説明

屋上断熱構造における断熱層の嵩上げ工法

【課題】既に屋上外断熱構造が実施されたコンクリート系建築物の屋上躯体の上面に、低コストでかつ容易に断熱層の厚さを増し加えることのできる、屋上断熱構造における断熱層の嵩上げ工法を提供する。
【解決手段】アジャスタを用いて複合パネルを挟持させた構造を有する屋上断熱構造における断熱層の嵩上げ工法において、アジャスタ4に挟持された複合パネル5をアジャスタ4から取り外す工程と、複合パネル5が取り外されたアジャスタ4に、予め用意された嵩上げ用の新たな板状断熱材30を載置する工程と、アジャスタ4に載置された嵩上げ用の板状断熱材30の上面側に、アジャスタ4から取り外された既設の複合パネル5を重ねて挟持させる工程と、アジャスタ4の頂部に嵩上げ分の高さを確保するためのアジャスタスペーサ31を着脱自在に取り付ける工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋上断熱構造における断熱層の嵩上げ工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート建築物の屋上に断熱構造を構成することが行われている。
【0003】
コンクリート建築物の屋上を断熱構造とする目的は、特に寒冷地では防寒のため温暖地では防暑のため実施されている。このような建築物の断熱は、省エネルギーの考え方が基本にあるが、近年は省エネルギーに加えて、CO2の削減に寄与することが考えられてい
る。
【0004】
ところで、太陽熱による温度変化の影響を大きく受ける屋上躯体は、日中は温度が高くなる外表面側が膨張して上側に凸の曲げ応力を生じ、逆に夜間は外表面側の温度が低くなるので、下側に凸の曲げ応力を生じる。そして、これが繰り返されると、躯体上の防水層や躯体自体に亀裂が入って漏水が生じ、建築物の寿命が縮められる原因となる。上記繰り返し曲げ応力の発生防止に対しては、外断熱が有効であるので、近年の屋上断熱は外断熱が主流になってきている。
【0005】
このような屋上外断熱構造として、屋上躯体上に防水層を形成するとともに、この防水層と発泡合成樹脂の断熱材との間に間隔をあけて、発泡合成樹脂の断熱材の上面に保護層を一体的に設けた複合パネルを敷設したものが提供されている。
【0006】
複合パネルを用いた屋上外断熱構造では、屋上躯体上の防水層と複合パネルとの間に間隔を確保し、かつ屋上躯体上の凹凸に対して複合パネルの高さ調整を行うことのできるアジャスタ(高さ調整器)が用いられている。そして、このアジャスタによって複合パネルの表面が水平に保持されるとともに、仕上がり面が良好にされている。
【0007】
このような高さ調整可能なアジャスタを用いた屋上外断熱構造体として、例えば、特許文献1が知られている。この特許文献1によれば、図5に示したように、屋上躯体1の上面に設置された防水層2の上方に空隙3が確保され、その上にアジャスタ4で相互に連結された複合パネル5が多数敷設されることにより、屋上外断熱構造体が構築されている。
【0008】
一方、このような屋上外断熱構造体が構築された建築物であっても、近年ではCO2削減
のため一層高高度の断熱性能が要求されている。例えば、上記のように構築された屋上外断熱構造の場合、通常25mm厚の板状断熱材が使用されているが、この断熱層の厚さを60mm程度にまで増厚することが要求されている。
【0009】
このような要求に答えるため、既設の屋上外断熱構造体に安価かつ容易に断熱性能を向上させることのできる屋上断熱構造における断熱層の嵩上げ工法の提供が希求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2717291号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実情に鑑み、既に屋上外断熱構造が構築されたコンクリート系建築物の屋上躯体の上面に、低コストでかつ容易に断熱層の厚さを増し加えることのできる、屋上断熱構造における断熱層の嵩上げ工法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係る屋上断熱構造における断熱層の嵩上げ工法は、
