説明

局部発振位相雑音抑圧送受信機

【課題】局部発振位相雑音が大きい環境においても高信頼な変復調方式を実現できる送受信機を提供する。
【解決手段】 局部発振信号位相雑音抑圧器と,位相雑音抑圧復調器との少なくともいずれか一方を有し,局部発振信号位相雑音抑圧器において,局部発振器で出力された位相雑音が含まれた局部発振信号に対して位相雑音を予測して位相制御を行うことで位相雑音を抑圧し,その位相雑音を抑圧された局部発振信号を用いて,直交変調器は直交変調を,直交復調器は直交復調を行い,さらに,位相雑音抑圧復調器において,位相雑音とフェージングにより時間変動するOFDM信号のベースバンド受信信号に対し,ディジタル信号処理によりスキャッタードパイロット信号を用いて位相雑音を含んだチャネル応答を推定し,その時間変動を予測してOFDM信号に発生するキャリア間干渉を抑圧する信号検出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,局部発振位相雑音を抑圧する送受信機に関するものである.
【背景技術】
【0002】
一般に,無線機器では情報を担うベースバンド信号を高周波である無線周波数バンドに変換する必要がある.そのため,無変調の高周波キャリア信号が必要である.このキャリア信号は局部発振器を用いて生成しているので局部発振信号と呼ばれている.ベースバンド信号と局部発振信号とを用いて直交変調器により得られる変調された信号のキャリア成分は正弦波であり,その周波数はキャリア周波数と呼ばれており,局部発振信号の周波数に等しい.キャリア成分の周波数と位相は局部発振信号に直接関係している.
【0003】
また,無線通信においては無線周波数帯域が逼迫しており,より高い周波数の周波数帯域を目指して伝送方式の研究開発が行われている.さらに,近年の微細加工技術の進展に伴って,CMOS−RF集積化による無線機器の小形化,低価格化が進んでいる.しかしながら,これらの高周波化やシリコンCMOSなどによる集積化によって,一般に局部発振器の位相雑音が増大し,変調された信号のキャリア位相変動が増大してしまうという問題がある.
【0004】
従来,局部発振位相雑音を抑圧するために,局部発振器のデバイスの改良が行われてきた.例えば,(i)発振器に用いる増幅器の利得が高いものを用いる,(ii)増幅器の雑音指数の小さいものを用いる,(iii)半導体材料を工夫する,(iv)集積プロセスの工夫をする,(v)バイポーラ等の雑音の小さい素子構造を採用する,(vi)共振回路のQが高いものを用いる,(vii)逓倍法を用いるなどが挙げられる.
【0005】
ところで,無線通信においてマルチパスにより多数の遅延波が発生するフェージング環境においても,高信頼な高速信号伝送を実現する伝送方式としてOFDM(直交周波数分割多重)が注目されている.さらに,複数の送受信アンテナを利用して信号を空間分割多重する伝送方式であるMIMO(マルチインプット・マルチアウトプット)とOFDMとを組み合わせMIMO−OFDM方式がある.これらのOFDMに基づいた伝送方式では,IFFTによりマルチキャリア伝送が実現されており,受信機においてFFTにより復調処理を行う.
【0006】
しかしながら,これらの伝送方式を局部発振器による位相雑音が大きい環境で利用すると,位相雑音によりFFT周期内において受信信号の位相変動が増大してしまうため,サブキャリア間でキャリア間干渉(ICI)が発生し,伝送特性が劣化する.このように,OFDMではマルチキャリア化により位相雑音の影響が顕著になるため,局部発振位相雑音を抑圧する技術が必要不可欠である.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
無線周波数の高周波化に伴い移動通信や無線LANにおいても4GHz以上のキャリア周波数へ高周波化の検討が進められている.さらに,近距離な超高速無線回線を実現するため,60GHz帯のミリ波周波数の検討も進められている.しかしながら,これらの高周波化に伴って,一般に局部発振器の位相雑音が増大し,変調された信号のキャリア位相変動が増大する.例えば,ミリ波帯で用いられる局部発振器の位相雑音スペクトル電力は,そのキャリア周波数からのオフセット周波数を100kHzとすると,60GHzのミリ波帯においては局部発振信号電力に対して,−70ないし−90dBc/Hz程度であり,そのスペクトルは1/fないし1/f特性を示している(fは周波数).また,近年のCMOS−RF集積化に伴ってその位相雑音は更に増加する傾向にある.
