説明

屈折率調整用熱圧転写材及びこれを用いた成型品の製造方法

【課題】 複雑な製造工程を経ることなく、製造コストの抑制を図りながら、シンプルな構成で、確実かつ強力に所望の機能を果たすことができる屈折率調整用転写材及びこれを用いた成型品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 離型性を有する基体シート上に屈折率調整層が積層されてなる屈折率調整用熱圧転写材であって、前記屈折率調整層が、前記基体シートからの剥離性と被転写物への接着性との両機能を備えてなる屈折率調整用熱圧転写材及びこの転写材を射出成型金型内に挟み込み、屈折率調整層側に溶融樹脂を射出することにより樹脂成型品を形成するのと同時に、この樹脂成型品の表面に前記転写材を接着させ、その後離型性を有する基体シートを剥離することからなる成型品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率調整用熱圧転写材及びこれを用いた成型品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック成型技術の進歩に伴い、成型品の多様化が進められるなかで、これらのプラスチック成型品には、より一層の高品質化が要求されている。
例えば、プラスチック成型品、特に、光学機器に用いられる画面やレンズにおいて、その屈折率を調整して反射率を低減させたり、干渉縞の発生を防止する方法がある。
しかし、成型品の表面自体に屈折率を調整するような処理を施すことは、それらの形状や大きさ等がまちまちであり、困難である。
【0003】
そこで、成形品の表面に屈折率調整のためのフィルムを貼着したり、転写材を用いて屈折率の調整を施す方法が提案されている(例えば、特許文献1等)。しかし、これらの方法では、上述した機能層のみを接着又は転写することはできず、基体シート、接着層、アンカー層等、特に転写材を用いる場合には、さらに離型層及び剥離層等の機能層を施すための付加的な層の形成が必要となる。そのため、フィルムや転写材の製造工程が煩雑となるとともに、それらの積層構造の膜厚によっては、成型品の3次元の曲面や微細な凹凸を有する面へのしわや浮きを招くこととなり、フィルムのはがれ等の物理的な損傷が生じやすくなる。また、近年では、成形品の低コスト化が余技なくされており、複雑な製造工程、製造原料の増加等に伴うコストの増大を抑制することが熱望されている。
【特許文献1】WO01/92006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、複雑な製造工程を経ることなく、製造コストの抑制を図りながら、シンプルな構成で、確実かつ強力に所望の機能を果たすことができる屈折率調整用熱圧転写材及びこれを用いた成型品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の屈折率調整用熱圧転写材は、離型性を有する基体シート上に屈折率調整層が積層されてなり、前記屈折率調整層が、前記基体シートからの剥離性と被転写物への接着性との両機能を備えてなることを特徴とする。
この屈折率調整用熱圧転写材は、屈折率調整層は、単層又は2以上の積層構造からなるか、基体シート側から低屈折率層、高屈折率層の2層構造で積層され、前記低屈折率層の屈折率が1.3〜1.5、前記高屈折率層の屈折率が1.5〜2.5であり、及び/又は基体シート側及び非転写物への接着側の双方において同じ樹脂を含んで形成される。
また、離型性を有する基体シートが、プラスチックフィルム、表面にエポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、シリコン系樹脂、ウレタン系樹脂及びこれらの共重合体樹脂からなる群から選択された1種以上の化合物による離型層が形成されたプラスチックフィルムからなる群から選択されるか、屈折率調整層が、アクリル系樹脂、シラン系樹脂からなる群から選択されるか、被転写物が、有機合成樹脂、有機・無機合成樹脂からなる群から選択され、特に、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカ-ボネ-ト系樹脂、ABS(アクリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂からなる群から選択されるかのいずれか1つ以上を備えていることが好ましい。
【0006】