屋上躯体上に設置された防水層の上面側に空気層を確保するとともに、この空気層の上面側に、発泡合成樹脂からなる断熱材と保護材とを一体とした複合パネルを、該複合パネルの上面高さの調節機能を備えたアジャスタを用いて挟持させた構造を有する屋上断熱構造における断熱層の嵩上げ工法において、
前記アジャスタに挟持された前記複合パネルを前記アジャスタから取り外す工程と、
前記複合パネルが取り外された前記アジャスタに、予め用意された嵩上げ用の新たな板状断熱材を載置する工程と、
前記アジャスタに載置された嵩上げ用の前記板状断熱材の上面側に、前記アジャスタから取り外された既設の前記複合パネルを重ねて挟持させる工程と、
前記アジャスタの頂部に、嵩上げ分の高さを確保するためのアジャスタスペーサを着脱自在に取り付ける工程と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本願発明の屋上断熱構造における断熱層の嵩上げ工法によれば、既に屋上外断熱構造が実施されたコンクリート系構造物において、容易かつ安価にその断熱層の厚さを増し加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の一実施例に係る断熱層の嵩上げ工法が実施された屋上外断熱構造の断面図である。
【図2】図2は図1の平面相当図である。
【図3】図3は図1の実施例で採用されたアジャスタの片側を断面で示す片断面図である。
【図4】図4は図3に示したアジャスタと、このアジャスタに新たに取り付けられるアジャスタスペーサとの関係を示す概略図である。
【図5】図5は従来の屋上外断熱構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に示した実施例を参照しながら本発明に係る屋上断熱構造における断熱層の嵩上げ工法について説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施例による断熱層の嵩上げ工法が実施された屋上外断熱構造を示したものである。図2は図1あるいは図5の平面相当図である。図3は、本発明の一実施例で採用されたアジャスタの片断面図である。なお、図1は図5に示した既設の屋上外断熱構造を改築して得られる構造であるので、図1では図5と同一要素は同一符号を付して説明する。
【0017】
本発明を説明するに先立って、先ず、コンクリート系建築物の屋上に構築された既設の屋上外断熱構造について、図2、図3、図5を参照しながら説明する。
【0018】
図5に示したように、既設の屋上外断熱構造体10は、屋上躯体1の上面に防水層2が形成されており、その上に空隙3をあけて、アジャスタ4で相互に連結された複合パネル5が多数敷設されている。
【0019】
アジャスタ4は、図2に示したように、相隣接する4枚の複合パネル5の隅部が相互に当接される箇所に位置しており、この位置で、当該4枚の複合パネル5を下方から支持すると共に上下から挟持している。また、アジャスタ4は、屋上に敷設された複合パネル5の最外周で、相隣接する2枚の複合パネル5の隅部が相互に当接される箇所付近に位置し、当該2枚の複合パネル5を下方から支持している。
【0020】
敷設された複合パネル5の最外側の屋上躯体1上には、上部に突出部6を有する押えブロック7が、最外周の複合パネル5の側端部上方にその突出部6を突き出させて取付けられている。この押えブロック7は、相互に連結された複合パネル5全体が風で吹き上げられるのを防止するためのものである。
【0021】
なお、押えブロック7の下部に風抜き穴8を設けて、空隙3の空気の流通が図られている。この風抜き穴8が防水層2と同じ高さであれば、水抜き穴を兼ねることができる。
【0022】
更にアジャスタ4について説明する。
【0023】
アジャスタ4は、図3に示したように、基脚部9と昇降支持部11と押えキャップ12とから構成されている。
【0024】
基脚部9は、略平坦な面であれば安定して定位させ得る円板状の底部13と、この底部13上に立てて固定された雄ねじ19と、底部13の上面側に形成されてそれを補強する補強リブ15とから構成されている。この雄ねじ19は、底部13に対して嵌合等により着脱自在とされている。
【0025】