【0008】
このように位相雑音が増大すると,一般に受信側で信号判定に用いられる受信信号において位相変動が増大し,伝送特性が大幅に劣化する.特に,多値QAM等の高能率変調方式を実現する上で非常に問題となる.また,OFDMではマルチキャリア化によりシンボル長が相対的に長くなるため,位相雑音の影響が顕著になり,ICIが発生して伝送特性が著しく劣化する.さらに,MIMO−OFDMではその影響が非常に深刻な問題となる.
【0009】
本発明は,このような課題に鑑みてなされたものであり,局部発振信号に対して位相を制御することで局部発振信号における位相雑音成分を抑圧し,さらに,ベースバンド信号処理により受信信号における位相雑音成分を予測して抑圧することで,局部発振位相雑音が大きい環境においても高信頼な変復調方式を実現する局部発振位相雑音抑圧送受信機を提供することを目的とする.
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の位相雑音抑圧送受信機は,送受信に用いる局部発振信号に対して位相を制御することで位相雑音抑圧を行う局部発振信号位相雑音抑圧器と,局部発振信号を用いてベースバンド信号に周波数変換したOFDM信号の受信信号に対して,位相雑音の時間変動によって発生するICIを抑圧して信号検出を行う位相雑音抑圧復調器との少なくともいずれか一方を有することにより上述目的は達成される.
【0011】
また,本発明の上述目的は,局部発振信号位相雑音抑圧器が,局部発振信号の一定時間間隔におけるキャリア位相差分を検出する位相差分検出器と,検出されたキャリア位相差分系列を用いて局部発振信号のキャリア位相を予測する位相予測器と,予測されたキャリア位相により局部発振信号の予測されたキャリア位相を打ち消す制御を行う位相制御器とから構成されることにより,或いは,局部発振信号位相雑音抑圧器が,局部発振信号のキャリア位相を制御する位相制御器と,位相制御器出力の一定時間間隔におけるキャリア位相差分を検出する位相差分検出器と,検出されたキャリア位相差分系列を用いて次の時点のキャリア位相差分を予測するキャリア位相差分予測器と,予測されたキャリア位相差から局部発振信号のキャリア位相を予測するキャリア位相予測器とから構成され,上記位相制御器は,位相差分の積分値が0になるように位相を制御することにより,或いは,位相雑音抑圧復調器が,時間領域における受信信号をフーリエ変換し,周波数領域における受信信号に変換するFFT器と,周波数領域における受信信号に対して,スキャッタードパイロットパイロット信号を用いてチャネル推定し,その推定値を補間することで位相雑音を含んだチャネルの周波数応答を推定する位相雑音予測チャネル推定器と,周波数領域における受信信号と,推定された周波数応答とを用いて同期検波を行う同期検波器とを有することにより,或いは,位相雑音抑圧復調器において,上記同期検波器で検出した判定値を用いて,データが挿入されているサブキャリアにおいても上記位相雑音予測チャネル推定器により判定指向形チャネル推定を行い,位相雑音を含んだチャネルの周波数応答の推定精度を向上することにより,或いは,位相雑音抑圧復調器が,上記同期検波器で検出した軟判定値から誤り訂正復号を行い,符号化されたビットの対数尤度比を出力するMAP復号器と,MAP復号器で出力される対数尤度比を用いて,位相雑音を含んだチャネルのインパルス応答を推定する位相雑音予測ソフト判定指向形チャネル推定器と,その推定値と対数尤度比を用いて位相雑音により発生するICIを除去するICIレプリカ生成器と,受信信号からICIレプリカを除去した信号を最適合成すると共に,フーリエ変換を行う最適検出フィルタと,上記最適検出フィルタの出力信号を軟判定検出するMAP検出器とも有することにより一層効果的に達成される.
【発明の効果】
【0012】
本発明は,以下に記載されるような効果を奏する.
