説明

居眠り防止装置及びその方法

【課題】容易、且つ確実に居眠りの兆候を検出し、振動等の覚醒刺激を与えることによって居眠りを未然に居眠り防止装置を提供する。
【解決手段】左右の眼の脇に取り付けられ、眼球運動等による波形を検出可能な一対の電極11・12と、電極11・12により検出された波形を増幅する眼球運動増幅部13と、眼球運動増幅部13により増幅された波形から居眠りの兆候を検出する居眠り検出部14と、居眠り検出部14により検出された居眠りの兆候に基づき、覚醒刺激を与える覚醒部15とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼球運動により生じる波形に基づき、居眠りの兆候が検出された際には振動等の覚醒刺激を与えることによって居眠りを未然に防止する居眠り防止装置及びその方法である。
【背景技術】
【0002】
居眠りは、社会生活上様々な悪影響を与えている。特に自動車の運転中における運転者の居眠りは事故発生の一因となっており、居眠り運転を防止する様々な方法や装置が開発されている。特許文献1には、CCDカメラを用いて撮像した運転者の眼球の動きに基づいて、運転者が居眠り状態であることを判定する運転者の居眠り防止装置が開示されている。また、特許文献2には、運転者の脳波を測定し、α波帯域の振幅値の比に基づき、運転者の居眠り状態を検出する居眠り防止装置が開示されている。さらに、特許文献3には、運転者の耳に掛けて使用するものであって、運転者の頭や姿勢が前のめりに傾いた場合に居眠り状態であると判断し、運転者に振動を与えることにより運転者の居眠りを防止する居眠り防止器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−370559号公報
【特許文献2】特開平7-79936号公報
【特許文献3】特開2010−220983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の居眠り防止装置は、CCDカメラ等を用いて撮像した運転者の眼球を画像解析することによって、居眠り状態であるか否かを判定するため、その装置構成は複雑であり、製造コストの増加を招く結果となる。また、特許文献2記載の居眠り防止装置は、微弱な脳波を検出するセンサの性能やセンサを取り付ける位置によって、居眠りの判定結果が影響されるため、正確な居眠り判定は困難である。さらに、特許文献3の居眠り防止器は、一定角度以上首が傾いた状態となって始めて居眠り状態であると判定するため、居眠り状態を判定するタイミングが遅いという問題があると共に、運転者の個人差により、居眠り状態と判定することが困難な場合もある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、眼球運動により生じる波形に基づき、簡便、且つ正確に居眠りの兆候を検出し、装着者に覚醒刺激を与えることが可能な居眠り防止装置を提供する目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の居眠り防止装置は、左右の眼の脇に取り付けられ、眼球運動等による波形を検出可能な一対の電極と、前記電極により検出された波形を増幅する眼球運動増幅部と、前記眼球運動増幅部により増幅された波形から居眠りの兆候を検出する居眠り検出部と、前記居眠り検出部により検出された居眠りの兆候に基づき、覚醒刺激を与える覚醒部とを有することを特徴とする。
この構成により、眼球運動により生じる波形に基づき、居眠りの兆候を確実に検出し、装着者に覚醒部が覚醒刺激を与えることにより、居眠りを未然に防止することができる。ここで、居眠りの兆候とは、覚醒状態から居眠り状態に移る直前におこる兆候をいう。
【0007】
本発明の居眠り防止装置は、居眠りの兆候を検出する装置本体と、覚醒刺激を与える覚醒部本体とを有する居眠り防止装置であって、前記装置本体は、左右の眼の脇に取り付けられる一対の電極と、前記電極により検出された波形を増幅する眼球運動増幅部と、前記眼球運動増幅部により増幅された波形から居眠りの兆候を検出する居眠り検出部と、前記居眠り検出部により検出された居眠りの兆候情報を送信する第1通信部とを備え、前記覚醒部本体は、前記第1通信部により送信された居眠りの兆候情報を受信する第2通信部と、前記第2通信部により受信した居眠りの兆候情報に基づき、覚醒刺激を与える覚醒部とを備えることを特徴とする。
