説明

屈折率測定装置および濃度測定装置並びにその方法

【課題】装置の小型化を図りつつ、高精度に測定対象物の屈折率を測定することができる屈折率測定装置を提供する。
【解決手段】所定の間隔をあけて近接して配置され、入射端面11から入射させた照明光を内面反射させて反射端面12まで導く導光ロッド10および導光ロッド20と、導光ロッド10に照明光を入射させることで、導光ロッド20内に入射するエバネッセント光の強度を検出する光検出器27と、光検出器27により検出されたエバネッセント光の強度の変化から、導光ロッド10と導光ロッド20との間に配置された試料Sの屈折率の変化を算出するCPU30とを備える屈折率測定装置1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率測定装置およびこれを備える濃度測定装置並びにその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば液体等の測定対象物の屈折率を測定する屈折率測定装置が知られている(例えば、特許文献1から3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−51863号公報
【特許文献2】特表2005−533242号公報
【特許文献3】特開2000−146836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている屈折率測定装置では、全反射プリズムの上におかれた試料側から、プリズムと試料との境界面近傍にセンサーを置き、エバネッセント波の強度を測定することで試料の屈折率を測定する。
しかしながら、この屈折率測定装置は、試料台の上に置かれた試料側からセンサーを近づける構成になっているため、装置が大型になり、小型の測定装置を実現できないという不都合がある。
【0005】
特許文献2に開示されている屈折率測定装置では、全反射プリズムの上におかれた試料側の標準サンプルとの屈折率差を測定する。
しかしながら、この屈折率測定装置は、試料台の上に置かれた試料の屈折率を測定する構成であるため、装置が大型になり、小型の測定装置を実現できないという不都合がある。
【0006】
特許文献3に開示されている屈折率測定装置では、既知の物質Aの上にエバネッセント波が伝わる深さ以下の薄膜Bをつけ、反射光強度の変化量から物質C側にもれ出る強度を検出し、物質Bの屈折率を求めている。
しかしながら、この屈折率測定装置は、反射光強度の変化量が小さいため、屈折率測定精度が低いという不都合がある。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、装置の小型化を図りつつ、高精度に測定対象物の屈折率を測定することができる屈折率測定装置およびこれを備える濃度測定装置並びにその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の第1の態様は、所定の間隔をあけて近接して配置され、一端面から入射させた照明光を内面反射させて他端面まで導く第1の導光部材および第2の導光部材と、前記第1の導光部材に照明光を入射させることで、前記第2の導光部材内に入射するエバネッセント光の強度を検出する光検出器と、前記光検出器により検出されたエバネッセント光の強度の変化量から、前記第1の導光部材と前記第2の導光部材との間に配置された試料の屈折率の変化量を算出する算出部とを備える屈折率測定装置である。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、第1の導光部材に入射させた照明光が、第1の導光部材の内側面を反射して端面まで導かれる。この場合において、第1の導光部材と第2の導光部材との間においてエバネッセント場が発生し、該エバネッセント場により第1の導光部材と第2の導光部材との間に配置された試料内にエバネッセント光が発生する。このエバネッセント光は、第2の導光部材に入射して、第2の導光部材の内側面を反射して端面まで導かれ、該端面から射出されて光検出器により検出される。
【0010】
この場合において、エバネッセント光の強度は、第1の導光部材と第2の導光部材との間に配置された試料の屈折率によって変化するため、光検出器により検出されたエバネッセント光の強度の変化量から、算出部により試料の屈折率の変化量を算出することができる。
【0011】
上記のように、本発明の第1の態様によれば、2つの導光部材、1つの光検出器、および算出部により試料の屈折率の変化量を算出することができ、装置の小型化を図ることができる。また、エバネッセント光を用いて試料の屈折率の変化量を算出することにより、従来のアッべ式屈折率計に比べて高精度に試料の屈折率の変化量を測定することができる。
