説明

屋根材

【課題】屋根の外観が低下しにくい屋根材を提供する。
【解決手段】略平板状の屋根材本体1の両側端部に表面又は裏面の少なくとも一方に突出する突起部2が形成される。隣接する屋根材本体1、1のうち、一方の屋根材本体1の側端部が他方の屋根材本体1に重ねて敷設される屋根材Aに関する。側端部の重ね合わせ位置の目安となる位置決め部3が屋根材本体1の側端縁部1aから所定の位置に形成される。位置決め部3を目安にして一方の屋根材本体1の側端部が他方の屋根材本体に重ねることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属屋根材などの屋根材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数枚の屋根材を屋根下地に縦横に敷設することにより屋根を形成することが行われているが、この場合、横方向(屋根の水流れ方向と直交する方向)で隣接する屋根材はその側端部同士を上下に重ねるようにして屋根の防水性を確保しようとしている。例えば、特許文献1に記載された屋根材Aは、図14に示すように、一方の側端部に略平板状のカバー部20を形成すると共に、他方の側端部に断面略波状の捨板部21を形成したものであり、屋根下地6の上に敷設した屋根材Aの捨板部21の上に、他の屋根材Aのカバー部20を被せるようにして、二枚の屋根材A、Aを横方向に隣接させて敷設するようにしている。しかし、上記の屋根材Aでは、防水上の観点からカバー部20と捨板部21とを一定の長さに形成し、カバー部20と捨板部21とを重ね合わせて屋根材Aを接続しているため、屋根下地6のけらば部分や降り棟部あるいは屋根下地と二階部分の壁との境界部分(壁立上がり部)において、寸法調整のために屋根材を切断しなければならず、施工現場で屋根材の廃材が生じるおそれがあった。また、カバー部20を必ず捨板部21の上に被せるので、屋根材の敷設していく方向が屋根下地の左から右あるいは右から左のいずれか一方向に限定されてしまい、施工性が低下するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−159066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本出願人は、両方の側端部に断面略波状の接続部を有する屋根材を提案している(特願2009−3473)。この場合、横方向で隣接する屋根材の側端部の重ね合わせ長さを施工現場に応じて適宜調整することによって、寸法調整のために屋根材を切断する必要が無く、また、隣接する屋根材のうち、左右いずれの屋根材を上にし、いずれの屋根材を下にして重ね合わせるかは特に制限されないため、屋根材を敷設していく方向が一方向に限定されないものである。
【0005】
しかし、両方の側端部に断面略波状の接続部を有する屋根材の場合では、隣接する屋根材の重ね合わせ長さの自由度が高くなるために、上に重ねた屋根材Aの側端縁部と下に位置する屋根材Aの側端部の表面との境界線Lが、図15に示すように、屋根全体で規則性がほとんどなくてバラバラに形成され、屋根の外観が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、屋根の外観が低下しにくい屋根材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の屋根材Aは、略平板状の屋根材本体1の両側端部に突起部2が形成され、隣接する屋根材本体1、1のうち、一方の屋根材本体1の側端部が他方の屋根材本体1に重ねられ、突起部2により屋根材本体1、1に隙間Sが形成されて敷設される屋根材Aであって、側端部の重ね合わせ位置のガイドとなる位置決め部3が屋根材本体1の側端縁部1aから所定の位置に形成されて成ることを特徴とするものである。
【0008】
本発明において、複数の位置決め部3が屋根材本体1の側端縁部1aから一定の間隔で形成されていることが好ましい。
【0009】
本発明において、位置決め部3が屋根材本体1の表面又は裏面に突出して形成されていることが好ましい。
【0010】
