説明

屈曲振動片、その製造方法及び電子機器

【課題】小型化しても、振動腕の面外振動による振動漏れを有効に除去し得る屈曲振動片及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基部2、1対の駆動用振動腕3a,3b、1対の検出用振動腕4a,4b、駆動電極及び検出電極を有する両側音叉型屈曲振動片1は、振動腕と基部との結合領域に形成された金属材料等の調整膜6a,6bを有する。調整膜は、駆動用振動腕と基部との結合部に形成されたテーパ部5a,5bの領域S1と、テーパ部に近い基部の領域S2及び駆動用振動腕の領域S3とを含むように形成される。調整膜は、駆動モードで駆動用振動腕を励振したときに検出電極から出力される検出電流をモニタリングしながら、それが0となるようにレーザー光照射等により部分的に削除される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲振動する振動腕を有する屈曲振動片及びその製造方法に関する。更に本発明は、この屈曲振動片を用いた様々な電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時計や家電製品、各種情報・通信機器やOA機器等の電子機器には、電子回路のクロック源として圧電振動子、圧電振動片とICチップとを搭載した発振器やリアルタイムクロックモジュール等の圧電デバイスが広く使用されている。また、デジタルスチールカメラ、ビデオカメラ、ナビゲーション装置、車体姿勢検出装置、ポインティングデバイス、ゲームコントローラー、携帯電話、ヘッドマウントディスプレイ等の各種電子機器には、角速度、角加速度、加速度、力等の物理量を検出するために、屈曲振動片を用いた圧電振動ジャイロ等のセンサーが広く使用されている。
【0003】
圧電振動ジャイロ用の屈曲振動片として、基部から平行に延出する1対の振動腕を備える音叉型屈曲振動片が知られている(例えば、特許文献1,2を参照)。また、
基部から一方の側に平行に延長する1対の駆動用振動腕と、その反対側に平行に延長する1対の検出用振動腕とを備える両側音叉型の屈曲振動片が知られている(例えば、特許文献2,3を参照)。
【0004】
多くの屈曲振動片は、例えば水晶等の圧電単結晶材料のウエハをフォトエッチングして所望の外形を加工し、その表面に電極膜をパターニングして形成される。水晶等の圧電単結晶材料はエッチング異方性を有するため、振動腕の断面が理想的な矩形ではなく、左右に非対称な形状になる。また、屈曲振動片の外形加工において、フォトマスクの位置合わせにずれがあると、振動腕の断面が厚さ方向に上下で非対称になる虞がある。このような非対称断面の振動腕は、駆動電極に印加される交流電流により内部に発生する電界による引張力と圧縮力とが、断面の上側と下側とでアンバランスに作用するため、その主面に平行な面内方向ではなく、面外方向に即ち厚さ方向に変位しながら幅方向に屈曲振動することになる。
【0005】
音叉型振動片において、振動腕の面外方向の振動は、基部側に振動漏れを生じさせ、CI値の上昇やCI値の振動片間でのばらつきを招く。また、圧電振動ジャイロ用の屈曲振動片において、駆動モードで駆動用振動腕が面外方向に振動すると、振動片が回転していないのに、検出用振動腕が不必要に振動して検出信号が出力されるので、検出感度及び精度が低下する。
【0006】
かかる振動漏れを解消するために、様々な工夫を加えた屈曲振動片が開発されている。例えば、一対のアーム部とこれを連結する連結部により音叉形状に形成された圧電体からなる振動子において、アーム部の根元付近の稜線を機械加工により切削して、両アーム部の重量バランスを釣り合わせるようにした角速度センサが知られている(例えば、特許文献4を参照)。更に、この角速度センサにおいて、アーム部の稜線の研削部分の表面粗さを2μm以下にすることによって、両アーム部の重量バランスを厳密に釣り合わせ、出力特性の向上を図る方法が知られている(例えば、特許文献5を参照)。
【0007】
このように屈曲振動片の振動腕を機械的に切削加工する場合、その際に発生する加工粉塵が振動腕に再付着して振動特性を劣化させ、検出精度を低下させる虞がある。そこで、外形を加工した振動体上に電極を形成し、その上に保護膜を形成した後、該振動体の一部を加工して除去し、その後保護膜を除去することにより、再付着した粉塵を除去する工程を有する振動体の製造方法が知られている(例えば、特許文献6を参照)。
