説明

局所的なワックスコーティングを使用する軽量、高耐久性、軟質身体防護具用複合材料

耐摩耗性を有する弾道抵抗性物品。特に、ワックス系の局所的処理剤を含有する耐摩耗性弾道抵抗性物品と複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所的なワックスコーティングを有する弾道抵抗性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
発射体に対して優れた特性をもつ高強度繊維を含有する弾道抵抗性物品がよく知られている。軍用装備品である防弾ベスト、防弾ヘルメット、防弾車両パネル、及び防弾構造部材等の物品は一般に、高強度繊維を含む布帛から製造される。従来から使用されている高強度繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリ(フェニレンジアミンテレフタルアミド)等のアラミド繊維、グラファイト繊維、ナイロン繊維、及びガラス繊維等がある。ベスト若しくはベストの一部等の多くの用途に対し、繊維は、織布若しくは編み上げ布帛の形で使用することができる。他の用途に対しては、繊維は、剛性若しくはフレキシブルな織布又は不織布を形成するために、ポリマーマトリックス材料中にカプセル封入するか、又は埋め込むことができる。本発明の布帛を形成する個々の繊維のそれぞれを、バインダー(マトリックス)材料によって実質的に被覆するか、若しくはカプセル封入することが好ましい。
【0003】
ヘルメット、パネル、及びベスト等の硬質若しくは軟質の防護具を製造するのに有用な様々な弾道抵抗性構造物が知られている。例えば、米国特許第4,403,012号、第4,457,985号、第4,613,535号、第4,623,574号、第4,650,710号、第4,737,402号、第4,748,064号、第5,552,208号,第5,587,230号、第6,642,159号、第6,841,492号、第6,846,758号(これら全ての特許は、参照により本明細書に援用されるものとする)は、伸び切り鎖超高分子量ポリエチレン等の材料から造られる高強度繊維を含む弾道抵抗性複合材料を開示している。これらの複合材料は、発射体(例えば、銃弾、砲弾、及び爆弾の破片等)からの高速度衝撃による貫通に対して様々な抵抗度を示す。
【0004】
例えば、米国特許第4,623,574号と第4,748,064号は、エラストマーマトリックス中に埋め込まれた高強度繊維を含む単純な複合構造物を開示している。米国特許第4,650,710号は、高強度の伸び切り鎖ポリオレフィン(ECP)繊維で構成される複数の柔軟性層を含む柔軟性製品を開示している。ネットワークの繊維が低モジュラスのエラストマー材料で被覆されている。米国特許第5,552,208号と第5,587,230号は、1種以上の高強度繊維網と、ビニルエステルとジアリルフタレートを含むマトリックス組成物とを含んでなる物品、及び該物品の製造方法を開示している。米国特許第6,642,159号は、マトリックス中に配列されたフィラメント網を含む複数の繊維層(エラストマー層が間に存在する)を有する耐衝撃性の剛性複合材料を開示している。徹甲発射体に対する防護を強化するために、該複合材料が硬質プレートに接着されている。
【0005】
硬質又は剛性の身体防護具は、良好な弾道抵抗性を示すが、非常に堅く、また、かさばることがある。したがって、弾道抵抗性ベスト等の身体防護具用衣料品は、柔軟性若しくは軟質の防護具材料から製造するのが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,403,012号
【特許文献2】米国特許第4,457,985号
【特許文献3】米国特許第4,613,535号
【特許文献4】米国特許第4,623,574号
【特許文献5】米国特許第4,650,710号
【特許文献6】米国特許第4,737,402号
【特許文献7】米国特許第4,748,064号
【特許文献8】米国特許第5,552,208号
【特許文献9】米国特許第5,587,230号
【特許文献10】米国特許第6,642,159号
【特許文献11】米国特許第6,841,492号
【特許文献12】米国特許第6,846,758号
【特許文献13】米国特許第4,623,574号
【特許文献14】米国特許第4,748,064号
【特許文献15】米国特許第4,650,710号
【特許文献16】米国特許第5,552,208号
【特許文献17】米国特許第5,587,230号
【特許文献18】米国特許第6,642,159号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような柔軟性若しくは軟質の材料は、優れた弾道抵抗性を示すけれども、一般的には耐摩耗性が不十分であり、このことが、防護具の耐久性に影響する。当業界では、改良された耐摩耗性と耐久性を有する軟質でフレキシブルな弾道抵抗性材料を提供することが要望されている。本発明はこうしたニーズに対する解決策をもたらす。さらに重要なことに、ワックスコーティングが存在すると、9mmフルメタルジャケット弾丸や44マグナム弾丸に対する、本明細書に記載の弾道抵抗性複合材料の弾道貫通抵抗が大幅に改善される、ということが意外にも見いだされた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、多層コーティングを有する少なくとも1つの繊維基材を含む弾道抵抗性複合材料であって、ここで該繊維基材が、約7g/デニール以上のテナシティと約150g/デニール以上の引張モジュラスを有する1つ以上の繊維を含んでおり、該多層コーティングが、該1つ以上の繊維の表面上にポリマーバインダー材料の層を、また、ポリマーバインダー材料層上にワックスの層を含むことを特徴とする弾道抵抗性複合材料を提供する。
【0009】
本発明はさらに、
i)表面を有する少なくとも1つの被覆繊維基材を準備すること、ここで該少なくとも1つの繊維基材が、約7g/デニール以上のテナシティと約150g/デニール以上の引張モジュラスを有する1つ以上の繊維を含み、該繊維のそれぞれの表面が、ポリマーバインダー材料で実質的に被覆されている;及び
ii)該少なくとも1つの被覆繊維基材の少なくとも一部の上にワックスを塗布すること;を含む、弾道抵抗性複合材料の製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、優れた耐久性と強化された弾道貫通抵抗性を有する、耐摩耗性の繊維複合材料と物品を提供する。本発明は特に、少なくとも1つの繊維基材の上に本発明の多層コーティングを施すことによって製造される繊維複合材料を提供する。本明細書中に使用されている「繊維基材」は、単一の繊維であっても、複数の繊維から形成されている布帛(フェルトを含む)であってもよい。繊維基材は、モノリシック構造物として一体化された、複数の繊維を含んでなる布帛(織布及び不織布を含む)であることが好ましい。ポリマーバインダー材料の被覆、又はポリマーバインダー材料とワックスの被覆は、繊維ウェブ若しくは他の配置構造として配列されている複数の繊維(被覆時に布帛であるとみなしてもよいし、みなさなくてもよい)上に施すことができる。本発明はさらに、複数の被覆繊維から製造される布帛、及び該布帛から製造される物品を提供する。
【0011】
本発明の繊維基材が、ポリマーバインダー材料の少なくとも1層とワックスの少なくとも1層とを含む多層コーティングで被覆され、ここで該層は異なっている。ポリマーバインダー材料の少なくとも1層が、1つ以上の繊維の表面上に直接施され、ワックスの少なくとも1つの局所的コーティングが、ポリマーバインダー材料層の上に施される。あとで詳細に述べるように、ワックスコーティングはポリマーバインダー層の「上に」存在するが、ワックスコーティング層とポリマーバインダー層は、必ずしも互いに直接接触している必要はない。
【0012】
ワックスは一般に、室温では固体であるが、約40℃以上の温度で分解することなく溶融若しくは軟化する材料であると定義されている。ワックスは一般に、有機物であって室温では水に不溶であるが、水分による湿潤が可能であり、ある種の溶媒(例えば無極性有機溶媒)中でペーストやゲルを形成することがある。ワックスは、分岐状であっても線状であってもよく、結晶化度が高くても低くてもよく、比較的低い極性を有する。ワックスの分子量は、約400〜約25,000の範囲であってよく、約40℃〜約150℃の範囲の融点を有する。ワックスは一般に、より高次のポリマーのように単独自立的な皮膜を形成せず、通常はオイルやグリースより多い炭素原子を含有する脂肪族炭化水素である。ワックスの粘度は、低粘度でも高粘度でもよく、一般にはワックスの分子量と結晶化度に依存する。融点より上のワックスの粘度は一般的に低く、局所的なワックスコーティングは低粘度ワックスを含むのが好ましい。本明細書中に使用されている「低粘度ワックス」は、140℃で約500センチポイズ(cps)以下の溶融粘度を有するワックスを表わしている。低粘度ワックスは、140℃で約250cps未満の粘度を有するのが好ましく、140℃で約100cps未満の粘度を有するのが最も好ましい。しかしながら、一部の線状ポリエチレンワックス(約2000〜約10,000の分子量)とポリプロピレンワックスは、中〜高粘度(すなわち、溶融後に10,000センチポイズという高い粘度)を有することがある。粘度の値は、当業界によく知られている方法を使用して測定され、例えば、キャピラリーレオメーター、回転式レオメーター、又はムービングボディレオメーター(moving body rheometer)を使用して測定することができる。好ましい測定機器はブルックフィールド回転式粘度計である。好ましいワックスは、約400〜約10,000の重量平均分子量を有する。ワックスは、実質的に線状のポリマーであって、約1500未満の重量平均分子量と約800未満の数平均分子量を有するのがさらに好ましい。
【0013】
適切なワックスは天然ワックスと合成ワックスを含み、蜜蝋、チャイニーズワックス、シェラックワックス、鯨蝋、及び羊毛脂(ラノリン)等の動物ワックス;ヤマモモワックス、カンデリラワックス、カルナバワックス、キャスターワックス、エスパルトワックス、木蝋、ホホバ油ワックス、オリキュリー(ouricury)ワックス、米ぬかワックス、及び大豆ワックス等の植物ワックス;セレシンワックス、モンタンワックス、オゾケライトワックス、及びピートワックス等のミネラルワックス;パラフィンワックスや微晶質ワックス等の石油ワックス;並びに、ポリオレフィンワックス(ポリエチレンワックスとポリプロピレンワックスを含む)、フィッシャートロプシュワックス、ステアラミドワックス(エチレンビス−ステアラミドワックスを含む)、重合α−オレフィンワックス、置換アミドワックス(例えば、エステル化置換アミドワックス又はケン化置換アミドワックス)、及び他の化学変性ワックスを含めた合成ワックス;などがあるが、これらに限定されない。米国特許第4,544,694号(該特許の開示内容は、参照により本明細書に援用されるものとする)に記載のワックスも好適である。これらのワックスのうちで好ましいワックスとしては、パラフィンワックス、微結晶質ワックス、フィッシャートロプシュワックス、分岐ポリエチレンワックスと線状ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、エチレンビス−ステアラミド(EBS)ワックス、及びこれらの組み合わせなどがある。表1は、これら好ましいワックスの特性の概略を示す。