請求項1記載の発明である局部発振位相雑音抑圧送受信機によれば,局部発振信号に対して位相を制御することで局部発振信号における位相雑音成分を抑圧し,さらに,ベースバンド信号処理により受信信号における位相雑音成分を予測して抑圧することで,位相雑音を抑圧する高信頼な変復調方式を実現でき,局部発振位相雑音が比較的大きな環境においても1Hzあたりの情報量が多い多値変調及びMIMO−OFDMなどの伝送方式を用いることができる.
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下,本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する.
【0014】
図1〜図5は発明を実施する形態の一例であって,図中の同一の名称を付した部分は同一物を表わしている.
まず,局部発振位相雑音抑圧送受信機に係る第1の発明を実施するための最良の形態について説明する.図1に局部発振位相雑音抑圧送受信機の機能構成を示す.送信ベースバンド信号処理回路4で生成されたベースバンド送信信号のI成分とQ成分は,直交変調器5により直交変調されることで無線周波数(RF)に変換されて,変調された信号として出力される.変調された信号は,送信RF回路6によりフィルタリング,電力増幅等が行われ,アンテナ共用器7を通過してアンテナ8から送信される.直交変調器5で変調に用いられるキャリア信号として,局部発振信号位相雑音抑圧器2により局部発振器1の局部発振信号から位相雑音が抑圧された局部発振信号と,その信号を90度位相器3により位相を90度回転した信号とを用いる.局部発振信号位相雑音抑圧器2については以降で詳述する.なお,図1ではベースバンド信号からRF信号に,或いは,RF信号からベースバンド信号に直接周波数変換を行う構成を示したが,IF信号に変換してから二段階により周波数変換を行う構成についても本発明は適用できる.また,IF信号に変換する処理を送信ベースバンド信号処理回路4で,IF信号から変換する処理を受信ベースバンド信号処理回路11でディジタル信号処理により実現する構成についても本発明は適用できる.
【0015】
局部発振位相雑音抑圧送受信機における受信処理は,アンテナ8で受信されたRF受信信号はアンテナ共用器7により受信RF回路9に入力される.このようにアンテナ共用器7は,受信信号が送信回路側に漏れ込まないように,また,送信信号が受信回路側に漏れ込まないように設計される.なお,送信と受信を時間分割するTDD方式では,アンテナ共用器7はサキュレータにより実現され,周波数分割するFDD方式では,バンドパスフィルタにより実現される.受信RF回路9によりフィルタリング,電力増幅等が行われた受信RF信号は,直交復調器10によりベースバンド受信信号に変換された後,位相雑音抑圧復調器12を有する受信ベースバンド信号処理回路11により信号判定され,受信ビット系列が決定する.なお,送信処理と同様に,直交復調器10は,局部発振信号位相雑音抑圧器で生成された位相雑音が抑圧された局部発振信号と,その信号を90度位相器3により位相を90度回転した信号とを用いて,RFからベースバンドに受信信号を変換する.また,位相雑音抑圧復調器12は,ディジタル信号処理によりフェージングと位相雑音による受信信号の時間変動に追従し,位相雑音を抑圧して信号検出を行う.位相雑音抑圧復調器12については以降で詳述する.なお,位相雑音抑圧復調器12で行われないAGC,AFC,タイミング再生,フレーム同期等の信号検出に必要な処理は受信ベースバンド信号処理回路11において行われるとする.
【0016】
すなわち,本発明の局部発振位相雑音抑圧送受信機は,局部発振信号位相雑音抑圧器2と,位相雑音抑圧復調器12とにより,位相雑音を抑圧し,位相雑音に対して優れた耐性を持った送受信機を実現する.また,局部発振信号位相雑音抑圧器2と位相雑音抑圧復調器12の両方を用いなくても,少なくともいずれか一方により位相雑音を抑圧できる.
【0017】
以上のことから,本発明を実施するための最良の形態によれば,局部発振器の局部発振信号に発生する位相雑音を,局部発振信号位相雑音抑圧器2により抑圧し,位相雑音が抑圧された局部発振信号により送受信処理を行うことができ,さらに,最終的に信号を検出する受信ベースバンド信号処理において,位相雑音抑圧復調器12により位相雑音を抑圧することで,位相雑音に対して優れた耐性を持った送受信機を実現することができる.
