屋外環境における鋼材の腐食量予測方法
【課題】雨がかりのある屋外環境における鋼材の腐食量を精度良く且つ迅速・簡便に予測することができる鋼材腐食量の予測方法を提供する。
【解決手段】雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量A(mm)を、年間平均気温T(℃)、雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)(但し、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計)及び飛来塩分量Sa(mdd)を用いて、式:A=kTα・TOWβ・Saγにより求め、対象となる鋼材について、式中のk、α、β及びγの各値を暴露試験により求める。変数が少なくデータ採取が容易であり、しかも短期間の暴露試験の結果により定まる予測式を用いることにより、雨がかりのある屋外環境における鋼材の腐食量を精度良く且つ迅速・簡便に予測することができ、しかも世界中のあらゆる環境での鋼材腐食量の予測が可能である。
【解決手段】雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量A(mm)を、年間平均気温T(℃)、雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)(但し、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計)及び飛来塩分量Sa(mdd)を用いて、式:A=kTα・TOWβ・Saγにより求め、対象となる鋼材について、式中のk、α、β及びγの各値を暴露試験により求める。変数が少なくデータ採取が容易であり、しかも短期間の暴露試験の結果により定まる予測式を用いることにより、雨がかりのある屋外環境における鋼材の腐食量を精度良く且つ迅速・簡便に予測することができ、しかも世界中のあらゆる環境での鋼材腐食量の予測が可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨がかりのある屋外環境における鋼材の腐食量予測方法であり、全世界の環境で用いることが可能であり、特に構造用鋼材の腐食量予測に好適な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築・土木分野では、構造物の耐用年数を設定するために、環境を区分する方法や、建設地の環境における鋼材の腐食量を予測する方法が提案されてきた。
環境を区分する方法としては、海岸線の多い国内では、非特許文献1に記載の飛来塩分量を用いて耐候性鋼材の適用地域を区分する方法が知られている。また、国際的には、硫黄酸化物量、飛来塩分量などを用いて階級化する手法が非特許文献2に標準化されている。
また、建設地の環境における鋼材の腐食量を予測する方法として、特許文献1〜3には、当該環境の気温、湿度、飛来塩分量などを環境変数に用い、耐候性鋼の雨がかりのない部位の腐食を予測する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第03/006957号
【特許文献2】特開2006−53122号公報
【特許文献3】特開2006−208346号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】道路橋示方書(I共通編・II鋼橋編)・同解説、社団法人日本道路協会、平成17年9月15日、p.181-185
【非特許文献2】ISO andASTM Standards、ISO 9223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の環境を区分する方法では、定性的には適用の要否を判定できるものの、定量的な値が得られないため、鋼構造物の耐用年数を設定するなどの設計に詳細に反映することができない。
また、特許文献1〜3に示される方法は、雨がかりのない環境での腐食量を予測することを特徴としている。一般に雨がかりのない環境は、塩分などの腐食促進物質が蓄積し、腐食環境としては厳しくなる。したがって、例えば橋桁といった複雑な形状をした構造物に、耐候性鋼などを無塗装で用いる場合の適用可否を判定するには適切な方法である。しかし、建築構造物や鋼管を用いた支柱などは、内面は完全に閉塞されており、雨がかりのある外面に露出した部分の腐食量を予測することが必要となる。このような場合には、特許文献1〜3の方法は適用することができない。
【0006】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、雨がかりのある屋外環境における鋼材の腐食量を精度良く且つ迅速・簡便に予測することができ、しかも世界中のあらゆる環境で用いることができる鋼材腐食量の予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量A(mm)を、年間平均気温T(℃)、雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)(但し、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計)及び飛来塩分量Sa(mdd)を用いて、下記(1)式により求める予測方法であって、
A=kTα・TOWβ・Saγ …(1)
対象となる鋼材について、(1)式中のk、α、β及びγの各値を暴露試験により求めることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【0008】
[2]雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量A(mm)を、年間平均気温T(℃)、雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)(但し、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計)及び飛来塩分量Sa(mdd)を用いて、下記(1)式により求める予測方法であって、
A=kTα・TOWβ・Saγ …(1)