さらに、本発明の成形品の製造方法は、上述した屈折率調整用熱圧転写材を射出成型金型内に挟み込み、屈折率調整層側に溶融樹脂を射出することにより樹脂成型品を形成するのと同時に、該樹脂成型品の表面に前記転写材を接着させ、その後離型性を有する基体シートを剥離することからなることを特徴とする。
また、上述した屈折率調整用熱圧転写材の屈折率調整層側を樹脂成型品に重ね、基体シート上から熱圧をかけることにより樹脂成型品の表面に前記転写材を接着させ、その後離型性を有する基体シートを剥離することからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の屈折率調整用転写箔によれば、基体シートからの剥離性と、被転写物への接着性との両機能を備えた屈折率調整層を有しているために、剥離層、接着層、アンカー層等の被転写物への接着のための付随層を別途に設ける必要がなくなる。
通常、基体シートは後述するように、高分子化合物で構成され、屈折率を調整しようとする被転写物は、後述するように高分子化合物で構成されることが多いため、基体シートからの剥離性と被転写物への接着性とは、トレードオフの関係になる。つまり、基体シートからの剥離性が良好であるということは、屈折率調整層自体に、基体シートから容易かつ完全に剥離するための剥離機能を備えていることとなり、屈折率調整層が基体シート側に全くまたはほとんど接着しないことから、そのような屈折率調整層が、被転写物に対して、転写され、さらに屈折率調整層自体が被転写物自体に強固に接着することは、相反する現象となり得る。
【0008】
しかし、本発明では、意外にも、上述した両機能を発揮させることができるため、必要な機能を確保しながら、積層構造を簡略化することができ、製造コストの低減を図ることができる。しかも、成形品等に薄膜状の転写層を強固に接着させることができるために、成型品等の表面にしわやはり残しなどを生じさせることがなく、成形品が本来有している硬度及び機能(帯電防止機能、紫外線吸収機能など)等を損ねることを最小限に抑えることができる。その結果、高品質の熱圧転写材及び成形品を安価に入手することができるとともに、得られた成形品の表面形態の高寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の屈折率調整用熱圧転写材(以下、単に「転写材」と記す)は、離型性を有する基体シート上に屈折率調整層が積層されて構成される。
本発明に用いることができる基体シートの材料は、その上に形成される屈折率調整層の種類、さらにその転写材を転写する被転写物の種類等によって適宜選択することができ、変形又は屈曲可能な、平滑な又は凹凸を有するプラスチックフィルムが適当である。例えば、アクリル系樹脂(ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル等)、ポリエステル、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリウレタン等の延伸又は未延伸の透明プラスチックフィルム等が挙げられる。なかでも、耐熱性を有する点から、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂等が好ましい。基体シートの厚みは特に限定されるものではなく、例えば、3〜500μm程度が挙げられる。
なお、この明細書においては、アクリル系樹脂は、アクリル酸及びメタクリル酸ならびにこれらの誘導体を重合して得られる樹脂を包含する。
【0010】
これらの基体シート自体は、後述する屈折率調整層を基体シートから剥離する際に、基体シート側に屈折率調整層が全く接着しないような離型性を有しているか、離型性を付与されたもの(例えば、ワックス類、高級脂肪酸、塩又はエステル類、フッ化アルキル化化合物(有機酸、リン酸またはそれらの塩、エステル)、ポリビニルアルコール、低分子量ポリエチレン、植物性単複質の誘導体、シリコーン油、等の離型剤が添加されている等)であることが必要であり、後述する屈折率調整層の種類等によって適宜選択することができる。また、これらの基体シートが、屈折率調整層に対して十分な離型性を有しないものであれば、基体シート上であって、低屈折率調整層との間に離型層を形成していてもよい。離型層としては、熱硬化性樹脂(エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、シリコン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ・メラミン系樹脂、アミノアルキッド系樹脂、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂及びこれらの共重合体又は複合型樹脂等が挙げられる。離型層は、例えば、グラビアコート法、ロールコート法、スプレーコート法、リップコート法、ディップコート法、スピンコート法、バーコート法、押出しコート法、スクリーンコート法、リバースロールコート法、マイクログラビアコート法、フレキソコート法等のそれ自体公知の方法により、上記材料を基体シート上に塗布し、乾燥して形成することができる。この場合の離型層の厚みは、例えば、0.1〜10μm程度が挙げられる。