【0018】
次に,局部発振位相雑音抑圧送受信機に係る第2と第3の発明を実施するための最良の形態について説明する.図2に局部発振位相雑音抑圧器の機能構成1を示す.局部発振信号入力端子13から局部発振信号c(t)が入力される.c(t)には位相雑音φ(t)があり
c(t)=cos[2πft+φ(t)] (1)
のように表される.ただし,fはキャリア周波数である.以下では説明を簡単にするためにc(t)の振幅は上式に示すように1とする.上式は余弦波であるが,正弦波でも当然以下の説明は成立する.また,振幅がリミッターで制限された矩形波のような波形でも,以下の記述は位相に関する作用が本質なので,同様に成立する.
【0019】
局部発振信号は位相差分検出器14に入力される.この検出器の構成には種々のものが考えられるが,遅延検波型の実現が最も容易である.すなわち
u(t)=2LPF[c(t)c(t−T)] (2)
のように,c(t)とこれを遅延時間Tだけ遅延させたc(t−T)との乗積をとり低周波成分を低域フィルタLPFで抽出する.このとき
u(t)=cos[2πf+φ(t)−φ(t−T)] (3)
となる.Tを調整して,2πf=π/2+nπとなるように設定する.nが0のときの遅延検波はクオドレチャ検波と呼ばれている.nが一般に整数のとき
u(t)=sin[φ(t)−φ(t−T)] (4)
となる.Tが小さければ,位相差分φ(t)−φ(t−T)が小さいので,さらに,φ(t)の微分係数φ′(t)を用いて以下のように近似でき,位相差分信号が得られる.
u(t)=φ(t)−φ(t−T)=Tφ′(t) (5)
これが位相差分検出器14の出力となる.
【0020】
位相差分検出器14の出力u(t)は,次に位相予測器15に入力される.積分の結果
ν(t)=T[φ(t)−φ(0)] (6)
となる.すなわち,積分出力は位相雑音成分に比例している.そこでv(t)を1/T倍して,位相制御器16によりc(t)の位相を制御すれば,位相雑音を抑圧することができる.以上の説明では単に積分によりφ(t)を導出したが,適当な時間間隔で位相差分信号をサンプリングして,その位相差分系列から,ディジタル信号処理による線形予測の方法を適用すれば,計算量を削減して予測をすることが可能である.位相制御器16には一般に位相変調で用いられる直交変調器を用いれば良い.そのとき,
cp(t)=cos[2πft+φ(t)−kν(t)] (7)
となる.ここで,kは予め設定された定数である.上式では,k=1/Tとすれば,位相雑音φ(t)を完全に削除することができる.kの値に誤差があると位相雑音を完全には打ち消すことができないが,大幅に抑圧できる.φ(0)は不確定誤差となるが,一定であり,信号伝送において特に問題にはならない.
【0021】
上述の方法では位相雑音を抑圧する精度がkの設定の精度に依存していた.次に述べる図3の方法によれば,その抑圧精度を更に向上させることができる.図3に局部発振位相雑音抑圧器の機能構成2を示す.位相予測器15の出力がθ(t)であるとする.このとき位相制御器16の出力は
cp(t)=cos[2πft+φ(t)−θ(t)] (8)
となる.従って,位相差分検出器14の出力は
u(t)=φ(t)−θ(t)−φ(t−T)+θ(t−T)=T[φ′(t)−θ′(t)] (9)
となる.この位相差分を位相差分予測器15Aで積分すると
ν(t)=T[φ(t)−θ(t)]−T[φ(0)−θ(0)] (10)
となる.なお,v(0)=0である.v(t)は固定位相[φ(0)−θ(0)]を除けば,実際のキャリア位相φ(t)と予測されたキャリア位相θ(t)との差分に比例する.そこで,固定位相の直流成分を除いて変動分の誤差が0になるように位相制御器16を制御すれば,徐々に誤差が0に収束する.この場合,Tの正確な値に応じて位相制御器16を制御するわけではないので,機器の設計精度が緩和される.また,適当な時間間隔でサンプリングして,ディジタル信号処理を適用すれば,精度が高く,計算量の少ない制御が可能になる.