鋼材が炭素鋼である場合に、(1)式中のk、α、β及びγの各値を、0.98≦k≦1.89、−2.330≦α≦−2.130、0.370≦β≦0.440、−0.080≦γ≦0.140とすることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【0009】
[3]上記[2]の腐食量予側方法において、鋼材が炭素鋼である場合に、(1)式中のk、α、β及びγの各値を、k=1.35、α=−2.231、β=0.396、γ=0.028とすることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの腐食量予側方法で求められた年間腐食量A(mm)を用いて、飛来塩分量Saが0.4mdd以下である場合に、下記(2)式によりX年経過後の経年腐食量Y(mm)を求めることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
Y=AXB …(2)
[5]上記[4]の腐食量予側方法において、(2)式中のBの値が0.3〜0.6であることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
[6]上記[5]の腐食量予側方法において、(2)式中のBの値が0.6であることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、変数が少なくデータ採取が容易であり、しかも短期間の暴露試験の結果により定まる予測式を用いることにより、雨がかりのある屋外環境における鋼材の腐食量を精度良く且つ迅速・簡便に予測することができ、しかも世界中のあらゆる環境での鋼材腐食量の予測が可能である。また、短期間で腐食量の予測ができることにより、各種鋼材選定の信頼性が向上し、構造物の最適設計を図ることができ、また、メンテナンス費用も最小に抑えることが可能になる。また、国内とは異なり海外の多くの地域は気象データに乏しいという問題があるが、本発明は3つのパラメータのデータ採取だけでよいため、汎用性が高く、気象データが少ない地域にも適用することができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】飛来塩分量と鋼材の年間腐食量AR(実腐食量)との関係を示すグラフ
【図2】年間平均気温Tと鋼材の年間腐食量AR(実腐食量)との関係を示すグラフ
【図3】年間濡れ時間と鋼材の年間腐食量AR(実腐食量)との関係を示すグラフ
【図4】本発明の予測方法で求めた鋼材の年間腐食量Apと鋼材の年間腐食量AR(実腐食量)との関係を示すグラフ
【図5】特許文献2,3の予測方法で求めた鋼材の年間腐食量Apと鋼材の年間腐食量AR(実腐食量)との関係を示すグラフ
【図6】kが許容範囲の上限及び下限である場合(α=-2.231、β=0.396、γ=0.028)の予測線(点線)を示すグラフ
【図7】αが許容範囲の上限及び下限である場合(k=1.35、β=0.396、γ=0.028)の予測線(点線)を示すグラフ
【図8】βが許容範囲の上限及び下限である場合(k=1.35、α=-2.231、γ=0.028)の予測線(点線)を示すグラフ
【図9】γが許容範囲の上限及び下限である場合(k=1.35、α=-2.231、β=0.396)の予測線(点線)を示すグラフ
【図10】期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係を示すグラフ
【図11】実験室で行った腐食試験方法を示す説明図
【図12】実験室で行った腐食試験により得られた年間腐食量AQと推定年間腐食量ASとの関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第一の腐食量予測方法は、鋼材の年間腐食量Aを求めるものであり、雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量A(mm)を、年間平均気温T(℃)、雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)(但し、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計)及び飛来塩分量Sa(mdd)を用いて、下記(1)式により求める予測方法であって、
A=kTα・TOWβ・Saγ …(1)
対象となる鋼材について、(1)式中のk、α、β及びγの各値を暴露試験により求めるものである。
【0013】
ここで、雨がかりのある屋外環境における鋼材とは、雨で濡れること(若しくは付着塩分の潮解や結露などにより鋼材表面に水分が付着する環境にあること)により、付着した腐食促進物質(塩分など)を洗い流す作用が生じ得る環境に置かれた鋼材を意味する。また、上記暴露試験は、1〜2年程度の短期間の暴露試験でよく、JIS−Z2383:1998に準じて行なうことができる。
また、実際に雨がかりしていなくても、上記のように鋼材表面がぬれる場合があるため、本発明における「雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)」は、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計とする。
【0014】
表1に世界各地の暴露環境と鋼材(炭素鋼)の年間腐食量ARを示す。これらのデータは各地で行われた短期間(1年間)の暴露試験により得られたものである。ここで、気候区分に示した記号は、ケッペンの気候区分における気候区であり、それぞれ、Cfa:温暖湿潤気候、Cwa:温暖冬季少雨気候、Aw:サバナ気候、Am:熱帯モンスーン気候、BW:砂漠気候である。図1は、表1の暴露試験結果について飛来塩分量Saと鋼材の年間腐食量AR(実腐食量)との相関をみたものである。国内では、鋼材の腐食量は飛来塩分量に大きく依存することが知られている。しかし、図1によると、飛来塩分量Saと年間腐食量ARには、世界各地のデータでの統一的な相関は認められない。但し、各気候区分毎では、飛来塩分量Saと年間腐食量ARには相関があることが判る。また、図2は、表1の暴露試験結果について年間平均気温Tと年間腐食量AR(実腐食量)との相関をみたものであるが、これもあまり明確な相関は認められない。
