説明

展性がある生分解性止血剤

【課題】出血している骨組織の機械的封鎖のために使用することができる展性がある生分解性止血剤、このタイプの展性がある生分解性止血剤を形成するための方法、およびこのタイプの展性がある生分解性止血剤を含むコーティングを有する医療用インプラントの提供。
【解決手段】(a)少なくとも1つの37℃を超える融解温度を有する飽和グリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルと、(b)少なくとも一部は微粒子形態で存在し、かつ37℃を超える融解温度を有する少なくとも1つの充填剤と、(c)37℃以下の融解温度および25℃の温度で水1リットルあたり50グラム未満の溶解度を有する少なくとも1つの化合物とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出血している骨組織の機械的封鎖のために使用することができる展性がある生分解性止血剤、このタイプの展性がある生分解性止血剤を形成するための方法、およびこのタイプの展性がある生分解性止血剤を含むコーティングを有する医療用インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
止血は、外科手術の際に、解剖学的状況に応じて、例えば血管の電気凝固(焼灼)など様々な手順を通して成し遂げられる。頭蓋の領域における、および主に胸骨における一部の外科手術では、解剖学的状況に起因してこれらの場所で発生するひどい出血が理由で、毛細血管を封鎖するため、従って止血を達成するために骨ろうが使用される。このプロセスでは、骨ろうは、最初に外科医によって軟らかくするために混練され、次いで出血している骨領域の上および/または中へと直接押し付けられる。これにより血液の流れがブロックされ、その結果として、血腫が生じ、かつ血管が最終的にフィブリンによって閉じられた状態になる。
【0003】
骨ろうは19世紀から知られており、これは、一般に晒蜜蝋および可塑剤を含有する。アーモンド油、ワセリン、パルミチン酸、イソプロピルエステル、およびミリスチン酸イソプロピルエステルなどの物質を、可塑剤として使用することができる。従来の骨ろうは、粘性の高い塊であり、室温で比較的混練しにくい。蜜ろうの中に含有される可塑剤は、骨ろうが手の温かみによって混練されている間に、このろうを軟らかくし、蜜ろうを展性があるようにする働きをする。蜜ろうに基づく骨ろうは、人体の中で分解しないと考えられる。蜜ろうの中に頻出する構成成分としては、ミリスチン酸および高級アルコールのエステル、例えば、ミリスチン酸ミリシルエステルなどが挙げられる。おそらくは、人体は、この非常に疎水性のエステルを適度な時間内で分解するための適切な酵素を持っていない。現在市販されている骨ろうは、非常に良好な止血効果を有するが、人体において損傷を与えることは稀ではない(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)。水分が多くかつ脂肪が多くもある骨組織に対する非常に良好な接着効果は、従来の骨ろうの主な長所として考えることができる。
【0004】
従来の骨ろうに代わるいくつかの代替物が、先行技術に従って公知である。
【0005】
特許文献1は、例えば、脂肪酸のカルシウム塩およびヒドロキシカルボン酸のオリゴマーに基づくワックス様の塊を開示する。
【0006】
特許文献2、特許文献3、特許文献4、および特許文献5からは、ヒドロキシカルボン酸、例えば、乳酸および6−ヒドロキシカルボン酸のオリゴエステルを含有するワックス様の組成物が公知である。上記ワックス様の組成物の使用の際の加水分解的分解の間に、pH値の局所的な低下のため骨組織に悪影響を及ぼす酸性の分解生成物が生成することが明らかになった。
【0007】
ポリエーテルに基づく組成物は、有望な開発物である(特許文献6、特許文献7)。例えば、ポリ(プロピレングリコール−co−エチレングリコール)をポリエーテルとして使用することができる。この組成物は、手の温かみに曝されたときに、混練できかつ広げることができる。しかしながら、水系媒体に対するこのポリエーテルの良好な溶解度は、短所と考える必要がある。水系媒体に対するこのポリエーテルの良好な溶解度は、ひどく出血している骨組織があるところではこのワックス様の組成物の溶解が始まるため、この組成物の接着が非常に困難になるということが起こる。このことは、おそらく、二次的な出血を導く可能性があり、これが次に、封鎖が溶解し始めるかまたは完全に溶解するということを引き起こす。しかしながら、上記混合物が骨の治癒に対してバリア機能をまったく保有せず、腎臓経路を通して完全に排出されることは上記混合物の具体的な長所である(非特許文献5)。
【0008】
従って、上記の短所を伴わない展性がある生分解性止血剤に対するニーズが依然としてある。この止血剤は、これまで市販されている骨ろうと同様に、体温で混練できかつ展性がある塊であろう。この止血剤の粘度は、この塊が出血の圧力に耐えるのに十分高くなければならない。さらには、この止血剤は、この止血剤が、血液または他の水系媒体と接触した際に、数分以内に崩壊または溶解しないように、十分な凝集を有するべきである。さらに、この止血剤は、非生理的pHを通して骨組織を損傷することがないように、実質量の酸性またはアルカリ性の構成成分を、放出するべきではない。さらに、骨組織の治癒プロセスを損なう可能性があるこの材料の永久的なバリア効果が存在しないように、この材料は生分解性であるべきであるか、またはこの材料は腎臓脱離を受けやすいものであるべきである。加えて、この塊は、この塊が混練または付与されているとき、ゴム手袋に付着するべきではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第0109310号明細書
【特許文献2】米国特許第4595713号明細書
【特許文献3】独国特許第3229540号明細書
【特許文献4】独国特許第1985889号明細書
【特許文献5】欧州特許第1142597号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2009286886号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2011002974号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】S.E.Katz、J.Rotmann、「Adverse effects of bone wax in surgery of the orbit」、Ophthal Plast. Reconstr.、1996年、第12巻、第2号、121−126頁
