局部腐食進展過程評価方法及び局部腐食進展過程評価装置
【課題】 電気回路的手法を用いた場合であっても、高温水中での局部腐食進展過程を定量的に評価する。
【解決手段】 局部腐食進展過程評価装置は、腐食経路のうち、き裂先端部を金属が溶出するアノードとし、き裂外表面を酸素の還元が関与する第1のカソードとし、且つ、き裂内側壁面を水素イオンの還元が関与する第2のカソードとして構成された電気回路によって局部腐食反応を表現するとともに、き裂部内外の溶液抵抗には、溶出した金属イオン並びに加水分解反応によって生じた水素イオンを関係付けたとき、所定の計測手段を用いて計測したき裂内部溶液のpH値を入力する入力部13と、この入力部13を介して入力されたpH値に基づいて、電気回路を流れる電流を算出するための金属イオン濃度及び水素イオン濃度を用いて表現されるき裂進展速度を算出する演算部14とを備える。
【解決手段】 局部腐食進展過程評価装置は、腐食経路のうち、き裂先端部を金属が溶出するアノードとし、き裂外表面を酸素の還元が関与する第1のカソードとし、且つ、き裂内側壁面を水素イオンの還元が関与する第2のカソードとして構成された電気回路によって局部腐食反応を表現するとともに、き裂部内外の溶液抵抗には、溶出した金属イオン並びに加水分解反応によって生じた水素イオンを関係付けたとき、所定の計測手段を用いて計測したき裂内部溶液のpH値を入力する入力部13と、この入力部13を介して入力されたpH値に基づいて、電気回路を流れる電流を算出するための金属イオン濃度及び水素イオン濃度を用いて表現されるき裂進展速度を算出する演算部14とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温水中の金属材料についての局部腐食の進展過程を評価する局部腐食進展過程評価方法及び局部腐食進展過程評価装置に関し、特に、高温水中での応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking;SCC)又は腐食疲労割れ(Corrosion Fatigue;CF)を含む局部腐食の進展過程を電気回路的に評価する局部腐食進展過程評価方法及び局部腐食進展過程評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、鉄鋼材料は、腐食環境下で錆等の腐食が発生して進行するが、ステンレス鋼等の錆にくい材料においては、その表面が極めて薄い腐食の皮膜で覆われることにより、腐食の進行が防止されることが知られている。しかしながら、原子力プラントのような高温水環境においては、溶接されたステンレス鋼の残留応力が存在する部位で、鋭敏化した結晶粒界から応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking;以下、SCCという。)の発生と進展とが起こる。
【0003】
従来では、このSCCの発生を抑制する方法として、鋭敏化した部材を腐食に強いSUS304LやSUS316Lのような低炭素ステンレス鋼に置き換えたり、貴金属をコーティングしたりする対策がとられてきた。しかしながら、このような対策がとられたとしても、表面加工された原子炉用低炭素ステンレス鋼の母材から新たにSCCの発生が見出されているのが現状である。
【0004】
このように各種対策が長年にわたる非常に多くの研究のもとに提案され、実施されてきたにもかかわらず、SCCが繰り返し発生しているのは、その発生・進展のメカニズムが未だに十分に解明されておらず、また、その正確な評価方法も未だに構築されていないことによるためとも考えられる。
【0005】
SCCの発生・進展のメカニズムの解明、及びその評価のための実験においては、通常、低速度引張り試験、金属と溶液界面との電気化学的評価、及び破壊力学的手法が用いられてきた。一方、定量的評価としては、SCCの発生・進展現象が、材料、環境及び応力の3要素が同時に作用する現象であることを考え、全腐食経路に電気回路的手法を適用し、腐食メカニズムの解明及び評価を行う方法が検討されてきた(例えば、特許文献1乃至特許文献5等参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−279684号公報
【特許文献2】特開平9−159601号公報
【特許文献3】特開平7−209173号公報
【特許文献4】特開平5−142139号公報
【特許文献5】特開平5−113397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の限定された条件下で取得した実験データを用いた評価では、環境条件が変化あるいは変動した場合には、直ちに新たな環境での評価に適用することができないという問題があった。また、従来の電気回路的手法を用いた評価方法は、常温の塩化物環境下での局部腐食進展を評価するものであり、塩化物イオンが殆ど含まれていない高温水中環境下では評価式が異なるため、そのまま適用することはできない。さらに、従来の電気回路的手法を用いた評価方法においては、高温水環境で材料の鋭敏化の程度に応じた評価を行うことができず、また、提案された評価式からは与えられた腐食環境でSCCが発生して進展できるかについての可否を定量的に評価することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、電気回路的手法を用いて高温水中での応力腐食割れ又は腐食疲労割れを含む局部腐食進展過程を評価する斬新な手法を提案し、任意の環境、材質及び作用応力変化に対してSCCを含む局部腐食の起こり得る条件、進展の可否、及び進展速度等を定量的に評価することができる局部腐食進展過程評価方法及び局部腐食進展過程評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、局部腐食進展過程の評価方法について鋭意研究を重ねた結果、電気回路的手法を用いた場合であっても、き裂内部溶液のpH値を計測するのみで局部腐食進展過程を定量的に評価することができる斬新な手法を見出し、本発明をなし得た。
【0010】
すなわち、上述した目的を達成する本発明にかかる局部腐食進展過程評価方法は、高温水中での応力腐食割れ又は腐食疲労割れを含む局部腐食の進展過程を電気回路的に評価する局部腐食進展過程評価方法であって、腐食経路のうち、き裂先端部を金属が溶出するアノードとし、き裂外表面を酸素の還元が関与する第1のカソードとし、且つ、き裂内側壁面を水素イオンの還元が関与する第2のカソードとして構成された電気回路によって局部腐食反応を表現するとともに、き裂部内外の溶液抵抗には、溶出した金属イオン並びに加水分解反応によって生じた水素イオンを関係付けたとき、き裂内部溶液のpH値を所定の計測手段を用いて計測するpH値計測工程と、上記pH値計測工程にて計測したpH値に基づいて、上記電気回路を流れる電流を算出するための金属イオン濃度及び水素イオン濃度を用いて表現されるき裂進展速度を、所定の演算手段によって算出する演算工程とを備えることを特徴としている。
【0011】
また、上述した目的を達成する本発明にかかる局部腐食進展過程評価装置は、高温水中での応力腐食割れ又は腐食疲労割れを含む局部腐食の進展過程を電気回路的に評価する局部腐食進展過程評価装置であって、腐食経路のうち、き裂先端部を金属が溶出するアノードとし、き裂外表面を酸素の還元が関与する第1のカソードとし、且つ、き裂内側壁面を水素イオンの還元が関与する第2のカソードとして構成された電気回路によって局部腐食反応を表現するとともに、き裂部内外の溶液抵抗には、溶出した金属イオン並びに加水分解反応によって生じた水素イオンを関係付けたとき、所定の計測手段を用いて計測したき裂内部溶液のpH値を入力する入力手段と、上記入力手段を介して入力されたpH値に基づいて、上記電気回路を流れる電流を算出するための金属イオン濃度及び水素イオン濃度を用いて表現されるき裂進展速度を算出する演算手段とを備えることを特徴としている。
【0012】
このような本発明にかかる局部腐食進展過程評価方法及び局部腐食進展過程評価装置においては、加水分解反応において適用されてきた全金属イオン濃度の代わりに、大きな平衡定数を有する金属イオン濃度を用いて表現されるき裂進展速度を算出することにより、鋭敏化の程度がき裂進展過程に及ぼす効果を定量的に評価することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、電気回路的手法を用いた場合であっても、き裂内部溶液のpH値を計測するのみで、高温水中での局部腐食進展過程を定量的に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
この実施の形態は、高温水中の金属材料についての応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking;以下、SCCという。)や腐食疲労割れ(Corrosion Fatigue;CF)等を含む局部腐食の進展過程を評価する局部腐食進展過程評価装置である。特に、この局部腐食進展過程評価装置は、任意の環境、材質及び作用応力変化に対して、SCCを含む局部腐食の起こり得る条件、進展の可否、及び進展速度等を定量的に評価することができるものである。
【0016】
なお、本発明は、原子力プラントのような高温水環境下で発生する局部腐食を対象としている。通常、腐食は、常温(室温)腐食と高温腐食とに大別されるが、いずれも温度についての厳密な定義は存在しない。強いて言えば、常温腐食は、一般には、例えば25℃程度の大気温度下での腐食を指す。一方、高温腐食は、使用環境(水中、ガス、燃焼灰等)によって呼び方も異なり、高温水中腐食は、加圧によって達成される100℃以上の水溶液中腐食を称することが多い。原子力プラントのような水中で生じる腐食では、例えば沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor;BWR)では288℃程度、加圧水型原子炉(Pressurized water reactor;PWR)では310℃程度の温度となっている。本発明は、このような常温腐食ではなく、高温水環境下で発生する局部腐食を対象としたものである。