図3は、表1の暴露試験結果について年間濡れ時間TOWと年間腐食量AR(実腐食量)との相関をみたものである。年間濡れ時間TOWと年間腐食量ARには、飛来塩分量Saより高い相関が認められる。すなわち、世界的にみると、年間腐食量ARは、飛来塩分量Saよりも年間濡れ時間TOWとの相関が高いことが判った。
【0015】
【表1】
【0016】
以上の結果から、年間濡れ時間TOWによる相関関係を基本とし、飛来塩分量Saと年間平均気温Tによって補正することにより、さらに予測精度が向上すると考えた。
特許文献2,3に示される雨がかりない場合の予測式では、年間腐食量Aは、A=(α・T+β)・Pw(T,H)・(Saγ)で表わされており、濡れ時間比率Pw(T,H)に比例すると考えられている。これに対して、雨がかりがある場合には、濡れることにより、塩分などの腐食促進物質を洗い流す作用が生じるため、必ずしも正比例するとは限らない。そこで、本発明では、年間濡れ時間TOWに対し、TOWβと指数を設け、腐食量の予測式として下記(1)式を考えた。
A=kTα・TOWβ・Saγ …(1)
ここで、特許文献2,3に示された濡れ時間比率Pw(T,H)は濡れ時間の1年の時間(365×24時間=8760時間)に対する比率なので、それらの積が本発明の(1)式のTOWに相当する。つまり、TOW=8760時間×Pw(T,H)である。
【0017】
表1の暴露試験データを上記(1)式を用いて重回帰分析することで表2に示す結果が得られ、これに基づき上記(1)式の各係数を決めた。すなわち、表2の結果から、炭素鋼におけるk、α、β及びγについて、それぞれk=1.35、α=-2.231、β=0.396、γ=0.028という値が得られた。この係数を上記(1)式に適用し、表1の年間平均気温T、年間濡れ時間TOW、飛来塩分量Saに基づき年間腐食量A(予測腐食量)を求めた結果を表3に示す。また、図4に、この年間腐食量と表1に示される年間腐食量AR(実腐食量)との相関関係を示す。飛来塩分量、濡れ時間の単相関よりも精度が格段に向上していることが判る。また、β=0.396であり、濡れ時間が増加しても腐食量は比例して増加しない結果となっており、これは、想定したとおり、洗い流し作用が予測に反映されたためであると考えられる。
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
【0020】
以上の結果から、対象となる鋼材について、k、α、β及びγの各値を暴露試験により求めた上記(1)式を用いることにより、雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量Aを精度良く予測できることが判る。
ここで、対象となる鋼材は炭素鋼などである。炭素鋼とは、炭素含有量が0.02〜2.14mass%の鋼材であり、一般に普通鋼と呼ばれるJIS−G3101規定の一般構造用圧延鋼材、JIS−G3106規定の溶接構造用圧延鋼材、JIS−G3129規定の鉄塔用高張力鋼鋼材、JIS−G3136規定の建築構造用圧延鋼材、及び耐候性鋼と呼ばれるJIS−G3114規定の溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材、JIS−G3125規定の高耐候性圧延鋼材などが含まれる。
【0021】
図4において点線で示した「上限95%」、「下限95%」は、重回帰分析の結果得られた標準誤差(表2に記載の0.070)を基に計算された、信頼区間が95%になるそれぞれの係数の上限線と下限線である。これに基づき、k,α,β,γの各値について、それぞれ許容できる範囲を求めた。
kに関しては、α,β,γを固定した(α=-2.231、β=0.396、γ=0.028)ときに、図4に示した点線と一致する範囲として、0.98≦k≦1.89を得た。また、αに関しては、k,β,γを固定した(k=1.35、β=0.396、γ=0.028)ときに、図4に示した点線と一致する範囲として、-2.330≦α≦-2.130を得た。また、βに関しては、k,α,γを固定した(k=1.35、α=-2.231、γ=0.028)ときに、図4に示した点線と一致する範囲として、0.370≦β≦0.440を得た。さらに、γに関しては、k,α,βを固定した(k=1.35、α=-2.231、β=0.396)ときに、図4に示した点線と一致する範囲として、-0.080≦γ≦0.140を得た。係数k,α,β,γが上限および下限を取る場合の予測線を図6〜図9に示した。
【0022】
本発明の腐食量予測方法で用いる上記(1)式は、変数が3つと少なくデータ採取が容易であり、しかも短期間の暴露試験の結果により簡便に規定することができ、したがって、このような予測式を用いることにより、雨がかりのある屋外環境における鋼材の腐食量を精度良く且つ迅速・簡便に予測することができる。また、世界中のあらゆる環境での鋼材腐食量の予測に適用でき、特に3つの変数のデータ採取だけでよいため、汎用性が高く、気象データが少ない地域にも適用することができる。
【0023】
本発明の第二の腐食量予測方法は、上述した第一の腐食量予測方法((1)式)により求められた年間腐食量Aを用いて鋼材の経年腐食量Yを求めるものである。すなわち、この鋼材の腐食量予側方法は、飛来塩分量Saが0.4mdd以下である場合に、上記第一の腐食量予測方法で求められた年間腐食量A(mm)を用いて、下記(2)式によりX年経過後の経年腐食量Y(mm)を求める。
Y=AXB …(2)
ここで、この腐食量予測方法が、飛来塩分量Saが0.4mdd以下である場合に限られるのは、飛来塩分量が0.4mddを超えるとさびの保護効果が小さくなり、上記(2)式のBの値が0.6を超えるようになること、また、B値を求めた表4のデータは、いずれも0.4mdd以下の暴露環境で得られたものであるためである。
【0024】
図10は期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係を示した特性図であり、腐食寿命の判断の目安は、例えば100年の推定片側板厚減少量が0.5mm以下である。この期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係は、上記(2)式により表される。この式において、B値はさびの保護性を表している。鋼材の耐食性が高ければ図10の特性の初期の傾きは小さく、さびの保護性が高ければ経年腐食量Yの長期経過後の値は小さくなる。
