多くの場合、活性物質を低濃度でしか含有できない。これにより、作用部位から放散され始めると急速に有効性を失う組成物となる。したがって、粘膜面に対しても生体付着性を示し、かつ所望の表面との接触により付着性を示すようになる低粘度前製剤として調合することができる局所製剤を提供することは、極めて有意義である。さらに、前記製剤が、保護作用を有し、非刺激性で、かつ摩耗や水性の周囲環境への曝露に対して適度な耐性を示す場合、極めて有利である。
【0006】
本発明者らは、ある種の両親媒性成分と、少なくとも1種の生理活性物質と、生物学的に許容可能な溶媒を、特に、分子性溶液等の低粘度相中に含む前製剤を提供することにより、従来の製剤の欠点の多くに対応した前製剤を生成し得ることを立証した。特に、前記前製剤は、製造が容易であり、濾過滅菌が可能で、低粘度であり(簡単かつ迅速な投与を可能となる)、かつ/または高濃度での生理活性物質の含有を可能にする(これにより、より少量の組成物の使用が可能となり、かつ/または長い有効寿命が得られる)。前記組成物は、非毒性で生物学的に許容可能な生分解性の材料から形成される。これらは、敏感な身体部分および炎症部位等、敏感な領域への適用に適しており、天然の保護表面内層の一部である脂質、例えば、リン脂質を含む。さらに、前記組成物の主要構成成分の生体付着特性と極めて低い水溶解度との組み合わせにより、適用された本発明の組成物は、水性媒体への曝露および摩耗に対して安定である。前記組成物はさらに、広範囲の活性物質を、調整可能な持続時間枠で持続放出させる。したがって、前記前製剤は、体腔および/または体表面、あるいはこれら以外の部分への非腸管外(例えば、局所)投与後に起こるデポー組成物の形成に極めて好適であり、活性物質の極めて効果的な担体および局所デポーを形成するだけでなく、それ自体が内在的に有する利点をも提供し得る脂質から形成される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
よって、第1の態様において、本発明は、a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、b)少なくとも1種のリン脂質と、c)少なくとも1種の生体適合性の(好ましくは、酸素含有)有機溶媒との低粘度混合物を含み、前記低粘度混合物に溶解または分散させた少なくとも1種の生理活性物質を任意に含む前製剤であって、水性流体および/または体表面との接触により、少なくとも1つの液晶相構造を形成するか、あるいは形成することができる前製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】逆ヘキサゴナルHII相を形成するデポーからのMBの累積放出。
【図2】溶媒添加によるデポー前駆体の粘度の低下。PC/GDO(6/4)は、逆ヘキサゴナルHII相の前駆体であり、PC/GDO(3/7)は逆キュービックI2相の前駆体である。
【図3】製剤Aからのクロルヘキシジン放出。実施例33参照。
【発明を実施するための形態】
【0009】
一般に、前記水性流体は、粘膜面からの流体、涙、汗、唾液、胃腸液、血管外液、細胞外液、間質液、または血漿等の体液であり、前記前製剤は、体表面、身体領域、または体腔(例えば、インビボの)との接触時に水性の体液との接触により液晶相構造を形成する。本発明の前製剤は、通常、投与前に有意量の水分を含んでいない。
【0010】
本発明の第2の態様においては、ヒトまたはヒト以外の動物(好ましくは、哺乳類)の身体への生理活性物質の送達方法であって、a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、b)少なくとも1種のリン脂質と、c)少なくとも1種の生体適合性の(好ましくは、酸素含有)有機溶媒との低粘度混合物と、当該低粘度混合物に溶解または分散した少なくとも1種の生理活性物質を含む前製剤を局所投与することを含み、前記前製剤が、投与後に体表面での水性流体との接触により少なくとも1つの液晶相構造を形成する送達方法がさらに提供される。このような方法で投与される前製剤は、本明細書中に記載されているような本発明の前製剤であることが好ましい。
【0011】
上述した本発明の方法に適した投与方法は、治療すべき疾患および使用される生理活性物質に適した方法である。生体付着性の、非腸管外(例えば、局所)デポー組成物は、皮膚、粘膜、および/または爪の表面、眼科的(opthalmological)表面、鼻腔面、口腔面、または内表面、あるいは鼻腔、腸腔、膣腔、または頬側口腔、歯周ポケットまたは対象自身の、または移植された構造物を抽出した後、あるいはインプラント(例えば、関節、ステント、美容的インプラント、歯、歯の詰め物、またはその他のインプラント)の挿入前に形成される体腔等の体腔に投与することによって形成してもよい。
【0012】
別の態様において、本発明は、a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、b)少なくとも1種のリン脂質と、c)少なくとも1種の生体適合性の(好ましくは、酸素含有)有機溶媒との低粘度混合物を含み、前記低粘度混合物に溶解または分散した少なくとも1種の生理活性物質を任意に含む前製剤を、体表面で水性流体に曝露することを含む、液晶組成物(特に、デポー組成物)の調製方法をさらに提供する。投与される前製剤は、本明細書中に記載されているような本発明の前製剤であることが好ましい。前記組成物およびいずれかの活性物質の性質によって、体腔の内表面で内部的に流体に曝露されてもよいし、あるいは皮膚表面等の外側体表面で流体に曝露されてもよい。
【0013】
この方法で形成される液晶組成物は、本明細書中に記載しているように生体付着性である。
【0014】
さらに別の態様において、本発明は、(好ましくは、哺乳類である)対象の表面への生理活性物質の投与に適した前製剤の形成方法であって、前記方法は、a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、b)少なくとも1種のリン脂質と、c)少なくとも1種の生体適合性の(好ましくは、酸素含有)有機溶媒との低粘度混合物を形成することを含み、前記低粘度混合物に、あるいは、前記低粘度混合物の形成に先立ち成分a、b、またはcのうちの少なくとも1つに、少なくとも1種の生理活性物質を溶解または分散させることを任意に含む方法を提供する。このように形成された前製剤は、本明細書に記載されているような本発明の製剤であることが好ましい。
【0015】
さらに別の態様において、本発明は、a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、b)少なくとも1種のリン脂質と、c)少なくとも1種の生体適合性の(好ましくは、酸素含有)有機溶媒との低粘度混合物の使用であって、少なくとも1種の生理活性物質を、当該活性物質の持続性局所投与に使用される前製剤の製造において、前記低粘度混合物に溶解または分散させ、前記前製剤は、水性流体との接触により、少なくとも1つの液晶相構造を形成することができる、低粘度混合物の使用を提供する。
【0016】
別の態様において、本発明は、ヒトまたは動物である対象の治療方法であって、活性物質を任意に含む本発明の組成物を投与することを含む治療方法を提供する。この態様においては、前記治療方法は、詳細には、特に体表面および/または消化管等の体腔内で起こる炎症および/または過敏反応(irritation)の治療方法である。
【0017】
さらに別の態様において、本発明は、本発明の組成物の治療における使用を提供するものであり、詳細には、活性物質を任意に含む本発明の組成物の、特に体表面および/または消化管等の体腔内で起こる炎症および/または過敏反応の治療用の医薬品の製造における使用を提供するものである。
【0018】
生理活性物質の送達における非ラメラ相構造(液晶相等)の使用は、現在では、比較的よく確立されている。このような構造は、両親媒性化合物が溶媒に曝露された際に形成される。なぜなら、両親媒性物質は、極性基および非極性基の両方を有し、これらは一団となって極性領域および非極性領域を形成するからである。これらの領域は、極性および非極性化合物の両方を効果的に可溶化できる。さらに、両親媒性物質によって極性および/または非極性溶媒中に形成される構造の多くは、他の両親媒性化合物を吸着および安定化することができる非常に大きな面積の極性/非極性境界を有する。また、両親媒性物質は、酵素を含む侵食性の生物学的環境から少なくともある程度は活性物質を保護するように調合することができ、これにより、活性物質の安定性と放出を有利に制御することができる。
【0019】
両親媒性物質/水、両親媒性物質/油、および両親媒性物質/油/水の相図における非ラメラ領域の形成は、周知の現象である。このような相には、キュービックP相、キュービックD相、キュービックG相、およびヘキサゴナル相等、分子レベルでは流体であるが、著しい長距離秩序を示す液晶相と、非ラメラであるが液晶相の長距離秩序を欠く二分子層シートの多重相互結合両連続ネットワークを含むL3相とが含まれる。前記両親媒性物質シートの曲率に応じて、これらの相は、正(平均曲率が非極性領域を指向する)または逆(平均曲率が極性領域を指向する)と表現され得る。
【0020】
前記非ラメラ液晶相およびL3相は、熱力学的に安定な系である。すなわち、これらは単に、層やラメラ相等に分離および/または再構成される準安定な状態にあるのではなく、熱力学的に安定な脂質/溶媒混合物の形態である。
【0021】
本明細書中で使用される「低粘度混合物」という用語は、対象に容易に投与し得る混合物、特に、標準的な注射器および針またはポンプ/エアゾールスプレー装置によって容易に投与される混合物を表すものとして使用されている。これは、例えば、1mlの使い捨て注射器から22awg(または23ゲージ)の針を通して指圧によって供給される能力で表してもよい。特に好ましい実施形態において、低粘度混合物は、0.22μmのシリンジフィルター等の標準的な滅菌濾過膜を通過できる混合物とすべきである。他の好ましい実施形態においては、好適粘度に関する同様の機能定義では、従来のスプレー機器を用いた圧縮ポンプまたは加圧式スプレーデバイスを使用して噴霧することが可能な前製剤の粘度と定義することができる。好適な粘度の典型的な範囲は、例えば、20℃で0.1〜5000mPas、好ましくは1〜1000mPasである。
【0022】
本明細書中に示すような低粘度の溶媒を少量添加することにより、粘度に極めて顕著な変化をもたらすことができることが確認されている。図2に示すように、例えば、わずか5%の溶媒を添加するだけで、粘度を100分の1にまで低下させることができ、10%の溶媒を添加すれば、粘度を10,000分の1にまで低下させられる場合もある。この非線形の相乗効果を達成するために、粘度を低下させるにあたり、適度に低粘度で、かつ好適な極性を有する溶媒を採用することが重要である。このような溶媒には、本明細書中において後述するものが挙げられる。
【0023】
低粘度混合物の特に好ましい例は、分子性溶液および/または、L2相および/またはL3相等の等方相である。先に述べたように、L3は、何らかの相構造を有してはいるものの、液晶相の長距離秩序を欠く相互結合シートの非ラメラ相である。一般に高粘性である液晶相とは異なり、L3相は、より低い粘度を有している。L3相および分子性溶液、および/または1以上の成分からなるバルク分子性溶液に懸濁されたL3相の粒子からなる混合物もまた好適であることは明らかである。L2相は、いわゆる「逆ミセル」相またはマイクロエマルジョンである。最も好ましい低粘度混合物は、分子性溶液、L3相、およびその混合物である。L2相は、以下に述べるような膨潤L2相の場合を除き、好適性が劣る。
【0024】
本発明は、成分a、b、cを含み、さらに本明細書中に記載の生理活性物質を少なくとも1種任意に含むことが好ましい前製剤を提供する。本発明の前製剤の顕著な利点の一つは、成分aおよびbを広範囲の割合で含有するように調合し得る点である。特に、中性のジアシル脂質および/またはトコフェロールに対するリン脂質の割合が、従来の前製剤において達成可能な割合よりもはるかに高い本発明の前製剤を、相分離および/または許容不可能な高粘度が生じるおそれなく調製および使用することができる。よって、成分a:bの重量比を、5:95から95:5までの間の任意の比率としてもよい。好ましい比率は、一般に、90:10〜20:80、より好ましくは85:15〜30:70である。本発明の好ましい一実施形態においては、成分bの割合は、成分aの割合よりも大きい。すなわち、a:bの重量比は50:50を下回り、例えば、48:52〜2:98、好ましくは40:60〜10:90、より好ましくは35:65〜20:80である。
【0025】
本発明の前製剤における成分cの量は、少なくとも、成分a、b、およびcの低粘度混合物(例えば、分子性溶液、上記参照)を提供するために十分な量とされ、いかなる特定の成分の組み合わせに関しても、標準的な方法で容易に決定される。偏光顕微鏡法、核磁気共鳴、および低温透過型電子顕微法(cryo−TEM)と組み合わせた目視観察で溶液、L2相もしくはL3相、または液晶相を観察する等の技術により、相挙動そのものを分析してもよい。標準的な手段により、粘度を直接測定してもよい。先に述べたように、実用上適切な粘度は、効果的に注入可能な、濾過滅菌および/または特にポンプまたは加圧式スプレーから噴霧可能な粘度である。これは、本明細書中に記載のように容易に判断できる。成分cの最大含有量は、前製剤の具体的な用途に左右されるが、一般に、低粘度混合物(例えば、分子性溶液、上記参照)および/または十分低い粘度の溶液を構成する量を問わず、所望の特性が得られる。
【0026】
必要以上に多量の溶媒を対象に投与することは、一般に望ましくないため、一実施形態においては、成分cの量を、低粘度混合物の形成に必要な最小量の10倍(例えば、3倍)以下、好ましくはこの量の5倍以下、最も好ましくは2倍以下に限定してもよい。
【0027】
しかしながら、本発明を非腸管外(例えば、局所)に適用する場合、特に溶媒が身体への吸収よりもむしろ蒸発によって消耗される外側体表面に適用する場合には、より高い割合の溶媒を用いてもよい。このような適用に関しては、特にこの結果生じる非腸管外デポーが極めて薄い層であることが所望される場合、最小量の100倍までの溶媒を使用してもよい(例えば、前記組成物の95重量%まで、好ましくは80重量%まで、より好ましくは50重量%まで)。
【0028】
本発明の組成物をエアゾールスプレー組成物(例えば、局所用または活性物質の送達用)として調合する場合、前記組成物は、噴霧剤をさらに含んでいてもよい。このような組成物は、先に考察したように、溶媒成分c)を高い割合で含んでいてもよい。これは、前記組成物を、特に噴霧剤の影響下で供給した場合、溶媒のほとんどが蒸発するためである。
【0029】
好適な噴霧剤は、高粘度混合物を生成することなく、スプレーディスペンサーの圧力下で本発明の組成物と混合される揮発性化合物である。これらは明らかに、許容可能な生体適合性を有している必要がある。好適な噴霧剤は、簡単な試験によって容易に特定され、その例としては、炭化水素(特にC1〜C4炭化水素)、二酸化炭素、および窒素が挙げられる。また、HFC134、134a、227eaおよび/または152a等の揮発性ヒドロフルオロカーボンも好適である。
【0030】
一般的な指針として、成分cの重量は、典型的には、前記a-b-c溶液の総重量の0.5〜50%前後とされる。この割合を、2〜30重量%または5〜20重量%に限定してもよい。しかしながら、先に示したように、特に噴霧剤を含むスプレー式組成物の場合には、cの量は50%を超えてもよい。
【0031】
本発明の製剤は、前駆体に溶解できるポリマー等のその他の作用物質を、若干の割合でさらに含有してもよい。このようなポリマーは、粘膜面に付着させる膜がより強固に付着するように、膨潤した液晶相の補強材として作用し得る。また、マトリクス(紙、ポリマーネット、または同様のもの)を前駆体に浸すことによって、同一の原理に基づく「補強材」を得ることもできる。この「パッチ」を皮膚に適用すると、前記製剤は、それ自体、糊剤として作用し得る。しかしながら、損傷した組織をコーティングする従来の接着剤とは対照的に、本発明の製剤は、粘膜にも付着し、かつ非刺激性である。多くの場合、これらの製剤自体が、本明細書中に記載しているように、実際に鎮静効果があり、好適な活性物質を含有していてもよい。
【0032】
本明細書中で示す成分「a」は、極性の「頭部」基と、さらに非極性の「尾部」基とを含む中性の脂質成分である。一般に、脂質の頭部および尾部は、エステル部分によって結合されるが、この結合は、エーテル、アミド、炭素−炭素結合、またはその他の結合によるものであってもよい。好ましい極性頭部基は、非イオン性であり、グリセロール、ジグリセロール、および糖部分(イノシトールおよびグルコシルをベースとする部分等)等のポリオール、ならびにアセテ−トまたはコハク酸エステル等のポリオールのエステルを含む。好ましい極性基は、グリセロールおよびジグリセロールであり、特にグリセロールである。
【0033】
好ましい一態様において、成分aは、2つの非極性「尾部」基を有するジアシル脂質である。このことは、一般に、モノアシル(「リゾ」)脂質を使用する場合に好ましい。なぜなら、これらは通常、インビボでの耐性にあまり優れていないからである。前記2つの非極性基は、同一または異なる数の炭素原子を有していてもよく、それぞれ独立して飽和または不飽和であってもよい。非極性基の例としては、C6〜C32アルキルおよびアルケニル基が挙げられるが、これらは通常、長鎖カルボン酸のエステルとして存在する。これらはしばしば、炭素鎖における炭素原子数および不飽和数に言及して説明される。したがって、CX:Zは、炭素原子数がXであり不飽和数がZである炭化水素鎖を示す。例としては、特に、カプロイル(C6:0)基、カプリロイル(C8:0)基、カプリル(C10:0)基、ラウロイル(C12:0)基、ミリストイル(C14:0)基、パルミトイル(C16:0)基、フィタノイル(C16:0)基、パルミトレオイル(C16:1)基、ステアロイル(C18:0)基、オレオイル(C18:1)基、エライドイル(C18:1)基、リノレオイル(C18:2)基、リノレノイル(C18:3)基、アラキドノイル(C20:4)基、ベヘノイル(C22:0)基、およびリグノセロイル(C24:9)基が挙げられる。よって、典型的な非極性鎖は、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、フィタン酸、パルミトール酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、もしくはリグノセリン酸、またはこれらに対応するアルコールを含む、天然エステル脂質の脂肪酸をベースとするものである。好ましい非極性鎖は、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびリノール酸であり、特にオレイン酸である。
【0034】
前記ジアシル脂質は、成分「a」そのもの、またはその一部として使用される場合、合成のものであってもよいし、あるいは植物油等の、精製および/または化学修飾された自然源に由来するものであってもよい。任意数のジアシル脂質の混合物を、成分aとして使用してもよい。この成分が、ジアシルグリセロール(DAG)の少なくとも一部、特にグリセロールジオレアート(GDO)を含むことが最も好ましい。好適な一実施形態において、成分aは、DAGからなる。これらは、単一のDAGであってもよいし、あるいは複数のDAGの混合物であってもよい。極めて好ましい例は、GDOを少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、さらには実質的に100%含むDAGである。
【0035】
成分aそのもの、またはその一部としての使用に極めて好ましい代替または追加の化合物群は、トコフェロールである。本明細書中で使用される「トコフェロール」という用語は、しばしばビタミンEとして知られる、非イオン性脂質であるトコフェロール、および/または好適な塩および/またはその類似体を示すものとして使用されている。好適な類似体は、前記相挙動、無毒性、ならびに水性流体への曝露による相変化といった本発明の組成物の特徴をもたらす類似体である。このような類似体は、通常、純粋化合物である液晶相構造を水中に形成しない。これらのトコフェロールの中で最も好ましいものは、下記に示す構造を有するトコフェロールそのものである。このトコフェロールが天然源から精製された場合は特に、トコフェロール以外の「混入物質」が若干の割合で存在する場合があるが、これは、前記の有利な相挙動または無毒性に変化をもたらす程でないことは明らかである。典型的には、トコフェロールに含まれる非トコフェロール類似体化合物は、10重量%以下、好ましくは5重量%以下、最も好ましくは2重量%以下である。
【0036】
【化1】

