説明

層状複水酸化物のデラミネーション方法

【課題】層状複水酸化物を容易に層間剥離させるデラミネーション方法を提供すること。前記デラミネーション方法によって得られた剥離型層状複水酸化物を液体に分散させた層状複水酸化物分散液、及び該剥離型層状複水酸化物を積層させた層状複水酸化物薄膜を提供すること。
【解決手段】下記一般式(I):
[MII1−xIII(OH)x+[An−x/n・yHO]x−
[式中、MIIは2価金属、MIIIは3価金属、An−は芳香族アミノカルボン酸のアニオンを含むアニオン、nは前記アニオンの価数、xは0<x<0.4、yは0より大きい実数である]
で表される層状複水酸化物を、炭素数1乃至8のアルコール、水から選ばれる1種以上からなる分散媒と混合することを特徴とする層状複水酸化物のデラミネーション方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は層状複水酸化物のデラミネーション方法に関するものである。また、前記方法によって得られる剥離型層状複水酸化物の分散液、及び層状複水酸化物薄膜に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
層状複水酸化物は、以下の一般式(II):
[MII1−xIII(OH)x+[Bn−x/n・yHO]x−
[式中、MIIは2価金属、MIIIは3価金属、Bn−はアニオン、nはアニオンの価数、xは0<x<0.4、yは0より大きい実数である]
で表すことができる。
すなわち、層状複水酸化物は、プラスに荷電した、ブルーサイト様の基本層([MII1−III(OH)x+)の層間に、アニオン及び層間水からなるマイナスに荷電した中間層([Bn−x/n・yHO]x−)を内包する層状構造化合物であり、結晶全体では電気的中性を保っている。
2価金属としてはMg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等が知られており、3価金属化合物としてはAl、Fe、Cr、Co、In等が知られている。また、アニオンとしては、OH、F、Cl、NO、SO2−、CO2−、Fe(CN)4−、CHCOO、V10286−、ドデシルSO等のアニオンが知られている。
【0003】
層状複水酸化物の基本層間において、アニオンは比較的弱い結合力で結合しているため、例えば、異なるアニオンが層間に入り込むと、中間層に内包されていたアニオンがその分放出される。
このようなアニオン交換性を有していることから、層状複水酸化物は多様な用途に用いられている。
例えば、塩化ビニル重合体等の塩素含有重合体や、チーグラー型触媒(ハロゲン含有触媒)を用いたオレフィン系樹脂の製造においては、製造時の加熱等により塩化水素等が生じ、重合体の着色や機械的性質の低下をひきおこしたり、成形加工機に錆を生じさせたり、黄変等の樹脂の劣化を招くことがある。これらを防止するために、塩化水素を捕捉する熱安定剤として層状複水酸化物が配合されている。
また、層間に炭酸イオンを内包した層状複水酸化物を400〜500℃の高温で焼成して内部の炭酸イオンを除去し、これをアニオン吸着剤として用いて、有害物質や産業廃液中のアニオン性物質(例えば廃液中のアニオン染料)の除去を行ったり、逆に、アニオン系染料を層間に取り込むことにより安定な着色物を得るといった用途も開発されつつある。
【0004】
また、中間層のアニオンとして、紫外線を吸収する化合物のアニオンを用いることにより、紫外線を吸収する化合物が層状複水酸化物の層間に取り込まれた複合体が提案されており、この複合体を含有する日焼け止めクリーム等の外用剤も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。かかる紫外線を吸収する化合物としては、例えば、パラアミノ安息香酸、サリチル酸エチレングリコール、オキシベンゼンスルホン酸、ウロカニン酸等が挙げられている。
【0005】
一方、上記層状複水酸化物と類似の特徴を有する物質として、粘土複合材料が挙げられる。粘土複合材料とは、成形品の機械的強度等の物性を改良するために、成形用の樹脂に、粘土鉱物が充填材として添加され、混合されたものである。一般に、充填材の分散サイズがナノオーダーであるような超微細分散系をナノコンポジットといい、特に層状粘土鉱物を充填材として用いたナノコンポジットは、クレイハイブリッドと称されている。
クレイハイブリッドには、層状粘土鉱物の分散状態の相違によって、挿入型(インターカレーション型)と、剥離型(デラミ型)がある。挿入型とは、粘土鉱物の層間に成形用樹脂が挿入されることにより、該粘土鉱物の層間距離は広がっているが、粘土鉱物の層構造は破壊されずに残っている構造をいう。この挿入型クレイハイブリッドの構造は、上述したような層状複水酸化物において、基本層の層間にアニオン及び層間水からなる中間層が内包されている層状構造と、類似している。