【0014】
【表1】

【0015】
本発明において有用な他のワックスは、当業界においてチーグラースラリー重合法として従来から知られている方法による、チーグラー型触媒(例えばチーグラー−ナッタ触媒)を使用するエチレンの重合時に回収される副生物組成物を含む。チーグラースラリー重合法は一般的に、高密度ポリエチレン(HDPE)ホモポリマーやエチレンコポリマー(例えばエチレン−α−オレフィンコポリマー)を製造するのに使用される。重合時において、低分子量のワックス状フラクションを、重合時に使用される希釈剤に対して可溶性にし、そしてそこから回収することができる。このような副生物ワックスは、一般的には高密度ポリエチレンワックスであり、典型的には約0.92〜0.96g/ccの密度を有するポリエチレンホモポリマーワックスである。副生物ワックスは、エチレンからの直接合成によって製造される他のポリエチレンワックス、又は高分子量ポリエチレン樹脂の熱分解によって製造される他のポリエチレンワックス(どちらも、高密度と低密度のポリマーを形成する)とは区別される。このような副生物ワックスはさらに、一般的には、気相重合法や溶液重合法等の他の方法からは回収されない。
【0016】
さらに、ワックスとはみなされない他の物質とワックスとのブレンドを含むワックスブレンドもワックス層に適している。好ましいワックスブレンドは、ワックスとフッ素含有ポリマーとのブレンドを含む。このような好適なフッ素含有ポリマーは、テフロン(TEFLON)(登録商標)(デラウェア州ウィルミントンのデュポン社から商業的に入手可能である)等のポリテトラフルオロエチレンを含む。ブレンドは、ブレンドの重量を基準として約5重量%〜約50重量%のフルオロポリマーを含むことが好ましく、ブレンドの重量を基準として約10重量%〜約30重量%のフルオロポリマーを含むのがさらに好ましい。好ましいフルオロポリマー/ワックスブレンドは有機ワックスを含む。さらに、シリカ、アルミナ、及び/又はマイカ等の物質(これらは加工助剤として使用することができる)とワックスとのブレンドを含むワックスブレンドも好ましい。加工助剤は、ブレンドの重量を基準として最高で約50重量%のレベルでブレンド中に組み込むことができ、好ましい範囲は約1重量%〜約25重量%であり、最も好ましい範囲は約2重量%〜約10重量%である。
【0017】
ワックスコーティングは、シャムロックS−379及びS−394ワックス(ニュージャージー州ニューアークのシャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能)、並びにA−C6、A−C7、A−C8、A−C9、A−C617、及びA−C820ワックス(ニュージャージー州モリスタウンのハネウェル・インターナショナル社から商業的に入手可能)等の1種以上のポリエチレンホモポリマーワックス;ネプチューン(NEPTUNE)(商標)5223−N4及びネプチューンS−250SD5(シャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能)、並びにA−C629及びA−C673(ハネウェル・インターナショナル社から商業的に入手可能)等の酸化ポリエチレンホモポリマーワックス;シャムロックS−400(シャムロックテクノロジー社から市販)及びアクラワックス(Acrawax)(登録商標)(スイス、バーゼルのロンザグループ社から商業的に入手可能)等のエチレンビス−ステアラミドワックス;グレード(Grade)#63及びグレード#200(ニューヨーク州ウエストバビロンのストラール&ピッツ社から商業的に入手可能)、並びにシャムロックS−232(シャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能)等のカルナバワックス;ヒドロペルQB(シャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能)等のパラフィンワックス;並びに、これら物質のいずれかを含有するブレンドやアロイ〔例えば、シャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能なフルオロスリップ(FLUOROSLIP)(商標)731MG(これはPE/PTFEブレンドである)〕;を含むのが最も好ましい。ワックスは、使用される可能性のある研磨材に対するバリヤーとして作用し、布帛のフィラメント間の空隙を充填し、これにより布帛の一体性を高める。ワックスはさらに、複合材料の布帛表面の硬度と靭性を高め、これにより布帛表面の耐久性を高める。ワックスはさらに、滑剤として機能し、ワックスの薄層で基材を均一に被覆し、耐摩耗性を高める。
【0018】
本発明の被覆繊維基材は特に、優れた弾道貫通抵抗性を有する布帛と物品の製造用である。本発明の目的のために、優れた弾道貫通抵抗性を有する物品とは、変形可能な発射体(例えば銃弾)に対して抵抗性を有し、また、フラグメント(例えば爆弾の破片)の貫通に対して抵抗性を示す優れた特性をそなえた物品を表わしている。
【0019】
本発明の目的のために、「繊維」は、その長さが、幅と厚さの横断方向よりはるかに大きい細長い物体である。本発明において使用するための繊維の断面は、大きく変化してよい。繊維の断面は、円形であっても、フラットであっても、あるいは長円形であってもよい。したがって、繊維とは、規則的若しくは不規則な断面を有するフィラメント、リボン、及びストリップ等を含む。繊維はさらに、繊維の直線軸又は縦軸から突き出ている1つ以上の規則的若しくは不規則なローブを有する、規則的若しくは不規則なマルチローブ断面(multi−lobal cross−section)を有してよい。繊維は、単一ローブを有していて、実質的に円形の断面を有するのが好ましい。
【0020】
前述したように、多層コーティングは、単一のポリマー繊維又は複数のポリマー繊維の上に施すことができる。複数の繊維は、繊維ウェブ(例えば、パラレルアレイやフェルト)、織布、不織布、又はヤーンの形態で存在してよく、このときヤーンは、ここでは複数の繊維からなるストランドとして定義され、布帛は複数の一体化された繊維を含む。複数の繊維を含む実施態様においては、多層コーティングは、繊維を布帛又はヤーンに配列する前に施すこともできるし、あるいは繊維を布帛又はヤーンに配列した後に施すこともできる。
【0021】
本発明の繊維は、ポリマー繊維タイプのいずれを含んでいてもよい。繊維は、弾道抵抗性材料と弾道抵抗性物品の製造に有用な、高強度で高引張モジュラスの繊維を含むことが最も好ましい。本明細書に使用されている「高強度高引張モジュラス繊維」は、約7g/デニール以上の好ましいテナシティ、約150g/デニール以上の好ましい引張モジュラス、及び好ましくは約8J/g以上の破断エネルギー(いずれもASTM D2256に従って測定)を有する繊維である。本明細書中に使用されている「デニール」は線密度の単位を表わしており、繊維又はヤーンの9000メートル当たりの質量(グラム)に等しい。本明細書中に使用されている「テナシティ」は、応力を受けていない試験片の単位線密度(デニール)当たりの力(グラム)として表示される引張応力を表わしている。繊維の「初期モジュラス」は、変形に対する抵抗性を示す材料の特性である。「引張モジュラス」は、テナシティの変化[1デニール当たりの重量グラム(g/d)として表示]と歪の変化[最初の繊維長のフラクション(in/in)として表示]との比を表わしている。
【0022】
繊維を形成するポリマーは、弾道抵抗性布帛の製造に適した高強度高引張モジュラス繊維であることが好ましい。弾道抵抗性材料と弾道抵抗性物品の製造に特に適している高強度高引張モジュラス繊維材料は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンなどのポリオレフィン繊維を含む。特に好ましいのは、高配向高分子量ポリエチレン繊維(特に超高分子量ポリエチレン繊維)及びポリプロピレン繊維(特に超高分子量ポリプロピレン繊維)等の伸び切り鎖ポリオレフィン繊維である。さらに、アラミド繊維(特にパラ−アラミド繊維)、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、伸び切り鎖ポリビニルアルコール繊維、伸び切り鎖ポリアクリロニトリル繊維、ポリベンザゾール繊維〔例えば、ポリベンゾオキサゾール(PBO)繊維やポリベンゾチアゾール(PBT)繊維〕、液晶コポリエステル繊維、及び剛性ロッド繊維(例えばM5(登録商標)繊維)も適している。これらの繊維タイプはいずれも、当業界では従来から知られている。さらに、コポリマー、ブロックポリマー、及び上記材料のブレンドも、ポリマー繊維を製造するのに適している。
【0023】
弾道抵抗性布帛用の最も好ましい繊維タイプとしては、ポリエチレン繊維(特に伸び切り鎖ポリエチレン繊維)、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維、液晶コポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維(特に高配向伸び切り鎖ポリプロピレン繊維)、ポリビニルアルコール繊維、ポリアクリロニトリル繊維、及び剛性ロッド繊維(特にM5繊維)などがある。
【0024】
ポリエチレンの場合、好ましい繊維は、500,000以上(好ましくは100万以上、さらに好ましくは200万〜500万)の分子量を有する伸び切り鎖ポリエチレンである。このような伸び切り鎖ポリエチレン(ECPE)繊維は、溶液紡糸法によって成長させることもできるし[例えば、米国特許第4,137,394号や第4,356,138号(これらの特許は、参照により本明細書に援用されるものとする)に記載]、あるいはゲル構造物を形成するよう溶液から紡糸することもできる[例えば、米国特許第4,551,296号や第5,006,390号(これらの特許は、参照により本明細書に援用されるものとする)に記載]。本発明において使用するための特に好ましい繊維タイプは、ハネウェル・インターナショナル社からスペクトラ(SPECTRA)(登録商標)の商品名で商業的に入手可能なポリエチレン繊維である。スペクトラ繊維は、当業界においてよく知られており、例えば米国特許第4,623,547号や第4,748,064号に記載されている。
【0025】
さらに、特に好ましいのはアラミド(芳香族ポリアミド)繊維すなわちパラ−アラミド繊維である。これらは商業的に入手可能であり、例えば米国特許第3,671,542号に記載されている。例えば、有用なポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントが、デュポン社からケブラー(KEVLAR)(登録商標)の商品名で工業的に製造されている。本発明を実施する上で有用なのはさらに、デュポン社からノメックス(NOMEX)(登録商標)の商品名で工業的に製造されているポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)繊維、及び帝人(株)からツワロン(TWARON)(登録商標)の商品名で工業的に製造されている繊維;韓国のコロンインダストリーズ社からヘラクロン(Heracron)(登録商標)の商品名で工業的に製造されているアラミド繊維;並びに、ロシアのカメンスク・ヴォロクノJSCから工業的に製造されているp−アラミド繊維のSVM(商標)とルサール(Rusar)(商標)、及びロシアのJSCChim Voloknoから工業的に製造されているアルモス(Armos)(商標)p−アラミド繊維;である。