【0011】
屈折率調整層は、通常、被転写物(例えば、樹脂成型品等)の屈折率を増減させることができる層、例えば、入射光の20%程度以下、好ましくは10%程度以下、さらに好ましくは5%程度以下、3%程度以下、2%程度以下、1%程度以下に反射光を抑える機能、非転写物自体に対する反射率に対して70%程度以上、好ましくは入射光の80%程度以上光を反射させる機能、全光線透過率を1%、2%又は3%程度以上向上させる機能、被転写物表面に干渉縞を付与する又は除去する機能等、屈折率を調整するための層である。このような機能を付与するためには、例えば、所定の屈折率を有する層とする方法、2以上の異なる屈折率を有する層の積層構造をとする方法等、種々の方法が挙げられる。なお、これらと組み合わせて、表面に微細な凹凸を形成してもよい。
【0012】
また、屈折率調整層は、上述した基体シートからの剥離性と、被転写物への接着性との双方の機能を備えていることが適当である。通常、基体シートは上述したように、高分子化合物で構成され、屈折率を調整しようとする被転写物は、後述するように高分子化合物で構成されることが多いため、基体シートからの剥離性と被転写物への接着性とは、トレードオフの関係になる。つまり、基体シートからの剥離性が良好であるということは、屈折率調整層が、基体シート側に全く又はほとんど接着しないことから、そのような屈折率調整層が、被転写物に対して、転写され、さらに屈折率調整層自体が被転写物自体に強固に接着することは、相反する現象となり得る。一方、本発明では、屈折率調整層は、意外にも、基体シート(又は離型層)の材料、さらに好ましくは基体シートの材料と被転写物の材料との組み合わせを適宜選択することにより、基体シートからの剥離性と、被転写物への接着性との両機能を発揮させることができる。
ここで、基体シートからの剥離性を有するとは、屈折率調整層が、基体シート側に全く接着しないか、接着したとしても市販のセロハン粘着テ-プで抵抗なく剥離することができる程度以下を意味する。また、被転写物への接着性を有するとは、被転写物に転写材を接触等させ、基体シートを剥がした場合に、基体シートと屈折率調整層との界面で分離され、被転写物と屈折率調整層との界面で分離されることがないこと、あるいは、最終的に、屈折率調整層が被転写物に転写された後に、セロハンテープによる碁盤目剥離試験(JIS K5400付着性試験)で膜剥がれがないことを意味する。
【0013】
例えば、屈折率調整層の屈折率としては、1.2〜2.5程度、好ましくは1.3〜2.2程度の範囲が挙げられる。特に、屈折率調整層が1層で形成される場合には、1.3〜1.5程度の屈折率を有することが好ましい。また、2種以上の異なる屈折率を有する積層構造である場合には、その材料の組み合わせ及び積層順序は特に限定されるものではなく、例えば、一方の層が1.3〜1.5程度の屈折率、他方の層が1.6〜2.2の屈折率を有するように形成されるか、さらにこれらの間の屈折率を有する層を低屈折率の層及び/又は高屈折率の層の上、下又は間に1層又は2層以上組み合わせることが適当である。屈折率調整層を2層以上の積層構造とする場合、低屈折率の層が基体シートに接触するように、言い換えると、後にこの転写材が成型品に転写された場合に最表面に配置するように積層されることが好ましく、高屈折率の層は、低屈折率の層に接触するように、さらに、これらの間の屈折率を有する層がある場合には、これらの間の屈折率を有する層は、高屈折率の層に接触するように形成することが好ましい。
【0014】