【非特許文献2】M.Lavigneら、「Bone−wax granuloma after femoral neck osteoplasty」、Can.J.Surg.、2008年、第51巻、第3号、E58−60頁
【非特許文献3】R.T.Allison、「Foreign body reactions and an associated histological artifact due to bone wax」、Br.J.Biomed.Sci.、1994年、第51巻、第1号、14−17頁
【非特許文献4】O.Eserら、「Bone wax as a cause of foreign body reaction after lumbar disc surgery: A case report」、Adv.Ther.、2007年、第24巻、第3号、594−7頁
【非特許文献5】A.Suwanら、「Controversial role of two different local haemostatic agents on bone healing」、J.Am.Sci.、2010年、第6巻、第12号、15−163頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
それゆえ、本発明によれば、目的は、出血している骨組織の機械的封鎖のために使用することができる、有利な、展性がある生分解性止血剤を提供することである。本発明に係る別の目的は、このタイプの展性がある生分解性止血剤を形成するための方法を提供することである。本発明の別の目的は、このタイプの展性がある生分解性止血剤を含むコーティングを有する医療用インプラントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、独立請求項の主題によって満たされる。
【0013】
従って、本発明は、展性がある生分解性止血剤であって、(a)少なくとも1つの37℃を超える融解温度を有する飽和グリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルと、(b)少なくとも一部は微粒子形態で存在し、かつ37℃を超える融解温度を有する少なくとも1つの充填剤と、(c)37℃以下の融解温度および25℃の温度で水1リットルあたり50グラム未満の溶解度を有する少なくとも1つの化合物とを含む展性がある生分解性止血剤を提供する。
【0014】
また、本発明は、このタイプの展性がある生分解性止血剤を形成するための方法であって、(a)請求項1から請求項42のいずれか1項に記載の展性がある生分解性止血剤を準備する工程と、(b)この展性がある生分解性止血剤を35〜40℃の範囲の温度に加熱する工程と、(c)加熱されたこの展性がある生分解性止血剤を形成する工程とを含む方法を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、このタイプの展性がある生分解性止血剤を含むコーティングを有する医療用インプラントを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、構成成分(a)、(b)、および(c)の相互作用によって、止血剤として効果的に作用して出血している骨組織を封鎖するために使用することができる混合物が提供されうるという驚くべき知見に基づく。これに関して、構成成分(a)〜(c)に基づく本発明に係る止血剤が、乾いた表面および濡れた表面の両方に接着するワックス様の、混練できる塊として存在することは特に驚くべきことである。この混合物の粘度および力学的安定性は、驚くべきことに、この混合物を効果的な止血剤として出血を止めるために使用することができるほどに、および外傷の場合に生じる出血圧力に耐えるほどに十分に高い。この混合物は生分解性であるが、驚くべきことにこの混合物は、血液との接触の際に崩壊しないほどに十分な力学的安定性を有する。
【0017】
理論的な考慮事項によって限定されることは望まないが、上記有利な特性は、微粒子形態で存在する充填剤が、少なくとも1つの37℃を超える融解温度を有する飽和グリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルを介して互いに結合されている安定なマトリクスの形成に基づくようである。37℃以下の融解温度および25℃の温度で水1リットルあたり50グラム未満の溶解度を有する少なくとも1つの化合物の追加的使用によって、そのように形成された混合物が展性があることが確実になる。驚くべきことに、これは、このように生成された止血剤の力学的安定性を損なわない。これに関して、37℃以下の融解温度および25℃の温度で水1リットルあたり50グラム未満の溶解度を有する化合物が、この止血剤から出ず、放出されもせず、むしろ、おそらくはマトリクスの形成に基づくこの系の中にしっかりと取り囲まれて留まるということは、特に驚くべきことである。
【0018】
本発明によれば、止血剤が提供される。本発明によれば、止血剤は、止血特性を有する組成物であると理解されるものとする。
【0019】
本発明に係る止血剤は展性がある。本願明細書において、展性は、止血剤が力に曝されたときに不可逆的に形状を変え、かつ力に曝された後もその形状を維持するという、止血剤の特性であると理解されるものとする。
【0020】
さらには、本発明に係る止血剤は生分解性である。本願明細書において、物質が人体によって分解されることが可能であるならば、その物質は生分解性と呼ばれるものとする。
【0021】
本発明の止血剤は、好ましくは、水の中で、25℃という室温で、5.0〜9.0の範囲のpH、より好ましくは5.5〜8.5の範囲のpH、さらにより好ましくは6.0〜8.0の範囲のpH、特に好ましくは6.5〜7.5の範囲のpHを有する。
【0022】
好ましい実施形態によれば、本発明に係る止血剤は、ヒドロキシカルボン酸のオリゴエステルを含有せず、特に、乳酸または6−ヒドロキシカプロン酸のオリゴエステルを含有しない。
【0023】
本発明に係る生分解性止血剤は、構成成分(a)として、少なくとも1つの、37℃を超える融解温度を有する飽和グリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルを含有する。
【0024】
慣用法によれば、飽和グリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルは、いずれも炭素−炭素多重結合を有しない3つの脂肪酸残基を有するグリセロールエステルであると理解されるものとする。
【0025】