この構成により、装置本体とは別に、覚醒部本体を装着者の任意な箇所に装着することができるため、装置本体の小型化、軽量化を図ることができる。
【0008】
本発明の居眠り防止装置は、前記居眠り検出部が、前記眼球運動増幅部により増幅された波形から眼球運動に相当する振幅を示す波形であるか否かを判定する振幅判定部と、前記振幅判定部により判定された波形から覚醒状態から睡眠状態に入る直前の周期を示す波形であるか否かを判定する周期判定部と、前記周期判定部により判定された波形の傾きを算出する傾き算出部と、前記傾き算出部により算出された傾きが傾き閾値以下である場合に、居眠りの兆候と判定する居眠り判定部とから構成されることを特徴とする。
この構成により、眼球運動による波形の振幅、周期及び傾きから居眠りの兆候を容易に、且つ確実に検出することが可能となる。
【0009】
本発明の居眠り防止装置は、前記居眠り検出部が前記居眠りの兆候を2回以上連続して検出することにより、前記覚醒部が覚醒刺激を与えることを特徴とする。
この構成により、居眠りの兆候の検出の精度を向上させることができる。
【0010】
本発明の居眠り防止装置は、前記電極が、バネ形電極チップであることを特徴とする。
この構成により、装着者がそのまま装着することができ、使用後も拭き取り等が不要であるため、容易に使用可能である。
【0011】
本発明の居眠り防止方法は、左右の眼の脇に取り付けられる一対の電極により、眼球運動等による波形を検出する波形検出工程と、前記電極により検出された波形を増幅する眼球運動増幅工程と、前記眼球運動増幅工程により増幅された波形から居眠りの兆候を検出する居眠り検出工程と、前記居眠り検出工程により検出された居眠りの兆候に基づき、覚醒刺激を与える覚醒工程とを有する。
この構成により、眼球運動により生じた波形により、居眠りの兆候を検出し、覚醒刺激が与えられることにより、居眠りを未然に防止することができる。
【0012】
本発明の居眠り防止方法は、前記居眠り検出工程が、前記眼球運動増幅工程により増幅された波形から眼球運動に相当する振幅を示す波形であるか否かを判定する振幅判定工程と、前記振幅判定工程により判定された波形から覚醒状態から睡眠状態に入る直前の周期を示す波形であるか否かを判定する周期判定工程と、前記周期判定工程により判定された波形の傾きを算出する傾き算出工程と、前記傾き算出工程により算出された傾きが傾き閾値以下である場合に、居眠りの兆候と判定する居眠り判定工程とを有することを特徴とする。
この構成により、眼球運動により生じた波形の振幅、周期及び傾きより、居眠りの兆候を容易に、且つ確実に検出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の居眠り防止装置を用いることによって、眼球運動により生じた波形から居眠りの兆候を検出すると、覚醒刺激が与えられることによって居眠りを未然に防止することが可能である。眼球運動により生じる波形の値は脳波の数十倍であるため、居眠りの兆候の検出は比較的容易である。また眼球運動による波形は個人差が小さいため、居眠りの兆候を正確に検出することができる。なお、居眠りの兆候とは、覚醒状態から居眠り状態に移る直前におこる兆候をいう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態の居眠り防止装置の全体図。
【図2】第1実施形態の居眠り防止装置のブロック図。
【図3】第1実施形態の一対の電極が検出する波形の一例を示す図。
【図4】眼球運動による波形の理想的な波形の一例を示す図。
【図5】第1実施形態の居眠り防止装置による居眠りの兆候を検出した際の処理手順を示すフローチャート。
【図6】第2実施形態の居眠り防止装置のブロック図。
【図7】第3実施形態の居眠り防止装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔第1実施形態の居眠り防止装置〕
本発明による第1実施形態の居眠り防止装置について図面を参照して説明する。図1は第1実施形態の居眠り防止装置の全体図、図2は第1実施形態の居眠り防止装置のブロック図である。
