説明

屈折矯正エキシマレーザで用いるレーザショットファイルを計算する方法および装置

本発明は、屈折矯正エキシマレーザで用いるレーザショットファイルを計算する方法および装置に関し、この方法および装置は、所望のアブレーションプロファイルに関する情報を提供する工程と、所望のアブレーションプロファイルを得るためのショット密度を計算する工程と、エキシマレーザのレーザショットを複数のグリッド位置に配置するために用いられるグリッドのグリッド幅を決定する工程とを備え、グリッド幅が、所望のアブレーションプロファイルの計算されたショット密度に基づいて決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にディザリングアルゴリズムを用いて、屈折矯正エキシマレーザで用いるレーザショットファイルを計算する方法および装置に関する。本発明は、レーザーアブレーションによって目のレーザ治療を行う際または特注のコンタクトレンズ若しくは眼内レンズ(IOL)を製造する際のレーザショットファイルの適用に特に適している。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、熱的効果が低減された視力矯正用エキシマレーザシステムに関するものである。これは特に、近視、遠視および乱視の矯正等といった様々なタイプの矯正を行うために、目から組織を除去するためのエキシマレーザシステムを制御する装置および方法に関する。開示されている一実施形態では、このエキシマレーザシステムは、1ショット当たりの治療面積の範囲が比較的大きい、比較的大きなスポットサイズを提供する。このような大きいスポットサイズを用いる場合、ショットは一般的に、互いに「隣接する」のではなく重なって、特定の点での所望の程度のアブレーションを生じる。重なったショットの結果を計算するために、或るアルゴリズムが用いられる。治療面積にわたって配分された一定の大きなスポットサイズを用いる治療パターンを計算するための1つの方法で、ディザリングアルゴリズムが用いられている。具体的には、矩形ディザリング、円形ディザリング、およびライン毎に配向されたディザリングが参照されている。ショットをディザリングするための様々な任意の方法を用いて、治療面積にわたって点在する一定のスポットサイズで所望の程度のアブレーションに矯正するためのショット配列が作成される。各配列には、個々のグリッド位置間のグリッド幅が一定なグリッドが用いられる。通常は連続した形状である所望の形状のアブレーションプロファイルを、公知のディザ法を用いて、整数の離散型密度分布に移さなければならない。ここで、連続したプロファイルは計画されたアブレーションを表わし、整数の離散型密度分布は、アブレーション用のフライングスポット方式の一連のレーザパルスを表わす。残存構造、即ち、計画されたプロファイルと達成されたプロファイルとの差は、最小限に抑えられなければならない。基本的には数値的に厳密解を求めることができるが、これは妥当な時間内にはできない。従って、この目的で、ディザリングアルゴリズムが用いられる。プロファイルを所与のグリッド上に離散化させる。このアルゴリズムは、コスト関数またはメリット関数を用いて、グリッドの各位置に対してショットを配置するか否かを決定する。この決定では、通常、グリッドの少数の近傍位置のみが考慮される。このディザリングアルゴリズムでは、実際のスポットサイズを考慮する必要がなく、計算時間が節約される。1回のレーザショットのアブレーションで除去されるショット量がわかっていればよい。しかし、或る条件下では、公知のディザリングアルゴリズムを用いると、プロファイルの一部、例えば、隣接する次のショットが離れ過ぎている低密度領域に、アーチファクトが生じる。アーチファクトは、ほぼ全ての位置にショットが配置される高密度領域でも生じ得る。ショットが配置されない位置も、少数の近傍位置のみが必要という前提では、距離が大き過ぎる。
【0003】
ディザリングアルゴリズムの一般的背景については、デジタル画像処理に関する特許文献2を参照されたい。これは特に、誤差拡散、ディザリングおよび過変調法を用いて、連続階調画像をデジタル的に多階調化する方法に関する。均一であるべき領域において、複数の黒または白の出力画素が連なって形成される虫状のアーチファクトが生じ得る問題が参照されている。特許文献2では、これらの公知の方法が詳細に説明されているが、これは完全に異なる技術分野に関するものである。その他の違いとして、公知のレーザプリンタシステムは、1インチ当たりのドット数として与えられる各固定された解像度を用いている。即ち、1インチ当たりのドット数が高いほど、良好な解像度が得られる。更に、公知のレーザプリンタでは、或る一点にドットが2回以上当たっても、黒さが増すことはないので、ドット間の重なり合いおよび接触の問題はない。むしろ、画像を生成するために、画像の特定の局所領域に、特定のグレーレベルに対応する数のドットを与えることにより、特定のグレーレベルを有する局所領域を生じることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,090,100号明細書