【0037】
本発明のさらに有利な実施形態において、成分a)は、本質的にトコフェロール、特に、上に示したトコフェロールからなる。
【0038】
成分a)の構成成分の好ましい組み合わせは、少なくとも1種のDAG(例えば、GDO)と少なくとも1種のトコフェロールの混合物である。このような混合物は、重量比で2:98〜98:2のトコフェロール:GDO、例えば、10:90〜90:10のトコフェロール:GDO、特に20:80〜80:20のこれらの化合物を含む。トコフェロールとその他のDAGからなる同様の混合物もまた好適である。
【0039】
本発明における成分「b」は、少なくとも1種のリン脂質である。成分aと同様に、この成分は、極性の頭部基と、少なくとも1つの非極性の尾部基を備えている。成分aと成分bとの違いは、主に極性基にある。よって、成分aに関して先に考察した脂肪酸または対応するアルコールから、前記非極性部を適切に生じさせてもよい。通常、これは、リン脂質が2つの非極性基を含むが、この成分の構成成分の1以上が1つの非極性部分を有していてもよい場合である。非極性基が2つ以上存在する場合、これらは同一であっても、異なっていてもよい。
【0040】
好ましいリン脂質の極性「頭部」基としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、およびホスファチジルイノシトールが挙げられる。最も好ましいのは、ホスファチジルコリン(PC)である。よって、好ましい実施形態では、成分b)は、少なくとも50%のPC、好ましくは少なくとも70%のPC、最も好ましくは少なくとも80%のPCからなる。成分b)は、本質的にPCのみで構成されていてもよい。
【0041】
リン脂質部は、いかなるジアシル脂質部よりも好適に、自然源から得られる。好適なリン脂質源としては、卵、心臓(例えば、ウシの心臓)、脳、肝臓(例えば、ウシの肝臓)、および大豆を含む植物源が挙げられる。このような材料源は、成分bの構成成分を1以上供給し得るが、前記構成成分は、リン脂質のいかなる混合物を含んでいてもよい。
【0042】
本発明の前製剤は、活性物質の制御放出用に対象に投与してもよいため、成分aおよびbは生体適合性であることが好ましい。この点で、モノアシル(リゾ)化合物ではなく、例えば、ジアシル脂質およびリン脂質を使用することが好ましい。これに関して注目すべき例外は、先に述べたように、トコフェロールである。トコフェロールはアルキル鎖を1本しか有していないが、在来の意味での「リゾ」脂質ではない。十分に許容可能な必須ビタミンであるトコフェロールの性質により、トコフェロールが極めて好適な生体適合性を有していることは明らかである。
【0043】
体表面における過敏反応および炎症の鎮静および治癒に適しているという本発明の組成物の性質により、十分に許容可能な脂質の必要性が極めて重要となる。特に、脂質組成物は、損傷または炎症の可能性がある組織と接触した状態で、高濃度で存在する。その結果、例えば、本発明のジアシル脂質の極めて高レベルの相溶性は、モノアシル脂質等、許容可能性が劣る成分と比べて際立っている。
【0044】
さらに、成分aおよび成分bの脂質およびリン脂質が自然発生する(天然源由来か合成起源かにかかわらず)ことが最も好ましい。自然発生する脂質は、対象の身体に起こる炎症および反応の量を減少させやすい。このことは、対象にとってより快適であるだけでなく、結果として生じるデポー組成物の滞留時間をも延長し得る。これは、投与部位に補充される免疫系の活性がより低く、対象が当該領域を害する傾向が少ないためである。しかしながら、場合によっては、非自然発生脂質の一部を成分aおよび/またはbに含有させることが望ましい場合もある。これは、例えば、頭部基と尾部基がエステルではなくエーテル結合によって連結された「エーテル脂質」の場合が考えられる。このような非自然発生脂質は、例えば、溶解性または活性物質放出部位に存在する分解機構に対する脆弱性を高めるまたは低くすることにより、結果として生じるデポー組成物の分解速度を変化させるために使用し得る。全ての割合が本発明の範囲内であるが、一般に、成分aおよびbのそれぞれの少なくとも50%を自然発生の脂質とする。これは、少なくとも75%であることが好ましく、実質的に100%までの範囲であってもよい。
【0045】
成分aおよびbの特に好ましい二つの組み合わせは、GDOとPC、およびトコフェロールとPCであり、特に30〜90重量%のGDO/トコフェロール、10〜60重量%のPCおよび1〜30%の溶媒(特に、エタノール、NMP、および/またはイソプロパノール(ispropanol)の範囲である。最も好ましい組み合わせは、35〜60%(例えば、40〜55)のGDOと20〜50%(例えば、25〜45%)のPCの組み合わせである。これらは、特に5〜25%(例えば、7〜19%)でエタノールと組み合わせることが特に好適である。
【0046】
両親媒性成分aおよびbに加え、本発明の前製剤は、更なる両親媒性成分を比較的低濃度でさらに含有していてもよい。本発明の一実施形態において、前製剤は、(成分aおよびbの重量に対して)10%までの荷電両親媒性物質、特に、脂肪酸等のアニオン性両親媒性物質を含有する。この目的に好適な脂肪酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、フィタン酸、パルミトール酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、もしくはリグノセリン酸、またはこれらに対応するアルコールが挙げられる。好ましい脂肪酸は、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびリノール酸であり、特にオレイン酸である。この成分を、カチオン性ペプチド活性物質と組み合わせて使用することが特に有利である(下記参照)。アニオン性脂質とカチオン性ペプチドを組み合わせることにより、特に有益な持続放出組成物が得られると考えられる。これは、インビボに存在する分解酵素からペプチドを保護する働きが増すことに部分的に起因している可能性がある。
【0047】
本発明の前製剤の成分「c」は、酸素を含有する有機溶媒である。前記前製剤は、投与(例えば、インビボでの投与)後に水性流体との接触によりデポー/生体付着性組成物を生成するものであるため、この溶媒は、対象にとって許容可能なものであり、前記水性流体と混合可能であり、かつ/または前記前製剤から前記水性流体中に拡散もしくは溶解可能であることが望ましい。よって、少なくとも中程度の水溶性を有する溶媒が好ましい。
【0048】
特殊なケースとして、本発明の組成物をエアゾールスプレー組成物として調合する場合がある。ここでは、成分cは、水溶解度が低い噴霧剤を含むものと考えられる。本質的に純粋な噴霧剤から主として酸素を含有する有機溶媒まで、あらゆる混合比を検討し得る。前記製剤の供給時に、かなりの程度の噴霧剤が蒸発する。成分cが主として噴霧剤で構成される場合、前記製剤の噴霧後に、瞬時の粘度増加が観察される場合がある。これは、前記噴霧剤の迅速な蒸発に起因するものであり、適用部位における、より効果的な初期滞留という利点があり、前記製剤が、「硬化」(水の取り込みおよび高粘度の液晶相への相変換)中に低粘度を有するという潜在的な不利点が回避される。
【0049】
好適なバージョンでは、前記溶媒は、aおよびbを含む前記組成物に比較的少量、すなわち20%未満、より好ましくは16%未満、例えば、多くとも10%またはこれよりも少量を添加した場合に、一桁以上の大幅な粘度低下をもたらす。本明細書中に記載されているように、10%の溶媒の添加により、溶媒を含まない組成物に対し、その組成物が溶媒を含まない溶液またはL2相、または水等の不適切な溶媒(以下に考察される特殊なケースに相当)、またはグリセロールであったとしても、2桁、3桁、または4桁も粘度を低下させることができる。
【0050】
成分cとしての使用に適した代表的な溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類(ラクトン類を含む)、エーテル類、アミド類、およびスルホキシド類から選択される少なくとも1種の溶媒が挙げられる。好適なアルコール類の例としては、エタノール、イソプロパノール、およびグリセロールホルマールが挙げられる。ジオールおよびポリオールよりも、モノオールのほうが好ましい。ジオールまたはポリオールを使用する場合、少なくとも等量のモノオールまたはその他の好ましい溶媒と併用することが好ましい。ケトン類の例としては、アセトン、n−メチルピロリドン(NMP)、2−ピロリドン、およびプロピレンカーボネートが挙げられる。好適なエーテル類としては、ジエチルエーテル、グリコフロール(glycofurol)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジメチルイソバーバイド(dimethylisobarbide)、およびポリエチレングリコールが挙げられる。好適なエステル類としては、酢酸エチルおよび酢酸イソプロピルが挙げられ、硫化ジメチルは、好適な硫化物溶媒である。好適なアミド類およびスルホキシド類としては、ジメチルアセトアミド(DMA)およびジメチルスルホキシド(DMSO)がそれぞれ挙げられる。好適性の低い溶媒としては、ジメチルイソソルバイド、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジグリム、および乳酸エチルが挙げられる。最も好ましい溶媒は、エタノールを含み、特に少なくとも80%のエタノール、好ましくは少なくとも90%のエタノールからなるものである。
【0051】
前記前製剤は生きている対象に投与されるので、溶媒成分cは、十分な生体適合性を有している必要がある。この生体適合性の程度は、適用方法に左右され、また、成分cはどのような溶媒混合物であってもよいため、多量に存在する場合には許容可能でないような溶媒も一定量で存在してもよいことは明らかである。しかしながら、全般的に見て、成分cを構成する溶媒または混合物は、投与によって対象に許容不可能な反応を引き起こすことがあってはならない。一般に、このような溶媒は、炭化水素または、好ましくは酸素を含有する炭化水素とされ、これらはいずれも窒素含有基等のその他の置換基を任意に有していてもよい。ほとんどまたは全ての成分cが、ハロゲン置換された炭化水素を含有しないことが好ましい。なぜなら、このような成分cは、生体適合性が低くなる傾向があるからである。ジクロロメタンまたはクロロホルム等のハロゲン化溶媒が一部必要である場合、この割合は、通常、最小限とされる。無傷の外表面に適用する製剤中における好適な溶媒の範囲は、最も生体適合性の高い溶媒だけが通常許容可能となる敏感なおよび/または損傷した内表面に適用する場合よりも広くなることは明らかである。さらに、エアゾールスプレー組成物の場合、ハロゲン化炭化水素は、当該組成物の供給中にかなりの程度蒸発するため、これも噴霧剤と見なしてもよい。
【0052】
本明細書中で使用される成分cは、単一の溶媒であってもよいし、あるいは複数の好適な溶媒の混合物であってもよいが、通常、低粘度とされる。本発明の主たる態様の一つは低粘度の前製剤を提供することであり、好適な溶媒の主な役割はこの粘度を低下させることであるため、このことは重要である。この低下は、溶媒のより低い粘度による効果と、溶媒と脂質組成物間の分子間相互作用による効果の組み合わせの結果である。本発明者らの所見の一つは、本明細書に記載される低粘度の酸素含有溶媒は、組成物の脂質部分との間に極めて有利かつ予期しなかった分子間相互作用を引き起こし、これにより、少量の溶媒の添加によって非線形の粘度低下をもたらすというものである。
【0053】
「低粘度」溶媒成分c(単一の溶媒または混合物)の粘度は、通常、20℃で18mPas以下とすべきである。この粘度は、好ましくは20℃で15mPas以下であり、より好ましくは10mPas以下、最も好ましくは7mPas以下である。
【0054】
溶媒成分cは、通常、表面(例えば、体表面またはインプラントの表面)との接触によりデポー/生体付着性組成物を形成する際、少なくとも部分的に失われるか、または周囲の空気および/または組織から水を吸収することによって希釈される。したがって、成分cは、少なくともある程度は水混和性および/または水分散性であり、かつ少なくとも水吸収を妨げる程には水をはじかないことが好ましい。この点に関しても、炭素原子数が比較的少ない(例えば、炭素数10まで、好ましくは炭素数8まで)酸素含有溶媒が好ましい。多くの酸素が存在する場合、溶媒が、より多くの炭素原子数を有すると、水中で可溶性を維持しやすいことは明らかである。このため、ヘテロ原子(例えば、N、O、好ましくは酸素)に対する炭素の比率は、しばしば1:1〜6:1程度、好ましくは2:1〜4:1程度となる。これらの好ましい範囲の一つに該当しない比率を有する溶媒を使用する場合、この溶媒を75%以下、好ましくは50%以下として好ましい溶媒(エタノール等)と併用することが好ましい。この溶媒は、例えば、液晶デポー形成の速度を制御するため、前製剤からの溶媒の蒸発速度を減速させるために使用してもよい。
【0055】
本発明の前製剤のさらに別の利点は、生理活性物質をより高濃度で系に含有させられるということである。特に、成分a〜c(特に、c)を適切に選択することにより、高濃度の活性物質を前製剤に溶解または懸濁し得る。一般に、脂質成分は、水の不在下では比較的低い可溶性を示すが、水の存在下では、粘度が高すぎて容易に投与できない相を形成する。成分cとして適切な溶媒を使用することによってより高い割合の生理活性物質を含有させてもよく、また、この濃度の生理活性物質は、デポー組成物のin situ形成の際、当該デポー組成物に溶解するか、あるいは活性物質を徐々に溶解および放出する微液滴または微結晶を形成するものであってもよい。溶媒は、本明細書中に示す指針の範囲内で日常的に行われる実験によって適切に選択することが可能である。特に、本発明者らは、低分子量アルコール溶媒(エタノールまたはイソプロパノール等)と本発明の脂質成分との組み合わせは、予期しなかったことに、広範囲にわたる薬剤およびその他の活性分子の可溶化に効果的であることを立証した。
【0056】
本発明の前製剤は、通常、有意量の水分を含有してはいない。脂質組成物から微量の水分を全て除去することは本質的に不可能であるため、これは、容易に除去できない最低限の微量の水分のみが存在することを示唆するものと解釈されたい。このような量は、一般に、前製剤の1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満である。好ましい一態様において、本発明の前製剤は、グリセロール、エチレングリコール、またはプロピレングリコールを含有せず、直前に述べたように、ほんの微量の水分のみを含有する。
【0057】
場合によっては、前記組成物は、ある程度低粘度のL2(逆ミセル)相を形成するように、微量の水(または同様の特性を有する極性溶媒)を含有していてもよい。これにより、前記製剤中のある種の活性物質、特に水にだけ溶解する活性物質の可溶化を助けることもできる。
【0058】
しかしながら、本発明のある実施形態では、より高い割合の水を許容し得る。これは、水が、溶媒成分の一部として、更なる水混和性成分c(単一の溶媒または混合物)との組み合わせで存在する場合である。この実施形態においては、成分cも少なくとも3重量%、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも7重量%存在し、成分cが水混和性であり、結果として得られる前製剤が非粘性を維持し、よって液晶相を形成しないという条件を満たす限りにおいて、水は、10重量%まで存在してもよい。一般に、前記前製剤に含まれる水の重さよりも重い量の成分c)が存在する。本発明のこの態様において水との併用に最適な溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコール、NMP、アセトン、および酢酸エチルが挙げられる。
【0059】
本発明の前製剤は、1種以上の生理活性物質(本明細書中では、「活性物質」と同義に用いられている)を含有する。活性物質は、タンパク質、薬剤、抗原、栄養素、化粧品、香料、香味料、診断薬、調剤、ビタミン、またはダイエット剤(dietary agent)等の、所望の生物学的または生理学的効果を有する任意の化合物であってもよく、機能レベルのインビボ濃度(通常、局所組成物に関しては局所濃度)を提供するのに十分な濃度で調合される。
【0060】
本発明によって送達し得る薬剤としては、末梢神経、アドレナリン受容体、コリン受容体等の細胞および受容体、骨格筋、心血管系、平滑筋、血液循環系、内分泌およびホルモン系、血管系、シナプス部位(synoptic site)、神経効果器接合部、免疫系、生殖器系、骨格系、オータコイド系、消化器系および排泄系、ヒスタミン系、および中枢神経系に作用する薬剤が挙げられる。酵素またはタンパク質への局所的な促進または阻害効果を意図した薬剤を、本発明によって送達することも可能である。送達された薬剤の効果は、転写、翻訳、または翻訳後修飾等の、DNAおよび/またはRNA合成への直接的な効果にも関与し得る。また、これらの効果は促進および阻害の両方であってもよい。
【0061】
本発明の組成物によって送達し得る薬剤の例としては、以下に限定されないが、β−ラクタムまたは大環状ペプチド抗生物質等の抗菌剤、ポリエンマクロライド(例えば、アンホテリシンB)またはアゾール抗真菌剤等のような抗真菌剤、ヌクレオシド類似体、パクリタキセル、およびその誘導体等の抗癌および/または抗ウイルス剤、非ステロイド系抗炎症剤およびコルチコステロイド等の抗炎症剤、血圧低下または上昇剤(特に、局所的に作用するもの)等の心血管治療剤、鎮痛剤、ならびにプロスタグランジンおよび誘導体が挙げられる。診断剤としては、X線、超音波、およびMRI造影促進剤(特に、体腔の内表面に適用されるもの)を含む放射性核種標識化合物および造影剤が挙げられる。栄養素としては、ビタミン、補酵素、栄養補助食品等が挙げられ、これらは例えば、メトトレキサート等の葉酸類似体からの葉酸によるレスキュー等、全身性薬剤の効果からの局所レスキューに使用してもよい。
【0062】
特に好適な活性物質としては、迅速な分解または排出により体内での滞留時間が通常短いもの、ならびに、特にその効果が局所治療で発揮され得る場合に経口バイオアベイラビリティに乏しく、これにより全身吸収が回避されるものが挙げられる。このような活性物質としては、ペプチド、タンパク質、および核酸をベースとする活性物質、ホルモン、ならびに天然または変性型のその他の自然発生の作用物質が挙げられる。このような作用物質を本発明の前製剤から形成された生体付着性デポー組成物の形態で投与することにより、前記作用物質は、迅速な全身クリアランス速度を有しているにもかかわらず、長期間にわたって持続レベルで提供される。これにより、安定性の面や、患者が一日数回、同一周期で服薬することを遵守しなければならないといった点で、明らかな利点が得られる。よって、好ましい一実施形態において、前記活性物質は、(血流に入ってから)1日未満、好ましくは12時間未満、より好ましくは6時間未満の生物学的半減期を有する。場合によっては、この半減期が1〜3時間以下と短いこともある。好適な作用物質としては、注射によって達成される場合と比べて経口バイオアベイラビリティが低いものがさらに挙げられ、この場合、活性物質は、さらにまたは代替として、経口製剤において、0.1%未満、特に0.05%未満のバイオアベイラビリティを有する。同様に、ある種の作用物質は、全身投与には不適切または望ましくないが、特に外表面に対し、局所的に投与されてもよい。
【0063】
ペプチドおよびタンパク質をベースとする活性物質は、表面に適用される本発明のデポー組成物に含有させるのに非常に適している。このような作用物質は、その局所効果のために含有させてもよいし、あるいは全身作用のために表面に適用してもよい。局所または全身的効果に適した活性物質としては、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)およびその断片、アンギオテンシンおよびその関連ペプチド、抗体およびその断片、抗原およびその断片、心房性ナトリウム利尿ペプチド、生体付着性ペプチド、ブラジキニンおよびその関連ペプチド、カルシトニンおよびその関連ペプチド、細胞表面受容体タンパク質断片、走化性ペプチド、シクロスポリン、サイトカイン、ダイノルフィンおよびその関連ペプチド、エンドルフィンおよびP−リドトロピン(P-lidotropin)断片、エンケファリンおよびその関連タンパク質、酵素阻害剤、免疫刺激ペプチドおよびポリアミノ酸、フィブロネクチン断片およびその関連ペプチド、胃腸ペプチド、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)アゴニストおよびアンタゴニスト、グルカゴン様ペプチド、成長ホルモン放出ペプチド、免疫刺激ペプチド、インスリンおよびインスリン様成長因子、インターロイキン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)およびその関連ペプチド、メラニン細胞刺激ホルモンおよびその関連ペプチド、核局在化シグナル関連ペプチド、ニューロテンシンおよびその関連ペプチド、神経伝達ペプチド、オピオイドペプチド、オキシトシン、バソプレシンおよびその関連ペプチド、副甲状腺ホルモンおよびその断片、プロテインキナーゼおよびその関連ペプチド、ソマトスタチンおよびその関連ペプチド、サブスタンスPおよびその関連ペプチド、トランスホーミング増殖因子(TGF)およびその関連ペプチド、腫瘍壊死因子断片、トキシンおよびトキソイド、ならびにアンジオスタチンを含む抗癌ペプチド、血圧降下ペプチド、抗血液凝固ペプチド、および抗菌ペプチド等の機能性ペプチドからなる群から選択されるヒトおよび動物用薬剤;免疫グロブリン、アンジオゲニン、骨形態形成タンパク質、ケモカイン、コロニー刺激因子(CSF)、サイトカイン、成長因子、インターフェロン(I型およびII型)、インターロイキン、レプチン、白血病抑制因子、幹細胞因子、トランスホーミング増殖因子、および腫瘍壊死因子等のタンパク質からなる群から選択されるヒトおよび動物用薬剤が挙げられる。
【0064】
本発明のデポー組成物のさらに別の顕著な利点は、活性物質が長期間にわたって徐々に放出され、繰り返し投薬を行う必要がないということである。よって、前記組成物は、小児またはその生活スタイルが確実なもしくは繰り返しの投与方式になじまない人に非常に適している。また、繰り返し投与する不便さが、活性物質のもたらす利益に勝ってしまうことのある「生活スタイル」活性物質にも適している。
【0065】
カチオン性ペプチドは、前製剤の一部分が、脂肪酸等のアニオン性両親媒性物質を含む場合における使用に特に適している。この実施形態において、好ましいペプチドとしては、オクトレオチド、ランレオチド、カルシトニン、オキシトシン、インターフェロンベータおよびインターフェロンガンマ、インターロイキン4、5、7、および8、ならびにpH7を超える、特にpH8を超える等電点を有するその他のペプチドが挙げられる。
【0066】
本発明の好ましい一態様において、本発明の組成物は、水性流体への曝露によってI2相、またI2相を含む混合相が形成されるものであり、また、前記組成物には極性活性物質が含まれる。特に好適な極性活性物質としては、先に列挙したものを含む、ペプチドおよびタンパク質活性物質、オリゴヌクレオチド、および小型の水溶性活性物質が挙げられる。この態様において特に関心が持たれているものは、ペプチドオクトレオチドおよびその他のソマトスタチン関連ペプチド、インターフェロンアルファおよびベータ、グルカゴン様ペプチド1および2ならびにその受容体アゴニスト、リュープロレリン(luprorelin)およびその他のGnRHアゴニスト、アバレリックスおよびその他のGnRHアンタゴニスト、インターフェロンアルファおよびベータ、ゾレドロネート(zolendronate)およびイバンドロネートおよびその他のビスホスホネート(bisphosponates)、および極性活性クロルヘキシジン(例えば、クロルヘキシジンジグルコナートまたはクロルヘキシジン二塩酸塩)である。削除も検討する。特に関心をひくものとしてここに挙げられているもののほとんどが、クロルヘキシジンを除いて腸管外投薬用である!
本発明の前製剤に調合される生理活性物質の量は、機能的な投薬量と、投与時に形成されるデポー組成物が持続放出をもたらすべき期間とに依存する。典型的には、ある特定の作用物質に関して規定される投与量は、標準的な単回投与量に、前記製剤がもたらすことが期待される作用持続期間の長さに応じて回数を乗じたものに相当する量程度とされる。明らかなことではあるが、この量は、大量投与の副作用を考慮して治療開始時に調整する必要があり、よって、これが通常使用される最大投与量となる。いずれの場合にも適した正確な量は、適切な実験によって容易に決定される。
【0067】
本発明の製剤は、体表面において活性物質がゆっくりと放出される非腸管外デポーを形成してもよい。前記前製剤から生成される組成物が生体付着性であることが特に重要である。なぜなら、これにより、全持続時間にわたって前記活性物質の局所放出が可能となるからである。換言すると、前記組成物は、当該組成物が適用された表面および/または当該組成物が適宜形成される表面をコーティングすべきであり、この表面が空気流もしくは液流および/または摩擦に曝されたとしても当該組成物が残存すべきである。形成された液晶デポー組成物は、水洗に対しても安定であることが特に好ましい。例えば、少容量(例えば、100μl)のデポー前駆体を体表面に適用し、1分間当たりその体積の500倍の水流に5分間曝してもよい。この処理の後、消失した組成物または生理活性物質が50%未満であれば、当該組成物を生体付着性と見なすことができる。この消失レベルは、1分間当たり前記組成物の体積の1000倍、より好ましくは10000倍に相当する水を5分間または好ましくは10分間流した場合と同等であることが好ましい。
【0068】
本発明の組成物のその他の有利な特性は、投与後に形成される膜が、デポー系として作用することにとどまらないという点である。この膜は、損傷領域または病的状態に罹患した領域(皮膚のバリア特性が弱まっている)からの水分の蒸発を低減するという利点も有し得る。よって、前記組成物は、それ自体さらに有利な特性を有し得ると共に、例えば、炎症性またはアレルギー性皮膚疾患の予防や、敏感なまたはストレスに曝された皮膚のケアおよび回復のための活性物質と併用することで、付加的および/または相乗的な利点を示し得る。
【0069】
本発明の非腸管外デポー組成物は、当該組成物が接触している生体表面から、液晶相構造の形成に必要な水分の一部または全部を吸収し得るが、周囲空気からも若干の水分をさらに吸収してもよい。特に、表面積の大きい薄層が形成される場合、前記組成物の水に対する親和性により、前記組成物が空気中の水分との接触により、液晶相構造を十分に形成できる場合がある。よって、本明細書中で述べる「水性流体」とは、この実施形態においては、少なくとも部分的に、いくらかの水分を含有する空気である。
【0070】
非腸管外デポー組成物は、通常、前記前製剤を、体表面(外側表面または天然または人工的に作られた体腔内)および/またはインプラントの表面に局所的に適用することによって生成される。この適用は、噴霧、浸漬、洗浄、パッドまたはボールローラからの適用、体腔内注入(例えば、針の使用または不使用による空いている体腔への注入)、塗り付け、滴下(特に、眼への滴下)、パッチ形態での適用、および類似の方法等による、液体の直接適用によってなされてもよい。極めて効果的な方法は、エアゾールまたはポンプ噴霧であり、これには、前記前製剤の粘度がなるべく低く、よって本発明の組成物に極めて適していることが必要であることは明らかである。しかしながら、非腸管外デポーは、全身性作用物質を、例えば、経粘膜的または経皮的に投与するために使用してもよい。
【0071】