構成成分(a)として使用される少なくとも1つの飽和グリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルの融解温度は、37℃を超え、好ましくは40℃を超え、より好ましくは42℃を超え、さらにより好ましくは45℃を超える。
【0026】
本発明全体の範囲において、融解温度は、それぞれの物質が固体から液体の凝集状態へと移行する温度であると理解されるものとする。固体から液体の凝集状態への物質の移行が特定の温度で起こらず、むしろ融解範囲の中で起こる場合、本発明の範囲は、その融解範囲の2つの限界温度のうちの低いほうであると理解される融解温度を有する。
【0027】
特定された範囲の中にある融解温度は、37℃という体温ではこの飽和グリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルは融解せず、当該止血剤は軟化しないということを確実にする。
【0028】
少なくとも1つの構成成分(a)は、少なくとも1つの、12〜28個の炭素原子、より好ましくは14〜24個の炭素原子、さらにより好ましくは12〜22個の炭素原子の脂肪酸残基を含む飽和グリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルからなる群から選択されることが好ましい。特に好ましい実施形態によれば、構成成分(a)は、3つの、12〜28個の炭素原子、好ましくは14〜24個の炭素原子、さらにより好ましくは12〜22個の炭素原子の脂肪酸残基を有する飽和グリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルからなる群から選択されることが好ましい。この脂肪酸残基は分枝状であってもよいが、好ましくは非分枝状である。さらに、この脂肪酸残基は、適宜置換されていてもよい。しかしながら、この脂肪酸残基は、非置換であることが好ましい。この脂肪酸残基は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキン酸、およびベヘン酸の脂肪酸残基からなる群から選択されることが好ましい。
【0029】
構成成分(a)として使用されるエステルは、同一の残基を有することができる。他方、構成成分(a)は、混合エステルであることもできる。本願明細書において、混合エステルは、少なくとも2つの異なる脂肪酸残基を含むエステルであると理解されるものとする。特に、3つの異なる脂肪酸残基がこの混合エステルの中に存在してもよい。
【0030】
好ましい実施形態によれば、構成成分(a)は、グリセロール−1,2,3−ベヘン酸エステル、グリセロール−1,2,3−トリステアリン酸エステル、およびグリセロール−1,2,3−トリパルミチン酸エステルからなる群から選択される。
【0031】
構成成分(a)は、本発明に係る止血剤においてマトリクス形成物質として働くようである。これに関して、構成成分(a)は、残りの構成成分、特に構成成分(b)として存在する充填剤への強い凝集を通して当該止血剤の極めて高い力学的安定性を提供する結合剤の役割を担うようである。
【0032】
少なくとも1つの構成成分(b)は、少なくとも一部は微粒子形態で存在し、かつ37℃を超える融解温度を有する少なくとも1つの充填剤である。
【0033】
構成成分(b)として使用される充填剤の融解温度は、好ましくは40℃を超え、より好ましくは42℃を超え、さらにより好ましくは45℃を超える。これは、37℃という体温ではこの充填剤は融解せず、当該止血剤は軟化しないということを確実にする。
【0034】
好ましくは、構成成分(b)として使用される充填剤は親水性である。好ましい実施形態によれば、この充填剤は、25℃の温度で、水1リットルあたり少なくとも70グラムの溶解度、より好ましくは水1リットルあたり少なくとも100グラムの溶解度、さらにより好ましくは水1リットルあたり少なくとも130グラムの溶解度を有する。
【0035】
この充填剤は、少なくとも一部は微粒子形態で存在する。
【0036】
好ましくは、この充填剤の少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも70%、特に好ましくは少なくとも90%、さらにより特に好ましくは少なくとも95%、特に少なくとも99%は、微粒子形態で存在する。
【0037】
存在する充填剤の粒子は、形状が異なってもよい。例えば、充填剤の粒子は、形状が球形、立方体状または不規則状であることができる。
【0038】
この充填剤の粒子は、好ましくは50nm〜500μmの範囲、より好ましくは100nm〜100μmの範囲、さらにより好ましくは500nm〜100μmの範囲の平均粒径を有する。本願明細書において、平均粒径は、その粒子のうちの少なくとも50%がその特定された粒径を有するということを意味すると理解されるものとする。
【0039】
好ましい実施形態によれば、構成成分(b)は親水性充填剤である。水の存在下で6〜8の範囲のpH値を有する充填剤は、特に有利であることが判明した。
【0040】
構成成分(b)は、ポリエーテルおよびカルシウム化合物からなる群から選択されることが好ましい。
【0041】
本発明の1つの実施形態によれば、構成成分(b)として適切なポリエーテルは、少なくともエチレンオキシドのポリマー、少なくともプロピレンオキシドのポリマー、少なくともエチレンオキシドのコポリマー、少なくともプロピレンオキシドのコポリマー、および少なくともエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのコポリマーからなる群から選択される。このエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのコポリマーは、ブロック共重合体、特にポロキサマーであってもよい。
【0042】
これに関して、例えば、ポロキサマー、ポリエチレングリコールまたはポリ(プロピレングリコール−co−エチレングリコール)などのポリアルキルエーテルの使用が特に有利であることが判明した。
【0043】
別の好ましい実施形態によれば、構成成分(b)として使用されるポリエーテルは、ポリエチレングリコール35,000、ポリエチレンオキシド100,000、ポリエチレンオキシド300,000、ポリエチレンオキシド1,000,000、および50〜80重量%の範囲のポリオキシエチレン含有量を有するポリ(プロピレングリコール−co−エチレングリコール)からなる群から選択される。
【0044】
さらに、45℃を超える軟化温度を有する親水性充填剤を構成成分(b)として使用することが好ましい可能性がある。45℃の軟化点を有する親水性充填剤によって、本発明に係る止血剤は驚くほど高い力学的安定性を示すということが明らかになった。
【0045】
別の好ましい実施形態によれば、構成成分(b)はカルシウム化合物であってもよい。
