説明

層状化合物が高度に面内に配向した熱可塑性樹脂延伸多層フィルム

【課題】従来では不可能と考えられていた層状化合物を高次元に配向させたフィルムを提供するものであり、特に力学特性、バリア性、耐熱性、寸法安定性などに優れたフィルムを提供すること。
【解決手段】層状化合物を含む無機物が0.3〜15重量%添加され、全層数が8層以上の積層構造を有し、厚みが3〜200μmである熱可塑性樹脂延伸多層フィルムであって、X線回折法によって測定される無機層状化合物の面配向度が0.4〜1.0の範囲にある熱可塑性樹脂延伸多層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般にはナノコンポジットと言われる層状無機化合物を含有した樹脂からなるフィルムに関する。特には、従来、高倍率の延伸は不可能と言われていたナノコンポジット樹脂の延伸フィルムに関する。
【0002】
層状ケイ酸塩などに代表される層状化合物を均一に分散させた熱可塑性樹脂(ナノコンポジット樹脂)の二軸延伸について、従来から困難とされていたが、ナノコンポジット樹脂からなる層を積層させた多層未延伸シートとして成型してから延伸することにより、高い延伸倍率で二軸延伸することが可能であり、そのときの層状化合物の面内への配向度を0.4以上とすることで、特に力学特性、バリア性、耐熱性、寸法安定性などに優れたフィ
ルムを得ることができる。
【背景技術】
【0003】
層状ケイ酸塩などに代表される層状化合物を均一に分散させた熱可塑性樹脂(ナノコンポジット樹脂)は酸素や水蒸気バリア性の改善、機械的強度の向上などが期待され、フィルムへの適用が検討されてきた。しかし、層状化合物の添加量に伴い急激に延伸が困難となり、層状化合物を添加した特性が十分発揮できると期待される量を添加した場合には、充分な延伸が出来ないために層状化合物もその平面がお互い平行には配列せず、層状化合物の配向は乱れたものであった。そのために、実際に得られる延伸フィルムの特性は理論上得られると言われている各種物性からは遠いものであった。
【0004】
特に二軸延伸ポリアミド樹脂フィルムは、力学特性、バリア性、耐ピンホール性、透明性などに優れ、包装用材料として広く用いられている。しかしながら、樹脂骨格中のアミド結合に由来する吸湿性の高さにより、湿度変化により力学強度が変化し、吸湿伸びが発生するほかに各種工程で問題が発生しやすい。また、樹脂そのもののガラス転移点はあまり高くなく、耐熱性、特に高温での力学特性の改良が望まれている。
【0005】
ポリアミド樹脂の耐熱性や吸湿性の改善方法として、層状ケイ酸塩を均一に分散させることが知られており、この手法はナノコンポジット化として知られている。ナノコンポジット化により上記の各種特性は改善されることから、フィルム化により特性が改善されたフィルムが得られるものと期待されるが、実際には、これらの樹脂は一般的に延伸性に乏しく、延伸フィルム用樹脂としては不適とされている。特に、力学特性改善の効果を充分高めるためにはポリアミド樹脂中に層状ケイ酸塩を1%以上添加する必要があると言われているが、このような高い層状ケイ酸塩含有量のポリアミド樹脂では延伸の困難性は顕著なものであった。
【0006】
特許文献1では層状ケイ酸塩を含有する二軸延伸ポリアミドフィルムが開示されているが、延伸の困難性を克服するために逐次延伸で長さ方向に次ぐ幅方向の延伸で最高到達温度を180−200℃という高温を必須としており、生産上の困難さだけでなく、幅方向に充分な延伸が達成される前に結晶が過度に進むために、層状ケイ酸塩が充分に配向されておらず種々の層状ケイ酸塩の添加効果が出ない、微細な領域での厚み斑が発生する、耐ピンホール性が達成されない、と言った問題があった。
【0007】
さらに、このような特殊な方法を採っても特許請求の範囲から分かる通り、実用上は1重量%以下(層間に含有する有機分も含む)であり、それを越えると、延伸時の白化、高延伸倍率時の生産性の悪さなどが指摘されている。この原因について、延伸時に層状化合物の先端に応力が集中しやすく、グレーズやクラックが発生しやすいため、と考えられる。
【0008】
また、特許文献2には層状無機化合物を0.5〜5%添加した系での延伸フィルムについての特許も開示されているが、前述の延伸性が乏しい点を解決するための具体的な方策について全く記載はなく、実験室で小片を同時二軸延伸したレベルでの検討結果となっており、1%以上の高濃度での層状化合物が添加された系での逐次二軸延伸による工業的な生産
性を具備した延伸方法についての技術的な開示は全く見られない。また、本文中にはモンモリロナイトなどの層状無機化合物は吸水性の遮断により滑り性の改善に効果があるとの記載があるが、モンモリロナイトのような材料をナイロン樹脂に添加すると樹脂の平衡吸水率は増加する。このことから、該発明の本質は無機滑剤の添加の効果によるところが大きいものといえる。
【0009】
一方、延伸フィルムでの分散している層状無機化合物の配向の評価に関して、神戸大の西野らが興味深い結果を指摘している(例えば、非特許文献1)。この報告では、モンモリロナイトの層内の060反射に注目しており、モンモリロナイトが面内に配向することで
、子午線方向への反射強度が増加することを指摘している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−20349号公報
【特許文献2】特開2003−313322号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】分子ナノテクノロジー第174委員会 第一回セミナー(2007年7月13日開催)予稿集、p22-23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は従来延伸が困難とされていた層状ケイ酸塩などに代表される層状化合物を均一に分散させた樹脂を層状化合物を含まない従来の樹脂と同様の延伸条件で延伸することを可能としたことにより、従来では不可能と考えられていた層状化合物を高次元に配向させたフィルムを提供するものであり、特に力学特性、バリア性、耐熱性、寸法安定性などに優れたフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、層状化合物の面に対して垂直の方向の応力により、層状化合物に沿って容易にクラックが発生することが延伸における問題と考え、層状化合物の配向状態と延伸応力の低減について検討した結果、従来の方法では、層状化合物により分子鎖が固定されていたためにキャストシートを縦に延伸する際に幅や厚み方向にも分子鎖に大きな応力がかかっており、引き続く幅方向の高延伸が困難であったと考え、多層化によりせん断応力がキャスト時のシートにより均一にかかるようにして面内方向への層状化合物の配向を促進させ、層状化合物先端に集中する応力により発生するクレーズやクラックの発生を抑制できる点と同時に多層化により厚み方向の絡み合い密度を下げることが可能になる点を見出した。そしてマトリックス側の樹脂以外にも分散する層状無機化合物の面内への配向に注目し、西野らの報告を参考して層状化合物の配向度を定量的に捉えて特性の関係に検討を加え、このような方法を採用して得られたフィルムは層状化合物が非常に高いレベルで配向させることが可能であり、分散している層状化合物由来のX線回折ピークの半値幅から求められる面配向度が特定の値以上になった場合には従来にはない優れた特性を持つことを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の構成よりなる。
1. 層状化合物を含む無機物が0.3〜15重量%添加され、全層数が8層以上の積層構造を有し、厚みが3〜200μmである熱可塑性樹脂延伸多層フィルムであって、X線回折法によって測定される無機層状化合物の面配向度が0.4〜1.0の範囲にあることを特徴とする熱可塑性樹脂延伸多層フィルム。
