説明

層状無機化合物のナノシートを含有するガスバリアシート

【課題】水蒸気ガスバリア性に優れたガスバリアシートを提供すること。
【解決手段】ガスバリア層を有するガスバリアシートであって、該ガスバリア層が、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートと、アミンとを含み、該ガスバリア層において、該ナノシートの面方向が該ガスバリア層の面方向と略平行であるように該ナノシートが積層されている、ガスバリアシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気ガスバリア性に優れた、層状無機化合物のナノシートを含有するガスバリアシート及びその製造方法、並びにガスバリア用塗工液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水蒸気ガスバリア性を有する材料は幅広く産業上で利用されている。利用分野は、例えば、ディスプレイ等の電子材料、太陽電池の基板及びバックシート、レトルト食品等の包装材、ガソリン等のタンク及び輸送用のチューブである。多くの分野では、上記材料としてガラス、金属、若しくはプラスチックが用いられている。その中でも、より高い水蒸気ガスバリア性が求められる用途ではガラス又は金属が多く用いられている。しかしガラスには、柔軟性がなく、割れやすく、かつ重量が重いといった問題がある。また、金属は光を透過しないので中身が見えないといった問題がある。
【0003】
一方、スメクタイト族粘土及び雲母族粘土に代表される粘土鉱物等である層状無機化合物をガスバリアシートに用いることで、ガスバリアシート自体の材料の寸法安定性、耐熱性及びガスバリア性を向上させる検討が行われてきた。
【0004】
ところで、層状無機化合物は、単位構造としてのナノシートと呼ばれる板状の無機結晶と、ナノシートが電荷を有する場合にはその電荷を補償する層間イオンとから成る。層状無機化合物を構成するナノシートの多くは負の永久電荷を有し、その負の永久電荷を補償するために、ナトリウムイオン及びリチウムイオンに代表される無機イオンがナノシートの層の間に層間イオン(特に層間カチオン)として存在し、電気的中性を保持している(例えば非特許文献1を参照)。
【0005】
上記のような粘土鉱物をはじめとする層状無機化合物を樹脂に添加した材料について幅広い研究がなされ、ガスバリアフィルムが一部実用化されている(例えば非特許文献2を参照)。
【0006】
しかしながら、従来の層状無機化合物を樹脂に添加した材料を用いたガスバリアフィルムは、層状無機化合物の疎水性樹脂中及び有機溶媒中での分散性を向上させるために、ナノシートの表面を多量の有機イオンで有機修飾する工程を必要とする。その結果、ナノシート同士が積み重なってできた層の間隔(以下、層間距離という)が有機修飾に用いられる有機イオンによって広がってしまい、ガスバリア性が不十分であるという問題があった。
【0007】
また、ナノシートの長手方向の平均長さが長い(すなわち高アスペクト比の)層状無機化合物を用いると一般にガスバリア性及び寸法安定性が向上するため、天然のモンモリロナイト、又は溶融法若しくはタルク変性法によって合成されたフッ素化雲母若しくはフッ素化ヘクトライトを用いる研究が行われてきた。しかし、それら高アスペクト比の層状無機化合物は、それらのナノシートを有機修飾しても有機溶媒への分散性が向上せず、そのためナノシートの凝集体が発生しやすくなるという問題点があった。
【0008】
また、天然のモンモリロナイトは茶褐色に着色しており、天然物由来の不純物も含まれているため、透明性を低下させる傾向があった。
【0009】
又、層間イオンとしてナトリウムイオン又はリチウムイオンを用いた層状無機化合物は、通常、水膨潤性が高く水を主体とする溶媒にしか高度に分散しないため、水に難溶な疎水性樹脂と複合化することが困難である。そのため、水膨潤性の高い層状無機化合物を用いて得られた材料は、それ自体が水に溶けてしまうか、又は水を吸収して膨潤してしまうため水蒸気ガスバリア性に劣るものが多かった。
【0010】
層間イオンとしてリチウムイオンを用い、加熱して上記材料の親水性を低下させる手法も提案されている。しかしこの手法では、400℃程度の高温での加熱が必要なために加えることのできる構成部材には耐熱性が要求される。そのため、添加剤の種類が限られ、また樹脂フィルム状の支持体上に形成したガスバリアシートは、樹脂フィルムの耐熱性が低いことによってガスバリアシートの親水性を低下させられるほどに加熱することができなかった(例えば特許文献1及び2を参照)。
【0011】
上記のような問題により、従来の層状無機化合物を用いたガスバリア膜の多くは、水蒸気をほとんど含まないドライのガスに対しては高いガスバリア性が発現しても、水蒸気濃度の高い雰囲気下でのガスバリア性及び水蒸気そのもののバリア性に関しては劣るという問題が生じていた(例えば非特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−277078号公報
【特許文献2】特開2008−247719号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】須藤談話会編,「粘土科学への招待−粘土の素顔と魅力−」,三共出版,p.6〜34(2000)
【非特許文献2】中條澄編,「ポリマー系ナノコンポジットの製品開発」,フロンティア出版,p.25〜90(2004)
【非特許文献3】「フレキシブルディスプレイの全貌」,イー・エクスプレス,p.223〜224(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、優れた水蒸気ガスバリア性(すなわち、水蒸気を含むガス及び水蒸気自体に対するバリア性)を有する、層状無機化合物のナノシートを含有するガスバリアシート及びその製造方法、並びに該ガスバリアシートを製造するための塗工液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の粘土鉱物のへき開物であるナノシートをアミンの存在下で用いることによって、水蒸気ガスバリア性に優れるガスバリアシートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の通りである。
[1] ガスバリア層を有するガスバリアシートであって、
該ガスバリア層が、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートと、アミンとを含み、
該ガスバリア層において、該ナノシートの面方向が該ガスバリア層の面方向と略平行であるように該ナノシートが積層されている、ガスバリアシート。
[2] 該ガスバリア層中のアミンの含有量が1〜30質量%である、上記[1]に記載のガスバリアシート。
[3] 該アミンが2つ以上のアミノ基を有する、上記[1]又は[2]に記載のガスバリアシート。
[4] 該層状無機化合物がフッ素化スメクタイトを含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のガスバリアシート。
[5] 該層状無機化合物がフッ素化雲母を含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のガスバリアシート。
[6] 該ナノシートの平均アスペクト比が150以上である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のガスバリアシート。
[7] 該ナノシートの001面の一次回折によって生じたX線回折スペクトルが、1.75<2θ<6.76の回折領域にピークトップを有する、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のガスバリアシート。
[8] 該アミンの少なくとも一部が、カチオン化して該ナノシートとイオン結合した状態で存在する、上記[1]〜[7]のいずれかに記載のガスバリアシート。
[9] 上記[1]〜[8]のいずれかに記載のガスバリアシートを製造する方法であって、
(1)スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートが水に分散してなる水分散液をイオン交換樹脂及び半透膜の少なくともいずれかで処理して、分散媒置換用水分散液を得る、分散媒置換用水分散液調製工程と、
(2)該分散媒置換用水分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒で置換することによって、又は該分散媒置換用水分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る、有機溶媒分散液調製工程と、
(3)該有機溶媒分散液にアミンを添加することによって、ナノシート及びアミンを含む塗工液を形成する、アミン添加工程と、
(4)該塗工液を基板上に塗布した後、塗工液中の分散媒を除去することによって、該ナノシートと該アミンとを含むガスバリア層を基板上に形成する、製膜工程と、
を上記記載の順で行うことを含むことにより、ガスバリア層を有するガスバリアシートを形成するガスバリアシートの製造方法。
[10] 上記[1]〜[8]のいずれかに記載のガスバリアシートを製造するために用いるガスバリア用塗工液の製造方法であって、
(1)スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートが水に分散してなる水分散液をイオン交換樹脂及び半透膜の少なくともいずれかで処理して、分散媒置換用水分散液を得る、分散媒置換用水分散液調製工程と、
(2)該分散媒置換用水分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒で置換することによって、又は該分散媒置換用水分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る、有機溶媒分散液調製工程と、
(3)該有機溶媒分散液にアミンを添加することによって、ナノシート及びアミンを含む塗工液を形成する、アミン添加工程と、
を上記記載の順で行うことを含む、ガスバリア用塗工液の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い水蒸気ガスバリア性を有するガスバリアシート、及び該ガスバリアシートを製造するために使用できる塗工液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で形成したガスバリアシートのX線回折スペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で形成したガスバリアシートの断面TEM写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<ガスバリアシート>
本発明は、ガスバリア層を有するガスバリアシートであって、該ガスバリア層が、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートと、アミンとを含み、該ガスバリア層において、該ナノシートの面方向が該ガスバリア層の面方向と略平行であるように該ナノシートが積層されている、ガスバリアシートを提供する。ナノシートを含む本発明のガスバリアシートは、上記のような構成により、優れた水蒸気ガスバリア性を有することができる。なお、本明細書において用いる用語「ガスバリア層」は、水蒸気ガスバリア性(すなわち、水蒸気を含むガス及び水蒸気自体に対するバリア性)を発現する層を指し、「ガスバリアシート」は、該ガスバリア層を少なくとも1層有するシートを指す。すなわち、ガスバリアシートは、ガスバリア層のみから成るもの、及びガスバリア層と他の層とから成るものの両者を包含する。
【0019】
[ナノシート]
本発明において用いる、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物(以下、単に層状無機化合物ということもある)のへき開物であるナノシートについて説明する。スメクタイト族及び雲母族は粘土鉱物に属する。粘土鉱物は層の形により1:1タイプと2:1タイプとに分類され、1:1タイプには例えばカオリナイト族が分類され、2:1タイプには例えばパイロフィライト族、スメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族、脆雲母族、及び緑泥石族が分類される。これら粘土鉱物は層状無機化合物の構造を有し、最小基本単位としてのナノシートと、層間イオンとから成っている。
【0020】
なお用語「ナノシート」に関し、本明細書では、特記がない限り、層状無機化合物が単位層(すなわち1層)〜数十層(特に10層)までへき開されたものを包含してナノシートと称する。ナノシートは、できる限り単位層に近くなるようにへき開されていることが好ましい。ナノシートは、例えば後述するような方法により、層状無機化合物を水分散液中又は有機溶媒分散液中で単位層(すなわち1層)〜数十層まで、好ましくはできる限り単位層に近くなるように、へき開(剥離)することにより形成できる。スメクタイト族、バーミキュライト族、及び雲母族は、有機溶媒中でへき開(剥離)しやすいという特性を有する。本発明においては、ガスバリアシートの透明性の観点から、上記の中でも特に、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上を用いる。なお、分散液中で、層状無機化合物がへき開物であるナノシートとして存在していることの確認は、小角X線散乱測定によって行うことができる。本発明において、上記のスメクタイト族には、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイトといった粘土鉱物が含まれており、中でもヘクトライトが好ましい。
【0021】
有機溶媒中でへき開(剥離)しやすいという観点で、層状無機化合物の陽イオン交換容量としては10meq/100g以上が好ましく、40meq/100g以上がさらに好ましい。また、200meq/100g以下が好ましく、150meq/100g以下がさらに好ましい。なお、上記陽イオン交換容量は、Schollenberger法を基本とする、酢酸アンモニウムと塩化ナトリウム又は塩化カリウムとを用いた公知の手法によって求めることができる。
【0022】
本発明において用いるナノシートを形成するための層状無機化合物としては、天然粘土及び合成粘土のいずれも使用できる。天然粘土は土壌中の鉄イオンを含んでいる場合が一般的であり、褐色に着色していることがある。本発明のガスバリアシートに高い透明性、特に無着色という特徴を付与するためには合成粘土の利用が好ましい。本発明において用いるスメクタイト族及び雲母族の鉱物は合成のしやすさという観点からも有利である。