前記製剤をパッチの形態で投与する場合、これは、前記組成物の「糊剤」機能に依拠する場合がある。本明細書中に示すように、前記組成物は鎮静および再水和作用を有し得ることから、この「糊剤特性」は、前記製剤が接触する組織にとって有益な場合がある。このことは、接着剤が、通常よくても不活性であるに過ぎない従来公知のパッチとは対照的である。
【0072】
本発明の局所生体付着性デポー組成物による原因療法または対症療法に特に好適な疾患としては、皮膚疾患(荒れ、引っ掻きを含む何らかの原因の結果生じる痛み、ならびに湿疹およびヘルペスを含む皮膚疾患等)、眼疾患、生殖器痛(性器ヘルペス等の性器感染症に起因するものを含む)、指および/または足指の爪の感染および疾患(爪真菌症または爪囲炎(poronychia)等の爪の細菌感染または真菌感染等)、ならびに、特にあらゆる体表面における炎症(imflammation)および/または過敏反応が挙げられる。本発明の組成物の使用によって改善され得る特に好適な2つの疾患は、口腔粘膜炎および炎症性腸疾患(例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎(ulcerative collitus)である。局所型の生体付着性製剤を、全身性活性物質(例えば、薬物)を、特に皮膚吸着、経口、経皮、または経直腸経路で投与するために使用してもよい。乗り物酔いのための薬剤は、ニコチン(例えば、禁煙補助剤に含まれる)同様、好ましい例である。文脈が許す限り、本明細書中で言及している「局所適用」とは、身体の特定の領域に非腸管外的に適用される全身性作用物質を含む。
【0073】
歯根膜感染症は、本発明の組成物による治療に特に適している。特に、歯根膜感染症治療のための公知の組成物は、適用が困難であるか、あるいは一般に効果的でない。最も広く使用されている歯周用デポー組成物は、抗感染剤が放出されるコラーゲン「チップ」の歯根膜腔への挿入を含む。このチップは挿入が困難であり、また、歯根膜腔の形状や体積と合致するようには形を成さないため、感染ポケットが治療されないまま残ってしまうことがある。これとは対照的に、低粘度前製剤として適用される本発明の組成物は、歯根膜腔に簡単かつ迅速に注入でき、当該腔に正確に適合するように流動し、空いている容積を満たす。次に、前記組成物は、迅速に水分を吸収し、口内の水性条件に対して耐性を有する頑強なゲルを形成する。このような注入型の歯周治療に関して唯一公知の試みは、適用が困難で、かつ望ましくない相分離を起こす比較的高粘度の分散液に依拠していた。これらの欠点は全て、本明細書中に記載の本発明の組成物によって対処されている。歯周への投与に極めて適した活性物質は、抗−抗菌剤、抗生物質、抗炎症剤、ならびに局所用鎮痛剤、特にベンジダミン(benzdamine)、トラマドール、および特にクロルヘキシジンである。
【0074】
非腸管外デポー組成物は、美容用活性物質、香料、精油等の非医薬品活性物質との組み合わせにおいても極めて有益である。このような非医薬品デポーは、生体付着性および持続放出という重要な側面を維持して長期的な美容効果を提供するが、噴霧または拭き取り(wiping)によって簡単に適用し得る。このことは、日焼け防止剤のような、美容および医学的(特に、予防的)効果の両方を有する作用物質にもさらに当てはまる。局所デポー組成物は、高濃度の活性物質を可溶化できる頑強な耐水バリアを提供するため、これら組成物は、特に高レベルの保護が所望される場合、紫外線(UV、例えば、UVa、UVbおよび/またはUVc)吸収剤および/または散乱剤との組み合わせで、サンスクリーンおよびサンブロックに特に適している。さらに、前記組成物は生体適合性が高く、太陽光への露出の際に、皮膚を潤し、鎮静化するように作用し得る。アロエベラ等の鎮静剤を含有する本発明の組成物は、太陽光への露出後における鎮静および湿潤のための適用、あるいは、例えば、過敏反応、やけど、または擦過によって乾燥、炎症、または損傷状態にある皮膚への適用にも極めて適している。
【0075】
経口腔内、経頬側、経鼻、経眼、経皮、経直腸、および経膣送達経路を含む非腸管外(例えば、局所)デポー投与に特に適した活性物質としては、クロルヘキシジン、クロラムフェニコール、トリクロサン、テトラサイクリン、テルビナフィン、トブラマイシン、フシジン酸ナトリウム、ブテナフィン、メトロニダゾール(後者は、特に酒さ性ざ瘡−成人性アクネ、またはいくつかの膣感染症の(例えば、対症(symtomatic)療法用である)等の抗菌剤;アシクロビルを含む抗ウイルス剤;ビブロカトール、シプロフロキサシン、レボフロキサシン等の抗感染剤;ベンジダミン、リドカイン、プリロカイン、キシロカイン、ブピバカイン等の局所鎮痛剤;トラマドール、フェンタニル、スフェンタニル、モルヒネ、ヒドロモルホン、メタドン、オキシコドン、コデイン、アスピリン(asperine)、アセトアミノフェン等の鎮痛剤;イブプロフェン、フルルビプロフェン、ナプロキセン(naproxene)、ケトプロフェン、フェノプロフェン、ジクロフェナク、エトドラク(etodalac)、ジフルニサル、オキサプロジン(oxaproxin)、ピロキシカム、ピロキシカム、インドメタシン(indomethansine)、スリンダク、トルメチン(tolmethin)等のNSAID;サリチルアミド(salisylamide)およびジフルニサル等のサリチル酸(salysylic acids);セレコキシブ、ロフェコキシブ、またはバルデコキシブ等のCox1またはCox2阻害剤;コルチコステロイド、抗癌および免疫賦活剤(例えば、アミノレブリン酸メチル塩酸塩(metylaminolevulinat hydrocloride)、インターフェロンアルファおよびベータ)、抗痙攣剤(例えば、チアギャビントピラメートまたはガバペンチン)、ホルモン(テストステロン、およびウンデカン酸テストステロン、メドロキシプロゲステロン、エストラジオール等)、成長ホルモン(ヒト成長ホルモン等)、成長因子(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子等)、免疫抑制剤(シクロスポリン、シロリムス、タクロリムス)、ニコチンおよび抗ウイルス薬(例えば、アシクロビル)、ビタミンD3およびその誘導体が挙げられる。
【0076】
その他の特に好適な活性物質としては、アセトアミノフェン、イブプロフェン、プロポキシフェン、コデイン、ジヒドロコデイン、ヒドロコドン、オキシコドン、ナルブフィン、メペリジン、レボルファノール(Leverorphanol)、ヒドロモルホン、オキシモルホン、アルフェンタニル、フェンタニル、およびスフェンタニル(Sefentanil)が挙げられる。
【0077】
極めて効果的な本発明のデポーを形成する、本発明者らが見出したいくつかの具体的な活性物質には、以下に挙げるものがある。
【0078】
口腔内(頬側および歯周を含む)投与用の局所用生体付着性制御放出製品;
i. ベンジダミン(局所鎮痛剤、抗炎症剤)またはその他の局所鎮痛剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗菌剤、抗真菌剤、またはこれらの組み合わせ。組成物は、例えば、口腔粘膜炎(例えば、化学療法および放射線療法によって引き起こされるもの)に罹患する患者の口腔内粘膜、特に損傷、感作、感染粘膜に持続効果をもたらす。特に、口腔粘膜炎の治療用。
ii. トラマドール(鎮痛剤)。持続的な全身鎮痛効果を有する組成物を提供する。
iii. 歯根膜感染症および局所感染症治療用のグルコン酸クロルヘキシジン(抗菌剤)。特に、歯周ポケットにおける長時間作用効果のために用いられる。組成物は、液体の形態で適用されると、生体付着性のゲルをin situ形成し、クロルヘキシジンを1時間よりも長い時間、好ましくは6時間よりも長い時間、最も好ましくは24時間よりも長い時間にわたって放出するデポーを生成する。表面ゲル形成時間は、1秒〜5分の間であることが確認された。
【0079】
デポーi〜iiiは、高濃度の活性物質を含有し、高い耐洗浄性を有するように形成可能である。液状の前製剤は、iおよびiiに関してはスプレーまたは洗浄液/リンス液として投与され、iiiに関してはゲル形成液として投与されるが、ここで、液体は、例えば注入によって歯周ポケットに適用される。
【0080】
経鼻投与用の非腸管外(例えば、局所または全身)生体付着性制御放出製品;
i. フェンタニル(鎮痛剤)は、鼻腔または口腔にスプレーとして投与されると、迅速に発現し、かつ持続期間沈痛をもたらす。
ii. ジアゼパム(抗不安剤)は、全身的効果を有し、効果の迅速な発現と持続期間をもたらす非腸管外、鼻腔、または口腔デポーを提供する。スプレーとして投与される。
【0081】
眼科的投与用の局所用生体付着性制御放出製品;
i. 持続期間を有するジクロフェナク(NSAID)。in situ相形成液として投与される。
ii. 緑内障治療用のピロカルピン(副交感神経刺激剤(parasymptomimetic)、コリン作動薬)
iii アレルギー性結膜炎軽減効果が長続きし、再適用までの間隔が長い点眼液を提供する塩酸レボカバスチン、フマル酸ケトチフェン
iv シェーグレン症候群の治療のための塩酸ピロカルピン
v デキサメタゾン、(コルチコステロイド)
vi クロラムフェニコール(主として静菌性の抗感染薬)
vii インドメタシン(NSAID)
デポーi〜viiは、眼の表面に直接適用する液体スプレー、またはより好ましくは液滴として調合され、涙によって洗い流されることや、まばたき/眼をこすることによる摩耗に対して高い耐性を有するin situデポー構成物を提供する。本発明の組成物は、眼科的用途に対し優れた適合性を示す。ウサギモデルにおける安全性試験の結果、過敏反応およびかすみ目といった影響は見られなかった。ここでは適切か?
眼科用組成物に好適なその他の活性物質としては、抗ヒスタミン剤、マスト細胞安定剤、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、コルチコステロイド(例えば、アレルギー性結膜炎の治療用)、流入(inflow)抑制/阻害剤(β遮断薬:チモロール、ベタキソロール、カルテオロール、レボブノロール等、局所用炭酸脱水酵素阻害剤:ドルゾラミド、ブリンゾラミド、交感神経刺激剤:エピネフリン、ジピベフリン、クロニジン、アプラクロニジン、ブリモニジン)、流出(outflow)促進剤(副交感神経刺激剤(コリン作動薬):ピロカルピンプロスタグランジン類似体、ならびに関連化合物:ラタノプロスト(atanoprost)、トラボプロスト、ビマトプロスト、ウノプロストン)を含む抗緑内障活性物質が挙げられる。
【0082】
経皮投与用の非腸管外(例えば、局所または全身)生体付着性制御放出製品;
i. アシクロビル(抗ウイルス薬)。組成物は、持続期間を有する生体付着性の膜形成物を生成する。スプレーまたは液体として適用される。
ii. ウンデカン酸テストステロンまたはエナント酸テストステロン(testosterone enantate)(ホルモン欠乏症)。持続期間を有する生体付着性の膜形成組成物。エアゾールもしくはポンプスプレー、または液体として適用してもよい。
【0083】
皮膚用製剤の特に好適な用途は、感染体との接触が起こり得る環境(例えば、ヒトまたは動物の外科手術、食肉処理、ある種の清掃作業等)での保護を目的とした抗感染性皮膚用生体付着性デポーである。本発明の組成物から生成された生体付着性デポーは、強力かつ持続的な保護作用を着用者に提供する。また、抗感染剤を含む組成物は、交差感染を回避しなければならない、病院内で多数の患者を巡回する看護師または医師のため等、着用者の皮膚の無菌性が他の者の健康のために重要である状況で使用してもよい。本発明の組成物で前もってコーティングすることにより、ある場所で感染物質を身に付けてしまうことへの耐性を提供し、よって感染物質が別の場所に伝達されることを防止する役割を果たし得る。
【0084】
本発明の治療方法、ならびにこれらの方法に対応する、治療および医薬品製造での使用において、活性物質は必ずしも必要ではない。より詳細には、脂質、特にPC等のリン脂質は、ある種の疾患(本明細書中において以下に述べるものを含む)の治療に、それ自体極めて有益であるとされてきた。理論にとらわれることなく、本発明の製剤に含まれる脂質のような好適な脂質は、多くの体腔の内膜および関節の接触面等の多くの身体構造上および身体構造周辺の保護層に、生来存在していると考えられる。これらの層は、多種多様な化学的および生物学的作用物質の付着および攻撃(胃の表面上および消化管の内膜内等)から保護する役割を果たし、潤滑剤としても作用し(特に関節においてであるが、心臓および肺等の内部構造の多くを取り囲む内膜および膜上においても重要である)、さらに、脂質交換、ならびに不要な膜結合および膜可溶性作用物質の希釈を可能にすることにより、細胞壁の修復にも貢献し得る。また、前記組成物の脂質としての性質により、ホスホリパーゼA2(PLA2)等のホスホリパーゼを含む、望ましくない炎症性リパーゼ酵素に対する無害な基質が形成される。
【0085】
本発明の治療方法とこれらの方法に対応する使用の別の実施形態において、好適な活性物質は、単独の有益な作用物質として含有されていてもよいし、あるいは好適な脂質成分による作用を補完するために含有されてもよい。このような活性物質は、ステロイド系および非ステロイド系抗炎症剤および局所免疫調節物質等のように、通常、炎症および/または過敏反応の治療に適している。このような作用物質の例が周知であり、その多くについて、本明細書の別の箇所で説明している。これらには、cis−ウロカニン酸;プレドニゾンメチルプレドニゾロンおよびヒドロコルチゾン等のコルチコステロイド;ならびにベンジダミン、パラセタモール、イブプロフェン、およびアセチルサリチル酸塩や5−アミノサリチル酸塩を含むサリチル酸誘導体等の非ステロイド系抗炎症性化合物の誘導体が含まれる。炎症経路の局所阻害剤もまた好適であり、これには、抗原認識抑制因子であるメトトレキサート、アザチオプリン、または6−メルカプトプリン、およびPLA2阻害剤等のホスホリパーゼ阻害剤が含まれる。
【0086】
本発明の前製剤は、特に体表面との接触で、水性流体に曝露されると、非ラメラ液晶デポー組成物を提供する。本明細書中で使用される「非ラメラ」という用語は、正もしくは逆の液晶相(キュービック相もしくはヘキサゴナル相等)またはL3相、あるいはこれらの任意の組み合わせを示すのに使用されている。液晶という用語は、あらゆるヘキサゴナル液晶相、あらゆるキュービック液晶相、および/またはこれらのあらゆる混合物を示す。本明細書中で使用されるヘキサゴナルは、「正」または「逆」のヘキサゴナル(好まくは逆)を示し、「キュービック」は、特に指定のない限り、任意のキュービック液晶相を示す。本発明の前製剤を使用することにより、成分aおよびbと水を示した相図に存在するあらゆる相構造を生成することが可能である。これは、相分離を起こす危険を冒すことなく、また注入用の溶液が高粘度になることなく、従来の脂質デポー系と比べて広い範囲の相対成分濃度で前記前製剤を生成することが可能であるからである。特に、本発明では、両親媒性物質の総含有量に対して50%を超えるリン脂質濃度が使用される。これにより、高リン脂質濃度でのみ見られる相、特にヘキサゴナル液晶相の利用が可能となる。
【0087】
多くの脂質の組み合わせに関しては、ある特定の非ラメラ相のみが存在するか、あるいは任意の安定した状態で存在する。本明細書中に記載の組成物が、その他の成分の組み合わせの多くにおいては存在しない非ラメラ相を高い頻度で示すということは、本発明の驚くべき特徴である。したがって、特に有利な一実施形態では、本発明は、水性溶媒で希釈された場合にI2相および/またはL2相領域を存在させるような成分の組み合わせを備えた組成物に関する。このような領域の有無は、いかなる特定の組み合わせに関しても、組成物を水性溶媒で単に希釈し、この結果生じた相構造を本明細書に記載の方法で観察することにより、簡単にテストできる。
【0088】
極めて有利な一実施形態において、本発明の組成物は、水との接触によりI2相、またはI2相を含む混合相を形成してもよい。I2相は、不連続な水性領域を有する逆キュービック液晶相である。この相は、活性物質の制御放出において、特に水溶性活性物質等の極性活性物質との併用において、特に有利である。これは、不連続な極性ドメインが、前記活性物質の迅速な拡散を防止するからである。L2相のデポー前駆体は、I2相デポー構成物との組み合わせにおいて、極めて効果的である。これは、L2相が、分離した極性コアを取り囲む連続的な疎水性領域を有するいわゆる「逆ミセル」相であるからである。よって、L2は、親水性の活性物質と同様の利点を有する。
【0089】
体液との接触後の過渡段階において、組成物は複数の相を含み得るが、これは、初期表面相の形成により、デポーのコアへの溶媒の透過が遅れるからである。理論にとらわれることなく、この表面相、特に液晶表面相の過渡形成は、組成物とその周囲との間の交換速度を即座に制限することにより、本発明の組成物の「バースト/遅延」プロファイルを劇的に低減するように働くものと考えられる。遷移相は、(通常、外側からデポーの中心に向かって順番に)HIIまたはLα、I2、L2、および液体(溶液)を含んでいてもよい。本発明の組成物は、これらの相を少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つ、生理的温度の水との接触後の過渡段階で同時に形成可能であることが極めて好ましい。特に、少なくとも過渡的に形成される前記相の1つがI2相であることが極めて好ましい。
【0090】
本発明の前製剤が低粘度であることを認識することは重要である。このことから、これらの前製剤は、バルク液晶相であってはならない。なぜなら、あらゆる液晶相は、注射器またはスプレーディスペンサーで投与可能な粘度よりもはるかに高い粘度を有するからである。よって、本発明の前製剤は、溶液、L2相、またはL3相のいずれか、特に、溶液またはL2のいずれかのような、非液晶状態にある。本明細書全体を通して使用されるL2相は、粘度低下効果を有する溶媒(成分c)を、10重量%前後またはそれよりも多く含有する「膨潤」L2相であることが好ましい。これは、溶媒を含有しないか、より少量の溶媒を含有するか、あるいは本明細書中に明記する酸素含有低粘度溶媒による粘度低下効果をもたらさない溶媒(または混合物)を含有する、「濃縮」または「非膨潤」L2相とは対照的である。
【0091】
一実施形態においては、少ない割合(例えば、5重量%未満)の補強ポリマーを、前記製剤に添加してもよい。
【0092】
本発明の前製剤は、投与されると、低粘度混合物から高粘度(組織付着性)デポー組成物へと相構造転移する。通常、これは、分子混合物、膨潤L2および/またはL3相から、正もしくは逆ヘキサゴナルもしくはキュービック液晶相またはこれらの混合物等の1以上の(高粘度)液晶相への転移である。先に示したように、投与後に、さらなる相転移が起こってもよい。本発明が機能する上で、完全な相転移を必要としないことは明らかであるが、投与された混合物の少なくとも表面層が液晶構造を形成する。この転移は一般に、投与された製剤の少なくとも表面領域(空気、体表面、および/または体液と直接接触している部分)に関しては迅速に生じる。これは、数秒または数分(例えば、最高30分、好ましくは最高10分、より好ましくは5分以下)で生じることが最も好ましい。前記組成物の残部は、拡散によって、および/または表面領域が分散するにつれて、よりゆっくりと液晶相に相変化してもよい。
【0093】
よって、好ましい一実施形態において、本発明は、水性流体との接触により、少なくともその一部がヘキサゴナル液晶相を形成する、本明細書中に記載されているような前製剤を提供する。このように形成されたヘキサゴナル相は、徐々に分散して活性物質を放出してもよいし、あるいは引き続きキュービック液晶相へと変化し、次いでこのキュービック液晶相が徐々に分散してもよい。ヘキサゴナル相は、キュービック相構造、特にI2相およびL2相と比べ、活性物質、特に親水性活性物質をより迅速に放出すると考えられる。したがって、キュービック相の形成前にヘキサゴナル相が形成された場合、これが活性物質の初期放出を招き、濃度を効果的なレベルまで急速に高め、その後、前記キュービック相が分解するにつれて、漸進的な「維持量(maintenance dose)」の放出が起こる。このようにして、放出プロファイルを制御してもよい。
【0094】
また、理論にとらわれることなく、本発明の前製剤は、(例えば、体液への)曝露により、含有する有機溶媒の一部または全部を(例えば、拡散および/または蒸発によって)失うと共に、身体的環境(例えば、身体またはインビボ環境に近接する湿った空気)から水性流体を取り込み、これにより、前記製剤の少なくとも一部分が非ラメラ、特に液晶相構造を生成すると考えられる。ほとんどの場合、これらの非ラメラ構造は高粘性であり、インビボ環境に容易に溶解または分散されず、生体付着性であるため容易に水洗または洗浄されない。さらに、非ラメラ構造は、大きな極性、非極性、および境界領域を有しているため、多くのタイプの活性物質を可溶化および安定化し、これらを劣化メカニズムから保護する上で極めて有効である。前製剤から形成されたデポー組成物が数時間もしくは数日間、またはさらには数週間もしくは数ヶ月間(性質および適用部位に左右される)にわたって徐々に分解されるにしたがい、前記組成物から活性物質が徐々に放出および/または拡散される。デポー組成物内の環境は比較的保護されているため、本発明の前製剤は、比較的短い生物学的半減期を有する活性物質(上記参照)に極めて適している。
【0095】
本発明の追加の態様においては、活性物質が存在しない場合には、局所組成物を使用して体表面に物理的バリアを設けてもよい。特に、前記組成物の生体付着性が極めて高いことから、液体の噴霧または適用により形成される「バリア」コーティングを本発明の組成物から形成し、感染性または刺激性の可能性がある作用物質との接触の低減または体表面の汚れの低減を図ってもよい。前記組成物の頑強な性質および耐洗浄性により、液体の形態で、または噴霧によって簡便に適用可能なこのようなバリアに対し、有利な特性が付与される。理論にとらわれることなく、適用された局所組成物の安定性および耐摩耗性は、水性流体/水分への曝露による前記組成物の特定の相転移と、前記組成物の生体付着性とが、ジアシル脂質の構成単位の低水溶解度と組み合わさった結果であると考えられる。
【0096】
炎症または過敏反応の治療に関連する本発明の製剤、組成物、および方法は、体腔における炎症および/または過敏反応への対処に特に適している。よって、体腔への投与はこの態様において極めて好適であり、治療対象の体腔に好適な方法によって行われる。例えば、洗口剤は、口腔または頬側口腔に適しており、一方、消化管の他の部分は、分散液および乾燥前製剤を含む経口製剤、ならびに浣腸または坐薬等の直腸製剤によって好適に治療し得る。リンス剤およびペッサリー(pesseries)は、同様に経膣送達に適している。
【0097】
本発明の組成物は、その非ラメラ相の高生体付着性と、これにより生じる長時間持続効果のため、体腔内の炎症の治療に極めて適している。構成成分が内在的に有する鎮静効果と高い生体適合性という性質もまた重要であり、炎症治療において受動的または能動的な役割を果たし得る。
【0098】
よって、本発明の治療方法およびこれらの方法に対応する使用は、炎症性疾患、ならびに、例えば、創傷、擦過、または照射法および/または化学療法等の積極的療法に対する反応によって起こる炎症に最も適している。特に好適なのは、少なくとも1つの体腔に発症する炎症性疾患である。消化管の疾患、特に、クローン病や潰瘍性大腸炎(ulcerative collitus)を含む炎症性腸疾患および口腔粘膜炎等の口内炎は、本発明の組成物を用いた治療に極めて適している。同様に、前記製剤の特性を活かすため、外科手術中に体腔への適用を行ってもよい。よって、外科手術中に生成または露出した炎症を鎮め、さらに外科的に処置される組織が、所望されていない部位に「固着(stick)」する傾向、および/または癒着/ブリッジを形成する傾向を低減するため、これら製剤を、例えば、噴霧または塗布により直接適用してもよい。
【0099】
よって、本発明は、特に、炎症性疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎(ulcerative collitus)または口腔粘膜炎)の治療方法を提供する。前記方法は、活性物質を含有しないか、またはプレドニゾンメチルプレドニゾロンおよびヒドロコルチゾン等のコルチコステロイド、ならびにベンジダミン、パラセタモール、イブプロフェン、およびアセチルサリチル酸塩や5−アミノサリチル酸塩を含むサリチル酸誘導体等の非ステロイド系抗炎症性化合物の誘導体から選択されるもの等、少なくとも1種の抗炎症性または抗感染性活性物質を含む本発明の前製剤を投与することを含む。炎症経路の局所阻害剤もまた好適であり、これには、抗原認識抑制因子であるメトトレキサート、アザチオプリン、または6−メルカプトプリン、およびPLA2阻害剤等のホスホリパーゼ阻害剤が含まれる。その他の好適な(sutable)活性物質としては、グルタミン、アスコルビン酸塩等の抗酸化剤、ベータ-カロチン(beta-carrotine)、ビタミンE、オキシペンチフィリン(oxypentifylline)、塩酸アゼラスチン、アロプリノール、クロルヘキシジン(chlorhexadine)、ポビドンヨード、ナイスタチン、クロトリマゾール、ポリミキシンE、トブラマイシン、アンホテリシンB、アシクロビル、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージ刺激因子(GM−CSF)、サイトカインおよびサイトカイン誘発因子/抑制因子(supressors)が挙げられる。
【0100】
特に好ましい方法およびこの方法に対応する使用は、ヒトまたは動物である対象(特に、治療を必要とする対象)の口腔粘膜炎を、少なくとも1種の局所鎮痛剤または抗炎症剤、特にベンジダミンまたはその誘導体を含む本発明の組成物(特に、好適な組み合わせの成分a)、b)、およびc)を含むもの)によって治療する方法である。これらは、炎症の治療用として先に示した活性物質のうちの1種以上、および/またはリグノカイン、コカイン、ジフェンドラミン、または特にジクロニンHCl等の局所麻酔薬と任意に組み合わせてもよい。
【0101】
下記の非限定的な実施例および添付図面を参照しながら、本発明についてさらに説明する。
【0102】
図1は、過剰量の水に注入した際の、PC/GDO/EtOH(45/45/10重量%)を含むデポー製剤からのメチレンブルー(MB)の累積放出を示している。
図2は、N−メチルピロリジノン(N-methyl pyrolidinone)(NMP)およびEtOHの添加による、前製剤の粘度の非線形の低下を示している。
図3は、クロルヘキシジンを、5%の薬剤量に相当する製剤1g中50mgの濃度で含有するPC/GDO/EtOH(36/54/10重量%)を含むデポー製剤からの、過剰量の水相へのクロルヘキシジンのインビトロ放出を示している。
【実施例1】
【0103】
組成物の選択によるデポー中の各種液晶相の利用可能性
ホスファチジルコリン(「PC」−エピクロン(Epikuron)200)とグリセロールジオレアート(GDO)を異なる割合で含有し、さらにEtOHを溶媒として含有する注射製剤を調製し、デポー前駆体製剤を過剰量の水で平衡化した後、各種液晶相が利用可能であることを例証した。
【0104】
適量のPCおよびEtOHをガラスバイアルで計量し、その混合物を、PCが完全に溶解し透明な溶液となるまで振盪器にかけた。次に、GDOを添加し、注射可能な均一溶液を作った。
【0105】
各製剤をバイアルに注入し、過剰量の水で平衡化した。相挙動を、目視ならびに交差偏光子間(between crossed polarizes)で、25℃で評価した。結果を表1に示している。
【0106】
【表1】

