説明

層厚測定用試料製造装置

【課題】半導体ウエハ上に形成されたエピタキシャル層の層厚測定用試料を簡便に製造できる層厚測定用試料製造装置を提供する。
【解決手段】エピタキシャル層3が形成されたウエハ片1を、そのエピタキシャル層3の一部を残してエピタキシャル層3をエッチングして層厚測定用試料を製造し、エッチング後のウエハ片1上に段差として残ったエピタキシャル層3の層厚を測定するための層厚測定用試料製造装置10において、ウエハ片1を挟み込む開閉自在の2枚の樹脂板11,12と、これら2枚の樹脂板11,12の一方に設けられ、ウエハ片1上に形成されたエピタキシャル層3の一部をエッチングから保護すべくエピタキシャル層3の一部と密着するエッチング防止ゴム13とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ上にエピタキシャル成長されたエピタキシャル層の層厚を測定するための試料を製造する層厚測定用試料製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
層厚測定は、有機金属気相成長法(Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy)または分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy)などのエピタキシャル成長法において、主としてエピタキシャル成長されたエピタキシャル層の成長速度を算出し、層厚の制御性を向上するために実施するものである。
【0003】
層厚測定の際には、エピタキシャル層が形成されたウエハ片(エピタキシャル層が形成された半導体ウエハを小片に劈開したもの)から、一部を残してエピタキシャル層をエッチングにより除去し、一部のエピタキシャル層が段差として残った層厚測定用の被測定試料を用いて行われる。
【0004】
この層厚測定用試料を製造する従来技術について図6〜7により説明する。
【0005】
図6に示すように、先ずエピタキシャル層3が表面に形成されたSi、GaAs、GaN等の半導体ウエハ2を短冊状に劈開してウエハ片1を作製し、そのウエハ片1(エピタキシャル層3)に筆4などの手作業で例えば幅1〜3mm程度の帯状にレジスト5(フォトレジスト)を塗布した後、100℃前後に加熱したホットプレート上に1〜2分程度放置し揮発成分を蒸発させてレジスト5を固化させる。これにより、ウエハ片1の表面上には、固化したレジスト5でウエハ表面(エピタキシャル層3)が保護された領域と、ウエハ表面がそのまま露出した領域が作られる。
【0006】
このウエハ片1を適切なエッチャント(塩酸など)に浸漬することで、表面が露出した(レジスト5に保護されていない)領域のエピタキシャル層3がエッチングにより除去される。
【0007】
このエッチング処理後のウエハ片1をアセトン、エタノール(またはメタノール)で有機洗浄(超音波洗浄)することで固化したレジスト5を除去する。その結果、図7に示すように、ウエハ片1にはレジスト5で保護されていた領域とエッチングされた領域により段差Sが形成される。この段差Sが形成されたウエハ片1を被測定試料(層厚測定用試料20)とする。
【0008】
段差Sの高低差を触針式段差計で測定することで、または段差Sを横切るようにウエハ片1を劈開して断面を電子顕微鏡で観察して段差Sの高低差を測定することで、エピタキシャル層3の層厚を測定することが可能である。
【0009】
なお、本出願の先行技術文献情報としては以下の文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−98150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来では、レジストを塗布して固化させるのに5分程度、エッチング処理後にレジストを除去するための超音波洗浄に10分程度と、計15分程度の作業時間が必要であった。
【0012】
また、1つのウエハ片で多数点の測定を実施する際には、測定箇所毎にレジストの塗布が必要であり、レジスト塗布の作業時間が増加していた。