【0023】
水蒸気ガスバリア性の観点からは、平均アスペクト比が大きいナノシートが好ましい。後述の方法で算出される、ナノシートの平均アスペクト比は、好ましくは40以上、より好ましくは150以上、さらに好ましくは500以上、最も好ましくは1000以上である。
【0024】
ナノシートの平均アスペクト比が大きいほどガスバリア性を向上させる効果が高いが、該平均アスペクト比が大きすぎるとへき開・分散性が低下しやすくなり、また増粘によってナノシートの分散液の固形分濃度を上げることが困難になる傾向がある。上記の観点から、ナノシートの平均アスペクト比としては通常は30000以下が好ましく、10000以下がより好ましい。
【0025】
ここで、本発明で用いられるナノシートの平均アスペクト比Zの算出方法を、平均粒子径Xとの関係にて説明する。
【0026】
平均アスペクト比Zは、本発明で用いられるナノシートの平均粒子径をXとしたときに、ナノシートの単位厚みdとZ=X/dなる関係を示す値と定義する。ナノシートが所望の分散媒に分散している状態であれば、分散液の動的光散乱法による測定から平均粒子径Xを求める。また、平坦な基板上(例えば雲母鉱物のへき開面)に希釈分散液を塗布して溶媒を乾燥してAFM(原子間力顕微鏡)にて測長することで平均粒子径Xを求めることもできる。ここでナノシートの単位厚みdとは、層状無機化合物の単位層の厚みと単位層間の距離との和である。前述のように、本明細書におけるナノシートとは、層状無機化合物が単位層(すなわち1層)〜数十層までへき開されたものを包含する。よって、層状無機化合物が2層以上までへき開されている場合のナノシートの平均アスペクト比は、層状無機化合物の単位層当たりに換算された平均アスペクト比を意味することになる。
【0027】
上記単位厚みdは、ナノシートのみの粉末に対して、又は測定に際して基材の影響が十分排除できる基材(例えば平滑な樹脂基板又はシリコンウェハ等)上へ、ナノシートのみを固形分として含有する分散液を滴下した後、十分乾燥させた後に得られた薄膜に対して、X線回折法等の公知の測定方法により得られる値である。ナノシートの単位厚みdは、スメクタイト族及び雲母族の粘土鉱物においては、通常、0.93nm〜1.04nm程度であることが知られている。また、層間イオンをナトリウムイオンからリチウムイオンに交換した後、600℃程度で加熱して水分を除去したスメクタイト族の粘土鉱物では、ナノシート同士が理論的な限界まで密接するようになり、その際に上記測定方法によって得られる単位厚みdは0.95nmである。よってこれらの粘土鉱物(一般に2:1型構造をとるスメクタイト族に属する粘土鉱物及び雲母族の粘土鉱物)では、ナノシートの単位厚みdは0.95nmであると考えてよい。本明細書では、特に断りのない限り、2:1型構造をとるスメクタイト族粘土鉱物及び雲母族の粘土鉱物におけるナノシートの単位厚みdは0.95nmとして取り扱う。
【0028】
ナノシートの平均粒子径(すなわち、長手方向の平均長さ)は、水蒸気ガスバリア性の観点から、好ましくは38nm以上、より好ましくは142.5nm以上、特に好ましくは475nm以上であり、へき開及び分散の容易性の観点から、好ましくは95000nm以下、より好ましくは28500nm以下、特に好ましくは9500nm以下である。ナノシートの平均粒子径は、前述のように、動的光散乱法又は平坦な基板上に分散液を塗布してAFMにて測長する方法によって測定できる。
【0029】
層状無機化合物は、透明性が高く、かつ合成しやすいという観点から、該スメクタイト族としてフッ素化スメクタイトを含むことが好ましく、また、該雲母族としてフッ素化雲母を含むことが好ましい。
【0030】
また、上記のような大きい平均アスペクト比を有し、へき開しやすく、かつ透明性が高い点で好ましい層状無機化合物としては、具体的には、溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライト(例えば、NHTゾルB2若しくは分級NHT(NHT分級ゾル)、トピー工業株式会社製)、溶融法によって合成されたフッ素化雲母(例えば、NTS−5、トピー工業株式会社製)、高純度のタルクを珪フッ化ナトリウム又は珪フッ化リチウムとともに熱処理して変性させて得た膨潤性雲母(例えば、ME−100若しくはMEB−3、コープケミカル株式会社製)等が最も好適である。これらの層状無機化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
なお、層状無機化合物(すなわちナノシート及び層間イオン)の組成に関しては、公知の文献に記載されている組成式で表される。従って、本明細書で記載する組成式は理想的な組成を示しているものであって、本発明で用いる各種の層状無機化合物の組成は、文献における組成式と厳密に一致している必要はない。また、層状無機化合物は不純物を含む粘土鉱物に由来してもよい。
【0032】
[アミン]
本発明において用いる、アミンについて説明する。本発明においては、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートとアミンとを組合せて用いる。アミンは、典型的には、ナノシートが有機溶媒中に分散している有機溶媒分散液中にアミンを添加し、その後有機溶媒を除去することによって、ナノシートと組合される。これによりアミンの少なくとも一部がナノシートに吸着する。アミンがナノシートに吸着することによりナノシート表面を疎水化できるため、本発明のガスバリアシートは優れた水蒸気ガスバリア性を発現する。また、本発明の好ましい態様においては、アミンの少なくとも一部がイオン化(特にカチオン化)してナノシートとイオン結合した状態で存在することによって、ナノシートとより強く吸着する。この場合、水蒸気ガスバリア性は特に良好である。アミンがカチオン化してナノシートとイオン結合している状態の存在は、例えば、硝酸等でナノシートを浸漬処理し、得られた処理液中の陽イオン種を定量してアミンイオンの存在を検出する方法により確認される。
【0033】
アミンとしては、ナノシートを良好に疎水化できるという観点から有機アミンが好ましい。また、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンのいずれも使用でき、そしてアリールアミン、複素環式アミン、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン等のいずれも使用できる。好適なアミンとしては、例えばメチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、p−トルイジン、p−フルオロアニリン、p−クロロアニリン、p−ブロモアニリン、p−ヨードアニリン、p−アリシジン、p−ニトロアニリン、ピロール、ピロシジン、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート、エポキシ−イミダゾールアダクト、ピリジン、ピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジエチレントリアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレンアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、AMINE248、N−アミノエチルピペラジン、ラミロンC−260、AralgitHY−964、メンセンジアミン、イソフオロンジアミン、S Cure211、212、ワンダミンHM、1.3BAC、m−キシレンジアミン、ショーアミンX、アミンブラック、ショーアミンブラック、ショーアミンN、1001、1010、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアザビシクロウンデセン、等が挙げられる。これらのアミンは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
ナノシートの表面には電荷が存在するため、極性の高い官能基はナノシートへの吸着性が良好である。この観点から、本発明において用いるアミンは、極性の高い官能基を有していることが好ましい。極性の高い基としては、例えばカルボキシル基、ケトン基、水酸基、シアノ基、アミド基及びエポキシ基が好ましい。
【0035】
2つ以上のアミノ基を有するアミンは、ナノシート中の同種又は異種の2つ以上のアニオンに吸着することができ、高い水蒸気ガスバリア性を発現することができる点で特に好ましい。2つ以上のアミノ基を有するアミンとしては、1,2−フェニレンジアミン、cis−1,2−シクロヘキサンジアミン、trans−1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、N−ベンジルエチレンジアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、メタキシレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−ヘクタデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、等が挙げられる。これらのアミンは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
アミンのカチオン化は、例えばナノシートの層間イオンとして存在しているカチオンがアミンと反応することによって生じることができる。例えば、層状無機化合物のナノシート間の層間カチオンがアンモニウムイオンであるとき、ナノシートが有機溶媒に分散してなる有機溶媒分散液中のアンモニウムイオンからプロトンを奪って、アミンを良好にカチオン化できる点で、アミンの塩基解離定数pKbがアンモニアのpKbである4.74よりも小さいことが好ましい。ただし、水素イオン型のカチオンを層間カチオンとして含む層状無機化合物のナノシートが分散した有機溶媒分散液を用いる場合には、水素イオン型のカチオンはいずれのアミンとも反応して、アミンをカチオン化する反応が進行するので、アミンの好ましい塩基解離定数は上記の限りではない。
【0037】
[ガスバリア層及びガスバリアシートの特性]
本発明のガスバリアシートは、ガスバリア層単独でもよいし、例えば後述する方法で基板上にガスバリア層が製膜により積層されてなる、基板とガスバリア層とからなるものでもよいし、基板上に積層したガスバリア層を剥離し、これを新たな支持体上に積層して形成された、支持体とガスバリア層とからなるガスバリアシートでもよい。またガスバリアシートは、ガスバリア層と基板及び/又は支持体とに加えて、後に詳しく述べるような、用途に応じた、無機材料からなるガスバリア膜、樹脂材料等からなる補強材、傷等を防ぐための保護層、表面を平滑化するための平滑化層、アンカーコート層等の層を更に有してもよい。
【0038】
ガスバリアシートの構成部材となる場合の基板又は支持体の材質は特に限定されないが、ガスバリアシートに透明性が要求される場合には、基板又は支持体が可視光の透過性を有することが好ましい。可視光の透過性を有する基板又は支持体として、樹脂材料の中では、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ナイロン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、トリアセチルセルロール樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、シクロオレフィン系樹脂、エチレンビニルアセテート樹脂等を挙げることができる。耐熱性の点からはポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂及びフッ素樹脂が好適であり、透明性と耐熱性及び耐溶剤性とのバランスからはポリエチレンナフタレート樹脂が好適であり、コストの点からはポリエチレンテレフタレート樹脂が好適である。ガスバリア層を基板上又は支持体上に固定(付着)させたまま用いる場合には、膜状材料(典型的には透明材料)であるガスバリアシートにおいてガスバリア層を基板又は支持体から剥離しにくくするために、基板又は支持体の表面にアンカーコート層を設けてもよい。また、基板又は支持体から剥離したガスバリア層のみを本発明のガスバリアシートとして用いる場合には、基板又は支持体の表面を易剥離処理しておくとよい。
【0039】
ガスバリア層中のアミンの含有量(ガスバリア層が添加剤を含有しない場合には、ナノシートとアミンとの合計質量に占めるアミンの割合)が50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは50質量%未満、さらに好ましくは30質量%以下である。この場合、ナノシートのカチオン交換容量にもよるが、ナノシートの層間距離が5.0nm以上に広がることがないと考えられる点で有利である。なお、ナノシートとアミンとの合計質量に占めるナノシートの割合は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%超、さらに好ましくは70質量%以上である。一方、ガスバリア層中のアミンの含有量(ガスバリア層が添加剤を含有しない場合には、ナノシートとアミンとの合計質量に占めるナノシートの割合)は、アミンがナノシートに良好に吸着する点で、1質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは3質量%以上である。
【0040】
(ナノシートの面配向の確認)
ガスバリア層におけるナノシートの配向積層状態を確認する手法としては、X線回折装置によるX線回折スペクトルの分析、及びTEM(透過型電子顕微鏡)による積層状態の直接観察が有効である。従来、X線回折測定によってガラス基板等の支持体上に形成された膜の配向積層状態、粘土を含むナノコンポジット材料におけるナノシートの分散及び剥離の状態等の様々な研究・評価が行われており、一般的には層状無機化合物の001面の一次回折によってX線回折スペクトルに生じるピークの相対強度、数、回折角度2θで表されるピークの位置及びその半価幅等によって、ナノシートの積層状態及び層間距離の分布を知ることができる。
【0041】