【特許文献2】米国特許第6,271,936Bl号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、計画されたプロファイルと達成されたプロファイルとの差が最小限に抑えられた、屈折矯正エキシマレーザで用いるレーザショットファイルを計算する方法および装置の提供を目的とする。この目的は、特許請求の範囲に記載された特徴によって解決される。
【0006】
例えば近視を矯正するための所望のアブレーションプロファイルは、治療ゾーンの中心部に最大ショット密度を有し、治療ゾーンの周縁部に沿って最小ショット密度が存在する。従って、治療ゾーンの中心部に適用されるレーザショット数は、他のサブエリアにおける、特に治療ゾーンの縁部に沿ったレーザショット数より高い。
【0007】
例えば遠視の矯正では、治療ゾーンの中心部に最小ショット密度が存在する。一方、このアブレーションプロファイルは、治療ゾーンの周縁部に沿って、より高いレーザショット数を要する。
【0008】
本発明は、一般的に、任意のアブレーションプロファイルに適用可能であり、それぞれ異なるショット密度を有するサブエリアを調べて、最大ショット密度を有するサブエリアおよび/または最小ショット密度を有するサブエリアが決定される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一般的概念は、エキシマレーザのレーザショットを配置するために用いられるグリッドを最適化する、特に、グリッドのグリッド幅を最適化するという考えに基づくものである。具体的には、まず、所定の所望のアブレーションプロファイルを得るためのショット密度が計算される。所望のアブレーションプロファイルの計算されたショット密度に応じて、最適なグリッド、即ち、最適なグリッド幅が決定される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によれば、グリッド幅は、所望のアブレーションプロファイルの最小ショット密度および/または最大ショット密度に応じて最適化される。一般的に、低いショット密度を有する所望のアブレーションプロファイルに対しては、より広いグリッド幅を有するグリッドが用いられる。高いショット密度を有する所望のアブレーションプロファイルに対しては、狭いグリッド幅を有するグリッドが用いられる。使用されるグリッド位置の最小数が、任意の領域内の使用可能な全グリッド位置の4%以上であり、および/または、使用されるグリッド位置の最大数が、治療ゾーンの任意のサブエリア内の使用可能な全グリッド位置の96%以下であるという要件を満たす、1つのグリッド幅が選択されるのが好ましい。使用されるグリッド位置は、レーザショットを1回のみ受けるのが好ましい。前記範囲は10%〜90%であるのが好ましく、20%〜80%の範囲が最も好ましい。
【0011】
グリッド幅は、少なくとも10μm〜300μmの範囲内の値であるのが好ましく、30μm〜240μmの範囲内であるのが好ましい。
【0012】
好ましい実施形態によれば、エキシマレーザのレーザショットのグリッド位置への配置を計算するために、ディザリングアルゴリズムが用いられる。ディザリングアルゴリズムで用いられるグリッドの最適化されたグリッド幅を決定することにより、ディザリングアルゴリズムが所望のアブレーションプロファイルに適合される。
【0013】
次式により、単一のレーザショットのアブレーション量VShotおよびグリッド幅Gを用いて、グリッド位置P(x,y)の周囲のサブエリア内の局所的ショット密度D(x,y)が、それぞれのサブエリア内のアブレーションプロファイルz(x,y)から計算される。
【0014】
D(x,y)=z(x,y)*G/VShot (1)
次式により、プロファイルの最大値zmax(x,y)および所望の最大密度Dmax(x,y)に対するグリッド幅が求められる。
【数1】

【0015】
式2のグリッド幅を用いて、式1により、所望のプロファイルの最小値の周囲の局所的ショット密度が計算される。2つの例を用いて、グリッド幅の影響を説明する。第1の例として、−1ジオプターの矯正が所望される約5mmの治療ゾーンを用いた治療を選択する。この近視矯正は、中心にアブレーションの最大値を有する。所望の深さは約10μmである。一般的な治療用エキシマレーザを用いて結果を達成するには、約120回のレーザショットが必要である。中心部の約54%のショット密度を得るために、235μmのグリッド定数が選択される(図1)。59μmのグリッド定数を用いた場合には、中心部のショット密度は僅か3.3%となり、これは、所望のアブレーションとの比較した結果のずれの原因である(図2)。アブレーションの第2の例では、治療ゾーンは7.5mmであり、矯正は-8ジオプターである。所望の最大深さは約160μmであり、約4000回のレーザショットを要する。この例では、59μmのグリッド定数が良好な結果を有する。最大ショット密度は54.5%である。これらの2つの例では、各プロファイルに対してグリッド定数を計算することの長所が示される。ショット数および屈折矯正は、レーザショットのエネルギーに依存する。本願明細書では、一般的なレーザエネルギーを想定している。