【0008】
また、機械的な切削加工は、振動片を破損する虞があり、加工量を正確に制御して振動漏れを除去することが困難である。そこで、駆動モードで振動片が面外方向に振動する際に、その振動方向が傾いた側に位置する振動腕の根元部の角部に二酸化ケイ素や金属材料等を蒸着等することにより、その剛性を高めて変形し難くし、振動方向を修正して振動漏れを除去する方法が知られている(例えば、特許文献7を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−14973号公報
【特許文献2】特開2002−340559号公報
【特許文献3】特開2007−93400号公報
【特許文献4】特開平11−351874号公報
【特許文献5】特開2002−243451号公報
【特許文献6】特開2006−214779号公報
【特許文献7】特開平10−170274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した従来の振動漏れ除去方法において、漏れ振動の大きさに合わせて振動腕の根元部の角部に添着する物質の量を調整し、その剛性を制御して漏れ振動を除去する作業は、実際上非常に困難である。特に振動片が小型化すると、物質の添着を制御することは更に困難になる。
【0011】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型化しても、振動腕の面外振動による振動漏れを比較的簡単にかつ有効に除去し得る屈曲振動片及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の屈曲振動片の製造方法は、上記目的を達成するために、基部から延出する少なくとも1つの振動腕を有する屈曲振動片の外形を有する振動素子片をウエハから加工する過程と、
得られた振動素子片の表面に、振動腕を励振するための励振電極、該励振電極を外部と接続するための電極パット及び配線をパターニングする過程と、
振動腕と基部との結合領域に質量を付加し又は該結合領域から質量を減少させる過程とを含むことを特徴とする。
【0013】
振動腕と基部との結合領域は、振動腕よりも広い面積を確保することができるので、質量の付加及び減少を比較的容易に行うことができる。この質量の付加又は減少によって、振動腕と基部との結合領域の剛性を変えることができるので、該領域に生じる内部応力の集中を緩和して、振動漏れを有効に除去することができる。
【0014】
或る実施例では、振動腕と基部との結合領域が、振動腕の励振時の振動により内部応力が発生する領域である。これにより、振動腕の面外振動により生じる内部応力の集中をより有効に緩和し、振動漏れをより効果的に除去することができる。
【0015】
別の実施例では、屈曲振動片が振動腕と基部との結合部に、振動腕の先端に向けて狭幅のテーパ部を有し、振動腕と基部との結合領域が、少なくともテーパ部の領域を含むことにより、振動腕の面外振動により生じる内部応力の集中を有効に緩和できる。
【0016】
更に別の実施例によれば、振動腕と基部との結合領域が、テーパ部の領域及びその近くの基部の領域を含むことにより、小型化しても、振動腕の電極に影響を及ぼすことなく、内部応力の分布を調整することができる。
【0017】
或る実施例では、振動腕と基部との結合領域に調整膜を被着させて、該結合領域に質量を付加することにより、その剛性を比較的容易に高めることができ、それにより内部応力の分布を緩和して、振動漏れを有効に除去することができる。
【0018】
別の実施例では、調整膜を部分的に削除する過程を更に含むことにより、内部応力の分布をより好適に微調整し、振動漏れをより有効に除去することができる。
【0019】
更に別の実施例によれば、調整膜を少なくとも部分的に、電極パットと配線の少なくとも一方の上に重ねて形成することにより、小型化しても、基部の面積を有効に利用することかできる。
【0020】
また別の実施例では、振動腕と基部との結合領域の表面を削除して、該結合領域から質量を減少させることにより、内部応力の分布を緩和し、振動漏れを有効に除去することができる。
【0021】
