説明

屈折矯正手術のための眼に優しいレーザシステム

放射源を有する目の治療をする装置であって、放射源によって放射される光は、目の治療部位に反応を引き起こし、また網膜(9)方向において、網膜の前方かつ治療部位の後方に位置する部位の、少なくとも1つにおいて少なくとも部分的に吸収されるような波長域を有する。放射源から放射される光は、治療部位が部分的に透過性であるような波長域を有しうる。治療部位は、角膜(1)とすることができる。治療部位に引き起こされる反応は、組織の切除でありうる。また、治療部位に引き起こされる反応は、光崩壊とも称される、組織のレーザ誘起光穿孔とすることもできる。放射線源により放射される光の波長域は約1600nm〜1700nm、好適には、約1625nm〜約1675nm、最も好適には、約1640nm〜1660nmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折矯正手術のための眼に優しいレーザシステム、及び眼に優しい屈折矯正治療方法とに関する。
【0002】
眼科学において、レーザによる「屈折矯正手術」は、レーザ放射と眼の器官との相互作用として理解されており、結像異常を除去又は少なくとも緩和するために、眼の屈折特性を矯正して、ひいてはその結像特性を修正する。
【背景技術】
【0003】
屈折矯正手術の特に重要な例としては、LASIK(Laser in Situ Keratomileusis)技術による眼の欠陥視力の矯正がある。従来技術によるLASIKの場合には、例えば、マイクロケラトームにより、まず角膜を側面に沿って切り開き、そして、このようにして得られた小さな蓋(フラップとも称される)を側面に折り返す。このようにして露出された角膜実質において、いわゆる切除(ablation)を行うため、すなわち、計算された切除プロファイルに従って組織を除去するためにレーザ放射が用いられる。そして、小さな蓋が元に戻され、比較的痛くなく、かつ、迅速な治癒過程が続く。この過程の後に、角膜は別の結像特性を有し、欠陥視力は改善又は緩和される。
【0004】
通常、従来技術の場合には、上述したような角膜内への側方切開術は、いわゆるマイクロケラトーム、すなわち、振動する機械的な刃先によって行われる。更に近年では、いわゆるフェムト秒マイクロケラトームも用いられるようになった。このフェムト秒マイクロケラトームでは、フェムト秒レーザのパルスを、角膜の組織中において合焦させて、レーザ放射の焦点を蜜に隣接させることにより、最終的には、機械的なマイクロケラトームの場合のように切り込みが成されるように、角膜組織に、いわゆるレーザ誘起穿孔、又は、いわゆるレーザ誘起光崩壊(laser-induced photo -disruption)を生じさせる。
【0005】
治療(例えば、切開又は切除)の本質及び/又は組織の種類に応じて、レーザ光による眼の手術においては、波長および/またはパルス持続時間の異なるレーザ放射が用いられる。角膜への切り込み(切開)の適用(例えば、フラップの調製)には、フェムト秒レンジのパルス持続時間を有する、約340〜350nmの範囲のレーザ放射か、近赤外線(NIR)波長域、例えば、1000および1100nmの範囲のレーザ放射を用いるのが普通である。このようなシステムは、フェムト秒マイクロケラトームとも称される。これに反し、実質組織の光切除のためには、一般的に、例えば193nmの紫外波長域のレーザ放射が用いられ、使用するパルス持続時間もより長くし、ナノ秒の範囲までとすることができる。
【0006】
一般に、フェムト秒レーザによってフラップを切る場合には、約40%のエネルギーが角膜を経て透過する。この、角膜を経て透過したエネルギーは、眼に強力な放射衝撃となり、これは、例えば、数ヶ月に渡って、いわゆる一過性の光症候群(TLS:transient light syndrome)として、患者の眼に副作用として現れる。
【0007】
フェムト秒レーザ、例えば、710nm〜810nmの波長を有するチタン・サファイア・レーザ、または、約517nmの周波数を有する周波数2倍波の赤外線システムによってフラップを切断する場合に、可視波長放射を用いれば、手術中に、患者に受け入れがたい視覚的ストレスを与えることになる。
【0008】
周波数3倍波の赤外線放射を有する、UVフェムト秒レーザシステムは、約345nmの波長の放射を放ち、この波長においては、例えば、第3高調波が生成される。この波長の場合には、光崩壊処理中に、レーザビームのエネルギー変換が極めて効率的に行われる。それにもかかわらず、約5%のエネルギーが、更に眼に入り、水晶体に吸収される。更に、最大440nmの青色光の蛍光が生成され、これは、いわゆる、青色光のハザード効果(ブルーライトハザード)のピークに相当し、また、最も重要なことには、網膜に損傷を与えることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、眼に優しい、眼の治療をする装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、放射源を有し、該放射源によって放射される光は、眼の治療部位に反応を引き起こし、且つ、網膜方向における当該眼の治療部位の後方に位置する部位の、少なくとも1つにおいて、少なくとも部分的吸収されるような波長域を有する、眼の治療装置によって達成される。このことは、治療部位を通過した光放射が吸収され、治療部位の後方に位置する構造への損傷を回避することができるという利点を有する。