【0016】
〈第1実施形態の居眠り防止装置の構成〉
第1実施形態の居眠り防止装置10は、左右の眼の脇に取り付けられ、眼球運動等による波形を検出可能な一対の電極である左眼球用電極11・右眼球用電極12と、左右眼球用電極11・12により検出された波形を増幅する眼球運動増幅部13と、眼球運動増幅部13により増幅された波形から居眠りの兆候を検出する居眠り検出部14と、居眠り検出部14により検出された居眠りの兆候に基づき、覚醒刺激を与える覚醒部15とを有する。図示しないが、左右眼球用電極11・12は、導体を介して、眼球運動増幅部13と電気的に接続されており、同様に眼球運動増幅部13は居眠り検出部14と電気的に接続され、居眠り検出部14は覚醒部15と電気的に接続されている。なお、居眠りの兆候とは、覚醒状態から居眠り状態に移る直前におこる兆候をいう。
【0017】
左右眼球用電極11・12は左眼、又は右眼の脇に貼布されるEOG電極である。ここで、EOG(Electro−Oculogram)とは、眼球運動の測定方法として、網膜と角膜との間の電気信号を利用する測定方法である。即ち、眼球は、角膜側が正に帯電し、網膜側が負に帯電している。そのため、EOG電極からなる左右眼球用電極11・12を眼の脇に貼付することにより、左右眼球が左右方向へ横移動することにより生じる電気信号を、左右眼球用電極11・12は波形として検出する。また、左右眼球用電極11・12が検出する波形には、左右の眼球運動以外、例えば瞼の開閉運動や顎の運動等による波形も含まれる。
【0018】
本実施形態では、左右眼球用電極11・12はバネ型電極チップであり、左右眼球用電極11・12を装着する際、クリーム等を塗布する必要が無く、使用後も拭き取り等が不要である。
【0019】
眼球運動増幅部13は、いわゆるアンプで構成されており、それぞれ左右眼球用電極11・12から検出された波形を増幅する。なお、眼球運動増幅部13は、図示しないアースが接続される。
【0020】
居眠り検出部14は、居眠りの兆候を検出すると、覚醒部15に居眠りの兆候情報を送信する。ここで、居眠りの兆候の検出方法としては、睡眠初期に現れる特徴的な現象である眼球が遅い周期で左右に移動するというSEM(slow eye movement)が知られており、覚醒状態から睡眠状態に入る際には、眼球運動が一定時間停止するため、一定時間内の眼球横移動がゆっくりとなる現象を検出する方法であり、本実施形態においてもSEMによる居眠りの兆候の検出方法を採用している。
【0021】
居眠り検出部14は、CPU等からなる制御部であり、後述する記憶部18内の各種プログラムに応じて居眠り防止装置10の全体動作を制御する中央演算処理装置である。居眠り検出部14は、振幅判定部16と、周期判定部171と、傾き算出部172と、居眠り判定部173とから構成される。
【0022】
振幅判定部16は、眼球運動増幅部13により増幅された眼球運動や顎の運動等による波形から眼球運動による波形の振幅を示す波形であるか否かを判定する。即ち、振幅判定部16は、波形の振幅が所定の閾値の範囲内である場合、眼球運動による波形であると判定し、所定の閾値の範囲外である場合、眼球運動による波形でないと判定する。ここで、眼球運動による波形は、眼球運動以外、例えば顎の運動等による波形と比較して振幅値が大きいという特性を有しており、振幅判定部16が眼球運動増幅部13により増幅された眼球運動や顎の運動等による波形から眼球運動による波形を容易に判定可能である。なお、波形の振幅とは、図3に示すように入力波形の電圧値が0から0になるまでの最大値(絶対値)とする。
【0023】
本実施形態では、眼球運動による波形を示す波形の振幅の閾値範囲は、振幅下限値を「○○μV」とし、振幅上限値を「××μV」とし、適宜設定可能な値である。尚、振幅下限値及び振幅上限値は予め記憶部18に記憶させておくことよい。
【0024】