本発明の別の側面によれば、基部と、該基部から延出する少なくとも1つの振動腕と、該振動腕を励振するための励振電極と、振動腕と基部との結合領域に形成された、振動腕の励振時の振動により発生する内部応力の分布を調整するための調整膜とを有する屈曲振動片が提供される。これにより、振動腕と基部との結合領域の剛性を高め、該領域に生じる内部応力の集中を緩和して、振動漏れを有効に除去することができる。
【0022】
或る実施例では、振動腕と基部との結合部に、振動腕の先端に向けて狭幅のテーパ部を更に有し、調整膜が少なくともテーパ部を含む領域に形成されていることにより、内部応力が発生する領域に対応して、その分布を有効に緩和し、振動漏れを効果的に除去することができる。
【0023】
別の実施例では、調整膜がテーパ部の領域及びその近くの基部の領域に形成される。これにより、調整膜の形成がより容易で、振動漏れをより有効に除去することができる。
【0024】
更に別の実施例によれば、調整膜が少なくとも部分的に削除される。これにより、振動漏れをより正確に除去することができる。
【0025】
本発明の別の側面によれば、基部と、該基部から延出する少なくとも1つの振動腕と、該振動腕を励振するための励振電極とを有し、振動腕と基部との結合領域の表面が、振動腕の励振時の振動により発生する内部応力の分布を調整するために部分的に削除された屈曲振動片が提供される。これにより、振動腕と基部との結合領域に生じる内部応力の集中を緩和し、振動漏れを有効に除去することができる。
【0026】
或る実施例では、振動腕と基部との結合部に、振動腕の先端に向けて狭幅のテーパ部を更に有し、少なくとも該テーパ部を含む領域の表面が部分的に削除されている。これにより、内部応力の分布をより効果的に調整することができる。
【0027】
別の実施例では、テーパ部及びその近くの基部の部分の表面が部分的に削除される。これにより、振動腕の電極に影響を与えることなく、内部応力の分布を調整することができる。
【0028】
本発明の別の側面によれば、上述した本発明の屈曲振動片を備えることによって、高性能・高精度なセンサー素子等のデバイスを備えかつ小型化可能な電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(A)図は本発明の第1実施例の屈曲振動片の概略平面図、(B)図はそのI−I線における駆動用振動腕の断面図。
【図2】第1実施例の要部を概略的に示す部分拡大平面図。
【図3】図2と異なるパターンの調整膜を概略的に示す部分拡大平面図。
【図4】図2と異なるパターンの調整膜を概略的に示す部分拡大平面図。
【図5】図2と異なるパターンの調整膜を概略的に示す部分拡大平面図。
【図6】図2と異なるパターンの調整膜を概略的に示す部分拡大平面図。
【図7】第1実施例及び図3乃至図6の各パターンの調整膜を有する屈曲振動片の振動漏れ量を示す線図。
【図8】(A)図は第1実施例の変形例の屈曲振動片の概略平面図、(B)図はそのVIII−VIII線における振動腕の断面図。
【図9】(A)図は本発明の第2実施例の屈曲振動片の概略平面図、(B)図はそのIX−IX線における振動腕の断面図。
【図10】第2実施例の要部を概略的に示す部分拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。尚、添付図面において、同一又は類似の構成要素には同一又は類似の参照符号を付して示す。
【0031】
図1(A)は、本発明の第1実施例による、例えば角速度センサーに使用される圧電振動ジャイロ用の両側音叉型屈曲振動片を概略的に示している。屈曲振動片1は、中央の概ね矩形の基部2と、該基部から一方の側に平行に延出する1対の駆動用振動腕3a,3bと、それとは反対側に平行に延出する1対の検出用振動腕4a,4bとを有する。各駆動用振動腕3a,3bと基部2との結合部には、左右両側に該振動腕の先端に向けて狭幅のテーパ部5a,5bがそれぞれ形成されている。
【0032】
駆動用振動腕3a,3bには、駆動モードにおいて該駆動用振動腕をその主面と同じXY面内で互いに接近離反する向きに屈曲振動させるために、駆動電極(図示せず)が形成されている。検出用振動腕4a,4bには、検出モードにおいて該検出用振動腕がその主面に垂直なZ軸方向に互いに逆向きに屈曲振動する際に発生する電位差を検出するために、検出電極(図示せず)が形成されている。