【0013】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、従来技術で発生していたレジストの塗布、ホットプレートによる固化、有機洗浄(超音波洗浄)によるレジスト除去の作業を省略し、半導体ウエハ上に形成されたエピタキシャル層の層厚測定用試料を簡便に製造できる層厚測定用試料製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために創案された本発明は、エピタキシャル層が形成されたウエハ片を、そのエピタキシャル層の一部を残してエピタキシャル層をエッチングして層厚測定用試料を製造し、エッチング後の前記ウエハ片上に段差として残ったエピタキシャル層の層厚を測定するための層厚測定用試料製造装置において、前記ウエハ片を挟み込む開閉自在の2枚の樹脂板と、これら2枚の樹脂板の一方に設けられ、前記ウエハ片上に形成されたエピタキシャル層の一部をエッチングから保護すべくエピタキシャル層の一部と密着するエッチング防止ゴムとを備えた層厚測定用試料製造装置である。
【0015】
前記樹脂板は、フッ素樹脂からなり、前記エッチング防止ゴムは、フッ素ゴムからなると良い。
【0016】
前記樹脂板は、前記ウエハ片を収納すると共に前記エッチング防止ゴムが前記エピタキシャル層の一部と密着する深さの溝を有すると良い。
【0017】
前記2枚の樹脂板の両側にこれら2枚の樹脂板を締結する締結手段を更に備え、その締結手段の締結力により、前記ウエハ片を挟持すると共に前記エッチング防止ゴムを前記エピタキシャル層の一部に密着させると良い。
【0018】
前記樹脂板に、前記エッチング防止ゴムが複数備えられると良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、半導体ウエハ上に形成されたエピタキシャル層の層厚測定用試料を簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る層厚測定用試料製造装置の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の変形例に係る層厚測定用試料製造装置の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の変形例に係る層厚測定用試料製造装置の構成を示す断面図である。
【図4】本発明の変形例に係る層厚測定用試料製造装置の構成を示す断面図である。
【図5】本発明の変形例に係る層厚測定用試料製造装置の構成を示す断面図である。
【図6】従来の層厚測定用試料を製造する方法を模式的に示す断面図である。
【図7】層厚測定用試料を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態について図面を用いて説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態に係る層厚測定用試料製造装置(製造装置)10の構成を示す断面図である。
【0023】
図1に示すように、製造装置10は、エピタキシャル層3が形成されたウエハ片1を挟み込む開閉自在の2枚の樹脂板11,12と、これら2枚の樹脂板11,12の一方に設けられ、エピタキシャル層3の一部と密着するエッチング防止ゴム13と、を主に備える。
【0024】
ここで、ウエハ片1とは、エピタキシャル層3が表面上に形成された半導体ウエハ2を小片に劈開してなるものである。ウエハ片1の寸法は特に限定されず、試料の取り回しやすさや、層厚測定用の装置の可動範囲などに合わせて適宜変更可能であり、例えば20mm×10mm程度の寸法とされる。
【0025】
2枚の樹脂板11,12は、ウエハ片1を収納すると共にエッチング防止ゴム13がエピタキシャル層3の一部と密着する深さの溝14,15を有する。溝14,15のそれぞれの両側には、平坦な当接面17,18が形成される。2枚の樹脂板11,12は当接面17,18により面接触で閉じられ、溝14,15内にウエハ片1が収納される。溝14,15の深さはそれぞれ、2枚の樹脂板11,12を閉じたとき、ウエハ片1を収納できる深さ以上とすると共に、エッチング防止ゴム13がエピタキシャル層3に密着できる深さ以下(例えば、250μm程度)とされる。
【0026】
2枚の樹脂板11,12は、その寸法をウエハ片1よりも大きく形成され、一例では30mm×10mm程度の寸法とされる。樹脂板11,12の形状は特に限定されないが、挟み込んだウエハ片1のエピタキシャル層3をエッチャントに浸漬できるように、例えば樹脂板11,12の両脇(図中、紙面に対して鉛直方向の端部)を開放状態としてエッチャントの流路を形成できるような形状とする。この他にも、樹脂板11,12のうち、ウエハ片1と直接には接しない上部樹脂板11に通流孔を多数設ける形状としても良い。
【0027】