本発明において、屋根材本体1の一方の側端部が、屋根の隅棟部S1、けらば部S2、谷部S3、壁立ち上げ部S4の群から選ばれるいずれか一つに対応した形状に形成されていることが好ましい。
【0011】
本発明において、屋根材本体1の水上側端部に屋根材本体1の表面側に突出する係止部5が形成され、屋根材本体1の水下側端部に屋根材本体1の裏面側に突出する被係止部4が形成され、屋根材本体1と係止部5との間に挿入された被係止部4を屋根材本体1と係止部5の両方に接触させるための接触部4a、4bが被係止部4に形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、位置決め部をガイドにして一方の屋根材本体の側端部を他方の屋根材本体に重ねることができ、上に重ねた屋根材の側端縁部と下に位置する屋根材の表面との境界線を屋根全体で規則的に揃え易くなり、また、前記境界線と突起部とがほぼ同形状に見えて境界線自体が際立つことがなく、屋根の外観が低下しにくくなるものである。また、屋根材を重ねた際に突起部は防水ラインの役割も担うものであり、屋根の防水性を高めることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図2】同上の接続状態の一例を示す斜視図である。
【図3】同上の接続状態の一例を示し、(a)(b)は一部の断面図である。
【図4】同上の施工手順の一例を示し、(a)〜(d)は一部の断面図である。
【図5】同上の施工状態の一例を示す概略図である。
【図6】同上の施工状態の一例を示し、(a)は断面図、(b)(c)は斜視図である。
【図7】同上の屋根下地の一例を示す平面図である。
【図8】同上の他の実施の形態の一例を示し、(a)〜(d)は斜視図である。
【図9】同上の接続状態の一例を示し、(a)(b)は一部の断面図である。
【図10】同上の他の接続状態の一例を示す一部の断面図である。
【図11】同上の他の施工手順の一例を示し、(a)〜(d)は一部の断面図である。
【図12】同上の屋根材の側端縁部の一例を示し、(a)(b)は断面図である。
【図13】同上の屋根材の側端部の一例を示し、(a)は(b)の一部の拡大断面図、(b)は一部の断面図、(c)は施工状態を示す一部の断面図である。
【図14】従来例を示す一部の断面図である。
【図15】先行例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0015】
本発明の屋根材Aは、金属板をロール成形加工などで加工して所望の形状に形成することができる。金属板としては、例えば、厚み0.3〜0.5mmのものを好適に用いることができ、また、金属板の種類としては、塗装鋼板や亜鉛めっき鋼板、ガルバリウム鋼板(登録商標)などの各種のものを用いることができる。尚、製造については、従来ではロール成形機で対応するしかなかったが、本発明の屋根材AはR加工(曲面加工)がほとんどないためベンダー加工機でも対応でき、また、端部加工はヘミング曲げ加工及びプレス加工で対応できる。
【0016】
本発明の屋根材Aは、図1に示すように、左右対称(線対称)に形成されるものであって、屋根材本体1と被係止部4と係止部5及び固定片10などを備えて形成されている。
【0017】
屋根材本体1は横方向(屋根の水流れ方向と直交する方向)に長く形成されており、横方向の長さ寸法L1は、例えば、2000mm程度の定尺とすることができ、また、屋根材本体1の縦方向(屋根の水流れ方向)の働き幅L2は、例えば、200〜280mmとすることができ、好ましくは250mm程度とすることができる。屋根材本体1の両方の側端部には複数の突起部2が略平行に形成されている。突起部2はリブ加工などにより屋根材本体1の表面で開口する断面略V字状の溝で形成することができ、屋根材本体1の裏面に突出して屋根材本体1の縦方向の略全長にわたって形成されている。突起部2は、例えば、幅4〜10mm、表面からの深さ0.5〜1.5mm、長さ180〜280mmとすることができる。突起部2は屋根材本体1の側端縁部1aから幅寸法L3=100〜200mmの範囲に形成するのが好ましい。尚、突起部2は屋根材本体1の表面に突出して形成されていてもよく、また、屋根材本体1の表面に突出する突起部2と裏面に突出する突起部2の両方を形成しても良い。屋根材本体1の側端縁部1aは折り曲げ加工し、防錆・剛性を向上させるためにエッジを外部から見えにくくするようにしている。