【0016】
最小密度の閾値に不都合がある場合には、プロファイルを少なくとも2つのサブプロファイルに分割するのが好ましい。
【0017】
更に好ましい実施形態によれば、所望のアブレーションプロファイルは少なくとも2つのアブレーションサブプロファイルに分割される。各アブレーションサブプロファイルに対してそれぞれのショット密度が計算され、各アブレーションサブプロファイルの計算された密度にそれぞれ基づき、それぞれのグリッド幅が決定される。従って、所望のアブレーションプロファイルのコントラストが高過ぎる、即ち、最大ショット密度と最小ショット密度との差が高過ぎる場合には、対応するレーザショットファイルを生じる各アブレーションサブプロファイルに対してそれぞれ異なるグリッド定数、即ちグリッド幅を用いて、レーザショットファイルの計算を2回以上行うのが好ましい。その後、この2つ以上のレーザショットファイルを組み合わせて単一のレーザショットファイルにすることができる。
【0018】
本発明によれば、配置が計算されたレーザショットは、レーザショットシーケンスを得るためのソート工程で更に処理される。ソートは、いかなる熱的効果も回避すべきことを考慮して行われる。即ち、2回の連続したレーザショットは、治療ゾーン内の互いに或る距離だけ離れた異なるグリッド位置に配置されるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】第1のグリッド幅を用いた第1の試験でのレーザスポットの配置を示す図
【図1B】計画されたプロファイルと達成されたプロファイルとを図1Aの横軸に沿った断面として示す図
【図1C】計画されたプロファイルと達成されたプロファイルとを図1Aの縦軸に沿った断面として示す図
【図2A】第2のグリッド幅を用いた第2の試験でのレーザスポットの配置を示す図
【図2B】計画されたプロファイルと達成されたプロファイルとを図2Aの横軸に沿った断面として示す図
【図2C】計画されたプロファイルと達成されたプロファイルとを図2Aの縦軸に沿った断面として示す図
【図3】ディザリングアルゴリズムを用いたレーザパルスパターンの計算のフロー図
【図4】近傍誤差値の重み付けに用いられ得る重み付け係数を有するサブグリッドの例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
例として、図面を参照し、本発明を更に説明する。
【0021】
図1A、図1Bおよび図1Cは、屈折治療用の一般的なエキシマレーザを用いて、5.5mmの径を有する治療ゾーン内で1mmの径を有するレーザスポットを用いて、約−1ジオプターの値を有する近視を矯正するための、屈折矯正エキシマレーザで用いるレーザショットファイルのシミュレーション計算を示すものである。この第1のシミュレーション試験では、グリッド幅は235μmである。従って、隣接する2つのグリッド点間の距離は235μmである。この例では、グリッド点は複数の横列および縦列に配置されている。小量のアブレーションを達成するために、合計120回のレーザショットが用いられる。単一のショットのアブレーション量に依存して、得られる治療は、上記の約−1ジオプターの屈折を有すると期待される。図1Aは、120回のレーザショットの各々の中心位置を示しており、これらは、「+」の印で示されたグリッド位置の1つにそれぞれ関連付けられている。図1Aの右上の角には、235μmのグリッド幅を有するグリッドが模式的に示されている。図示されているレーザショットの各中心位置は、このグリッドのグリッド点上に配置されている。図1Bには、所望のアブレーションプロファイル、即ち、各X位置に対するアブレーション深さ(単位はμm)が破線で示されている。アブレーション深さは、治療ゾーンの中心部で約10μmであり、両側に向かって小さくなっている。−3および+3のX位置では、アブレーション深さは0である。図1Bには更に、シミュレーションされた結果のアブレーションプロファイルが、図1Aの点0−0を通る横軸に沿った断面として連続した線で示されている。同様に、図1Cには、所望のアブレーションプロファイルが、図1Aの点0−0を通る縦軸に沿った断面として破線で示されている。図1Cには更に、結果のアブレーションプロファイルが、図1Aの点0−0を通る縦軸に沿った断面として連続した線で示されている。図1において、この例では5.5mmの径を有する治療ゾーン内の平均ショット密度は、約27.7%である(図1A)。個々のレーザショットの中心位置は、X方向に±2.2mmおよびY方向に±2.2mmの範囲内に配置されている。治療ゾーンの中心部の最大ショット密度は約53.9%である。