一方、昇降支持部11は、底部13と略同じ大きさの円板上の鍔16と、頂部に係合部17が形成された頭部18を有し、その周囲に上記鍔16が固定され、内面には前記雄ねじ19が螺合される雌ねじ20が形成された筒体21と、鍔16の下面側に形成されてそれを補強する補強リブ22とから構成されている。
【0026】
鍔16は、その上面に複合パネル5を載置して支えるものである。また、昇降支持部11は、基脚部9の雄ねじ19の雌ねじ20に対する螺合深さを調節することによって全体が基脚部9に対して昇降される。従って、この昇降によって、鍔16の高さ、ひいてはこの鍔16上に載置される複合パネル5の上面高さを調整することができる。
【0027】
また、筒体21の頭部18は、この調節を行いやすくするため、ボルト頭部の形状をなしている。
【0028】
雄ねじ19は、上記昇降と共に複合パネル5と屋上躯体1間の空隙3(図5参照)を確保するためのもので、その高さは10〜80mm程度が好ましい。
【0029】
このような構成のアジャスタ4は、上記したように、雄ねじ19と雌ねじ20によって構成される昇降機能を有しており、これを回転することによって鍔16の高さを変えて複合パネル5の上面の高さ調整を行うことができる。
【0030】
押えキャップ12は、底部13や鍔16よりやや小さな円板状をなし、下面に同心円状に滑り止め用の突条が形成されている。この押えキャップ12は、筒体21の頭部18に係合部17として形成されている孔に対してねじ込まれるビス22によって頭部18上に固定され、鍔16との間に複合パネル5を挟持するものである。従って、良好な挟持の締結力が得られるよう鍔16と押えキャップ12間の間隔は、複合パネル5の厚さよりやや狭く設定されている。
【0031】
以下、複合パネル5について説明する。
【0032】
複合パネル5は、図5に示したように、板状断熱材21と保護材22とが一体化されたものである。このような複合パネル5は、一度に敷設ができるので、施工が容易であるとともに、複雑な構成や形状を要さないので、安価に製造できる。
【0033】
複合パネル5の発泡合成樹脂からなる断熱材21としては、例えば押出発泡ポリスチレン板、ビーズ発泡ポリスチレン板、発泡ポリエチレン板、硬質発泡ポリウレタン板、発泡ポリ塩化ビニル板等を用いることができる。この断熱材21は、複合パネル5同志を連結する際の良好な締付力を得る上で、圧縮強度が15N/cm2以上であるごとき硬質発泡合成樹
脂であることが好ましい。また、断熱性の面から許容できる硬質発泡合成樹脂の低発泡倍率化には限度があり、それ故に好ましくは圧縮強度は50N/cm2以下である。更に、その厚
さは施工される地域の気候条件、要求される断熱性能にもよるが、15〜100mm程度が好ましい。
【0034】
複合パネル5は正方形、長方形等の矩形であり、その大きさは、正方形の場合、施工性から300×300mmないし900×900mm程度が好ましい。
【0035】
アジャスタ4は、このような形状の複合パネル5の保護材23の上面と板状断熱材21の下面とを挟持する。
【0036】
既設のコンクリート系建築物に構築された屋上外断熱構造は、上記のアジャスタ4と複合パネル5を用いることにより構成され、これまでの板状断熱材の厚さは、通常25mmのものが使用されていた。
【0037】
ここで、CO2削減などのために、断熱層の厚さを増し加える要求に答えるための、本実
施例に係る屋上断熱構造における断熱層のかさ上げ工法について説明する。
【0038】
今、嵩上げ前の建築物の屋上には、図5の断熱構造が構成されている。
【0039】
そして、断熱層の嵩上げを行う前に、新たな板状断熱材30と、図4に示したアジャスタスペーサ31とが予め用意される。この新たな板状断熱材30の厚さは、例えば35mmで縦×横の大きさは、複合パネル5を構成する板状断熱材21と同じ大きさである。このように35mm厚の板状断熱材30が、例えば25mm厚の断熱材21に加えられることにより、全体としては60mm厚となり、CO2削減の要求に答えることができる。
【0040】
アジャスタスペーサ31は、筒体21の頭部18にアジャスタスペーサ31の内方軸部を嵌合させることによって、アジャスタ4に一体化される。これにより、既存のアジャスタ4の上方に、断熱材追加分の高さを確保される。
【0041】
本実施例では、断熱層を嵩上げするため、図5の既設構造物に対して以下の工程が順番に行なわれる。