【0026】
本発明を実施する上で好適なポリベンザゾール繊維は商業的に入手可能であり、例えば米国特許第5,286,833号、第5,296,185号、第5,356,584号、第5,534,205号、及び第6,040,050号(これらの特許は、参照により本明細書に援用されるものとする)に開示されている。本発明を実施する上で好適な液晶コポリエステル繊維は商業的に入手可能であり、例えば米国特許第3,975,487号、第4,118,372号、及び第4,161,470号(これらの特許は、参照により本明細書に援用されるものとする)に開示されている。
【0027】
好適なポリプロピレン繊維としては、米国特許第4,413,110号(該特許は、参照により本明細書に援用されるものとする)に開示されている高配向伸び切り鎖ポリプロピレン(ECPP)繊維がある。好適なポリビニルアルコール(PV−OH)繊維は、例えば米国特許第4,440,711号と第4,599,267号(これらの特許は、参照により本明細書に援用されるものとする)に開示されている。好適なポリアクリロニトリル(PAN)繊維は、例えば米国特許第4,535,027号(該特許は、参照により本明細書に援用されるものとする)に開示されている。これらのタイプの繊維はいずれも従来から公知であって、広く商業的に入手可能である。
【0028】
本発明に使用するための他の好適な繊維タイプとしては、M5繊維等の剛性ロッド繊維、及び上記した全ての材料(いずれも商業的に入手可能)の組み合わせがある。例えば、繊維層は、スペクトラ繊維とケブラー繊維との組み合わせから製造することができる。M5繊維は、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)から形成され、バージニア州リッチモンドのマゼラン・システムズ・インターナショナル社により製造されていて、例えば米国特許第5,674,969号、第5,939,553号、第5,945,537号、及び第6,040,478号(これらの特許は、参照により本明細書に援用されるものとする)に記載されている。特に好ましい繊維としては、M5繊維、ポリエチレンスペクトラ繊維、ケブラー(アラミド繊維)、及びツワロン(アラミド繊維)がある。該繊維は、好適なデニール(例えば、好ましくは約50〜3000デニール、さらに好ましくは約200〜3000デニール、さらに好ましくは約650〜1500デニール、そして最も好ましくは約800〜1500デニール)を有していてよい。繊維の選択は、弾道抵抗有効性とコストを考慮して決定される。より微細な繊維は、製造して織り上げるのにより多くの費用がかかるが、単位重量当たりの弾道抵抗有効性がより大きくなる。
【0029】
本発明の目的のために最も好ましい繊維は、高強度高引張モジュラスの伸び切り鎖ポリエチレン繊維、又は高強度高引張モジュラスのパラ−アラミド繊維である。前述したように、高強度高引張モジュラス繊維は、約7g/デニール以上の好ましいテナシティ、約150g/デニール以上の好ましい引張モジュラス、及び約8J/g以上の好ましい破断エネルギー(いずれもASTM D2256に従って測定)を有する繊維である。本発明の好ましい実施態様においては、繊維のテナシティは、約15g/デニール以上、好ましくは約20g/デニール以上、さらに好ましくは約25g/デニール以上で、そして最も好ましくは約30g/デニール以上でなければならない。本発明の繊維はさらに、約300g/デニール以上の引張モジュラスを有するのが好ましく、約400g/デニール以上の引張モジュラスを有するのがさらに好ましく、約500g/デニール以上の引張モジュラスを有するのがさらに好ましく、約1,000g/デニール以上の引張モジュラスを有するのがさらに好ましく、そして約1,500g/デニール以上の引張モジュラスを有するのが最も好ましい。本発明の繊維はさらに、約15J/g以上の破断エネルギーを有するのが好ましく、約25J/g以上の破断エネルギーを有するのがさらに好ましく、約30J/g以上の破断エネルギーを有するのがさらに好ましく、そして約40J/g以上の破断エネルギーを有するのが最も好ましい。
【0030】
これらの高強度特性の組み合わせは、よく知られている方法を使用することによって得られる。米国特許第4,413,110号、第4,440,711号、第4,535,027号、第4,457,985号、第4,623,547号、第4,650,710号、及び第4,748,064号は、本発明において使用される好ましい高強度伸び切り鎖ポリエチレン繊維の製造について一般的に説明している。溶液成長法やゲルファイバー法を含むこのような方法は、当業界においてよく知られている。パラ−アラミド繊維を含めた他の好ましい繊維タイプのそれぞれを製造する方法も、従来から当業界に公知であり、これらの繊維は商業的に入手可能である。
【0031】
ポリマーバインダー材料層(当業界では、ポリマーマトリックス材料としても知られている)は、ポリマーバインダー材料又はポリマーマトリックス材料(これらは、その固有の接着特性によって、あるいはよく知られている加熱及び/又は加圧条件での処理後に複数の繊維を結合させる材料である)として従来から当業界において使用されている1種以上の材料を含むのが好ましい。このような材料としては、低モジュラスのエラストマー材料と高モジュラスの剛性材料が挙げられる。好ましい低モジュラスのエラストマー材料は、約6,000psi(41.3MPa)未満の初期引張モジュラス(ASTM D638に従って37℃にて測定)を有するエラストマー材料である。好ましい高モジュラスの剛性材料は、一般的にはより高い初期引張モジュラスを有する。本明細書全体を通して使用されている「引張モジュラス」とは、繊維の場合にはASTM2256に従って、そしてポリマーバインダー材料の場合にはASTM D638に従って測定して得られる弾性率を意味している。一般に、複数の不織繊維プライを効率的に一体化するにはポリマーバインダーのコーティングが必要である。ポリマーバインダー材料は、個々の繊維の全表面エリア上に塗布することもできるし、あるいは繊維の部分的な表面エリア上だけに塗布することもできる。ポリマーバインダー材料のコーティングは、本発明の織布又は不織布を形成する各個別繊維の実質的に全ての表面エリア上に施すのがさらに好ましい。布帛が複数のヤーンを含む場合、ヤーンの単一ストランドを形成する各繊維を、ポリマーバインダー材料で被覆するのが好ましい。
【0032】
エラストマーポリマーバインダー材料は、種々の材料を含み得る。好ましいエラストマーバインダー材料は、低モジュラスのエラストマー材料を含む。本発明の目的のために、低モジュラスのエラストマー材料は、ASTM D638試験法による測定では約6,000psi(41.4MPa)以下の引張モジュラスを有する。エラストマーの引張モジュラスは、好ましくは約4,000psi(27.6MPa)以下であり、さらに好ましくは約2,400psi(16.5MPa)以下であり、さらに好ましくは約1,200psi(8.23MPa)以下であり、最も好ましくは約500psi(3.45MPa)以下である。エラストマーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは約0℃以下であり、さらに好ましくは約−40℃以下であり、最も好ましくは約−50℃以下である。エラストマーはさらに、約50%以上の破断エネルギーを有するのが好ましく、約100%以上の破断エネルギーを有することがさらに好ましく、約300%以上の破断エネルギーを有するのが最も好ましい。
【0033】
低モジュラスを有する種々の材料や配合物を、ポリマーバインダーのコーティング用に使用することができる。代表的な例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー、ポリスルフィドポリマー、ポリウレタンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリクロロプレン、可塑化ポリ塩化ビニル、ブタジエンアクリロニトリルエラストマー、ポリ(イソブチレン−co−イソプレン)、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリエーテル、エチレンのコポリマー、これらの組み合わせ物、及び他の低モジュラスポリマーと低モジュラスコポリマーなどがある。さらに、種々のエラストマー材料のブレンド、又はエラストマー材料と1種以上の熱可塑性樹脂とのブレンドも好ましい。
【0034】
特に有用なのは、共役ジエンとビニル芳香族モノマーとのブロックコポリマーである。ブタジエンとイソプレンは、好ましい共役ジエンエラストマーである。スチレン、ビニルトルエン、及びt−ブチルスチレンは、好ましい共役芳香族モノマーである。ポリイソプレンが組み込まれているブロックコポリマーを水素化して、飽和炭化水素エラストマーのセグメントを有する熱可塑性エラストマーを得ることができる。ポリマーは、A−B−A型の単純なトリブロックコポリマーであっても、(AB)(n=2〜10)型のマルチブロックコポリマーであっても、R−(BA)(x=3〜150)型の放射状構造のコポリマーであってもよく、ここでAは、ポリビニル芳香族モノマーからのブロックであり、Bは、共役ジエンエラストマーからのブロックである。これらのポリマーの多くは、テキサス州ヒューストンのクレイトンポリマー社から工業的に製造されており、クレイトン・サーモプラスティック・ラバー,SC−68−81」という情報誌中に記載されている。最も好ましい低モジュラスのポリマーバインダー材料は、スチレンブロックコポリマー[特に、クレイトンポリマー社から工業的に製造されていてクレイトン(KRATON)(登録商標)の商品名で商業的に入手可能なポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロックコポリマー、及びオハイオ州クリーブランドのノベロン社から商業的に入手可能なハイカー(HYCAR)(登録商標)アクリルポリマー]を含む。
【0035】
ポリマーバインダー材料用に有用な好ましい高モジュラス剛性ポリマーは、ビニルエステルポリマー又はスチレン−ブタジエンブロックコポリマー等のポリマー;及び、ビニルエステル、ジアリルフタレート、又はフェノールホルムアルデヒドとポリビニルブチラールとの混合物;を含む。特に好ましい高モジュラス材料は熱硬化性ポリマーであって、メチルエチルケトン等の炭素−炭素飽和溶媒に可溶であるのが好ましく、また硬化したときに約1×10psi(689.5MPa)以上の高引張モジュラスを有するのが好ましい。特に好ましい剛性材料は、米国特許第6,642,159号(該特許は、参照により本明細書に援用されるものとする)に記載の剛性材料である。