【0025】
次に、上記(2)式中のB値について説明する。このB値は、2〜5年の短期間の暴露試験を行って腐食量を経時的に測定したデータから求めることができる。一般に鋼材の表面にさびが生成していくと、さびが水、酸素、塩分の透過を抑制するために、腐食速度は小さくなる。このとき腐食反応が物質移動で律速される状態では、YはXに対し、理論上放物線則、すなわちB=1/2乗則に従うことが知られているが、本発明では、より精度を高めるため実際の暴露試験の結果からB値を求める。表4に、種々の地域で実際の雨がかりのある暴露試験を複数年実施し、その結果から(2)式を用いて回帰分析して求めたBの値を示す。この結果から、B値は理論値(B=0.5)近傍の0.3〜0.6の値をとることが判った。したがって、B値はこの範囲とすればよいが、この数値範囲においてB値が小さいほど経年の予測腐食量は小さくなり、予測腐食量が構造物の設計などに使用されることを考えると、安全側に設定することが望ましい。したがって、B値は0.5〜0.6とすることが好ましく、特に0.6とすることがより好ましい。
【0026】
【表4】
【0027】
以上述べた本発明の第二の腐食量予測方法によれば、上記(1)式で求められた年間腐食量Aを利用して鋼材の経年腐食量を予測することができるので、さきに述べた本発明の第一の腐食量予測方法の利点を全て享有しつつ、鋼材の寿命を精度良く且つ迅速・簡便に予測することができる。
【実施例】
【0028】
さきに挙げた表3と図4は、表1の世界各地の暴露環境における炭素鋼の年間腐食量AR(実腐食量)に対して、本発明法に従い(1)式(k=1.35、α=-2.231、β=0.396、γ=0.028)を用いて予測した年間腐食量Aを示すものである。これによれば、本発明法により求められる予測値と実腐食量とはよい相関を示しており、他の地域での腐食量の予測にも有力な手法となり得ることが理解できる。
また、表1のデータに基づき特許文献2,3に示された予測方法を用いて年間腐食量を求め、実腐食量(年間腐食量AR)との相関をみた。その結果を図5に示すが、両者には全く相関がなく、特許文献2,3の予測方法では「雨がかりのある屋外環境における鋼材の腐食量」は予測できないことが判る。
【0029】
また、本発明の有効性を確認するために、実験室において環境条件を制御した状態で鋼材の腐食試験を行い、その結果と本発明による予測方法との乖離の程度を調べた。
試料としては、一般に普通鋼と呼ばれるJIS−G3106規定の溶接構造用圧延鋼材(試験面積10cm×10cm)を使用した。
実験室で行った腐食試験方法を図11に示す。温度及び湿度が調整できる装置を用いて、乾燥(40%RH)、湿潤(95%RH)を組合わせ、1サイクルで24時間となるように設定し、365サイクル行なった。1サイクルを24時間としたのは、日間の乾湿を再現するためである。
【0030】
このとき、年間濡れ時間(TOW)は、さきに示したとおり濡れ時間比率に8760時間を乗じたものであり、1日あたりの湿潤(95%RH)時間tより、
TOW(h)=t(h)/24×8760
とした。
温度の調整は、乾燥を高温側、湿潤を低温側とし、24時間の平均温度を年間平均気温T(℃)とした。
塩分の付与は、7日間(7サイクル)に1回、試料を試験機から取り出して、表5に記載の塩分量(付着塩分量)が試料試験面に乗るように、人工海水を試料の試験面全体に均一に塗布した。なお、塗布する直前には、降雨洗浄を再現するため、水道水にて放水量2L、時間10秒程度の水洗を行い、その後、冷風乾燥を行った。
【0031】
365サイクル終了後、従来公知の除錆方法により試料を酸洗して錆部分を溶解し、酸洗前後の試料の質量減少分より年間腐食量AQを求めた。
設定した腐食試験条件と、その時の平均気温、年間濡れ時間(TOW)、飛来塩分量及び得られた年間腐食量AQを表5に示す。
また、(1)式を用い、k=1.35、α=−2.231、β=0.396、γ=0.028として、上記の条件の時の推定年間腐食量ASを算出した。この際、飛来塩分量(mg/dm2/day)としては、表5に記載の付着塩分量を7で除した値を用いた。この算出された推定年間腐食量ASを表5に併せて示す。
実験で得られた年間腐食量AQと、(1)式を用いて算出した推定年間腐食量ASとの関係を図12に示すが、両者は良い相関を示すことが判る。
【0032】
【表5】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨がかりのある屋外環境における鋼材の腐食量予測方法であり、全世界の環境で用いることが可能であり、特に構造用鋼材の腐食量予測に好適な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築・土木分野では、構造物の耐用年数を設定するために、環境を区分する方法や、建設地の環境における鋼材の腐食量を予測する方法が提案されてきた。
環境を区分する方法としては、海岸線の多い国内では、非特許文献1に記載の飛来塩分量を用いて耐候性鋼材の適用地域を区分する方法が知られている。また、国際的には、硫黄酸化物量、飛来塩分量などを用いて階級化する手法が非特許文献2に標準化されている。
また、建設地の環境における鋼材の腐食量を予測する方法として、特許文献1〜3には、当該環境の気温、湿度、飛来塩分量などを環境変数に用い、耐候性鋼の雨がかりのない部位の腐食を予測する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第03/006957号
【特許文献2】特開2006−53122号公報
【特許文献3】特開2006−208346号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】道路橋示方書(I共通編・II鋼橋編)・同解説、社団法人日本道路協会、平成17年9月15日、p.181-185
【非特許文献2】ISO andASTM Standards、ISO 9223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の環境を区分する方法では、定性的には適用の要否を判定できるものの、定量的な値が得られないため、鋼構造物の耐用年数を設定するなどの設計に詳細に反映することができない。