2. 熱可塑性樹脂を溶融押出する際にスタティックミキサー法が用いられ、スタティックミキサーに導入される直前の樹脂温度が融点〜融点+70℃の範囲にあり、スタティックミキサーに導入される直前の樹脂温度よりもスタティックミキサー後半部のヒーター温度を5℃以上40℃以下の範囲で高くされてなることを特徴とする上記第1記載の熱可塑性樹脂延伸多層フィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、従来の延伸条件では強度や外観の面で良好なものを得るのが困難とされていた、層状化合物を均一に分散させたナノコンポジット樹脂からなる、各種特性、特にバリア性、力学特性に優れたフィルムを提供することが可能となる。
【0016】
また、多層化による問題であるフィルムの厚み方向へのヘキカイが起こりやすくなる点について、 スタティックミキサー法により得られる多層フィルムで、スタティックミキサーに導入される直前の樹脂温度が融点〜融点+70℃の範囲にあり、スタティックミキサーに導入される直前の樹脂温度よりもスタティックミキサー後半部のヒーター温度を5℃以上40℃以下の範囲で高くすることにより改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。
(熱可塑性樹脂)
本発明で使用される熱可塑性樹脂は一般的な熱可塑性樹脂が使用可能である。例示すると、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などが例示され、その他の成分が共重合されたものや他の樹脂をブレンドしたものも使用可能であり、その他制限されるものではない。
【0019】
ポリエステル樹脂については、芳香族および脂肪族多官能カルボン酸と多官能グリコールより得られるポリエステル樹脂以外に、ヒドロキシカルボン酸系のポリエステル樹脂も使用可能である。前者については、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートおよびこれらのその他の共重合体が挙げられる。共重合体としては、ポリアルキレングリコール、ポリカプロラクトンなどを共重合したポリエステル樹脂などが挙げられる。後者としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンなどが挙げられる。前者と後者の共重合体も使用可能である。
【0020】
ポリアミド樹脂については、環状ラクタムの開環重合体、ジアミンとジカルボン酸の縮合物、アミノ酸類の自己縮合物など特に限定されないが、例示すると、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン4、ナイロン46、ナイロン69、ナイロン612、メタキシリレンジアミン系ナイロンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また共重合型ポリアミド樹脂を使用することも可能である。具体的にはメタキシリレンジアミンを共重合したナイロン6およびナイロン66、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン6/6I共重合体、ナイロン6/MXD6共重合体などの芳香族系ポリアミド樹脂が挙げられるがその他の成分を共重合したものも使用可能であるが、好ましくはナイロン6、ナイロン66、メタキシリレンジアミン系ナイロンが好ましい。
【0021】
ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などのポリオレフィン樹脂については、チーグラーナッタ触媒やメタロセン触媒など各種重合触媒により得られるものが使用可能である。これらのホモポリマーのほか、延伸性の改善や耐衝撃性の改善を目的に他の成分を共重合したものも使用可能である。また、上記以外にも環状ポリオレフィン樹脂なども使用可能である。
【0022】
アクリル樹脂についても、一般のラジカル重合、イオン重合により得られる各種樹脂が使用可能であり、特に限定されない。ポリカーボネート樹脂についても各種原料によりさまざまな特性のポリカーボネート樹脂を得ることができるが、本発明においては特に限定されない。
【0023】
これらの樹脂に層状化合物が均一に分散されたものが本発明において使用される。多層化の際に、層状化合物を含まない上記の樹脂および層状化合物の添加量の違う樹脂が同時に使用されても差し支えない。また本発明において多層化の際に使用される際に共通して必要な特性は、押出成型時にせん断速度が10〜100/秒においてその溶融粘度が10〜10000Pa・secであることが挙げられる。溶融粘度が10 Pa・sec未満では積層時に層状化合物の配列の効果が薄く好ましくない。10000 Pa・secを超えると、例えばスタティックミキサーを通過する際の層の分割と反転が起こりにくく、実際の系においては、多層化されにくくなるため、好ましくない。
【0024】
また、これらの樹脂に対してその他の樹脂や添加剤を添加して使用しても差し支えないが特性の低下を最小限に留める範囲での使用が好ましい。また、経済性の面から、本特許で製造されるフィルムを回収し、再度、熱可塑性樹脂の一部または全部として使用することが好ましい実施形態のひとつである。
【0025】
(層状化合物)
層状化合物としては膨潤性雲母、クレイ、モンモリロナイト、スメクタイト、ハイドロタルサイト、ベントナイトなどの層状化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、無機、有機にかかわらず使用できる。
【0026】
層状化合物の形状は、特に限定されるものではないが、長径の平均長さが0.01乃至50μm、好ましくは0.03乃至20μm、特に好ましくは0.05乃至12μm、アスペクト比は5乃至5000、好ましくは10乃至5000であるものを好適に用いることができる。
【0027】
上記のポリアミド樹脂に対する添加量は、0.3〜20重量%が好ましい。無機層状化合物は有機処理された層状化合物として添加される場合があり、添加量と後述の重量残渣による無機物の含有量(添加量)とは必ずしも一致しない場合がある。また、後述のように重量残渣から求める方法を採用すれば、他に層状無機化合物以外の無機物が少量添加されている場合もあり、本発明においては層状化合物を含む無機物の添加量として求められることになる。本発明での層状化合物を含む無機物の含有量は熱量計測装置(TGA)により得られる重量残渣から灰分を差し引いた値であり、具体的には層状化合物を含有する樹脂の室温から550℃まで昇温後の重量残渣を求め、その後樹脂灰分の値を差し引くことにより得られ、実施例1の場合では、TGAによる重量残渣4.4%、樹脂由来の重量残渣1.8%を差し引いて無機含有量2.6%と求めることができる。また、層状化合物中の有機処理剤の比率をTGAにより別途求め、その数値より計算することでも求めることができる。
【0028】
層状化合物のアスペクト比について、添加の目的がバリア性の改善の場合、アスペクト比の大きな層状化合物が好ましく、また、添加の目的が力学的補強の場合には、アスペクト比の小さなものが好ましい。
【0029】
層状化合物を含む無機物の添加量の下限値は、0.3%であることがより好ましく、0.7%であることが更に好ましく、1.0%であることが特に好ましい。0.3%未満では寸法安定性や力学特性の面で小さいため層状化合物添加の効果が小さく好ましくない。また、上限値は、15%であることがより好ましく、12%が更に好ましく、特には10%が好ましい。15%を超えると寸法安定性や力学特性の面での効果が飽和するため経済的ではなく、また溶融時の流動性も低下するため、好ましくない。