【0033】
屈曲振動片1の一方の面、例えば表面には、各駆動用振動腕3a,3bと基部2との結合領域にそれぞれ調整膜6a,6bが形成されている。調整膜6a,6bは、図2に示すように屈曲振動片1の長手方向に見て、テーパ部5a,5bの領域S1、前記テーパ部に近い基部2の領域S2、及び前記テーパ部に近い駆動用振動腕3a,3bの領域S3に連続的に形成される。また、前記調整膜は、前記テーパ部の領域S1及び前記基部の領域S2の全部と前記駆動用振動腕の領域S3の一部とにおいて、前記各駆動用振動腕の振動中心i1,i2の片側即ち図中左側にのみ設けられる。更に前記調整膜は、図2に多数の加工痕7で示すように、部分的に削除されている。
【0034】
調整膜6a,6bは、例えばCrを下地とするAuやNi等の金属材料膜を電解めっき等の方法で形成することができる。このような金属材料膜は、例えばレーザー光の照射によって比較的簡単に、加工量を制御しながら削除することができる。また前記調整膜は、窒化アルミニウム等の非金属材料をスパッタリング等により成膜することができる。
【0035】
調整膜6a,6bの厚さは、使用する膜材料の膜弾性率、膜剛性等の特性に応じて適当に決定され、高弾性材料はより薄く形成することができる。好ましくは、前記調整膜の厚さを一般的な電極膜よりも十分に厚く、通常数μm程度、少なくとも3μm程度に設定する。これにより、屈曲振動片1の前記調整膜を設けた部分の剛性を、他の部分よりも高くすることができる。
【0036】
また、調整膜6a,6bは、外部と接続するために前記駆動電極から基部2上に引き出された電極パット及び/又は配線(図示せず)の上に部分的に又は全部を重ねて形成することができる。前記調整膜が金属材料膜の場合には、前記電極パット及び/又は配線の一部を構成するように形成することもできる。その場合、屈曲振動片1の小型化により前記基部及び駆動用振動腕の平面寸法が小さくなっても、十分な大きさの前記電極、電極パッド及び配線を確保することができる。
【0037】
駆動モードにおいて、前記駆動電極に所定の交流電圧を印加することにより、駆動用振動腕3a,3bは、その主面と同じXY面内で互いに逆向きに屈曲振動する。この状態で屈曲振動片1が長手方向のY軸周りに回転すると、その角速度に応じて発生するコリオリ力の作用により、前記駆動用振動腕は前記主面に垂直なZ軸方向に互いに逆向きに屈曲振動する。これに共振して、検出モードでは、検出用振動腕4a,4bが同じくZ軸方向に互いに逆向きに屈曲振動し、前記検出電極間に発生する電位差を取り出すことによって、屈曲振動片1の前記回転及びその角速度等が求められる。
【0038】
屈曲振動片1は、調整膜6a,6bが設けられていない場合、駆動モードで駆動用振動腕3a,3bが、図1(B)に矢印P1で示すように面外方向に屈曲振動するものと仮定する。この場合、前記駆動用振動腕と基部2との結合領域には、屈曲振動方向P1に対応する対角方向に内部応力が集中して発生する。本実施例では、調整膜6a,6bを設けて質量を付加し、前記対角方向の領域の剛性を高めることによって、内部応力分布を調整して内部応力の集中を緩和する。これにより、図1(B)に矢印P2で示すように、駆動用振動腕3a,3bの振動方向が概ねXY面内に修正され、駆動モードにおける前記駆動用振動腕からの振動漏れを有効に抑制することができる。
【0039】
別の実施例では、前記調整膜を屈曲振動片1の表裏両面に形成することができる。その場合、上述したように前記駆動用振動腕の面外振動による応力集中が屈曲振動方向P1に対応して発生するから、裏面の調整膜は、前記駆動用振動腕の振動中心i1,i2に関して表面の調整膜6a,6bと対称に配置する。また、別の実施例では、調整膜6a,6bをそれに直近の基部2の側面にも延長して設けることができる。
【0040】
第1実施例の屈曲振動片1は、従来の製造方法を用いて以下の手順に従って製造することができる。最初に、例えば水晶ウエハをフォトエッチングにより加工して、上述した屈曲振動片1の外形を有する振動素子片を形成する。得られた前記振動素子片の表面に電極膜を被着させ、パターニングして、前記駆動電極及び検出電極、これら電極から引き出される前記電極パット及び配線を形成する。
【0041】