【0012】
上記態様において、前記算出部が、前記光検出器により検出されたエバネッセント光の強度の変化量から、以下の式に基づいて前記試料の屈折率の変化量を算出することとしてもよい。
【数1】

ここで、
E:エバネッセント光の強度
θ:前記第1の導光部材内における照明光の試料への入射角
:前記第1の導光部材および前記第2の導光部材の屈折率
:前記試料の屈折率
λ:照明光の波長
z:前記第1の導光部材と前記試料との界面からの距離
ω:角振動数
t:時間
A,σ:所定の定数
【0013】
このようにすることで、第1の導光部材内における照明光の試料への入射角θ、第1の導光部材および第2の導光部材の屈折率n、および照明光の波長λが既知の場合に、エバネッセント光の強度Eの変化量を測定することで、試料の屈折率nの変化量を算出することができる。
【0014】
上記態様において、前記算出部が、予め設定された前記試料の屈折率の基準値および前記光検出器により検出されたエバネッセント光の強度の変化量から、前記試料の屈折率を算出することとしてもよい。
このようにすることで、予め設定された試料の屈折率の基準値に、光検出器により検出されたエバネッセント光の強度の変化量から算出される試料の屈折率の変化量を加減算することにより、試料の屈折率を算出することができる。
【0015】
上記態様において、前記第1の導光部材への照明光の入射角度を調節する入射角度調節部を備え、前記入射角度調節部が、前記第1の導光部材内において全反射を起こすように前記第1の導光部材への照明光の入射角度を調節し、前記算出部が、以下の式に基づいて前記試料の屈折率を算出することとしてもよい。
θc=arcsin(n/n
ここで、
θc:前記第1の導光部材内において全反射を起こす前記試料への入射角
:前記第1の導光部材および前記第2の導光部材の屈折率
:前記試料の屈折率
【0016】
このようにすることで、第1の導光部材内において全反射を起こすように第1の導光部材への照明光の入射角を調節し、その際の第1の導光部材内における試料への入射角と第1の導光部材および第2の導光部材の屈折率とから、試料の屈折率を容易に算出することができる。
【0017】
上記態様において、前記他端面が、前記一端面から入射させた照明光を全反射することとしてもよい。
このように構成することで、一端面から入射した照明光を、第1の導光部材の内側面により反射を繰り返して他端面まで導くとともに、他端面により反射して再び一端面まで導くことができる。このようにすることで、第1の導光部材と試料との界面における全反射の回数を増加させることができ、第1の導光部材と第2の導光部材との間において発生するエバネッセント場の強度を大きくすることができる。これにより、光検出器により検出されるエバネッセント光の強度を大きくすることができ、試料の屈折率の変化量の測定精度を向上することができる。
【0018】
上記態様において、前記一端面に入射させる照明光の波長を調節する波長調節部を備えることとしてもよい。
このように構成することで、第1の導光部材に入射させる照明光の波長を波長調節部により調節しながら、波長毎の試料の屈折率の変化量を算出することができ、試料の屈折率の変化量の測定精度を向上することができる。
【0019】
本発明の第2の態様は、上記の屈折率測定装置と、前記第1の導光部材からの照明光の波長スペクトルを測定するスペクトル測定部と、前記スペクトル測定部により測定された波長スペクトルおよび前記算出部により算出された前記試料の屈折率の変化量から、前記試料の濃度の変化量を多変量解析により演算する演算部とを備える濃度測定装置である。
【0020】
本発明の第2の態様によれば、屈折率測定装置により試料の屈折率の変化量を算出するとともに、スペクトル測定部により第1の導光部材からの照明光の波長スペクトルを測定することができる。そして、このように算出された波長スペクトルおよび試料の屈折率の変化量から、演算部により試料の濃度の変化量を多変量解析により演算することができる。このように試料の濃度の変化量を演算することで、単純に試料の屈折率から濃度を演算する場合に比べて、その測定精度を向上することができる。
【0021】
本発明の第3の態様は、所定の間隔をあけて近接して配置された第1の導光部材および第2の導光部材のうち、前記第1の導光部材の一端面に照明光を入射させて他端面まで導く導光ステップと、前記導光ステップにより前記第2の導光部材内に発生するエバネッセント光の強度を検出する光検出ステップと、前記光検出ステップにより検出されたエバネッセント光の強度の変化量から、前記第1の導光部材と前記第2の導光部材との間に配置された試料の屈折率の変化量を算出する算出ステップとを含む屈折率測定方法である。