【0030】
これらの層状化合物は一般的なものが使用できるが、後述のモノマー挿入重合法において好適に使用される有機処理された市販品としては、Southern Clay Products製のCloisite、コープケミカル製ソマシフ、ルーセンタイト、ホージュン製エスベンなどが挙げられる。
【0031】
(層状化合物を均一に分散させた熱可塑性樹脂)
層状化合物を分散させた熱可塑性樹脂は、一般にはナノコンポジット樹脂と呼ばれている。該層状化合物は均一に分散されており、該層状化合物の凝集体で厚みが2μmを超える粗大物を含まないことが好ましい。2μmを超える粗大物を含む場合、透明性の低下や延伸性の低下が起こるため好ましくない。層状化合物を分散させた熱可塑性樹脂の製造方法を例示すると、
1.層間挿入法:
1)モノマー挿入重合法
2)ポリマー挿入法
3)有機低分子挿入(有機膨潤)混練法
2.In-situ法:In-situフィラー形成法(ゾルーゲル法)
3.超微粒子直接分散法
などがその製造方法として挙げられ、ナノコンポジット樹脂の例として、具体的にはナイロン系のNanopolymerComposite Corp.社製 NF3040、NF3020、宇部興産製のNCH 1015C2、MXDナイロン系のNanocor製Imperm103、Imperm105、PP系のPolykemi製Scancompなどが挙げられる。層状化合物を樹脂中に分散させる際に、粗大物の発生を抑制するために層状化合物の分散性を高めることを目的に各種の有機処理剤で層状化合物は処理されることが好ましいが、溶融成形時の処理剤の熱分解による悪影響を避けるために、熱安定性の良い低分子化合物の使用や低分子の化合物を使用しないモノマー挿入重合法などの方法を用いて得られたものが好ましい。熱安定性については、処理を行った層状化合物の5%重量減少温度が150℃以上の化合物が好ましい。測定にはTGAなどが使用できる。熱安定性の低いものでは、フィルム中に気泡が発生したり、着色の原因となったりするため好ましくない(挑戦するナノテク材料 用途展開の広がるポリマーナノコンポジット、発行:住ベ・筒中テクノ(株)ご参照)。
【0032】
これらの層状化合物は得られるフィルム中において、その面内に配向していることが特性発現のために好ましい。面内への配向については、断面を透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡を用いて観察することにより確認できる。
【0033】
(製膜方法)
本発明における層状無機化合物を含有する樹脂の延伸において、一般的に経済的な面で利点のある逐次二軸延伸を用いて延伸する際の問題については、(1)縦方向(以下MDと略)の延伸において、延伸時の熱で結晶化が進み、一軸延伸後に横方向(以下TDと略)の延伸性が失われてしまう、(2)TD延伸時に破断が起こる、(3)TD延伸後の熱固定時に破断が起こる、の3点が挙げられるが、(1)については、TD延伸が可能なMD延伸条件とTD延伸が不可なMD延伸条件を整理したところ、MD延伸後の一軸延伸シートの幅方向の屈折率(Y軸方向の屈折率、以下Nyと略)に違いがあることがわかった。具体的にはTD延伸可能な一軸延伸シートのNyはMD延伸後にNyが小さくなっているのに対して、TD延伸ができない(すなわちTD延伸時に白化する、または破断してしまう)一軸延伸シートのNyはMD延伸後にNyの変化が小さいあるいは変化が見られないことがわかった。通常のポリアミド樹脂の延伸においては、MD延伸後のNyはMD延伸時に幅方向にネックインが起こると同時にNyが小さくなるが、層状化合物が添加されている場合にはネックインは起こるがその層状化合物とポリアミド樹脂分子との相互作用でNyが小さくなりにくい傾向があることがわかった。これは、延伸前のフィルムの分子鎖はMD、TD方向にランダムに向いているため、MD延伸で分子鎖がMD方向に引き延ばされる際にはTD方向への力も発生するが、通常のポリアミド樹脂の延伸ではTD方向にネックインすることでTD方向にもかかる力を逃がすことができる一方、層状化合物を含有するポリアミド樹脂の場合には、分子鎖が層状化合物に拘束されているためにTD方向の力を逃がすことができずに、あたかもTD方向にも分子鎖が引き延ばされた様な状態になってしまうためや、MD延伸の際に層状化合物が回転し、それによりMD方向以外の方向にも分子が引っ張られるためと考えられた。すなわち一軸延伸後に面配向が既に高い状態にある。このため、続いて行うTD延伸時の延伸応力が高くなり破断してしまうものと考えられた。
【0034】
これを解決する方法として、MD延伸後にNyが小さくなる延伸条件を採用することにより、つづいて行うTD延伸も破断等生じさせることなく高倍率で延伸が可能となり、本発明のフィルムを工業的な規模で製造することが可能となった。
【0035】
縦延伸前の幅方向の屈折率をNy(A)、縦延伸後の幅方向の屈折率をNy(B)とした場合にNy(A)-Ny(B)が0.001以上となることが好ましい。さらには0.002以上、最も好ましくは0.003以上となることが好ましい。
【0036】
一軸延伸後のNyを下げる方法としては、MD延伸速度を大幅に下げる方法が適用可能であるが、それ以外に同様の効果が溶融押し出し後の未延伸シートを多層化することにより得られる。これは、多層化により厚み方向に分子鎖の絡み合い密度を下げることで、分子鎖の変形のしやすさを改善することでNyが小さくなることが可能となり、その結果、MD延伸時の面配向の上昇を抑制でき、TD延伸性を改善できる。これらの方法により、二軸延伸性改善が可能となり、工業的に実用性の高い製造方法と特性に優れた延伸フィルムを実現できることを見出した。
【0037】
(フィルムの構成)
全層数や層の厚みについて、層数の下限は8層以上が好ましく、16層以上が更に好ましい。層数の上限については、10000層以下が好ましく、5000層以下が更に好ましい。8層未満では延伸性改善効果が見られず好ましくないほか、層状化合物の溶融押出時の配列の効果が小さくなるため好ましくない。また、10000層を超えると延伸性改善の効果が飽和し、また熱収縮率の低下などが見られるため好ましくない。
【0038】
また、層の厚みの下限値は、延伸前の状態で層の厚みが10nmであることがより好ましく、100nmであることが更に好ましい。10nm未満では層中の結晶サイズが小さくなりすぎ、熱収縮率が大きくなるため好ましくない。
【0039】
また層の厚みの上限値は、30μm未満が好ましく、20μm未満が更に好ましい。30μmを超えると層状化合物の延伸前の状態での面内配向が低く、また、延伸応力の低減に対しても効果が小さいため、好ましくない。
【0040】
(積層方法)
本発明において前述の熱可塑性樹脂を多層化する際に、一般に採られる異種の樹脂を積層する以外に、同一組成の樹脂組成物を積層することも可能である。ここで、 同一組成の樹脂組成物を後述の方法で多層化することに物理的な意味を見出すことが一見したところ難しいかもしれないが、実際の系において、同一組成の樹脂組成物を同一の温度において溶融押出し積層した場合においても層の界面は消えずに延伸後においても存在する。これは射出成型品のウエルドラインを消すことが非常に難しいことと同義である。このように同種の樹脂であっても多層状態が維持され、厚み方向での分子の絡み合いを低く抑えることを維持できる。同種の樹脂を溶融押出し積層した際の層の界面の存在を確認する方法としては、サンプルを氷や液体窒素で冷却後、カミソリなどで切り出し断面を作製後、それをアセトンなどの溶剤に浸漬後に断面を顕微鏡で観察する方法などで観察できる。この層の界面が消えずに残るという点はすなわち弾性率などの違う層が存在することを意味し、この点を利用し、その層厚みを徐々に薄くしていく工程を設けることで、層状化合物の層界面と平行方向の引き伸ばしおよび配列が起こり、目的とする特性改善が可能となる。なお、上記の効果について、層状ケイ酸塩に代表される層状化合物は一般的にはペレット中では丸く縮んだまたはカールした状態で存在しており、これを通常の押出方法で押し出した場合ではこれらの丸まった状態を引き伸ばして本発明における延伸に最も好適な状態にすることは難しい。また、ただ単にペレットを押しつぶすだけでは発現しない効果でもある。ところが、このように薄い多層の構造として押し出すことにより予め層状化合物をある程度引き延ばし、かつ配向させておくことが可能であり、これにより引き続いての縦方向の延伸工程において分子に縦方向以外に過剰な力がかかることなく滑らかな延伸が可能になったと考えられる。