また、特許文献1〜3に示される方法は、雨がかりのない環境での腐食量を予測することを特徴としている。一般に雨がかりのない環境は、塩分などの腐食促進物質が蓄積し、腐食環境としては厳しくなる。したがって、例えば橋桁といった複雑な形状をした構造物に、耐候性鋼などを無塗装で用いる場合の適用可否を判定するには適切な方法である。しかし、建築構造物や鋼管を用いた支柱などは、内面は完全に閉塞されており、雨がかりのある外面に露出した部分の腐食量を予測することが必要となる。このような場合には、特許文献1〜3の方法は適用することができない。
【0006】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、雨がかりのある屋外環境における鋼材の腐食量を精度良く且つ迅速・簡便に予測することができ、しかも世界中のあらゆる環境で用いることができる鋼材腐食量の予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量A(mm)を、年間平均気温T(℃)、雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)(但し、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計)及び飛来塩分量Sa(mdd)を用いて、下記(1)式により求める予測方法であって、
A=kTα・TOWβ・Saγ …(1)
対象となる鋼材について、(1)式中のk、α、β及びγの各値を暴露試験により求めることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【0008】
[2]雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量A(mm)を、年間平均気温T(℃)、雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)(但し、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計)及び飛来塩分量Sa(mdd)を用いて、下記(1)式により求める予測方法であって、
A=kTα・TOWβ・Saγ …(1)
鋼材が炭素鋼である場合に、(1)式中のk、α、β及びγの各値を、0.98≦k≦1.89、−2.330≦α≦−2.130、0.370≦β≦0.440、−0.080≦γ≦0.140とすることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【0009】
[3]上記[2]の腐食量予側方法において、鋼材が炭素鋼である場合に、(1)式中のk、α、β及びγの各値を、k=1.35、α=−2.231、β=0.396、γ=0.028とすることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの腐食量予側方法で求められた年間腐食量A(mm)を用いて、飛来塩分量Saが0.4mdd以下である場合に、下記(2)式によりX年経過後の経年腐食量Y(mm)を求めることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
Y=AXB …(2)
[5]上記[4]の腐食量予側方法において、(2)式中のBの値が0.3〜0.6であることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
[6]上記[5]の腐食量予側方法において、(2)式中のBの値が0.6であることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、変数が少なくデータ採取が容易であり、しかも短期間の暴露試験の結果により定まる予測式を用いることにより、雨がかりのある屋外環境における鋼材の腐食量を精度良く且つ迅速・簡便に予測することができ、しかも世界中のあらゆる環境での鋼材腐食量の予測が可能である。また、短期間で腐食量の予測ができることにより、各種鋼材選定の信頼性が向上し、構造物の最適設計を図ることができ、また、メンテナンス費用も最小に抑えることが可能になる。また、国内とは異なり海外の多くの地域は気象データに乏しいという問題があるが、本発明は3つのパラメータのデータ採取だけでよいため、汎用性が高く、気象データが少ない地域にも適用することができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】飛来塩分量と鋼材の年間腐食量AR(実腐食量)との関係を示すグラフ
【図2】年間平均気温Tと鋼材の年間腐食量AR(実腐食量)との関係を示すグラフ
【図3】年間濡れ時間と鋼材の年間腐食量AR(実腐食量)との関係を示すグラフ
【図4】本発明の予測方法で求めた鋼材の年間腐食量Apと鋼材の年間腐食量AR(実腐食量)との関係を示すグラフ
【図5】特許文献2,3の予測方法で求めた鋼材の年間腐食量Apと鋼材の年間腐食量AR(実腐食量)との関係を示すグラフ
【図6】kが許容範囲の上限及び下限である場合(α=-2.231、β=0.396、γ=0.028)の予測線(点線)を示すグラフ
【図7】αが許容範囲の上限及び下限である場合(k=1.35、β=0.396、γ=0.028)の予測線(点線)を示すグラフ
【図8】βが許容範囲の上限及び下限である場合(k=1.35、α=-2.231、γ=0.028)の予測線(点線)を示すグラフ
【図9】γが許容範囲の上限及び下限である場合(k=1.35、α=-2.231、β=0.396)の予測線(点線)を示すグラフ
【図10】期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係を示すグラフ
【図11】実験室で行った腐食試験方法を示す説明図
【図12】実験室で行った腐食試験により得られた年間腐食量AQと推定年間腐食量ASとの関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第一の腐食量予測方法は、鋼材の年間腐食量Aを求めるものであり、雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量A(mm)を、年間平均気温T(℃)、雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)(但し、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計)及び飛来塩分量Sa(mdd)を用いて、下記(1)式により求める予測方法であって、