【0022】
本発明の第4の態様は、上記の屈折率測定方法と、前記第1の導光部材からの照明光の波長スペクトルを測定するスペクトル測定ステップと、前記スペクトル測定ステップにより測定された波長スペクトルおよび前記算出ステップにより算出された前記試料の屈折率の変化量から、前記試料の濃度の変化量を多変量解析により演算する演算ステップとを含む濃度測定方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、装置の小型化を図りつつ、高精度に測定対象物の屈折率を測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る屈折率測定装置の全体構成図である。
【図2】図1の導光ロッドの斜視図である。
【図3】図1の導光ロッドにおける照明光およびエバネッセント光の伝播状態を説明する図である。
【図4】屈折率の測定原理を説明する図である。
【図5】エバネッセント光の発生原理を説明する図である。
【図6】具体例における各パラメータおよび測定値の一覧図表である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る濃度測定装置の全体構成図である。
【図8】図7のCPUにより実行される処理を示すブロック図である。
【図9】第1の変形例に係る濃度測定装置の導光ロッドの斜視図である。
【図10】第2の変形例に係る濃度測定装置の導光ロッドの斜視図である。
【図11】第3の変形例に係る屈折率測定装置の要部の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1の実施形態]
以下に、本発明の第1の実施形態に係る屈折率測定装置1について、図1から図6を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る屈折率測定装置1は、図1に示されるように、光源25と、波長調節装置(波長調節部)35と、レンズL1と、ミラー15と、導光ロッド(第1の導光部材)10と、導光ロッド(第2の導光部材)20と、レンズL2と、光検出器27と、CPU(算出部)30と、モニタ31と、制御装置38を備えている。
【0026】
光源25は、広帯域な波長成分を有する照明光をミラー15に向けて射出するようになっている。光源25の射出光軸上には、後述する波長調節装置35と、波長調節装置35からの照明光を集光するレンズL1と、レンズL1により集光された照明光のうち一部を通過させる絞り16とが配置されている。
【0027】
波長調節装置35は、光源25の射出光軸上に配置されたフィルタホイール36と、フィルタホイール36を光源25の射出光軸に沿う回転軸回りに回転させる回転部37とを備えている。フィルタホイール36は、互いに異なる波長帯域の光を透過させる複数のバンドパスフィルタ(図示略)が周方向に搭載されている。
【0028】
このような構成を有することで、波長調節装置35は、後述する制御装置38からの指令に基づいて回転部37によりフィルタホイール36を回転させることによって、光源25からの照明光のうち所定の波長帯域の光をミラー15に向けて射出するようになっている。
【0029】
絞り16は、レンズL1により集光された照明光のうち、導光ロッド10の入射端面11に所定の入射角以下で入射する照明光のみを通過させるようになっている。より具体的には、絞り16は、レンズL1により集光された照明光のうち、導光ロッド10の内側面において全反射する照明光(すなわち、導光ロッド10内において臨界角以上で導光ロッド10の内側面に入射する照明光)のみを、導光ロッド10の入射端面11に入射させるようになっている。
【0030】
ミラー15は、絞り16を通過してきた照明光を導光ロッド10の入射端面(一端面)11に向けて反射するようになっている。
導光ロッド10と導光ロッド20とは、図2に示すように、所定の間隔dをあけて近接して並行に配置されている。
【0031】
導光ロッド10は、例えばガラス等で形成された棒状のロッドであり、入射端面11から入射させた照明光を、内側面により内面反射させて入射端面11とは他端側に配置された反射端面(他端面)12まで導くようになっている。反射端面12は、導光ロッド10内を導かれてきた照明光を全反射するようになっている。
【0032】
このような構成を有することで、導光ロッド10は、入射端面11から入射した照明光を、導光ロッド10の内側面により反射を繰り返して反射端面12まで導くとともに、反射端面12により全反射して再び入射端面11まで導くようになっている。