次に、駆動用振動腕3a,3bと基部2との前記結合領域に調整膜6a,6bを被着させる。調整膜6a,6bは、例えばCrを下地とするAuやNi等の金属材料により形成することができ、電解めっき等の方法により微小な領域にも比較的正確に成膜することができる。前記調整膜は、窒化アルミニウム等の非金属材料により形成することができ、スパッタリングやデポジション等の方法により成膜することができる。前記調整膜の被着量や膜厚は、予め実験結果やシミュレーション結果から、駆動モードにおける前記駆動用振動腕からの振動漏れを或る程度抑制し得る範囲を設定することができる。
【0042】
次に、前記駆動電極に試験電流を印加して駆動用振動腕3a,3bを駆動モードで振動させ、前記検出電極から出力される検出電流をモニタリングしながら、調整膜6a,6bを部分的に削除する。前記駆動用振動腕上の駆動電極や配線を傷付けたり削除しないように、前記調整膜の削除はテーパ部5a,5bの領域S1及び基部2の領域S2で行うことが好ましい。
【0043】
前記調整膜が金属材料膜の場合は、例えばレーザー光の照射によって微小な領域でも比較的簡単に、加工量を制御しながら削除することができる。非金属材料膜の場合は、例えば物理的エッチング等の方法によって削除することができる。これにより、駆動モードにおける前記駆動用振動腕からの振動漏れを調整し、より確実に抑制することができる。
【0044】
調整膜6a,6bの上記削除加工は、ウエハの状態で、又はウエハから個片化した屈曲振動片1をパッケージに実装する前に、又はパッケージへの実装後に行うことができる。パッケージへの実装後に行うと、実装時や実装状態の影響を排除することができる。
【0045】
前記調整膜は、第1実施例以外の様々なパターンで屈曲振動片1の基部2に設けることができる。図3は、図2に示す第1実施例と異なるパターンの調整膜を概略的に示している。同図の調整膜10a,10bは、第1実施例の調整膜6a,6bから駆動用振動腕3a,3bの領域S3を省略し、テーパ部5a,5bの領域S1及び基部2の領域S2を残して形成されている。これにより、前記駆動用振動腕に設ける駆動電極及び配線のための面積が確保される。
【0046】
図4は、図2の第1実施例と更に異なるパターンの調整膜を概略的に示している。同図の調整膜11a,11bは、第1実施例の調整膜6a,6bから基部2の領域S2を省略し、テーパ部5a,5bの領域S1及び駆動用振動腕3a,3bの領域S3を残して形成されている。これにより、基部2上に前記電極パッド及び配線を設けるためにより広い面積が確保される。
【0047】
図5は、図2の第1実施例と更に異なるパターンの調整膜を概略的に示している。同図の調整膜12a,12bは、第1実施例の調整膜6a,6bから基部2の領域S2及び駆動用振動腕3a,3bの領域S3を省略し、テーパ部5a,5bの領域S1のみを残して形成されている。これにより、前記駆動用振動腕に駆動電極及び配線のための面積及び基部2上に前記電極パッド及び配線のための広い面積が確保される。
【0048】
図6は、第1実施例及び上記各パターンと異なるパターンの調整膜を概略的に示している。同図の調整膜13a,13bは、第1実施例の調整膜6a,6bからテーパ部5a,5bの領域S1及び基部2の領域S2を省略し、駆動用振動腕3a,3bの領域S3のみを残して形成されている。
【0049】
図3乃至図6の各パターンの調整膜10a〜13a,10b〜13bも、屈曲振動片1の表裏両面に形成することができる。第1実施例の場合と同様に、裏面の調整膜は、図1(B)における前記駆動用振動腕の振動中心i1,i2に関して表面の前記各調整膜と対称に配置する。また、別の実施例では、前記各調整膜をそれに直近の基部2の側面にも延長して設けることができる。
【0050】
第1実施例及び図3乃至図6の各パターンの調整膜を有する屈曲振動片1について、駆動用振動腕3a,3bが駆動モードで屈曲振動しかつ前記屈曲振動片がY軸周りに回転していないときに、前記検出用電極パッドから出力される検出電流を振動漏れ量としてシミュレーションした。比較のため、第1実施例と同じ屈曲振動片が調整膜6a,6bを有しない場合についても同様にシミュレーションを行った。屈曲振動片1の設計条件は次のとおりである。
【0051】
振動片全長:3800μm
振動片全幅:1200μm
振動片厚さ: 200μm