【0022】
図2A、図2Bおよび図2Cは、59μmの異なるグリッド幅を有する以外は図1A、図1Bおよび図1Cと同様の、第2の試験の結果を示すものである。従って、第2の試験のグリッド幅は、第1の試験のグリッド幅の約4分の1である。この効果として、第2の試験での単位面積当たりのグリッド点の数は、第1の試験での単位面積当たりのグリッド点の数の約16倍である。
【0023】
図2では、この例では5.5mmの径を有する治療ゾーン内の平均ショット密度は、約1.7%である。治療ゾーンの中心部の最大ショット密度は約3.3%である。従って、第1の試験の約27.7%の平均ショット密度と第2の試験の約1.7%の平均ショット密度とを比較すると、結果の係数は16である。同様に、第1の試験の約53.9%の最大ショット密度と第2の試験の約3.3%の最大ショット密度とを比較した係数は16である。このことは、適切なグリッド幅を選択することによってショット密度を調節できることをはっきりと示している。換言すれば、治療ゾーンの中心部に配置されるショット数に対して、適切な数の使用可能なグリッド点を選択することにより、所定のショット密度を達成できる。
【0024】
第2の試験では、このようにショット密度が低いことにより、低アブレーション部分に鎌状の虫のようなアーチファクトが生じる(図2A)。図示されるように、曲線に沿って近接した距離で配置されたグリッド位置に、幾つかのレーザショットが配されている。この曲線からより大きい距離に配置されたグリッド位置に、更なるレーザショットが配されている。従って、レーザショットは均等に配されておらず、その結果、所望のアブレーションプロファイルからのずれが生じている(図2C参照)。
【0025】
第1の試験の図と第2の試験の図とを比較すると、第1の試験の結果のアブレーションプロファイルの方が良好であることが示されている。即ち、結果のアブレーションプロファイルの曲線が、所望のアブレーションプロファイルの曲線により良好に沿っている(図1Bおよび図1C参照)。特に、図2Bおよび図2Cには、結果のアブレーションプロファイルが所望のアブレーションプロファイルからずれていることが示されている。即ち、治療ゾーンの中心に関して、ずれが存在し、どちらの曲線も、図2Bに示される立ち上がりおよび立下り並びに図2Cに示される立ち上がりに、付加的な極大および極小を有する。
【0026】
本発明によれば、具体的に、グリッド幅は、治療ゾーン内において、計算されたショット密度が低いサブエリア内では、最小数のグリッド位置が1回のレーザショットを受けるように決定される。計算されたショット密度が低いサブエリア内でのグリッド位置の最小数は、総数の4%以上であるのが好ましい。つまり、治療ゾーンの特定のサブエリア内で、25個のグリッド位置につき1つ以上のグリッド位置が1回のレーザショットを受けるべきである。計算されたショット密度が低いサブエリア内では、グリッド位置の10%以上がレーザショットを受けるのが好ましい。つまり、特定のサブエリア内で、10個のグリッド位置につき1つのグリッド位置が1回のレーザショットを受ける。計算された密度が低いサブエリア内では、グリッド位置の少なくとも20%が1回のレーザショットを受けるのが、より好ましい。つまり、サブエリア内で、5個のグリッド位置につき1つのグリッド位置が1回のレーザショットを受ける。
【0027】
同じグリッド、即ち、同じグリッド幅を用いた場合の、計算されたショット密度が高い領域内のグリッド位置の最大数は、96%以下である。つまり、計算された密度が高いサブエリア内では、25個のグリッド位置につき1つのグリッド位置がレーザショットを受けない。レーザショットを受けるグリッド位置は、90%以下、即ち、10個のグリッド位置につき1つのグリッド位置がレーザショットを受けないのが好ましい。計算された密度が高いサブエリア内では、グリッド位置の80%以下がレーザショットを受ける、即ち、5個のグリッド位置につき1つのグリッド位置がレーザショットを受けないのが、より好ましい。
【0028】
上記の範囲は、結果のアブレーションプロファイルが所望のアブレーションプロファイルからずれるのを回避するよう決定される。具体的には、例えば、一方において、治療ゾーンの或る領域内の全てのグリッド位置にレーザショットが配置される場合には、いわゆるアーチファクトが存在し得る。他方、レーザショットが配置されるグリッド位置が少な過ぎる場合には、いわゆる「虫」が存在する。グリッドのグリッド幅を適切に選択することによって、このようなアーチファクトおよび「虫」を回避できる。
【0029】