【0033】
導光ロッド20は、例えばガラス等で形成された棒状のロッドであり、後述するように、エバネッセント場により発生したエバネッセント光を、内側面により内面反射させて反射端面22まで導くようになっている。反射端面22は、導光ロッド20内を導かれてきたエバネッセント光を全反射するようになっている。なお、エバネッセント光の発生原理については後述する。
【0034】
このような構成を有することで、導光ロッド20は、図3に示すように、エバネッセント場により発生したエバネッセント光を、導光ロッド20の内側面により反射を繰り返して反射端面22まで導くとともに、反射端面22により全反射して出射端面21まで導くようになっている。
【0035】
また、導光ロッド10と導光ロッド20との間には、屈折率の測定対象である試料Sが配置されている。具体的には、例えば試料Sとして生体試料を採用した場合には、導光ロッド10と導光ロッド20とを所定の間隔をあけた状態で、導光ロッド10および導光ロッド20を生体内に挿入し、導光ロッド10の入射端面11および導光ロッド20の出射端面21を生体外に露出させる。
【0036】
光検出器27は、導光ロッド20の射出光軸上に配置されており、導光ロッド20の出射端面21からのエバネッセント光の強度を検出するようになっている。
また、導光ロッド20と光検出器27との間には、導光ロッド20からのエバネッセント光を集光するレンズL2が設けられている。
【0037】
CPU30は、光検出器27により検出されたエバネッセント光の強度の変化量から、導光ロッド10と導光ロッド20との間に配置された試料Sの屈折率の変化量を算出するようになっている。
【0038】
モニタ31は、CPU30より算出された試料Sの屈折率の変化量や、波長調節装置35により選択的に透過される照明光の波長等の情報を表示するようになっている。
制御装置38は、CPU30からの指令に基づいて回転部37を動作させて、波長調節装置35から射出する照明光の波長を制御するようになっている。
【0039】
ここで、本実施形態に係る屈折率測定装置1による屈折率の測定原理について以下に説明する。
図4に示すように、屈折率が異なる物質が接している界面では反射が起こる。物質A,物質Bの屈折率をそれぞれn,nとしたとき、n>nのとき、ある角度以上の入射角θcで全反射が起こることが知られている。この全反射角は次式で与えられる。
θc=arcsin(n/n
【0040】
入射角θcがこの角度以上であれば、物質Aと物質Bとの界面での反射は全反射であり、反射率は1となる。この状態では物質Aから物質Bへのエネルギーの流れは生じないが、図5に示すように、物質B側にはエバネッセント場といわれる電場Eが発生する。この電場Eは、物質Aと物質Bとの界面からの距離zに対して指数関数的に減衰する。この電場Eは以下の式で与えられる(例えば、光工学ハンドブック p33 朝倉書店 小瀬ら 参照)。
【0041】
【数2】

【0042】
ここで、上記の式における各文字は以下を表わしている。
E:エバネッセント光の強度
θ:物質A(導光ロッド10)内における照明光の物質B(試料S)への入射角
:物質A(導光ロッド10)および物質C(導光ロッド20)の屈折率
:物質B(試料S)の屈折率
λ:照明光の波長
z:物質A(導光ロッド10)と物質B(試料S)との界面からの距離
ω:角振動数
t:時間
x:測定点の図4のx座標の値
A,σ0:所定の定数
【0043】
上記の式においてexpの項が電場の振幅の減衰を表す項であり、界面での強度を1としたとき、z方向で概ね光の波長程度で1/eに減衰する。
巨視的にはエネルギーの流れはないが、このエバネッセント場中に例えば蛍光物質があれば、その蛍光物質が励起されて蛍光が発生する。また、エバネッセント場中に屈折率の高い物質Cを置いた場合には、入射角が物質Aと物質Bで決まる全反射角以上、物質Aと物質Cで決まる全反射角以下の条件において、物質C中には再びエネルギーの流れが生じる。
【0044】
図5は上記の状態を表したものである。物質Aと物質Bとの界面に対して、微小間隔dだけ離れた位置に物質Bと物質Cとの界面が配置されている。物質C内の矢印は単にエネルギーの流れる方向を示しているものである。
【0045】
入射光のエネルギー量に対して物質Cに流れ込むエネルギー量の比を透過率Tとすると、透過率Tは、物質A,B,Cの屈折率n,n,nと、物質Aと物質Cとの間隔dと、入射角θの関数となる。すなわち、物資A,物質Cの屈折率n,nと、間隔dと、入射角θが既知であれば、透過率Tはnのみの関数となる。