【0046】
このカルシウム化合物は、例えば、カルシウム塩であってもよい。
【0047】
本発明によれば、カルシウム塩は、カチオン性の構成成分として少なくともカルシウムイオンを含有する塩を意味すると理解されるものとする。このカルシウムイオンとは別に、さらなるカチオン性の構成成分がこの塩の中に存在してもよい。このさらなるカチオン性の構成成分は、例えば、元素の周期表(periodic system of elements)のIA族またはIIA族の元素、特にナトリウム、マグネシウムまたはストロンチウムのカチオンであってもよい。構成成分(b)として使用されるカルシウム化合物が少なくとも1つの無機酸の塩であることが特に有利であると判明した。無機酸に由来するアニオンとは別に、このカルシウム化合物は、さらなるアニオン性の構成成分も含有してよい。このさらなるアニオン性の構成成分は、例えば、ハロゲン化物アニオンまたは水酸化物アニオンであることができる。好ましくは、少なくとも1つの無機酸の塩は、炭酸、リン酸、および硫酸のカルシウム塩からなる群から選択される。従って、このカルシウム塩は、例えば、炭酸カルシウム、苦灰石、α−炭酸三カルシウム(tricalcium carbonate)、β−炭酸三カルシウム、ヒドロキシルアパタイト、炭酸アパタイト、リン酸八カルシウム、非晶性リン酸カルシウム、β−硫酸三カルシウム(tricalcium sulfate)、硫酸カルシウム二水和物、および硫酸カルシウム0.5水和物であることができる。このカルシウム塩は、非常に生体適合性がよく、破骨細胞の作用を通して、または単なる溶解を通しても分解される。硫酸カルシウム0.5水和物の使用は特に有利であることが判明した。硫酸カルシウム0.5水和物を構成成分(b)として含有する本発明に係る止血剤は、驚くべきことに、当該止血剤の極めて高い粘度および力学的安定性が失われることなく、水または水性液体、例えば血液の作用を通して、独立に硬化することができる。
【0048】
構成成分(b)は、本発明に係る止血剤の中の残りの構成成分への、特に37℃を超える融解温度を有しかつ構成成分(a)として使用される飽和グリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルへの強い凝集を確実にすることが明らかになった。驚くべきことに、構成成分(b)は増量剤(volumiser)としても作用するようである。従って、構成成分(b)は、水または例えば血液などの水性液体への長期の曝露後に本発明に係る止血剤から溶解した状態になることができるが、この止血剤の力学的安定性は損なわれないことが明らかになった。驚くべきことに、この溶解によって止血剤の中に中空の空間、次いで細孔系が作製され、これによって、例えば骨組織が当該止血剤の中へと浸透することが可能になり、これによって、この治癒プロセスが、バリア効果を有する止血剤と比べて実質的に加速されることが可能になる。
【0049】
本発明の止血剤は、構成成分(c)として、37℃以下の融解温度および25℃の温度で水1リットルあたり50グラム未満の溶解度を有する少なくとも1つの化合物を含有する。
【0050】
好ましい実施形態によれば、当該止血剤の中に構成成分(c)として含有される化合物は、36℃以下の融解温度、より好ましくは35℃以下の融解温度、さらにより好ましくは34℃以下の融解温度、特に好ましくは32℃以下の融解温度、さらにより特に好ましくは30℃以下の融解温度を有する。
【0051】
別の好ましい実施形態によれば、25℃の温度における構成成分(c)の溶解度は、水1リットルあたり40グラム未満であり、より好ましくは水1リットルあたり30グラム未満であり、さらにより好ましくは水1リットルあたり25グラム未満であり、特に好ましくは水1リットルあたり15グラム未満であり、さらにより特に好ましくは水1リットルあたり10グラム未満であり、特に水1リットルあたり5グラム未満である。
【0052】
構成成分(c)は、例えば、飽和脂肪酸エステルであることができる。
【0053】
慣用法によれば、飽和脂肪酸エステルは、いずれも炭素−炭素多重結合を含まない、1以上の脂肪酸残基を有するエステル化合物であると理解される。
【0054】
構成成分(c)として使用される飽和脂肪酸エステルの脂肪酸残基は、好ましくは8〜28個の炭素原子、より好ましくは8〜22個の炭素原子、さらにより好ましくは8〜18個の炭素原子を有する。この脂肪酸残基は分枝状であってもよいが、好ましくは非分枝状である。さらに、この脂肪酸残基は、置換を有していてもよいが、非置換であることが好ましい。考えられる脂肪酸残基は、例えば、カプリル酸残基、ペラルゴン酸残基、カプリン酸残基、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、マルガリン酸残基、ステアリン酸残基、アラキン酸残基、およびベヘン酸残基である。
【0055】
好ましい実施形態によれば、この飽和脂肪酸エステルは、(i)ポリオールおよび少なくとも1つの脂肪酸のエステル、(ii)アルキル脂肪酸エステル、ならびに(iii)ポリエーテルおよび脂肪酸のエステルからなる群から選択される。
【0056】
本発明の1つの実施形態によれば、この飽和脂肪酸エステルは、ポリオールおよび少なくとも1つの脂肪酸のエステルである。これは、例えば、2〜4個の炭素原子の鎖長を有するポリオールのエステル、好ましくは3個の炭素原子の鎖長を有するポリオールのエステルであることができる。このポリオールは、置換または非置換であってもよい。グリセロール、1,2−プロパンジオール、および1,3−プロパンジオールのエステルが特に好ましいことが判明した。好ましい、ポリオールおよび少なくとも1つの脂肪酸のエステルは、グリセロールモノエステル、グリセロールジエステル、グリセロールトリエステル、1,2−プロパンジオールモノエステル、1,2−プロパンジオールジエステル、1,3−プロパンジオールモノエステル、および1,3−プロパンジオールジエステルからなる群から選択される。ポリオールおよび少なくとも1つの脂肪酸のエステルの脂肪酸残基は同一であってもよい。しかしながら、このエステルは、ポリオールおよび複数の脂肪酸の混合エステルであることもできる。挙げるべきポリオールおよび少なくとも1つの脂肪酸のエステルの例には、グリセロール−1,2,3−トリオクチルエステル、グリセロールとカプリル酸およびラウリン酸との混合エステル、プロパン−1,2−ジオール−ジ脂肪酸エステル、ならびに1,3−ジヒドロキシ−2,2−ジ(ヒドロキシメチル)プロパンの脂肪酸エステルが含まれる。
【0057】