【0018】
また、屋根材本体1には位置決め部3が形成されている。位置決め部3は、リブ加工などにより屋根材本体1の裏面で開口する断面略逆V字状に形成されており、屋根材本体1の表面に突出して屋根材本体1の縦方向の略全長にわたって形成されている。また、位置決め部3は屋根材本体1の両側部に一個ずつあるいは複数個ずつ設けることができる。位置決め部3を屋根材本体1の両側部に一個ずつ設ける場合は、屋根材本体1の側端縁部1aから所定の寸法の位置に形成することができ、例えば、屋根材本体1の側端縁部1aから100mmの位置に位置決め部3を形成することができる。また、位置決め部3を屋根材本体1の両側部に複数個ずつ設ける場合は、屋根材本体1の側端縁部1aから一定の間隔で形成することができ、例えば、屋根材本体1の側端縁部1aから100mmの間隔で位置決め部3を形成することができる。尚、位置決め部3は視認できるものであればどのような形状や位置に形成されていても良い。
【0019】
被係止部4は、屋根材本体1の水下側端部(例えば、軒側端部)に形成されるものであって、屋根材本体1の水下側端部に延設される上記金属板の一部を屋根材本体1の水下側端部の裏面側に折り返すように屈曲することにより、屋根材本体1の横方向の略全長にわたって形成することができる。
【0020】
係止部5は、屋根材本体1の水上側端部(例えば、棟側端部)に形成されるものであって、屋根材本体1の水上側端部に延設される上記金属板の一部を屋根材本体1の水上側端部の表面側に折り返すように屈曲することにより、屋根材本体1の横方向の略全長にわたって、上片5aと下片5bとからなる断面略倒U字状に形成することができる。従って、係止部5は屋根材本体1の上方において、屋根材本体1の水上側端部から水下側に向かって突出して形成され、係止部5の水下側端部が閉塞され、係止部5の水上側が開放されるような断面略倒U字状に形成されている。
【0021】
固定片10は、係止部5の水上側端部に突設される上記金属板の一部で形成することができる。固定片10は屋根材本体1の横方向の略全長にわたって形成されており、縦方向の断面形状が略逆へ字状に形成されており、係止部5の上片5aから水上側に向かって突設されている。
【0022】
そして、本発明の屋根材Aはその複数枚を野地板などの屋根下地6の上に縦横に敷設するものであり、これにより、屋根を形成することができる。この場合、隣接して敷設されて屋根材A、Aは取り付け強度の確保や防水性の向上のために接続されている。
【0023】
図2に示すように、横方向で隣接する屋根材A、Aは屋根材本体1の側端部同士を上下に重ね合わせたり、あるいは一方の屋根材Aの屋根材本体1の側端部を他方の屋根材Aの屋根材本体1と上下に重ね合わせたりすることにより接続する。ここで、屋根材Aの縦方向の断面形状は横方向の全長にわたって略一定であるため、重ね合わせ寸法は任意に設定可能であり、防水性能を確保するために、屋根材本体1の側端縁部1aから100mm以上重ね合わせることが好ましいが、屋根の各部分の納めの寸法調整に応じて重ね合わせ寸法を変えることができる。尚、重ね合わせる寸法の上限は特に設定されないが、あまりに大きいと屋根材Aに無駄な部分が増加してしまうので、重ね合わせる寸法は屋根材本体1の側端縁部1aから横寸法の半分以下とするのが好ましく、より好ましくは200mm以下にするのがよい。また、屋根材Aは左右対称であるために、横方向で隣接する屋根材A、Aの左右のどちらも上に重ねることが可能であり、屋根下地6の横方向の左右何れの方向からでも順次敷設していくことができる。
【0024】