【0036】
本発明の好ましい実施態様では、ポリマーバインダー材料層は、ポリウレタンポリマー、ポリエーテルポリマー、ポリエステルポリマー、ポリカーボネートポリマー、ポリアセタールポリマー、ポリアミドポリマー、ポリブチレンポリマー、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−ビニルアルコールコポリマー、アイオノマー、スチレン−イソプレンコポリマー、スチレン−ブタジエンコポリマー、スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、スチレン−エチレン/プロピレンコポリマー、ポリメチルペンテンポリマー、水素化スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、無水マレイン酸官能化スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、カルボン酸官能化スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、アクリロニトリルポリマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、ポリプロピレンポリマー、ポリプロピレンコポリマー、エポキシポリマー、ノボラックポリマー、フェノール性ポリマー、ビニルエステルポリマー、ニトリルゴムポリマー、天然ゴムポリマー、酢酸酪酸セルロースポリマー、ポリビニルブチラールポリマー、アクリルポリマー、アクリルコポリマー、又は非アクリルモノマーを組み込んだアクリルコポリマーを含む。
【0037】
本発明ではさらに、フッ素含有ポリマーバインダー材料、並びにフッ素非含有ポリマーとフッ素含有ポリマーとのブレンドも有用である。本明細書中に使用されている「フッ素含有」ポリマーは、フルオロポリマー及びフルオロカーボン含有材料(すなわちフルオロカーボン樹脂)を含む。「フルオロカーボン樹脂」は一般的に、フルオロカーボン基を含むポリマーを表わす。ここで言う有用なフルオロポリマー材料とフルオロカーボン樹脂材料は、フルオロポリマーホモポリマー、フルオロポリマーコポリマー、又は当業界によく知られているこれらのブレンドを含んでおり、例えば米国特許第4,510,301号、第4,544,721号、及び第5,139,878号に記載されている。さらに、フルオロカーボン変性ポリマー、特に、従来のポリエーテル上にフルオロカーボン側鎖をグラフトすることによって形成されるフルオロオリゴマーとフルオロポリマー(すなわちフルオロカーボン変性ポリエーテル);従来のポリエステル上にフルオロカーボン側鎖をグラフトすることによって形成されるフルオロオリゴマーとフルオロポリマー(すなわちフルオロカーボン変性ポリエステル);従来のポリアニオン上にフルオロカーボン側鎖をグラフトすることによって形成されるフルオロオリゴマーとフルオロポリマー(すなわちフルオロカーボン変性ポリアニオン);従来のポリアクリル酸上にフルオロカーボン側鎖をグラフトすることによって形成されるフルオロオリゴマーとフルオロポリマー(すなわちフルオロカーボン変性ポリアクリル酸);従来のポリアクリレート上にフルオロカーボン側鎖をグラフトすることによって形成されるフルオロオリゴマーとフルオロポリマー(すなわちフルオロカーボン変性ポリアクリレート);並びに、従来のポリウレタン上にフルオロカーボン側鎖をグラフトすることによって形成されるフルオロオリゴマーとフルオロポリマー(すなわちフルオロカーボン変性ポリウレタン);も好ましい。これらのフルオロカーボン側鎖化合物すなわちペルフロオロ化合物は通常、テロメリゼーション法によって得られ、一般にCフルオロカーボンと呼ばれる。例えば、フルオロポリマーすなわちフルオロカーボン樹脂は、不飽和フロオロ化合物のテロメリゼーションから誘導することができる。すなわち、フルオロテロマーが形成され、このフルオロテロマーを、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアニオン、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、又はポリウレタンと反応できるように変性し、次いでこのフルオロテロマーを、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアニオン、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、又はポリウレタン上にグラフトさせる。こうしたフルオロカーボン含有ポリマーの代表的な例としては、スイスのクラリアントインターナショナル社から商業的に入手可能なNUVA(登録商標)フルオロポリマー製品が挙げられる。ペルフルオロ酸又はペルフルオロアルコールをベースとする側鎖を有する、他のフルオロカーボン樹脂、フルオロオリゴマー、及びフルオロポリマーもまた最も好ましい。より短い鎖長(例えば、C、C、又はC)のフルオロカーボン側鎖を有するフルオロポリマーとフルオロカーボン樹脂[例えば、オハイオ州フェアローンのオムノバ・ソリューションズ社から商業的に入手可能なポリフォックス(PolyFox)(商標)フルオロケミカル]も好適である。
【0038】
本発明の繊維複合材料から製造される物品の剛性、衝撃特性、及び弾道特性は、繊維を被覆するバインダーポリマーの引張モジュラスによって影響を受ける。例えば、米国特許第4,623,574号は、約6000psi(41,300kPa)未満の引張モジュラスを有するエラストマーマトリックスで造られた繊維強化複合材料が、より高いモジュラスのポリマーを使用して造られた複合材料よりも優れた弾道特性を有し、また、ポリマーバインダー材料の1回乃至それ以上のコーティングがなされない同一の繊維構造物よりも優れた弾道特性を有する、ということを開示している。しかしながら、低引張モジュラスのポリマーバインダーは、より剛性の低い複合材料をもたらす。さらに、特定の用途においては、特に複合材料が、耐弾道モードと構造モードにおいて機能しなければならないという用途においては、弾道抵抗性と剛性との優れた組み合わせが要求される。したがって、使用すべきポリマーバインダーの最も好ましいタイプは、本発明の布帛から製造しようとする物品の種類に応じて変化する。2つの特性の妥協を図るために、好適なポリマーバインダー材料はさらに、低モジュラス材料と高モジュラス材料との組み合わせを含んでよい。各ポリマー又はワックス層はさらに、カーボンブラック又はシリカ等の充填剤や加工助剤を含んでもよいし、オイルで増量することもできるし、あるいは、イオウ、過酸化物、金属酸化物、又は、必要に応じて放射線硬化システム(当業界によく知られている)によって加硫することもできる。
【0039】
十分な弾道抵抗特性を有する布帛物品を得るために、布帛を形成する繊維の割合は、繊維と全コーティングとの合計重量を基準として約50重量%〜約98重量%を構成することが好ましく、約70重量%〜約95重量%を構成するのがさらに好ましく、そして約78重量%〜約90重量%を構成するのが最も好ましい。したがって全コーティングの総重量は、繊維と全コーティングとの合計重量を基準として約1重量%〜約50重量%を構成するのが好ましく、約2重量%〜約30重量%を構成するのがさらに好ましく、約10重量%〜約22重量%を構成するのがさらに好ましく、そして約14重量%〜約17重量%を構成するのが最も好ましい(不織布に対しては16%が最も好ましい)。織布に対してはより低いバインダー/マトリックス含量が適切であり、このとき、繊維と全コーティングとの合計重量を基準として、ゼロよりは大きいが10重量%未満のバインダー含量が最も好ましい。局所的なワックスコーティングの重量は、繊維と全コーティングとの合計重量を基準として約0.01重量%〜約7.0重量%であるのが好ましく、約0.1重量%〜約3.0重量%であるのがさらに好ましく、そして約0.2重量%〜約2.0重量%であるのが最も好ましい。これらの範囲は、布帛基材の両側のコーティングを含み、このとき各表面は同等のコーティング重量を有することが好ましい。これらの所望のコーティング重量を達成するワックスコーティングの対応する厚さは、変動する。異なったワックスは異なった密度を有しており(したがって、同じコーティング重量に対して厚さが異なるという結果になる)、また異なった布帛は特有の表面を有していて、最適の性能を達成する上でより高いコーティング重量を必要とすることもあるし、あるいは、より低いコーティング重量で済むこともある。
【0040】
不織布を製造するときは、ポリマーバインダーのコーティングを、繊維ウェブ(例えば、パラレルアレイやフェルト)若しくは他の配置構造物として配列された複数の繊維に施し、このとき繊維が、コーティングにより被覆されるか、コーティングで含浸されるか、コーティング中に埋め込まれるか、あるいはコーティングで塗布される。繊維を1つ以上の繊維プライに配列するのが好ましく、次いでこの繊維プライを、従来の方法にしたがって圧密する。別の方法では、繊維を被覆し、ランダムに配列し、そして圧密してフェルトを製造する。織布を製造するときは、製織前又は製織に、繊維をポリマーバインダーのコーティングで被覆することができる(好ましいのは製織後)。このような方法は当業界によく知られている。本発明の物品はさらに、織布、一方向繊維プライから製造される不織布、及び不織フェルト布帛の組み合わせを含んでよい。
【0041】
その後、ワックスの局所的なコーティングを、ポリマーバインダー材料層の頂部の、圧密された布帛(又は他の繊維基材)の1つ以上の表面上に施す。したがって本発明の繊維基材は、前記1つ以上の繊維の表面上の、ポリマーバインダー材料の1つ以上の層;及びポリマーバインダー材料層の頂部の、ワックスの1つ以上の層;を含む多層コーティングで被覆される。全体的な布帛の耐久性を向上させるためには、布帛の2つの外表面をワックスで被覆するのが好ましいが、布帛の1つの外表面だけをワックスで被覆しても、改善された耐摩耗性が得られる(特に、最終物品における布帛プライの正しい配向を維持するように、また、より軽量となるよう注意が払われる場合に得られる)。軽量の複合材料を維持するためには、実施態様は、ポリマーバインダー材料の層を1つだけとワックスの層を1つ含むのが好ましい。しかしながら、複数のポリマーバインダー材料層及び/又は複数のワックス層を、繊維基材に施すことができる。さらなる層又はコーティングが存在する場合、このような材料は、ポリマーバインダーコーティング及び/又はワックスのコーティングどちらか(又はいずれか)の上に(又はその間に)配置することができる。さらなるバインダーコーティング及び/又はワックスコーティングが存在する場合、各ワックス層は、他のワックス層と同一であっても異なっていてもよく、各ポリマーバインダー層は、他のポリマーバインダー層と同一であっても異なっていてもよい。例えば、ポリエチレンホモポリマーワックスの層上にパラフィンワックスの層を施すことができる。
【0042】