代替の実施形態によれば、この飽和脂肪酸エステルは、アルキル脂肪酸エステルであることもできる。このアルキル脂肪酸エステルのアルキル残基は、好ましくは1〜8個の炭素原子の鎖長、より好ましくは1〜6個の炭素原子の鎖長、さらにより好ましくは1〜4個の炭素原子の鎖長、特に好ましくは1〜3個の炭素原子の鎖長を有する。このアルキル脂肪酸エステルのアルキル残基は分枝状であってもよく、非分枝状であってもよい。さらに、このアルキル脂肪酸エステルのアルキル残基は、適宜置換されていてもよい。好ましくは、このアルキル脂肪酸エステルは、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステル、脂肪酸プロピルエステル、および脂肪酸イソプロピルエステルからなる群から選択される。好ましくは、このアルキル脂肪酸エステルは、ラウリン酸エチルエステル、ミリスチン酸メチルエステル、ミリスチン酸エチルエステル、ミリスチン酸イソプロピルエステル、パルミチン酸メチルエステル、パルミチン酸エチルエステル、およびパルミチン酸イソプロピルエステルからなる群から選択される。
【0058】
別の代替の実施形態によれば、構成成分(c)として使用される飽和脂肪酸エステルは、ポリエーテルおよび脂肪酸のエステルである。好ましくは、このエステルは、脂肪酸および少なくともエチレンオキシドのポリマーのエステル、脂肪酸および少なくともプロピレンオキシドのポリマーのエステル、脂肪酸および少なくともエチレンオキシドのコポリマーのエステル、ならびに脂肪酸および少なくともプロピレンオキシドのコポリマーのエステルからなる群から選択される。構成成分(c)として使用されるポリエーテルおよび脂肪酸のエステルがエチレングリコール脂肪酸エステルからなる群から選択されることが特に有利であることが判明した。
【0059】
本発明に係る止血剤の中に構成成分(c)が存在することで融解範囲が下がり、従って当該止血剤の展性が確実になる。さらに、構成成分(c)は、構成成分(c)が残りの構成成分に起因する摩擦を明らかに低下させるという点で、潤滑剤としても作用する。さらに、驚くべきことに、構成成分(c)は、その構成成分(c)がなければ不可避の、当該止血剤の中で構成成分(a)として使用されるグリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルの再結晶化を減少させることができるということが明らかになった。
【0060】
構成成分(a)、(b)、および(c)に関する本発明に係る止血剤の組成は、特に限定されない。
【0061】
本発明の好ましい実施形態によれば、この止血剤は、この止血剤の総重量に対して3〜50重量%の少なくとも1つの構成成分(a)、10〜80重量%の少なくとも1つの構成成分(b)、および10〜50重量%の少なくとも1つの構成成分(c)を含有する。
【0062】
特に好ましい実施形態によれば、本発明の止血剤は、この止血剤の総重量に対して5〜40重量%の少なくとも1つの構成成分(a)、20〜75重量%の少なくとも1つの構成成分(b)、および20〜40重量%の少なくとも1つの構成成分(c)を含有する。
【0063】
構成成分(c)の中への構成成分(b)の溶解度が低いことが、安定なマトリクスの形成にとって特に有利であることが判明した。従って、25℃の温度における構成成分(b)の溶解度は、好ましくは構成成分(c)1リットルあたり50グラム未満であり、より好ましくは構成成分(c)1リットルあたり20グラム未満であり、さらにより好ましくは構成成分(c)1リットルあたり10グラム未満であり、特に好ましくは構成成分(c)1リットルあたり5グラム未満であり、さらにより特に好ましくは構成成分(c)1リットルあたり3グラム未満である。
【0064】
さらに、当該止血剤の構成成分(a)および(c)の中への構成成分(b)の溶解度が低いことが、安定なマトリクスの形成にとって特に有利であることが判明した。従って、25℃の温度における少なくとも1つの構成成分(b)の溶解度は、構成成分(a)および(c)の総重量に対して好ましくは5重量%未満であり、より好ましくは3重量%未満であり、さらにより好ましくは1重量%未満である。
【0065】
本発明に係る止血剤は、適宜、構成成分(a)、(b)、および(c)とは別に、さらなる構成成分を含むことができる。
【0066】
例えば、少なくとも1つの他のカルシウム塩が本発明に係る止血剤の中に含有されてもよい。好ましくは、このカルシウム塩は、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、および乳酸カルシウムからなる群から選択される。このカルシウム塩の中に含有されるカルシウムイオンは血液凝固因子IVとして二次的な血液凝固に作用し、従って血液凝固を促進するということが明らかになった。好ましくは、このさらなるカルシウム塩の割合は、この止血剤の総重量に対して2重量%未満である。塩化カルシウム、酢酸カルシウム、および乳酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1つの容易に溶解するカルシウム塩または少なくとも1つの線維素溶解阻害剤を添加することで、本発明に係る止血剤が機械的な止血だけではなく生化学的経路による止血ももたらすということを成し遂げることが可能になる。
【0067】
別の好ましい実施形態によれば、本発明に係る止血剤は、少なくとも1つの線維素溶解阻害剤をさらに含有する。考えられる線維素溶解阻害剤は、特に、ε−アミノカルボン酸の群のメンバーである。ε−アミノカルボン酸はリジン類似体であり、通常は酵素による線維素(フィブリン)の切断をもたらすプラスミンの形成を阻害するためにプラスミンの前駆体であるプラスミノーゲンに対して作用する。結果として、これは、線維素の安定化を導き、これは局所的に血液凝固を促進する。ε−アミノカルボン酸、6−アミノカプロン酸、4−(アミノメチル)安息香酸、およびtrans−4−(アミノメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸がこの目的のために特に有利であることが判明した。
【0068】
さらに好ましい実施形態によれば、本発明に係る止血剤は、抗生物質および防腐剤からなる群から選択される少なくとも1つの物質を含有する。アミノグリコシド系抗生物質、糖ペプチド抗生物質、リンコサミド抗生物質、およびペプチド抗生物質の群のメンバーが、抗生物質として好ましい。考えられる防腐剤は、例えば、ポリヘキサニド(polyhexanide)、オクテニジン塩酸塩、およびクロルヘキシジンである。この抗生物質および/または防腐剤の存在により、効果的な局所的感染防止が当該止血剤によって達成されるようになる。
【0069】
本発明に係る止血剤は、様々な経路を通して製造することができる。
【0070】