そして、上下に重なった屋根材A、Aの間には突起部2により隙間Sを設けることができる。すなわち、図3(a)に示すように、下側の屋根材Aの屋根材本体1の表面の平坦部分に、上側の屋根材Aに設けた突起部2が載置することにより、下側の屋根材Aの屋根材本体1の表面と上側の屋根材Aの屋根材本体1の裏面との間に隙間Sを形成することができる。通常、雨水は屋根材Aの表面を流れ、隙間Sには雨水は浸入しないが、万が一、横方向で隣接する屋根材A、Aの重ね合わせ部分において、上側の屋根材Aの下に雨水が浸入した場合でも、この隙間Sを通じて雨水の排水を行うことができる。従って、確実な隙間Sの形成のため、上下に重なった屋根材A、Aの突起部2同士は重ならない方が好ましい。尚、突起部2が屋根材本体1の表面に突出している場合は、下側の屋根材Aの屋根材本体1に設けた突起部2の上端に、上側の屋根材Aの屋根材本体1の裏面の平坦部分が載置することにより、上記と同様の隙間Sを形成することができる。また、縦方向で隣接する屋根材A、Aはその一部を上下に重ね合わせることにより接続する。この場合、水下側(例えば、軒側)に敷設された屋根材Aの係止部5に水上側(例えば、棟側)に敷設された屋根材Aの被係止部4を係止する。
【0025】
ここで、横方向及び縦方向の屋根材A、Aの接続について詳述する。まず、係止部5を上方に伸長した状態で屋根材Aを屋根下地6に載置し、ビスなどの固定具11を固定片10及び屋根下地6に打ち込んで固定片10を固定する。このように固定片10を固定することにより、係止部5を上下に収縮して上下寸法(厚み)を小さくした状態で形状を固定(確定)することができる。次に、固定した屋根材Aに別の屋根材Aを横方向に並べて載置する。このとき、上記のように、隣接する屋根材A、Aは横方向にずらした状態で上下に重ね合わせることにより接続する。また、固定した屋根材Aの係止部5が新たに配置する屋根材Aの係止部5の上片5aと下片5bとの間に水上側から差し込まれることにより、図4(a)に示すように、固定した屋根材Aの係止部5の表面に新たに配置する方の屋根材Aの係止部5を被せるようにし、また、固定した屋根材Aの固定片10の表面に新たに配置する方の屋根材Aの固定片10を被せるようにする。次に、図4(b)に示すように、新たに配置した屋根材Aの固定片10と、固定した屋根材Aの固定片10とに固定具11を打ち込むことによって、新たに配置した屋根材Aの固定片10を屋根下地6に固定する。
【0026】
このようにして横一列に複数枚の屋根材A、A…を敷設した後、これら敷設した屋根材Aの水上側に他の複数枚の屋根材A、A…を横一列に順次敷設していく。このとき、図4(c)に示すように、水上側の屋根材Aの被係止部4を水下側の屋根材(上側に被せた屋根材)Aの屋根材本体1と係止部5との間に挿入し、挿入した被係止部4を係止部5の下面に係止する。この後、図4(d)に示すように、さらに他の水上側の屋根材Aの被係止部4を上記水上側の屋根材Aの被係止部4と水下側の屋根材Aの屋根材本体1との間に挿入することによって水下側の屋根材Aの係止部5に係止する。このように、縦方向と横方向に四枚の屋根材Aが隣接する箇所では、最終的に二つの被係止部4、4と二つの係止部5、5とが重なった状態となる。このようにして複数枚の屋根材Aを縦横に敷設することによって、屋根を形成することができる。
【0027】
そして、本発明の屋根材Aでは、横方向に隣接する屋根材A、Aを上下に重ねるにあたって、位置決め部3をガイド(目安)にする。例えば、図3(a)に示すように、横方向に隣接する屋根材A、Aのうち、一方の屋根材Aに設けた位置決め部3と、他方の屋根材Aの側端縁部1aとを重ね合わせるようにする。このように位置決め部3を目印にして横方向に隣接する屋根材A、Aの重ね合わせ位置を調整することができ、これにより、横方向に隣接する屋根材A、Aにおいて、上に重ねた屋根材Aの屋根材本体1の側端縁部1aと下に位置する屋根材1の屋根材本体1の表面との境界線(目地)Lを屋根全体で規則的に揃えやすくなる。従って、例えば、図5に示すように、縦方向に隣接する屋根材A、Aの上記境界線Lが一直線に並ぶように、横方向に隣接する屋根材A、Aを重ね合わせて接続することにより、屋根に不規則な目地が形成されにくくなって、屋根の外観が低下しにくくなるものである。
【0028】
また、屋根材本体1の両方の側端部に複数個ずつ位置決め部3を形成した場合は、図3(b)に示すように、横方向に隣接する屋根材A、Aのうち、一方の屋根材Aに設けた位置決め部3と、他方の屋根材Aの側端縁部1aとを重ね合わせると共にその他の残りの位置決め部3同士を重ね合わせるようにすることができる。尚、屋根材本体1の側端縁部1aは、平面視において、突起部2とは近似した外観とするために、斜め下方に向かって傾斜するように屈曲されている。従って、上記境界線Lと同様の外観が突起部2で発現されて境界線Lが目立たないようにすることができる。