本発明に係るガスバリアシートは、ガスバリア層において、ナノシートの面方向がガスバリア層の面方向と略平行であるようにナノシートが積層されていることによって、優れた水蒸気ガスバリア性を有する。ガスバリア層においてナノシートの面方向が上記のように配向していることは、該ガスバリア層のX線回折が、ナノシートを構成する鉱物結晶の001面の一次回折によるシャープなピークを生じ、かつ、その他のピークも00n面(nは整数)の一次回折を示すピークしか現れないことから、ガスバリア層中のナノシートの鉱物結晶の001面がガスバリア層の面方向と略平行に並んでいることが確認できる。ナノシートを構成する鉱物結晶の001面の一次回折ピークの半値幅は、ナノシートが規則的に積層している点で、2θで2度以下が好ましく、2θで1度以下がより好ましく、2θで0.5度以下がさらに好ましい。ナノシートの上記のような面配向は、ナノシートに該アミンが規則的に吸着することによって達成される。
【0042】
(ナノシートに吸着しているアミンの存在の確認)
ナノシートに吸着しているアミンの存在は、ガスバリア層のX線回折スペクトルのピークの出方が下記の特徴を有することによって確認される。
【0043】
添加剤を加えていない分散媒(水を主とするもの)中にナノシートが分散してなる水分散液から分散媒を除去して得たナノシートの配向積層体に対し、一般的な銅のKα線である1.54Åの波長を用い、気温25℃相対湿度50%でX線回折測定を実施すると、水分散液から得たナノシートの配向積層体の場合、2θで6.76〜7.18度(層間距離に換算して1.23〜1.30nm)の領域に、001面の一次回折によるシャープなピークを生じる。従って、分散媒が十分除去された、添加剤(例えばシクロオレフィンコポリマー)を含有するナノシート積層体に対して同条件でX線回折スペクトルを測定した場合に、2θで6.76度以上(層間距離に換算して1.30nm以下)の回折領域にのみ001面の一次回折によるピークトップが存在する積層体においては、ナノシートにアミンが吸着していないと考えられる。
【0044】
これに対して、例えば後述のように有機溶媒分散液に適切なアミンを加えた後に分散媒を除去することによって形成できる、アミンがナノシートの層間に吸着した構造を少なくとも一部に有する材料では、通常、2θで6.76度未満(層間距離に換算して1.30nm超過)の回折領域において、001面の一次回折によるピークトップを生じることになる。該ピークトップの位置は、アミンの充填量(すなわち、ガスバリア層中のアミンの含有量、又はナノシートとアミンとの合計質量に対するアミンの含有割合)、アミンの分子サイズ、ナノシートとアミンとの相互作用等の様々な要因によって大きく変わるが、本発明において、上記範囲(すなわち2θで6.76度未満)に001面の一次回折によるピークトップがある場合、アミンの少なくとも一部がナノシートの層間に吸着した構造を有するガスバリアシートであると判断する。
【0045】
ただし、アミンのナノシートに対する割合が多くなり、かつインターカレーションが進んであまりにもナノシート層間距離が拡大しすぎると、水蒸気ガスバリア性も含めて、一般にガスバリア性が低下する。従って、ガスバリア性の観点からは、001面の一次回折によるピークトップの位置は、2θで1.75度以上(層間距離に換算して5.0nm以下)が好ましく、1.75度超(層間距離に換算して5.0nm未満)がより好ましく、2.21度以上(層間距離に換算して4.0nm以下)がより好ましく、2.94度以上(層間距離に換算して3.0nm以下)がさらに好ましく、4.41度以上(層間距離に換算して2.0nm以下)がさらに好ましく、5.51度以上(層間距離に換算して1.6nm以下)が特に好ましい。
【0046】
本発明の特に好ましい態様においては、ナノシートの001面の一次回折によって生じたX線回折スペクトルが、1.75<2θ<6.76の回折領域にピークトップを有する。
【0047】
なお、ナノシートの面配向積層状態及びガスバリア層におけるナノシートの平均層間距離が前記所定の範囲にあるか否かは、TEMによる画像観察で層間距離を測長することでも確認することができる。
【0048】
ガスバリア層中のアミンの存在は透過法のIRにて確認することができる。アミンが存在する場合、波数が3500〜3200cm-1にアミノ基に由来するピークが確認できる。また、ガスバリア層中のアミンの含有量は熱重量分析により定量することができる。ガスバリア層中にアミンが存在する場合は概ね300℃から800℃の間にアミンの分解による重量減少が観測される。よって、300〜800℃の間での加熱時の発生ガス(アミンの分解物である)を質量分析することによって、アミンの含有量を測定できる。
【0049】
(ガスバリアシートの気体ガス透過量及び水蒸気透過量)
ガスバリアシートの気体ガス透過量は、代表的な酸素ガスに関し、膜厚が1μmの場合に換算した透過係数として、0.1cc・μm/(m2・day・atm)未満であることが好ましく、より好ましくは0.01cc・μm/(m2・day・atm)未満であり、さらに好ましくは0.001cc・μm/(m2・day・atm)未満であり、特に好ましくは0.0001cc・μm/(m2・day・atm)未満である。上記のガス透過量は、乾燥した環境下のみならず、水蒸気を多く含む環境下(例えば、40℃で相対湿度90%の環境下)においても同等であることが好ましい。なお上記ガス透過量は、JIS K7126に準拠して測定される値である。
【0050】
ガスバリアシートの水蒸気透過量は、同様にJIS K7126に準拠した、酸素雰囲気下での40℃かつ相対湿度90%の環境において、膜厚が1μmの場合に換算した透過係数として、0.1g/(m2・day)未満であることが好ましく、より好ましくは0.05g/(m2・day)未満であり、さらに好ましくは0.01g/(m2・day)未満であり、さらに好ましくは0.002g/(m2・day)未満であり、さらに好ましくは0.0001g/(m2・day)未満であり、特に好ましくは0.00001g/(m2・day)未満である。
【0051】
ガスバリア層の膜厚は、好ましくは0.001〜1000μm、より好ましくは0.01〜100μm、さらに好ましくは0.1〜10μmであることができる。該膜厚は、例えば触針式表面形状測定器によって測定できる。
【0052】
<ガスバリアシートの製造方法、及びガスバリア用塗工液の製造方法>
本発明はまた、上述した本発明のガスバリアシートを製造する方法であって、(1)スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートが水に分散してなる水分散液をイオン交換樹脂及び半透膜の少なくともいずれかで処理して、分散媒置換用水分散液を得る、分散媒置換用水分散液調製工程と、(2)該分散媒置換用水分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒で置換することによって、又は該分散媒置換用水分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る、有機溶媒分散液調製工程と、(3)該有機溶媒分散液にアミンを添加することによって、ナノシート及びアミンを含む塗工液を形成する、アミン添加工程と、(4)該塗工液を基板上に塗布した後、塗工液中の分散媒を除去することによって、該ナノシートと該アミンとを含むガスバリア層を基板上に形成する、製膜工程と、を上記記載の順で行うことを含むことにより、ガスバリアとを有するガスバリアシートを形成する、ガスバリアシートの製造方法を提供する。
【0053】
本発明はまた、上述した本発明のガスバリアシートを製造するために用いるガスバリア用塗工液の製造方法であって、(1)スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートが水に分散してなる水分散液をイオン交換樹脂及び半透膜の少なくともいずれかで処理して、分散媒置換用水分散液を得る、分散媒置換用水分散液調製工程と、(2)該分散媒置換用水分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒で置換することによって、又は該分散媒置換用水分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る、有機溶媒分散液調製工程と、(3)該有機溶媒分散液にアミンを添加することによって、ナノシート及びアミンを含む塗工液を形成する、アミン添加工程と、を上記記載の順で行うことを含む、ガスバリア用塗工液の製造方法を提供する。また、上記工程の(2)及び(3)に代わり、又は上記工程に追加して、上記(1)の工程で得た分散媒置換用水分散液と、有機溶媒とアミンとを混合したものとを混合する工程を含むガスバリア用塗工液の製造方法であってもよい。
【0054】
以下、本発明のガスバリアシートの製造方法及びガスバリア用塗工液の製造方法の好適な態様の例について説明する。
【0055】
[水分散液調製工程]
本工程では、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートが水に分散してなる水分散液をイオン交換樹脂及び半透膜の少なくともいずれかで処理して、交換性イオンを有する層状無機化合物のナノシートが水に分散されてなる水分散液から余剰イオン(すなわち電荷補償に寄与していないイオン)が除去された、分散媒置換用水分散液を得る。スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートは、前述の方法により形成できる。なお本明細書において、水分散液とは、分散媒が水を主とする(すなわち分散媒全体の50質量%超100質量%以下が水である)分散液と定義する。水分散液における分散媒としては、水に加え、例えばアルコールのうち1種以上を使用してもよい。
【0056】
分散媒と層状無機化合物のナノシートとを単に混合するだけでは、水分散液として必要な高い分散状態が得られない場合がある。すなわち、ナノシートの平均アスペクト比が大きくなることによりナノシートの層面同士が相互作用する面積が大きくなるほど、そして層状無機化合物が有する電荷密度が大きくなるほど、そして電荷がナノシートのより表面に存在するほど、ナノシートの層面同士の結合力が通常大きくなるために、層状無機化合物の単位層であるナノシートまでのへき開及び分散が困難になる。そのような分散困難な状態では、水分散液をイオン交換樹脂及び半透膜の少なくともいずれかで処理する際に、余剰イオンの除去率及び層間イオンの交換率が低下する原因になる場合がある。
【0057】
水分散液としての所望の高い分散状態を得るためには、公知の微分散装置、例えば、振とう装置、超音波分散、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、ホモミキサー、ウルトラミキサー、ディスパーミキサー、貫通型高圧分散装置、衝突型高圧分散装置、多孔型高圧分散装置、だまとり型高圧分散装置、(衝突+貫通)型高圧分散装置、超高圧ホモジナイザー等によって層状無機化合物に機械的な力を加えて該層状無機化合物の剥離・へき開をより促進することが、層状無機化合物の分散を進め、単位層であるナノシートまでへき開した分散状態に近づける意味で好ましい。また、層状無機化合物に機械的な力を加えることは、層状無機化合物の液晶転移が促進される傾向がある点でも好ましい。
【0058】
中でも、微分散装置として、超音波分散、ホモミキサー、ウルトラミキサー、ディスパーミキサー、貫通型高圧分散装置、衝突型高圧分散装置、多孔型高圧分散装置、だまとり型高圧分散装置、(衝突+貫通)型高圧分散装置、超高圧ホモジナイザー等を用いることがより好ましい。
【0059】
高圧分散装置としては、例えば、Microfluidics Corporation社製超高圧ホモジナイザー(商品名:マイクロフルイダイザー)及びナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザー等が挙げられる。分散処理の好ましい圧力としては、高圧、特に、100kgf/cm2以上の圧力が好ましい。ただし、高圧下での分散処理により層状無機化合物が割れて微細化し、平均アスペクト比が小さくなる結果、本発明のガスバリアシート及び本発明を適用して形成される材料の水蒸気ガスバリア性が低下する場合があり、該材料を膜状にした場合には成膜特性及び機械的強度の低下が起こる場合もある。よって、100kgf/cm2以下の圧力下で層状無機化合物を分散処理した方が好ましい場合もある。
【0060】
なお、高圧又は超音波により分散させることで層状無機化合物が割れて微細化する特徴を逆に利用して、平均アスペクト比が大きすぎるためにへき開・分散しにくい層状無機化合物を、高圧分散処理又は超音波処理等することで、分散しやすく、かつ水蒸気ガスバリア性の低下が顕著とならない平均アスペクト比まで層状無機化合物を割りながら分散させてもよい。特に、合成されたフッ素化雲母は平均アスペクト比が大きく、かつ層間の結合力が強い場合が多いため、よりへき開を進めるために上記のような微細化処理を実施することは好適である。
【0061】
水分散液として好適な高い分散状態を得るためのもう1つの方法としては、高い分散状態にある層状無機化合物を分離・抽出して用いる方法を挙げることができる。すなわち、分散程度の低い成分を、遠心分離法のように大きな重力加速度を引加する分離方法等で分離し、分散程度の高い成分を抽出して用いることが好ましい。この方法は、液晶転移を起こす層状無機化合物において液晶相を分離・抽出できる場合があり、かつ、層状無機化合物に天然由来の不純物(例えば酸化ケイ素、炭酸カルシウム等)又は合成時に生成したガラス質のような不純物が含まれている場合にそれらを沈降除去でき、より水蒸気ガスバリア性の高い材料を得られる点で好ましい。
【0062】
層状無機化合物のへき開と安定した分散のために、分散促進添加剤として、比較的低分子量のポリアクリル酸ナトリウム若しくはポリアクリル酸、又はリン酸といった公知のアニオン系に代表される分散剤を極僅か、具体的には層状無機化合物の質量100質量%に対して0.5質量%未満、好ましくは0.15質量%程度、水分散液中に添加することは本発明において好適である。
【0063】
なお本発明においては、上述の水分散液の作製に代え、水中にある程度分散した状態で市販されている層状無機化合物の分散液を用いてもよい。この場合、前述のような微分散処理、分離・抽出処理、添加剤の添加等をさらに行ってもよい。
【0064】
次いで、上述のようにして作製した又は市販の水分散液をイオン交換樹脂及び半透膜の少なくともいずれかで処理する。ガスバリアシート製造用の塗工液を製造する際に、ナノシートの分散性を向上させるためには、イオン交換及び/又は半透膜による処理が重要な工程である。
【0065】