【0017】
まず、局部腐食進展過程評価装置の具体的な構成及び動作の説明に先立って、この局部腐食進展過程評価装置に適用する評価方法について説明する。
【0018】
本発明にて提案する評価方法は、き裂内部の各種イオン濃度の腐食にともなう単位時間あたりの変化を求める速度式に関して、金属イオンによる高温水の加水分解反応において従来技術として適用されてきた全金属イオン濃度の代わりに、大きな平衡定数を有する金属イオン濃度(クロムイオン濃度)を用いるものであり、これにより、鋭敏化の程度がき裂進展過程に及ぼす効果を定量的に評価することができるものである。
【0019】
また、この評価方法は、き裂内部溶液の金属イオン及び水素イオン濃度の速度式から数学的に導出された数式を構成する因子を用いて、き裂進展の可否及び進展速度等の各種進展過程の特性を定量的に評価することができるものである。
【0020】
図1に、SCCを含む局部腐食のき裂部のモデル形状と、そのき裂部内外における腐食に関係するイオン及び分子を示す。局部腐食現象においては、き裂先端部のアノードから金属が金属イオン(Mn+)となって溶出し、その金属イオンの一部が高温水を加水分解して水素イオン(H+)を発生する。溶出した金属イオン(Mn+)は、き裂外表面方向へと泳動する。そして、き裂外表面では、溶存酸素(O2)が還元され、また、き裂内部で発生した水素イオン(H+)は、き裂内側壁面で還元されて水素分子(H2)となる。なお、同図においては、き裂外表面を第1のカソードとし、き裂内側壁面を第2のカソードとして示している。
【0021】
ここで、このような局部腐食反応を電気回路によって等価的に表現すると、図2に示す電気回路モデルとなる。図1に示した第2のカソードにおいて、水素イオンが還元されて水素分子が生成される反応が生じる場合には、図2中B−E間を流れる電流I2は、図3中矢印で示すように、B→E方向となる。一方、第2のカソードにおいて、水素分子が酸化されて水素イオンが生成される反応が生じる場合には、図2中B−E間を流れる電流I2は、図4中矢印で示すように、E→B方向となる。また、図1に示した第1のカソードにおいて、たとえ水素注入を行うことによって水素分子が酸化されて水素イオンが生成される反応が生じたとしても、酸素による起電力が大きいため、図2中B−C間を流れる電流I1は、流れる電流は小さくなるものの、図3及び図4中矢印で示すように、B→C方向となる。本発明にて提案する評価方法においては、このように各電極の酸化還元反応に変化がある場合には、流れる電流の方向や起電力の方向を考慮して回路計算を行い、電流又はき裂進展速度の評価を行う。
【0022】
具体的に、図2に示す電気回路について、キルヒホッフの法則に基づいて各経路の電流I1,I2,Iを求めると、次式(1)で表される。
【0023】
【数5】
【0024】
ここで、電流I1の右辺に存在するCMn+は、き裂内部溶液の全金属イオン濃度であり、電流I2の右辺に存在するCH+は、き裂内部溶液の水素イオン濃度である。また、電流I1の右辺に存在する因子f、及び電流I2の右辺に存在する因子g2は、それぞれ、次式(2)及び次式(3)で表される。さらに、次式(2)におけるa0、及び次式(3)におけるb0は、図2に示す電気回路のアノード、第1のカソード、及び第2のカソードの各起電力及び溶液の電気伝導度に依存する因子であり、それぞれ、次式(4)及び次式(5)で表される。さらにまた、次式(2)及び次式(3)において、a1,b1は、図2に示す電気回路のアノード、第1のカソード、及び第2のカソード(電極部)の抵抗値及び溶液抵抗値に依存する因子である。また、ε(KI)は、応力の作用に対応するき裂先端部の歪み量又は応力拡大係数に依存する因子であり、作用応力に依存すると推定されるき裂先端部の溶解面積の増加率を示す。さらに、次式(4)及び次式(5)において、Ea,Ec1,Ec2は、それぞれ、アノードの起電力、第1のカソードの起電力、及び第2のカソードの起電力である。さらにまた、Ras,Rc10s,Rc1s,Ra,Rc2sは、それぞれ、図2に示す電気回路の抵抗値の詳細であり、具体的には、Ras,Rc1s,Rc2sは、き裂部内外の溶液抵抗値であり、Rc10s,Raは、それぞれ、き裂外表面(第1のカソード)及びき裂内側壁面(第2のカソード)の電極抵抗値であり、図2に示す抵抗値との関係は、次式(6)に示すものである。なお、図2に示すRapは、アノードの電極抵抗値である。また、次式(4)及び次式(5)において、ΛM2+,ΛH+は、それぞれ、金属イオン及び水素イオンの当量伝導度であり、SM2+,SH+は、それぞれ、き裂内部の金属イオン及び水素イオンの流路面積であり、lM2+,lH+は、それぞれ、き裂内部の金属イオン及び水素イオンの流路距離である。
【0025】
【数6】
【0026】
【数7】
【0027】
【数8】
【0028】
【数9】
【0029】
【数10】
【0030】
また、き裂外表面(第1のカソード)の起電力EC1及びき裂内側壁面(第2のカソード)の起電力EC2は、288℃の高温水を想定した場合には、それぞれ、次式(7)及び次式(8)で表されるように、き裂内部溶液のpHの関数となる。なお、次式(7)及び次式(8)において、PO2,PH2は、それぞれ、酸素分圧及び水素分圧である。
【0031】
【数11】
【0032】
【数12】
【0033】
さらに、溶出した金属イオンによる加水分解反応は、次式(9)乃至次式(11)で表され、中和反応は、次式(12)で表される。
【0034】
【数13】
【0035】
【数14】
【0036】
【数15】
【0037】
【数16】
【0038】
これら上式(1)乃至上式(12)を考慮すると、き裂内部溶液の水素イオン濃度CH+及び全金属イオン濃度CMn+の時間的変化は、それぞれ、次式(13)及び次式(14)に示す速度式で表される。
【0039】
【数17】
【0040】
【数18】
【0041】
なお、上式(13)及び上式(14)において、Fは、ファラデー定数であり、nは、溶出した金属イオンの価数であり、CMn+,δCr3+は、それぞれ、き裂内部溶液の全金属イオン濃度及びき裂先端部の金属構成元素であるクロムの組成比率(鋭敏化の程度)を示す。また、上式(13)及び上式(14)において、k1,k2は、それぞれ、高温水中での正方向速度定数であり、k−1,k−2は、それぞれ、高温水中での負方向速度定数である。ここで、上式(13)における{−}項は、水素イオン(H+)及び水酸化物イオン(OH−)の中和反応に関するものであるが、高温水中での正方向速度定数k2は、十分に大きいとみなすことができるため、中和反応は瞬時に終了する。そのため、上式(13)の速度式を解くにあたっては、この項は省略可能である。これを踏まえ、上式(13)及び上式(14)の速度式を解くと、次式(15)及び次式(16)が得られる。なお、次式(15)及び次式(16)において、δCrは、金属構成元素であるクロムの組成比率であり、KCrは、クロムイオンによる水の加水分解反応の平衡定数である。
【0042】
【数19】
【0043】
【数20】
【0044】
したがって、図2に示す電気回路を流れる電流I1,I2,Iは、次式(17)で表される。
【0045】
【数21】
【0046】
全電流Iの右辺において、係数を示す(−)項は、電流又はき裂進展速度の大きさを表し、べき項を示す{−}項は、時間依存性を示し、き裂内部イオンの濃縮の可能性を判断する因子を表す。
【0047】
そこで、き裂内部溶液の金属イオン濃度若しくは水素イオン濃度が濃縮して腐食速度が加速するのか、一定なのか、又は腐食速度が時間経過とともに減少するのかを評価するために、次式(18)に定義する因子PCを利用する。
【0048】
【数22】
【0049】
この因子PCは、時間に依存する。すなわち、き裂内部溶液のイオン濃度又はき裂進展速度は、任意時刻においてPC>0である場合には、時間経過とともに増大する方向に進み、PC=0である場合には、一定であり、PC<0である場合には、時間経過とともに減少する方向に進むことを示す。上式(2)及び上式(3)から、作用応力に依存すると推定されるき裂先端部の溶解面積の増加率ε(KI)を変化させたとき、因子PC及び因子f並びにg2×δCr×KCrを表す曲線を求めることができる。これら曲線のレベル・形状から分類されるパタ−ンとその条件とを図5に示す。
【0050】
図5中パタ−ンAの場合には、パラメ−タPCは、作用応力の有無に関係なく正となり、き裂内部溶液のイオン濃度又はき裂進展速度は、時間経過とともに増大することを示す。また、パターンBの場合には、パラメ−タPCは、応力に依存しない係数a0,a1,b0,b1によって決定される曲線fと曲線g2×δCr×KCrとの交点までの範囲にあるε(KI)では負となり、交点よりも大きい範囲にあるε(KI)では正となる。さらに、パターンCの場合には、パラメ−タPCは、作用応力の有無に関係なく負となり、き裂内部溶液のイオン濃度又はき裂進展速度は、時間経過とともに減少することを示す。
【0051】
したがって、SCCが発生する条件、すなわち、応力の作用のもとにき裂が進展する条件は、次式(19)に示す条件に限定される。
【0052】
【数23】
【0053】
一方、上式(17)において、任意時刻tにおけるき裂内金属イオン濃度及び水素イオン濃度を、それぞれ、CMn+t,CH+tとすると、時刻tでのき裂進展速度は、次式(20)で与えられる。なお、次式(20)において、Mは、金属の原子量であり、nは、溶出した金属イオンの価数であり、Fは、ファラデー定数であり、Sは、金属が溶出するき裂先端部の面積であり、ρは、金属の密度である。
【0054】
【数24】
【0055】