一方、クレイハイブリッドの剥離型とは、粘土鉱物の層間に成形用樹脂が挿入されることにより、該粘土鉱物の各層がばらばらになり、積層構造が破壊されて残っていない構造を言う。ここで、粘土鉱物の層間に成形用樹脂を挿入して、該粘土鉱物の各層をばらばらにし、積層構造を破壊することを、層間剥離(以下、デラミネーションと記載する。)という。
【0006】
上記2種類のクレイハイブリッドを比較すると、剥離型の状態は、充填材である粘土鉱物による成形用樹脂に対する補強効果が高いため、挿入型の状態よりも、成形品の機械的強度等の物性が優れていることが知られている。従って、成形品の物性を改良するために、剥離型のクレイハイブリッドを用いることが望まれており、ナイロンや、スチレン系樹脂等を成形用樹脂として用いる、剥離型のクレイハイブリッドが種々提案されている(例えば、特許文献2。)。
そこで、挿入型クレイハイブリッドと類似の構造を有する層状複水酸化物においても、クレイハイブリッドと同様に剥離型の構造のものを得ることができれば、ナノテクノロジー材料として応用することができると期待されている。
【0007】
【特許文献1】
特開2002−167570号公報
【特許文献2】
特開2002−3734号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、層状複水酸化物においては、基本層の電荷密度が比較的大きく、基本層と中間層との静電引力が比較的強いために両層が交互に積み重なる力が強く、粘土鉱物で見られたようなデラミネーションは起こりにくい。
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、層状複水酸化物を容易に層間剥離させるデラミネーション方法を提供することを課題とする。また、前記デラミネーション方法によって得られた剥離型層状複水酸化物を分散媒に分散させた層状複水酸化物分散液、及び該剥離型層状複水酸化物を再積層させた層状複水酸化物薄膜を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、中間層のアニオンとして芳香族アミノカルボン酸のアニオンを内包した層状複水酸化物を、アルコール、水等の極性溶媒と混合することにより、容易にデラミネーションさせることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第一の発明は、下記一般式(I):
[MII1−xIII(OH)x+[An−x/n・yHO]x−
[式中、MIIは2価金属、MIIIは3価金属、An−は芳香族アミノカルボン酸のアニオンを含むアニオン、nは前記アニオンの価数、xは0<x<0.4、yは0より大きい実数である]
で表される層状複水酸化物を、炭素数1乃至8のアルコール、水から選ばれる1種以上からなる分散媒と混合することを特徴とする層状複水酸化物のデラミネーション方法である。
【0011】
本発明の第二の発明は、前記層状複水酸化物のデラミネーション方法によって得られた剥離型層状複水酸化物が、炭素数1乃至8のアルコール、水から選ばれる1種以上からなる分散媒に分散されてなることを特徴とする、剥離型層状複水酸化物分散液である。
【0012】
本発明の第三の発明は、前記層状複水酸化物のデラミネーション方法によって得られた剥離型層状複水酸化物が再積層されてなることを特徴とする、層状複水酸化物薄膜である。
【0013】
本発明の第四の発明は、前記剥離型層状複水酸化物分散液を、板上に滴下して乾燥させることを繰り返して再積層させることを特徴とする、層状複水酸化物薄膜の製造方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の第一の発明は、下記一般式(I):
[MII1−xIII(OH)x+[An−x/n・yHO]x−
[式中、MIIは2価金属、MIIIは3価金属、An−は芳香族アミノカルボン酸のアニオンを含むアニオン、nは前記アニオンの価数、xは0<x<0.4、yは0より大きい実数である]
で表される層状複水酸化物を、炭素数1乃至8のアルコール、水から選ばれる1種以上からなる分散媒と混合することを特徴とする層状複水酸化物のデラミネーション方法である。
【0015】
上記一般式(I)の、3価金属MIIIとしては、Al、Fe、Cr、Co、In等を用いることができる。これらの金属は1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、Al、Fe、Crを用いることが好ましく、特にAlを用いることが好ましい。
【0016】
2価金属MIIとしては、Zn、Mg、Co、Ni、Cu、Mn、Fe等を用いることができる。これらの金属は1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、Zn、Mg、Co、Ni、Cuが好ましく、さらにZnが最も好ましい。