【0046】
上記の原理を本実施形態に係る屈折率測定装置1に適用すると、屈折率が未知の媒質中(試料S)に屈折率のわかっている導光ロッド10と導光ロッド20を波長以下の所定の間隔dだけ離し、所定の角度で導光ロッド10に光を入射させると、上記の説明のように導光ロッド20に漏れ出す光(エバネッセント光)が出現する。このエバネッセント光の強度の変化量を検出することで、試料Sの屈折率の変化量を知ることができる。なお、本実施形態においてはx軸方向の光強度変化は考慮する必要が無いため、δ=−(2πnx/λ)sinθ+δとしてよく、検出されるエバネッセント光の強度は以下で表すことができる。
【数3】

ただし、δは所定の定数である。
【0047】
また、本実施形態に係る屈折率測定装置1によれば、試料Sの屈折率の変化量を極めて高い感度で検出できる。その理由について以下に説明する。
透過率Tは、屈折率n,n,nと、間隔dと、入射角θの関数となることは既に述べたが、屈折率nの値が既知であり、変動範囲も想定できる場合には、屈折率nの微小な変動によって透過率Tが大きく変動するような各パラメータn,n,d,θを測定条件として設定することにより、屈折率測定の感度を高くすることができる。なお、この場合には、n<n+0.1、d<λとすることが必要である。
【0048】
上記の理由について具体例を挙げて以下に説明する。
数値計算によれば、使用波長1ミクロン、試料Sの屈折率n=1.33322、屈折率の変動幅Δn=0.00001のとき、図6に示すような結果が得られている。なお、n=1.33322は間質液(試料S)の屈折率であり、Δn=0.00001はグルコース濃度6mg/dLの変化に対応する屈折率の変動幅である。
【0049】
光量変化率ΔT/Tでは、それぞれ0.19%,0.04%であり、高精度な光検出器によって検出可能な値である。エバネッセント光の総光量に関しては、各物質の境界部分の面積や、入射光の強度などを変えることで、変化させることが可能である。
この原理を本発明に適用する場合には、導光ロッド間隔の誤差、入射光束の広がりなどを勘案して、屈折率の絶対値を測定するのではなく、屈折率の変化の程度を測定する装置として利用する。
【0050】
市販の汎用屈折率測定器であるアッベ式屈折率計の測定精度が0.0002程度であるので、本実施形態に係る屈折率測定装置1の感度が非常に高いことがわかる。
なお、n=1.38はフッ化マグネシウム(MgF2)の屈折率であり、また具体例として挙げた屈折率1.3〜1.4の光デバイス用低屈折率素材の開発は各所で行われている。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る屈折率測定装置1によれば、導光ロッド10に入射させた照明光が、導光ロッド10の内側面を反射して端面まで導かれる。この場合において、導光ロッド10と導光ロッド20との間においてエバネッセント場が発生し、エバネッセント場により導光ロッド10と導光ロッド20との間に配置された試料Sからエバネッセント光が発生する。このエバネッセント光は、導光ロッド20に入射して、導光ロッド20の内側面を反射して端面まで導かれ、光検出器27により検出される。
【0052】
この場合において、エバネッセント光の強度は、導光ロッド10と導光ロッド20との間に配置された試料Sの屈折率によって変化するため、光検出器27により検出されたエバネッセント光の強度の変化量から、CPU30により試料Sの屈折率の変化量を算出することができる。
【0053】
上記のように、本実施形態に係る屈折率測定装置1によれば、2つの導光部材、1つの光検出器27、およびCPU30により試料Sの屈折率の変化量を算出することができ、装置の小型化を図ることができる。また、エバネッセント光を用いて試料Sの屈折率の変化量を算出することにより、従来のアッべ式屈折率計に比べて高精度に試料Sの屈折率の変化量を測定することができる。
【0054】
また、導光ロッド10が反射端面12を備えることで、入射端面11から入射した照明光を、導光ロッド10の内側面により反射を繰り返して反射端面12まで導くとともに、反射端面12により反射して再び入射端面11まで導くことができる。このようにすることで、導光ロッド10と試料Sとの界面における全反射の回数を増加させることができ、導光ロッド10と導光ロッド20との間において発生するエバネッセント場の強度を大きくすることができる。これにより、光検出器27により検出されるエバネッセント光の強度を大きくすることができ、試料Sの屈折率の変化量の測定精度を向上することができる。
【0055】