【0022】
また,図2と図3に示した局部発振位相雑音抑圧器2では,位相制御器16により局部発振信号の位相を制御しているが,図1のように局部発振器1の制御用入力電圧を制御することで局部発振信号の位相を制御しても良い.あるいは,送信ベースバンド信号処理回路4によって生成されたベースバンド送信信号の位相を,局部発振信号の位相雑音を抑圧するように制御しても良い.
【0023】
以上のことから,本発明を実施するための最良の形態によれば,局部発振器の局部発振信号に発生する位相雑音を予測し,その予測した位相雑音を抑圧するように局部発振信号の位相を制御することで位相雑音を抑圧できる.
【0024】
さらに,局部発振位相雑音抑圧送受信機に係る第4,第5,第6の発明を実施するための最良の形態について説明する.以降では,OFDMについてのみ説明を行うが,本発明はOFDMをベースとしたOFDMAやMC−CDMA等のマルチキャリア伝送方式,ガードインターバル(サイクリックプレフィックス)を用いる周波数領域等化を前提にするシングルキャリア伝送方式,及び,それらをMIMO化した伝送方式に対して適用することができる.ここでは,誤り訂正符号化されたデータ系列がOFDMにより送信されているとする.図4に位相雑音抑圧復調器の機能構成を示す.以下では,位相雑音抑圧復調器12を復調器12と呼ぶこととする.ベースバンド受信信号入力端子18から入力された受信信号は,受信ベースバンド信号処理回路11における復調器12等で処理されて受信ビット出力端子29から出力される.図4のように復調器は,受信信号入力端子18に接続されたGI除去器19と,同期検波ユニット23と,ターボICIキャンセルユニット32と,ユニット切り換えスイッチ24と,デインタリーバ25と,最大事後確率(MAP)復号器26と,対数尤度比(LLR)減算器30と,インリーバ31と,判定器27と,受信ビット出力端子29に接続されるCRC復号器28とから構成される.
【0025】
復調器12は,ユニット切り換えスイッチ24が同期検波ユニット23に接続され,同期検波ユニット23により初回の受信処理を行う.以降では,この処理を初回処理と呼ぶ.同期検波ユニット23はGI除去器19と,FFT器20と,位相雑音予測チャネル推定器21と,同期検波器22とから構成される.まず,同期検波ユニット23はGI除去器19により受信信号からGIに対応した部分を除去し,FFT器20により時間領域における受信信号から周波数領域,すなわち,各サブキャリアにおける受信信号に変換を行う.さらに,位相雑音予測チャネル推定器21は送受信機で既知なパイロット信号が挿入されたサブキャリアにおいて,その受信信号から位相雑音を含んだチャネルの周波数応答を推定する.同期検波器22は推定した周波数応答を用いて軟判定同期検波を行い,符号化されたビットのLLRを計算し,出力する.
【0026】
同期検波器22から出力されたLLRは,デインタリーバ25によりデインタリーブされ,MAP復号器26により誤り訂正復号される.MAP復号器26は,デインタリーブされた符号化されたビットのLLRから,情報ビットのLLRと符号化されたビットのLLRを計算し,情報ビットのLLRを判定器27に,符号化されたビットのLLRをLLR減算器30に出力する.さらに,判定器27は情報ビットのLLRの正負より受信ビット系列を決定し,その系列はCRC復号器28により誤り検出に用いられる.判定誤りが検出されなかった際には,その受信ビット系列を受信ビット出力端子29から出力する.判定誤りが検出された際には,ユニット切り換えスイッチ24が切り換えられ,ターボICIキャンセルユニット32により同一の受信信号に対して受信処理が行われる.この処理を繰り返し処理と呼ぶ.繰り返し処理の詳細について後述する.