駆動周波数:50000Hz
検出周波数:49000Hz
【0052】
図7は、上記シミュレーションの結果を示している。同図において、縦軸は、振動漏れ量として、前記駆動電極に印加される駆動電流に対して前記検出電極から出力される検出電流の割合をppm換算して表している。S1は一方の検出用振動腕からの検出電流の大きさを、S2は他方の検出用振動腕からの検出電流の大きさをそれぞれ表している。横軸において、パターン1は図2の調整膜6a,6bを有する第1実施例、パターン2は図3の調整膜10a,10bを有する場合、パターン3は図4の調整膜11a,11bを有する場合、パターン4は図5の調整膜12a,12bを有する場合、パターン5は図6の調整膜13a,13bを有する場合である。
【0053】
同図に示すように、振動漏れ量はパターン1の第1実施例が最も小さく、略0まで抑制し得ることが確認された。パターン3の場合も、第1実施例よりは大きいが、実用上十分に小さい値まで抑制することができた。パターン2の場合、振動漏れ量は、パターン1及びパターン3よりは大きいが、前記調整膜が無い比較例の半分以下に抑制できた。パターン4及びパターン5の場合も、比較例に対して、目に見えて振動漏れ量を抑制する効果があることを確認できた。
【0054】
前記調整膜は、前記各振動腕と基部との結合領域の略全体に設けることができる。図8(A)は、そのような調整膜を有する第1実施例の変形例の屈曲振動片を示している。同図において、調整膜14a,14bは、それぞれ振動腕3a,3bと基部2との結合領域に振動中心i1,i2に関してその両側に略対称に設けられている。本実施例においても、調整膜14a,14bは、屈曲振動片1の表面又は裏面の一方に形成することができ、又は表裏両面に形成することができる。
【0055】
本実施例では、調整膜14a,14bをそれぞれ振動中心i1,i2により左右各2つの領域14a1,14a2,14b1,14b2に区分けし、それぞれ左右いずれか一方の領域について前記調整膜を部分的に削除する。これによって、部分的に削除した前記左右いずれか一方の領域よりも他方の領域の剛性を高くすることができる。調整膜14a,14bを屈曲振動片1の表裏両面に設けた場合は、裏面の前記調整膜は、振動中心i1,i2に関して表面の前記調整膜の前記左右いずれか一方の領域と対称な領域について部分的に削除する。また、別の実施例では、前記各調整膜をそれに直近の基部2の側面にも延長して設けることができる。
【0056】
駆動モードで駆動用振動腕3a,3bが、図8(B)に矢印P1(実線)で示す面外方向に屈曲振動する場合には、その振動方向P1に対応する対角方向の領域の剛性を高めるように、調整膜14a,14bの各右側領域14a2,14b2を部分的に削除する。前記各駆動用振動腕が矢印P1´(破線)の面外方向に屈曲振動する場合には、その振動方向P1´に対応する対角方向の領域の剛性を高めるように、反対側の前記調整膜の各左側領域14a1,14b1を部分的に削除する。これによって、駆動モードにおける屈曲振動片1の内部応力分布を調整して内部応力の集中を緩和し、駆動用振動腕3a,3bの振動方向を矢印P2のように概ねXY面内に修正することにより、前記駆動用振動腕からの振動漏れを有効に抑制することができる。
【0057】
図9は、本発明の第2実施例による圧電振動ジャイロ用の両側音叉型屈曲振動片を概略的に示している。第1実施例の場合と同様に、屈曲振動片21は、中央の概ね矩形の基部22と、該基部から一方の側に平行に延出する1対の駆動用振動腕23a,23bと、それとは反対側に平行に延出する1対の検出用振動腕24a,24bとを有する。各駆動用振動腕23a,23bと基部22との結合部には、左右両側に該振動腕の先端に向けて狭幅のテーパ部25a,25bがそれぞれ形成されている。駆動用振動腕23a,23bには、駆動モードにおいてXY面内で屈曲振動させるための駆動電極(図示せず)が形成され、検出用振動腕24a,24bには、検出モードにおいてZ軸方向の屈曲振動により発生する電位差を検出するための検出電極(図示せず)が形成されている。
【0058】