本発明の1つの実施形態によれば、当該止血剤は、最初に、当該止血剤のすべての構成成分を適切な混合容器の中に置くことを通して製造される。その後、これらの個々の構成成分は、例えば撹拌を通して混合することができる。
【0071】
好ましくは、このようにして得られた混合物は、次に加熱される。この混合物を、構成成分(a)、(b)、および(c)の融点を超える温度に加熱することが有利であることが判明した。例えば、この混合物を、50℃を超える温度に、好ましくは60℃を超える温度に、さらにより好ましくは70℃を超える温度に加熱してよい。このプロセスでは、混合物を、例えば、50℃〜100℃の範囲の温度に、好ましくは60℃〜95℃の範囲の温度に、さらにより好ましくは70℃〜90℃の範囲の温度に加熱してよい。それゆえ、この混合物の加熱の間に溶融した塊が形成されることが、本発明によれば有利である可能性がある。
【0072】
好ましくは、この加熱は、少なくとも5分間の間進行することができる。例えば、上記混合物を、5分間〜4時間の間、好ましくは15分間〜2時間の間、さらにより好ましくは30分間〜60分間の間加熱してよい。この混合物が、この加熱に関して、撹拌されることが好ましい。溶融した塊を撹拌することで、当該混合物の簡単な均質化が成し遂げられるようになり、構成成分(a)、(b)、および(c)によるマトリクスの形成が簡単になる。
【0073】
その後、加熱された混合物を冷却することができる。好ましくは、この混合物は、15℃〜30℃の範囲の温度に、より好ましくは20℃〜25℃の範囲の温度に冷却される。
【0074】
その後、冷却された混合物は、必要ならば、さらに均質化することができる。均質化は、例えば、混合物を混練することまたは粉末化することによって実施することができる。
【0075】
構成成分(a)、(b)、および(c)以外の構成成分は、構成成分(a)、(b)または(c)の前に、構成成分(a)、(b)、および(c)と同時に、またはさらなる手順上の工程のうちの1以上においてこれらとは別々に、当該混合物に添加することができる。
【0076】
本発明の代替の実施形態によれば、構成成分(a)、(b)、および(c)のうちのすべてではなく、1つまたは2つのみが適切な混合容器の中に置かれる。通常、これらの構成成分のうちのどれが最初に混合容器の中に置かれるかは、重要ではない。1つの構成成分が最初に混合容器の中に置かれることになる場合、この構成成分は構成成分(a)または構成成分(c)であることが好ましい。上記構成成分のうちの2つが混合容器の中に置かれる場合、これらの構成成分は構成成分(a)および(c)であることが好ましい。混合容器の中に最初に置かれなかった残りの構成成分(1つまたは複数)は、後の時間点で加えることができる。これらの構成成分の添加は、例えば、すでに混合容器の中に置かれた構成成分(1つまたは複数)の加熱または冷却の後に行われてもよい。
【0077】
本願明細書に記載される本発明の止血剤は、その止血剤が、展性があり、容易に混練でき、37℃という温度で乾燥した表面および湿った表面に強固に接着するように構造化される。
【0078】
それゆえ、本発明は、本発明に係る止血剤を形成する方法にも関する。
【0079】
この方法において、上記の止血剤が最初に準備される。
【0080】
上記の止血剤が準備される形態は限定されない。しかしながら、通常、この止血剤は、容器の中に準備される。この容器は、使用者が容易に開けることができるように構造化されることが好ましい。考えられる適切な容器は、例えば、缶、瓶、袋またはカートリッジであり、これらは、各々が適切な施栓材を具えることができる。この止血剤は、通常、容器を開けた後に、使用者によって袋から取り出される。
【0081】
止血剤が準備された後、この止血剤は加熱される。
【0082】
加熱は、35〜40℃の範囲の温度で実施されることが好ましい。当該止血剤は、この温度で容易に形成できる。
【0083】
好ましい実施形態によれば、この加熱は、使用者の手のうちの少なくとも一方によって行われる。使用者による本発明に係る止血剤の加熱は、例えば、止血剤を混練することによって、進めることができる。本発明の止血剤は使用者の手袋に付着しないので、使用者は、使用者の手のうちの少なくとも一方を用いて当該止血剤を加熱する間、手袋を着用することができる。しかしながら、これに関して、手袋は、使用者の手の温かみがその手袋を介して止血剤に伝わることができるように、選択されるべきであることが好ましい。対応する適切な熱伝導率を有する材料から作製される手袋は、先行技術によれば周知であり、試験室の活動または医療活動のための適切な手袋として、通常、販売されている。
【0084】
代替の実施形態によれば、他の手段を通して、好ましくは外部の熱の付加を通して、例えば、止血剤を照射することを通して、止血剤を加熱することも、同様に可能である。従って、加熱は、上記実施形態に従って、使用者の手のうちの一方によっては行われない。
【0085】
しかしながら、使用者の手のうちの少なくとも一方による加熱が特に好ましいことが判明した。
【0086】
さらに、本発明の止血剤は形成される。
【0087】
好ましくは、形成は、与えられた止血剤の形状または表面形状のいずれかの変化であると理解される。
【0088】
この形成は、好ましくは、使用者の手のうちの少なくとも一方によって行われる。この形成は、使用者が手袋を着用しながら実施されてもよい。本発明に係る止血剤の形成は、例えば使用者による止血剤の混練を通して、すでに止血剤の加熱につながっていてもよい。従って、本発明の範囲は、止血剤を加熱する工程および止血剤を形成工程が、使用者の連続的な動作を通して行われるということを包含する。さらにまたは代わりに、この形成は、止血剤を35〜40℃の範囲の温度に加熱した後に行われてもよい。形成は、例えば、後の外科手術の際の出血している骨組織の機械的封鎖に適した形状を止血剤に与える役割を果たすことができる。
【0089】
形成後、この止血剤は、外科手術において、使用者によって即座に使用されうる。
【0090】
本発明の止血剤を、様々な医療目的のために使用することができる。
【0091】
1つの実施形態によれば、当該止血剤は、出血している骨創傷の機械的封鎖のために使用される。この目的のために、当該止血剤は、骨シーリング剤(bone sealing agent)としての役割を果たす。この目的のために、この止血剤は、使用者によって、出血している骨領域の上へとまたは出血している骨領域の中へと押し付けられてもよい。
【0092】
さらに、本発明の止血剤を骨代用材として使用することもできる。特に、損傷した骨の部分を本発明に係る止血剤で置き換えることが当該プロセスにおいて有利である場合がある。
【0093】
また、本発明は、本発明に係る止血剤を含むコーティングを有する医療用インプラントに関する。