また、上式(20)のき裂進展速度da/dtの応力依存性は、上式(4)及び上式(5)に示した流路面積Sと流路距離lとの比S/lに破壊力学的関係式を適用し、次式(21)のように求められる。
【0056】
【数25】
【0057】
上式(21)において、σ∞は、溶接や加工による残留応力のような内力又は外力により、き裂先端部から十分に離れた位置において発生する応力であり、σyは、金属の降伏応力であり、熱処理や塑性加工を施したり、微量元素を添加したりすることによって変化する。また、上式(21)において、Eは、金属のヤング率(縦弾性係数)であり、A,B,Cは、応力に依存しない定数であり、Dは、"0"を含む応力に依存しない定数である。なお、上式(21)の右辺において定数Dを設けているのは、応力σ∞が"0"であっても、き裂が存在して各電極での起電力が存在する限り、電気回路を構成する抵抗の大きさに応じた電流が流れるため、き裂進展速度da/dtを"0"とみなすことができない場合もあるからである。
【0058】
なお、上式(4)乃至上式(8)から、因子a0,b0×δCr×KCr,(1+a1)/(1+b1)×b0×δCr×KCrは、それぞれ、き裂内部溶液のpHの関数となる。任意の高温水温度及び任意の材料のクロム含有量δCrにおいて、各因子とpH値との関係を求めると、図6に示すようになる。同図に示す相関図において、pH値が(1)〜(3)の領域は、図5中パターンAの状態に対応し、pH値が(3)〜(4)の領域は、パターンBの状態に対応し、pH値が(4)以降の領域は、パターンCの状態に対応している。したがって、初期状態においてき裂内部溶液のpH値が(1)のレベルにあった場合には、時間経過とともに応力が材料に付加されていなくても、pH値は自然に(3)のレベルまで低下する。ここで、応力の作用がない場合には、pH値は(3)のレベルで一定となる。一方、よりpH値が低下するには応力の作用が必要となり、pH値は、応力の大きさに応じて、(3)〜(4)の間のうち適切な位置まで低下する。しかしながら、いかに大きな力を作用させても、pH値は、(4)のレベル以下には低下しない。すなわち、腐食が進行した孔食よりSCCが発生する場合等には、最初のき裂内部溶液のpH値が既に(5)のレベルになっていることも考えられるが、時間経過とともに水素イオン濃度は減少し、pH値は、(3)〜(4)の間の応力が作用したレベルまで後戻りし、その位置で一定となる。
【0059】
ここで、パターンBの状態に対応する(3)〜(4)の短い領域が高温水下でのSCCの発生範囲に相当する。したがって、本発明にて提案する評価方法においては、実機のき裂内部溶液のpH値を計測することにより、腐食状態が図6に示す相関図のpH範囲のどのレベルにあるのかを評価することが可能となる。したがって、実測したpH値が(3)のレベルよりも高い場合には、SCCの進展の可能性は小さく、(3)〜(4)の間にある場合には、作用応力をできるだけ減少させる対策が必要であるとか、(4)のレベル以下にある場合には、き裂内部溶液を希釈したり、材料交換の準備をしたり等の評価及び対策をとることが可能となる。また、図6に示す相関図は、装置設計の段階で作成することができるため、この評価方法においては、実機環境を模擬した実験室試験においてSCCのき裂部のpH値を計測し、安全設計に供することができる。さらに、この評価方法においては、実験室試験において計測されたpH値を用いて、上式(20)から、そのときのき裂進展速度を評価することもできる。また、図6中(4)のレベルのpH値は、十分に大きな又は無限大の応力に相当するものであり、このpH値に対するき裂進展速度に基づいて板厚設計を行えば、破壊力学的手法によらず、安全設計をすることも可能となる。
【0060】
さて、以下では、このような評価方法を適用した本発明の実施の形態として示す局部腐食進展過程評価装置について説明する。この局部腐食進展過程評価装置は、金属母材又は粒界のクロム含有量測定に対するき裂進展速度を評価するものである。
【0061】
ここで、図7に、金属材料の粒界のクロム含有量と応力作用に対する最小及び最大き裂進展速度との関係を示す相関図を示す。
【0062】
同図において、実線は、応力が作用した金属のクロム含有量に対する最大き裂進展速度を示し、破線は、最小き裂進展速度を示している。最小き裂進展速度は、図6に示した点Pminの、き裂先端部に応力が作用していない状態で濃縮して一定となったpHの状態に相当し、最大き裂進展速度は、図6に示した点Pmaxのき裂先端部に無限大応力(又は十分に大きな応力)作用した状態で一定となったpHの状態に相当する。局部腐食進展過程評価装置は、様々なクロム含有量に対する相関図について実施することにより、このような評価を得る。
【0063】
具体的には、局部腐食進展過程評価装置は、図8に示すように、被測定物の金属母材1及び溶接部2の表面を走査してクロム濃度を計測する例えば磁気力顕微鏡等からなるセンサー11と、このセンサー11から伝達される電気信号に基づいてクロム濃度を算出する計測部12と、き裂進展速度の算出に必要な所定のデータを入力する入力部13と、計測部12によって算出されたクロム濃度と入力部13を介して入力されたデータとに基づいてき裂進展速度を算出するための諸因子を算出する演算部14と、入力部13を介して入力されたデータと演算部14による計算結果とを画面上に表示する表示部15と、この表示部15に表示された情報を記録及び保存する記録部16とを備える。
【0064】
なお、センサー11は、溶接部2の近傍の溶接残留応力が高い部分のみならず、溶接金属部分、熱影響部及び母材部についても、点又は面としてクロム濃度の計測を行う。そして、それらの結果は、計測位置も含めて表示部15に表示されたり記録部16に保存されたりする。また、センサー11は、母材一般部については、表面が加工されている場合にもクロム濃度を計測する。さらに、局部腐食進展過程評価装置は、必要に応じて、表面から歪みを与えないように加工し、センサー11によって深さ方向のクロム濃度も計測する。
【0065】
このような局部腐食進展過程評価装置は、図9に示すような一連の手順にしたがって、き裂進展速度を求める。
【0066】
まず、局部腐食進展過程評価装置においては、同図に示すように、ステップS1において、センサー11及び計測部12を用いて被測定物の結晶粒界を含む金属の含有クロム量δCrを点計測又は面計測して算出する。また、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS2乃至ステップS5において、入力部13を介してき裂進展速度の算出に必要な所定のデータを入力する。具体的には、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS2において、装置設計仕様条件データとして、温度T、材質、溶存酸素濃度/水素濃度、酸素分圧PO2/水素分圧PH2、割れ寸法SM2+,SH+,lM2+,lH+を入力する。また、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS3において、高温水初期データとして、所定のセンサーによって計測したき裂内部溶液のpH値、イオン当量伝導度ΛM2+,ΛH+、クロムイオンによる水の加水分解反応の平衡定数KCrを入力する。さらに、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS4において、電気回路定数データとして、起電力Ea,Ec1,Ec2、抵抗値Ras,Rc10s,Rc1s,Ra,Rc2s、抵抗因子a1,b1を入力する。さらにまた、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS5において、き裂進展速度計算定数データとして、金属の原子量M、金属イオンの価数n、ファラデー定数F、金属の密度ρを入力する。
【0067】
続いて、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS6乃至ステップS8において、計測部12によって算出されたクロム含有量δCrと入力部13を介して入力されたデータとに基づいて、演算部14によってき裂進展速度を算出するための諸因子を算出する。具体的には、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS6において、上式(4)の演算を行い、因子a0を算出する。また、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS7において、上式(5)の演算を行い、因子b0を算出し、因子b0×δCr×KCrを算出する。さらに、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS8において、因子(1+a1)/(1+b1)×b0×δCr×KCrを算出する。
【0068】
続いて、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS9において、ステップS6乃至ステップS8にて算出した因子と、ステップS5にて入力されたデータとを用いて、演算部14によって上式(20)の演算を行い、き裂進展速度da/dtを算出する。
【0069】
そして、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS10において、これまでの演算結果を用いて、演算部14により、図6に示したようなクロム含有量毎のpH値と各因子との関係を示すダイアグラムを作成し、ステップS11において、図6に示した点Pmin,PmaxのpH値、及びき裂進展速度da/dtを算出する。
【0070】
さらに、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS12において、ステップS10及びステップS11にて算出したデータを用いて、演算部14により、図7に示したようなクロム含有量δCrとき裂進展速度da/dtとの関係を示すダイアグラムを作成し、ステップS13において、作成したダイアグラムを用いて、目的とする最大き裂進展速度を算出し、一連の処理を終了する。