周期判定部171は、振幅判定部16により判定された眼球運動による波形から覚醒状態から睡眠状態に入る直前の周期を示す波形であるか否かを判定する。覚醒状態では、眼球運動横移動は活発であるため、眼球運動による波形の周期は短い。一方、覚醒状態から睡眠状態に入る際、眼球運動は一定時間停止するため、一定時間内の眼球横移動がゆっくりとなり、眼球運動による波形の周期は長くなる傾向がみられる。この傾向に基づき、周期判定部171は、振幅判定部16が判定した眼球運動による波形から、その波形の周期が周期下限値以上、且つ周期上限値以下である場合、覚醒状態から睡眠状態に入る直前の周期を示す眼球運動による波形であると判定する。なお、波形の周期とは、入力波形の電圧値が0から0になるまでの長さとする(図3参照)。
【0025】
本実施形態では、眼球運動の波形の周期の閾値範囲は、周期下限値を「○×sec」とし、周期上限値「×○sec」とし、適宜設定可能な値である。尚、周期下限値及び周期上限値は予め記憶部18に記憶させておくことよい。
【0026】
傾き算出部172は、周期判定部171により判定された眼球運動による波形の傾きを算出する。眼球運動による波形の傾きは、波形の周期と波形の振幅とから算出される。具体的には、眼球運動による波形の傾きは、入力波形の電圧値が0となった点と振幅下限値を超えた点を結んだ線と、電圧が0の軸との成す角度である(図4参照)。算出された眼球運動による波形の傾きは、後述する居眠り判定部173に出力される。
【0027】
居眠り判定部173は、傾き算出部172により算出された波形の傾きが傾き閾値以下である場合に、居眠りの兆候と判定する。眼球運動による波形にはノイズが含まれている可能性があるため、居眠り判定部173は、傾き算出部172により算出された波形の傾きが傾き閾値以下である場合、居眠りの兆候であると判定する。一方、算出された波形の傾きが傾き閾値以上である場合、急激すぎる変化とみなし、居眠りの兆候ではなく、ノイズと判定する。
【0028】
本実施形態では、図4に示す理想的な眼球運動による波形において、振幅の最大値は周期の2分の1の点となるとみなされることから、居眠りの兆候であると判定可能な眼球運動の波形の傾き閾値として、振幅下限値と周期下限値を所定の大きさで分割したものとから算出する。
【0029】
また、居眠り判定部173が居眠りの兆候を2回連続検出した場合、居眠り検出部14が居眠りの兆候情報を覚醒部15に送信させてもよい。さらに、連続した眼球運動による波形の振幅が、プラス方向とマイナス方向とに逆点している場合、居眠り判定部173が居眠りの兆候であると判定してもよく、連続した眼球運動による波形が所定の時間内で発生している場合、居眠り判定部173が居眠りの兆候であると判定してもよい。
【0030】
覚醒部15は、居眠り検出部14が居眠りの兆候を検出すると、居眠り防止装置10の装着者に覚醒刺激を与える。即ち、覚醒部15は、居眠り検出部14より送信された居眠りの兆候情報を受信すると、振動モーターから構成された覚醒部15は覚醒刺激として居眠り防止装置10の装着者に振動を与える。
【0031】
記憶部18は、不揮発性メモリ(内部メモリ)からなり、例えば、フラッシュメモリなどによって構成される。記憶部18はプログラム領域とデータ領域とを有し、前記プログラム領域には、後述する図5に示す処理手順に応じて第1実施形態を実現するためのプログラムが格納されている。前記データ領域には、眼球運動による波形の振幅下限値、振幅上限値、周期下限値、周期上限値及び傾き閾値が格納されている。
【0032】
装置本体20は樹脂、又は金属から形成されており、装置本体20は装着者の額上に容易に配置でき、名刺より1、2周り程度小さい筐体形状である。装置本体20の両端には、装着バンド21が取り付けられており、装置本体20を額の中心に合わせるようにして、装着者の頭部に装着することが可能である。
【0033】
装着バンド21は、伸縮性のある素材、又は装着者の頭部のサイズに合わせて長さが自在に調整できる構成であるとよい。さらに、装着バンド21は装着者の汗等による影響を回避するため、通気性や耐水性に優れた素材であると好適である。
【0034】
また装置本体20内部に居眠り検出部14及び覚醒部15の駆動源として、図示しない小型バッテリーや小型電池等、例えばコイン型リチウム電池が内蔵されており、小型電池等は居眠り検出部14及び覚醒部15と電気的に接続される。
【0035】
〈第1実施形態の居眠り防止装置の処理手順〉
居眠り防止装置10による居眠りの兆候を検出した際の処理手順を、図5に示すフローチャートにより説明する。装着者は左右眼球用電極11・12がそれぞれ左右の眼の脇に、装置本体20が装着者の額の中心に位置するように居眠り防止装置10を装着する。