屈折率調整層は、上述した機能を備えるために、例えば、フッ素樹脂(フルオロオレフィン系共重合体、含フッ素脂肪族環構造を有するポリマー、パーフルオロアルキルエーテル系コポリマー、含フッ素メタクリレートポリマー等)、アクリル系樹脂及びメタクリル樹脂(PMMA等)、スチレン樹脂(ポリスチレン等)、飽和ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート等)、塩化ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル等)、オレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、編成エポキシ樹脂、シリコーン樹脂(ジメチルシロキサン系、メチルポリシロキサン系の樹脂等)、変性シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリノルボルネン、ポリビニルナフタレン、ポリビニルカルバゾール、シラン系化合物(例えば、アルキルシラン化合物の重縮合物、加水分解重縮合物等)等の1種又は2種以上を組み合わせて形成することができる。
【0015】
また、屈折率調整層には、屈折率を所望の値に調整するために、シリカ(沈降性シリカ、溶融シリカ、ヒュームドシリカ、超微粉無定形シリカ、無水珪酸、結晶シリカ等)、フッ化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、一酸化錫、石英酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、SiC、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ほう酸アルミニウム、チタン酸バリウム、リン酸カルシウム、珪酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、石膏、マイカ、ケイソウ土、白土、ゼオライト、カーボンブラック等のフィラーを含有してもよい。なかでも、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫等が好ましい。フィラーを混合する場合には、フィラーの含量は、屈折率調整層の全重量に対して95重量%以下、さらに5〜80重量%程度であることが好ましい。
なお、屈折率調整層にフィラーを含有する場合には、その一部において又は積層構造のいずれかの層において、上述した樹脂を備えず、フィラーのみが主体として形成される層を有していてもよい。また、フィラーを含有する層は、均一にフィラーを分布しているのみならず、部分的に分布の程度を異ならせてもよいし、膜厚方向において、徐々に増減させてもよい。
【0016】
屈折率調整層の全厚みは、例えば、0.01〜0.5μm程度が挙げられる。なかでも、所定の屈折率を有する単層の場合には、0.05〜0.2μm程度、好ましくは0.08〜0.12μm程度、2種以上の異なる屈折率を有する膜の積層構造で形成されている場合には、低/高屈折率層等の厚みはいずれも、例えば、0.05〜0.2μm程度、好ましくは0.08〜0.12μm程度が挙げられる。なお、低屈折率の層及び高屈折率の層、あるいはさらに中屈折率の層の厚みは必ずしも同じでなくてもよい。
屈折率調整層は、例えば、上述した離型層と同様に、それ自体公知の方法により、上記材料を基体シート上に塗布し、乾燥して形成することができる。なお、フィラーのみが主体として形成される層は、例えば、フィラーを適当な溶媒を用いて分散又は懸濁させることによりスラリー状に調製し、基体シート等の上に塗布し、溶媒を蒸発させることにより形成することができる。
【0017】
特に、屈折率調整層が単層で形成される場合には、上述した双方の機能を備えるために、上述した材料の中から、用いる基体シートの材料に応じて、適切な材料を選択することが必要である。例えば、基体シート(又は離型層)としてポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、エポキシ・メラミン共重合樹脂を用いる場合には、屈折率調整層として、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂及びメタクリル樹脂、シラン系樹脂(例えば、アルキルシラン化合物の重縮合物等)等が適当である。
この場合、被転写物としては、屈折率調整層の材料によって、接着剤層を別途設けることなく、被転写物に接着する機能を有する適切な材料を選択することが必要である。例えば、屈折率調整層として、上述したアクリル系樹脂、シラン系化合物等を用いる場合には、被転写物としてアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカ-ボネ-ト系樹脂、ABS(アクリル・ブタジエン・スチレン共重合)樹脂等が適当である。