【0027】
位相雑音予測チャネル推定器21では,図5に示す送受信機で既知なスキャッタードパイロット信号を用いて位相雑音を含んだチャネルの周波数応答を推定する.スキャッタードパイロット信号は,パケット全体に一定のサブキャリア間隔,シンボル間隔で離散的に挿入されている.第iシンボルの第mサブキャリアにおける受信信号Rim
im=Himim+(ICI成分)+Nim (11)
となる.ここで,Himは第iシンボルの第mサブキャリアにおけるチャネルの周波数応答,zimは変調信号,Nimは雑音である.また,CはFFT後の第iシンボルにおける位相雑音で,第iシンボルの第kサンプルにおける位相雑音φikを用いて

となる.ただし,Nはサブキャリア数である.さらに,位相雑音φikがFFT周期内において変動するためにICIが発生する.位相雑音予測チャネル推定器21は,パイロット信号を用いてチャネル推定を行う.推定値をGimとすると,Gim

となり,チャネルの周波数応答にFFT後の位相雑音を含んだ形で推定が行われる.スキャッタードパイロット信号を用いて推定されたGimを,パイロットサブキャリア間で時間方向に補間することで,位相雑音やフェージングによって発生する周波数応答の時間変動にも追従でき,また,データサブキャリアにおける位相雑音を含んだ周波数応答を予測することができる.さらに,周波数方向に離散的に挿入されているパイロットサブキャリア間で補間を行うことで,マルチパスによる周波数選択性フェージングにおける周波数応答を推定できる.
【0028】
推定精度を更に向上する方法として,Cの変動がほとんどない範囲のシンボル数において,最小2乗法により位相雑音を含んだチャネルのインパルス応答を推定し,その推定したインパルス応答をフーリエ変換して全サブキャリアにおける位相雑音を含んだ周波数応答を推定する方法がある.この手法は,最小2乗法に基づいた補間法の一種としても考えることができる.さらに,フェージング変動がほとんどない,すなわち,チャネルの周波数応答がほとんど時間変動しない場合には,位相雑音を予測することで推定精度を向上できる.具体的には,一次元ガウスプロセスによる雑音生成器の実数出力φ(t)を位相雑音複

差分により雑音生成器の一次元ガウスプロセスの補正を行う.このようにすることで,FFT後の位相雑音Cを予測することができ,チャネルの周波数応答がほとんど時間変動しない場合には,Gimから抽出される周波数応答の推定値を単純平均化,或いは,指数重み付け平均化することで推定精度を向上できる.
【0029】
しかしながら,これらの方法により位相雑音を含んでのチャネル推定は行えても,(11)で示したようにICI成分は残留しているため,伝送特性は完全には改善せず,位相雑音の影響を受ける.ICIを発生させる時間変動が速い位相雑音を抑圧するためには,時間サンプル単位における位相雑音の変動を補償する必要がある.そのような時間変動への追従は繰り返し処理において行われる.
【0030】
また,図4の位相雑音抑圧復調器の機能構成に示すように,第lシンボルにおいて,位相雑音予測チャネル推定器21で推定した周波数応答を用いて同期検波器22により軟判定同期検波を行い,その出力である符号化されたビットのLLRを位相雑音予測チャネル推定器21に入力する.位相雑音予測チャネル推定器21は,それを硬判定して生成したデータ信号の判定信号,あるいは,LLRから計算されたデータ信号の期待値を用いて,データ信号が挿入されているサブキャリアにおいても周波数応答を推定する.さらに,その周波数応答と,スキャッタードパイロット信号を用いて推定した周波数応答から,第(l+1)シンボルにおける周波数応答を予測し,その予測値により同期検波を行う.この処理をシンボル毎に逐次的に行うことで,数シンボル内で変動するゆっくりとした位相雑音やフェージングによる時間変動に対して追従できる.
【0031】
ターボICIキャンセルユニット32を用いる繰り返し処理について説明する.繰り返し処理では,LLR減算器30によりMAP復号器26から出力された符号化されたビットのLLRから,MAP復号器26に入力された符号化されたビットのLLRを減算し,さらに,インタリーバ31によりインタリーブされたLLRがターボICIキャンセルユニット32に入力される.ターボICIキャンセルユニット32は,変調信号レプリカ生成器33と,位相雑音予測ソフト判定指向形チャネル推定器34と,ICIレプリカ生成器35と,減算器36と,最適検出フィルタ37と,MAP検出器38とから構成される.