他の実施態様では、ポリマーバインダーと局所的なワックスコーティングとの間に接合層(tie−layer)を施すことができる。したがって、ワックスコーティングは、ポリマーバインダー層の「頂部」に存在するけれども、これら2つは、必ずしも互いに直接接触している必要はない。好適な接合層としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ビニルポリマー、フルオロポリマー、並びにこれらのコポリマー及び混合物から製造される層などの熱可塑性ポリマー層があるが、これらに限定されない。他の実施態様では、高摩擦材料(例えばシリカ粉末)のコーティングを、ポリマーバインダーの頂部に、次いで局所的なワックスコーティングに施すことができる。さらに、他の有機若しくは無機材料の1つ以上の層を、ポリマーバインダーの頂部に、次いで局所ワックスコーティングに施すこともできる。有用な無機材料としては、セラミック、ガラス、金属充填複合材料、セラミック充填複合材料、ガラス充填複合材料、サーメット(セラミック材料と金属材料との複合物)、高硬度鋼、アーマーアルミニウム合金、チタン、又はこれらの組み合わせなどがあるが、これらに限定されない。さらに他の実施態様では、弾道抵抗性複合材料は、繊維上にポリマーバインダー材料の最初のコーティングを、次いでバインダーコーティング上に局所的なワックスコーティングを、次いでワックス上にシリコーンベース材料の最終的な局所的コーティングを含んでよい。したがって、多くの異なったバリエーションが可能であり、バインダー/ワックス/シリコーン、バインダー/研磨材/ワックス、バインダー/接合層/ワックス、及びバインダー/ワックスと加工助剤とのブレンドが好ましいバリエーションである。それでもやはり、繊維基材の1つ以上の外表面上の最も外側の層がワックス層であることが最も好ましいことは変わらない。多層コーティングは、任意の予め存在する繊維仕上げ(例えばスピン仕上げ)の頂部に施すのが好ましく、あるいはコーティングに施す前に、予め存在する繊維仕上げを少なくとも部分的に除去することもできる。ワックスは、布帛複合物の一方又は両方の外表面上にのみ必要であり、個々の繊維をワックスで被覆する必要はない。
【0043】
本発明の目的のために、「被覆される(coated)」という用語は、ポリマー層が繊維基材表面上に施される方法を限定することを意図していない。最初に繊維表面上にポリマーバインダー材料層を直接塗布し、次いでポリマーバインダー材料層上にワックス層を塗布する、という好適な塗布方法であれば、いずれの方法を使用してもよい。
【0044】
例えば、ポリマーバインダー層は、ポリマー材料の溶液を繊維表面上に噴霧若しくはロール塗布し(このとき溶液の一部が、所望のポリマーを含み、また、溶液の一部が、ポリマーを溶解できる溶剤を含む)、次いで乾燥することにより、溶液の形態で施すことができる。他の方法は、ポリマーバインダー材料のニートポリマーを、懸濁液中における液体、懸濁液中における粘着性固体、若しくは懸濁液中における粒子として、あるいは流動床として繊維に塗布する、という方法である。これとは別に、ポリマーバインダー材料は、塗布温度において繊維の特性に悪影響を及ぼさない適切な溶剤による溶液、エマルジョン、若しくは分散液として塗布することもできる。例えば、繊維を、ポリマーバインダー材料の溶液中に通して移送し、ポリマーバインダー材料で実質的に被覆し、次いで乾燥させて被覆繊維基材を製造することができる。次いで、このようにして得られた被覆繊維を所望の配置構成に配列し、その後にワックスで被覆する。他の被覆方法においては、先ず一方向性繊維プライ若しくは織布を配列し、次いでポリマーバインダー材料を適切な溶剤中に溶解させて得られる溶液の浴中に繊維プライ若しくは織布を浸漬し(個々の繊維が、ポリマーで少なくとも部分的に被覆されるように)、次いで溶剤を蒸発若しくは気化させて乾燥し、そして引き続き同じ方法によってワックスを塗布することができる。浸漬処理は、所望量の各ポリマーコーティングを繊維上にもたらすという要求に応じて数回繰り返すことができ、個々の繊維のそれぞれが実質的に被覆又はカプセル封入されるか、あるいは繊維表面エリアの全て又は実質的に全てがポリマーバインダー材料で被覆されるのが好ましい。
【0045】
繊維にポリマーバインダーのコーティングを施すための他の方法も使用することができ、繊維を高温延伸操作によって処理する前に高モジュラス前駆体(ゲル繊維)を被覆する〔繊維から溶剤を除去する前又は後に(ゲル紡糸繊維形成法を使用する場合)〕、という方法もある。次いで、繊維を高温で延伸して被覆繊維を得ることができる。ゲル繊維を、所望の被覆を達成できる条件の下で、適切なコーティングポリマーの溶液に通すことができる。繊維が溶液中を通過する前に、ゲル繊維中の高分子量ポリマーの結晶化が起こることもあり、そうでないこともある。これとは別に、繊維を、適切なポリマー粉末の流動床中に押出すこともできる。さらに、延伸操作若しくは他の操作プロセス(例えば、溶媒交換や乾燥等)を実施すれば、最終繊維の前駆体材料にポリマーバインダー材料を塗布することができる。
【0046】
バインダーで被覆された繊維は、単一層のモノリシック部材に圧密される複数の重なり合った不織繊維プライを含む不織布に成形することができる。各プライは、一方向の実質的に平行な配列になるように整列された、重なり合わない繊維の配列体を含むことが最も好ましい。このタイプの繊維配列体は、当業界においては「ユニテープ」(一方向テープ)として知られており、ここでは「単一プライ」と呼ぶ。本明細書中に使用されている「配列(array)」とは、繊維若しくはヤーンの整然とした配置構造物を表わし、「平行配列」とは、繊維若しくはヤーンの整然とした平行配置構造物を表わす。繊維「層」とは、1つ以上のプライを含む、織った繊維若しくはヤーン、又は不織の繊維若しくはヤーンの平面配置構造物を表わす。本明細書で使用している「単一層」構造物とは、単一の一体構造物に圧密されている、1つ以上の個別の繊維プライで構成されるモノリシック構造物を表わす。「圧密する」(consolidating)とは、ポリマーバインダー材料と各繊維プライとを一緒に結合して単一の一体的な層にする、ということを意味している。圧密は、乾燥、冷却、加熱、加圧、又はこれらの組み合わせによって行うことができる。湿式積層法の場合のように、繊維層若しくは布帛層をちょうど接着できるときは、加熱及び/又は加圧を行う必要はないかもしれない。「複合材料」とは、コーティングの一種又は2種と繊維との組み合わせを表わし、耐摩耗性複合材料はワックスコーティングを含む。ワックスコーティングは、当業界において従来から知られている。
【0047】
本発明の好ましい不織布は、積み重ねて重なり合った複数のプライ(複数のユニテープ)を含み、ここで各単一プライ(ユニテープ)の平行繊維は、各単一プライの縦繊維方向に関して、隣接したそれぞれの単一プライの平行繊維に対して直角に(0°/90°)配置されている。重なり合った不織繊維プライのスタックは、加熱下及び加圧下で、あるいは個々の繊維プライのコーティングを接着させることによって圧密し、単一層のモノリシック部材[当業界では、単一層の圧密化ネットワークとも呼ばれる(ここで「圧密化ネットワーク」とは、繊維プライとポリマーバインダー/マトリックスとからなる圧密された(融合された)一体物を表わす。)]を形成する。「ポリマーバインダー」と「ポリマーマトリックス」という用語は、本明細書では同義語として区別なく使用されており、繊維を結合する材料を表わす。これらの用語は、当業界において従来から知られている。本発明の目的のために、繊維基材が、単一層の圧密化ネットワークとして形成される不織の圧密布帛である場合、繊維が、ポリマーバインダーのコーティングで実質的に被覆されていることが好ましいが、所望の繊維プライ部材(繊維プライ部材のそれぞれではない)が得られるように、モノリシック布帛構造物の外側表面だけがワックスコーティングで被覆される。
【0048】
当業界において従来から知られているように、優れた弾道抵抗性は、ある1つのプライの繊維整列方向が、他のプライの繊維整列方向に対してある角度で回転されているように、個別の繊維プライがクロスプライされるときに達成される。繊維プライは、0°と90°の角度で直角にクロスプライするのが最も好ましいが、隣接したプライは、他のプライの縦繊維方向に関して、約0°と約90度の間の実質的にいかなる角度でも整列させることができる。例えば、5プライの不織構造物は、0°/45°/90°/45°/0°又は他の角度で配向したプライを有する。このように回転された一方向整列については、例えば、米国特許第4,457,985号;4,748,064号;第4,916,000号;第4,403,012号;第4,623,573号;及び第4,737,402号に説明されている。
【0049】
不織布は1〜約6プライを含むのが最も一般的であるが、種々の用途の必要に応じて、約10〜約20プライという多数のプライを含んでよい。プライの数が多くなるほど、弾道抵抗性は高くなるが、重量も増加する。したがって、本発明の布帛又は物品を構成する繊維プライの数は、布帛又は物品の最終用途に応じて異なる。例えば、軍事用途向けの防弾チョッキの場合、所望する1.0ポンド/ft(4.9kg/m)の面密度を達成する複合材料物品を製造するために、合計で約20〜約60の個別プライ(又は層)が必要とされることがあり、ここでプライ/層は、本明細書に記載の高強度繊維から製造される織布、編み上げ布帛、フェルト状布帛、又は不織布(平行に配向した繊維若しくは他の配列体を含む)であってよい。他の実施態様では、法執行業務用の防弾チョッキは、国立司法省研究所(NIJ)の脅威レベルに基づいて多くのプライ/層を有してよい。例えば、NIJ脅威レベルがIIIAの防弾チョッキの場合は、合計で22のプライ/層が存在してよい。より低いNIJ脅威レベルに対しては、より少ないプライ/層を使用することができる。
【0050】
圧密した不織布は、よく知られている方法〔例えば、米国特許第6,642,159号(該特許の開示内容を参照により本明細書に含める)に記載の方法〕を使用して製造することができる。当業界においてよく知られているように、圧密は、繊維プライを単一の布帛に結合させるのに十分な熱と圧力の条件下で、個々の繊維プライを互いに配置することに実施される。圧密は、約50℃〜約175℃(好ましくは約105℃〜約175℃)の範囲の温度、及び約5psig(0.034MPa)〜約2500psig(17MPa)の範囲の圧力で、約0.01秒〜約24時間(好ましくは約0.02秒〜約2時間)にわたって行うことができる。加熱すると、ポリマーバインダーのコーティングを、完全に溶融させることなく貼り合わせたり流動させたりすることができる。しかしながら一般的には、ポリマーバインダー材料を溶融させれば、複合材料を製造するのに比較的わずかな圧力しか必要とされないが、ポリマーバインダー材料を粘着温度に加熱するだけならば、通常はより高い圧力が必要となる。当業界において従来から知られているように、圧密は、カレンダーセット、フラットベッドラミネーター、プレス、又はオートクレーブ中で実施することができる。
【0051】