屈曲振動片21の一方の面、例えば表面には、各駆動用振動腕23a,23bと基部22との結合領域にそれぞれ調整領域26a,26bが形成されている。調整領域26a,26bは、図10に示すように屈曲振動片1の長手方向に見て、テーパ部25a,25bの領域S1、前記テーパ部に近い基部22の領域S2、及び前記テーパ部に近い駆動用振動腕23a,23bの領域S3に連続的に形成される。前記調整領域は、第1実施例の調整膜6a,6bと実質的に同じ領域に設定され、前記テーパ部の領域S1及び前記基部の領域S2の全部と前記駆動用振動腕の領域S3の一部とにおいて、前記各駆動用振動腕の振動中心i1,i2の片側即ち図中左側にのみ設けられる。
【0059】
本実施例では、調整領域26a,26bの表面が、図10に多数の加工痕27で示すように、部分的に削除されている。この削除加工は、前記駆動用振動腕上の駆動電極や配線及び基板22上の電極パッドや配線を傷付けたり削除しないように行う。このような局所的加工は、例えば適当なエッチング液を用いたウエットエッチングやイオンビームエッチング等の物理的エッチングにより行うことができる。
【0060】
屈曲振動片21は、前記調整領域の表面を全く削除加工していない場合、駆動モードで駆動用振動腕23a,23bが、図9(B)に矢印P1で示すように面外方向に屈曲振動するものと仮定する。この場合、前記駆動用振動腕と基部22との結合領域には、屈曲振動方向P1に対応する対角方向に内部応力が集中して発生する。本実施例によれば、前記結合領域の表面を削除してその質量を減少させることによって、内部応力分布を調整して内部応力の集中を緩和する。これにより、図9(B)に矢印P2で示すように、駆動用振動腕23a,23bの振動方向が概ねXY面内に修正され、駆動モードにおける前記駆動用振動腕からの振動漏れを有効に抑制することができる。また、振動漏れの抑制量は、削除される前記調整領域表面の加工深さによって調整することができる。
【0061】
前記調整領域の削除加工は、例えば水晶ウエハをフォトエッチングにより加工して、屈曲振動片21の外形を有する振動素子片を形成し、その表面に前記駆動電極、検出電極、電極パッド及び配線等をパターニングした後に、前記駆動電極に試験電流を印加して駆動用振動腕23a,23bを駆動モードで振動させ、前記検出電極から出力される検出電流をモニタリングしながら行う。前記削除加工は、ウエハの状態で、又はウエハから個片化した屈曲振動片21をパッケージに実装する前に、又はパッケージへの実装後に行うことができる。パッケージへの実装後に行うと、実装時や実装状態の影響を排除することができる。
【0062】
別の実施例では、前記調整領域を屈曲振動片21の表裏両面に設けることができる。その場合、上述したように前記駆動用振動腕の面外振動による応力集中が屈曲振動方向P1に対応して発生するから、裏面の調整領域は、前記駆動用振動腕の振動中心i1,i2に関して表面の調整領域26a,26bと対称に配置する。また、別の実施例では、前記調整領域を図3乃至図6の各調整膜のパターンと同様に設定することもできる。
【0063】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、上記実施例の両側音叉型屈曲振動片は、角速度以外に、角加速度、加速度、力等の物理量を検出するためのセンサー素子に適用することができる。また、本発明は、基部から平行に延出する1対の振動腕を有する音叉型の屈曲振動片にも適用され、回転振動ジャイロ素子に限定することなく、発振回路用の共振子として利用することもできる。
【0064】
また、本発明の屈曲振動片は、水晶以外に、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の圧電単結晶や、ジルコン酸チタン酸鉛等の圧電セラミックス等の圧電材料、又はシリコン半導体材料から形成することができる。更に本発明の屈曲振動片は、これをセンサー素子として搭載することにより、デジタルスチールカメラ、ビデオカメラ、ナビゲーション装置、車体姿勢検出装置、ポインティングデバイス、ゲームコントローラー、携帯電話、ヘッドマウントディスプレイ等の電子機器に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1,21…両側音叉型屈曲振動片、2,22…基部、3a,3b,23a,23b…駆動用振動腕、4a,4b,24a,24b…検出用振動腕、5a,5b,25a,25b…テーパ部、6a,6b,10a〜14a,10b〜14b…調整膜、7,27…加工痕、14a1,14a2,14b1,14b2…領域、26a,26b…調整領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部から延出する少なくとも1つの振動腕を有する屈曲振動片の外形を有する振動素子片をウエハから加工する過程と、