【0036】
ステップS101において、左右眼球用電極11・12が眼球運動や顎の運動等により生じた電気信号による波形を検出し、検出した波形を眼球運動増幅部13に出力する。
【0037】
ステップS102において、眼球運動増幅部13が、ステップS101により検出した波形を増幅し、増幅した波形を居眠り検出部14に出力する。
【0038】
ステップS103において、居眠り検出部14の振幅判定部16が、眼球運動増幅部13により増幅された眼球運動や顎の運動等による波形から眼球運動による波形の振幅を示す波形であるか否かを判定する。即ち、振幅判定部16は、波形の振幅が所定の閾値の範囲内である場合、眼球運動による波形であると判定し、所定の閾値の範囲外である場合、眼球運動による波形でないと判定する。なお、波形の振幅とは、図3に示すように入力波形の電圧値が0から0になるまでの最大値(絶対値)とする。
【0039】
本実施形態では、眼球運動による波形を示す波形の振幅の閾値範囲は、振幅下限値を「○○μV」とし、振幅上限値を「××μV」とし、適宜設定可能な値である。
【0040】
ステップS104において、居眠り検出部14の周期判定部171は、振幅判定部16により判定された眼球運動による波形から覚醒状態から睡眠状態に入る直前の周期を示す波形であるか否かを判定する。具体的には、周期判定部171は、振幅判定部16が判定した眼球運動による波形から、その波形の周期が周期下限値以上、且つ周期上限値以下である場合、覚醒状態から睡眠状態に入る直前の周期を示す眼球運動による波形であると判定する。なお、波形の周期とは、入力波形の電圧値が0から0になるまでの長さとする(図3参照)。
【0041】
本実施形態では、眼球運動の波形の周期の閾値範囲は、周期下限値を「○×sec」とし、周期上限値「×○sec」とし、適宜設定可能な値である。尚、周期下限値及び周期上限値は予め記憶部18に記憶させておくことよい。
【0042】
ステップS105において、傾き算出部172は、周期判定部171により判定された眼球運動による波形の傾きを算出する。眼球運動による波形の傾きは、波形の周期と波形の振幅とから算出される。具体的には、眼球運動による波形の傾きは、入力波形の電圧値が0となった点と振幅下限値を超えた点を結んだ線と、電圧が0の軸との成す角度である(図4参照)。
【0043】
ステップS106において、居眠り判定部173は、傾き算出部172により算出された波形の傾きが傾き閾値以下である場合に、居眠りの兆候と判定する。眼球運動による波形にはノイズが含まれている可能性があるため、居眠り判定部173は、傾き算出部172により算出された波形の傾きが傾き閾値以下である場合、居眠りの兆候であると判定すると共に、居眠りの兆候情報を覚醒部16に送信し、ステップS107に進む。一方、算出された波形の傾きが傾き閾値以上である場合、居眠りの兆候ではないと判定し、左右眼球用電極11・12による眼球運動による波形の検出に戻る。本実施形態では、眼球運動の波形の傾き閾値は、振幅下限値と周期下限値を所定の大きさで分割したものとから算出される値である。
【0044】
また、居眠り判定部173は、2回連続して居眠りの兆候を検出した後、ステップS107に進む構成としてもよい。さらに、連続した眼球運動による波形の振幅が、プラス方向とマイナス方向とに逆点した際、ステップS107に進む構成としてもよく、連続した眼球運動による波形が所定の時間内で発生した際、ステップS107に進む構成としてもよい。これらの構成により、居眠り判定部173による居眠りの兆候の検出精度をより一層向上させることができる。
【0045】
ステップS107において、覚醒部16は、ステップS106より送信された居眠りの兆候情報を受信後、覚醒部16を構成する振動モーターを作動させることにより装着者に振動を与え、装着者の居眠りを未然に防止する。
【0046】
〈第1実施形態の効果〉
第1実施形態の居眠り防止装置10は、いわゆるSEMに基づき、装着者の居眠りの兆候を検出し、装着者に覚醒刺激を与えることによって居眠りを未然に防止することが可能である。SEMは個人差が小さいため、正確、且つ確実に居眠りの兆候を検出できる。