【0071】
局部腐食進展過程評価装置は、このような一連の手順にしたがって、き裂進展速度を求め、入力部13を介して入力されたデータとともに表示部15の画面上に表示させたり、記録部16に記録及び保存させたりすることができる。
【0072】
以上説明したように、本発明の実施の形態として示す局部腐食進展過程評価装置においては、原子炉や高温水下にある金属材料のSCCを含む局部腐食のき裂進展速度を、き裂内部溶液のpH値を計測して高温水初期データとして入力して演算を行うことにより、定量的に評価することができる。また、局部腐食進展過程評価装置においては、微小なき裂内部溶液のpH値の計測が困難な場合であっても、き裂部金属の構成元素であるクロムの濃度やクロム濃度の面分布を計測することにより、全作用応力に対する最小き裂進展速度と最大き裂進展速度とを設計の段階で定量的に評価することが可能となり、また、設計条件が変更になったとしても、必要な因子を含む定量式に基づいて再評価することも容易に行うことができる。さらに、局部腐食進展過程評価装置においては、SCCの発生範囲が定式化されていることから、環境条件が変化した場合であっても、SCCの発生を抑制する範囲を評価することも可能である。
【0073】
このように、本発明を適用した局部腐食進展過程評価装置は、電気回路的手法を用いながらも、SCCを含む局部腐食の起こり得る条件、進展の可否、及び進展速度等を定量的に評価し、各種対策をとることができるという、極めて画期的なものである。
【0074】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施の形態では、き裂先端部に酸化物皮膜が存在する場合については言及していないが、本発明は、かかる場合にもき裂進展速度を評価することができる。
【0075】
図10に、き裂先端部のき裂進展速度da/dtと因子ε(KI)との関係を示す。同図中曲線Aは、き裂先端部に皮膜が存在しない場合を示し、曲線Bは、皮膜抵抗が中程度である場合を示し、曲線Cは、皮膜抵抗が大きい場合を示している。この図からわかるように、例えば、応力を付加しないときに既に曲線Cのように大きな皮膜抵抗を有する皮膜があった場合には、付加応力を増して因子ε(KI)が増加すると、き裂進展速度da/dtは、曲線Cに沿って点P0から点P1に増加する。このとき、皮膜の一部が破損して当該皮膜の等価抵抗が曲線Bのレベルまで低下すると、き裂進展速度da/dtは、曲線C上の点P1に対応する曲線B上の点P2から当該曲線Bに沿って点P3まで進行する。さらに、皮膜の破損が進行し、当該皮膜の等価抵抗が0の状態になると、き裂進展速度da/dtは、曲線B上の点P3に対応する曲線A上の点P4から当該曲線Aに沿って点P5まで進行する。すなわち、き裂進展速度da/dtは、全体として応力の付加とともに、P0→P1→P2→P3→P4→P5と進行し、点P1や点P3が閾値とも理解される。したがって、本発明においては、閾値以下の応力に対するき裂進展速度da/dtを、曲線C上の点P0から点P1までの値に基づいて評価することができる。
【0076】
このように、本発明は、き裂先端部に酸化物皮膜が存在する場合には、その皮膜抵抗が、又は、当該酸化物皮膜が応力の付加によって破損している場合には当該酸化物皮膜の等価抵抗が、き裂先端部に相当するアノードの電気化学的抵抗に直列に接続されているものとしてき裂進展速度da/dtを算出し、電気化学的に評価することができる。
【0077】
また、本発明において、き裂進展速度da/dtの応力依存性は、上述したように、一般には上式(21)によって評価することができる。しかしながら、残留応力が存在しない材料から作られた試験片を用いた定荷重試験のような場合には、応力σ∞,σyを一定とみなしても問題はない。そのため、かかる場合には、き裂進展速度da/dtの応力依存性は、次式(22)のように、因子ε(KI)や応力拡大係数KIの関数としてのみ評価することができる。
【0078】
【数26】
【0079】
さらに、本発明においては、因子ε(KI)や応力拡大係数KIが一定である条件のもとに、例えば、溶接、熱処理又は塑性加工による残留応力を考慮してき裂進展速度da/dtを評価する場合には、次式(23)を使用してもよい。
【0080】
【数27】
【0081】
このように、本発明においては、状況に応じて、き裂進展速度da/dtの応力依存性を適切に評価することができる。特に、本発明においては、き裂先端部の歪みや応力拡大係数KIのみならず、溶接、熱処理若しくは塑性加工による残留応力等の内力又は外力によって発生する、き裂先端部から十分に離れた位置での応力を考慮したき裂進展速度da/dtを定量的に求めることができる。
【0082】
このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】SCCを含む局部腐食のき裂部のモデル形状と、そのき裂部内外における腐食に関係するイオン及び分子を示す図である。
【図2】図1に示す局部腐食反応をモデル化した電気回路の構成を示す図である。
【図3】本発明にて提案する評価方法について説明するための図であり、図2に示す電気回路を流れる電流の方向を示す図である。
【図4】本発明にて提案する評価方法について説明するための図であり、図2に示す電気回路を流れる電流の方向であって図3に示す方向とは異なる方向を示す図である。
【図5】き裂内部イオンの濃縮状態を分類した因子のパターンを示す図である。
【図6】き裂内部溶液のpH値と各因子との関係を示す相関図である。
【図7】クロム含有量と応力作用に対する最小及び最大き裂進展速度との関係を示す相関図である。
【図8】本発明の実施の形態として示す局部腐食進展過程評価装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施の形態として示す局部腐食進展過程評価装置において、き裂進展速度を求める際の一連の手順を示すフローチャートである。
【図10】き裂進展速度da/dtと因子ε(KI)との関係を示す相関図である。
【符号の説明】
【0084】
1 金属母材
2 溶接部
11 センサー
12 計測部
13 入力部
14 演算部
15 表示部
16 記録部
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温水中の金属材料についての局部腐食の進展過程を評価する局部腐食進展過程評価方法及び局部腐食進展過程評価装置に関し、特に、高温水中での応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking;SCC)又は腐食疲労割れ(Corrosion Fatigue;CF)を含む局部腐食の進展過程を電気回路的に評価する局部腐食進展過程評価方法及び局部腐食進展過程評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、鉄鋼材料は、腐食環境下で錆等の腐食が発生して進行するが、ステンレス鋼等の錆にくい材料においては、その表面が極めて薄い腐食の皮膜で覆われることにより、腐食の進行が防止されることが知られている。しかしながら、原子力プラントのような高温水環境においては、溶接されたステンレス鋼の残留応力が存在する部位で、鋭敏化した結晶粒界から応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking;以下、SCCという。)の発生と進展とが起こる。
【0003】
従来では、このSCCの発生を抑制する方法として、鋭敏化した部材を腐食に強いSUS304LやSUS316Lのような低炭素ステンレス鋼に置き換えたり、貴金属をコーティングしたりする対策がとられてきた。しかしながら、このような対策がとられたとしても、表面加工された原子炉用低炭素ステンレス鋼の母材から新たにSCCの発生が見出されているのが現状である。
【0004】
このように各種対策が長年にわたる非常に多くの研究のもとに提案され、実施されてきたにもかかわらず、SCCが繰り返し発生しているのは、その発生・進展のメカニズムが未だに十分に解明されておらず、また、その正確な評価方法も未だに構築されていないことによるためとも考えられる。
【0005】
SCCの発生・進展のメカニズムの解明、及びその評価のための実験においては、通常、低速度引張り試験、金属と溶液界面との電気化学的評価、及び破壊力学的手法が用いられてきた。一方、定量的評価としては、SCCの発生・進展現象が、材料、環境及び応力の3要素が同時に作用する現象であることを考え、全腐食経路に電気回路的手法を適用し、腐食メカニズムの解明及び評価を行う方法が検討されてきた(例えば、特許文献1乃至特許文献5等参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−279684号公報
【特許文献2】特開平9−159601号公報
【特許文献3】特開平7−209173号公報
【特許文献4】特開平5−142139号公報