【0029】
本発明の屋根材Aは被係止部4や係止部5に屋根材本体1の表面に対して垂直となる部位がないため、屋根材Aをその側端部が上方に突出するように略直角に容易に折り曲げることができる。従って、屋根下地6と立ち上がり壁との境界部分の納め構造において、屋根材Aの側端部を上方へ略直角に折り曲げて立ち上がり壁の表面に沿わせると共に隣接する屋根材A、Aの重ね合わせ寸法を調整することにより、屋根材Aを切断することが無くなり、施工現場での廃材の発生を極力少なくすることができる。また、本発明は上記のように折り曲げやすい形状であるので、切断することなく、屋根下地6の表面に沿わせて降り棟に敷設することができる。
【0030】
すなわち、屋根下地6の長面6aと短面6bとが降り棟6cを介して隣接する場合、まず、図6(b)に示すように、長面6aに複数枚の屋根材A、A…を横方向及び軒側から棟側に向かって敷設していくが、最も短面6bに近い部分に敷設した屋根材Aの短面6b側の側端部を折り曲げて短面6bの表面に沿わせて配置するようにする。次に、図6(c)に示すように、短面6bに複数枚の屋根材A、A…を横方向及び軒側から棟側に向かって敷設していくが、最も長面6aに近い部分に敷設した屋根材Aの長面6a側の側端部を折り曲げて、長面6aに敷設した屋根材Aの表面に沿わせて配置するようにする。この後、図6(a)に示すように、断面略へ字状のカバー材13を降り棟6c及び棟6dに取り付けることにより、屋根材Aを施工することができる。そして、図6(a)に示すように、屋根下地と立ち上がり壁との境界部分に施工する場合と同様に、屋根材Aを切断することなく、重ね合わせ寸法を調整して納めることができ、施工現場での廃材の発生を極力少なくすることができる。また、図6(c)に示すように、本発明の屋根材Aは短面6bに施工する場合、軒側から棟側に葺き上げていくにつれて、重ね合わせ部分K(点々模様で示す)の寸法が長くなっていくが、長面6aに施工する場合は重ね合わせ部分Kの寸法が一定で切断もすることなく納めることができる。
【0031】
本発明の屋根材Aは、施工現場ではなく工場等で予め屋根の形状に合わせて折り曲げ加工しておくことができる。屋根材Aを施工する屋根下地6は、図面等に記載された設計寸法と、施工現場で実際に測定した実寸法とに誤差があり、従来では、実寸法に合わせて施工現場で屋根材Aを加工しなければならないため、工場等で予め屋根材Aを加工しておくことは難しい。しかし、本発明では、横方向で隣接する屋根材A、Aを重ね合わせて施工するので、重ね合わせ寸法を調整することによって、上記の誤差を吸収することができる。従って、設計寸法に合わせて工場等で予め屋根材Aを加工してプレカット品とすることができ、施工時間の大幅な短縮を図ることができると共に施工者の技術に頼ることなく精度良く屋根材Aを仕上げることができる。
【0032】
図7は屋根下地6の平面図を示し、符号S1は隅棟部を、符号S2はけらば部を、符号S3は谷部を、符号S4は壁立ち上げ部をそれぞれ示す。一方の側端部が隅棟部S1に沿って配置される屋根材Aは、図8(a)に示すように、図1に示す屋根材Aにおいて、一方の側端部が隅棟部S1の傾斜に沿うように斜めにカットされ、さらにカットした側端部を上側に略直角に折り曲げて立ち上げ部1bが形成されている。立ち上げ部1bは隅棟部S1に配置される棟包み等に収容されるものである。また、一方の側端部がけらば部S2に沿って配置される屋根材Aは、図8(b)に示すように、図1に示す屋根材Aにおいて、一方の側端部が所定の長さだけカットされ、さらにカットした側端部をけらば部S2に沿うように下側に略L字状に折り曲げてけらば覆い部1cが形成されている。けらば覆い部1cは屋根下地6のけらば端部を覆うように配置されるものである。また、一方の側端部が谷部S3に沿って配置される屋根材Aは、図8(c)に示すように、図1に示す屋根材Aにおいて、一方の側端部が谷部S3の傾斜に沿うように斜めにカットされ、さらにカットした側端部を屋根材本体1の裏面側に折り返して水切り部1dが形成されている。水切り部1dは防水のために形成されている。さらに、一方の側端部が壁立ち上げ部S4に沿って配置される屋根材Aは、図8(d)に示すように、図1に示す屋根材Aにおいて、一方の側端部が所定の長さだけカットされ、さらにカットした側端部を壁立ち上げ部S4に沿うように上側に略直角に折り曲げて壁覆い部1eが形成されている。壁覆い部1eは2階の外壁下地Gの下部外面を覆うように配置される。