【0017】
本発明に用いられる層状複水酸化物においては、2価金属がZnであり、3価金属がAlである組み合わせを用いることが最も好ましい。
【0018】
上記式(I)においてAn−は、芳香族アミノカルボン酸のアニオンを含むアニオンである。芳香族アミノカルボン酸のアニオンのみが内包されていてもよいし、芳香族アミノカルボン酸のアニオンとその他のアニオンとの混合物であってもよい。芳香族アミノカルボン酸のアニオンが含まれることによって、その他のアニオンのみが内包されている場合と比較して、層間距離が広くなるため、後述のデラミネーションを起こしやすくなる。
芳香族アミノカルボン酸のアニオン以外の層間に共存するアニオンとしては、例えば、OH、F、Cl、NO、SO2−、CO2−、Fe(CN)4−、CHCOO、V10286−、ドデシルSO等のアニオンが挙げられる。これらのうち、OH、F、Cl、NO、が好ましく、特に好ましいのはOH、Cl、NOである。これら芳香族アミノカルボン酸のアニオン以外のアニオンは、1種のみでもよいし、2種以上が含まれていても構わない。
ここで、An−が、価数の異なるアニオンの混合物である場合、nで表わされるアニオンの価数とは、上記式(I)においてアニオンの混合物を1モルに換算した場合の価数を示す。
【0019】
前記芳香族アミノカルボン酸は、水素原子が置換されていてもよいアミノ基で置換された安息香酸であることが好ましい。かかる化合物としては、例えば、o−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−メチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−エチル安息香酸、p−ジエチルアミノ安息香酸等が挙げられる。これらのうち、o−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸が好ましく、特にp−アミノ安息香酸が最も好ましい。
【0020】
上記一般式(I)において、xは0.2≦x<0.35であることが好ましい。これは、層状複水酸化物の基本層において、2価の金属と3価金属の存在比率がMII:MIII=4:1〜2:1の比率で存在するときに、安定な層状複水酸化物を形成することができるからである。さらに、0.2≦x<0.27であることが、より好ましい。これは、xが0.27より小さいと、3価金属の2価金属に対する存在比率が低くなり、それに伴って基本層の電荷密度が低くなるため、中間層との結合がより脆弱となり、後述のデラミネーションを起こしやすくなるからである。
【0021】
前記層状複水酸化物は、例えば、特許文献1に開示されている製造方法により製造することができる。具体的な製造方法を以下に記載する。
第一の製造方法として、共沈法と呼ばれる方法により製造することができる。これには、まず芳香族アミノカルボン酸の水溶液を調製する。この水溶液に対して,例えばZn(NOのような2価金属の塩と、Al(NOのような3価金属の塩との混合水溶液を滴下する。滴下中は、窒素雰囲気下でpHを6〜10に調整した後熟成して、固体生成物を分離することにより、中間層に芳香族アミノカルボン酸のアニオンを含むアニオンが内包された層状複水酸化物を得ることができる。
【0022】
第二の製造方法として、イオン交換法と呼ばれる方法により製造することができる。これには、まず芳香族アミノカルボン酸を水溶液とし、これに対して中間層にOH、Cl、NO等のアニオンを内包した層状複水酸化物を加える。このようなOH、Cl、NO等のアニオンを内包した層状複水酸化物は、市販されているものを用いることもできるし、特許文献1に記載された方法で製造することもできる。このような層状複水酸化物を加えた後、窒素ガス雰囲気下で熟成した後、固体生成物を分離すると、中間層に芳香族アミノカルボン酸のアニオンを含むアニオンが内包された層状複水酸化物を得ることができる。
【0023】
第三の製造方法としては、再構築法と呼ばれる方法によっても製造することができる。この場合もまず芳香族アミノカルボン酸の水溶液を調製し、これに対して、予め400℃以上、金属の種類によっては700〜800℃の温度で30分以上加熱後冷却しておいた炭酸型層状複水酸化物(主にCO2−イオンを内包しているもの。)の熱分解物を加える。窒素ガス雰囲気下で撹拌または振とうした後、固体生成物を分離し、目的とする層状複水酸化物を得ることができる。
【0024】
本発明の方法に用いられる層状複水酸化物は上記の共沈法、イオン交換法、再構築法のいずれの方法によっても製造することができるが、共沈法により製造することが最も好ましい。これは、芳香族アミノカルボン酸のアニオンを迅速かつ確実に取り込むことができる製造方法だからである。
【0025】