A=kTα・TOWβ・Saγ …(1)
対象となる鋼材について、(1)式中のk、α、β及びγの各値を暴露試験により求めるものである。
【0013】
ここで、雨がかりのある屋外環境における鋼材とは、雨で濡れること(若しくは付着塩分の潮解や結露などにより鋼材表面に水分が付着する環境にあること)により、付着した腐食促進物質(塩分など)を洗い流す作用が生じ得る環境に置かれた鋼材を意味する。また、上記暴露試験は、1〜2年程度の短期間の暴露試験でよく、JIS−Z2383:1998に準じて行なうことができる。
また、実際に雨がかりしていなくても、上記のように鋼材表面がぬれる場合があるため、本発明における「雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)」は、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計とする。
【0014】
表1に世界各地の暴露環境と鋼材(炭素鋼)の年間腐食量ARを示す。これらのデータは各地で行われた短期間(1年間)の暴露試験により得られたものである。ここで、気候区分に示した記号は、ケッペンの気候区分における気候区であり、それぞれ、Cfa:温暖湿潤気候、Cwa:温暖冬季少雨気候、Aw:サバナ気候、Am:熱帯モンスーン気候、BW:砂漠気候である。図1は、表1の暴露試験結果について飛来塩分量Saと鋼材の年間腐食量AR(実腐食量)との相関をみたものである。国内では、鋼材の腐食量は飛来塩分量に大きく依存することが知られている。しかし、図1によると、飛来塩分量Saと年間腐食量ARには、世界各地のデータでの統一的な相関は認められない。但し、各気候区分毎では、飛来塩分量Saと年間腐食量ARには相関があることが判る。また、図2は、表1の暴露試験結果について年間平均気温Tと年間腐食量AR(実腐食量)との相関をみたものであるが、これもあまり明確な相関は認められない。
図3は、表1の暴露試験結果について年間濡れ時間TOWと年間腐食量AR(実腐食量)との相関をみたものである。年間濡れ時間TOWと年間腐食量ARには、飛来塩分量Saより高い相関が認められる。すなわち、世界的にみると、年間腐食量ARは、飛来塩分量Saよりも年間濡れ時間TOWとの相関が高いことが判った。
【0015】
【表1】
【0016】
以上の結果から、年間濡れ時間TOWによる相関関係を基本とし、飛来塩分量Saと年間平均気温Tによって補正することにより、さらに予測精度が向上すると考えた。
特許文献2,3に示される雨がかりない場合の予測式では、年間腐食量Aは、A=(α・T+β)・Pw(T,H)・(Saγ)で表わされており、濡れ時間比率Pw(T,H)に比例すると考えられている。これに対して、雨がかりがある場合には、濡れることにより、塩分などの腐食促進物質を洗い流す作用が生じるため、必ずしも正比例するとは限らない。そこで、本発明では、年間濡れ時間TOWに対し、TOWβと指数を設け、腐食量の予測式として下記(1)式を考えた。
A=kTα・TOWβ・Saγ …(1)
ここで、特許文献2,3に示された濡れ時間比率Pw(T,H)は濡れ時間の1年の時間(365×24時間=8760時間)に対する比率なので、それらの積が本発明の(1)式のTOWに相当する。つまり、TOW=8760時間×Pw(T,H)である。
【0017】
表1の暴露試験データを上記(1)式を用いて重回帰分析することで表2に示す結果が得られ、これに基づき上記(1)式の各係数を決めた。すなわち、表2の結果から、炭素鋼におけるk、α、β及びγについて、それぞれk=1.35、α=-2.231、β=0.396、γ=0.028という値が得られた。この係数を上記(1)式に適用し、表1の年間平均気温T、年間濡れ時間TOW、飛来塩分量Saに基づき年間腐食量A(予測腐食量)を求めた結果を表3に示す。また、図4に、この年間腐食量と表1に示される年間腐食量AR(実腐食量)との相関関係を示す。飛来塩分量、濡れ時間の単相関よりも精度が格段に向上していることが判る。また、β=0.396であり、濡れ時間が増加しても腐食量は比例して増加しない結果となっており、これは、想定したとおり、洗い流し作用が予測に反映されたためであると考えられる。
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
【0020】
以上の結果から、対象となる鋼材について、k、α、β及びγの各値を暴露試験により求めた上記(1)式を用いることにより、雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量Aを精度良く予測できることが判る。
ここで、対象となる鋼材は炭素鋼などである。炭素鋼とは、炭素含有量が0.02〜2.14mass%の鋼材であり、一般に普通鋼と呼ばれるJIS−G3101規定の一般構造用圧延鋼材、JIS−G3106規定の溶接構造用圧延鋼材、JIS−G3129規定の鉄塔用高張力鋼鋼材、JIS−G3136規定の建築構造用圧延鋼材、及び耐候性鋼と呼ばれるJIS−G3114規定の溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材、JIS−G3125規定の高耐候性圧延鋼材などが含まれる。
【0021】
図4において点線で示した「上限95%」、「下限95%」は、重回帰分析の結果得られた標準誤差(表2に記載の0.070)を基に計算された、信頼区間が95%になるそれぞれの係数の上限線と下限線である。これに基づき、k,α,β,γの各値について、それぞれ許容できる範囲を求めた。