前記振動素子片の表面に、前記振動腕を励振するための励振電極、前記励振電極を外部と接続するための電極パット及び配線をパターニングする過程と、
前記振動腕と前記基部との結合領域に質量を付加し又は該結合領域から質量を減少させる過程とを含むことを特徴とする屈曲振動片の製造方法。
【請求項2】
前記振動腕と前記基部との前記結合領域が、前記振動腕の励振時の振動により内部応力が発生する領域であることを特徴とする請求項1記載の屈曲振動片の製造方法。
【請求項3】
前記屈曲振動片が前記振動腕と前記基部との結合部に、前記振動腕の先端に向けて狭幅のテーパ部を有し、前記振動腕と前記基部との前記結合領域が、少なくとも前記テーパ部の領域を含むことを特徴とする請求項1記載の屈曲振動片の製造方法。
【請求項4】
前記振動腕と前記基部との前記結合領域が、前記テーパ部の領域及びその近くの前記基部の領域を含むことを特徴とする請求項3記載の屈曲振動片の製造方法。
【請求項5】
前記振動腕と前記基部との前記結合領域に調整膜を被着させることにより、該結合領域に質量を付加することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の屈曲振動片の製造方法。
【請求項6】
前記調整膜を部分的に削除する過程を更に含むことを特徴とする請求項5記載の屈曲振動片の製造方法。
【請求項7】
前記調整膜を少なくとも部分的に、前記電極パットと配線の少なくとも一方の上に重ねて形成することを特徴とする請求項5又は6記載の屈曲振動片の製造方法。
【請求項8】
前記振動腕と前記基部との前記結合領域の表面を削除することにより、該結合領域から質量を減少させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の屈曲振動片の製造方法。
【請求項9】
基部と、
前記基部から延出する少なくとも1つの振動腕と、
前記振動腕を励振するための励振電極と、
前記振動腕と前記基部との結合領域に形成された、前記振動腕の励振時の振動により発生する内部応力の分布を調整するための調整膜とを有することを特徴とする屈曲振動片。
【請求項10】
前記振動腕と前記基部との結合部に、前記振動腕の先端に向けて狭幅のテーパ部を更に有し、前記調整膜が少なくとも前記テーパ部を含む領域に形成されていることを特徴とする請求項9記載の屈曲振動片。
【請求項11】
前記調整膜が前記テーパ部の領域及びその近くの前記基部の領域に形成されていることを特徴とする請求項10記載の屈曲振動片。
【請求項12】
前記調整膜が少なくとも部分的に削除されていることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか一項に記載の屈曲振動片。
【請求項13】
基部と、
前記基部から延出する少なくとも1つの振動腕と、
前記振動腕を励振するための励振電極とを有し、
前記振動腕と前記基部との結合領域の表面が、前記振動腕の励振時の振動により発生する内部応力の分布を調整するために部分的に削除されていることを特徴とする屈曲振動片。
【請求項14】
前記振動腕と前記基部との結合部に、前記振動腕の先端に向けて狭幅のテーパ部を更に有し、少なくとも前記テーパ部を含む領域の表面が部分的に削除されていることを特徴とする請求項13記載の屈曲振動片。
【請求項15】
前記テーパ部及びその近くの前記基部の部分の表面が部分的に削除されていることを特徴とする請求項13又は14記載の屈曲振動片。
【請求項16】
請求項9乃至15のいずれか一項に記載の屈曲振動片を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−9221(P2013−9221A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141480(P2011−141480)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】