【0041】
本発明における熱可塑性樹脂および必要に応じてその他の層を構成する樹脂組成物は、それぞれ別の押出機に供給され、溶融温度以上の温度で押し出されるが、溶融温度は分解開始温度よりも5℃低い温度以下であることが好ましい
【0042】
なお、同種の樹脂を積層する場合には一台の押出機とダイの間のメルトライン中に一本のスタティックミキサーを導入するだけで多層構造とすることが可能となり、最も経済的な方法のひとつである。また、樹脂中の層状化合物の割れを抑制するためにも、溶融条件や溶融温度は注意して設定されるべきで、例えば高分子量の熱可塑性樹脂の場合には、融点+10℃未満のような低温での溶融を行うと層状化合物が割れてしまい、アスペクト比が最初の状態よりも小さくなり、高アスペクト比の層状化合物を用いる効果が小さくなるため、熱安定性の面で問題がない範囲の高温で溶融させることが好ましい。
【0043】
本発明における熱可塑性樹脂および必要に応じてその他の層を構成する樹脂組成物は、各種の方法により積層されるが、フィードブロック方式、マルチマニホールド方式などの方法が利用できる。フィードブロック方式の場合には積層した後、ダイ幅まで幅を押し広げる際に、積層する層間での溶融粘度差や積層時の温度差が大きいと積層ムラとなり、外観の低下、厚みムラの発生が起こるため、製造の際には注意を払うことが好ましい。ムラ発生などを抑制するためには、(1)温度を下げる、(2)多官能のエポキシ化合物、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物などの各種添加剤を添加する、などにより押出時の溶融粘度の調整を行うことが好ましい。
【0044】
なお、本発明においては、積層時のせん断力により層状化合物の面内への配向を促進することも、延伸時の応力集中を層状化合物の先端に集中させることで破断を起こりにくくすることに対して効果があり、このような目的に対する好適な方法としてはフィードブロック方式やスタティックミキサー方式での積層が好ましく、設備の単純さの面からスタティックミキサー方式が特に好ましい。
【0045】
スタティックミキサー方式で多層化を行う場合、スタティックミキサーに導入される直前の樹脂温度が融点〜融点+70℃の範囲にあり、また、スタティックミキサーに導入される直前の樹脂温度よりもスタティックミキサー後半部のヒーター温度を5℃以上40℃以下の範囲で高く設定されていることが好ましい。スタティックミキサーに導入される前の状態で融点未満では溶融粘度が高すぎて外観が低下するほか、積層状態が乱れるため好ましくない。また、融点+70℃以上の高温では溶融粘度が低すぎて上述の層状化合物の引き延ばし効果に必要な力が小さくなり好ましくない。また、スタティックミキサーに導入される直前の樹脂温度よりもスタティックミキサー後半部のヒーター温度が高く設定されていることが好ましいが、その温度差が5℃未満では筋状のムラが見られるなど外観の低下や破断の原因となる厚みの薄い部分ができるなどがあり好ましくない。40℃を超えると溶融粘度が低すぎて上述の層状化合物の引き延ばし効果に必要な力が小さくなり好ましくない。熱可塑性樹脂の積層時の各層の溶融温度差は70℃以下、好ましくは50℃以下、更に好ましくは30℃以下である。また、層間の樹脂の溶融粘度差は、ダイ内での推定されるせん断速度において30倍以内、好ましくは20倍以内、より好ましくは10倍以内とすることで積層時の外観、ムラの抑制が可能となる。溶融粘度の調節においては、前述の多官能化合物の添加が使用できる。積層時のスタティックミキサー温度またはフィードブロック温度は、樹脂の5%分解温度よりも低いことが条件であり、更に、樹脂の融点+20〜融点+150℃の範囲が好ましく、更に好ましくは融点+30〜融点+120℃、最も好ましくは融点+40〜融点+110℃である。フィードブロック温度が低い場合は溶融粘度が高くなりすぎて押出機への負荷が大きくなりすぎるため好ましくない。温度が高い場合は粘度が低すぎて積層ムラが発生するため好ましくない。また、二軸延伸後のフィルムが、多層化によりヘイカイしやすくなることがあり、この場合については、スタティックミキサーやフィードブロックの後半部分およびダイスの温度を十分に高くし、層間の分子鎖の絡み合いを増加させることで改善できる。具体的にはスタティックミキサーの場合には、入り口温度よりも出口温度のヒーター温度を5〜40℃の範囲で高くすることでヘキカイ抑制効果が見られる。
【0046】
また、マルチマニホールド方式での積層も可能であり、上述の積層ムラの問題は起こりにくいが、溶融粘度差のある層を積層させる場合に、端部での各層樹脂の回り込み不良が発生し端部での積層比率ムラが生じるなどの生産性の面で問題があり、この場合にも溶融粘度差を制御することが好ましい。
【0047】
ダイ温度については、上述と同様であるが、150〜380℃、好ましくは170〜350℃、より好ましくは180〜320℃の範囲が好ましい。温度が低くなりすぎると溶融粘度が高くなりすぎて表面の荒れなどが発生し外観が低下する。温度が高くなりすぎると、樹脂の熱分解が起こる以外に、上述のように溶融粘度差が大きくなりムラなどが発生し、特にピッチの小さいムラが発生するため好ましくない。
【0048】
延伸を行う前の各層の厚みについて、各層を0.01〜30μmの範囲内とすることが好ましい。樹脂層の厚みが30μmを超えると延伸性改善の効果が低く、本発明に対して好ましくない。0.01μm未満では熱固定後の熱収縮率が大きくなるほかに、バリア性などの改善効果も小さくなり、各種特性とのバランス化が困難になるため、好ましくない。
【0049】
(延伸方法)
本発明の熱可塑性樹脂延伸多層フィルムはTダイより溶融押出しした未延伸のシートを逐次二軸延伸、同時二軸延伸により延伸できるほか、チューブラー方式など方法が使用可能であるが、層状化合物の十分な配向を行わせるためには、二軸延伸機による方法が好ましい。特性と経済性などの面からみて好ましい方法は、ロール式延伸機で縦方法に延伸した後、テンター式延伸機で横方向に延伸する方法(逐次二軸延伸法)が挙げられる。また、MD延伸については、前述のとおりTD延伸性を改善するためにMD延伸の際に幅方向の屈折率(Ny)を小さくすることが好ましく、MD延伸倍率を上げつつ、Nyを小さくするためにはMD多段階延伸を使用することが好ましい。
【0050】
溶融押し出し後の未延伸シートを左記に述べたように多層化することにより、延伸時の温度、速度等の延伸条件は、層状化合物を含有しない樹脂を延伸する際の通常の条件をそのまま採用できる。
【0051】
Tダイより溶融押出されて得られる実質的に未配向の熱可塑性樹脂シートを樹脂のガラス転移温度Tg℃以上、昇温結晶化温度(Tc)+50℃以下の温度でMD方向に2.5〜10倍に延伸した後、更に得られた縦延伸フィルムを50℃以上、融点(Tm)℃以下の温度で3.0〜10倍横延伸し、次いで前記二軸延伸フィルムを150〜300℃の温度範囲で熱固定して得ることが好適である。
【0052】