kに関しては、α,β,γを固定した(α=-2.231、β=0.396、γ=0.028)ときに、図4に示した点線と一致する範囲として、0.98≦k≦1.89を得た。また、αに関しては、k,β,γを固定した(k=1.35、β=0.396、γ=0.028)ときに、図4に示した点線と一致する範囲として、-2.330≦α≦-2.130を得た。また、βに関しては、k,α,γを固定した(k=1.35、α=-2.231、γ=0.028)ときに、図4に示した点線と一致する範囲として、0.370≦β≦0.440を得た。さらに、γに関しては、k,α,βを固定した(k=1.35、α=-2.231、β=0.396)ときに、図4に示した点線と一致する範囲として、-0.080≦γ≦0.140を得た。係数k,α,β,γが上限および下限を取る場合の予測線を図6〜図9に示した。
【0022】
本発明の腐食量予測方法で用いる上記(1)式は、変数が3つと少なくデータ採取が容易であり、しかも短期間の暴露試験の結果により簡便に規定することができ、したがって、このような予測式を用いることにより、雨がかりのある屋外環境における鋼材の腐食量を精度良く且つ迅速・簡便に予測することができる。また、世界中のあらゆる環境での鋼材腐食量の予測に適用でき、特に3つの変数のデータ採取だけでよいため、汎用性が高く、気象データが少ない地域にも適用することができる。
【0023】
本発明の第二の腐食量予測方法は、上述した第一の腐食量予測方法((1)式)により求められた年間腐食量Aを用いて鋼材の経年腐食量Yを求めるものである。すなわち、この鋼材の腐食量予側方法は、飛来塩分量Saが0.4mdd以下である場合に、上記第一の腐食量予測方法で求められた年間腐食量A(mm)を用いて、下記(2)式によりX年経過後の経年腐食量Y(mm)を求める。
Y=AXB …(2)
ここで、この腐食量予測方法が、飛来塩分量Saが0.4mdd以下である場合に限られるのは、飛来塩分量が0.4mddを超えるとさびの保護効果が小さくなり、上記(2)式のBの値が0.6を超えるようになること、また、B値を求めた表4のデータは、いずれも0.4mdd以下の暴露環境で得られたものであるためである。
【0024】
図10は期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係を示した特性図であり、腐食寿命の判断の目安は、例えば100年の推定片側板厚減少量が0.5mm以下である。この期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係は、上記(2)式により表される。この式において、B値はさびの保護性を表している。鋼材の耐食性が高ければ図10の特性の初期の傾きは小さく、さびの保護性が高ければ経年腐食量Yの長期経過後の値は小さくなる。
【0025】
次に、上記(2)式中のB値について説明する。このB値は、2〜5年の短期間の暴露試験を行って腐食量を経時的に測定したデータから求めることができる。一般に鋼材の表面にさびが生成していくと、さびが水、酸素、塩分の透過を抑制するために、腐食速度は小さくなる。このとき腐食反応が物質移動で律速される状態では、YはXに対し、理論上放物線則、すなわちB=1/2乗則に従うことが知られているが、本発明では、より精度を高めるため実際の暴露試験の結果からB値を求める。表4に、種々の地域で実際の雨がかりのある暴露試験を複数年実施し、その結果から(2)式を用いて回帰分析して求めたBの値を示す。この結果から、B値は理論値(B=0.5)近傍の0.3〜0.6の値をとることが判った。したがって、B値はこの範囲とすればよいが、この数値範囲においてB値が小さいほど経年の予測腐食量は小さくなり、予測腐食量が構造物の設計などに使用されることを考えると、安全側に設定することが望ましい。したがって、B値は0.5〜0.6とすることが好ましく、特に0.6とすることがより好ましい。
【0026】
【表4】
【0027】
以上述べた本発明の第二の腐食量予測方法によれば、上記(1)式で求められた年間腐食量Aを利用して鋼材の経年腐食量を予測することができるので、さきに述べた本発明の第一の腐食量予測方法の利点を全て享有しつつ、鋼材の寿命を精度良く且つ迅速・簡便に予測することができる。
【実施例】
【0028】
さきに挙げた表3と図4は、表1の世界各地の暴露環境における炭素鋼の年間腐食量AR(実腐食量)に対して、本発明法に従い(1)式(k=1.35、α=-2.231、β=0.396、γ=0.028)を用いて予測した年間腐食量Aを示すものである。これによれば、本発明法により求められる予測値と実腐食量とはよい相関を示しており、他の地域での腐食量の予測にも有力な手法となり得ることが理解できる。
また、表1のデータに基づき特許文献2,3に示された予測方法を用いて年間腐食量を求め、実腐食量(年間腐食量AR)との相関をみた。その結果を図5に示すが、両者には全く相関がなく、特許文献2,3の予測方法では「雨がかりのある屋外環境における鋼材の腐食量」は予測できないことが判る。
【0029】
また、本発明の有効性を確認するために、実験室において環境条件を制御した状態で鋼材の腐食試験を行い、その結果と本発明による予測方法との乖離の程度を調べた。
試料としては、一般に普通鋼と呼ばれるJIS−G3106規定の溶接構造用圧延鋼材(試験面積10cm×10cm)を使用した。
実験室で行った腐食試験方法を図11に示す。温度及び湿度が調整できる装置を用いて、乾燥(40%RH)、湿潤(95%RH)を組合わせ、1サイクルで24時間となるように設定し、365サイクル行なった。1サイクルを24時間としたのは、日間の乾湿を再現するためである。
【0030】
このとき、年間濡れ時間(TOW)は、さきに示したとおり濡れ時間比率に8760時間を乗じたものであり、1日あたりの湿潤(95%RH)時間tより、
TOW(h)=t(h)/24×8760
とした。
温度の調整は、乾燥を高温側、湿潤を低温側とし、24時間の平均温度を年間平均気温T(℃)とした。
塩分の付与は、7日間(7サイクル)に1回、試料を試験機から取り出して、表5に記載の塩分量(付着塩分量)が試料試験面に乗るように、人工海水を試料の試験面全体に均一に塗布した。なお、塗布する直前には、降雨洗浄を再現するため、水道水にて放水量2L、時間10秒程度の水洗を行い、その後、冷風乾燥を行った。
【0031】
365サイクル終了後、従来公知の除錆方法により試料を酸洗して錆部分を溶解し、酸洗前後の試料の質量減少分より年間腐食量AQを求めた。
設定した腐食試験条件と、その時の平均気温、年間濡れ時間(TOW)、飛来塩分量及び得られた年間腐食量AQを表5に示す。