【0047】
第1実施形態の居眠り防止装置10は、眼球運動による波形の振幅、周期及び傾きから居眠りの兆候を容易に、且つ確実に検出することが可能となる。また、居眠りの兆候を2回連続検出した場合や、連続した眼球運動による波形の振幅が、プラス方向とマイナス方向とに逆点した場合や、連続した眼球運動による波形が所定の時間内で発生している場合に、居眠り判定部173が居眠りの兆候であると判定することにより、居眠りの兆候の検出精度をより一層向上させるとができる。
【0048】
第1実施形態の居眠り防止装置10の電極が、バネ形電極チップであることにより、装着する際、クリーム等を塗布する必要が無く、使用後も拭き取り等が不要である。
【0049】
第1実施形態の居眠り防止装置10は、電極、電子回路、バイブレータ的な小型モータ、駆動源として小型電池とから構成されており、装着者の頭部に装着可能な大きさ、寸法、重さで実現されており、装着者にかかる負担はきわめて小さく、長時間装着可能である。
【0050】
〔第2実施形態の居眠り防止装置〕
次に、第2実施形態の居眠り防止装置10aについて説明する。図6は本発明による第2実施形態の居眠り防止装置のブロック図である。
【0051】
〈第2実施形態の居眠り防止装置の構成〉
第2実施形態の居眠り防止装置10aは、居眠りの兆候を検出する装置本体20aと覚醒部33を備える覚醒部本体30とが別個からなる構成である。ここで、第1実施形態の居眠り防止装置10と同じ構成については、同じ符号を付与し、詳細な説明は省略する。
【0052】
装置本体20aは、眼球運動増幅部13と、居眠り検出部14と、記憶部18と、第1通信部19とを備える。居眠り検出部14は、居眠りの兆候を検出すると、居眠りの兆候情報を第1通信部19から後述する覚醒部本体30に送信する。
【0053】
第1通信部19は、後述の覚醒部本体30に設けられた第2通信部31と相互に無線通信をすることができる。居眠りの兆候が判定された際、第1通信部19は第2通信部31に居眠りの兆候情報を送信する。
【0054】
覚醒部本体30は、第2通信部31と制御部32と覚醒部33とを備える。覚醒部本体30は、装着者のポケットに収まる程度の大きさにすることができ、また腕時計型等とする場合、装着者の手首に装着できる。さらに、覚醒部本体30は、図示しない記憶部を有しており、記憶部は、記憶部18と同様にフラッシュメモリなどによって構成され、後述する処理手順に応じて第2実施形態を実現するためのプログラムが格納されている。なお、腕時計型以外にも、装着者の腕に装着できる形状にしてもよい。
【0055】
第2通信部31は、第1通信部19から送信された居眠りの兆候情報を受信する。制御部32は、CPU等からなり、第2通信部31が居眠りの兆候情報を受信した際、覚醒部33を作動させる。覚醒部33は、振動モーター等から構成され、覚醒刺激として居眠り防止装置10aの装着者に振動を与える。なお、覚醒部本体30内部に覚醒部33等の駆動源として、図示しない小型電池等が内蔵されており、小型電池等は覚醒部33等と電気的に接続される。
【0056】
〈第2実施形態の居眠り防止装置の処理手順〉
次に、第2実施形態の居眠り防止装置10aによる居眠りの兆候を検出した時の処理手順は、図3に示す第1実施形態の居眠り防止装置10の処理手順と一部の手順を除き、ほぼ同じであるため、第1実施形態と異なる手順のみ、以下説明する。
【0057】
ステップS106において、居眠り判定部173は、傾き算出部172により算出された波形の傾きが傾き閾値以下である場合に、居眠りの兆候であると判定すると、居眠り検出部14は第1通信部19から覚醒部本体30に設けられた第2通信部31に居眠りの兆候情報を送信する。
【0058】
ステップS107において、ステップS106により送信された居眠りの兆候情報を第2通信部31が受信すると、制御部32は覚醒部33を構成する振動モーターを作動させ、装着者に振動を与えることにより、装着者の居眠りを未然に防止する。
【0059】
〈第2実施形態の効果〉
第2実施形態の居眠り防止装置10aは、居眠りの兆候を検出する装置本体20aと覚醒部33を備えた覚醒部本体30とが別個である構成であるため、装置本体20aの小型化及び軽量化を図ることができる。また、第2実施形態の居眠り防止装置10aは、ポケットに収まる、又は第三者には腕時計と視認されるため、第三者により気付かれずに居眠りを未然に防止することが可能となる。