これら2枚の樹脂板11,12は、エッチャントや有機溶剤に対する耐性を有する耐薬品性の樹脂材料から形成される。その樹脂材料としては、例えばスチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、各種ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂などがあり、その中でも殆ど全ての薬品に対して耐性を有するフッ素樹脂が好ましい。また本発明では、樹脂板11,12として、アルミニウム、銅、鉄などの金属基板の表面を樹脂加工したものを使用し、樹脂材料単体で使用するより剛性を高めることができる。
【0028】
エッチング防止ゴム13は、2枚の樹脂板11,12の一方に設けられ、ウエハ片1を挟み込んで2枚の樹脂板11,12を閉じたとき、ウエハ片1上のエピタキシャル層3に密着するものである。ここでは、エッチング防止ゴム13は上部樹脂板11の溝14の底部に接着され、下部樹脂板12の溝15に収納されたウエハ片1のエピタキシャル層3の一部に密着する。
【0029】
エッチング防止ゴム13の寸法は、エピタキシャル層3の厚さ測定に必要な段差S(図7参照)と同程度(例えば1〜3mm程度)の幅とされる。このとき、エッチング防止ゴム13の幅寸法がウエハ片1の1/10程度であると、エッチング防止ゴム13をエピタキシャル層3に充分に密着させた際に、半導体ウエハ2を下部樹脂板12に適度な押圧力で固定することができる。また、エッチング防止ゴム13の厚さは特に限定されないが、2枚の樹脂板11,12を閉じたとき、エピタキシャル層3に密着できるように溝14,15の深さに合わせて調節される。一方、本発明はエッチング防止ゴム13の形状(すなわち段差Sとして残るエピタキシャル層3の形状)を特に限定するものではなく、帯状、円形状、多角形状など、種々のものから選択可能である。
【0030】
このエッチング防止ゴム13は、エッチャントに対する耐性を有すると共に、適度な弾性を有する耐薬品性のゴム材料から形成される。ここで、適度な弾性とは、2枚の樹脂板11,12を閉じてウエハ片1を挟持したとき、ウエハ片1を破壊しない程度の、且つエッチャントが浸入しない程度の圧力をエピタキシャル層3に付与できる弾性をいう。そのゴム材料としては、例えばブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどがあり、その中でも殆ど全ての薬品に対して耐性を有するフッ素ゴムが好ましい。
【0031】
エッチング防止ゴム13の上部樹脂板11への接着には、耐薬品性を有する樹脂接着剤を用いればよい。その樹脂接着剤としては、例えば、アクリル系、エポキシ系、ポリアミド系、ポリウレタン系などが挙げられる。
【0032】
次に、製造装置10を用いて層厚測定用試料20(図7参照)を製造する手順について説明する。
【0033】
先ず、エピタキシャル層3を形成した半導体ウエハ2を小片に劈開し、ウエハ片1を作製する。
【0034】
このウエハ片1を下部樹脂板12の溝15に載置して2枚の樹脂板11,12を閉じ、これら樹脂板11,12を互いに括り紐やクリップ等で留めることで、エピタキシャル層3の一部をエッチング防止ゴム13に密着させると共にウエハ片1を挟持して固定する。このとき、エッチング防止ゴム13のエピタキシャル層3への過度の密着は、樹脂板11,12の当接面17,18により規制されるため、過度の押圧によりウエハ片1が破壊することを防止できる。
【0035】
ウエハ片1を挟持した製造装置10を塩酸、過酸化水素水、臭化水素酸、硫酸、燐酸等のエッチャントに投入し、製造装置10の両脇等から流入したエッチャントにエピタキシャル層3を浸漬することで、エッチング防止ゴム13に密着されていない被保護の領域のエピタキシャル層3が除去され、保護された領域のエピタキシャル層3が段差Sとしてエッチング後に残ることとなる。
【0036】
しかる後、製造装置10と共にウエハ片1をアセトン、エタノール、メタノール等の有機溶剤に投入して超音波洗浄(有機洗浄)し、2枚の樹脂板11,12を開いてウエハ片1を製造装置10から取り出すことで、図7に示した層厚測定用試料20が得られる。
【0037】
以上のように、本発明に係る製造装置10では、ウエハ片1を挟み込む2枚の樹脂板11,12の一方に、エピタキシャル層3の一部と密着するエッチング防止ゴム13を設け、エピタキシャル層3の層厚を測定する層厚測定用試料を製造するに際し、エッチング防止ゴム13をエピタキシャル層3の一部に密着させてエッチングから保護するようにしている。
【0038】
本発明に従えば、従来方法でのレジストの塗布、ホットプレートによる固化、エッチング後の有機洗浄によるレジスト除去の作業を省略して、測定箇所(段差を形成する箇所)が1箇所の場合、約15分の作業時間を短縮することが可能であり、エピタキシャル層の層厚測定用試料を簡便に製造できる。