上述の製造方法に用いられる芳香族アミノカルボン酸水溶液の濃度は、特に限定されないが、10〜25mmol/lが好ましい。使用する芳香族アミノカルボン酸と、3価金属塩との比率は、1:0.5〜1:2(モル比)が好ましく、略1:1であることがさらに好ましい。これは、中間層における芳香族アミノカルボン酸の量が適量なほど分散媒を呼び込みやすく、層間が拡がりやすくなるからである。
また、2価金属塩と3価金属塩との混合水溶液の濃度も特に限定されないが、0.5〜1.0mol/lであることが好ましい。2価金属塩と3価金属塩と混合水溶液中の存在比率は、4:1〜2:1(モル比)であることが好ましく、さらに好ましくは3.5:1〜2.5:1であり、略3:1であることが最も好ましい。これは、上述したような2価金属と3価金属の存在比率が4:1〜2:1である安定な層状複水酸化物を形成しやすくなり、さらに、0.2≦x<0.27であるデラミネーションを起こしやすい層状複水酸化物を形成しやすくなるためである。
【0026】
また、上述の方法により得られた層状複水酸化物は、加熱や減圧などの方法により乾燥させてもよいが、水分を含んだままデラミネーションさせる方が好ましい。
【0027】
以上のようにして得られた層状複水酸化物の構造は、粉末X線回折(XRD)、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)等の分析手段により確認することができる。
芳香族アミノカルボン酸のアニオンが含まれるアニオンを中間層に内包した層状複水酸化物のXRDにおいては、芳香族アミノカルボン酸のアニオンが含まれない場合のXRDと比較して、低角度側にピークを観察することができる。これは、層間に芳香族アミノカルボン酸が取り込まれたことによって、層間距離が広がったためであると考えられる。また、このピーク位置をもとに層間距離を計算することができるため、層間距離と分子長を比較することにより、芳香族アミノカルボン酸が内包されている方向を推定することが可能である。
また、FT−IRチャートにおいては、芳香族アミノカルボン酸が例えばp−アミノ安息香酸である場合、アミノ基由来である1560〜1630cm−1付近の吸収、及びカルボン酸由来の1360〜1390cm−1付近の吸収を観察することができ、芳香族アミノカルボン酸であるp−アミノ安息香酸が層状複水酸化物に固定化されていることが確認できる。
【0028】
本発明のデラミネーション方法は、上述のようにして得られる層状複水酸化物を、炭素数1乃至8のアルコール、水から選ばれる1種以上からなる分散媒と混合することを特徴とする。
本明細書中に記載する炭素数1乃至8のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、シクロペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール等が挙げられる。これらのうち、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、シクロペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノールが好ましく、さらにメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールが好ましく、特に好ましいのはエタノールである。
【0029】
本発明のデラミネーション方法は、層状複水酸化物をエタノール、水から選ばれる1種以上からなる分散媒と混合することによって行うことが好ましい。
【0030】
混合は、公知の手段によって行うことができ、例えば、攪拌、振とう等により行うことができるが、超音波を使用して混合を行ってもよい。
【0031】
本発明のデラミネーション方法において、分散させる層状複水酸化物の量(減圧60℃乾燥物基準)は、液体に対して、0.02〜0.14mg/cmであることが好ましく、さらに、0.04〜0.10mg/cmであることが望ましい。
【0032】
以上のようにデラミネーションすることによって、層状複水酸化物は、層間剥離されて剥離型層状複水酸化物となる。ここで、剥離型層状複水酸化物とは、層状複水酸化物の基本層及び中間層の各層がばらばらになり、積層構造が破壊されて残っていない構造を有するものをいう。デラミネーションされて剥離型になったことは、後述するように剥離型層状複水酸化物が液体に分散された分散液を観察及び/又は分析することにより確認することができる。
【0033】
次に、本発明の第二の発明は、前記層状複水酸化物のデラミネーション方法によって得られた剥離型層状複水酸化物が、炭素数1乃至8のアルコール、水から選ばれる1種以上からなる分散媒に分散されてなることを特徴とする、剥離型層状複水酸化物分散液である。