また、入射端面11に入射させる照明光の波長を調節する波長調節装置35を備えることで、導光ロッド10に入射させる照明光の波長を波長調節装置35により調節しながら、波長毎の試料Sの屈折率の変化量を算出することができ、試料Sの屈折率の変化量の測定精度を向上することができる。
【0056】
なお、本実施形態に係る屈折率測定装置1において、図示しないメモリを設け、CPU30が、前記メモリに予め設定された試料Sの屈折率の基準値と、光検出器27により検出されたエバネッセント光の強度の変化量とから、試料Sの屈折率を算出することとしてもよい。
【0057】
このようにすることで、予め設定された試料Sの屈折率の基準値に、光検出器27により検出されたエバネッセント光の強度の変化量から算出される試料Sの屈折率の変化量を加減算することにより、試料Sの屈折率を算出することができる。
【0058】
また、本実施形態に係る屈折率測定装置1において、導光ロッド10への照明光の入射角度を調節する入射角度調節部(図示略)を備え、該入射角度調節部が、導光ロッド10内において全反射を起こすように導光ロッド10への照明光の入射角度を調節し、CPU30が、以下の式に基づいて試料Sの屈折率を算出することとしてもよい。
θc=arcsin(n/n
ここで、
θc:導光ロッド10内において全反射を起こす試料Sへの入射角
:導光ロッド10および導光ロッド20の屈折率
:試料Sの屈折率
【0059】
このようにすることで、入射角度調節部により、導光ロッド10内において全反射を起こすように導光ロッド10への照明光の入射角度を調節し、その際の導光ロッド10内における試料Sへの入射角と導光ロッド10および導光ロッド20の屈折率とから、試料Sの屈折率を容易に算出することができる。
【0060】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について、図7および図8を参照して説明する。本実施形態においては、前述の第1の実施形態に係る屈折率測定装置1を、例えば血糖値等を測定する濃度測定装置に適用した例について説明する。以下、本実施形態の濃度測定装置2について、第1の実施形態に係る屈折率測定装置1と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0061】
本実施形態に係る濃度測定装置2は、図7に示すように、第1の実施形態に係る屈折率測定装置1におけるミラー15(図1参照)に代えて、導光ロッド10からの照明光の一部を透過させるハーフミラー18を備えている。また、本実施形態に係る濃度測定装置2は、第1の実施形態に係る屈折率測定装置1の構成(図1参照)に加えて、ハーフミラー18を透過してきた導光ロッド10からの照明光を集光するレンズL3と、レンズL3により集光された照明光を検出する光検出器(スペクトル測定部)17とを備えている。
【0062】
光検出器17は、波長調節装置35により選択的に透過された照明光の波長毎に、導光ロッド10からの光の強度を検出するようになっている。これにより、光検出器17は、導光ロッド10内を内面反射して入射端面11から射出された光の波長スペクトルを測定するようになっている。
【0063】
ここで、導光ロッド10内における全反射の現象では、全反射光は外側媒質側に少しだけ潜り込んで反射されるので、外側媒質に吸収があるとこの影響を受けて反射光のエネルギーが減少する。したがって、照明光の波長を種々変えることにより、あるいは反射光を分光することにより、外側媒質のスペクトルが得られる。これは減衰全反射法(ATR:attenuated total reflection)と呼ばれるスペクトル測定法である。
【0064】
本実施形態に係る濃度測定装置2において、CPU(算出部、演算部)30は、光検出器17により測定された波長スペクトルと、光検出器27により測定されたエバネッセント光の強度から算出された試料Sの屈折率の変化量とから、試料Sの濃度の変化量を多変量解析により演算するようになっている。
【0065】
上記演算における情報処理の流れは図8に示すようになる。本実施形態に係る濃度測定装置2によれば、アルコール類、糖類、脂肪酸、ポリマーなど広範囲な溶質の濃度測定が可能であるが、ここでは血糖値測定を例に説明する。減衰全反射法によるスペクトル測定値と屈折率測定値はPLS法などの回帰分析手法を含む演算処理を経て血糖値として最終的な値を得る。
【0066】