【0033】
本発明において、図9(a)に示すように、被係止部4に複数の接触部4a、4bを設けることができる。一つの接触部4aは被係止部4の先端で形成することができる。また、もう一つの接触部4bは被係止部4の略中央部を横方向の全長にわたって下方に向かってく字状に凸曲するように屈曲し、この屈曲部分の先端で形成することができる。また、係止部5の下片5bの基部(屋根材本体1に近い方の端部)には横方向の全長にわたって、下面に開口する断面略逆V字状の係止溝5cが形成されている。
【0034】
そして、上記と同様に、屋根材本体1と係止部5の下片5bとの間に被係止部4を上下に少し弾性変形させながら差し込んで係止部5と被係止部4とを係止するが、被係止部4の先端側の接触部4aは下片5bの係止溝5cに嵌め込まれて係止させ、被係止部4の略中央部の接触部4bは屋根材本体1の表面に接触させる。このように接触部4aの下片5bへの接触部分と、接触部4bの屋根材本体1への接触部分により、縦方向で隣接する屋根材A、Aの接続部分に、複数の横方向に長い防水ラインを形成することができ、防水性を高めることができるものである。また、被係止部4は断面略倒く字状に屈曲しているので、バネ性を有するものであり、下片5bへの接触部4aの接触と屋根材本体1への接触部4bの接触とを被係止部4の弾性力により強くすることができ、防水ラインを確実に形成することができると共に係止部5と被係止部4の係止を強固にすることができる。
【0035】
また、図9(b)に示すように、屋根材本体1と係止部5の下片5bとの間に被係止部4を差し込んだ後、被係止部4をさらに奥に深く差し込むことができる。この場合、被係止部4の先端側の接触部4aは係止溝5cとの係止から外れるが、その接触部4aは係止溝5cの奥側で下片5bに当接し、防水ラインを形成することができ、防水性を低下させないようにすることができる。本発明では、図4(d)に示すように、二つの係止部5と二つの被係止部4とが重なり合う部分が存在するが、上記のように屋根材本体1と係止部5の下片5bとの間に被係止部4を差し込んだ後、この被係止部4をさらに奥に深く差し込むことができるので、一つの被係止部4を最初に奥深く差し込んだ後に、次の被係止部4を屋根材本体1と上記差し込み後の被係止部4との間に差し込むようにすることができ、二つの被係止部4を重ね合わせて施工しやすくなるものである。尚、二つの被係止部4を重ね合わせる部分では、二つの被係止部4とも係止溝5cには係止されない。
【0036】
また、本発明において、図10に示すように、図9のものとは形状の異なる被係止部4を形成することができる。この被係止部4に複数の接触部4a、4bを設けることができる。一つの接触部4aは被係止部4の先端で形成することができる。また、もう一つの接触部4bは被係止部4の基部で形成することができる。被係止部4は接触部4bから少し斜め下方に下り傾斜するように形成されている。そして、上記と同様に、屋根材本体1と係止部5の下片5bとの間に被係止部4を上下に少し弾性変形させながら差し込んで係止部5と被係止部4とを係止するが、被係止部4の先端側の接触部4aは屋根材本体1の表面に接触させ、被係止部4の基部の接触部4bはその上面を係止部5の下片5bの先端部の下面に接触させる。このように接触部4aの屋根材本体1への接触部分と、接触部4bの下片5bへの接触部分により、縦方向で隣接する屋根材A、Aの接続部分に、複数の横方向に長い防水ラインを形成することができ、防水性を高めることができるものである。また、被係止部4は断面略倒く字状に屈曲しているので、バネ性を有するものであり、屋根材本体1への接触部4aの接触と下片5bへの接触部4bの接触とを被係止部4の弾性力により強くすることができ、防水ラインを確実に形成することができると共に係止部5と被係止部4の係止を強固にすることができる。