【特許文献5】特開平5−113397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の限定された条件下で取得した実験データを用いた評価では、環境条件が変化あるいは変動した場合には、直ちに新たな環境での評価に適用することができないという問題があった。また、従来の電気回路的手法を用いた評価方法は、常温の塩化物環境下での局部腐食進展を評価するものであり、塩化物イオンが殆ど含まれていない高温水中環境下では評価式が異なるため、そのまま適用することはできない。さらに、従来の電気回路的手法を用いた評価方法においては、高温水環境で材料の鋭敏化の程度に応じた評価を行うことができず、また、提案された評価式からは与えられた腐食環境でSCCが発生して進展できるかについての可否を定量的に評価することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、電気回路的手法を用いて高温水中での応力腐食割れ又は腐食疲労割れを含む局部腐食進展過程を評価する斬新な手法を提案し、任意の環境、材質及び作用応力変化に対してSCCを含む局部腐食の起こり得る条件、進展の可否、及び進展速度等を定量的に評価することができる局部腐食進展過程評価方法及び局部腐食進展過程評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、局部腐食進展過程の評価方法について鋭意研究を重ねた結果、電気回路的手法を用いた場合であっても、き裂内部溶液のpH値を計測するのみで局部腐食進展過程を定量的に評価することができる斬新な手法を見出し、本発明をなし得た。
【0010】
すなわち、上述した目的を達成する本発明にかかる局部腐食進展過程評価方法は、高温水中での応力腐食割れ又は腐食疲労割れを含む局部腐食の進展過程を電気回路的に評価する局部腐食進展過程評価方法であって、腐食経路のうち、き裂先端部を金属が溶出するアノードとし、き裂外表面を酸素の還元が関与する第1のカソードとし、且つ、き裂内側壁面を水素イオンの還元が関与する第2のカソードとして構成された電気回路によって局部腐食反応を表現するとともに、き裂部内外の溶液抵抗には、溶出した金属イオン並びに加水分解反応によって生じた水素イオンを関係付けたとき、き裂内部溶液のpH値を所定の計測手段を用いて計測するpH値計測工程と、上記pH値計測工程にて計測したpH値に基づいて、上記電気回路を流れる電流を算出するための金属イオン濃度及び水素イオン濃度を用いて表現されるき裂進展速度を、所定の演算手段によって算出する演算工程とを備えることを特徴としている。
【0011】
また、上述した目的を達成する本発明にかかる局部腐食進展過程評価装置は、高温水中での応力腐食割れ又は腐食疲労割れを含む局部腐食の進展過程を電気回路的に評価する局部腐食進展過程評価装置であって、腐食経路のうち、き裂先端部を金属が溶出するアノードとし、き裂外表面を酸素の還元が関与する第1のカソードとし、且つ、き裂内側壁面を水素イオンの還元が関与する第2のカソードとして構成された電気回路によって局部腐食反応を表現するとともに、き裂部内外の溶液抵抗には、溶出した金属イオン並びに加水分解反応によって生じた水素イオンを関係付けたとき、所定の計測手段を用いて計測したき裂内部溶液のpH値を入力する入力手段と、上記入力手段を介して入力されたpH値に基づいて、上記電気回路を流れる電流を算出するための金属イオン濃度及び水素イオン濃度を用いて表現されるき裂進展速度を算出する演算手段とを備えることを特徴としている。
【0012】
このような本発明にかかる局部腐食進展過程評価方法及び局部腐食進展過程評価装置においては、加水分解反応において適用されてきた全金属イオン濃度の代わりに、大きな平衡定数を有する金属イオン濃度を用いて表現されるき裂進展速度を算出することにより、鋭敏化の程度がき裂進展過程に及ぼす効果を定量的に評価することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、電気回路的手法を用いた場合であっても、き裂内部溶液のpH値を計測するのみで、高温水中での局部腐食進展過程を定量的に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
この実施の形態は、高温水中の金属材料についての応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking;以下、SCCという。)や腐食疲労割れ(Corrosion Fatigue;CF)等を含む局部腐食の進展過程を評価する局部腐食進展過程評価装置である。特に、この局部腐食進展過程評価装置は、任意の環境、材質及び作用応力変化に対して、SCCを含む局部腐食の起こり得る条件、進展の可否、及び進展速度等を定量的に評価することができるものである。
【0016】
なお、本発明は、原子力プラントのような高温水環境下で発生する局部腐食を対象としている。通常、腐食は、常温(室温)腐食と高温腐食とに大別されるが、いずれも温度についての厳密な定義は存在しない。強いて言えば、常温腐食は、一般には、例えば25℃程度の大気温度下での腐食を指す。一方、高温腐食は、使用環境(水中、ガス、燃焼灰等)によって呼び方も異なり、高温水中腐食は、加圧によって達成される100℃以上の水溶液中腐食を称することが多い。原子力プラントのような水中で生じる腐食では、例えば沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor;BWR)では288℃程度、加圧水型原子炉(Pressurized water reactor;PWR)では310℃程度の温度となっている。本発明は、このような常温腐食ではなく、高温水環境下で発生する局部腐食を対象としたものである。
【0017】
まず、局部腐食進展過程評価装置の具体的な構成及び動作の説明に先立って、この局部腐食進展過程評価装置に適用する評価方法について説明する。
【0018】
本発明にて提案する評価方法は、き裂内部の各種イオン濃度の腐食にともなう単位時間あたりの変化を求める速度式に関して、金属イオンによる高温水の加水分解反応において従来技術として適用されてきた全金属イオン濃度の代わりに、大きな平衡定数を有する金属イオン濃度(クロムイオン濃度)を用いるものであり、これにより、鋭敏化の程度がき裂進展過程に及ぼす効果を定量的に評価することができるものである。
【0019】
また、この評価方法は、き裂内部溶液の金属イオン及び水素イオン濃度の速度式から数学的に導出された数式を構成する因子を用いて、き裂進展の可否及び進展速度等の各種進展過程の特性を定量的に評価することができるものである。
【0020】
図1に、SCCを含む局部腐食のき裂部のモデル形状と、そのき裂部内外における腐食に関係するイオン及び分子を示す。局部腐食現象においては、き裂先端部のアノードから金属が金属イオン(Mn+)となって溶出し、その金属イオンの一部が高温水を加水分解して水素イオン(H+)を発生する。溶出した金属イオン(Mn+)は、き裂外表面方向へと泳動する。そして、き裂外表面では、溶存酸素(O2)が還元され、また、き裂内部で発生した水素イオン(H+)は、き裂内側壁面で還元されて水素分子(H2)となる。なお、同図においては、き裂外表面を第1のカソードとし、き裂内側壁面を第2のカソードとして示している。
【0021】
ここで、このような局部腐食反応を電気回路によって等価的に表現すると、図2に示す電気回路モデルとなる。図1に示した第2のカソードにおいて、水素イオンが還元されて水素分子が生成される反応が生じる場合には、図2中B−E間を流れる電流I2は、図3中矢印で示すように、B→E方向となる。一方、第2のカソードにおいて、水素分子が酸化されて水素イオンが生成される反応が生じる場合には、図2中B−E間を流れる電流I2は、図4中矢印で示すように、E→B方向となる。また、図1に示した第1のカソードにおいて、たとえ水素注入を行うことによって水素分子が酸化されて水素イオンが生成される反応が生じたとしても、酸素による起電力が大きいため、図2中B−C間を流れる電流I1は、流れる電流は小さくなるものの、図3及び図4中矢印で示すように、B→C方向となる。本発明にて提案する評価方法においては、このように各電極の酸化還元反応に変化がある場合には、流れる電流の方向や起電力の方向を考慮して回路計算を行い、電流又はき裂進展速度の評価を行う。
【0022】
具体的に、図2に示す電気回路について、キルヒホッフの法則に基づいて各経路の電流I1,I2,Iを求めると、次式(1)で表される。
【0023】
【数5】
【0024】
ここで、電流I1の右辺に存在するCMn+は、き裂内部溶液の全金属イオン濃度であり、電流I2の右辺に存在するCH+は、き裂内部溶液の水素イオン濃度である。また、電流I1の右辺に存在する因子f、及び電流I2の右辺に存在する因子g2は、それぞれ、次式(2)及び次式(3)で表される。さらに、次式(2)におけるa0、及び次式(3)におけるb0は、図2に示す電気回路のアノード、第1のカソード、及び第2のカソードの各起電力及び溶液の電気伝導度に依存する因子であり、それぞれ、次式(4)及び次式(5)で表される。さらにまた、次式(2)及び次式(3)において、a1,b1は、図2に示す電気回路のアノード、第1のカソード、及び第2のカソード(電極部)の抵抗値及び溶液抵抗値に依存する因子である。また、ε(KI)は、応力の作用に対応するき裂先端部の歪み量又は応力拡大係数に依存する因子であり、作用応力に依存すると推定されるき裂先端部の溶解面積の増加率を示す。さらに、次式(4)及び次式(5)において、Ea,Ec1,Ec2は、それぞれ、アノードの起電力、第1のカソードの起電力、及び第2のカソードの起電力である。さらにまた、Ras,Rc10s,Rc1s,Ra,Rc2sは、それぞれ、図2に示す電気回路の抵抗値の詳細であり、具体的には、Ras,Rc1s,Rc2sは、き裂部内外の溶液抵抗値であり、Rc10s,Raは、それぞれ、き裂外表面(第1のカソード)及びき裂内側壁面(第2のカソード)の電極抵抗値であり、図2に示す抵抗値との関係は、次式(6)に示すものである。なお、図2に示すRapは、アノードの電極抵抗値である。また、次式(4)及び次式(5)において、ΛM2+,ΛH+は、それぞれ、金属イオン及び水素イオンの当量伝導度であり、SM2+,SH+は、それぞれ、き裂内部の金属イオン及び水素イオンの流路面積であり、lM2+,lH+は、それぞれ、き裂内部の金属イオン及び水素イオンの流路距離である。
【0025】
【数6】
【0026】
【数7】
【0027】
【数8】
【0028】
【数9】
【0029】
【数10】
【0030】