これとは別に、圧密は、適切な成形装置中において熱と圧力をかけて成形することによって達成することができる。成形は、一般には約50psi(344.7kPa)〜約5000psi(34470kPa)の圧力で、さらに好ましくは約100psi(689.5kPa)〜約1500psi(10340kPa)の圧力で、そして最も好ましくは約150psi(1034kPa)〜約1000psi(6895kPa)の圧力で行われる。これとは別に、成形は、約500psi(3447kPa)〜約5000psiのより高い圧力で、さらに好ましくは約750psi(5171kPa)〜約5000psiのより高い圧力で、そしてさらに好ましくは約1000psi〜約5000psiのより高い圧力で行うこともできる。成形工程は、約4秒〜約45分の時間を要する。好ましい成形温度は約200°F(〜93℃)〜約350°F(〜177℃)の範囲であり、さらに好ましい成形温度は約200°F〜約300°F(〜149℃)の範囲であり、そして最も好ましい成形温度は約200°F〜約280°F(〜121℃)の範囲である。本発明の布帛が成形される圧力は、得られる成形物の剛性や柔軟性に直接的な影響を及ぼす。特に、布帛が成形される圧力が高くなるほど剛性が高くなり、逆もまた成り立つ。成形圧力のほかに、布帛プライの量、厚さ、及び組成、並びにポリマーバインダーコーティングの種類も、本発明の布帛から製造される物品の剛性に直接影響を及ぼす。複数の直交する繊維ウェブを、マトリックスポリマーを使用して接着し、そして結合の均一性と強度を高めるために、フラットベッドラミネーターに通すのが最も一般的である。
【0052】
本明細書に記載の成形法と圧密法は類似しているけれども、それぞれのプロセスは異なっている。特に、成形はバッチプロセスであり、圧密は連続プロセスである。さらに、成形は一般に、フラットパネルを製造するときは金型(例えば、造形金型やマッチ−ダイ金型)を使用し、必ずしも平面状の物品が得られるわけではない。圧密は通常、軟質の(フレキシブルな)身体防護具用布帛を製造するために、フラットベッドラミネーターやカレンダーニップセット中で、あるいは湿式ラミネーションとして実施される。成形は通常、硬質防護具(例えば剛性プレート)の製造のためにも用意されている。本発明との関係では、圧密法及び軟質身体防護具の製造が好ましい。
【0053】
どちらのプロセスにおいても、適切な温度、圧力、及び時間は一般に、ポリマーバインダーコーティング材料の種類、(全コーティング)ポリマーバインダー含量、使用されるプロセス、及び繊維の種類に依存する。本発明の布帛は、その表面を平滑にしたり、あるいは艶出ししたりするために、必要に応じて熱と圧力の下でカレンダー処理することができる。カレンダー法は、当業界においてよく知られている。
【0054】
織布は、任意の製織法〔例えば、平織り、クローフット織り(crowfoot weave)、バスケット織り、サテン織り、及びあや織り等〕による当業界によく知られている方法で製造することができる。平織りが最も一般的であり、この場合は繊維が直交配向(0°/90°)になるように織り上げられる。製織前に、各織布材料の個別の繊維は、本発明のポリマーバインダー材料層で被覆されていても、あるいは被覆されていなくてもよい。ワックス層は、織布上にコーティングするのが最も好ましい。他の実施態様では、織布と不織布とを組み合わせ、例えば圧密によって相互連結させるようにしてハイブリッド構造物を作り上げることができる(この場合、ワックス層は、ハイブリッド構造物の外側表面上にコーティングするのが最も好ましい)。
【0055】
繊維基材をポリマーバインダー材料で被覆し、次いで繊維基材をワックスで被覆する。本発明の典型的な実施態様では、繊維基材は織布又は不織布である。複数プライの不織布の場合には、複数プライを圧密した後に、布帛表面にワックスを塗布する。ワックスは、繊維上のポリマーバインダー材料コーティングの全部若しくは実質的に全部を覆うように塗布することができる。ワックスの局所的なコーティングは、被覆繊維又は被覆布帛上の一部分にのみ施すのが最も好ましい(すなわち、布帛の外側表面を被覆することだけが必要である)。
【0056】
ワックスは、ポリマーバインダー材料上で繊維基材に施される。この操作は、例えば、手動若しくは自動の粉末コーティング法、粉末スプレー法、又はスキャッターコーティング法によって行うことができる。手動の操作でコーティングするときは、乾燥粉末状(ニート)のワックスを、繊維基材サンプルの一方若しくは両方の表面上に手動操作によって施す。次いでワックスを、複合布帛の表面中/表面上に、プレスする/溶融させる(melt)/融合させる(fuse)のに十分な温度で、サンプルをフラットベッドラミネーターに通す。適切な温度は変動し、一般には、周囲温度から材料分解温度の直下の温度までの範囲である。自動化された方法では、フラットベッドラミネーターへの入口において、パウダーコーター又はスキャッターコーターによって、基材をワックス粉末で被覆するのが好ましい。ワックス滴下速度と複合布帛の直線速度に基づいて、複合布帛の単位面積当たりの既知量のワックスを供給するように、それぞれの特定のワックスを使用してコーターを較正することができる。次いで基材を、上記のようにフラットベッドラミネーター中に送る。フラットベッドラミネーター中に挿入する前に、必要に応じて、新たに施したワックスを、複合布帛の表面上でバフ研磨ローラーを用いてバフ磨きすることができる。ワックスはさらに、固体の非粉末形態で、又は溶液若しくは分散液から、あるいは当業者であれば容易に選択するはずである他の有用な手段のいずれによっても施すことができる。
【0057】
個々の布帛の厚さは、個々の繊維の厚さに対応する。織布は、1層当たり約25μm〜約500μmの厚さを有するのが好ましく、約50μm〜約385μmの厚さを有するのがさらに好ましく、約75μm〜約255μmの厚さを有するのが最も好ましい。不織布(すなわち、不織で単一層の圧密化ネットワーク)は、約12μm〜約500μmの厚さを有するのが好ましく、約50μm〜約385μmの厚さを有するのがさらに好ましく、そして約75μm〜約255μmの厚さを有するのが最も好ましく、ここで単一層の圧密化ネットワークは通常、2つの圧密プライ(すなわち、2つのユニテープ)を含む。局所的なワックスコーティングの厚さは、ワックスの種類及び所望するコーティング重量に応じて異なり、最も好ましい範囲は約0.5μm〜約5μm(布帛表面1つ当たり)であるが、この範囲は限定することを意図していない。このような厚さが好ましいけれども、特定のニーズを満たすためには他の厚さも可能であり、こうした厚さも本発明の範囲内に含まれる、という点を理解しておかねばならない。
【0058】
本発明の布帛は、約50グラム/m(gsm)(0.01ポンド/ft(psf))〜約1000gsm(0.2psf)の面密度を有するのが好ましい。本発明の布帛に対するさらに好ましい面密度は、約70gsm(0.014psf)〜約500gsm(0.1psf)の範囲である。本発明の布帛に対する最も好ましい面密度は、約100gsm(0.02psf)〜約250gsm(0.05psf)の範囲である。本発明の物品(互いに積み重ねた布帛の複数の個別層を含む)はさらに、約1000gsm(0.2psf)〜約40,000gsm(8.0psf)の面密度を有するのが好ましく、約2000gsm(0.40psf)〜約30,000gsm(6.0psf)の面密度を有するのがさらに好ましく、約3000gsm(0.60psf)〜約20,000gsm(4.0psf)の面密度を有するのがさらに好ましく、約3750gsm(0.75psf)〜約10,000gsm(2.0psf)の面密度を有するのが最も好ましい。
【0059】
本発明の複合体を様々な用途に使用して、よく知られている方法に従って様々な弾道抵抗性物品を製造することができる。弾道抵抗性物品を製造するための適切な方法は、例えば、米国特許第4,623,574号、第4,650,710号、第4,748,064号、第5,552,208号、第5,587,230号、第6,642,159号、第6,841,492号、及び第6,846,758号に記載されている。本発明の複合体は、柔軟性で軟質の防護具物品〔ベスト、パンツ、帽子、又は他の衣料品等の衣類;及び多くの弾道脅威(例えば、9mmのフルメタルジャケット(FMJ)弾丸、並びに手榴弾、大砲の砲弾、簡易爆発物(IED)、及び軍事任務や平和維持任務中に遭遇するするその他のデバイスの爆発により生じる様々な破片)を克服するために兵士によって使用されるカバーやブランケット;を含む〕を製造するのに特に有用である。
【0060】
本明細書中に使用されている「軟質の」又は「フレキシブルな」防護具は、相当量の応力にさらされたときにその形状を保持しない防護具である。本発明の構造物はさらに、剛性で硬質の防護具物品を製造するのにも有用である。「硬質の」防護具とは、ヘルメット、軍用車両用パネル、又は防護遮蔽体等の物品を意味しており、硬質防護具は、相当量の応力にさらされたときに構造剛性を維持するよう十分な機械的強度を有し、崩壊することなく単独で自立することができる。本発明の構造物を複数の個別シートにカットし、これらを積み重ねて物品に製造することもできるし、あるいは先ず前駆体に成形し、引き続きこれを使用して物品を製造することもできる。このような方法は、当業界においてよく知られている。
【0061】
本発明の衣類は、当業界において従来から知られている方法により製造することができる。衣類は、本発明の弾道抵抗性物品と衣料品とを接合させることによって製造するのが好ましい。例えば、ベストは、本発明の弾道抵抗性構造物と接合した一般的な布帛ベストを含んでよく、これにより戦略的に配置されたポケット中に本発明の構造物が挿入される。これによって弾道防御をできるだけ高めることが可能になるとともに、ベストの重量をできるだけ抑えることができる。本明細書中に使用されている「接合している」又は「接合した」という用語は、取り付け(例えば、縫製や接着などによって)だけでなく、他の布帛との未結合カップリングや並置(弾道抵抗性物品を、必要に応じて、ベストや他の衣料品から簡単に取り外しできるように)を含むよう意図されている。フレキシブルなシート、ベスト、及び他の衣類等の柔軟性構造物を製造する際に使用される物品は、低引張モジュラスのバインダー材料を使用して製造するのが好ましい。ヘルメットや防護具等の硬質物品は、高引張モジュラスのバインダー材料を使用して製造するのが好ましいが、これに限らない。
【0062】
弾道抵抗性は、当業界においてよく知られている標準的な試験手順を使用して決定される。特に、弾道抵抗性複合材料の防御能力又は貫通抵抗性は通常、発射体の50%が複合材料中に貫通しつつ、50%が複合材料によって阻止される衝撃速度(V50値としても知られている)を引用することによって表示される。本明細書中に使用されている物品の「貫通入抵抗性」とは、指定された脅威(例えば、弾丸、破片、及び爆弾の破片等を含めた物理的物体)による貫通に対する抵抗性を表わしている。面密度(複合材料の重量をその面積で除して得られる)が等しい複合材料の場合、V50が高くなるほど、複合材料の弾道抵抗性が良好となる。本発明の物品の弾道抵抗性は、多くの要因(具体的には、布帛を製造するのに使用される繊維の種類、複合材料における繊維の重量%、コーティング材料の物理的特性の適合性、複合材料を構成している布帛の層数、及び複合材料の全面密度)に応じて変動する。
【0063】