一般的に、グリッド幅の調節は、以下の効果を有する。一方では、グリッド幅を例えば2倍にすると、グリッド点の数は1/4になる。他方、グリッド幅を例えば2分の1にすると、グリッド点の数は4倍になる。
【0030】
ディザリングアルゴリズムを用いると、入力パラメータは、レーザショットのショット量および所望のアブレーションプロファイルである。ディザリングアルゴリズムはビーム径とは独立して作用するので、ビーム径を考慮する必要はない。ディザリングアルゴリズムは、出力としてレーザショットファイルを提供する。具体的には、エキシマレーザのレーザショットのグリッド位置への配置のために、ディザリングアルゴリズムが用いられる。各グリッド位置に対してレーザショットを配置するか否かを決定するために、コスト関数を用いるのが好ましい。本願明細書では、この決定は、所与のグリッド位置の近傍のグリッド位置に1回以上のレーザショットを配置するか否かに関して行われるのが好ましい。特許文献1に開示されているようにディザリングアルゴリズムを用いるのが好ましい。
【0031】
以下、図3を参照し、好ましいディザリングアルゴリズムを説明する。図3には、誤差拡散の一例を表わすフローチャートが示されている。このディザリングアルゴリズムは、誤差拡散の概念に基づくものである。誤差拡散のステップの前に、例えば、所望される患者の目の矯正またはコンタクトレンズ若しくはIOLの修正に基づき、所望のアブレーションプロファイルが計算される。このプロファイルは、特定のグリッド幅を有するグリッド内に格納される。例えば、このグリッドは、15mmの面積をカバーする256×256個の値を有する。誤差拡散は、そのグリッド内の1つの縁部で開始され、そこからライン毎に続けられ得る。
【0032】
最初のステップS1では、式(2)を用いてアブレーションプロファイルおよびグリッド幅が決定され、グリッドの縁部の1つにおける一点に、アクティブなディザ位置が設定される。このアクティブなディザ位置は、処理中のグリッド内の実際の位置を表わす。
【0033】
次のステップS2では、アクティブなディザ位置に対する所望のアブレーション値が得られる。ステップS3では、この所望のアブレーション値がスケーリング係数fで乗算される。スケーリング係数fは、異なるサイズのレーザパルスと配置ステップ即ちグリッド幅とを考慮に入れたものである。具体的には、この位置における所望のショット密度を得るために、スケーリング係数は次式のように計算される(式1参照)。
【0034】
f=(グリッド幅)/VShot
上述の15mmの面積をカバーする256×256個の値を有するグリッドでは、グリッド幅は15mm/256=58μmである。従って、レーザビームが送られ得る最小の正方形の面積は(58μm)である。従って、レーザパルスの重なりを考慮するために、計算されたパルス数が減らされる。
【0035】
次のステップS4では、アクティブなディザ位置に対するスケーリングされた所望のアブレーション値に、重み付き近傍誤差が加算される。これらの重み付き近傍誤差は、既に処理された隣接するグリッド点の誤差の重み付き合計であるのが好ましい。その例については後述する。
【0036】
次のステップS5では、得られた値が所定の閾値より大きいか否かが判定される。従って、個々のグリッド点に対する値と隣接するグリッド点の重み付き誤差との合計が、この閾値と比較される。値が閾値を超えない場合には、ステップS7に進む。値が閾値より大きい場合には、ステップS6で、このグリッド位置に対してレーザパルスが設定される。上記の密度の値から1つのレーザパルスが減算される。
【0037】
一方、新たな値が閾値を超えない場合には、ステップS7で、この新たな値がこの特定のグリッド位置に対する誤差として格納される。これは、更なるディザ位置に関する計算のために近傍位置を処理する際に用いられる。
【0038】
次のステップS8で、そのラインが完了したか否かが判定される。完了していない場合には、ステップS9で、同じライン内の次の点がアクティブな位置として選択され、上述の処理が繰り返される。そのラインが完了している場合には、ステップS10で、新たなラインが存在するか否かが判定される。存在する場合には、ステップS11で、新たなラインの最初の点がアクティブな位置として選択され、上記の処理が繰り返される。新たなラインが存在しない場合には、ステップS12で処理が終了する。上述のグリッド点の誤差は、特定のグリッド点におけるアブレーションの誤差を表わす。処理された各グリッド点のこの誤差は、所望のアブレーション値と重み付き近傍誤差との合計からレーザパルスのアブレーションの深さを引いたものである(その位置に対してレーザパルスが設定されている場合)。
【0039】