【0032】
まず,変調信号レプリカ生成器33はインタリーバ31から入力されたLLRからデータ信号における変調信号の期待値を計算し,ICIレプリカ生成器35および位相雑音予測ソフト判定指向形チャネル推定器34に出力する.次に,位相雑音予測ソフト判定指向形チャネル推定器34はその変調信号の期待値を用いて,位相雑音を含んだチャネルのインパルス応答を推定する.推定されたインパルス応答はICIレプリカ生成器35およびMAP検出器38に出力される.さらに,ICIレプリカ生成器35は,変調信号の期待値とインパルス応答を用いて,受信ICIレプリカを生成する.ただし,ICIレプリカ生成器35では,検出したいサブキャリア以外の変調信号の期待値を用いて受信ICIレプリカを生成する.減算器36により受信信号から受信ICIレプリカは減算され,検出したいサブキャリアの受信信号成分のみが求められ,その成分は最適検出フィルタ37により周波数領域への変換と等化が同時に行われ,検出信号が生成される.最後に,MAP検出器38は,検出したいサブキャリアの検出信号から符号化されたビットのLLRを計算する.ICIレプリカ生成器35,減算器36,最適検出フィルタ37,MAP検出器38で行われるこれらの一連の処理は,サブキャリア毎に行われ,同一OFDMシンボル内の全てのサブキャリアについて処理が終わると,次のOFDMシンボルにおいて処理が行われる.なお,これらの処理については非特許文献1に詳しく述べられている.
【非特許文献1】S.Suyama他,「A Scattered Pilot OFDM Receiver Employing Turbo ICI Cancellation in Fast Fading Environments」 IEICE Transactions on Communications,vol.E88−B,no.1,pp.115−121,2005年1月.
【0033】
位相雑音予測ソフト判定指向形チャネル推定器34は,変調信号の期待値とスキャッタードパイロット信号をIFFTして送信信号のレプリカを生成し,複数のタップで構成されるトランスバーサルフィルタに入力して,受信信号レプリカを生成する.第iシンボル,第kサンプルにおける受信信号rik

と表せる.ここで,hd,ikは第iシンボル,第kサンプルにおける第dパスの複素振幅,sikは送信信号で

化されたビットのLLRから生成した変調信号の期待値とスキャッタードパイロット信号を挿入することで生成される.さらに,第iシンボル,第kサンプルにおける各タップに

となる.各タップにおける重み係数は,時間領域の受信信号と受信信号レプリカとの差の絶対値2乗値が最小なるように逐次的な最小2乗法により制御されて求められる.求められたタップ係数gd,ikは理想的に推定を行えた場合には
d,ik=hd,ikexp(jφik) (17)
となり,位相雑音を含んだチャネルのインパルス応答の推定値として考えることができる.時間領域の受信信号は各サンプルにおいて観測されるため,位相雑音予測ソフト判定指向形チャネル推定器34ではこのような手法によりタップ係数を求めることで,FFT区間内におけるより高速な時間変動に追従することが可能となる.位相雑音予測チャネル推定器21で用いる様々な位相雑音を含んだ周波数応答の推定精度向上手法は,位相雑音予測ソフト判定指向形チャネル推定器34においても同様に用いることができ,より高精度な推定を行うことができる.
【0034】
以上のことから,本発明を実施するための最良の形態によれば,スキャッタードパイロット信号や軟判定値を利用することで,位相雑音予測チャネル推定器21で位相雑音やフェージングによる時間変動に追従し,さらに,位相雑音予測ソフト判定指向形チャネル推定器34で,復号器の出力であるLLRを用いて,各サンプルでの時間変動に対して追従し,ICIレプリカ生成器35と,減算器36と,最適検出フィルタ37と,MAP検出器38とによりその変動を抑圧することで,位相雑音に対して優れた耐性を持つOFDM復調器を実現することができる.
【0035】
なお,上述した各発明を実施するための最良の形態に限らず,本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである.
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による局部発振位相雑音抑圧送受信機の機能構成を示すブロック図.
【図2】本発明による局部発振信号位相雑音抑圧器の機能構成1を示すブロック図.
【図3】本発明による局部発振信号位相雑音抑圧器の機能構成2を示すブロック図.
【図4】本発明による位相雑音抑圧復調器の機能構成を示すブロック図.
【図5】本発明によるスキャッタードパイロットの機能構成を示すブロック図.