昇温結晶化温度は、DSCにより、樹脂を溶融後に急冷したサンプルを昇温することで求めることができるほか、結晶化していないシート状サンプルの昇温過程での動的粘弾性変化を追跡することでも確認できる。
【0053】
MD延伸において、フィルムの温度が樹脂のガラス転移点温度Tg℃未満の場合は、延伸による配向結晶化による破断や厚み斑の問題が発生する。一方、フィルムの温度が、樹脂の昇温結晶化温度(Tc)+50℃を超える場合は、熱による結晶化により破断が発生し不適である。また、MD延伸における延伸倍率は、1.1倍未満では厚み斑などの品質不良および縦方向の強度不足などの問題が発生し、10倍を超えると後続のTD延伸が難しくなるなどの問題がある。好ましい延伸倍率は3.0〜8.0倍である。
【0054】
更に、TD延伸におけるフィルムの温度が50℃未満の低温の場合では、TD延伸性が悪く破断が発生し、かつ、ネック延伸に起因するTD方向の厚み斑が増大して好ましくなく、また、フィルムの温度が(Tm)℃を超える高温では、厚み斑が増加し好ましくない。また、TD延伸倍率が1.1倍未満では、TD方向の厚み斑が増大し好ましくない点や、TD方向の強度が低くなる点以外に、層状化合物の面内への配向が低くなり、目的とする特性改善に対して効果が小さくなり好ましくなく、3倍以上の延伸倍率が好ましい。また、TD延伸倍率が10倍を超える高倍率では、実質上延伸が困難である。特に好ましいTD延伸倍率は3.0〜9.0
倍である。
【0055】
延伸温度は、例えばポリエチレンテレフタレートの場合であれば、MD延伸温度およびTD延伸温度は80〜130℃の範囲が好ましく、ナイロン6樹脂の場合であれば、MD延伸温度は50〜100℃、TD延伸温度は60〜150℃、ポリプロピレン樹脂の場合であれば、MD延伸温度が50〜100℃、TD延伸温度は150〜200℃、という条件を例示できる。層状ケイ酸塩の添加効果を充分に発揮させるために、目的に対して調整されるべきであり、例えば、ナイロン系ナノコンポジット樹脂での場合で、耐ゲルボフレックス性などを重要視する場合には、延伸温度は低温での延伸が適しており、具体的には100〜150℃の範囲でTD延伸を行うことが適している。
【0056】
なお、本発明においては、未延伸シートを少なくとも面積換算で6〜50倍の範囲で延伸されていることが好ましい。延伸倍率が6倍未満では無機層状化合物の面内への配列が不十分であり、特性改善の効果が小さい。50倍を超えると樹脂そのものの延伸性が不足し、工業的に不利であるため好ましくない。より好ましい延伸倍率は8倍以上、さらには9倍以上である。上限は好ましくは45倍であり、さらには40倍である。上限は樹脂により異なるが、層状化合物を添加しない樹脂フィルムの延伸倍率とほぼ等々の倍率が限度となる。
【0057】
また、延伸後のフィルム厚みは3〜200μmの範囲であることが好ましい。3μm未満ではフィルムのハンドリングが悪く好ましくない。また、200μmを超えると無機複合化の効果が小さくなり好ましくない。
【0058】
また本発明においては、スタティックミキサー方式またはフィードブロック方式により多層化された未延伸シートの幅方向の両端部を、必要に応じて切除するなどの方法を用いて切り取り、延伸前の最端部において積層されている各層の厚みを少なくとも30μm以下の厚みとなるようにした後、少なくとも一方向に延伸を行うことが好ましい。上記の多層化方法において、ダイの構造にも依存するが、積層時の層の分割の不完全さや層の乱れにより、端部の層数は少なくなっている場合があり、このため、層厚みが30μmよりも大きくなり、端部のみ大幅に延伸性が低下し、延伸時に端部の白化や破断などの現象が見られることがある。本発明においては、この場合には製造時に端部の層厚みを目的の厚みにまで修正することを目的に、未延伸シートの端部をトリミングしてから延伸を行うことは好ましい製造方法のひとつである。
【0059】
(熱固定)
熱固定温度は、例えばポリアミド樹脂の場合、150℃未満の低温の場合は、フィルムの熱による熱固定効果が小さく不適切である。一方、250℃を超える高温では、ポリアミドの熱結晶化に起因する白化による外観不良および機械的強度の低下を引き起こし不適切である。ポリエステル樹脂の場合には、上記の理由から180〜250℃の範囲が好ましい。その他の樹脂については樹脂の熱的な特性を考慮して決定されるべきである。具体的にはポリエチレンテレフタレートの場合は200〜250℃の範囲が、ポリプロピレンの場合は150〜200℃の範囲が例示できる、
【0060】
なお、 TD延伸後の熱固定において結晶化による密度の増加とそれに伴う体積収縮が起こるが、層状化合物を含有する樹脂の場合、発生する応力が非常に大きいため、急激な加熱ではMD方向に応力がかかり破断してしまう。このため、熱固定時の加熱方法としては段階的に加熱の熱量を増やして急激な収縮応力の発生を抑制することが好ましい。具体的な方法としては、熱固定ゾーンの入り口付近から出口付近に向けて徐々に温度を上げるまたは風量を上げるなどの方法があり、延伸・熱固定後の熱収縮率の面では風量を徐々に上げるような熱固定方法が好ましい。
【0061】
また弛緩処理については、縦方向の熱収縮率とのバランスなどを考慮し、その弛緩率を決定することが好ましい。本発明においては、縦方向の吸湿寸法変化が小さいため、弛緩率は0〜5%の範囲が好ましい。5%を超えると幅方向の熱収縮率の低減に対して効果が小さいため好ましくない。
【0062】
このようにして得られたフィルムは工業的には、紙管などに巻き取られたロールフィルムの形態として、そのままもしくは印刷やラミネートなどの加工を経て各種の用途に用いられる。ロールフィルムは幅で30cm以上であることが好ましい。長さは500m以上であることが好ましい。幅の上限は通常600cm程度であり、長さの上限は20000m程度である。製膜直後の幅の広いものや長さの長いものは、用途に合わせてスリットされ、通常、幅200cm以下、長さ8000m以下のロールフィルムとして使用される。
【0063】
(熱可塑性樹脂の面配向)
本発明における熱可塑性樹脂フィルムの二軸延伸・熱固定・弛緩処理後の面配向(ΔP)は用いる熱可塑性樹脂により異なるが、ポリアミド樹脂の場合であれば0.03以上、好ましくは0.05以上であることが好ましい。屈折率計より複屈折を求め、長手方向の屈折率をNx,幅方向の屈折率をNy,厚み方向の屈折率をNzとするとき、以下の式により求められる。

ΔP=(Nx+Ny)/2-Nz

ポリエチレンテレフタレートの場合であればΔPは0.10以上となるが、面配向の増加は二軸延伸倍率、特にTD延伸倍率を高めることで可能であり、面配向が0.03以下では突き刺し強度などフィルムとしての力学的な強度が低下し、好ましくない。
【0064】
(フィルム特性―無機層状化合物の面配向)
本発明におけるフィルムは、層状化合物を面内に高度に配向させることで耐熱性、バリア性、寸法安定性、力学特性を改善するものであるが、本発明における熱可塑性多層フィルムは、X線回折法によって測定される無機層状化合物の面配向度が0.4〜1.0の範囲にあることが好ましい。ここで面配向度は層状化合物の(0n0)ピークの半値幅より

面配向度 = (180-半値幅)/180

で求められる数値である。面配向度が0.4未満では、面配向が低く無機層状化合物添加の
効果が小さくなり好ましくない。
【0065】
層状化合物の面配向度を高めるためには、面積換算で6倍以上の延伸が好ましく、横方向に3倍以上の延伸倍率が更に好ましい。面積換算で6倍未満では層状化合物の配列が不十分であり、特性改善効果が小さい。面積換算で50倍を超えると効果に対して製造上の困難さが上回ってしまい、生産性の点で好ましくない。
【0066】