上述のように、一般式(I)で表わされる層状複水酸化物をデラミネーションすることによって得られた剥離型層状複水酸化物が、炭素数1乃至8のアルコール、水から選ばれる1種以上からなる分散媒に分散されることにより、剥離型層状複水酸化物分散液が得られる。
【0034】
前記剥離型層状複水酸化物分散液の光透過率は、400〜780nmのいずれの波長においても、50%以上であることが好ましく、さらに60%以上、さらに70%以上であることが好ましい。
剥離型層状複水酸化物は、層状複水酸化物が層間剥離されて、液体中にナノオーダーで分散されているため、分散液を肉眼で観察するとほぼ透明の状態となっている。従って、光透過率を測定し、400〜780nmの可視領域で、光透過率が高いほど良好なデラミネーション状態であるということができる。
なお、400nmより低波長の紫外領域においては、芳香族アミノカルボン酸等の吸収が観察されることがあるため、光透過率は50%より小さくなることがある。
【0035】
本発明の分散液は、10〜90日程度、低温(10℃以下)で保存した後、光透過率を測定しても400〜780nmの可視領域で、50%以上の透過率を維持しており、保存安定性が良好である。
【0036】
本発明の第三の発明は、前記層状複水酸化物のデラミネーション方法によって得られた剥離型層状複水酸化物が再積層されてなることを特徴とする、層状複水酸化物薄膜である。該薄膜は、後述する本発明の層状複水酸化物薄膜の製造方法により製造することができる。
本発明の層状複水酸化物薄膜は、好ましくは厚さが1.6〜10nm、さらに好ましくは1.6〜3.2nmの範囲にある薄膜である。これは、例えば、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope、以下AFMと記載する)によって、薄膜を形成していること及びその厚さを分析することができる。薄膜の厚さが上記の範囲のように、非常に薄く、層状複水酸化物の基本層数層分の厚さに相当するため、層状複水酸化物薄膜は、剥離型層状複水酸化物が面配向型に再積層されてなっていると考えられる。
【0037】
さらに、本発明の第四の発明は、前記剥離型層状複水酸化物分散液を、板上に滴下して乾燥させることを繰り返して再積層させることを特徴とする、層状複水酸化物薄膜の製造方法である。
第四発明の製造方法に用いる板としては、金属板、石英板、ガラス板等を用いることができるが、好ましくはスライドガラスが用いられる。分散液を板上に滴下する方法としては任意の方法を用いることができるが、例えば、バルブピペットを用いて滴下する方法を採用することができる。具体的には、ピペットに配した剥離型層状複水酸化物分散液の1滴を静かにスライドガラス上に滴下し、自然乾燥により液体を蒸発させる。これを1〜50回程度繰り返して積層させることにより、層状複水酸化物薄膜を得ることができる。
【0038】
なお、さらに剥離型層状複水酸化物分散液の滴下、乾燥を繰り返して積層を続けると、層状複水酸化物を復元することができる。これは、復元された層状複水酸化物のXRDにおいて観察されるピークが、デラミネーションを起こす前の層状複水酸化物のXRDピークとよく一致することから確認される。従って、復元された層状複水酸化物においても、芳香族アミノカルボン酸のアニオンが中間層に内包されている。また、デラミネーションを起こしても層状複水酸化物の基本層は崩壊していなかったことが考えられる。
【0039】
本発明の剥離型層状複水酸化物分散液及び/又は層状複水酸化物薄膜は、ナノオーダーに分散されたナノテクノロジー材料として活用することができる。例えば、電極材料、熱電化製品、光学デバイス等に応用が可能である。また、芳香族アミノカルボン酸として紫外線遮断効果を有する化合物を用いることによって、紫外線遮断材として使用することもできる。
【0040】
【実施例】
以下本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
(参考例1)
本参考例では、本発明のデラミネーション方法に好適に用いられる層状複水酸化物を製造した。
p−アミノ安息香酸(PABA)170mgを水100cm中に溶解させ水溶液とした。次にZn(NO1070mgと、Al(NO3450mgを水8cmに溶解させてZn2+−Al3+混合硝酸塩水溶液を調製した。このZn2+−Al3+混合硝酸塩溶液8cmをPABA水溶液100cm中に滴下した。このとき、Zn2+/Al3+/PABAのモル比は3/1/1であった。次に、NaOH水溶液でpHを8〜9に調整した後、窒素雰囲気下、40℃で1時間熟成させた。析出した固体をろ過により固液分離することによって、固体状の層状複水酸化物1が得られた。この層状複水酸化物1の一部を室温で24時間乾燥させた後、粉末X線回折(XRD)、PABA取り込み量を測定した。PABA取り込み量は、固体生成物を塩酸に溶解し、溶液中の有機炭素(TOC)を全有機炭素計で分析して定量した。