また、(1)式を用い、k=1.35、α=−2.231、β=0.396、γ=0.028として、上記の条件の時の推定年間腐食量ASを算出した。この際、飛来塩分量(mg/dm2/day)としては、表5に記載の付着塩分量を7で除した値を用いた。この算出された推定年間腐食量ASを表5に併せて示す。
実験で得られた年間腐食量AQと、(1)式を用いて算出した推定年間腐食量ASとの関係を図12に示すが、両者は良い相関を示すことが判る。
【0032】
【表5】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量A(mm)を、年間平均気温T(℃)、雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)(但し、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計)及び飛来塩分量Sa(mdd)を用いて、下記(1)式により求める予測方法であって、
A=kTα・TOWβ・Saγ …(1)
対象となる鋼材について、(1)式中のk、α、β及びγの各値を暴露試験により求めることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【請求項2】
雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量A(mm)を、年間平均気温T(℃)、雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)(但し、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計)及び飛来塩分量Sa(mdd)を用いて、下記(1)式により求める予測方法であって、
A=kTα・TOWβ・Saγ …(1)
鋼材が炭素鋼である場合に、(1)式中のk、α、β及びγの各値を、0.98≦k≦1.89、−2.330≦α≦−2.130、0.370≦β≦0.440、−0.080≦γ≦0.140とすることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【請求項3】
鋼材が炭素鋼である場合に、(1)式中のk、α、β及びγの各値を、k=1.35、α=−2.231、β=0.396、γ=0.028とすることを特徴とする請求項2に記載の屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の腐食量予側方法で求められた年間腐食量A(mm)を用いて、飛来塩分量Saが0.4mdd以下である場合に、下記(2)式によりX年経過後の経年腐食量Y(mm)を求めることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
Y=AXB …(2)
【請求項5】
(2)式中のBの値が0.3〜0.6であることを特徴とする請求項4に記載の屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【請求項6】
(2)式中のBの値が0.6であることを特徴とする請求項5に記載の屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【請求項1】
雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量A(mm)を、年間平均気温T(℃)、雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)(但し、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計)及び飛来塩分量Sa(mdd)を用いて、下記(1)式により求める予測方法であって、
A=kTα・TOWβ・Saγ …(1)
対象となる鋼材について、(1)式中のk、α、β及びγの各値を暴露試験により求めることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【請求項2】
雨がかりのある屋外環境における鋼材の年間腐食量A(mm)を、年間平均気温T(℃)、雨がかりなどによる年間濡れ時間TOW(h)(但し、雨がかりしている時間と、雨がかりしていないが相対湿度が80%以上である時間の合計)及び飛来塩分量Sa(mdd)を用いて、下記(1)式により求める予測方法であって、
A=kTα・TOWβ・Saγ …(1)
鋼材が炭素鋼である場合に、(1)式中のk、α、β及びγの各値を、0.98≦k≦1.89、−2.330≦α≦−2.130、0.370≦β≦0.440、−0.080≦γ≦0.140とすることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【請求項3】
鋼材が炭素鋼である場合に、(1)式中のk、α、β及びγの各値を、k=1.35、α=−2.231、β=0.396、γ=0.028とすることを特徴とする請求項2に記載の屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の腐食量予側方法で求められた年間腐食量A(mm)を用いて、飛来塩分量Saが0.4mdd以下である場合に、下記(2)式によりX年経過後の経年腐食量Y(mm)を求めることを特徴とする屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
Y=AXB …(2)
【請求項5】
(2)式中のBの値が0.3〜0.6であることを特徴とする請求項4に記載の屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【請求項6】
(2)式中のBの値が0.6であることを特徴とする請求項5に記載の屋外環境における鋼材の腐食量予側方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−194176(P2012−194176A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−287508(P2011−287508)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]