本発明における層状化合物が面内に配列した多層延伸フィルムは耐熱性や力学特性に優れており、耐熱性に関しては例えば、動的粘弾性においてTg付近で貯蔵弾性率の低下が開始する温度を高温側に移動させることが可能な場合がある。これは、層状化合物が熱可塑性樹脂の分子鎖の動きを抑制する補強効果によるもので、層状化合物の配列が不十分ではその効果が小さい。
【0067】
本発明における層状化合物が面内に配列した多層延伸フィルムはバリア性に優れており、例えば、ポリアミド樹脂への酸素バリア性の改善については、ポリアミド樹脂に対して層状化合物を含む無機物の添加量として0.3〜15%を添加した場合、15μm換算での二軸延伸ポリアミド樹脂の酸素透過度(20〜25cc/m2/day/atm)に対しては5〜15cc/m2/day/atm程度まで低減できる。1%未満ではバリア性の改善効果が小さく、10重量%を超えるとバリア性改善の効果が飽和し経済的ではない。ポリアミド樹脂以外にもポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂に対しても同様の効果は確認できる。
【0068】
(フィルム特性―ヘイズ)
本発明における熱可塑性樹脂フィルムのヘイズは1.0〜20%の範囲にあることが好ましい。延伸時のヘイズが1.0%未満では、安定して製造することが困難であり好ましくない。ヘイズが20%を超えると、使用時の内容物などが見えにくくなる以外に、意匠性が低下するため好ましくない。
【0069】
本発明におけるヘイズは、樹脂由来、層状無機化合物由来、層状無機化合物表面での延伸時の樹脂の剥離による空隙由来の合計となるが、特に空隙由来のヘイズを減らすことが好ましく、そのためにも延伸条件は注意深く設定されることが好ましい。具体的にはMD温度が低すぎる場合には空隙の生成によりヘイズが高くなるため、好ましくない。また、TD温度が高すぎる場合にも結晶化によるヘイズの上昇が見られ、好ましくない。好ましい温度範囲は前述の通りであるが、これを参考に調整することが出来る。さらに、層状化合物の大きさ、種類により調節することが出来る。例えば、層状化合物の大きさを可視光の波長以下の小さなものを使用することでヘイズを小さくすることが可能であるだけでなく、樹脂の屈折率と近い屈折率を持つ層状化合物を採用することでヘイズを小さくすることが出来る。
【0070】
(フィルム特性―表面粗さ、静摩擦係数)
本発明における熱可塑性樹脂フィルムには、用途等に合わせて粉末の滑材を添加し、表面粗さや滑り性を調整することができる。添加する場合には、滑材粒子の平均の粒子径は0.1〜10μmのものであること好ましく、さらには0.3〜5μmのものが好ましい。粒子径は電子顕微鏡により直径を測りその平均値を求めることが可能である。添加量としては1000ppm以下が好ましく、さらには700ppm以下が好ましい。
【0071】
平均粒子径が0.1μm未満では表面の粗さを変化させる目的としては小さすぎるため好ましくない。平均粒子径が10μmを越える粒子を用いた場合や添加量が1000ppmを越える場合は、効果が飽和し経済的でない。粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、架橋アクリルビース、架橋スチレンビーズ、ベンゾグアナミンなど、各種のものを用いることができる。
【0072】
(フィルム特性−耐ピンホール性)
本発明における延伸多層フィルムは耐ピンホール性に優れており、例えばナイロン6樹脂の場合であれば23℃でのゲルボフレックス試験1000回後のピンホール数が0〜30個であることが好ましい。無機層状化合物の添加により耐ピンホール性の低下が見られない理由は、無機層状化合物の面内への配列と高倍での延伸によるものと考えられる。耐ピンホール性に対して影響を与えるのは、主に延伸条件であり、その中でも特にTD延伸時の温度を高くしすぎないことが好ましい。TD延伸性が悪い場合には温度を上げる場合があるが、延伸温度を低温結晶化温度を超えて上げすぎると、充分な延伸が出来ないまま部分的に結晶化が進み、微細領域での厚みむらやピンホールが発生しやすくなる。また、得られたフィルムもピンホールが発生しやすくなる。
【0073】
本発明の熱可塑性樹脂延伸多層フィルムは、用途によっては接着性や濡れ性を良くするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理が行われても良い。コーティング処理においては、フィルム製膜中にコーティングしたものを延伸するインラインコート法が好ましい実施形態のひとつである。本発明の熱可塑性樹脂延伸多層フィルムは、更に用途に応じて、印刷、蒸着、ラミネートなどの加工が行われるのが一般的である。
【0074】
本発明の熱可塑性樹脂延伸多層フィルムには耐加水分解改良剤、酸化防止剤、着色剤(顔料、染料)、帯電防止剤、導電剤、難燃剤、補強剤、充填剤、無機滑剤、有機滑剤、核剤、離型剤、可塑剤、接着助剤、粘着剤などを任意に含有せしめることができる。
【実施例】
【0075】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれらの例に何ら制約されない。本発明で用いた測定法を以下に示す。
【0076】
(1)層状化合物を含む無機物の添加量(重量残渣)
TAインストルメンツ製TGAを用いて、サンプル量0.1g、窒素気流下、昇温速度20℃/分、500℃まで昇温させた後の重量残渣を求めた。
【0077】
(2)ヘイズ
JISK7105に準ずる方法で、試料を、ヘイズメーター(日本電色製、NDH2000)を用いて異なる箇所3ヶ所について測定し、その平均値をヘイズとした
【0078】
(3)層状化合物の面配向度
ナイロン6樹脂にモンモリロナイトを分散させた樹脂を延伸したフィルムについて、モンモリロナイトの面配向度を測定した。モンモリロナイト以外の場合も同様の方法にして求めることが可能である。装置は理学電機株式会社製RINT2500 Cu-Kαを用い、40kV、200mAの出力でX線回折法により求められるモンモリロナイト(060)ピークの半値幅を求めた。半値幅より、

無機層状化合物の面配向度 = (180-半値幅)/180

より求めた。ここで、モンモリロナイト(060)ピークの半値幅を求めるには次に示す方法により測定を行った。(1)フィルム試料に対し幅(TD)方向からX線を入射する。(2)入射X線に対して試料をθ=31.4°、検出器を2θ=62.8°の位置に固定する。(3)サンプルステージを0から360°まで面内回転(β回転)させ、X線回折強度の測定を行う。(4)得られたX線回折強度プロット(図1)より、ピークトップの周囲±60°を除いた部分を最小二乗法により直線近似してベースラインとする。(5)(4)により求めたベースラインからピークトップまでの半分の高さにおけるピーク幅を半値幅とする。
【0079】
(4)フィルム中の層状化合物の配向状態の観察
以下の方法でサンプルを調製し透過型電子顕微鏡を用いて観察した。まず、サンプルフィルムをエポキシ樹脂中に包埋した。エポキシ樹脂としては、ルアベック812、ルアベックNMA(以上ナカライテスク社製)、DMP30(TAAB社製)を、100:89:3の重量割合で良く混合したものを用いた。サンプルフィルムをエポキシ樹脂中に包埋した後、温度60℃に調整したオーブン中に16時間放置し、エポキシ樹脂を硬化せしめ包埋ブロックを得た。
【0080】
得られた包埋ブロックを、日製産業製ウルトラカットNに取り付け、超薄切片を作成した。まず、ガラスナイフを用いてフィルムの観察に供したい部分の断面がレジン表面に現れるまでトリミングを実施した。次に、ダイアモンドナイフ(住友電工製、スミナイフSK2045)を用いて超薄切片を切りだした。切りだした超薄切片をメッシュ上に回収した後、薄くカーボン蒸着を施した。電子顕微鏡観察は、日本電子製JEM−2010を用いて、加速電圧200kVの条件で実施した。フィルム断面の電子顕微鏡撮影で得られた像をイメージングプレート(富士写真フイルム製、FDLUR−V)上に記録した。画像より、50個の層状化合物を無作為に抽出し、それぞれの傾きを評価した。 いずれの層状化合物の傾きのばらつきが角度20度以下におさまる場合、面内に配向しているとした。面内で配向しているものを○、配向していないものを×とした。