また、き裂外表面(第1のカソード)の起電力EC1及びき裂内側壁面(第2のカソード)の起電力EC2は、288℃の高温水を想定した場合には、それぞれ、次式(7)及び次式(8)で表されるように、き裂内部溶液のpHの関数となる。なお、次式(7)及び次式(8)において、PO2,PH2は、それぞれ、酸素分圧及び水素分圧である。
【0031】
【数11】
【0032】
【数12】
【0033】
さらに、溶出した金属イオンによる加水分解反応は、次式(9)乃至次式(11)で表され、中和反応は、次式(12)で表される。
【0034】
【数13】
【0035】
【数14】
【0036】
【数15】
【0037】
【数16】
【0038】
これら上式(1)乃至上式(12)を考慮すると、き裂内部溶液の水素イオン濃度CH+及び全金属イオン濃度CMn+の時間的変化は、それぞれ、次式(13)及び次式(14)に示す速度式で表される。
【0039】
【数17】
【0040】
【数18】
【0041】
なお、上式(13)及び上式(14)において、Fは、ファラデー定数であり、nは、溶出した金属イオンの価数であり、CMn+,δCr3+は、それぞれ、き裂内部溶液の全金属イオン濃度及びき裂先端部の金属構成元素であるクロムの組成比率(鋭敏化の程度)を示す。また、上式(13)及び上式(14)において、k1,k2は、それぞれ、高温水中での正方向速度定数であり、k−1,k−2は、それぞれ、高温水中での負方向速度定数である。ここで、上式(13)における{−}項は、水素イオン(H+)及び水酸化物イオン(OH−)の中和反応に関するものであるが、高温水中での正方向速度定数k2は、十分に大きいとみなすことができるため、中和反応は瞬時に終了する。そのため、上式(13)の速度式を解くにあたっては、この項は省略可能である。これを踏まえ、上式(13)及び上式(14)の速度式を解くと、次式(15)及び次式(16)が得られる。なお、次式(15)及び次式(16)において、δCrは、金属構成元素であるクロムの組成比率であり、KCrは、クロムイオンによる水の加水分解反応の平衡定数である。
【0042】
【数19】
【0043】
【数20】
【0044】
したがって、図2に示す電気回路を流れる電流I1,I2,Iは、次式(17)で表される。
【0045】
【数21】
【0046】
全電流Iの右辺において、係数を示す(−)項は、電流又はき裂進展速度の大きさを表し、べき項を示す{−}項は、時間依存性を示し、き裂内部イオンの濃縮の可能性を判断する因子を表す。
【0047】
そこで、き裂内部溶液の金属イオン濃度若しくは水素イオン濃度が濃縮して腐食速度が加速するのか、一定なのか、又は腐食速度が時間経過とともに減少するのかを評価するために、次式(18)に定義する因子PCを利用する。
【0048】
【数22】
【0049】
この因子PCは、時間に依存する。すなわち、き裂内部溶液のイオン濃度又はき裂進展速度は、任意時刻においてPC>0である場合には、時間経過とともに増大する方向に進み、PC=0である場合には、一定であり、PC<0である場合には、時間経過とともに減少する方向に進むことを示す。上式(2)及び上式(3)から、作用応力に依存すると推定されるき裂先端部の溶解面積の増加率ε(KI)を変化させたとき、因子PC及び因子f並びにg2×δCr×KCrを表す曲線を求めることができる。これら曲線のレベル・形状から分類されるパタ−ンとその条件とを図5に示す。
【0050】
図5中パタ−ンAの場合には、パラメ−タPCは、作用応力の有無に関係なく正となり、き裂内部溶液のイオン濃度又はき裂進展速度は、時間経過とともに増大することを示す。また、パターンBの場合には、パラメ−タPCは、応力に依存しない係数a0,a1,b0,b1によって決定される曲線fと曲線g2×δCr×KCrとの交点までの範囲にあるε(KI)では負となり、交点よりも大きい範囲にあるε(KI)では正となる。さらに、パターンCの場合には、パラメ−タPCは、作用応力の有無に関係なく負となり、き裂内部溶液のイオン濃度又はき裂進展速度は、時間経過とともに減少することを示す。
【0051】
したがって、SCCが発生する条件、すなわち、応力の作用のもとにき裂が進展する条件は、次式(19)に示す条件に限定される。
【0052】
【数23】
【0053】
一方、上式(17)において、任意時刻tにおけるき裂内金属イオン濃度及び水素イオン濃度を、それぞれ、CMn+t,CH+tとすると、時刻tでのき裂進展速度は、次式(20)で与えられる。なお、次式(20)において、Mは、金属の原子量であり、nは、溶出した金属イオンの価数であり、Fは、ファラデー定数であり、Sは、金属が溶出するき裂先端部の面積であり、ρは、金属の密度である。
【0054】
【数24】
【0055】
また、上式(20)のき裂進展速度da/dtの応力依存性は、上式(4)及び上式(5)に示した流路面積Sと流路距離lとの比S/lに破壊力学的関係式を適用し、次式(21)のように求められる。
【0056】
【数25】
【0057】
上式(21)において、σ∞は、溶接や加工による残留応力のような内力又は外力により、き裂先端部から十分に離れた位置において発生する応力であり、σyは、金属の降伏応力であり、熱処理や塑性加工を施したり、微量元素を添加したりすることによって変化する。また、上式(21)において、Eは、金属のヤング率(縦弾性係数)であり、A,B,Cは、応力に依存しない定数であり、Dは、"0"を含む応力に依存しない定数である。なお、上式(21)の右辺において定数Dを設けているのは、応力σ∞が"0"であっても、き裂が存在して各電極での起電力が存在する限り、電気回路を構成する抵抗の大きさに応じた電流が流れるため、き裂進展速度da/dtを"0"とみなすことができない場合もあるからである。
【0058】
なお、上式(4)乃至上式(8)から、因子a0,b0×δCr×KCr,(1+a1)/(1+b1)×b0×δCr×KCrは、それぞれ、き裂内部溶液のpHの関数となる。任意の高温水温度及び任意の材料のクロム含有量δCrにおいて、各因子とpH値との関係を求めると、図6に示すようになる。同図に示す相関図において、pH値が(1)〜(3)の領域は、図5中パターンAの状態に対応し、pH値が(3)〜(4)の領域は、パターンBの状態に対応し、pH値が(4)以降の領域は、パターンCの状態に対応している。したがって、初期状態においてき裂内部溶液のpH値が(1)のレベルにあった場合には、時間経過とともに応力が材料に付加されていなくても、pH値は自然に(3)のレベルまで低下する。ここで、応力の作用がない場合には、pH値は(3)のレベルで一定となる。一方、よりpH値が低下するには応力の作用が必要となり、pH値は、応力の大きさに応じて、(3)〜(4)の間のうち適切な位置まで低下する。しかしながら、いかに大きな力を作用させても、pH値は、(4)のレベル以下には低下しない。すなわち、腐食が進行した孔食よりSCCが発生する場合等には、最初のき裂内部溶液のpH値が既に(5)のレベルになっていることも考えられるが、時間経過とともに水素イオン濃度は減少し、pH値は、(3)〜(4)の間の応力が作用したレベルまで後戻りし、その位置で一定となる。
【0059】
ここで、パターンBの状態に対応する(3)〜(4)の短い領域が高温水下でのSCCの発生範囲に相当する。したがって、本発明にて提案する評価方法においては、実機のき裂内部溶液のpH値を計測することにより、腐食状態が図6に示す相関図のpH範囲のどのレベルにあるのかを評価することが可能となる。したがって、実測したpH値が(3)のレベルよりも高い場合には、SCCの進展の可能性は小さく、(3)〜(4)の間にある場合には、作用応力をできるだけ減少させる対策が必要であるとか、(4)のレベル以下にある場合には、き裂内部溶液を希釈したり、材料交換の準備をしたり等の評価及び対策をとることが可能となる。また、図6に示す相関図は、装置設計の段階で作成することができるため、この評価方法においては、実機環境を模擬した実験室試験においてSCCのき裂部のpH値を計測し、安全設計に供することができる。さらに、この評価方法においては、実験室試験において計測されたpH値を用いて、上式(20)から、そのときのき裂進展速度を評価することもできる。また、図6中(4)のレベルのpH値は、十分に大きな又は無限大の応力に相当するものであり、このpH値に対するき裂進展速度に基づいて板厚設計を行えば、破壊力学的手法によらず、安全設計をすることも可能となる。
【0060】
さて、以下では、このような評価方法を適用した本発明の実施の形態として示す局部腐食進展過程評価装置について説明する。この局部腐食進展過程評価装置は、金属母材又は粒界のクロム含有量測定に対するき裂進展速度を評価するものである。
【0061】
ここで、図7に、金属材料の粒界のクロム含有量と応力作用に対する最小及び最大き裂進展速度との関係を示す相関図を示す。
【0062】
同図において、実線は、応力が作用した金属のクロム含有量に対する最大き裂進展速度を示し、破線は、最小き裂進展速度を示している。最小き裂進展速度は、図6に示した点Pminの、き裂先端部に応力が作用していない状態で濃縮して一定となったpHの状態に相当し、最大き裂進展速度は、図6に示した点Pmaxのき裂先端部に無限大応力(又は十分に大きな応力)作用した状態で一定となったpHの状態に相当する。局部腐食進展過程評価装置は、様々なクロム含有量に対する相関図について実施することにより、このような評価を得る。
【0063】
具体的には、局部腐食進展過程評価装置は、図8に示すように、被測定物の金属母材1及び溶接部2の表面を走査してクロム濃度を計測する例えば磁気力顕微鏡等からなるセンサー11と、このセンサー11から伝達される電気信号に基づいてクロム濃度を算出する計測部12と、き裂進展速度の算出に必要な所定のデータを入力する入力部13と、計測部12によって算出されたクロム濃度と入力部13を介して入力されたデータとに基づいてき裂進展速度を算出するための諸因子を算出する演算部14と、入力部13を介して入力されたデータと演算部14による計算結果とを画面上に表示する表示部15と、この表示部15に表示された情報を記録及び保存する記録部16とを備える。