図4は、近傍のグリッド点の誤差の重み付けの一例を示す。具体的には、図4は、7×7個のグリッド点のサブグリッドを示しており、中央にアクティブなディザ位置が示されている。この場合には、重み付け関数は、8/距離として決定される(距離はグリッド点の単位で測定される)。次に、誤差の合計を、用いられている全重み付け係数の合計である70.736で除算することによって正規化する。図4からわかるように、空白の位置は未処理のグリッド位置を示す。従って、所与のグリッド位置にレーザパルスを設定しなければならないか否かを決定する前に、隣接するグリッド点の処理中に生じた誤差を、そのグリッド点に対する理論上のアブレーション値に加算しなければならない。近傍のグリッド点の誤差は、アクティブなグリッド点に単純に加算されるのではなく、距離に応じた重み付きで加算される。図4には個々の重み付け係数が示されている。尚、これは単に、周囲の誤差を合計するための、良好に機能することがわかっている1つの可能な方法である。
【0040】
試験では、良好な結果をもたらす閾値は、0に近い正の値であることが示された。1/2048に対応する閾値が用いられるのが好ましい。
【0041】
尚、上述のディザリングアルゴリズムは、単に本発明を用いるための一例である。
【0042】
その後、別個のソートアルゴリズムを用いて、レーザショットシーケンスが決定され得る。ソートは、熱的効果を回避するために行われ得る。従って、任意の2回の連続したレーザショットは、互いから或る距離だけ離れた2つのグリッド位置に配置されるのが好ましい。
【0043】
4回のショット毎に1回のレーザショットが最初のショットと同じ領域内に配置されるのが好ましい。
【0044】
上述の本発明の開示および記載は、本発明を例示および説明するためのものであり、本発明の範囲を逸脱することなく、構成および動作方法が変更され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキシマレーザで用いられるレーザショットファイルを計算する方法であって、
所望のアブレーションプロファイルに関する情報を提供する工程と、
前記所望のアブレーションプロファイルを得るためのショット密度を計算する工程と、
前記エキシマレーザのレーザショットを複数のグリッド位置に配置するために用いられるグリッドのグリッド幅を決定する工程と
を備え、
前記グリッド幅が、前記所望のアブレーションプロファイルの前記計算されたショット密度に基づいて決定されることを特徴とするレーザショットファイル計算方法。
【請求項2】
治療ゾーン内において、前記計算されたショット密度が低いサブエリアでは最小数のグリッド位置が1回のレーザショットを受けるように、および/または、前記計算されたショット密度が高いサブエリアでは最大数のグリッド位置が1回のレーザショットを受けるように、前記グリッド幅が決定されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記治療ゾーン内において、前記計算されたショット密度が低いサブエリア内の前記最小数のグリッド位置が、該計算されたショット密度が低いサブエリア内のグリッド位置の4パーセント以上であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記治療ゾーン内において、前記計算されたショット密度が高いサブエリア内の前記最大数のグリッド位置が、該計算されたショット密度が高いサブエリア内のグリッド位置の96パーセント以下であることを特徴とする請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記グリッド幅Gが以下の式を用いて決定され、
【数1】

式中、VShotは単一のレーザショットのアブレーション量であり、Dmax(x,y)はグリッド位置P(x,y)における局所的最大ショット密度であり、zmax(x,y)は前記グリッド位置P(x,y)における前記アブレーションプロファイルの最大値であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の方法。
【請求項6】
ディザリングアルゴリズムを用いて、前記エキシマレーザの前記レーザショットの前記グリッド位置への配置を計算する工程
を更に備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の方法。
【請求項7】
前記ディザリングアルゴリズムのコスト関数を用いて、各グリッド位置に対してレーザショットを配置するか否かを決定する工程
を更に備えることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
所与のグリッド位置にショットを配置するか否かを決定する前記工程において、該所与のグリッド位置の近傍のグリッド位置に関する対応する決定が考慮されることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