また、乾燥を行わなかった部分の層状複水酸化物1については、含水率を測定した後、後述の実施例に示すデラミネーションに使用した。含水率は、固体生成物を60℃で減圧乾燥したときの重量減から求めた。なお、その時にまだ残存している水の量は層間水であり、それはTGで測定できる。
各測定結果を表1に示す。
なお、得られた層状複水酸化物1の組成式は、式(III):
[Zn0.75Al0.25(OH)2][PABA0.04(OH-,NO3-)0.21・yH2O]
で示されるものであった。
【0041】
(参考例2)
本参考例では、Zn2+/Al3+/PABAのモル比を2/1/2にした以外は、参考例1と同様にして、層状複水酸化物2を製造した。各測定結果は同様に表1に示す。
(参考例3)
本参考例では、Zn2+/Al3+/PABAのモル比を3/1/2にした以外は、参考例1と同様にして、層状複水酸化物3を製造した。各測定結果は同様に表1に示す。
【0042】
(参考例4)
本参考例では、2価金属としてMgを用いた他は、参考例1と同様にして、層状複水酸化物4を製造した。各測定結果は同様に表1に示す。
(参考例5)
本参考例では、2価金属としてCoを用いた他は、参考例1と同様にして、層状複水酸化物5を製造した。各測定結果は同様に表1に示す。
(参考例6)
本参考例では、2価金属としてNiを用いた他は、参考例1と同様にして、層状複水酸化物6を製造した。各測定結果は同様に表1に示す。
(参考例7)
本参考例では、2価金属としてCuを用いた他は、参考例1と同様にして、層状複水酸化物7を製造した。各測定結果は同様に表1に示す。
【0043】
【表1】



【0044】
(実施例1)
本実施例では参考例1で得られた層状複水酸化物1を用いて、種々の分散媒中でデラミネーションを行った。
分散媒としては、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールを使用した。15mgの未乾燥の層状複水酸化物1を、分散媒50cmに加え、撹拌により混合して、デラミネーションを行った。得られた分散液の状態を肉眼で観察した結果を表2に示す。分散液の状態が、ほぼ透明で、沈殿物がほとんど確認できないものを○、若干白濁し、沈殿物がわずかに確認できるものを△で表わす。
【0045】
【表2】



【0046】
表2からわかるように、種々の液体中で層状複水酸化物が、層間剥離されて剥離型となって分散されていることが観察され、デラミネーションが起こっていた。
【0047】
(実施例2)
参考例1で得られた未乾燥の層状複水酸化物1の4.58mgをエタノール50cmに加え、撹拌により混合して、剥離型層状複水酸化物分散液1を調製した。
層状複水酸化物1を分散させた直後と、低温(10℃以下)で48日間及び90日間保存した後との分散液1の光透過率を日本分光(株)社製、装置名:V−570型 分光光度計で測定した。得られた光透過率曲線を、図3に示す。
図3に示すように、分散直後から400〜780nmの可視領域で、光透過率が50%以上であり、層状複水酸化物1がデラミネーションされて分散され剥離型層状複水酸化物分散液1になっていることが確認できた。また、48日間及び90日間保存後も、剥離型で分散された状態の分散液は安定に存在していた。
【0048】
(実施例3)
参考例3で得られた層状複水酸化物3の1.25mgを用い、実施例2と同様の方法により、剥離型層状複水酸化物分散液3を得た。分散直後の光透過率を測定したところ、400〜780nmの可視領域で、光透過率が50%以上であり、層状複水酸化物3がデラミネーションされて分散され剥離型層状複水酸化物分散液3になっていることが確認できた。
【0049】
(実施例4)
参考例4で得られた層状複水酸化物4の1.41mgを用い、実施例2と同様の方法により、剥離型層状複水酸化物分散液4を得た。分散直後の光透過率を測定したところ、400〜780nmの可視領域で、光透過率が50%以上であり、層状複水酸化物4がデラミネーションされて分散され剥離型層状複水酸化物分散液4になっていることが確認できた。また、低温(10℃以下)で10日間保存した後の光透過率を測定し、分散液が10日後も安定に存在していることが確認された。
【0050】
(実施例5)
参考例5で得られた層状複水酸化物5の0.96mgを用い、実施例2と同様の方法により、剥離型層状複水酸化物分散液5を得た。分散直後の光透過率を測定したところ、400〜780nmの可視領域で、光透過率が50%以上であり、層状複水酸化物5がデラミネーションされて分散され剥離型層状複水酸化物分散液5になっていることが確認できた。また、低温(10℃以下)で16日間保存した後の光透過率を測定し、分散液が16日後も安定に存在していることが確認された。
【0051】
(実施例6)