【実施例2】
【0107】
水溶性物質のインビトロ放出
水溶性着色剤であるメチレンブルー(MB)を、製剤1g中11mgの濃度となるように製剤C(実施例1参照)に分散させた。前記製剤0.5gを100mlの水に注入したところ、硬い逆ヘキサゴナルHII相が形成された。水相に放出されたMBの吸光度を、10日間にわたり664nmで観察した。放出の観察は、エレンマイヤーフラスコ内において、37℃で、低磁力攪拌を行いながら実施した。
【0108】
前記ヘキサゴナル相からのMBの放出プロファイル(図1参照)は、この(および類似の)製剤が、有望なデポー系であることを示している。さらに、前記製剤は、初期バーストが低いようであり、前記放出プロファイルは、前記物質が数週間にわたって放出され得ること、10日が経過しても約50%のMBしか放出されないことを示している。
【実施例3】
【0109】
溶媒(EtOH、PG、およびNMP)添加によるPC/GDO(6:4)またはPC/GDO(3:7)の粘度
PC/GDO/EtOHの混合物を、実施例1に記載の方法で製造した。ロータリーエバポレーター(真空、40℃、1時間)を用いて前記混合物からEtOHを完全またはほぼ完全に除去し、この結果得られた固体混合物をガラスバイアルで計量した後、2、5、10、または20%の溶媒(EtOH、プロピレングリコール(PG)、またはn−メチルピロリドン(NMP))を添加した。これら試料を数日間平衡化させた後、フィジカ(Physica) UDS 200レオメータを用い、0.1s-1の剪断速度で、25℃で粘度を測定した。
【0110】
この実施例は、ある種のデポー前駆体は、注射製剤(図2参照)を得るために溶媒を必要とすることを明確に示している。溶媒を含有しないPC/GDO混合物の粘度は、PCの比率の上昇と共に上昇する。PC/GDO比率の低い(GDOが多い)系は、より低い溶媒濃度で注射可能となる。
【実施例4】
【0111】
組成物およびインビトロ相研究
実施例1に記載の方法により、表2に示す組成で製剤を製造した。活性物質(ペプチド)であるサケカルシトニン(sCT)を、製剤1g中sCTが500μgの濃度となるように各製剤に添加した。前記製剤は、非経口投与用の均一懸濁液として設計した(前記薬剤はPC/GDO/EtOH系に完全には溶解されないため、使用の直前に混合する必要がある)。
【0112】
この実施例における相研究は、インビボの状況をシミュレートするため、37℃の過剰量のラット血清中で行う。表2は、水中で形成されるものと同一の相が形成されることを示している(表1と比較されたい)。
【0113】
【表2】