従来技術に関して前述したように、通常、ナノシートの多くは負の永久電荷を有し、その負の永久電荷を補償するために、ナトリウムイオン及びリチウムイオンに代表される無機イオンがナノシートの層の間に層間イオンとして存在し、電気的中性を保持していることが知られている。しかしながら、本発明者の検討によれば、ナノシートの層間には、電気的中性を保持するのに必要な量を超える無機イオンが存在するとともに、その他にも、無機の陽イオンと陰イオンとが対イオンとなって存在している事が判明した。本明細書では、上記する電気的中性を保持するのに必要な量を超える無機イオン並びに陽イオンと陰イオンとの対イオン(すなわち電荷補償に寄与していないイオン)を合わせて「余剰イオン」と称する。本発明者は、これら余剰イオンの存在によってナノシートの分散性が妨げられることを見出し、余剰イオンの低減のために、以下に説明するイオン交換及び/又は半透膜による処理が重要であることを見出したのである。
【0066】
余剰イオンは、通常のイオン交換の手法でイオン交換が可能な交換性イオンである。そこで、本発明における分散媒置換用水分散液調製工程では、ナノシート(通常は交換性イオンを有する)が水に分散されてなる水分散液をイオン交換樹脂及び/又は半透膜で処理することによって該水分散液中の余剰イオンを減少させることができる。
【0067】
イオン交換に際しては、上述の水分散液が含有する交換性イオンのうち、層状無機化合物の電荷(すなわちナノシートの電荷)の補償に寄与する量を超えて存在する分のイオン、すなわち不純物としてみなせるイオンである余剰イオン(陽イオン、及びその対となって存在する陰イオンの両者)を、イオン交換樹脂及び/又は半透膜を用いてできる限り完全に近い程度で除去する。
【0068】
余剰イオンを除去するイオン交換処理を行うのみでもナノシートの分散性は向上するが、本発明では、固体状態でナノシートの電荷を補償するために存在している層間イオン自体を無機イオンであるアンモニウムイオンに交換することで、分散性が更に向上することを見出した。
【0069】
このようにして得られる分散媒置換用水分散液を用いることにより、分散媒が水を主とする水分散液、及び分散媒が有機溶媒を主とする分散液のいずれにおいてもナノシートを分散媒中に良好に分散させることができる。すなわち、本発明によれば、従来の有機イオンによる有機修飾及びシリル化処理等を行うことなく、分散媒に対するナノシートの分散安定性を大幅に向上させることが可能になる。
【0070】
前述の余剰イオンは、層状無機化合物の種類、産地、精製方法、並びに、層状無機化合物が合成物の場合には合成原料及び合成方法、等によって異なるが、多く見られるものとして、陽イオンとしてはナトリウムイオン、リチウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、アルミニウムイオン、アンモニウムイオン、鉄イオン等が例示され、陰イオンとしては硫酸イオン、水酸化物イオン、フッ素イオン、塩素イオン、硝酸イオン等が例示される。特に硫酸イオン(SO42-)を有する硫酸塩は、天然の粘土鉱物にも合成された粘土鉱物にも含まれていることが多い。また、ナノシートの八面体層の水酸基がフッ素化されてなる合成フッ素化ヘクトライト及び合成フッ素化雲母では、通常、合成時に用いたフッ素原料がフッ素イオンとして残留している。
【0071】
それら余剰イオンは、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法によってその多くを除去することができる。余剰イオンが余剰陰イオンと余剰陽イオンとからなる場合、陽イオン交換樹脂を用いて余剰の陽イオンをアンモニウムイオン及び水素イオンの少なくともいずれかに交換し、且つ、陰イオン交換樹脂を用いて余剰の陰イオンを水酸化物イオンに交換することが好ましい。この場合、前述の陽イオン交換に伴って発生した余剰のアンモニウムイオン又は水素イオンと前述の陰イオン交換によって生じた余剰の水酸化物イオンとが反応し、水、又は容易に除去可能なアンモニアが生成するため、分散液中のイオン濃度を増大させることなく、水分散液から実質的に余剰イオンが除去されることになる。
【0072】
イオン交換法によって余剰イオンを除去する場合には、カラムにイオン交換樹脂を詰めて分散液を流す方法に代表される、公知のイオン交換樹脂を用いる方法が好適である。この場合、陽イオンと陰イオンとの交換の順序としては、先に陰イオン交換、その後陽イオン交換を行うことが通常好ましい。特に、平均アスペクト比が150以上の、フッ素化ヘクトライト及びフッ素化雲母(特に合成フッ素化ヘクトライト及び合成フッ素化雲母)においては、陰イオンを先に交換した後、陽イオンを交換することが極めて好適である。この順番を逆又は実質的に同時に行うと、カラムが詰まってしまったり、経時とともに分散液のゲル化が進行し、又はゲル化速度が早まる場合がある。
【0073】
余剰イオンは半透膜を用いて水分散液を処理することによっても除去することができる。好適な所定値以上のサイズ及びアスペクト比を有するナノシートの粒子は透過せず、小さいサイズである余剰イオン種は透過するような平均細孔径サイズを有する半透膜、例えば限外濾過膜、精密濾過膜又は逆浸透膜を用いて公知の膜分離操作を行うことで、余剰イオンを分散媒とともに分離することができる。この場合、通常余剰イオンとともに分散媒も一部分離されていくため、そのままではナノシートが分散している水分散液の固形分濃度が上昇し粘性が増大して、余剰イオンの分離が進まなくなる場合がある。その場合、水分散液に適宜分散媒を追加して粘性の増大を抑えることが好ましい。
【0074】
本明細書における余剰イオンとは、前述のように陽イオンと陰イオンとを包含する意味を有するが、上記の操作により得られる分散媒置換用水分散液中の好ましい余剰イオンの量としては、分散媒置換用水分散液中のナノシートの含有割合をk質量%としたとき、陰イオン種の残留量の合計が、0.0002×k mol/L以下となるような量を例示でき、より好ましくは0.00016×k mol/L以下となるような量であり、さらに好ましくは0.0001×k mol/L以下となるような量であり、特に好ましくは0.00006×k mol/L以下となるような量である。その中でも、特に硫酸イオンの含有割合が、0.00001×k mol/L以下であることが好ましく、より好ましくは0.000005×k mol/L以下であって、特に好ましくは0.000002×k mol/L以下である。なお、余剰イオンの下限値については、少なければ少ないほど好ましく、0kmol/Lであることが最も好ましい。
【0075】
上記陽イオン種及び陰イオン種のそれぞれのイオン量並びにこれらの合計は、以下の方法で測定される各イオンの量から合計を算出することにより得られる。分散液中のイオン量は、陽イオンに関しては、TSKgel Super IC−Cationカラム(サイズ4.6mmI.D.×15cm)によって、0.50mMol/Lのヒスチジンと2.5mMolの硝酸との混合溶液を溶離液として用い、流速1.0mL/分、注入量30μLの条件での測定により、陰イオンに関しては、TSKgel Super IC−APカラム(サイズ4.6mmI.D.×15cm)によって、1.7mMolのNaHCO3溶液と1.8mMolのNa2CO3溶液との混合溶液を溶離液として用い、流速0.8mL/分、注入量30μLの条件での測定により得られる値である。
【0076】
層状無機化合物のナノシートが有する交換性イオンのうち、固体状態においてナノシートの層の間に存在する層間イオンに対応する主たるイオン種としては、アンモニウムイオンが好適に選択される。
【0077】
主たる層間イオンが水素イオンである場合、層間イオンがアンモニウムイオンである場合と比べて、層状無機化合物自体の分解及びそれに伴う凝集の問題が生じやすい傾向があり、適用できる層状無機化合物の種類が、アンモニウムイオンの場合と比べると制限される。
【0078】
一方、層間イオンがアンモニウムイオンである場合、水分散液の状態でも有機溶媒分散液の状態でも良好な分散安定性が得られ、分散液の固形分濃度を向上させやすく、かつ有機溶媒分散液中における水の割合を低下させやすいため疎水性の強い添加剤とも混合しやすい。さらに、添加剤がナノシート間にインターカレーションしやすい傾向がある。上記理由から、分散媒置換用水分散液が調製された時点でのナノシートの層間イオンがアンモニウムイオンであることは最も好適である。
【0079】
前述の方法により、層間イオンをアンモニウムイオンに交換することは、イオン交換によって、余剰イオンを除去すると同時に、層間イオンがアンモニウムイオンに交換された層状無機化合物のナノシートを得ることができるため、本発明において最も好適な方法である。つまり、水分散液中の陽イオン種をアンモニウムイオンに、陰イオン種を水酸化物イオンにそれぞれ交換するのみで、余剰イオンの除去と層間イオンのアンモニウムイオンへの交換とが同時に達せられる。
【0080】
層間イオンをアンモニウムイオンに交換する場合、イオン交換後の水分散液を加熱又は減圧処理することで、水分散液中に若干残留している余剰のアンモニウムイオンと水酸化物イオンとが反応して水とアンモニアになる反応がより進行し、水分散液中の余剰イオン由来のアンモニウムイオンと水酸化物イオンとを水分散液中からより良好に除去できるので好適である。
【0081】
層間イオンのアンモニウムイオンへの交換率としては、交換前のイオン種の50質量%以上がアンモニウムイオンに交換されていることが好ましく、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上、特に好ましくは99質量%以上がアンモニウムイオンに交換される。該交換率は、できるだけ100質量%に近いことが望まれる。
【0082】
なお上記交換率は、交換前後の分散液について、前述した方法で分散液中のイオン量を測定し、該測定値から算出できる。
【0083】
なお、前記の、イオン交換率、イオンの含有割合、及び全交換性イオンに占める層間イオンの割合は、層間イオンが陽イオンの場合、Schollenberger法を基本とする、酢酸アンモニウムと塩化ナトリウム又は塩化カリウムとを用いた公知の手法によって陽イオン交換容量を求め、かつ分散液をイオンクロマトグラフィー法で測定してイオン種の濃度を定量することによって求めることができる。陽イオン交換容量(CEC)に対応する量の電荷は基本的には(ナノシート端部の電荷の影響は複雑なので考慮しないとすれば)層間イオンの量に対応付けられ、それを超える量のイオンが存在すれば、それらイオンは基本的には余剰イオンに対応付けられる。
【0084】
イオンクロマトグラフィー法で測定に問題がある場合(例えばナノシートの分解等が生じている場合)、層状無機化合物が元来有していた交換性イオンの量とイオン交換後の該交換性イオンの量とを測定し、交換前後の値からイオン交換による特定イオンの減少量を算出し、そこからアンモニウムイオンへの交換率を算出してもよい。例えば市販の多くの合成粘土鉱物においては大部分の交換性陽イオンがナトリウムイオンである。その場合、ナトリウムイオンの量を交換前後で測定して減少量を算出し、そこからアンモニウムイオンへの交換率を算出してもよい。無論、ナトリウムイオン以外にも無視できない量の他のイオン種を含む場合には、それらも定量した上で交換率を算出する。
【0085】
このようにして、水分散液中の余剰イオン濃度を十分に低減し、さらに固体状態においてナノシートの層の間に存在する主たる層間イオンをアンモニウムイオンに交換する場合、水分散液のみでなく、有機溶媒分散液においても、層状無機化合物のナノシートが高度に分散するという効果が得られる。従って、従来のように有機カチオンのような有機イオン又はシランによる処理で層状無機化合物の一部を変性(修飾)する処理等をせずとも、又はある種の親水性の高分子若しくは金属アルコキシド等の加水分解物等を加えなくとも、有機溶媒分散液中でナノシートが凝集及びゲル化等を起こさず高度に分散するという効果が得られる。上記手法によれば、そのような高度な分散が、平均アスペクト比150以上、さらには1000を超える高アスペクト比の層状無機化合物のナノシートに対しても同様に発現する。
【0086】
[有機溶媒分散液調製工程]
本工程においては、上記で得た分散媒置換用水分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒で置換して、又は該分散媒置換用水分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る。有機溶媒分散液調製工程によれば、上述した余剰イオン減少及び層間イオンのアンモニウムイオンへの交換工程の後の分散媒置換用水分散液中の水を有機溶媒に置換することによって、有機溶媒分散液、好ましくは、主たる層間イオンがアンモニウムイオンへ交換された層状無機化合物のナノシートが有機溶媒に分散されてなる有機溶媒分散液、を形成することができる。なお本明細書において、有機溶媒分散液とは、分散媒が有機溶媒を含む(分散媒全体の10質量%超100質量%以下が有機溶媒である)分散液と定義する。よって、本工程においては、上記有機溶媒分散液が得られる程度に水を有機溶媒に置換すればよく、該置換は、分散媒置換用水分散液中の水の全てを有機溶媒に置換することに限定されるものではない。本発明においては、本工程を経ることにより、水を主な分散媒とする従来の分散液の場合と異なり、水に難溶な疎水性の添加剤を用いることができる。例えば、疎水性の添加剤を混合する前に、余剰イオン減少のためのイオン交換又は半透膜処理を経た水分散液における分散媒を、そのような疎水性の添加剤が溶解できる程度に有機溶媒を主とするものに置換することによって、疎水性の添加剤を均一に混合できる。より水に難溶な疎水性の添加物を用いることができる点で、分散媒全体の35質量%超100質量%以下が有機溶媒であることが好ましく、分散媒全体の40質量%超100質量%以下が有機溶媒であることがより好ましく、分散媒全体の50質量%超100質量%以下が有機溶媒であることが最も好ましい。
【0087】
本工程の効果的な手法としては、分散媒置換用水分散液中の、水を主体とする分散媒に、水と親和性の高い(具体的には水と相溶性の高い)有機溶媒を混合する方法を挙げることができる。
【0088】
水と相溶性の高い有機溶媒としては、極性の高い有機溶媒を挙げることができ、例えば、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−(メトキシエトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、ジアセトンアルコール、フリフリルアルコール、アセト酢酸エチル、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、アセトン、アセトニルアセトン、アセトニトリル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、酢酸、蟻酸、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N,N,N−テトラメチル尿素、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、カルバミド酸メチル、γブチロラクトン、トリアセチン、ギ酸イソプロピル、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、ピリジン等を挙げることができる。そのなかでも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、ピリジン及びN−メチルピロリドンは好適な溶媒である。