【0042】
すなわち、先ず、図5に示した既設構造物である屋上外断熱構造体10からアジャスタ4を取り外すとともに、このアジャスタ4に支持された4枚の複合パネル5を取り外す。さらに、最外方の押さえブロック7を取り外す。これにより、既存の断熱構造が一旦解除される。この状態から必要に応じて防水層2の補修を行うこともできる。
【0043】
その後、図4に示したように、これまで使用されていたアジャスタ4を防水層2の上に
載置し、さらに、筒状のアジャスタスペーサ31をアジャスタ4の頭部18に嵌合する。これにより、防水層2の上方に断熱材嵩上げ分の高さが延長して確保される。
【0044】
その後、アジャスタ4の鍔16の上に、予め用意された新たな板状断熱材30を載置する。このとき、図2の場合と同様に、相隣接する4枚の板状断熱材30の隅部が相互に当接される箇所にアジャスタ4が配置される。
【0045】
また、こうしてアジャスタ4上に板状断熱材30を敷設したら、これまで使用されていた複合パネル5を板状断熱材30の上に重ねて配置する。
【0046】
その後、既設の断熱構造に使用されていた押さえキャップ12を、再びアジャスタスペーサ31の上方に配置し、さらに図3の場合と同様に、ビス22を係合部17内に差し込むことにより、複合パネル5を下方から支持するともに、上下で挟持する。
【0047】
そして、屋上に敷設された複合パネル5の最外側の屋上躯体1上には
上部に突出部6を有する押さえブロック7が、最外周の複合パネル5の上方に突出部6を付き出させて取り付ける。なお、押さえブロック7の高さ調整として、必要に応じモルタル33を敷設する。
【0048】
これにより、図5に示した状態から、断熱層が嵩上げされた図1の屋上外断熱構造が完了する。
【0049】
本実施例によれば、複合パネル5、アジャスタ4、押さえキャップ12、押さえブロック7、ビス22など既存の部材を再利用することができるので、コスト削減に寄与することができる。また、労を要さず簡単な作業でそれを行うことができる。
【0050】
さらに、温暖な地方あるいは寒冷地などの違いにより、嵩上げ分の板状断熱材30の厚さを種々変更したい場合であっても、アジャスタ4の昇降支持部11の長さ又はビス22の長さを調整することにより、それに対応することができる。これにより、温暖、寒冷地に関わらず、CO2削減に寄与する屋上外断熱構造を実施することができる。
【0051】
また、施工が容易かつ安価で誰でも容易にそれを行うことができ、さらには不陸にも対処することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 屋上躯体
2 防水層
3 空隙
4 アジャスタ
5 複合パネル
7 押さえブロック
10 屋上外断熱構造体
12 キャップ
21 板状断熱材
23 保護材
31 アジャスタスペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋上躯体上に設置された防水層の上面側に空気層を確保するとともに、この空気層の上面側に、発泡合成樹脂からなる断熱材と保護材とを一体とした複合パネルを、該複合パネルの上面高さの調節機能を備えたアジャスタを用いて挟持させた構造を有する屋上断熱構造における断熱層の嵩上げ工法において、
前記アジャスタに挟持された前記複合パネルを前記アジャスタから取り外す工程と、
前記複合パネルが取り外された前記アジャスタに、予め用意された嵩上げ用の新たな板状断熱材を載置する工程と、
前記アジャスタに載置された嵩上げ用の前記板状断熱材の上面側に、前記アジャスタから取り外された既設の前記複合パネルを重ねて挟持させる工程と、
前記アジャスタの頂部に、嵩上げ分の高さを確保するためのアジャスタスペーサを着脱自在に取り付ける工程と、を有することを特徴とする屋上断熱構造における断熱層の嵩上げ工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−179179(P2011−179179A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42074(P2010−42074)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】