【0094】
それゆえ、本発明に係る止血剤は、医療用インプラントのコーティングのために使用することができる。
【0095】
これに関して、医療用インプラントは、外科的処置の過程で、少なくとも一部は、身体の中へと挿入される物質およびデバイスを意味すると理解されるものとする。
【0096】
この医療用インプラントは、例えば、金属またはプラスチック材料から製造することができる。この医療用インプラントは、好ましくは、関節の内部人工器官、骨接合材料、人工血管またはヘルニアメッシュである。考えられる関節の内部人工器官は、例えば、膝関節の内部人工器官および臀部の内部人工器官である。例えばプレート、髄内釘、およびねじが骨接合材料としての役割を果たすことができる。
【0097】
本発明によれば、医療用インプラントのコーティングは、医療用インプラントの表面のうちの少なくとも一部を覆いかつそれに付着する層を意味すると理解されるものとする。
【0098】
この医療用インプラントのコーティングは、本発明に係る止血剤を含む。従って、本発明は、全体が本発明に係る止血剤によって形成されるコーティングを提供することができ、このコーティングは、適宜、さらなる構成成分を含有する。
【0099】
コーティングについては、そのときまでに加熱されて適切に形成された本発明の止血剤を、医療用インプラントの少なくとも1つの表面に、少なくとも一部に付与することが好ましい。この付与は、以下のようにして実施することができる。例えば、加熱されて形成された止血剤のうちの少なくとも一部が医療用インプラントの少なくとも1つの表面の上へと押し付けられるか、またはコーティングされるべき医療用インプラントの表面に止血剤が接触している最中に、止血剤の少なくとも一部が、コーティングされるべき医療用インプラントの表面に対する止血剤の相対的な移動を通して付与される(例えば止血剤を広げることによる)。
【0100】
本発明は以下の実施例を通して説明されるが、これらの実施例は、いかなる点または形態においても本発明を限定するものと解釈されるものではない。
【実施例】
【0101】
下記の実施例では、以下の化学物質を使用した。
グリセロール−1,2,3−トリステアレート;
グリセロール−1,2,3−トリパルミテート;
グリセロール−1,2,3−トリミリステート;
グリセロール−1,2,3−トリステアレート;
グリセロール−1,2,3−トリアラキネート;
グリセロール−1,2,3−トリオクタノエート;
グリセロール−1,2,3−トリペラルゴネート;
グリセロール−1,2,3−トリヘプタノエート(Fluka);
Mygliol 812(室温で液体であり中鎖長の脂肪酸を有する飽和グリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステル、主にカプリル酸およびカプリン酸のグリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステル);
炭酸カルシウム(沈降、欧州薬局方(Ph.Eur.)に適合、Fluka);
β−炭酸三カルシウム(社内で合成);
硫酸カルシウム二水和物(Fluka、欧州薬局方(Ph.Eur.)に適合、Fluka);
硫酸カルシウム0.5水和物(Flukaの硫酸カルシウム二水和物を使用して、熱的脱水によって社内で合成);
6−アミノカプロン酸(Fluka);
4−(アミノメチル)安息香酸(Aldrich);
trans−4−(アミノメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸(トラネキサム酸);
Lμtrol(登録商標) micro 127(ポリ(プロピレングリコール−co−エチレングリコール、Aldrich);
硫酸ゲンタマイシン(活性係数600)。
【0102】
実施例1〜6:
下記の表1に係る組成物および特性を含む本発明に係る止血剤を、実施例1〜6で製造した。
【0103】
この目的のために、最初に、所定量のグリセロール−1,2,3−トリパルミテートおよびグリセロール−1,2,3−トリオクタノエートをビーカーの中に量り取った。次に、得られた混合物を撹拌しながら80℃に30分間加熱すると、均一な溶融した塊が生成した。この溶融した塊を室温まで冷却した後、Lμtrol(登録商標) micro 127および、用いる場合、硫酸ゲンタマイシンを加えた。いずれの場合も均一な無色の塊が生成するまで、この混合物を、混練することまたは粉末化することを通して均質にした。
【0104】
【表1】

【0105】
実施例7〜24:
下記の表2に係る組成物および特性を含む本発明に係る止血剤を、実施例7〜24で製造した。
【0106】
この目的のために、最初に、特定量のそれぞれのグリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルをビーカーに量り取った。次に、得られた混合物を撹拌しながら80℃に30分間加熱すると、均一な溶融した塊が生成した。この溶融した塊を室温まで冷却した後、Lμtrol(登録商標) micro 127および、用いる場合、硫酸ゲンタマイシンを加えた。いずれの場合も均一な無色の塊が生成するまで、この混合物を、混練することまたは粉末化することを通して均質にした。
【0107】
【表2】

【表3】

【0108】
実施例25〜58:
下記の表3〜7に係る組成物および特性を含む本発明に係る止血剤を、実施例25〜58で製造した。
【0109】
この目的のために、最初に、表3〜7に特定する成分の所定量をビーカーの中に量り取り、撹拌を通して互いに混合した。次に、得られた混合物を80℃に30〜60分間加熱した。溶融した塊が室温まで冷却した後、いずれの場合も均一な無色の塊が生成するまで、混練することまたは粉末化することによってこの物質を均質にした。
【0110】
【表4】

【0111】
【表5】

【0112】
【表6】

【0113】
【表7】

【0114】
【表8】

【0115】
実施例1〜58で製造した混練できる塊の各5gのすべてを20mlの脱イオン水の中に入れた。室温で24時間の保存の後に、pHを試験した。すべての場合において、6.5という脱イオン水のpH値と比べて、pH値の変化がないことを測定で確認した。
【0116】
さらに、実施例1〜6の混合物を円筒に形成し、その後これらの円筒を円筒表面にわたって広げることにより、Zweymuellerの臀部人工器官を実施例1〜6の混合物でコーティングした。この円筒に対するこの人工器官の構造化された表面の相対的移動によって、物質が、円筒から人工器官の表面へと転写された。付与の圧力および転写プロセスの繰り返しの数に応じて、80〜150mgの実施例1〜6から得た混合物の物質が、転写された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