以上のように、本実施形態に係る濃度測定装置2によれば、前述の実施形態に係る屈折率測定装置1により試料Sの屈折率の変化量を算出するとともに、光検出器17により導光ロッド10からの照明光の波長スペクトルを測定することができる。そして、このように算出された波長スペクトルおよび試料Sの屈折率の変化量から、CPU30により試料Sの濃度の変化量を多変量解析により演算することができる。このように試料Sの濃度を演算することで、単純に試料Sの屈折率から濃度を演算する場合に比べて、その測定精度を向上することができる。
【0067】
また、本実施形態に係る濃度測定装置2には波長制御装置35以外の可動部が無いため、安定した濃度測定が可能である。
また、導光ロッド10および導光ロッド20の径を細径化しても感度が落ちないため、径の細い導光ロッド10および導光ロッド20を生体内に設置して生体内の物質濃度を測定することが可能である。これにより、血糖値測定の際の侵襲を軽減することができる。
【0068】
なお、本実施形態に係る濃度測定装置2では、波長スペクトルおよび試料Sの屈折率の変化量から試料Sの濃度の変化量を測定したが、試料Sの屈折率そのものを算出することで、波長スペクトルおよび試料Sの屈折率から試料Sの濃度を測定することもできる。
【0069】
[第1の変形例]
なお、第2の実施形態に係る濃度測定装置2の第1の変形例として、図9に示すように、棒状の導光ロッド10および導光ロッド20に代えて、平板上の導光板10’および導光板20’を採用することとしてもよい。この場合には、平板上の導光板10’と導光板20’とは所定の間隔をあけて対向させて配置する。
【0070】
上記の導光板10’と導光板20’を有する本変形例の濃度測定装置によれば、エバネッセント光の検出面積を増加させることができ、試料Sの屈折率および濃度の測定精度を向上することができる。
【0071】
また、本変形例の濃度測定装置において、平板上の導光板10’と導光板20’の対向面の少なくとも一方に、間質液(試料S)の流通方向に延在する溝(図示略)を設けることとしてもよい。
このようにすることで、平板上の導光板10’と導光板20’との間における間質液(試料S)の閉塞を防止することができ、リアルタイムでの試料Sの屈折率および濃度の測定を確実に行うことができる。
【0072】
[第2の変形例]
また、第2の実施形態に係る濃度測定装置2の第2の変形例として、図10に示すように、棒状の導光ロッド10および導光ロッド20に代えて、半円柱状の導光ロッド10’’および導光ロッド20’’を採用することとしてもよい。
【0073】
半円柱状の導光ロッド10’’と導光ロッド20’’とは所定の間隔をあけて対向させて配置されており、それぞれの対向面には互いに嵌合するように形成された凹凸部を有している。また、図10において、符号13は導光ロッド10’’に照明光が入射する光入射スポットを示しており、符号23は導光ロッド20’’からエバネッセント光が出射する光出射スポットを示している。
【0074】
上記の導光ロッド10’’と導光ロッド20’’を有する本変形例の濃度測定装置によれば、光入射スポット13および光出射スポット23の大きさを確保しつつ、エバネッセント光の検出面積を増加させることができ、試料Sの屈折率および濃度の測定精度を向上することができる。また、導光ロッド10’’および導光ロッド20’’の細径化を図ることができ、血糖値測定の際の侵襲を軽減することができる。
【0075】
[第3の変形例]
また、第1の実施形態に係る屈折率測定装置1の第3の変形例として、図11に示すように、導光ロッド10と導光ロッド20とを軸線方向にずらして配置するとともに、導光ロッド20の射出光軸上に、導光ロッド20からのエバネッセント光を集光するレンズL4と、レンズL4により集光されたエバネッセント光のみを通過させるピンホール28とを備えることとしてもよい。
【0076】
前述の実施形態に係る濃度測定装置2によれば、導光ロッド10と導光ロッド20とは近接して配置されているため、導光ロッド20からのエバネッセント光と導光ロッド10からの照明光(反射光)とを分離することが難しい。したがって、光検出器27は、導光ロッド20からのエバネッセント光だけでなく、導光ロッド10からの照明光を検出してしまう場合がある。この場合、導光ロッド10からの照明光はノイズであるため、試料Sの屈折率の測定精度を低下させてしまう恐れがある。
【0077】
これに対して、本変形例に係る濃度測定装置によれば、ピンホール28により導光ロッド10からの照明光を遮断して、光検出器27により導光ロッド20からのエバネッセント光のみを検出することができるため、試料Sの屈折率の測定精度を向上することができる。
【0078】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記の各実施形態および各変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0079】