【実施例5】
【0114】
粘度を低下させた製剤の濾過滅菌
注射製剤を得て、当該系を通常の注射器で投与可能とするため、各種溶媒によって粘度を低下させることが時として必要である(実施例3参照)。粘度低下用溶媒によってもたらされる別の重要な効果は、製剤を濾過滅菌できることである。
【0115】
実施例4の製剤E〜Iを、0.22μmフィルターを使用し、濾過滅菌試験により観察した(活性物質の添加前)。製剤E〜Hは首尾よく濾過されたが、製剤Iに関しては、粘度が高過ぎて濾過できなかった。したがって、この製剤に関しては、無菌の製造手順が必要であった。
【実施例6】
【0116】
各種溶媒を用いたデポー前駆体組成物の調製
製剤の組成と活性物質の性質および濃度によっては、特定の溶媒が好ましい場合がある。
【0117】
デポー前駆体製剤(PC/GDO/溶媒(36/54/10))を、各種溶媒、すなわちNMP、PG、PEG400、グリセロール/EtOH(90/10)を用い、実施例1の方法によって調製した。デポー前駆体組成物は全て、注射器(23G、すなわち23ゲージの針;0.6mm×30mm)で注入可能な粘度の均一な一相溶液であった。製剤前駆体を過剰量の水に注入した後、高粘度モノリスの形態の液晶相が、NMPおよびPG含有前駆体によって迅速に形成された。前記液晶相は、逆キュービックミセル(I2)構造を有していた。PEG400、グリセロール/EtOH(90/10)を用いた場合、粘性化/固化方法ははるかに低速度で進行し、前記液状前駆体は、まず軟らかく若干粘着性の小片へと変化した。外観の違いは、おそらく、PEG400およびグリセロールが、EtOH、NMP、およびPGに比べて、過剰量の水相にゆっくりと溶解することを反映している。
【実施例7】
【0118】
ベンジダミンを含有するデポー組成物の調製
ベンジダミンは、非ステロイド系抗炎症剤であり、炎症疾患の局所薬剤として広く使用されている。
【0119】
1.5mgのベンジダミンを含有する1gのデポー製剤を、実施例1に記載のように調製したPC/GDO/EtOH(36/54/10)の混合物中に当該活性物質を溶解することによって調製した。前記デポー組成物は、少なくとも2週間の25℃での保存期間中、結晶化に対して安定であった。過剰量の水による前記製剤前駆体の平衡化により、高粘度モノリシック液晶相(I2構造)が生じた。
【実施例8】
【0120】
賦形剤の品質のばらつきに対する製剤の挙動のロバスト性
実施例1の方法を用い、表3に示す数種の異なるGDO品質(デンマーク、ダニスコ(Danisco)社提供)でデポー前駆体製剤を調製した。最終的なデポー前駆体は、PCを36重量%、GDOを54重量%、EtOHを10重量%含有していた。前記デポー前駆体の外観は、使用した品質のばらつきの影響を受けておらず、また、過剰量の水との接触後に、逆ミセルキュービック相挙動(I2構造)を有するモノリスが形成された。
【0121】
【表3】