最も重要なことは、ワックスコーティングが存在すると、予想外のことに、本明細書に記載の弾道抵抗性複合材料の、高エネルギー発射体に対する弾道貫通抵抗性が大幅に改善される、ということが見いだされたことである。下記の実施例において説明するように、ワックスコーティングが存在すると、全く予想外のことに、種々の複合材料について9mm弾丸のV50が、平均して約80ft/秒(24m/秒)ほど増加し、また種々の複合材料について44マグナムのV50が、平均して約74ft/秒(23m/秒)ほど増加する、ということが、見いだされた。したがって本発明の材料は、耐摩耗性の増加と弾道貫通抵抗性の改善の両方を達成することが望ましい。
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明を説明する。
【実施例】
【0065】
実施例1〜16
種々の布帛サンプルを、下記に示すように耐摩耗性に関して試験した。各サンプルは、ポリマーバインダー材料で被覆された、1000デニールのツワロン(登録商標)タイプ2000アラミド繊維を含んでいた。サンプルA1〜A8については、バインダー材料は、水性のフルオロカーボン変性アクリルポリマー〔オハイオ州クリーブランドのノベオン社から商業的に入手可能なハイカー(登録商標)26−1199アクリルコポリマーが84.5重量%;スイスのクラリアントインターナショナル社から商業的に入手可能なNUVA(登録商標)NT X490フルオロカーボン樹脂が15重量%;及びミシガン州ミッドランドのダウケミカル社から商業的に入手可能なダウ・テルギトール(Dow TERGITOL)(登録商標)TMN−3非イオン界面活性剤が0.5重量%〕であった。サンプルB1〜B8については、バインダー材料は、フルオロポリマー/ニトリルゴムブレンド〔ノースカロライナ州のダウライヒホールド社から商業的に入手可能なタイラック(TYLAC)(登録商標)68073ニトリルゴムポリマーが84.5重量%;NUVA(登録商標)TTHUフルオロカーボン樹脂が15重量%;及びダウ・テルギトール(登録商標)TMN−3非イオン界面活性剤が0.5重量%〕であった。
【0066】
布帛サンプルはそれぞれ、0°/90°構造の2プライ(2ユニテープ)を有する圧密不織布であった。布帛は、各サンプルに関して等しい繊維面重量(a fiber areal weight)と全面密度(Total Areal Density;TAD)(繊維とポリマーバインダー材料を含めた布帛の面密度)を有していた。各布帛は、繊維含量が約85%であって、残部の15%は、ワックスを含有しない特定のポリマーバインダー材料であった。ワックス被覆サンプル(A2〜A8及びB2〜B8)のそれぞれを下記のワックスで被覆した。サンプルA2とサンプルB2は、その両側をシャムロック・フルオロスリップ(FLUOROSLIP)(商標)731MG(ポリエチレンワックスとカルナバワックスとポリテトラフルオロエチレンとのブレンドであり、シャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能)で被覆した。サンプルA3とB3は、その両側をシャムロック・ヒドロペル(Hydropel)QB(パラフィンワックスと合成ワックスとのアロイであり、シャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能)で被覆した。サンプルA4とB4は、その両側をシャムロックS−400N5(エチレンビス−ステアラミドワックスであり、シャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能)で被覆した。サンプルA5とB5は、その両側をシャムロック・ネプチューン5031(酸化ポリテトラフルオロエチレンベースのワックスであり、シャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能)で被覆した。サンプルA6とB6は、その両側をシャムロックS−232N1(ポリエチレンワックスとカルナバワックスとのブレンドであり、シャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能)で被覆した。サンプルA7とB7は、その両側をシャムロックSST−4MGポリテトラフルオロエチレン(シャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能)で被覆した。サンプルA8とB8は、シャムロックSST−2ポリテトラフルオロエチレン(シャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能)で被覆した。それぞれのワックス被覆サンプルは、[布帛+マトリックス/バインダー]とワックスとの合計重量を基準として、約2重量%のワックスと約98重量%の複合布帛から構成された。これらワックス被覆サンプルのそれぞれは、過剰のワックスをサンプルの両表面上に手で散布し、層の表面の周りのワックスをバフ磨きし、層の表面にくっつかなかった過剰のワックスを除去することによって被覆した。次いで、サンプルA2〜A8とB2〜B8のそれぞれを、220°F(104.44℃)にセットされたフラットベッドラミネーターに通して処理して、ワックスを層の表面中/表面上にプレス/溶融/融合させした。
【0067】
上記したA1〜A8とB1〜B8の16サンプルのそれぞれを、ASTM D3886の修正インフレーテッド・ダイヤフラム(Inflated Diaphragm)試験法によって耐摩耗性に関して試験した。ASTM D3886標準試験法に対する修正点は、トップロード(top load)を5ポンドに設定すること、ダイヤフラム圧力を4psiに設定すること、及び評価のために2000サイクルを実施すること、である。サンプルA1とB1は、表面がワックスで被覆されていない対照標準であるとみなした。結果は、2000サイクル(5ポンドのトップロード重量と4psiのダイヤフラム圧力を使用)後の非破損表面特性の要件に基づいて、「合格」又は「不合格」として定量化した。サンプルと研磨材は共に、各サンプルに対して同一であった。得られた結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
このデータは、複合布帛の表面上に局所的なワックスコーティングを施すと、複合布帛の耐摩耗性と耐久性が大幅に改善される、ということを示している。
実施例17〜33
種々の布帛サンプルを、下記に示すように弾道抵抗性能に関して試験した。各サンプルは、ポリマーバインダー材料で被覆された、1000デニールのツワロン・タイプ2000アラミド繊維で構成され、15”×15”(38.1cm×38.1cm)の繊維層を45含んでいた。サンプルC1〜C5については、バインダー材料は、水性の未変性ポリウレタンポリマーであった。サンプルD1〜D5については、バインダー材料は、水性のフルオロカーボン変性アクリルポリマー(オハイオ州クリーブランドのノベオン社から商業的に入手可能なハイカー26−1199アクリルコポリマーが84.5重量%;スイスのクラリアントインターナショナル社から商業的に入手可能なNUVANT X490フルオロカーボン樹脂が15重量%;及びミシガン州ミッドランドのダウケミカル社から商業的に入手可能なダウ・テルギトールTMN−3非イオン界面活性剤が0.5重量%)であった。サンプルE1〜E7については、バインダー材料は、フルオロポリマー/ニトリルゴムブレンド(ノースカロライナ州のダウライヒホールド社から商業的に入手可能なタイラック68073ニトリルゴムポリマーが84.5重量%;NUVATTHUフルオロカーボン樹脂が15重量%;及びダウ・テルギトールTMN−3非イオン界面活性剤が0.5重量%)であった。
【0070】
布帛サンプルのそれぞれは、0°/90°構造の2プライ(2ユニテープ)を有する圧密不織布であった。45層の布帛サンプルは、表3に示すような総重量とTADを有していた。各布帛は、繊維含量が約85%であって、残部の15%は、ワックスを含有しない特定のポリマーバインダー材料であった。ワックス被覆サンプル(C2〜C4、D2〜D4、E2〜E4、及びE7)のそれぞれをシャムロックS−400N5ワックス(シャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能なエチレンビス−ステアラミドワックス)で被覆した。ワックスコーティングは、[繊維+マトリックス/バインダー]とワックスとの合計重量を基準として、各サンプルの重量の約2重量%を構成した。これらワックス被覆サンプル内の各層は、最初に布帛の各層を計量し、次いで過剰のシャムロックS−400N5を層の両表面上に手で散布し、層の表面の周りのワックスをバフ磨きし、層の表面に付着しなかった過剰のワックスを除去し、そしてサンプルを再び計量して重量の増加分を測定することによって製造した。さらに、サンプルC2、C3、D2、D3、E2、E3、及びE7の各層を、220°Fに設定されたフラットベッドラミネーターに通して処理して、ワックスを層の表面中/表面上にプレス/溶融/融合した。サンプルC1、D1、E1、及びE6は、局所的なワックスコーティングを含まない、そして処理がなされていない生の対照標準サンプルであった。サンプルC5、D5、及びE5は、局所的なワックスコーティングを含まないが、220°Fに設定されたフラットベッドラミネーターに通して処理した対照標準サンプルであった。弾道抵抗性能の変化がワックスによるものかどうか、あるいは処理が性能に影響を及ぼすかどうかを調べるために、生の対照標準サンプル、被覆されているが未処理のサンプル、及び処理された対照標準サンプルの組み込みを行った。
【0071】
サンプルをそれぞれ、MIL−STD−662Fの標準化された試験条件に従って、9mmで124グレインの弾丸に対するV50に関して試験した。弾道抵抗性布帛の個別の層を加えたり、あるいは取り去ったりすることで所望のV50が達成されるように、弾道抵抗性防護具の物品を設計して作り上げた。これらの実験の目的のために、物品の全面密度が約1.01±0.02psfとなるように、十分な数の布帛層(45)を積み重ねることによって、物品の構造を標準化した。表3に結果をまとめる。
【0072】
【表3】

【0073】
非常に予想外のことに、上記データの回帰分析により、ワックスコーティングが存在すると、実際に9mm弾丸のV50を約80ft/秒(24m/秒)だけ増加させた、ということがわかる。したがって本発明の材料は、耐摩耗性の増大と弾道貫通抵抗性の向上の両方を達成するので望ましい。
【0074】
実施例34〜43
もう一セットの様々な布帛サンプルを、下記に示すように弾道抵抗性能に関して試験した。各サンプルは、ポリマーバインダー材料で被覆された、1000デニールのツワロン・タイプ2000アラミド繊維で構成され、15”×15”の繊維層を45含んでいた。サンプルF1〜F5については、バインダー材料は、水性のフルオロカーボン変性アクリルポリマー(オハイオ州クリーブランドのノベオン社から商業的に入手可能なハイカー26477アクリルコポリマーが84.5重量%;スイスのクラリアントインターナショナル社から商業的に入手可能なNUVA LBフルオロカーボン樹脂が15重量%;及びミシガン州ミッドランドのダウケミカル社から商業的に入手可能なダウ・テルギトールTMN−3非イオン界面活性剤が0.5重量%)であった。サンプルG1〜G5については、バインダー材料は、フルオロポリマー/ポリウレタンブレンド[オハイオ州クリーブランドのノベオン社から商業的に入手可能なサンキュアー(SANCURE)20025が84.5重量%;NUVANT X490フルオロカーボン樹脂が15重量%;及びダウ・テルギトールTMN−3非イオン界面活性剤が0.5重量%]であった。