【0039】
なお、本発明は上記実施の形態に限られず、種々の変更が可能である。
【0040】
例えば、図2に示すように、2枚の樹脂板11,12の両側にこれら2枚の樹脂板11,12を締結する締結手段16を更に備え、その締結手段16の締結力により、ウエハ片1を挟持すると共にエッチング防止ゴム13をエピタキシャル層3の一部に密着させるようにすることができる。図2において、締結手段16は、2枚の樹脂板11,12の両側に設けられたネジ16sからなる。この締結手段16を備える製造装置10では、ネジ16sの締め付け力によりエッチング防止ゴム13をエピタキシャル層3に密着させ、ネジ16sの締め付け力を調節することによりエッチング防止ゴム13の密着力を調節することができる。
【0041】
また本発明では、図3に示すように、複数のエッチング防止ゴム13を備えた製造装置10とすることができる。この製造装置10では、エピタキシャル層3の複数箇所を同一条件でエッチングすることができるため、エピタキシャル層3の成長速度の偏りを確認する等の目的に好適である。
【0042】
また本発明は締結手段16をネジ16sに限定されるものではなく、例えば図4に示すように、2枚の樹脂板11,12の一側に設けた蝶番16jと、2枚の樹脂板11,12の他側に設けたフック16hとから締結手段16を構成しても良い。この締結手段16を備える製造装置10では、フック16hを留めるのみでエッチング防止ゴム13をエピタキシャル層3に密着させることができる。
【0043】
ただし本発明では、締結手段16はネジ16s、蝶番16jおよびフック16hに限られず、エピタキシャル層3とエッチング防止ゴム13の間にエッチャントが浸入しない程度の適度な圧力がかかる固定方法であればどんな方法を採用しても良い。
【0044】
さらに本発明では、図5に示すように、ウエハ片1のセット位置を下部樹脂板12の溝15の側面(図では左側の側面)に寄せるなどして、エッチング防止ゴム13のエピタキシャル層3との密着位置を一定とすることができる。エッチング防止ゴム13の位置、幅は製造装置10を製作すれば固定であり、エッチングによって形成される段差部分の位置精度を、手作業によるレジスト塗布の方法と比較して向上し、安定した層厚測定用試料の製造を行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0045】
1 ウエハ片
2 半導体ウエハ
3 エピタキシャル層
10 層厚測定用試料製造装置(製造装置)
11 上部樹脂板
12 下部樹脂板
13 エッチング防止ゴム
14,15 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピタキシャル層が形成されたウエハ片を、そのエピタキシャル層の一部を残してエピタキシャル層をエッチングして層厚測定用試料を製造し、エッチング後の前記ウエハ片上に段差として残ったエピタキシャル層の層厚を測定するための層厚測定用試料製造装置において、
前記ウエハ片を挟み込む開閉自在の2枚の樹脂板と、
これら2枚の樹脂板の一方に設けられ、前記ウエハ片上に形成されたエピタキシャル層の一部をエッチングから保護すべくエピタキシャル層の一部と密着するエッチング防止ゴムとを備えたことを特徴とする層厚測定用試料製造装置。
【請求項2】
前記樹脂板は、フッ素樹脂からなり、前記エッチング防止ゴムは、フッ素ゴムからなる請求項1記載の層厚測定用試料製造装置。
【請求項3】
前記樹脂板は、前記ウエハ片を収納すると共に前記エッチング防止ゴムが前記エピタキシャル層の一部と密着する深さの溝を有する請求項1又は2記載の層厚測定用試料製造装置。
【請求項4】
前記2枚の樹脂板の両側にこれら2枚の樹脂板を締結する締結手段を更に備え、その締結手段の締結力により、前記ウエハ片を挟持すると共に前記エッチング防止ゴムを前記エピタキシャル層の一部に密着させる請求項1〜3いずれか記載の層厚測定用試料製造装置。
【請求項5】
前記樹脂板に、前記エッチング防止ゴムが複数備えられる請求項1〜4いずれか記載の層厚測定用試料製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−256701(P2012−256701A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128578(P2011−128578)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】