【実施例9】
【0122】
飽和PC(エピクロン 200SH)を含有するデポー組成物の調製
飽和炭化水素鎖を含む様々な量のPCを用い、実施例1で調製したようなPC/GDO/EtOHの混合物にエピクロン 200SHを直接添加することにより、デポー前駆体製剤を調製した。これらの製剤を表4に示している。前駆体製剤は全て、室温(RT)において均一な一相の試料であり、エピクロン 200SHの量の増加と共にその粘度が上昇した。前記デポー前駆体を過剰量の水に注入すると、逆ミセルキュービック(I2)構造を備えたモノリスが生じた。より多量のエピクロン 200SHを含有する試料から形成されたモノリスは不透明となったが、これは、おそらくは、水に曝露されてI2相が形成されたことにより、エピクロン 200SHとそれ以外の成分とが分離したことを示している。
【0123】
【表4】

【実施例10】
【0124】
デポー前駆体製剤の生体付着性スプレー
ポンプスプレーボトルは、製剤を局所的に、例えば、皮膚または口腔粘膜に適用する上で便利な手段であることがわかった。
【0125】
実施例1に記載のように調製したデポー前駆体製剤(PC36重量%、GDO54重量%、およびEtOH10重量%)を、ポンプスプレーボトルを用いて皮膚および口腔粘膜に噴霧した。適用後間もなく、固体の機械的性質を有した膜が形成された。
【実施例11】
【0126】
局所膜のロバスト性
実施例10に記載のデポー前駆体製剤(PC36重量%、GDO54重量%、およびEtOH10重量%)を皮膚に適用した後、適用した製剤を10分間流水(10リットル/分)に曝した。前記製剤は優れた生体付着特性と水洗に対する耐性を示し、前記製剤の損失は認められなかった。
【実施例12】
【0127】
デポー前駆体製剤を空気に曝露した後の、固体特性を有するキュービック相の形成
実施例1に記載のように調製したデポー前駆体製剤(PC36重量%、GDO54重量%、およびEtOH10重量%)を、少なくとも3時間、空気(室温(RT)、相対湿度40%)に曝露した後、固体キュービック相が形成された。このキュービック相構造の形成は、局所膜は、過剰量の水性流体に直接曝露しなくとも、適用後にバルク非ラメラデポー特性を獲得することを実証している。
【実施例13】
【0128】
歯周炎またはインプラント周囲炎の治療用製剤
歯周炎またはインプラント周囲炎を治療するため、抗菌製剤を歯周ポケットに注入する。通常、当該製剤の持続効果が所望される。
【0129】
実施例1に記載のように調製した製剤100μlに抗生物質のクロルヘキシジン(PC/GDO/EtOH/クロルヘキシジン(35/53/10/2))を添加したものを、ラットの歯周ポケットに注射器で注入する。注入された組成物は、最初は空隙を満たすように広がる低粘度製剤であるが、歯肉滲出液を取り込むことにより、固体塊を形成するように変化することが確認される。これにより、抗菌性のデポー系が提供される。
【0130】
クロルヘキシジンは、歯周ポケットのGCF中に、1週間以上にわたり、臨床的に有効なレベル(MIC125μg/ml)で残存する。前記デポー系は、酵素によって7〜10日間以内に完全に分解されるので、除去する必要はない。
【実施例14】
【0131】
歯周炎またはインプラント周囲炎を治療する別の抗菌製剤
実施例1に記載のように調製し、かつ抗菌性界面活性物質であるガルドール(Gardol)(グリシン、N−メチル−N−(1−オキソドデシル)−、ナトリウム塩)(PC/GDO/EtOH/ガルドール(34/51/10/5))を含有させた製剤を、別の抗菌製剤として提供した。この製剤をラットの歯周ポケットに注入する。
【0132】
ガルドールは、歯周ポケットのGCF中に、長期間(数日間)にわたって臨床的に有効なレベルで残存すことが確認されている。前記デポー系は、酵素によって7〜10日間以内に完全に分解されるので、除去する必要はなかった。
【実施例15】
【0133】
高エネルギー表面への製剤の付着
インプラント周囲炎を治療するためには、生体表面への付着のみならず、金またはチタンインプラント等の高エネルギー表面に対する付着も重要である。さらに、製剤がセラミックおよびプラスチック表面に付着することも重要である。
【0134】
実施例1で調製した製剤(PC/GDO/EtOH(36/54/10))を、口腔内の様々な表面に適用した。前記組成物は、正常な歯の表面に対してはもちろん、セラミック、プラスチック、金に対しても優れた付着性を示し、過剰量の水性流体でも洗い流すことはできなかった。前記組成物から生じたデポーは、口腔内における適用部位に、少なくとも6時間滞留していた。
【実施例16】
【0135】
歯に使用するフッ化ナトリウムの生体付着性持続放出製剤
齲蝕の発現に対抗するため、フッ化物含有化合物がしばしば必要とされる。デポー効果を有する生体付着性の製剤前駆体を、PC/GDO/EtOH/フッ化ナトリウム(35/53/10/2)の混合物から、実施例1に示すように調製した。製剤は前記前駆体に溶解できないため、前記製剤は、フッ化ナトリウムの分散液であった。当該液体製剤を、ブラシを用いて歯に適用した。唾液を取り込むことにより、前記製剤は固化し、長期間(数時間)にわたるフッ化ナトリウムの持続放出を行うデポーを形成した。
【実施例17】
【0136】
口腔スプレーデポー組成物
口腔内に適した局所デポー系とするため、PC/GDOの比率を低下させることにより、当該系の機械的性質を調整した。
【0137】
PC/GDO/EtOH(27/63/10)を含有する混合物を、実施例1に記載のように調製した。適用後の製剤を視認可能にするため、パテントブルーを1滴添加した。ポンプスプレーボトルを用い、前記製剤約300μlを口腔内に噴霧した。適用後間もなく、前記製剤は、水性流体(唾液)の取り込みと溶媒(EtOH)の損失によって相変換を起こしたため、粘性化/固化した。前記製剤は、硬口蓋および歯肉等の角化(keritinized)表面に対して優れた生体付着性を有していた。ここで、当該膜は、唾液分泌および舌による機械的摩耗にもかかわらず、数時間存続した。柔らかな粘膜面では、持続時間ははるかに短かった(数分間)。
【実施例18】
【0138】
口腔用液体デポー組成物
ピペットを用いた口腔内への適用に適したものとするためには、製剤の固化/粘性化を、スプレー製剤と比べて遅らせる必要がある。これは、適用後に製剤を口腔内において舌で簡便に薄膜状に広げることを可能にするためである。
【0139】
プロピレングリコール(PG)およびEtOHを、最終的な組成がPC/GDO/EtOH/PG(24/56/10/10)となるように、実施例1に記載のように調製した製剤に添加した。ピペットを用いて前記製剤300μlを簡便に口腔内に適用し、口腔内において舌で薄膜状に広げた。約20秒後、水性流体(唾液)の取り込みおよび溶媒(EtOHおよびPG)の損失により相変換が起こったため、前記製剤の粘性化が始まった。約1分後に、固化/粘性化は終了したようであった。前記製剤は、硬口蓋および歯肉等の角化(keritinized)表面に対して優れた生体付着性を有していた。ここで、当該膜は、唾液分泌および舌による機械的摩耗にもかかわらず、数時間存続した。柔らかな粘膜面では、持続時間ははるかに短かった(数分間)。
【実施例19】
【0140】
爪用の生体付着性デポー
実施例18の混合物を、爪床および足指間に噴霧した。前記製剤は、水性流体(汗参照)の取り込みによりゆっくりと固化/粘性化する。スプレーで適用した後に水を添加することにより、固化の速度を上げることができる。前記製剤は、優れた生体付着特性を有し、数時間の持続期間を有していた。
【実施例20】
【0141】
製剤前駆体における生理活性物質ベンジダミンの担持能(loading capacity)
表5に明記した組成の製剤を、実施例1に記載の方法を用いて調製した。前記製剤0.5gに、過剰量のベンジダミン(50mg)を添加した。15℃の振盪器上にバイアルを3日間配置し、その後、溶液をフィルター(0.45μm)にかけ、溶解されなかったベンジダミンの結晶を除去した。各製剤におけるベンジダミン濃度を、逆相グラジエントHPLCおよび306nmでのUV検出によって求めた。結果を表5に示す。
【0142】
【表5】