【0011】
放射源によって放射される光の波長域は、治療部位が部分的に透過性となるような波長域を有することができる。
【0012】
治療部位は角膜とすることができる。角膜を通過した光放射は、例えば、房水中に吸収さ得る。したがって、例えば、虹彩、水晶体、硝子体および網膜のような、房水の後方に位置する構造への損傷を回避することができる。
【0013】
治療部位に、光によって引き起こされる反応は、組織の切除とすることができる。組織の切除は、欠陥視力を矯正するために角膜を整形することができる。光によって治療部位に引き起こされる反応は、光崩壊とも称される、組織のレーザ誘起光穿孔とすることができる。レーザ誘起穿孔、すなわち、光崩壊法を用いて、角膜に切り込みを入れることができる。
【0014】
放射源はレーザ源とすることができる。レーザ誘起光穿孔を行うためにフェムト秒レーザ源を用いることができる。
【0015】
放射源により放射される光の波長域は、約1600nm〜約1700nm、好適には、約1625nm〜約1675nm、更に好適には、約1640nm〜約1660nmである。これらの波長域においては、角膜は光透過性であり、また、角膜を通過した光は、房水中に吸収され、その結果、例えば、虹彩、水晶体、硝子体および網膜などの、房水の後方に位置する構造への損傷が回避可能である。特に、波長域が1600〜1700nmのフェムト秒レーザシステムとして、Co:MgF2およびCr:YAGレーザを用いることができる。
【0016】
光により眼を治療する方法は、治療部位において反応を引き起こし、網膜方向における当該治療部位の後方に位置する部位の少なくとも1つにおいて、少なくとも部分的に吸収されるような波長域を有する。このことは、治療部位を通過する光放射が吸収され、治療部位の後方に位置する構造への損傷を回避することができるという利点を有する。
【0017】
この波長域においては、治療部位はほぼ透過性でありうる。治療部位は角膜とすることができる。上述したように、角膜を通過した光放射は、例えば、房水中に吸収される。したがって、例えば、虹彩、水晶体、硝子体および網膜などの、房水の後方に位置する構造への損傷を回避可能である。
【0018】
光によって、治療部位に引き起こされる反応は、組織の切除となることができる。光によって、治療部位に引き起こされる反応は、組織のレーザ誘起光穿孔となることもできる。放射源はレーザ源とすることができる。
【0019】
上述の方法における波長域は約1600nm〜約1700nm、好適には、約1625nm〜約1675nm、最も好適には、約1640nm〜約1660nmである。上述のように、これらの波長域では角膜は光透過性であり、角膜を通過した光は房水中に吸収され、この結果、虹彩、水晶体、硝子体、網膜などの房水の後方に位置する構造への損傷が回避可能である。
【0020】
以下に添付の図面を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】グルストランド−レグランド(Gullstrand−Le Grand)による眼球モデルを示す図である。
【図2】角膜の透過率を示す線図である。
【図3】房水の透過率を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
眼科学、特に屈折矯正の分野における専門家達においては、切除又は切開に適した放射線源が知られている。これらの放射線源は、レーザ光源を含む。冒頭に述べたように、フェムト秒レンジの持続時間を有するパルスは、切開に用いられ、より長い持続時間のパルスは、切除に用いられる。いわゆる、周波数乗算器を用いて、レーザの波長を用途に適合させることができる。このようなレーザシステムは、当業者には既知であり、詳述を要さない。
【0023】
図1は、グルストランド−レグランドの眼球モデルである。角膜1は、前表面2及び後表面3を有する。角膜1の後表面3の後方には、房水4が位置する。房水4の後方には、水晶体5が位置し、水晶体5は前表面6と後表面7とを有する。水晶体の後方には硝子体8が隣接している。硝子体8の後方には網膜9が位置する。光は、角膜1を通って眼に入り、網膜9に結像される。
【0024】
冒頭に述べたように、屈折矯正手術の場合には、フェムト秒レーザによるレーザ誘起光穿孔を用いて、角膜1に切り込みを入れる、ために用いられる。レーザ誘起光穿孔によるレーザ放射は、角膜内にて完全には吸収されない。従来技術による眼の治療装置の場合には、レーザ放射のうち、角膜1に吸収されなかった部分が房水4、水晶体5及び硝子体8を通過し、網膜9に当たってしまう。使用される波長によっては、例えば、前述した一過性の光症候群、又は青色光のハザード効果に起因する網膜9への損傷のような副作用が患者に生じることがある。