【0060】
〔第3実施形態の居眠り防止装置〕
次に、第3実施形態の居眠り防止装置10bについて説明する。図7は本発明による第3実施形態の居眠り防止装置10bのブロック図である。
【0061】
〈第3実施形態の居眠り防止装置の構成〉
第3実施形態の居眠り防止装置10bは、居眠りの兆候を検出する装置本体20bと、第2実施形態の覚醒部本体30に代えて装着者が所有する携帯電話機40とから構成される。ここで、第1、第2実施形態の居眠り防止装置10、10aと同じ構成については、同じ符号を付与し、詳細な説明は省略する。
【0062】
記憶部18には、予め携帯電話機40の電話番号、又はメールアドレスが格納される。また、第1通信部19は、携帯電話機40と相互に無線通信をすることができる。
【0063】
携帯電話機40は、居眠り防止装置10b専用である必要はなく、装着者が既に所有する携帯電話機であればよい。居眠り検出部14によって、居眠りの兆候が検出されると、携帯電話機40に何らかの信号、例えば電話、又はメールが送信されることにより、予め設定された携帯電話機40のバイブレーション機能等を作動させ、装着者に覚醒刺激を与える。
【0064】
〈第3実施形態の居眠り防止装置の処理手順〉
次に、第3実施形態の居眠り防止装置10bによる居眠りの兆候を検出した時の処理手順は、図3に示す第1実施形態の居眠り防止装置10の処理手順と一部の手順を除き、ほぼ同じであるため、第1実施形態と異なる手順のみ、以下説明する。
【0065】
ステップS106において、居眠り判定部173は、傾き算出部172により算出された波形の傾きが傾き閾値以下である場合に、居眠りの兆候であると判定すると、居眠り検出部14は、記憶部18に予め記憶させた携帯電話機40の電話番号、又はメールアドレスに基づき、第1通信部19から携帯電話機40に電話をかけ、又はメールを送信する。
【0066】
ステップS107において、携帯電話機40が、ステップS106による電話を着信、又はメールを受信すると、予め設定した携帯電話機40のバイブレーション機能が作動する。そして、装着者に振動刺激を与え、装着者の居眠りを未然に防止する。
【0067】
〈第3実施形態の効果〉
第3実施形態の居眠り防止装置10bは、居眠りの兆候が検出された際、装着者の所持する携帯電話機40の機能、例えば振動等させることにより、居眠りを未然に防止することが可能となる。また、居眠り防止装置10bは覚醒部として携帯電話機の機能を利用してるため、装置本体20bに覚醒部を設ける必要はなく、また第2実施形態の覚醒部本体30も必要がないため、居眠り防止装置10bの製造コストをより低減出来ると共に、居眠り防止装置10bの小型化・軽量化を図ることも可能となる。
【0068】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含み、下記の変形例等も包含する。
【0069】
第1実施形態の居眠り防止装置10を、メガネフレームと一体化して設ける構成とすることができる。左右眼球用電極11・12がメガネフレームの左右テンプル部に設け、且つ覚醒部15がメガネフレームのブリッジ部に設ける構成とすることも可能である。メガネフレームと一体化して設けられているため、第三者に気付かれることなく、装着者の居眠りを未然に防止することができる。
【0070】
第1〜第3実施形態では、覚醒刺激として装着者に振動を与える構成としたが、音や光といった覚醒刺激を与える構成としてもよい。
【0071】
第2、3実施形態では、覚醒部を装置本体ではなく、覚醒部本体に設ける構成としたが、居眠り検出部14を装置本体でなく、覚醒部本体に設ける構成としてもよい。これにより、装着者の頭部に装着させる装置本体のさらなる軽量化を図ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、運転手等を始めとする装着者の居眠りを未然に防止する居眠り防止装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
10、10a、10b…居眠り防止装置 11…左眼球用電極