【実施例21】
【0143】
PCおよびトコフェロールを含有する組成物
数種類の異なるPC/α−トコフェロール組成物を用いて、実施例1の方法(まず、PCを適量のEtOHに溶解し、その後、α−トコフェロールを添加して透明な均一溶液とする)により、デポー前駆体製剤を調製した。
【0144】
各製剤をバイアルに注入し、過剰量の水で平衡化した。相挙動を、目視ならびに交差偏光子間(between crossed polarizes)で、25℃で評価した。結果を表6に示している。
【0145】
【表6】

【実施例22】
【0146】
水溶性フルオレセイン二ナトリウムのインビトロ放出
水溶性着色剤であるフルオレセイン二ナトリウム(Fluo)を、製剤1g中Fluo5mgの濃度となるように、PC/α−トコフェロール/エタノール(27/63/10重量%)を含有する製剤に溶解した。前記製剤0.1gを2mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)に注入したところ、逆ミセル(I2)相が形成された。前記水相に放出されたFluoの吸光度を、3日間にわたり490nmで観察した。放出の調査は、アルミニウム製の完全引き剥がし式キャップ(fully tear off cap)で蓋をした3mlのバイアル内において、37℃で実施した。前記バイアルを、150rpmの振動台上に配置した。
【0147】
前記PC/α−トコフェロール製剤(表7参照)からのFluoの放出は、この(および類似の)製剤が、有望なデポー系であることを示している。さらに、バースト効果が存在しないことも注目すべき点であり、前記放出は、前記物質が数週間から数ヶ月にわたって放出され得ること、3日が経過しても約0.4%のFluoしか放出されないことを示している。
【0148】
【表7】

【実施例23】
【0149】
鎮痛性/抗炎症性ベンジダミンの製剤
ベンジダミンを、GDO、PC、エタノール、および任意にPG/APを以下の割合で含む混合物と混合することにより、実施例1に記載のように製剤を調製した。
【0150】
【表8】

【0151】
製剤はいずれも、水性条件に曝露されると液晶相組成物を生成する低粘度の液体である。
【実施例24】
【0152】
フェンタニル経鼻製剤
麻薬性鎮痛剤であるフェンタニルを、GDO、PC、エタノール、および任意にPGを以下の割合で含む混合物と混合することにより、実施例1に記載のように製剤を調製した。
【0153】
【表9】

【0154】
製剤はいずれも、経鼻スプレーによる投与に適した低粘度の液体であり、水性条件に曝露されると液晶相組成物を生成する。
【実施例25】
【0155】
ジアゼパム経鼻製剤
ベンゾジアゼピン系抗不安剤であるジアゼパムを、GDO、PC、エタノール、および任意にPGを以下の割合で含む混合物と混合することにより、上述の実施例に記載のように製剤を調製した。
【0156】
【表10】

【0157】
製剤はいずれも、経鼻スプレーによる投与に適した低粘度の液体であり、水性条件に曝露されると液晶相組成物を生成する。
【実施例26】
【0158】
クリンダマイシンを用いたアクネ用製剤
半合成抗生物質であるクリンダマイシン(遊離塩基または塩)を、GDO、PC、エタノール、およびPGを以下の割合(重量)で含む混合物と混合することにより、上述の実施例に記載のように製剤を調製した。
【0159】
【表11】