【0018】
また、屈折率調整層が2以上の層の積層構造で形成される場合には、基体シートと、基体シートに接触する屈折率調整層を構成する層との組み合わせとして、上述したものが好ましく、さらに、被転写物と、被転写物に接触する屈折率調整層を構成する層との組み合わせとして、上述したものが好ましい。
なお、この場合、屈折率調整層を構成する層は、基体シート側と被転写物側とで、異なる材料で形成されていてもよいが、同じ材料で形成されていることが好ましい。ここで、同じ材料で形成されるとは、全く同じ樹脂で形成されること、同じ骨格を有する樹脂が各層に含有されていること、同じ骨格を有する樹脂がその層において主体として(例えば、50%より多く、60%以上、70%以上等)含有されていること、同じモノマーを主体として用いて合成されたポリマーが含有されていることなどを含む。
【0019】
本発明の転写材を適用する被転写物としては、特に限定されるものではなく、樹脂成型品(有機合成樹脂又は有機・無機合成樹脂成型品)、木工製品もしくはこれらの複合製品などを挙げることができる。これらは、透明、半透明、不透明のいずれでもよい。また、樹脂成型品は、着色されていても、着色されていなくてもよい。さらに、被転写物に本発明の転写材を適用する場合には、特に被転写物が透明又は半透明であれば、表面側及び裏面側のどの面においても適用することができる。
例えば、ワープロ、コンピュータ、テレビ、ディスプレイパネル、携帯電話等の各種のディスプレイ、液晶表示装置等に用いる偏光板の表面、透明プラスチック類からなるサングラスレンズ、度つきめがねレンズ、カメラのファインダーレンズ等の光学レンズ、各種計器の表示部、自動車、電車等の窓ガラス等が挙げられる。また、これらの被転写物を構成する材料は、特に限定されるものではなく、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AN樹脂などの汎用樹脂が挙げられる。また、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、超高分子ポリエチレン樹脂などの汎用エンジニアリングプラスチックやポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアリル系耐熱樹脂、シクロオレフィン樹脂などのスーパーエンジニアリングプラスチックを使用してもよい。さらに、ガラス繊維や無機フィラー等の補強剤を添加した複合樹脂であってもよい。これらの材料は、単独で用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明の成型品の製造方法によれば、上述した転写材を、まず、射出成型金型内に挟み込む。射出成型金型は、樹脂成型品を製造する際に通常使用されるものであれば、どのようなものでも利用することができ、例えば、可動型及び固定型の一対の成型用金型が挙げられる。このような成型用金型を用い、転写材を内側にして、つまり、基体シートは固定型に接するように配置する。この際、枚葉の転写材を1枚ずつ送り込んでもよいし、長尺の転写材の必要部分を間欠的に送り込んでもよい。長尺の転写材を使用する場合、位置決め機構を有する送り装置を使用して、転写材と成型用金型との見当が一致するようにすることが好ましい。また、転写材を間欠的に送り込む際に、転写材の位置をセンサーで検出した後に転写材を可動型と固定型とで固定するようにすれば、常に同じ位置で転写材を固定することができ、転写材の位置ズレが生じないので有利である。
【0021】
次に、成型用金型を閉じた後、可動型に設けられたゲートから溶融樹脂を金型内であって、屈折率調整層側に射出充満させ、成型品を形成するのと同時にその面に転写材を接着させる。つまり、本発明の転写材は、被転写物に適用する場合には、熱と圧力との双方を負荷しながら、適用させる。
続いて、樹脂成型品を冷却した後、成型用金型を開いて樹脂成型品を取り出す。その後、基体シートを剥離することにより、成型品表面に、屈折率調整層を付与することができる。
溶融樹脂としては、上述した偏光板の表面、光学レンズ、各種計器の表示部、自動車、電車等の窓ガラス等を構成し得るものであれば、その材料は特に限定されるものではなく、上述したもののなかから適宜選択することができる。
【0022】
また、本発明の別の成型品の製造方法によれば、上述した転写材の接着層側を成型品に重ね、基体シート上から熱及び圧力の双方をかけることにより成型品の表面に転写材を接着させることができる。その後、基体シートを剥離することにより、成型品表面に、屈折率調整層を付与することができる。