【0025】
同様に、異常視野を矯正するために、角膜1における組織を切除する場合で、従来の眼の治療装置で行う場合には、角膜1にて吸収されなかったレーザ放射の一部が、房水4、水晶体5及び硝子体8を通過し、網膜9に当たってしまう。この場合にも、使用する波長に応じて、上述したような副作用が起きる。これに反し、193nmの波長を有するエキシマレーザの放射は、角膜において完全に吸収される。
【0026】
図2は、角膜の透過率の度合いを示す線図である。図3は、房水の透過率の度合いを示す線図である。図2において、実線は角膜1の全透過率を示し、この透過率は6人の人の眼から求められた。図2の曲線1は4歳半の子供の眼の場合における直接透過率を示し、曲線2は53歳の人の眼の場合における直接透過率を示す。
【0027】
切開および切除の両方の場合に、角膜が前述した治療部位である。治療は、角膜1の表面だけでなく、角膜1の深い部位にも行うことができる。したがって、治療用に選択する波長域は、角膜1がその波長域において部分的に透過性であるように選択すべきである。この目的のために、一方では、図2によれば、波長域300nm〜1300nm、1600nm〜1700nmが適している。
【0028】
治療部位、すなわち角膜において吸収されなかった放射が、その部位の後方の部位で吸収されれば、前述した副作用は回避可能である。この場合、角膜で吸収されなかった放射は、例えば、水晶体及び/又は網膜9に到達できない。
【0029】
角膜1を治療する目的のために、波長域を約1600nm〜約1700nmにすることが提案されている。房水4は比較的低い透過率を有しているので、角膜1において吸収されなかった放射が房水において使用される。したがって、角膜1で吸収されなかった放射は、角膜14にできるだけ近い部位にて吸収される。放射は、虹彩、水晶体5、硝子体8を通過できず、網膜9に当たらないか、又は、房水4での吸収により、単に弱められることで、同様の結果となりうる。この結果、眼の他の部位への損傷又は障害、及び既述の副作用が大幅に回避される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射源を有する眼の治療装置であって、
前記放射源によって放射される光は、角膜(1)に反応を引き起こし、且つ前記光の大部分が、網膜(9)方向で、網膜の前方かつ前記角膜(1)の後方に位置する部位の、少なくとも1つにおいて吸収されるような波長域を有し、
該波長域は、約1600nmから約1700nmの範囲にあることを特徴とする、
眼の治療装置。
【請求項2】
前記光によって前記角膜(1)に引き起こされる反応は、組織の切除である、請求項1に記載の眼の治療装置。
【請求項3】
前記光によって前記角膜(1)に引き起こされる反応は、組織のレーザ誘起光穿孔である、請求項1に記載の眼の治療装置。
【請求項4】
前記放射源はレーザ源である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の眼の治療装置。
【請求項5】
前記レーザ源は、Co:MgF2レーザ又はCr:YAGレーザである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の眼の治療装置。
【請求項6】
眼の治療方法であって、
レーザビームを放射する放射源を準備するステップと、
治療すべき眼に前記レーザビームを方向付けるステップと、
を有し、
前記レーザビームは、前記眼の角膜に反応を引き起こし、前記ビームの大部分が、網膜(9)方向で、前記角膜の後方に位置する眼の部位の、少なくとも1つにおいて吸収されるような波長域を有し、
前記放射源によって放射される前記ビームは、約1600nmから約1700nmの波長域にあることを特徴とする、
眼の治療方法。
【請求項7】
前記光によって前記角膜に引き起こされる反応は、組織の切除である、請求項6に記載の眼の治療方法。
【請求項8】
前記光によって前記角膜に引き起こされる反応は、組織のレーザ誘起光穿孔である、請求項6または7に記載の眼の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−521258(P2010−521258A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553972(P2009−553972)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/002233
【国際公開番号】WO2008/113587
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(509114077)ウェーブライト アーゲー (7)
【Fターム(参考)】