【0160】
【表12】

【0161】
この結果得られた前製剤は、適用後に水、汗等に対する耐性を示す低粘度の液体である。前記製剤は、ゲルとして、または噴霧によって皮膚上に局所的に適用され、優れた膜形成特性を有し生体付着性を示す。
【実施例27】
【0162】
共溶媒添加によるPC/GDO混合物の粘度のさらに別の例
PC/GDOおよび共溶媒の混合物を、以下の表に示す割合で、実施例1および実施例3に記載の方法によって調製した。
【0163】
これら試料を数日間平衡化させた後、フィジカ UDS 200レオメータを用いて25℃で粘度測定を行った。
【0164】
【表13】

【0165】
この実施例は、注射製剤を得るためには、粘度低下特性を有する溶媒が必要であることをさらに例証するものである。グリセロールを含有する混合物(試料19)または水を含有する混合物(試料20および21)は、EtOHを含有する試料(試料13、14、および17と比較)と同等の溶媒濃度で粘度が高過ぎ注入できない。
【実施例28】
【0166】
日焼け止め製剤
数種類のUV吸収/散乱剤のそれぞれを、GDO、PC、およびエタノールを以下の割合(重量)で含む混合物と混合することにより、実施例1に記載のように製剤を調製した。
【0167】
【表14】

【0168】
この結果得られた製剤前駆体は、調合されると低粘度を示し、ポンプスプレーにより容易に適用される。体表面との接触により、弾性のUV保護層が形成される。
【実施例29】
【0169】
クロルヘキシジン歯周用デポー
抗感染剤であるクロルヘキシジンジグルコナートを、GDO、PC、およびエタノールを以下の割合(重量)で含む混合物と混合することにより、実施例1に記載のように製剤を調製した。
【0170】
【表15】

【0171】
前記クロルヘキシジンデポー前製剤は、低粘度であり、容易に歯周ポケットに投与される。当該組成物は、ペリオチップ(Periochip)(登録商標)等の既存の製品に比べ、歯周ポケット全体に対し、活性物質をより良好に分布させ、行き渡らせる。
【0172】
適用後に形成されたデポーは、前記ポケットを再感染から保護する。さらに、前記デポーは、優れた生体付着特性を有し、粘膜、歯、および骨の表面に貼り付く。
【0173】
250mgの製剤A(上記参照)から0.9%NaCl水溶液(500ml)へのクロルヘキシジンジグルコナートの放出を観察した。前記製剤を、標準的なUSP放出槽の底に設けられたテフロンホルダー内に配置された円筒状の金属カップ内に収容した。前記製剤とその周囲の食塩水の接触面積は、2.4cm2であった。前記溶液を、パドルにより100rpmで攪拌した。
【0174】
図3に示す放出曲線は、前記製剤からクロルヘキシジンが24時間にわたって持続的かつ本質的に均一に放出されることを実証している。
【実施例30】
【0175】
NSAIDを用いた局所製剤
ジクロフェナクナトリウムは、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)である。ジクロフェナクナトリウムはフェニル酢酸基に属し、各種病因による炎症疾患、変性関節疾患、ならびにこれら以外の多くの疼痛を伴う疾患に使用される。
【0176】
ジクロフェナクナトリウムを含有する局所投与製剤を、まずプラシーボ製剤を調製することによって調製した。
【0177】
【表16】

【0178】
前記プラシーボ製剤に、ジクロフェナクナトリウムを、5%の濃度となるように溶解した。この結果得られた油性液体は、若干黄色がかった透明で、低粘度であった。
【実施例31】
【0179】
液晶相の形成
実施例30のジクロフェナクナトリウム含有製剤を1滴、3mlの食塩水にピペットで添加した。凝集性の液晶相が形成された。
【実施例32】
【0180】
in situでの強固な膜の形成
実施例30のジクロフェナクナトリウム含有製剤を1滴、健常人の腕の皮膚に適用し、約2〜4cm2の面積を覆う薄膜となるように塗りつけた。適用後間もなく、前記液体製剤は、皮膚および/または空気中から少量の水分を取り込むことにより、はるかに強固な膜となった。
【実施例33】
【0181】
粘度低下による噴霧パターンの改善
実施例30の表に示す組成のプラシーボ製剤を、標準的なポンプ-スプレーボトルに充填した。前記ポンプを製剤を用いてプライミングした後、前記製剤を、準最適な噴霧パターンで皮膚に適用することができた。
【0182】
前記製剤をEtOHでさらに希釈することにより、前記製剤の粘度が低下し、約25%に相当するEtOH濃度で、前記製剤をミストとして皮膚に適用することができた。前記製剤を健常人の腕の皮膚に噴霧したところ、EtOHの蒸発ならびに皮膚および/または空気中から少量の水分を取り込んだ後、強固な膜が形成された。
【実施例34】
【0183】
圧縮ポンプデバイスの使用による噴霧パターンの改善
実施例30の表に示す組成のプラシーボ製剤を、標準的な圧縮ポンプボトルに充填した。このデバイスでは、良好なミスト/エアゾールおよび噴霧パターンが得られた。前記製剤を健常人の腕の皮膚に噴霧したところ、皮膚および/または空気中から少量の水分を取り込んだ後、強固な膜が形成された。
【実施例35】
【0184】
圧力駆動デバイスの使用
実施例30の表に示す組成のプラシーボ製剤を、炭化水素噴霧剤または噴霧剤であるHFC−134aのいずれかと共に、圧力駆動噴霧デバイスに充填した。いずれの噴霧剤も、前記製剤と共に低粘度の均一な混合物を形成することがわかった。前記製剤を健常人の腕の皮膚に噴霧したところ、皮膚および/または空気中から少量の水分を取り込んだ後、強固な膜が迅速に形成された。
【実施例36】
【0185】
EtOHが極低濃度な製剤の噴霧
以下の表に示す組成の製剤を、ロータリーエバポレーター(真空、40℃)を用いて実施例30の表に示す組成のプラシーボ製剤からEtOHを蒸発させることによって調製した。この結果得られた製剤は高粘度であったが、噴霧剤(炭化水素噴霧剤またはHFC−134a)と混合してスプレーボトルに充填すると、前記製剤を健常人の腕の皮膚に噴霧することができ、皮膚および/または空気中から少量の水分を取り込んだ後、この皮膚上に強固な膜が形成された。
【0186】
【表17】

【実施例37】
【0187】
製剤組成の変更による異なる表面へのターゲティング
製剤中におけるPC/GDO比率を変更することにより、口腔内の異なる場所での前記製剤の持続時間を調整することができた。PC/GDO/EtOH(36/54/10)という組成の製剤は、歯等の硬質な表面に付着しやすく、一方、PC/GDO/EtOH(27/63/10)という組成の製剤は、上口蓋により適していることがわかった。
【実施例38】
【0188】
各種溶媒混合物を用いた前駆体からの液晶相の形成
前駆体中の活性物質の溶解度を向上させるためには、製剤中の溶媒を変更することが有用な場合がある。多数の異なる溶媒混合物を製剤前駆体中に使用し(表参照)、過剰量の水溶液と接触させた後のこれらの液晶相形成能について調べた。各製剤を1滴、3mlの食塩水にピペットで添加した。使用した溶媒(混合物)とは無関係に、凝集性の液晶相が形成された。
【0189】
【表18】

【実施例39】
【0190】
エナント酸テストステロンを用いた局所製剤
以下の表に示す成分を混合することにより、2%エナント酸テストステロンを含有する局所製剤を調製した。当該液体製剤を皮膚に適用して間もなく、前記製剤は、皮膚および/または空気中から少量の水分を取り込むことにより、はるかに強固な膜となった。
【0191】
【表19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の(好ましくは、酸素含有)有機溶媒との低粘度混合物を含み、前記低粘度混合物に溶解または分散させた少なくとも1種の生理活性物質を任意に含む前製剤であって、
水性流体および/または体表面との接触により、少なくとも1つの液晶相構造を形成するか、あるいは形成することのできる前製剤。
【請求項2】
前記液晶相構造が生体付着性である、請求項1に記載の前製剤。
【請求項3】
成分a)が、本質的にジアシルグリセロール、特にグリセロールジオレアートから成る、請求項1または請求項2に記載の前製剤。
【請求項4】
成分b)が、ホスファチジルコリンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の前製剤。
【請求項5】
粘度が、0.1〜5000mPasである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の前製剤。
【請求項6】
分子性溶液、L2および/またはL3相構造を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の前製剤。
【請求項7】
a)を35〜60重量%、b)を20〜50重量%、およびc)を10〜20重量%含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の前製剤。
【請求項8】
成分c)がアルコールである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の前製剤。
【請求項9】
a)+b)の重量の10%までの荷電両親媒性物質をさらに含有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の前製剤。
【請求項10】
前記活性物質が、コルチコステロイド、非ステロイド系抗炎症性化合物、炎症経路の局所阻害剤、ホスホリパーゼ阻害剤、抗酸化剤、抗感染剤、サイトカインおよびサイトカイン誘発因子/抑制因子(supressors)から選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の前製剤。
【請求項11】
洗浄、噴霧、うがい、浣腸、もしくは坐薬により、またはパッチとして投与可能である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の前製剤。
【請求項12】
ベンジダミンを含有する、請求項11に記載の前製剤。
【請求項13】
生体付着性制御放出製品を形成する口腔内投与用の請求項1〜11のいずれか一項に記載の局所用製剤であって、前記活性物質が、ベンジダミン、トラマドール、アセトアミノフェン、イブプロフェン、プロポキシフェン、コデイン、ジヒドロコデイン、ヒドロコドン、オキシコドン、ナルブフィン、メペリジン、レボルファノール(Leverorphanol)、ヒドロモルホン、オキシモルホン、アルフェンタニル、フェンタニル、およびスフェンタニル(Sefentanil)から選択される少なくとも一つを含む、局所用製剤。
【請求項14】
歯根膜感染症および局所感染症治療用の口腔内投与に適した請求項1〜11のいずれか一項に記載の局所用前製剤であって、前記活性物質が、グルコン酸クロルヘキシジンであり、前記前製剤が、適用後、1秒〜5分間で表面ゲルをin situ形成する液体製品として適用される、局所用前製剤。
【請求項15】
経眼投与に適した請求項1〜11のいずれか一項に記載の局所用製剤であって、前記活性物質が、ジクロフェナク、ピロカルピン、塩酸レボカバスチン、フマル酸ケトチフェン、チモロール、ベタキソロール、カルテオロール、レボブノロール、ドルゾラミド、ブリンゾラミド、エピネフリン、ジピベフリン、クロニジン、アプラクロニジン、ブリモニジン、ピロカルピン、ラタノプロスト(atanoprost)、トラボプロスト、ビマトプロスト、ウノプロストン、塩酸ピロカルピン、デキサメタゾン、クロラムフェニコール、およびインドメタシンから選択される少なくとも一つを含む、局所用製剤。
【請求項16】
生体付着性制御放出製品を形成する経皮投与用の請求項1〜11のいずれか一項に記載の局所用製剤であって、前記活性物質が、化粧剤、香料、香味料、精油、UV吸収剤、およびその混合物から選択される、局所用製剤。
【請求項17】
ヒトまたはヒト以外の動物(好ましくは、哺乳類)の身体への生理活性物質の送達方法であって、
この方法が、
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/または少なくとも1種のトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の酸素含有低粘度有機溶媒との非液晶低粘度混合物を含む前製剤を投与することを含み、少なくとも1種の生理活性物質が前記低粘度混合物に溶解または分散しており、投与後にインビボでの水性流体との接触により少なくとも1つの液晶相構造が形成される送達方法。
【請求項18】
前記前製剤が、請求項1〜16のいずれか一項に記載の前製剤である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/または少なくとも1種のトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の酸素含有低粘度有機溶媒との非液晶低粘度混合物の使用であって、
少なくとも1種の生理活性物質を、前記活性物質の持続性局所投与に使用される前製剤の製造において、前記低粘度混合物に溶解または分散させ、前記前製剤は、水性流体との接触により、少なくとも1つの液晶相構造を形成することができる、非液晶低粘度混合物の使用。
【請求項20】
前記前製剤が、請求項1〜16のいずれか一項に記載の前製剤である、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の前製剤を投与することを含む、ヒトまたはヒト以外の動物である対象の治療または予防方法。
【請求項22】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の前製剤を投与することを含む、ヒトまたは動物である対象の治療方法。
【請求項23】
体表面および/または体腔内における炎症および/または過敏反応の治療のための、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記炎症が、クローン病、潰瘍性大腸炎(ulcerative collitus)、または口腔粘膜炎により引き起こされる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
体表面および/または体腔内における炎症および/または過敏反応の治療用の医薬品の製造における、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項26】
請求項1に記載の前製剤を投与することを含む、ヒトまたは動物である対象における口腔粘膜炎の治療方法であって、前記組成物が、40〜60重量%のGDO、20〜35%のPC、5〜25%のエタノール、および1〜8%のベンジダミン、またはその誘導体を含む治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−214494(P2012−214494A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−156518(P2012−156518)
【出願日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【分割の表示】特願2007−550825(P2007−550825)の分割
【原出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(505345749)カムルス エービー (17)
【Fターム(参考)】