【0089】
上記の有機溶媒は1種類のみを分散媒置換用水分散液と混合してもよく、異なる複数の種類を分散媒置換用水分散液と混合してもよい。異なる複数の種類の有機溶媒を分散媒置換用水分散液と混合する場合には、分散媒置換用水分散液に順次有機溶媒を添加してもよいし、予め所定の割合に混合した有機溶媒を分散媒置換用水分散液に添加してもよいし、その両方の方法を併用してもよい。また、攪拌しながら、又は前述の微分散処理を行いながら、有機溶媒を分散媒置換用水分散液に添加してもよい。
【0090】
本発明において好適な分散媒置換方法は、水を主な分散媒とする分散媒置換用水分散液(分散液中の水の量を減少させておいてもよい)と有機溶媒とを混合後、得られる混合物である分散液中の水の割合を減少させて、分散液中の分散媒に占める有機溶媒の割合を増加させる方法である。この方法により、分散媒に占める水の割合を大きく減少させ、分散媒の主な(すなわち50質量%超を占める)部分、特に分散媒の大部分を有機溶媒とすることができる。分散媒置換用水分散液と有機溶媒とを混合した後に水の割合を減少させる方法としては、例えば該水分散液と有機溶媒との混合物である分散液を常圧又は減圧下で加熱して、水成分を選択的に蒸発させる方法が挙げられる。この方法は、混合する有機溶媒の沸点が水の沸点よりも高い場合に好ましく採用できる。
【0091】
また、モレキュラーシーブ、シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト、ソーダ石灰、硫酸マグネシウム、ある種のイオン交換樹脂等の水吸着剤を用いて分散媒中の水の量を減少させてもよい。また、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等のシラン化合物、又はマグネシウムエチラート等を用いて加水分解反応によって水を除去してもよい。また、上記のような方法を複数併用してもよい。例えば、減圧下で加熱することによって大部分の水を除去した後、モレキュラーシーブ等によってさらに水を除去してもよい。又は、水と有機溶媒との分子サイズの違いに対応するような平均細孔径サイズを有する半透膜、例えば限外濾過膜、精密濾過膜若しくは逆浸透膜を用いた濾過法によって水を除去してもよい。
【0092】
また、好適な有機溶媒分散液の調製方法として、比較的高濃度な水分散液を調製し、そこに有機溶媒を添加するという方法でも分散媒の大部分を有機溶媒とすることができる。この方法は、分散媒置換用水分散液と混合する有機溶媒の沸点が低く、水の割合を減少させる工程において逆に有機溶媒の割合が減少してしまう場合、及び、混合する有機溶媒の沸点が水の沸点よりも低い場合(例えば、ピリジン、アセトニトリル等を用いる場合)に、より好ましく採用できる。
【0093】
本発明において、分散媒置換用水分散液と有機溶媒との混合物において分散媒中に占める水の割合を減少させる場合、該混合物の分散媒中に占める水の割合は分散媒全体の35質量%以下まで減少させることが好ましく、25質量%以下まで減少させることがより好ましい。特に、調製された有機溶媒分散液に、水に難溶な疎水性の添加剤を加える際には、さらに水の割合を減少させることが好ましい。このような場合、添加剤の種類に依存するが、水の割合は15質量%以下まで減少させることが一般に好ましく、10質量%以下まで減少させることがさらに好ましい。一方、層状無機化合物のナノシートの層間に束縛された束縛水まで減少させてしまうと、ナノシートの有機溶媒への分散が進まない場合がある。よって、該混合物の分散媒中に占める水の割合は分散媒全体の0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。
【0094】
本発明において、前述した余剰イオンの減少及び主たる層間イオンのアンモニウムイオンへの交換を行う態様によれば、このように分散媒における水の含有割合を十分に減らしても、従来の有機イオン又はシラン処理による有機修飾なしに層状無機化合物が分散媒に高度に分散できるという効果が得られる。
【0095】
なお、本工程によって得られる、有機溶媒を主たる分散媒とする分散液中でのナノシートの分散安定性は、余剰イオンの残留量によって大きく変化する。本発明においては、イオン交換樹脂及び/又は半透膜による処理によって余剰イオンを十分に除去するため、有機溶媒中においてより良好なナノシート分散状態が得られ、また有機溶媒分散液の固形分濃度を向上させることができる。
【0096】
以上のようにして有機溶媒分散液を得ることができる。この有機溶媒分散液は、層状無機化合物のナノシートの主たる層間イオンがアンモニウムイオンに交換された有機溶媒分散液であることが好ましい。
【0097】
[アミン添加工程]
本工程においては、上記で得た有機溶媒分散液にアミンを添加することによって、ナノシート及びアミンを含む塗工液を形成する。これにより、アミンがナノシートに吸着している分散液を得ることができる。有機溶媒分散液を撹拌又は微分散処理に供しながらアミンを添加してもよい。アミンは有機溶媒で希釈して加えてもよい。使用できるアミンの具体的態様は[アミン]の項で前述した通りである。
【0098】
有機溶媒分散液に添加するアミン量は層状無機化合物の陽イオン交換容量から計算される陽イオン量(例えば層間イオンがアンモニウムイオンである場合はアンモニウムイオン量)と同モル量以上であることが好ましい。
【0099】
また、塗工液中の、ナノシートとアミンとの合計質量に占めるアミンの割合は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは50質量%未満、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは30質量%未満である。
【0100】
ただし、下記の製膜工程における乾燥温度以下に沸点を持つか、又は該乾燥温度以下で蒸気圧を有するアミンを選択した場合は、余剰のアミンが乾燥工程で揮発し、必要量のみアミンが吸着したガスバリア層が得られる場合があるので好適である。
【0101】
例えば以上の工程により、ガスバリア用塗工液を製造できる。上記のガスバリア用塗工液を用い、さらに例えば以下のような工程に従うことにより、ガスバリアシートを製造できる。
【0102】
[製膜工程]
本工程においては、上記で得た塗工液を基板上に塗布した後、塗工液中の分散媒を除去することによって、該ナノシートと該アミンとを含むガスバリア層を基板上に形成する。ガスバリア層を形成するために用いる基板の好ましい材質は前述した通りである。分散媒は乾燥により除去する。ガスバリア層を得るために乾燥に供する塗工液の固形分濃度としては、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましく、5質量%以上が特に好ましい。上記固形分濃度であれば分散媒除去のための乾燥時間がより短縮され、又は乾燥温度を下げることができる。塗工液の固形分濃度は、混合、脱泡等が可能な濃度であればよく、塗工液が非常に粘度の高いペースト状であってもよい。塗工液から分散媒を除去する方法としては、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥、不活性ガス雰囲気下放置、及び加熱蒸発法が好ましい。又は、これらの方法のうち、複数を組み合わせてもよい。
【0103】
なお、前述の攪拌又は微分散処理を行うこと等によって塗工液中に気体成分が混入している場合には、真空脱泡、超音波照射、又は遠心分離等の処理によって気体成分を脱気することが好ましい。それらの処理は前述の攪拌又は微分散処理の後に行ってもよいし、それらの処理中に同時に行ってもよい。塗工液に混入している気体成分由来の気泡は、該塗工液を用いて形成されるガスバリア層中に空隙を生じさせ、水蒸気ガスバリア性及び透明性を低下させる要因になるため、塗工液からの分散媒除去前に十分な脱気をすることは重要である。
【0104】
分散媒除去の具体例としては、例えば強制送風式オーブン等において、30℃以上250℃以下、好ましくは40℃以上200℃以下、より好ましくは50℃以上150℃以下の温度条件下で、10秒以上24時間以下、好ましくは1分以上10時間以下、より好ましくは3分以上6時間以下、さらに好ましくは5分以上3時間以下で分散媒を乾燥させる方法が挙げられる。上記により、所望のガスバリア層を形成できる。しかし最適な乾燥時間は、塗工液を用いて形成される材料の形状、塗工液の固形分濃度、用いる分散媒、基板の耐熱温度、及び塗工液の液量等に大きく依存する。
【0105】
このときの残有機溶媒量はIRにて定量化が可能である。N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド基を有する有機溶媒の場合は、IRのATR法で測定した999cm-1におけるピーク(ナノシートのSi−Oの固有振動に帰属される)強度に対する、1646cm-1におけるピーク(アミド基の固有振動に帰属される)強度の比が、0.07以下であることが好ましく、0.04以下であることがより好ましく、0.03以下であることがさらに好ましい。アミド基を有する有機溶媒のなかでも、特に有機溶媒がN−メチルピロリドンである場合は、同999cm-1におけるピーク強度に対する、同1646cm-1におけるピーク強度の比が、0.06以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましく、0.03以下であることがさらに好ましい。有機溶媒がラクトン、例えばγ−ブチロラクトンである場合は、IRのATR法で測定した同999cm-1におけるピーク強度に対する、γ−ブチロラクトンのラクトンに固有の1760cm-1におけるピーク(ラクトンのC=O伸縮振動に帰属される)強度の比が、0.02以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましく、0.005以下であることがさらに好ましい。
【0106】
有機溶媒の種類によってはIRによって残有機溶媒量を定量化することが難しい場合がある。このような場合はEGA(Evolve gas analysis)分析と熱重量分析(TGA)とを組み合わせることで、残有機溶媒量の定量が可能である。
【0107】
また、ガスバリア層中のアミンがカチオン化し、ナノシートの電荷を補償するイオンがアミンのカチオンになることで、水分散液中でナノシートの電荷を補償していた層間イオンが減少している場合がある。この水分散液中でナノシートの電荷を補償していた層間イオンが50meq/100g以下(meq/100gは、層状無機化合物100g中に存在する層間イオンのミリモル等量を示す単位)であることが好ましく、30meq/100g以下がより好ましく、10meq/100g以下がさらに好ましい。
【0108】
上記(1)水分散液調製工程、(2)有機溶媒分散液調製工程、(3)アミン添加工程、(4)製膜工程の4つの工程を上記記載の順で行うか、又は上記工程の(2)及び(3)に代わるものとして、または上記工程に追加して、(1)の工程で得た分散媒置換用水分散液と、有機溶媒とアミンとを混合したものとを混合する工程を行うことにより、基板上にガスバリア層を形成できる。基板とガスバリア層とからなるガスバリアシートを製造する場合には他の工程は必須ではないが、他の層を更に有するガスバリアシートを製造する場合には、上記(1)〜(4)の工程の少なくともいずれかの前又は後に、他の層を形成するための工程を任意に追加できる。また、上記基板からガスバリア層を剥離した後、別の支持体上に該ガスバリア層を再度積層する工程等を更に含むこともできる。上記手順により、ガスバリア層を有するガスバリアシートを製造できる。
【0109】
なお、本発明においては、有機溶媒分散液が得られるまでの任意のタイミングの分散液中に、後述するような添加剤、並びに他の任意の追加の添加剤等を混合してもよい。いずれの場合も、製膜工程における加熱乾燥等による分散媒の除去により、これらの添加剤を含むガスバリア層を形成できる。
【0110】
有機溶媒分散液には、水分が多いと析出等によって容易に均一に混合できないような、水に難溶な疎水性の有機物をも添加剤として均一に組み合わせることができる。
【0111】
上記添加剤は、本発明における任意の工程の分散液の分散媒に均一に溶解又は微分散するものであれば特に限定されず、公知の任意のものを用いることができる。上記添加剤は、それ自体で、又は適当な溶媒に溶解若しくは分散させてなる溶液若しくは分散液の状態で、本発明における任意の工程の分散液と組み合わせることができる。
【0112】
水に難溶な疎水性の添加剤を用いることで、ガスバリア層の疎水性を向上させることができ、水蒸気ガスバリア性が向上する。添加剤としては、低分子化合物、モノマー、オリゴマー、高分子化合物及び高分子前駆体等を挙げることができ、例えば、ポリビニルアルコール樹脂及びその誘導体、変性ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、酸化澱粉、エーテル化澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、セルロース繊維、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム等、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸、ポリアミノ酸、多価フェノール、安息香酸類化合物、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂(非晶性フッ素樹脂等)、アルキド樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂(芳香族ポリエステル樹脂及び脂肪族ポリエステル樹脂)、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂(透明ポリイミド樹脂等)、スチレン樹脂、アクリル樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、ケイ素樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができる。これら樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、上記の各樹脂に対応するモノマーをナノシート層間で重合させることで、ナノシート層間に該樹脂を存在させることもできる。この場合、添加剤のみが集まってできる塊が生じにくく、添加剤をナノシート層間に存在させやすい点で好ましい。