基体シート上からの熱及び圧力は、例えば、耐熱ゴム状弾性体、例えばシリコンラバーを備えたロール転写機、アップダウン転写機等の転写機を用いて行うことができる。この場合、シリコンゴムロール表面は80〜250℃程度の温度であることが好ましく、成型品に対して、5〜200kg/cm2程度の圧力をかけることが好ましい。
【0023】
以下に、本発明の屈折率調整層を有する転写材、これを用いた成型品の製造方法について説明する。なお、以下の実施例では、特に断りのない限り「部」は「重量部」を意味する。
合成例1:バインダーポリマー液Aの合成
メチルメタアクリレート 70部
ヒドロキシエチルメタアクリレート 30部
熱重合開始剤(アゾビスイソブチルニトリル) 2部
メチルエチルケトン 200部
を反応容器に仕込み、窒素雰囲気下80℃で7時間反応させて、ポリスチレン換算重量平均分子量23000(ゲルパーミュエーション・クロマトグラフィーで測定)のポリマーのメチルエチルケトン溶液(バインダーポリマー液A)を得た。
合成例2:バインダーポリマー液Bの合成
メチルメタアクリレート 40部
アクリル酸エチル 30部
ヒドロキシエチルメタアクリレート 30部
熱重合開始剤(アゾビスイソブチルニトリル) 2部
メチルエチルケトン 200部
を反応容器に仕込み、窒素雰囲気下80℃で7時間反応させて、ポリスチレン換算重量平均分子量30000のポリマーのメチルエチルケトン溶液(バインダーポリマー液B)を得た。
【0024】
調製例3:低屈折率コーティング液Aの調製
まず、バインダーポリマー液Aを、メチルエチルケトンで、固形分5%まで希釈して、バインダーポリマー液aを得た。
バインダーポリマー液a 100部
ヘキサメチレンジイソシアナートオリゴマー(旭化成工業(株)製、デュラネートTPA-100) 0.5部
メチルエチルケトン 9.5部
ジブチルスズジラウレート 0.05部
を混合して、低屈折率コーティング液Aを調製した。
調製例4:低屈折率コーティング液Bの調製
まず、バインダーポリマー液Bを、メチルエチルケトンで、固形分5%まで希釈して、バインダーポリマー液bを得た。
バインダーポリマー液aの代わりにバインダーポリマー液bを用いた以外、調製例3と同様にして低屈折率コーティング液Bを調製した。
【0025】
調製例5:低屈折率コーティング液Cの調製
テトラメトキシシランオリゴマー(三菱化学(株)製、MS51) 5部
アクロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学(株)) 3部
微粒子シリカのIPA溶液(日産化学(株)製、IPA−ST) 2部
イオン交換水 9部
0.1N硝酸 0.2部
を室温で一晩攪拌して、低屈折率コーティング液Cを調製した。
調製例6:低屈折率コーティング液Dの調製
34%のバインダーポリマー液A 50部
ヘキサメチレンジイソシアナートオリゴマー(旭化成工業(株)製、デュラネートTPA-100) 0.85部
t−ブタノール 431.6部
を反応容器に仕込み、混合し、よく攪拌して低屈折率コーティング液Dを調製した。
調製例7:低屈折率コーティング液Eの調製
テトラメトキシシランオリゴマー(三菱化学(株)社製MS51) 8.5部
微粒子シリカのIPA溶液(日産化学(株)社製IPA−ST) 9.5部
イオン交換水 17部
0.1規定硝酸 0.4部
イソプロピルアルコール 115部
を室温で一晩攪拌して、低屈折率コーティング液Eを調製した。
【0026】
調製例8:高屈折率コーティング液Aの調製
バインダーポリマー液a 60部
ヘキサメチレンジイソシアナートオリゴマー(旭化成工業(株)製、デュラネートTPA-100) 0.3部
酸化チタン粒子(平均粒径20nm) 7部
メチルエチルケトン 138部
を混合して、高屈折率コーティング液Aを調製した。
調製例9:高屈折率コーティング液Bの調製
バインダーポリマー液aの代わりにバインダーポリマー液bを用いた以外、調製例8と同様にして高屈折率コーティング液Bを調製した。
調製例10:高屈折率コーティング液Cの調製
テトラメトキシシランオリゴマー 6部
メルカプトプロピルトリメトキシシラン(チッソ(株)製、サイラエースS−810) 3部
酸化チタン粒子(平均粒径20nm) 12部
イオン交換水 9部
0.1N硝酸 0.2部
イソプロピルアルコール 310部
を室温で一晩攪拌して、高屈折率コーティング液Cを調製した。