展性がある生分解性止血剤であって、
(a)少なくとも1つの37℃を超える融解温度を有する飽和グリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルと、
(b)少なくとも一部は微粒子形態で存在し、かつ37℃を超える融解温度を有する少なくとも1つの充填剤と、
(c)37℃以下の融解温度および25℃の温度で水1リットルあたり50グラム未満の溶解度を有する少なくとも1つの化合物と
を含む、展性がある生分解性止血剤。
【請求項2】
前記止血剤は、水の中で、25℃の温度で5.0〜9.0の範囲、好ましくは5.5〜8.5の範囲のpHを有する、請求項1に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項3】
25℃の温度における構成成分(b)の溶解度は、構成成分(c)1リットルあたり50グラム未満である、請求項1または請求項2に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項4】
構成成分(a)は、少なくとも1つの、12〜28個の炭素原子の、好ましくは14〜24個の炭素原子の脂肪酸残基を含む飽和グリセロール−1,2,3−トリ−脂肪酸エステルからなる群から選択される、請求項1または請求項2に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項5】
構成成分(a)は、グリセロール−1,2,3−トリベヘン酸エステル、グリセロール−1,2,3−トリステアリン酸エステル、およびグリセロール−1,2,3−トリパルミチン酸エステルからなる群から選択される、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項6】
25℃の温度における構成成分(b)の溶解度は、水1リットルあたり少なくとも100グラムである、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項7】
構成成分(b)は、少なくとも1つのアルキレンオキシドのポリマー、少なくとも1つのアルキレンオキシドのコポリマーおよびカルシウム化合物からなる群から選択される、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項8】
構成成分(b)は、ポロキサマー、ポリエチレングリコールおよびポリ(プロピレングリコール−co−エチレングリコール)からなる群から選択される、請求項7に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項9】
前記カルシウム化合物は、炭酸カルシウム、苦灰石、α−炭酸三カルシウム、β−炭酸三カルシウム、ヒドロキシルアパタイト、炭酸アパタイト、リン酸八カルシウム、非晶性リン酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、および硫酸カルシウム0.5水和物からなる群から選択される、請求項7に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項10】
構成成分(c)は飽和脂肪酸エステルである、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項11】
前記飽和脂肪酸エステルは、(i)ポリオールおよび少なくとも1つの脂肪酸のエステル、(ii)アルキル脂肪酸エステル、および(iii)ポリエーテルおよび脂肪酸のエステルからなる群から選択される、請求項10に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項12】
前記飽和脂肪酸エステルは、グリセロール−1,2,3−トリオクチルエステル、グリセロールとカプリル酸およびラウリン酸との混合エステル、プロパン−1,2−ジオール−ジ−脂肪酸エステル、ならびに1,3−ジヒドロキシ−2,2−ジ(ヒドロキシメチル)プロパンの脂肪酸エステル、ラウリン酸エチルエステル、ミリスチン酸メチルエステル、ミリスチン酸エチルエステル、ミリスチン酸イソプロピルエステル、パルミチン酸メチルエステル、パルミチン酸エチルエステル、パルミチン酸イソプロピルエステル、ならびにエチレングリコール脂肪酸エステルからなる群から選択される、請求項11に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項13】
前記止血剤の総重量に対して3〜50重量%の少なくとも1つの構成成分(a)、10〜80重量%の少なくとも1つの構成成分(b)、および10〜50重量%の少なくとも1つの構成成分(c)を含有する、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項14】
ε−アミノカルボン酸の群から選択される少なくとも1つの線維素溶解阻害剤をさらに含む、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項15】
抗生物質および防腐剤からなる群から選択される少なくとも1つの物質をさらに含む、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の展性がある生分解性止血剤。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の展性がある生分解性止血剤を形成するための方法であって、
(a)請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の展性がある生分解性止血剤を準備する工程と、
(b)前記展性がある生分解性止血剤を35〜40℃の範囲の温度に加熱する工程と、
(c)加熱された前記展性がある生分解性止血剤を形成する工程と
を含む方法。
【請求項17】
前記加熱、前記形成、または前記加熱および前記形成は使用者の手によって行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の展性がある生分解性止血剤を含むコーティングを有する医療用インプラント。

【公開番号】特開2012−219097(P2012−219097A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−68946(P2012−68946)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(510340506)ヘレウス メディカル ゲーエムベーハー (10)
【Fターム(参考)】