【0081】
(5)耐ヘキカイ性
二軸延伸後のフィルムをカッターで切り出し、その端面に対して、セロテープ(登録商標)を貼り付けて、24時間、室温で放置した。その後、テープを90度の角度で剥離させ、ヘイカイの有無を確認した。
【0082】
(6)ガラス転移温度(Tg)測定および低温結晶化温度(Tc)測定
未配向樹脂シートを液体窒素中で凍結し、減圧解凍後にセイコー電子社製DSCを用い、昇温速度20℃/分で測定した。
【0083】
(7)力学特性(弾性率)
JIS K 7113に準ずる。フィルムの長手方向および幅方向に幅10mm、長さ100mmの試料を、剃刀を用いて切り出して試料とした。23℃、35%RHの雰囲気下で12時間放置したあと、測定は23℃、35%RHの雰囲気下、チャック間距離40mm、引っ張り速度200mm/分の条件で行い、5回の測定結果の平均値を用いた。測定装置としては島津製作所社製オートグラフAG5000Aを用いた。尚、高温MD弾性率は、所定の温度に加熱したオーブン中でチャック間距離40mm、引っ張り速度200mm/分の条件で行い、5回の測定結果の平均値を用いた。
【0084】
(8)動的粘弾性特性試験
アイティー計測(株)製動的粘弾性測定装置により測定し,測定長30mm,変位0.25%周波数10Hzで,かつ測定環境温度を23℃のとして測定した。サンプルは,フィルム幅方向と平行に長さ40mm×幅5mmに切り出し,2箇所の値の平均値を用いた。また,tanδの算出は,次式により行った。

tanδ=複素弾性率の虚数部/複素弾性率の実数部
【0085】
(9)フィルム中の層の厚み、全層数
フィルムを液体窒素で冷却してから取り出してすぐにフェザー刃でキャストフィルムまたは延伸フィルムの幅方向に切り出して断面を得た。この断面を、光学顕微鏡(オリンパス製BX60)を用いて観察し、5〜20層分の層の厚みを層数で割った値を層の厚みとして求めた。全層数は同様の方法により求めた。上記の方法で層の界面が分かりにくい場合は、以下の方法でサンプルを調製し透過型電子顕微鏡を用いて観察した。まず、サンプルフィルムをエポキシ樹脂中に包埋した。エポキシ樹脂としては、ルアベック812、ルアベックNMA(以上ナカライテスク社製)、DMP30(TAAB社製)を、100:89:3の重量割合で良く混合したものを用いた。サンプルフィルムをエポキシ樹脂中に包埋した後、温度60℃に調整したオーブン中に16時間放置し、エポキシ樹脂を硬化せしめ包埋ブロックを得た。得られた包埋ブロックを、日製産業製ウルトラカットNに取り付け、超薄切片を作成した。まず、ガラスナイフを用いてフィルムの観察に供したい部分の断面がレジン表面に現れるまでトリミングを実施した。次に、ダイアモンドナイフ(住友電工製、スミナイフSK2045)を用いて超薄切片を切りだした。切りだした超薄切片をメッシュ上に回収した後、薄くカーボン蒸着を施した。
電子顕微鏡観察は、日本電子製JEM−2010を用いて、加速電圧200kVの条件で実施した。フィルム断面の電子顕微鏡撮影で得られた像をイメージングプレート(富士写真フイルム製、FDLUR−V)上に記録した。画像より、各層の界面の間隔より最大厚みを有する層の厚みを測定した。
【0086】
(10)酸素透過率(OTR)
酸素透過度測定装置(「OX−TRAN 10/50A」Modern Controls社製)を使用し、湿度65%、温度23℃で測定した。得られた結果は厚み15μmでの値に換算した値を酸素透過率(OTR、cc/m2/day/atm)とした。15μm厚みでの値への換算は、

(15μm厚み換算のOTR)=(実測OTR)×(フィルム厚み、μm)/15(μm)

として求めた。
【0087】
(比較例1)
層状化合物としてモンモリロナイトを均一に分散させたナイロン6樹脂のペレット(NanopolymerComposite Corp.製NF3040、層状化合物添加量:4%(無機分2.6%)を100℃で一晩真空乾燥させたのち、二台の押出機に同一の樹脂を供給し280℃で溶融し、280℃に加熱した16エレメントのスタティックミキサーを用いて積層し、20℃に調整した冷却ロールにシート状に275℃に加熱したTダイから押出し、冷却固化させることで多層の未延伸シートを作製した。二台の押出機の吐出量の比率は1:1とした。なお、未延伸シートの厚みは150μm、断面より各層の厚みは約1μmであり、層数は100層以上であった。またこのシートのTgは35℃、融点が225℃であった。このシートをまず40℃の温度で予熱処理を行い、ついで、延伸温度60℃で変形速度2300%/分で2倍に縦延伸を行い、引続きこのシートを連続的にテンターに導き、予熱温度60℃、延伸温度70℃で2倍に横延伸し、210℃で熱固定および5%の横弛緩処理を施した後に冷却し、幅方向に未延伸の部分を裁断除去して、厚さ30μmの二軸延伸ポリアミド樹脂フィルムを得た。フィルムの幅は40cm、長さは1000mであり紙管に巻き取った。このときのフィルム物性を表2に示す。
【0088】
(実施例1)
比較例1と同様に未延伸シートを得た。次に、シートを表面温度45℃のロールで予熱処理を行い、表面温度80℃のロールで変形速度4500%/分で3.2倍縦延伸を行い、引き続きこのシートを連続的にテンターに導き、予熱温度110℃、延伸温度135℃で3.8倍に横延伸し、210℃で熱固定および5%の横弛緩処理を施した後に冷却し、端部を裁断除去して厚み12μmの二軸延伸ポリアミド樹脂フィルムを得た。フィルムの幅は40cm、長さは1000mであり紙管に巻き取った。このときのフィルム物性を表1に示す。なお、層状化合物の面配向度が比較例1の0.2から0.82に向上し、15μm換算のOTRの値は17ccから12ccまで大幅に低減した。
【0089】
(実施例2)
層状化合物としてモンモリロナイトを均一に分散させたナイロン6樹脂のペレット(NanopolymerComposite Corp.製NF3040、層状化合物添加量:4%(無機分2.6%)を100℃で一晩真空乾燥させた後、ペレットを押出機に供給し、290℃で溶融し、メルトライン中で270℃に樹脂温度を調整後、溶融樹脂を入口部270℃/中央〜出口部285℃に加熱した16エレメントのスタティックミキサーを導入し、同種の樹脂を積層したものを、280℃に加熱したTダイから20℃に調整した冷却ロールにシート状に押出し、冷却固化させることで多層の未延伸シートを作製した。未延伸シートの厚みは200μm、幅方向中央部の各層の厚みは約1μmであった。このシートのTgは40℃であった。このシートをまず45℃の温度で予熱処理を行い、ついで、延伸温度80℃で二段延伸を行った。一段目のMD延伸は1950%/分で2倍、二段目のMD延伸も1950%/分で2倍で行い、引続きこのシートを連続的にテンターに導き、余熱ゾーン110℃、延伸ゾーン130℃で4倍にTD延伸し、210〜215℃で熱固定および5%の横弛緩処理を施した後に冷却し、両縁部を裁断除去して、厚さ15μmの二軸延伸ポリアミド樹脂フィルムを得た。フィルムの幅は40cm、長さは1000mであり紙管に巻き取った。得られたフィルムは耐ヘキカイ性に優れていた。このときのフィルム物性を表1に示す。なお、層状化合物の面配向度が比較例1の0.2から0.89に向上し、15μm換算のOTRの値は17ccから10ccまで大幅に低減した。
【0090】
(実施例3〜5)