【0027】
調製例11:高屈折率コーティング液Dの調製
34%のバインダーポリマー液A 25部
25%酸化チタン粒子(平均粒径20nm) 21.8部
メチルエチルケトン 65.4部
t−ブタノール 834.7部
を反応容器に仕込み、混合し、よく攪拌して高屈折率コーティング液Dを調製した。
調製例12:高屈折率コーティング液Eの調製
テトラメトキシシランオリゴマー 5部
メルカプトプロピルトリメトキシシラン(チッソ(株)社製サイラエースS−810) 3.5部
平均粒径20nmの酸化チタン粒子 12部
イオン交換水 9部
0.1規定硝酸 0.2部
イソプロピルアルコール 310部
を室温で一晩攪拌して、高屈折率コーティング液Eを調製した。
調製例13:中屈折率コーティング液の調製
平均粒径20nmの酸化チタン粒子 3部、イソプロピルアルコール 130部を用いた以外は調製例12と同様にして中屈折率コーティング液を調製した。
【0028】
実施例1
離型処理(エポキシメラミン樹脂系離型剤(タナカケミカル(株)製、No952クリア)を、グラビア印刷法にて1μmの厚さに塗布)が施された膜厚38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、低屈折率コーティング液Aを塗布し、130℃で3分間加熱して硬化し、膜厚0.1μm、屈折率1.48の低屈折率層を形成した。
この低屈折率層の上に、高屈折率コーティング液Aを塗布、乾燥し、膜厚0.1μm、屈折率2.2の高屈折率層を形成して、転写材を得た。
実施例2
低屈折率及び高屈折率コーティング液Aを、それぞれ低屈折率及び高屈折率コーティング液Bに変更した以外、実施例1と同様にして、低屈折率層の屈折率が1.48及び高屈折率層の屈折率が2.2の転写材を得た。
【0029】
実施例3
低屈折率及び高屈折率コーティング液Aを、それぞれ低屈折率及び高屈折率コーティング液Cに変更した以外、実施例1と同様にして、低屈折率層の屈折率が1.47及び高屈折率層の屈折率が2.2の転写材を得た。
実施例4
膜厚38μmのポリエステルフィルム(東レF-39)上に実施例1と同様に、エポキシメラミン樹脂系離型剤をグラビア印刷法にて1μmの厚さで塗布して、離型性を有する基体フィルムを得た。
この基体フィルムに、低屈折率コーティング液Dを、グラビアコート法にて塗工し、130℃、45秒間乾燥し、膜厚0.1μm、屈折率1.48の低屈折率層を形成した。
この低屈折率層の上に、高屈折率コーティング液Dをグラビアコート法にて塗工し、130℃、45秒間乾燥し、膜厚0.1μm、屈折率2.20の高屈折率層を形成して、転写材を得た。
【0030】
実施例5
低屈折率コーティング液Aを、低屈折率コーティング液Eに変更した以外、実施例4と同様にして、低屈折率層の屈折率が1.47及び高屈折率層の屈折率が2.20の転写材を得た。
実施例6
低屈折率及び高屈折率コーティング液Aを、それぞれ低屈折率コーティング液E及び高屈折率コーティング液Cに変更した以外、実施例4と同様にして、低屈折率層の屈折率が1.47及び高屈折率層の屈折率が2.2の転写材を得た。
実施例7
低屈折率及び高屈折率コーティング液Aを、それぞれ低屈折率コーティング液C及び高屈折率コーティング液Eに変更した以外、実施例4と同様にして、低屈折率層の屈折率が1.47及び高屈折率層の屈折率が2.2の転写材を得た。
【0031】
実施例8
低屈折率コーティング液Aを用いず、高屈折率コーティング液Aのみを用いて単層構造で形成した以外、実質的に実施例1と同様にして、高屈折率層の屈折率が2.2の転写材を得た。
実施例9
低屈折率層及び高屈折率層を形成し、高屈折率層の上に、さらに上述した中屈折率コーティング液をグラビアコート法にて塗工し、実施例4と同様にして、膜厚0.1μm、屈折率1.70の中屈折率層を形成して、3層構造の転写材を得た。
【0032】
実施例10:成形品の製造
実施例1〜9で得られた転写材を射出成型金型に挟み込み、この金型を70℃に加熱した。成型同時転写法を利用して、260℃程度に溶融させたアクリル樹脂(三菱レイヨン社製、アクリペットVH)を、樹脂圧300kg/cm2にて金型に注入し、放冷した。
金型からアクリル樹脂成形品を取り出し、基体フィルムを剥がすことにより、表面に屈折率調整用の層が形成された携帯電話用ディスプレイカバーを得た。
この実施例で得られた成型品は、いずれも、表面が低反射性を有していた。