【0113】
本発明に係るガスバリアシートは水蒸気ガスバリア性に優れるため、様々な分野に用いることが可能である。いくつかの具体的な例を以下に説明する。
【0114】
本発明に係るガスバリアシートにおいて、層間イオンがアンモニウムイオンへ交換されている場合、ナトリウムをほとんど含まないガスバリア層が得られる。このようなガスバリア層は、アルカリ金属を嫌う用途、例えば電子デバイスの基板及び封止膜、梱包材、並びに光学フィルム等の用途に好適であると考えられる。
【0115】
また、本発明のガスバリアシートを電子デバイス用途に用いる場合、膜又はフィルム状に形成したガスバリアシートを、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ及び電子ペーパーの基板並びにガスバリア膜に用いることが好適である。有機EL素子を照明用途に用いることも好適である。本発明において形成されるガスバリア層は、層状無機化合物及び添加剤の種類及び割合を選ぶことで、高い水蒸気ガスバリア性のみならず、高耐熱性、低線膨張性、高透明性、高柔軟性等の、ディスプレイ用途に必須な要求物性を複数同時に満たすことが可能である。よって、例えばバックプレーンとなるアクティブマトリックス駆動回路を、膜又はフィルム状に形成したガスバリアシートに高温下で直接形成することが可能となる。
【0116】
膜又はフィルム状のガスバリアシートに駆動回路を直接形成できることによって、ガラス基板等の耐熱性を有する支持体上に前記駆動回路を形成した後にこれを樹脂フィルムに転写する等の従来方法を用いる必要がなくなり、ディスプレイの製造工程を少なくすることができる。これにより、次世代のフレキシブルディスプレイ用材料の製造に好適であるばかりでなく、重量及びコストの面でも優位であるという利点が得られる。また、ガラス基板を用いてディスプレイ用材料をバッチ生産する方式と異なり、層状無機化合物のナノシートを含むガスバリア層を有するガスバリアシートを、膜状に形成されたロール状のフィルムとして形成し、これをそのまま用いてディスプレイ用材料を連続生産するロールトゥロール生産も可能となる。
【0117】
なお、それら駆動回路は従来のシリコンをベースとした半導体技術によって構成してもよいが、ペンタセン及びチオフェン類に代表される有機半導体又はアモルファス無機半導体を用いてもよい。その際には回路形成にフォトリソグラフィー法を用いてもよいし、インクジェット法及びナノインプリント法等の印刷法を用いてもよい。
【0118】
なお、有機ELディスプレイ及び電子ペーパーのバックプレーン、すなわち光を取り出す方向と反対方向の用途においては、透明性は一般に不要であるが、本発明を適用して形成される、層状無機化合物のナノシートを含むガスバリアシートが透明である場合、ディスプレイの視認側及び有機EL照明の光取り出し側にガスバリアシートを用いることが好適である。
【0119】
なお、本発明のガスバリアシートを適用可能な液晶ディスプレイの方式としては、TN、STN、VA、IPS等の種類が挙げられるが、複屈折制御剤を用いることで膜厚方向の複屈折を自由に調整することができるため、上記方式は特に限定されるものではない。厚み及び複屈折制御剤によって複屈折を調整することで、該ガスバリアシートを位相差板として用いることも可能である。
【0120】
また、有機ELディスプレイ及び有機EL照明においても、トップエミッション型及びボトムエミッション型の双方に本発明のガスバリアシートを適用することができる。さらには、該ガスバリアシートは、電子ペーパーとしても、例えば電気泳動駆動式、電子粉流体方式、液晶を用いた方式等で特に限定されず用いることができる。
【0121】
上記のディスプレイを駆動する回路としても、パッシブマトリクス方式及びアクティブマトリクス方式の双方に該ガスバリアシートを用いることができる。利用形態としては、回路を形成するための基板として、並びに外部からの酸素及び水蒸気を遮断するためのガスバリア層として、のいずれも可能である。
【0122】
その他には、本発明のガスバリアシートを絶縁性とすることができる特徴を生かして、フィルム状のガスバリアシートを電気回路のフレキシブル基板として広範囲に用いることもできる。該ガスバリアシートを電気回路の基板として利用する場合、電子部品を実装する際の位置合わせに画像処理を用いる事が多く、その場合には基板に透明性が要求されるため、透明性を有するフィルム状のガスバリアシートは好適である。特に、基板上の導体部分を導電性インクの塗布又は印刷で形成したフレキシブルプリント基板においては、フィルム状のガスバリアシートの耐熱性と低い線膨張係数とを生かして導電性インクをより高温で焼成することが可能なため、塗布又は印刷で形成した導体部分の抵抗率をより低くすることが可能である。このようなフレキシブル基板及びフレキシブルプリント基板の好適な用途としては、RFIDタグの基板、銅張積層板等が挙げられる。
【0123】
さらに、本発明のガスバリアシートは、光を通過させる必要があり、かつガスバリア性が要求される太陽電池にも適用することができる。太陽電池用の基板、保護層及びバックシートには高いガスバリア性も求められるため、膜状に加工したガスバリアシートは太陽電池用途にも好適である。適用できる太陽電池の種類としては、結晶シリコン系、薄膜シリコン系、CIGS系のような化合物系、色素増感太陽電池、及び有機薄膜太陽電池等が挙げられ、特に高いガスバリア性を要求する有機薄膜太陽電池には好適である。
【0124】
さらに該ガスバリアシートは、CD−R及びDVD等の記録媒体の情報記録部位を酸素等から保護する保護膜としても有望である。
【0125】
さらに、食品、医薬品又は電子部品等を梱包する包装材又は容器に該ガスバリアシートを用いることで、透明で中身が見えるように形成できるという該ガスバリアシートの特徴を生かし、かつ包装材及び容器のガスバリア性を向上させることができる。
【0126】
そのほかにも、本発明のガスバリアシートは、分散液である塗工液を塗工することによって形成できるため、酸素及び水蒸気から物体の表面を保護するコーティング材として用いることが可能である。このとき、分散液を塗工(コーティング)する表面の形は平坦である必要はなく、3次元的に凸凹があってもよい。このようなコーティングによって、物体の表面及び内部が酸化等によって劣化していくことを抑制することができる。例えば、太陽電池のバックシートの代わりに、分散液を直接太陽電池表面に塗工してガスバリア性を付与することも可能である。
【0127】
また、上記のコーティング特性を用いて、物体の貼り合わせ部に分散液を塗工することで、貼り合わせ面からのガスの進入を抑制することができる。
【0128】
また、本発明のガスバリアシートは、前述のような電子デバイスの用途以外に、液体及び気体の搬送用のチューブ及び貯蔵用のタンク等にコーティングして用いることも好適である。この場合、分散液の塗工により、該チューブ及びタンクの内外面に立体的にガスバリアシートをコーティングできる。また、ガスバリア性が求められる、燃料電池の水素タンク及び輸送用ホース、並びにガソリンのホース及びタンクの構成材料自体としてもガスバリアシートが好適に用いられる。該ガスバリアシートはまた、高いガスバリア性と金属に比較しての熱伝導率の低さとを生かして真空断熱材の真空保持材に用いることも好適である。
【0129】
上記の各用途においても、ナノシートの平均アスペクト比が150以上であるフッ素化ヘクトライト若しくはフッ素化雲母(特に合成フッ素化ヘクトライト若しくは合成フッ素化雲母)を用いたガスバリアシートが特に好適である。
【0130】
なお、前述したディスプレイ、フレキシブル基板、フレキシブルプリント基板、太陽電池、有機半導体又はアモルファス無機半導体を有する電子デバイス等、梱包材、容器、チューブ及びタンク、並びに表面コーティング等に対して、本発明のフィルム状又は膜状のガスバリアシートを適用する際には、ガスバリアシートをそのまま適用してもよいし、必要に応じて別の機能を有する形成体(例えば主として無機材料からなるガスバリア膜、樹脂材料等からなる補強材、傷等を防ぐための保護層、表面を平滑化するための平滑化層)等を付与してもよい。特に、ガスバリア性をさらに高めるために、公知の無機薄膜、上記フィルム状又は膜状のガスバリアシート、及びそれらを保護する主として樹脂材料からなる膜を積層させることは有効である。
【0131】
例えば、任意の樹脂フィルム上に膜状に形成された、本発明のガスバリアシートの上に、さらに、樹脂又は無機材料からなる、例えば膜状の材料を1層又は任意の組み合わせの2層以上の多層で積層してもよい。さらに、積層された該多層の膜を樹脂フィルムから剥がして用いてもよい。例えば、樹脂フィルム−アンカーコート層−{本発明における膜状のガスバリアシート−樹脂又は無機材料からなる膜−}平滑化層−保護層、のような組み合わせが好適である。括弧で示された膜状のガスバリアシートと樹脂又は無機材料からなる膜との積層部分は、1層ずつでも、任意の組み合わせで多層積層されていても良い。また、樹脂又は無機材料からなる膜、アンカーコート層、平滑化層及び保護層はあってもなくても良く、それぞれの層は1層でも複数の層でもよい。
【0132】
上記無機材料からなる膜を積層する場合、該膜としては、酸化珪素、アルミニウム、亜鉛スズ、並びに鉛の酸化物、炭化物、窒化物、酸炭化物、酸窒化物、炭化窒化物及び酸炭化窒化物のうちの1種又は2種以上の混合物等からなる、ガスバリア材料として公知の任意の薄膜層が好適である。
【0133】
さらに、特開2007−63118号公報に開示があるような水膨潤性(吸湿性)を有する膜を、水蒸気ガスバリア性の高い本発明における膜状のガスバリアシートと積層することは、特開2007−22075号公報に開示される水蒸気ガスバリア性を含むガスバリア性を改善するために好適である。水膨潤性を有する膜としては特に限定されるものではないが、層間イオンとして無機イオンを主として有する層状無機化合物を含有する膜である場合、本発明による効果がより顕著である。本発明の膜状のガスバリアシートと該水膨潤性を有する膜とを組み合わせたガスバリア膜は、水蒸気が多い環境でも高いガスバリア性を保持することが可能であり、かつ、ガスバリア膜によって封止した製品、例えば特開2007−42616号公報に開示があるような有機EL素子等から発生した水分も吸着することができる。上記ガスバリア膜は、酸素及び水蒸気に対する非常に高いバリア特性が要求される有機EL素子、特に、着色している乾燥剤を用いることができないトップエミッション型の有機EL素子、乾燥剤を入れることが困難な完全固体型の有機EL素子等に特に好適である。
【0134】
また、本発明に係るガスバリア用塗工液は、耐熱性が要求される材料及び疎水性が要求される材料に簡単に塗付できるため、これらの材料の表面にガスバリアシートを形成するための表面コート剤として好適である。
【実施例】
【0135】
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例及び比較例における分散液及びガスバリアシートの物性は、下記の方法で評価した。
【0136】
(1)分散液中のイオンの存在割合
イオンクロマトグラフィー分析により評価した。陽イオンに関しては、TSKgel Super IC−Cationカラム(サイズ4.6mmI.D.×15cm)によって、0.50mMol/Lのヒスチジンと2.5mMolの硝酸との混合溶液を溶離液として用い、流速1.0mL/分、注入量30μLの条件にて測定して定量した。陰イオンに関しては、TSKgel Super IC−APカラム(サイズ4.6mmI.D.×15cm)によって、1.7mMolのNaHCO3溶液と1.8mMolのNa2CO3溶液との混合溶液を溶離液として用い、流速0.8mL/分、注入量30μLの条件にて測定して定量した。
【0137】
(2)分散液中のナノシートの平均粒子径
動的光散乱法によって平均粒子径を決定した。装置としては、大塚電子株式会社製のゼータ電位・粒径測定システムELSZ−2を用い、液温25℃にて約0.005質量%から0.5質量%の範囲で分散液の固形分濃度を変化させ、その範囲内で濃度に対するゼータ電位の依存性が認められない範囲を決定した。さらにその範囲内で散乱強度の高い濃度を任意に決定し、その濃度で3回測定を実施して、キュムラント解析結果に基づく平均粒子径の平均値をその分散液中のナノシートの平均粒子径とした。
【0138】
(3)ガスバリアシートのガスバリア層の膜厚
触針式表面形状測定器(DEKTAK 6M((株)アルバック社製))を用い、スキャン長さ2000μm、時間13秒、スタイラスフォース3mg、スタイラス径12.5μmにて測定した。
【0139】
(4)ガスバリアシートのX線回折分析(XRD)
株式会社リガクのX線回折装置「RINT−2500」によって行った。X線波長は、Cu/Kαの1.54056Åを用いた。測定環境は気温25℃相対湿度50%とした。
【0140】
(5)ガスバリアシートのIR測定
VarianのIR測定装置「FTS−575C/UMA500」によって行った。測定方法は透過法で行った。試料板はGe結晶を用い、積算回数は100回とした。測定環境は気温25℃相対湿度50%とした。
【0141】
(6)ガスバリア層中のアミン含有量測定
島津株式会社の熱重量分析装置「TGA−50」によって行った。各実施例において作製したガスバリアシートからスパチュラでかきとる方法で分離したガスバリア層5mgを白金セルに乗せ、窒素ガスを50ml/minで流しながら、10℃/minで30℃から1000℃まで昇温させた。300℃から800℃の間での重量減少をアミンの含有量とした。
【0142】
(7)ガスバリア層中の残有機溶媒量測定
JascoのIR測定装置「FT/IR−460plus」によって行った。測定方法はATR法で行った。1回反射測定装置「ATR PRO400−S」を用い、プリズムはGe結晶を用い、積算回数は16回とした。測定環境は気温25℃相対湿度50%とした。
【0143】
(8)ガスバリアシートの断面TEM観察
得られたガスバリアシートの断面をFIBにより加工して薄片を作製し、日立株式会社のTEM「HF−2000」にて200kVで観察を行った。
【0144】
(9)ガスバリアシートの水蒸気ガスバリア性
差圧法にて、JIS K7126に準拠したGTRテック株式会社製のガス・水蒸気透過率測定装置GTR−30XAASを用い、透過面積50.24cm2、差圧1気圧、酸素ガスをキャリアガスとして40℃相対湿度90%において、特に断りのないものに関しては5分積算(透過水蒸気の蓄積管への蓄積時間)にて測定した。