L1,L2,L3,L4 レンズ
S 試料
1 屈折率測定装置
2 濃度測定装置
10 導光ロッド(第1の導光部材)
11 入射端面(一端面)
12 反射端面(他端面)
15 ミラー
16 絞り
17 光検出器(スペクトル測定部)
18 ハーフミラー
20 導光ロッド(第2の導光部材)
21 出射端面
22 反射端面
25 光源
27 光検出器
30 CPU(算出部、演算部)
31 モニタ
35 波長調節装置(波長調節部)
38 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔をあけて近接して配置され、一端面から入射させた照明光を内面反射させて他端面まで導く第1の導光部材および第2の導光部材と、
前記第1の導光部材に照明光を入射させることで、前記第2の導光部材内に入射するエバネッセント光の強度を検出する光検出器と、
前記光検出器により検出されたエバネッセント光の強度の変化量から、前記第1の導光部材と前記第2の導光部材との間に配置された試料の屈折率の変化量を算出する算出部とを備える屈折率測定装置。
【請求項2】
前記算出部が、前記光検出器により検出されたエバネッセント光の強度の変化量から、以下の式に基づいて前記試料の屈折率の変化量を算出する請求項1に記載の屈折率測定装置。
【数1】

ここで、
E:エバネッセント光の強度
θ:前記第1の導光部材内における照明光の試料への入射角
:前記第1の導光部材および前記第2の導光部材の屈折率
:前記試料の屈折率
λ:照明光の波長
z:前記第1の導光部材と前記試料との界面からの距離
ω:角振動数
t:時間
A,σ:所定の定数
【請求項3】
前記算出部が、予め設定された前記試料の屈折率の基準値および前記光検出器により検出されたエバネッセント光の強度の変化量から、前記試料の屈折率を算出する請求項1または請求項2に記載の屈折率測定装置。
【請求項4】
前記第1の導光部材への照明光の入射角度を調節する入射角度調節部を備え、
前記入射角度調節部が、前記第1の導光部材内において全反射を起こすように前記第1の導光部材への照明光の入射角度を調節し、
前記算出部が、以下の式に基づいて前記試料の屈折率を算出する請求項1または請求項2に記載の屈折率測定装置。
θc=arcsin(n/n
ここで、
θc:前記第1の導光部材内において全反射を起こす前記試料への入射角
:前記第1の導光部材および前記第2の導光部材の屈折率
:前記試料の屈折率
【請求項5】
前記他端面が、前記一端面から入射させた照明光を全反射する請求項1から請求項4のいずれかに記載の屈折率測定装置。
【請求項6】
前記一端面に入射させる照明光の波長を調節する波長調節部を備える請求項1から請求項5のいずれかに記載の屈折率測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の屈折率測定装置と、
前記第1の導光部材からの照明光の波長スペクトルを測定するスペクトル測定部と、
前記スペクトル測定部により測定された波長スペクトルおよび前記算出部により算出された前記試料の屈折率の変化量から、前記試料の濃度の変化量を多変量解析により演算する演算部とを備える濃度測定装置。
【請求項8】
所定の間隔をあけて近接して配置された第1の導光部材および第2の導光部材のうち、前記第1の導光部材の一端面に照明光を入射させて他端面まで導く導光ステップと、
前記導光ステップにより前記第2の導光部材内に発生するエバネッセント光の強度を検出する光検出ステップと、
前記光検出ステップにより検出されたエバネッセント光の強度の変化量から、前記第1の導光部材と前記第2の導光部材との間に配置された試料の屈折率の変化量を算出する算出ステップとを含む屈折率測定方法。
【請求項9】
請求項8に記載の屈折率測定方法と、
前記第1の導光部材からの照明光の波長スペクトルを測定するスペクトル測定ステップと、
前記スペクトル測定ステップにより測定された波長スペクトルおよび前記算出ステップにより算出された前記試料の屈折率の変化量から、前記試料の濃度の変化量を多変量解析により演算する演算ステップとを含む濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−88138(P2013−88138A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225998(P2011−225998)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】