【0064】
なお、センサー11は、溶接部2の近傍の溶接残留応力が高い部分のみならず、溶接金属部分、熱影響部及び母材部についても、点又は面としてクロム濃度の計測を行う。そして、それらの結果は、計測位置も含めて表示部15に表示されたり記録部16に保存されたりする。また、センサー11は、母材一般部については、表面が加工されている場合にもクロム濃度を計測する。さらに、局部腐食進展過程評価装置は、必要に応じて、表面から歪みを与えないように加工し、センサー11によって深さ方向のクロム濃度も計測する。
【0065】
このような局部腐食進展過程評価装置は、図9に示すような一連の手順にしたがって、き裂進展速度を求める。
【0066】
まず、局部腐食進展過程評価装置においては、同図に示すように、ステップS1において、センサー11及び計測部12を用いて被測定物の結晶粒界を含む金属の含有クロム量δCrを点計測又は面計測して算出する。また、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS2乃至ステップS5において、入力部13を介してき裂進展速度の算出に必要な所定のデータを入力する。具体的には、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS2において、装置設計仕様条件データとして、温度T、材質、溶存酸素濃度/水素濃度、酸素分圧PO2/水素分圧PH2、割れ寸法SM2+,SH+,lM2+,lH+を入力する。また、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS3において、高温水初期データとして、所定のセンサーによって計測したき裂内部溶液のpH値、イオン当量伝導度ΛM2+,ΛH+、クロムイオンによる水の加水分解反応の平衡定数KCrを入力する。さらに、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS4において、電気回路定数データとして、起電力Ea,Ec1,Ec2、抵抗値Ras,Rc10s,Rc1s,Ra,Rc2s、抵抗因子a1,b1を入力する。さらにまた、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS5において、き裂進展速度計算定数データとして、金属の原子量M、金属イオンの価数n、ファラデー定数F、金属の密度ρを入力する。
【0067】
続いて、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS6乃至ステップS8において、計測部12によって算出されたクロム含有量δCrと入力部13を介して入力されたデータとに基づいて、演算部14によってき裂進展速度を算出するための諸因子を算出する。具体的には、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS6において、上式(4)の演算を行い、因子a0を算出する。また、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS7において、上式(5)の演算を行い、因子b0を算出し、因子b0×δCr×KCrを算出する。さらに、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS8において、因子(1+a1)/(1+b1)×b0×δCr×KCrを算出する。
【0068】
続いて、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS9において、ステップS6乃至ステップS8にて算出した因子と、ステップS5にて入力されたデータとを用いて、演算部14によって上式(20)の演算を行い、き裂進展速度da/dtを算出する。
【0069】
そして、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS10において、これまでの演算結果を用いて、演算部14により、図6に示したようなクロム含有量毎のpH値と各因子との関係を示すダイアグラムを作成し、ステップS11において、図6に示した点Pmin,PmaxのpH値、及びき裂進展速度da/dtを算出する。
【0070】
さらに、局部腐食進展過程評価装置においては、ステップS12において、ステップS10及びステップS11にて算出したデータを用いて、演算部14により、図7に示したようなクロム含有量δCrとき裂進展速度da/dtとの関係を示すダイアグラムを作成し、ステップS13において、作成したダイアグラムを用いて、目的とする最大き裂進展速度を算出し、一連の処理を終了する。
【0071】
局部腐食進展過程評価装置は、このような一連の手順にしたがって、き裂進展速度を求め、入力部13を介して入力されたデータとともに表示部15の画面上に表示させたり、記録部16に記録及び保存させたりすることができる。
【0072】
以上説明したように、本発明の実施の形態として示す局部腐食進展過程評価装置においては、原子炉や高温水下にある金属材料のSCCを含む局部腐食のき裂進展速度を、き裂内部溶液のpH値を計測して高温水初期データとして入力して演算を行うことにより、定量的に評価することができる。また、局部腐食進展過程評価装置においては、微小なき裂内部溶液のpH値の計測が困難な場合であっても、き裂部金属の構成元素であるクロムの濃度やクロム濃度の面分布を計測することにより、全作用応力に対する最小き裂進展速度と最大き裂進展速度とを設計の段階で定量的に評価することが可能となり、また、設計条件が変更になったとしても、必要な因子を含む定量式に基づいて再評価することも容易に行うことができる。さらに、局部腐食進展過程評価装置においては、SCCの発生範囲が定式化されていることから、環境条件が変化した場合であっても、SCCの発生を抑制する範囲を評価することも可能である。
【0073】
このように、本発明を適用した局部腐食進展過程評価装置は、電気回路的手法を用いながらも、SCCを含む局部腐食の起こり得る条件、進展の可否、及び進展速度等を定量的に評価し、各種対策をとることができるという、極めて画期的なものである。
【0074】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施の形態では、き裂先端部に酸化物皮膜が存在する場合については言及していないが、本発明は、かかる場合にもき裂進展速度を評価することができる。
【0075】
図10に、き裂先端部のき裂進展速度da/dtと因子ε(KI)との関係を示す。同図中曲線Aは、き裂先端部に皮膜が存在しない場合を示し、曲線Bは、皮膜抵抗が中程度である場合を示し、曲線Cは、皮膜抵抗が大きい場合を示している。この図からわかるように、例えば、応力を付加しないときに既に曲線Cのように大きな皮膜抵抗を有する皮膜があった場合には、付加応力を増して因子ε(KI)が増加すると、き裂進展速度da/dtは、曲線Cに沿って点P0から点P1に増加する。このとき、皮膜の一部が破損して当該皮膜の等価抵抗が曲線Bのレベルまで低下すると、き裂進展速度da/dtは、曲線C上の点P1に対応する曲線B上の点P2から当該曲線Bに沿って点P3まで進行する。さらに、皮膜の破損が進行し、当該皮膜の等価抵抗が0の状態になると、き裂進展速度da/dtは、曲線B上の点P3に対応する曲線A上の点P4から当該曲線Aに沿って点P5まで進行する。すなわち、き裂進展速度da/dtは、全体として応力の付加とともに、P0→P1→P2→P3→P4→P5と進行し、点P1や点P3が閾値とも理解される。したがって、本発明においては、閾値以下の応力に対するき裂進展速度da/dtを、曲線C上の点P0から点P1までの値に基づいて評価することができる。
【0076】
このように、本発明は、き裂先端部に酸化物皮膜が存在する場合には、その皮膜抵抗が、又は、当該酸化物皮膜が応力の付加によって破損している場合には当該酸化物皮膜の等価抵抗が、き裂先端部に相当するアノードの電気化学的抵抗に直列に接続されているものとしてき裂進展速度da/dtを算出し、電気化学的に評価することができる。
【0077】
また、本発明において、き裂進展速度da/dtの応力依存性は、上述したように、一般には上式(21)によって評価することができる。しかしながら、残留応力が存在しない材料から作られた試験片を用いた定荷重試験のような場合には、応力σ∞,σyを一定とみなしても問題はない。そのため、かかる場合には、き裂進展速度da/dtの応力依存性は、次式(22)のように、因子ε(KI)や応力拡大係数KIの関数としてのみ評価することができる。
【0078】
【数26】
【0079】
さらに、本発明においては、因子ε(KI)や応力拡大係数KIが一定である条件のもとに、例えば、溶接、熱処理又は塑性加工による残留応力を考慮してき裂進展速度da/dtを評価する場合には、次式(23)を使用してもよい。
【0080】
【数27】
【0081】
このように、本発明においては、状況に応じて、き裂進展速度da/dtの応力依存性を適切に評価することができる。特に、本発明においては、き裂先端部の歪みや応力拡大係数KIのみならず、溶接、熱処理若しくは塑性加工による残留応力等の内力又は外力によって発生する、き裂先端部から十分に離れた位置での応力を考慮したき裂進展速度da/dtを定量的に求めることができる。
【0082】
このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】SCCを含む局部腐食のき裂部のモデル形状と、そのき裂部内外における腐食に関係するイオン及び分子を示す図である。
【図2】図1に示す局部腐食反応をモデル化した電気回路の構成を示す図である。