【0145】
[実施例1]
層間イオンが主としてナトリウムイオンである、溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライトの分散液(商品名:分級NHT、トピー工業株式会社製)を用いた。純水で希釈して固形分濃度を2質量%とした分級NHTの分散液400gを、遠心分離装置himac CR20(株式会社日立製作所製)を用い、ローター番号13、500ml遠沈管を用い、8000rpm10分の条件で遠心分離を行って、沈降物を分離除去した。また上澄みを260g捨てて得られた水分散液の重量は90gであり、その固形分濃度は2.4質量%であった。また、分散液中の固形分に対するナトリウムイオンの存在割合は4.2質量%、フッ素イオンが同0.28質量%、硫酸イオンが同0.11質量%であった。動的散乱法によって測定された固形分の平均粒子径は3000nmであった。
【0146】
1Nの水酸化カリウムによって十分に水酸化物イオン型に調整した後に純水で十分に洗浄した陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA400、オルガノ株式会社製)40mlをガラス製のカラムに詰めて、1.2質量%に蒸留水で希釈した200mlの前記水分散液を1秒毎に約1滴の速度で上記の陰イオン交換樹脂の詰まったカラムに通し、水酸化物イオンへの陰イオン交換を行った。1Nの塩化アンモニウム水溶液によって十分にアンモニウムイオン型に調整した陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR120B、オルガノ株式会社製)約40mlをガラス製のカラムに詰めて、前述の陰イオン交換を行った分散液を、1秒毎に約1滴の速度で上記の陽イオン交換樹脂の詰まったカラムに通し、アンモニウムイオンへの陽イオン交換を行った。得られた分散液をさらに同じ遠心分離装置によって8000rpm10分の条件で遠心分離を行い、わずかに発生した沈降物を分離除去した。得られたイオン交換後の分散液の固形分濃度は1.07質量%であった。この分散液中の固形分に対するナトリウムイオンの存在割合は0.04質量%、アンモニウムイオンが同3.2質量%、フッ素イオンが同0.014質量%、硫酸イオンが同0.002質量%であった。すなわち、前記のイオン交換によってナトリウムイオンの99.0%が除去されたことになる。
【0147】
このイオン交換後の分散液(分散媒置換用水分散液として)50gとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)30gとを混合し、ロータリーエバポレーターにて約30〜120hPa,55℃の条件にて減圧加熱して分散媒を除去し、DMFを主たる分散媒とする、固形分濃度が約2.8質量%の透明な分散液(有機溶媒分散液として)約19gを得た。ガスクロマトグラフィーによって分析された該分散液中の水の含有量は約4質量%であった。
【0148】
この有機溶媒分散液を1滴取り出した後十分にDMFで希釈し、新鮮な雲母のへき開面に塗布して、AFMにてナノシートの厚みを測定したところ、平均粒子径が数μmである高アスペクト比のナノシートも含め、ほぼ全て約1nmであり、ナノシートが有機溶媒中で単層にまで剥離して分散していることが示唆された。
【0149】
(±)−trans−1,2−ジアミノシクロヘキサン(東京化成工業株式会社製)(アミンとして)27.0mgを0.41gのDMFに溶かしたものに上記有機溶媒分散液6gを添加し、室温で1時間攪拌して、透明な塗工液を得た。この塗工液を攪拌しながらダイアフラムポンプで減圧脱気した後、自動フィルムアプリケーター(BYK−ガードナー社製)の上に100ミクロン厚のPENフィルム(帝人・デュポンフィルム株式会社製)をセットし、その上に2milのバーフィルムアプリケータ(BYK−ガードナー社製)を置き、この塗工液を約3mlバーフィルムアプリケータの前に流し込み、50mm/sの塗工速度で塗工した。その後セーフティオーブンSPHH−201(ESPEC社製)に入れ、50℃で10分間乾燥し、その後1.08℃/分の条件で180℃まで昇温し、その後180℃で2時間ホールドした。以上により、PENフィルム上にガスバリア層が形成されてなるガスバリアシートを得た。
【0150】
このガスバリアシートのガスバリア層の膜厚を測定したところ0.7μmであった。また、熱重量分析で測定されたガスバリア層中のアミン含有量は12.9質量%であり、本実施例では添加剤を使用していないため、ナノシートとアミンとの合計質量に占めるナノシートの割合は87.1質量%と考えられる。ナノシートの平均アスペクト比は3200であった。
【0151】
図1は、実施例1で形成したガスバリアシートのX線回折スペクトルを示す図である。最も強い001面の一次回折に対応するピークは2θ=6.49°に存在し、ナノシートの層間距離に換算して1.36nmであった。
【0152】
またこのガスバリアシートのIRスペクトルから、3271cm-1にアミノ基に由来するピークが確認できた。XRDとIRとの結果より、アミンがナノシートに吸着した構造を有することが確認できた。
【0153】
ガスバリア層中の残有機溶媒量測定より、Si−Oに相当する999cm-1におけるピーク強度に対する、DMFのアミドに相当する1646cm-1におけるピーク強度の比が、0.045であった。
【0154】
図2は、実施例1で形成したガスバリアシートの断面TEM写真を示す図である。該TEM写真は厚み方向断面を示し、ナノシートの面方向がガスバリア層の面方向と略平行であるように配向して積層している構造が確認できた。
【0155】
差圧法によって測定された本ガスバリアシートの水蒸気の透過量は54時間後で0.00468g/m2・dayであった。
【0156】
[実施例2]
実施例1における、層間イオンが主としてナトリウムイオンである、溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライトの分散液(商品名:分級NHT、トピー工業株式会社製)の代わりに、層間イオンが主としてナトリウムイオンである、タルク変性法によって合成されたフッ素化雲母の分散液(商品名:MEB3、コープケミカル株式会社製)を用いた。純水によって固形分濃度を2質量%に希釈したMEB3の分散液400gを、実施例1と同じ遠心分離装置により2000rpm10分の条件で遠心分離を行い、沈降物を分離除去して、水分散液を得た。得られた水分散液の固形分濃度は1.29質量%であった。また、分散液中の固形分に対するナトリウムイオンの存在割合は3.3質量%、フッ素イオンが同0.26質量%、硫酸イオンが同0.024質量%であった。
【0157】
この水分散液を、実施例1と同様にして余剰イオンの除去及び層間イオンのアンモニウムイオンへのイオン交換に供し、固形分濃度が1.06質量%のイオン交換後の分散液を得た。この分散液中の固形分に対するナトリウムイオンの存在割合は0.060質量%、アンモニウムイオンが同2.4質量%、フッ素イオンが同0.042質量%、硫酸イオンが同0.010質量%であった。すなわち、前記のイオン交換によってナトリウムイオンの98.2%が除去されたことになる。
【0158】
イオン交換後の分散液(分散媒置換用水分散液として)25.0gとDMF25.0gとを混合し、ロータリーエバポレーターにて約30〜120hPa,55℃の条件にて減圧加熱して分散媒を除去し、残留水分の割合が約6.5質量%にまで低減されたDMFを主たる分散媒とする、固形分濃度が約1.17質量%の透明な分散液(有機溶媒分散液として)22.6gを得た。
【0159】
(±)−trans−1,2−ジアミノシクロヘキサン(東京化成工業株式会社製)(アミンとして)25.0mgを0.41gのDMFに溶かしたものに上記有機溶媒分散液6gを添加し、室温で1時間攪拌して、透明な塗工液を得た。その後、実施例1と同様にして、ガスバリアシートを得た。
【0160】
このガスバリアシートのガスバリア層の膜厚を実施例1と同様の方法で測定したところ0.7μmであった。また、熱重量分析で測定されたガスバリア層中のアミン含有量は17.6質量%であり、本実施例では添加剤を使用していないため、ナノシートとアミンとの合計質量に占めるナノシートの割合は82.4質量%と考えられる。ナノシートの平均アスペクト比は3200であった。
【0161】
このガスバリアシートのX線回折を測定したところ、2θ=6.38に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
【0162】
差圧法によって測定された本ガスバリアシートの水蒸気の透過量は54時間後で0.20g/m2・dayであった。
【0163】
[実施例3]
実施例1における、(±)−trans−1,2−ジアミノシクロヘキサン(東京化成工業株式会社製)(アミンとして)27.0mgの代わりに、N−ベンジルエチレンジアミン25.0mgを用いた。その後、実施例1と同様にして、ガスバリアシートを得た。
【0164】
このガスバリアシートのガスバリア層の膜厚を実施例1と同様の方法で測定したところ0.7μmであった。また、熱重量分析で測定されたガスバリア層中のアミン含有量は17.0質量%であり、本実施例では添加剤を使用していないため、ナノシートとアミンとの合計質量に占めるナノシートの割合は83.0質量%と考えられる。ナノシートの平均アスペクト比は3200であった。
【0165】
このガスバリアシートのX線回折を測定したところ、2θ=6.14に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
【0166】
ガスバリア層中の残有機溶媒量測定より、Si−Oに相当する999cm-1におけるピーク強度に対する、DMFのアミドに相当する1646cm-1におけるピーク強度の比が、0.043であった。
【0167】
差圧法によって測定された本ガスバリアシートの水蒸気の透過量は54時間後で装置検出限界以下であった。透過水蒸気の蓄積時間を30分にした場合には16時間後で0.00476g/m2・dayであった。
【0168】
[比較例1]
実施例1における、(±)−trans−1,2−ジアミノシクロヘキサン(東京化成工業株式会社製)(アミンとして)27.0mgを用いない他は実施例1と同様にして、ガスバリアシートを得た。
【0169】
このガスバリアシートのガスバリア層の膜厚を実施例1と同様の方法で測定したところ0.6μmであった。また、ナノシートの平均アスペクト比は3200であった。
【0170】
このガスバリアシートのX線回折を測定したところ、2θ=6.76に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
【0171】
ガスバリア層中の残有機溶媒量測定より、Si−Oに相当する999cm-1におけるピーク強度に対する、DMFのアミドに相当する1646cm-1におけるピーク強度の比が、0.071であった。
【0172】
差圧法によって測定された本ガスバリアシートの水蒸気の透過量は54時間後で1.00g/m2・dayであった。
【0173】
[比較例2]
実施例1における有機溶媒分散液6.0gをセーフティオーブンSPHH−201(ESPEC社製)にて180℃で2時間乾燥し、0.171gの固形分を得た。これにDMF5.8gを加え、攪拌したが再分散せず、沈殿として存在した。これは、分散液中でのナノシートまでへき開された状態が乾燥後には保持されず、DMF中に再分散できなかったことによると考えられる。固形分が沈殿として存在したため、ガスバリアシートを得ることができなかった。
【0174】
[比較例3]
スメクタイト族であるスメクトンSA(クニミネ工業株式会社製)5.0gに純水995gを加え、シェイクすることで0.50wt%の水分散液を得た。動的散乱法によって測定された平均粒子径は50nmであった。この水分散液について、実施例1と同様にして余剰イオンの除去および層間イオンのアンモニウムイオンへのイオン交換を行い、固形分濃度が0.46質量%のイオン交換分散液を得た。
【0175】
イオン交換分散液100.0gとDMF25.0gとを混合し、ロータリーエバポレーターにて約30〜120hPa,55℃の条件にて減圧加熱して分散媒を除去し、固形分濃度が約1.01質量%の透明な分散液15.0gを得た。これに、エポキシ基を有する2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン(和光純薬工業株式会社製)37.0mgを添加し、室温で1時間攪拌して、透明な分散液を得た。その後、実施例1と同様にして、ガスバリアシートを得た。
【0176】
このガスバリアシートのガスバリア層の膜厚を実施例1と同様の方法で測定したところ0.8μmであった。ナノシートの平均アスペクト比は53であった。
【0177】
このガスバリアシートのX線回折を測定したところ、2θ=7.04に001面の一次回折によるピークが認められたが、不明瞭であった。この結果から、ナノシートの面方向がガスバリアシートの面方向に配向していないか、配向していても面方向の規則構造が少ないものと考えられる。
【0178】
差圧法によって測定された本ガスバリアシートの水蒸気の透過量は54時間後で1.00g/m2・dayであった。
【0179】
[実施例4]
実施例1における、(±)−trans−1,2−ジアミノシクロヘキサンの代わりに、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン(東京化成工業株式会社製)40.4mgを用いた。その後、実施例1と同様にして、ガスバリアシートを得た。
【0180】
このガスバリアシートのガスバリア層の膜厚を実施例1と同様の方法で測定したところ0.7μmであった。また、熱重量分析で測定されたガスバリア層中のアミン含有量は18.0質量%であり、本実施例では添加剤を使用していないため、ナノシートとアミンとの合計質量に占めるナノシートの割合は82.0質量%と考えられる。ナノシートの平均アスペクト比は3200であった。
【0181】
このガスバリアシートのX線回折を測定したところ、2θ=6.17に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
【0182】
ガスバリア層中の残有機溶媒量測定より、Si−Oに相当する999cm-1におけるピーク強度に対する、DMFのアミドに相当する1646cm-1におけるピーク強度の比は、0.035であった。
【0183】
差圧法によって測定された本ガスバリアシートの水蒸気の透過量は54時間後で装置検出限界以下であった。透過水蒸気の蓄積時間を300分にした場合には92時間後で0.00385g/m2・dayであった。