【0037】
図10に示す係止部5と被係止部4とを有する屋根材A、Aも上記と同様にして縦横に接続することができる。まず、係止部5を上方に伸長した状態で屋根材Aを屋根下地6に載置し、ビスなどの固定具11を固定片10及び屋根下地6に打ち込んで固定片10を固定する。このように固定片10を固定することにより、係止部5を上下に収縮して上下寸法(厚み)を小さくした状態で形状を固定(確定)することができる。次に、固定した屋根材Aに別の屋根材Aを横方向に並べて載置する。このとき、上記のように、隣接する屋根材A、Aは横方向にずらした状態で上下に重ね合わせることにより接続する。また、図11(a)に示すように、固定した屋根材Aの係止部5の表面に新たに配置する方の屋根材Aの係止部5を被せるようにし、また、固定した屋根材Aの固定片10の表面に新たに配置する方の屋根材Aの固定片10を被せるようにする。次に、図11(b)に示すように、新たに配置した屋根材Aの固定片10と、固定した屋根材Aの固定片10とに固定具11を打ち込むことによって、新たに配置した屋根材Aの固定片10を屋根下地6に固定する。
【0038】
このようにして横一列に複数枚の屋根材A、A…を敷設した後、これら敷設した屋根材Aの水上側に他の複数枚の屋根材A、A…を横一列に順次敷設していく。このとき、図11(c)に示すように、水上側の屋根材Aの被係止部4を水下側の屋根材(上側に被せた屋根材)Aの屋根材本体1と係止部5との間に挿入し、挿入した被係止部4を係止部5の下面に係止する。この後、図11(d)に示すように、さらに他の水上側の屋根材Aの被係止部4を上記水上側の屋根材Aの被係止部4と水下側の屋根材Aの屋根材本体1との間に挿入することによって水下側の屋根材Aの係止部5に係止する。このように、縦方向と横方向に四枚の屋根材Aが隣接する箇所では、最終的に二つの被係止部4、4と二つの係止部5、5とが重なった状態となる。このようにして複数枚の屋根材Aを縦横に敷設することによって、屋根を形成することができる。
【0039】
本発明において、屋根材Aの側端縁部1aは裏面側に補強片1bを折返し屈曲して二重の金属板で形成することが好ましく、これにより、屋根材Aの側端縁部1aの剛性を高めることができ、横方向に隣接する屋根材A、Aの接続部分(横継ぎ部分)における側端縁部1aの変形による隙間形成(口開き)を小さくすることができるものである。この場合、図12(a)のように、金属板の端部を補強片1bとして1回折り返して側端縁部1aを形成するよりも、図12(b)に示すように、金属板の端部を1回折り返して補強片1bを形成し、さらに、補強片1bがく字状となるように途中でもう1回屈曲するのが好ましく、これにより、屋根材Aの側端縁部1aの剛性をさらに高めることができる。
【0040】
本発明において、屋根材本体1の側端縁部1aからその側端縁部1aに最も近い突起部2までの寸法を大きくするのが好ましい。この種の屋根材Aでは、局所的に荷重がかかると(例えば施工時に踏んでしまう)、塑性変形する可能性があった。しかし、屋根材本体1の側端縁部1aからその側端縁部1aに最も近い突起部2までの寸法(曲げ幅)を広くとり、大面積で荷重を受けることで、踏まれても金属板のスプリングバックにより、復元することができる(弾性変形に留まる)。従って、横方向に隣接する屋根材A、Aの接続部分(横継ぎ部分)における側端縁部1aの変形による隙間形成(口開き)を小さくすることができ、また、風荷重を受けた場合は踏まれた場合とは逆方向(下から上へ)に力が働くため、横方向に隣接する屋根材A、Aの側端部を重ね合わせた時に上側の屋根材Aが上側に撓み口開きしやすくなるが、これを曲げ幅を広く取ることで復元しやすくなって口開きを少なくすることができる。図13(a)に示すような寸法(単位はmm)を有する屋根材Aにおいて、図13(b)(c)に示すように、屋根材本体1の側端縁部1aから約30mmまでの側端部を裏面側に向かって緩やかに下り傾斜する傾斜部1cとして形成するのが好ましい。尚、図3に示すものにおいては、屋根材本体1の側端縁部1aからその側端縁部1aに最も近い突起部2までの寸法が約6mmであって、急角度で屈曲されている。