12…右眼球用電極 13…眼球運動増幅部
14…居眠り検出部 15、33…覚醒部
16…振幅判定部 18…記憶部
19…第1通信部 20、20a、20b…装置本体
21…装着バンド 30…振動部本体
31…第2通信部 32…制御部
40…携帯電話 171…周期判定部
172…傾き算出部 173…居眠り判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の眼の脇に取り付けられ、眼球運動等による波形を検出可能な一対の電極と、
前記電極により検出された波形を増幅する眼球運動増幅部と、
前記眼球運動増幅部により増幅された波形から居眠りの兆候を検出する居眠り検出部と、
前記居眠り検出部により検出された居眠りの兆候に基づき、覚醒刺激を与える覚醒部と、
を有することを特徴とする居眠り防止装置。
【請求項2】
居眠りの兆候を検出する装置本体と、覚醒刺激を与える覚醒部本体とを有する居眠り防止装置であって、
前記装置本体は、左右の眼の脇に取り付けられる一対の電極と、前記電極により検出された波形を増幅する眼球運動増幅部と、前記眼球運動増幅部により増幅された波形から居眠りの兆候を検出する居眠り検出部と、前記居眠り検出部により検出された居眠りの兆候情報を送信する第1通信部とを備え、
前記覚醒部本体は、前記第1通信部により送信された居眠りの兆候情報を受信する第2通信部と、前記第2通信部により受信した居眠りの兆候情報に基づき、覚醒刺激を与える覚醒部とを備えることを特徴とする居眠り防止装置。
【請求項3】
前記居眠り検出部が、前記眼球運動増幅部により増幅された波形から眼球運動に相当する振幅を示す波形であるか否かを判定する振幅判定部と、前記振幅判定部により判定された波形から覚醒状態から睡眠状態に入る直前の周期を示す波形であるか否かを判定する周期判定部と、前記周期判定部により判定された波形の傾きを算出する傾き算出部と、前記傾き算出部により算出された傾きが傾き閾値以下である場合に、居眠りの兆候と判定する居眠り判定部とから構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の居眠り防止装置。
【請求項4】
前記居眠り検出部が前記居眠りの兆候を2回以上連続して検出することにより、前記覚醒部が覚醒刺激を与えることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の居眠り防止装置。
【請求項5】
前記電極が、バネ形電極チップであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の居眠り防止装置。
【請求項6】
左右の眼の脇に取り付けられる一対の電極により、眼球運動等による波形を検出する波形検出工程と、
前記電極により検出された波形を増幅する眼球運動増幅工程と、
前記眼球運動増幅工程により増幅された波形から居眠りの兆候を検出する居眠り検出工程と、
前記居眠り検出工程により検出された居眠りの兆候に基づき、覚醒刺激を与える覚醒工程と、
を有することを特徴とする居眠り防止方法。
【請求項7】
前記居眠り検出工程が、前記眼球運動増幅工程により増幅された波形から眼球運動に相当する振幅を示す波形であるか否かを判定する振幅判定工程と、前記振幅判定工程により判定された波形から覚醒状態から睡眠状態に入る直前の周期を示す波形であるか否かを判定する周期判定工程と、前記周期判定工程により判定された波形の傾きを算出する傾き算出工程と、前記傾き算出工程により算出された傾きが傾き閾値以下である場合に、居眠りの兆候と判定する居眠り判定工程とを有することを特徴とする請求項6記載の居眠り防止方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−85576(P2013−85576A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225994(P2011−225994)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(501263946)パシフィックメディコ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】