参考例6で得られた層状複水酸化物6の1.27mgを用い、実施例2と同様の方法により、剥離型層状複水酸化物分散液6を得た。分散直後の光透過率を測定したところ、400〜780nmの可視領域で、光透過率が50%以上であり、層状複水酸化物6がデラミネーションされて分散され剥離型層状複水酸化物分散液5になっていることが確認できた。また、低温(10℃以下)で15日間保存した後の光透過率を測定し、分散液が15日後も安定に存在していることが確認された。
【0052】
(実施例7)
参考例7で得られた層状複水酸化物7の0.93mgを用い、実施例2と同様の方法により、剥離型層状複水酸化物分散液7を得た。分散直後の光透過率を測定したところ、400〜780nmの可視領域で、光透過率が50%以上であり、層状複水酸化物7がデラミネーションされて分散され剥離型層状複水酸化物分散液7になっていることが確認できた。また、低温(10℃以下)で11日間保存した後の光透過率を測定し、分散液が11日後も安定に存在していることが確認された。
【0053】
(実施例8)
参考例1で製造した層状複水酸化物1の56.4mgをエタノール50cmに加え、撹拌により混合した後、遠心分離(3000rpm、5分間)によりデラミネーションを起こしていない層状複水酸化物1を除去して、上澄み液である層状複水酸化物分散液11を得た。この分散液11をバルブピペットにとり、スライドガラス上に1滴を静かに滴下した後、液体を自然蒸発させた。この操作を1回繰り返すことによって、透明状の層状複水酸化物薄膜11を得た。
得られた層状複水酸化物薄膜11をAFM(デジタル インストルメント社製、装置名:ナノスコープIIIA)により観察したところ、厚さ3.25nmの薄膜が形成されていることが確認された。結果を図4に示す。
なお、このように、剥離型層状複水酸化物分散液を板上に滴下、乾燥を繰り返し薄膜又は固体を得る方法を、以下「再積層法」と言う。
この薄膜の厚さは、層状複水酸化物1の基本層の2層分に相当するため、この層状複水酸化物薄膜1は、面配向型であると考えられる。また、薄膜の厚さがこのように非常に薄いため、剥離型層状複水酸化物分散液11中には、デラミネーションされて剥離型となった層状複水酸化物が分散されており、この剥離型層状複水酸化物が再積層されて薄膜となっていることが確認された。
【0054】
さらに、上述の分散液11の滴下、乾燥操作を50回繰り返すことによって、スライドガラス上に固体が得られた。この固体のXRDを図5の(b)に示した。XRD測定において、2θ=5.5°と、11.3°とのピーク、すなわち、面間隔が1.61nmと0.78nmに相当するピークが観察されたため、この固体は、PABAが層間に取り込まれた状態で復元され、もとの層状複水酸化物1となっていることが確認された。このことから、デラミネーションによって剥離型とされても、層状複水酸化物1の基本層は崩壊されていなかったことが考えられる。
【0055】
(実施例9)
参考例3で製造した層状複水酸化物3を用いて、実施例8と同様にして層状複水酸化物分散液13を得た。
この分散液13について実施例8と同様に滴下、乾燥操作を50回繰り返して得られた固体のXRDを図5の(a)に示した。この場合も実施例8と同様のピークが観察され、もとの層状複水酸化物3となっていることが確認された。
【0056】
(比較例1)
参考例1におけるp−アミノ安息香酸(PABA)の代わりに等当量の炭酸ナトリウムを用いたこと以外は、同様の操作を行った。このとき、Zn2+/Al3+/CO2−の仕込みのモル比は3/1/0.5であった。最後に、pHを8〜9に調整して、窒素雰囲気下、40℃で1時間熟成させた。析出した固体をろ過により固液分離することによって、固体状の層状複水酸化物21が得られた。
上記のようにして得られた層状複水酸化物21の92mg(含水率88%)を用いて、実施例8の層状複水酸化物薄膜11を得る場合と同様の操作を行い、スライドガラス上に膜を得た。この膜をAFMにより観察した結果を図6に示す。板状粒子は観察されたものの、その厚さは49.2nmであったことから、液体中で層状複水酸化物21のデラミネーションはほとんど起こっていなかったと考えられる。
【0057】
(比較例2)
参考例1におけるp−アミノ安息香酸(PABA)の代わりに等当量の硝酸ナトリウムを用いたこと以外は、同様の操作を行った。このとき、Zn2+/Al3+/NOの仕込みのモル比は3/1/1であった。最後に、pHを8〜9に調整して、窒素雰囲気下、40℃で1時間熟成させた。析出した固体をろ過により固液分離することによって、固体状の層状複水酸化物22が得られた。
上記のようにして得られた層状複水酸化物22の39mgを用いて、実施例8の層状複水酸化物薄膜11を得る場合と同様の操作を行い、スライドガラス上に膜を得た。この膜をAFMにより観察した結果を図7に示す。板状粒子は観察されたものの、その厚さは62.4nmであったことから、液体中で層状複水酸化物22のデラミネーションはほとんど起こっていなかったと考えられる。