【0041】
そして、本発明の屋根材Aでは、隣接する屋根材A、Aの重ね合わせ寸法(葺き足)を自由自在に調整できるため、平面部からけらば部、降り棟部、壁立ち上げ部において、寸法調整のため屋根材本体1を切断することなく施工できる。従って、現場において、寸法合わせにこだわることなく端部曲げ加工した後、重ね合わせ寸法を調整することで、大幅な施工性向上が図れるものである。また、本発明では、切断作業がなくなるので、現場で廃材を極力出さない工法となるものである。短尺品の屋根材Aの場合、切断が必要となるが、これも工場で長さ調整しておけば現場では切断の必要がなくなり、廃材無しを可能とできるものである。また、けらば部、降り棟部、壁立ち上げ部等で使用される屋根材Aは、事前に加工し現地納入することで現地作業の手間を省き、更に施工性向上を図ることができる。また、本発明の屋根材Aはシンプルでフラットに近い形状のため、棟部において、屋根材Aを棟ラインを支点に曲げることで、切断することなく施工できる。また、本発明の屋根材Aの形状はシンプルなので、板金作業(不要部切り落とし)後に加工する必要がなくなり作業性の向上を図ることができるものである。また、本発明の屋根材Aの長さを一定としても、現場採寸が必要なく屋根面積と重ね合わせ代分を考慮した数量を発注することで対応することができ、見積もり積算作業も容易となる。また、本発明の屋根材Aは左右対称であり、左右どちらからでも葺くことができ、しかも、半分に切断した場合でもけらば部や降り棟部に納めることで、切断面を表面に出すことなく納めることができ、重ね代を余分に取ることなく、効率よく葺くことができるものである。また、降り棟部や棟部の納め部材(カバー材)もへの字のシンプルな形状となり、交差部や継ぎ部の納めもそのまま重ね、屋根材Aと同じく長さ調整できるため、現場加工を極力少なくすることができるものである。
【符号の説明】
【0042】
A 屋根材
S1 隅棟部
S2 けらば部
S3 谷部
S4 壁立ち上げ部
1 屋根材本体
1a 側端縁部
2 突起部
3 位置決め部
4 被係止部
4a 接触部
4b 接触部
5 係止部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平板状の屋根材本体の両側端部に表面又は裏面の少なくとも一方に突出する突起部が形成され、隣接する屋根材本体のうち、一方の屋根材本体の側端部が他方の屋根材本体に重ねて敷設される屋根材であって、側端部の重ね合わせ位置の目安となる位置決め部が屋根材本体の側端縁部から所定の位置に形成されて成ることを特徴とする屋根材。
【請求項2】
複数の位置決め部が屋根材本体の側端縁部から一定の間隔で形成されて成ることを特徴とする請求項1に記載の屋根材。
【請求項3】
位置決め部が屋根本体の表面に突出して形成されて成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の屋根材。
【請求項4】
屋根材本体の一方の側端部が、屋根の隅棟部、けらば部、谷部、壁立ち上げ部の群から選ばれるいずれか一つに対応した形状に形成されて成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の屋根材。
【請求項5】
屋根材本体の水上側端部に屋根材本体の表面側に突出する係止部が形成され、屋根材本体の水下側端部に屋根材本体の裏面側に突出する被係止部が形成され、屋根材本体と係止部との間に挿入された被係止部を屋根材本体と係止部の両方に接触させるための接触部が被係止部に形成されて成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の屋根材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−12908(P2012−12908A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153140(P2010−153140)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000207436)日鉄住金鋼板株式会社 (178)
【Fターム(参考)】