【符号の説明】
【0037】
1:局部発振器,2:局部発振信号位相雑音抑圧器,3:90度位相器.4:送信ベースバンド信号処理回路,5:直交変調器,6:送信RF回路,7:アンテナ共用器,8:アンテナ,9:受信RF回路,10:直交復調器,11:受信ベースバンド信号処理回路,12:位相雑音抑圧復調器,13:局部発振信号入力端子,14:位相差分検出器,15:位相予測器,15A:位相差分予測器,16:位相雑音制御器,17:位相雑音が抑圧された局部発振信号出力端子,18:ベースバンド受信信号入力端子,19:GI除去器,20:FFT器,21:位相雑音予測チャネル推定器,22:同期検波器,23:同期検波ユニット,24:ユニット切り換えスイッチ,25:デインタリーバ,26:MAP復号器,27:判定器,28:CRC復号器,29:受信ビット出力端子,30:LLR減算器,31:インタリーバ,32:ターボICIキャンセルユニット,33:変調信号レプリカ生成器,34:位相雑音予測ソフト判定指向形チャネル推定器,35:ICIレプリカ生成器,36:減算器,37:最適検出フィルタ,38:MAP検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送受信に用いる局部発振信号に対して位相を制御することで位相雑音抑圧を行う局部発振信号位相雑音抑圧器と,局部発振信号を用いてベースバンド信号に周波数変換したOFDM信号の受信信号に対して,位相雑音の時間変動によって発生するキャリア間干渉(ICI)を抑圧して信号検出を行う位相雑音抑圧復調器との少なくともいずれか一方を有することを特徴とする局部発振位相雑音抑圧送受信機.
【請求項2】
請求項1記載の局部発振信号位相雑音抑圧器が,局部発振信号の一定時間間隔におけるキャリア位相差分を検出する位相差分検出器と,検出されたキャリア位相差分系列を用いて局部発振信号のキャリア位相を予測する位相予測器と,予測されたキャリア位相により局部発振信号の予測されたキャリア位相を打ち消す制御を行う位相制御器とから構成されることを特徴とする局部発振位相雑音抑圧送受信機.
【請求項3】
請求項1記載の局部発振信号位相雑音抑圧器が,局部発振信号のキャリア位相を制御する位相制御器と,位相制御器出力の一定時間間隔におけるキャリア位相差分を検出する位相差分検出器と,検出されたキャリア位相差分系列を用いて次の時点のキャリア位相差分を予測するキャリア位相差分予測器と,予測されたキャリア位相差から局部発振信号のキャリア位相を予測するキャリア位相予測器とから構成され,上記位相制御器は,位相差分の積分値が0になるように位相を制御することを特徴とする局部発振位相雑音抑圧送受信機.
【請求項4】
請求項1記載の位相雑音抑圧復調器が,時間領域における受信信号をフーリエ変換し,周波数領域における受信信号に変換するFFT器と,周波数領域における受信信号に対して,スキャッタードパイロットパイロット信号を用いてチャネル推定し,その推定値を補間することで位相雑音を含んだチャネルの周波数応答を推定する位相雑音予測チャネル推定器と,周波数領域における受信信号と,推定された周波数応答とを用いて同期検波を行う同期検波器とを有することを特徴とする請求項1記載の局部発振位相雑音抑圧送受信機.
【請求項5】
請求項4記載の位相雑音抑圧復調器において,上記同期検波器で検出した判定値を用いて,データが挿入されているサブキャリアにおいても上記位相雑音予測チャネル推定器により判定指向形チャネル推定を行い,位相雑音を含んだチャネルの周波数応答の推定精度を向上することを特徴とする請求項1記載の局部発振位相雑音抑圧送受信機.
【請求項6】
請求項4記載の位相雑音抑圧復調器が,上記同期検波器で検出した軟判定値から誤り訂正復号を行い,符号化されたビットの対数尤度比を出力する最大事後確率(MAP)復号器と,MAP復号器で出力される対数尤度比を用いて,位相雑音を含んだチャネルのインパルス応答を推定する位相雑音予測ソフト判定指向形チャネル推定器と,その推定値と対数尤度比を用いて位相雑音により発生するICIを除去するICIレプリカ生成器と,受信信号からICIレプリカを除去した信号を最適合成すると共に,フーリエ変換を行う最適検出フィルタと,上記最適検出フィルタの出力信号を軟判定検出するMAP検出器とも有することを特徴とする請求項1記載の局部発振位相雑音抑圧受信機.

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−263571(P2008−263571A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128611(P2007−128611)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】