【図3】本発明にて提案する評価方法について説明するための図であり、図2に示す電気回路を流れる電流の方向を示す図である。
【図4】本発明にて提案する評価方法について説明するための図であり、図2に示す電気回路を流れる電流の方向であって図3に示す方向とは異なる方向を示す図である。
【図5】き裂内部イオンの濃縮状態を分類した因子のパターンを示す図である。
【図6】き裂内部溶液のpH値と各因子との関係を示す相関図である。
【図7】クロム含有量と応力作用に対する最小及び最大き裂進展速度との関係を示す相関図である。
【図8】本発明の実施の形態として示す局部腐食進展過程評価装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施の形態として示す局部腐食進展過程評価装置において、き裂進展速度を求める際の一連の手順を示すフローチャートである。
【図10】き裂進展速度da/dtと因子ε(KI)との関係を示す相関図である。
【符号の説明】
【0084】
1 金属母材
2 溶接部
11 センサー
12 計測部
13 入力部
14 演算部
15 表示部
16 記録部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温水中での応力腐食割れ又は腐食疲労割れを含む局部腐食の進展過程を電気回路的に評価する局部腐食進展過程評価方法であって、
腐食経路のうち、き裂先端部を金属が溶出するアノードとし、き裂外表面を酸素の還元が関与する第1のカソードとし、且つ、き裂内側壁面を水素イオンの還元が関与する第2のカソードとして構成された電気回路によって局部腐食反応を表現するとともに、き裂部内外の溶液抵抗には、溶出した金属イオン並びに加水分解反応によって生じた水素イオンを関係付けたとき、き裂内部溶液のpH値を所定の計測手段を用いて計測するpH値計測工程と、
上記pH値計測工程にて計測したpH値に基づいて、上記電気回路を流れる電流を算出するための金属イオン濃度及び水素イオン濃度を用いて表現されるき裂進展速度を、所定の演算手段によって算出する演算工程とを備えること
を特徴とする局部腐食進展過程評価方法。
【請求項2】
上記き裂内部溶液の上記水素イオンに関して、上記金属イオンの水に対する加水分解反応に、溶出した金属構成元素の組成比率が関係付けられていること
を特徴とする請求項1記載の局部腐食進展過程評価方法。
【請求項3】
上記演算工程では、上記電気回路を流れる電流を算出するための下記式(1)及び下記式(2)に示す因子f,g2を用いて、上記き裂進展速度を算出すること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載の局部腐食進展過程評価方法。
【数1】
【請求項4】
応力の作用のもとにき裂が進展する条件を下記式(3)に示す範囲とすること
を特徴とする請求項3記載の局部腐食進展過程評価方法。
【数2】
【請求項5】
上記演算工程では、上記き裂進展速度をda/dtとしたとき、下記式(4)を用いて算出し、最小き裂進展速度を、上記き裂先端部に応力が作用していない状態のき裂内部の水素イオン濃度と金属イオン濃度とを用いて評価するとともに、最大き裂進展速度を、上記き裂先端部に十分に大きな又は無限大の応力が作用した状態のき裂内部の水素イオン濃度と金属イオン濃度とを用いて評価すること
を特徴とする請求項1乃至請求項4のうちいずれか1項記載の局部腐食進展過程評価方法。
【数3】
【請求項6】
上記演算工程では、上記き裂先端部に酸化物皮膜が存在する場合には、その皮膜抵抗が、又は、当該酸化物皮膜が応力の付加によって破損している場合には当該酸化物皮膜の等価抵抗が、上記き裂先端部に相当するアノードの電気化学的抵抗に直列に接続されているものとして上記き裂進展速度を算出すること
を特徴とする請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項記載の局部腐食進展過程評価方法。
【請求項7】
上記演算工程では、上記き裂進展速度da/dtを下記式(5)を用いて算出し、その応力依存因子として、因子ε(KI)又は応力拡大係数KIの他に、上記き裂先端部から十分に離れた位置での内力又は外力によって発生する応力σ∞と金属の降伏応力σyとを用いて評価すること
を特徴とする請求項1又は請求項4記載の局部腐食進展過程評価方法。
【数4】
【請求項8】
高温水中での応力腐食割れ又は腐食疲労割れを含む局部腐食の進展過程を電気回路的に評価する局部腐食進展過程評価装置であって、
腐食経路のうち、き裂先端部を金属が溶出するアノードとし、き裂外表面を酸素の還元が関与する第1のカソードとし、且つ、き裂内側壁面を水素イオンの還元が関与する第2のカソードとして構成された電気回路によって局部腐食反応を表現するとともに、き裂部内外の溶液抵抗には、溶出した金属イオン並びに加水分解反応によって生じた水素イオンを関係付けたとき、所定の計測手段を用いて計測したき裂内部溶液のpH値を入力する入力手段と、
上記入力手段を介して入力されたpH値に基づいて、上記電気回路を流れる電流を算出するための金属イオン濃度及び水素イオン濃度を用いて表現されるき裂進展速度を算出する演算手段とを備えること
を特徴とする局部腐食進展過程評価装置。
【請求項1】
高温水中での応力腐食割れ又は腐食疲労割れを含む局部腐食の進展過程を電気回路的に評価する局部腐食進展過程評価方法であって、
腐食経路のうち、き裂先端部を金属が溶出するアノードとし、き裂外表面を酸素の還元が関与する第1のカソードとし、且つ、き裂内側壁面を水素イオンの還元が関与する第2のカソードとして構成された電気回路によって局部腐食反応を表現するとともに、き裂部内外の溶液抵抗には、溶出した金属イオン並びに加水分解反応によって生じた水素イオンを関係付けたとき、き裂内部溶液のpH値を所定の計測手段を用いて計測するpH値計測工程と、
上記pH値計測工程にて計測したpH値に基づいて、上記電気回路を流れる電流を算出するための金属イオン濃度及び水素イオン濃度を用いて表現されるき裂進展速度を、所定の演算手段によって算出する演算工程とを備えること
を特徴とする局部腐食進展過程評価方法。
【請求項2】
上記き裂内部溶液の上記水素イオンに関して、上記金属イオンの水に対する加水分解反応に、溶出した金属構成元素の組成比率が関係付けられていること
を特徴とする請求項1記載の局部腐食進展過程評価方法。
【請求項3】
上記演算工程では、上記電気回路を流れる電流を算出するための下記式(1)及び下記式(2)に示す因子f,g2を用いて、上記き裂進展速度を算出すること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載の局部腐食進展過程評価方法。
【数1】
【請求項4】
応力の作用のもとにき裂が進展する条件を下記式(3)に示す範囲とすること
を特徴とする請求項3記載の局部腐食進展過程評価方法。
【数2】
【請求項5】
上記演算工程では、上記き裂進展速度をda/dtとしたとき、下記式(4)を用いて算出し、最小き裂進展速度を、上記き裂先端部に応力が作用していない状態のき裂内部の水素イオン濃度と金属イオン濃度とを用いて評価するとともに、最大き裂進展速度を、上記き裂先端部に十分に大きな又は無限大の応力が作用した状態のき裂内部の水素イオン濃度と金属イオン濃度とを用いて評価すること
を特徴とする請求項1乃至請求項4のうちいずれか1項記載の局部腐食進展過程評価方法。
【数3】
【請求項6】
上記演算工程では、上記き裂先端部に酸化物皮膜が存在する場合には、その皮膜抵抗が、又は、当該酸化物皮膜が応力の付加によって破損している場合には当該酸化物皮膜の等価抵抗が、上記き裂先端部に相当するアノードの電気化学的抵抗に直列に接続されているものとして上記き裂進展速度を算出すること
を特徴とする請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項記載の局部腐食進展過程評価方法。
【請求項7】
上記演算工程では、上記き裂進展速度da/dtを下記式(5)を用いて算出し、その応力依存因子として、因子ε(KI)又は応力拡大係数KIの他に、上記き裂先端部から十分に離れた位置での内力又は外力によって発生する応力σ∞と金属の降伏応力σyとを用いて評価すること
を特徴とする請求項1又は請求項4記載の局部腐食進展過程評価方法。
【数4】
【請求項8】
高温水中での応力腐食割れ又は腐食疲労割れを含む局部腐食の進展過程を電気回路的に評価する局部腐食進展過程評価装置であって、
腐食経路のうち、き裂先端部を金属が溶出するアノードとし、き裂外表面を酸素の還元が関与する第1のカソードとし、且つ、き裂内側壁面を水素イオンの還元が関与する第2のカソードとして構成された電気回路によって局部腐食反応を表現するとともに、き裂部内外の溶液抵抗には、溶出した金属イオン並びに加水分解反応によって生じた水素イオンを関係付けたとき、所定の計測手段を用いて計測したき裂内部溶液のpH値を入力する入力手段と、
上記入力手段を介して入力されたpH値に基づいて、上記電気回路を流れる電流を算出するための金属イオン濃度及び水素イオン濃度を用いて表現されるき裂進展速度を算出する演算手段とを備えること
を特徴とする局部腐食進展過程評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−51500(P2008−51500A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210939(P2006−210939)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(506256127)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(506256127)
【Fターム(参考)】
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