1つの所望のアブレーションプロファイルを少なくとも2つのアブレーションサブプロファイルに分割し、各アブレーションサブプロファイルのショット密度を計算し、該各アブレーションサブプロファイルの該計算されたショット密度に基づきそれぞれのグリッド幅を決定する工程
を更に備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記配置が計算されたレーザショットをソートする工程
を更に備えることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記屈折矯正エキシマレーザが、0.5mm径〜3.5mm径の固定されたスポットサイズのレーザビームを提供することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
屈折治療エキシマレーザで用いられるレーザショットファイルを計算する装置であって、
所望のアブレーションプロファイルに関する情報を提供する手段と、
前記所望のアブレーションプロファイルを得るためのショット密度を計算する手段と、
前記エキシマレーザのレーザショットを複数のグリッド位置に配置するために用いられるグリッドのグリッド幅を決定する手段と
を備え、
前記グリッド幅が、前記所望のアブレーションプロファイルの前記計算されたショット密度に基づいて決定されることを特徴とするレーザショットファイル計算装置。
【請求項13】
治療ゾーン内において、前記計算されたショット密度が低いサブエリアでは最小数のグリッド位置が1回のレーザショットを受けるように、および/または、前記計算されたショット密度が高いサブエリアでは最大数のグリッド位置が1回のレーザショットを受けるように、前記グリッド幅が決定されることを特徴とする請求項12記載の装置。
【請求項14】
前記治療ゾーン内において、前記計算されたショット密度が低いサブエリア内の前記最小数のグリッド位置が、該計算されたショット密度が低いサブエリア内のグリッド位置の4パーセント以上であることを特徴とする請求項13記載の装置。
【請求項15】
前記治療ゾーン内において、前記計算されたショット密度が高いサブエリア内の前記最大数のグリッド位置が、該計算されたショット密度が高いサブエリア内のグリッド位置の96パーセント以下であることを特徴とする請求項13または14記載の装置。
【請求項16】
前記グリッド幅Gが以下の式を用いて決定され、
【数2】

式中、VShotは単一のレーザショットのアブレーション量であり、Dmax(x,y)はグリッド位置P(x,y)における局所的最大ショット密度であり、zmax(x,y)は前記グリッド位置P(x,y)における前記アブレーションプロファイルの最大値であることを特徴とする請求項12〜15のいずれか1項記載の装置。
【請求項17】
ディザリングアルゴリズムを用いて、前記エキシマレーザの前記レーザショットの前記グリッド位置への配置を計算する手段
を更に備えることを特徴とする請求項12〜16のいずれか1項記載の装置。
【請求項18】
前記ディザリングアルゴリズムのコスト関数を用いて、各グリッド位置に対してレーザショットを配置するか否かを決定する手段
を更に備えることを特徴とする請求項17記載の装置。
【請求項19】
所与のグリッド位置にショットを配置するか否かを決定する前記手段が、該所与のグリッド位置の近傍のグリッド位置に関する対応する決定の情報を受け取ることを特徴とする請求項18記載の装置。
【請求項20】
1つの所望のアブレーションプロファイルを少なくとも2つのアブレーションサブプロファイルに分割し、各アブレーションサブプロファイルのショット密度を計算する手段を更に備え、
前記グリッド幅を決定する前記手段が、各アブレーションサブプロファイルの前記計算されたショット密度を受け取り、それぞれのグリッド幅を決定することを特徴とする請求項12〜19のいずれか1項記載の装置。
【請求項21】
前記配置が計算されたレーザショットをソートする手段
を更に備えることを特徴とする請求項17〜20のいずれか1項記載の装置。
【請求項22】
前記屈折矯正エキシマレーザが、0.5mm径〜3.5mm径の固定されたスポットサイズのレーザビームを提供することを特徴とする請求項12〜21のいずれか1項記載の装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−545348(P2009−545348A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522236(P2009−522236)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057780
【国際公開番号】WO2008/015174
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(506121788)テクノラス ゲーエムベーハー オフタルモロギッシェ システム (6)
【Fターム(参考)】