【0184】
[実施例5]
実施例1と同様に、沈降物を分離除去し上澄みを捨てて得られた水分散液200gを、超音波ホモジナイザーUS−600T(株式会社日本精機製作所製)を用い、チップ径37mmφ、V−LEVEL約4.0にて20分超音波照射し、水分散液を得た。動的散乱法によって測定された固形分の平均粒子径は550nmであった。
【0185】
上記水分散液を用い、実施例4と同様にして、ナノシートの質量に対するアミンの質量が実施例4と同じであるガスバリアシートを得た。ナノシートの平均アスペクト比は580であった。
【0186】
このガスバリアシートのX線回折を測定したところ、2θ=5.97に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
【0187】
ガスバリア層中の残有機溶媒量測定より、Si−Oに相当する999cm-1におけるピーク強度に対する、DMFのアミドに相当する1646cm-1におけるピーク強度の比は、0.033であった。
【0188】
差圧法によって測定された本ガスバリアシートの水蒸気の透過量は、透過水蒸気の蓄積時間を300分にした場合において、測定開始後84時間後で0.007g/m2・dayであり、測定開始後136時間後でも0.007g/m2・dayであった。
【0189】
[実施例6]
実施例1のイオン交換後の分散液(分散媒置換用水分散液として)50gとN−メチルピロリドン(NMP)15gとを混合し、ロータリーエバポレーターにて約30〜120hPa,55℃の条件にて減圧加熱して分散媒を除去し、NMPを主たる分散媒とする、固形分濃度が約1.7質量%の透明な分散液(有機溶媒分散液として)約30gを得た。ガスクロマトグラフィーによって分析された該分散液中の水の含有量は約55質量%であった。
【0190】
N,N’−ジベンジルエチレンジアミン(東京化成工業株式会社製)(アミンとして)24.5mgを0.41gのNMPに溶かしたものに上記有機溶媒分散液6gを添加し、室温で1時間攪拌して、透明な塗工液を得た。この塗工液を攪拌しながらダイアフラムポンプで減圧脱気した後、自動フィルムアプリケーター(BYK−ガードナー社製)の上に100ミクロン厚のPENフィルム(帝人・デュポンフィルム株式会社製)をセットし、その上にバーフィルムアプリケータ(BYK−ガードナー社製、型番2mil)を置き、この塗工液を約3mlバーフィルムアプリケータの前に流し込み、50mm/sの塗工速度で塗工した。その後セーフティオーブンSPHH−201(ESPEC社製)に入れ、50℃で10分間乾燥し、その後1.08℃/分の条件で180℃まで昇温し、その後180℃で2時間ホールドした。以上により、PENフィルム上にガスバリア層が形成されてなるガスバリアシートを得た。
【0191】
このガスバリアシートのガスバリア層の膜厚を実施例1と同様の方法で測定したところ0.7μmであった。また、熱重量分析で測定されたガスバリア層中のアミン含有量は18.0質量%であり、本実施例では添加剤を使用していないため、ナノシートとアミンとの合計質量に占めるナノシートの割合は82.0質量%と考えられる。ナノシートの平均アスペクト比は3200であった。
【0192】
このガスバリアシートのX線回折を測定したところ、2θ=5.91に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
【0193】
ガスバリア層中の残有機溶媒量測定より、Si−Oに相当する999cm-1におけるピーク強度に対する、NMPのアミドに相当する1646cm-1におけるピーク強度の比が、0.031であった。
【0194】
差圧法によって測定された本ガスバリアシートの水蒸気の透過量は54時間後で装置検出限界以下であった。透過水蒸気の蓄積時間を30分にした場合には46時間後で0.00257g/m2・dayであった。
【0195】
[実施例7]
実施例1のイオン交換後の分散液(分散媒置換用水分散液として)を、ロータリーエバポレーターにて約45〜120hPa,55℃の条件にて減圧加熱して水を蒸発させ濃縮し、固形分濃度が約3.05質量%の透明な水分散液を得た。
【0196】
γ−ブチロラクトン6.07gに、上記水分散液6.43gを攪拌しながら少しずつ添加し、3時間攪拌することで、有機溶媒分散液を得た。この有機溶媒分散液に、N,N'−ジベンジルエチレンジアミンを20質量%γ−ブチロラクトンに溶かした溶液0.255gを添加し(塗工液中の分散媒におけるジメチルスルホキシドの割合は49.8質量%)、実施例4と同様にして、ただし、バーフィルムアプリケータを塗工膜厚可変型(YOSHIMITSU社製、YBA型ベーカーアプリケーター)のものを使い、塗工膜厚を50μmとして塗工し、さらに180℃でのホールド時間を24時間に変更して、ガスバリアシートを得た。
【0197】
このガスバリアシートのX線回折を測定したところ、2θ=5.87に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
【0198】
ガスバリア層中の残有機溶媒量測定より、Si−Oに相当する999cm-1におけるピーク強度に対する、γ−ブチロラクトンのC=O伸縮振動に相当する1760cm-1におけるピーク強度の比は、0.002であった。
【0199】
差圧法によって測定された本ガスバリアシートの水蒸気の透過量は、透過水蒸気の蓄積時間を300分にした場合において、測定開始後115時間後で0.0003g/m2・dayであった。
【0200】
[実施例8]
実施例7と同様にして得た、固形分濃度が約3.05質量%の透明な水分散液5.82gに、ジメチルスルホキシド5.14gを添加し、5分攪拌することで、有機溶媒分散液を得た。この有機溶媒分散液に、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンを10質量%ジメチルスルホキシドに溶かした溶液0.430gを添加し(塗工液中の分散媒におけるジメチルスルホキシドの割合は49.5質量%)、実施例4と同様にしてガスバリアシートを得た。
【0201】
このガスバリアシートのX線回折を測定したところ、2θ=5.75に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
【0202】
差圧法によって測定された本ガスバリアシートの水蒸気の透過量は、透過水蒸気の蓄積時間を300分にした場合において、測定開始後154時間後で0.0044g/m2・dayであった。
【0203】
[実施例9]
ピリジン2.29gに、実施例7と同様にして得た、固形分濃度が約3.05質量%の透明な水分散液2.51gを攪拌しながら少しずつ添加し、2時間攪拌することで、有機溶媒分散液を得た。この有機溶媒分散液に、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンを20質量%ピリジンに溶かした溶液0.097gを添加し(塗工液中の分散媒におけるピリジンの割合は49.3質量%)、実施例4と同様にして、ただし、実施例7と同じバーフィルムアプリケータを用い塗工膜厚を50μmとして塗工して、ガスバリアシートを得た。
【0204】
このガスバリアシートのX線回折を測定したところ、2θ=6.03に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
【0205】
差圧法によって測定された本ガスバリアシートの水蒸気の透過量は、透過水蒸気の蓄積時間を300分にした場合において、測定開始後106時間後で0.0019g/m2・dayであった。
【0206】
[実施例10]
実施例7と同様にして得た、固形分濃度が約2.92質量%の透明な水分散液2.71gに、アセトニトリル1.45gを添加し、3時間攪拌することで、有機溶媒分散液を得た。この有機溶媒分散液に、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンを10質量%アセトニトリルに溶かした溶液0.191gを添加し(塗工液中の分散媒におけるアセトニトリルの割合は38.1質量%)、実施例4と同様にして、ただし、実施例7と同じバーフィルムアプリケータを用い塗工膜厚を25μmとして塗工して、ガスバリアシートを得た。
【0207】
このガスバリアシートのX線回折を測定したところ、2θ=6.03に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
【0208】
差圧法によって測定された本ガスバリアシートの水蒸気の透過量は、透過水蒸気の蓄積時間を30分にした場合において、測定開始後61時間後で0.032g/m2・dayであった。
【0209】
[実施例11]
実施例1における、(±)−trans−1,2−ジアミノシクロヘキサンの代わりに、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン(東京化成工業株式会社製)40.4mgを用いた。その後、実施例7と同様にして、バーフィルムアプリケータを塗工膜厚可変型(YOSHIMITSU社製、YBA型ベーカーアプリケーター)のものを使い、塗工膜厚を25μmとして塗工し、さらに180℃でのホールド時間を24時間に変更して、ガスバリアシートを得た。
【0210】
このガスバリアシートのガスバリア層の膜厚を実施例1と同様の方法で測定したところ0.033μmであった。ナノシートの平均アスペクト比は3200であった。
【0211】
このガスバリアシートのX線回折を測定したところ、2θ=5.95に001面の一次回折による明瞭なピークが認められた。
【0212】
ガスバリア層中の残有機溶媒量測定より、Si−Oに相当する999cm-1におけるピーク強度に対する、DMFのC=O伸縮振動に相当する1646cm-1におけるピーク強度の比は、0.021であった。
【0213】
差圧法によって測定された本ガスバリアシートの水蒸気の透過量は、透過水蒸気の蓄積時間を1200分にした場合には139時間後で0.00006g/m2・dayであった。
【産業上の利用可能性】
【0214】
本発明は、例えばディスプレイ等の電子材料、太陽電池の基板及びバックシート、レトルト食品等の包装材、並びにガソリン等のタンク及び輸送用のチューブ等に好適に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア層を有するガスバリアシートであって、
該ガスバリア層が、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートと、アミンとを含み、
該ガスバリア層において、該ナノシートの面方向が該ガスバリア層の面方向と略平行であるように該ナノシートが積層されている、ガスバリアシート。
【請求項2】
該ガスバリア層中のアミンの含有量が1〜30質量%である、請求項1に記載のガスバリアシート。
【請求項3】
該アミンが2つ以上のアミノ基を有する、請求項1又は2に記載のガスバリアシート。
【請求項4】
該層状無機化合物がフッ素化スメクタイトを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリアシート。
【請求項5】
該層状無機化合物がフッ素化雲母を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリアシート。
【請求項6】
該ナノシートの平均アスペクト比が150以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガスバリアシート。
【請求項7】
該ナノシートの001面の一次回折によって生じたX線回折スペクトルが、1.75<2θ<6.76の回折領域にピークトップを有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガスバリアシート。
【請求項8】
該アミンの少なくとも一部が、カチオン化して該ナノシートとイオン結合した状態で存在する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガスバリアシート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のガスバリアシートを製造する方法であって、
(1)スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートが水に分散してなる水分散液をイオン交換樹脂及び半透膜の少なくともいずれかで処理して、分散媒置換用水分散液を得る、分散媒置換用水分散液調製工程と、
(2)該分散媒置換用水分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒で置換することによって、又は該分散媒置換用水分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る、有機溶媒分散液調製工程と、
(3)該有機溶媒分散液にアミンを添加することによって、ナノシート及びアミンを含む塗工液を形成する、アミン添加工程と、
(4)該塗工液を基板上に塗布した後、塗工液中の分散媒を除去することによって、該ナノシートと該アミンとを含むガスバリア層を基板上に形成する、製膜工程と、
を上記記載の順で行うことを含むことにより、ガスバリア層を有するガスバリアシートを形成する、ガスバリアシートの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のガスバリアシートを製造するために用いるガスバリア用塗工液の製造方法であって、
(1)スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートが水に分散してなる水分散液をイオン交換樹脂及び半透膜の少なくともいずれかで処理して、分散媒置換用水分散液を得る、分散媒置換用水分散液調製工程と、
(2)該分散媒置換用水分散液中の水の一部若しくは全部を有機溶媒で置換することによって、又は該分散媒置換用水分散液に有機溶媒を添加することによって、有機溶媒分散液を得る、有機溶媒分散液調製工程と、
(3)該有機溶媒分散液にアミンを添加することによって、ナノシート及びアミンを含む塗工液を形成する、アミン添加工程と、
を上記記載の順で行うことを含む、ガスバリア用塗工液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−213111(P2011−213111A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60417(P2011−60417)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】