【0058】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明により、デラミネーションを起こしにくいと考えられてきた層状複水酸化物を、容易にデラミネーションさせることができる。また、ナノテクノロジー材料として期待される剥離型層状複水酸化物分散液を簡易に得ることができる。
また、本発明により、剥離型層状複水酸化物を積層させた、層状複水酸化物薄膜及び層状複水酸化物薄膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例1〜3で製造した層状複水酸化物のXRD図である。
【図2】参考例4〜7で製造した層状複水酸化物のXRD図である。
【図3】実施例2で調製した剥離型層状複水酸化物分散液の光透過率曲線である。
【図4】実施例8で得られた層状複水酸化物薄膜のAFM像である。
【図5】実施例8及び9において剥離型層状複水酸化物分散液の滴下を繰り返して得られた固体生成物のXRD図である。
【図6】比較例1で得られた膜のAFM像である。
【図7】比較例2で得られた膜のAFM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
[MII1−xIII(OH)x+[An−x/n・yHO]x−
[式中、MIIは2価金属、MIIIは3価金属、An−は芳香族アミノカルボン酸のアニオンを含むアニオン、nは前記アニオンの価数、xは0<x<0.4、yは0より大きい実数である]
で表される層状複水酸化物を、炭素数1乃至8のアルコール、水から選ばれる1種以上からなる分散媒と混合することを特徴とする層状複水酸化物のデラミネーション方法。
【請求項2】
前記3価金属が、アルミニウムである請求項1に記載の層状複水酸化物のデラミネーション方法。
【請求項3】
前記2価金属が、亜鉛、マグネシウム、コバルト、ニッケル、又は銅から選ばれる1種以上である請求項1又は2記載の層状複水酸化物のデラミネーション方法。
【請求項4】
前記2価金属が亜鉛であり、前記3価金属がアルミニウムである請求項2又は3に記載の層状複水酸化物のデラミネーション方法。
【請求項5】
前記芳香族アミノカルボン酸が、水素原子が置換されていてもよいアミノ基で置換された安息香酸である請求項1乃至4のいずれかに記載の層状複水酸化物のデラミネーション方法。
【請求項6】
前記芳香族アミノカルボン酸が、p−アミノ安息香酸である請求項5に記載の層状複水酸化物のデラミネーション方法。
【請求項7】
前記式(I)において、xが0.2≦x<0.35である請求項1乃至6のいずれかに記載の層状複水酸化物のデラミネーション方法。
【請求項8】
前記層状複水酸化物を、エタノール、水から選ばれる1種以上からなる分散媒と混合することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の層状複水酸化物のデラミネーション方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の層状複水酸化物のデラミネーション方法によって得られた剥離型層状複水酸化物が、炭素数1乃至8のアルコール、水から選ばれる1種以上からなる分散媒に分散されてなることを特徴とする、剥離型層状複水酸化物分散液。
【請求項10】
液体の光透過率が、400〜780nmのいずれの波長においても、50%以上であることを特徴とする請求項9に記載の剥離型層状複水酸化物分散液。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれかに記載の層状複水酸化物のデラミネーション方法によって得られた剥離型層状複水酸化物が再積層されてなることを特徴とする、層状複水酸化物薄膜。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の剥離型層状複水酸化物分散液を、板上に滴下して乾燥させることを繰り返して再積層させることを特徴とする、層状複水酸化物薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2004−189671(P2004−189671A)
【公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−359615(P2002−359615)
【出願日】平成14年12月11日(2002.12.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成14年9月20日 日本粘土学会主催の「2002年第46回粘土科学討論会」において文書をもって発表
【出願人】(502447918)
【出願人】(000193601)水澤化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】