得られた成型品においては、いずれも、屈折率調整層が成形品の表面に強固に密着しており、転写性、密着性良好であることを確認した。さらに、耐擦傷性に優れ、この層のはがれ等の物理的な損傷はほとんど生じなかった。
また、このような屈折率調整用の層が表面に形成されることにより、携帯電話用ディスプレイカバーの透過率が、屈折率調整用の層が表面に形成されていないディスプレーカバーに対して、2%程度向上した。
実施例11:成形品の製造
実施例1〜6、8及び9で得られた転写材を、アクリル樹脂基板に重ね合わせ、基体フィルム側から硬度80℃のシリコンラバーのロールで加熱及び加圧して、転写材をアクリル樹脂基板トに接着させた。加熱条件は230℃、加圧は10kg/cm2とした。
その後、基体フィルムを剥がすことにより、表面に屈折率調整用の層が形成された携帯電話用ディスプレイカバーを得た。
この実施例で得られた成形品は、いずれも実施例10と同様の効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の転写材は、例えば、ワープロ、コンピュータ、テレビ、ディスプレイパネル、携帯電話等の各種のディスプレイ;液晶表示装置等に用いる偏光板の表面;透明プラスチック類からなるサングラスレンズ、度つきめがねレンズ、カメラのファインダーレンズ等の光学レンズ;各種計器の表示部;自動車、電車等の窓ガラス等に対して適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型性を有する基体シート上に屈折率調整層が積層されてなる屈折率調整用熱圧転写材であって、前記屈折率調整層が、前記基体シートからの剥離性と被転写物への接着性との両機能を備えてなることを特徴とする屈折率調整用熱圧転写材。
【請求項2】
屈折率調整層は、単層又は2以上の積層構造からなる請求項1に記載の転写材。
【請求項3】
屈折率調整層は、基体シート側から低屈折率層、高屈折率層の2層構造で積層され、前記低屈折率層の屈折率が1.3〜1.5、前記高屈折率層の屈折率が1.5〜2.5である請求項1に記載の転写材。
【請求項4】
屈折率調整層は、基体シート側及び非転写物への接着側の双方において同じ樹脂を含んで形成されてなる請求項1〜3のいずれか1つに記載の転写材。
【請求項5】
離型性を有する基体シートが、プラスチックフィルム、表面にエポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、シリコン系樹脂、ウレタン系樹脂及びこれらの共重合体樹脂からなる群から選択された1種以上の化合物による離型層が形成されたプラスチックフィルムからなる群から選択される請求項1〜4のいずれか1つに記載の転写材。
【請求項6】
屈折率調整層が、アクリル系樹脂、シラン系樹脂からなる群から選択される請求項1〜5のいずれか1つに記載の転写材。
【請求項7】
被転写物が、有機合成樹脂、有機・無機合成樹脂からなる群から選択される請求項1〜4のいずれか1つに記載の転写材。
【請求項8】
被転写物が、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカ-ボネ-ト系樹脂、ABS(アクリル・ブタジエン・スチレン共重合)樹脂からなる群から選択される請求項7に記載の転写材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の屈折率調整用転写材を射出成型金型内に挟み込み、屈折率調整層側に溶融樹脂を射出することにより樹脂成型品を形成するのと同時に、該樹脂成型品の表面に前記転写材を接着させ、その後離型性を有する基体シートを剥離することからなる成型品の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の屈折率調整用転写材の屈折率調整層側を樹脂成型品に重ね、基体シート上から熱圧をかけることにより樹脂成型品の表面に前記転写材を接着させ、その後離型性を有する基体シートを剥離することからなる成型品の製造方法。


【公開番号】特開2006−276317(P2006−276317A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−93387(P2005−93387)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(500241181)中島工業株式会社 (7)
【出願人】(000162076)共栄社化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】