表1に記載の条件でサンプルを作製した。またフィルム特性などを表1に示す。なお、層状化合物の面配向度の向上に伴い、15μm換算のOTRの値は12cc前後まで改善した。
【0091】
(比較例2)
層状化合物を均一に分散させたナイロン6樹脂のペレット(Nanopolymer Composite Corp.製NF3040、層状化合物添加量:4%(無機分2.6%)を100℃で一晩真空乾燥させた。次に、単層インフレーション製膜機を用いて製膜した。ペレットを押出機に供給し、290℃で溶融した。ついで、280℃に加熱した環状ダイから押出し、空冷しつつ、吐出量、巻取り速度、チューブ径から面積換算での延伸倍率4倍になるよう調節した。チューブの中央部を裁断して厚さ20μmの二軸延伸ポリアミド樹脂フィルムを得た。このときのフィルム物性を表2に示す。
(比較例3)
ポリエチレンテレフタレート樹脂のペレット(RE553、東洋紡績(株)製、層状化合物としてモンモリロナイトの粉末(Cloisite10A、Southern Clay Products製)をそれぞれ100℃で一晩真空乾燥させた後、重量比85/15でドライブレンドした後、二軸押出機に投入し、295℃で溶融混合した。得られた樹脂のペレットを再度、100℃の真空乾燥機中で24時間乾燥させた。この樹脂を押出機に供給し、295℃で溶融し、285℃の16エレメントのスタティックミキサーを用いて同種の樹脂を積層し、20℃に調整した冷却ロールにシート状に285℃に加熱したTダイから押出し、冷却固化させることで多層の未延伸シートを作製した。未延伸シートの厚みは100μm、幅方向中央部の各層の厚みは約1μmであった。このシートのTgは65℃であった。このシートをまず90℃の温度で予熱処理を行い、ついで、表面温度110℃のロールで変形速度2500%/分で2倍にMD延伸を行い、引続きこのシートを連続的にテンターに導き、余熱ゾーン90℃、延伸ゾーン100℃で2倍にTD延伸し、230℃で熱固定および5%の横弛緩処理を施した後に冷却し、両縁部を裁断除去して、厚さ25μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを得た。フィルムの幅は40cm、長さは1000mであり紙管に巻き取った。このときのフィルム物性を表2に示す。
【0092】
(実施例6)
比較例3において、延伸前のシートの厚み400μm、MD延伸倍率を4倍、TD延伸倍率を4倍とした以外は同様にして二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを得た。フィルムの幅は40cm、長さは1000mであり紙管に巻き取った。このときのフィルム物性を表1に示す。なお、比較例3と比較して、面配向度の向上に伴い、得られたフィルムの動的粘弾性における100℃での貯蔵弾性率は20MPaが50MPaへと約2倍に増加し、耐熱性が向上していた。
【0093】
(比較例4)
ポリプロピレン樹脂のペレット(ノーブレン FS2011、住友化学製)、層状化合物として有機処理モンモリロナイトの粉末(Cloisite30B、Southern Clay Products製)を重量比80/20でドライブレンドした後、二軸押出機に投入し、270℃で溶融混合した。得られた樹脂のペレットを100℃の真空乾燥機中で24時間乾燥させた。この樹脂を押出機に供給し、275℃で溶融し、275℃の16エレメントのスタティックミキサーを用いて同種の樹脂を積層し、20℃に調整した冷却ロールにシート状に275℃に加熱したTダイから押出し、冷却固化させることで多層の未延伸シートを作製した。未延伸シートの厚みは150μm、幅方向中央部の各層の厚みは約1μmであった。このシートをまず50℃の温度で予熱処理を行い、ついで、表面温度130℃のロールで変形速度3000%/分で2倍にMD延伸を行い、引続きこのシートを連続的にテンターに導き、余熱ゾーン160℃、延伸ゾーン165℃で2倍にTD延伸し、155℃で熱固定および5%の横弛緩処理を施した後に冷却し、両縁部を裁断除去して、厚さ25μmの二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルムを得た。フィルムの幅は40cm、長さは1000mであり紙管に巻き取った。このときのフィルム物性を表2に示す。
【0094】
(実施例7)
比較例4において、延伸前のシートの厚み1000μm、MD延伸倍率を6倍、TD延伸倍率を8倍とした以外は同様にして二軸延伸プロピレン樹脂フィルムを得た。フィルムの幅は40cm、長さは1000mであり紙管に巻き取った。このときのフィルム物性を表1に示す。十分に面配向度は高く、例えばガスバリア性や耐熱性などが改善されるものと期待される。
【0095】
(実施例8)
層状化合物としてモンモリロナイトを均一に分散させたMXD6系ポリアミド樹脂のペレット(Nanocor製Imperm 105、層状化合物添加量:7%)を100℃で一晩真空乾燥させた後、ペレットを押出機に供給し、280℃で溶融し、メルトライン中に280℃に加熱した16エレメントのスタティックミキサーを導入し、同種の樹脂を積層したものを、270℃に加熱したTダイから20℃に調整した冷却ロールにシート状に押出し、冷却固化させることで多層の未延伸シートを作製した。未延伸シートの厚みは200μm、幅方向中央部の各層の厚みは約1μmであった。このシートをまず80℃の温度で予熱処理を行い、ついで、延伸温度100℃、変形速度5000%/分、倍率3.5倍で行い、引続きこのシートを連続的にテンターに導き、余熱ゾーン80℃、延伸ゾーン95℃で3.5倍にTD延伸し、180℃で熱固定および3%の横弛緩処
理を施した後に冷却し、両縁部を裁断除去して、厚さ15μmの二軸延伸ポリアミド樹脂フィルムを得た。フィルムの幅は40cm、長さは1000mであり紙管に巻き取った。このときのフィルム物性を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の熱可塑性樹脂延伸多層フィルムは、層状化合物を添加することにより得られるものであり、その層状化合物を面内に高度に配向させることにより、各種の特性を改善する効果を最大限に引き出すことを目的としたもので、外観にも優れ、生産性も高く、工業的に利用価値の高いものである。また、得られるフィルムはバリア性、寸法変化や力学特性に優れることから、従来使用が困難であった用途に対しても使用可能であり、食品、医薬品、雑貨などの包装用材料以外にも、工業用材料としても好適に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状化合物を含む無機物が0.3〜15重量%添加され、全層数が8層以上の積層構造を有し、厚みが3〜200μmである熱可塑性樹脂延伸多層フィルムであって、X線回折法によって測定される無機層状化合物の面配向度が0.4〜1.0の範囲にあることを特徴とする熱可塑性樹脂延伸多層フィルム。
【請求項2】
熱可塑性樹脂を溶融押出する際にスタティックミキサー法が用いられ、スタティックミキサーに導入される直前の樹脂温度が融点〜融点+70℃の範囲にあり、スタティックミキサーに導入される直前の樹脂温度よりもスタティックミキサー後半部のヒーター温度を5℃以上40℃以下の範囲で高くされてなることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂延伸多層フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−155455(P2010−155455A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273049(P2009−273049)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】