【0075】
布帛サンプルのそれぞれは、0°/90°構造の2プライ(2ユニテープ)を有する圧密不織布であった。45層の布帛サンプルは、表4に示すような総重量とTADを有した。各布帛は、繊維含量が約85%であって、残部の15%は、ワックスを含有しない特定のポリマーバインダー材料であった。ワックス被覆サンプルF4とG4のそれぞれは、シャムロックS−232N1(ニュージャージー州ニューアークのシャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能な、カルナバワックスとポリエチレンワックスとのブレンド)で被覆した。ワックス被覆サンプルF5とG5のそれぞれは、シャムロック・フルオロスリップ731MG N1ワックス(ニュージャージー州ニューアークのシャムロックテクノロジー社から商業的に入手可能な、カルナバワックスとポリエチレンワックスとポリテトラフルオロエチレンとのブレンド)で被覆した。ワックスコーティングは、[繊維+マトリックス/バインダー]とワックスとの合計重量を基準として、各サンプルの重量の約2重量%を構成した。これらワックス被覆サンプル内の各層を計量し、次いで過剰の粉末ワックスを層の両表面上に手で散布し、層の表面の周りのワックスをバフ磨きし、層の表面に付着しなかった過剰のワックスを除去し、そしてサンプルを再び計量して重量の増加分を測定することによりワックスで被覆した。さらに、サンプルF4、F5、G4、及びG5の各層を、220°Fにセットされたフラットベッドラミネーターに通して処理して、ワックスを層の表面中/表面上にプレス/溶融/融合させた。サンプルF1、F2、G1、及びG2は、局所的なワックスコーティングを含まない、そして処理がなされていない生の対照標準サンプルであった。サンプルF3とG3は、局所的なワックスコーティングを含まないが、220°Fにセットされたフラットベッドラミネーターに通して処理した対照標準サンプルであった。弾道抵抗性能の変化がワックスによるものかどうか、あるいは処理が性能に影響を及ぼすかどうかを調べるために、生の対照標準サンプルと処理した対照標準サンプルの組み込みを行った。
【0076】
サンプルのそれぞれを、MIL−STD−662Fの標準化された試験条件に従って、44マグナムの弾丸に対するV50に関して試験した。弾道抵抗性布帛の個別の層を加えたり、あるいは取り去ったりすることで所望のV50が達成されるように、弾道抵抗性防護具の物品を設計して作り上げた。これらの実験の目的のために、物品の全面密度が約1.01±0.02psfとなるように十分な数の布帛層(45)を積み重ねることによって、物品の構造を標準化した。表4に結果をまとめる。
【0077】
【表4】

【0078】
実施例17〜33において観察されたパターンに続いて、実施例34〜43に関する上記データを回帰分析することにより、ワックスコーティングが存在すると、予想外のことに、44マグナムのV50を約74ft/秒(23m/秒)だけ増加させた、ということがわかる。したがって本発明の材料は、耐摩耗性の増大と弾道貫通抵抗性の向上の両方を達成するので望ましい。
【0079】
本発明を、好ましい実施態様に関して具体的に説明してきたが、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更や改良を行うことができることのは、当業者にとって言うまでもないことである。特許請求の範囲は、開示されている実施態様、これまでに説明してきた代替的な態様、及びこれらに対する全ての均等な態様を含むように解釈すべきである、ということが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層コーティングを有する少なくとも1つの繊維基材を含む弾道抵抗性複合材料であって、ここで該繊維基材が、約7g/デニール以上のテナシティと約150g/デニール以上の引張モジュラスを有する1つ以上の繊維を含んでおり、該多層コーティングが、該1つ以上の繊維上にポリマーバインダー材料の層を、また、ポリマーバインダー材料層上にワックスの層を含むことを特徴とする該弾道抵抗性複合材料。
【請求項2】
前記ワックスが、蜜蝋、チャイニーズワックス、シェラックワックス、鯨蝋、羊毛脂、ヤマモモワックス、カンデリラワックス、カルナバワックス、キャスターワックス、エスパルトワックス、木蝋、ホホバ油ワックス、オリキュリーワックス、米ぬかワックス、大豆ワックス、セレシンワックス、モンタンワックス、オゾケライトワックス、ピートワックス、パラフィンワックス、微結晶質ワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、α−オレフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ステアラミドワックス、エステル化アミドワックス、ケン化アミドワックス、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記ワックスの層が、ワックスとフッ素含有ポリマーとのブレンドを含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
ポリマーバインダー材料が、ポリウレタンポリマー、ポリエーテルポリマー、ポリエステルポリマー、ポリカーボネートポリマー、ポリアセタールポリマー、ポリアミドポリマー、ポリブチレンポリマー、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−ビニルアルコールコポリマー、アイオノマー、スチレン−イソプレンコポリマー、スチレン−ブタジエンコポリマー、スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、スチレン−エチレン/プロピレンコポリマー、ポリメチルペンテンポリマー、水素化スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、無水マレイン酸官能化スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、カルボン酸官能化スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、アクリロニトリルポリマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、ポリプロピレンポリマー、ポリプロピレンコポリマー、エポキシポリマー、ノボラックポリマー、フェノール性ポリマー、ビニルエステルポリマー、ニトリルゴムポリマー、天然ゴムポリマー、酢酸酪酸セルロースポリマー、ポリビニルブチラールポリマー、アクリルポリマー、アクリルコポリマー、非アクリルモノマーを組み込んだアクリルコポリマー、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
前記繊維基材が複数の繊維から製造される布帛を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項6】
前記布帛が不織布を含む、請求項5に記載の複合材料。
【請求項7】
前記布帛が、2つの表面、及び該布帛表面の一方若しくは両方にワックス被膜を有する、請求項5に記載の複合材料。
【請求項8】
前記ワックスが低粘度ワックスを含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項9】
前記ワックスが前記複合材料の約0.01重量%〜約5.0重量%を構成する、請求項1に記載の複合材料。
【請求項10】
前記ポリマーバインダー材料が前記複合材料の約1重量%〜約50重量%を構成する、請求項1に記載の複合材料。
【請求項11】
請求項1に記載の複合材料を含む物品。
【請求項12】
フレキシブルな身体防護具を含む、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
i)表面を有する少なくとも1つの被覆繊維基材を準備すること、ここで該少なくとも1つの繊維基材が、約7g/デニール以上のテナシティと約150g/デニール以上の引張モジュラスを有する1つ以上の繊維を含んでおり、該繊維のそれぞれの表面が、ポリマーバインダー材料で実質的に被覆されている;及び
ii)該少なくとも1つの被覆繊維基材の少なくとも一部の上にワックスを塗布すること;
を含む、弾道抵抗性複合材料の製造方法。
【請求項14】
前記ワックスが、蜜蝋、チャイニーズワックス、シェラックワックス、鯨蝋、羊毛脂、ヤマモモワックス、カンデリラワックス、カルナバワックス、キャスターワックス、エスパルトワックス、木蝋、ホホバ油ワックス、オリキュリーワックス、米ぬかワックス、大豆ワックス、セレシンワックス、モンタンワックス、オゾケライトワックス、ピートワックス、パラフィンワックス、微結晶質ワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、α−オレフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ステアラミドワックス、エステル化アミドワックス、ケン化アミドワックス、又はこれらの組み合わせを含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記ワックスの層が、ワックスとフッ素含有ポリマーとのブレンドを含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】
前記繊維基材が複数の繊維から製造される布帛を含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項17】
前記布帛が、2つの表面、及び該布帛表面の一方若しくは両方にワックス被膜を有する、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記布帛が不織布を含む、請求項16に記載の製造方法。
【請求項19】
前記ワックスが低粘度ワックスを含む、請求項16に記載の製造方法。
【請求項20】
前記複合材料から物品を製造することをさらに含む、請求項13に記載の製造方法。

【公表番号】特表2011−523378(P2011−523378A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−548786(P2010−548786)
【出願日】平成21年2月11日(2009.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/033726
【国際公開番号】WO2009/108498
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】